JP2017145874A - 車両駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 トルク差増幅機構を小さくして、トルク差増幅機構を含む車両駆動輪装置を小型、軽量化する。【解決手段】 アウターロータ5を有する電動モータ2L、2Rと左右の駆動輪との間に設けられ、3要素2自由度の遊星歯車機構3L、3Rを同軸上に二つ組み合わせた歯車装置とを備え、電動モータ2L、2Rのアウタロータ5に連結される入力用の内歯車RL、RRと、内歯車RL、RRと同軸上に設けられた出力用の遊星キャリヤCL、CRと、内歯車RL、RRと同軸上に設けられた太陽歯車SL、SRと、公転歯車としての遊星歯車PL、PRとを有し、二つの遊星歯車機構3L、3Rの一方の遊星キャリヤCLと他方の太陽歯車SRとを結合する第1結合部材31と、一方の太陽歯車SLと他方の遊星キャリヤCRとを結合する第2結合部材32とを同軸上に配置し、遊星歯車機構SL、SRの遊星キャリヤCL、CRと駆動輪の出力歯車軸14L、14Rとを連結したことを特徴とする。【選択図】 図1
Description
この発明は、独立した二つの駆動源からの駆動トルクを左右の駆動輪にトルク差を増幅して伝達することができる車両駆動装置に関するものである。
電気自動車等の車両において、左右の駆動輪にそれぞれ電動モータを配置して、各電動モータを独立して制御することにより左右の駆動輪に適宜駆動トルク差を与え、これにより車両の旋回モーメントを制御することが知られている。例えば、各電動モータがそれぞれ減速機を介して左右の駆動輪に独立して接続されている場合、各電動モータの回転速度はそれぞれの減速機で減速され、かつ、各電動モータの出力トルクはそれぞれの減速機で増幅されて左右の駆動輪に伝達される。ここで、車両の右旋回時と左旋回時の挙動を同様にするために、各電動モータは同じ出力特性にして、それぞれの減速機も同じ減速比にしている。
ところで、左右の駆動輪の出力トルクに差を付けたい場合、左右の電動モータの出力トルクに差を付け、左右の駆動輪に左右の電動モータの出力トルクを減速機を介して伝達する。
左右の駆動輪に伝達される左右の電動モータの出力トルクは、減速機の減速比に応じて増幅される。但し、左右の駆動輪の出力トルクの差の比率は、左右の減速機の減速比が同じであるので、左右の電動モータの出力トルクの差の比率と同一であり、左右の駆動輪の出力トルクの差の比率が増幅されるわけではない。
ところが、車両のスムーズな旋回走行の実現や、極端なアンダーステア、極端なオーバーステア等の車両の挙動変化を抑制するために、左右の電動モータから与えられる出力トルクの差の比率よりも左右の駆動輪に伝達される出力トルクの差の比率を大きくすることが有効な場合がある。
特許文献1及び特許文献2には、二つの駆動源と左右の駆動輪との間に、3要素2自由度の遊星歯車機構を同軸上に二つ組み合わせた歯車装置を備え、二つの駆動源から与えられるトルクの差を増幅して左右の駆動輪に与えることができる車両駆動装置が開示されている。
特許文献1に開示された車両駆動装置(以下、従来技術1という。)を図9及び図10を参照して説明する。図9は、従来技術1に係る車両駆動装置の歯車構成を示すスケルトン図、図10は従来技術1に係る車両駆動装置に組み込まれた歯車装置によるトルク差の増幅率を説明するための速度線図である。
車両駆動装置100は、車両に搭載された左右の電動モータ102L及び電動モータ102Rと、左駆動輪104L及び右駆動輪104Rと、これらの間に設けられる歯車装置105と減速ギヤ列106L、106R、107L、107Rとを備えている。
電動モータ102L及び電動モータ102Rは、車両に搭載されたバッテリ(図示省略)からの電力により動作し、電子制御装置(図示省略)により個別に制御され、異なるトルクを発生させて出力することができる。
電動モータ102Lの出力軸102aL、電動モータ102Rの出力軸102aRは、それぞれ減速ギヤ列106L、106Rを介して歯車装置105の各結合部材111、112に接続される。歯車装置105からの出力は減速ギヤ列107L、107Rを介して左右の駆動輪104L、104Rに与えられる。
歯車装置105は、3要素2自由度の同一の遊星歯車機構110L、110Rが同軸上に二つ組み合わされて構成されている。
遊星歯車機構110L、110Rには、例えば、シングルピニオン遊星歯車機構が採用されている。シングルピニオン遊星歯車機構は、同軸上に設けられた太陽歯車SL、SR及び内歯車RL、RRと、これら太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRとの間に位置する複数の遊星歯車PL、PRと、遊星歯車PL、PRを回動可能に支持し、太陽歯車SL、SR及び内歯車RL、RRと同軸上に設けられた遊星キャリヤCL、CRとから構成される。ここで、太陽歯車SL、SRと遊星歯車PL、PRは外周にギヤ歯を有する外歯歯車であり、内歯車RL、RRは内周にギヤ歯を有する内歯歯車である。
遊星歯車PL、PRは太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRとに噛み合っている。遊星歯車機構では、遊星キャリヤCL、CRを固定した場合に太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRとが逆方向に回転するため、速度線図に表すと内歯車RL、RR及び太陽歯車SL、SRが遊星キャリヤCL、CRに対して反対側に配置される。換言すると、内歯車RL、RRは遊星キャリヤCL、CRを挟んで太陽歯車SL、SRの反対側に配置される。
図10に示す速度線図においては、遊星キャリヤCL、CRから内歯車RL、RRまでの長さと遊星キャリヤCL、CRから太陽歯車SL、SRまでの長さの比は、内歯車RL、RRの歯数Zrの逆数(1/Zr)と太陽歯車SL、SRの歯数Zsの逆数(1/Zs)との比と等しい。
この歯車装置105は、図9に示すように、太陽歯車SL、遊星キャリヤCL、遊星歯車PL及び内歯車RLを有する第1遊星歯車機構110Lと、同じく太陽歯車SR、遊星キャリヤCR、遊星歯車PR及び内歯車RRを有する第2遊星歯車機構110Rとが同軸上に組み合わされて構成されている。
そして、第1遊星歯車機構110Lの太陽歯車SLと第2遊星歯車機構110Rの内歯車RRとが第1結合部材111によって結合され、第1遊星歯車機構110Lの内歯車RLと第2遊星歯車機構110Rの太陽歯車SRとが第2結合部材112によって結合されている。
