以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りタイヤの一例を示す幅方向片側断面図を示す。
図示する本発明のタイヤ1は、一対のビード部3と、一対のビード部3からそれぞれタイヤ半径方向外側に連なる一対のサイドウォール部4と、一対のサイドウォール部4間に跨って延び接地部を形成するトレッド部5とからなる。また、図示するタイヤは、一対のビード部3にそれぞれ埋設された一対のビードコア2間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも1枚、図示する例では1枚のカーカスプライ6からなるカーカスを骨格とし、そのクラウン部タイヤ半径方向外側に配置された、少なくとも2枚、図示する例では2枚のベルトからなるベルト層9を備えている。
本発明のタイヤにおいては、カーカスプライ6の少なくとも1枚が、一対のビードコア2間に延在するプライ本体部6aと、ビードコア2の周りでタイヤ半径方向内側から外側に向かい折り返されるプライ折返し部6bとを含んでいる。また、プライ折返し部6bは、ビードコア2の周面に沿ってタイヤ幅方向外側に折り返されるプライ巻付け部と、プライ巻付け部からビードコア2のタイヤ半径方向外側の領域を延びて立ち上がりプライ本体部6aに接近して沿うまでのプライ折曲り部と、プライ本体部6aに沿って並行に延びるプライ並行延設部と、からなる。
本発明のタイヤにおいては、プライ折返し部6bのうちプライ並行延設部のタイヤ幅方向外側に沿って、プライ折返し部の終端6bEからタイヤ半径方向外側に迫り出すように補強層7が配置されており、この補強層7が、所定の芯鞘型の複合繊維のゴム引き層よりなる点が重要である。かかる補強層7を配置したことで、カーカスプライのプライ折返し部が、それを係留するために設けられたビードコアから脱離する故障を発生しにくくなるため、タイヤの耐久性を高めることができる。
また、補強層7に用いる本発明に係る複合繊維(C)は、タイヤ製造時の2次成形工程で、ビードコアを配設した円筒状のカーカスバンドの中央部分を膨出する変形に伸長して、また、加硫時に張力下ではクリープして伸長するが、荷重がかからずに弛むときは、コードが収縮するため、従来の高弾性コードではコードが「切り糸」となり追従できないのに対して、タイヤを成型できる自由度が高くなるので好ましい。
本発明に用いる芯鞘型の複合繊維(C)は、芯部が融点150℃以上の高融点樹脂(A)からなり、鞘部が、オレフィン系重合体(D)を含み高融点樹脂よりも融点の低い樹脂材料(B)からなるものである。かかる芯鞘型の複合繊維(C)において、鞘部を構成する樹脂材料(B)は、芯部よりも融点が低いために、ゴム物品の補強用途に適用する際に、加硫時の加熱により、ゴムと熱融着することによって直接密着することが可能であるとのメリットを有する。すなわち、本発明に係る芯鞘繊維はゴム内に埋設されるが、かかる芯鞘繊維は、ゴムと複合するに際して、従来より、タイヤコードの接着に用いられているようなレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤等の接着剤組成物を付着させるディップ処理を行う必要がないので、接着加工工程を簡素化することができる。また、タイヤ等の補強用途において接着剤組成物を用いて有機繊維とゴムとを接着する際には、一般に、接着力を確保するために、有機繊維を繊維コーティング用ゴム(Skim Rubber)により被覆することが必要であったが、本発明に係る芯鞘繊維は、ゴムと、熱融着により、繊維コーティング用ゴムを介さずに直接強い密着力を得ることが可能である。
また、本発明者の検討によれば、本発明に係る芯鞘繊維を加硫すると、その長手方向の切断端部において、加硫前には露出していた芯部をなす高融点樹脂(A)の切断端面が、鞘部の樹脂材料(B)により被覆されて、この部分においても、鞘部の樹脂材料(B)とゴムとの強固な融着が得られることがわかっている。これは、加硫時の加熱により、鞘部をなす低融点の樹脂材料が流動して、高融点樹脂からなる芯部の切断端面とゴムとの間の間隙に入り込むためであると考えられ、これにより、加硫後における歪に対する耐久性を、より向上することができる。
本発明に係る芯鞘型の複合繊維において、芯部を形成する高融点樹脂(A)の融点は、150℃以上、好ましくは160℃以上とする。上記高融点樹脂の融点が150℃未満であると、ゴム物品の加硫時に、複合繊維の芯部が溶融変形して細くなったり、繊維樹脂分子の配向性が低下するなどにより、十分に補強性能を有しないものとなる。また、本発明に係る芯鞘型の複合繊維において、鞘部を形成する樹脂材料(B)は、融点の下限が80℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは135℃以上の範囲とする。樹脂材料の融点が80℃未満であると、加硫初期に充分に樹脂材料の表面にゴムが流動により密着しないと、表面に微細な空隙ができるなどにより、十分な密着力が得られないおそれがある。また、樹脂材料の融点が120℃以上であると、硫黄と加硫促進剤とを配合したゴム組成物で工業的に用いられる可能性がある加硫処理温度としての130℃以上において、ゴムと低融点の樹脂材料とが熱融着すると同時に、ゴム組成物の加硫架橋反応を行うことができるために好ましい。なお、工業的に加硫時間を短くするために加硫温度を170℃以上とした場合には、樹脂材料の融点が80℃未満のときには、溶融した樹脂の粘性が低くなりすぎて加硫時に熱流動性が大きくなり、加硫時の圧力により鞘の厚みが薄くなる箇所が発生して、接着試験などの歪応力が、鞘樹脂が薄い箇所に集中し、この部位で破壊を起こしやすくなる場合があるため、樹脂材料の融点は、120℃以上であることがより好ましい。一方、樹脂材料の融点の上限が150℃未満であると、加硫温度が175℃以上の高温で、樹脂材料の熱流動性により、ゴム組成物との加硫初期での相溶性が得られる場合がある。また、樹脂材料の融点が145℃以下であると、一般的な加硫温度で加硫初期の樹脂の相溶性が得られるので好ましい。
本発明において用いるゴム補強用の複合繊維は、鞘部が融点の低い樹脂材料で、ゴムと熱融着により直接密着することが可能であり、同時に、芯部の融点が150℃以上の高融点樹脂である、芯鞘構造を有する複合繊維(C)であることを特徴とする。これが例えば、単一組成のモノフィラメントコードの場合には、本発明の効果を得ることができない。従来の単一組成のポリオレフィン系樹脂などからなるモノフィラメントコードでは、低融点の場合、ゴム物品のゴムと熱融着により融体となることで濡れ広がり、被着ゴムに密着させることはできても、溶融した融体となりコード方向に配向した繊維樹脂の分子鎖が無配向になると、ゴムを補強するコード材料としての引張剛性を保持することができなくなる。一方、加熱下においても樹脂が融体とならない高融点の場合、ゴムとの溶着性が低くなる。このため、本発明の芯鞘構造をもつ複合繊維でない、単一組成のモノフィラメントコードでは、引張剛性の保持とゴムへの溶着性との背反する機能を両立させることは困難であった。
本発明において、芯部を形成する融点150℃以上の高融点樹脂(A)としては、溶融紡糸により糸状形成が可能である既知の樹脂であれば 、特に制限はなく、具体的には例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド樹脂などが挙げられ、ポリエステル系樹脂(Q)やポリオレフィン系樹脂(P)などが好ましい。ポリエステル系樹脂においては特に、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂が好ましく挙げられる。
本発明の芯部を形成するポリトリメチレンテレフタレート系樹脂としては、ポリトリメチレンテレフタレートのホモ重合体、共重合体、あるいは他の混合可能な樹脂との混合物であってもよい。ポリトリメチレンテレフタレート共重合体の共重合可能な単量体としては、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸等の酸成分や、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール等のグリコール成分、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシメチレングリコール等が挙げられる。これらの共重合が可能な単量体の含量は特に制限されないが、共重合体の曲げ剛性が低下するため、10質量%以下であることが好ましい。ポリトリメチレンテレフタレート系重合体と混合可能なポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられ、50質量%以下で混合してもよい。
上記ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度[η]は、0.3〜1.2が好ましく、より好ましくは、0.6〜1.1である。極限粘度が0.3未満であると繊維の強伸度が低くなり、1.2を超えると紡糸による糸切れの発生で生産性が難しくなる。なお極限粘度[η]については、35℃のo‐クロロフェノール溶液で、オストワルド粘度計により測定することができる。また、ポリトリメチレンテレフタレートのJIS‐K‐7121に従って測定したDSCより求められる融解ピーク温度は、180℃〜240℃であることが好ましい。より好ましくは200℃〜235℃である。融解ピーク温度が180〜240℃の範囲であると、耐候性が高く、得られる複合繊維の曲げ弾性率を高くすることができる。
なお、上記ポリエステル系樹脂からなる混合物の添加物として、例えば、可塑剤、柔軟化剤、帯電防止剤、増量剤、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、抗菌剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
また、芯部と鞘部材料の樹脂界面における相溶性を向上するため、後述する、不飽和カルボン酸またはその無水物の単量体を含むオレフィン系共重合体の金属塩による中和度が20%以上のアイオノマーを、1〜20質量部範囲で混合することができる。
