以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。まず、第1実施形態の頭部保護エアバッグ(以下「エアバッグ」と省略する)20について、説明をする。第1実施形態のエアバッグ20は、車両Vの側面衝突時、若しくは、ロールオーバー時に、乗員の頭部を保護可能に構成されるもので、図1,6に示すように、車両Vに搭載される頭部保護エアバッグ装置M1に使用される。頭部保護エアバッグ装置M1は、図1,6に示すように、エアバッグ20と、インフレーター14と、取付ブラケット11,16と、エアバッグカバー9と、を備えて構成されている。エアバッグ20は、図1に示すように、車両Vの車内側における窓W1,W2の上縁側において、フロントピラー部FPの下縁側から、ルーフサイドレール部RRの下縁側を経て、リヤピラー部RPの上方の領域まで、折り畳まれて収納されている。
エアバッグカバー9は、図1,2に示すように、フロントピラー部FPに配置されるフロントピラーガーニッシュ4と、ルーフサイドレール部RRに配置されるルーフヘッドライニング5と、のそれぞれの下縁から、構成されている。フロントピラーガーニッシュ4とルーフヘッドライニング5とは、合成樹脂製として、それぞれ、ボディ(車体)1側のインナパネル2における車内側に、取付固定されている。また、エアバッグカバー9は、図2に示すように、折り畳まれて収納されるエアバッグ20の車内側を覆って、展開膨張時のエアバッグ20を車内側下方へ突出可能とするために、エアバッグ20に押されて車内側に開き可能に、構成されている。
インフレーター14は、エアバッグ20に膨張用ガスを供給するもので、図1に示すように、略円柱状のシリンダタイプとして、先端側に、膨張用ガスを吐出可能な図示しないガス吐出口を、配設させている。インフレーター14は、ガス吐出口付近を含めた先端側を、エアバッグ20の後述するガス流入口部25に挿入させ、ガス流入口部25の外周側に配置されるクランプ15を用いて、エアバッグ20に対して連結されている。また、インフレーター14は、インフレーター14を保持する取付ブラケット16と、取付ブラケット16をボディ1側のインナパネル2に固定するためのボルト17と、を利用して、インナパネル2において窓W2の上方となる位置に、取り付けられている(図1参照)。インフレーター14は、図示しないリード線を介して、車両Vの図示しない制御装置と電気的に接続されており、制御装置が、車両Vの側面衝突やロールオーバーを検知した際に、制御装置からの作動信号を入力させて、作動するように構成されている。
各取付ブラケット11は、2枚の板金製のプレートから構成されるもので、エアバッグ20の後述する各取付部45,54を、表裏から挟むようにして、各取付部45,54に取り付けられ、ボルト12を利用して、各取付部45,54を、ボディ1側のインナパネル2に取付固定している(図1,2参照)。
エアバッグ20は、図1の二点鎖線及び図6に示すように、インフレーター14からの膨張用ガスを内部に流入させて、折畳状態から展開して、窓W1,W2や、センターピラー部CP及びリヤピラー部RPのピラーガーニッシュ6,7の車内側を覆うように展開膨張する構成とされている。具体的には、エアバッグ20は、膨張完了時の外形形状を、窓W1からセンターピラー部CP,窓W2を経て、リヤピラー部RPの前側にかけての車内側を覆い可能に、長手方向を前後方向に略沿わせた略長方形板状とされるもので、実施形態の場合、膨張完了時の下縁を、窓W1,W2の下縁から構成されるベルトラインBLより下方に位置させるように、構成されている。
エアバッグ20は、図3,4に示すように、後述する連結ベルト53を除いて、ポリアミド糸やポリエステル糸等を使用した経糸と緯糸とからなる袋織りによって、一体的に製造されている。実施形態では、エアバッグ20は、緯糸を上下方向に略沿って配設させ、経糸を前後方向に略沿って配設させるようにして、織成されている。また、実施形態では、エアバッグ20の外表面側には、図示を省略するが、ガス漏れ防止用のシリコーン樹脂からなるコーティング剤が塗布されている。エアバッグ20は、図3に示すように、膨張完了時に車内側に位置する車内側壁部21aと車外側に位置する車外側壁部21bとを離隔させるように内部に膨張用ガスを流入させて膨張するガス流入部21と、膨張用ガスを流入させない非流入部43と、を、備えている。
ガス流入部21は、実施形態の場合、インフレーター14から吐出される膨張用ガスを流入させて膨張する主膨張部23(一次膨張部)と、主膨張部23と連通されて主膨張部23の膨張完了後に膨張を完了させる前側副膨張部30,中央側副膨張部31,後側副膨張部32(二次膨張部)と、主膨張部23と前側副膨張部30,中央側副膨張部31,後側副膨張部32とをそれぞれ連通させる連通部34,35,36,37と、を備えている。実施形態の場合、エアバッグ20は、ロールオーバー時にも乗員の頭部を円滑に保護可能に、主膨張部23,前側副膨張部30,中央側副膨張部31,後側副膨張部32を区画する区画部46,47,49,50,51,52の僅かな領域を除いて、略全面にわたって膨張用ガスを流入させて膨張するように、構成されている。
主膨張部23は、ガス案内流路24、ガス流入口部25、保護膨張部としての前席用保護部26,後席用保護部27を、備えている。
ガス案内流路24は、エアバッグ20の上縁20a側において、前後方向に略沿って延びるように、主膨張部23の領域の前後の略全域にわたって配設されている。ガス案内流路24は、エアバッグ20の膨張初期において、インフレーター14から吐出される膨張用ガスGを、ガス案内流路24の下方に配置される保護膨張部としての前席用保護部26,後席用保護部27に、案内するように、構成されている。具体的には、実施形態の場合、ガス案内流路24は、前席用保護部26,後席用保護部27に膨張用ガスGを案内する略筒状の本体部24aと、本体部24aの前端側と後端側とにそれぞれ配置される前端側部位24b,後端側部位24cと、を備える構成とされている。本体部24aは、実施形態の場合、後述する区画部50の上側の領域から、構成されている。前端側部位24bは、本体部24aの前端側において、前席用保護部26の上方となる位置で、本体部24aと略同じ上下方向の幅寸法として、前席用保護部26と連通されるように下方を開口させて構成されている。後端側部位24cは、本体部24bの後端側において、後席用保護部27の上方となる位置で、本体部24aと略同じ上下方向の幅寸法として、後席用保護部27と連通されるように下方を開口させて構成されている。