以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態の引戸の上部ガイド装置は、上端部がガイドレールに案内される、下戸車付き非吊下式(下支え形式)の引戸について適用したものであるが、戸車なしの非吊下式引戸や、吊下式引戸等、その他の引戸にも適用することができる。また、この上部ガイド装置は、スライドアシスト装置が設けられていない引戸について説明するが、両側、またはどちらか一方の片側にスライドアシスト装置が設けられた引戸についても適用可能であり、さらに引戸と戸枠の衝突を緩和させるために引戸のスライド終期に引戸に制動力を付与する引戸緩衝装置など、他の装置が設けられた引戸にも適用することができる。
図1は、本実施形態の上部ガイド装置が適用された引戸構造の概略を示す斜視図である。なお、以下、便宜上、各図における+X方向を右方向、+Y方向を後方向、+Z方向を上方向として説明するが、これらの方向の表現については特に限定されるものではなく、単に本実施形態における相対的な位置関係を表したものである。
まず、本実施形態の上部ガイド装置1が取り付けられる引戸構造について簡単に説明する。引戸構造は、構造物の開口部Wを開閉する引戸Dと、構造物の開口部Wの周縁部に固定され内側で引戸Dがスライド移動する戸枠Fとを備える。引戸Dは、戸本体D1と、戸本体D1の下部に取り付けられた左右一対の下戸車D2と、戸本体D1の上部に取り付けられた左右一対の上部ガイド装置1とを備える。なお、この下戸車には高さ調節機構(不図示)が設けられ、例えば経年によって戸枠(特に側部内面)との間に隙間が生じた場合でも戸本体D1を傾斜させて閉め残しを解消することができるものとなされている。
一方、戸枠F(構造物に含まれる)は、鴨居F1と、敷居F2と、鴨居F1の下面に設けられ引戸Dのスライド方向をガイドする上レールL1と、敷居F2に設けられ引戸Dの下戸車D2が案内される下レールL2とを含み、これらの上下レールL1,L2に沿って引戸Dが開閉される。すなわち、引戸Dは、その上部に配設された上部ガイド装置1が上レールL1に挿通されることにより上部が案内されるとともに、その下部の下戸車D2が下レールL2上を走行することにより下部が案内される。
本実施形態の上レールL1は、下方に開口するC字状、すなわち左右方向に延びる天壁部L11と、この天壁部L11の前後両端縁から下方に延びる前後両側壁部L12と、これらの前後各側壁部L12の下端から幅方向内側に延びる前後フランジ部L13とを備え、前後フランジ部L13の先端同士が離隔配置されることにより下方に開口した状態となっている。なお、この前後フランジ部L13の上を後述するガイドローラ32が転動するものとなされている。
なお、この上レールL1は、戸枠Fの鴨居F1の下面に固定されているが、鴨居F1に埋設されているものであっても良く、また構造物の開口部Wの周縁部のうち上縁部に直接固定されるもの、またはこれらに類するものであっても良い。
そして、本実施形態の上部ガイド装置1は、引戸Dの戸本体D1の上部、詳しくは上端部における左右両端部に固定されている。各上部ガイド装置1は、本実施形態では左右方向について、同一の向きに配設されているが、この向きについて特に限定するものではなく、上下垂直線に対して線対称に配置されているものであっても良い。左右の各上部ガイド装置1は、同一の構成を有するので、以下、一方の上部ガイド装置1を中心に説明する。
図2は上部ガイド装置を拡大して示す斜視図である。また、図3から図5は、それぞれ上部ガイド装置の正面図、平面図、側面図である。図6及び図7は、引戸固定体を示す正面図及び平面図である。図8及び図9は、ランナ体を示す正面図及び底面図である。
