以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置では、加工対象物にレーザ光を集光することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
レーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成される。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
加工対象物1としては、半導体材料で形成された半導体基板や圧電材料で形成された圧電基板等を含む板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4、図5及び図6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面であってもよい。
ちなみに、加工対象物1の内部に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に、加工対象物1の内部に位置する集光点P近傍にて特に吸収される。これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。この場合、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一方、加工対象物1の表面3に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、表面3に位置する集光点P近傍にて特に吸収され、表面3から溶融され除去されて、穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)。
改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくとも何れか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域7としては、加工対象物1の材料において改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある。加工対象物1の材料が単結晶シリコンである場合、改質領域7は、高転位密度領域ともいえる。
溶融処理領域、屈折率変化領域、改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、及び、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域7と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域7の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1は、結晶構造を有する結晶材料からなる基板を含む。例えば加工対象物1は、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、LiTaO3、及び、サファイア(Al2O3)の少なくとも何れかで形成された基板を含む。換言すると、加工対象物1は、例えば、窒化ガリウム基板、シリコン基板、SiC基板、LiTaO3基板、又はサファイア基板を含む。結晶材料は、異方性結晶及び等方性結晶の何れであってもよい。また、加工対象物1は、非結晶構造(非晶質構造)を有する非結晶材料からなる基板を含んでいてもよく、例えばガラス基板を含んでいてもよい。
実施形態では、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することにより、改質領域7を形成することができる。この場合、複数の改質スポットが集まることによって改質領域7となる。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分である。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物1の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することができる。また、実施形態では、切断予定ライン5に沿って、改質スポットを改質領域7として形成することができる。
次に、スプラッシュに関する検証結果について説明する。なお、「シリコン基板を含む加工対象物を対象として、上述したようなレーザ加工を実施した場合に、レーザ光入射面とは反対側の加工対象物の表面に生じる損傷」を「スプラッシュ」と称する。
図7〜図10に示されるように、シリコン基板10の表面10aに金属膜11が形成されたものを加工対象物として準備した。金属膜11は、シリコン基板10の表面10aに下地として厚さ20μmのCr膜が形成され、そのCr膜上に厚さ50μmのAu膜が形成されることで、構成されている。
図7の(a)に示されるように、シリコン基板10の裏面10bをレーザ光入射面として、1064nmの波長を有するレーザ光L0をシリコン基板10の内部に集光させて、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L0の集光点Pを移動させることで、切断予定ライン5に沿ってシリコン基板10の内部に改質領域7を形成した。このとき、改質領域7の形成に伴って改質領域7からシリコン基板10の厚さ方向に伸展する亀裂F(すなわち、シリコン基板10に外力を作用させなくても、改質領域7の形成に伴って生じる亀裂F)がシリコン基板10の表面10aに到達するように、レーザ光L0の照射条件を調整した。この場合には、図7の(b)に示されるように、金属膜11にスプラッシュが生じなかった。
