JP2017129222A - 金属フレキシブルチューブ及びこれを使用した金属フレキシブルホース - Google Patents

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嘉弘 新谷
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Abstract

【課題】 高サイクル疲労による疲労破壊を起こしにくい疲労設計が施された金属フレキシブルチューブ及びこれを使用した金属フレキシブルホースを提供すること。【解決手段】 金属フレキシブルチューブの中心軸を含む面で切断したときの断面形状のうち谷部曲率半径(R1)を山部曲率半径(R2)よりも大きくする。好ましい実施の形態において、谷部曲率半径(R1)が前記山部曲率半径(R2)の1.20倍以上、1.60倍以下である。【選択図】 図1

Description

この発明は、ガス、水その他の流体の輸送に用いられる金属製のフレキシブルチューブに関する。
都市ガス、液化天然ガス及び水道水などの流体を輸送するための屋内配管として、従来は鋼管やゴムホースなどが用いられていた。近年、より安全で施工性に優れた屋内配管として、ステンレス鋼でなるフレキシブルチューブを原管とし、これに被覆を施したフレキシブルホースの導入が進められている。固定形ガス燃焼器具とガス栓との接続に使用されるガス用金属フレキシブルホースについては、例えば、日本工業規格 JIS S 2145(非特許文献1)など、に規格が定められている。また、屋内配管工法に使用されるガス用ステンレス鋼フレキシブル管については、例えば、業界団体によるガス用ステンレス鋼フレキシブル管標準仕様書(非特許文献2)など、に標準仕様が定められている。
ステンレス鋼でなる金属フレキシブルチューブ(原管)を製造するには、先ず、鋼帯を冷間で円筒状に成形し、合せ部をTIG溶接等で接合して円筒管となす。次に、円筒管に波付け加工を行う。波付け加工によって円筒管の形状が波形に成形されることにより軸に平行な方向への伸縮が可能となり、可撓性(フレキシビリティ)が付与される。さらに、必要に応じて、加工によって発生したひずみを除去する目的で熱処理を行う場合がある。
金属フレキシブルチューブに求められる機械的強度の仕様を満足するには、金属フレキシブルチューブの波形の形状を適切に設計する必要がある。非特許文献2によれば、フレキシブルチューブの形状を表す代表的なパラメータには、鋼帯厚さ(t)、外径(do)、内径(di)、ピッチ(P)、谷部曲率半径(R1)、山部曲率半径(R2)及び山高さ(h)など、がある。非特許文献2の表5によれば、全てのサイズのフレキシブルチューブ(フレキシブル管の原管)において、谷部曲率半径(R1)は山部曲率半径(R2)よりも小さな値となるように設計されている。
特許文献1には、波形のピッチ(P)を著しく増加することなく山高さ(h)をより高くすることによって可撓性が高くなることや、山部の曲率をより小さく(曲率半径をより大きく)することにより、この領域の応力上昇が低減することなど、が記載されている。これらの設計指針に基づき、既知の設計に比べて長い疲労寿命を有する可撓性管状装置の形状として、曲率が谷部よりも山部において小さく(谷部曲率半径よりも山部曲率半径が大きく)、曲率が符号を変える位置を谷部の方にシフトさせ、谷部が狭く、山部がより広く滑らかである形状を有する可撓性管状装置の発明が開示されている。
特許文献2には、自動車のエンジンとラジエータとを接続する用途に適した薄肉金属製フレキシブルチューブとして、エンジン又はラジエータに近い曲げ部には山高さ(h)の低い曲げ加工用フレキシブル加工部を、中間の直線部には振動吸収性の良い山高さ(h)の高いフレキシブル加工部をそれぞれ設けた薄肉金属製フレキシブルチューブの考案が開示されている。特許文献2に記載された振動吸収性の良い山高さ(h)の高いフレキシブル加工部の拡大断面図において、谷部曲率半径と山部曲率半径は等しくなっている。
特許文献3には、最内層に輸送流体の透過バリア層としての金属蛇腹管を有し、その外周側に複数の保護層を有する、繰返し屈曲変形に対する耐久性を高めた金属蛇腹管複合ホースの発明が記載されている。この発明では、予備加圧処理の前において金属蛇腹管の山部曲率半径を谷部曲率半径に対して小となしておき、実使用時にかかる内圧よりも高い内圧で予備加圧処理を行うことにより金属蛇腹管を塑性変形させ、予備加圧処理を加えた後の最終形状における山部曲率半径と谷部曲率半径とが近いものとなっている。
