(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態1にかかるロボットハンド1を示す図である。ロボットハンド1は、複数の関節を有する多関節ロボットである。なお、図1には、ロボットハンド1がマニピュレータに適用された例を示しているが、実施の形態1にかかるロボットハンド1は、ヒューマノイドロボットのアームにも適用され得る。
ロボットハンド1は、ベース部2、肩部4、肩関節部6、上腕部8、肘関節部10、前腕部12、手首関節部20、ハンドリンク部16及びハンド部14を有する。ベース部2は、土台900に固定される。肩部4は、ベース部2から例えば垂直に突出するように設けられている。
肩関節部6は、肩部4と上腕部8との間に設けられている。肩関節部6は、上腕部8を回転可能に支持する。肩関節部6は、1軸、2軸又は3軸の回転軸と、回転軸を回転駆動させるモータとを有する。例えば、肩関節部6は、紙面に垂直な軸を中心として、上腕部8を回転可能に支持する。肘関節部10は、上腕部8と前腕部12との間に設けられている。肘関節部10は、前腕部12を回転可能に支持する。肘関節部10は、1軸、2軸又は3軸の回転軸と、回転軸を回転駆動させるモータを有する。例えば、肘関節部10は、紙面に垂直な軸を中心として、前腕部12を回転可能に支持する。
手首関節部20は、前腕部12(アーム部)とハンド部14との間に設けられている。そして、手首関節部20は、前腕部12の先端に設けられている。手首関節部20は、ハンドリンク部16を介してハンド部14を回転可能に支持している。手首関節部20は、1軸、2軸又は3軸の回転軸を有する。例えば、手首関節部20は、少なくとも紙面に垂直な軸(屈曲軸)を中心として、ハンド部14を回転可能に支持する。
ハンド部14は、外界の物体90に接触する接触部14aを有する。接触部14aを物体90に接触させて、ロボットハンド1は、何らかの作業を行う。また、例えばベース部2には、各関節部(肩関節部6、肘関節部10及び手首関節部20)の関節角度を制御することで、ロボットハンド1の動作を制御する制御部3が設けられている。なお、ハンド部14及び手首関節部20については、以下に詳述する。
図2は、実施の形態1にかかるロボットハンド1のハンド部14の近傍の詳細を示した斜視図である。また、図3及び図4は、実施の形態1にかかるロボットハンド1のハンド部14の近傍の詳細を示した正面図である。また、図2には、ハンド部14の接触部14aが平面で構成された例が示されているが、接触部14aは、平面のみで構成されている必要はない。例えば、接触部14aは、人間の手のひらのように曲面を有してもよい。
ここで、図3及び図4に示した仮想平面40は、接触部14aに接する仮想的な平面である。また、図3は、前腕部12に対する仮想平面40の角度θhが90度である状態を示している。言い換えると、図3は、前腕部12がハンド部14に垂直である状態を示している。また、図4は、前腕部12に対する仮想平面40の角度θhが90度よりも小さい状態を示している。なお、仮想線40aは、仮想平面40に平行な、仮想的な線である。
手首関節部20は、互いに直交する2つの回転軸を有するジンバル機構で構成されている。具体的には、手首関節部20は、互いに直交する屈曲軸22及び揺動軸24を有する。また、手首関節部20は、屈曲軸22及び揺動軸24をそれぞれ回転駆動させるモータ22a及びモータ24aを有している。手首関節部20は、屈曲軸22の両端が設けられた2面、揺動軸24の両端が設けられた2面、前腕部12の側の面、及びハンド部14の側の面の6面からなる略六面体で構成されている。
ハンド部14の前腕部12の側の端部14b(第1の端部)には、2つのハンドリンク部16(リンク)が、手首関節部20を挟むように設けられている。2つのハンドリンク部16は、屈曲軸22の両端近傍にそれぞれ固定されている。モータ22aの回転駆動力(トルク)によって屈曲軸22が回転すると、ハンドリンク部16が屈曲軸22の周りに回転するので、ハンド部14は、屈曲軸22の中心を回転中心Pとして、図2の矢印Aの方向に回転(屈曲)する。つまり、モータ22aは、ハンド部14を矢印Aの方向に回転駆動させる。
前腕部12のハンド部14の側の端部12bには、2つの前腕リンク部13が、手首関節部20を挟むように設けられている。2つの前腕リンク部13は、揺動軸24の両端近傍にそれぞれ固定されている。モータ24aの回転駆動力(トルク)によって揺動軸24が回転すると、ハンドリンク部16が揺動軸24の周りに回転するので、ハンド部14は、揺動軸24の中心を回転中心Qとして、図2の矢印Bの方向に回転(揺動)する。つまり、モータ24aは、ハンド部14を矢印Bの方向に回転駆動させる。
