JP2017105909A - 有機汚染物質の浄化剤、有機汚染物質の浄化方法及び有機汚染物質の浄化剤の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
これらの有機汚染物質は、人や生態系に対して毒性を有することに加えて、安定性が高いものが多い。これにより、これらの物質は、土壌等に残留し、食物連鎖等で生物の体内に蓄積しやすく、安全性の高い物質まで確実に処理することが難しい。
例えば、特許文献1には、平均粒径が0.1〜100 μmの範囲にある鉄微粒子と平均粒径が5〜50 nmの範囲にあるシリカ微粒子とが還元電解水中に分散された水性懸濁液からなる、有機汚染物質で汚染された土壌を浄化するための土壌浄化剤が記載されている。同文献には、この土壌浄化剤が有機ハロゲン化物等の汚染物質を還元分解する旨、記載されている。
また、特許文献2には、鉄微粒子を含有する鉄微粒子スラリーを含む液によりベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族化合物(汚染物質)により汚染された土壌を還元等により無毒化、あるいは無毒化後除去する土壌浄化方法が記載されている。同文献には、さらに、気泡剤を用いて、鉄微粒子の周囲に気泡を付着させて鉄微粒子を分散させる旨、記載されている。
さらに、特許文献3には、鉄とニッケルの合金からなるスラリー状の鉄粉を用いて有機塩素化合物で汚染された土壌を浄化する金属還元剤が記載されている。
そこで、より確実に処理することが可能な、還元力の高い浄化剤及び浄化方法が求められている。
気泡中に不活性ガスを含むウルトラファインバブル水と、
上記ウルトラファインバブル水中に分散された、鉄を含む還元性ナノ微粒子と、
を含有する有機汚染物質の浄化剤である。
この浄化剤によれば、鉄を含む還元性微粒子がナノサイズで非常に微小であるため、有機汚染物質との反応性を高めることができる。さらに、この還元性ナノ微粒子をウルトラファインバブル水中に分散させることにより、還元性ナノ微粒子の凝集を抑制して有機汚染物質との反応性をさらに高めることができ、還元力の非常に高い有機汚染物質の浄化剤を提供することができる。
具体的に、上記鉄以外の金属は、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金のうちの少なくともいずれか一つを含んでいてもよい。
これにより、還元性ナノ微粒子の還元力を高めることができる。
上記鉄以外の金属は、上記コアの外周面に付着していてもよい。
このような還元性ナノ微粒子は、鉄からなるナノ微粒子上に鉄以外の金属を付着させることで、比較的容易に生成することができる。
このような濃度により、還元力の非常に高い浄化剤を容易に生成することができる。
これにより、有機汚染物質との反応性をより高めることができる。
これにより、比較的安価で、かつ安全にウルトラファインバブル水を生成することができる。
このように高い密度で気泡を有するウルトラファインバブル水により、反応性をより高めることができる。
これにより、ウルトラファインバブルとナノ微粒子との凝集を防止することができる。
気泡中に不活性ガスを含むウルトラファインバブル水と、上記ウルトラファインバブル水中に分散された、鉄を含む還元性ナノ微粒子と、を含有する浄化剤を準備するステップと、
上記浄化剤と有機汚染物質とを混合し、反応させるステップと、を含む。
上記浄化方法によれば、鉄を含む還元性微粒子がナノサイズで非常に微小であるため、有機汚染物質との反応性を高めることができる。さらに、この還元性ナノ微粒子をウルトラファインバブル水中に分散させることにより、還元性ナノ微粒子の凝集を抑制して有機汚染物質との反応性をさらに高めることができ、有機汚染物質を非常に高い還元力で分解することができる。
鉄を含む還元性ナノ微粒子を準備するステップと、
気泡中に不活性ガスを含むウルトラファインバブル水を準備するステップと、
上記ウルトラファインバブル水中に還元性ナノ微粒子を分散させるステップと、
を含む。