特表2006−506593号公報 実開昭63−57882号公報 特開2006−64148号公報
経済産業省日本工業標準調査会編、「日本工業規格 JIS S 2145 ガス用金属フレキシブルホース」、財団法人日本規格協会、平成3年6月15日 社団法人日本ガス協会編、「ガス用ステンレス鋼フレキシブル管(フレキ管)標準仕様書」、第3版、社団法人日本ガス協会、平成18年12月 幡中憲治、「金属材料の繰返し応力−ひずみ特性と低サイクル疲労寿命」、日本機械学会論文集(A編)、昭和59年5月、第50巻、第453号、p.831−838
近年、消費者のさまざまなニーズに応えるために多種多様なガス器具が開発され、製品化されている。その中には、例えば、ガスファンヒータ、ガス衣類乾燥機、コジェネレーションシステムなど、のように、従来のガス機器にはなかった回転駆動部を有し、運転の際に機械的な振動が発生するものも少なくない。これらのガス器具とガス栓との接続にフレキシブルホースを使用する場合、ガス器具から伝わる振動により金属フレキシブルチューブに繰り返し応力が加わることになるため、金属フレキシブルチューブの疲労破壊に対する特別な配慮が必要となる。
疲労破壊は、静的破壊よりも小さい応力でも起こることが知られている。疲労は、応力の大きさと応力を加える繰り返し数とによって、低サイクル疲労と高サイクル疲労の2つに分類することができる。低サイクル疲労は、塑性疲労とも呼ばれ、機械構造物に降伏点を超える大きな応力を10の4乗回以下の繰り返し数だけ作用させたときの疲労をいう。これに対し、高サイクル疲労は、弾性疲労とも呼ばれ、降伏点を越えない小さな応力を10の5乗回以上の繰り返し数だけ作用させたときの疲労をいう。
非特許文献1に規定されているガス用金属フレキシブルホースは、固定型ガス燃焼器具(湯沸器、レンジなど設置後移動しないガス燃焼機器)とガス栓とを接続するために用いることが想定されており、規格の制定にあたり、その性能として耐振動性を必要とする根拠が認められなかった。このため、この規格において、耐振動性に関する仕様及び試験方法等については何も規定されていない。
また、非特許文献2に規定されているガス用ステンレス鋼フレキシブル管は、屋内配管として家屋の床下や壁面などに固定して使用されることを想定しており、標準仕様の制定にあたり、その性能として高サイクル疲労に対する疲労設計までは要求されていなかった。このため、この標準仕様では振動試験の試験条件として、長さが400mmの原管に対して最大振幅が±4mm、振動数が毎分500回、繰り返し数が1万回(10の4乗回)など、と規定されている。
さらに、発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されている谷部曲率半径よりも山部曲率半径が大きい金属フレキシブルチューブや、特許文献2及び特許文献3に記載されている谷部曲率半径と山部曲率半径が等しい金属フレキシブルチューブでは、高サイクル疲労に対する耐久性は必ずしも高くないことが分かった。
本発明は、上記の新たな需要に応えるためになされたものであり、高サイクル疲労による疲労破壊を起こしにくい強度設計が施された金属フレキシブルチューブの提供を目的としている。
本発明に係る金属フレキシブルチューブは、中心軸を含む面で切断したときの断面形状において、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも大きい。金属フレキシブルチューブの断面形状をこのように設計することにより、従来の形状に比べて金属フレキシブルチューブに加わるひずみの最大値を低下させることができる。
本発明に係る金属フレキシブルチューブの好ましい実施の形態において、谷部曲率半径(R1)が前記山部曲率半径(R2)の1.20倍以上、1.60倍以下である。金属フレキシブルチューブの波形の形状をこのように設計することにより、金属フレキシブルチューブに加わるひずみの最大値を疲労限界未満に抑制することができる。
本発明に係る金属フレキシブルホースは、本発明に係る金属フレキシブルチューブに被覆が施されたものである。
本発明によれば、高サイクル疲労による疲労破壊を起こしにくい金属フレキシブルチューブを実現することができる。また、本発明によれば、従来の製品よりも耐疲労性に優れた金属フレキシブルホースを提供し、ユーザーの需要に応えることができる。
本発明に係る金属フレキシブルチューブの断面形状及び各部の名称を示す図である。 亀裂の発生又は破断までの繰り返し数とひずみ振幅の最大値との関係を示すグラフである。 従来技術に係る金属フレキシブルチューブの断面形状及び各部の名称を示す図である。 山高さ×2/外径/ピッチの値とひずみ振幅の最大値との関係を示すグラフである。