また、芯部を形成するポリオレフィン系樹脂としては、高融点ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特に好ましくはポリプロピレン樹脂であり、さらに好ましくは結晶性のホモポリプロピレン重合体であり、さらに好ましくはアイソタクチックポリプロピレンを挙げることができる。
なお、本発明に用いる芯鞘型の複合繊維においては、芯部が融点150℃以上の高融点樹脂により構成されており、この芯部はゴムの加硫工程においても溶融することがない。本発明者において、通常の工業的な加硫条件より高温度の195℃で15分間の加硫を行い、加硫後のゴムに埋設されたコードの断面を観察したところ、鞘部の低融点オレフィン系重合体は円形であった断面が溶融して変形したが、芯部の高融点樹脂は芯鞘複合紡糸後の円形の芯部の断面形状を保ち、完全に溶融した融体とならずに、繊維破断強度も150N/mm2以上の強度を保持していた。
このように、本発明者はコードの芯部の樹脂の融点が150℃以上であれば、ゴム物品の加硫時に195℃の加熱処理を受けても、芯鞘繊維が溶融して切断せずに、本発明における摩擦係数向上効果が得られることを見出した。なお、このように樹脂固有の融点より高い加工温度でも材料強度を保て耐熱性がある理由は、ゴム中に埋設されることでコードが定長で加硫されるときには、JIS−K7121などの樹脂形状を拘束しないで融点を測定する方法とは異なり、繊維を収縮しない定長拘束の条件となるため、樹脂固有の融点より高融点化したと考えられる。このような繊維が収縮しない「定長拘束」の測定条件下では、繊維材料に特有な状況下の熱的現象として、高融点化する場合があることが知られている(第2版 繊維便覧、平成6年3月25日発行、編者:社団法人 繊維学会、発行:丸善株式会社、207頁13行)。この現象については、物質の融点はTm=ΔHm/△ Smの式で表されるが、この式において、同じ繊維樹脂であれば結晶化度および平衡融解エンタルピーΔHmは変わらない。しかしながら、コード方向に張力がかかり定長に(あるいは延伸)して、融解時のコードの熱収縮を禁じると、コード方向に配向した分子鎖は融解で配向緩和し難くなるため、融解のエンタルピーΔSmが小さくなる結果、融点が上昇するとの考察がなされている。しかしながら、本発明のような樹脂材料で、JIS法による樹脂融点以上で融体になると想定されていたコード材料で、ゴム加硫工程に相当する温度で検討し、かつ、ゴムと熱融着により直接密着させると同時に、加硫工程における加熱下においても芯部の樹脂の剛性を両立する、ゴム物品に補強に好適な樹脂材料を検討実施した知見は、これまでに知られていない。
また、本発明の好適な例として、芯部を構成する融点が150℃以上の樹脂として、ポリプロピレン樹脂またはPPT樹脂を用いた場合、従来よりタイヤコードに用いられている公知の66ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、アラミドなどの高弾性のコードよりモジュラスは低いものの、これら従来コードとゴムとの中間の弾性率になるようコード材質あるいは紡糸時の延伸倍率などの製造条件で調整できるので、従来のタイヤコードではできなかった、タイヤ内の位置にコードを配設することができるようになることが特徴として挙げられる。
例えば、タイヤなどのゴム物品の製造では、ゴムや被覆したコード材料からなる部材を組み上げて、生タイヤなどの成型された加硫前の原形を金型に入れ、ブラダーというゴム風船状の圧縮装置で、内側から金型に向け、高温・高圧の蒸気で押し付ける加硫工程がある。この際にコードのモジュラスが高すぎると、生タイヤなどの成型された加硫前の原形に配設された状態から、高温・高圧の蒸気で金型に押し付ける状態で、ゴム材料とともにコード材料が伸びて拡張されない場合があり、この場合、コードがいわゆる「切り糸(粘土などの塊を切る糸)」となって、加硫前の原形に組み上げられたゴム材料を切り離すなどの不具合が発生する。そのため、高モジュラスのコードは、従来の製造方法のままで製造上の対策を行わないと、タイヤに配設することが困難であった。特に、タイヤサイド部においてタイヤ周方向にコードを配置する構造では、コードを円環状にジョイントするので、高温・高圧の蒸気の押し付けで、張力がかかったコードがタイヤ半径方向でビード側のゴム材料を切って移動する、製造上の課題が発生しやすい。
これに対し、本発明のコードは、従来の高弾性のコードに比較して、コード材料も伸びやすい材料であるので、タイヤなどのゴム物品の製造加工時にコードが「切り糸」となりコードを配置できなかった製品構造や配設位置であっても、加硫温度において、例えば加硫の下限温度に近い140℃でコード荷重がかかると、本発明のコードのようにクリープしやすいコードであると、従来の方法のままで製造が可能になる。このような、タイヤ部材を配設する設計における自由度を広くできることも、本発明の一つの特徴である。
また、鞘部を形成する樹脂材料に用いるオレフィン系重合体(D)としては、プロピレン−αオレフィン共重合体(H)、プロピレン−非共役ジエン系共重合体(I)、不飽和カルボン酸またはその無水物の単量体を含むオレフィン系共重合体の金属塩による中和度が20%以上のアイオノマー(J)、および、オレフィン系単独重合体(K)等のオレフィンからなるものであればよい。
本発明に係る、プロピレン−αオレフィン系ランダム共重合体(H)は、プロピレンと共重合するコモノマーとして、既知のα−オレフィン単量体を使うことができる。また、コモノマーとして用いられるモノマーは1種類に限られず、ターポリマーのようにモノマーを2種類以上用いた多元系共重合体も好ましいものとして含まれる。
また、本発明の目的とする効果が得られる範囲であれば、その他のポリプロピレンと共重合が可能なモノマーを、例えば、5モル%以下の範囲含ませることができる。
これらのプロピレン−αオレフィン系ランダム共重合体(H)としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、ブテン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体が好ましく挙げられる。
α−オレフィンとしては、炭素数2または4〜20のもの、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1の直鎖状または分岐状のα−オレフィン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテンなどの環状オレフィン等を挙げることができる。これらのα−オレフィンは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、特に好ましいのはエチレン、1−ブテンである。
また、上記プロピレン−αオレフィン系ランダム共重合体におけるプロピレン含量としては、好ましくは20〜99.7モル%、より好ましくは75〜99.5モル%、さらに好ましくは95〜99.3モル%である。プロピレン含量が20モル%より少ないとポリエチレン結晶成分が生成することなどから耐衝撃強度が不十分となることがある。また、一般的にプロピレン含量が75モル%以上であると、紡糸性が良くなるために好ましい。さらに、プロピレン含量が99.7モル%以下になると、ポリプロピレンに共重合するエチレンなどの他の単量体の付加重合により、分子鎖のランダムさが増して熱融着しやすいコードになる。さらにまた、エチレン含量は0.3モル%〜80モル%が好適である。エチレンの含量が80モル%を超えると、鞘部と被着ゴムとの融着において、鞘部の耐破壊抗力が充分でなく、鞘部の中で亀裂が生じて破壊しやすくなるので好ましくない。またエチレンの含量が5%以下であると、紡糸時に鞘樹脂同士が接触したときの融着性が小さくなり紡糸性が好ましくなる。また、エチレン含量が0.3モル%未満であると、ポリプロピレンからなる重合体に、エチレン単量体が付加重合されることによる分子鎖の配向の乱れが少なく、ひいては結晶性が高くなるため、鞘部の樹脂の熱融着性が低下する。
前記のプロピレン−αオレフィン系共重合体(K)については、同じビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の20%以下である、ランダム共重合体が好ましい。ランダム共重合が好ましい理由は、プロピレン−αオレフィン系共重合体(K)の結晶性が低くより無配向であると、配向性の低い被着ゴム成分と、加熱時に分子鎖の相溶による融着性が得られやすくなるため、好ましいためである。
本発明に係る、プロピレン−非共役ジエン系共重合体(I)は、プロピレンと既知の非共役ジエンを重合させて得ることができる。これらコモノマーとして用いられるモノマーは1種類に限られず、ターポリマーのようにモノマーを2種類以上用いた多元系共重合体も好ましいものとして含まれる。また、本発明の目的とする効果が得られる範囲であれば、その他のポリプロピレンと共重合が可能なモノマーを、例えば、5モル%以下の範囲含ませることができ、これらモノマーが含まれる重合体についてもプロピレン−非共役ジエン系共重合体(I)とする。
好ましい例としては、1−ブテン−プロピレン共重合体などを挙げることができる。
非共役ジエンのモノマーとしては、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、4,8−ジメチル−1,4,8−デカトリエン、4−エチリデン−8−メチル−1,7−ノナジエン等を挙げることができる。
特に、エチレンとプロピレンに第三成分として非共役ジエンを導入する場合は、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体(EPDM)の成分が含まれると、被着ゴムとの界面の密着性とともに硫黄による共加硫性をもつ成分が含まれるので、好ましい。