また、実施形態の場合、本体部24aにおける前後方向の中間部位(詳細には、本体部24aの前後の中央よりやや前方にずれた位置であって、エアバッグ20の前後の中央よりやや後方にずれた位置)には、インフレーター14と接続されるガス流入口部25が、本体部24aと連通されて、本体部24aから上方に突出するように、形成されている。実施形態の場合、ガス流入口部25は、ガス案内流路24に対して後上がりに傾斜して形成されて、後端25a側を、インフレーター14を挿入可能に開口させている。そして、ガス流入口部25は、内部にインフレーター14を挿入させた状態で、外周側にクランプ15を嵌めることにより、インフレーター14に連結されることとなる。なお、実施形態のエアバッグ20では、ガス流入口部25から本体部24aにおけるガス流入口部25の直下にかけての部位に、耐熱性を高めるための別体のインナチューブ(図符号省略)が、配設されている(図3参照)。
実施形態のエアバッグ20では、図4において斜線を引いた領域で示すように、このガス流入口部25と、ガス案内流路24における前端側部位24bの前端側となる端縁側部位24dを除いた領域(後述する区画部47より後方の領域)と、が、膨張初期に、応力集中の生じやすい高応力集中部39を構成することとなる。高応力集中部39は、エアバッグ20の膨張初期にインフレーター14から吐出される膨張用ガスを内部に流入させて膨張する部位である。ガス流入口部25は、インフレーター14と接続されて、インフレーター14から吐出される膨張用ガスをガス案内流路24に流す部位であることから、膨張用ガスの高い圧力を受けることとなる。また、ガス案内流路24は、折り畳まれた収納形状の状態で、インフレーター14からガス流入口部25を経て流入する膨張用ガスを、折りを解消させるように、内部に流入させることから、膨張用ガスの高い圧力を受けることとなって、応力集中が生じやすい。特に、ガス案内流路24において、本体部24aは、区画部50と後述する周縁部44とに囲まれて略筒状に膨張することから、下方を前席用保護部26,後席用保護部27と連通される前端側部位24b,後端側部位24cよりも一層、応力集中が生じやすい。
そして、実施形態では、エアバッグ20において、この高応力集中部39の領域を除いた前席用保護部26,後席用保護部27,前側副膨張部30,中央側副膨張部31,後側副膨張部32と、ガス案内流路24において区画部47の上側に位置する部位(前端側部位24bにおける端縁側部位24d)と、が、膨張初期に応力集中の生じ難い低応力集中部40を、構成している。低応力集中部40は、高応力集中部39(ガス案内流路24)の膨張により、ある程度折りを解消された状態で内部に膨張用ガスを流入させて膨張することから、応力集中が生じ難い。ガス案内流路24における前端側部位24bの端縁側部位24dでは、下縁側を構成している区画部47が、後端側の膨出部48を区画部50より上方に位置させて構成されるとともに、上縁側を前下がりに傾斜している構成である。すなわち、この端縁側部位24dは、前側にかけて拡開されるように構成されることから、ガス案内流路24における他の部位(本体部24a,前端側部位24b,後端側部位24c)と比較して、応力集中が生じ難い。
保護膨張部としての前席用保護部26は、膨張完了時に窓W1の車内側を覆うように、前席の側方に配置されるもので、側面衝突時においてエアバッグ20が膨張を完了させた際に、前席に着座した乗員の頭部を保護するための部位である。詳細には、前席用保護部26は、エアバッグ20の膨張完了時に、前席の側方の窓W1において、上側にフロントピラー部FPの配置される領域よりも後方の領域の車内側を覆う構成とされている(図6参照)。保護膨張部としての後席用保護部27は、膨張完了時に窓W2の車内側を覆うように、後席の側方に配置されるもので、側面衝突時においてエアバッグ20が膨張を完了させた際に、後席に着座した乗員の頭部を保護するための部位である。
前側副膨張部30は、主膨張部23(前席用保護部26)の前側に隣接するように、エアバッグ20の前端側に配置されている。前側副膨張部30は、実施形態の場合、膨張完了形状を、上下方向に略沿った略棒状として、図6に示すように、ベルトラインBLより下方に延びて、下端30b側を、前席用保護部26よりも下方に位置させるように、構成されている。また、この前側副膨張部30は、エアバッグ20の膨張完了時に、上下方向に対して後上がりで傾斜しているフロントピラー部FPの配置領域となる窓W1の前端側に配置されるもので、上端30a側の部位によって、フロントピラー部FPの車内側を覆う構成とされている。この前側副膨張部30は、後上端側に開口される連通部34と、後下端側に開口される連通部35と、により、前席用保護部26と連通されている。これらの連通部34,35は、開口幅寸法を小さく設定されて、前側副膨張部30内への膨張用ガスの流入開始を、前席用保護部26よりも遅らせるように、構成されている。
中央側副膨張部31は、実施形態の場合、主膨張部23における前席用保護部26の後側であって、ガス案内流路24の下側の領域に配置されるもので、前席用保護部26の後端側に開口される連通部36により、前席用保護部26と連通されている。この連通部36も、開口幅寸法を小さく設定されており、中央側副膨張部31内への膨張用ガスの流入開始を、前席用保護部26よりも遅らせるように、構成されている。後側副膨張部32は、実施形態の場合、中央側副膨張部31と後席用保護部27との間となるガス案内流路24の下側の領域を埋めるように配置されるもので、後席用保護部27の前端側に開口される連通部37により、後席用保護部27と連通されている。この連通部37も、開口幅寸法を小さく設定されており、後側副膨張部32内への膨張用ガスの流入開始を、後席用保護部27よりも遅らせるように、構成されている。
非流入部43は、ガス流入部21の外周縁を構成する周縁部44と、取付部45と、ガス流入部21の領域内に配置される区画部46,47,49,50,51,52と、を備えて構成されている。
周縁部44は、ガス流入口部25の後端25a側を除いて、ガス流入部21の周囲を全周にわたって囲むように、配置されている。
