JP2017109899A - 炭酸カルシウム複合体 - Google Patents

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Abstract

【課題】リン1gあたりの吸油量を向上させた炭酸カルシウム複合体の提供。【解決手段】炭酸カルシウムと、リンとカルシウムの反応物を含み、炭酸カルシウム複合体全体の重量に対する吸油量が、100〜200ml/100gであり、リンの重量に対する吸油量が、15ml/g以上である炭酸カルシウム複合体。水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素を付与して炭酸化する炭酸化工程ST1と、所定の添加期間において水酸化カルシウム水懸濁液に、リン酸又はリン酸塩を添加する添加工程ST2と、好ましくは30℃以下で行うことと、を含む製造工程である炭酸カルシウム複合体製造方法。カルシウムとリンのモル比(Ca/P)が5〜500未満であり炭酸カルシウムの結晶子サイズが40nmである炭酸カルシウム複合体。【選択図】図1

Description

本発明は、カルシウムとリンとの反応物を含む炭酸カルシウム複合体に関する。
石灰石(炭酸カルシウム)は、国内で産出される数少ない資源で、石灰石での利用、焼成して生石灰(酸化カルシウム)として利用、生石灰を水と反応させた消石灰(水酸化カルシウム)として利用、さらには消石灰の乳液を二酸化炭素ガスと反応させた炭酸カルシウムとしての利用が行われている。
石灰石での利用としては、粘土とともに焼結させてセメントとする以外にも、そのまま粉砕した砕石や、紙・プラスチックなどのへの増量材的なフィラー(充填剤)などがある
生石灰(酸化カルシウム)は、土壌改良剤や製鉄・製紙などの工業用途などへも使用され、消石灰(水酸化カルシウム)は、中和剤や肥料などへ使用されている。また、水酸化カルシウムが炭酸化されることで、炭酸カルシウムが得られる。
例えば、消石灰である水酸化カルシウム水懸濁液を二酸化炭素ガスと反応させて炭酸化することで、炭酸カルシウムが得られる。この炭酸カルシウムは、プラスチック・ゴム・シーラントなどの工業用のフィラーとして使用される。一方で、粉砕された石灰石も同じように炭酸カルシウムと呼ばれている。したがって、両者を区別するために、石灰石を粉砕した炭酸カルシウムを重質炭酸カルシウムと呼び、水酸化カルシウム水懸濁液を二酸化炭素ガスと反応させた炭酸カルシウムを軽質炭酸カルシウムと呼び分けられるのが一般的である。
しかし、重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムとでは、性状に大きな違いがある。重質炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕したものなので粒子径サイズがせいぜいミクロンオーダーであり粒度分布も幅広くなる。また、形状も不均一であり表面が角ばっている。したがって、重質炭酸カルシウムは増量を主目的とするフィラーとして使用されるケースが多い。
これに対して、軽質炭酸カルシウムは水酸化カルシウム水懸濁液と二酸化炭素ガスとの炭酸化反応の諸条件、例えば反応温度や反応時間などを変えることで、球状、立方体状、紡錘状、針状、板状など種々の形状のものが得られ、その形状により、分散性、流動性、光輝性、配向性などの特性が得られる。また、粒子サイズを制御でき、粒度分布幅を非常に小さくすることも可能であり、白色性も高いという利点を有している。軽質炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムとは違って増量のみでなく、種々の機能を発揮するフィラーとして工業的に利用されている。
一方で、炭酸カルシウムは、油分を吸収する吸油性が不十分である。この吸油性が不十分であると、工業製品の添加剤に使用される場合には、吸収しきれない油分が漏れ出す問題もある。
このような状況で、炭酸カルシウムと水酸アパタイトを複合する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
特開2006−44966号公報 特開平11−180705号公報 特開平09−183617号公報
特許文献1〜3は、炭酸カルシウムと水酸アパタイトの複合体を開示している。
炭酸カルシウムと水酸アパタイトの複合体が形成されると、水酸アパタイトは、官能基を有する。この官能基は、吸着性能を高め、生体活性を高めることができる。この結果、樹脂や紙などの工業製品に添加される場合には、混合時の他の物質との吸着性が高まり、製造される工業製品の耐久性や加工性を高めることができる。あるいは、化粧料に添加される場合には、官能基による吸着性や生体活性の高まりで、肌へのなじみがよくなり肌への種々の悪影響を低減できる効果がある。
特許文献1〜3の技術のように、炭酸カルシウムとリン酸カルシウムである水酸アパタイトを複合することで、炭酸カルシウムの表面特性を変え、これまでの炭酸カルシウムでは得られない反応性、親和性を付与することは、資源である生石灰の高付加価値化にもつながる。
特許文献1は、水酸化カルシウム水懸濁液に炭酸ガスを導入し、炭酸ガスの導入開始から、懸濁液がpH7〜8となる炭酸化終了までの間にリン酸の混合を行う技術を開示する。このリン酸の混合を開始することで、水酸アパタイトと炭酸カルシウムの複合粒子の製造方法を開示している。
特許文献1に開示される技術は、吸油量の増大を考慮していない。特許文献1の(0006)段には、脱水・乾燥・粉末化などの取り扱いに優れた10μm程度の複合体を目標としている。また、使用する消石灰は消石灰を粒状にした0.5〜2mmの粒径のものを使用しており、本来のあるべき粉末状の消石灰の使用ではない。このように、複合体の粒径が大きいことで、体積あたりの表面積が小さく、油分を取り込む隙間も少ない状態である。すなわち、特許文献1に開示される複合体は、吸油量の検討や考慮がなく、仮に使用しても粒径等の状況から、吸油量は少ないと考えられる。
特許文献2は、カルシウム含有固体物質を、リン酸イオンを含みかつpH7.0以上の水溶液と接触させる多孔質水酸アパタイトを少なくとも表層に有する固体物質の製造方法を開示する。
しかしながら、カルシウム含有固体物質としての炭酸カルシウム源として、石灰石、貝殻、ウニ殻、サンゴなどが使用されており、複合体の核となる炭酸カルシウムの粒径が極めて大きくなる。粒径が大きいと、特許文献1と同様に、体積当たりの表面積が小さくなり、吸油量が小さくなってしまう。
特許文献3は、複数のパラメータと関係式を満足する粒子からなる多孔質炭酸カルシウム系化合物を開示する。ここで、吸油量としては、複合体100gあたり50ml〜300mlである。特許文献3は、特許文献1、2と異なり、吸油量についての言及や考慮はあるが、100gあたりの吸油量が上述程度では、工業製品や化粧料に混合する複合体としては不十分である。
特に、特許文献3は、化粧品への利用展開のみを考慮しており、油分漏えいなどを生じさせない工業製品に複合体を混合する場合に対応しきれていない。
例えば、工業製品に混合する場合においては、油分漏えいを防止するには、更に高い吸油量が必要である。特許文献3に開示される技術は、この点までの考慮をしていない。
また、特許文献3に開示される化合物は、分散性や粒径分布幅などのパラメータも合せた炭酸カルシウム系化合物である。特許文献3の(0008)段には、リン酸化合物の反応量をある以上にさせることで、変曲点が生じてBET比表面積がそれ以上大きくならないことが記載されている。
BET比表面積と吸油量には直線関係があることから、リン酸化合物との反応量を増加させても有用なリンを吸油量増加に結び付けることができない。このため、特許文献3の化合物は、当該文献に記載の実施例に基づいて、吸油量は、最大200ml/100gであり、リン酸の使用量から算出されるリン1gあたりの吸油量は13ml/gを下回っている。この程度では、工業製品においても化粧料においても、十分な吸油量とは言い難い問題がある。
特に、リンは、高価かつ希少な資源である。リンの単位量に対する吸油量が低いことは、十分な吸油量を有する複合体を製造するにあたって、高価かつ希少なリンを、多く使用することになってしまう。これは、当然に製造される複合体を高コストにしてしまう問題がある。また、更に言えば、リンを多く使用する必要があり、地球環境や希少資源にとって好ましくない問題がある。
以上のように、特許文献1〜3の技術は、吸油量の検討や考慮の開示が無いか、少ない吸油量でしかない、問題を有している。
ここで、炭酸カルシウムと水酸アパタイトの複合体は、上述したように、樹脂や紙などの工業製品に混合される。このような工業製品は、混合物の一つとして油分が添加される。
製造された工業製品は、添加されるこの油分が、製造後に染み出るなどの問題を発生させることがある。このような油分の漏出は、混合される炭酸カルシウムと水酸アパタイトの複合体によって低減されることが求められる。しかしながら、特許文献1〜2の複合体は、吸油量を向上させる技術を開示も考慮もしていない。特許文献3は、吸油量が複合体100gあたり50ml〜300mlであって、高い吸油量やこれを実現する技術を想定、開示していない。
このため、特許文献1〜3の炭酸カルシウム複合体などは、工業製品に添加される場合でも、製造後の工業製品の油分の漏出を防止できない問題がある。製造後の工業製品から油分が漏出してしまうと、工業製品の品質、使い勝手、使用後の完成品の質などに悪影響を与える問題もある。
また、吸油量の小さい炭酸カルシウム複合体が化粧料などの生体用に使用される場合には、肌からの皮脂の吸着が充分でなく、肌へのなじみが弱くなる。更には、吸着できなかった皮脂は悪臭の原因ともなる。吸油量の検討や考慮のない特許文献1〜2、低い吸油量の技術である特許文献3の炭酸カルシウム複合体は、生体用に使用される場合には、このような問題を有している。
