以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
燃料電池セルは、燃料極としてのアノード極と酸化剤極としてのカソード極とによって電解質膜を挟んで構成されている。燃料電池セルでは、水素を含有するアノードガスがアノード極に供給される一方で、酸素を含有するカソードガスがカソード極に供給されて、これらガスを用いることで発電が行われる。アノード極及びカソード極の両電極において発電時に進行する主な電極反応は、以下の通りである。
アノード極:2H2 → 4H++4e- (1)
カソード極:4H++4e-+O2 →2H2O (2)
これら(1)及び(2)の電極反応によって、燃料電池セルは1V(ボルト)程度の起電力を生じる。
図1は、本発明の一実施形態における燃料電池セル10の断面図である。
図1に示すように、燃料電池セル10は、膜電極接合体(MEA)11と、MEA11を挟むように配置されるアノードセパレータ12及びカソードセパレータ13と、を備える。
MEA11は、電解質膜111と、アノード極112と、カソード極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード極112を有しており、他方の面側にカソード極113を有している。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
アノード極112は、触媒層112Aとガス拡散層112Bとを備える。触媒層112Aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子により形成された部材であって、電解質膜111と接するように設けられる。ガス拡散層112Bは、触媒層112Aの外側に配置される。ガス拡散層112Bは、ガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスで形成された部材であって、触媒層112A及びアノードセパレータ12と接するように設けられる。
アノード極112と同様に、カソード極113も触媒層113Aとガス拡散層113Bとを備える。触媒層113Aは電解質膜111とガス拡散層113Bとの間に配置され、ガス拡散層113Bは触媒層113Aとカソードセパレータ13との間に配置される。なお、本実施形態における「触媒被毒」とは、アノード極112の触媒層112Aやカソード極113の触媒層113Aにおいて、これらの表面に触媒作用を低下させる硫黄酸化物等の触媒毒が吸着されることを言う。
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112Bの外側に配置される。アノードセパレータ12は、アノード極112にアノードガス(水素ガス)を供給するための複数のアノードガス流路121を備えている。アノードガス流路121は、溝状通路として形成されている。
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113Bの外側に配置される。カソードセパレータ13は、カソード極113にカソードガス(空気)を供給するための複数のカソードガス流路131を備えている。カソードガス流路131は、溝状通路として形成されている。
アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。なお、アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、これらガスの流れ方向が同じ向きに流れるように構成されてもよい。
このような燃料電池セル10を自動車用電源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池セル10を積層した燃料電池スタック1として使用する。そして、燃料電池スタック1にアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システム100を構成して、車両を駆動させるための電力を取り出す。
図2は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、電力システム4と、インピーダンス計測装置5と、コントローラ6と、を備える。
燃料電池スタック1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。燃料電池スタック1は、電力を取り出す出力端子として、アノード極側端子1Aと、カソード極側端子1Bと、を有している。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、水分回収装置(WRD;Water Recovery Device)27と、カソード調圧弁28と、を備える。カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外部に排出する。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21の一端はフィルタ23に接続され、他端は燃料電池スタック1のカソードガス入口に接続される。
カソードガス排出通路22は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22の一端は燃料電池スタック1のカソードガス出口部に接続され、他端は開口端として形成される。カソードオフガスは、カソードガスや電極反応によって生じた水蒸気等を含む混合ガスである。
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込まれるカソードガスに含まれる塵や埃等を除去する部材である。
エアフローセンサ24は、フィルタ23とカソードコンプレッサ25との間のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。なお、カソードガス供給通路21には、圧力センサ等の図示しない他のセンサ類が設けられても良い。
カソードコンプレッサ25は、エアフローセンサ24よりも下流側のカソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21内のカソードガスを圧送して燃料電池スタック1に供給する。
WRD27は、カソードガス供給通路21とカソードガス排出通路22とに跨って接続される。WRD27は、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分を用いてカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を調整する。
