JP2017141410A - 繊維状タンパク質スラリー及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
通常、上記フィブロインは、蚕繭から得られる繭糸を精練し、該繭糸からセリシンを取り除くことで得られ、さらに複数本を撚り合わせたものが、所謂シルク(絹糸)として一般的な繊維製品に利用されている。
しかし、上記フィブロインは、繭糸や絹糸等のような糸の形態のままで化粧品や食料品や医薬品などの用途に利用することは難しい。そこで、該フィブロインは、粉体にしたり、あるいは水溶液等の液体に溶液化したり、分散液等の懸濁体にしたりなどのように、用途に応じた形態に加工して利用される。特に溶液化したフィブロインは、例えば水性基剤に混ぜやすい、水溶液を原料とすることで粉体や膜体や多孔質体等を調製することができる、糸として再生することが可能である等のように使い勝手が良く、適用可能な物品が多いため、好適に利用されている。
一方、繊維状タンパク質であるフィブロインを粉体(パウダー)にする場合には、蚕繭等を精練によりセリシンを取り除いた後、物理的に粉砕、つまりは物理的操作を伴う解繊処理(物理的解繊処理)を要する。
上記物理的解繊処理にあっては、パウダーを得ることそのものが目的であって、得られたパウダーを更に加工することについては提案されていない。また上記化学的解繊処理にあっては、上記塩水溶液に高濃度のものを用いなければならず、多量の塩を含む溶液を透析し、脱塩する作業は、非常に煩雑で手間を要するものになるという問題があった。
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、容易な操作で得ることが可能な繊維状タンパク質スラリー及びその製造方法を提供することにある。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法の発明において、上記繊維状タンパク質は、フィブロインであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法の発明において、更に、水和助剤が添加されることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法の発明において、上記水和助剤として、界面活性剤を使用することを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のうち何れか一項に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法の発明において、上記湿式粉砕処理では、繊維状タンパク質の平均粒子径が10μm以下になるまで、繊維状タンパク質を含有する組成物を物理的に解繊することを要旨とする。
請求項6に記載の繊維状タンパク質スラリーの発明は、部分的に水和状態となっている繊維状タンパク質が分散媒中に分散して為ることを要旨とする。
本発明の製造方法は、繊維状タンパク質を含有する組成物を湿式粉砕処理で物理的に解繊することを特徴とする。すなわち、繊維状タンパク質は、そのままでは水に溶けないが、湿式粉砕処理で物理的に解繊することで、部分的に水和状態となって、分散媒中に均一に分散するようになる。よって、繊維状タンパク質を含有する組成物を湿式粉砕処理で物理的に解繊するという容易な操作で繊維状タンパク質スラリーを得ることができる。
また、繊維状タンパク質がフィブロインである場合、従来は煩雑な操作によって得ていたフィブロイン溶液に代わり、種々の用途への利用が期待できるフィブロインスラリーを得ることができる。
また、界面活性剤等からなる水和助剤を併用することにより、上記繊維状タンパク質の水和を促進させつつ、再度の凝集を抑制し、部分的水和状態を好適に保つことができる。
また、繊維状タンパク質は、平均粒子径が10μm以下になるまで物理的に解繊することにより、好適に部分的水和(部分溶解)状態となるので、上記繊維状タンパク質スラリーを良好に得ることができる。
[効果]
本発明によれば、様々な用途に利用可能な繊維状タンパク質スラリーを容易な操作で得ることができる。
[繊維状タンパク質スラリー]
本発明の繊維状タンパク質スラリーは、部分的に水和状態となっている繊維状タンパク質が分散媒中に分散して為るものである。
