JP3801017B2 - ろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、積層型エバポレータ用プレート、ラジエータやヒータコアなどのヘッダープレートやタンクなど自動車の熱交換器用構造部材を作るために用いる高いろう付け性、成形性および耐エロージョン性を有する高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エバポレータなどの積層型の熱交換器は、アルミニウム合金ブレージングシートを張出し加工および絞り加工して得られた一対のプレート材により冷媒流通部となる管路を形成させ、熱交換を促進するフィンと共にろう付けして製造される。また、ラジエータやヒータコアなどのヘッダープレートやタンクもアルミニウム合金ブレージングシートを張出し加工や絞り加工などを施した後、チューブなどと組合せてろう付けすることにより製造される。
したがって、熱交換器に使用されるこのアルミニウム合金ブレージングシートは前述のごとく張出し加工や絞り加工を行なう必要があるところから、成形性が良くなければならない。
【0003】
また、熱交換器のラジエータやヒータコアなどのヘッダープレートやタンクは、芯材にろう材を被覆したアルミニウム合金ブレージングシートを予め成形して得られた各種成形体をろう付けして組み立てられるので、ろうを圧接部へ十分に供給する必要から優れたろう付け性が要求される。
さらに、溶融したろう材はブレージングシートの芯材を侵食する性質(以下、エロージョン性という)を有し、このエロージョンを受けた部分は耐食性が低下するとともにろうの流動性を低下させるところから、芯材はエロージョンし難い特性(以下、この特性を耐エロージョン性という)を兼ね備えていなければならない。
エロージョンの原因には2種類あると言われており、その一つは、わずかに歪が導入された部分ではろう付けを行なっても再結晶化が完了せず、亜結晶粒が残存するためにこの亜結晶粒界からろうの侵入が起こることによるものであり、もう一つは大きな歪が導入された部分では再結晶が促進されるために再結晶粒が微細となって結晶粒界からろうの侵食が起こることによるものであると言われている。
【0004】
これら成形性、耐食性、ろう付け性などの特性を有するアルミニウム合金ブレージングシートを製造するために、質量%で、Mn:0.3〜2.0%、Cu:0.1〜1.0%,Fe:0.3%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl−Mn系合金を均質化処理し、均質化処理されたAl−Mn系合金を芯材とし、この芯材の片面または両面に、少なくともSiを含む通常4000系と呼ばれるAl−Si系合金ろう材を重ね合わせて重ね合わせ素材を作製し、この重ね合わせ素材を熱間圧延したのち冷間圧延を施し、次いで、昇温速度:200℃/時以下、温度:350〜500℃で1〜20時間保持したのち冷却する最終焼鈍を施すことを特徴とするろう付け性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法が提案されている(特開平3−381761号公報参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年、自動車用熱交換器は軽量化による省エネルギー化、環境問題の解決、コストダウンなどのために従来のアルミニウム合金ブレージングシートよりも一層薄くかつろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れたアルミニウム合金ブレージングシートが求められている。しかし、従来の製造方法ではろう付け性、成形性および耐エロージョン性が十分に優れたアルミニウム合金ブレージングシートは得られなかった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、ろう付け性、成形性および耐エロージョン性が一層優れたアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を開発すべく研究を行った。その結果、
(イ)熱間圧延して得られた少なくともMnを含むアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層を有する熱間クラッド素材の仕上り温度が360〜450℃の範囲内に有るように制御し、引き続いてこの熱間クラッド素材を冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、さらに冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%となるように冷間圧延したのち最終焼鈍し、この最終焼鈍を昇温速度:2〜300℃/s、温度:200〜500℃でこの温度で3分以下保持する条件で行なうと、一層ろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートが得られる、
(ロ)しかし、熱間圧延して得られた少なくともMnを含むアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層を有する熱間クラッド素材の仕上り温度が360〜450℃の範囲から外れることがあり、かかる温度範囲から外れた温度を有する熱間クラッド素材は、温度:300〜360℃未満で1〜10時間保持したのち、冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、さらに冷却したクラッド素材を最終圧延率が20〜80%となるように冷間圧延したのち最終焼鈍し、この最終焼鈍を昇温速度:2〜300℃/s、温度:200〜500℃でこの温度で3分以下保持する条件で行なうと、一層ろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートが得られる、