本発明を実施するための形態につき、以下に図及び表を参照しながら詳細に説明する。なお、ここに記載する実施の形態はあくまで例示に過ぎず、本発明の実施の形態はここに記載された形態に限定されない。
図1は、本発明に係る金属フレキシブルチューブを中心軸を含む面で切断したときの断面形状の例及び各部の名称を示す図である。図1の上側は金属フレキシブルチューブの外径側、下側はその内径側をそれぞれ示す。この断面形状において、原管を構成する鋼板の厚さを鋼板厚さ(t)、山部の外面側の直径を外径(do)、谷部の内面側の直径を内径(di)という。谷部の谷底の外面側から測った山の頂の外面側の高さを山高さ(h)という。谷部の外面側の曲率半径を谷部曲率半径(R1)、山部の外面側の曲率半径を山部曲率半径(R2)という。曲率半径は曲率の逆数である。
本発明に係る金属フレキシブルチューブは、中心軸を含む面で切断したときの断面形状において、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも大きい。発明者らの検討によれば、従来技術に係る金属フレキシブルチューブの高サイクル疲労試験を実施すると、亀裂が発生する位置はほとんどの場合谷部の中央であった。金属フレキシブルチューブの谷部曲率半径(R1)を山部曲率半径(R2)よりも大きく構成することにより、谷部における応力集中が緩和され、高サイクル疲労による疲労破壊を起こしにくくすることができる。
本発明に係る金属フレキシブルチューブは、長さ方向の全ての位置において谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも大きい。断面形状をこのように構成することで、例えば、特許文献2に記載のフレキシブルチューブなど、のように位置によって波形の形状を変更する場合に比べて、製造工程がより単純となり、長さ方向のどの位置で応力集中が起こっても疲労破壊を起こしにくくすることができる。
谷部曲率半径(R1)及び山部曲率半径(R2)は、それぞれ谷部又は山部の全体における曲率半径をいう。ただし、断面形状において曲率半径が谷部又は山部における位置により変化する場合は、谷部又は山部の全体における曲率半径の平均値をもって谷部曲率半径(R1)及び山部曲率半径(R2)とみなしてもよいし、谷底の位置における曲率半径及び山の頂の位置における曲率半径をもって谷部曲率半径(R1)及び山部曲率半径(R2)とみなしてもよい。
谷部曲率半径(R1)及び山部曲率半径(R2)は、金属フレキシブルチューブの中心軸を通る面で切断したときの断面形状に基づいて画像解析等の公知の方法により求めることができる。断面形状は、特許文献1に記載されている光学測定技術を用いたり、原管を切断した切断面の形状を計測したりして求めることができる。
谷部と山部の境界は、金属フレキシブルチューブの中心軸の方向に対して90度以下の傾斜角を有する面で構成してもよいし、また、例えば図1に示すように、90度を超える傾斜角を有する面で構成してもよい。鋼板厚さ(t)を無視すれば、前者の場合は、谷部曲率半径(R1)及び山部曲率半径(R2)の和の2倍がピッチ(P)よりも小さくなり、後者の場合は、谷部曲率半径(R1)及び山部曲率半径(R2)の和の2倍がピッチ(P)よりも大きくなる。
本発明の好ましい実施の形態において、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)の1.20倍以上、1.60倍以下である。谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも単に大きいだけでなく、このような比率の関係にあるときは、振動の振幅が例えば±5mmを越えないときの金属フレキシブルチューブに加わるひずみ振幅の最大値を疲労限界未満に抑制することができる。
谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)の1.20倍未満のときは、谷部でのひずみの集中が十分に緩和されず好ましくない。また、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)の1.60倍を超えるときは、相対的に山部曲率半径(R2)を極端に小さくせざるを得ず、山部の塑性加工が困難になるので好ましくない。谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)の1.30倍以上、1.50倍以下であれば、より好ましい。