本発明は、有機汚染物質を還元することで浄化する浄化剤及び浄化方法等を提供するものであり、鉄を含む還元性ナノ微粒子をウルトラファインバブル水中に分散させることで、非常に高い還元力を実現したものである。以下、詳細について説明する。
本発明における有機汚染物質とは、残留性有機汚染物質(POPs: Persistent Organic Pollutants)をはじめとする人体や生態系に有害な有機物質である。有機汚染物質としては、例えば、有機ハロゲン化合物、6価クロム、シアン化物、芳香族化合物等を挙げることができる。有機汚染物質の具体例としては、3,4,4',5−テトラクロロビフェニール、3,3',4,4'−テトラクロロビフェニール、3,3',4,4',5−ペンタクロロビフェニール、2,3,3',4,4'−ペンタクロロビフェニール、2,3,4,4',5−ペンタクロロビフェニール、2,3',4,4',5−ペンタクロロビフェニール、2',3,4,4',5−ペンタクロロビフェニール等のポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ベンゼン、ビフェニル、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m− ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等のジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン等のトリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、ペンタクロロベンゼン(PeCB)、クロロビフェニル1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロジフルオロエタン、ペンタクロロフェノール、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCBs)等のダイオキシン類等が挙げられる。
図1は、本発明の浄化剤100の模式的な拡大図である。
本発明の浄化剤100は、ウルトラファインバブル水10と、鉄を含む還元性ナノ微粒子20と、を含有する有機汚染物質の浄化剤である。これらを組み合わせることにより、鉄を含む還元性ナノ微粒子20の還元力を高め、上記有機汚染物質を、易分解性でより安全な物質まで還元することができる。
ウルトラファインバブル水10とは、水などの液体中にウルトラファインバブル11を含むものをいう。本発明で用いる液体は、典型的には超純水等の水であるが、本発明の効果を妨げない限り、その他の液体であってもよい。
ウルトラファインバブル11とは、ナノバブルとも言われ、直径1 μm以下の微細な気泡をいう。本発明のウルトラファインバブル11は、例えば直径500 nm以下、さらに直径80 nm以上120 nm以下であってもよい。なお、以下の説明において、ウルトラファインバブルを、単に「気泡」と称することもあるものとする。
ウルトラファインバブル水10は、気泡(ウルトラファインバブル)11中に不活性ガスを含む。不活性ガスは、反応性の低いガスであれば特に限定されず、例えば、窒素、アルゴン、キセノン、クリプトン、ヘリウム等を含んでいてもよい。例えば、窒素を用いることにより、安全かつ比較的安価にウルトラファインバブル水10を生成することができる。
ウルトラファインバブル水10は、例えば、1 mLあたり10億(1 x 108)個以上の気泡(ウルトラファインバブル)11を含んでいてもよい。このような高密度の気泡を含むことで、後述する還元性ナノ微粒子の凝集を抑制し、浄化剤としての還元力をより高めることができる。また、ウルトラファインバブル水10は、溶存酸素の濃度を非常に低くすることができ、例えばこの濃度を3.00 mg/L以下にすることができる。
還元性ナノ微粒子20とは、粒径1 μm以下の微粒子をいう。還元性ナノ微粒子20は、例えば50 nm以上100 nm以下の平均粒径を有していてもよい。
還元性ナノ微粒子20は、鉄を含む。これにより、ナノ微粒子20に還元性を付与することができる。
