非特許文献1に記載の手法では、電気化学的な手法によりアイオノマー(電解質)被覆率を求めている。このため、電解質と触媒金属、または電解質と触媒担体とが、直接接触していなければ、電気二重層容量(Cdl)を検出することができない。例えば、電解質によって被覆された触媒において、電解質の被膜中に気泡が形成されたような場合、当該気泡中に配置されている触媒金属は電解質と接触しない。この他、後述のように、触媒金属が収容可能な空孔を有する触媒の場合、開口部が電解質で被覆された空孔の内部に担持(格納)された触媒金属も、電解質と接触しない。このような場合、気泡や空孔中に存在する金属触媒は電解質に被覆されているためガスアクセスが妨げられることとなる。それにもかかわらず、これらの電解質との接触が無い触媒金属に相当する比表面積は、電気化学的手法では検出することができないこととなる。
一方、本発明においては、ガス吸着挙動を測定することにより、触媒金属全体の比表面積に対する、電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属の比表面積の割合(触媒金属暴露率)を評価する。これにより、金属触媒のガスに対するアクセスを考慮した、微細構造の評価を行うことができる。このため、気泡や空孔中に触媒金属が存在する場合のように、電解質と触媒金属とが直接接触していない微細構造を含む構造体においても、当該微細構造を電解質により被覆された触媒金属面積として検出し、触媒性能(例えば、発電性能)を高精度で予測することができる。
なお、本明細書においては、「電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属」を、「暴露された触媒金属」とも称する。また、本明細書中、「/g担体」は、「担体1g当たり」を意味する。同様に、「/g触媒金属」は、「触媒金属1g当たり」を意味する。
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[構造体]
本発明の一実施形態は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒ならびに電解質を含む構造体を用いて、前記触媒金属へのガス吸着挙動を測定し、触媒金属暴露率を評価する方法に関する。
本発明においては、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒ならびに電解質を含む構造体を用いる。当該構造体は、例えば、燃料電池用電極触媒層、および空気電池用正極触媒層などの電極触媒層、ならびにこれらを含む膜触媒層接合体(CCM)や膜電極接合体(MEA)等が例示できる。このうち、本発明の方法では、構造体として、好ましくは、燃料電池用電極触媒層、燃料電池用膜触媒層接合体および燃料電池用膜電極接合体からなる群から選択され、より好ましくは燃料電池用カソード触媒層が用いられる。当該実施形態によれば、高い発電性能を発揮する燃料電池用電極触媒層をより簡便に選別できる。
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本形態の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
図1は、燃料電池の一具体例である固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC 1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体(CCM)はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC 1において、MEA 10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA 10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC 1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA 10と接触している。これにより、MEA 10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC 1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC 1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。上記の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。
以下、燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
<電極触媒層(触媒層)>
本発明の一実施形態では、構造体は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒ならびに電解質を含む燃料電池用電極触媒層(本明細書中では、「電極触媒層」または「触媒層」とも称する)である。
電解質による触媒の被覆形態(触媒金属の暴露形態)は、特に制限されない。具体的には、触媒が電解質で被覆された部分は、1か所であっても、または複数個所に分割されても、いずれの形態であってもよい。または、触媒の凝集体を電解質で被覆してもよい。例えば、下記方法にて測定される触媒金属暴露率が50%の場合、単一の島状の電解質が触媒金属比表面積の50%を被覆する形態であっても、複数の分断された島状の電解質がそれぞれ被覆する触媒金属比表面積の総計が50%である形態であっても、いずれの形態であってもよい。
また、電解質と触媒金属との関係に関しても、特に制限されない。このため、触媒において電解質で被覆された部分に触媒金属が存在してもよく、または存在しなくてもよい。
さらに、以下に詳述するが、触媒金属が収容可能な一次空孔(例えば、直径10nm以下の一次空孔)を触媒が有してもよい(以下、本明細書において、「触媒金属が収容可能な一次空孔」を単に「一次空孔」とも称する。)。この場合には、電解質は、上記一次空孔開口部(入口)を被覆するように触媒を被覆しても、または上記一次空孔開口部(入口)を暴露する(空孔開口部を電解質で被覆しない)ように触媒を被覆してもいずれでもよい。ここで、触媒が一次空孔を有する場合には、触媒金属の少なくとも一部は上記一次空孔の空孔内部に担持(格納)されることが好ましい。触媒の上記空孔開口部を電解質で被覆しない場合には、反応ガスが、電解質を介することなく空孔内部に担持された触媒金属まで直接供給される。ゆえに、空孔内部の触媒金属への反応ガスの輸送抵抗をより低減し、反応ガス(特にO2)が触媒までより速やかにかつより効率よく輸送されるようになり、触媒反応をより有効に促進できる。このため、触媒の一次空孔開口部(入口)を電解質で被覆しない形態が好ましい。