また、上記プロピレン−非共役ジエン共重合体におけるプロピレン含量としては、好ましくは20〜99.7モル%、より好ましくは30〜75モル%、さらに好ましくは40〜60モル%である。プロピレン含量が20モル%より少ないと、紡糸後にコードの鞘樹脂同士が互いにくっ付き合うブロッキング現象が発生しやすくなる。また30モル%以下であると、紡糸時の表面の摩擦で、鞘樹脂表面が乱れやすい。一方プロピレン含量が99.7モル%以上となると、ポリプロプレンに共重合する他の単量体が少なくなると、分子鎖のランダムさが少なくなり、ポリプロピレンの結晶性が高くなるので、融着性が低いコードになる。一方、非共役ジエンの単量体の含量が、80モル%を超えると、鞘部と被着ゴムとの融着において、鞘部の耐破壊抗力が充分でなくなり、鞘部の中で亀裂が生じて破壊しやすくなるので好ましくない。また、エチレン含量が0.3モル%未満となると、被着ゴムとの相容性や、共加硫による接着の向上が少なくなる。
本発明に係る、不飽和カルボン酸またはその無水物の単量体を含むオレフィン系共重合体の金属塩による中和度が20%以上のアイオノマー(J)としては、エチレン−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体、あるいはポリオレフィンの不飽和カルボン酸による変性体、などのカルボキシル基の一部または全部を金属で中和したアイオノマーを使用することができる。アイオノマーを構成する金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの一価金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅、コバルト、マンガン、鉛、鉄などの多価金属などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ナトリウム、あるいは、亜鉛が好ましい。
なお、本発明の検討では、鞘部の樹脂材料(B)の使用においては、エチレン−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体を金属で20%以上を中和したアイオノマーが好ましい。この理由は、鞘樹脂材料が、カルボン酸などの官能基によりプロトンH+供与性の酸性雰囲気になると、被着ゴムから鞘樹脂材料に硫黄が移行して活性化しても、プロトンH+が多加硫物を還元するので、多加硫物が形成できないため、被着ゴムとの接着性を強固にできない環境となり易いためである。なお、カルボン酸と金属塩の中和度は、100%以上であることが好ましいが、カルボン酸は弱酸であるため、カルボン酸の中和度が20%でも、本発明の効果が得られる。なお、好ましいカルボン酸の中和度は20%から250%であり、更に好ましくは、70〜150%である。
エチレン性不飽和カルボン酸のモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソオクチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸エステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸エステルなどが挙げられる。
これらの中でも、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましい。
なお、本発明における中和度は、下記式で定義される。
中和度(%)=100×[(樹脂成分の陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数)+(塩基性無機金属化合物の金属成分のモル数×金属成分の価数)]/[(樹脂成分のカルボキシル基のモル数)
これら、陽イオン成分量および陰イオン成分量は、中和滴定などのアイオノマーの中和度の検討方法により求めることができる。
本発明に係る、オレフィン系単独重合体(K)としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンあるいは直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン単独重合体、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプリピレン、あるいは、シンジオタクティックポリプロピレンなどのプロピレン単独重合体、4−メチルペンテン−1単独重合体、1−ブテンの単独重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリノルボルネンなどが挙げられる。特に制限されないが、本発明では、高密度ポリエチレン、あるいは、プロピレン重合において触媒で立体規則性を低く制御して融点を低く制御したポリプロピレンなどが好ましい例として挙げられる。
これらオレフィン系共重合体樹脂の製造方法としては、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒などのオレフィン重合触媒を用いてのスラリー重合、気相重合あるいは液相塊状重合が挙げられ、重合方式としては、バッチ重合および連続重合のどちらの方式も採用することができる。
本発明における、鞘部の樹脂材料(B)に含まれるオレフィン系重合体(D)は、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体(H)、プロピレン−非共役ジエン系共重合体(I)、不飽和カルボン酸またはその無水物の単量体を含むオレフィン系共重合体の金属塩による中和度が20%以上のアイオノマー(J)、オレフィン系単独重合体(K)を単独で用いることができるが、1種以上を混合して用いることもできる。
また、鞘部の樹脂材料(B)には、オレフィン系重合体(D)とともに、スチレン単量体を主として連続して配列してなる単独分子鎖(以下、「スチレンブロック」とも称する)を含むスチレン系エラストマー(L)、加硫促進剤(M)、加硫促進助剤(N)、あるいは充填剤(O)のうちから選ばれる1種以上を含ませることができる。
本発明において、鞘部を構成する樹脂材料は、さらに、スチレン系エラストマー(L)を相容化剤として含有することが好ましい。スチレン系エラストマー(L)を配合することで、樹脂材料とゴムとの相容性を高めて、接着性を向上することができる。
すなわち、低融点の樹脂材料は、本発明で規定する融点範囲を有する樹脂組成物となる、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのホモポリマー、エチレン−プロピレンランダム共重合体などの、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする組成物であるが、これらは一般的に混合した樹脂組成物は相分離した構造となることが知られている。よって、ソフトセグメントとハードセグメントとからなるブロック共重合体としてのスチレン系エラストマーを添加することで、相の界面の相容化を促進することができる。スチレン系エラストマーは、芯成分である高融点樹脂と鞘成分である樹脂材料との界面の密着性や、鞘成分および被着ゴムに含まれるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ポリイソプレンの構造をもつ天然ゴム(IR)などの分子構造と相互作用をもつセグメントを有すると、被着ゴムとの密着性が向上するために好ましい。特に被着ゴムにスチレン・ブタジエンゴム(SBR)が含まれるときは、鞘成分にスチレン成分を含むスチレン系ブロック共重合体を含有させると、融着における被着ゴムとの界面との相容性が高くなり、接着力が向上するために、好ましい。
なお、本発明におけるブロック共重合体は、2種類以上のモノマー単位からなる高分子であって、その少なくとも1つのモノマー単位を、主として長く連続して配列してなる単独分子鎖(ブロック)を形成している共重合体を意味する。またスチレン系ブロック共重合体は、スチレン単量体を主として長く連結して配列したブロックを含むブロック共重合体を意味する。
スチレン系エラストマー(L)としては、具体的には、スチレン系ブロックコポリマーを用いることができ、スチレンと共役ジオレフィン化合物とを含むものが好ましい。より具体的には、スチレン系エラストマーとしては、スチレン系ブロック共重合体またはその水添化物若しくはその変性体を用いることができ、スチレン−ブタジエン系重合体、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)系ブロック共重合体、スチレン−イソプレン系のブロック重合体、および、これらスチレンとブタジエンとのブロックコポリマーの二重結合を水素添加して完全水添化または部分水添化したポリマーなどが挙げられる。また、スチレン系エラストマーは、マレイン酸変性されていてもよい。
スチレン−ブタジエン系重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン共重合体(SBBS)、部分水添スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン共重合体等を挙げることができる。ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)系ブロック重合体としては、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体(SEP)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン(SEEPS)などが挙げられる。スチレン−イソプレン系ブロック重合体としては、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン共重合体(SIS)あるいは、旭化成ケミカルズ(株)商品S.O.E.などの両末端にスチレンブロックを、主鎖にスチレンのブロックとブタジエンのランダム共重合体からなるブロックを有するブロック共重合体の水素添加物などが挙げられる。本発明においては、これらの中でも特に、ゴムとの接着性および相容性の観点から、スチレン−ブタジエン重合体、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン共重合体およびスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を、好適に用いることができる。また、被着ゴムがBR、SBR、NRなどの極性が少ないゴムからなる組成物の場合は、スチレン系ブロック共重合体あるいはその水添化物は、変性などにより極性が強い官能基を持たない方が、相溶性が高くなるので、好ましい。
