JP2017115228A - コイリング性に優れた鋼線およびその製造方法 - Google Patents

コイリング性に優れた鋼線およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】コイリング性に優れた鋼線およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の鋼線は、C:0.4〜0.8質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:0.2〜1.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、Cr:0.6〜2質量%を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線であって、鋼線表面の鉄酸化物スケールに占める比率はFeO:10〜60体積%、Fe23:0体積%超、15体積%以下、残部:Fe34およびFe2SiO4を満足し、前記鉄酸化物スケールの平均厚さは0.3〜2.0μmであり、且つ、前記鉄酸化物スケールの平均結晶粒径は0.2μm以下である。
【選択図】なし

Description

本発明は、コイリング性に優れた鋼線およびその製造方法に関する。本発明の鋼線は特に、弁ばねやクラッチばねなどのように精密かつ高強度が要求されるばね類の素材として使用されるばね用鋼線に好ましく用いられる。
自動車のエンジン、燃料噴射装置などの内燃機関に使用される弁ばねやクラッチばねなどのばね類は、ばね用鋼線をコイリングすることによって製造される。
ばね用鋼線は、一般に以下のようにして製造される。まず、ビレットなどの鋼片を加熱し、熱間にて粗圧延および仕上圧延を施して所定の線径まで減面加工した後、コイル状に束ねて圧延鋼線材を得る。次いで、得られた圧延鋼線材に皮削り加工、表面の加工層除去のための焼鈍処理またはパテンティング処理を行なうか、或は、当該圧延鋼線材のまま焼鈍処理またはパテンティング処理を行なう。次に、表面に潤滑処理を施して所定の線径まで冷間で伸線加工した後、表面に形成される潤滑皮膜を電解酸洗または熱処理などで除去する。その後、上記鋼線材をオーステナイト域まで加熱(焼入れ加熱)して保持し、焼入れ焼戻し処理して鋼線(熱処理鋼線)を得る。このようにして得られた鋼線をコイリングマシンでばね形状にコイリング加工するとばね用鋼線が得られる。コイリング加工時に、上記熱処理鋼線の表面に潤滑処理が施される場合もある。
上記のようにして得られるばね用鋼線では、焼入れ焼戻し時に形成される鉄酸化物スケールが重要な役割を果たす。すなわち、ばね用鋼線をコイリングする際、コイリングマシン治具(コイリングピン)とばね用鋼線が直接接触すると、コイリングの進行に伴ってコイリングピンの温度が上昇し、摩擦のためにばね用鋼線の表面に焼付きが生じるようになる。焼付きの発生は、ばね用鋼線の表面にツールマークと呼ばれる疵の形成や、ばね自由長ばらつきなどのコイリング不良を招き、製造されるばねの品質に悪影響を及ぼす。
上記焼付きの発生を抑制するためには、ばね用鋼線とコイリングピンとの間に潤滑剤を適用することが考えられる。しかしながら、弁ばねやクラッチばねなどのように精密かつ高強度が要求されるばね類の製造過程では安定した潤滑性能が求められるため、一般的な潤滑処理のみでは十分な潤滑性能を付与することができない。そこで、鉄酸化物スケールを適切に残存させることによって鉄酸化物スケールに潤滑性能を付与し、コイリングピンとばね用鋼線表面との接触を抑制してコイリング性能を向上させる開発が行なわれている。
従来から鉄酸化物スケール中の成分組成と密着性の関係が検討されており、鉄酸化物スケール中のFe34(マグネタイト)が地鉄との密着性に優れることが報告されている。例えば非特許文献1には、鉄酸化物スケール中のFe34の比率が高ければ高い程、鉄酸化物スケールの密着性が良好になることが開示されている。また、特許文献1には、Fe34を主成分として、脆くて剥離し易いFeO(ウスタイト)を10%以下に抑制することでスケール剥離量を大幅に抑制できることが開示されている。特許文献2には、Fe34の占める割合を80体積%に制御して剥離しにくい酸化皮膜を有し、ばね成形性などを高める方法が開示されている。特許文献3には、Fe34を50体積%以上およびFe23(ヘマタイト)を20体積%以上含有する酸化皮膜を設けることにより、良好な伸線性を発揮する技術が開示されている。
特開2007−308785号公報 特開2004−115859号公報 特開2014−169470号公報
羽田ら、「塑性と加工」、第26巻、291号(1985年)、p.343−348