従来の電極触媒層では、反応ガス、触媒金属及び電解質(電解質ポリマー)が同時に存在する三相界面を十分確保するために、電解質と触媒粒子とを導電性担体上で直接接触させていた。しかし、本発明者らは、当該構成では、大部分の反応ガス(特にO2)は電解質を介して触媒金属に輸送されるため、ガス輸送抵抗が高く、十分な反応ガスが触媒金属に到達できず、触媒は十分な活性を発揮できないことを見出した。本発明者らは、反応ガス、触媒金属及び水により三相界面(反応サイト)を形成することによって、触媒を有効に利用できることを見出した。触媒金属と電解質とが直接接触する必要のない、上記のような反応ガス、触媒金属及び水により三相界面(反応サイト)を形成する微細構造を有する構造体における触媒金属の被覆率測定には、電気二重層容量のような電気化学的手法は最適とはいえない。本発明に係る方法であれば、上記のような微細構造を有する構造体においても、金属触媒のガスに対するアクセスを考慮した、微細構造の評価が可能となる。ゆえに、本発明に係る方法によれば、反応ガス、触媒金属及び水により三相界面(反応サイト)を形成する微細構造を多く含む構造体を、簡便かつ高精度に評価・選別できる。
本発明に係る方法で用いられる燃料電池用電極触媒層は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれであってもよいが、本発明に係る方法はカソード触媒層を用いた評価に好ましく適用される。これは、代表的な燃料である水素の拡散性よりも、カソードの反応ガス(O2)の拡散性の方が劣るためである。
触媒を構成する触媒担体の材質は、特に制限されず、公知の担体の材質が使用できる。触媒担体としては、触媒金属を担持させるのに充分な比表面積及び電子伝導性を有するものであることが好ましい。具体的には、主成分がカーボンである。より具体的には、カーボンブラック(ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなるカーボン粒子が挙げられる。「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
上記カーボン材料の他、Sn(錫)やTi(チタン)などの多孔質金属、さらには導電性金属酸化物なども担体として使用可能である。
担体のBET比表面積は、実質的に触媒のBET比表面積と同等である。担体のBET比表面積は特に制限されないが、市場での入手容易性を考慮すると、好ましくは50〜1500m2/g担体である。
なお、本明細書において、触媒および触媒担体の「BET比表面積(m2/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、試料(触媒粉末または触媒担体)約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、島津製作所株式会社製電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
(触媒金属担持後の触媒の)BET比表面積[担体1gあたりの触媒のBET比表面積(m2/g担体)]は、特に制限されないが、例えば50〜1500m2/g担体である。本明細書において、「触媒金属が一次空孔の内部に担持される」ことは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて確認できる。
なお、触媒担体としては、必ずしも上記したような粒状の触媒担体を用いる必要はない。すなわち、担体として、非多孔質の導電性担体やガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなども挙げられる。このとき、触媒をこれら非多孔質の導電性担体に担持したり、膜電極接合体のガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなどに直接付着させたりすることも可能である。
また、触媒を構成する触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
このうち、本発明に係る方法に用いられる構造体が含む触媒金属としては、一酸化炭素等のガスに対する吸着が公知である貴金属および貴金属を含む合金からなる群から選択されることが好ましい。貴金属としては、より具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、および銀が例示できる。触媒金属として貴金属および貴金属以外の金属元素を含む合金を用いる場合の組成は、例えば、貴金属の含有量を30〜90原子%とし、貴金属と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。合金に含まれる貴金属は1種であっても良く、または2種以上であっても良い。また、貴金属以外の金属元素もまた、1種であっても良く、2種以上であっても良い。
これらのうち、燃料電池用電極触媒の触媒金属としての触媒活性等の観点から、少なくとも白金を含む触媒金属が好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましく、白金または白金含有合金であることがより好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒金属(触媒成分)の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、例えば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。
触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径は、特に制限されないが、例えば2nm以上、好ましくは2.5nm以上である。触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径の上限は特に制限されないが、例えば30nm以下であり、好ましくは10nm以下である。触媒金属の平均粒径が2nm以上であれば、一次空孔内を有する担体を用いた場合、触媒金属が一次空孔内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。一方、触媒金属粒子の平均粒径が30nm以下であれば、担体の一次空孔内部に触媒金属を簡便な方法で担持することができる。