取付部45は、エアバッグ20の上縁20a側をボディ1側のインナパネル2に取り付けるための部位であり、図3に示すように、エアバッグ20の上縁20a側となる周縁部44の上縁側の部位から上方に突出するようにして、前後方向に沿って複数配置されている。実施形態の場合、取付部45は、ガス流入口部25の前側となる位置に2個と、ガス流入口部25の後側となる位置に2個と、の計4個配置されている。さらに詳細には、取付部45は、エアバッグ20を折り畳んで収納させる際において、前後方向側の幅寸法を縮めるように、膨張完了時の前端20c側を、折り返して形成される折り返し部位61の領域から外れた領域に、形成されている(図5のB参照)。換言すれば、実施形態では、前端側に配置される取付部45が、折り返し部位61の後方となる位置に、配置されている。各取付部45には、取付ボルト12を挿通可能な取付孔(図符号省略)が、形成されている。また、実施形態の場合、各取付部45は、エアバッグ20を構成するエアバッグ素材68を袋織りにより織成した際には、図4に示すように、上方に延びる略帯状の取付部素材69として構成され、この取付部素材69を、上下で二つ折りし、二つ折りした上下両側を縫合糸を用いて結合させることにより、構成されている。
区画部46は、前側副膨張部30と前席用保護部26とを区画するように、上下両端側を、周縁部44から分離させて上下方向に略沿って延びるような略棒状として、構成されている。この区画部46は、上端46aを、後述する区画部50よりも上方に突出させるように、形成されている。区画部47は、区画部46の上端46a近傍から後方に向かって突出するように形成されるもので、実施形態の場合、後方に向かって膨出しつつ、後端47aを上方に向けるように、僅かに後上がりに傾斜して形成されている。また、この区画部47の後端47a側には、略楕円形状の膨出部48が、形成されている。この区画部47は、後端47aの膨出部48を、区画部46の上端46aと、上下方向側で略同一となる位置、すなわち、区画部50よりも上方に突出した位置に、配置させている。この区画部47は、前席用保護部26の前端側の領域を、ガス案内流路24と区画して、この部位が厚く膨張することを抑制するために配設されている。また、この区画部47は、後端47a側に膨出部48を配設させるとともに、この膨出部48を、ガス案内流路24における本体部24aの下縁を構成する区画部50よりも上方に突出した位置に配置させている構成である。すなわち、実施形態のエアバッグ20では、ガス案内流路24の前端側部位24bは、この区画部47の後端47a側の膨出部48の部位において、内径寸法を縮められるような態様となり、エアバッグ20の膨張初期において、ガス流入口部25を経てガス案内流路24内に流入し、前端側部位24b内を前方(前側副膨張部30側)に向かって流れる膨張用ガスGは、この膨出部48の部位(ガス案内流路24の前端側部位24a)で、一旦、流入量を低減されるような態様となって、前側副膨張部30側に多量の膨張用ガスがダイレクトに流入することを、抑制できる。
区画部49は、中央側副膨張部31と後側副膨張部32とを区画するように周縁部44の下縁側の部位から斜め前上側に延びるような略棒状として、配置されている。区画部50は、ガス案内流路24の下縁側を構成し、かつ、中央側副膨張部31と後側副膨張部32とを、ガス案内流路24と区画するように、区画部49の上端から前後に延びるように、形成されている。区画部51は、区画部49の前端側における前下方となる位置において、前席用保護部26と中央側副膨張部31との下側の領域を区画するように、周縁部44の下縁側の部位から斜め後上側に延びて、先端51a側を下方に向けるように屈曲された略逆V字形状として、形成されている。区画部52は、後側副膨張部32と後席用保護部27とを区画するように、周縁部44の下縁側の部位から、区画部49に略沿うように斜め前上側に延びる略棒状として、構成されている。
また、実施形態のエアバッグ20には、図3に示すように、エアバッグ20と別体の布材から構成される連結ベルト53が、配置されている。この連結ベルト53は、エアバッグ20の前端20c側をボディ1側に連結させるためのもので、後端53b側を、エアバッグ20の車外側壁部21b側において、区画部46に連結させ、前後方向に略沿って前方に延びるように、構成されている。連結ベルト53の前端53a側には、フロントピラー部FPの部位においてボディ1側のインナパネル2に固定される取付部54が、形成されている。この取付部54は、取付部45と同様に、取付ブラケット11と取付ボルト12とを用いて、インナパネル2に固定される構成であり、取付ボルト12を挿通可能な取付孔(図符号省略)を、備えている。
また、実施形態のエアバッグ20は、上下方向に略沿って配設される緯糸に繊度の低い糸を使用した低繊度部位57と、低繊度部位57より繊度の高い糸を使用した高繊度部位58と、を備える構成とされている。具体的には、実施形態のエアバッグ20では、高繊度部位58を構成する緯糸は、経糸と同繊度のものを使用している。そして、実施形態のエアバッグ20では、低繊度部位57は、低応力集中部40において、エアバッグ20の前端20c側の部位、詳細には、前席用保護部26の前端側部位26a,ガス案内流路24の端縁側部位24dから前側副膨張部30にかけての部位から、構成されている。この低繊度部位57は、後述するごとく、エアバッグ20の折り畳み作業時に、エアバッグ20の前端20c側を折り返して形成される折り返し部位61に、一致する構成とされている。すなわち、実施形態のエアバッグ20では、低応力集中部40の一部の了以kの実が、低繊度部位57から構成されている。そして、実施形態のエアバッグ20では、高応力集中部39としてのガス案内流路24における端縁側部位24d以外の部位及びガス流入口部25と、低応力集中部40を構成している残りの部位(前席用保護部26の残りの部位、後席用保護部27、中央側副膨張部31、及び、後側副膨張部32)と、が、高繊度部位58から構成されている。なお、エアバッグ20は、連結ベルト53を除いて、袋織りにより一体的に織成されており、低繊度部位57においては、上下方向に沿って配置される緯糸が、繊度の低い糸から構成されていることから、この部位に配置される非流入部43(周縁部44の一部、区画部46、及び、区画部47における膨出部48を除いた前端側の領域)も、繊度の低い緯糸から形成されている。具体的には、実施形態のエアバッグ20では、連結ベルト53を除いて袋織りにより一体的に織成したエアバッグ素材68において、折り返し部位61形成時の折り重ね部位62の端縁の通る線L2(膨出部48の前端付近を通るように上下方向に略沿って配置される線)より前側の領域が、図4の網掛け部で示すように、上下の全域にわたって、低繊度部位57とされている。
