JP6032411B2 - リン酸第二鉄含水和物粒子粉末の製造方法 - Google Patents
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一方、正極材料として知られているオリビン型リン酸鉄リチウムはコバルト酸リチウムに匹敵する実用可能放電容量を有し、毒性も低く、地球上に豊富な元素のみからなるため安価・安定に供給できる可能性があり、有望な材料とされている。それ以外に、高い性能(高サイクル特性、低抵抗、高出力)を発現するためには正極材料が均一で適度な粒径を有する粒子である必要がある。それは粒径が大きく比表面積が低い材料を使用すると、電解液との反応面積が十分に確保できず、反応抵抗上昇により高出力とならず、粒度分布が広い材料を使用すると、電池容量低下により反応低下などを引き起こすためである。
特許文献6には、鉄(II)又は鉄(III)あるいは鉄(II)及び鉄(III)の混合物を5〜50%のリン酸と反応させ、酸化剤を添加することで鉄(II)を鉄(III)に変換する方法が記載されているが、反応は激しい撹拌を必要とし、得られるリン酸鉄(III)は非常に微細な一次粒子径を持つ。
特許文献7には、塩化鉄あるいは硫酸鉄の水溶液を用い、リン酸との反応時に界面活性剤を添加する方法が記載されており、ナノ粒子が得られている。
特許文献8では、緩衝液を使うことによりpH変動が小さく微粒で粒径の揃ったリン酸鉄粉末が得られることが記載されている。
これらの方法は硫酸鉄や塩化鉄を出発原料とするため、電池特性に悪影響を及ぼす硫酸塩あるいは塩化物を不純物として包含し、また、きわめて微細な粉末として得られる。微細性は正極材の導電性向上に作用するが、製造工程においては濾過漏れを起こしやすく作業性や効率が悪く、また、リン酸鉄リチウムとする際に、粉塵の発生や取り扱いにくいといった困難が生じる。
正極材には品質均一性、均一な電極膜の製造のため均一な粒度分布が求められ、その要求は前駆体としてのリン酸第二鉄においても同様に求められる。しかしながら、特許文献2の方法では、均一な粒度分布で安定して工業的に製造できないといった欠点を有する。
特許文献2では、リン酸第二鉄含水和物からリン酸鉄リチウムを製造する方法が示されており、リン酸第二鉄含水和物粒径が良好なリン酸鉄リチウムの製造に重要なことが示されており、均一で適度な粒径を有するリン酸鉄リチウムを得るためには、原料であるリン酸第二鉄含水和物も均一で適度な粒径を有する必要がある。しかし、工業的規模において粒径の整ったリン酸第二鉄含水和物の製造方法は開発されておらず、その方法が要求されている。
本発明は、リチウム二次電池等に用いることのできる安全性の高い正極材料のための中間体として有用な粒度が均一なリン酸第二鉄含水和物を提供するものである。
すなわち本発明は、下記に関するものである。
1)酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末とリン化合物とを溶液中で反応してリン酸第二鉄含水和物を製造する方法において、リン酸第二鉄含水和物を種晶として用いることを特徴とするリン酸第二鉄含水和物の製造方法に関するものである。
2)前記種晶の量が、酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末に対して0.005〜5質量パーセントであることを特徴とする前記 1)記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法に関するものである。
3)前記種晶のメジアン径D50が、5〜10μmであることを特徴とする前記1)または2)記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法に関するものである。
4)前記種晶の形状が、板状の一次粒子が凝集して二次粒子を構成することを特徴とする前記1)〜3)のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法に関するものである。
5)前記種晶が、メタストレング構造であることを特徴とする前記1)〜4)のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法に関するものである。
6)前記種晶の添加時の状態が粉体、又は、水もしくはリン化合物を含むスラリーであることを特徴とする前記1)〜5)いずれかに記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法に関するものである。
7)前記1)〜6)のいずれかによって製造されるリン酸第二鉄含水和物粒子粉末に関するものである。
8)前記リン酸第二鉄含水和物粒子粉末が、単峰性の粒度分布を有することを特徴とする前記7)記載のリン酸第二鉄含水和物粒子粉末に関するものである。
9)前記リン酸第二鉄含水和物粒子粉末の結晶構造がストレング石構造およびメタストレング石構造のうち少なくとも一種であることを特徴とする前記7)または8)に記載のリン酸第二鉄含水和物粒子粉末に関するものである。