第1結合部材111には、電動モータ102Lで発生されたトルクTM1が減速ギヤ列106Lを介して入力され、第2結合部材112には、電動モータ102Rで発生されたトルクTM2が減速ギヤ列106Rを介して入力される。また、第1遊星歯車機構110Lの遊星キャリヤCL及び第2遊星歯車機構110Rの遊星キャリヤCRは、それぞれ減速ギヤ列107L、107Rを介して左右の駆動輪104L、104Rに接続されて出力が取り出される。
ここで、歯車装置105によって伝達される駆動トルクについて、図10に示す速度線図を用いて説明する。
歯車装置105は、二つの同一の遊星歯車機構110L、110Rを組み合わせて構成されるため、図10に示すように二本の速度線図によって表すことができる。ここでは、理解を容易にするために、二本の速度線図を上下にずらし、上側に遊星歯車機構110Lの速度線図を示し、下側に遊星歯車機構110Rの速度線図を示す。
また、第1の遊星歯車機構110Lの速度線図と第2の遊星歯車機構110Rの速度線図は、太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRが左右反対に配置される。すなわち、図10において、第1の遊星歯車機構110Lの太陽歯車SLの下に第2の遊星歯車機構110Rの内歯車RRが配置され、第1の遊星歯車機構110Lの内歯車RLの下に第2の遊星歯車機構110Rの太陽歯車SRが配置される。
この歯車装置105は、図10に示す二本の速度線図の両端に位置する要素同士が、図中破線で示すように、第1結合部材111及び第2結合部材112によってそれぞれ結合されている。そして、第1結合部材111及び第2結合部材112に、それぞれ第1のモータ102L及び第2の電動モータ102Rから出力されたトルクTM1及びTM2が入力される。ここで、本来は、各電動モータ102L、102Rから出力されたトルクTM1及びTM2は各減速ギヤ列106L、106Rを介し各結合部材111、112に入力されるため、減速比が掛かるが、理解を容易にするため、速度線図及び各計算式の以降の説明においては、減速比を省略し、各結合部材111、112に入力されるトルクをTM1及びTM2のままとする。
一方、図10に示す速度線図上で中間に位置する遊星キャリヤCL、CRから左右の駆動輪104L、104Rに伝達される駆動トルクTL、TRが出力される。
このように構成された歯車装置105によって、第1の電動モータ102L及び第2の電動モータ102Rで発生させる各駆動トルクTM1、TM2にトルク差(入力トルク差)ΔTIN(=TM2−TM1)を与えると、左駆動輪104Lに伝達される駆動トルクTLと右駆動輪104Rに伝達される駆動トルクTRとに駆動トルク差ΔTOUT(=TL−TR)を発生させることができる。すなわち、この歯車装置105によれば、以下の式(1)の関係が得られる。なお、係数αはトルク差増幅率である。
(TL−TR)=α×(TM2−TM1) …(1)
この従来技術1に係る歯車装置105のトルク差増幅率αについて説明する。ここでは、二つの遊星歯車機構110L、110Rは、シングルピニオン遊星歯車機構であり、同一の歯数の歯車要素を使用しているため、速度線図においては内歯車RLと遊星キャリヤCLとの距離及び内歯車RRと遊星キャリヤCRとの距離は等しく、これをaとする。また、太陽歯車SLとキャリヤCLとの距離及び太陽歯車SRと遊星キャリヤCRとの距離も等しく、これをbとする。
左右両端の第1結合部材111、第2結合部材112に、それぞれ第1の電動モータ102L、第2の電動モータ102RのトルクTM1、TM2を入力し、遊星キャリヤCL、CRから駆動トルクTL、TRを取り出す場合、トルクの入力と出力の関係から、以下の式(2)が得られる。
TR+TL=TM1+TM2 …(2)
また、図中の左端(RL、SR)を基準としたモーメントの式は以下の式(3)となる。なお、図10において、矢印M方向が+のモーメント方向を示している。
0=aTL+bTR−(a+b)TM1 …(3)
これら式(2)、(3)からTL、TRについてまとめると、以下の(4)、(5)式となる。
TL=((a/(b−a))+1)・TM2−(a/(b−a))・TM1…(4)
TR=((a/(b−a))+1)・TM1−(a/(b−a))・TM2…(5)
TL=((a/(b−a))+1)・TM2−(a/(b−a))・TM1…(4)
TR=((a/(b−a))+1)・TM1−(a/(b−a))・TM2…(5)
これら(4)、(5)式から駆動トルク差(TL−TR)は以下の(6)式となる。
(TL−TR)=((a+b)/(b−a))・(TM2−TM1)…(6)
(TL−TR)=((a+b)/(b−a))・(TM2−TM1)…(6)
シングルピニオン形式の遊星歯車機構の場合、長さaは内歯車RL、RRの歯数Zrの逆数(1/Zr)、長さbは太陽歯車SL、SRの歯数Zsの逆数(1/Zs)となるため、上記の式は(7)式のように書き換えられる。
(TL−TR)=((Zr+Zs)/(Zr−Zs))・(TM2−TM1)…(7)
(TL−TR)=((Zr+Zs)/(Zr−Zs))・(TM2−TM1)…(7)
上記(7)式よりトルク差増幅率αは、(Zr+Zs)/(Zr−Zs)となる。
上記したように、この従来技術1では、第1の電動モータ102L、第2の電動モータ102Rからの入力は、SL+RR、SR+RLとなり、駆動輪104L、104Rへの出力はCL、CRとなる。
二つの電動モータ102L、102Rで異なるトルクTM1、TM2を発生させて入力トルク差ΔTIN(=(TM2−TM1))を与えると、歯車装置105において入力トルク差ΔTINが増幅され、入力トルク差ΔTINよりも大きな駆動トルク差α・ΔTINを得ることができる。すなわち、入力トルク差ΔTINが小さくても、歯車装置105において所定のトルク差増幅率αで入力トルク差ΔTINを増幅することができ、左駆動輪104Lと右駆動輪104Rとに伝達される駆動トルクTL、TRに、入力トルク差ΔTINよりも大きな駆動トルク差ΔTOUT(=α・(TM2−TM1))を与えることができる。
次に、特許文献2に開示された車両駆動装置(以下、従来技術2という。)を図11及び図12を参照して説明する。図11は、従来技術2に係る車両駆動装置の歯車構成を示すスケルトン図、図12は従来技術2に係る車両駆動装置によるトルク差増幅率を説明するための速度線図である。