具体的には、実施形態のエアバッグ20では、緯糸及び経糸として、ポリアミド糸やポリエステル糸を、使用している。具体的には、実施形態では、低繊度の糸も、高繊度の糸も、ともに、6,6−ナイロン製の原糸を、使用している。そして、低繊度部位57を構成する繊度の低い緯糸としては、繊度の高い経糸の1/2〜4/5程度の繊度に、設定されているものを使用する。
具体的には、低繊度部位57,高繊度部位58の経糸、及び、高繊度部位58の緯糸としては、350〜560dtexの範囲内の繊度のものを使用することが好ましい。繊度が350dtex未満では、細すぎて、高応力集中部39用には、十分な強度を得られず、逆に、560dtexを超えると、太すぎて、基布が厚くなり、織成後のエアバッグが必要以上に嵩張ってしまうためである。
低繊度部位57の緯糸としては、175〜350dtexの範囲内の繊度のものを使用することが、好ましい。繊度が175dtex未満では、細すぎて、低応力集中部40用としても、十分な強度を得難く、逆に、繊度が350dtexを超えると、経糸との繊度の差が小さく、織成後の基布の厚みに差が生じ難いためである。具体的には、低繊度部位57を構成する緯糸としては、280dtexに設定されるものが、好適である。
また、実施形態のエアバッグ20では、低繊度部位57においても、緯糸は、高繊度部位58と同一の打ち込み本数により、袋織りされている。実施形態の場合、エアバッグ20は、経糸の1インチ当たりの打ち込み本数を135本とし、緯糸の1インチ当たりの打ち込み本数を121本として、袋織りされている。なお、経糸及び緯糸の1インチ当たりの打ち込み本数としては、経糸/緯糸を、109/91、131/117、116/90、112/101のものも、例示できる。
次に、実施形態のエアバッグ20の製造について、説明をする。まず、図7に示すように、エアバッグ素材68を直列的に連続させ、かつ、複数個(実施形態の場合、3個)並設させるようにして、部分的に低繊度部位57を形成するように織成されたシート体71の外表面側に、コーティング剤を塗布したのち、このシート体71を裁断して、エアバッグ素材68を、形成する。次いで、エアバッグ素材68の取付部素材69を二つ折りして縫合糸を用いて縫着させて取付部45を形成するとともに、連結ベルト53を、縫合糸を用いて区画部46の車外側の部位に縫着させれば、エアバッグ20を製造することができる。
その後、エアバッグ20を折り畳む。具体的には、まず、エアバッグ20の前端20c側の部位を、区画部46の前側近傍となる位置で上下方向に略沿った折目L1(図5のA参照)を付けて折り返し、図5のBに示すように、折り返し部位61を、形成する。この折り返し部位61は、前後方向の端縁側(実施形態の場合、前端側)の折り重ね部位62と、折り重ね部位62と隣接して折り重ね部位62を折り重ねられる被折り重ね部位63と、から構成されるもので、実施形態では、折り重ね部位62と被折り重ね部位63とが、ともに、全域にわたって、低繊度部位57から構成されている。また、実施形態の場合、折り返し部位61は、折り重ね部位62を、被折り重ね部位63の車内側に折り重ねるようにして、形成される。折り返し部位61の形成後に、エアバッグ20を、下縁20b側を上縁20a側に接近させるように、折り畳んで、折り完了体65を形成する。具体的には、実施形態では、エアバッグ20において、上縁20a側の領域であるガス案内流路24の部位を、前後方向に沿った複数の折目を付けて蛇腹折りするとともに、ガス案内流路24より下方となる前席用保護部26,後席用保護部27の部位を、下縁20b側を車外側に向かって巻くようにロール折りして、図1,2に示すように、前後方向に沿うような長尺状の折り完了体65を形成する。この折り完了体65は、図1に示すように、車両Vへの搭載時において、ルーフサイドレール部RRの領域のみに収納され、フロントピラー部FPの部位に収納させないように、構成されている。折り完了体65の形成後には、破断可能な図示しない折り崩れ防止用のラッピング材により、折り完了体65の周囲の所定箇所をくるんでおく。
その後、取付ブラケット16を取付済みのインフレーター14を、クランプ15を利用して、エアバッグ20のガス流入口部25と接続させ、各取付部45,54に、取付ブラケット11を固着させて、エアバッグ組付体を形成する。
次いで、取付ブラケット11,16を、ボディ1側のインナパネル2の所定位置に配置させて、ボルト12,16止めし、所定のインフレーター作動用の制御装置から延びる図示しないリード線を、インフレーター14に結線し、フロントピラーガーニッシュ4やルーフヘッドライニング5をボディ1側のインナパネル2に取り付け、さらに、ピラーガーニッシュ6,7をボディ1側のインナパネル2に取り付ければ、頭部保護エアバッグ装置M1を車両Vに搭載することができる。
頭部保護エアバッグ装置M1の車両Vへの搭載後において、車両Vの側面衝突時、若しくは、ロールオーバー時に、制御装置からの作動信号を受けてインフレーター14が作動されれば、インフレーター14から吐出される膨張用ガスが、エアバッグ20内に流入して、膨張するエアバッグ20が、図示しないラッピング材を破断させ、さらに、フロントピラーガーニッシュ4とルーフヘッドライニング5との下縁から構成されるエアバッグカバー9を押し開いて、下方へ突出しつつ、図1の二点鎖線及び図6に示すごとく、窓W1,W2、センターピラー部CP、及び、リヤピラー部RPの一部の車内側を覆うように、大きく膨張することとなる。