なお、「触媒金属粒子の平均粒径」(直径)および「触媒金属粒子の平均粒半径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子半径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属粒子の粒子半径の平均値から求められる。本明細書では、「触媒金属粒子の平均粒径」および「触媒金属の平均粒半径」はそれぞれ、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子直径および結晶子半径である。
また、触媒金属(触媒成分)は、電気化学的に測定される比表面積が60m2/g担体以下であることが好ましい。電気化学的に測定される触媒金属の比表面積は、より好ましくは5〜60m2/g担体であり、さらに好ましくは5〜30m2/g担体である。触媒金属の表面は親水性であり、触媒反応により生成する水が吸着しやすいため、触媒金属が格納された一次空孔には、水が保持されやすくなる。一次空孔内に水が保持されると、ガスの輸送経路が狭くなり、かつ、水中の反応ガスの拡散速度は遅いため、ガスの輸送性が低下する。これに対し、触媒金属の比表面積を上記範囲のように比較的小さくすることにより、触媒金属の表面に吸着する水の量を減らすことができる。その結果、一次空孔内に水が保持されにくくなり、触媒中、さらには触媒層中の含水率を低くすることができる。なお、本明細書における「電気化学的に測定される触媒金属の比表面積」は、例えば、Journal of Electroanalytical Chemistry 693 (2013) 34−41等に記載される方法によって測定できる。具体的には、本明細書では、「電気化学的に測定される触媒金属の比表面積」は、以下の方法によって測定された値を採用する。
(触媒金属の比表面積の電気化学的測定方法)
カソード触媒層について、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学的有効表面積(ECA:Electrochemical surface area)を求める。ここで、対向するアノードには、測定温度において飽和するよう加湿した水素ガスを流通させ、これを参照極および対極として用いる。カソードには同様に加湿した窒素ガスを流通させておき、測定を開始する直前に、カソード入口および出口のバルブを閉じ、窒素ガスを封入する。この状態で、電気化学測定装置(北斗電工(株)製、型番:HZ−5000)を用いて下記条件にて測定する。
本形態において、単位触媒塗布面積当たりの触媒金属の含有量(目付量、mg/cm2)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、1mg/cm2以下である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されない。
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒金属(白金)の含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒金属(白金)の含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
また、担体における触媒金属の担持量(担持率とも称する場合がある)は、特に制限されない。担持率は、触媒(つまり、担体および触媒金属)の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%とするのがよい。担持量が前記範囲であれば、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位重量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。なお、本発明における「触媒担持率」は、触媒金属を担持する前の担体と、触媒金属を担持させた後の触媒の重量を測定することにより求められる値である。
本発明の方法に用いられる燃料電池用電極触媒層は、上記触媒に加えて、電解質を含む。ここで、電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。これらのうち、フッ素系高分子電解質が好ましい。すなわち、電解質は、フッ素系高分子電解質であることが好ましい。
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/mol以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/mol以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1100g/mol以下の高分子電解質を含む。
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600g/mol以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/mol」の単位で表される。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層及びアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
(触媒層の製造方法)
燃料電池用電極触媒層を製造する方法は、特に限定されず、例えば、特開2010−21060号公報に記載される方法などの公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用される。
以下、上記方法について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、触媒層の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
触媒担体に触媒金属を担持させて、触媒粉末とする。触媒担体への触媒金属の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、クエン酸等の酸を用いた液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。触媒金属を担持させた触媒担体を任意に乾燥して、触媒(触媒粉末)を得る。