上述したようにこれまで提案されている技術は、鉄酸化物スケール中のFe34(マグネタイト)の比率を高めさえすれば、焼入れ焼戻し時に形成される鉄酸化物スケール密着性が高められ、コイリング性などの成形性が向上するとの観点に立って開発されたものである。しかしながら、本発明者らの実験結果によれば、Fe34の比率を高めるだけでは、コイリング性などは必ずしも改善されないことが明らかになった。すなわち、鉄酸化物スケールの密着性を高めることによってコイリングピンと鋼線表面との接触は抑制される反面、鉄酸化物スケール自体がコイリングピンにダメージを与え、コイリングピンが変形することで鋼線表面に疵が生じる場合があることが判明した。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コイリング性に優れた鋼線およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係るコイリング性に優れた鋼線は、C:0.4〜0.8質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:0.2〜1質量%、P:0質量%超、0.05質量%以下、S:0質量%超、0.05質量%以下、Cr:0.6〜2質量%を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線であって、鋼線表面の鉄酸化物スケールに占める比率が、FeO:10〜60体積%、Fe23:0体積%超、15体積%以下、残部:Fe34およびFe2SiO4を満足し、前記鉄酸化物スケールの平均厚さが0.3〜2.0μmであり、且つ、前記鉄酸化物スケールの平均結晶粒径が0.2μm以下である点に要旨を有する。
本発明の好ましい実施形態において、上記鋼線は更に、Cu:0質量%超、0.5質量%以下、Ni:0質量%超、1質量%以下、およびMo:0質量%超、1質量%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有する。
本発明の好ましい実施形態において、更に、Ti:0質量%超、0.1質量%以下、Nb:0質量%超、0.5質量%以下、およびV:0質量%超、1質量%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有する。
また、上記課題を解決し得た本発明に係るコイリング性に優れた鋼線の製造方法は、前記組成を満足する鋼線材を下記条件で熱処理した後、焼入れ焼戻しする点に要旨を有する。
加熱雰囲気:酸素が0.1〜5体積%、水が30〜80体積%、残部が窒素
加熱温度:750〜950℃
加熱温度での保持時間:10〜120秒
本発明によれば、コイリング性に優れた鋼線およびその製造方法を提供することができる。
焼入れ焼戻し処理によってばね用鋼線の表面に形成される鉄酸化物スケールは、おおむね、鋼線表面から順に、Fe2SiO4(ファイアライト)、FeO(ウスタイト)、Fe34(マグネタイト)およびFe23(ヘマタイト)の酸化物が形成される。Fe2SiO4(ファイアライト)およびFeO(ウスタイト)は、競合して鋼線表面に形成されることが多い。
本発明者らは、上記構造からなる鉄酸化物スケールがコイリング性に及ぼす影響を、実機コイリングマシンを用いて詳細に検討した。その結果、従来の引張試験結果に基づいて報告されていたFe34の比率とコイリング試験によるコイリング性評価結果との間には、必ずしも明確な相関は認められないことが判明した。具体的には、Fe34の比率が高くても必ずしも良好なコイリング性は発揮されず、逆にコイリング性が低下する場合があることが明らかになった。
更に上記実験結果より、以下の新たな知見を得た。まず、Fe34の比率が高くてもコイリング中に鉄酸化物スケールが剥離して焼付きが発生することが分かった。更に、たとえ鉄酸化物スケールの組成が適切に制御されていても当該鉄酸化物スケールの厚さが所定範囲を超えて厚くなると、鉄酸化物スケールの剥離が顕著になってコイリング中に焼付きが発生することも分かった。一方、鉄酸化物スケールの厚さが一定以下の場合、鉄酸化物スケールが剥離しなくても、コイリングピンに疵が発生してツールマークが発生することも分かった。
これらの知見に基づいて、本発明者らは更に検討を行なった。その結果、良好なコイリング性を確保するためには、従来のようにFe34の比率を高めるのではなく、FeOを一定量の範囲で生成させると共にFe23を所定量以下に抑制することが有効であることが判明した。更に、コイリング性向上のための鉄酸化物スケールの有効厚さが存在することも判明した。更には、鉄酸化物スケールの結晶粒径を小さくすれば、コイリング中も鋼線表面に一定量の鉄酸化物スケールが残存して、優れた潤滑性能が発揮されることも判明した。本発明は、これらの知見を総合的に勘案して完成された発明である。
このように本発明は、鋼線表面の鉄酸化物スケールの組成、厚さ、および結晶粒径を以下のように制御した点に特徴がある。
