以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[主鎖環構造を有するアクリル系重合体]
本明細書において「アクリル系重合体」とは、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」と証する)を有する重合体をいい、上記「主鎖に環構造を有するアクリル重合体」とは、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単位と環構造とを含む重合体をいう。
環構造とは、(メタ)アクリル酸エステル単位の分子鎖内にある水酸基またはカルボキシル基と、同じく分子鎖内にあるエステル基との間に脱アルコール環化縮合反応(以下、環化反応ともいう)を進行させることによって形成される構造をいう。環構造としては、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造などを挙げることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率と、環構造の含有率との合計は、主鎖中に好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における環構造(ラクトン環構造を除く)の含有率は特に限定されないが、例えば5重量%以上90重量%以下であり、10重量%以上70重量%以下であることが好ましく、10重量%以上60重量%以下であることがより好ましく、10重量%以上50重量%以下であることがさらに好ましい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該重合体におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されないが、例えば5重量%以上90重量%以下であり、20重量%以上90重量%以下、30重量%以上90重量%以下、35重量%以上90重量%以下、40重量%以上80重量%以下、45重量%以上75重量%以下の順により好ましくなる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における環構造の含有率が過度に小さくなると、樹脂組成物ならびに当該組成物を成形して得た樹脂成形品の耐熱性が低下したり、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、上記含有率が過度に大きくなると、樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下することがある。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位を2種類以上含有していてもよい。また、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、(メタ)アクリル酸メチルを含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸メチルを含有することにより、本発明にかかる製造方法によって得られる熱可塑性樹脂組成物、および当該組成物を成形して得た樹脂成形品の熱安定性を向上させることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位をも含有していてもよい。当該構成単位としては、水酸基を含有する単量体に由来する構成単位、カルボン酸基を含有する単量体に由来する構成単位などを挙げることができる。本発明にかかる製造方法では、環化反応によって主鎖に環構造を導入するため、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」を重合する際に、以下の単量体を共重合することが好ましい。
水酸基を含有する単量体としては、例えば2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等を挙げることができる。
カルボン酸基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸等の単量体を挙げることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」には、これらの単量体が2種類以上共重合されていてもよい。水酸基を含有する単量体およびカルボン酸基を含有する単量体は、環化反応によって環構造へと変化するが、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」には、水酸基を含有する未反応の単量体由来の構成単位および/またはカルボン酸基を含有する未反応の単量体由来の構成単位が含まれていてもよい。
また、「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」には、その他の構成単位が含有されていてもよい。該その他の構成単位としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの単量体に由来する構成単位を挙げることができる。上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、該その他の構成単位を2種以上含有していてもよい。
上記「環構造」について、その種類は特に限定されるものではない。例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」および本発明にかかる製造方法によって製造されるアクリル樹脂組成物のTgをより向上させることができるため、上記環構造は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
以下の式(1)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
上記式(1)におけるR1およびR2は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR3は存在せず、X1が窒素原子のとき、R3は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X1が窒素原子のとき、式(1)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤を用いてイミド化することによって形成できる。
X1が酸素原子のとき、式(1)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させることによって形成できる。
以下の式(2)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
上記式(2)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR6は存在せず、X2が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X2が窒素原子のとき、式(2)により示される環構造はN−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂は、例えば、N−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
X2が酸素原子のとき、式(2)により示される環構造は無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造を主鎖に有するアクリル樹脂は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
なお、式(1)、(2)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、各々の環構造の形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有するため、当該方法により得た樹脂はアクリル樹脂となる。