この上部ガイド装置1は、戸本体D1の上部に固定された引戸固定体2と、この引戸固定体2に対して上下動可能に取り付けられるとともに上レールL1に沿って引戸Dをガイドするランナ体3とを備える。この上部ガイド装置1は、上下方向の成分を有する力がゆっくりと作用する場合には、引戸固定体2とランナ体3とが相対的に上下高さ方向にゆっくりと変位可能に構成されるとともに、上下方向の成分を有する力が急激に作用する場合には、両者2,3が相対的に変位せず、ないしは殆ど変位しないように構成されている。
具体的には、引戸固定体2は、引戸Dの頂部に埋設されるベースブロック21と、このベースブロック21から上方に突出する連結ブロック22と、この連結ブロック22の他端部(詳細には図6における左端部)に設けられた柱状ブロック23とを備え、これらが複数の部品から分割構成されている。なお、この引戸固定体2は、詳細は省略するが、前後調節ネジ25(図1、図2参照)を左右に回動させることによりベースブロック21に対する連結ブロック22の前後位置を微調整し得るように構成されている。この引戸固定体2は、ランナ体3を戸本体D1に固定するためのものであり、連結ブロック22を介してランナ体3を上下動(昇降)可能に連結するものとなされている。
ベースブロック21は、上方に開口して連結ブロック22の下端部が収容される収容室21a(図6参照)を有するブロック状体であり、このブロック状体を戸本体D1の上端部における左右両縁部に設けられ上方及び側方に開口する収納溝(図示省略)に収納した状態で、このブロックを左右方向に貫通するネジ(図示省略)によって戸本体D1に固定されている。
連結ブロック22は、ベースブロック21とランナ体3とを連結するブロック体である。より具体的には、連結ブロック22は、台形板状の連結本体221と、この連結本体221の下側一端部(図例では右端部)に配設されるとともにこの連結本体221に対して前後に突出する前後一対の補助ガイド部222とを備え、連結本体221の左端下部に連設された差込片(不図示)がベースブロック21の収容室21a内に収容された状態で前後水平軸26によってベースブロック21に軸支されている。
連結本体221は、ベースブロック21よりも左右に長く寸法設定され、図6に示すように、ベースブロック21の左端部から当該ベースブロック21の右端部よりも大きく右側に突出した状態で配置されている。この連結本体221には、正面視における左端部から右端部にかけて、戸本体D1の上縁、すなわち本実施形態では左右方向に対して上下方向に傾斜する傾斜ガイド孔223(傾斜孔に対応)が板厚方向(前後方向)に貫設されている。この傾斜ガイド孔223の戸本体D1の上縁(本実施形態では水平方向に一致する)に対する傾斜角度は、具体的には5°から25°の範囲内で設定されている。すなわち、この傾斜角度が5°よりも小さくなると、引戸固定体2とランナ体3のいずれかに、上下方向の成分を有する力がゆっくりと作用した場合でも、引戸固定体2とランナ体3とが相対的に変位し難くなる。また、この傾斜角度が25°よりも大きくなると、引戸固定体2とランナ体3のいずれかに、上下方向の成分を有する力が急激に作用した場合でも、引戸固定体2とランナ体3とが相対的に変位し易くなり、衝撃力に対して変位し難いという上部ガイド装置本来の機能が低下する。なお、本実施形態では、傾斜ガイド孔223は、引戸上縁(左右水平方向)に対して15°の角度になるように設定されている。
この傾斜ガイド孔223は、細長い長円形状を呈し、後述するガイドボス部37の外径と一致する幅(中心線と直交する方向)に設定されている。また、この傾斜ガイド孔223の内周面は、前後方向の軸に平行な面から構成され、ガイドボス部37との間で所定の摩擦力が生じるように構成されている。また、この傾斜ガイド孔223の上下方向の高さ寸法は、上レールL1の取付高さの想定される不均一性を吸収可能な範囲以上に設定され、具体的には3mmから15mmの範囲で設定されている。
また、この連結本体221の上面は、上下方向に法線を有する非当接面221aと、傾斜ガイド孔223の傾斜角度と一致する傾斜を有する上側傾斜ガイド面221b(第1当接面に対応)とを有し、引戸固定体2に対し上方向の衝撃力が作用した場合にこの上側傾斜ガイド面221bがランナ体3の後述する移動許容溝38の傾斜内側面38aに当接するものとなされ、この当接に伴って摩擦力が生じるものとなされている。