10)前記リン酸第二鉄含水和物粒子粉末のメジアン径D50が5〜20μmであることを特徴とする前記7)〜9)のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水和物粒子粉末に関するものである。
本発明で製造されるリン酸第二鉄含水和物の組成は、FePO4・nH2O(0<n≦2、nは水和水の量)であり、二水和物が最も安定である。ただし水和水の量は乾燥条件により変化する。またリン酸第二鉄含水和物の結晶構造はストレング石構造およびメタストレング石構造のいずれかあるいは双方を含むものである。
本発明のリン酸第二鉄含水和物の製造は、BET比表面積が50m2/g以上の微細な酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末とリン化合物とを溶液中で60〜100℃の温度領域で撹拌しながら、モル換算でP/Fe比が1〜10の範囲、pH3以下、反応濃度0.1〜3.0mol/L(Fe濃度換算)で反応することが望ましく、反応条件にもよるが、板状の一次粒子が凝集した二次粒子からなり、比表面積の大きな結晶となる。種晶として用いる結晶もこのような反応によって得られる結晶が好ましい。
酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末は反応前にヘンシェルミキサー、らいかい機、ハイスピードミキサー、万能攪拌機、ボールミル等の乾式および湿式混合機を用いて粉砕もしくは解砕を行い、リン化合物を含む水溶液と混合する。
種晶の添加方法は、添加する種晶の状態が粉体、又は、水もしくはリン化合物を含むスラリーであることが望ましい。
リン酸第二鉄含水和物の製造は、種晶を添加しない場合、微細な粒子と粗大な粒子が生成し広い粒度分布となりリン酸鉄リチウムの前駆体として有用とならない。種晶の添加量、粒度、形状、結晶形等を適宜選択することにより、単峰性でシャープな粒度分布のリン酸第二鉄含水和物が得られ、リン酸鉄リチウムとなったときにも均一性の高い粒子となる。
本発明で製造されるリン酸第二鉄含水和物は、製造条件にもよるが平均二次粒子径は5〜20μmの範囲となり、リン酸鉄リチウムの前駆体として望ましい粒度となる。
平均二次粒子径は、レーザー回折・散乱型粒度分布計Microtrac MT330EXII(日機装製)を用い、メジアン径D50、D90、Dmaxを測定した。
粒子の結晶構造はX線回折装置RINT2200(理学電機製)を用い、Cu−Kα,40kV,20mAにより測定した。
粒子の形状観察は走査型電子顕微鏡JSM−5310(日本電子製)を用い、観察した。
含水酸化鉄粒子は、3mmφジルコニアボールを用い、水溶液中で湿式粉砕した。
加熱式混合攪拌機に湿式粉砕を行った含水酸化鉄粒子29kgと純水511kgを懸濁した。85%オルトリン酸溶液を138kg、種晶(D50=8μm)29gを加え、85℃まで昇温し、6時間加熱反応した。反応混合物を放冷後、溶媒を除去、水洗浄した後、110℃で乾燥し、乳白色粉末51kgを得た。
粉末X線回折を行い、メタストレング石(phosphosiderite)構造であることを確認し、ストレング石(strengite)構造や不純物相は確認されなかった。得られたX線回折を図1に示す。
また走査型電子顕微鏡撮影による二次粒子形状は薄板状粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子であり、各二次粒子径のサイズが揃っていた。レーザー回折法による粒子径測定の結果は、D50が7μmであった。得られた粉末の粒度分布図を図2に示すが、単峰性の粒度分布であった。また、走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
含水酸化鉄粒子は、サイクロンミル150W(月島機械製)を用い、乾式粉砕した。
加熱式混合攪拌機に乾式粉砕を行った含水酸化鉄粒子29kgを純水511kgに懸濁した。85%オルトリン酸溶液を138kg、種晶(D50=8μm)29gを加え、85℃まで昇温し、6時間加熱反応した。反応混合物を放冷後、溶媒を除去、水洗浄した後、110℃で乾燥し、乳白色粉末47kgを得た。
粉末X線回折を行い、メタストレング石(phosphosiderite)構造であることを確認し、ストレング石(strengite)構造や不純物相は確認されなかった。得られたX線回折を図1に示す。
また走査型電子顕微鏡撮影による二次粒子形状は薄板状粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子であり、レーザー回折法による粒子径測定の結果は、D50が7μmであった。得られた粉末の粒度分布図を図4に示すが、単峰性の粒度分布であった。また、走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
含水酸化鉄粒子は、サイクロンミル150W(月島機械製)を用い、乾式粉砕した。