上記環構造としては、環構造内に窒素原子を含まないため着色(黄変)が生じにくく、樹脂成形品としたときの光学特性に優れるため、ラクトン環構造であることがより好ましい。すなわち、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系重合体であることがより好ましい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れるため、5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
6員環であるラクトン環構造は、例えば、
上記式(3)において、R7、R8およびR9は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
上記式(3)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位以外の構成単位を有していてもよい。このような構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、などの単量体に由来する構成単位である。上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」の重量平均分子量は、例えば1,000〜300,000の範囲であり、5,000〜250,000の範囲が好ましく、10,000〜200,000の範囲がより好ましく、50,000〜200,000の範囲がさらに好ましい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、触媒として酸性物質または塩基性物質を用いることによって、アクリル系重合体の環化縮合反応を行い、上記重合体の主鎖に環構造を形成する工程(環化工程)によって得ることができる。
上記アクリル系重合体は、分子鎖内に有する水酸基とエステル基との間の環化縮合反応によってラクトン環構造を形成することができる。
(a.重合工程)
以下、ラクトン環構造形成の原料となる上記アクリル系重合体について説明する。上記アクリル系重合体は、下記式(4)で示されるビニル単量体の重合体であることが好ましい。
式(4)において、R10,R11は互いに独立して、水素原子または式(3)における有機残基として例示した基である。
式(4)により示される単量体の具体例としては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。
これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、ラクトン環の形成による耐熱性向上効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。上記アクリル系重合体は、2種以上のこれらの単量体を共重合させた重合体であってもよい。
上記アクリル系重合体は、上記式(4)により示される単量体と、エステル基を有する単量体(式(4)により示される単量体を除く)との共重合体であってもよい。
エステル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、式(8)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;
などが挙げられる。
これらの中でも、環化縮合反応によって、優れた耐熱性、透明性を有する樹脂が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
上記アクリル系重合体が、上記式(4)により示される単量体と、上記エステル基を有する単量体との共重合体である場合、当該アクリル系重合体を得るための単量体群における、各単量体の含有率の好ましい範囲は以下のとおりである。
すなわち、上記式(4)により示される単量体の含有率については、5重量%以上90重量%以下の範囲が好ましく、10重量%以上70重量%以下の範囲がより好ましく、10重量%以上60重量%以下の範囲、10重量%以上50重量%以下の範囲の順にさらに好ましい。
上記含有率が5重量%未満であると、上記アクリル系重合体を環化縮合反応させたときに形成されるラクトン環の量が少なくなり、得られた樹脂の耐熱性、耐溶剤性、表面硬度などが不十分となることがある。
一方、上記含有率が90重量%を超えると、上記アクリル系重合体を環化縮合反応させる際に、ゲルが生じ、得られた樹脂の透明性および成形性が低下することがある。
上記アクリル系重合体は、上記例示した各単量体と、その他の単量体、例えば水酸基を含む各種の単量体、不飽和カルボン酸、以下の式(5)により示される単量体など、との共重合体であってもよい。
上記式(5)において、R12は水素原子またはメチル基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜20の範囲のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R13基、または−C−O−R14基であり、ここで、Acはアセチル基、R13およびR14は、水素原子または式(3)における有機残基として例示した基である。
ここで、水酸基を含む各種の単量体としては、式(4)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらのなかでも、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。
式(5)により示される単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でも本発明の効果を発揮させる上で、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記アクリル系重合体が、上記例示した単量体と、上記その他の単量体との共重合体である場合、当該アクリル系重合体を得るための単量体群における、上記その他の単量体の含有率は、合計で、0重量%以上30重量%以下が好ましく、0重量%以上20重量%以下がより好ましく、0質量%以上15重量%以下、0重量%以上10重量%以下の順にさらに好ましい。
上記アクリル系重合体は、分子鎖内に有するカルボキシル基とエステル基との間の環化縮合反応によって無水グルタル酸構造を形成することができる。無水グルタル酸構造を形成するアクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上述したメタクリル酸メチル(MMA)等を用いることができる。(メタ)アクリル酸としては、例えばアクリル酸またはメタクリル酸を用いることができる。
無水グルタル酸構造を形成する上記アクリル系重合体は、当該重合体の形成に用いた単量体に由来する構成単位を有する。当該アクリル系重合体における各構成単位の含有率は、当該アクリル系重合体を得るために重合した単量体群に含まれる各単量体の含有量に応じて決定される。
アクリル系重合体を得るための重合方法としては、従来公知の方法、例えば特開2007−262396号公報に記載の方法を用いることができる。本明細書では、アクリル系重合体を得るための重合を行う工程を「重合工程」とも称する。重合方法としては、アクリル系重合体を得た後に、続いて該アクリル系重合体の環化縮合反応を行うことができるため、溶液重合によって該アクリル系重合体を得ることが好ましい。また、反応を効率的に行うため窒素雰囲気下で重合を行うことが好ましい。
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、重合温度については、好ましくは、0℃以上150℃以下、より好ましくは、80℃以上140℃以下であり、重合時間については、好ましくは、0.5時間以上20時間以下、より好ましくは、1時間以上10時間以下である。
溶液重合により上記アクリル系重合体を形成する場合、用いる重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランなど、が挙げられる。中でも、重合溶媒として芳香族炭化水素、ケトン類を用いることが好ましく、特に、トルエン、メチルイソブチルケトンを用いることが好ましい。