還元性ナノ微粒子20は、鉄と、鉄以外の金属とを含んでいてもよい。鉄としては、0価鉄を用いることができる。鉄以外の金属としては、例えば、第10族及び第11族の金属が挙げられ、具体的には、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金のうちのいずれか一つを含んでいてもよい。これにより、還元力を高めることができる。特にニッケルは、使用規制がなく、安価であるため、好ましい。
鉄以外の金属の質量は、鉄の質量に対して、例えば0.1質量%以上1.0質量%以下であってもよい。
還元性ナノ微粒子20は、例えば、鉄からなるコア21を有し、鉄以外の金属は、コア21の外周面に付着していてもよい。図1の符号22は、鉄以外の金属を示す。このような構成により、2種類以上の金属からなるナノ微粒子20を比較的容易に生成することができる。
本発明の還元性ナノ微粒子20は強還元性であり、この脱酸素水溶液中の酸化還元電位は、-400 mV以下、さらに-600 mV以下とすることができる。
ウルトラファインバブル水10中における還元性ナノ微粒子20の濃度は、特に限定されないが、例えば5 g/L以上50 g/L以下であればよい。これにより、浄化剤としても十分な還元力を発揮することができる。
本発明の浄化剤は、界面活性剤をさらに含有していてもよい。これにより、ウルトラファインバブルとナノ微粒子との凝集を防止することができる。
界面活性剤は、浄化剤中、例えば、0.05μM以上1.0μM以下含まれていてもよい。
また、界面活性剤は、例えば非イオン性界面活性剤であってもよい。これにより、生態系への影響が少ない浄化剤を提供することができる。
本発明の浄化剤は、本発明の作用を妨げない限りにおいて、他の材料を含んでいてもよい。
例えば、浄化剤は、NaNO3,NaH2PO4,Na2SO4等のナトリウム塩、その他の塩を含んでいてもよい。このような塩を0.5〜3.0%程度添加することにより、ナノバブル水中の溶存酸素の濃度をより低下させることができるとともに、ナノバブル(気泡)の安定性を高めることができる。
図2は、本発明に係る有機汚染物質の浄化剤の製造方法を示すフローチャートである。
同図に示すように、本発明に係る浄化剤の製造方法は、還元性ナノ微粒子を準備するステップ(S11)と、ウルトラファインバブル水を準備するステップ(S12)と、ウルトラファインバブル水中に還元性ナノ微粒子を分散させるステップ(S13)と、を含む。以下、各ステップについて説明する。
還元性ナノ微粒子は、譲渡、購入等により準備してもよいし、生成してもよい。還元性ナノ微粒子を生成する場合は、例えば以下のように行うことができる。
まず、硫酸第1鉄等の2価鉄イオンを含む水溶液を還元する。還元には、例えば、硫酸第1鉄水溶液にホウ化水素を加え、室温で攪拌する。続いて、1 μm以下の所定の径を有するフィルタを用いて還元後の反応液を濾過し、硫酸や脱イオン水等で濾過物を洗浄する。これにより、鉄からなるナノ微粒子が生成される。以上の各ステップは、嫌気的条件下で行われる。さらに、鉄からなるナノ微粒子の懸濁液に、嫌気的条件下で、鉄以外の金属イオンを含む溶液を注入することで、鉄と鉄以外の金属とを含むナノ微粒子が生成される。また、このような方法により生成されたナノ微粒子は、鉄からなる中心部と、中心部を被覆し鉄以外の金属からなる被覆部とを有する。
ウルトラファインバブル水も、譲渡、購入等により準備してもよいし、生成してもよい。ウルトラファインバブル水を生成する場合は、例えば以下のように行うことができる。
超純水等の水を準備し、この水に不活性ガスを導入して気泡を生成する。このとき、例えば、1 mLあたり10億個以上の気泡(ウルトラファインバブル)を含む高密度のウルトラファインバブル水を生成してもよい。気泡の生成方法は、例えば、せん断方式(ベンチュリー方式、旋回流方式等)、加圧溶解方式、圧壊方式、超音波方式、微細孔方式、電解方法、固体包理方法等、ファインバブルの発生方法として公知の方法のうちの1種、又は複数種を組み合わせたものとすることができる。
本ステップでは、例えば、嫌気性条件下で、準備したウルトラファインバブル水中に所定量の還元性ナノ微粒子を混合する。これにより、例えば、還元性ナノ微粒子の濃度が5 g/L以上50 g/L以下となるような有機汚染物質の浄化剤を製造することができる。