加熱式混合攪拌機に乾式粉砕を行った含水酸化鉄粒子29kgを純水511kgに懸濁した。85%オルトリン酸溶液を138kg、種晶(D50=5μm)145gを加え、85℃まで昇温し、6時間加熱反応した。反応混合物を放冷後、溶媒を除去、水洗浄した後、110℃で乾燥し、乳白色粉末47kgを得た。
粉末X線回折を行い、メタストレング石(phosphosiderite)構造であることを確認し、ストレング石(strengite)構造や不純物相は確認されなかった。得られたX線回折を図1に示す。
また走査型電子顕微鏡撮影による二次粒子形状は薄板状粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子であり、レーザー回折法による粒子径測定の結果は、D50が7μmであり、また、単峰性の粒度分布であった。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。
含水酸化鉄粒子は、3mmφジルコニアボールを用い、水溶液中で湿式粉砕した。
加熱式混合攪拌機に湿式粉砕を行った含水酸化鉄粒子29kgを純水511kgに懸濁した。85%オルトリン酸溶液を138kg加え、85℃まで昇温し、6時間加熱反応した。反応混合物を放冷後、溶媒を除去、水洗浄した後、110℃で乾燥し、乳白色粉末54kgを得た。
粉末X線回折を行い、メタストレング石(phosphosiderite)構造であることを確認し、ストレング石(strengite)構造や不純物相は確認されなかった。得られたX線回折を図7に示す。
また走査型電子顕微鏡撮影による二次粒子形状は薄板状粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子であったが、微細粒子と大粒子の混在したものであった。レーザー回折法による粒子径測定の結果は、D50が16μmであったが、微細粒子と大粒子の混在したものであった。得られた粉末の粒度分布図を図8に示すが、分布幅が広く双峰性の粒度分布であった。また、走査型電子顕微鏡写真を図9に示す。
含水酸化鉄粒子は、サイクロンミル150W(月島機械製)を用い、乾式粉砕した。
加熱式混合攪拌機にD90が6μm、Dmaxが19μmの乾式粉砕を行った含水酸化鉄粒子29kgを純水511kgに懸濁した。85%オルトリン酸溶液138kgを加え、85℃まで昇温し、6時間加熱反応した。反応混合物を放冷後、溶媒を除去、水洗浄した後、110℃で乾燥し、乳白色粉末51kgを得た。
粉末X線回折を行い、メタストレング石(phosphosiderite)構造であることを確認し、ストレング石(strengite)構造や不純物相は確認されなかった。得られたX線回折を図7に示す。
また走査型電子顕微鏡撮影による二次粒子形状は薄板状粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子であったが、微細粒子と大粒子の混在したものであった。レーザー回折法による粒子径測定の結果は、D50が12μmであったが、分布幅が広く双峰性の粒度分布であった。また、得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。
Claims (6)
- 酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末とリン化合物とを溶液中で反応してリン酸第二鉄含水和物を製造する方法において、
モル換算でP/Fe比が1〜10の範囲、反応濃度0.1〜3.0mol/L(Fe濃度換算)で反応し、リン酸第二鉄含水和物を種晶として用い、種晶の量が酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末に対して0.005〜5質量パーセントであり、種晶のメジアン径D50が5〜10μmであることを特徴とする製造方法であって、
板状の一次粒子が凝集した二次粒子からなり、メジアン径D50が5〜20μmであるリン酸第二鉄含水和物を製造する方法。 - 前記種晶の形状が、板状の一次粒子が凝集して二次粒子を構成することを特徴とする請求項1に記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法。
- 前記種晶が、メタストレング石構造であることを特徴とする請求項1または2に記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法。
- 前記種晶の添加時の状態が粉体、又は、水もしくはリン化合物を含むスラリーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水和物の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法であって、単峰性の粒度分布を有するリン酸第二鉄含水和物粒子粉末の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法であって、結晶構造がストレング石構造およびメタストレング石構造のうち少なくとも一種であるリン酸第二鉄含水和物粒子粉末の製造方法。
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