本発明の好ましい実施の形態において、外径(do)の全長に占める山高さ(h)の部分の割合(2h/do)に、中心軸に平行な方向の長さ1mmあたりの山部の数(1/P)を掛けた値(2h/do/P)が0.085以上である。金属フレキシブルチューブに振動を加えたときのひずみ振幅の最大値は、外径(do)の全長に占める山高さ(h)の部分の割合(2h/do)が大きいほど、また、中心軸に平行な方向の長さ1mmあたりの山部の数(1/P)が多いほど、減少する傾向にある。これらの値の積(2h/do/P)とひずみ振幅の最大値との間には顕著な負の相関が認められる。したがって、2h/do/Pの値は、金属フレキシブルチューブの断面形状を設計する際のパラメータとして使用することができる。
2h/do/Pの値が0.085未満のときは、振動の振幅が例えば±10mmのときの金属フレキシブルチューブに加わるひずみ振幅の最大値が疲労限界を超える場合がある。したがって、2h/do/Pの値は0.085以上であることが好ましい。より好ましい2h/do/Pの値は0.090以上である。2h/do/Pの値の好ましい上限値は特に限定しないが、後述するようにピッチ(P)の長さには下限があるため、2h/do/Pの値は0.150以下であることが好ましい。
本発明の好ましい実施の形態において、鋼帯厚さ(t)が0.30mm以下である。本発明において鋼帯厚さ(t)とは、金属フレキシブルチューブを製造する際に冷間で円筒状に成形する前の状態における鋼帯の厚さをいう。鋼帯は、その後の波付け加工の際の塑性変形によって厚さが若干薄くなる場合がある。それでも、本発明の構成によれば谷部でのひずみの集中を緩和することができるので、鋼帯厚さ(t)が0.30mm以下であれば高サイクル疲労に耐える軽量な金属フレキシブルチューブを実現することができる。鋼帯厚さ(t)のより好ましい範囲は0.25mm以下である。さらに好ましい範囲は0.20mm以下である。鋼帯厚さ(t)が0.10mm未満になると鋼帯自体の強度を維持することが困難になるので、鋼帯厚さ(t)は0.10mm以上であることが好ましい。
ピッチ(P)は、3.0mm未満だと波付加工が困難になるので好ましくない。ピッチ(P)が4.0mmを超えると山高さ(h)を大きくする必要が生じ、有効断面積が小さくなるので好ましくない。よって、ピッチ(P)の好ましい範囲は3.0mm以上、4.0mm以下である。
本発明に係る金属フレキシブルチューブの内径(di)の好ましい範囲は特に限定しないが、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載されているガス用金属フレキシブルチューブの場合は、8.9mm以上、32mm以下の任意の値に設計することができる。用途によっては100mmを超える大口径であってもよい。
本発明の好ましい実施の形態において、断面形状は、谷部においては谷底の位置を通り金属フレキシブルチューブの中心軸に垂直な線に対して左右対称であり、山部においては山の頂の位置を通り金属フレキシブルチューブの中心軸に垂直な線に対して左右対称である。波形の断面形状を左右対称に構成することにより、ひずみの集中が緩和され、高サイクル疲労による疲労破壊のリスクをさらに低減することができる。この場合において、波形の断面形状は幾何学的に完全な左右対称とする必要はなく、製造工程上不可避的に導入される形状の誤差は許容される。
本発明に係る金属フレキシブルホースは、本発明に係る金属フレキシブルチューブに被覆が施されたものである。被覆の材料には、例えば軟質ポリ塩化ビニルなどの公知の樹脂材料を用いることができる。これらの被覆は十分な可撓性を有するので、被覆が施された金属フレキシブルホースにおいても、原管である金属フレキシブルチューブと同様に本発明の目的を達することができる。
本発明の係る金属フレキシブルチューブの波形は、個々の山と谷が独立した「アニュラー形」と、山と谷がらせん状に連続している「スパイラル形」とのいずれであってもよい。波付け加工の方法には、例えば、円筒管の外周面の谷部となる箇所に波形のダイスを押し当てる方法や、円筒管の中に入れたゴムを圧縮することで内周面の山部となる箇所を膨らませる方法(ゴムバルジ法)など、公知の方法のいずれかを採用することができる。また、これらの方法を併用してもよい。
本発明に係る金属フレキシブルチューブ及びこれを使用した金属フレキシブルホースはあらゆる流体に使用することができる。具体的には、都市ガス及び液化石油ガスなどのガスや、水道水及び温水などの液体に使用することができる。また、屋内、屋外を問わずあらゆる場所に施工することができる。