なお、本実施形態の連結本体221は、上下方向に法線を有する平面状の非当接面221aを備えているが、この非当接面221aは平面に限定されるものではなく、ランナ体3と干渉しなければ、曲面、球面、波面等公知の面形状を有していても良く、また適宜省略して連結本体221の上面が上側傾斜ガイド面だけで構成されるものであっても良い。
補助ガイド部222は、前述したように、連結本体221の下側右端部にそれぞれ前後に突設されている。この補助ガイド部222は、正面視略直角三角形状を呈し、下端縁と一側端縁(図例では右側端縁)がそれぞれ連結本体221の下端縁と一側端縁と一致した状態でこの連結本体221と一体形成されている。補助ガイド部222の上面は、連結本体221の上側傾斜ガイド面221bと同様、傾斜ガイド孔223の傾斜角度と一致する傾斜を有する下側傾斜ガイド面222aとして構成されている。この下側傾斜ガイド面222aも、上側傾斜ガイド面221bと同様に、引戸固定体2に対し上方向の衝撃力が作用した場合に、この下側傾斜ガイド面222aがランナ体3の後述するランナ側傾斜ガイド面34bに当接するものとなされ、この当接に伴う摩擦力が生じるものとなされている。
この下側傾斜ガイド面222aの幅は、引戸固定体2とランナ体3との間の摺動性を担保しつつ、適切な摩擦力を発生させる観点から、連結本体221の板厚に対して0.3倍から1.0倍の範囲内で設定するのが好ましく、0.5倍から0.7倍の範囲内で設定するのがさらに好ましい。
柱状ブロック23は、引戸Dが戸枠F内で傾くなどした場合に、戸枠Fに直接的ないしは間接的に当接してその傾きを是正するためのものであり、略柱状体(本実施形態では略角柱状体)として構成されている。この柱状ブロック23は、本実施形態では、連結ブロック22と一体形成された柱本体23aと、少なくともこの柱本体23aの引戸Dの近接端部側の側部(図例では左端部)を覆う緩衝化粧材23bとを備える。この緩衝化粧材23bは、柱本体23aよりも軟質な材料で構成され、柱状ブロック23が戸枠Fに当接する場合の衝撃音の発生を抑制するものとなされている。
次に、ランナ体3について説明する。図8及び図9は、ランナ体を示す正面図及び底面図である。
ランナ体3は、上レールL1上を左右に走行して引戸Dをガイドするものであり、本実施形態では、図8に示すように、正面視台形状を呈する。具体的には、ランナ体3は、左右方向に細長いランナ本体部31(本体部に対応)と、このランナ本体部31の左右両端部に前後一対ずつ取り付けられたガイドローラ32とを備え、ランナ本体部31が引戸固定体2の連結ブロック22に上下動可能に連結されることにより引戸固定体2に取り付けられている。
ランナ本体部31は、左右方向に延設された移動許容溝38を有するベースボディ部34と、このベースボディ部34の一端部(図例では右端部)に配置され一対のガイドローラ32が取り付けられるローラ取付部35と、ベースボディ部34の他端寄り(図例では左端寄り)の位置において上方に突出する跳上抑制突起部36と、ベースボディ部34の他端下部(図例では左端下部)に移動許容溝38を横切るように設けられたガイドボス部37とを備え、ベースボディ部34、ローラ取付部35と跳上抑制突起部36とが硬質合成樹脂(例えばポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、プロプロピレン樹脂など公知の合成樹脂)から一体形成されている。
ベースボディ部34は、正面視において、上底に対して下底が短く設定された左右に細長い略台形状を呈する。このベースボディ部34は、厚み方向中央部において、左右方向一端縁から他端縁にかけて下方に開口する移動許容溝38が設けられるとともにこの移動許容溝38の一端部(図例では右端部)に連通する上方開口部39が設けられ、これらの移動許容溝38及び上方開口部39に引戸固定体2の連結本体221が摺動可能に嵌合されるように構成されている。
