JP2017075378A - 耐粒界腐食性に優れるアルミニウム合金材 - Google Patents
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Abstract
Description
一般にAl−Mn系合金は、粒界腐食感受性が低いとされているが、MnやCu添加量が多い高強度材の場合には、ろう付後に緩慢に冷却されると粒界腐食が発生することが知られている。粒界腐食が発生した場合、自動車熱交材のような薄肉材では内容物漏洩などの重大な問題を引き起こすためその対策が必要である。
ろう付熱処理後に、粒界上に存在する、結晶構造が斜方晶であるMn系金属間化合物の数密度が3個/100μm以下であることを特徴とする。
Mnは、マトリックス中にAl−Mn、Al−Mn−Si、Al−Mn−Fe、Al−Mn−Fe−Si金属間化合物を形成することで材料強度を高める効果を有している。Mn含有量が0.8%未満では、前記効果が十分ではなく、2.0%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、製造が困難となるため、Mn含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Mn含有量は、下限を1.4%とするのが好ましく、上限を1.8%とするのが望ましい。
Feは、マトリックス中に、Al−Mn−Fe金属間化合物およびAl−Mn−Fe−Si金属間化合物を形成することで材料強度を高める作用がある。Fe含有量が0.05%未満であると、鋳造時に割れを生じやすくなり、1.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が晶出し、製造が困難となるため、Fe含有量を0.05〜1.0%とする。なお、同様の理由で、Fe含有量は下限を0.15%とするのが好ましく、上限を0.4%とするのが好ましい。
Cuは、マトリックス中に固溶して材料強度を高める効果を有している。Cu含有量が0.1%未満では、その効果が十分ではなく、1.5%を超えると鋳造時に割れを生じやすくなり、製造が困難となるため、Cu含有量を上記範囲とする。なお、同様の理由で、Cu含有量は、下限を0.4%とするのが望ましく、上限を1.3%とするのが好ましい。
Siは、Mn系化合物に取り込まれることでMn系化合物の結晶構造を斜方晶構造のAl−Mnから立方晶構造のAl−Mn−Siに変化させて、粒界でAl−Cu金属間化合物が異質核として析出するのを妨げる作用がある。これによって、粒界でAl−Cu化合物が析出するのを抑制し、粒界近傍でCu欠乏層が形成されるのを抑制する作用がある。また、Siは、粒内におけるMn系化合物の析出を促進し、粒内のMn固溶度を減じて粒界近傍でMn欠乏層が形成されるのを抑制する作用がある。Si含有量が0.2%未満では、上記した効果が十分ではなく、1.2%を超えると余剰となって、Siがろう付冷却時に粒界に単体Siとして析出することで、粒界近傍にSi欠乏層を形成しやすくなるため、Si含有量を0.2〜1.2%とする。なお、同様の理由で、Si含有量は、下限を0.4%とするのが好ましく、上限を1.1%とするのが好ましい。
Mn含有量とSi含有量の比率であるMn/Si比は、ろう付冷却前のマトリックス中に固溶しているSi量の目安となる。Mn/Si比が1.5未満の場合、固溶Si量が少ないため、粒内でのMn系金属間化合物の析出が少なく、一方で粒界に優先的にMn系化合物が析出するため粒界腐食が発生しやすくなる。一方、Mn/Si比が3.0超の場合には、固溶Si量が多いため、粒界に粗大な単体Siが析出しやすくなることで粒界腐食が発生する。このため、Mn/Si比を上記範囲に定める。
なお、同様の理由で、Mn/Si比は、下限を1.8とするのが好ましく、上限を2.5とするのが好ましい。
ろう付冷却後の冷却過程において、600〜300℃の温度域にてMn系金属間化合物の析出が生じ、300℃以下の温度域にてMn系金属間化合物を析出サイトとしてCu系金属間化合物の析出が生じる。ここでMn系金属間化合物の結晶構造が斜方晶構造の場合、Cu系金属間化合物の異質核として作用しやすい。粒界上に存在するMn系金属間化合物の結晶構造が斜方晶であるものの数密度が3個/100μm以下とすることでCu系金属間化合物の粒界析出を効果的に防止でき、その結果、粒界近傍のCu欠乏層の形成を抑制して粒界腐食発生を抑えることができる。
ろう付熱処理後の粒内に分散するMn系金属間化合物の数密度が0.6個/μm2未満の場合、粒内のMn固溶量が高く、粒界と粒内の固溶Mn量に差が生じるため、粒界近傍にMn欠乏層が形成されやすくなり粒界腐食が発生しやすくなる。一方、粒内に分散するMn系金属間化合物の数密度が0.6個/μm2以上の場合には粒内の固溶Mn濃度が十分に低くなっているため、粒界にMn系金属間化合物の析出が生じていても粒界近傍にMn欠乏層が形成されにくいため、粒界腐食の発生を防止できる。