次に、アノードガス給排装置3について説明する。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給して循環させつつ、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスをカソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、エゼクタ34と、アノードガス循環流路35と、パージ通路36と、水素循環ポンプ37と、パージ弁38と、を備える。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する容器である。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池スタック1に供給する通路である。アノードガス供給通路32の一端は高圧タンク31に接続され、他端はエゼクタ34に接続される。なお、アノードガス供給通路32には、例えばアノードガスの圧力を検出するアノード圧力センサ等の計測装置を設けられていても良い。
アノード調圧弁33は、高圧タンク31よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を調整する。
エゼクタ34は、アノードガス供給通路32とアノードガス循環流路35の連結部に設けられる。エゼクタ34は、高圧タンク31からのアノードガス、及び燃料電池スタック1のアノード極112から排出されるアノードガスをアノードガス循環流路35で再循環させる。
アノードガス循環流路35は、燃料電池スタック1のアノード極入口とアノード極出口の間でアノードガスを循環させる通路である。
パージ通路36は、アノードガス循環流路35からアノードオフガスを排出する通路である。パージ通路36の一端はアノードガス循環流路35に接続され、他端はカソードガス排出通路22に接続されている。なお、パージ通路36とアノードガス循環流路35の接続部にアノードオフガス等を一時的に貯留するバッファタンクを設けても良い。
水素循環ポンプ37は、アノードガス循環流路35内でアノードガスを循環させる動力源として機能する。
パージ弁38は、パージ通路36に設けられる。パージ弁38は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス循環流路35からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスのパージ流量を制御する。
パージ弁38が開弁状態となるパージ制御が実行されると、アノードオフガスは、パージ通路36及びカソードガス排出通路22を通じて外部に排出される。この時、アノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合される。このようにアノードオフガスとカソードオフガスとを混合させて外部に排出することで、混合ガス中の水素濃度が排出許容濃度以下の値に設定される。
電力システム4は、電流センサ51と、電圧センサ52と、走行モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、補機類57と、を備える。
電流センサ51は、燃料電池スタック1を構成する各燃料電池セル10の電流密度を検出する。本実施形態では、燃料電池セル10ごとに検出される電流密度の平均値を「セル電流密度Icell」とする。なお、平均値ではなく、中央値や任意の代表値を「セル電流密度Icell」としても良い。また、電流センサ51は、この「セル電流密度Icell」に基づき、燃料電池スタック1の出力電流を算出する。
電圧センサ52は、燃料電池スタック1の出力電圧、つまりアノード極側端子1Aとカソード極側端子1Bの間の端子間電圧を検出する。特に、電圧センサ52は、各燃料電池セル10の電圧を検出するように構成されている。本実施形態では、燃料電池セル10ごとに検出される電圧の平均値を「セル電圧Vcell」とする。なお、平均値ではなく、中央値や任意の代表値を「セル電圧Vcell」としても良い。また、燃料電池セル10ごとの電圧の検出値の総和が、燃料電池スタック1の出力電圧Vstとなる。
走行モータ53は、三相交流同期モータであって、車輪を駆動するため駆動源である。走行モータ53は、燃料電池スタック1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能と、を有する。
インバータ54は、IGBT等の複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によってスイッチング制御され、これにより直流電力が交流電力に、又は交流電力が直流電力に変換される。走行モータ53を電動機として機能させる場合、インバータ54は、燃料電池スタック1の出力電力とバッテリ55の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換し、走行モータ53に供給する。これに対して、走行モータ53を発電機として機能させる場合、インバータ54は、走行モータ53の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換し、バッテリ55に供給する。
バッテリ55は、燃料電池スタック1の出力電力の余剰分及び走行モータ53の回生電力が充電されるように構成されている。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じてカソードコンプレッサ25等の補機類や走行モータ53に供給される。
DC/DCコンバータ56は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機である。DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御することで、燃料電池スタック1の出力電流等が調整される。
補機類57は、カソードコンプレッサ25、カソード調圧弁28、アノード調圧弁33、及びパージ弁38等の燃料電池スタック1の発電電力やバッテリ55の電力を消費する機器である。
インピーダンス計測装置5は、燃料電池スタック1の出力電圧及び出力電流に基づいて燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを計測する装置である。具体的に、インピーダンス計測装置5は、燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧が所定周波数を有する交流信号を含むように燃料電池スタック1の出力を制御し、この時検出される出力電圧値及び出力電流値に基づいて内部インピーダンスZを算出する。さらに、インピーダンス計測装置5は、計測した内部インピーダンスZをコントローラ6に出力する。
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ6には、インピーダンス計測装置5、エアフローセンサ24、電流センサ51、及び電圧センサ52等の各種センサからの信号の他、図示しないアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ等のセンサからの信号が入力される。
さらに、コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード調圧弁33の開度、カソード調圧弁28の開度、及びカソードコンプレッサ25の出力等を制御し、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスやカソードガスの圧力や流量を調節する。