上記アクリル系重合体の重合時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤は特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;を挙げることができる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせ、あるいは、重合条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
溶液重合により上記アクリル系重合体を形成した場合、重合生成物には、上記アクリル系重合体以外に、重合に用いた重合溶媒が含まれるが、必ずしも当該溶媒を除去して上記アクリル系重合体を固体として取り出さなくてもよい。
上述したように、溶媒を含んだ状態のまま、重合生成物を、続く環化工程に導入することができる。もちろん、上記アクリル系重合体を固体として取り出した後、重合時に用いた溶媒よりも環化工程の実施に好適な溶媒を改めて加えて、環化工程に導入してもよい。
上記環化工程の実施に好適な溶媒としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフランなどを用いることができるが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
また、上記アクリル系重合体としては、必ずしも重合反応を行って調製したものではなく、市販のものを用いてもよい。
(b.環化工程)
本発明にかかる製造方法における環化工程とは、触媒として酸性物質または塩基性物質を用いることによって、アクリル系重合体の環化縮合反応を行い、上記重合体の主鎖に環構造を形成して、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を得る工程である。本明細書では、アクリル系重合体の環化縮合反応に用いられる触媒を、環化触媒とも称する。
環化縮合反応によって主鎖に環構造が形成されることにより、耐熱性に優れる樹脂を得ることができる。また、アクリル系重合体に環化触媒を添加することにより、単量体と触媒との副反応や重合中の分岐や架橋が抑制され、アクリル系重合体に優れた熱安定性および機械的強度を付与することができる。
上記触媒としては、酸性物質または塩基性物質を用いることができる。酸性物質としては、上記環化縮合反応の触媒として機能しうるものであれば、無機物であっても有機物であってもよい。
無機物としては例えば硫酸、塩酸などを用いることができる。上記無機物は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
有機物である酸性物質としては、例えば、有機リン化合物、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を挙げることができる。
中でも、上記有機物としては有機リン化合物を用いることが好ましい。有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができると共に、得られるラクトン環を有するアクリル系重合体の着色を大幅に低減することができるためである。さらに、有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができるという利点もあるためである。
本発明において使用可能な有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル; メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル; メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。
これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
このように、上記酸性物質としては有機物であっても無機物であってもよいが、有機溶媒に溶解または分散可能であるという操作性の観点と、反応生成物の着色抑制の観点とから、有機物を用いることが好ましい。
上述のように、環化触媒として塩基性物質の使用も可能である。塩基性物質としては、上記環化縮合反応の触媒として機能しうるものであれば特に限定されるものではない。例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物などが挙げられ、金属カルボン酸塩と金属酸化物が好ましく、金属カルボン酸塩が特に好ましい。
上記金属としては、樹脂組成物の物性を阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム;などが挙げられる。
金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸などが挙げられる。
金属錯体における有機成分としては、特に限定されるものではないが、アセチルアセトンなどが挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられ、酸化亜鉛が好ましい。
また、特開2009−144112号公報に記載された12族元素の化合物も、塩基性物質として好適に用いることができる。中でも、環化反応を促進させる作用が大きいため、亜鉛化合物が好ましく用いられる。
上記亜鉛化合物の具体的な種類は特に限定されず、例えば、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛などの有機亜鉛化合物;酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの無機亜鉛化合物、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛などのフッ素を含む有機亜鉛化合物を好適に用いることができる。
環化縮合反応を行う際の環化触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば主鎖に環構造を有するアクリル系重合体に対して、好ましくは0.001重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.01重量%以上2.5重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以上1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以上0.5重量%以下である。
上記触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5重量%を超えると、得られた樹脂が着色することや、樹脂が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、重合工程途中に添加してもよいし、重合工程後に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。重合中あるいは重合後に加熱しながら触媒を添加してもよいし、環化触媒の添加後に高温で熱処理してもよい。
環化縮合反応において加熱する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、重合溶媒を含む重合溶液をそのまま加熱処理してもよいし、溶媒を脱揮後に加熱処理してもよい。溶液状態でオートクレーブなどの耐圧装置中で200℃以上の温度で環化反応を行い、高温で環化反応を促進させるのも好ましい実施形態のひとつである。
あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて脱揮処理を行うこともできる。本発明では、触媒を含んだ重合溶液を加圧下に熱処理することが好ましい実施形態のひとつである。