この移動許容溝38は、その深さが右側に向かうに従って上方に傾斜するように設定され、その傾斜角度は、連結本体221の傾斜ガイド孔223と一致するように設定されている。従って、この移動許容溝38の傾斜内側面38a(移動許容溝38の奥底面)の傾斜角度もこの傾斜ガイド孔223と一致する。この傾斜内側面38aは、上述のように、少なくとも引戸固定体2に対し上方向の衝撃力が作用した場合に連結本体221の上側傾斜ガイド面221bに当接するものとなされている。また、この移動許容溝38の一端部は、上述のように上方開口部39に連通し、この上方開口部から連結本体221の非当接面221aが上方に突出可能に構成されている。
また、ベースボディ部34の下面は、上下方向に法線を有する非当接面34aと、この非当接面34aに連続するとともに傾斜ガイド孔223の傾斜角度と一致する傾斜を有するランナ側傾斜ガイド面34b(第2当接面に対応)とを移動許容溝38を挟んで前後にそれぞれ有し、引戸固定体2に対し上方向の衝撃力が作用した場合にこのランナ側傾斜ガイド面34bが補助ガイド部222の下側傾斜ガイド面222aに当接するものとなされている。なお、このベースボディ部34の非当接面34aも、連結本体221の非当接面221aと同様に、適宜省略することができ、またその具体的形状についても特に限定するものではない。
さらに、ベースボディ部34の他端下部(図例では左端下部)には、ガイドボス部37が嵌入されるボス孔(図示省略)が設けられ、このボス孔は移動許容溝38に連通するものとなされている。また、ベースボディ部34におけるボス孔の上方には、一対のガイドローラ32の車軸が挿入される軸孔(不図示)も設けられている。
ローラ取付部35は、ベースボディ部34の一端部(右端部)に配置され、一方側の一対のガイドローラ32が取り付けられるとともに移動許容溝38内を移動する連結本体221のストッパとしての役割も果たす。なお、このローラ取付部35については、適宜省略することができ、その場合にはこの一方側の一対のガイドローラ32はベースボディ部34に取り付けられる。
一方、跳上抑制突起部36は、ベースボディ部34の上端部における他端側寄り(図例では左側寄り)において、前後方向に突出するとともに上方に突出した状態で、前後一対設けられている。各跳上抑制突起部36は、略直方体状に構成され、図5に示すように、頂面36aが左右方向に中心線を有する曲面として構成されている。この頂面36aのうち、上下方向について最も高い位置が頂部36bであり、図10に示すように、この頂部36bがベースボディ部34やローラ取付部35よりも高く設定され、ガイドローラ32の後述する頂部32bよりも微小差hだけ低く設定されている。すなわち、跳上抑制突起部36の頂部36bは、ベースボディ部34やローラ取付部35の各頂部と、ガイドローラ32の頂部32bとの間に位置している。具体的には、跳上抑制突起部36の頂部36bとガイドローラ32の頂部32bとの微小差h(図10参照)は、ガイドローラ32の外径の0.5%から5%の範囲内でガイドローラ32の頂部32bよりも低く設定されるのが好ましい。
なお、頂面36aは、曲面に限らず、平面等の他の形状であっても良いが、本実施形態のように左右方向に中心線を有する曲面として構成された場合には引戸が傾いた状態で跳ね上がった場合でも、跳上抑制突起部36の損傷を抑制するものとなされている。
この跳上抑制突起部36の厚み(前後方向)、長さ(左右方向)の寸法はガイドローラ32の厚み及び外径等を考慮して適宜設定される。跳上抑制突起部36の厚みは、ガイドローラ32の厚みの0.5倍から2.0倍の範囲内で設定されるのが好ましく、その長さはガイドローラ32の外径の0.3倍から1.5倍の範囲内で設定されるのが好ましい。
