JP2017149674A - 不溶化処理フリー絹フィブロイン素材 - Google Patents
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Abstract
Description
蚕から取り出された中部絹糸腺を10から100%アルコール水溶液に浸漬して固定化する工程と、
上記固定化した中部絹糸腺から夾雑物を取り除きフィブロインタンパク質を取得する工程と、
含ハロゲン溶媒を用いて、湿潤状態にある上記フィブロインタンパク質を溶解してフィブロイン溶液を調製する工程と、
上記フィブロイン溶液を乾燥させてフィブロイン成形体を形成する工程と、を含む、
水に対して不溶性のフィブロイン成形体を形成する方法が提供される。
後述する実施例において実証されている通り、上記方法は、フィブロイン成形体を形成した後に不溶化処理を行なうことなく、不溶性のフィブロイン成形体を得ることができる。
蚕から取り出された中部絹糸腺を10から100%アルコール水溶液に浸漬して固定化する工程と、
上記固定化した中部絹糸腺から夾雑物を取り除きフィブロインタンパク質を取得する工程と、を含む、
フィブロインタンパク質を取得する方法が提供される。
後述する実施例において実証されている通り、上記方法によればフィブロインタンパク質を取得することができる。
後述する実施例において実証されている通り、上記成形体は、水に対して不溶性のフィブロイン成形体である。
以下、本発明の実施の形態について、詳しく説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、適宜説明を省略する。
蚕から取り出された中部絹糸腺を10から100%アルコール水溶液に浸漬して固定化する工程と、
上記固定化した中部絹糸腺から夾雑物を取り除きフィブロインタンパク質を取得する工程と、
含ハロゲン溶媒を用いて、湿潤状態にある上記フィブロインタンパク質を溶解してフィブロイン溶液を調製する工程と、
上記フィブロイン溶液を乾燥させてフィブロイン成形体を形成する工程と、を含む、
水に対して不溶性のフィブロイン成形体を形成する方法が提供される。
上記方法は、フィブロイン成形体を形成した後に不溶化処理を行なうことなく、水に対して不溶性のフィブロイン成形体を得ることができる。
本工程において、蚕(学名Bombyx mori)から取り出された中部絹糸腺を10から100%アルコール水溶液に浸漬する。中部絹糸腺は、メス又はハサミを用いて蚕の腹部を開いて取り出してもよい。また、中部絹糸腺は、ローラーやヘラを用いて蚕から中部絹糸腺を押し出してもよい。絹糸線は、前部絹糸線、中部絹糸線及び後部絹糸線に分けることができる。中部絹糸腺は、絹糸腺から前部絹糸線及び後部絹糸線を除去することで取得することができる。中部絹糸腺は、上記アルコールによって固定化される。上記水溶液中のアルコール濃度は、上記中部絹糸腺が固定化される濃度であればよく、例えば、10から100%であり、10、20、30、40、50、60、70、80、90、98、99及び100%からなる群より選択される2点間の範囲内であってもよい。上記水溶液中のアルコール濃度は、後述する夾雑物の除去を容易にするために、好ましくは、10から40%である。上記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール及びそれらの混合物から選択することができ、好ましくは、エタノールである。また、上記アルコールは、蚕中に含まれる酵素による分解を避けるために、冷アルコール(例えば、4℃)であることが好ましい。本実施形態において、上記方法は、更に、10から100%アルコール水溶液を用いて上記中部絹糸腺を洗浄する工程を含んでいてもよい。洗浄工程におけるアルコール水溶液は、固定化工程におけるアルコール水溶液と同一であってもよく、異なるものであってもよい。