また、コントローラ6は、走行モータ53の要求電力や補機類57の要求電力、バッテリ55の充放電要求等に基づいて、目標出力電力を算出する。さらに、コントローラ6は、燃料電池スタック1内の湿潤状態等に応じた電圧と電流の関係を規定するIV特性を記憶しており、このIV特性を参照して目標出力電力に基づき燃料電池スタック1の目標出力電流を算出する。そして、コントローラ6は、燃料電池スタック1の出力電流が目標出力電流となるように、DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御し、走行モータ53や補機類に必要な電流を供給する制御を行う。
さらに、本実施形態でコントローラ6は、触媒被毒が生じている場合に、燃料電池スタック1の出力電圧やカソードコンプレッサ25の空気流量を調節することで触媒被毒からの回復操作を行う。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。本実施形態に係る触媒劣化判定方法では、特に、あるセル電流密度Icell範囲において、セル電圧Vcellと、いわゆるHFR(High Frequency Resistance)値と、の間の相関関係に基づいて、触媒被毒等に起因する触媒劣化を判定する。特に、HFR値は、燃料電池スタック1の湿潤状態を示す湿潤度wとの間に図3のマップに示す相関関係があることが知られている。具体的には、HFR値が増加するほど、湿潤度wが低下する(燃料電池スタック1内の電解質膜111が乾燥する)関係にある。すなわち、本実施形態では、セル電圧VcellとHFR値の関係に基づいて触媒劣化を判定することで、実質的に、燃料電池スタック1の湿潤状態に応じて触媒劣化を判定することとなる。
図4は、本実施形態による触媒劣化判定方法の流れを説明するフローチャートである。なお、コントローラ6は、本フローチャートで示すルーチンを任意に定められた所定時間ごとに繰り返す。
ステップS10において、コントローラ6は、電圧センサ52により検出される現在のセル電圧Vcell、及び現在の燃料電池スタック1の出力電圧Vst、及び電流センサ51により検出される現在のセル電流密度Icellを取得する。
ステップS20において、コントローラ6は、エアフローセンサ24で検出された空気流量を取得する。
ステップS30において、コントローラ6は、燃料電池スタック1のHFR値を取得する。具体的には、インピーダンス計測装置5は、燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧に数kHz以上の十分に大きな周波数ωHの交流信号を含むように、燃料電池スタック1の出力電流を制御するDC/DCコンバータ56を制御し、検出される出力電流及び出力電圧に基づいて内部インピーダンスZ(ωH)をHFR値として算出する。そして、コントローラ6は、このHFR値をインピーダンス計測装置5から受信する。
ステップS40において、コントローラ6は、ステップS10で取得したセル電流密度Icellが所定値I0より大きいか否かを判定する。ここで、所定値I0は、本実施形態に係る触媒劣化判定方法を実行することが可能なセル電流密度Icellの上限値として設定される値である。より詳細には、セル電流密度Icellが所定値I0よりも大きくなると、燃料電池スタック1に相対的に高い負荷が生じている状態となり、セル電圧Vcellを変化させる要因が増える。これにより、意図しないセル電圧Vcellのばらつきが生じ、本実施形態において想定されるセル電圧VcellとHFR値の間の相関関係が得られにくくなる。したがって、上記所定値I0は、このような事態を防止する観点から定める。なお、所定値I0は、燃料電池セル10の個体差など要因に応じても変わりうるので、特定の値に限定されるものではないが、一例として0.3A/cm2程度に設定することができる。
したがって、コントローラ6は、セル電流密度Icellが所定値I0より大きいと判定した場合には、触媒劣化の推定を行うことなく、本ルーチンを終了する。一方で、セル電流密度Icellが所定値I0以下であると判定された場合には、ステップS50に進む。
ステップS50において、コントローラ6は、乖離電圧dVを算出する。以下、この乖離電圧差ΔVの算出について詳細を説明する。
図5は、乖離電圧dVを算出する流れを示すフローチャートである。
ステップS51において、コントローラ6は、燃料電池システム100の初回起動時等の燃料電池スタック1の触媒劣化前における基準運転時のIV曲線を読み出す。なお、このIV曲線は、ある特定のHFR値を仮定した場合の曲線である。
ステップS52において、コントローラ6は、ステップS51で取得した基準運転時のIV曲線に、ステップS10において取得したセル電流密度Icellを適用することで、基準電圧Vstdを求める。
さらに、ステップS53において、コントローラ6は、ステップS53で求めた基準電圧Vstdと上記ステップS10で取得した現在のセル電圧Vcellとの差の絶対値を乖離電圧dVとして算出する。
ここで、上記乖離電圧dVを算出する意義について説明する。
図6は、HFR値と燃料電池セル10のIV特性との関係を示すグラフである。なお、上記基準運転時のIV曲線C1は、図6において破線で示している。また、図に実線で示すIV曲線C2は、触媒劣化が生じていないと仮定した場合において、基準運転時からHFR値が増加した場合(燃料電池セル10がより乾燥した場合)における燃料電池セル10のIV特性を示している。
図示のように、燃料電池スタック1のIV特性は、燃料電池スタック1のHFR値の大小に応じて変化する。具体的に、HFR値が増加するほど、燃料電池スタック1のIV特性を示す曲線における同じセル電流密度に対するセル電圧の値が小さくなる傾向にある。
具体的に、セル電流密度Icellを固定すると、基準運転時におけるIV曲線C1のセル電圧は基準電圧Vstdをとり、HFR増加後のIV曲線C2のセル電圧は、基準電圧Vstdよりも小さいセル電圧Vcell´を取っている。
そして、図6を参照すると、上記セル電圧Vcell´と基準電圧Vstdの差として定義される理論的な乖離電圧dVthは、HFR値が増加するにつれて大きくなることがわかる。
ここで、本発明者らは、特に所定値I0以下の電流密度領域においては、セル電圧の変動をもたらす要因であるガス圧力変化等の影響を無視でき、乖離電圧dVが実質的にHFR値より強く相関することを見出している。したがって、燃料電池スタック1の現在の運転状態におけるセル電圧Vcellに基づいてHFR値ごとの乖離電圧dVを算出すれば、当該算出された乖離電圧dVを、理論的な乖離電圧dVthと対比することで、セル電圧の低下をもたらす触媒劣化を判定することができる。この点の詳細は後述する。したがって、コントローラ6は、上記乖離電圧dVと併せて、上記理論的な乖離電圧dVthも算出しておく。