更には、これらの複合体を製造する工程でリンを使用するが、リンは高価で希少な資源である。このリンの使用量に対する吸油量が少ない場合には、資源効率やコスト効率が悪い問題を生じさせてしまう。
すなわち、炭酸カルシウムを添加材として工業利用や生体利用する場合には、(1)高い吸油量、(2)高価で希少な資源であるリン1gあたりの高い吸油量が実現されていることが必要である。特許文献1〜3のような従来技術は、この(1)、(2)を実現できておらず、工業利用や生体利用での利用後の不十分さ(油の漏えいや生体との馴染みの弱さ、コスト問題)を、有していた。
本発明は、これらの課題に鑑み、リン1gあたりの吸油量を向上させた炭酸カルシウム複合体を提供することを目的とする。
上記課題に鑑み、本発明の炭酸カルシウム複合体は、炭酸カルシウムと、
リンとカルシウムの反応物を含み、
炭酸カルシウム複合体全体の重量に対する吸油量が、100ml/100g以上200ml/100g以下であり、
リンの重量に対する吸油量が、15ml/g以上である。
本発明の炭酸カルシウム複合体は、工業利用や生体利用のいずれであっても、従来技術の問題を生じさせにくいレベルでの十分な吸油量を実現できる。加えて、高価で希少な資源であるリン1gあたりでの高い吸油量を実現できる。
また、リン1gあたりの高い吸油量を実現できることで、炭酸カルシウム複合体の製造コストを抑えることができる。
この高い吸油量によって、炭酸カルシウム複合体が工業製品に混合される場合でも、製造後の油分吸着力が高く、油分の漏えいを低減できる。また、化粧料などの生体用に混合される場合には、皮脂の吸着力が高くなる。
発明の実施の形態1における炭酸カルシウム複合体の製造工程の工程図である。 本発明の実施の形態2における実施例1の炭酸カルシウム複合体のX線回折実験の結果を示すグラフである。 本発明の実施の形態2における実施例1の炭酸カルシウム複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 本発明の実施の形態2における比較例1の炭酸カルシウムのSEM写真である。
本発明の第1の発明に係る炭酸カルシウム複合体は、炭酸カルシウムと、
リンとカルシウムの反応物を含み、
炭酸カルシウム複合体全体の重量に対する吸油量が、100ml/100g以上200ml/100g以下であり、
リンの重量に対する吸油量が、15ml/g以上である。
この構成により、高価で希少である物質のリンを単位とした吸油量を向上させ、工業製品や化粧料に混合する際に、油分を蓄えることでのメリットを供する炭酸カルシウム複合体が実現できる。
本発明の第2の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第1の発明に加えて、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満である。
この構成により、炭酸カルシウム複合体の吸油量を、リン1gあたり15ml/g以上にできる。特に、最終的に得られる炭酸カルシウム複合体に含まれるリンの量を相対的に減らすことができ、リン1gあたりの吸油量を向上させることができる。
本発明の第3の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第1または第2の発明に加えて、炭酸カルシウムは、X線回折で測定した結晶子サイズが40nm未満である。
この構成により、本発明の炭酸カルシウム複合体は、体積に対する表面積等を大きくでき、吸油量を高めることができる。
本発明の第4の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、添加期間において、水酸化カルシウム水懸濁液に、リン酸またはリン酸塩を添加する添加工程と、を含む製造工程で製造される。
この構成により、水酸化カルシウム水懸濁液から、炭酸カルシウムと、カルシウムとリンの反応物を生成できる。この生成によって、炭酸カルシウム複合体が製造できる。
本発明の第5の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第4の発明に加えて、添加期間は、炭酸化工程前および炭酸化率が95%以下である炭酸化工程中を含む。
この構成により、炭酸カルシウム複合体を構成する炭酸カルシウムのX線回折での結晶子サイズを、40nm未満にできる。結果として、炭酸カルシウム複合体の吸油量を向上できる。
本発明の第6の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第4または第5の発明に加えて、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩の添加量は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量である。
この構成により、本発明の炭酸カルシウム複合体は、体積に対する表面積等を大きくでき、吸油量を高めることができる。
本発明の第7の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第4から第6のいずれかの発明に加えて、炭酸化工程を開始する際の、水酸化カルシウム水懸濁液の工程管理温度が、30℃以下である。
この構成により、炭酸カルシウム複合体を構成する炭酸カルシウムのX線回折での結晶子サイズを、40nm未満にできる。結果として、炭酸カルシウム複合体の吸油量を向上できる。
本発明の第8の発明に係る炭酸カルシウム複合体では、第4から第7のいずれかの発明に加えて、リン酸またはリン酸塩は、正リン酸、リン酸ナトリウム塩、リン酸カリウム塩、リン酸アンモニウム塩などの水溶性リン酸塩、縮合リン酸、縮合リン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウムなどの水溶性縮合リン酸塩、水溶性の有機ホスホン酸化合物から選択される少なくとも1種以上である。
この構成により、種々の原料から炭酸カルシウム複合体を得ることができる。
(実施の形態1)
実施の形態1について説明する。
(全体概要)
実施の形態1における炭酸カルシウム複合体は、炭酸カルシウムと、リンとカルシウムの反応物を含む(備える)。この構造を有する実施の形態1の炭酸カルシウム複合体(以下、本明細書で「炭酸カルシウム複合体」との記載は、特に断らない限り、実施の形態で説明される本発明の炭酸カルシウム複合体を示す)は、その全体重量に対する吸油量が、100ml/100g以上200ml/100g以下である。更には、炭酸カルシウム複合体は、含有するリン(カルシウムとの反応物に含まれるリン)の重量に対する吸油量が、15ml/g以上である。
炭酸カルシウム複合体は、炭酸カルシウムに、リンとカルシウムの反応物を含む構造を有することで、従来技術では成しえていない全体重量に対する吸油量が、100ml/100g以上200ml/100g以下の吸油量を実現している。更には、リンの重量に対して、15ml/g以上の吸油量を実現している。このように、高価で希少な物質であるリンの重量に対する高い吸油量を実現できることで、資源の有効活用を行いつつ低コストの炭酸カルシウム複合体を実現できる。
このように、実施の形態1における炭酸カルシウム複合体は、高い吸油量を有することで、工業製品に混合される場合でも、製造後の油分吸着力が高く、油分の漏えいを低減できる。また、化粧料に混合される場合には、皮脂の吸着力が高く、肌へのなじみが高くなる。
(製造工程の特徴)
実施の形態1における炭酸カルシウム複合体は、次のような製造工程の概要によって製造される。図1は、本発明の実施の形態1における炭酸カルシウム複合体の製造工程の工程図である。以下に、図1を用いて、製造工程の概要を説明する。なお、必要に応じて、各工程の詳細については、本発明の炭酸カルシウム複合体の吸油量への好影響などを説明する際に、追加して説明する。
本発明の炭酸カルシウム複合体は、この製造工程によって製造されることで、上述した、全体重量に対する吸油量が、100ml/100g以上200ml/100g以下、リンの重量に対する吸油量が、15ml/g以上であることを実現できる。このため、本発明の炭酸カルシウム複合体は、ここで説明する製造工程によって定義できる。
まず、水酸化カルシウム水懸濁液が準備される。水酸化カルシウム水懸濁液は、市販されている消石灰スラリーを使用してもよいし、生石灰を水と混合して消化工程を経て、水酸化カルシウム水懸濁液を得てもよい。
炭酸カルシウム複合体は、この水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素を付与して炭酸化する炭酸化工程と、所定の添加期間において水酸化カルシウム水懸濁液に、リン酸またはリン酸塩を添加する添加工程と、を含む製造工程で製造される。
図1においては、ステップST1にて、水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素を付与して炭酸化する炭酸化工程が実行される。同様に、ステップST2にて、水酸化カルシウム水懸濁液にリン酸またはリン酸塩が添加される添加工程が実行される。
更に、ステップST3にて、脱水・乾燥工程が実行される。これらの結果、本発明の炭酸カルシウム複合体が製造される。
(炭酸化工程)
炭酸化工程では、水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスが付与される。この付与によって、水酸化カルシウム水懸濁液が炭酸化し、炭酸カルシウムが生成される。