(参考例)
鋼帯厚さ(t)が0.25mm、外径(do)が19.0mm、内径(di)が13.4mm、ピッチ(P)が3.0mm、谷部曲率半径(R1)が0.5mm、山部曲率半径(R2)が0.8mm、山高さ(h)が2.8mm、長さ(L)が144mmのステンレス鋼(日本工業規格(JIS)に定めるSUS304)でなる金属フレキシブルチューブを5本作製した。この金属フレキシブルチューブの一端を固定し、他端を中心軸に直角の方向に揺動可能な試験装置に取り付け、金属フレキシブルチューブの内部に圧縮空気を封入した。試験装置の最大振幅を±5mm、±10mm、±15mm、±20mm又は±25mmに設定し、金属フレキシブルチューブに振動数毎分600回で両振りひずみを加えた。金属フレキシブルチューブに亀裂が発生し、圧縮空気が外部に漏れるまでの繰り返し数を表1に示す。なお、いずれの試験においても、亀裂が発生した位置は固定端又は移動端に近い谷部の中央であった。
次に、有限要素法を用いて、上記の試験における最大振幅を加えたときの金属フレキシブルチューブの各位置に発生するひずみ振幅を計算した。ここでいう「ひずみ」とは、弾性ひずみと塑性ひずみの和である全ひずみをいう。計算には、SIMULIA社製(「SIMULIA」は登録商標)の汎用有限要素法解析ソフトAbaqusを使用し、ステンレス鋼の物性値(ヤング率、ポワソン比、降伏応力及び最大引張強度)の文献値を入力して行った。計算の結果得られた金属フレキシブルチューブの各位置におけるひずみ振幅の計算値のうちの最大値を表1に示す。なお、いずれの計算においても、ひずみ振幅の最大値が示された位置は金属フレキシブルチューブの固定端又は移動端に近い谷部の中央であった。
次に、非特許文献3に示されたステンレス鋼を含む9種類の鋼材についてのε−N曲線(全ひずみεと破断までの繰り返し数Nとの関係を示す曲線。)を参照して、表1に示されたひずみ振幅を加えた時のステンレス鋼が破断するまでの繰り返し数の推定値を求めた。推定された破断までの繰り返し数を表1に示す。また、ひずみ振幅の最大値を縦軸に、亀裂発生までの繰り返し数(実験値)及び破断するまでの繰り返し数(推定値)を横軸にして表1の数値をそれぞれプロットした両対数グラフを図2に示す。図2のグラフから、同一のひずみ振幅に対応する推定された破断までの繰り返し数は実際の亀裂発生までの繰り返し数よりも大きくなる傾向があるが、ひずみ振幅の変化に対するそれぞれの繰り返し数の変化の傾向はよく一致していることが分かる。これらの結果から、有限要素法によって求められるひずみ振幅の最大値を用いた金属フレキシブルチューブの寿命予測には、相当の信頼性があると考えられる。
(実施例)
ステンレス鋼帯を用いた金属フレキシブルチューブの断面形状として、表2の実施例1乃至実施例3に示す形状を設計した。図1に、設計した実施例1に係る金属フレキシブルチューブの断面形状を示す。いずれの形状も、個々の山と谷が独立したアニュラー形であり、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも大きい形状となっている。また、実施例1乃至実施例3の断面形状において、R1/R2の値はいずれも1.20以上、2h/do/Pの値はいずれも0.085以上となっている。
参考例と同様の方法により、実施例1乃至実施例3の形状について最大振幅が±5mm又は±10mmのときの金属フレキシブルチューブに発生するひずみ振幅の最大値を計算した結果を表3に示す。最大振幅が±5mmのときのひずみ振幅の最大歪はいずれもステンレス鋼の疲労限界である3.0×10−3よりも小さかった。また、最大振幅が±10mmのときのひずみ振幅の最大値は、実施例1及び実施例2についてはステンレス鋼の疲労限界を超えていたが、実施例3については疲労限界よりも小さかった。
次に、表4に示す実施例3の形状を有するステンレス鋼(SUS304)でなる長さが250mmの金属フレキシブルチューブを6本作製し、そのうちの3本について参考例と同様の方法により最大振幅が±10mmの振動試験を行った。試験の結果、表5に示すように、繰り返し数が130万回を超えても亀裂は発生しなかった。また、残りの3本について振動試験の振動が中心軸に直角な片側方向にのみ振動させる片振り振動で、その最大幅が50mmの強い振動を加えたときも、亀裂発生までの繰り返し数はおよそ1万回から3万回程度であった。
(比較例)