・鉄酸化物スケールに占める比率:FeO:10〜60体積%、Fe23:0体積%超、15体積%以下、残部:Fe34およびFe2SiO4
・鋼線表面の鉄酸化物スケールの平均厚さ:0.3〜2.0μm
・鉄酸化物スケールの平均結晶粒径:0.2μm以下
以下、各要件について詳述する。
(鉄酸化物スケールの組成)
本発明では、脆くて剥離し易いなどの理由により低減していたFeOを積極的に活用すると共に、Fe23:0体積%超、15体積%以下と所定範囲に制御した点に特徴がある。すなわち、良好なコイリング性を発揮させるためには、鉄酸化物スケール中のFeOとFe23の比率を適切に制御することが極めて重要である。このうちFeOは主に鉄酸化物スケールの密着性向上に、Fe23は主に鉄酸化物スケールの剥離性に大きな影響を及ぼす。上記要件を満足する限り、Fe34の比率は特に限定されない。
本明細書において、各酸化物の体積比率は、鉄酸化物スケールに含まれるFeO、Fe23、Fe34、およびFe2SiO4の合計を100体積%としたときの値である。鉄酸化物スケールには、上記酸化物の他、(Fe,Mn)Oなどの酸化物が製造過程で不可避的に含まれることもあるが、これらの生成量は極めて僅かであるため、各酸化物の体積比率の算出には含めない。
まず、鉄酸化物スケール中に占めるFeOの比率は、10体積%以上、60体積%以下である。FeOが10体積%未満の場合、鉄酸化物スケールの密着性が不足し、コイリングピンと鋼線表面が接触し易くなり、焼付きが生じる。FeOの比率は、好ましくは15体積%以上、より好ましくは20体積%以上である。一方、FeOが60体積%を超えると、鉄酸化物スケールの密着性が高くなり過ぎて鉄酸化物スケールが残存し易くなり、その結果、コイリングピンに疵が生じて鋼線に転写され、ツールマークが発生する。FeOの比率は、好ましくは55体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。
鉄酸化物スケール中に占めるFe23の比率は、0体積%超、15体積%以下である。Fe23が15体積%を超えると、鉄酸化物スケールに割れが発生し易くなり、剥離する鉄酸化物スケールのサイズが大きくなるため、潤滑性能が有効に発揮されない。Fe23の比率は少なければ少ない程良く、好ましくは13体積%以下、より好ましくは10体積%以下である。なお、Fe23は鉄酸化物スケールの最外層に存在して酸素と直接接触し、Fe34はFe23に容易に変化する(高次化)ため、0体積%にすることはできない。
本発明の鉄酸化物スケールの組成は上記のとおりであり、残部:Fe34およびFe2SiO4である。
残部成分のうちFe2SiO4の生成は、加熱保持温度やその保持時間によって大きく影響される。例えば加熱保持温度が約900℃以上と高い場合、保持時間によってFe2SiO4は生成され易くなるが、本発明における加熱保持条件ではFe2SiO4の生成量は極めて少ない。そのため、主な残部成分はFe34である。
また、Fe34は、鉄酸化物スケールの密着性に大きな影響を与えるFeOと、鉄酸化物スケールの剥離性に大きな影響を与えるFe23との中間に存在するため、その比率を特別に制御する必要はない。
(鉄酸化物スケールの平均厚さ)
本発明における鉄酸化物スケールの平均厚さは0.3〜2.0μmである。上記範囲に制御することによって鉄酸化物スケールはコイリング時に潤滑剤として有効に機能して、良好なコイリング性が確保される。
鉄酸化物スケールの平均厚さが0.3μm未満になると、鉄酸化物スケールの剥離量が不十分となり、残存する鉄酸化物スケールよってコイリングピンに疵が付き、その疵が鋼線に転写されてツールマークが発生する。鉄酸化物スケールの平均厚さは、好ましくは0.4μm以上、より好ましくは0.5μm以上である。一方、鉄酸化物スケールの平均厚さが2.0μmを超えると、鉄酸化物スケールの内部応力が増加して鉄酸化物スケールが割れ易くなり、剥離する鉄酸化物スケールのサイズが大きくなるため、潤滑性能が有効に発揮されない。鉄酸化物スケールの平均厚さは、好ましくは1.8μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。
(鉄酸化物スケールの平均結晶粒径)
本発明における鉄酸化物スケールの平均結晶粒径は0.2μm以下である。このように鉄酸化物スケールの平均結晶粒径を小さくすることで鉄酸化物スケールの靱性が向上して、密着性が向上する。また、剥離する鉄酸化物スケールのサイズを小さくすることでコイリングピンと鋼線表面との間に鉄酸化物スケールを残存させることができ、良好な潤滑性が維持される。鉄酸化物スケールの平均結晶粒径が0.2μmを超えると鉄酸化物スケールが剥離し易くなる他、剥離する鉄酸化物スケールのサイズが大きくなって残存させることができないため、焼付きが発生し易くなる。