図4に戻り、ステップS60において、コントローラ6は、所定時間前から現在までの間に回復処理が行われたかどうかを判定する。ここで、回復処理とは、触媒劣化により燃料電池スタック1の特性が低下した場合に、当該触媒劣化を回復して燃料電池スタック1の特性の回復を図る処理である。この回復処理については、後に詳細に説明する。なお、回復処理が行われたかどうかの判定は、後述する回復操作フラグの有無を確認することにより行われる。
上記回復処理が行われていないと判定されると、ステップS70において、上記ステップS54で算出した乖離電圧dVと理論的な乖離電圧dVthとの差|dV−dVth|が、所定の許容値ΔV1よりも大きいか否かが判定される。この許容値ΔV1は、計測誤差や回復処理の頻度等の種々の要素を考慮して、触媒劣化が生じていないと判定するための閾値として、理論的な剥離電圧dVthからの実際の乖離電圧dVのずれを加味した最大の値として設定される。この許容値ΔV1は、例えばコントローラ6の記憶装置に記憶されている。
ここで、乖離電圧差|dV−dVth|と許容値ΔV1を比較する意義について説明する。
図7は、HFR値、理論的な剥離電圧dVth、及び実際の乖離電圧dVの関係を説明するグラフである。なお、図においては、曲線C3は、HFR値と理論的な乖離電圧dVthとの関係を表しており、各プロットは、各HFR値に応じた実際の乖離電圧dVを表している。
図示のように、各プロットが表す実際の乖離電圧dVは、基本的にはHFR値と理論的な乖離電圧dVthとの関係を表す曲線C3に沿っている。しかしながら、触媒劣化が生じると、燃料電池スタック1があるHFR値をとった場合に、乖離電圧dVが曲線C3上の乖離電圧dVthから大きく外れる(図7のプロットPを参照)。したがって、このときの理論的な乖離電圧差|dV−dVth|と、触媒劣化が生じているかどうかの指標として定めた許容値ΔV1とを比較することで、触媒劣化を高精度に検出することができる。
したがって、本実施形態では、乖離電圧差|dV−dVth|が許容値ΔV1以下である場合には、触媒劣化は生じていないと判定して本ルーチンを終了する。一方で、乖離電圧差|dV−dVth|が許容値ΔV1よりも大きい場合には、ステップS80においてコントローラ6は、触媒劣化が生じていると判定する。
なお、乖離電圧差|dV−dVth|と許容値ΔV1の大小を比較して触媒劣化を判定することに代えて、乖離電圧ΔVと、触媒劣化の観点から乖離電圧ΔVの大きさとして許容される最大の値である許容乖離電圧dVth+ΔV1を、コントローラ6の記憶装置等に記憶させておき、乖離電圧ΔVと許容乖離電圧dVth+ΔV1の大小を比較して触媒劣化判定を行うようにしても良い。
図4に戻り、ステップS80において、触媒劣化が生じていると判定されると、ステップS90の回復処理に進む。
図8は、本実施形態に係る回復処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS91において、コントローラ6は、燃料電池スタック1の出力電圧Vst、セル電流密度Icell、及び走行モータ53による要求電力等の要素に基づいて、燃料電池システム100が、アイドルストップが可能な状態であるかどうかを判定する。ここで、アイドルストップとは、燃料ガスを効率的に利用するために、例えば低負荷走行時等に、燃料電池スタック1による発電を停止するか又は発電量を大幅に低減してバッテリ55を走行モータ53の主駆動源とするか、又は減速時等で走行モータ53を回生モードとする運転状態を意味する。
アイドルストップが可能ではないと判定されると、触媒劣化の回復操作が行われることなく、本処理を終了する。すなわち、この場合は、次回、燃料電池スタック1にアイドルストップが可能な状態となった際に回復操作が持ち越されることとなる。一方、アイドルストップが可能であると判定されると、ステップS92に進む。
ステップS92において、コントローラ6は、所定時間の間、燃料電池スタック1の高電位運転を行う。具体的に、コントローラ6は、燃料電池スタック1の出力電圧Vstを上昇させるべく、DC/DCコンバータ56により出力電流(セル電流密度Icell)を維持した状態で、カソードコンプレッサ25の出力を向上させる等して供給空気流量を増加させ発電量を増加させる。
すなわち、このように発電量を増加させることによって、燃料電池スタック1内における電気化学反応(式(1)及び式(2))がより進行し、燃料電池スタック1内の生成水が増加することとなる。したがって、上記電気化学反応の進行に伴い触媒毒が酸化されるとともに、生成水の増加により触媒層112A、113Aにおける触媒表面に吸着された触媒毒が洗い流され、触媒被毒が解消される効果が得られる。
ここで、燃料電池スタック1の発電量、すなわち燃料電池スタック1の出力電圧Vstを高くするほど、回復操作に必要な時間が減少することとなる。したがって、触媒劣化の回復操作を行う時間は、燃料電池スタック1の出力電圧Vst(セル電圧Vcell)の高さに応じて決定される。
図9は、セル電圧Vcellの値ごとの回復操作に必要な時間と回復率との関係の一例を示したグラフである。なお、図9においては、セル電圧Vcellが0.95V、0.9V、0.85V、及び0.8Vであるときにおける回復操作に必要な時間と回復率との関係を、それぞれグラフG1、グラフG2、グラフG3、及びグラフG4として表している。図9から明らかなように、設定されるセル電圧Vcellが高いほど、所望の回復率に至るまでの回復操作時間が短くなることがわかる。
したがって、セル電圧Vcellは、燃料電池スタック1の構成部品が許容できる限り高く設定することが好ましい。また、このセル電圧Vcellの増加に応じて、燃料電池スタック1への供給空気流量をカソードコンプレッサ25の出力を向上させるなどして適宜、調節する。
なお、燃料電池スタック1内の生成水を増加させる方法は、上述した供給空気流量を増加させることに限られず、例えば、燃料電池スタック1内の温度を減少させること、アノードガス循環流路35内の水素濃度を上昇させること、又はガス圧力を上昇させること、などが挙げられる。
図8に戻り、ステップS93において、コントローラ6は、ステップS92の回復操作が実行されることを示す回復操作フラグを設定する。なお、コントローラ6は、この回復操作フラグを、予め設定された所定時間の経過によって消滅させる。すなわち、回復操作フラグは所定時間のみ維持されることとなる。
図4に戻り、上記ステップS60において所定時間以内、すなわち回復操作フラグが維持されている間に回復処理が実行されたと判定されると、ステップS100においてコントローラ6は、乖離電圧差|dV−dVth|が、閾値ΔV2よりも大きいか否かを判定する。この閾値ΔV2は、所定時間以内に行った回復操作に対して乖離電圧差|dV−dVth|が、想定よりも高くなっているか否かという観点から定められる値である。すなわち、閾値ΔV2は、触媒に回復不能な不逆的触媒劣化が生じているかどうかを判定するための乖離電圧差|dV−dVth|の閾値である。
したがって、コントローラ6は、乖離電圧差|dV−dVth|が閾値ΔV2以下である場合には、不可逆的触媒劣化は生じていないと判定して本ルーチンを終了する。一方で、乖離電圧差|dV−dVth|が閾値ΔV2よりも大きい場合には、ステップS110において、不可逆的触媒劣化が生じていると判定する。なお、この閾値ΔV2は、上述したステップS80で行われる触媒劣化判定で用いられる許容値ΔV1と同じ値に設定しても良いし、異なる値に設定しても良い。