図8の(a)に示されるように、シリコン基板10の裏面10bをレーザ光入射面として、1342nmの波長を有するレーザ光L1をシリコン基板10の内部に集光させて、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の集光点Pを移動させることで、切断予定ライン5に沿ってシリコン基板10の内部に改質領域7を形成した。このとき、改質領域7から伸展する亀裂Fがシリコン基板10の表面10aに到達するように、レーザ光L1の照射条件を調整した。具体的には、波長が異なることを除いて、レーザ光L1の照射条件を、上述したレーザ光L0の照射条件と同一とした。この場合には、図8の(b)に示されるように、金属膜11にスプラッシュSが生じた。
図9の(a)に示されるように、シリコン基板10の裏面10bをレーザ光入射面として、1342nmの波長を有するレーザ光L1をシリコン基板10の内部に集光させて、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の集光点Pを移動させることで、切断予定ライン5に沿ってシリコン基板10の内部に改質領域7を形成した。このとき、改質領域7から伸展する亀裂Fがシリコン基板10の表面10aに到達せず、シリコン基板10の内部に収まるように、レーザ光L1の照射条件を調整した。具体的には、図8の場合よりもレーザ光L1のパルスエネルギーを小さくした。この場合には、図9の(b)に示されるように、金属膜11にスプラッシュが生じなかった。
図10の(a)に示されるように、シリコン基板10の裏面10bをレーザ光入射面として、1342nmの波長を有するレーザ光L1をシリコン基板10の内部に集光させて、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の集光点Pを移動させることで、切断予定ライン5に沿ってシリコン基板10の内部に第1改質領域7a及び第2改質領域7bを形成した。このとき、第1改質領域7aを形成しただけでは亀裂Fがシリコン基板10の表面10aに到達せず、第1改質領域7aに対してシリコン基板10の裏面10b側に第2改質領域7bを形成したときに亀裂Fがシリコン基板10の表面10aに到達するように、レーザ光L1の照射条件を調整した。この場合には、図10の(b)に示されるように、金属膜11にスプラッシュSが生じた。
図11は、図10の場合の条件でシリコン基板10の内部に第1改質領域7a及び第2改質領域7bを形成したときのシリコン基板10の写真を示す図である。より具体的には、図11の(a)は、切断後のシリコン基板10の切断予定ラインに平行な面の写真を示す図であり、図11の(b)は、切断後のシリコン基板10の表面10a側(金属膜11)の写真を示す図である。図11の(b)を参照すると、金属膜11において一点鎖線で囲まれた領域に、黒っぽい部分が存在することを確認することができる。これが、問題となるスプラッシュSである。
1342nmのように1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いると、1064nm以下の波長を有するレーザ光L0を用いる場合に比べ、改質領域7からシリコン基板10の厚さ方向に亀裂Fを大きく伸展させることができる。また、1342nmのように1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いると、1064nm以下の波長を有するレーザ光L0を用いる場合に比べ、シリコン基板10のレーザ光入射面から深い位置に改質領域7を形成することができる。これらは、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1のほうが、1064nm以下の波長を有するレーザ光L0よりも、シリコンに対して透過率が高いことに起因する。したがって、1本の切断予定ライン5に対するレーザ光Lのスキャン回数(すなわち、1本の切断予定ライン5に対する改質領域7の形成列数)を減少させて、加工効率を向上させる観点からは、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いることが望ましい。
しかし、上述した図8及び図10の場合のように、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いて亀裂Fをシリコン基板10の表面10aに到達させようとすると、金属膜11にスプラッシュSが生じてしまう。レーザ光入射面とは反対側のシリコン基板10の表面10aに機能素子(例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等)が形成されている場合にスプラッシュSが生じると、機能素子の特性が劣化するおそれがある。
したがって、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いて亀裂Fをシリコン基板10の表面10aに到達させる場合に、スプラッシュSの発生を抑制することができれば、技術的に大きな意義がある。
本発明者らは、シリコン基板10の表面10aにスプラッシュSが生じるのは、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いると、形成済みの改質領域7から大きく伸展した亀裂Fにレーザ光L1を集光させることになり、抜け光(レーザ光L1のうち改質領域7の形成に寄与せずにシリコン基板10の表面10a側に抜ける光)の影響が大きくなることに起因すると考えた。その知見から、本発明者らは、図10の場合において第2改質領域7bを形成する際に、レーザ光L1の集光点Pをオフセットさせれば、スプラッシュSの発生の原因となる抜け光の影響を小さくすることができると考え、以下の検証を行った。なお、第2改質領域7bを形成する際に、「第1改質領域7aを形成する際にレーザ光L1の集光点Pを合わせた位置に対して、シリコン基板10の厚さ方向及び切断予定ライン5の延在方向の両方向に垂直な方向(図10の(a)におけるシリコン基板10の断面に垂直な方向)にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせる」ことを単に「レーザ光L1の集光点Pをオフセットさせる」といい、「レーザ光L1の集光点Pをオフセットさせる距離」を「オフセット量」という。