また、ハンドリンク部16の幅W1は、2つの前腕リンク部13の間隔よりも狭い。同様に、前腕リンク部13の幅W2は、2つのハンドリンク部16の間隔よりも狭い。これにより、ハンド部14が屈曲軸22又は揺動軸24の周りに回転するときに、前腕リンク部13とハンドリンク部16とが互いに干渉することが抑制される。したがって、ハンド部14の回転可能角度を広くすることができる。
また、図3に示すように、ハンド部14の屈曲軸22の回転中心Pは、仮想平面40に沿った方向つまり仮想平面40に平行な方向(矢印C1の方向)に、ハンド部14の端部14bから離れた位置にある。言い換えると、回転中心Pは、接触部14aの仮想平面40に垂直な方向(矢印C2の方向)から外れた位置にある。このような構成によって、後述する第2の比較例と比較して、ハンド部14が前腕部12に干渉することが抑制されるので、ハンド部14の回転可能角度を広くすることができる。
実施の形態1において、手首関節部20のハンド部14の側の面(つまり前腕部12とは反対側の面)である端部20a(第2の端部)には、荷重支持部30が設けられている。荷重支持部30は、前腕部12の先端において、肩関節部6及び肘関節部10の動作により前腕部12に加えられる荷重Fa(圧縮力)を支持する。具体的には後述するが、ハンド部14の接触部14aが物体90に接触したときに、荷重支持部30も物体90に接触し得る。これにより、前腕部12からの荷重Faが支持され得る。実施の形態1においては、荷重支持部30は、手首関節部20の端部20aから突出するように設けられている。
前腕部12の長手方向に沿って回転中心Pを通る仮想線Laを定義すると、仮想線Laは、肘関節部10の回転中心と手首関節部20の回転中心Pとを結ぶ直線に略一致する。また、この仮想線Laの向きは、前腕部12に加えられる荷重Faの向きと一致する。また、角度θhは、仮想平面40と仮想線Laとの角度に一致する。ここで、実施の形態1においては、仮想線Laは手首関節部20を通るので、仮想線Laは、荷重支持部30を通り得る。
ハンド部14の屈曲軸22の回転中心Pから、荷重支持部30の先端34までの長さD1は、ハンドリンク部16のハンド部14における根元部16aから、回転中心Pまでの長さD2よりも短い。これにより、ハンド部14が回転中心Pの周りに回転した場合であっても、荷重支持部30はハンド部14と干渉しない。したがって、ハンド部14の回転可能角度が確保される、つまり、荷重支持部30がハンド部14の回転を妨げることが抑制される。
また、荷重支持部30の太さは、前腕部12からの荷重Faに耐えうる程度に太い。一方、荷重支持部30の太さは、ハンドリンク部16及び前腕リンク部13と干渉しない程度に細い。これにより、ハンド部14の回転可能角度が確保され、かつ、荷重支持部30が前腕部12からの荷重Faを支持することができる。
荷重支持部30の素材は、スポンジ、ゴム又はウレタン等の柔軟な素材(弾性素材)で形成されていてもよい。荷重支持部30が弾性素材で形成されていることにより、荷重支持部30は、物体90に接触したときに圧縮変形する。これにより、荷重支持部30は、物体90に面で接触する。また、荷重支持部30が物体90に接触するときの面の面積が大きいほど、面圧は小さくなる。そして、荷重支持部30は、荷重支持部30が物体90に接触したときの面圧が物体90の強度に対して十分小さくなる程度の柔軟性を有する。また、荷重支持部30は、物体90と接触したときに、物体90に対して滑らない程度の摩擦係数を有する素材で形成され得る。また、荷重支持部30は、物体90と接触したときに物体90に与える荷重Faにより発生するせん断力及び圧縮力に耐えうる素材で形成される。
また、図3及び図4に示すように、荷重支持部30は、仮想平面40と接するか又は交わる程度に突出している。好適には、荷重支持部30が仮想平面40と交わることで、荷重支持部30は、物体90と接触するときに面で接触し得るので、荷重支持部30が物体90に接触したときの面圧を抑制することができる。なお、図3は角度θhが90度である場合が示されているが、図4に示すように、角度θhが90度ではない場合であっても、荷重支持部30は、仮想平面40と接するか又は交わるように構成される。つまり、荷重支持部30が仮想平面40と接するか又は交わる領域(第1の領域30a)が存在する。なお、第1の領域30aは、荷重支持部30が仮想平面40と接する場合は点(又は線)であり、荷重支持部30が仮想平面40と交わる場合は面である。また、荷重支持部30が仮想平面40からどの程度突出するかは、ハンド部14の接触部14a(及び荷重支持部30)が物体90と接触したときのロボットハンド1の最適姿勢によって、適宜定められ得る。