本工程において、固定化した中部絹糸腺中に含まれる夾雑物を取り除く。夾雑物には、中部絹糸腺の表皮細胞、分解酵素、セリシンが含まれる。中部絹視線から夾雑物を取り除くことによって、フィブロインタンパク質が取得できる。夾雑物は、手を用いて及び/又はピンセットによって中部絹糸腺から除去してもよい。中部絹視線は、前部絹糸腺側の前区、後部絹糸腺側の後区と、前区と後区との間の中区に分けることができる。より純度が高いフィブロインタンパク質を取得するために、固定化した中部絹糸腺の後区を切り出して、中部絹視線の後区から夾雑物を除去してもよい。また、夾雑物の除去を容易にするために、中部絹糸腺の後区を用いてもよい。高いフィブロインタンパク質の純度よりもその量を重視する場合は、中部絹視線の全区を用いてもよい。取得されたフィブロインタンパク質は、湿潤状態を維持させるのが好ましい。乾燥を防ぐために、フィブロインタンパク質を4℃の上記アルコール水溶液で保管してもよい。
この工程において、湿潤状態にあるフィブロインタンパク質を含ハロゲン溶媒に溶かす。含ハロゲン溶媒に溶かすフィブロインタンパク質は、湿潤状態にある必要がある。理由は、乾燥状態にあるフィブロインタンパク質は、含ハロゲン溶媒に溶かすことができないためである。含ハロゲン溶媒は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールである。含ハロゲン溶媒へのフィブロインタンパク質の溶解は、室温で行なうことができる。多数の蚕から中部絹糸腺を取り出す場合は、全てのフィブロインタンパク質を上記含ハロゲン溶媒中に浸漬できるまで、浸漬処理を続けていてもよい。この工程において製造されたフィブロイン溶液は、長期期間の保存(例えば、1日、3日、6日及び30日並びにそれ以上の日数)が可能である。
この工程において、フィブロイン溶液を乾燥させる。フィブロイン溶液は、目的の形状の型の中で乾燥させることで、目的の形状(例えば、ブロック)のフィブロイン成形体を形成させることができる。また、フィブロイン溶液を薄く乾燥させることでフィルム状のフィブロイン成形体を形成させることができる。
中部絹糸腺の取り出し
家蚕(品種)5齢熟蚕カイコの腹部を生きた状態で開いた(図2)。カイコの体内から、余分な力を与えないよう静かに絹糸腺を取り出した。絹糸腺の前後に存在する前部絹糸腺及び後部絹糸腺は、中部絹糸腺を無傷で全量取り出すために、適切な箇所で切断して体内に残した。カイコの腹部を開く際、カイコの中腸からの内容物の流出による絹糸腺へのコンタミを避けるため、カイコの中腸を一切傷つけることなく絹糸腺のみを取り出した(図3)。
絹糸腺のエタノール処理並びに表皮細胞及びセリシンタンパク質の除去
取り出した絹糸腺は冷エタノール水溶液(Nacalai Tesque, Japan)に素早く浸漬した。約10分間浸漬(洗浄)後、同濃度のフレッシュな冷エタノール水溶液に移し、冷蔵庫内(4℃)で密閉浸漬保存を行った。エタノール水溶液の濃度は、0(純水)から99%の間で様々な濃度について検討し、処理濃度の違いによる作業効率や素材の構造・物性への影響を調べた。浸漬中のエタノール濃度の変化を抑えるため、絹糸腺に対するエタノール水溶液の体積比(浴比)は10以上(エタノール水溶液50mlに対して絹糸腺10本以下)と十分大きくした。
表皮及びセリシン除去後の絹糸腺フィブロインの保管
10~99%エタノール水溶液により凝固した中部絹糸腺から表皮とセリシンを取り除いて得られる絹糸腺フィブロインは、その後、再び同濃度のエタノール水溶液に浸漬、密閉し、4℃環境下で保管した。いずれの濃度においても、少なくとも30日間の保管期間において、目視や触手において目立った変化は認められなかった(不図示)。フィブロインの回収方法として最適であると提案した40%エタノール処理試料については240日間浸漬後も目視、触手による目立った変化がないことを確認した(不図示)。さらに、40%エタノール処理試料について、浸漬期間6日と240日の試料について広角X線回折(WAXD)測定を行い、構造的にも目立った変化が認められないことを確認した(実施例6参照)。
含ハロゲン溶媒による絹糸腺フィブロインの溶解