まず、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に伸展する亀裂Fの方向について検証した。図12は、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせなかった場合のシリコン基板10の写真を示す図である。より具体的には、図12の(a)は、第1改質領域7a及び第2改質領域7b形成後のシリコン基板10の切断予定ラインに平行な面の写真を示す図であり、図12の(b)は、第1改質領域7a及び第2改質領域7b形成後のシリコン基板10の切断予定ラインに垂直な面の写真を示す図である。図12の(b)を参照すると、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせなかった場合には、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に真っ直ぐに(シリコン基板10の厚さ方向に沿って)亀裂Fが伸展することを確認することができる。
図13は、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた場合(オフセット量8μmの場合)のシリコン基板10の写真を示す図である。より具体的には、図13の(a)は、第1改質領域7a及び第2改質領域7b形成後のシリコン基板10の切断予定ラインに平行な面の写真を示す図であり、図13の(b)は、第1改質領域7a及び第2改質領域7b形成後のシリコン基板10の切断予定ラインに垂直な面の写真を示す図である。図13の(b)を参照すると、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた場合にも、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に真っ直ぐに(シリコン基板10の厚さ方向に沿って)亀裂Fが伸展することを確認することができる。
続いて、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に伸展する亀裂Fの長さについて検証した。図14は、オフセット量と亀裂Fの長さとの関係を示すグラフである。亀裂Fの長さは、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に伸展した亀裂Fの長さである。図14を参照すると、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせても、オフセットさせなくても(オフセット量0μmの場合でも)、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に伸展する亀裂Fの長さは変わらないことを確認することができる。
続いて、スプラッシュSの発生量について検証した。図15は、オフセット量とスプラッシュSの個数との関係を示すグラフである。スプラッシュSの個数は、切断予定ライン5から両側に20μm以上離れた領域において生じたスプラッシュSの個数(切断予定ライン5の長さ15mm当たりの個数)である。図15を参照すると、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせると、オフセットさせない場合(オフセット量0μmの場合)に比べ、スプラッシュSの個数が減少することを確認することができる。なお、切断予定ライン5から両側に20μm以上離れた領域において生じたスプラッシュSの個数をカウントしたのは、特にそのようなスプラッシュSが、シリコン基板10の表面10aに形成された機能素子の特性を劣化させる問題を引き起こすからである。切断予定ライン5の両側20μm以内の領域には、ダイシングストリート(隣り合う機能素子の間の領域)が設けられることが多いため、当該領域に生じるスプラッシュSが機能素子の特性を劣化させる問題を引き起こす可能性は低い。
図12〜図15の検証結果から、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせても、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に真っ直ぐに(シリコン基板10の厚さ方向に沿って)亀裂Fが伸展し、また、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に伸展する亀裂Fの長さが変わらないことが分かった。その一方で、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせると、スプラッシュSの個数が減少することが分かった。なお、図12〜図15の検証において、オフセット量以外のレーザ光の照射条件は同一である。
スプラッシュSの個数が減少することについての本発明者らの考察は、以下のとおりである。図16は、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた場合のシリコン基板10の写真を示す図である。より具体的には、図16の(a)は、切断後のシリコン基板10の切断予定ライン5に平行な面の写真を示す図であり、図16の(b)は、切断後のシリコン基板10の表面10a側(金属膜11)の写真を示す図である。図16の(a)を参照すると、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせたことで、形成済みの第1改質領域7a及び第2改質領域7bから伸展した亀裂Fにレーザ光L1が集光されることが抑制されて、第2改質領域7bが大きく形成されていることを確認することができる。つまり、第2改質領域7bの形成に寄与するレーザ光L1の割合が増加し、抜け光の割合が減少したと考えられる。図16の(b)を参照すると、スプラッシュSが生じていないことを確認することができる。