そして、実施形態では、エアバッグ20は、緯糸に、繊度の低い糸を使用した低繊度部位57を備える構成であることから、この低繊度部位57の基布の厚さを、部分的に薄くすることができて、この部位の軽量化を図ることができる。さらに、実施形態のエアバッグ20では、膨張初期に応力集中の生じ難い低応力集中部40が、低繊度部位を備える構成とされている。具体的には、実施形態のエアバッグ20では、図4に示すように、低応力集中部40の一部の部位(詳細には、低応力集中部40の一部の部位である前席用保護部26の前端側部位26a,ガス案内流路24の端縁側部位24d,前側副膨張部30)を、低繊度部位57から構成し、膨張初期に応力集中の生じやすい高応力集中部39(ガス案内流路24における前端側部位24a以外の部位,ガス流入口部25)と、低応力集中部40の残りの部位(前席用保護部26の残りの部位,後席用保護部27,中央側副膨張部31,後側副膨張部32)と、を、低繊度部位57より繊度の高い糸を使用した高繊度部位58から構成している。そのため、エアバッグ20の膨張初期に内圧が急激に高まっても、高応力集中部39からのガス漏れを抑制することができて、部分的に低繊度部位57を配置させる構成としていても、十分な乗員保護性能を確保することができる。特に、実施形態のエアバッグ20は、主膨張部23の膨張完了後に膨張を完了させる前側副膨張部30,中央側副膨張部31,後側副膨張部32を有する構成とされて、車両Vのロールオーバー時にも、乗員の頭部を保護可能な構成とされている。車両Vのロールオーバーは、側面衝突と比較して、乗員の頭部の保護を開始するタイミングが遅く、膨張完了後から所定時間経過後までの内圧を維持する必要があるが、実施形態のエアバッグ20では、高応力集中部39を、高繊度部位58から構成していることから、ガス漏れを的確に抑制することができて、車両Vのロールオーバー時にも、十分な乗員保護性能を確保することができる。
したがって、実施形態のエアバッグ20では、乗員保護性能を確保しつつ、軽量化することができる。
具体的には、実施形態のエアバッグ20では、上下方向に略沿って配設される緯糸を、繊度の低い糸から構成して、低繊度部位57を構成していることから、低繊度部位57は、エアバッグ20の前後方向側の一部、実施形態の場合、前端20c側の部位において、上下の略全域となる領域に、形成されている。
さらに、実施形態のエアバッグ20は、収納形状を、前後方向側の幅寸法を縮めるように、膨張完了時の前端20c側を折り返された状態の折り返し部位61を有する形状とされている(図1及び図5のB参照)。そして、実施形態では、エアバッグ20におけるこの前端20c側の折り返し部位61を構成する折り重ね部位62と被折り重ね部位63と、が、ともに、低繊度部位57から構成されている。そのため、実施形態のエアバッグ20では、折り重ね部位62及び被折り重ね部位63の厚さを部分的に薄くすることができて、折り返し部位61が嵩張ることを抑制できることから、前後方向に沿った長尺状に折り畳まれるエアバッグ20を、部分的に嵩張ることを抑制して、コンパクトに折り畳むことができる。その結果、実施形態のエアバッグ20では、折り畳まれたエアバッグ20を、窓W1の上縁側の狭い隙間にも、円滑に収納させることができる。また、このような折り返し部位61は、エアバッグ20の内部に流入する膨張用ガスの上流側ではなく、下流側に配置され、実施形態の場合、インフレーター14と接続されるガス流入口部25から離れた前端20c側に配置されることから、膨張初期に応力集中が生じ難く、この部位を、低繊度部位57から構成しても、充分な乗員保護性能を確保することができる。
なお、実施形態では、折り重ね部位62と被折り重ね部位63とをともに全域にわたって低繊度部位57から構成しているが、折り重ね部位若しくは被折り重ね部位の一方を、低繊度部位から構成し、他方を、高繊度部位から構成してもよく、さらには、折り重ね部位若しくは被折り重ね部位における一部の領域を、低繊度部位から構成してもよい。なお、上記のような構成を考慮しなければ、折り返し部位を設けるようにして車両に搭載させる構成であっても、折り返し部位の領域を、低繊度部位から構成しなくともよい。
また、実施形態では、エアバッグ20は、平らに展開した状態から折り返し部位61を形成し、その後、上下方向の幅寸法を縮めるように折り畳まれる構成であるが、エアバッグの折り畳みはこれに限られるものではなく、折り返し部位の形成前の状態で上下方向の幅寸法を縮めるように折り畳み、その後、前後方向の少なくとも一端側を、折り返して、折り返し部位を形成するように、折り畳んでもよい。
さらに、実施形態のエアバッグ20の低繊度部位57では、緯糸を、経糸と比較して繊度を低く設定する構成としていることから、織機から繰り出される多数の経糸の一部を繊度を低く設定する場合と比較して、エアバッグ20を構成するシート体71を、安定して織成することができる。また、実施形態では、図7に示すように、エアバッグ20を構成するエアバッグ素材68を、長手方向(前後方向)をシート体71の長さ方向に略沿わせ、短手方向側で複数並設させるようにして、シート体71を織成することにより、形成できる。
次に、本発明の第2実施形態であるエアバッグ75について、説明をする(図8参照)。この第2実施形態のエアバッグ75は、車両Vの側面衝突時に、乗員の頭部を保護可能に構成されるもので、図10に示すように、車両Vに搭載される頭部保護エアバッグ装置M2に使用される。頭部保護エアバッグ装置M2において、エアバッグ75以外の部材は、前述の頭部保護エアバッグ装置M1と同一の構成であることから、同一の部材には、同一の図符号を付して、詳細な説明を省略する。なお、この第2実施形態のエアバッグ75を使用した頭部保護エアバッグ装置M2では、インフレーター14は、制御装置による車両Vの側面衝突の検知時に、制御装置からの作動信号を入力させて、作動するように構成されている。
エアバッグ75は、図10に示すように、インフレーター14からの膨張用ガスを内部に流入させて、折畳状態から展開して、下方に向かって突出し、窓W1,W2や、センターピラー部CP及びリヤピラー部RPのピラーガーニッシュ6,7の車内側を覆うように、構成されている。具体的には、エアバッグ75は、膨張完了時の外形形状を、窓W1からセンターピラー部CP,窓W2を経て、リヤピラー部RPの前側にかけての車内側を覆い可能に、長手方向を前後方向に略沿わせた略長方形板状とされるもので、膨張完了時の下縁を、窓W1,W2の下縁から構成されるベルトラインBLより上方に位置させるように、構成されている。また、エアバッグ75は、図8,9に示すように、袋状のバッグ本体76と、バッグ本体76の上縁76a側から上方に突出するように形成される取付部91と、バッグ本体76の上縁76a側から上方に突出するように形成されるガス流入口部79と、バッグ本体76の前端76cから前方に延びる連結ベルト97と、を備える構成として、取付部91とガス流入口部79と連結ベルト97とは、バッグ本体76と別体として構成されている。