続いて、触媒(触媒粉末)、高分子電解質、および任意の分散媒を混合して、塗布液(触媒インク)を作製する。塗布液(触媒インク)の作製に用いる分散媒は特に制限されないが、例えば、水、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)が例示できる。分散媒は、これらの溶媒を1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。好ましくは、水−アルコール混合液、より好ましくは水およびアルコールの混合重量比が50/50〜100/10である水−アルコール混合液を分散媒として用いる。水−アルコール混合液中の水の割合を多くすることで、電解質が過度に触媒を被覆することを防ぎ、触媒金属暴露率を高くすることができる。一方、水およびアルコールの混合重量比中の水の割合を少なくすることで、高分子電解質の溶解性が向上し、触媒金属暴露率を低くすることができる。したがって、水−アルコール混合液における水とアルコールとの重量比を調整することで、触媒金属暴露率を制御できる。ガス輸送性、触媒活性のさらなる向上を考慮すると、水およびアルコールの混合重量比は、好ましくは60/40以上91/9未満であり、より好ましくは65/35〜90/10、さらに好ましくは70/30〜90/10である。
水は、特に制限されず、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等が使用できる。また、アルコールも、特に制限されない。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノールおよび2−メチル−2−プロパノールが好ましい。上記アルコールは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合液の状態で使用されてもよい。すなわち、アルコールが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノールおよび2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。このような親和性が高い低級アルコールを用いることで、電解質の極端な偏在を防ぐことができる。また、上記のアルコールのうち、沸点が100℃未満のアルコールを用いることがより好ましい。沸点が100℃未満のアルコールを用いることにより、乾燥工程が簡素化できるという利点がある。沸点が100℃未満のアルコールとしては、メタノール(沸点:65℃)、エタノール(沸点:78℃)、1−プロパノール(沸点:97℃)、2−プロパノール(沸点:82℃)、および2−メチル−2−プロパノール(沸点:83℃)からなる群より選択されるものが例示できる。上記アルコールを1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
上述したように、高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。これらのうち、フッ素系高分子電解質が好ましい。すなわち、電解質は、フッ素系高分子電解質であることが好ましい。このように疎水性のフッ素系高分子電解質を用いることによって、溶媒中の水比率を高くすることで電解質がさらに凝集しやすくなる。
触媒インクを構成する溶剤の量は、電解質を完全に溶解できる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒粉末および高分子電解質などを合わせた固形分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%程度とするのが好ましい。
なお、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を使用する場合には、触媒インクにこれらの添加剤を添加すればよい。この際、添加剤の添加量は、上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されない。例えば、添加剤の添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
次に、基材の表面に触媒インクを塗布する。基材への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
この際、触媒インクを塗布する基材としては、固体高分子電解質膜(電解質層)やガス拡散基材(ガス拡散層)を使用することができる。かような場合には、固体高分子電解質膜(電解質層)またはガス拡散基材(ガス拡散層)の表面に触媒層を形成した後、得られた積層体をそのまま膜電極接合体の製造に利用することができる。あるいは、基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)[テフロン(登録商標)]シート等の剥離可能な基材を使用し、基材上に触媒層を形成した後に基材から触媒層部分を剥離することにより、触媒層を得てもよい。
最後に、触媒インクの塗布層(膜)を、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下、室温〜180℃で、1〜60分間、乾燥する。これにより、触媒層が形成される。
本発明の一実施形態では、燃料電池用触媒層を用いて、触媒金属へのガス吸着挙動を下記方法により測定して触媒金属暴露率を評価する工程を含む、燃料電池の製造方法が提供される。更に別の実施形態では、当該方法により評価した触媒金属暴露率が50%以上である構造体(燃料電池用触媒層、燃料電池用膜触媒層接合体または燃料電池用膜電極接合体)を(選別して)用いる、燃料電池の製造方法が提供される。電解質を通過しなくともガスが到達できる前記触媒金属の比表面積が、触媒金属の全比表面積に対して50%以上である構造体(燃料電池用触媒層、燃料電池用膜触媒層接合体または燃料電池用膜電極接合体)を用いることによって、ガス輸送抵抗を低減し、反応ガス(特にO2)を電解質を介さずに触媒金属に直接供給できる。また、電解質を介さずに反応ガスを触媒金属に供給すると、反応ガス(特にO2)の触媒金属への輸送時間が短くなる。このため、触媒金属は反応ガスをより速やかに利用できる。ゆえに、上記のような触媒層は、触媒をより有効に利用して、触媒活性を向上できる、すなわち、触媒反応を促進できる。なお、本明細書では、触媒金属の全比表面積に対する、電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属の比表面積の割合を、単に「触媒金属暴露率」とも称する。