ガイドボス部37(ガイド部に対応)は、傾斜ガイド孔223に挿入され、引戸固定体2に対するランナ体3の上下動作をガイドするためのものであり、前後方向に延びる柱状体として構成されている。特に、本実施形態では、円柱状体として構成され、ランナ体3のベースボディ部34、具体的にはベースボディ部34の左端下部に設けられたボス孔にかしめ状態で取り付けられている。ガイドボス部37は、中心線(前後方向)に沿って寸胴状に構成され、外周面が傾斜ガイド孔223の内周面に均一に当接するようになされている。
また、このガイドボス部37の外径(ガイド部の幅に対応)は、上述したように、傾斜ガイド孔223の幅と同一ないしは若干小さく設定され、上下方向の遊びが小さくなるように構成されている。これにより、ガイドボス部37と傾斜ガイド孔223との遊びに基づく、引戸Dの跳ね上げを可及的に抑制することができる。
なお、このガイドボス部が本実施形態のような円柱状ではなく、角柱状体等で構成されるものであっても良く、この場合には、傾斜ガイド孔223の中心線に直行する幅方向の寸法が当該傾斜ガイド孔223の幅寸法と同一ないしは若干小さくなるように設定される。
一方、ガイドローラ32は、基本的に、引戸Dの開閉操作に伴って上レールL1の前後フランジ部L13上を転動するものであり、引戸Dの跳上時や引戸固定体2に対してランナ体3が上昇した場合には、上レールL1の天壁部L11に当接してランナ体3に対して下方向の力を作用させることができる。また、このガイドローラ32は、引戸Dの跳ね上げ時には弾性変形して跳上抑制突起部36とともに上レールL1の天壁部L11内面に当接するものとして構成され、また引戸Dの開閉操作時に引戸固定体2に対してランナ体3が上昇している場合には上レールL1の天壁部L11内面に当接転動して、引戸Dの走行抵抗を抑制しながら、ランナ体3に対して下方向の力を作用させることができる。
具体的には、ガイドローラ32は、ランナ本体部31の左右両端部、具体的にはベースボディ部34の他端上部(図例では左端上部)及びベースボディ部34の一端側に設けられたローラ取付部35のそれぞれに車軸32aを介して前後一対ずつ取り付けられている。このガイドローラ32の外径は、跳上抑制突起部36に干渉しない範囲で設定され、少なくとも外周縁のうち、上下高さ方向について最も高い頂部32bがベースボディ部34やローラ取付部35、並びに跳上抑制突起部36よりも高くなるように設定されている。
また、このガイドローラ32は、弾性体、例えばベースボディ部34よりも軟質の合成樹脂(例えばエラストマーなど)から構成され、弾性変形可能に構成されている。具体的には、このガイドローラ32のデュロ硬度(ゴム用のA型デュロメータによる硬度)は、30から90の範囲内で設定されるのが好ましく、50から70の範囲内で設定されるのがさらに好ましい。なお、このガイドローラ32は、ローラ部分が弾性体により一体形成されるものであっても良いが、タイヤ部分とホイール部分とが分割して構成されているものであってもよい。この場合、少なくともタイヤ部分が弾性体から構成されている。
このようなランナ体3は、次のようにして引戸固定体2に組み付ける。
すなわち、ランナ体3のランナ側傾斜ガイド面34bの傾斜角度と、引戸固定体2の下側傾斜ガイド面222aの傾斜角度とを一致させた状態で、ランナ体3の移動許容溝38に引戸固定体2の連結本体221を差し込む。そして、この連結本体221の傾斜ガイド孔223をランナ体3のガイドボス部37が挿入されるボス孔(不図示)に位置合わせする。
この位置合わせ状態において、ランナ体3のボス孔(不図示)にガイドボス部37を挿入し、ガイドボス部37の前後両側からかしめてガイドボス部37をベースボディ部34に固定する。