ろう付熱処理時は、アルミニウム合金材は600℃の高温にさらされるので材料中に添加されたMn、Si、Cuが過飽和に固溶した状態となる。その状態から冷却された場合、過飽和に固溶したこれらの元素が析出する。600〜300℃の温度範囲にて斜方晶構造のAl−Mn金属間化合物が粒界上に優先的に析出することで粒界近傍に粒界に沿う形で粒内よりもMn濃度が希薄なMn欠乏層が形成される。さらに300℃以下の温度域にて粒界上のAl−Mn金属間化合物を異質核サイトとしてAl−Cu金属間化合物が析出することで粒界近傍に粒界に沿う形でCu欠乏層が形成される。MnおよびCuはAlの電位を貴にする元素であるため、これら欠乏層の電位は周辺よりも卑となり、粒界近傍が優先的に腐食することで粒界腐食が発生する。
ろう付熱処理時は、アルミニウム合金材は約600℃の高温にさらされるので材料中に添加されたMn、Si、Cuが過飽和に固溶した状態となる。その状態から冷却された場合(例えば20℃/秒以下の冷却速度による冷却)、過飽和に固溶したこれらの元素が析出する。600〜300℃の温度範囲にてAl−Mn系金属間化合物が析出するが、Mn/Si比が1.5〜3.0の場合にはSiの存在によってAl−Mn系化合物の析出が促進される。そのため、粒界、粒内ともに立方晶構造のAl−Mn−Si化合物が析出し、粒界近傍でのMn欠乏層の形成が抑制される。さらに、300℃以下の温度域での粒界上へのAl−Cu金属間化合物が析出も生じにくくなる。これは、Al−Mn−Si化合物の結晶構造が立方晶構造であり、Al−Cu金属間化合物の異質核として作用しにくいためである。したがって、粒界近傍でのCu欠乏層の形成も抑制される。そのため、粒界腐食が発生しない。
ろう付熱処理時は、アルミニウム合金材は約600℃の高温にさらされるので材料中に添加されたMn、Si、Cuが過飽和に固溶した状態となる。その状態から冷却された場合、過飽和に固溶したこれらの元素が析出する。600〜300℃の温度範囲にてAl−Mn系金属間化合物が析出するが、Mn/Si比が1.5〜3.0の場合にはSiの存在によってAl−Mn系化合物の析出が促進される。そのため、粒界、粒内ともにAl−Mn−Si化合物が析出し、粒界近傍でのMn欠乏層の形成が抑制される。さらに、300℃以下の温度域での粒界上へのAl−Cu金属間化合物が析出も生じない。Al−Mn−Si化合物の結晶構造が立方晶構造であり、Al−Cu金属間化合物の異質核として作用しにくいためである。したがって、粒界近傍でのCu欠乏層の形成も抑制される。しかし、Mn/Si比が3.0超の場合、過剰に存在するSiが、粒界に優先的に粗大な単体Siとして析出するため、粒界近傍にSi欠乏層が形成され、粒界腐食が発生する。
本発明のアルミニウム合金材における組成と、Mn/Si比を有するアルミニウム合金を、半連続鋳造により鋳造し、得られた材料に400〜620℃の条件範囲で均質化処理を実施し、その後、熱間圧延、冷間圧延により、厚さ2〜8mmの板材を得ることができる。冷間圧延に際しては中間焼鈍を行ってもよく、その際には、200〜430℃の条件によって実施することができる。
板材は、単材としてもよく、ろう材などをクラッドしたクラッド材としてもよい。
板材は、ろう付け材料として使用することができ。例えば590〜620℃、577℃以上での保持時間1〜30minの条件でろう付けを行うことができる。ろう付け後の冷却速度は特に限定されるものではないが、例えば、20〜120℃/minで行うことができる。
ろう付け後の用途は特に限定されるものではないが、熱交換製品に好適に用いることができる。
表1に示す組成(残部Alと不可避不純物)のアルミニウム合金を半連続鋳造により鋳造した。得られた材料に、表1に示す条件で均質化処理を実施し、その後、熱間圧延、中間焼鈍を含む冷間圧延により、厚さ1.0mmのH16調質のブレージングシートを作製した。中間焼鈍は、400℃×5minの条件で行った。
作製した材料に、ろう付相当の熱処理(昇温速度40℃/min、600℃×10min)を施した後、腐食試験に供して評価を行った。
ろう付熱処理後のブレージングシートから20×100mmのサンプルを切り出し、10×20mmの暴露面積を残し、マスキングして、Cl−:300ppm、SO4 2−:100ppm溶液中で、電気量1mA/cm2×5時間の電気量においてアノード溶解試験を行った。アノード溶解試験後のサンプルを沸騰させたリン酸クロム酸混合溶液に10分間浸漬して腐食生成物を除去した後、腐食部の樹脂埋めし、エメリー研磨、バフ研磨により鏡面としたのち、光学顕微鏡で断面観察を実施して、粒界および粒内の溶解状態を確認することで粒界腐食発生の有無を調査した。
(粒界腐食の有無)
(1)×:粒界のみが優先的に腐食
(2)○:粒界と粒内が同程度に腐食
(3)○○:粒内のみが腐食
Claims (2)
- 質量比で、Mn:0.8〜2.0%、Cu:0.1〜1.5%、Si:0.2〜1.2%、Fe:0.05〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、Mn含有量とSi含有量の比率が1.5〜3.0の範囲にあり、
ろう付熱処理後に、粒界上に存在する、結晶構造が斜方晶であるMn系金属間化合物の数密度が3個/100μm以下であることを特徴とする耐粒界腐食性に優れるアルミニウム合金材。 - ろう付熱処理後に、粒内に分散するMn系金属間化合物の数密度が0.6個/μm2以上あることを特徴とする請求項1に記載の耐粒界腐食性に優れるアルミニウム合金材。
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