図3は、本発明に係る浄化剤を用いた浄化方法を示すフローチャートである。
同図に示すように、本発明に係る浄化方法は、上記浄化剤を準備するステップ(S21)と、浄化剤と有機汚染物質とを混合し、反応させるステップ(S22)と、を含む。以下、各ステップについて説明する。
浄化剤は、上述の製造方法に基づいて生成することができる。
有機汚染物質は、例えば、水系の汚染物質でもよいし、土壌汚染物質でもよい。水系の汚染物質の場合は、汚染物質を含む液体と上記浄化剤とを反応槽等で混合し、所定条件の下で反応させる。また、土壌の場合は、土壌に直接浄化剤を混合し、反応させてもよいし、土壌を採取し、反応槽等で浄化剤と混合し、反応させてもよい。土壌に直接浄化剤を混合する場合は、浄化剤が混合された土壌上に養生シート等を被せて反応させてもよい。また、採取した土壌を用いる場合は、この土壌に水等の液体を加えた懸濁液に浄化剤を混合してもよい。
本ステップは、常温で行うことができる。ここでいう常温は、例えば10℃〜40℃程度、さらに20℃〜30℃程度の温度であり、加熱を必要としない温度とする。これにより、加熱のための設備を必要とせず、有機汚染物質の浄化を容易に行うことができる。
また、本ステップは、振とうしながら反応させてもよい。これにより、浄化剤と有機汚染物質との反応性を高めることができる。
有機汚染物質と浄化剤との割合は、予想される汚染の程度や汚染物質の量、所望の浄化時間等に応じて、適宜決定することができる。
反応時間は特に限定されないが、例えば1時間〜2週間程度、さらに24時間〜1週間程度とすることができる。
以上のように、本発明の浄化剤及びそれを用いた浄化方法によれば、微細な還元性ナノ微粒子により、有機汚染物質との反応性を高めることができる。さらに、このナノ微粒子をウルトラファインバブル水中に分散させることにより、ナノ微粒子の凝集を抑制でき、反応性をより高め、ナノ微粒子の還元力を高めることができる。
その結果、対象とする有機汚染物質の濃度を低減させるのみならず、当該有機汚染物質を、易分解性で安全性の高い物質まで還元し、分解できる。
以下、本発明の実施例を挙げて、より詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1の浄化剤として、ウルトラファインバブル水と、還元性ナノ微粒子とを含有する浄化剤を製造した。
まず、還元性ナノ微粒子を以下のように生成した。すなわち、硫酸第1鉄水溶液にホウ化水素を加え、室温で攪拌し、0.45 μm径のフィルタで反応液をろ過した。続いて、この濾過物を硫酸と脱イオン水で濾過物を洗浄し、洗浄された微粒子にさらに塩化ニッケルを注入して反応させた。これにより、上記還元性ナノ微粒子が生成された。このナノ微粒子を、動的光散乱法(DLS: Dynamic Light Scattering)及びX線回折法(XRD: X-ray diffraction)によって、粒子サイズ及び分子構造を同定したところ、鉄からなる中心部と、ニッケルからなる被覆部とからなる構造を有し、平均粒径が80 μm程度であることが確認された。また、ニッケルの質量は、鉄の質量に対して0.5質量%であった。また、この還元性ナノ微粒子は、酸化還元電位が-658 mVであり、強還元性であることが確認された。
続いて、ウルトラファインバブル水を生成した。ウルトラファインバブル水は、「ナノクイック(登録商標)」(株式会社ナノクス製)を用いて、純水に窒素ガスを導入し、せん断方式によって生成された。このウルトラファインバブル水の気泡の密度は、14.9 x 108/ mLであることが確認された。また、溶存酸素濃度は2.81 mg/Lであった。
最後に、還元性ナノ微粒子の濃度が20 g/ L(0.1 g/ 5 mL)となるように、ウルトラファインバブル水と還元性ナノ微粒子とを混合した。さらに、界面活性剤として、非イオン性界面活性剤であるTriton X-100を0.2 μM添加した。これにより、実施例1の浄化剤が製造された。