本発明に係る燃料電池の製造方法において用いる構造体(燃料電池用触媒層、燃料電池用膜触媒層接合体または燃料電池用膜電極接合体)の触媒金属暴露率は、55%以上、60%以上、65%以上の順で、値が大きい方が好ましい。上記触媒金属暴露率であれば、電解質による触媒金属の被覆を低減して、より電解質を介さずに反応ガス(特にO2)が直接触媒金属により速やかにかつより効率よく供給され、ガス輸送性をより向上できる。なお、電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属の比表面積の割合(触媒金属暴露率)の上限は、高いほど好ましいため特に制限されず、100%である。
(膜電極接合体)
本発明のさらなる実施形態によれば、下記方法により評価した触媒金属暴露率が50%以上である燃料電池用触媒層、燃料電池用膜触媒層接合体、および燃料電池用膜電極接合体が提供される。すなわち、固体高分子電解質膜2、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、前記電解質膜2並びに前記アノード触媒層3a及び前記カソード触媒層3cを挟持する一対のガス拡散層(4a,4c)とを有する燃料電池用膜電極接合体が提供される。そしてこの膜電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が上記に記載した実施形態の触媒層である。
ただし、プロトン伝導性の向上および反応ガス(特にO2)の輸送特性(ガス拡散性)の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層が上記に記載した実施形態の触媒層であることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
本発明のさらなる実施形態によれば、上記形態の膜電極接合体を有する燃料電池が提供される。すなわち、本発明の一実施形態は、上記形態の膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する燃料電池である。
以下、図1を参照しつつ、上記実施形態の触媒層を用いたPEFC 1の構成要素について説明する。ただし、本発明は触媒層に特徴を有するものである。よって、燃料電池を構成する触媒層以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC 1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、先に高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層または微多孔質層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したもの(CCM)に、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層のマイクロポーラス層側(マイクロポーラス層を含まない場合には、基材層)の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パーフルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや膜電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
[空気電池]
本発明に係る方法は、構造体として空気電池用正極触媒層、または当該空気電池用正極触媒層を含む空気極を用いても良い。
一般的な空気電池は、集電体、正極触媒層、およびセパレータが順次積層された空気通気口孔を有する凹型の正極ケースと、負極活物質が充填され、かつ前記正極ケースより一回り小さい負極ケースと、が重ね合わせに密着した構造である。また、当該空気電池は、前記正極ケースと前記負極ケースとの間をガスケットで封止した構造となっている。また、当該空気電池の一般的な原理は、空気通気口孔から供給される酸素(O2)を正極触媒により水酸化イオン(OH−)などに還元して、負極活物質の金属(M+)が水酸化イオンなどで酸化されることで、電気化学反応が進行する。
空気電池は、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型であっても、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれでもよい。高分子ゲル電解質および固体高分子電解質に関しては、これらを単独で使用することもできるし、これら高分子ゲル電解質や固体高分子電解質をセパレータに含浸させて使用することもできる。
図2に空気電池101の好ましい構成の一形態を記載する。空気電池101は、正極触媒層104が正極集電体102の表面に形成された空気極と、負極活物質層105が負極集電体103の表面に形成された負極と、前記空気極と前記負極との間に挟持されるセパレータ106を有する。図2は空気電池の構成を模式的に示す図であるため、正極ケース、負極ケース、ガスケットや空気通気口孔を図示していない。
本発明で用いられる空気電池用正極触媒層は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒ならびに電解質を含む。触媒担体、触媒金属、および電解質については、燃料電池について上述したものと同様である。空気電池用正極触媒層は、触媒金属、導電性担体、および電解質を、任意に加えられるバインダーと共に適量の溶媒に懸濁してスラリーを調製し、当該スラリーを乾燥し、必要に応じて粉砕して得る。用いる溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば水、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)が採用できる。得られた乾燥物をプレス成型等により成形し、触媒層として用いる。
空気電池における負極活物質層は、負極活物質を含んでいればよい。負極活物質に使用する材料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、および鉄からなる群から選択される少なくとも1種の元素、またはそれらの合金が好ましい。上記負極活物質層は、負極活物質単独を含有しても、粒子状の負極活物質を導電性担体に担持したものであってもよく、さらに必要によりバインダーを含んでもよい。