これにより、ランナ体3は引戸固定体2に取り付けられる。この状態では、ランナ体3のランナ側傾斜ガイド面34b及び移動許容溝38の傾斜内側面38aは、それぞれ引戸固定体2の下側傾斜ガイド面222a及び上側傾斜ガイド面221bに当接ないしは略当接した状態となっており、少なくとも引戸固定体2とランナ体3とが近接する方向に外力が作用した場合にはそれぞれ当接した状態となる。すなわち、本実施形態では、連結本体221の上側傾斜ガイド面221bと補助ガイド部222の下側傾斜ガイド面222aとが、本発明にいう「第1傾斜当接面」(第2傾斜当接面)に対応し、ランナ体3において、これらのガイド面221b、221aに当接する傾斜内側面38a、ランナ側傾斜ガイド面34bが本発明にいう「第2傾斜ガイド面」(第1傾斜当接面)に対応する。言い換えれば、本実施形態の上部ガイド装置1では、引戸固定体2及びランナ体3のそれぞれに各傾斜当接面が複数存し、これにより上下方向の衝撃力が両者2,3に作用した場合に、各傾斜当接面同士が当接して、十分な摩擦力が作用するものとなされている。
そして、このように組み付けられた上部ガイド装置1を引戸Dの戸本体D1に固定することにより、当該上部ガイド装置1を設置することができる。
以上のように構成された上部ガイド装置1の作用について、図1、図10及び図11を用いて説明する。図11は上レールを断面状態で示す上部ガイド装置を示す正面図である。図10における二点鎖線は、上レールの天壁部に当接することにより弾性変形したガイドローラの輪郭を示している。
図1に示す引戸Dを開閉方向にスライド操作させると、引戸Dの下戸車D2が下レールL2上を走行するとともに、引戸Dの上部ガイド装置1のガイドローラ32が上レールL1内、具体的には前後フランジ部L13上を転動し、これにより引戸Dの上下両側を上下各レールL1、L2によってガイドされる。
ところで、構造物の開口部Wは、その高さが左右方向で一定ではなく、僅かであるものの、左右方向に高さが異なり、一般的には太鼓状、すなわち左右方向中央部が左右両端部に比べて高くなることが多い。このような開口部Wに上レールL1が取り付けられると、この上レールL1の取付高さが左右方向に不均一になって引戸の走行抵抗になることがある。
しかしながら、本実施形態の上部ガイド装置1は、ランナ体3が引戸固定体2に対して上下動可能に取り付けられているので、この上レールL1の取付高さの不均一性に対して引戸固定体2に対するランナ体3の相対的な高さを変更することができ(アジャスタ機能)、このアジャスタ機能に基づき引戸Dを円滑に開閉操作することができる。
具体的には、引戸Dの開閉操作に伴い、ランナ体3のガイドローラ32が上レールL1の前後フランジ部L13上を走行する。上レールL1の取付高さが高くなれば、図11に示すように、前後フランジ部L13によってガイドローラ32を介してランナ体3に上方への外力がゆっくりと作用する。ランナ体3に上方への外力が作用すると、ランナ体3がそのガイドボス部37によって、引戸固定体2の傾斜ガイド孔223に沿って上方に相対的に変位し、前記取付高さの不均一性を吸収することができる。
逆に上レールL1の取付高さが低くなれば、ランナ体3の重力によってランナ体3が引戸固定体2側に変位する(すなわちランナ体3が自然と変位する)場合もあるが、この重力によって変位しない、ないしは不十分な場合にはランナ体3が上レールL1に対して相対的に上昇する。このとき、ランナ体3のガイドローラ32の頂部32bがランナ本体部31の頂部(本実施形態では跳上抑制突起部36の頂部36b)よりも高く設定されているので、ランナ体3のガイドローラ32の頂部32bが上レールL1の天壁部L11内面にまず当接し、ランナ体3に下方への外力がゆっくりと作用する。このように、ランナ体3において、ガイドローラ32の頂部32bがまず天壁部L11に当接するので、ランナ体3が天壁部L11に摺接することによる走行抵抗を低減することができ、引戸Dを円滑に操作することができる。
ランナ体3に下方への外力が作用すると、ランナ体3の上昇時と同様に、ランナ体3がそのガイドボス部37によって、引戸固定体2の傾斜ガイド孔223に沿って下方に相対的に変位し、前記取付高さの不均一性を吸収することができる。