また、荷重支持部30の端部には、湾曲部32が設けられている。湾曲部32は、屈曲軸22に沿った方向(紙面に垂直な方向)から見たときには円弧形状に形成され、揺動軸24に沿った方向(図3の左右方向)から見たときには直線形状に形成されている。つまり、湾曲部32は、円柱が高さ方法に沿って切断されてできた形状に形成されている。言い換えると、湾曲部32は、「かまぼこ型」(barrel-vaulted shape)に形成されている。この場合、湾曲部32の湾曲は、円柱の側面の一部に対応する。そして、望ましくは、湾曲部32の円弧形状は、回転中心Pを中心とした円弧で形成される。言い換えると、湾曲部32は、屈曲軸22に垂直な面による断面が回転中心Pを中心とした円弧となるように形成されている。
図5は、実施の形態1にかかるロボットハンド1のハンド部14が屈曲軸22の周りに回転している状態を示す図である。図5においては、ハンド部14は、(a)の状態(図3の状態に対応)から、(b)の状態(図2の状態に対応)に回転し、さらに、(c)の状態に回転している。言い換えると、前腕部12の長手方向の向きが下向きであるとすると、ハンド部14の接触部14aが、下を向いた状態(a)、横を向いた状態(b)、上を向いた状態(c)と移行するように回転する。
ここで、上述したように、ハンド部14の屈曲軸22の回転中心Pは、接触部14aに接する仮想平面40に沿った方向に、ハンド部14の端部14bから離れた位置にある。また、上述したように、荷重支持部30は、ハンド部14、ハンドリンク部16及び前腕リンク部13と干渉しないサイズで構成されている。したがって、荷重支持部30は、ハンド部14の回転を妨げることはない。したがって、ハンド部14の回転可能角度(図5に示したθa以上の角度)が確保され得る。
ここで、仮に、荷重支持部30に湾曲部32が設けられておらず、矩形形状である場合、ハンド部14の角度及び荷重支持部30のサイズによっては、荷重支持部30の角部がハンド部14(ハンドリンク部16の根元部16a)と干渉する可能性がある。一方、本実施の形態においては、荷重支持部30に湾曲部32が設けられているので、荷重支持部30には、ハンド部14(ハンドリンク部16の根元部16a)と干渉するような角部はない。したがって、より確実に、ハンド部14の回転可能角度が確保され得る。さらに、湾曲部32が、回転中心Pを中心とした円弧形状に形成されることによって、湾曲部32の湾曲が、ハンドリンク部16の根元部16aの回転の軌跡と沿ったものとなる。したがって、さらに確実に、ハンド部14の回転可能角度が確保され得る。
また、図3及び図4に示すように、屈曲軸22に平行な方向から見たときに、回転中心Pを荷重Faの向きで仮想平面40に投影した位置を、仮想位置P1とする。つまり、仮想位置P1は、仮想平面40と仮想線Laとの交点に対応する。このとき、仮想平面40上において、接触部14aと仮想位置P1との距離を、距離D3とする。なお、距離D3の接触部14aにおける基準は、接触部14aの手首関節部20の側の端部としている。
図3に示した状態の場合、角度θhは90度であるので、仮想位置P1は、第1の領域30aに含まれる。したがって、第1の領域30aと仮想位置P1との距離(D4)は、略0であるとみなし得る。したがって、D3>D4である。なお、仮に、仮想位置P1と、第1の領域30aにおいて仮想位置P1から最も遠い点との距離を距離D4としても、D3>D4となる。したがって、図3においては、荷重支持部30が仮想平面40と接するか又は交わる第1の領域30aは、接触部14aよりも、仮想位置P1に近い。
また、図4に示した状態の場合、前腕部12が傾くことにより、仮想位置P1は、第1の領域30aから外れた状態となる。この場合であっても、D3>D4となる。これは、第1の領域30aの任意の点をD4の基準とした場合であっても成り立ちうる。したがって、本実施の形態においては、荷重支持部30が仮想平面40と接するか又は交わる第1の領域30aは、接触部14aよりも、仮想位置P1に近い。つまり、実施の形態1においては、回転中心Pを含む手首関節部20に荷重支持部30が設けられているので、角度θhにより荷重支持部30が仮想平面40と接するか又は交わるとき、第1の領域30aは、接触部14aよりも仮想位置P1に近くなる。