比較例1として、超純水(SPW)に、20 g/ L(0.1 g/ 5 mL)の還元性ナノ微粒子を混合し、さらに、界面活性剤として、Triton X-100を0.2 μM添加した浄化剤を製造した。還元性ナノ微粒子は、実施例1と同様のものを用いた。
まず、有機汚染物質として、塩素含有率の高いPCBsの一つとして知られるKC-500(鐘淵化学株式会社製)を準備した。KC-500は、48%の5塩化ビフェニル、33%の6塩化ビフェニル、14%の4塩化ビフェニル、5%の7塩化ビフェニル、残余として微量の他の塩化ビフェニルを含み、この主成分は5塩化ビフェニル及び6塩化ビフェニルである。PCBsは、ビフェニル骨格に付加された塩素数が多くなるに従い、ビフェニル骨格に対する求核剤等からの攻撃を受け難くなる。このため、塩素数の比較的多いKC-500は、PCBsの中でも、安定性の高い分解処理が非常に難しい物質である。
そして、実施例1及び比較例1の浄化剤(液体)に、KC-500が5 mg/ Lとなるように加え、本試験例のサンプルを生成した。
さらに、コントロールとして、実施例1の浄化剤にKC-500を添加しないもの(「ネガティブコントロール」と称する)と、ウルトラファインバブル水にKC-500とTriton X-100とを上記濃度で添加し、還元性ナノ微粒子を混合していないもの(「ポジティブコントロール」と称する)と、を準備した。
各サンプルについて、4.9 mLの反応液を充填した反応容器を3個ずつ準備し、反応を開始した。これらの反応容器には、ヘッドスペースがほぼない状態であった。反応温度は30℃とした。また、反応時間は、計58時間であり、170 rpmで反転させながら15時間反応させ、その後170 rpmで回転させながら38時間反応させた。
反応終了後、各サンプルの反応液中のKC-500の濃度を測定した。測定には、エレクトロンキャプチャディテクタ付きガスクロマトグラフ(GC-ECD)を用いた。さらに分解代謝物の同定にはガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いた。ガスクロマトグラフ条件(GC conditions)と、質量分析条件(MS conditions)とは、後述する(表2参照)。
同図に示すように、ウルトラファインバブル水にTriton X-100を加えたポジティブコントロールでは、KC-500の濃度が5 mg/ Lを維持しており、KC-500を分解できないことが示唆された。
比較例1は、分解率が84.4%であり、KC-500を分解できることが確認されたが、サンプル間で分解率のバラつきが大きかった。
一方、実施例1は、分解率が96.0%であり、比較例1よりも高い分解率であり、さらにサンプル間のバラつきもほとんど見られなかった。
続いて、試験例1の結果を確認するため、実施例1、比較例1、ネガティブコントロール及びポジティブコントロールを用いて、同様の脱塩素分解試験を行った。
実施例1、比較例1、ネガティブコントロール及びポジティブコントロールは、試験例1と同様に生成した。但し、本試験例において、各サンプルに用いた還元性ナノ微粒子は、0.1 μm径フィルタで濾過した後、ウルトラファインバブル水50 mLで1回洗浄したものとした。ウルトラファインバブル水は、ナノバブルの密度が24.0 x 108/ mLであることが確認された。
有機汚染物質は、試験例1と同様のKC-500(鐘淵化学(株)製)を準備した。
また、反応条件も試験例1と同様の条件を適用した。具体的には、実施例1及び比較例1の浄化剤(液体)並びにポジティブコントロールに、それぞれKC-500を5 mg/ Lとなるように加えた。各サンプルについて、4.9 mLの反応液を充填した反応容器を3個ずつ準備し、反応を開始した。これらの反応容器には、ヘッドスペースがほぼない状態であった。反応温度は30℃とした。また、反応時間は、計62時間であり、170 rpmで回転させながら反応させた。
同図に示すように、実施例1のサンプルは、最も多くの塩素イオンを脱離できることが確認された。一方、比較例1のサンプルも、塩素イオンを多く脱離できたものの、実施例1には及ばなかった。また、KC-500が添加されていないネガティブコントロールも、わずかに塩素イオンが検出されたが、これは還元性ナノ微粒子中に含まれていた塩素イオンが検出されたものと考えられる。