一方、引戸Dを勢い良く開操作または閉操作した場合等に、引戸Dが戸枠Fに勢いよく衝突することがあり、この衝突時に引戸Dが跳ね上がることがある。この引戸Dの跳ね上げ時でも、本実施形態の上部ガイド装置1が備えられた引戸Dにおいては、効果的にその跳ね上げを抑制することができる。
具体的には、引戸Dが跳ね上がった場合には、上部ガイド装置1も上昇してランナ体3、具体的にはガイドローラ32の頂部32bが上レールL1の天壁部L11内面に勢いよく衝突する。この衝突に伴いランナ体3に衝撃力が作用すると、左右、前後の各ガイドローラ32が弾性体から構成されているので、図10の二点鎖線で示すように、各ガイドローラ32は弾性変形して跳上抑制突起部36とともに上レールL1の天壁部L11内面に当接する。同時に、引戸固定体2の上下両側の傾斜ガイド面221b、222aが、ランナ体3の傾斜内側面38a、ランナ側傾斜ガイド面34bのそれぞれに当接してこの当接面に摩擦力が発生する。しかも、ランナ体3のガイドボス部37の外径が引戸固定体2の傾斜ガイド孔223の幅と同寸法になるように設定されているとともに、傾斜ガイド孔223引戸Dの上縁に対して15度の傾斜角度を有しているので、ガイドボス部37が傾斜ガイド孔223の中で飛び上がることなく、両者間で摩擦力が発生する。
これらの摩擦力により、傾斜ガイド孔223とガイドボス部37とが相対的に変位せず、ないしは殆ど変位せず、その場ないしはその付近で、衝撃力に対する上レールL1による反力が作用することになるので、引戸固定体2とランナ体3とが相対的に殆ど上下動することなく、引戸Dの跳ね上げを効果的に抑制することができる。
なお、以上に説明した引戸の上部ガイド装置1は、本発明の一実施形態であり、その具体的構成等については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、その変形例を説明する。
(1)前記実施形態では、上部ガイド装置1を非吊下式の引戸であって、スライドアシスト装置が設けられていない引戸について適用したものであるが、吊下式の引戸にも適用することができ、また両側、またはどちらか一方の片側にスライドアシスト装置が設けられた引戸についても適用可能である。
図12は、上部ガイド装置が適用される、吊下式引戸であって、右側にスライドアシスト装置が設けられた引戸の概略を示した斜視図である。
この他の実施形態に係る引戸dは、左右の吊下用上部ガイド装置104、105の間に、さらに跳上抑制のための上部ガイド装置100が設けられている。
この上部ガイド装置100は、引戸dの上部所定箇所に埋設され、この埋設状態において上方または側方から引戸dに固定されている。この上部ガイド装置100の具体的構成については、前記固定構造を除いて、前記実施形態と同様であるので、ここではその詳細な説明を省略し、以下前記実施形態における参照符号を適宜用いる。
また、吊下用上部ガイド装置104、105も、公知の構造であるため、その詳細な説明を省略するが、各吊下用上部ガイド装置104,105は、引戸固定体とランナ体との相対的な高さ方向の距離を調整する高さ調節機構(不図示)が装備されており、前後方向を軸とする引戸dの傾きを調整可能に構成されている。また、これらの吊下用上部ガイド装置104,105のうち、右側に配設された吊下用上部ガイド装置105にスライドアシスト装置106が取り付けられている。このスライドアシスト装置106について、以下、簡単に説明する。