図6は、実施の形態1にかかるロボットハンド1のハンド部14が物体90と接触した状態を示す図である。図6においては、図4のように、仮想平面40に対する前腕部12(仮想線La)の角度θhは、90度未満となっている。ここで、前腕部12からの荷重Faが、仮想線Laに沿って回転中心Pに向かって加わっている。この場合、荷重支持部30が物体90の表面90aと接触し、接触領域30cが形成されている。これによって、荷重支持部30が荷重Faを支持する。
ここで、本実施の形態にかかる荷重支持部30は、弾性素材で形成されているので、物体90に面で接触する。したがって、接触領域30cにおける面圧を抑制することが可能となる。また、角度θhによって、荷重支持部30が仮想平面40から突出する長さが異なり得る。しかしながら、実際に荷重支持部30が物体90に接触する際には、荷重支持部30が弾性素材で形成されていることから、この差分が吸収される。つまり、荷重支持部30が仮想平面40から突出する長さが長い角度θhにおいては、荷重支持部30が物体90に接触するときに、荷重支持部30が大きく圧縮変形する。これにより、角度θhによらず、接触部14a及び荷重支持部30の接触状態を安定させることができる。
また、仮に、荷重支持部30に湾曲部32が設けられておらず、矩形形状である場合、前腕部12の角度θhによっては、荷重支持部30の角部が物体90の表面90aに接触することがある。角部が物体90の表面90aと接触すると、接触領域30cが非常に小さくなる。これにより、接触領域30cにおける面圧が高くなり、物体90が破損するおそれがある。
一方、本実施の形態にかかる荷重支持部30には湾曲部32が設けられているので、荷重支持部30の端部には、接触領域30cが小さくなるような角部はない。したがって、荷重支持部30が物体90の表面90aと接触する角度(角度θh)によらないで、接触領域30cにおける面圧を抑制することが可能となる。さらに、湾曲部32が、回転中心Pを中心とした円弧形状に形成されることによって、角度θhによらないで、接触領域30cの形状を一定に近づけることができる。これにより、角度θhが変化した場合でも、接触領域30cの面積を安定化することができる。したがって、接触領域30cにおける面圧を安定させることができる。また、これにより、荷重支持部30が物体90の表面90aと接触する角度(角度θh)によらないで、接触領域30cの面積を大きくすることができる。したがって、さらに確実に、接触領域30cにおける面圧を抑制することが可能となる。
ここで、荷重支持部30が物体90の表面90aと接触するとき、荷重Faに対する反力Fbが、物体90の表面90aから接触領域30cの内部の作用点30pに加わる。ここで、反力Fbと荷重Faとは、仮想線Laの方向について釣り合っているので、反力Fbの向きは荷重Faの向きと平行であるが逆方向であり、反力Fbの大きさは荷重Faの大きさと等しい。
一方、反力Fbの方向は、仮想線Lbに沿っている。ここで、図6に示すように、仮想平面40に対する前腕部12(仮想線La)の角度θhが90度よりも小さいと、仮想線Lbは、仮想線Laからずれる。このずれがモーメントアームM1となって、前腕部12にモーメント(図6の状態では反時計回りの方向)が発生する。したがって、前腕部12には矢印Eの方向に倒れる力が働く。この矢印Eの方向の力に抗するため、手首関節部20のモータ22aは、屈曲軸22に反時計回り方向にトルクT1を発生させる。これにより、ハンド部14が物体90を押圧するので、前腕部12が矢印Eの方向に倒れることが抑制される。つまり、角度θhが図6に示した角度に維持される。なお、トルクT1は、荷重Faと、モーメントアームM1に応じて出力される。
ここで、仮想位置P1と作用点30pとの距離をD4とすると、モーメントアームM1は、D4*sinθhで表される。そして、前腕部12に発生するモーメントは、Fa*M1=Fa*D4*sinθhと表される。そして、モータ22aの最大トルクをT1maxとすると、T1max>Fa*M1(=Fa*D4*sinθh)を満たす。
(比較例)
ここで、本実施の形態との比較例について説明する。
図7は、第1の比較例にかかるロボットハンド100を示す図である。第1の比較例にかかるロボットハンド100は、荷重支持部30がない点で、実施の形態1にかかるロボットハンド1と異なる。ロボットハンド120のそれ以外の構成については、実施の形態1にかかるロボットハンド1と実質的に同様である。また、図7における角度θhは、図6における角度θhと同じとする。
ロボットハンド100には荷重支持部30がないので、前腕部12から荷重Faが加わった状態でハンド部14の接触部14aが物体90に接触すると、ハンド部14が荷重Faを支持することとなる。このとき、接触部14aには、反力Fbが加わる。なお、実施の形態1との比較のため、反力Fbが、接触部14aの手首関節部20の側の端部に加わるとしている。ここで、反力Fbと荷重Faとは、仮想線Laの方向について釣り合っているので、反力Fbの向きは荷重Faの向きと平行であるが逆方向であり、反力Fbの大きさは荷重Faの大きさと等しい。