エタノール水溶液により凝固した中部絹糸腺から表皮とセリシンを取り除いて得られる絹糸腺フィブロインを含ハロゲン溶媒であるHFIP(Tokyo Chemical Industry Co. Ltd., Japan)へ溶解させた。10-99%エタノール水溶液で処理し、その後、中部絹糸腺の表皮とセリシンを除去して得られた絹糸腺フィブロインをHFIPに室温で浸漬し、振とうした。溶解条件は、表皮とセリシンを除去直後のフィブロインについて25mg/mlとした。フィブロインはHFIPに浸漬する段階で水およびエタノールで濡れた状態であるため、上記重量には水およびエタノールの重量も含まれている。10-99%エタノール水溶液で処理したいずれのフィブロインも2時間程度で溶解し、各試料間での溶解性に目立った差異は認められなかった。
絹糸腺フィブロイン-HFIP溶液から得られたキャストフィルムの水溶性試験
上述した通り、10-99%エタノールで処理した絹糸腺フィブロインを含むHFIP溶液(フィブロイン-HFIP溶液)を調製した。フィブロイン-HFIP溶液からキャストフィルムを作製して、このフィルムを縦横約1cm x 1cmのサイズにカットした。フィルムの厚みは、エタノールの濃度に関係なく、約10μmとした。カットしたフィルムを水面上に浮かべ、水溶性の有無を調べた。
絹糸腺フィブロイン-HFIP溶液から得られたキャストフィルム表面の濡れ性試験
40%エタノール処理絹糸腺フィブロインを用いて作製したHFIPキャストフィルム(未分解絹糸腺フィブロインフィルム)表面の濡れ性及びにその時間経過(5分間)による変化を、接触角(contact angle)測定により評価した。接触角は、動的接触角測定装置 FTA188 (JASCO INTERNATIONAL Co. Ltd., Japan)を使用して、スライドガラス上にキャストした各フィルム上に、約3.5μlの水滴を滴下し、接触角の時間変化を5分間追跡することで決定した。比較として、上述した再生フィブロインフィルム(i)及び(ii)並びにスライドガラス表面の濡れ性と比較した。結果を図13に示している。再生フィブロインフィルム(i)及び(ii)は、約60°の接触角を示した。これに対し、未分解絹糸腺フィブロインフィルムでは約100°の接触角を示し、高い撥水性を示した。さらに、液滴滴下後の接触角の経時変化を見ると、再生フィブロインフィルム(i)及び(ii)と共に、滴下の30秒後に接触角は約50°まで低下し、水の浸透が急激に生じていることが示された。このことから、濡れ直後より表面の溶解が生じていると考えられる。再生フィブロインフィルム(i)及び(ii)の接触角は、その後も大きく低下を続けた。一方、絹糸腺フィブロインフィルムでは、このような急激な接触角の変化は認められず、スライドガラス上に滴下した液滴の接触角の変化との比較から判断すると、ほぼ、蒸発に伴う接触角の変化のみが生じていると考えられる。このことは、水溶性試験の結果とも矛盾がない。従って、この方法により作製したフィルムは、高い撥水性を有していることが裏付けられた。
エタノール処理絹糸腺フィブロイン及びそのHFIPキャストフィルムの構造評価
(1)広角X線回折(WAXD)測定による構造評価
上述の通り、本フィブロインフィルムは、不溶化処理なしで強い撥水性を示し、水に対して不溶性を示した。不溶性を与える構造的要因を調べるため、エタノール水溶液処理により凝固した中部絹糸腺フィブロインの構造と処理に用いたエタノール濃度依存性をWAXD測定により調べた。WAXD測定には、湾曲型イメージングプレート搭載X線回折装置 R-Axis Rapid II (Rigaku Co., Japan)を使用し、測定条件は、50kV、100mA (MoKα線)とした。
WAXDによる構造評価より、HFIPに対し溶解性を示す濡れた試料は、HFIPに対し不溶性を示す乾燥試料に比べ結晶性が低いことが示された。ここで、固体NMR分光法により、40%エタノールで6日間処理した試料について、濡れた状態の試料(Wet)と乾燥状態の試料(Dry)についての分子鎖の運動性について評価・比較をおこなった(図20)。固体NMR測定は、固体NMR装置Avance 600 WB(Bruker)を用いて行った。測定条件は、以下の通りである。試料管として4mmφのジルコニア製ローターを用い、10.0kHzでマジック角回転して測定した。1H 90°パルス幅は3.5 μsで、1H-13C交差分極は70kHzで行った。