重合溶媒と環化触媒とを含んだ状態で加熱した後、さらに耐圧装置中加圧下で200℃以上に加熱して環化することにより、後述する脱揮工程での劣化なしに、環化度が高くて耐熱性に優れた主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を溶液状態で得ることができる。
環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。
加熱温度および加熱時間は特に限定されるものではないが、例えばオートクレーブを用いた場合、加熱温度は、好ましくは40℃以上300℃以下であり、加熱時間は、好ましくは1時間以上20時間以下、より好ましくは2時間以上10時間以下である。このような加熱温度および加熱時間を取ることにより、環化反応率の低下、樹脂の着色または分解等の問題を生じるおそれを低減できるため好ましい。
このように、上記酸性物質または塩基性物質を環化触媒として用いて環化縮合反応を行うことにより、アクリル系重合体の分子鎖中に存在する水酸基またはカルボキシル基とエステル基とを環化反応させ、主鎖にラクトン環構造または無水グルタル酸構造を有するアクリル系重合体を得ることができる。
また、アクリル系重合体とN−置換マレイミドまたは無水マレイン酸とを共重合させることにより、主鎖にN−置換マレイミド構造または無水マレイン酸構造を有するアクリル系重合体が得られる。
さらに、上記アクリル系重合体にイミド化剤を添加することによってグルタルイミド構造を有するアクリル系重合体を得ることもできる。イミド化剤としては例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂肪族アミン;アニリン、トルイジン、トリクロロアニリンなどの芳香族アミン;尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素などの加熱によりアミンを発生する尿素化合物;などを用いることができる。
(c.脱揮工程)
本発明においては、環化反応に特開2000−230016や特許文献1(特開2007−262396)、特開2007−262399などに記載された脱揮工程を併用することも可能である。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、上記環化工程により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。当該工程により、生成した樹脂中の残存揮発分に基づく成形時の変質等による着色、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こるといった問題が生じる可能性を低減することができる。
脱揮工程の好ましい形態としては、環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用する方法を挙げることができる。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、前記脱揮装置と前記押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150℃以上350℃以下の範囲内が好ましく、200℃以上300℃以下の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931hPa以上1.33hPa以下(700mmHg以上1mmHg以下)の範囲内が好ましく、798hPa以上66.5hPa以下(600mmHg以上50mmHg以下)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
前記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150℃以上350℃以下の範囲内が好ましく、200℃以上300℃以下の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931hPa以上1.33hPa以下(700mmHg以上1mmHg以下)の範囲内が好ましく、798hPa以上13.3hPa以下(600mmHg以上10mmHg以下)の範囲内がより好ましい。
上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
なお、環化反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、厳しい熱処理条件では得られる主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
脱揮工程は、環化反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態であってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、二軸押出し機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られる主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の物性が悪くなるおそれがある。
そこで、脱揮工程を同時に併用した環化反応を行う前に、予め環化反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られる環構造を有するアクリル系重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。
特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。
具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化触媒が存在していることがより好ましい。
上述のように、重合工程で得られた重合体を予め環化縮合反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、環構造を有するアクリル系重合体を得る上で好ましい形態である。
この形態により、環化反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れた環構造を有するアクリル系重合体が得られる。この場合、環化反応率の目安としては、ダイナッミクTG測定における、150℃以上300℃以下での重量減少率が2重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下である。ダイナミックTG測定は以下の方法で測定した。
測定装置:Thermo Plus EVO2 TG−DTA TG8120((株)リガク社製)
測定条件:試料量5〜10mg
雰囲気:窒素フロー 200ml/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で重量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化反応に好適なベント付き押出機も使用できる。
(d.中和工程)
上述のように酸性物質または塩基性物質を環化触媒として用いて環化縮合反応を行った場合、触媒が残存していると得られるアクリル樹脂組成物の耐熱性に悪影響を与えるため、上記触媒を中和する必要がある。中和反応であるから、触媒が酸性物質である場合、塩基性物質を用いて触媒を中和すればよく、逆に触媒が塩基性物質である場合、酸性物質を用いて触媒を中和すればよい。なお、本明細書では中和工程で使用する塩基性物質または酸性物質のことを環化触媒失活剤とも称する。
中和工程に用いる上記塩基性物質および酸性物質としては、(b.環化工程)に記載したものを用いることができる。中和工程では、上記塩基性物質または酸性物質は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、上記塩基性物質または酸性物質は固形物、粉末状、分散体、懸濁液、水溶液など、いずれの形態で添加しても良く、特に限定されるものではない。