一方、反力Fbの方向は、仮想線Lbに沿っている。ここで、図7に示すように回転中心Pが、仮想平面40に沿った方向(矢印C1の方向)に、ハンド部14の端部14bから離れた位置にある。これによって、上述したように、仮想位置P1と端部14bとの間に、距離D3の隔たりが生じている。したがって、仮想線Lbは、仮想線Laからずれる。このずれがモーメントアームM2となる。ここで、図7に示したように、接触部14aと物体90との接触状態を維持し、前腕部12の構造部材(前腕リンク部13等)及び手首関節部20が物体90に接触しないようにするために、手首関節部20のモータ22aは、屈曲軸22に反時計回り方向にトルクT2を発生させる。これにより、ハンド部14が物体90を押圧し、角度θhが維持されるので、接触部14aと物体90との接触状態が維持される。なお、トルクT2は、荷重Faと、モーメントアームM2に応じて出力される。
仮想位置P1と端部14bとの距離をD3とすると、モーメントアームM2は、D3*sinθhで表される。そして、屈曲軸22の周りのモーメントは、Fb*M2=Fa*D3*sinθhと表される。そして、モータ22aの最大トルクをT2maxとすると、T2max>Fb*M2(=Fa*D4*sinθh)を満たす。
ここで、上述したように、D3>D4であるので、モーメントアームM1は、モーメントアームM2よりも小さくなる。したがって、図6に示した状態におけるモーメントは、図7に示した状態におけるモーメントよりも小さくなる。これは、第1の領域30aが接触部14aよりも仮想位置P1に近いからである。そして、図6に示した状態を維持するために必要なトルクT1は、図7に示した状態を維持するためのトルクT2よりも小さくなる。言い換えると、実施の形態1にかかるロボットハンド1は、荷重支持部30を有しており、第1の領域30aが接触部14aよりも仮想位置P1に近いため、モーメントアームを小さくすることができ、したがって、手首関節部20におけるモーメントを抑制できる。したがって、実施の形態1にかかるロボットハンド1は、第1の比較例にかかるロボットハンド100と比較して、モータ22aの要求トルク(要求出力)を低減することが可能となる。これにより、モータ22a及び手首関節部20のサイズの増大を抑制できる。
図8は、第2の比較例にかかるロボットハンド120を示す図である。ロボットハンド120は、前腕部12と、関節部122と、ハンド部124とを有する。関節部122には屈曲軸22が設けられており、関節部122に内蔵されたモータによって屈曲軸22が回転駆動することで、ハンド部124が矢印Aの方向に回転する。また、ハンド部124は、物体90に接触する接触部124aを有する。
図8に示すように、ハンド部124の屈曲軸22の回転中心Pは、接触部124aに接する仮想平面40に沿った方向(矢印C1の方向)に、ハンド部124の端部124bから離れているわけではない。言い換えると、回転中心Pは、接触部124aの仮想平面40に垂直な方向(矢印C2の方向)にある。このような構成により、前腕部12に荷重Faが加わった場合、仮想線Laは接触部124aを通り得るので、接触部124aに加えられる反力Fbの向きは、仮想線La上にある。これにより、第2の比較例においては、荷重Faによるモーメントは発生しない。したがって、第2の比較例においては、荷重Faを支持するためにモータの要求トルクを増大させる必要はない。
しかしながら、回転中心Pが、接触部124aの仮想平面40に垂直な方向(矢印C2の方向)にあるため、ハンド部124が矢印Aの方向に回転すると、ハンド部124は前腕部12と干渉する。したがって、実施の形態1にかかるロボットハンド1と比較して、ハンド部の回転可能角度が小さくなってしまう。
一方、実施の形態1にかかるロボットハンド1は、上述したように、ハンド部14の回転可能角度を確保することが可能である。さらに、実施の形態1にかかるロボットハンド1は、上述したように、荷重Faを支持するためのモータの要求トルクを低減させることができる。つまり、実施の形態1にかかるロボットハンド1においては、ハンド部14の回転可能角度を確保することと、手首関節部20のモータの要求トルクを低減することとを、両立させることができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態1にかかるロボットハンド1においては、手首関節部20は2つの回転軸(屈曲軸22及び揺動軸24)を有する。一方、実施の形態2にかかるロボットハンド1においては、手首関節部が1つの回転軸を有している点で、実施の形態1にかかるロボットハンド1と異なる。実施の形態2にかかるロボットハンド1のその他の構成部分については、実施の形態1にかかるロボットハンド1と実質的に同様であるので、説明を省略する。