スチレン−ブタジエン系重合体の水素添加物に、更に極性基を導入する場合の変性は、例えば、水素添加物にアミノ基、カルボキシル基または酸無水物基を導入することによって行うことができる。これら特に限定されないが、本発明においては、極性基を導入する変性として、3−リチオ−1−〔N,N−ビス(トリメチルシリル)〕アミノプロパン、2−リチオ−1−〔N,N−ビス(トリメチルシリル)〕アミノエタン、3−リチオ−2,2−ジメチル−1−〔N,N−ビス(トリメチルシリル)〕アミノプロパン等など、不飽和アミノ基の導入による変性を、好ましい例として挙げることができる。
スチレン系エラストマーの含有量は、鞘部を構成する樹脂材料に含まれるオレフィン系重合体等の樹脂成分の総量100質量部に対し、0.1〜30質量部、特には、1〜15質量部とすることができる。スチレン系ブロック共重合体あるいはその水添化物の含有量を上記範囲内とすることで、樹脂材料とゴムとの相容性向上効果を、良好に得ることができる。
また、本発明において、鞘部を構成する樹脂材料は、さらに、加硫促進剤(M)を含有することが好ましい。加硫促進剤(M)を含有することで、被着ゴムに含まれる硫黄分が、加硫促進剤と多加硫物の遷移状態になる効果により、ゴム界面での相互作用が得られ、ゴム中から鞘部樹脂の表面分布あるいは樹脂内部への移行する硫黄量が増大する。また、鞘部樹脂の成分に硫黄加硫可能な共役ジエンが含まれると、被着ゴムとの共反応を促進して、樹脂材料とゴムとの接着性をより向上することができる。
加硫促進剤(M)としては、塩基性シリカ、第1級、第2級、第3級アミン、該アミンの有機酸塩もしくはその付加物並びにその塩、アルデヒドアンモニア系促進剤、アルデヒドアミン系促進剤などのルイス塩基性化合物が挙げられ、その他の加硫促進剤としては、加硫促進剤の硫黄原子は系内の環状硫黄に接近するとこれを開環し、遷移状態となり、活性な加硫促進剤−多加硫物を生成するなどにより硫黄を活性化できる、スルフェンアミド系促進剤、グアニジン系促進剤、チアゾール系促進剤、チウラム系促進剤、ジチオカルバミン酸系促進剤など、が挙げられる。
ルイス塩基性化合物としては、ルイスの酸塩基の定義におけるルイス塩基であり、電子対を供与し得る化合物であれば、特に限定されることはない。これらは窒素原子上に孤立電子対を有する窒素含有化合物などを挙げることができ、具体的には、ゴム業界で既知の加硫促進剤のうち塩基性のものを用いることができる。
塩基性化合物としては、具体的には、炭素数5〜20の脂肪族の第1級、第2級もしくは第3級アミンが挙げられ、n−ヘキシルアミン、オクチルアミンなどのアルキルアミン、ジブチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミンなどのジアルキルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミンなどのトリアルキルアミン等に挙げられる非環式モノアミン及びその誘導体並びにこれらの塩、
エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレンイミン等に挙げられる非環式ポリアミン及びその誘導体並びにその塩、
シクロヘキシルアミンなどの脂環式ポリアミン及びその誘導体並びにこれらの塩、
ヘキサメチレンテトラミンなどの脂環式ポリアミン及びその誘導体並びにこれらの塩、アニリン、アルキルアニリン、ジフェニルアニリン、1−ナフチルアニリン、N−フェニル−1−ナフチルアミン等に挙げられる芳香族モノアミンおよびその誘導体ならびにこれらの塩、
フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、N―アルキルフェニレンジアミン、ベンジジン、グアニジン類、n−ブチルアルデヒドアニリン、などの芳香族ポリアミン化合物及びその誘導体、などが挙げられる。
なお、グアニジン類としては、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩、1,3−ジ−o−クメニルグアニジン、1,3−ジ−o−ビフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−クメニル−2−プロピオニルグアニジン等が挙げられる。これらのうち1,3−ジフェニルグアニジンの反応性が高いので好ましい。
上記アミンと塩を形成する有機酸としては、カルボン酸、カルバミン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジチオリン酸等が例示される。また上記アミンと付加物を形成する物質としては、アルコール類、オキシム類等が例示される。アミンの有機酸塩もしくは付加物の具体例としては、n−ブチルアミン・酢酸塩、ジブチルアミン・オレイン酸塩、ヘキサメチレンジアミン・カルバミン酸塩、2−メルカプトベンゾチアゾールのジシクロヘキシルアミン塩等が挙げられる。
また、例えば、窒素原子上に孤立電子対を有することで塩基性となる含窒素複素環式化合物としては、ピラゾール、イミダゾール、ピラゾリン、イミダゾリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、トリアジンなどの単環式の含窒素化合物及びその誘導体、
ベンズイミダゾ−ル、プリン、キノリン、ペテリジン、アクリジン、キノキサリン、フタラジンなどの複環式の含窒素化合物およびその誘導体、等を挙げることができる。
また、例えば、窒素原子以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物としては、あるいは、オキサゾリン、チアゾリン等の窒素およびその他のヘテロ原子を含有する複素環式化合物およびその誘導体が挙げられる。
その他の加硫促進剤としては、具体的には、チオウレア類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸類、キサントゲン酸類、の既知の加硫促進剤が挙げられる。
チオウレア類としては、N,N’−ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジブチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、1,3−ジ(o−トリル)チオ尿素、1,3−ジ(p−トリル)チオ尿素、1,1−ジフェニル−2−チオ尿素、2,5−ジチオビ尿素、グアニルチオ尿素、1−(1−ナフチル)−2−チオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素、p−トリルチオ尿素、o−トリルチオ尿素等が挙げられる。これらの内、N,N’−ジエチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素およびN,N’−ジメチルチオ尿素は、反応性が高いので好ましい。
チアゾール類としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4−メチル−2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリル)ジスルフィド、5−クロロ−2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム、2−メルカプト−6−ニトロベンゾチアゾール、2−メルカプト−ナフト[1,2−d]チアゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾチアゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。これらの内、2−メルカプトベンゾチアゾール及びジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールは、反応性が高く好ましい。また例えば、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩は、比較的に無極性のポリマーに添加する場合でも溶解度が高いため、析出などによる表面性状の悪化による紡糸性の低下などが発生しにくいため、特に好ましい例である。
スルフェンアミド類としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−メチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−エチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−プロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オクチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−2−エチルヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−デシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ドデシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ステアリル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジメチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジエチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジプロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジオクチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジ−2−エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−デシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジドデシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジステアリル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。これらの内、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドおよびN−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドは、反応性が高いので好ましい。また例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドは、比較的に無極性のポリマーに添加する場合でも溶解度が高いため、析出などによる表面性状の悪化による紡糸性の低下などが発生しにくいため、特に好ましい例である。