すなわち、図5の結果から、62時間後の実施例1又は比較例1の塩素イオン濃度と、62時間後のネガティブコントロールの塩素イオン濃度の差が、還元反応によってKC-500から脱離した塩素イオンの濃度であると推定される。KC-500から脱離した塩素イオンの濃度を、以下、「分解塩素イオン濃度」と称する。
以下の表1に、実施例1及び比較例1各々の分解塩素イオン濃度と、2.7 mg/Lを100%とした反応開始62時間後のKC-500の脱塩素化率を示す。脱塩素化率は、以下の式(1)により算出した。
(脱塩素化率) = (分解塩素イオン濃度[mg/L])/ 2.7 [mg/L] x 100 …(1)
同表の結果より、比較例1は80%程度の脱塩素化率であるが、実施例1は100%を超えていた。すなわち、実施例1の浄化剤により、KC-500を100%脱塩素化できることが確認された。
同図に示すように、還元性ナノ微粒子を含有しない、ウルトラファインバブル水にTriton X-100を加えたポジティブコントロールでは、KC-500の濃度が5 mg/ Lに近い濃度であり、やはりKC-500をほとんど分解できないことが確認された。このことから、ウルトラファインバブル水のみでは、KC-500に対する還元力はほぼないことが確認された。
比較例1は、分解率が99.5%であり、62時間反応させることでKC-500をほぼ全量分解できることが確認された。
一方、実施例1は、分解率が99.7%であり、比較例1よりも高い分解率であった。
最後に、実施例1及び比較例1のKC-500の分解代謝物について検討するため、反応後の比較例1の超純水と、反応後の実施例1のウルトラファインバブル水にそれぞれ含まれる分解代謝物を検出した。検出には、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いた。ガスクロマトグラフ条件(GC conditions)と、質量分析条件(MS conditions)とは、以下の表2に示す条件を適用した。
すなわち、ガスクロマトグラフ(GC)には、Agilent 7890B GC(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。カラム(Column)は、内計(I.D)が60 m x 0.25 mmのキャピラリーカラム(HT8-PCBs)を用いた。加熱プログラム(Oven program)は、120℃から310℃まで、同表に記載のように加熱した。注入温度プログラム(Inlet temp program)は、280℃とした。キャリアガス(carrier gas)は、ヘリウム(He)を用い、1.0 mL/分の一定流量に制御した。注入方法(Injection)は、パージガスを70 mL/分、1.2分間流しながら、スプリットレス注入法(Splitless)で試料を2 μL注入した。
また、質量分析(MS)には、Agilent 5977A MSD(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。イオン化法(Ionization)は、電子イオン化(EI: Electron Ionization)を用い、イオン化電圧を70eVとした。トランスファーライン(Transfer line)、イオン源(Ion source)、四極子(Quadru pole)の温度は、それぞれ、310℃、280℃、150℃とした。検出モード(detect mode)は、スキャン(Scan)モードと選択イオンモニタリング(Selected ion monitoring: SIM)モードとを同時に行うモードとした。モニタするイオンのm/z値(monitor ion m/z)は、29-500の範囲をスキャンし(Scan)、同表に挙げた各m/z値について分析した。
その結果、比較例1の超純水からは、PCBsが脱塩素されたビフェニルと、ビフェニルに1塩素が付加された2−クロロビフェニルとが検出されたが、実施例1のウルトラファインバブル水からは、2−クロロビフェニル及びビフェニルは検出されず、ビフェニルがさらに還元されたシクロヘキシルベンゼンが検出された。これにより、実施例1の浄化剤は、比較例1よりもさらに還元力が強いことが確認された。