バッグ本体76は、外形形状を略長方形状として、ポリアミド糸やポリエステル糸等を使用した経糸と緯糸とからなる袋織りによって、一体的に製造されている。実施形態では、バッグ本体76は、緯糸を上下方向に略沿って配設させ、経糸を前後方向に略沿って配設させるようにして、織成されている。また、実施形態では、バッグ本体76の外表面側には、図示を省略するが、ガス漏れ防止用のシリコーン樹脂からなるコーティング剤が塗布されている。バッグ本体76は、図8に示すように、膨張完了時に車内側に位置する車内側壁部77aと車外側に位置する車外側壁部77bとを離隔させるように内部に膨張用ガスを流入させて膨張するガス流入部77と、膨張用ガスを流入させない非流入部89と、を、備えている。
ガス流入部77は、実施形態の場合、ガス案内流路78、バッグ本体76と別体として構成されるガス流入口部79、保護膨張部としての前席用保護部81,後席用保護部82、及び、前席用保護部81に連通して配置される補助膨張部83を、備えている。
ガス案内流路78は、バッグ本体76の上縁76a側において、前後方向に略沿って延びるように配設されるもので、バッグ本体76の前後の略中央から上方に突出するように形成されるガス流入口部79からの膨張用ガスを、ガス案内流路78の下方に配置される保護膨張部としての前席用保護部81,後席用保護部82に、案内するように、構成されている。ガス案内流路78は、前述のエアバッグ20におけるガス案内流路24と同様に、前席用保護部81,後席用保護部82に膨張用ガスGを案内する略筒状の本体部78aと、本体部78aの前端側と後端側とにそれぞれ配置される前端側部位78b,後端側部位78cと、を備える構成とされている。本体部78aは、後述する区画部92の上側の領域から、構成されている。前端側部位78bは、本体部78aの前端側において、前席用保護部81の上方となる位置で、本体部78aと略同じ上下方向の幅寸法として、前席用保護部81と連通されるように下方を開口させて構成されている。後端側部位78cは、本体部78bの後端側において、後席用保護部82の上方となる位置で、本体部78aと略同じ上下方向の幅寸法として、後席用保護部82と連通されるように下方を開口させて構成されている。詳細には、実施形態の場合、ガス案内流路78は、区画部92の上側の領域であって、かつ、後述する厚さ規制部93,94間の領域から、構成されている。ガス流入口部79は、インフレーター14と接続されるもので、バッグ本体76の上縁76a側における前後の中央付近に、配置されている。実施形態のエアバッグ75では、ガス流入口部79は、バッグ本体76と別体として構成されるもので、バッグ本体76(バッグ本体素材103)に設けられる後述する開口103aに、縫合糸を用いて縫着されて、バッグ本体76に連結されている。このガス流入口部79は、バッグ本体76から後上がりに傾斜して形成されて、後端側を、インフレーター14を挿入可能に開口させており、前述のエアバッグ20と同様にして、インフレーター14に連結される構成である。
実施形態のエアバッグ75(バッグ本体76)では、ガス案内流路78が、膨張初期に、応力集中の生じやすい高応力集中部85を構成することとなる。そして、実施形態では、エアバッグ75(バッグ本体76)において、この領域を除いた前席用保護部81,後席用保護部82,補助膨張部83が、膨張初期に応力集中の生じ難い低応力集中部86を、構成している。
保護膨張部としての前席用保護部81は、膨張完了時に窓W1の車内側を覆うように、前席の側方に配置されるもので、側面衝突時においてエアバッグ75が膨張を完了させた際に、前席に着座した乗員の頭部を保護するための部位である。保護膨張部としての後席用保護部82は、膨張完了時に窓W2の車内側を覆うように、後席の側方に配置されるもので、側面衝突時においてエアバッグ75が膨張を完了させた際に、後席に着座した乗員の頭部を保護するための部位である。補助膨張部83は、バッグ本体76の下縁76b側において、前席用保護部81と後席用保護部82との間を埋めるように前後方向に略沿って配置されるもので、前端側を、前席用保護部81の後下端側と連通されて、前席用保護部81を経て、内部に膨張用ガスを流入させるように構成されている。なお、この補助膨張部83も、前席用保護部81との連通部位の開口幅寸法を小さく設定されて、内部への膨張用ガスの流入開始を、前席用保護部81よりも遅らせるように、構成されている。
非流入部89は、ガス流入部77の外周縁を構成する周縁部90と、取付部91と、ガス流入部77の領域内に配置される区画部92及び厚さ規制部93,94,95と、連結ベルト97と、を備えて構成されている。
周縁部90は、ガス流入口部79を接続させるための開口103a(図9参照)を除いて、ガス流入部77の周囲を全周にわたって囲むように、配置されている。
取付部91は、バッグ本体76と別体の布材を、バッグ本体76に縫着させて構成されるもので、図8に示すように、バッグ本体76の上縁76a側となる周縁部90の上縁側の部位から上方に突出するようにして、前後方向に沿って複数(実施形態の場合、4個)配置されている。各取付部91には、取付ボルト12を挿通可能な取付孔(図符号省略)が、形成されている。
区画部92は、ガス案内流路78の下縁側を構成するもので、バッグ本体76の前後方向の中央付近において、前後方向に略沿って形成されている。また、この区画部92は、ガス案内流路78と下方に配置される補助膨張部83との部位の膨張時の厚さを薄くするために、前後方向に沿って長尺状とした略長方形状の板状部92aを、備えている。また、区画部92は、前端側に、先端側を下方に向けつつ後方に向けるように略逆U字形状に湾曲して形成される湾曲部92bを備えるとともに、後端側を、補助膨張部83と後席用保護部82とを区画するように、斜め後下方に向かって延ばして、周縁部90の下縁側の部位に連結させている。
厚さ規制部93は、外形形状を略逆C字形状として、前席用保護部81の前上端側に、配置されている。この厚さ規制部93は、ガス案内流路78と前席用保護部81との前端側の部位が厚く膨張するのを抑制するために、配置されるもので、実施形態の場合、半分程度を、ガス案内流路78の下縁を構成している区画部92より上方に突出させるように、配設されている。厚さ規制部94は、後席用保護部82の領域内に配置されるもので、外形形状を扁平な略C字形状とされている。この厚さ規制部94は、エアバッグ75の膨張初期に、後席用保護部82に向かうように後方に向かって多量の膨張用ガスが流れるのを抑制し、かつ、後席用保護部82とガス案内流路78との境界部位が厚く膨張することを抑制するために、配置されている。実施形態のバッグ本体76では、この厚さ規制部94は、ガス案内流路78の下縁を構成している区画部92より上方に突出し、かつ、厚さ規制部93よりもわずかに上方に突出するように、配置されている。そして、実施形態のバッグ本体76では、この区画部92の上方側の領域であって、前後の厚さ規制部93,94に囲まれる領域が、ガス案内流路78として、構成されるとともに、高応力集中部85を構成している(図9の斜線部位参照)。