(ハ)前記「少なくともMnを含むアルミニウム合金芯材」は、質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、さらに必要に応じて、Si:0.1〜0.8%,Zr:0.01〜0.2%,Ti:0.01〜0.25%,Mg:0.05〜0.5%のうち1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材であることが好ましい、などの研究結果が得られたのである。
【0007】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmおよび仕上り温度:360〜450℃を有する熱間クラッド素材を成形した後ただちに冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法、
(2)質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmを有する熱間クラッド素材を成形し、この熱間クラッド素材を温度:300〜360℃未満、1〜10時間保持したのち冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法、
(3)質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、さらに、Si:0.1〜0.8%,Zr:0.01〜0.2%,Ti:0.01〜0.25%,Mg:0.05〜0.5%のうち1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmおよび仕上り温度:360〜450℃を有する熱間クラッド素材を成形した後ただちに冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法、
(4)質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、さらに、Si:0.1〜0.8%,Zr:0.01〜0.2%,Ti:0.01〜0.25%,Mg:0 .05〜0.5%のうち1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmを有する熱間クラッド素材を成形し、この熱間クラッド素材を温度:300〜360℃未満、1〜10時間保持したのち冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明において、「Al−Si系ろう材」はSi:5〜15%を有し、さらに必要に応じてZn:0.1〜5%,In:0.001〜0.05%,Sn:0.01〜0.2%,Mg:0.1〜1.5%のうち一種または二種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl−Si系ろう材であることが好ましい。
【0009】
次に、この発明のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造条件を上述のごとく限定した理由を述べる。
(A)均質化処理条件
この発明のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法において、少なくともMnを含むアルミニウム合金芯材を560〜630℃で均質化処理するのは、鋳造時に過飽和に固溶したMnを析出させ、最終焼鈍時およびろう付け時の特に低ひずみ導入部位の再結晶を促進し、最終焼鈍後の結晶粒径を微細にして成形加工性を十分なものとするとともに、ろう付け時の芯材へのろうへの侵食を抑制する作用を有するが、その温度が560℃未満では所望の効果が得られず、一方、630℃を越えると、局部溶融の可能性が高まるとともに、一層の効果が望めないので生産性の低下をもたらすので好ましくない。したがって、均質化処理温度は560〜630℃に定めた。また、前記温度で8時間未満保持しても十分な均質化効果が得られないので均質化処理時間は8時間以上であることが好ましいが、30時間を越えて保持しても一層の効果が望めないので、均質化処理時間は8〜30時間に定めた。
【0010】
(B)熱間圧延条件
(i)仕上がり温度および保持温度
この発明のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法において、熱間圧延後の熱間クラッド素材の仕上り温度または保持温度を360〜450℃の範囲内に有るように制御したのは、熱間圧延終了後の冷却時にマトリックス中に固溶しているMnを析出させ、最終焼鈍時およびろう付け時の特に低ひずみ導入部位の再結晶を促進し、最終焼鈍後の結晶粒径を微細にして成形加工性を十分なものとするとともに、ろう付け時の芯材へのろうへの侵食を抑制する作用を有するが、その温度が360℃未満では所望の効果が得られず、一方、450℃を越えると、Mnがマトリックス中へ固溶して再結晶を遅延させるので好ましくない。したがって、熱間圧延後の熱間クラッド素材の仕上り温度または保持温度は360〜450℃(一層好ましくは、380〜420℃)に定めた。
また、厚さ:6.5〜10mmおよび仕上げ温度:300〜360℃未満となるように制御して熱間クラッド素材を作製し、300〜360℃未満に1〜10時間保持するとマトリックス中に固溶しているMnを析出させることができる。さらに所定の温度で熱間圧延して熱間クラッド素材を作製し、熱間クラッド素材が冷却途中で300〜360℃未満になった時点で300〜360℃未満に1〜10時間保持するとマトリックス中に固溶しているMnを析出させることができる。