図9は、実施の形態2にかかるロボットハンド1のハンド部14の近傍の詳細を示した斜視図である。また、図10は、実施の形態2にかかるロボットハンド1のハンド部14の近傍の詳細を示した正面図である。なお、以下の説明において、実施の形態1と実質的に同一の構成部分については、同一の符号が付されている。
実施の形態2にかかるロボットハンド1は、少なくとも、前腕部12、手首関節部50、ハンドリンク部16及びハンド部14を有する。手首関節部50は、前腕部12とハンド部14との間に設けられており、ハンドリンク部16を介してハンド部14を回転可能に支持している。手首関節部50は、屈曲軸22と、屈曲軸22を矢印Aの方向に回転駆動させるモータ22aとを有する。手首関節部50は、前腕部12の端部12bに固定されている。なお、手首関節部50の上記以外の構成については、手首関節部20と同じである。また、手首関節部50のハンド部14の側の面である端部50a(第2の端部)には、実施の形態1と同様の荷重支持部30が設けられている。荷重支持部30は、実施の形態1と同様の湾曲部32を有する。
実施の形態2にかかるロボットハンド1のように、ハンド部14の回転軸が1軸であったとしても、ハンド部14と、屈曲軸22と、荷重支持部30との関係は、実施の形態1のように回転軸が2軸である場合と同じである。したがって、実施の形態2にかかるロボットハンド1も、上述したような、実施の形態1にかかるロボットハンド1と実質的に同様の効果を奏することができる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3にかかるロボットハンド1は、手首関節部20ではなく前腕部12の構造部材に荷重支持部が設けられている点で、実施の形態1と異なる。実施の形態3にかかるロボットハンド1のその他の構成部分については、実施の形態1にかかるロボットハンド1と実質的に同様であるので、説明を省略する。
図11は、実施の形態3にかかるロボットハンド1のハンド部14の近傍の詳細を示した斜視図である。また、図12は、実施の形態2にかかるロボットハンド1のハンド部14の近傍の詳細を示した正面図である。なお、以下の説明において、実施の形態1と実質的に同一の構成部分については、同一の符号が付されている。
実施の形態3においては、2つの前腕リンク部13の一方の先端に、荷重支持部60が設けられている。図11及び図12には、2つの前腕リンク部13のうち、ハンド部14の接触部14aの側の前腕リンク部13aに、荷重支持部60が設けられた例が示されている。しかしながら、前腕部12とハンド部14との最適姿勢によっては、ハンド部14の接触部14aとは反対側の前腕リンク部13bに、荷重支持部60が設けられてもよい。
荷重支持部30と同様に、荷重支持部60は、前腕部12に加えられる荷重Faを支持する。なお、荷重支持部60の素材は、実施の形態1にかかる荷重支持部30の素材と同様であってもよい。また、荷重支持部60の太さは、前腕部12からの荷重に耐えうる程度に太い。これにより、荷重支持部60は、前腕部12からの荷重Faを支持することができる。
一方、荷重支持部60の幅は、ハンドリンク部16と干渉しない程度に細い。さらに、回転中心Pから荷重支持部60の先端64までの長さD5は、ハンドリンク部16の根元部16aから回転中心Pまでの長さD2よりも短い。これにより、ハンド部14が屈曲軸22の回転中心Pの周りに回転した場合であっても、荷重支持部60はハンド部14と干渉することが抑制される。したがって、ハンド部14の回転可能角度が確保される、つまり、ハンド部14の回転を妨げることが抑制される。
また、実施の形態1と同様に、荷重支持部60は、仮想平面40と接するか又は交わる程度に突出している。つまり、実施の形態1と同様に、荷重支持部60が仮想平面40と接するか又は交わる領域(第1の領域60a)が存在する。好適には、荷重支持部60が仮想平面40と交わることで、荷重支持部60は、物体90と接触するときに面で接触するので、荷重支持部60が物体90に接触したときの面圧を抑制することができる。また、荷重支持部60が仮想平面40からどの程度突出するかは、ハンド部14の接触部14a(及び荷重支持部60)が物体90と接触したときのロボットハンド1の最適姿勢によって、適宜定められ得る。