そして、ステップS110において不可逆的触媒劣化が生じていると判定されると、ステップS120において、コントローラ6は、上記不可逆的触媒劣化によるセル電圧Vcellの触媒劣化幅ΔVdegを算出する。
図10Aは、不可逆触媒劣化前後の燃料電池セル10のIV特性の一例を示すグラフである。図において、不可逆触媒劣化前の燃料電池セル10のIV特性C4を破線で示しており、不可逆触媒劣化後の燃料電池セル10のIV特性C5を実線で示している。
図示のように、不可逆触媒劣化後の燃料電池セル10のIV特性C5は、不可逆触媒劣化前の燃料電池セル10のIV特性C4と比較して発電電力(電流密度×セル電圧)が低下している。したがって、セル電流密度Icellの値をある値に固定した場合、セル電圧Vcellの値に差が生じることとなる。本実施形態では、この差をセル電圧触媒劣化幅ΔVdegとして算出する。
なお、図10Aから理解されるように、セル電流密度Icellがある電流密度I1以上の領域においては、セル電流密度Icellの値にかかわらず、不可逆触媒劣化前後においてセル電圧触媒劣化幅ΔVdegは略一定である。すなわち、特性C5は、特性C4を縦軸に沿って略平行移動したグラフになっている。これは、不可逆触媒劣化前後で燃料電池セル10のセル抵抗が略等しいことを意味する。したがって、電流密度I1以上の任意のセル電流密度Icellにおいて、不可逆触媒劣化前後のセル電圧Vcellの差をセル電圧触媒劣化幅ΔVdegとすることができる。
さらに、本実施形態においては、上記ステップS110において触媒の不可逆触媒劣化が生じている場合に、走行モータ53等の燃料電池スタック1に対する負荷による要求出力電力と、当該要求出力電力に基づいて定まる発電電流(出力電流)と、の間にずれが生じることが想定される。
より詳細には、走行モータ53等の負荷に応じて要求出力電力が定まると、その要求出力電力に基づいてDC/DCコンバータにより燃料電池スタック1から取り出される電流である出力電流が定まることとなる。しかしながら、触媒の不可逆触媒劣化が生じていることで、図10Aにおいて説明したように燃料電池セル10のIV特性が低下していると、燃料電池スタック1の所望の要求出力電力に対して、本来必要となる燃料電池スタック1の出力電流の値が変わってしまうことが想定される。
図10Bは、不可逆触媒劣化前後の燃料電池セル10における要求出力電力と必要な出力電流との関係を示すグラフである。なお、図10Bに示すグラフは、実質的に図10Aに示す特性C4、C5を積分して得られるグラフである。そして、図において、不可逆触媒劣化前の燃料電池スタック1における要求出力電力と出力電流との関係を表す曲線C6を破線で示しており、不可逆触媒劣化後の燃料電池スタック1における要求出力電力と出力電流との関係を表す曲線C7を実線で示している。
図の例において、走行モータ53等の燃料電池スタック1に対する負荷により定まるある要求出力電力Preqに対して、不可逆触媒劣化前の燃料電池スタック1では出力電流Iout1を取り出す必要があるのに対して、不可逆触媒劣化後の燃料電池スタック1では出力電流Iout1よりも大きい出力電流Iout2を取り出す必要がある。
このように、不可逆触媒劣化によって所望の要求出力電力Preqに対して、必要な出力電流の値が変わる事態が生じるので、本実施形態では、上記ステップS110において不可逆的触媒劣化が生じていると判定された場合には、ある要求出力電力Preqに対応する出力電流(目標出力電流)を、その値が増大(図の例ではIout1からIout2)するように補正する。これにより、触媒の不可逆的触媒劣化が生じた場合であっても、所望の要求出力電力Preqを実現するように、適切に出力電流を定めることができる。
以上のように説明した触媒劣化判定方法により、高精度に触媒劣化が生じていることを判定することができるとともに、それが回復可能な触媒被毒による触媒劣化である場合には、適切に回復処理を行うことができる。さらに、不可逆触媒劣化によって所望の要求出力電力Preqに対して、必要な出力電流の値が変わる事態が生じる場合には、当該出力電流を補正して、所望の要求出力電力Preqを実現することができる。
以上、説明した本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、コントローラ6は、電解質膜111及び電解質膜111の両面に電気化学反応を促進する触媒層112A、113Aを含む電極112、113からなる膜電極接合体11を含む燃料電池(燃料電池セル)において、触媒層112A、113Aにおける触媒劣化を検出する。そして、本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、コントローラ6は、触媒劣化前における、燃料電池セル10の電流密度(セル電流密度Icell)が所定値I0以下である場合における電圧(セル電圧の基準電圧Vstd)と、燃料電池セル10の湿潤状態(HFR値)と、の関係である劣化前電圧−湿潤状態関係(図6、図7)を取得する。また、コントローラ6は、燃料電池セル10の現在における、燃料電池セル10のセル電流密度Icellが所定電流密度I0以下である場合の電圧(セル電圧Vcell)と、燃料電池セル10の湿潤状態(HFR値)と、の関係である現在電圧−湿潤状態関係(図6、図7)を取得する。さらに、コントローラ6は、劣化前電圧−湿潤状態関係と現在電圧−湿潤状態関係との比較の結果に基づいて、触媒が触媒劣化しているか否かを判定する。
すなわち、コントローラ6は、上記劣化前電圧−湿潤状態関係を取得する劣化前電圧−湿潤状態関係取得装置、上記現在電圧−湿潤状態関係を取得する現在電圧−湿潤状態関係取得装置、及び劣化前電圧−湿潤状態関係と現在電圧−湿潤状態関係との比較の結果に基づいて、触媒が触媒劣化しているか否かを判定する判定装置として機能する。
特に、本実施形態の燃料電池システム100では、燃料電池セル10の電解質膜に配置された触媒層の劣化を検出する燃料電池の触媒劣化判定装置が構成される。具体的に、コントローラ6及び電流センサ51が燃料電池セル10の電流密度(セル電流密度Icell)を検出する電流密度検出装置として機能し、コントローラ6及び電圧センサ52が燃料電池セル10の電圧(セル電圧Vcell)を検出する電圧検出装置として機能する。また、コントローラ6及びインピーダンス計測装置5が、燃料電池セル10の湿潤状態(HFR値)を検出する湿潤状態検出装置として機能する。さらにコントローラ6は、セル電流密度Icellが所定値I0以下である触媒劣化前のHFR値と、燃料電池セル10の基準電圧Vstdからの乖離電圧dVとして許容される許容乖離電圧dVth+ΔV1との関係を記憶する記憶装置と、セル電流密度Icellが所定値I0以下であるか否かを判定する電流密度判定装置と、電流密度判定装置によりセル電流密度Icellが所定値I0以下であると判定された際の乖離電圧dVが、記憶装置に記憶された許容乖離電圧dVth+ΔV1より大きいことを検出すると、触媒層が劣化していると判定する劣化判定装置として機能することが可能である。