鉄酸化物スケールの平均結晶粒径は小さい程良く、好ましくは0.15μm以下、より好ましくは0.10μm以下である。
以上、本発明を特徴付ける鉄酸化物スケールについて説明した。
本発明に係る鋼線の成分は、ばね用鋼線に通常用いられるものであれば特に限定されず、これにより、ばね用鋼線に要求される基本的な特性(強度、靭性、耐へたり性など)が有効に発揮される。具体的には、C、Si、Mn、P、S、Crを基本成分として含み、Cu、Ni、Mo、Ti、Nb、Vを選択成分として含むことができる。以下、各成分の限定理由を説明する。
C:0.4〜0.8質量%
Cは、鋼材の強度、並びにばねの疲労強度および耐へたり性を確保するために有用な元素である。Cの含有量が少ないと必要な引張強度が確保できず、更に疲労強度および耐へたり性が低下するため、Cの含有量を0.4質量%以上とする。Cの含有量は、好ましくは0.45質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。一方、Cが過剰になると粗大なセメンタイトが多量に析出し、延性や靱性などが低下してばね特性に悪影響を与えるため、Cの含有量を0.8質量%以下とする。Cの含有量は、好ましくは0.75質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以下である。
Si:1.0〜2.5質量%
Siは、ばね用鋼線の耐へたり性を確保するために必要な元素である。また製鋼時の脱酸剤としても有用な元素である。これらの効果を有効に発揮させるためには、Siの含有量を1.0質量%以上とする。Siの含有量は、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.4質量%以上である。しかしながら、Siの含有量が過剰になると、材料を硬化させて冷間加工性を低下させるため、Siの含有量を2.5質量%以下とする。Si含有量は、好ましくは2.3質量%以下、より好ましくは2.1質量%以下である。
Mn:0.2〜1質量%
Mnは、鋼材の焼入れ性を高めてばねの強度や靭性の向上に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるためには、Mnの含有量を0.2質量%以上とする。Mnの含有量は、好ましくは0.25質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、焼入れ性が過度に向上するため、圧延時にマルテンサイト、ベイナイトなどの過冷組織が生成して靭性を低下させるため、Mnの含有量を1質量%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは0.9質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下である。
P:0質量%超、0.05質量%以下
Pは不可避不純物であり、できるだけ少ないほうが好ましい。特にPは、結晶粒界に偏析し易い元素であり、靱性を低下させ、加工性を低下させる場合があるため、Pの含有量を0.05質量%以下とする。Pの含有量は、好ましくは0.04質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。Pの含有量は少ない程良いが、工業的に0.001質量%未満とすることは困難であるため、好ましくは概ね、0.001質量%以上である。
S:0質量%超、0.05質量%以下
Sは不可避不純物であり、できるだけ少ないほうが好ましい。特にSは硫化物系介在物MnSを形成し、熱間加工時に偏析することで鋼材を脆化させる場合があるため、Sの含有量を0.05質量%以下とする。Sの含有量は、好ましくは0.04質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。Sの含有量は少ない程良いが、工業的に0.001質量%未満とすることは困難であるため、好ましくは概ね、0.001質量%以上である。
Cr:0.6〜2質量%
Crは、圧延後、熱処理後の強度を向上させるために有用な元素である。このような効果を有効に発揮させるためには、Crの含有量を0.6質量%以上とする。Crの含有量は、好ましくは0.7質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以上である。しかしながら、Crの含有量が過剰になると、焼入れ性が過度に向上するため、圧延時にマルテンサイト、ベイナイトなどの過冷組織が生成し、延性が著しく低下するため、Crの含有量を2質量%以下とする。Crの含有量は、好ましくは1.9質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下である。