その一方で、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせなかった場合のシリコン基板10の写真を示す図11の(a)を参照すると、第2改質領域7bが小さく形成されていることを確認することができる。これは、形成済みの第1改質領域7a及び第2改質領域7bから伸展した亀裂Fにレーザ光L1が集光されて、抜け光が多くなっていることに起因すると考えられる。なお、図11及び図16の検証において、オフセット量以外のレーザ光の照射条件は同一である。
図17は、切断後のシリコン基板10の表面10a側(金属膜11)の写真を示す図である。より具体的には、図17の(a)は、オフセット量2μmの場合であり、図17の(b)は、オフセット量4μmの場合であり、図17の(c)は、オフセット量6μmの場合である。各場合において、オフセット量以外のレーザ光の照射条件は同一である。図17の(a)及び(b)を参照すると、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた側とは反対側にスプラッシュSが生じていること、及び、オフセット量を大きくするほどスプラッシュSが切断予定ライン5から離れていることを確認することができる。また、図17の(a),(b)及び(c)を参照すると、オフセット量を大きくするほどスプラッシュSの発生領域が減少していることを確認することができる。なお、図17の(a)及び(b)の場合でも、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせなかった場合に比べれば、スプラッシュSの発生領域は減少している。
図17の(a),(b)及び(c)の結果が得られた理由は、次のように考えられる。図18の(a)は、オフセット量が小さい場合におけるシリコン基板10の切断予定ライン5に垂直な面を示す図であり、図18の(b)は、オフセット量が大きい場合におけるシリコン基板10の切断予定ライン5に垂直な面を示す図である。なお、「第1改質領域7aを形成する際のレーザ光L1の集光点P」を「第1集光点P1といい、「第2改質領域7bを形成する際のレーザ光L1の集光点P」を「第2集光点P2」という。
図18の(a)に示されるように、オフセット量が小さい場合には、形成済みの第1改質領域7a及び第2改質領域7bから伸展した亀裂Fのうち、レーザ光L1の第2集光点P2が合わせられる部分F1が、シリコン基板10の厚さ方向Dに対して小さい角度で傾斜している。そのため、当該部分F1に対するレーザ光L1の入射角θが大きくなる。したがって、レーザ光L1のうち第2改質領域7bの形成に寄与しなかった抜け光L2は、シリコン基板10の厚さ方向Dに対して小さい角度で、レーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた側とは反対側に進行する。これにより、シリコン基板10の表面10aに到達する抜け光L2の光路長が短くなり、シリコン基板10内での抜け光L2の吸収量及び散乱度合いが小さくなる。なお、「小さい」、「大きい」、「短い」等は、図18の(b)の場合との比較で用いている。
その一方で、図18の(b)に示されるように、オフセット量が大きい場合には、形成済みの第1改質領域7a及び第2改質領域7bから伸展した亀裂Fのうち、レーザ光L1の第2集光点P2が合わせられる部分F1が、シリコン基板10の厚さ方向Dに対して大きい角度で傾斜している。そのため、当該部分F1に対するレーザ光L1の入射角θが小さくなる。したがって、レーザ光L1のうち第2改質領域7bの形成に寄与しなかった抜け光L2は、シリコン基板10の厚さ方向Dに対して大きい角度で、レーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた側とは反対側に進行する。これにより、シリコン基板10の表面10aに到達する抜け光L2の光路長が長くなり、シリコン基板10内での抜け光L2の吸収量及び散乱度合いが大きくなる。なお、「大きい」、「小さい」、「長い」等は、図18の(a)の場合との比較で用いている。
以上の図18の考察から、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の集光点Pをオフセットさせた側とは反対側にスプラッシュSが生じ、オフセット量を大きくするほどスプラッシュSが切断予定ライン5から離れ、オフセット量を大きくするほどスプラッシュSの発生領域が減少すると考えられる。
次に、実施形態のレーザ加工方法を用いた半導体チップの製造方法について説明する。まず、図19に示されるように、表面10aに機能素子層15が形成されたシリコン基板10を含む加工対象物1を準備し、リング状の保持部材20に保持された保護フィルム22に加工対象物1の機能素子層15側を貼り付ける。機能素子層15は、マトリックス状に配置された複数の機能素子を含んでいる。
続いて、隣り合う機能素子の間を通るように格子状に設定された切断予定ライン5のそれぞれに沿って、第1改質領域7aを形成する。より具体的には、シリコン基板10の裏面10bをレーザ光入射面として、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1をシリコン基板10に集光させて、シリコン基板10の表面10aとレーザ光Lの第1集光点P1との距離を第1距離に維持しつつ、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の第1集光点P1を移動させることで、切断予定ライン5に沿って第1改質領域7aを形成する(第1工程)。このとき、切断予定ライン5に対して、シリコン基板10の厚さ方向及び切断予定ライン5の延在方向の両方向に垂直な方向にレーザ光L1の第1集光点P1をオフセットさせる距離を0に維持しつつ、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の第1集光点P1を移動させる。つまり、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合にレーザ光Lの第1集光点P1が切断予定ライン5上に位置した状態を維持しつつ、切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lの第1集光点P1を移動させる。これにより、第1改質領域7aは、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合に切断予定ライン5上に位置した状態で、切断予定ライン5に沿ってシリコン基板10の内部に形成される。