これにより、セル電流密度Icellが所定値以下である場合におけるセル電圧Vcellと、燃料電池セル10の湿潤状態との間の相関を利用して、触媒被毒に起因する触媒劣化が判定されることとなるので、触媒被毒に起因する触媒劣化をより高精度に判定することができる。
また、本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、上記触媒劣化前における燃料電池セル10の電圧を基準電圧Vstdとして取得し、上記触媒が触媒劣化しているかの判定(図4のステップS70)では、現在のセル電圧Vcellと基準電圧Vstdの差である乖離電圧dVを算出し、乖離電圧dVが所定値(dVth+ΔV1:図7参照)より大きい場合に、触媒劣化が生じていると判定する。
これにより、触媒劣化を判定するための劣化前電圧−湿潤状態関係と現在電圧−湿潤状態関係の比較を、現在のセル電圧Vcellと基準電圧Vstdの差である乖離電圧dVと所定値の大小を比較するという簡易な方法で実行することができる。
さらに、本実施形態でコントローラ6は、セル電流密度Icellが、燃料電池セル10の湿潤度w以外の要因によるセル電圧Vcellのばらつきを回避する観点から定められた所定値I0以下であるか否かを判定する電流密度判定装置として機能する。これにより、本実施形態に係る触媒劣化の判定において、湿潤度w以外にセル電圧Vcellに相関する因子によるセル電圧Vcell検出値のばらつきが抑制され、より高精度な触媒劣化の判定に資することとなる。
また、本実施形態のコントローラ6は、セル電流密度Icellが所定値I0以下である触媒劣化前の理論乖離電圧dVthを記憶する記憶装置と、セル電流密度Icellが所定値I0以下であると判定された際の乖離電圧dVと、上記記憶装置に記憶された理論乖離電圧dVthと、の差である乖離電圧差|dV−dVth|を算出し、乖離電圧差|dV−dVth|が、所定の許容乖離電圧差ΔV1よりも大きいと触媒層が劣化していると判定する劣化判定装置として機能している。これにより、触媒層の劣化判定に係る演算をより簡素化することができる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、触媒劣化が生じていると判定されると、触媒劣化を回復する触媒劣化回復操作(図8のステップS92)を実行する。これにより、たとえ触媒劣化が生じていると判定された場合であっても、当該触媒劣化が、回復可能な触媒劣化(可逆的触媒劣化)である場合には、これを回復することができる。
また、本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、触媒劣化回復操作(図8のステップS92)を実行した後に、再度、触媒劣化が生じているか否かの判定を行い(図4のステップS100)、この再度の判定によっても触媒劣化が生じていると判定されると、触媒劣化が不可逆触媒劣化であると判定する(図4のステップS110)。
このように、触媒劣化回復操作を行ったにもかかわらず、触媒劣化が生じていると判定される場合に、当該触媒劣化は不可逆触媒劣化であると判定するので、触媒の不可逆触媒劣化の発生及びこれによる燃料電池10の特性の低下をより確実に検出し、これに対する種々の処置を講ずることができる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、触媒劣化が不可逆触媒劣化であると判定されると、燃料電池スタック1の出力電力を決定するパラメータ(出力電流)に不可逆触媒劣化の影響による補正を行う。
これにより、不可逆触媒劣化の影響を加味して所望の燃料電池スタック1の出力電力を実現するための出力電流、セル抵抗値、及び空気流量等の種々のパラメータを補正し、燃料電池スタック1の出力電力制御をより高精度に行うことができる。
なお、本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、インピーダンス計測装置5は燃料電池10の内部インピーダンスZを計測し、コントローラ6が内部インピーダンスZに基づいて湿潤度wを推定する。すなわち、コントローラ6が、内部インピーダンスZに基づいて湿潤度wを推定する湿潤状態計測装置として機能する。
より詳細には、内部インピーダンスZは、HFR取得用の高周波数帯の周波数ωHを用いて計測したHFR値である。すなわち、コントローラ6が、内部インピーダンスZとしてのHFR値Z(ωH)に基づいて湿潤度wを推定する湿潤状態計測装置として機能する。このように、燃料電池スタック1内の湿潤度wと強く相関しているHFR値を湿潤度wの算出に用いることで、当該湿潤度wをより高精度に求めることができる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。以下に示す各実施形態では前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
本実施形態では、上記湿潤度wを求めるにあたり、上記HFR値に代えて、燃料電池セル10の触媒層112A、113A内における電解質成分に由来するアイオノマ抵抗Rionを用いる。以下では、アイオノマ抵抗Rionの算出方法について説明する。
図11は、本実施形態にかかる燃料電池スタック1の内部インピーダンスZのナイキスト線図である。特に、図11では、所定の簡易等価回路に燃料電池スタック1の状態量(反応抵抗値及び電気二重層容量値)の計測値を当てはめて定まるインピーダンス曲線(等価回路インピーダンス曲線C1とも記載する)、及び予め所定条件の下で測定された内部インピーダンスの実測値に基づくインピーダンス曲線(実測インピーダンス曲線C2とも記載する)が示されている。
なお、図においては、等価回路インピーダンス曲線C1を破線、及び実測インピーダンス曲線C2を実線で示す。ここで、各インピーダンス曲線は、図面の簡略化のため一部分のみしか示していない。
図12は、燃料電池スタック1の簡易等価回路の一例を示す。図示のように、簡易等価回路では、燃料電池スタック1の電解質膜抵抗成分、電極(カソード極及びアノード極)における反応抵抗、及び電極の電気二重層容量成分が含まれている。当該簡易等価回路に基づいて得られる内部インピーダンスZの式は、
となる。
ただし、ωは周波数、Rmemは電解質膜抵抗値、Ractは反応抵抗値、Cdlは電気二重層容量、及びjは虚数単位を意味する。
ここで、内部インピーダンス計測装置5は、所定の低周波数帯に属する2つの周波数ω1、ω2において内部インピーダンスZ(ω1)及びZ(ω2)を計測する。そして、コントローラ6は、これらの周波数ω1、ω2及び内部インピーダンスZ(ω1)及びZ(ω2)を上記式(1)に適用して反応抵抗値Ract及び電気二重層容量値Cdlを得る。
具体的には、反応抵抗値Ract及び電気二重層容量値Cdlは、上記2点の周波数ω1及びω2におけるインピーダンス計測値Z(ω1)及びZ(ω2)を式(1)に代入し、得られた式を実部と虚部に分離してなる4つの式から、電気二重層容量値Cdl、反応抵抗Ract、及び電解質膜抵抗値Rmemを求める。