上述のように、従来、本発明者らは、上記環化触媒の使用量に対して1モル当量である塩基性物質を用いる特許文献2に記載の方法によって熱可塑性樹脂組成物を生産していた。しかしながら、特許文献2に記載の方法によって得られたフィルムには異物欠点が多いという問題点が生じた。
そこで、本発明者は、上記環化触媒を塩基性物質または酸性物質を用いて中和する際の上記環化触媒の使用量と上記塩基性物質または酸性物質の使用量との関係について詳細に検討し、上記塩基性物質または酸性物質の使用量を、上記触媒の使用量に対して0.2モル当量以上0.9モル当量以下とすることにより、上記触媒を中和する機能を保持した上で、得られる樹脂組成物の耐熱性を保ち、かつ、延伸フィルム中の異物欠点の発生を抑制でき、上記問題点を解決することができることを見出した。
上記「モル当量」とは、上記触媒1.0モルに対する上記塩基性物質または酸性物質のモル数のことをいう。
上記中和工程に用いる上記塩基性物質または酸性物質の使用量が、上記触媒の使用量に対して0.2モル当量未満であると、上記触媒を中和する作用が不十分になり、成形時に発泡やポリマー間の架橋での増粘が起こることがあり、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度、成形加工性が低下する可能性がある。
また、上記中和工程に用いる上記塩基性物質または酸性物質の使用量が、上記触媒の使用量に対して0.9モル当量を超えると、フィルム製膜時の異物欠点の量が多くなるため、外観や光学特性上の問題が生じる。
このように、本発明者は、上記触媒の使用量と、上記中和工程に用いる上記塩基性物質または酸性物質の使用量との比が、延伸フィルム中の異物欠点の増加に大きな影響を与えることを初めて見出し、これに対して、上記塩基性物質または酸性物質の使用量を、上記触媒の使用量に対して0.2モル当量以上0.9モル当量以下とすることにより課題を解決できることを初めて見出したものである。
後述する実施例では、中和工程に用いる上記塩基性物質または酸性物質の使用量を、上記触媒の使用量に対して0.3モル当量、0.5モル当量、0.7モル当量とした場合、フィルム中の異物欠点の量が顕著に抑制されていることが分かる。
中和工程に用いる上記塩基性物質または酸性物質の使用量は、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度、成形加工性と異物欠点の量の観点から、0.2モル当量以上0.9モル当量以下が好ましく、より好ましくは0.3モル当量以上0.8モル当量以下、0.45モル当量以上0.75モル当量以下がさらに好ましい。
中和工程に用いる上記塩基性物質または酸性物質を混合するタイミングは、アクリル系重合体の製造にあたり、触媒を添加し環化反応を十分行った後であり、後述するろ過工程を行う前であれば特に限定されるものではない。
例えば、アクリル系重合体を製造中に所定の段階で上記塩基性物質または酸性物質を添加するか、アクリル系重合体に環化触媒を添加し熱処理して環化反応を進行させてから上記塩基性物質または酸性物質を添加するか、あるいは、アクリル系重合体を製造した後、アクリル系重合体、上記塩基性物質または酸性物質、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;アクリル系重合体を製造した後、アクリル系重合体、上記塩基性物質または酸性物質、その他の成分などを溶剤に溶解する方法;アクリル系重合体、その他の成分などを加熱溶融させておき、そこに上記塩基性物質または酸性物質を添加して混練する方法;アクリル系重合体を加熱溶融させておき、そこに上記塩基性物質または酸性物質、その他の成分などを添加して混練する方法;などが挙げられる。
(f.ろ過工程)
ろ過工程は、上記中和工程を経たアクリル重合体を、ポリマーフィルタを用いてろ過する工程である。ろ過工程により、アクリル重合体中に存在する異物を除去できる。
ポリマーフィルタの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルタを配したポリマーフィルタを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルタの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
ポリマーフィルタによるろ過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。ろ過精度が1μm以下になると、アクリル重合体の滞留時間が長くなることで当該重合体の熱劣化が大きくなり、生産性が低下する可能性がある。
ポリマーフィルタにおける、時間あたりの樹脂処理量に対するろ過面積は特に限定されず、樹脂組成物の処理量に応じて適宜設定できる。上記ろ過面積は、例えば、0.001m2/(kg/h)以上0.15m2/(kg/h)以下である。
ポリマーフィルタの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
ポリマーフィルタにおける樹脂組成物の滞留時間に特に制限はないが、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下がさらに好ましい。また、ろ過時におけるフィルタ入口圧およびフィルタ出口圧は、例えば、それぞれ、3MPa以上15MPa以下および0.3MPa以上10MPa以下であり、圧力損失(フィルタの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa以上15MPa以下の範囲が好ましい。圧力損失が1MPa未満になると、アクリル重合体がフィルタを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたアクリル重合体の品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルタの破損が起こり易くなる。
本発明にかかる製造方法では、ポリマーフィルタの圧力損失の増加を抑制することができるため、ろ過工程の前後におけるポリマーフィルタの圧力損失の増加を0.06MPa/hr以下とすることができる。当該増加は、0.05MPa/hr以下であることがより好ましく、0.04MPa/hr以下であることがさらに好ましい。
ポリマーフィルタに導入されるアクリル重合体の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250℃以上300℃以下であり、255℃以上300℃以下が好ましく、260℃以上300℃以下がさらに好ましい。
ポリマーフィルタを用いたろ過処理により、異物、着色物の少ないアクリル樹脂組成物を得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下でアクリル樹脂組成物の形成およびろ過処理を行い、引き続いてクリーン環境下でアクリル樹脂組成物の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有するアクリル樹脂組成物を、クリーン環境下でろ過処理した後、引き続いてクリーン環境下でアクリル樹脂組成物の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有するアクリル樹脂組成物を、クリーン環境下でろ過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルタによる樹脂組成物のろ過処理を行ってもよい。
上記成形としては、特に限定されるものではなく、任意の形状に成形して構わない。例えば、ペレタイザーを用いたペレット化や、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練することによるフィルム化などが可能である。
押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