続いて、隣り合う機能素子の間を通るように格子状に設定された切断予定ライン5のそれぞれに沿って、第2改質領域7bを形成する。より具体的には、シリコン基板10の裏面10bをレーザ光入射面として、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1をシリコン基板10に集光させて、シリコン基板10の表面10aとレーザ光L1の第2集光点P2との距離を第1距離よりも大きい第2距離に維持しつつ、且つ、レーザ光L1の第2集光点P2をオフセットさせつつ、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の第2集光点P2を移動させることで、切断予定ライン5に沿って第2改質領域7bを形成する(第2工程)。つまり、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合にレーザ光Lの第2集光点P2が切断予定ライン5から所定距離だけ離れた状態を維持しつつ、切断予定ライン5に沿って(切断予定ライン5に平行に)レーザ光Lの第2集光点P2を移動させる。これにより、第2改質領域7bは、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合に切断予定ライン5から所定距離だけ離れた状態で、切断予定ライン5に沿って(切断予定ライン5に平行に)シリコン基板10の内部に形成される。
これにより、第1改質領域7a及び第2改質領域7bからシリコン基板10の厚さ方向に伸展した亀裂Fがシリコン基板10の表面10aに到達し、機能素子層15が機能素子ごとに切断される。なお、一例として、シリコン基板10の厚さは、775μmであり、第1改質領域7a及び第2改質領域7bは、シリコン基板10の表面10aから深さ160μmまでの領域に形成される。
以上の第1工程及び第2工程は、上述したレーザ加工装置100によって実施される。すなわち、支持台107が加工対象物1を支持する。レーザ光源101が、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を出射する。集光用レンズ(集光光学系)105が、シリコン基板10の裏面10bがレーザ光入射面となるように支持台107に支持された加工対象物1に、レーザ光源101から出射されたレーザ光L1を集光する。そして、ステージ制御部(制御部)115及びレーザ光源制御部(制御部)102が、上述した第1工程及び第2工程が実施されるように、それぞれ、支持台107及びレーザ光源101の動作を制御する。なお、切断予定ライン5に対するレーザ光Lの第1集光点P1及び第2集光点P2の移動は、集光用レンズ105側の動作によって実現されてもよいし、支持台107側及び集光用レンズ105側の両方の動作によって実現されてもよい。
続いて、図20に示されるように、シリコン基板10の裏面10bを研磨することにより、加工対象物1を所定の厚さに薄型化する。これにより、第1改質領域7a及び第2改質領域7bからシリコン基板10の厚さ方向に伸展した亀裂Fがシリコン基板10の裏面10bに到達し、加工対象物1が機能素子ごとに切断される。なお、一例として、シリコン基板10は、厚さ200μmに薄型化される。
続いて、図21に示されるように、拡張フィルム23をシリコン基板10の裏面10b及び保持部材20に貼り付ける。続いて、図22に示されるように、保護フィルム22を除去する。続いて、図23に示されるように、拡張フィルム23に押圧部材24を押し当てることで、機能素子15aごとに切断された加工対象物1、すなわち、複数の半導体チップ1Aを互いに離間させる。続いて、図24に示されるように、拡張フィルム23に紫外線を照射することで拡張フィルム23の粘着力を低下させ、各半導体チップ1Aをピックアップする。
なお、シリコン基板10の裏面10bを研磨する際には、図25に示されるように、第1改質領域7a及び第2改質領域7bが残るようにシリコン基板10の裏面10bを研磨してもよいし、図26に示されるように、第1改質領域7aが残り第2改質領域7bが残らないようにシリコン基板10の裏面10bを研磨してもよいし、図27に示されるように、第1改質領域7a及び第2改質領域7bが残らないようにシリコン基板10の裏面10bを研磨してもよい。
以上説明したように、実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工装置100では、1064nmよりも大きい波長を有するレーザ光L1を用いる。これにより、1064nm以下の波長を有するレーザ光L0を用いる場合に比べ、第1改質領域7a及び第2改質領域7bの形成に伴って第1改質領域7a及び第2改質領域7bからシリコン基板10の厚さ方向に亀裂Fを大きく伸展させることができる。更に、第2改質領域7bを形成する際にはレーザ光L1の第2集光点P2をオフセットさせる。これにより、レーザ光入射面とは反対側の加工対象物1の表面10aにスプラッシュSが生じるのを抑制することができる。よって、実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工装置100によれば、スプラッシュSが生じるのを抑制しつつ、加工効率を向上させることができる。
なお、1099μm以上1342μm以下の波長を有するレーザ光L1を用いると、第1改質領域7a及び第2改質領域7bの形成に伴って第1改質領域7a及び第2改質領域7bからシリコン基板10の厚さ方向に亀裂Fをより大きく伸展させることができる。特に1342μmの波長を有するレーザ光L1は、当該亀裂Fをより大きく伸展させることができる。