ここで、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度は、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度で炭酸化工程が行われることで、上述の吸油量を実現する炭酸カルシウム複合体が製造されるからである。
(添加工程)
添加工程では、水酸化カルシウム水懸濁液にリン酸またはリン酸塩が添加される。図1に示されるステップST2の添加工程は、所定の添加期間において行われる。この所定の添加期間は、炭酸化工程前および炭酸化率が95%以下である炭酸化工程中を含む期間である。図1のステップST2の添加工程から右方向に示されるリン酸もしくはリン酸塩を添加する矢印は、この添加期間を示している。すなわち、矢印の一方は、炭酸化工程前でのリン酸またはリン酸塩の添加を示し、矢印のもう一方は、炭酸化率95%以下での炭酸化工程中でのリン酸またはリン酸塩の添加を示している。
これらの炭酸化工程および添加工程によって、炭酸カルシウムと、カルシウムとリンの反応物を含む炭酸カルシウム複合体が製造される。ここで、水酸化カルシウム水懸濁液が炭酸化されることで炭酸カルシウムが生成される。水酸化カルシウム水懸濁液中のカルシウムとリン酸もしくはリン酸塩の反応により、カルシウムとリンの反応物が生成される。
これらの製造工程を経て製造される炭酸カルシウム複合体は、全体重量に対する吸油量を100ml/100g以上200ml/100g以下、リンの重量に対する吸油量を15ml/g以上とできる。
(脱水乾燥工程)
最後に、ステップST3にて、脱水乾燥工程が行われる。脱水乾燥が行われることで、粉末状の炭酸カルシウム複合体が得られる。なお、脱水・乾燥工程は、オプション的なもので、懸濁液のままでの利用も可能であるが、できれば粉末状にまでしておく方が取り扱いなどの点で好ましい。
(構造上の特徴)
次に、本発明の炭酸カルシウム複合体の構造上の特徴を説明する。上述の製造工程によってここで説明する構造上の特徴を有する炭酸カルシウム複合体が得られる。この構造上の特徴によって、炭酸カルシウム複合体は、全体重量に対する吸油量を100ml/100g以上200ml/100g以下、リンの重量に対する吸油量を15ml/g以上とできる。
なお、この100ml/100g以上200ml/100g以下、15ml/g以上の吸油量を有することで、炭酸カルシウム複合体が、工業製品に混合される場合には、製造後の油分吸着力が高く、油分の漏えいを低減できるレベルとなる。この吸油量よりも低い場合には、油分の漏えいを十分に防止できない。あるいは、炭酸カルシウム複合体が、化粧料に混合される場合には、皮脂の吸着力が高く、肌へのなじみが高くなる。この吸油量よりも低い場合には、吸油量が小さいことで、皮脂への吸着力が不十分となる。
このため、100ml/100g以上200ml/100g以下、15ml/g以上の吸油量が、炭酸カルシウム複合体が工業製品や化粧料に混合されて、種々の問題点を解決しつつ、より高い混合効果を発揮できるレベルである。
(炭酸カルシウムの結晶子サイズ)
上述の吸油量を実現するためには、炭酸カルシウム複合体を構成する炭酸カルシウムの結晶子サイズが、X線回折で測定した結果として、40nm未満であることが好ましい。
X線回折で測定した炭酸カルシウムの結晶子サイズが、40nm以上であると、これを含む炭酸カルシウム複合体は、全体重量において、吸油量が100ml/100g以上200ml/100g以下、リン重量において、吸油量が15ml/g以上とならず、吸油量が低くなる。このため、好ましくない。
これに対して、炭酸カルシウムの結晶子サイズが、40nm未満であると、全体重量において、吸油量が100ml/100g以上200ml/100g以下となり、リン重量において、吸油量が15ml/g以上となる。すなわち、炭酸カルシウム複合体が工業製品や生体製品に利用される場合に、上述した種々の問題を生じさせない高い吸油量を実現できる。
ここで、炭酸カルシウム複合体における炭酸カルシウムの結晶子サイズを40nm未満とするために、炭酸化工程での水酸化カルシウム水懸濁液の工程管理温度をコントロールする。
水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化工程を開始する際の温度が、工程管理温度である。この工程管理温度を30℃以下にコントロールすることで、得られる炭酸カルシウム複合体の含む炭酸カルシウムの結晶子サイズを40nm未満とできる。
工程管理温度が30℃を超える場合には、得られる炭酸カルシウム複合体の炭酸カルシウムの結晶子サイズは、40nm以上となってしまう。後述の実験結果でも説明するが、結晶子サイズが40nm以上となる場合には、炭酸カルシウム複合体の吸油量が、上述の量よりも小さくなり、工業製品や生体製品に利用される場合に、油漏れや皮脂吸着の悪さなどの問題を生じさせてしまう。
あるいは、炭酸カルシウムの結晶子サイズを40nm未満とするため、添加工程の添加期間が、炭酸化工程前から炭酸化率95%以下である炭酸化工程までであることが好適である。添加工程の添加期間がこの期間に収まることで、得られる炭酸カルシウム複合体の炭酸カルシウム結晶子サイズは、40nm未満となる。
添加工程が、この添加期間以外に行われる場合には、炭酸カルシウム複合体の炭酸カルシウムの結晶子サイズは、40nm以上となってしまう。この場合の問題は、上述の通りである。
(炭酸カルシウム複合体でのカルシウムとリンのモル比率)
上記の吸油量を実現するには、得られる炭酸カルシウム複合体が含む、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満であることが好ましい。製造される炭酸カルシウム複合体におけるカルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満であることで、全体重量において、吸油量が100ml/100g以上200ml/100g以下となり、リン重量において、吸油量が15ml/g以上となる。
逆に、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5未満あるいは500以上である場合には、炭酸カルシウム複合体の吸油量は、上述より低くなり、十分な吸油量を実現できなくなる。
製造される炭酸カルシウム複合体におけるカルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となるためには、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩の量が調整されればよい。すなわち、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となるように調整された量のリン酸またはリン酸塩が、添加工程で添加されればよい。
このように、カルシウムとリンのモル比率がコントロールされることで、製造される炭酸カルシウム複合体は、上述の高い吸油量を実現できる。結果として、この炭酸カルシウム複合体が、工業製品や生体製品に利用される場合に、上述したメリットを実現できる。
以上のように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩の添加比率がコントロールされて、本発明の炭酸カルシウム複合体が製造される。
ここで、リン酸またはリン酸塩は、正リン酸、リン酸ナトリウム塩、リン酸カリウム塩、リン酸アンモニウム塩などの水溶性リン酸塩、縮合リン酸、縮合リン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウムなどの水溶性縮合リン酸塩、水溶性の有機ホスホン酸化合物から選択される少なくとも1種以上である。これらのいずれか1種以上がリン酸またはリン酸塩として使用されることで、添加工程においてカルシウムとリンの反応物が生成されて、本発明の炭酸カルシウム複合体が製造される。
また、本発明の炭酸カルシウム複合体は、製造工程が簡略であるので、製造コストが低減でき、流通や利用において非常に好適である。
以上のように、実施の形態1における炭酸カルシウム複合体は、所定の製造工程や構造上の特徴を有することで、高い吸油量を実現できる。この吸油量は、全体重量において、100ml/100g以上200ml/100g以下であり、リン重量において、15ml/g以上である。
この高い吸油量を有する炭酸カルシウム複合体は、工業製品や生体製品に利用される場合に、油分の漏えいを防止したり、皮脂の吸着がよかったりするなどのメリットがある。また、高価で希少な物質であるリン1gあたりの吸油量を高めることで、環境負荷を低減しつつ低コストを実現できる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、実施の形態1で説明した炭酸カルシウム複合体における、発明者による実施例等について説明する。
まず、製作された実施例等の結果を確認するそれぞれの実験(結晶子サイズ、炭酸カルシウム複合体の吸油量、リン1gあたりの吸油量)方法について説明する。
(結晶子サイズの確認実験)
(実験方法)
実施の形態1において、炭酸カルシウム複合体の炭酸カルシウムの結晶子サイズは、X線回折で測定した上で、40nm未満であることが好ましい旨を説明した。実施の形態1で説明したように、炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム水懸濁液に、二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程で得られる。このとき、二酸化炭素ガスを添加する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度を、30℃以下とすることで、炭酸カルシウムの結晶子サイズを、40nm未満とできる。