上記繊維状タンパク質は、シルク、ウール、天蚕糸、モヘヤ、カシミア、アンゴラ等といった動物繊維の材料となるタンパク質であって、具体的に、フィブロイン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン等が挙げられる。こうした繊維状タンパク質の中でも特にフィブロインは、一般的な繊維製品に利用されており、また、食料品や化粧品や医薬品、更には医療品でも利用されており、様々な製品に利用可能であるから、本発明の繊維状タンパク質として好ましい。
上記繊維状タンパク質スラリーに使用する分散媒としては、親水性を有するものであれば何れを用いてもよいが、食品や化粧品や医薬品に利用する場合に人体に対して無害であるという観点から、主として水が用いられる。分散媒として水の他に、エチルアルコールやメチルアルコールやプロパノール等のアルコール類、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランなどの極性溶媒を用いてもよい。
上記界面活性剤としては、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸等を有する陰イオン界面活性剤、親水基としてテトラアルキルアンモニウム等を有する陽イオン界面活性剤、分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両方を持つ両性界面活性剤、イオン化しない親水性部分を持つ非イオン界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、人体に対する有害性が尚低いという観点から、界面活性剤には非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。更にまた、非イオン界面活性剤として、脂肪酸エステル類等のエステル型、ポリオキシエチレン類等のエーテル型、ポリエチレンオキシド(PEO)やポリエチレングリコール(PEG)等のエステル・エーテル型のものが挙げられるが、分散剤として優れているという観点から、エステル・エーテル型の非イオン界面活性剤がより好ましい。
上記水和助剤の添加量は、上記繊維状タンパク質の部分的な水和状態を安定させるとともに、取り扱いを好適なものにするという観点から、該繊維状タンパク質100gに対して、好ましくは0.01〜100gであり、より好ましくは0.1〜50gである。
上記繊維状タンパク質スラリーは、液状のまま、あるいは乾燥し粉末にして添加したり、ナノファイバー材料やナノポーラス材料の繊維材料に再生したり、バインダーと混合して塗布したり等のように、種々の用途で利用可能である。
本発明の繊維状タンパク質スラリーは、繊維状タンパク質を含有する組成物を、湿式粉砕処理で物理的に解繊して製造される。
上記組成物は、上記繊維状タンパク質を含むものであれば特に限定されず、具体例として、衣服、毛織物、毛編物等の繊維製品の他、繊維状タンパク質を含む食料品や化粧品や医薬品などといった製品、あるいは、フィブロイン溶液等のような溶液、あるいは、該溶液の乾燥、該製品や蚕繭等の粉砕により得られた粉末などが挙げられる。
上記湿式粉砕処理は、繊維状タンパク質を含有する組成物を液体である分散媒中に分散させたうえで、該分散媒中で該組成物を粒状に粉砕して物理的に解繊する処理である。該湿式粉砕処理の具体例としては、湿式ボールミル、湿式ビーズミル、湿式ジェットミルなどが挙げられる。これらの中でも湿式ジェットミルは、粒状物質を非常に細かな粒径になるまで粉砕することが可能であり、ビーズやボールから発生する不純物の混入(コンタミネーション)が無く、本発明の湿式粉砕処理として好ましい。また、湿式ジェットミルは、液体に圧力を掛けることで高圧水流を発生させ、該高圧水流を利用して粉砕を行うものであり、該高圧水流を壁やボール等に衝突させる方式、高圧水流に変化をつけて内部にキャビテーションを起こす方式、高圧水流を2つ以上に分流して互いの高圧水流を衝突させる方式のものがある。これらの方式の中でも特に2つ以上の高圧水流を衝突させる方式のものは、上記分散媒の上記繊維状タンパク質への浸透性を高めることができるとともに、塵や埃等の異物が入りにくく、該異物による汚染(コンタミネーション)が生じにくいため、本発明の湿式粉砕処理としてより好ましい。