なお、図11においては、従来技術1との差を分かりやすくするために、左右に電動モータ102L、102Rを配置して従来技術1と同様の図にし、同一構成部分には同一符号を付している。
図11に示すように、車両駆動装置100は、車両に搭載された第1の電動モータ102L及び第2の電動モータ102Rと、左駆動輪104L及び右駆動輪104Rと、これらの間に設けられる歯車装置105と減速ギヤ列106L、106Rとを備えている。
第1の電動モータ102L及び第2の電動モータ102Rは、車両に搭載されたバッテリ(図示省略)からの電力により動作し、電子制御装置(図示省略)により個別に制御され、異なるトルクを発生させて出力することができる。第1の電動モータ102Lの出力軸102aL、第2の電動モータ102Rの出力軸102aRは、それぞれ減速ギヤ列106L、106Rを介して歯車装置105の太陽歯車SL、SRに接続される。歯車装置105からの出力は左右の駆動輪104L、104Rに与えられる。
従来技術1と同様に従来技術2の歯車装置105は、3要素2自由度の同一の遊星歯車機構110L、110Rが同軸上に二つ組み合わされて構成されている。遊星歯車機構110L、110Rには、例えば、シングルピニオン遊星歯車機構が採用されている。
そして、第1の遊星歯車機構110Lの遊星キャリヤCLと第2の遊星歯車機構110Rの内歯車RRとが第1結合部材111によって結合され、第1の遊星歯車機構110Lの内歯車RLと第2の遊星歯車機構110Rの遊星キャリヤCRとが第2結合部材112によって結合されている。
第1の電動モータ102Lで発生されたトルクTM1が減速ギヤ列106Lを介して第1の遊星歯車機構110Lの太陽歯車SLに入力され、第2の電動モータ102Rで発生されたトルクTM2が減速ギヤ列106Rを介して第2の遊星歯車機構110Rの太陽歯車SRに入力される。
また、第1結合部材111、第2の結合部材112は、それぞれ左右の駆動輪104L、104Rに接続されて出力が取り出される。
上記したように、この従来技術2では、電動モータ102L、102Rからの入力は、SL、SRとなり、駆動輪104L、104Rへの出力は、CL+RR、CR+RLとなる。
ここで、従来技術2の歯車装置105によって伝達される駆動トルクについて、図12に示す速度線図を用いて説明する。
歯車装置105は、二つの同一のシングルピニオンの遊星歯車機構110L、110Rを組み合わせて構成されるため、図10に示すように二本の速度線図によって表すことができる。ここでは、理解を容易にするために、二本の速度線図を上下にずらし、上側に第1の遊星歯車機構110Lの速度線図を示し、下側に第2の遊星歯車機構110Rの速度線図を示している。また、従来技術1での説明と同様に、速度線図及び各計算式の以降の説明においては、各減速ギヤ列106L、106Rでの減速比を省略し、各太陽歯車SL、SRに入力されるトルクをTM1及びTM2のままとする。
図11に示す歯車装置105では、図12に示す遊星キャリヤCLと内歯車RRが、図中破線で示すように、第1結合部材111によって結合され、遊星キャリヤCRと内歯車RLが、図中破線で示すように、第2結合部材112によって結合されている。
そして、太陽歯車SL、SRにそれぞれ第1の電動モータ102L及び第2の電動モータ102Rから出力されたトルクTM1及びTM2が入力される。一方、速度線図上で中間に位置する第1結合部材111、第2結合部材112から左右の駆動輪104L、104Rに伝達される駆動トルクTL、TRが出力される。
このように構成された歯車装置105によっても、第1の電動モータ102L及び第2の電動モータ102Rで発生させる各駆動トルクTM1、TM2にトルク差(入力トルク差)ΔTIN(=TM2−TM1)を与えることで、左駆動輪104Lに伝達される駆動トルクTLと右駆動輪104Rに伝達される駆動トルクTRとに駆動トルク差ΔTOUT(=TR−TL)を発生させることができる。
この従来技術2に係る歯車装置105のトルク差増幅率αについて説明する。この従来技術2においても、二つのシングルピニオン形式の遊星歯車機構110L、110Rは、同一の歯数の歯車要素を使用しているため、速度線図においては内歯車RLと遊星キャリヤCLとの距離及び内歯車RRと遊星キャリヤCRとの距離は等しく、これをaとする。また、太陽歯車SLと遊星キャリヤCLとの距離及び太陽歯車SRと遊星キャリヤCRとの距離も等しく、これをbとする。
この従来技術2の歯車装置105を速度線図で示すと図12のようになる。
この速度線図において、トルクの釣り合いを考えると、トルク差増幅率αを求めることができる。なお、図12において、矢印M方向が+のモーメント方向を示している。
SRの点を基準にしたモーメントMの釣り合いから下記(8)式が算出される。
b・TR+(a+b)・TL−(a+2b)・TM1=0 …(8)
b・TR+(a+b)・TL−(a+2b)・TM1=0 …(8)
SLの点を基準にしたモーメントMの釣り合いから下記(9)式が算出される。
−b・TL−(a+b)・TR+(a+2b)・TM2=0 …(9)
−b・TL−(a+b)・TR+(a+2b)・TM2=0 …(9)
(8)式+(9)式より、下記(10)式が算出される。
a・(TR−TL)―(a+2b)・(TM2−TM1)=0
(TR−TL)=((a+2b)/a)・(TM2−TM1) …(10)
a・(TR−TL)―(a+2b)・(TM2−TM1)=0
(TR−TL)=((a+2b)/a)・(TM2−TM1) …(10)
(10)式の(a+2b)/aがトルク差増幅率αとなる。
a=1/Zr、b=1/Zsを代入すると、α=(2Zr+Zs)/Zsとなる。
この従来技術2では、電動モータ102L、102Rからの入力は、SL、SR、駆動輪104L、104Rへの出力はCL+RR、CR+RLであり、トルク差増幅率αは、(2Zr+Zs)/Zsである。
上記のように、従来技術1及び従来技術2に記載のものにおいては、二つの電動モータ102L、102Rで異なるトルクTM1、TM2を発生させて入力トルク差ΔTINを与えると、歯車装置105において入力トルク差ΔTINが増幅され、入力トルク差ΔTINよりも大きな駆動トルク差ΔTOUTを得ることができる。
ところで、車両駆動装置は、車体に搭載されるため、搭載空間確保のために小型化、軽量化は必須である。