このように求めた反応抵抗値Ract及び電気二重層容量値Cdlを式(1)に適用すると、図11の破線に示す円弧状形状の等価回路インピーダンス曲線C1が得られる。
一方、実測インピーダンス曲線C2は、燃料電池スタック1に対し、複数の周波数においてインピーダンス計測を行い、得られた複数のインピーダンス計測値を複素平面上にプロットして描いた曲線である。なお、この実測インピーダンス曲線C2は、通常、多数の周波数における内部インピーダンスの計測値を必要とするため、燃料電池スタック1を車載した状態で作成することは難しい。したがって、この実測インピーダンス曲線C2としては、例えば燃料電池スタック1と同種の燃料電池スタックに対して予め実験的にインピーダンス計測を行うことで作成したデータを用いる。ここで、十分大きな周波数ωHにおける内部インピーダンスの計測値(図では曲線C2と実軸との交点)がHFR値である。
実測インピーダンス曲線C2は、相対的に低周波数の円弧領域においては、上記等価回路インピーダンス曲線C1に略一致している。しかしながら、実測インピーダンス曲線C2は、相対的に高周波数の非円弧領域L1においては、直線状部分を形成しており、等価回路インピーダンス曲線C1からずれている。
このような非円弧領域L1が形成される理由として、上述のように簡易等価回路に基づいて設定された等価回路インピーダンス曲線C1では、燃料電池セルの厚さ方向における分布に基づくアイオノマ抵抗の影響が考慮されていないため、当該アイオノマ抵抗の影響に起因する誤差が高周波数の領域において大きくなったために生じたものである。
以上のことから、周波数ωを最も大きくした実軸上の部分において、等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値である電解質膜抵抗値Rmemと実測インピーダンス曲線C2と実軸との交点の値であるHFR値との差をとることで、アイオノマ抵抗値Rionを求めることができる。このようにして求められたアイオノマ抵抗値Rionは、バルク抵抗や接触抵抗等の電子輸送抵抗成分が含まれておらず、HFR値と比較して燃料電池スタック1の湿潤度wに対する感度がより高くなる。すなわち、このアイオノマ抵抗値Rionを湿潤度wの算出に用いることで、得られる湿潤度wがより高精度となる。
図13は、アイオノマ抵抗値Rionと燃料電池スタック1の内部の湿潤度wの関係を示すアイオノマ抵抗値−湿潤度マップを表す。なお、このアイオノマ抵抗値−湿潤度マップは、予めコントローラ6に記憶されている。図示のように、アイオノマ抵抗値Rionと湿潤度wは、アイオノマ抵抗値Rionが増加するほど湿潤度wが減少し、アイオノマ抵抗値Rionが定まれば湿潤度wが一意に定まる関係にある。したがって、コントローラ6は、算出されたアイオノマ抵抗値RionからこのHFR−湿潤度マップに基づき、湿潤度wを算出することができる。
以上、説明した本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、内部インピーダンスZから燃料電池スタック1の触媒層内における電解質成分に由来するアイオノマ抵抗値Rionを算出し、アイオノマ抵抗値Rionに基づいて湿潤度wを求める。
すなわち、コントローラ6が、内部インピーダンスZから燃料電池セル10の触媒層内における電解質成分に由来するアイオノマ抵抗値Rionを算出し、アイオノマ抵抗値Rionに基づいて湿潤度wを求める湿潤状態検出装置として機能する。
このように、燃料電池スタック1の湿潤度wに対してより高い感度を持つアイオノマ抵抗値Rionを用いて、当該湿潤度wを算出することで、より高精度の湿潤度wの推定値を得ることができる。したがって、この高精度の湿潤度wに基づいて行われる触媒劣化の検出精度もより向上されることとなる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。
本実施形態では、湿潤度wを求めるにあたり、上記HFR値に代えて、燃料電池スタック1の電気二重層容量値Cdlを用いる。以下では、電気二重層容量値Cdlの算出方法について説明する。
図14は、カソード極の反応抵抗値Ract,cの算出の流れを示すフローチャートである。
ステップS31において、コントローラ6は、図15Aに示す燃料電池スタック1の等価回路モデルを設定する。本実施形態では、この等価回路には、アノード極の反応抵抗値Ract,a及び電気二重層容量値Cdl,a、カソード極の反応抵抗値Ract,c及び電気二重層容量値Cdl,c、並びに電解質膜抵抗値Rmemが含まれている。
ここで、アノード極の反応抵抗値Ract,aは、アノード極におけるアノードガスの反応に応じて増減し、例えばアノードガスが不足している等の当該反応の進行が円滑に行われない要因で反応抵抗値Ract,aは上昇する。したがって、アノード極に十分な量のアノードガスが供給されており、水素が不足していない状態では、アノード極の反応抵抗値Ract,aの値は、カソード極の反応抵抗値Ract,cに比べて小さい。したがって、アノード極の反応抵抗成分は無視することができる。
さらに、アノード極の電気二重層容量値Cdl,aは、燃料電池スタック1においてアノード極が有する電気容量を表すようにモデル化したものである。従って、電気二重層容量値Cdl,aはアノード極を構成する材料や大きさ等の種々の要素に基づいて決定されることとなる。ここで、アノード極の電気二重層容量値Cdl,aは、カソード極の電気二重層容量値Cdl,cと比べて低周波数(数百Hz以下)に対する感度が低いことが知られている。特に、本実施形態において想定される上記特定周波数帯に属する周波数においては、電気二重層容量値Cdl,cの内部インピーダンスの値に対する寄与は非常に小さい。したがって、アノード極の電気二重層容量成分は無視することができる。
このように、アノード極の反応抵抗成分及びアノード極の電気二重層容量成分を無視することができるので、燃料電池スタック1の等価回路モデルは、実質的に図14Bに示すような、カソード極の反応抵抗値Ract,c、電気二重層容量値Cdl,c、及び電解質膜抵抗値Rmemのみが含まれる回路とみなすことができる。
したがって、以下では符号の簡略化のため、カソード極の反応抵抗値Ract,cの符号を単に「Ract」と記載し、カソード極の電気二重層容量値Cdl,cの符号を単に「Cdl」と記載する。
図14に戻り、ステップS32において、コントローラ6は、図15Bに示す等価回路に基づき、内部インピーダンスZの式を設定する。したがって得られる内部インピーダンスZの式は、上記式(1)と一致する。
ステップS33において、コントローラ6は、上記式(1)の虚部Zimを抽出する。虚部Zimは以下のとおりである。
ステップS34において、コントローラ6は、抽出した内部インピーダンスの虚部Zimから、カソード極の電気二重層容量値Cdlを演算する。具体的には、上記式(2)に対して、周波数ω1及びω2(数Hz〜数十Hz)、及びこれら周波数ω1及びω2に基づきインピーダンス計測装置5が計測した内部インピーダンスZの虚部Zim(ω1)及びZim(ω2)を代入し、未知数をCdl及びRactをする2つの方程式を得てこれを解いて電気二重層容量値Cdlを求める。