上記湿式粉砕処理では、繊維状タンパク質を含有する組成物を、繊維状タンパク質が部分的に水和状態になるまで、物理的に解繊する。該繊維状タンパク質が部分的に水和状態になる目安としては、繊維状タンパク質の平均粒径を10μm以下とすることが好ましく、8μm以下とすることがより好ましく、長径5μm以下で短径1μm以下とすることがさらに好ましい。また通常、物理的解繊による繊維状タンパク質へのダメージを軽減するという観点から、上記湿式粉砕処理では、繊維状タンパク質の平均粒径を0.01μm以上とすることが好ましい。
前記平均粒径を超える粒子が多数を占める場合、繊維状タンパク質の粒子の表面が部分的水和状態になっても、粒子が大きすぎてスラリーが分散媒から分離してしまう可能性が高くなるので、安定性、取り扱い性が悪くなるおそれがある。
まず、湿式粉砕処理の前処理工程として、湿式ボールミル装置や湿式ビーズミル装置を使用し、繊維状タンパク質を含有する組成物を、所定程度以下の粒径になるまで粗く粉砕する。この前処理工程では、湿式粉砕処理のしやすさを考慮して、該組成物の粒径を20μm以下にすることが好ましい。その後、分散媒として水(純水)を使用し、該水中に粗く粉砕した該組成物を投入して、分散させる。なお、この前処理工程では、組成物中の繊維状タンパク質は、該水に溶けておらず、いわば懸濁状態となっており、静置すれば時間の経過によって水中で沈殿する。
次に、湿式粉砕処理工程では、湿式ジェットミル装置を使用し、繊維状タンパク質が部分的に水和状態となるまで、上記水中に分散された上記組成物を微細な粒子に粉砕する。湿式ジェットミル装置を使用する場合には、作業効率を考慮して、複数段階に分けて湿式粉砕処理を行うとともに、段階が進むに従って高圧となるように、各段階で適宜高圧水流の圧力を変更することが好ましい。そして、部分的に水和状態となった繊維状タンパク質が、水に部分溶解して水中に均一に分散されることにより、繊維状タンパク質スラリーが得られる。なお、湿式ジェットミル装置を使用する場合、作業性等と粉砕処理によるフィブロインへのダメージを考慮し、高圧水流の圧力は所望に応じて250MPa以下に調整することが好ましく、5〜100MPaに調整することがより好ましく、またパス回数は必要に応じて適宜設定することが好ましい。
また、上記水和助剤を添加する場合、該水和助剤は、前処理工程の前、前処理工程中、前処理工程の後(湿式粉砕処理工程の前)、湿式粉砕処理工程中、又は湿式粉砕処理工程の後の何れで添加してもよいが、湿式粉砕処理中における繊維状タンパク質の再凝集を抑制するという観点から、前処理工程の前から湿式粉砕処理工程中までの何れかで添加することが好ましい。
例えば、フィブロインの場合、蛋白質分子のペプチド結合による主鎖に対し、ヒドロキシメチル基等の親水基は、片側にだけ櫛型に結合している。また、フィブロインは、その親水基によって分子間で水素結合を形成し、凝集する性質を有している。このため、通常、フィブロインの蛋白質分子は、アルキル基等の疎水基を外側に向けて凝集しており、その結果、繊維状タンパク質であるフィブロインは、水等の極性溶媒に対して不溶となる。
一方、上記フィブロインを物理的に解繊するとは、つまり蛋白質分子間の水素結合を切断して該フィブロインを細かく砕いているのであり、該フィブロインが細かな粒子となる何れかの時点で、砕かれた際に発生した破断面に親水基が露出する。通常であれば、破断面に露出した親水基は速やかに他の分子との間に水素結合を形成し、フィブロインは再び凝集してしまう。しかし、湿式粉砕処理の場合、蛋白質の内側に水(極性溶媒)が浸透し、該水(極性溶媒)が分子間に浸入して水素結合を切断するとともに、該水(極性溶媒)の分子が親水基と一時的に水素結合を形成してフィブロインの再凝集を阻害することで、フィブロインの部分的な水和(部分溶解)が発生すると考える。
なお、電子顕微鏡等を使用することで、フィブロインが部分的に水和状態となって部分溶解していることは確認できるが、湿式粉砕処理時の高圧水流による水素結合の切断と、該切断による破断面の親水基及び水分子の水素結合の形成とについては、本発明の完成時点で確認の手段がない。
〔試料の調製〕