なお、ポリマーフィルタによって樹脂組成物をろ過する際には、押出機とポリマーフィルタとの間にギアポンプを設置して、フィルタ内の樹脂組成物の圧力を安定化することが好ましい。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体のガラス転移温度は110℃以上が好ましい。より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。またガラス転移温度の上限は特に限定されないが、成形性からは200℃以下が好ましい。
アクリル重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上300,000以下、より好ましくは30,000以上300,000以下、更に好ましくは50,000以上250,000以下、特に好ましくは、80,000以上200,000以下である。
[シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体]
シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体としては負の固有複屈折を有する以外は特に限定されない。シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体に使用される芳香族ビニル系単量体単位としては、特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、クロロスチレンなどが挙げられる。シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体の芳香族ビニル系単量体単位の含有量は10質量%以上が好ましく、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。シアン化ビニル系単量体単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、好ましくはアクリロニトリルである。
シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体の具体的な種類は特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−マレイミド共重合体などであってもよい。
なお、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体が前記主鎖に環構造を有するアクリル系重合体と相容性を有するか否かは、両者を混合して得た樹脂のTgを後述する方法によって測定することにより確認できる。一般的には、当該組成物のTgが1点のみ確認されれば、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体は主鎖に環構造を有するアクリル系重合体と相容性を有しているといえる。
シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体が、アクリロニトリル−スチレン共重合体である場合、当該共重合体の全構成単位における芳香族ビニル系単量体単位が占める割合は特に限定されないが、通常、60重量%以上80重量%以下の範囲であればよい。
シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体がアクリロニトリル−スチレン−マレイミド共重合体である場合、当該共重合体の全構成単位における芳香族ビニル系単量体単位が占める割合は特に限定されないが、通常、55重量%以上80重量%以下の範囲であればよい。
シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体はグラフト鎖にシアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体を有するゴム質重合体を含んでいてもよい。グラフト鎖にシアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体を有するゴム質重合体としては、アクリルゴムやブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムにアクリロニトリル−スチレン共重合体をグラフトしたASA樹脂やABS樹脂、AES樹脂が挙げられ、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体の負の固有複屈折を低下させないことから、ASA樹脂が特に好ましい。
シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上500,000以下、より好ましくは50,000以上300,000以下である。
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明にかかる製造方法によって得られた熱可塑性樹脂組成物は、上記主鎖に環構造を有するアクリル系重合体と上記シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体とを必須に含有する。上記アクリル樹脂組成物中の上記シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体含有量は、25重量%以上49重量%以下であり、より好ましくは30重量%以上45重量%以下、更に好ましくは30重量%以上41重量%以下である。これにより、上記アクリル樹脂組成物は優れた透明性や耐熱性、機械的強度、成形加工性などに加えて、延伸することで負の位相差フィルムを得ることができ、得られた負の位相差フィルムの異物欠点を大幅に低減することができる。
上記熱可塑性樹脂組成物は、上記主鎖に環構造を有するアクリル系重合体と上記シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体以外の成分をとしてその他の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、その他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィンポリマー塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン含有ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのスチレンポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムなどである。
酸価防止剤としては、例えば酸化防止剤、例えば、フェノール系の酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤等を用いることができ、具体的には、特開2009−52021号公報に例示されている酸化防止剤を好適に用いることができる。
上記アクリル樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、例えば本発明の熱可塑性樹脂組成物を100重量%としたときに、例えば0重量%以上1重量%以下であり、0重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、0重量%以上0.3重量%以下であることがより好ましく、0.001重量%以上0.1重量%以下であることがさらに好ましい。
その他の添加剤として、例えば、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤などである。
上記アクリル樹脂組成物における、上記その他の添加剤の含有量は、上記アクリル樹脂組成物を100重量%としたときに、例えば0重量%以上5重量%以下であり、0重量%以上2重量%以下が好ましく、0重量%以上0.5重量%以下がより好ましい。