したがって、温度:300〜360℃未満に1〜10時間保持した熱間クラッド素材に中間焼鈍を施すことなく冷間圧延し、最終焼鈍することができる。
(ii)冷却速度
この発明のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法において、熱間圧延後の仕上り温度が360〜450℃に制御した熱間クラッド素材の冷却速度を10〜150℃/時の範囲内に有るように制御することがこの発明の特徴の一つであり、マトリックス中に固溶しているMnの析出を促進させるために熱間クラッド素材の冷却速度を制御するものであるが、仕上り温度:360〜450℃を有する熱間クラッド素材の冷却速度を10℃/時未満にするとMnの析出を促進させる作用の一層の効果が得られない上、生産性が低下する。一方、150℃/時を越えるとマトリックス中にMnが固溶し、ろう付け時の再結晶を遅延させるので好ましくない。したがって、熱間圧延後の仕上り温度を360〜450℃を有する熱間クラッド素材の冷却速度は10〜150℃/時(一層好ましくは、20〜80℃/時)の範囲内に定めた。
(iii)熱間クラッド素材の厚さ
熱間圧延後の熱間クラッド素材の仕上り厚さを通常より厚い厚さの6.5〜10mmに調整することにより、その後施される冷間圧延の圧延率を大きくして最終焼鈍時の再結晶化を促進し、これにより最終焼鈍後の結晶粒径を微細に成形して成形加工性を十分なものとする。したがって、熱間圧延後の熱間クラッド素材の仕上り厚さを6.5mm未満とすると十分な効果が得られず、一方、10mmを越えると、冷間加工工程を増加させる必要があり、生産性が増加するにもかかわらず一層の効果が得られないので好ましくないので、熱間圧延後の熱間クラッド素材の仕上り厚さは6.5〜10mmに定めた。
【0011】
(C)冷間圧延条件
冷間圧延による最終圧延率は、最終焼鈍時の軟化特性を制御し、成形性と耐エロ−ジョン性を両立するための範囲を十分広いものとする必要があるが、最終圧延率が80%を越えると成形性及び耐エロ−ジョン性が両立できるような焼鈍条件の範囲が著しく狭くなり、現実的にはほとんど制御できなくなるので好ましくなく、一方、最終圧延率が20%未満では最終焼鈍時の昇温速度を十分速くするか、温度を高くしなければならず、仮にこのような条件とした場合でも格別な効果が望めないので、最終圧延率は20〜80%に定めた。なお、最終圧延率を20〜80%にするまでには必要に応じて中間焼鈍を行なっても良い。
【0012】
(D)最終焼鈍条件
(i)昇温速度
最終焼鈍後の結晶粒径を微細にして成形加工性を十分なものとするとともに、成形時に加工の導入されない部分におけるろうの侵食を抑制する作用を有するが、その昇温速度が300℃/sを越えると再結晶が遅延されるため残留歪が大きくなって成形性が低下すると共に結晶粒径が粗大化して加工性が低下するので好ましくなく、一方、昇温速度が2℃/s未満では最終焼鈍後の結晶粒径が微細になりすぎて成形時に加工の導入されない部分でろうの侵食が著しく大きくなるので好ましくない。したがって、最終焼鈍における昇温速度は2〜300℃/s(一層好ましくは、20〜200℃/s)に定めた。
(ii)保持温度
冷間圧延板を軟化させ、ろう付け性、成形性を向上させるには、200〜500℃の範囲内に3分以下(0分も含む)保持する必要があるが、その保持温度が200℃未満では十分な効果が得られず、一方、500℃を越えて保持すると、Mnがマトリックス中へ固溶してろう付け時の再結晶を遅延させるので好ましくない。また、結晶粒が微細になりすぎて、歪が導入されない部分では結晶粒界からのろうの侵食が激しくなる。したがって、保持温度を200〜500℃(一層好ましくは、300〜450℃)の範囲内に定めた。
【0013】
(D)芯材
Mn:
Mnは金属間化合物として晶出または析出してろう付け後の強度を向上させ、芯材の電位を貴にして耐エロージョン性を改善する作用を有するが、その含有量が1.0%未満では所望の効果が得られず、一方、1.5%を越えて含有すると圧延などの加工性が低下するところから、芯材に含まれるMn量は1.0〜1.5%に定めた。Mnの含有量の一層好ましい範囲は1.1〜1.3%である。
Cu:
Cuは固溶してろう付け後の強度を向上させるとともに、芯材の電位を貴にして芯材の耐エロージョン性を向上する作用を有するが、その含有量が0.05%未満では所望の効果が得られず、一方、0.8%を越えて含有すると融点が低下し、ろう付け時に芯材が溶融するようになるので好ましくない。そたがって、芯材に含まれるCu量は0.05〜0.8%に定めた。Cuの含有量の一層好ましい範囲は0.1〜0.6%である。
Fe:
Feは、金属間化合物として晶出または析出してろう付け後の強度を向上させ、最終焼鈍時の再結晶を促進する作用を有するが、その含有量が0.1%未満では所望の効果が得られず、一方、0.7%を越えて含有すると腐食速度が速くなりすぎ、最終焼鈍後の再結晶粒が細かくなりすぎて成形時に加工の導入されない部分でろうによる侵食が著しく大きくなるので好ましくない。したがって、芯材に含まれるFe量は0.1〜0.7%に定めた。Feの含有量の一層好ましい範囲は0.2〜0.5%である。
Si,Zr、Ti、Mg:
これら成分は、いずれも金属間化合物として晶出または析出してろう付け後の強度を向上させる作用を有するので、必要に応じてSi,Zr、Ti、Mgの内の1種または2種以上を添加するが、Si:0.1%未満、Zr:0.01%未満,Ti:0.01%未満、Mg:0.05%未満では所望の効果が得られず、一方、Si:0.8%を越え、Zr:0.2%を越え、Ti:0.25%を越えて含有すると圧延などの加工性が低下するので好ましくなく、Mg:0.5%を越えて含有すると加工性およびろう付け性が低下するので好ましくない。従って、Si、Zr、Ti、Mgの含有量は、それぞれSi:0.1〜0.8%、Zr:0.01〜0.2%、Ti:0.01〜0.25%、Mg:0.05〜0.5%の範囲内に定めた。