この炭酸カルシウムの結晶子サイズは、(104)面反射によりJADEを用いて測定した。リガク社製のX線回折装置MultiFlexを用いた測定条件を下記に示す。
管球:Cu
単色化:モノクロメーター(Kα線)
電圧:40kV
電流:30mA
(104)面反射:ピークトップ10000カウント以上
(炭酸カルシウム複合体の吸油量の測定方法)
炭酸カルシウム複合体の吸油量が、本発明の炭酸カルシウム複合体の重要な要素である。この吸油量は、次の条件で測定された。
JIS K5101に準じて、試料2gを精秤し、添加した煮アマニ油量を小数点2桁まで読み取り、試料100gでの吸油量を算出した。
(炭酸カルシウム複合体の、リン1gあたりの吸油量)
本発明の炭酸カルシウム複合体は、高価で希少な物質であるリン1gあたりでの吸油量を高める(15ml/g以上)を実現する。このため、このリン1gあたりの吸油量を測定する必要があり、次の条件で測定した。
リン酸との反応後、脱水工程で排出されるろ液中のリン量をICP発光分析装置で確認したところ、リンの含有は見られず、得られた炭酸カルシウム複合体粉末中に、使用したリンのほとんどが存在していることを確認する。確認してから、使用したリンの量から炭酸カルシウム複合体中のリンの重量%を算出し、炭酸カルシウム複合体の吸油量をリンの重量%で除算して求めた。
(炭酸化工程での炭酸化率の測定方法)
炭酸化工程の所定の時期に水酸化カルシウム水懸濁液を微量採取する。この採取したものを、1mol/Lの塩酸滴定により炭酸化率を測定する。まず、フェノールフタレイン指示薬により、水酸化カルシウムと反応する塩酸量を求める。続いて、メチルオレンジ指示薬により、炭酸カルシウムと反応する塩酸量を求める。滴定した塩酸総量に対する炭酸カルシウムと反応した塩酸量を、100分率(%)で求め、炭酸化率とする。
以下、実施の形態1で説明した炭酸カルシウム複合体を、条件を変えつつ実際に製作した実施例等と、その結果について説明する。いずれも、実施の形態1において、吸油量の高い炭酸カルシウム複合体を得る場合の条件に沿ったそれぞれの実験を行う中で、実施例等を製作して確認した。
(実験その1:リン酸添加の効果の確認)
(実施例1)
実施例1としての炭酸カルシウム複合体は、次のように製造される。
(1)水酸化カルシウム水懸濁液の作製
自社製の消石灰に水を加えて水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。この水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化工程の際の工程管理温度を15℃とした(すなわち、反応開始前温度を15℃とした)。ここでは、水酸化カルシウム水懸濁液は、6wt%の水酸化カルシウムを含み、全体重量として400gである。
(2)炭酸化工程および添加工程
工程管理温度を15℃として、炭酸化工程を開始する。炭酸化工程が開始されてから4分後に、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が7に相当する量の正リン酸を添加する添加工程が実施される。この添加工程を行いながら炭酸化工程が継続される。この炭酸化工程開始4分後は、炭酸化率の測定の結果、炭酸化率は25%であった。
(3)脱水・乾燥工程
炭酸化工程が終了すると、脱水・乾燥工程が行われて、粉末状の炭酸カルシウム複合体が得られる。これが、実施例1の炭酸カルシウム複合体である。
(比較例1)
比較例1としての炭酸カルシウム複合体は、リン酸またはリン酸塩を添加しないこと以外は、実施例1と同じ製造工程で製造される。
(実施例1の構造の確認と結晶子サイズの確認)
実施例1の炭酸カルシウム複合体について、上述の実験方法で、その結晶子サイズが測定された。
図2は、本発明の実施の形態2における実施例1の炭酸カルシウム複合体のX線回折実験の結果を示すグラフである。X線回折では、炭酸カルシウムのピークが確認できる。さらには、リンとカルシウムの反応物のピークが確認できる。この結果から、炭酸カルシウムと、リンとカルシウムの反応物を含む炭酸カルシウム複合体であることが確認される。
更には、結晶子サイズを測定すると、結晶子サイズが30nmであり、40nm未満であることが確認された。
図3は、本発明の実施の形態2における実施例1の炭酸カルシウム複合体のSEM写真である。図3の写真から分かるとおり、実施例1の炭酸カルシウム複合体は、粉の一次粒子径が40nm未満である。
これに対して、図4のように比較例1の炭酸カルシウム複合体は、粉の一次粒子径が図3に比べて大きい。図4は、本発明の実施の形態2における比較例1の炭酸カルシウム複合体のSEM写真である。
(実験1の結果)
実験1の結果を表1に示す。
(実施例1の結果)
実施例1の炭酸カルシウム複合体について、脱水工程で排出されるろ液をICP発光分析装置で測定し、ろ液中にリンが残っていないことを確認し、使用したリンのほとんどが炭酸カルシウム複合体に含まれていることが確認された。
実施例1では、炭酸カルシウム複合体全体において、吸油量が128ml/100gであった。炭酸カルシウム複合体に含まれるリンにおいて、吸油量が28ml/gであった。炭酸カルシウム複合体全体での吸油量の基準値である100ml/100g以上200ml/100g以下を満たしている。同様に、リン重量での吸油量の基準値である15ml/g以上を満たしている(以下、この全体重量およびリン重量での基準値を、「吸油量基準値」という)。
実施例1の炭酸カルシウム複合体の炭酸カルシウムの結晶子サイズは、30nmであった。このため、炭酸カルシウム複合体に含まれる炭酸カルシウムの結晶子サイズの基準値(以下、「サイズ基準値」という)を満たしている。
(比較例1の結果)
比較例1の炭酸カルシウム複合体は、全体での吸油量が78ml/100gであった。リン酸を添加していないので、リン重量に対する吸油量は測定できない。このように、比較例1の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、吸油量基準値を下回って満たしていない。
また、比較例1の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、50nmであった。これもサイズ基準値を満たしていない。
(実験1のまとめ)
以上より、工程管理温度15℃での炭酸化工程、炭酸化率25%である4分後にモル比率(Ca/P)が7に相当する量の正リン酸を添加する添加工程により得られる実施例1は、吸油量基準値を十分に上回っていることが確認された。すなわち、実施の形態1で説明したようにリン酸またはリン酸塩を加える添加工程を備える製造工程で製造される炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を上回る吸油量を実現できる。この吸油量により、工業製品や生体製品への適切な利用ができる。
また、結晶子サイズがサイズ基準値を満たしていることで、吸油量が吸油量基準値を実現できることも確認された。
炭酸カルシウムの結晶子サイズが基準値を満たす小ささであることで、炭酸カルシウム複合体の集合体における表面積および油分を蓄える空間の総体積が、相対的に大きくなったと考えられる。また正リン酸として加えたリンのほとんどは、炭酸カルシウム複合体に含まれ、リンが有効活用されていると考えられる。リンの吸油性能が、添加したリンに対して効率的に発揮されている。
(実験2:リン酸またはリン酸塩の添加期間の違いによる確認)
次に、リン酸またはリン酸塩を添加する添加工程の添加期間の違いによって製造される炭酸カルシウム複合体についての確認実験を行った。実施の形態1で説明したように、添加工程でリン酸またはリン酸塩を添加する添加期間は、炭酸化工程前および炭酸化率95%以下の炭酸化工程中に掛かる期間である。実験2では、実施例2〜実施例4、比較例2のそれぞれで製造された炭酸カルシウム複合体を用いた。
(実施例2)
炭酸化工程前に、モル比率(Ca/P)が26となる正リン酸を、添加工程にて添加すること以外は、実施例1と同じ条件で、製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例2とする。
(実施例3)
炭酸化工程での炭酸化率39%の時点で、正リン酸を添加すること以外は、実施例2と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例3とする。
(実施例4)
炭酸化工程での炭酸化率91%の時点で、正リン酸を添加すること以外は、実施例2と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例4とする。
(比較例2)
炭酸化工程終了後に、正リン酸を添加すること以外は、実施例2と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、比較例2とする。なお、実施例3,4、比較例2のそれぞれで、添加される正リン酸のモル比率(Ca/P)は、実施例2と同じである。
(実験2の結果)
実験2の結果を表2に示す。
(実施例2の結果)
実施例2の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、20nmであった。また、実施例2の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において141ml/100gであり、リン重量において122ml/gであった。
実施の形態1で説明した添加期間である炭酸化工程前に正リン酸を添加することで、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例3の結果)