本発明のばね用鋼線は上記成分を含み、残部:鉄および不可避的不純物である。
本発明では、更に以下の選択成分を含有することができる。
Cu:0質量%超、0.5質量%以下、Ni:0質量%超、1質量%以下、およびMo:0質量%超、1質量%以下よりなる群から選ばれる1種類以上
これらの選択成分は鋼線の強度を高めるのに有用な元素である。これらは単独で含有しても良いし、二種以上を併用しても良い。好ましい含有量は以下のとおりである。
Cu:0質量%超、0.5質量%以下
Cuは、鋼線の強度を高めるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるため、Cuの好ましい含有量は0質量%超である。Cuの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.2質量%以上である。一方、Cuの含有量が過剰になると、高温(1356K)で液相となり、熱間圧延での変形中にオーステナイト結晶粒界に偏析して表面割れを発生させるため、Cuの含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。Cuの含有量は、より好ましくは0.4質量%以下であり、更に好ましくは0.3質量%以下である。
Ni:0質量%超、1質量%以下
Niは、鋼線の強度および靱性を高めるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Niの好ましい含有量は0質量%超である。Niの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.2質量%以上である。一方、Niの含有量が過剰になると、鋼線表面に不均一に濃化し、鋼線表面の凹凸が大きくなって表面性状を悪化させるため、Niの含有量は1質量%以下であることが好ましい。Niの含有量は、より好ましくは0.9質量%以下であり、更に好ましくは0.8質量%以下である。
Mo:0質量%超、1質量%以下
Moは、鋼線の強度および靱性を高めるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Moの好ましい含有量は0質量%超である。Moの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上、更により好ましくは0.10質量%以上である。一方、Mo含有量が過剰になると、延性の低下により、ばね加工性やばね特性に悪影響を与えるため、Moの含有量は1質量%以下であることが好ましい。Moの含有量は、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
Ti:0質量%超、0.1質量%以下、Nb:0質量%超、0.5質量%以下、およびV:0質量%超、1質量%以下よりなる群から選ばれる1種以上
これらの選択成分は鋼線の靱性向上に有用な元素である。これらは単独で含有しても良いし、二種以上を併用しても良い。好ましい含有量は以下のとおりである。
Ti:0質量%超、0.1質量%以下
Tiは、炭窒化物を形成して結晶粒を微細化することによって、鋼線の靱性向上に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるためには、Tiの含有量は0質量%超であることが好ましい。Tiの含有量は、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上である。一方、Tiの含有量が過剰になると鋼線の靭性を低下させるため、Tiの含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。Tiの含有量は、より好ましくは0.08質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。
Nb:0質量%超、0.5質量%以下
Nbは、炭窒化物を形成して結晶粒を微細化することによって、鋼線の靱性向上に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるためには、Nbの含有量は0質量%超であることが好ましい。Nbの含有量は、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、更により好ましくは0.06質量%以上である。一方で、Nbの含有量が過剰になると、コストが増加するだけでなく、降伏点(降伏比)を上昇させて加工性を劣化させるため、Nbの含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。Nbの含有量は、より好ましくは0.4質量%以下であり、更に好ましくは0.3質量%以下である。
V:0質量%超、1質量%以下