【0014】
(E)ろう材
また、この発明のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法において用いるAl−Si系ろう材は、Si:5〜15%を含有し、さらに必要に応じてZn:0.1〜5%、In:0.001〜0.05%、Sn:0.01〜0.2%、Mg:0.1〜1.5%のうち1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl−Si系ろう材であることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
実施例
表1に示す成分組成のAl合金を溶解し、鋳造してインゴットを製造し、このインゴットを600℃、15時間保持の条件で均質化処理後、熱間圧延を行い、厚さ:160mmの熱延板とし、芯材a〜jを作製した。
【0016】
【表1】
【0017】
さらに、表2に示す成分組成のAl合金を溶解し、鋳造してインゴットを製造し、このインゴットを600℃、15時間保持の条件で均質化処理後、熱間圧延を行い、厚さ:20mmの熱延板とし、ろう材ア〜ケを作製した。
【0018】
【表2】
【0019】
表1に示す成分組成の芯材a〜j、表2に示す成分組成のろう材ア〜ケを表3に示す組み合わせで重ね合わせて、重ね合わせ素材A〜Rを作製し、この重ね合わせ素材A〜Rを表4〜5に示す条件で熱間圧延することにより熱間クラッド素材を作製し、続いて熱間クラッド素材を表4〜5に示す最終圧延率で板厚が0.5mmとなるように冷間圧延を行い、次いで表4〜表5に示す条件で連続焼鈍炉を用いて最終焼鈍を行なうことにより本発明アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法(以下、本発明法という)1〜18を実施した。
【0020】
さらに、実施例で用意した表3の重ね合わせ素材A〜Rを表6〜7に示す条件で熱間圧延することにより熱間クラッド素材を作製し、続いてこれら熱間クラッド素材に中間焼鈍を施したのち冷間圧延する操作を繰り返し施すことにより板厚が0.5mmとなるまで冷間圧延を行い、次いで表6〜表7に示す条件で最終焼鈍を行なうことにより従来アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法(以下、従来法という)1〜18を実施した。
【0021】
これら本発明法1〜18および従来法1〜18で作製したブレージングシートについて、ろう付け性および耐エロージョン性を評価するために下記のドロップ試験を行ない、さらに成形性を評価するために下記の深絞り試験を行なった。
【0022】
ドロップ試験
前記本発明法1〜21および従来法で作製した板厚:0.5mmのブレージングシートを縦:100mm、横:25mmの寸法に切断して試験片を作製した。さらに、成形加工をシュミレーションするために最終焼鈍後にさらに5%の圧延加工を施した試験片も作製した。これは通常のブレージングシートに5%程度低加工を加えたブレージングシートはろうの侵食が激しくなることは一般に知られているので、本発明法1〜18および従来法1〜18で作製した板厚:0.5mmのブレージングシートについて5%の圧延加工を施した試験片を作製し、これをドロップ試験することによりろう付け性および耐エロージョン性を評価するためである。
図1は、ドロップ試験前の試験片の断面図であり、図1において、1は芯材、2はろう材、3は試験片である。この試験片3を長手方向に吊り下げた状態で温度:600℃、5分間保持の条件でろう付けを想定した熱処理、即ちドロップ試験を行なった。図2はドロップ試験後の試験片の断面図であり、図2において1bはドロップ試験後の試験片の芯材、2bはドロップ試験後の試験片のろう材である。図2に示されるように、ドロップ試験後の試験片は上部のろう材が溶けて垂れ下がって下部に貯まり、ろう材の膨らみが形成されている。
そこで、ドロップ試験後の試験片を、図2に示されるように、a:b=3:1となるようにS−S線で切断し、S−S線より下の部分の試験片重量をWB、ドロップ試験前の図1における試験片の重量をW0、流動係数をKdとすると、下記の式:
Kd=(4WB−W0)/3W0×クラッド率
から流動係数Kd求め、その結果を表4〜表7に示した。
【0023】
さらに、図1に示されるドロップ試験前の試験片における芯材の厚さをt0、図2に示されるドロップ試験後の試験片における芯材の残存厚さをtb、ろう侵食率をEとすると、下記の式:
E=((t0−tb)/t0)×100(%)
からろう侵食率Eを求め、その結果を表4〜表7に示した。
【0024】
深絞り試験
本発明法1〜18および従来法1〜18で作製したブレージングシートを、パンチ角半径:4.5mmを有する平底パンチおよびダイス肩半径:4.3mmを有する平面ダイスを備えた工具を用い、絞り速度:20m/minで絞り得るブレージングシートの最大直径をD0max、パンチ直径をdpとすると、LDR(限界絞り比)=D0max/dpを求め、その結果を表4〜表7に示した。
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
【表6】
【0029】
【表7】
【0030】
【発明の効果】
表1〜表7に示される結果から、本発明法1と従来法1とでは同じ重ね合わせ素材Aを使用しているが、本発明法1で得られたブレージングシートは従来法1で得られたブレージングシートに比べて、流動係数Kdが大きいところからろう付け性に優れ、ろう侵食率Eが小さいところから耐エロージョン性に優れていることが分かる。さらに本発明法1で得られたブレージングシートは従来法1で得られたブレージングシートに比べてLDR(限界絞り比)が大きいところから成形性に優れていることが分かる。