チウラム類としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラプロピルチウラムジスルフィド、テトライソプロピルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラペンチルチウラムジスルフィド、テトラヘキシルチウラムジスルフィド、テトラヘプチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラノニルチウラムジスルフィド、テトラデシルチウラムジスルフィド、テトラドデシルチウラムジスルフィド、テトラステアリルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラエチルチウラムモノスルフィド、テトラプロピルチウラムモノスルフィド、テトライソプロピルチウラムモノスルフィド、テトラブチルチウラムモノスルフィド、テトラペンチルチウラムモノスルフィド、テトラヘキシルチウラムモノスルフィド、テトラヘプチルチウラムモノスルフィド、テトラオクチルチウラムモノスルフィド、テトラノニルチウラムモノスルフィド、テトラデシルチウラムモノスルフィド、テトラドデシルチウラムモノスルフィド、テトラステアリルチウラムモノスルフィド、テトラベンジルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。これらの内、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドは反応性が高いので好ましい。また、促進剤化合物に含まれるアルキル基が大きくなると比較的に無極性であるポリマーの場合では溶解度が高くなる傾向があり、析出などによる表面性状の悪化による紡糸性の低下などが発生しにくいため、テトラブチルチウラムジスルフィドあるいはテトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドなどは、特に好ましい例である。
ジチオカルバミン酸塩類としては、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ジイソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジヘプチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸亜鉛、ジデシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジドデシルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジプロピルジチオカルバミン酸銅、ジイソプロピルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅、ジペンチルジチオカルバミン酸銅、ジヘキシルジチオカルバミン酸銅、ジヘプチルジチオカルバミン酸銅、ジオクチルジチオカルバミン酸銅、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸銅、ジデシルジチオカルバミン酸銅、ジドデシルジチオカルバミン酸銅、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸銅、ジベンジルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジイソプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジペンチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジヘキシルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジヘプチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジオクチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸ナトリウム、ジデシルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジドデシルジチオカルバミン酸ナトリウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ナトリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジエチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジプロピルジチオカルバミン酸第二鉄、ジイソプロピルジチオカルバミン酸第二鉄、ジブチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジペンチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジヘキシルジチオカルバミン酸第二鉄、ジヘプチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジオクチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸第二鉄、ジデシルジチオカルバミン酸第二鉄、ジドデシルジチオカルバミン酸第二鉄、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸第二鉄、ジベンジルジチオカルバミン酸第二鉄等が挙げられる。
これらのうち、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛は、反応性が高いため望ましい。また、促進剤化合物に含まれるアルキル基が大きくなると比較的に無極性であるポリマーの場合では溶解度が高くなる傾向があり、析出などによる表面性状の悪化による紡糸性の低下などが発生しにくいため、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などは、特に好ましい例である。
キサントゲン酸塩類としては、メチルキサントゲン酸亜鉛、エチルキサントゲン酸亜鉛、プロピルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛、ペンチルキサントゲン酸亜鉛、ヘキシルキサントゲン酸亜鉛、ヘプチルキサントゲン酸亜鉛、オクチルキサントゲン酸亜鉛、2−エチルヘキシルキサントゲン酸亜鉛、デシルキサントゲン酸亜鉛、ドデシルキサントゲン酸亜鉛、メチルキサントゲン酸カリウム、エチルキサントゲン酸カリウム、プロピルキサントゲン酸カリウム、イソプロピルキサントゲン酸カリウム、ブチルキサントゲン酸カリウム、ペンチルキサントゲン酸カリウム、ヘキシルキサントゲン酸カリウム、ヘプチルキサントゲン酸カリウム、オクチルキサントゲン酸カリウム、2−エチルヘキシルキサントゲン酸カリウム、デシルキサントゲン酸カリウム、ドデシルキサントゲン酸カリウム、メチルキサントゲン酸ナトリウム、エチルキサントゲン酸ナトリウム、プロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、ブチルキサントゲン酸ナトリウム、ペンチルキサントゲン酸ナトリウム、ヘキシルキサントゲン酸ナトリウム、ヘプチルキサントゲン酸ナトリウム、オクチルキサントゲン酸ナトリウム、2−エチルヘキシルキサントゲン酸ナトリウム、デシルキサントゲン酸ナトリウム、ドデシルキサントゲン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛は、反応性が高いので好ましい。
上記加硫促進剤(M)は、無機充填剤、オイル、ポリマー等に予備分散させた形で、ゴム補強用芯鞘繊維の鞘部樹脂に配合に用いてもよい。また、これらの加硫促進剤および遅延剤は単独で用いてもよいし、2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
加硫促進剤(M)の含有量は、鞘部を構成する樹脂材料に含まれるオレフィン系重合体等の樹脂成分の総量100質量部に対し、0.05〜20質量部、特には、0.2〜5質量部とすることができる。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることで、樹脂材料とゴムとの接着性向上効果を、良好に得ることができる。