FID観測時にはSPINAL-64法による1Hでカップリングを行った。その結果、いずれの状態においても、得られたフィブロインからは、WAXD測定で示されたとおり、β-シート構造(silk-II型結晶)の形成を示すスペクトルが得られた。濡れた状態(すなわちHFIPに可溶な状態)では、乾燥状態の試料に対し、全体に観測ピークがシャープであり、β-シートの形成に寄与する分子由来のピークについても同様にシャープであった。従って、濡れた状態の試料におけるβ-シートドメインは、乾燥状態の試料のものに比べて、分子の運動性が大きく、分子鎖間のパッキングが弱い不完全なβ-シート構造で止まっていることが示唆された。このことから、濡れた状態の試料においては、凝集状態の弱いβ-シート構造が形成され、それが架橋点として振る舞うことで、凝固するに充分なネットワークが形成される一方で、HFIP分子が内部に侵入できる程度のスペースが、β-シート領域にも存在していることが推測された。これによって、濡れた状態の試料のHFIPへの溶解を可能にしているものと考えられる。
本HFIPキャストフィルム(未分解フィブロインフィルム)と、上記2種類の再生フィブロインフィルム(i)及び(ii)についてFTIR測定を行い、構造の評価・比較を行った(図21a、b及びc)。FTIR測定は、フーリエ変換赤外分光光度計JASCO FTIR-620 (JASCO Co., Japan)を用いて行い、測定条件は、全て透過測定、分解能2cm-1、そして積算回数32回とした。再生フィブロインフィルム(i)(水溶性)は、典型的な非晶性スペクトルを示した。また、再生フィブロインフィルム(ii)(水溶性)は、α-ヘリックス特有のスペクトルを示した。HFIPを代表とする含ハロゲン溶媒は、フィブロインタンパク質に対し、強力なヘリックス誘起溶媒として働くことは良く知られている。また、HFIPキャストフィルムもまた、α-ヘリックスリッチな構造をとることが知られている。しかしながら、本方法により得られた未分解フィブロインフィルムのHFIPキャストフィルムでは、WAXD及びNMR測定でも示されたとおり、β-シート結晶由来のスペクトルが得られ、FTIR測定においても水に対し不溶性を示すβ-シート型結晶の形成が確認された。
Claims (7)
- 蚕から取り出された中部絹糸腺を10から100%アルコール水溶液に浸漬して固定化する工程と、
前記固定化した中部絹糸腺から夾雑物を取り除きフィブロインタンパク質を取得する工程と、
含ハロゲン溶媒を用いて、湿潤状態にある前記フィブロインタンパク質を溶解してフィブロイン溶液を調製する工程と、
前記フィブロイン溶液を乾燥させてフィブロイン成形体を形成する工程と、を含む、
水に対して不溶性のフィブロイン成形体を形成する方法。 - 前記浸漬する工程において、前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロノール及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
- 前記アルコールは、エタノールである、請求項2に記載の方法。
- 前記含ハロゲン溶媒は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
- 前記フィブロイン成形体の水の接触角は、その測定開始時間から5分間において、85°から100°の範囲内である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
- 蚕から取り出された中部絹糸腺を10から100%アルコール水溶液に浸漬して固定化する工程と、
前記固定化した中部絹糸腺から夾雑物を取り除きフィブロインタンパク質を取得する工程と、を含む、
フィブロインタンパク質を取得する方法。 - 水の接触角が、測定条件を室温25℃、湿度30%、滴下液適量3.5μlとした場合、水の接触角の測定開始時間から5分間において、85°から100°の範囲内である、水に対して不溶性のフィブロイン成形体。
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