また、第2改質領域7bを形成する際にレーザ光L1の第2集光点P2をオフセットさせるオフセット量を24μm以下にすると、第1改質領域7aと第2改質領域7bとの間で亀裂Fを確実に繋げて、第1改質領域7a及び第2改質領域7bの形成に伴って第1改質領域7a及び第2改質領域7bからシリコン基板10の厚さ方向に亀裂Fを確実に伸展させることができる。更に、当該オフセット量を4μm以上18μm以下にすると、第1改質領域7aと第2改質領域7bとの間で亀裂Fをより確実に繋げて、第1改質領域7a及び第2改質領域7bからシリコン基板10の厚さ方向に亀裂Fをより確実に伸展させることができる。特に当該オフセット量を6μm以上16μm以下にすると、スプラッシュSの発生の抑制と亀裂Fの繋がり及び伸展とをバランス良く実現することができる。
また、実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工装置100では、第1改質領域7aを形成する際に、切断予定ライン5に対して、シリコン基板10の厚さ方向及び切断予定ライン5の延在方向の両方向に垂直な方向にレーザ光L1の第1集光点P1をオフセットさせる距離を0に維持しつつ、切断予定ライン5に沿ってレーザ光L1の第1集光点P1を移動させる。これにより、第1改質領域7aからシリコン基板10の表面10a側に伸展する亀裂Fを切断予定ライン5上に合わせることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
例えば、第1改質領域7aを形成する際に、切断予定ライン5に対して、シリコン基板10の厚さ方向及び切断予定ライン5の延在方向の両方向に垂直な方向における一方の側にレーザ光L1の第1集光点P1をオフセットさせ、第2改質領域7bを形成する際に、切断予定ライン5に対して、シリコン基板10の厚さ方向及び切断予定ライン5の延在方向の両方向に垂直な方向における他方の側にレーザ光L1の第2集光点P2をオフセットさせてもよい。つまり、第1改質領域7aを形成する際に、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合にレーザ光Lの第1集光点P1が切断予定ライン5から一方の側に所定距離だけ離れた状態を維持しつつ、切断予定ライン5に沿って(切断予定ライン5に平行に)レーザ光Lの第1集光点P1を移動させ、第2改質領域7bを形成する際に、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合にレーザ光Lの第2集光点P2が切断予定ライン5から他方の側に所定距離だけ離れた状態を維持しつつ、切断予定ライン5に沿って(切断予定ライン5に平行に)レーザ光Lの第2集光点P2を移動させてもよい。これにより、第1改質領域7aは、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合に切断予定ライン5から一方の側に所定距離だけ離れた状態で、切断予定ライン5に沿って(切断予定ライン5に平行に)シリコン基板10の内部に形成され、第2改質領域7bは、シリコン基板10の厚さ方向から見た場合に切断予定ライン5から他方の側に所定距離だけ離れた状態で、切断予定ライン5に沿って(切断予定ライン5に平行に)シリコン基板10の内部に形成される。この場合、切断予定ライン5に対して一方の側及び他方の側に第1改質領域7a及び第2改質領域7bをバランス良く形成することができる。
また、本発明は、格子状に設定された全ての切断予定ライン5に対して第1改質領域7aの形成工程(第1工程)を実施し、その後に、格子状に設定された全ての切断予定ライン5に対して第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施する例に限定されない。その他の例として、次のように第1改質領域7aの形成工程(第1工程)及び第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施してもよい。まず、格子状に設定された全ての切断予定ライン5のうち第1方向に延在する切断予定ライン5に対して第1改質領域7aの形成工程(第1工程)を実施し、その後に、当該第1方向に延在する切断予定ライン5に対して第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施する。続いて、格子状に設定された全ての切断予定ライン5のうち第2方向(第1方向に垂直な方向)に延在する切断予定ライン5に対して第1改質領域7aの形成工程(第1工程)を実施し、その後に、当該第2方向に延在する切断予定ライン5に対して第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施する。また、複数本の切断予定ライン5に対して、1本の切断予定ライン5ごとに、第1改質領域7aの形成工程(第1工程)を実施し、その後に、第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施してもよい。つまり、1本の切断予定ライン5に対して第1改質領域7aの形成工程(第1工程)及び第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施し、続いて、他の1本の切断予定ライン5に対して第1改質領域7aの形成工程(第1工程)及び第2改質領域7bの形成工程(第2工程)を実施してもよい。
また、第1改質領域7aの形成工程(第1工程)及び第2改質領域7bの形成工程(第2工程)の後に、シリコン基板10の裏面10bを研磨しなくてもよい。1本の切断予定ライン5当たりに形成される改質領域7の列数に対して加工対象物1の厚さが相対的に小さい場合、或いは、加工対象物1の厚さに対して1本の切断予定ライン5当たりに形成される改質領域7の列数が相対的に多い場合等には、シリコン基板10の裏面10bを研磨しなくても、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断できることがある。