表2の比較例1乃至比較例3に、従来技術に係る金属フレキシブルチューブの形状を示す。図3に、比較例1の断面の形状を示す。いずれの形状も、山と谷がらせん状に連続しているスパイラル形であり、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも小さい形状となっている。また、比較例1乃至比較例3の断面形状において、R1/R2の値はいずれも1.20未満、2h/do/Pの値は比較例2及び比較例3についていずれも0.085未満、比較例1について0.089となっている。参考例と同様の方法により、比較例1乃至比較例3の形状について最大振幅が±5mm又は±10mmのときの金属フレキシブルチューブに発生する最大歪ひずみ振幅の最大値を計算した結果を表3に示す。ひずみ振幅の最大値の計算値はいずれも実施例の場合に比べて大きかった。
次に、表4に示す比較例4の形状(比較例1の形状と同一である)を有するステンレス鋼(SUS304)でなる長さが250mmの従来技術に係る金属フレキシブルチューブを6本作製し、そのうちの3本について参考例と同様の方法により最大振幅が±10mmの振動試験を行った。試験の結果、表5に示すように、繰り返し数がおよそ7千回から1万4千回程度で亀裂が発生した。また、残りの3本について振動試験の振動が片振り振動で、その最大幅が50mmの強い振動を加えた場合、亀裂発生までの繰り返し数はおよそ400回から560回程度であった。
以上の結果から、本発明に係る金属フレキシブルチューブにおいては、その形状に基づいて計算されるひずみ振幅の最大値が比較例に比べて小さく、また、振動試験における亀裂発生までの繰り返し数も比較例に比べて格段に大きくなることから、高サイクル疲労による疲労破壊を起こしにくいことが確認できた。
(2h/do/Pの値とひずみ振幅の最大値との関係)
上記の参考例に倣って、ステンレス鋼でなる金属フレキシブルチューブの鋼板厚さ(t)、外径(do)、内径(di)、ピッチ(P)、谷部曲率半径(R1)、山部曲率半径(R2)及び山高さ(h)をさまざまに変化させたときのひずみ振幅の最大値を有限要素を用いて計算した。谷部曲率半径(R1)は山部曲率半径(R2)よりも常に大きいものとし、金属フレキシブルチューブに与えられる最大振幅は±10mmとした。
得られた計算値を2h/do/Pの値で整理した結果を図4に示す。図4に示すように、2h/do/Pとひずみ振幅の最大値との間には顕著な負の相関関係が認められた。すなわち、2h/do/Pの値が大きいほどひずみ振幅の最大値は減少した。
この結果から、2h/do/Pの値は、金属フレキシブルチューブの断面形状を設計する際のパラメータとして使用することができることが分かる。2h/do/Pの値が0.085未満のときは、最大振幅が±10mmのときの金属フレキシブルチューブに加わるひずみ振幅の最大値が疲労限界を超える場合がある。したがって、2h/do/Pの値は0.085以上であることが好ましい。
t 鋼帯厚さ
do 外径
di 内径
P ピッチ
R1 谷部曲率半径
R2 山部曲率半径
h 山高さ

Claims (6)

  1. 中心軸を含む面で切断したときの断面形状において、谷部曲率半径(R1)が山部曲率半径(R2)よりも大きい
    金属フレキシブルチューブ。
  2. 前記谷部曲率半径(R1)が前記山部曲率半径(R2)の1.20倍以上、1.60倍以下である、請求項1に記載の金属フレキシブルチューブ。
  3. 外径(do)の全長に占める山高さ(h)の部分の割合(2h/do)に、中心軸に平行な方向の長さ1mmあたりの山部の数(1/P)を掛けた値が0.085以上である、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の金属フレキシブルチューブ。
  4. 鋼帯厚さ(t)が0.10mm以上、0.25mm以下である、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金属フレキシブルチューブ。
  5. 前記断面形状が、谷部においては谷底の位置を通り金属フレキシブルチューブの中心軸に垂直な線に対して左右対称であり、山部においては山の頂の位置を通り金属フレキシブルチューブの中心軸に垂直な線に対して左右対称である、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の金属フレキシブルチューブ。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の金属フレキシブルチューブに被覆が施された金属フレキシブルホース。
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