空気電池における集電体は、正極触媒層または負極活物質層で集電するものである。当該集電体の材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。また、集電体の形状は、例えば膜状、板状などの平板状や、メッシュ状、格子状に孔が形成されたグリッド状などを挙げることができる。集電体の形状は、メッシュ状であることが集電効率の観点から好ましい。この場合、通常、空気極層の内部にメッシュ状の空気極集電体を配置する。
空気電池におけるセパレータは、例えばカーボンペーパー、不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルトなどからなるシート状材料、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質膜などが好適に使用できる。
[ガス吸着挙動の測定]
本発明においては、上記のような構造体を用いて、触媒金属へのガス吸着挙動を測定し、触媒金属暴露率を評価する。
測定に用いるガスは、触媒金属が吸着するガスを含むものを採用する。金属、特に、触媒金属として従来用いられる貴金属が、ある種のガスを吸着することは知られている。例えば、貴金属に吸着するガスとしては、一酸化炭素(CO);揮発性含硫化合物(例えば、二酸化硫黄(SO2)等の硫黄酸化物(SOx)、メタンチオール等のメルカプタン、硫化水素(H2S));一酸化窒素(NO)等の窒素酸化物(NOx)等が例示できる。これらのガスは、1種を単独でも用いても良く、または、任意の分圧で混合した混合ガスを用いても良い。さらには、これらの吸着性ガスと、ヘリウムまたは不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)とを任意に割合で混合した混合ガスを用いても良い。測定に用いるガスは、例えば、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含む触媒金属を用いる場合は、一酸化炭素(CO)を含むことが好ましい。一酸化炭素、揮発性含硫化合物、窒素酸化物等の吸着性ガスは、測定ガス全体に対し、例えば1〜100%(v/v)の割合で含まれる。ある実施形態では、1〜100%(v/v)の上記吸着性ガスから選択される1種以上と、残部のヘリウム、窒素およびアルゴンからなる群から選択される1種以上、とからなる測定ガスを用いる。混合ガスの場合、吸着ガスのシグナル強度の観点から、上記吸着性ガスは、混合ガス全体に対し、より好ましくは2〜40%(v/v)の割合で含まれ得る。すなわち、2〜40%(v/v)の上記吸着性ガスから選択される1種以上と、残部のヘリウム、窒素およびアルゴンからなる群から選択される1種以上、とからなる測定ガスを用いてもよい。
本発明においては、触媒金属のガス吸着性を利用し、触媒金属へのガス吸着挙動を測定することにより、電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属の比表面積の割合(触媒金属暴露率)を評価する。測定されるガス吸着挙動としては、触媒金属によるガス吸着量、ガス吸着速度、吸着量の経時変化等が例示できる。
本発明の一実施形態では、触媒金属へのガス吸着挙動は、触媒金属全体によるガス吸着量(A)、および触媒担体上に暴露された触媒金属によるガス吸着量(B)である。なお、「触媒金属全体によるガス吸着量(A)」を、単に「ガス吸着量(A)」とも称する。また、「触媒担体上に暴露された触媒金属によるガス吸着量(B)」を、単に「ガス吸着量(B)」とも称する。触媒金属によるガス吸着量は、触媒金属の比表面積と比例関係にあるため、触媒金属によるガス吸着量を触媒金属の比表面積として触媒金属暴露率を算出できる。上記のガス吸着量(A)に対するガス吸着量(B)の比は、触媒金属全体の比表面積(A)に対する触媒担体上に暴露された前記触媒金属の比表面積(B)として算出できる。すなわち、本発明の一実施形態では、上記構造体を用いて、前記触媒金属全体によるガス吸着量(A)、および前記触媒担体上に暴露された前記触媒金属によるガス吸着量(B)を測定し、下記式(1)により触媒金属暴露率を評価する方法が提供される。当該方法は、上記構造体を用いて、前記触媒金属全体によるガス吸着量(A)および前記触媒担体上に暴露された前記触媒金属によるガス吸着量(B)を測定し、下記式(1)により触媒金属暴露率を評価することを含む、構造体の検査方法でもある。
上記式(1)において、「触媒金属全体によるガス吸着量(A)」(「ガス吸着量(A)」)は、触媒担体上に担持された触媒金属全体によるガス吸着量である。すなわち、ガス吸着量(A)(cm3/g触媒金属)は、触媒担体上に暴露された(電解質で被覆されていない)触媒金属によるガス吸着量と、電解質で被覆された触媒金属によるガス吸着量との総計である。また、上記式(1)において、「触媒担体上に暴露された触媒金属によるガス吸着量(B)」(「ガス吸着量(B)」)は、触媒担体上に暴露された(電解質で被覆されていない)触媒金属によるガス吸着量(cm3/g触媒金属)である。ガス吸着量(A)の測定に用いられる測定ガスと、ガス吸着量(B)の測定に用いられる測定ガスとは、通常同一の組成である。
上記式(1)において、ガス吸着量(A)は、ガスが電解質を通過できる程度に電解質の分子運動が活発な条件にて測定される。電解質の分子運動は、電解質の温度を高めることにより活発となり、温度を低くすることにより抑制される。ガス吸着量(A)が測定される温度(用いる構造体(例えば、燃料電池用電極触媒層)の温度)は、含まれる電解質によっても異なるため一概には定義できないが、例えば0℃を超えて120℃以下である。ガス吸着量(A)の測定は、例えば大気圧下で行われる。
上記式(1)において、ガス吸着量(B)は、電解質がガスを通過させない程度に電解質の分子運動が抑制された条件にて測定される。ガス吸着量(B)が測定される温度(用いる構造体(例えば、燃料電池用電極触媒層)の温度)は、含まれる電解質によっても異なるため一概には定義できないが、例えば、ガス吸着量(A)が測定される温度よりも低い温度である。より具体的には、ガス吸着量(B)が測定される温度は、例えば、−150〜0℃である。ガス吸着量(B)の測定は、例えば大気圧下で行われる。
また、一実施形態では、ガス吸着量(A)が測定される温度T(A)(℃)と、ガス吸着量(B)が測定される温度T(B)(℃)とは、80≦(T(A)(℃)−T(B)(℃))≦270である。
本発明の一実施形態では、ガス吸着量(A)およびガス吸着量(B)の測定に用いるガスが一酸化炭素を含む、触媒金属暴露率を評価する方法が提供される。測定ガスとして白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含む触媒金属を用いる場合は、一酸化炭素を含むガスを用いることが好ましい。測定ガス中の一酸化炭素の含量は、測定ガス全体に対し、例えば1〜100%(v/v)、好ましくは2〜40%(v/v)である。