実施例3の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、23nmであった。また、実施例3の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において147ml/100gであり、リン重量において127ml/gであった。
実施の形態1で説明した添加期間である炭酸化率39%時点で、正リン酸を添加することで、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例4の結果)
実施例4の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、23nmであった。また、実施例3の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において153ml/100gであり、リン重量において132ml/gであった。
実施の形態1で説明した添加期間である炭酸化率95%時点で、正リン酸を添加することで、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(比較例2の結果)
比較例2の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、27nmであった。また、比較例2の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において93ml/100gであり、リン重量において80ml/gであった。
実施の形態1で説明した添加期間ではない、炭酸化工程終了後に正リン酸を添加して製造される炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たさないことが確認された。すなわち、炭酸化率95%までの炭酸化工程中に、リン酸またはリン酸塩を添加する必要があることが確認された。
(実験2のまとめ)
以上の実験2の結果より、リン酸またはリン酸塩を添加する添加期間は、実施の形態1で説明した通り、炭酸化工程前から炭酸化工程での炭酸化率95%時点までであることで、吸油量基準値を達成できることが確認された。
なお、この添加期間中において、複数回に分けてリン酸またはリン酸塩が添加されてもよい。
(実験3:リン酸またはリン酸塩の添加量の違いによる確認)
次に、リン酸またはリン酸塩を添加する添加工程の添加量の違いによって製造される炭酸カルシウム複合体についての確認実験を行った。実施の形態1で説明したように、添加工程でリン酸またはリン酸塩を添加する添加量は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が5以上500未満となる量である。
実験3では、実施例1、5〜9、比較例1、3、4のそれぞれで製造された炭酸カルシウム複合体を用いた。なお、実施例1、比較例1など、実験1、実験2ですでに使用しているものと同じ番号の例は、すでに説明したものと同じ例である。
(実施例5)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を13としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例5とする。なお、実施例1とCa/P以外は同じ条件であるので、正リン酸の添加時期を炭酸化反応開始後4分とした。この4分後の正リン酸の添加時の炭酸化率は、実施例1と同じくほぼ25%と判断できる。
(実施例6)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を26としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例6とする。
(実施例7)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を66としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例7とする。
(実施例8)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を132としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例8とする。
(実施例9)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を256としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例9とする。
(比較例3)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を4としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、比較例3とする。
(比較例4)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)を512としたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造された炭酸カルシウム複合体を、比較例4とする。
(実験3の結果)
実験3の結果を表3に示す。
(実施例1の結果)
実験1でも説明したが、実施例1の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、30nmであった。また、実施例1の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において128ml/100gであり、リン重量において28ml/gであった。すなわち、実施例1は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。このモル比率の範囲に入るモル比率が7である炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例5の結果)
実施例5の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、24nmであった。また、実施例5の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において141ml/100gであり、リン重量において62ml/gであった。実施例5は、吸油量基準値を満たす吸油量を有している。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。このモル比率の範囲に入るモル比率が13である炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例6の結果)
実施例6の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、22nmであった。また、実施例6の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において163ml/100gであり、リン重量において141ml/gであった。実施例6は、吸油量基準値を満たす吸油量を有している。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。このモル比率の範囲に入るモル比率が26である炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例7の結果)
実施例7の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、24nmであった。また、実施例7の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において140ml/100gであり、リン重量において311ml/gであった。実施例7は、吸油量基準値を満たす吸油量を有している。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。このモル比率の範囲に入るモル比率が66である炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例8の結果)
実施例8の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、28nmであった。また、実施例8の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において128ml/100gであり、リン重量において557ml/gであった。実施例8は、吸油量基準値を満たす吸油量を有している。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。このモル比率の範囲に入るモル比率が132である炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例9の結果)
実施例9の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、33nmであった。また、実施例9の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において130ml/100gであり、リン重量において1083ml/gであった。実施例9は、吸油量基準値を満たす吸油量を有している。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。このモル比率の範囲に入るモル比率が256である炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(比較例1の結果)