このスライドアシスト装置106は、吊下用上部ガイド装置105に連結される枠体110と、この枠体110内に一端がフリー状態で収容される弾性部材111(本実施形態では前後一対)と、この弾性部材111のフリー端部に取り付けられたスライド部材112と、このスライド部材112の少なくとも所定方向の移動に対して緩衝効果を付与するダンパー部材113と、上レールLに固定された受け部材115とを備え、引戸dの一方向へ(図例では右方向)のスライド時にスライド部材112と受け部材115とが係合して弾性部材111を伸長させることによりスライド部材112に当該弾性部材111の付勢力を蓄積させ、このスライド部材112が所定の保持位置に到達したときにスライド部材112と受け部材115との係合が解除されてスライド部材112が当該保持位置に保持され、反対方向(図例では左方向)のスライド時にスライド部材112と受け部材115とが係合することにより弾性部材111の付勢力が解放されるとともにダンパー部材113の緩衝効果による制動力が付与されつつ前記付勢力がスライド部材112を通じてスライドアシスト力として引戸dに付与するものである。
このような吊下式引戸dに装備された上部ガイド装置100も、前記実施形態に係る上部ガイド装置1と同様に、引戸固定体2とランナ体3とを相対的に高さ方向にゆっくりと変位させる場合には、傾斜ガイド孔223に沿ってガイドボス部37を相対的に移動させることができ、これによって上部ガイド装置100の高さ調節機構による高さ変更に柔軟に追随することができ、一方、衝撃に基づく引戸dの跳ね上げなどの衝撃力に対して、傾斜ガイド孔223とガイドボス部37とが相対的に変位せず、ないしは殆ど変位せず、その場ないしは付近で衝撃力に対する反力が作用することになるので、引戸固定体2とランナ体3とが相対的に殆ど上下動せず、引戸dの跳ね上げを効果的に抑制することができる。
具体的には、吊下用上部ガイド装置104、105の高さ調節機構を操作した場合に、引戸dと上レールLとの相対的な高さが変化する。この場合に、上部ガイド装置の引戸固定体とランナ体との相対的な高さが変化しなければ、このランナ体が上レールLに干渉して引戸の走行抵抗になることがある。
しかしながら、この実施形態の上部ガイド装置100は、ランナ体3が引戸固定体2に対して上下動可能に取り付けられているので、この高さ調節機構に高さ変化を吸収することができるとともに、引戸dに対する取り付け誤差をも吸収することができ、引戸dを円滑に開閉操作することができる。
また、引戸dの開閉操作に伴って引戸固定体2とランナ体3との相対的高さを自動調節できる点、及び引戸dの跳上を効果的に抑制することができる点については、前記実施形態と同様である。
(2)前記実施形態では、引戸固定体2に傾斜ガイド孔223が設けられ、ランナ体3にガイドボス部37が設けられた上部ガイド装置1について説明したが、傾斜ガイド孔などの傾斜孔がランナ体に設けられ、かつガイドボス部などのガイド部が引戸固定体に設けられるものであっても良い。
(3)前記実施形態では、左右一対の上部ガイド装置1が引戸Dの戸本体D1の上部に同じ向きで配設されたものについて説明しているが、左右一対の上部ガイド装置1について互いに逆向きに配設されているものであっても良く、さらにその向きについてもランナ体3が引戸固定体2に対して上昇するに従って、引戸Dの左右方向外側に向け変位するような向きだけでなく、前記上昇に従って、引戸Dの左右方向内側に向かって変位するような向きに配設するものであっても良い。ただし、上部ガイド装置1がランナ体3が引戸固定体2に対して上昇するに従って、引戸Dの左右方向外側に向け変位するような向きに配設されれば、跳上抑制突起36が上部ガイド装置1において、引戸の開閉方向の外側寄りに配設されるため、引戸Dの跳上を効果的に抑制することができる。
また、前記実施形態では、左右一対の上部ガイド装置1が設けられているが、片側について省略して通常の上部ガイド装置に変更するものであっても良い。
(4)前記実施形態では、上レールL1は、下方に開口するC字状に構成されているが、この上レールL1の具体的形状はこれに限定されるものではない。例えば、前後フランジ部L13は、平板状に構成されているが、下方に突出する円弧状に構成されるものであっても良い。また、上レールL1がC字状に構成されているが、コ字状、すなわち側方に開口するように構成されているものであっても良い。この場合には、ランナ体のガイドローラは、片輪として構成される。