鞘部を構成する樹脂材料には、被着ゴム組成物との界面の密着性を高めるなどの目的のために、上述した成分以外に、ポリプロピレン系共重合体に架橋された熱可塑性ゴム(TPV)、あるいは、JIS K6418に記載の熱可塑性エラストマーの分類における「その他の熱可塑性エラストマー(TPZ)」などを含有させることができる。これらは、部分的にまたは高度に架橋されたゴムを、樹脂材料の熱可塑性樹脂組成物のマトリックスの連続相に細かく分散させることができる。架橋された熱可塑性ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴムなどが挙げられる。また、その他の熱可塑性エラストマー(TPZ)としては、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン樹脂、あるいは、トランス−ポリイソプレン樹脂などが挙げられる。
なお、上記高融点樹脂およびオレフィン系重合体には、耐酸化性などの他の性質を付加させるために、本発明の効果や、紡糸時などにおける作業性を著しく損なわない範囲内で、通常樹脂に添加される添加剤を配合することもできる。この付加的成分としては、ポリオレフィン樹脂用配合剤等として使用される従来公知の核剤、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤(O)、金属不活性剤、過酸化物、抗菌防黴剤、蛍光増白剤、およびゴム組成物用配合剤等として使用される加硫促進助剤(N)といった各種添加剤や、それ以外の添加物を使用することができる。
加硫促進助剤(N)としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの一価金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅、コバルト、マンガン、鉛、鉄などの多価金属などのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物あるいはアルコキシド等の塩基性無機金属化合物が挙げられる。
具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。
これらの中でも、アルカリ金属塩としては、金属水酸化物が好ましく、特に水酸化マグネシウムが好適である。
充填剤(O)としては、アルミナ、シリカアルミナ、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、モンモリロナイト、ザコウナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライトなどのスメクタイト族、バーミキュライト族、カーボンブラック、雲母族などの無機粒子状担体や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、スチレンジビニルベンゼン共重合体、アクリル酸系共重合体などの多孔質の有機担体などを挙げることができる。これら充填剤(O)は、鞘部と被着ゴムとの接着において、鞘部の耐破壊抗力が充分でなく、鞘部の中で亀裂が生じて破壊する場合などにおいて、鞘部を補強するフィラーとして配合することができる。
カーボンブラックとしては、SAFカーボンブラック、SAF−HSカーボンブラック、ISAFカーボンブラック、ISAF−HSカーボンブラック、ISAF−LSカーボンブラック等のファーネスブラック等が挙げられる。
その他の添加剤の具体例としては、核剤として、2,2−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)燐酸ナトリウム、タルク、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールなどのソルビトール系化合物、ヒドロキシ−ジ(t−ブチル安息香酸アルミニウムなどを挙げることができる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤として、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルペンジル)イソシアヌル酸などを挙げることができる。
燐系酸化防止剤としては、トリス(ミックスド、モノおよびジノニルフェニルホスファイト)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどを挙げることができる。硫黄系酸化防止剤としては、ジ−ステアリル−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ミリスチル−チオ−ジ−プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリル−チオ−プロピオネート)などを挙げることができる。
中和剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ハイドロタルサイトなどを挙げることができる。
ヒンダードアミン系の安定剤としては、琥珀酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス{N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ}−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル}イミノ]、ポリ[(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]などを挙げることができる。
滑剤としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、エチレンビスステアロイドなどの高級脂肪酸アミド、シリコンオイル、高級脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
帯電防止剤としては、高級脂肪酸グリセリンエステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、アルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステルなどを挙げることができる。
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
光安定剤としては、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−2−(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジル)エタノール縮合物、ポリ{[6−〔(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ〕−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル]〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕}、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス〔N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物等を挙げることができる。
特に、芯部と鞘部との組合せの観点からは、同じオレフィン系樹脂として、芯部について高融点ポリオレフィン系樹脂を用いるとともに、鞘部について低融点ポリオレフィン系樹脂を用いることが、芯部と鞘部の相溶性が良好である点から、好ましい。芯部と鞘部とにいずれもオレフィン系樹脂を用いることで、芯部と鞘部とに異なる種類の樹脂を用いた場合と異なり、芯鞘重合体界面における接合力が高く、芯部/鞘部間での界面剥離に対して十分な耐剥離抗力を有するものとなるので、長期間にわたり十分に複合繊維としての特性を発揮することができるものとなる。具体的には、芯部の高融点ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以上の結晶性のプロピレン単独重合体を用い、鞘部の低融点ポリオレフィン系樹脂として、エチレン‐プロピレン共重合体あるいはエチレン‐ブテン‐プロピレン三元共重合体などの、ポリプロピレンと共重合が可能な成分とポリプロピレンとの共重合によるポリプロピレン系共重合樹脂、特には、エチレン−プロピレンランダム共重合体を用いることが好ましい。芯部の高融点ポリオレフィン系樹脂は、アイソタクチックポリプロピレンであると、紡糸時の繊維形成性などが良好で、特に好ましい。
この場合の高融点ポリオレフィン系樹脂の溶融流動指数(メルトフローレート,MFR)(MFR1)および低融点ポリオレフィン系樹脂の溶融流動指数(MFR2)は、紡糸可能な範囲であれば特に限定されることはないが、0.3〜100g/10minが好ましい。高融点ポリオレフィン系樹脂以外の、芯部に用いる高融点樹脂の溶融流動指数についても、同様である。
特に、高融点ポリオレフィン系樹脂を含む高融点樹脂の溶融流動指数(MFR1)は、好ましくは0.3〜18g/10min、特に好ましくは0.5〜15g/10min、さらに好ましくは1〜10g/10minの範囲のものから選ぶことができる。高融点樹脂のMFRが上記の範囲内にあることにより、紡糸引取性、延伸性が良好になり、またゴム物品を製造する加硫工程での加熱下で芯部の高融点樹脂の融体が流動せずに、コードの形態を保持することができるためである。
また、低融点ポリオレフィン系樹脂の溶融流動指数(MFR2)は、好ましくは5g/10min以上、特に好ましくは5〜70g/10min、さらに好ましくは10〜30g/10minである。鞘部の低融点ポリオレフィン系樹脂の熱融着性を上げるには、被着するゴムとの間隙に樹脂が流動して埋まりやすいため、MFRが大きな樹脂がよい。その反面、MFRが大きすぎると、複合繊維が配置される近傍に他の補強部材、例えば、プライコードやビードコアなどがある場合には、複合繊維を被覆するゴムに意図しない空隙があると、プライコードの繊維材料の表面に、低融点ポリオレフィン系樹脂の溶融した融体が濡れ広がってしまう場合があるため、特には、70g/10min以下であることが好ましい。さらに好ましくは30g/10min以下であり、この場合、複合繊維同士が接触している場合に溶融した低融点ポリオレフィンの融体が互いに濡れ広がり塊状の繊維結合体となるような、繊維間で融着する現象の発生が少なくなるので、好ましい。また、20g/10min以下であると、融着するゴムを剥離するときに鞘部分の樹脂の耐破壊抗力が高くなるために、ゴムと強固に密着するものとなり、さらに好ましい。