以下、測定ガスとして一酸化炭素を含むガスを用いた方法(CO吸着法)を例に、測定方法をより詳細に説明するが、本発明に用いられる測定ガスが一酸化炭素含有ガスに限定されるものではない。揮発性含硫化合物や一酸化窒素等の、触媒金属(特に、貴金属)への吸着が知られている一酸化炭素以外の吸着性ガスについても、下記方法が適宜改変されて実施され得る。また、下記例ではガス吸着量(A)の測定温度として50℃を、ガス吸着量(B)の測定温度として−74℃を採用しているが、これらの温度は、上記の測定温度に適宜改変され得る。
電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属の比表面積の割合(触媒金属暴露率)は、以下のCO吸着法によっても測定され得る。なお、下記方法は、一酸化炭素(CO)が触媒金属(例えば、白金)に選択的に吸着することを利用するものであり、以下のメカニズムを利用するものである。すなわち、一酸化炭素(CO)は、50℃では、電解質を通過する。このため、50℃では、COは、触媒担体上に暴露した(電解質で被覆されていない)触媒金属および電解質で被覆された触媒金属双方に化学吸着する。従って、高温(例えば、50℃)の条件で触媒金属のガス吸着量を測定することにより、ガス吸着量(A)の値を得ることができる。
一方、低温(例えば、−74℃)では、一酸化炭素(CO)は電解質を通過しない。このため、低温(例えば、−74℃)では、COは、触媒担体上に暴露した(電解質で被覆されていない)触媒金属には化学吸着するが、電解質で被覆された触媒金属や開口部が電解質で被覆された空孔の内部に担持(格納)された触媒金属に化学吸着しない。従って、低温(例えば、−74℃)の条件で触媒金属のガス吸着量を測定することにより、ガス吸着量(B)の値を得ることができる。
なお、「CO吸着法」は、本発明にかかる評価方法のうち、吸着ガスとして一酸化炭素を用い、ガス吸着量(A)の測定温度が50℃、ガス吸着量(B)が−74℃の方法をいう。
すなわち、50℃でCO吸着法により測定された触媒層の触媒金属の比表面積(COMSA50℃)(m2/g触媒金属)は触媒金属の全比表面積に相当する。また、−74℃でCO吸着法により測定された触媒層の触媒金属の比表面積(COMSA−74℃)(m2/g触媒金属)は電解質を通過しなくともガスが到達できる触媒金属の比表面積に相当する。ゆえに、COMSA50℃(m2/g触媒金属)及びCOMSA−74℃(m2/g触媒金属)を下記CO吸着法によって測定し、得られた値から下記式によって触媒金属暴露率(%)を求める。触媒金属暴露率(%)が小さいほど、電解質で被覆された触媒金属の割合(電解質を通過してガスが到達する触媒金属の比表面積の割合)が大きいことを意味する。下記式(2)は、上記式(1)において、ガスとして一酸化炭素を、ガス吸着量(A)の測定を50℃にて、ガス吸着量(B)の測定を−74℃にて行う場合を示す。
(CO吸着量による触媒金属暴露率の評価方法)
試料(構造体、例えば、燃料電池用電極触媒層)を減圧オーブン中100℃で5時間以上乾燥する。所定時間乾燥後、試料を室温(25℃)に冷却する。その後、約100mgを秤量し、I字型チューブに入れた後、室温(25℃)の水素ガスで10分間パージする。水素ガス流通下、100℃まで20分で試料を昇温する。その後、水素雰囲気下で、100℃にて15分保持する。次に、流通ガスをヘリウムガスに切り換えて、試料を温度100℃で15分間保持する。さらに、試料の温度を50℃または−74℃まで降温し、この温度で15分間維持し、測定装置(製品名:BELCAT(登録商標)、温度制御ユニット:CATCryo、 いずれも日本ベル社製)の指示に従って、CO吸着量(cm3/g触媒金属)を測定する。なお、He:CO=90:10(v/v)である混合ガスを測定に用いる。測定されたCO吸着量に基づき、式(1)または式(2)により、触媒金属全体の比表面積(A)に対する触媒担体上に暴露された前記触媒金属の比表面積(B)として触媒金属暴露率(%)を求める。
50℃および−74℃での測定を例にとり、ガス吸着量測定時のガス吸着量(A)およびガス吸着量(B)の模式的な時間変化を、図3に示す
図3に示すように、ガス吸着量は、上記の測定ガスを流通した温度維持プロセス(上記では50℃または−74℃)において徐々に上昇し、飽和吸着量に達した時点で一定値となる。CO吸着法では、ガス吸着量としては、かような飽和吸着量を採用する。この他、試料温度が測定温度(上記では50℃または−74℃)まで降温し測定ガスの流通を開始した時点から、ガス吸着量を時間に対してプロットし、図3に示すような積算ガス吸着量プロットを得る。当該プロットに基づき、飽和吸着量に達する前の任意の所定時間におけるガス吸着量を、ガス吸着量(A)およびガス吸着量(B)として採用しても良い。
ガス吸着挙動による触媒金属暴露率の測定に用いる試料は、上記のような燃料電池用電極触媒層のほか、膜触媒層接合体(CCM)や膜電極接合体(MEA)であってもよい。燃料電池用電極触媒層は、基材に塗布したものをそのまま、または掻き落として用いても良い。
測定試料として用いる膜触媒層接合体(CCM)や膜電極接合体(MEA)には、ガス吸着挙動の測定対象とする触媒層(例えば、カソード触媒層)の対極に、測定対象と異なる触媒層(例えば、アノード触媒層)が存在していてもよい。この場合は、測定対象と異なる触媒層(上記の例ではアノード触媒層)への測定ガスの吸着を防止して測定すればよい。測定対象と異なる触媒層への測定ガスの吸着防止方法は特に制限されず、例えば、上記のような高分子電解質膜により測定対象と異なる触媒層の全体を被覆し、ホットプレス等により膜を転写する等により、測定ガスの触媒層への侵入を防止すればよい。膜電極接合体(MEA)を用いて上記の高分子電解質膜による測定ガスの吸着防止を行うときは、触媒層からGDLを機械的に剥離してから高分子電解質膜による被覆を行えばよい。これにより、測定対象と異なる触媒層による測定ガスの吸着を抑止することができる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
<実験1:酸素還元(ORR)活性の評価>
実施例で作製された膜触媒層接合体(CCM)の両面をガス拡散層(24BC,SGLカーボン社製)で挟持し、膜電極接合体(MEA)を得た。得られた膜電極接合体について、下記評価条件下、0.9V時の白金表面積当たり発電電流(μA/cm2(Pt))を測定し、酸素還元活性評価を行った。