比較例1の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、50nmであった。また、比較例1の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において50ml/100gであり、リン重量において78ml/gであった。比較例1は、吸油量基準値を満たす吸油量を有していない。結晶子サイズも、サイズ基準値を満たしていない。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。比較例1は、そもそもリン酸またはリン酸塩を添加していないので、リンが添加されていない。このため、この5以上500未満とならない量のリン酸またはリン酸塩の添加では、製造される炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値もサイズ基準値も満たさないことが確認された。
(比較例3の結果)
比較例3の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、77nmであった。また、比較例3の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において93ml/100gであり、リン重量において14ml/gであった。比較例3は、吸油量基準値を満たす吸油量を有していない。結晶子サイズも、サイズ基準値を満たしていない。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。この範囲に入らないモル比率(Ca/P)が4となるリン酸またはリン酸塩の添加がなされて製造される炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値もサイズ基準値も満たさないことが確認された。
(比較例4の結果)
比較例4の炭酸カルシウム複合体での炭酸カルシウムの結晶子サイズは、42nmであった。また、比較例3の炭酸カルシウム複合体の吸油量は、全体重量において86ml/100gであり、リン重量において1458ml/gであった。比較例3は、吸油量基準値を満たす吸油量を有していない。結晶子サイズも、サイズ基準値を満たしていない。
実施の形態1で説明したように、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩は、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であることが好ましい。この範囲に入らないモル比率(Ca/P)が512となるリン酸またはリン酸塩の添加がなされて製造される炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値もサイズ基準値も満たさないことが確認された。
(実験3のまとめ)
カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であるように添加工程でリン酸もしくはリン酸塩が添加されて製造される炭酸カルシウム複合体は、サイズ基準値を満たしている。このサイズ基準値を満たす結晶子サイズであることで、この炭酸カルシウム複合体は、体積に対する表面積および油分を蓄える空間の総体積が相対的に大きくなる。この結果、この炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を実現できる。
一方で、このモル比率を満たさないで製造される炭酸カルシウム複合体は、サイズ基準値を満たしていない。このため、満たす炭酸カルシウム複合体に比べて、体積に対する表面積および油分を蓄える空間の総体積が相対的に小さくなる。結果として、吸油量基準値を満たす吸油量を実現できない。
実験3によって、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量であるように添加工程でリン酸もしくはリン酸塩が添加されることが好ましいことが確認された。
(実験4:工程管理温度の違いによる差)
次に、炭酸化工程を開始する際の工程管理温度の違いによって製造される炭酸カルシウム複合体についての確認実験を行った。実施の形態1で説明したように、工程管理温度は、30℃以下であることが好ましい。
実験4では、実施例10〜14、比較例5,6のそれぞれで製造された炭酸カルシウム複合体を用いた。
(実施例10)
工程管理温度を12℃としたこと以外は、実施例6と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例10とする。
(実施例11)
工程管理温度を15℃としたこと以外は、実施例10と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例11とする。
(実施例12)
工程管理温度を20℃としたこと以外は、実施例10と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例12とする。
(実施例13)
工程管理温度を25℃としたこと以外は、実施例10と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例13とする。
(実施例14)
工程管理温度を30℃としたこと以外は、実施例10と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、実施例14とする。
(比較例5)
工程管理温度を35℃としたこと以外は、実施例10と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、比較例5とする。
(比較例6)
工程管理温度を50℃としたこと以外は、実施例10と同じ条件(モル比率(Ca/P)が26、炭酸化工程開始4分後に添加工程を開始)で製造された炭酸カルシウム複合体を、比較例6とする。
(実験4の結果)
実験4の結果を表4に示す。
(実施例10の結果)
実施例10の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、21nmであった。また、実施例10の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において141ml/100gであり、リン重量において122ml/gであった。すなわち、実施例10は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲に入る12℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例11の結果)
実施例11の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、19nmであった。また、実施例11の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において141ml/100gであり、リン重量において122ml/gであった。すなわち、実施例11は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲に入る15℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例12の結果)
実施例12の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、25nmであった。また、実施例12の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において149ml/100gであり、リン重量において128ml/gであった。すなわち、実施例12は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲に入る20℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例13の結果)
実施例13の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、25nmであった。また、実施例13の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において145ml/100gであり、リン重量において125ml/gであった。すなわち、実施例13は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲に入る25℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(実施例14の結果)
実施例14の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、39nmであった。また、実施例14の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において104ml/100gであり、リン重量において90ml/gであった。すなわち、実施例14は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲に入る30℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値を満たす吸油量を有することが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。
(比較例5の結果)