厚さ規制部95は、前席用保護部81と補助膨張部83とを部分的に区画するように、周縁部90の下縁側の部位から後斜め上方に向かって突出するように、形成されている。また、この厚さ規制部95は、後端側の部位を、前後方向に略沿わせて、補助膨張部83の領域内に進入させるように、構成されている。
連結ベルト97は、バッグ本体76の前端76c側をボディ1側に連結させるためのもので、後端側を、バッグ本体76の前端76c側に連結させ、前後方向に略沿って前方に延びるように、構成されている。連結ベルト97の前端側には、フロントピラー部FPの部位においてボディ1側のインナパネル2に固定される取付部97aが、形成されている。
また、実施形態のエアバッグ75においても、バッグ本体76は、上下方向に略沿って配設される緯糸に、繊度の低い糸を使用した低繊度部位100と、低繊度部位100より繊度の高い糸を使用した高繊度部位101と、を備える構成とされている。この実施形態のエアバッグ75においても、高繊度部位101を構成する緯糸は、経糸と同繊度のものを使用している。実施形態のバッグ本体76では、低繊度部位100は、低応力集中部86において、ガス案内流路78の前後に離れた領域、すなわち、前席用保護部81における厚さ規制部93より前側となる前端側部位81aと、後席用保護部82における厚さ規制部94より後側となる後端側部位82aと、から構成されている。すなわち、この実施形態のエアバッグ75においても、低応力集中部86の一部の領域のみが、低繊度部位100から構成されている。そして、実施形態のエアバッグ75(バッグ本体76)では、高応力集中部85を構成しているガス案内流路78と、低応力集中部86を構成している残りの部位(前席用保護部81及び後席用保護部82の残りの部位、補助膨張部83)と、が、高繊度部位101から構成されている。なお、バッグ本体76は、袋織りにより一体的に織成されており、低繊度部位100においては、上下方向に沿って配置される緯糸が、繊度の低い糸から構成されていることから、この部位に配置される非流入部89(周縁部90の一部、厚さ規制部93,94の一部)も、繊度の低い緯糸から形成されている。具体的には、実施形態のエアバッグ75(バッグ本体76)では、袋織りにより一体的に織成したバッグ本体素材103において、厚さ規制部93の最も上側に位置している部位を通るように上下方向に略沿って配置される線L3より前側の領域と、厚さ規制部94の最も上側に位置している部位を通るように上下方向に略沿って配置される線L4より後側の領域と、が、図9の網掛け部で示すように、上下の全域にわたって、低繊度部位100とされている。
このエアバッグ75(バッグ本体76)において、使用する緯糸及び経糸の繊度や、織成時の打ち込み本数に関しては、前述のエアバッグ20と同一であることから、詳細な説明を省略する。
次に、実施形態のエアバッグ75の製造について、説明をする。まず、図11に示すように、バッグ本体素材103を直列的に連続させ、かつ、複数個(実施形態の場合、3個)並設させるようにして、部分的に低繊度部位100を形成するように織成されたシート体105の外表面側に、コーティング剤を塗布したのち、このシート体105を裁断して、バッグ本体素材103を、形成する。このバッグ本体素材103の裁断時に、上縁側に、ガス流入口部79接続用の開口103aが、形成されている。次いで、バッグ本体素材103に、ガス流入口部79と、取付部91と、連結ベルト97と、を縫合糸を用いて連結させれば、エアバッグ75を製造することができる。
その後、エアバッグ75を折り畳む。この第2実施形態のエアバッグ75では、エアバッグ75は、前後方向側の寸法を縮められるように折り返されない状態で、下縁76b側を上縁76a側に接近させるように、折り畳まれることとなる。エアバッグ75の折り畳み完了後には、前述のエアバッグ20と同様にして、車両Vに搭載することができる。
このような構成のエアバッグ75においても、上下方向に略沿って配設される緯糸に、繊度の低い糸を使用した低繊度部位100を有する構成であることから、この低繊度部位100の基布の厚さを、部分的に薄くすることができて、この部位の軽量化を図ることができる。さらに、実施形態のエアバッグ75においても、膨張初期に応力集中の生じ難い低応力集中部86が、低繊度部位100を備える構成とされている。具体的には、実施形態のエアバッグ75では、図9に示すように、低応力集中部86の一部の部位である前席用保護部81の前端側部位81aと、後席用保護部82の後端側部位82aと、が、低繊度部位100から構成されている。そして、膨張初期に応力集中の生じやすい高応力集中部85(ガス案内流路78)と、低応力集中部86の残りの部位である前席用保護部81と後席用保護部82との残りの部位,補助膨張部83と、が、低繊度部位100より繊度の高い糸を使用した高繊度部位101から構成されている。そのため、エアバッグ75の膨張初期に内圧が急激に高まっても、高応力集中部85からのガス漏れを抑制することができて、部分的に低繊度部位100を配置させる構成としていても、十分な乗員保護性能を確保することができる。
第2実施形態のエアバッグ75においても、上下方向に略沿って配設される緯糸を繊度の低い糸から構成して、低繊度部位100を構成しており、特に、この第2実施形態のエアバッグ75では、図9に示すように、バッグ本体76において、前端76c側の部位に加えて、前後方向側で離れた後端76d側の部位も、上下の略全域にわたって低繊度部位100とされていることから、前述のエアバッグ20と比較して、低繊度部位100から構成される領域が広く、より一層軽量化を図ることができる。
また、この第2実施形態のエアバッグ75では、バッグ本体76を、外形形状を略長方形状として、袋織りから形成し、バッグ本体76から突出して配置されるガス流入口部79及び取付部91を、バッグ本体76と別体として構成している。前述のエアバッグ20のごとく、部分的に突出する取付部45やガス流入口部25を、一体的に袋織りしてエアバッグ20を形成する場合、エアバッグ20の裁断時に、取付部45やガス流入口部25の周縁の部位に余材が生じ、このような余材を無駄に廃棄することとなるが、この第2実施形態のエアバッグ75では、部分的に突出する取付部91やガス流入口部79のない長方形状のバッグ本体76のみを袋織りして、裁断するだけであることから、余材が発生することを極力抑制できて、シート体105から多数のバッグ本体を裁断することが可能となる。すなわち、第2実施形態のエアバッグ75は、図11に示すように、前述のエアバッグ20と比較して、シート体105の織成時に、バッグ本体素材103間に隙間が生じ難く、歩留まり良く織成することができて、製造コストを低減させることができる。