また、荷重支持部60の端部には、湾曲部62が設けられている。湾曲部62は、屈曲軸22に沿った方向から見たときには円弧形状に形成されている。さらに、実施の形態3にかかる湾曲部62は、揺動軸24に沿った方向から見たときにも円弧形状に形成されている。つまり、湾曲部62は、球が切断されてできた形状に形成されている。言い換えると、湾曲部62は、「半球型」に形成され得る。
そして、望ましくは、湾曲部62の円弧形状は、手首関節部20の回転中心を中心とした円弧で形成されている。つまり、屈曲軸22に沿った方向から見たときの湾曲部62の円弧形状は、回転中心Pを中心とした円弧で形成されている。また、望ましくは、揺動軸24に沿った方向から見たときの湾曲部62の円弧形状は、回転中心Qを中心とした円弧で形成されている。このように、荷重支持部60に湾曲部62が形成されていることによって、実施の形態1と同様に、荷重支持部60が物体90と接触したときに角部ではなく面で接触するので、荷重支持部60が物体90と接触したときの面圧を抑制することが可能となる。
なお、実施の形態1においては、荷重支持部30は手首関節部20に設けられている。したがって、ハンド部14の接触部14a及び荷重支持部30が物体90と接触したときの荷重支持部30の姿勢は、屈曲軸22の回転角度のみに依存し、揺動軸24の回転角度には依存しない。言い換えると、実施の形態1の場合、接触部14aが物体90と接触したときに図4において前腕部12が手前側又は奥側に傾いた状態でも、揺動軸24に沿った方向から見たときの荷重支持部30の姿勢は、物体90の表面90aに対して傾いていない。したがって、実施の形態1にかかる荷重支持部30の湾曲部32は、回転中心Pを中心とした円弧形状に形成されているのみでよい。
一方、実施の形態3においては、荷重支持部60は前腕部12の構造部材(前腕リンク部13a)に設けられている。したがって、ハンド部14の接触部14a及び荷重支持部60が物体90と接触したときの荷重支持部60の姿勢は、屈曲軸22の回転角度だけでなく、揺動軸24の回転角度にも依存する。言い換えると、実施の形態3の場合、接触部14aが物体90と接触したときに図12において前腕部12が手前側又は奥側に傾いた状態では、前腕部12の傾きに伴って、揺動軸24に沿った方向から見たときの荷重支持部60の姿勢も、物体90の表面90aに対して傾く。
したがって、実施の形態3にかかる荷重支持部60の湾曲部62は、回転中心Pを中心とした円弧形状に形成されているだけでなく、回転中心Qを中心とした円弧形状にも形成されている。これにより、実施の形態3において、ハンド部14が揺動軸24の周りに回転した場合であっても、荷重支持部60は、物体90の表面90aと面で接触する。したがって、この場合であっても、荷重支持部60が物体90と接触したときの面圧を抑制することが可能である。なお、上記のように、実施の形態3にかかる荷重支持部60の湾曲部62よりも、実施の形態1にかかる荷重支持部30の湾曲部32の方が、単純な形状に形成され得る。
また、実施の形態3にかかる荷重支持部60は、第1の領域60aと仮想位置P1との距離D4が、接触部14aと仮想位置P1との距離D3よりも小さくなるように、構成されている。これにより、実施の形態1と同様に、第1の比較例と比較して、モーメントアームを小さくすることができるので、モータ22aの要求トルクを低減させることができる。これにより、実施の形態3においても、モータ22a及び手首関節部20のサイズの増大を抑制できる。つまり、実施の形態3にかかるロボットハンド1においても、ハンド部14の回転可能角度を確保することと、手首関節部20のモータの要求トルクを低減することとを、両立させることができる。
なお、実施の形態3にかかる荷重支持部60は、前腕部12の構造部材である前腕リンク部13に設けられている。ここで、前腕リンク部13はハンド部14の回転動作に伴って姿勢が変化する。したがって、荷重支持部60による干渉を防ぐために、姿勢変化に伴う荷重支持部60の移動範囲に、他の構造部材(例えばハンドリンク部16)がないようにする必要がある。この場合、屈曲軸22の長さを長くして2つのハンドリンク部16の間隔を大きくする等、手首関節部20のサイズを大きくする必要があり得る。一方、実施の形態1にかかるロボットハンド1においては、ハンド部14の回転動作に伴って姿勢が変化することがない手首関節部20に荷重支持部30が設けられている。したがって、実施の形態1においては、実施の形態3と比較して、手首関節部20のサイズを大きくしなくても、ハンド部14が回転したときに荷重支持部30が手首関節部の周りの構造部材と干渉することが防止される。言い換えると、実施の形態1にかかるロボットハンド1の方が、手首関節部20の大型化を抑制することができる。