特に、上記式(2)は、下記の式(3)のように変形することができる。
したがって、縦軸が−1/ωZim、横軸が1/ω2である座標平面上において、2つの周波数ω1及びω2とインピーダンスの虚部Zim(ω1)及びZim(ω2)をプロットして直線を描き、この直線の切片を求めれば、この切片がCdlに等しくなる。これにより、カソード極の電気二重層容量値Cdlを容易に算出することができる。
図16には、燃料電池スタック1の湿潤度wとカソード極の電気二重層容量値Cdlの関係を示す湿潤状態−電気二重層容量値マップを表す。なお、この湿潤状態−電気二重層容量値マップは、予めコントローラ6に記憶されている。図示のように、カソード極の電気二重層容量値Cdlと湿潤度wは、電気二重層容量値Cdlが増加するほど湿潤度wが増加し、電気二重層容量値Cdlが定まれば湿潤度wが一意に定まる関係にある。したがって、コントローラ6は、算出された電気二重層容量値Cdlからこの電気二重層容量値−湿潤度マップに基づき、湿潤度wを算出する。特に、燃料電池スタック1の電極材料にケッチェンブラック等の非晶質炭素材料を用いると、電気二重層容量値Cdlと湿潤度wの相関がより明確に現れる。
以上、説明した本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態に係る燃料電池の触媒劣化判定方法では、内部インピーダンスZから燃料電池スタック1の電気二重層容量値Cdlを算出し、電気二重層容量値Cdlに基づいて湿潤状態を求める。
これにより、HFR値やアイオノマ抵抗値Rion以外にも、燃料電池スタック1の湿潤度wを算出する方法を提供することができるので、燃料電池スタック1の運転条件等に応じて、HFR値やアイオノマ抵抗値Rionよりも電気二重層容量値Cdlを求めることが容易である状況下において、湿潤度wを求めることができる。
なお、本実施形態において、カソード極の電気二重層容量値Cdlを用いて湿潤度wを求めたが、例えばアノード極の電気二重層容量値も考慮して、燃料電池スタック1全体の電気二重層容量と湿潤度wの関係から湿潤度wを求めるようにしても良い。
(第4実施形態)
以下、第4の実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態の要素と同様の要素には同一の符号を付す。
本実施形態では、燃料電池スタック1の内部インピーダンスの計測にあたり、出力電流I及び出力電圧Vに交流信号を重畳する構成に代えて、燃料電池スタック1に所定の計測用電流源から電流Iを供給し、当該供給電流Iと出力される出力電圧Vとに基づいて内部インピーダンスZ=V/Iを算出するいわゆる励起電流印加法が行われる。
図17は、本実施形態に係るインピーダンス計測装置5の概略構成に示したブロック図である。
図示のように、インピーダンス計測装置5は、燃料電池スタック1の正極端子(カソード極側端子)1B及び負極端子(アノード極側端子)1Aの他に、中途端子1Cに接続されている。なお、中途端子1Cに接続された部分は図に示すようにアースされている。
そして、インピーダンス計測装置5は、中途端子1Cに対する正極端子1Bの正極側交流電位差V1を検出する正極側電圧検出センサ210と、中途端子1Cに対する負極端子1Aの負極側交流電位差V2を検出する負極側電圧検出センサ212と、を有している。
さらに、インピーダンス計測装置5は、正極端子1Bと中途端子1Cからなる回路に交流電流I1を印加する正極側交流電源部214と、負極端子1Aと中途端子1Cからなる回路に交流電流I2を印加する負極側交流電源部216と、これら交流電流I1及び交流電流I2の振幅や位相を調整するコントローラ218と、正極側交流電位差V1、V2及び交流電流I1、I2に基づいて燃料電池スタック1の内部インピーダンスZの演算を行う演算部220と、を有している。
本実施形態では、コントローラ218は、正極側交流電位差V1と負極側交流電位差V2が等しくなるように、交流電流I1と交流電流I2の振幅及び位相を調節する。なお、このコントローラ218は、図1に示すコントローラ6により構成されても良い。
また、演算部220は、図示しないAD変換器やマイコンチップ等のハードウェア、及びインピーダンスを算出するプログラム等のソフトウェア構成を含み、正極側交流電位差V1を交流電流I1で除して、中途端子1Cから正極端子1Bまでの内部インピーダンスZ1を算出し、負極側交流電位差V2を交流電流I2で除して、中途端子1Cから負極端子1Aまでの内部インピーダンスZ2を算出する。さらに、演算部220は、内部インピーダンスZ1と内部インピーダンスZ2の和をとることで、燃料電池スタック1の全内部インピーダンスZを算出する。
上記した本実施形態に係る燃料電池の状態推定方法によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態に係る燃料電池の状態推定方法では、コントローラ218は、積層電池として構成された燃料電池スタック1に交流電流I1,I2を出力し、燃料電池スタック1の正極端子1Bの電位から中途端子1Cの電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差V1と、燃料電池スタック1の負極端子1Aの電位から中途端子1Cの電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差V2と、に基づいて交流電流I1,I2を調整し、調整された交流電流I1及びI2、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2に基づいて燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを演算する。
特に、コントローラ218は、燃料電池スタック1の正極側の正極側交流電位差V1が負極側の負極側交流電位差V2と実質的に一致するように、正極側交流電源部214により印加される交流電流I1及び負極側交流電源部216により印加される交流電流I2の振幅及び位相を調節する。これにより、正極側交流電位差V1と負極側交流電位差V2とが等しくなるので、正極端子1Bと負極端子1Aが実質的に等電位となる。したがって、インピーダンス計測のための交流電流I1、I2が走行モータ等の負荷に流れることが防止されるので、燃料電池スタック1による発電によるインピーダンス計測への影響が防止される。
また、燃料電池スタック1が発電状態の下で内部インピーダンスZの計測を実行する場合、当該発電により生じた電圧に計測用交流電位が重畳されることとなるので、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の値自体が大きくなるが、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の位相や振幅自体が変わるわけではないので、燃料電池スタック1が発電状態ではない場合と同様に高精度に内部インピーダンスZを計測することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。