得られた熱可塑性樹脂組成物の加熱による重量平均分子量の増加率は、7%以下が好ましく、より好ましくは6%以下、更に好ましくは3%以下である。加熱による重量平均分子量の増加率が7%より多いと、フィルム製膜時の異物欠点の量が多くなるため、外観や光学特性上の問題が生じる。得られた熱可塑性樹脂組成物の加熱による重量平均分子量の増加率は、実施例に記載の方法に基づき求める。すなわち、作成した熱可塑性樹脂組成物(重量10 mg)を熱天秤にセットし、流量200mL/分の窒素フロー雰囲気の下、以下の昇温プログラムによる加熱、温度保持を実施した後、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用い重量平均分子量W2を求め、また加熱前の重量平均分子量W1を用いて加熱による重量平均分子量の増加率{(W2−W1)/W1}x100を求めた。
−昇温プログラム−
ステップ1:室温(20℃)から290℃まで、10℃/分の昇温速度で昇温
ステップ2:290℃に達した時点から、当該温度で10分ホールド
ステップ3:10分ホールドしたのち、室温(20℃)まで冷却
−GPC測定条件−
システム:東ソー製GPCシステムHLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
システム:東ソー製
カラム:TSK−GEL SuperHZM−M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK−GEL SuperHZ−L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK−GEL SuperH−RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
得られた熱可塑性樹脂組成物の加熱によって発生する気泡の数は、50個以下が好ましく、より好ましくは30個以下、更に好ましくは20個以下、特に好ましくは10個以下である。加熱によって発生する気泡の数が50個より多い場合は、フィルム製膜時の発泡量が多くなるため、外観や製膜性の問題が生じる。得られた熱可塑性樹脂組成物の加熱によって発生する気泡の数は、実施例に記載の方法に基づき求める。すなわち、90℃のオーブンにて24時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物を、JIS−K7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダー内に充填し、260℃で20分間保持した後、ストランド状に押し出し、得られたストランドの上部標線と下部標線との間に存在する泡の気泡の数を目視で計数し、熱可塑性樹脂組成物1gあたりの個数で表した。
得られた熱可塑性樹脂の金属含有量は85ppm以下であることが好ましく、より好ましくは80ppm以下、更に好ましくは75ppm以下、特に好ましくは70以下ppmである。
熱可塑性樹脂組成物は、特に限定されないが、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体と上記シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位を含む共重合体、および、その他の熱可塑性樹脂や添加剤などを、従来公知の混合方法にて混合することで製造できる。例えば、オムニミキサー等の混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する方法を採用することができる。この場合、押出混練に用いる混練機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等、例えば、従来公知の混練機を用いることができる。成形温度は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、更に好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。
本発明の熱可塑性樹脂を延伸して得られた負の位相差フィルムの用途は特に限定されず、従来の位相差フィルムと同様の用途への使用が可能である。より具体的には、本発明の熱可塑性樹脂を延伸して得られた負の位相差フィルムを、IPSモード、OCB(optically compensated birefringence)モードのLCDにおける光学補償フィルムとして使用できる。
熱可塑性樹脂組成物をフィルム化する方法は特に限定されない。熱可塑性樹脂組成物が溶液状である場合、例えばキャスト成形すればよい。熱可塑性樹脂が固形状で可塑性ある場合、溶融押出やプレス成形などの成形手法を用いればよい。
得られた樹脂フィルムを一軸または二軸延伸する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。一軸延伸は、典型的には、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸である。フィルムの幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸も可能である。二軸延伸は、典型的には逐次二軸延伸であるが、縦横延伸を同時に行う同時二軸延伸も好適に使用できる。更に、厚み方向の延伸やフィルムロールに対して斜め方向に延伸することも可能である。延伸方法、延伸温度および延伸倍率は、目的とする光学特性および機械的特性などに応じて、適宜選択すればよい。得られた樹脂フィルムを一軸または二軸延伸する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。一軸延伸は、典型的には、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸である。フィルムの幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸も可能である。二軸延伸は、典型的には逐次二軸延伸であるが、縦横延伸を同時に行う同時二軸延伸も好適に使用できる。更に、厚み方向の延伸やフィルムロールに対して斜め方向に延伸することも可能である。延伸方法、延伸温度および延伸倍率は、目的とする光学特性および機械的特性などに応じて、適宜選択すればよい。
本発明の熱可塑性樹脂を延伸して得られた負の位相差フィルムの異物欠点数は、15個以下が好ましく、より好ましくは10個以下、更に好ましくは5個以下である。本発明の熱可塑性樹脂を延伸して得られた負の位相差フィルムの異物欠点数は、実施例に記載の方法に基づき求める。すなわち自動欠点検査装置にて欠点検出を行い、次いでレーザー顕微鏡を用いて、検出した異物欠点のうち20μm以上の異物欠点をカウントした。
〔加熱による重量平均分子量の増加率〕
熱可塑性樹脂組成物の加熱による重量平均分子量の増加率は、以下のようにして求めた。
作成した熱可塑性樹脂組成物を、熱天秤(リガク製、Thermo Plus Evo Tg−8120)を用いて加熱した。具体的には、熱可塑性樹脂組成物(重量10 mg)を熱天秤にセットし、流量200mL/分の窒素フロー雰囲気の下、以下の昇温プログラムによる加熱、温度保持を実施した。
−昇温プログラム−
ステップ1:室温(20℃)から290℃まで、10℃/分の昇温速度で昇温
ステップ2:290℃に達した時点から、当該温度で10分ホールド
ステップ3:10分ホールドしたのち、室温(20℃)まで冷却
昇温プログラムによって加熱した熱可塑性樹脂組成物をゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用い重量平均分子量W2を求め、また加熱前の重量平均分子量W1を用いて加熱による重量平均分子量の増加率{(W2−W1)/W1}x100を求めた。
測定条件は以下に従い実施した。
システム:東ソー製GPCシステムHLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
システム:東ソー製
カラム:TSK−GEL SuperHZM−M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK−GEL SuperHZ−L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK−GEL SuperH−RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