なお、この第2実施形態のエアバッグ75は、前後方向の端部側を、いずれも、折り返されない状態で、折り畳まれて車両に搭載されているが、低繊度部位から構成される後端側の領域を、図8に示すように、上下方向に略沿った線L5で折り返すようにして、折り畳んで収納させる構成としてもよい。
次に、第3実施形態のエアバッグ20Aについて、説明をする。この第3実施形態のエアバッグ20Aは、図12,13に示すごとく、緯糸を前後方向に略沿って配置させるように織成し、この前後方向に略沿って配置される緯糸を、繊度の低い糸から構成して、低繊度部位57Aを構成されている。なお、図12には、エアバッグ20Aを構成するエアバッグ素材68Aを示しているが、このエアバッグ素材68Aにおいても、前述のエアバッグ20と同様に、図示しない連結ベルトが取り付けられる構成である。このエアバッグ20Aは、図13に示すように、シート体108織成時の向きを異ならせて織成され、低繊度部位57Aと高繊度部位58Aとの配置位置を異ならせて構成される以外は、外形形状を、前述のエアバッグ20と略同一とされていることから、エアバッグ20と同一の図符号の末尾に「A」を付して、詳細な説明を省略する。
この第3実施形態のエアバッグ20A(エアバッグ素材68A)においても、前述のエアバッグ20と同様に、高応力集中部39Aは、ガス流入口部25Aと、ガス案内流路24Aにおける区画部47Aより後方の領域(端縁側部位24dを除いた領域)と、から構成され(図12の斜線部位参照)、低応力集中部40Aは、この高応力集中部39Aの領域を除いた前席用保護部26A,後席用保護部27A,前側副膨張部30A,中央側副膨張部31A,後側副膨張部32Aと、ガス案内流路24Aにおける区画部47Aの上側に位置する端縁側部位24dと、から構成されている。そして、この第3実施形態のエアバッグ20Aは、前後方向に略沿って配設される緯糸に繊度の低い糸を使用した低繊度部位57Aと、低繊度部位57Aより繊度の高い糸を使用した高繊度部位58Aと、を備える構成とされている。この実施形態のエアバッグ20Aにおいても、高繊度部位58Aを構成する緯糸は、経糸と同繊度のものを使用している。実施形態のエアバッグ20Aでは、低繊度部位57Aは、低応力集中部40Aにおいて、エアバッグ20Aの下縁20b側の部位、詳細には、前側副膨張部30A,前席用保護部26A,中央側副膨張部31A,後側副膨張部32A,後席用保護部27Aの下側の領域から、構成されている。すなわち、この実施形態のエアバッグ20Aにおいても、低応力集中部40Aの一部の領域のみが、低繊度部位57Aから構成されている。そして、実施形態のエアバッグ20Aでは、高応力集中部39Aを構成しているガス案内流路24Aにおける端縁側部位24d以外の部位、及び、ガス流入口部25Aと、低応力集中部40Aを構成している残りの部位(前側副膨張部30A,前席用保護部26A,中央側副膨張部31A,後側副膨張部32A,後席用保護部27Aの上側の領域)と、が、高繊度部位58Aから構成されている。このエアバッグ20Aにおいても、低繊度部位57Aに配置される非流入部43A(周縁部44Aの一部、区画部47A,49A,52Aの一部、及び、区画部51A)も、繊度の低い緯糸から形成されている。具体的には、実施形態のエアバッグ20Aでは、エアバッグ素材68Aにおいて、区画部52Aの上端付近を通るように前後方向に略沿って配置される線L6より下側の領域が、が、図12の網掛け部で示すように、前後の全域にわたって、低繊度部位57Aとされている。
このエアバッグ20Aにおいて、使用する緯糸及び経糸の繊度や、織成時の打ち込み本数に関しては、前述のエアバッグ20と同一であることから、詳細な説明を省略する。
このエアバッグ20Aは、図13に示すように、長手方向側を幅方向に沿わせるように、並列的に連続させるようにして、部分的に低繊度部位57Aを形成するように織成されたシート体108を裁断して形成されるエアバッグ素材68Aに、前述のエアバッグ20と同様に、図示しない連結ベルトを縫着させることにより、製造することができる。
このような構成のエアバッグ20Aにおいても、繊度の低い糸を使用した低繊度部位57Aを有する構成であることから、この低繊度部位57Aの基布の厚さを、部分的に薄くすることができて、この部位の軽量化を図ることができる。特に、実施形態のエアバッグ20Aでは、前後方向に略沿って配設される緯糸が、繊度を低く設定されていることから、低繊度部位57Aは、エアバッグ20Aの上下方向側の一部において、前後の略全域となる領域に、形成される構成であり、上下方向に略沿って配設される緯糸の繊度を低く設定される前述のエアバッグ20と比較して、低繊度部位57Aの領域が広く、前述のエアバッグ20と比較して、一層軽量化を図ることができる。
また、上記構成のエアバッグ20Aにおいても、低繊度部位57Aが、緯糸を、経糸と比較して繊度を低く設定する構成としていることから、織機から繰り出される多数の経糸の一部を繊度を低く設定する場合と比較して、エアバッグ20Aを構成するシート体108を、安定して織成することができる。この実施形態のエアバッグ20Aは、図13に示すように、エアバッグ20Aを構成するエアバッグ素材68Aを、長手方向(前後方向)をシート体108の幅方向(短手方向)に略沿わせ、長手方向側で複数並設させるようにして、シート体108を織成することにより、形成できる。
なお、実施形態のエアバッグ20,20A,75では、高応力集中部39,39A,85は、全域にわたって高繊度部位58,58A,101から構成され、低応力集中部40,40A,86は、一部を低繊度部位57,57A,100から構成され、残りを高繊度部位58,58A,101から構成されている。しかしながら、高応力集中部は、必ずしも全域にわたって高繊度部位から構成しなくともよく、例えば、乗員保護性能に多大な影響を与えない範囲であれば、一部を低繊度部位から構成してもよい。また、低応力集中部も、全域にわたって低繊度部位から構成してもよい。