車両駆動装置の歯車装置の入力軸を直接モータに連結し、歯車装置の出力軸を駆動輪に連結すると、駆動輪に必要な駆動トルクに合わせたモータ動力が必要となるため、モータが大型化してしまう。このため、車両駆動装置にはモータのトルクを増幅して駆動輪に伝達する減速機構としてのいくつかの歯車軸を有する。
歯車軸は、モータの出力軸と連結し、入力歯車としての小径歯車を有する入力歯車軸と、駆動輪と連結し、出力歯車としての大径歯車を有する出力歯車軸と、入力歯車と係合する大径歯車および出力歯車と係合する小径歯車を同軸上に配した中間歯車軸から構成される2段減速機構である。
従来技術1および従来技術2では、車両駆動装置における歯車装置の配置位置について具体的に言及されていないが、従来技術1では、2段減速の出力側に歯車装置が配置され、従来技術2では、2段減速の入力側に歯車装置が配置された実施例が開示されている。
歯車装置を2段減速の出力側に設けた場合、出力トルクに対する構成部品(歯車、軸受等)の強度確保のため、構成部品が大型化し、その結果、車両駆動装置が大型化し、製作コストも上がってしまう可能性がある。
また、歯車装置を2段減速の入力側に設けた場合、歯車装置を構成する遊星歯車機構の各歯車が高速で回転し、歯車の歯面同士のすべりによる摩擦熱が発生し易い。
そして、歯車歯面の冷却に潤滑油を用いた場合には、遊星歯車機構を2つ連結することで構成が複雑になり、歯車装置内部への潤滑油路の確保が困難になる可能性がある。
さらに、従来技術1及び従来技術2では、2つの遊星歯車機構を構成する内歯車RL、RRと結合部材とを接続することによりトルク差を増幅するようにしているため、左右どちらかの内歯車RL、RRと別部材を繋ぐ結合部材の1つが、必ず他方の内歯車RL、RRより大径になるため、装置が大型化するという問題がある。
そこで、この発明は、車両駆動装置に組み込むトルク増幅装置である歯車装置を小型化すると共に、入力段の回転数を低く抑えることを可能にして、従来の車両駆動装置における潤滑の課題を解決しようとするものである。
前記の課題を解決するために、この発明は、車両に搭載され独立して制御可能な二つの駆動源と、左右の駆動輪と、前記二つの駆動源と前記左右の駆動輪との間に設けられ、3要素2自由度の遊星歯車機構を同軸上に二つ組み合わせた歯車装置とを備える車両駆動装置において、前記駆動源がアウターロータを有する電動モータであり、前記遊星歯車機構は、前記電動モータのアウタロータに連結される入力用の内歯車と、前記内歯車と同軸上に設けられた出力用の遊星キャリヤと、前記内歯車と同軸上に設けられた太陽歯車と、公転歯車としての遊星歯車とを有し、前記二つの遊星歯車機構の一方の遊星キャリヤと他方の太陽歯車とを結合する第1結合部材と、一方の太陽歯車と他方の遊星キャリヤとを結合する第2結合部材とを同軸上に配置し、前記遊星歯車機構の遊星キャリヤと駆動輪の出力歯車軸とを連結したことを特徴とする。
前記遊星歯車機構の遊星歯車と係合する内歯車は、前記電動モータのアウタロータの内側端部に一体に設けることができる。
前記遊星歯車機構の遊星歯車と係合する内歯車は、前記電動モータのアウタロータの内側端部に別体に設けるようにしてもよい。
前記電動モータのアウタロータの内径側に、車両駆動装置を収容するハウジングに対して締結されるステータを配置することができる。
前記遊星歯車機構の遊星キャリヤは、遊星歯車を支持するキャリヤピンを介して、車両のインボード側およびアウトボード側にキャリヤフランジを有し、アウトボード側のキャリヤフランジにアウトボード側に延びる中空軸部を設け、この中空軸部の外径を前記電動モータのステータの内側に転がり軸受を介して支持することができる。
前記遊星歯車機構のインボード側のキャリヤフランジにインボード側に延びる中空軸部を設け、この中空軸部の外径面に、駆動輪に連結される出力歯車軸の出力歯車としての大径歯車に係合する出力側小径歯車を設けることができる。
前記車両駆動装置のハウジングを、センタハウジングと左右のサイドハウジングからなる3ピース構成とし、前記センタハウジングの中央部には左右を仕切る仕切り壁を設け、前記第1結合部材と前記第2結合部材を前記仕切り壁を貫通して設けることができる。
前記第1結合部材と第2結合部材の内の一方の結合部材が中空軸、他方の結合部材が前記中空軸内部に挿通される軸からなる2重構造であり、前記第1結合部材および前記第2結合部材と、それぞれの結合部材が連結する遊星キャリヤとの連結をスプライン嵌合とすることができる。
前記スプライン嵌合は、軸方向に摺動可能な嵌合とすることができる。
前記第1結合部材および第2結合部材の内、内径側の結合部材の内径に給油穴を設けることができる。
以上のように、この発明によれば、車両に搭載され独立して制御可能な二つの駆動源と、左右の駆動輪と、前記二つの駆動源と前記左右の駆動輪との間に設けられ、3要素2自由度の遊星歯車機構を同軸上に二つ組み合わせた歯車装置とを備える車両駆動装置において、前記駆動源を、アウターロータを有する電動モータとし、前記遊星歯車機構の入力用の内歯車を、電動モータのアウタロータに設けることにより、遊星歯車機構の入力段の回転数を低く抑えることが可能となるので、歯車の歯面同士のすべりによる摩擦熱が発生し難く、歯車の潤滑の課題が生じ難い。
また、電動モータをアウターロータ構造とし、外径を大きくすることにより、同体積のモータに比較して、大きなトルクを出力することができるため、2段減速構成の車両駆動装置に対して、よりコンパクトな構成とすることができる。
また、トルク差増幅機構である歯車装置の2つの遊星歯車機構の接続は、太陽歯車と遊星キャリヤの接続であり、内歯車より大径の接続部材は必要としないので、トルク差増幅機構を小さくすることができ、トルク差増幅機構を含む車両駆動装置を小型、軽量化することができる。
また、2つの遊星歯車機構を、中空軸とその中空軸の内部に挿通される軸からなる2重構造の第1結合部材及び第2結合部材によって結合し、内径側の結合部材の内径側に給油穴を設けることより、軸心給油が行えるので、遊星歯車機構内部の歯車歯面や軸受部分への潤滑が容易になる。
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図5に示す電気自動車AMは、後輪駆動方式であり、シャーシ60と、後輪としての駆動輪61L、61Rと、前輪62L、62Rと、この発明に係る2モータ式の車両駆動装置1、バッテリ63、インバータ64等を備える。図5では、車両駆動装置1の歯車構成をスケルトン図で示している。