比較例5の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、48nmであった。また、比較例5の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において92ml/100gであり、リン重量において79ml/gであった。すなわち、比較例5は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有していない。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲外である35℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値およびサイズ基準値を満たさないことが確認された。すなわち、この工程管理温度の範囲外で製造される炭酸カルシウム複合体は、必要とする吸油量を実現できない。
(比較例6の結果)
比較例6の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、54nmであった。また、比較例6の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において94ml/100gであり、リン重量において81ml/gであった。すなわち、比較例6は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有していない。
実施の形態1で説明したように、炭酸化工程を開始する際の水酸化カルシウム水懸濁液の温度である工程管理温度が、30℃以下であることが好ましい。この工程管理温度の指定範囲外である35℃及び50℃の工程管理温度で製造された炭酸カルシウム複合体は、吸油量基準値およびサイズ基準値を満たさないことが確認された。すなわち、この工程管理温度の範囲外で製造される炭酸カルシウム複合体は、必要とする吸油量を実現できない。
(実験4のまとめ)
実施例10〜14のそれぞれは、工程管理温度が30℃以下であり、これらから、工程管理温度が30℃以下であれば、サイズ基準値および吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が得られることが確認された。30℃の工程管理温度の実施例14も、サイズ基準値および吸油量基準値を満たしている。
しかしながら、実施例14では、30℃より低い工程管理温度での実施例10〜13に比較して、結晶子サイズはサイズ基準値に比較してぎりぎりである。更に、吸油量も実施例10〜13に比較して小さい。このため、比較例5、比較例6との結果を合わせると、工程管理温度は、30℃以下であることが、実験4から確認された。
また、比較例5、6の結果では、結晶子サイズが40nmを超えている。このような結晶子サイズになってしまうと、炭酸カルシウムの単位体積あたりの表面積や隙間である空間体積が小さくなり、吸油能力が下がることが確認された。
(実験5:水酸化カルシウム水懸濁液とリン酸またはリン酸塩の種類)
次に、水酸化カルシウム水懸濁液の由来と、添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩の種類により、得られる炭酸カルシウム複合体の違いについての実験を行った。実験5では、比較例1、2、実施例15〜22のそれぞれで製造された炭酸カルシウム複合体を用いた。
(実施例15)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
自社製の生石灰45gを70℃の水400gに添加して、実施例2と同じ6wt%濃度の水酸化カルシウム水懸濁液400gを作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
実施例2と同じく、工程管理温度15℃で炭酸化工程が実施された。同様に、炭酸化反応工程前に、カルシウムとリンのモル比率(Ca/P)が26となる正リン酸を添加する添加工程が実施された。
これらの炭酸化工程および添加工程を経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例15である。
(実施例16)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
水酸化カルシウム水懸濁液に試薬のヘキサメタリン酸ソーダ(HMS:(NaPO)をリン原料として添加して、6wt%濃度の水酸化カルシウム水懸濁液400gを作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
添加工程で添加されるものがリン酸塩であること以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程および添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例16である。
(実施例17)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
実施例16と同じ条件と原料で、水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
試薬のリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)を添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩としたこと以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程と添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例17である。
(実施例18)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
実施例16と同じ条件と原料で、水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
試薬のリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)を、添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩としたこと以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程と添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例18である。
(実施例19)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
実施例16と同じ条件と原料で、水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
試薬のリン酸三ナトリウムを、添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩としたこと以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程と添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例19である。
(実施例20)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
実施例16と同じ条件と原料で、水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
試薬のリン酸二水素カリウム(KHPO)を、添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩としたこと以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程と添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例20である。
(実施例21)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
実施例16と同じ条件と原料で、水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
試薬のリン酸水素二アンモニウム((NH)2HPO)を、添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩としたこと以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程と添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例21である。
(実施例22)
(水酸化カルシウム水懸濁液の作製)
実施例16と同じ条件と原料で、水酸化カルシウム水懸濁液を作製した。
(炭酸化工程および添加工程)
キレスト株式会社製の有機ホスホン酸キレート剤PH−210((C(PO)(OH))を、添加工程で添加するリン酸またはリン酸塩としたこと以外は、実施例2と同じ条件で炭酸化工程と添加工程が実施された。これらを経て製造された炭酸カルシウム複合体が、実施例22である。
(実験5の実験結果)
実験5の実験結果を表5に示す。
なお、表5における「乾式品」は、工業的に製造された消石灰粉末である。「湿式品」は、工業用生石灰に加水して、直接水懸濁液としたものである。
(実施例15の結果)