【0031】
同様にして、本発明法2〜18で得られたブレージングシートは従来法2〜18で得られたブレージングシートに比べて、流動係数Kdが大きいところからろう付け性に優れ、ろう侵食率Eが小さいとことから耐エロージョン性に優れていることが分かる。さらに本発明法2〜18で得られたブレージングシートは従来法2〜18で得られたブレージングシートに比べてLDR(限界絞り比)が大きいところから成形性に優れていることが分かる。
上述のように、この発明は、一層優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートを提供することができ、産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルミニウム合金ブレージングシートから作製した試験片の断面説明図である。
【図2】ドロップ試験後におけるアルミニウム合金ブレージングシートの試験片の断面説明図である。
【符号の説明】
1 芯材
2 ろう材
3 試験片
1b 芯材
2b ろう材
Claims (6)
- 質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmおよび仕上り温度:360〜450℃を有する熱間クラッド素材を成形した後ただちに冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すことを特徴とするろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。 - 質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmを有する熱間クラッド素材を成形し、この熱間クラッド素材を温度:300〜360℃未満、1〜10時間保持したのち冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すことを特徴とするろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。 - 質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、さらに、Si:0.1〜0.8%,Zr:0.01〜0.2%,Ti:0.01〜0.25%,Mg:0.05〜0.5%のうち1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmおよび仕上り温度:360〜450℃を有する熱間クラッド素材を成形した後ただちに冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すことを特徴とするろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。 - 質量%で、Mn:1.0〜1.5%、Cu:0.05〜0.8%、Fe:0.1〜0.7%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、さらに、Si:0.1〜0.8%,Zr:0.01〜0.2%,Ti:0.01〜0.25%,Mg:0.05〜0.5%のうち1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可 避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金芯材を温度:560〜630℃、8〜30時間保持の条件で均質化処理したのち、この均質化処理したアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材を重ね合わせて重ね合せ素材を作製し、
この重ね合せ素材を熱間圧延してアルミニウム合金芯材の片面あるいは両面にAl−Si系ろう材層が圧接した厚さ:6.5〜10mmを有する熱間クラッド素材を成形し、この熱間クラッド素材を温度:300〜360℃未満、1〜10時間保持したのち冷却速度:10〜150℃/時で冷却し、
この冷却した熱間クラッド素材を最終圧延率が20〜80%になるように冷間圧延して冷間圧延クラッド素材を形成し、
この冷間圧延クラッド素材を連続焼鈍炉を用いて昇温速度:2〜300℃/sで温度:200〜500℃に昇温し、この温度で3分以下保持する最終焼鈍を施すことを特徴とするろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。 - 前記Al−Si系ろう材はSi:5〜15%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl−Si系ろう材であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
- 前記Al−Si系ろう材はSi:5〜15%を有し、さらにZn:0.1〜5%,In:0.001〜0.05%,Sn:0.01〜0.2%,Mg:0.1〜1.5%のうち一種または二種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl−Si系ろう材であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のろう付け性、成形性および耐エロージョン性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
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