また、前腕リンク部13aよりも手首関節部20の方が、回転中心Pに近い。したがって、図12の例(実施の形態3)よりも図4の例(実施の形態1)の方が、設計上、距離D4を距離D3よりも短くしやすい。したがって、実施の形態1にかかるロボットハンド1の方が、実施の形態3にかかるロボットハンド1よりも、設計の自由度が大きくなる。
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施の形態においては、手首関節部に内蔵された駆動部がモータである例について説明したが、駆動部はモータに限られない。例えば、駆動部は、油圧シリンダであってもよい。
また、上述した実施の形態においては、ロボットハンド1がマニピュレータに適用された例が示されているが、ロボットハンド1は、ヒューマノイドロボットのアームにも適用され得る。この場合、ハンド部14は、指部を有してもよい。また、この場合、接触部14aは、曲面を有してもよい。また、この場合、仮想平面40は、指部を含み曲面で形成された接触部14aに接する仮想的な平面である。
また、上述した実施の形態では、荷重支持部は湾曲部を有するとしたが、荷重支持部は、必ずしも湾曲部を有しなくてもよい。例えば、肩関節部6及び肘関節部10の関節角度によって、荷重支持部が物体90の表面90aに対し常に同じ角度(例えば垂直)で物体90に接触するような制御が可能である場合がある。この場合、その荷重支持部の物体90と接触する端部が平面で形成されれば、その平面で常に物体90と接触し得るので、接触面積が大きくなり、荷重Faによる荷重支持部における接触領域における面圧が低減される。つまり、荷重支持部に湾曲部を設けなくても、接触領域における面圧を低減することができる。一方、荷重支持部が湾曲部を有することにより、荷重支持部が物体90の表面90aに対してどのような角度で物体90と接触した場合でも、接触領域における面圧を低減することができる。
また、上述した実施の形態では、物体90の表面90aが平面である場合が例示されているが、表面90aは、平面であるとは限らない。この場合、接触部14aの全体が物体90の表面90aと接触する必要はない。つまり、このとき、荷重支持部が物体90と接触し、接触部14aの一部が物体90と接触した状態となる。この場合であっても、荷重支持部は前腕部12からの荷重Faを支持することができる。また、本実施の形態にかかる荷重支持部が弾性素材で形成されることによって、表面90aが平面でない場合であっても、表面90aの高低差がある程度吸収され得る。つまり、荷重支持部30に接触する表面90aの高さが、接触部14aに接触する表面90aの位置の高さよりも高い場合、表面90aが平面である場合(つまり高さが同じである場合)と比較して、荷重支持部30がより大きく圧縮変形する。これにより、接触部14aが表面90aに接触する面積を大きくすることができる。なお、荷重支持部30に接触する表面90aの高さが、接触部14aに接触する表面90aの位置の高さよりも低い場合は、接触部14aを弾性素材で形成することで、接触部14aが表面90aに接触する面積を大きくすることができる。つまり、本実施の形態においては、接触部14a及び荷重支持部30の接触状態を安定させることができる。
なお、ハンド部14の接触部14aが、表面90aが平面である物体90のみと接触する場合、ハンドリンク部16に荷重支持部を設けてもよい。しかしながら、このような構成とすると、ハンド部14に対する荷重支持部の自由度が0となってしまう。したがって、表面90aが平面でない場合に、接触部14aが表面90aと接触しても荷重支持部が表面90aに接触せず、荷重を支持できない可能性がある。また、このような構成とすると、ハンド部14の回転動作に伴って荷重支持部が他の構造部材(例えば前腕リンク部13)と干渉することを防止するため、荷重支持部の移動範囲に他の構造部材がないようにする必要がある。そのため、手首関節部の大きさを大きくする必要がある。
しかしながら、実施の形態1では、上述した構成のため、上記の問題は生じない。つまり、実施の形態1では、ハンド部14に対する荷重支持部の自由度が0ではないので、図13に示すように、表面90aが平面でない場合であっても、接触部14aが表面90aと接触したときに、荷重支持部30が表面90aと接触することができる。また、上述したように、実施の形態1では、荷重支持部30が手首関節部20に設けられているので、手首関節部20の大きさを大きくすることが抑制することが可能となる。