図1及び図3に示す車両駆動装置1は、車両に搭載され独立して制御可能な二つの駆動源としての電動モータ2L、2Rと、左右の駆動輪61L、61Rと二つの電動モータ2L、2Rとの間に設けられる左右2基の3要素2自由度の遊星歯車機構3L、3Rとを備える。
2モータ式の車両駆動装置1の駆動トルクは、等速ジョイント65a、65bと中間シャフト65cからなるドライブシャフトを介して左右の駆動輪61L、61Rに伝達される。
なお、2モータ式の車両駆動装置1の搭載形態としては、図5に示す後輪駆動方式の他、前輪駆動方式、四輪駆動方式でもよい。
2モータ式の車両駆動装置1における左右の電動モータ2L、2Rは、同一の最大出力を有する同一規格のアウターロータ型の電動モータが用いられる。
2モータ式の車両駆動装置1は、ハウジング4内に収容されている。
ハウジング4は、遊星歯車機構3L、3Rの軸心と直交する方向に3ピースに分割され、図1に示すように、中央ハウジング4aとこの中央ハウジング4aの両側面に固定される左右の側面ハウジング4bL、4bRの3ピース構造になっている。左右の側面ハウジング4bL、4bRは、中央ハウジング4aの両側の開口部に複数のボルト(図示省略)によって固定されている。
左右の側面ハウジング4bL、4bRには、電動モータ2L、2Rを収容する円筒部が設けられ、この円筒部の外側面には、円筒部を閉塞する外側壁4cL、4cRが設けられている。
中央ハウジング4aには、図1に示すように、中央に仕切り壁11が設けられている。ハウジング4は、この仕切り壁11によって左右に2分割されている。
電動モータ2L、2Rは、アウターロータ型であり、アウタロータ5の内径側に、車両駆動装置を収容するハウジング4に対して締結されるステータ6を設けた構造である。
ステータ6は、ステータコア6aとコイル部6bとからなり、ステータコア6aは、電動モータ2L、2Rを収容する円筒部の外側壁4cL、4cRに対して一体に形成されている。
アウタロータ5は、ステータ6の外周に間隔をおいて設けられ、アウトボード側の端部が、電動モータ2L、2Rを収容する円筒部の外側壁4cL、4cRに対して転がり軸受7によって回転可能に支持されている。
電動モータ2L、2Rを収容する円筒部の外側壁4cL、4cRの内側壁には、転がり軸受7を固定する軸受嵌合凸部8を設けている。
ハウジング4の中央の仕切り壁11と左右の電動モータ2L、2Rの間には、二つの電動モータ2L、2Rから与えられるトルクを左右の駆動輪61L、61Rに増幅して分配する歯車装置30を構成する3要素2自由度の遊星歯車機構3L、3Rが収容されている。
歯車装置30を構成する遊星歯車機構3L、3Rは、電動モータ2L、2Rのアウタロータ5をインボード側に延長した円筒部の内径面に設けられた入力用の内歯車RL、RRと、内歯車RL、RRと同軸上に設けられた太陽歯車SL、SRと、内歯車RL、RRと太陽歯車SL、SRに噛み合う公転歯車としての遊星歯車PL、PRと、遊星歯車PL、PRに連結され、内歯車RL、RRと同軸上に設けられた出力用の遊星キャリヤCL、CRと、一方の遊星キャリヤCL(図1では図の左側)と他方の太陽歯車SR(図1及び図2では図の右側)とを結合する第1結合部材31と、一方の太陽歯車SL(図1及び図2では図の左側)と他方の遊星キャリヤCR(図1及び図2では図の右側)とを結合する第2結合部材32と、出力歯車軸14L、14Rの出力歯車14aと噛み合う出力側小径歯車13bとを有し、出力側小径歯車13bを、遊星キャリヤCL、CRに連結した構成である。
なお、図1及び図2に示す実施形態では、電動モータ2L、2Rのアウタロータ5の内径面に、前記遊星歯車機構3L、3Rの遊星歯車PL、PRと係合する内歯車RL、RRを一体に設け、図7及び図8に示す実施形態では、前記遊星歯車機構3L、3Rの遊星歯車PL、PRと係合する内歯車RL、RRを、電動モータ2L、2Rのアウタロータ5の内側端部に別体で設けている。
また、図1及び図2に示す実施形態では、遊星キャリヤCL、CRに連結された出力側小径歯車13bは、遊星キャリヤCL、CRと一体に形成しているが、別体に形成してもよい。
遊星キャリヤCL、CRは、遊星歯車PL、PRを支持するキャリヤピン33と、キャリヤピン33のアウトボード側端部に連結されたアウトボード側のキャリヤフランジ34aと、インボード側端部に連結されたインボード側のキャリヤフランジ34bを有する。
アウトボード側のキャリヤフランジ34aは、アウトボード側に延びる中空軸部35を備えており、中空軸部35のアウトボード側の外径面が、電動モータ2L、2Rのステータコア6aのインボード側端面に形成した軸受嵌合穴19bに転がり軸受20bを介して支持されている。
インボード側のキャリヤフランジ34bは、インボード側に延びる中空軸部36を備えており、中空軸部36のインボード側の端部が、中央ハウジング4aの仕切り壁11に形成した軸受嵌合穴19aに転がり軸受20aを介して支持されている。
前記出力側小径歯車13bは、キャリヤフランジ34aの中空軸部35の外周面に一体に形成されている。
遊星歯車PL、PRは、針状ころ軸受37を介してキャリヤピン33によって支持されている。
また、前記各キャリヤフランジ34a、34bの対向面と遊星歯車PL、PRの間にスラスト板38を挿入し、遊星歯車PL、PRの回転の円滑化を図っている。
前記各キャリヤフランジ34a、34bの外周面と内歯車RL、RRとの間には、転がり軸受39a、39bを配置している。
車両駆動装置1の歯車装置30を構成する2つの遊星歯車機構3L、3Rを連結している第1結合部材31および第2結合部材32は、ハウジング4の中央ハウジング4aを左右に仕切る仕切り壁11を貫通して組み込まれている。
この第1結合部材31と第2結合部材32は、同軸上に配置されると共に、一方の結合部材(図1及び図2の実施形態では第2結合部材32)が中空軸、他方の結合部材(図1及び図2の実施形態では第1結合部材31)が中空軸に挿通される軸からなる2重構造になっている。
図1及び図2に示す実施形態では、中空軸で構成される第2結合部材32の右側の遊星歯車機構3Rの端部と、遊星キャリヤCRのインボード側のキャリヤフランジ34bの中空軸部36とにスプライン41を設け、第2結合部材32を遊星キャリヤCRに対しスプライン嵌合により連結している。
また、図1及び図2に示す実施形態では、第1結合部材31の左側の遊星歯車機構3Lの端部と、遊星キャリヤCLのアウトボード側のキャリヤフランジ34aの中空軸部35とにスプライン42を設けて、第1結合部材31を遊星キャリヤCLに対しスプライン嵌合により連結している。