<実験2:ガス輸送抵抗の評価>
上記の膜電極接合体について、T.Mashio et al. ECS Trans., 11, 529, (2007)に記載の方法に従って、ガス輸送抵抗評価を行った。
すなわち、希釈酸素を用いて限界電流密度(A/cm2)を計測した。この際、酸素分圧(kPa)に対する限界電流密度(A/cm2)の傾きから、ガス輸送抵抗(s/m)を算出した。ガス輸送抵抗はガスの全圧に比例し、ガスの全圧に依存する成分(分子拡散によるガス輸送抵抗)と、依存しない成分とに分離した。このうち、前者は例えばガス拡散層などに存在する100nm以上の比較的大きな空孔における輸送抵抗成分であり、後者は触媒層などに存在する100nm未満の比較的小さな空孔における輸送抵抗成分である。このように、ガス輸送抵抗の全圧依存性を計測し、全圧に依存しない成分を抽出することで、触媒層内のガス輸送抵抗を得た。
(実施例1)
5重量部のケッチェンブラック(BET比表面積:718m2/g担体)を、2500重量部の塩化白金酸水溶液(0.2重量%白金含有)中にホモジナイザを用いて十分に分散させた。用いたケッチェンブラックには直径10nm以下の一次空孔が、電子顕微鏡で観察された。
次に、50重量部のクエン酸ナトリウムを加え、十分に混合させて反応液を調製した。更に、還流反応装置を用い、反応液を攪拌しながら85℃で4時間還流して白金をケッチェンブラック表面へ還元担持させた。
反応終了後、室温まで試料溶液を放冷し、白金担持されたケッチェンブラック粉末を吸引ろ過装置でろ別し、十分に水洗した。
その後、ろ別した粉末を80℃で6時間減圧乾燥して、担持率が50重量%、触媒金属の平均粒径が2.5nmの触媒粉末Aを得た。
次に、10重量部の触媒粉末A、100重量部のイオン交換水、10重量部のn−プロピルアルコール(水とn−プロピルアルコールとの混合重量比が100/10)、および4.5重量部の高分子電解質を混合した。なお、高分子電解質としては、NAFION(登録商標)溶液(Aldrich社製、20重量%NAFION(登録商標)含有)、EW=1000)を用いた。更に、上記混合物を超音波ホモジナイザで十分に分散させ、減圧脱泡し、触媒インクAを得た。触媒インクAを、カソード触媒層、およびアノード触媒層の形成に用いた。
次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる転写基材上に、白金目付量が0.12mg/cm2となるよう、スクリーン印刷法により、5cm×5cmのサイズに触媒インクAを塗布した。
しかる後、130℃で30分間処理して、膜厚(乾燥膜厚)が6.5μmのカソード触媒層Aおよびアノード触媒層Aを得た。
上記で得られたカソード触媒層Aについて、CO吸着法にて触媒金属暴露率を測定した結果、38%であった。また、このようにして得られたカソード触媒層Aについて、触媒金属の比表面積を電気化学的に測定したところ、29.6m2/g担体であった。
高分子電解質膜(Dupont社製、NAFION(登録商標) NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置した。次いで、高分子電解質膜の各露出部に、それぞれ、上記で作製したカソード触媒層Aおよびアノード触媒層A(サイズ:5cm×5cm)を合わせて、150℃、0.8MPaで10分間ホットプレスを行うことにより、膜触媒層接合体(1)(CCM(1))を得た。
上記で得られた膜触媒層接合体(1)を用いて作製した膜電極接合体(MEA(1))について、触媒活性(実験1)およびガス輸送抵抗(実験2)を評価した。その結果、膜電極接合体(1)の白金表面積当たりの発電電流は352(μA/cm2(Pt))であり、ガス輸送抵抗は25.1(s/m)であった。
(実施例2)
実施例1における触媒インクAの製造時において、イオン交換水とn−プロピルアルコールとの重量比を50重量部と50重量部(水とn−プロピルアルコールとの混合重量比が50/50)に変更した触媒インクBを調製した。触媒インクAに代えて触媒インクBを用いた以外は実施例1と同様にして、カソード触媒層Bおよびアノード触媒層Bを得た。
当該方法で得られたカソード触媒層Bについて、CO吸着法にて触媒金属暴露率を測定した結果、45%であった。また、このようにして得られたカソード触媒層Bについて、触媒金属の比表面積を電気化学的に測定したところ、27.4m2/g担体であった。
カソード触媒層Aおよびアノード触媒層Aを、それぞれカソード触媒層Bおよびアノード触媒層Bに変更した以外は実施例1と同様の手法により、膜触媒層接合体(2)(CCM(2))を得た。
上記で得られた膜触媒層接合体(2)を用いて作製した膜電極接合体(MEA(2))について、触媒活性(実験1)およびガス輸送抵抗(実験2)を評価した。その結果、膜電極接合体(2)の白金表面積当たりの発電電流は689(μA/cm2(Pt))であり、ガス輸送抵抗は19.9(s/m)であった。
(実施例3)
実施例1における触媒インクAの製造時において、イオン交換水とn−プロピルアルコールとの重量比を80重量部と20重量部(水とn−プロピルアルコールとの混合重量比が80/20)に変更した触媒インクCを調製した。触媒インクAに代えて触媒インクCを用いた以外は実施例1と同様にして、カソード触媒層Cおよびアノード触媒層Cを得た。
当該方法で得られたカソード触媒層Cについて、CO吸着法にて触媒金属暴露率を測定した結果、65%であった。また、このようにして得られたカソード触媒層Cについて、触媒金属の比表面積を電気化学的に測定したところ、30.7m2/g担体であった。
カソード触媒層Aおよびアノード触媒層Aを、それぞれカソード触媒層Cおよびアノード触媒層Cに変更した以外は実施例1と同様の手法により、膜触媒層接合体(3)(CCM(3))を得た。
上記で得られた膜触媒層接合体(3)を用いて作製した膜電極接合体(MEA(3))について、触媒活性(実験1)およびガス輸送抵抗(実験2)を評価した。その結果、膜電極接合体(3)の白金表面積当たりの発電電流は802(μA/cm2(Pt))であり、ガス輸送抵抗は13.2(s/m)であった。
上記のように、従来技術である電気化学的手法による触媒金属比表面積は、金属触媒のガスに対するアクセスが考慮されないため、触媒活性やガス輸送抵抗といった構造体性能の予測には適さない。一方、本発明によれば、金属触媒のガスに対するアクセスが考慮された構造体の評価が可能であり、触媒活性やガス輸送抵抗といった構造体性能の予測に利用することも可能である。