図7は、試験例3の結果を説明するための模式的な図である。
同図に示すように、ウルトラファインバブル水に替えて超純水を用いた比較例1の分解代謝物は、KC-500が分解された2−クロロビフェニル(2-Chlorobiphenyl)と、この2−クロロビフェニルが分解されたビフェニル(Biphenyl)とを含んでいた。
一方、ウルトラファインバブル水を用いた実施例1の分解代謝物は、2−クロロビフェニル、ビフェニルは検出されず、それらがさらに還元分解されたシクロヘキシルベンゼン(Cyclohexylbenzene)を含んでいた。
ビフェニルは、比較的安定な構造を有するが、シクロヘキシルベンゼンは、同図に示すように、ビフェニルのベンゼン環の一方がシクロへキサン環となっており、不安定な構造を有する。このため、シクロヘキシルベンゼンは、さらに還元が進んだビシクロヘキシルや、炭化水素等の状態まで分解されやすい。不安定な化合物は、生分解性が高いため、生態系に対してもより安全性が高いと考えられる。
以上より、本発明によれば、還元性ナノ微粒子と、ウルトラファインバブル水を混合することにより、非常に高い還元力を発揮・維持し、安全性の高い易分解性の物質まで確実に処理することが可能な浄化剤を提供することができる。
11…気泡(ウルトラファインバブル)
20…還元性ナノ微粒子
21…中心部
22…被覆部
100…浄化剤
Claims (13)
- 気泡中に不活性ガスを含むウルトラファインバブル水と、
前記ウルトラファインバブル水中に分散された、鉄を含む還元性ナノ微粒子と、
を含有する有機汚染物質の浄化剤。 - 請求項1に記載の浄化剤であって、
前記還元性ナノ微粒子は、鉄と、鉄以外の金属とを含む
浄化剤。 - 請求項2に記載の浄化剤であって、
前記鉄以外の金属は、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金のうちの少なくともいずれか一つを含む
浄化剤。 - 請求項2又は3に記載の浄化剤であって、
前記鉄以外の金属の質量は、前記鉄の質量に対して、0.1質量%以上1.0質量%以下である
浄化剤。 - 請求項2から4のうちのいずれか1項に記載の浄化剤であって、
前記還元性ナノ微粒子は、前記鉄からなるコアを有し、
前記鉄以外の金属は、前記コアの外周面に付着する
浄化剤。 - 請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の浄化剤であって、
前記還元性ナノ微粒子の濃度は、5 g/L以上50 g/L以下である
浄化剤。 - 請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の浄化剤であって、
前記還元性ナノ微粒子は、50 nm以上100 nm以下の平均粒径を有する
浄化剤。 - 請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の浄化剤であって、
前記不活性ガスは、窒素である
浄化剤。 - 請求項1から8のうちのいずれか1項に記載の浄化剤であって、
前記ウルトラファインバブル水は、1 mLあたり10億個以上の気泡を有する
浄化剤。 - 請求項1から9のうちのいずれか1項に記載の浄化剤であって、
界面活性剤をさらに含有する
浄化剤。 - 気泡中に不活性ガスを含むウルトラファインバブル水と、前記ウルトラファインバブル水中に分散された、鉄を含む還元性ナノ微粒子と、を含有する浄化剤を準備し、
前記浄化剤と有機汚染物質とを混合し、反応させる
有機汚染物質の浄化方法。 - 請求項11に記載の浄化方法であって、
前記反応させるステップは、常温で反応させる
浄化方法。 - 鉄を含む還元性ナノ微粒子を準備し、
気泡中に不活性ガスを含むウルトラファインバブル水を準備し、
前記ウルトラファインバブル水中に還元性ナノ微粒子を分散させる
有機汚染物質の浄化剤の製造方法。
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