Vは、炭窒化物を形成して結晶粒を微細化することによって、鋼線の靱性向上に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるためには、Vの含有量は、0質量%超であることが好ましい。Vの含有量は、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、更により好ましくは0.06質量%以上である。一方、Vの含有量が過剰になると、コストが増加するだけでなく、降伏点(降伏比)を上昇させて加工性を劣化させるため、Vの含有量は1質量%以下であることが好ましい。Vの含有量は、より好ましくは0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.6質量%以下である。
次に、上述した本発明の鋼線を製造する方法について説明する。本発明の製造方法は、上記組成を満足する鋼線材を下記条件で熱処理した後、焼入れ焼戻しする点に特徴がある。これにより、鋼線表面の鉄酸化物スケール厚さ、組成および結晶粒径を適正な範囲に調整することができる。なお、上記加熱温度は、鋼線の表面温度で管理したものである。
加熱温度範囲:750〜950℃
加熱雰囲気:酸素が0.1〜5体積%、水が30〜80体積%、残部が窒素
保持時間:10〜120秒
以下、詳しく説明する。
まず、上記組成の鋼を用い、通常の条件で熱間圧延して鋼線材とした後、伸線加工して鋼線を得る。
次いで、上記鋼線を、所定の加熱雰囲気下(酸素0.1〜5体積%、水30〜80体積%、残部窒素)、オーステナイト化のための加熱温度:750〜950℃、当該加熱温度での保持時間:60〜120秒で熱処理する。
ここで、加熱開始温度からオーステナイト化のための最高加熱温度までの加熱方法は、鉄酸化物スケールの平均結晶粒径を微細化する観点に基づき、高周波による急速加熱が選択される。
本発明では、上記加熱温度を750〜950℃とする。鉄酸化物スケールの結晶粒径および厚さは上記加熱温度に最も影響を受け、上記の温度範囲に制御することで鉄酸化物スケールの平均結晶粒径および平均厚さを本発明の範囲内に制御することができる。加熱温度が950℃を超えると、鉄酸化物スケールの結晶粒が粗大化し易くなって0.2μmを超えるようになり、鉄酸化物スケールの潤滑性能が低下する。更にFeOの比率も増加する。加熱温度の好ましい上限は930℃であり、より好ましくは910℃である。鉄酸化物スケールの結晶粒微細化のためには上記加熱温度は低ければ低い程良いが、加熱温度が750℃未満になると、鉄酸化物スケールの平均厚さが小さくなって潤滑機能が有効に発揮されない。更に、鋼線の表面に脱炭が生じてばね製品の疲労寿命が著しく低下する。鉄酸化物スケールの平均厚さを適切に制御すると共に、脱炭を抑制してゼロにするためには、加熱温度を750℃以上とする。加熱温度は、好ましくは760℃以上、より好ましくは770℃以上である。
本発明では、加熱雰囲気を適切に制御することが極めて重要である。オーステナイト化加熱温度において鋼線表面に鉄酸化物スケールが形成されるが、水蒸気を多く含む雰囲気で加熱した場合、FeOの生成が促進されるため、好ましくない。このような観点から、上記の加熱処理は、水の比率が30〜80体積%で、酸素の比率が0.1〜5体積%となるような窒素雰囲気下で行なう必要がある。
詳細には、水の比率が30体積%未満になるとFeOが生成し難くなるため、鉄酸化物スケールの密着性が低下する。加熱雰囲気中の水の比率は好ましくは35体積%以上、より好ましくは40体積%以上である。一方、水の比率が80体積%を超えるとFeOの生成が促進されるため、潤滑に必要な鉄酸化物スケールの剥離が発生し難くなり、その結果、鋼線表面にツールマークが発生し易くなる。加熱雰囲気中の水の比率は、好ましくは75体積%以下、更に好ましくは70体積%以下である。
また、酸素は鉄と反応することで鉄酸化物スケールの形成、および鉄酸化物スケールの高次化に伴うFe23の成長を促進する作用を有する。また、酸素の作用によって鋼線表面に形成される鉄酸化物スケールのばらつきを小さくすることができる。このような効果を有効に発揮させるための酸素の比率は0.1体積%以上である。酸素の比率は、好ましくは0.3体積%以上、より好ましくは0.5体積%以上である。一方、酸素の比率が5体積%を超えると上述した酸素の効果が飽和するだけでなく、鉄酸化物スケールの最表層にFe23を過剰に形成し易くなり、鉄酸化物スケールの潤滑性能が低下する。そのため、酸素の比率は5体積%以下である。酸素の比率は、好ましくは4体積%以下、より好ましくは3体積%以下である。
加熱雰囲気は、上述した酸素と水の他、残部は窒素である。窒素の他、炭酸ガスなどの不可避的に混入されるガスも微量に含まれ得るが、これらの成分は所望とする鉄酸化物スケールの生成に殆ど影響しない。