上記のように、2つの遊星歯車機構3L、3Rの第1結合部材31と第2結合部材32とを、遊星キャリヤCLと遊星キャリヤCRに対しスプライン嵌合によって連結することにより、2つの遊星歯車機構3L、3Rが左右に分割することが可能となり、3ピース構成のハウジング4に他の減速歯車軸と一緒に左右から組込むことができる。
第2結合部材32の遊星キャリヤCL側の端部は、その外周面に、左側の遊星歯車機構3Lの遊星歯車PLと噛み合う外歯車が形成され、この外歯車が左側の遊星歯車機構3Lの太陽歯車SLを構成している。
中空軸で構成される第2結合部材32に挿通される第1結合部材31は、右側の遊星歯車機構3Rの端部に大径部43を有し、この大径部43の外周面に、右側の遊星歯車機構3Rの遊星歯車PRと噛み合う外歯車が形成され、この外歯車が右側の遊星歯車機構の太陽歯車SRを構成している。
第1結合部材31および第2結合部材32の内、内径側の結合部材(第1結合部材31)と連結している太陽歯車SRの最大径は、外径側の結合部材(第2結合部材32)が嵌合う遊星キャリヤCRのインボード側のキャリヤフランジ34bの中空軸部36の内面のスプライン穴の最小径よりも小さく設定することにより、内径側の結合部材(第1結合部材31)を容易に組み込むことが可能である。
内径側の結合部材(第1結合部材31)の外周面と、外径側の結合部材(第2結合部材32)の内周面との間には、カラー44と、カラー44の両端に針状ころ軸受45、46を介在させている。
第1結合部材31および第2結合部材32と遊星キャリヤCL、CRとの嵌合(スプライン41、42)は、軸方向に摺動可能な嵌め合い公差とすることにより、はすば歯車のスラスト力による歯車歯面への偏荷重を防ぐことができる。
また、第1結合部材31および第2結合部材32と遊星キャリヤCL、CRとのスプライン(スプライン41、42)嵌合部の摺動による軸方向移動は、外径側結合部材(図1及び図2の実施形態では第2結合部材32)の両端にスラスト軸受47、48を設けることにより規制している。
2つの遊星歯車機構3L、3Rを連結する2重構造の軸の内径側の結合部材(図1及び図2の実施形態では第1結合部材31)は、結合部材(図1及び図2の実施形態では第1結合部材31)と遊星キャリヤ(図1及び図2の実施形態ではCL)とのスプライン嵌合と反対側の軸端を、他方の遊星キャリヤ(図1及び図2の実施形態ではCR)に対して深溝玉軸受49によって支持している。
2つの遊星歯車機構を連結する2重構造の軸の内径側の結合部材(図1及び図2の実施形態では第1結合部材31)には、軸心に給油穴50を設けている。
出力歯車軸14L、14Rは、大径の出力歯車14aを有し、中央ハウジング4aの仕切り壁11の両面に形成した軸受嵌合穴53aと側面ハウジング4bL、4bRに形成した軸受嵌合穴53bに転がり軸受54a、54bによって支持されている。そして、軸受嵌合穴53a、53bは、転がり軸受54a、54bの外輪が当接する壁部のある段付き形状になっている。
出力歯車軸14L、14Rのアウトボード側の端部は、側面ハウジング4bL、4bRに形成した開口部からハウジング4の外側に引き出され、引き出された出力歯車軸14L、14Rのアウトボード側の端部の外周面に、等速ジョイント65aの外側継手部がスプライン結合されている。
出力歯車軸14L、14Rに結合された等速ジョイント65aは、中間シャフト65c、等速ジョイント65bを介して駆動輪61L、61Rに接続される(図5)。
出力歯車軸14L、14Rのアウトボード側の端部と側面ハウジング4bL、4bRに形成した開口部との間には、オイルシール55を設け、ハウジング4に封入された潤滑油の漏洩および外部からの泥水などの侵入を防止している。
図1及び図2に示す実施形態の2モータ式の車両駆動装置1の歯車構成は、図5に示すスケルトン図の通りである。
図5に示すように、左右の電動モータ2L及び電動モータ2Rは、車両に搭載されたバッテリ63からインバータ64を介して与えられた電力により動作する。そして、電動モータ2L、2Rは、電子制御装置(図示省略)により個別に制御され、異なるトルクを発生させて出力することができる。
電動モータ2L、2Rのアウタロータ5のトルクは、歯車装置30の内歯車RL、RRに伝達される。
そして、歯車装置30を介して遊星歯車機構3L、3Rの出力側小径歯車13bが出力歯車軸14L、14Rの大径の出力歯車14aに噛み合って出力側小径歯車13bと出力歯車14aとの歯数比で電動モータ2L、2Rのアウタロータ5のトルクがさらに増幅されて、駆動輪61L、61Rに出力される。
歯車装置30は、3要素2自由度の同一の遊星歯車機構3L、3Rが同軸上に二つ組み合わされて構成され、遊星歯車機構として、シングルピニオン遊星歯車機構を採用している。
遊星歯車機構3L、3Rは、同軸上に設けられた太陽歯車SL、SR及び内歯車RL、RRと、これら太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRとの間に位置する複数の遊星歯車PL、PRと、遊星歯車PL、PRを回動可能に支持し太陽歯車SL、SR及び内歯車RL、RRと同軸上に設けられた遊星キャリヤCL、CRとから構成される。ここで、太陽歯車SL、SRと遊星歯車PL、PRは外周にギヤ歯を有する外歯歯車であり、内歯車RL、RRは内周にギヤ歯を有する内歯歯車である。遊星歯車PL、PRは太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRとに噛み合っている。
遊星歯車機構3L、3Rでは、遊星キャリヤCL、CRを固定した場合に太陽歯車SL、SRと内歯車RL、RRとが逆方向に回転するため、図6に示す速度線図に表すと内歯車RL、RR及び太陽歯車SL、SRが遊星キャリヤCL、CRに対して反対側に配置される。
この歯車装置30は、前記のように、太陽歯車SL、遊星キャリヤCL、遊星歯車PL及び内歯車RLを有する第1の遊星歯車機構3Lと、同じく太陽歯車SR、遊星キャリヤCR、遊星歯車PR及び内歯車RRを有する第2の遊星歯車機構3Rとが同軸上に組み合わされて構成されている。
そして、第1の遊星歯車機構3Lの遊星キャリヤCLと第2の遊星歯車機構3Rの太陽歯車SRとが結合されて第1結合部材31を形成し、第1の遊星歯車機構の太陽歯車SLと第2の遊星歯車機構3Rの遊星キャリヤCRとが結合されて第2結合部材32を形成している。