原料にフィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「シルクパウダーCN」)を用い、該フィブロイン粉末10gを、分散媒である100cm3の水中に投入し、水和助剤としてポリエチレンオキシド(PEO)(シグマアルドリッチ社製、分子量:900,000)を水に対し1wt%の添加量で添加して、フィブロイン粉末の懸濁液を得た。
次に、上記懸濁液を、湿式ジェットミル装置(常光社製、型式名:ナノジェットパルJN20)を用い、高圧水流の圧力を第1段階で7MPa、第2段階で38MPa、第3段階で88MPa、パス回数を各段階で3回ずつとして、3段階に分けて湿式粉砕処理を施し、懸濁液中のフィブロイン粉末を物理的に解繊し、繊維状タンパク質スラリーを得た。
電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、型色名:SU1510)を用い、原料のフィブロイン粉末と、上記湿式ジェットミル装置を用いた湿式粉砕処理の第1段階後、第2段階後、及び第3段階後のフィブロインの状態を観察した。
なお、観察には、それぞれの段階にある懸濁液又は繊維状タンパク質スラリーを一部採取し、10倍希釈した後、アルミホイル上にキャストして乾燥したものを使用した。
原料のフィブロイン粉末のSEM写真を図1、湿式粉砕処理の第1段階後のSEM写真を図2、湿式粉砕処理の第2段階後のSEM写真を図3、湿式粉砕処理の第3段階後のSEM写真を図4に示す。
図1に示したように、原料のフィブロイン粉末は、輪郭の形状が明確であり、全く水和していないことが判る。
図2に示したように、湿式粉砕処理の第1段階後のフィブロインは、原料に比べて表面の凹凸が若干無くなっていることが判る。
図3に示したように、湿式粉砕処理の第2段階後のフィブロインは、第1段階後のものに比べて小径化しており、さらに表面が滑らかになっていることが判る。
図4に示したように、湿式粉砕処理の第3段階後のフィブロインは、図中に丸で囲った部分のように粒子の形状は残っているものの、粒子表面が完全に水和しており、周囲の粒子同士が相互に混ざり合うことで癒着していることが判る。なお、図中に丸で囲った部分の粒子は、長径4μm、短径1μm程度の大きさであった。このように、粒子表面が完全に水和したフィブロインの粒径を電子顕微鏡で複数測定した結果から、フィブロインが部分的に水和状態になる目安を平均粒径で10μm以下とした。
また、湿式粉砕処理前の懸濁液、湿式粉砕処理の第1段階後の懸濁液、第2段階後の懸濁液、及び第3段階後の繊維状タンパク質スラリーをそれぞれ、1000mm3ずつビーカーに採取し、12時間静置した後、その状態を目視により観察した。
その結果、湿式粉砕処理前の懸濁液、湿式粉砕処理の第1段階後の懸濁液、及び第2段階後の懸濁液については、全てのフィブロイン粉末が沈殿し、水と完全に分離した。湿式粉砕処理の第3段階後の繊維状タンパク質スラリーについては、沈殿が生じず、液全体がコロイド状のまま維持されていた。よって、湿式粉砕処理後の繊維状タンパク質は、部分的に水和状態となり、水に部分溶解していることが示された。
Claims (6)
- 繊維状タンパク質を含有する組成物を湿式粉砕処理で物理的に解繊して得られることを特徴とする繊維状タンパク質スラリーの製造方法。
- 上記繊維状タンパク質は、フィブロインである請求項1に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法。
- 更に、水和助剤が添加される請求項1又は請求項2に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法。
- 上記水和助剤として、界面活性剤を使用する請求項3に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法。
- 上記湿式粉砕処理では、繊維状タンパク質の平均粒子径が10μm以下になるまで、繊維状タンパク質を含有する組成物を物理的に解繊する請求項1から請求項4のうち何れか一項に記載の繊維状タンパク質スラリーの製造方法。
- 部分的に水和状態となっている繊維状タンパク質が分散媒中に分散して為ることを特徴とする繊維状タンパク質スラリー。
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