本発明では、上記加熱温度での保持時間を10〜120秒とする。保持時間は鉄酸化物スケールの厚さに最も影響を及ぼす。オーステナイト化温度における保持時間を10〜120秒の範囲とすることで、鋼線表面の鉄酸化物スケール厚さを0.3〜2.0μmの範囲に制御することができる。保持時間が10秒未満になると、鉄酸化物スケール厚さを0.3μmまで成長させることが困難になり、剥離させる鉄酸化物スケール量が不十分になる。保持時間は、好ましくは12秒以上、より好ましくは15秒以上である。一方、保持時間が120秒を超えると、鉄酸化物スケールが成長し過ぎるだけでなく、鉄酸化物スケールに発生する残留応力によって鉄酸化物スケールに割れが生じ易くなる。保持時間は、好ましくは110秒以下、より好ましくは100秒以下である。
上記の熱処理を行なった後、焼入れ焼戻しする。焼入れ焼戻しの条件は、ばね用鋼線で一般的に用いられ方法を採用することができる。例えば焼入れは、水焼入れ、油焼入れの両方が用いられる。また、焼戻しはガス、高周波、流動層などの加熱方法を採用することができる。焼戻しの温度および時間は、例えば300〜600℃、15〜120秒の範囲で行なうことが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
表1に示す鋼種A〜Gを溶製してビレットを作製した後、熱間圧延を施して、直径(線径)が8.0mmの圧延線材を得た。次いで、得られた圧延線材の表面を皮削り処理した後、冷間伸線加工を施して直径(線径)が3.5mmの鋼線を得た。次に、表面の潤滑皮膜を電解酸洗により除去した後、表2に示す試験No.1〜25の条件で熱処理した後、油焼入れし、高周波による加熱を行なって保持炉で保持した後、油で冷却する焼戻しを施した。加熱開始温度は20℃である。油焼入れ温度は60℃であり、焼戻し温度は引張強度を一定(2000MPa±50MPa)にするため、400〜500℃の範囲で変化させた。焼戻し時間は30秒と一定である。
このようにして得られた各鋼線について、下記の方法で鉄酸化物スケールの特性(鉄酸化物スケールの平均厚さ、組成、平均結晶粒径)、およびコイリング性を評価した。
鉄酸化物スケールの平均厚さの評価
鉄酸化物スケールの厚さは、断面SEM(Scanning electron microscope:走査型電子顕微鏡)観察によって測定した。測定は、鋼線の任意の表層5点で行い、その平均値を鉄酸化物スケールの平均厚さとした。
鉄酸化物スケールの組成の評価
鉄酸化物スケールの組成は、油焼入れ、焼戻し処理後の鋼線表面の鉄酸化物スケールをXRD(X−ray diffraction:X線回折)で分析し、得られたピーク強度と積分強度からFe2SiO4、FeO、Fe34、およびFe23の体積率を算出した。測定は、鋼線の任意の表層3点で行い、その平均値をそれぞれの比率とした。
鉄酸化物スケールの平均結晶粒径の評価
鉄酸化物スケールの平均結晶粒径は、断面EBSD(Electron BackScatter Diffraction、後方散乱電子回折)による解析によって測定した。詳細には、鋼線を横断面で切断した後、エメリー紙、ダイヤモンドバフ、電解研磨によって切断面を鏡面研磨して試験片を得た。このようにして得られた試験片の鏡面研磨面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:観察倍率1000倍、加速電圧20kV)で観察して画像撮影した。観察は任意の5箇所で行い、各観察箇所の写真を合計5枚撮影した。撮影した画像を、結晶方位解析装置としてEBSP(Electron BackScattering Pattern、後方散乱電子回折)を用いて解析し、鉄酸化物スケールの結晶粒の円相当直径を測定し、その平均値を求めた。
コイリング性の評価
コイリング性は、コイリングマシンによってばねを製造することによって評価した。詳細には、ばねを3000個連続で製造し、3000個目のばね表面のツールマーク発生の有無を目視で観察することによってコイリング性を評価した。
これら結果を、表3に示す。
Figure 2017115228
Figure 2017115228
Figure 2017115228
これらの結果より次のように考察できる。
表3の試験No.1〜9は、表1の鋼種Cを用いて、加熱温度(オーステナイト化)を表2に示すように種々変化させた例である。これらのうち試験No.2〜8はいずれも、本発明の条件で製造した例であり、鉄酸化物スケールの組成、平均厚さ、および平均結晶粒径がいずれも本発明の範囲内に制御されているため、コイリング時にツールマークの派生は認められなかった。