なお、MFR値(g/10min)は、JIS−K−7210に準じて、ポリプロピレン系樹脂材料のメルトフローレートは温度230℃、21.18N(2160g)荷重下で、ポリエチレン系樹脂材料のメルトフローレートは温度190℃、21.18N(2160g)荷重下で、それぞれ測定されたメルトフローレートである。
本発明における複合繊維または樹脂体における芯部と鞘部との比率としては、複合繊維または樹脂体に占める芯部の比率が10〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量%である。芯部の比率が小さすぎると、複合繊維または樹脂体の強度が低下して、十分な補強性能が得られないおそれがある。特には、芯部の比率が50質量%以上であると、補強性能を高くすることができるために好ましい。一方、芯部の比率が大きすぎると、鞘部の比率が少なすぎて、複合繊維または樹脂体において芯部が露出しやすくなり、ゴムとの密着性が十分得られないおそれがある。
本発明の複合繊維(モノフィラメント)の製造方法は、芯材用および鞘材用の2台の単軸押出機により、芯鞘型複合紡糸口金を用いて、湿式加熱延伸方式で行うことができる。紡糸温度は、鞘成分については140℃〜330℃、好ましくは160〜220℃、芯成分については200〜330℃、好ましくは210℃〜300℃とすることができる。湿式加熱は、例えば、湿式加熱装置100℃、熱水浴95〜100℃、好適には95〜98℃で実施できる。一度冷却してから再加熱して延伸すると、鞘部の結晶化が進むため、熱融着性の点から好ましくない。延伸倍率は、芯部の結晶化の点から、1.5倍以上とすることが好ましい。
また、本発明において、芯鞘繊維の繊度、すなわち、繊維太さは、好適には50〜4000dtexであり、より好適には500〜1200dtexである。補強材の繊維太さが50dtex未満であると、強度が低くなってコードが破断しやすい。特に、タイヤの場合、製造時の各種工程において加工時のコード切れを抑制するためには、補強材の繊維太さが500dtex以上であるとより好ましい。補強材の繊維太さは、タイヤ等のゴム物品の各部材に配設できるものであれば特に上限はないが、4000dtex以下とすることが好ましい。この理由は、モノフィラメントコードの場合、紡糸時に繊維太さが大きいと、紡糸速度を遅くするため加工時の経済性が低下するほか、糸の太さが太くなると、ボビンなどの巻き付け治具に巻き付けるときに曲がり難くなり、作業性が低下するためである。なお、本発明における繊維太さは、モノフィラメントの場合はモノフィラメント単独で測定した、繊維サイズ(JIS L 0101に準拠)を意味する。
なお、本発明のモノフィラメントコードは、補強材の単繊維の太さが50dtex以上であっても、ゴムとの密着が高いことが、一つの特徴である。補強材の繊維太さが50dtex未満になると、接着剤組成物の接着や、繊維樹脂とゴムの融着が無い繊維でも、ゴムとの密着での課題が発生しにくい。これは、単繊維の径が細くなると、接着の剥離する力より、コードが切断する応力の方が小さくなるために、剥離などにより接着性を評価すると、コードとゴムとの界面が剥離される前に、コードが切断してしまうためである。これらはいわゆる「毛羽接着」とも呼ばれ、毛羽程度の単繊維太さである50dtex未満において、観察されうる現象である。
本発明において、複合繊維(C)を集合させた繊維集合体の形態は、特に限定されないが、モノフィラメント、または、10本以下のモノフィラメントを束ねてなるコードであることが好ましく、更に好ましくは、モノフィラメントコードである。この理由は、本発明における複合繊維(C)の繊維集合体は、10本以上のモノフィラメントを束ねてなるコード、撚りコード、不織布、あるいは織物の繊維形態であると、ゴム中で繊維集合体を加硫したときに、鞘部を構成する低融点の樹脂(B)が溶融するため、互いのフィラメントが溶着し合って、融体が互いに浸透することで、ゴム物品中で塊状の異物を形成する場合があるためである。このような異物が生成すると、タイヤ使用時の転動による歪で、ゴム物品中の塊状の異物から亀裂が進展し、セパレーションが発生するおそれがある。このため、複合繊維(C)がゴム物品中で繊維集合体となるときには、フィラメントを束ねられる本数が多くなるほどコード間にゴムが浸透しにくくなって、塊状の異物が形成しやすくなるため、一般に束ねるフィラメントの本数は10本以下が好ましい。
また、特には、補強層7に用いる複合繊維(C)としては、モノフィラメントコードであると好ましい。この理由は、モノフィラメントコードは通常の撚りコードに比して、初期伸びが小さいので、補強層のカーカスプライに対する拘束力をより高めて、剪断歪をより効果的に分散し、抑制して、亀裂抑制効果をより高めることができる。
また、本発明のタイヤにおいて、複合繊維をゴム被覆して加硫した後における引張破断強度は、好適には29N/mm2以上である。
本発明のタイヤにおいて、補強層7における複合繊維(C)の配向方向は、タイヤ半径方向から0°以上90°以下の、任意の方向に配設することができる。
なお、好ましい複合繊維(C)の配向方向は、端部に接着処理の被覆がないカーカスコードが配設された方向から90°、すなわち、タイヤ周方向であると、コード端面から垂直方向への剥離を抑制できるため好ましいが、それ以外の角度で配設備しても、コード端付近を被覆するため、コード端の剥離を抑制する効果を得ることができる。
なお、本発明において「コード終端部域」とは、プライコードの終端部を含むコード領域を示し、領域の幅は特に制限されないが、プライ折返し部のプライコード端部からタイヤ半径方向外側に好ましくは3mm以内のコード区間を含み、特には、コード端部から5mm以内のコード区間を含むことが好ましい。また、コード終端部域に「沿って延びる」とは、コード終端部において、プライコードと補強層とが実質上で並行に配設されることを意味する。「実質上で並行に配列する」とは、プライ折返し部のプライコードと補強層とが並行する間隔が3mm以内、好ましくは1mm以内であることを意味する。なお、コード終端領域からコード区間と反対の外側に延びる補強層については、必ずしもコードと並行に配設されることを意味しない。なお、コード終端部域に沿って延びる補強材の長さが、3mm以内であると、ビード部耐久性の向上効果が少なくなり好ましくない。またコード終端部域に沿って延びる補強層とのコードの間隔が3mm以上離れると、やはりビード部耐久性の向上効果が少なくなるので好ましくない。
本発明に係る補強層7における複合繊維(C)の打込み数としては、5〜65本/50mmであることが好ましく、10〜60本/50mmであることがより好ましい。打込み数が少なすぎると、十分なビード部耐久性向上効果が得られないおそれがあり、多すぎると、芯鞘繊維が近接したり、互いに融着したりすると繊維界面付近が歪応力で剥離しやすくなるため、好ましくない。また、本発明において補強層7は、製造上において問題が生じない範囲であれば、1層で配設しても2層以上で配設してもよく、配設層数については特に制限はない。
また、本発明においては、補強層7が、タイヤ周方向において、カーカスプライ6の折返し部のタイヤ幅方向の外側に向かって、2列以上かつ1段以上で配列されてなり、ビード部の側面にタイヤ周方向に延びる複合繊維(C)の巻回配置が、1.03巻以上で1.5巻未満であり、かつ、タイヤ周方向に周回した補強コードの終端部が互いに並行して延在していることが好ましい。
本発明のタイヤは、上記所定の補強層を設けるものであればよく、これにより本発明の所期の効果を得ることができ、内部構造については一般の空気入りタイヤと同様であり、所望に応じ適宜決定することができる。例えば、本発明のタイヤにおいては、図示はしないが、カーカス6のタイヤ半径方向内側には、インナーライナーが配設されている。また、図中の符号8はリムフランジを表す。
また、本発明のタイヤにおいては、図示するように、ビードコア2のタイヤ半径方向外側に通常配置される、JIS−K6253による硬度で65以上、例えば、75〜100の硬質ゴム、いわゆるビードフィラーが配置されていないものとすることができる。
本発明において、上記芯鞘繊維が埋設された複合体ストリップを製造する方法としては、まず、上記芯鞘繊維を、並列に引き揃えてゴム被覆することにより、シート状のゴム−繊維複合体を作製する(複合体作製工程)。この工程は、例えば、所定本数の芯鞘繊維を並列に引き揃えて、ロール間を通すことで上下からゴムにより被覆する手法の他、共押出、または、ノズルから芯鞘状に紡糸した繊維を、水平方向に移動するゴムシート上に載せて移送し、さらにその上からゴムにより被覆する手法などにより実施することができる。このシート状のゴム−繊維複合体は、厚み方向に1本の芯鞘繊維を含み、例えば、シート厚みは、0.5mm〜3.5mmとすることができる。
なお、複合体ストリップを製造するのに用いたゴムの加硫後の、JISK 6253−1993「加硫ゴムの硬さ試験方法」に基づいて測定されたゴム硬さは、例えば52であった。
次に、得られたゴム−繊維複合体を、芯鞘繊維の長手方向に対し補強層として芯鞘繊維を配設したい任意の角度で切断して、切断したシートを順次にジョイントすることで、ゴム−繊維複合体の複合体ストリップを得る(切断工程)。
次に、得られた複合体ストリップを、補強層7として、グリーンタイヤの1次成形において、カーカスプライ6の円筒状成形体におけるカーカスプライの折返し部のコード切断端部分に、全周にわたって包み込むように貼り付ける(貼付工程)。次に、グリーンタイヤの2次成形において、貼付けられた補強層7とカーカスプライ6とを、共に所定の外径に拡張する(拡張工程)。
この際、補強層7としてカーカスプライの折返し部のコード切断端部分に貼り付ける複合体ストリップの、厚みは、好適には0.5〜3.5mmであり、タイヤ半径方向の幅は、好適には8〜600mmである。この幅が8mm未満の場合、補強層7を幅広く配設するには、従来の幅狭のストリップと同様に1度の周回で8mm以上の幅の補強層7の配設ができないため、何度か周方向に周回させなければならず、製造の作業の工数が多くなり効率的にタイヤを製造することができなくなる。