第1の遊星歯車機構3Lの内歯車RLに電動モータ2Lで発生したトルクTM1が、第1の遊星歯車機構3Lによって出力側小径歯車13bに伝達され、出力側小径歯車13bと出力歯車軸14Lの出力歯車14aとが噛み合って1段減速されて出力歯車軸14Lから駆動輪61Lに駆動トルクTLが出力される。
第2の遊星歯車機構3Rの内歯車RRに電動モータ2Rで発生したトルクTM2が、第2の遊星歯車機構3Rによって出力側小径歯車13bに伝達され、出力側小径歯車13bと出力歯車軸14Rの出力歯車14aとが噛み合って1段減速されて出力歯車軸14Rから駆動輪61Rに駆動トルクTRが出力される。
電動モータ2L、2Rからの出力は、二つの遊星歯車機構3L、3Rのそれぞれの内歯車RL、RRに与えられ、第1結合部材31、第2結合部材32からの出力が駆動輪61L、61Rに与えられる。
第2結合部材32は、中空軸で構成されており、その内部に第1結合部材31が挿通され、第1結合部材31と第2結合部材32を構成する軸は二重構造になっている。
中実軸である第1結合部材31は、その一端(図中右端)が太陽歯車SRの回転軸であり、他端(図中左端)が太陽歯車SLを貫通して設けられ、遊星キャリヤCLに接続されている。また、中空軸である第2結合部材32は、一端(図中左端)が太陽歯車SLの回転軸となっており、他端(図中右端)は遊星キャリヤCRと接続されている。この第1結合部材31と第2結合部材32によって、二つの遊星歯車機構が結合されている。
歯車装置30は、二つの同一のシングルピニオン形式の遊星歯車機構3L、3Rを組み合わせて構成されるため、図6に示すように二本の速度線図によって表すことができる。ここでは、分かりやすいように、二本の速度線図を上下にずらし、上側に左側の遊星歯車機構3Lの速度線図を示し、下側に右側の遊星歯車機構3Rの速度線図を示す。また本来は、図1及び図2の実施形態では、歯車装置30から取り出された駆動トルクTL、TRは、出力歯車14aと噛み合う出力側小径歯車13bを介し左右の駆動輪61L、61Rへ伝達されるため減速比が掛かるが、以降、理解を容易にするため、図6に示す速度線図及び各計算式の説明においては、駆動トルクはTL、TRのままとする。
歯車装置30を構成する二つの遊星歯車機構3L、3Rは、同一の歯数の歯車要素を使用しているため、速度線図においては内歯車RLと遊星キャリヤCLとの距離及び内歯車RRと遊星キャリヤCRとの距離は等しく、これをaとする。また、太陽歯車SLと遊星キャリヤCLとの距離及び太陽歯車SLと遊星キャリヤCRとの距離も等しく、これをbとする。遊星キャリヤCL、CRから内歯車RL、RRまでの長さと遊星キャリヤCL、CRから太陽歯車SL、SRまでの長さの比は、内歯車RL、RRの歯数Zrの逆数(1/Zr)と太陽歯車SL、SRの歯数Zsの逆数(1/Zs)との比と等しい。よって、a=(1/Zr)、b=(1/Zs)である。
RRの点を基準にしたモーメントMの釣り合いから下記(11)式が算出される。なお、図6において、図中矢印方向Mがモーメントの正方向である。
a・TR+(a+b)・TL−(b+2a)・TM1=0 …(11)
a・TR+(a+b)・TL−(b+2a)・TM1=0 …(11)
RLの点を基準にしたモーメントMの釣り合いから下記(12)式が算出される。
−a・TL−(a+b)・TR+(b+2a)・TM2=0 …(12)
−a・TL−(a+b)・TR+(b+2a)・TM2=0 …(12)
(11)式+(12)式より、下記(13)式が得られる。
−b・(TR−TL)+(2a+b)・(TM2−TM1)=0
(TR−TL)=((2a+b)/b)・(TM2−TM1) …(13)
−b・(TR−TL)+(2a+b)・(TM2−TM1)=0
(TR−TL)=((2a+b)/b)・(TM2−TM1) …(13)
(13)式の(2a+b)/bがトルク増幅率αとなる。a=1/Zr、b=1/Zsを代入すると、α=(Zr+2Zs)/Zrとなり、下記のトルク差増幅率αが得られる。
α=(Zr+2Zs)/Zr
この発明では、電動モータ2L、2Rからの入力は、RL、RRとなり、駆動輪61L、61Rへの出力はSR+CL、SL+CRとなる。
そして、二つの電動モータ2L、2Rで異なるトルクTM1、TM2を発生させて入力トルク差ΔTIN(=(TM2−TM1))を与えると、歯車装置30において入力トルク差ΔTINが増幅され、入力トルク差ΔTINよりも大きな駆動トルク差α・ΔTINを得ることができる。すなわち、入力トルク差ΔTINが小さくても、歯車装置30において上記したトルク差増幅率α(=(Zr+2Zs)/Zr)で入力トルク差ΔTINを増幅することができ、左の駆動輪61Lと右の駆動輪61Rとに伝達される駆動トルクTL、TRに、入力トルク差ΔTINよりも大きな駆動トルク差ΔTOUT(=α・(TM2−TM1))を与えることができる。
従来技術1及び従来技術2では、トルク差増幅機構である歯車装置105の、2つの遊星歯車機構の左右接続部材に内歯車Rが含まれるため、左右どちらかの内歯車と別部材を繋ぐ結合部材の1つが必ず他方の内歯車Rより大径にならなければならない。
この発明では、トルク差分配機構である歯車装置30を構成する2つの遊星歯車機構の接続は、太陽歯車SLと遊星キャリヤCR、太陽歯車SRと遊星キャリヤCLであるから、内歯車RL、RRよりも大径の接続部材を必要としない。このため、この発明では、従来技術1及び従来技術2のものに比してトルク差分配機構を小さくすることができので、トルク差分配機構を組み込んだ電気自動車用の車両駆動装置1を小さく軽量化することができる。
電気自動車用の車両駆動装置1を小さく軽量化することにより、車両駆動装置1の車体搭載レイアウトと共に、周辺補機類の車体搭載レイアウトの自由度が向上する。
また、車両駆動装置1が小型化することにより、車室空間が拡大する等のメリットがある。
以上の実施形態では、二つの遊星歯車機構3L、3Rから出力されるトルクを、駆動輪61L、61Rに連結された出力歯車軸14L、14Rの出力歯車14aに伝達しているが、二つの遊星歯車機構3L、3Rと出力歯車軸14L、14Rとの間に、中間歯車軸を設けた複数段の歯車機構を採用することもできる。
図1に示す実施形態では、二つの駆動源として電動モータ2L、2Rを用い、同一の最大出力を有する同一規格の電動モータである場合を例示したが、二つの駆動源はこれに限られない。