これに対し、加熱温度が本発明の下限を下回る温度で製造した試験No.1では、鉄酸化物スケールの組成および平均結晶粒径は良好であったが、平均厚さが小さいため、500個目のばね表面にツールマークが発生した。また、表面には脱炭が発生した(表3には示さず)。一方、加熱温度が本発明の上限を超える温度で製造した試験No.9では、鉄酸化物スケールの結晶粒径およびFe23の体積率が本発明の上限を超えており、1000個目のばね表面にツールマークが発生した。
試験No.10〜16は、オーステナイト化加熱時の保持時間を表2に示すように種々変化させた例である。これらのうち試験No.11〜15はいずれも、本発明の条件で製造した例であり、鉄酸化物スケールの組成、平均厚さ、および平均結晶粒径がいずれも本発明の範囲内に制御されているため、コイリング時にツールマークの派生は認められなかった。
これに対し、保持時間が本発明の下限を下回る時間で製造した試験No.10では、鉄酸化物スケールの組成および平均結晶粒径は良好であったが、平均厚さが小さいため、1000個目のばね表面にツールマークが発生した。一方、保持時間が本発明の上限を超える時間で製造した試験No.16では、鉄酸化物スケールの組成および平均結晶粒径は良好であったが、平均厚さが大きいため、1000個目のばね表面にツールマークが発生した。
試験No.17〜21は、オーステナイト加熱保持中の雰囲気の酸素量を表2に示すように種々変化させた例である。これらのうち試験No.18〜20はいずれも、本発明の条件で製造した例であり、鉄酸化物スケールの組成、平均厚さ、および平均結晶粒径がいずれも本発明の範囲内に制御されているため、コイリング時にツールマークの派生は認められなかった。
これに対し、酸素量が本発明の下限を下回る雰囲気で製造した試験No.17では、鉄酸化物スケールの組成および平均結晶粒径は良好であったが、平均厚さが小さいため、500個目のばね表面にツールマークが発生した。一方、酸素量が本発明の上限を超える雰囲気で製造した試験No.21では、Fe23の比率が多くなって、2000個目のばね表面にツールマークが発生した。
試験No.22〜25は、オーステナイト加熱保持中の雰囲気の水分量を表2に示すように種々変化させた例である。これらのうち試験No.23、24はいずれも、本発明の条件で製造した例であり、鉄酸化物スケールの組成、平均厚さ、および平均結晶粒径がいずれも本発明の範囲内に制御されているため、コイリング時にツールマークの派生は認められなかった。
これに対し、水分量が本発明の下限を下回る雰囲気で製造した試験No.22では、FeOの比率が少なくなって、500個目のばね表面にツールマークが発生した。一方、水分量が本発明の上限を超える雰囲気で製造した試験No.25では、FeOの比率が多くなって、1000個目のばね表面にツールマークが発生した。

Claims (4)

  1. C :0.4〜0.8質量%、
    Si:1.0〜2.5質量%、
    Mn:0.2〜1質量%、
    P :0質量%超、0.05質量%以下、
    S :0質量%超、0.05質量%以下、
    Cr:0.6〜2質量%、
    を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線であって、
    前記鋼線表面の鉄酸化物スケール中に占める比率が、FeO:10〜60体積%、Fe23:0体積%超、15体積%以下、残部:Fe34およびFe2SiO4を満足し、
    前記鉄酸化物スケールの平均厚さが0.3〜2.0μmであり、且つ、
    前記鉄酸化物スケールの平均結晶粒径が0.2μm以下であることを特徴とするコイリング性に優れた鋼線。
  2. 更に、
    Cu:0質量%超、0.5質量%以下、
    Ni:0質量%超、1質量%以下、および
    Mo:0質量%超、1質量%以下
    よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1に記載の鋼線。
  3. 更に、
    Ti:0質量%超、0.1質量%以下、
    Nb:0質量%超、0.5質量%以下、および
    V :0質量%超、1質量%以下
    よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1または2に記載の鋼線。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼線を製造する方法であって、
    前記組成を満足する鋼線材を下記条件で熱処理した後、焼入れ焼戻しすることを特徴とするコイリング性に優れた鋼線の製造方法。
    加熱雰囲気:酸素が0.1〜5体積%、水が30〜80体積%、残部が窒素
    加熱温度:750〜950℃
    上記加熱温度での保持時間:10〜120秒
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