この際、本発明のように幅広の補強層7を配置すると、グリーンタイヤ形状に近い形状に膨出変形させたときに、シート状のゴム−繊維複合体の径方向上端は、膨出したカーカスがタイヤ半径方向およびタイヤ幅方向の外側に向かって、外周の径が拡大するとともに伸長されるため、本発明に係る複合繊維(C)は、成型時のドラム拡張で剛性が高すぎてコードが切断したり、ゴム配設位置からコードが切り糸となり移動して片寄ることがないよう、室温(25℃)時のコード定長から10%引張時の応力(モジュラス)が、20〜250MPaの範囲であることが好ましい。この応力が20MPa未満であると、コードがゴムを補強する剛性の効果が小さくなりすぎ、一方、250MPaを超えると、ゴム中でのコード片寄りが大きくなる。なお、より好ましくは25〜180MPaであり、特に好ましくは30〜120MPaである。
また、本発明に用いる複合繊維(C)は、加硫時における内圧によるシェーピングによる拡張に対してもコードがクリープする、すなわち、加硫時に相当する温度およびコードにかかる負荷により、コードがクリープすることが好ましい。なお、一般的に繊維コード材料は融点までの高温まではコード軸方向に熱収縮することが公知である。ところが、コードに荷重をかける条件では、無荷重から荷重が大きくなるほど、熱収縮でなくクリープする。この荷重によるクリープはコード材料やその製造条件により異なるが、本発明における補強層7においては、一般的な含硫黄ジエン系ゴム組成物の加硫下限の温度である140℃において、荷重応力20MPa時の熱クリープ率が0.1%以上であると、タイヤ製造工程の加硫温度でもコードが熱クリープするので好ましい。上記熱クリープ率は、より好適には0.1〜1.5%である。
なお、上記シート状のゴム−繊維複合体のタイヤ半径方向上端が、膨出とともにコード長さが伸長しないと、これらコードに応力が集中して負担されるので、シート状のゴム−繊維複合体のタイヤ半径方向下端のコードにかかる張力が緩くなり、シート状のゴム−繊維複合体のタイヤ半径方向上端はコード方向に伸張するがタイヤ半径方向下端は弛んでコードが蛇行するという不具合が発生してしまう。この弛みが加硫後のタイヤで残っていると、本来のコードの引張り剛性は、コードが弛まずに張った状態でないと発揮しないため、この部位に補強層7を配設する効果が小さいものになってしまう。
なお、この弛みは、補強層に貼るゴム−繊維複合体の幅が幅広いほど、膨出での径差が大きく、弛みが著しくなる。また、補強層7の貼付け下端のビードコア付近ほど、膨出変形が少ないので弛みが大きくなる。
このため本発明では、補強層7のコードに、室温時のコード定長から10%引張時の応力が20〜250MPaであって、かつ、140℃下の荷重応力20MPa時での熱クリープ率が0.1%以上である複合繊維(C)を用いることが好ましい。具体的なコードとしては、好ましくはポリプロピレンのような芯部を有するコードである。このようなコードを適用すると、補強層7に貼り付けた、シート状のゴム−繊維複合体のタイヤ半径方向上端は、膨出したカーカスの外周方向の径が拡大することによる張力負荷には、補強コードがクリープするため、カーカス外周に沿って補強層7を幅8〜600mmと広幅で配置することが可能となる。
上記のようにして得られたグリーンタイヤを、常法に従い、140℃〜190℃の加硫温度で、3〜50分間加硫することにより(加硫工程)、本発明のタイヤを製造することができる。
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
素材となる熱可塑性樹脂としては、真空乾燥機を用いて乾燥させた、下記表3に記載された芯材および鞘材の樹脂を用いた。
1)供試繊維の製造
芯成分および鞘成分として、下記表1〜3に示す材料を用いて、芯材用および鞘材用の2台のφ50mmの単軸押出機で、各表中に示す紡糸温度にて、口径が1.2mmの芯鞘型複合紡糸口金を用いて、鞘芯比率が質量比率で40:60となるように、紡糸速度75m/分にて溶融紡糸し、98℃の熱水浴で1.60倍となるように延伸して、繊度470又は550dtexの芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
2)ゴム−繊維複合体ストリップの製造
下記表1〜3に示す芯鞘型の複合繊維(繊度:470又は550dtex)を、ゴム中に打込み数55本/50mmにて埋設して、ゴム−繊維複合体ストリップを製造した。
3)供試タイヤの製造
タイヤサイズ195/65R15にて、1枚のカーカスプライが、一対のビードコア間に延在するプライ本体部と、ビードコアの周りでタイヤ半径方向内側から外側に向かい折り返されるプライ折返し部とを含み、プライ折返し部が、ビードコアの周面に沿ってタイヤ幅方向外側に折り返されるプライ巻付け部と、プライ巻付け部からビードコアのタイヤ半径方向外側の領域を延びて立ち上がりプライ本体部に接近して沿うまでのプライ折曲り部と、プライ本体部に沿って並行に延びるプライ並行延設部と、からなる供試タイヤを製造した。
具体的には、上記ゴム−繊維複合体ストリップを、グリーンタイヤの1次成形において、ビードコア上面から20mmの間隔であるカーカスプライの折返し部のコード切断端部分に、幅25mm、タイヤ半径方向から90°(タイヤ周方向)で、全周にわたって包み込むように貼り付けた。その後、グリーンタイヤの2次成形において、貼付けられた補強層とカーカスプライとを共に所定の外径に拡張し、常法に従い加硫して、各実施例および比較例の供試タイヤを作製した。
得られた補強層においては、タイヤ周方向において、カーカスプライの折返し部のタイヤ幅方向の外側に向かって、ビード部の側面にタイヤ周方向に延びる複合繊維(C)が、タイヤ周方向に周回した補強コードの終端部が互いに並行して延在していた。
なお、ゴム−繊維複合体ストリップの貼付け時の貼付け目標位置について、ビードコア上面からゴム−繊維複合体ストリップの下端までの離間距離を各表中に示した。
(10%引張時モジュラスおよび熱クリープ率の評価)
各供試タイヤの補強層のコードについて、タイヤを解剖して取り出した後、つかみ部分のコード表面についている余分なゴムを除去し、室温において、コード引張試験機により引張試験を実施した。その際、引張歪みはビデオ式伸び計により測定した。測定における標点間距離は100mmであり、引張試験速度は10mm/分であった。得られた応力−歪み曲線において、引張歪みが10%における応力を測定した結果を、各表中に示す。
また同様に、各供試タイヤの補強層のコードについて、タイヤを解剖して取り出した後、ついている余分なゴムを除去し、140℃のオーブン内に3分間コードを吊るし20MPaに相当する荷重をかけ、熱処理前後のコード長から、下式により熱クリープ率を求めた。その結果を、各表中に示す。
熱クリープ率(%)=[(La−Lb)/Lb]×100
(但し、Lbは熱処理前のコード長、Laは熱処理後のコード長である。)
(エア入りの有無の評価)
また、タイヤ製造性の評価として、ビードフィラーを配設しないことによるタイヤエア入りの有無、および、成型時にコード剛性が高いことによるタイヤ拡張時の切り糸に起因する、本来のタイヤコードが配設された位置からのコード片寄りの有無について評価した。
タイヤエア入りの有無については、公知のシアログラフィーによるタイヤ透過像により目視で確認して、以下の基準に基づき評価した。
×:シアログラフィーでタイヤのビードフィラー位置にエア入りがある。
△:シアログラフィーでタイヤのビードフィラー位置にエア入りがロットによりある。
〇:シアログラフィーでタイヤのビードフィラー位置にエア入りがない。
コード片寄りの有無については、タイヤ2次成形時のシェーピングによるタイヤ膨出でのコード切断の有無等により、以下の基準に基づき評価した。
×:タイヤ2次成形時のシェーピングで、グリーンタイヤが切れてコードが表出する。
△:タイヤ2次成形時のシェーピングで、コードが片寄りグリーンタイヤが変形する。
〇:タイヤ加硫時までの製造でコード片寄りによる不具合が観察されない。
(コード蛇行の有無)
また、各実施例および比較例の製品タイヤを解剖して、タイヤのリムライン部からビード部を含む範囲で、カーカスプライと補強層との間を分離するようにタイヤサンプルを切り出し、以下に示す基準に従い、コード蛇行の有無を評価した。
○:補強層の下端側のコードが目視で蛇行していない。
×:補強層の下端側のコードが目視で蛇行している。
(ドラム走行耐久性能)
得られた各実施例および比較例の供試タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)について、タイヤへの充填空気圧を180kPaとし、5.0J×15インチのリムに組んで、JATMA YEAR BOOK(2015、日本自動車タイヤ協会規格)で定めるタイヤサイズ荷重の負荷能力520kgの125%である荷重650kgを作用させて、速度60km/hとして、ビード部が破壊するまでドラム上で連続負荷転動させ、破壊するまでの距離を測定した。結果は、補強層を設けない比較例1の供試タイヤの走行距離を100とした走行寿命指数および破壊状況にて示す。
これらの結果を、下記の表1および表2に示す。
*1)スチールモノフィラメント・タイヤコード、フィラメント径:0.12mm、タイヤ用ワイヤ向けのモノフィラメントを用いた。
*2)6ナイロンモノフィラメントコード、470dtex/1、特開2004−238767号公報の実施例1の繊維サンプルで経糸あるいは緯糸で用いた接着剤処理タイヤコードを用いた。
*3)タイヤ製造での製造課題で、ドラム走行試験を行わなかった。
*4)タイヤコード切断伸度が10%以下であるため、測定することができなかった。
上記表中に示すように、本発明に係る芯鞘繊維を用いた補強層をプライ折返し部のうちプライ並行延設部のタイヤ幅方向外側に沿って配置することで、エア入り等の製造不良を生ずることなく、ビード部耐久性を向上できることが確かめられた。