〔黄色度測定〕
熱可塑性樹脂組成物の黄色度(YI)は、ASTM E313によって測定した。すなわち、当該熱可塑性樹脂組成物3gをクロロホルム17gに溶解させたものを色差計(日本電色工業製、ZE6000)を用いて測定した。
〔気泡の数の測定〕
熱可塑性樹脂組成物の気泡の数は、以下のようにして求めた。
90℃のオーブンにて24時間乾燥した乾燥処理をした熱可塑性樹脂組成物を、JIS−K7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダー内に充填し、260℃で20分間保持した後、ストランド状に押し出し、得られたストランドの上部標線と下部標線との間に存在する気泡の数を目視で計数し、熱可塑性樹脂組成物1gあたりの個数で表した。
〔フィルム異物欠点測定〕
自動欠点検査装置を用いて、200mm×300mmサイズ(A4サイズ)の枚葉サンプルの異物欠点検出を行った。次いでレーザー顕微鏡を用いて、検出した異物欠点のうち20μm以上のゲル欠点をカウントした。異物欠点検査は3回行い、3回の平均個数をA4サイズの異物欠点数とした。
〔屈折率異方性〕
波長589nmにおける、フィルムの面内位相差値Re、厚み方向位相差値Rth、及び光軸は、大塚電子社製RETS−100を用いて測定した。
また、厚み方向位相差値Rthは、アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚d(nm)、40°傾斜させて測定した位相差値(Re(40°))、三次元屈折率nx、ny、nzの値を得た後、下記式から求めた。なお、フィルムの流れ方向の屈折率をnx、フィルムの幅方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした。
厚み方向位相差Rth(nm)=d×{(nx+ny)/2−nz}
面内位相差Re=(nx−ny)×d
フィルムの膜厚dは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)を用いて測定した。
なお、傾斜させる方向は、遅相軸を傾斜軸としたRe(S40°)と進相軸を傾斜軸としたRe(F40°)を測定し、Re(S40°)>Re(F40°)となる場合は遅相軸を傾斜軸とし、逆にRe(S40°)<Re(F40°)となる場合は進相軸を傾斜軸とした。
〔金属含有量〕
金属含有量は、熱可塑性樹脂組成物をメチルエチルケトンに溶解した5wt%溶液を試料とし、ICP発光分光分析装置(iCAP6500 Duo Thermo製)を用いて、金属原子の含有量として測定した。
(実施例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容量1000Lの反応容器に、40重量部のメタクリル酸メチル、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、重合溶媒として50重量部のトルエンおよび酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A−8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。続いて、重合液を240℃に加熱した多管式熱交換器に通して、環化縮合反応をさらに進行させた。
次に、得られた重合溶液を、バレル温度280℃、回転速度120rpm、減圧度133〜800hPa(100〜600mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダが設けられており、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm、濾過面積0.5m2)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=50.0mm、L/D=53)に、樹脂量換算で27kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.05kg/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.24kg/時の投入速度で第1および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液は、酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、1部の酸化防止剤2種類(チバスペシャリティケミカルズ社製イルガノックス1010、旭電化工業社製アデカスタブAO−412S)と、環化触媒失活剤として3.4部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛18%)とを、トルエン30.4部に溶解させた溶液を用いた。環化触媒失活剤の使用量は環化触媒の使用量に対して0.3モル当量であった。また、上記サイドフィーダから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの比率は73重量%/27重量%、重量平均分子量19万)のペレットを投入速度10.8kg/時で投入した。処理速度との関係から、熱可塑性樹脂組成物中のスチレン−アクリロニトリル共重合体の割合は40重量%となる。得られた樹脂中の亜鉛含有量は25ppmであった。
次に得られた樹脂ペレットを、Tダイを有するベント付単軸押出機により温度270℃で溶融押出して、厚み140μmの未延伸フィルムを成膜した。この未延伸フィルムの両端部をクリップで掴みテンターへ供給し、温度140℃まで加熱して縦方向に1.5倍に延伸を行った後、温度135℃で横方向に2.9倍に延伸を行った。延伸後に得られたフィルムの膜厚は35μmであった。未延伸、延伸後のフィルムについて、異物欠点測定を実施した。
(実施例2)
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.08kg/時の投入速度で第2ベントの後ろから投入した以外は、実施例1と同じように実施した。環化触媒失活剤の使用量は環化触媒の使用量に対して0.5モル当量であった。得られた樹脂中の亜鉛含有量は40ppmであった。得られたフィルムの膜厚は未延伸のフィルムが138μm、延伸後のフィルムが36μmであった。未延伸、延伸後のフィルムについて、異物欠点測定を実施した。
(実施例3)
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.11kg/時の投入速度で第2ベントの後ろから投入した以外は、実施例1と同じように実施した。環化触媒失活剤の使用量は環化触媒の使用量に対して0.7モル当量であった。得られた樹脂中の亜鉛含有量は60ppmであった。得られたフィルムの膜厚は未延伸のフィルムが139μm、延伸後のフィルムが35μmであった。未延伸、延伸後のフィルムについて、異物欠点測定した。また延伸後のフィルムについて、屈折率異方性を測定した。
(比較例1)
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.16kg/時の投入速度で第2ベントの後ろから投入した以外は、実施例1と同じように実施した。環化触媒失活剤の使用量は環化触媒の使用量に対して1.0モル当量であった。得られた樹脂中の亜鉛含有量は90ppmであった。得られたフィルムの膜厚は未延伸のフィルムが138μm、延伸後のフィルムが35μmであった。未延伸、延伸後のフィルムについて、異物欠点測定した。また延伸後のフィルムについて、屈折率異方性を測定した。
(比較例2)
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を第2ベントの後ろから投入しなかったこと以外は、実施例1と同じように実施した。得られた樹脂ペレットを、Tダイを有するベント付単軸押出機により温度270℃で溶融押出したが、発泡がきつく製膜ができなかった。
実施例1〜3および比較例1、2の結果を以下の表1、表2にまとめた。