実施例15の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、20nmであった。また、実施例15の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において135ml/100gであり、リン重量において116ml/gであった。すなわち、実施例15は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
水酸化カルシウム水懸濁液は、生石灰から得られたものであっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例16の結果)
実施例16の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、23nmであった。また、実施例16の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において120ml/100gであり、リン重量において103ml/gであった。すなわち、実施例16は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてヘキサメタリン酸ソーダが用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例17の結果)
実施例17の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、19nmであった。また、実施例17の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において131ml/100gであり、リン重量において113ml/gであった。すなわち、実施例17は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてリン酸二水素ナトリウムが用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例18の結果)
実施例18の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、25nmであった。また、実施例18の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において119ml/100gであり、リン重量において103ml/gであった。すなわち、実施例18は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてリン酸二水素ナトリウムが用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例19の結果)
実施例19の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、30nmであった。また、実施例19の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において118ml/100gであり、リン重量において102ml/gであった。すなわち、実施例19は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてリン酸ナトリウムが用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例20の結果)
実施例20の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、17nmであった。また、実施例20の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において147ml/100gであり、リン重量において127ml/gであった。すなわち、実施例20は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてリン酸二水素カリウムが用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例21の結果)
実施例21の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、16nmであった。また、実施例21の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において148ml/100gであり、リン重量において128ml/gであった。すなわち、実施例21は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてリン酸水素アンモニウムが用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実施例22の結果)
実施例22の炭酸カルシウム複合体の結晶子サイズは、23nmであった。また、実施例22の炭酸カルシウム複合体の給油量は、全体重量において102ml/100gであり、リン重量において88ml/gであった。すなわち、実施例22は、吸油量基準値を満たす吸油量と、サイズ基準値を満たす結晶子サイズを有している。
添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩としてキレスト株式会社製の有機ホスホン酸キレート剤PH−210((C(PO)(OH))が用いられる場合であっても、吸油量基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。併せて、サイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
(実験5のまとめ)
水酸化カルシウム水懸濁液として、生石灰が水溶されたものでも吸油量基準値およびサイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。また、添加工程で添加されるリン酸またはリン酸塩として、正リン酸、リン酸ナトリウム塩、リン酸カリウム塩、リン酸アンモニウム塩などの水溶性リン酸塩、縮合リン酸、縮合リン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウムなどの水溶性縮合リン酸塩、水溶性の有機ホスホン酸化合物でも、吸油量基準値およびサイズ基準値を満たす炭酸カルシウム複合体が製造されることが確認された。
なお、HMS(ヘキサメタリン酸ソーダは、縮合リン酸塩の一つである。
以上、実施の形態2における実験1〜実験5によって、実施の形態1で説明した構造上の特性や製造上の特性が確認された。これらの確認により、本発明の炭酸カルシウム複合体は、高い吸油量を実現できる。特に、高価で希少な物質であるリン1gあたりの吸油量も高くでき、低コストで環境負荷の低い炭酸カルシウム複合体を実現できる。
また、実施の形態1、2で説明された炭酸カルシウム複合体が添加された組成物が種々に利用されてもよい。この組成物は、工業製品や生体製品である。例えば、顔料、化粧料、美容剤、歯磨き剤、塗料、研磨剤および研磨助剤のいずれかである。
このような組成物に、実施の形態1、2で説明された炭酸カルシウム複合体が利用されることで、高い吸油量を実現して、油漏れや皮脂との馴染みの悪さなどの従来技術の問題を解決できる。
なお、実施の形態1、2で説明した炭酸カルシウム複合体は、本発明を説明する一例であり、これらに限定されるとの意図ではない。

Claims (10)

  1. 炭酸カルシウムと、
    リンとカルシウムの反応物を含み、
    炭酸カルシウム複合体全体の重量に対する吸油量が、100ml/100g以上200ml/100g以下であり、
    リンの重量に対する吸油量が、15ml/g以上である、炭酸カルシウム複合体。
  2. 前記カルシウムと前記リンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満である、請求項1記載の炭酸カルシウム複合体。
  3. 前記炭酸カルシウムは、X線回折で測定した結晶子サイズが40nm未満である、請求項1または2記載の炭酸カルシウム複合体。
  4. 水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、
    添加期間において、前記水酸化カルシウム水懸濁液に、リン酸およびリン酸塩の少なくとも一方を添加する添加工程と、を含む製造工程で製造される、請求項1から3のいずれか記載の炭酸カルシウム複合体。
  5. 前記添加期間は、前記炭酸化工程前および炭酸化率が95%以下である前記炭酸化工程中を含む、請求項4記載の炭酸カルシウム複合体。
  6. 前記添加工程で添加されるリン酸およびリン酸塩の少なくとも一方の添加量は、前記カルシウムと前記リンのモル比率(Ca/P)が、5以上500未満となる量である、請求項4または5記載の炭酸カルシウム複合体。
  7. 前記炭酸化工程を開始する際の、前記水酸化カルシウム水懸濁液の工程管理温度が、30℃以下である、請求項4から6のいずれか記載の炭酸カルシウム複合体。
  8. 前記リン酸または前記リン酸塩は、正リン酸、リン酸ナトリウム塩、リン酸カリウム塩、リン酸アンモニウム塩などの水溶性リン酸塩、縮合リン酸、縮合リン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウムなどの水溶性縮合リン酸塩、水溶性の有機ホスホン酸化合物から選択される少なくとも1種以上である、請求項4から7のいずれか記載の炭酸カルシウム複合体。
  9. 請求項1から8のいずれか記載の炭酸カルシウム複合体が添加された組成物。
  10. 前記組成物は、顔料、化粧料、美容剤、歯磨き剤、塗料、研磨剤および研磨助剤のいずれかである、請求項9記載の組成物。
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