なお、車両駆動装置1が搭載される車両は、電気自動車やハイブリッド電気自動車に限られず、例えば、第1の電動モータ2L及び第2の電動モータ2Rを駆動源とした燃料電池自動車であってもよい。
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得る。
1 :車両駆動装置
2L、2R :電動モータ
3L、3R :遊星歯車機構
4 :ハウジング
4a :中央ハウジング
4bL、4bR :側面ハウジング
4cL、4cR :外側壁
5 :アウタロータ
6 :ステータ
6a :ステータコア
6b :コイル部
7 :転がり軸受
8 :軸受嵌合凸部
11 :仕切り壁
13b :出力側小径歯車
14L、14R :出力歯車軸
14a :出力歯車
19a、19b :軸受嵌合穴
20a、20b :転がり軸受
30 :歯車装置
31 :第1結合部材
32 :第2結合部材
33 :キャリヤピン
34a、34b :キャリヤフランジ
35、36 :中空軸部
37 :針状ころ軸受
38 :スラスト板
39a、39b :転がり軸受
41、42 :スプライン
43 :大径部
44 :カラー
45、46 :針状ころ軸受
47、48 :スラスト軸受
49 :深溝玉軸受
50 :給油穴
53a、53b :軸受嵌合穴
54a、54b :転がり軸受
55 :オイルシール
60 :シャーシ
61L、61R :駆動輪
62L、62R :前輪
63 :バッテリ
64 :インバータ
65a、65b :等速ジョイント
65c :中間シャフト
AM :電気自動車
CL、CR :遊星キャリヤ
PL、PR :遊星歯車
RL、RR :内歯車
SL、SR :太陽歯車
2L、2R :電動モータ
3L、3R :遊星歯車機構
4 :ハウジング
4a :中央ハウジング
4bL、4bR :側面ハウジング
4cL、4cR :外側壁
5 :アウタロータ
6 :ステータ
6a :ステータコア
6b :コイル部
7 :転がり軸受
8 :軸受嵌合凸部
11 :仕切り壁
13b :出力側小径歯車
14L、14R :出力歯車軸
14a :出力歯車
19a、19b :軸受嵌合穴
20a、20b :転がり軸受
30 :歯車装置
31 :第1結合部材
32 :第2結合部材
33 :キャリヤピン
34a、34b :キャリヤフランジ
35、36 :中空軸部
37 :針状ころ軸受
38 :スラスト板
39a、39b :転がり軸受
41、42 :スプライン
43 :大径部
44 :カラー
45、46 :針状ころ軸受
47、48 :スラスト軸受
49 :深溝玉軸受
50 :給油穴
53a、53b :軸受嵌合穴
54a、54b :転がり軸受
55 :オイルシール
60 :シャーシ
61L、61R :駆動輪
62L、62R :前輪
63 :バッテリ
64 :インバータ
65a、65b :等速ジョイント
65c :中間シャフト
AM :電気自動車
CL、CR :遊星キャリヤ
PL、PR :遊星歯車
RL、RR :内歯車
SL、SR :太陽歯車
Claims (9)
- 車両に搭載され独立して制御可能な二つの駆動源と、左右の駆動輪と、前記二つの駆動源と前記左右の駆動輪との間に設けられ、3要素2自由度の遊星歯車機構を同軸上に二つ組み合わせた歯車装置とを備える車両駆動装置において、前記駆動源がアウターロータを有する電動モータであり、前記遊星歯車機構は、前記電動モータのアウタロータに連結される入力用の内歯車と、前記内歯車と同軸上に設けられた出力用の遊星キャリヤと、前記内歯車と同軸上に設けられた太陽歯車と、公転歯車としての遊星歯車とを有し、前記二つの遊星歯車機構の一方の遊星キャリヤと他方の太陽歯車とを結合する第1結合部材と、一方の太陽歯車と他方の遊星キャリヤとを結合する第2結合部材とを同軸上に配置し、前記遊星歯車機構の遊星キャリヤと駆動輪の出力歯車軸とを連結したことを特徴とする車両駆動装置。
- 前記電動モータのアウタロータの内径面に、前記遊星歯車機構の遊星歯車と係合する内歯車を一体に設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両駆動装置。
- 前記遊星歯車機構の遊星歯車と係合する内歯車を、前記電動モータのアウタロータの内側端部に別体に設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両駆動装置。
- 前記電動モータのアウタロータの内径側に、車両駆動装置を収容するハウジングに対して締結されるステータを配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両駆動装置。
- 前記遊星歯車機構の遊星キャリヤは、遊星歯車を支持するキャリヤピンを介して、車両のインボード側およびアウトボード側にキャリヤフランジを有し、アウトボード側のキャリヤフランジにアウトボード側に延びる中空軸部を設け、この中空軸部の外径を前記電動モータのステータの内側に転がり軸受を介して支持することを特徴とする請求項4に記載の車両駆動装置。
- 前記遊星歯車機構のインボード側のキャリヤフランジにインボード側に延びる軸部を設け、この軸部の外径面に、駆動輪に連結される出力歯車軸の出力歯車としての大径歯車に係合する出力側小径歯車を設けたことを特徴とする請求項4又は5に記載の車両駆動装置。
- 前記車両駆動装置のハウジングが、センタハウジングと左右のサイドハウジングからなる3ピース構成であり、前記センタハウジングの中央部には左右を仕切る仕切り壁が設けられ、前記第1結合部材と前記第2結合部材が前記仕切り壁を貫通していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の車両駆動装置。
- 前記第1結合部材と第2結合部材の内の一方の結合部材が中空軸、他方の結合部材が前記中空軸内部に挿通される軸からなる2重構造であり、前記第1結合部材および前記第2結合部材と、それぞれの結合部材が連結する遊星キャリヤとの連結がスプライン嵌合であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車両駆動装置。
- 前記第1および第2結合部材の内、内径側の結合部材の内径に給油穴を設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の車両駆動装置。
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