以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る計測システムの構成例を示した図である。図1に示すように、計測システムは、計測装置1と、加速度センサー2とを有している。また、図1には、橋梁4が示してある。
橋梁4は、橋梁4の中央部(略中央を含む)に位置する橋脚4aと、両端に位置する2つの橋台4b,4cと、橋台4bから橋脚4aまでの上を渡される床版4dと、橋台4cから橋脚4aまでの上を渡される床版4eとを有している。橋脚4aと橋台4b,4cはそれぞれ、地盤に施設された基礎(図示せず)の上に固定される。
加速度センサー2は、構造物が橋梁4の場合、橋梁4の床版4dに設けられるのが好ましい。ここで、床版4dは移動体が移動する面を構成する部分のことをいう。加速度センサー2は、例えば、床版4dの側面に設置される。加速度センサー2は、車両5(本発明の移動体に相当する)の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度を計測し、その加速度データを出力する。計測装置1と加速度センサー2は、通信ネットワーク3を介して通信可能に接続されており、加速度センサー2は、計測した加速度データを、通信ネットワーク3を介して、計測装置1に送信する。加速度センサー2には、加速度および角速度を出力する慣性センサーも含まれる。以下では、加速度センサー2から出力される加速度データを単に加速度と表現する場合がある。
なお、加速度センサー2は、例えば無線通信インターフェイスを有し、あるいは無線通信インターフェイスに接続され、当該無線通信インターフェイスを介して通信ネットワーク3に接続される。
計測装置1は、加速度センサー2から送信された加速度を受信する。計測装置1は、加速度センサー2から送信された加速度に基づいて、床版4d上の車両5の通過を検出する。すなわち、計測装置1は、床版4d上を、車両5が通過したか否か検出する。以下では、床版4d上の車両5の通過を「イベント」と呼ぶ。
計測装置1は、イベントを検出すると、床版4dを通過した車両5の運動を解析する。例えば、計測装置1は、床版4dを通過した車両5の通過時間、床版4d上での停止、進路変更、および進入方向等を解析する。
このように、計測装置1は、加速度センサー2から得られる加速度に基づいて、イベントを検出し、車両5の運動を解析する。これにより、計測装置1は、多種のセンサーを用いて、車両5の運動を解析しなくて済み、コスト低減を図ることができる。また、計測装置1は、少なくとも1個の加速度センサー2から、車両5の運動を解析でき、センサーの床版4dへの設置の手間が低減される。
図2は、加速度センサー2の設置方法の一例を説明する図である。図2には、図1に示した床版4d,4eの斜視図が示してある。
図2には、図1に図示していない主桁4f〜4iが示してある。主桁4f〜4iは、橋脚4aと橋台4b,4cの上部に掛けられ、床版4d,4eは、主桁4f〜4iの上部に設置される。以下では、説明を分かり易くするため、床版4dの路面は水平であるものとし、路面の垂直方向は鉛直方向に一致するものとする。
加速度センサー2は、平面視で略4辺形である構造物に設けられた移動体の移動方向規制手段の規制方向に略平行な辺(端部)の中央部に設けられている。例えば、加速度センサー2は、床版4dに設けられている、車両5の移動方向規制手段(例えば、車線や縁石、欄干等)の規制方向と平行(略平行を含む)な側面4da(本発明の端部に相当する)の、規制方向の中央部(略中央部を含む)に取り付けられる。加速度センサー2は、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を計測可能である。加速度センサー2は、例えば、3つの検出軸(x軸、y軸、z軸)のうち、1軸(例えばx軸)を床版4dの路面の垂直方向に合わせ、他の1軸(例えばz軸)を床版4dの路面の幅員方向に合わせて、床版4dの側面4daに設置される。加速度センサー2は、例えば設定されたサンプリング周波数で3軸の加速度を検知し、検知した加速度データを、通信ネットワーク3を介して計測装置1に送信する。
図3は、床版4dの変形の仕方の一例を説明する図である。図3には、図2の床版4dの、加速度センサー2の部分で切断した斜視図が示してある。
図3に示すように、床版4dは、その上を車両5が通過した場合、車両5の荷重Lにより、下方向に撓むように変形する。加速度センサー2の取り付け位置2Pは、橋脚4aと橋台4bから最も離れた位置であるため、床版4dの垂直方向の位置(x軸上の位置)の変化が他の位置と比べて大きく現れやすい。また、加速度センサー2の取り付け位置2Pは、床版4dの側面4daであるため、床版4dの水平方向に対する傾き(z軸の傾き)が、他の位置と比べて大きく現れやすい。従って、加速度センサー2は、床版4dの取り付け位置2Pに取り付けられると、車両5の通過によって生じる、床版4dの垂直方向の加速度や幅員方向の加速度を明瞭に検出できる。
図4は、計測装置1の機能ブロックの構成例を示した図である。図4に示すように、計測装置1は、制御部11と、通信部12と、記憶部13と、表示部(本発明の出力部に相当する)14と、操作部15とを有している。
制御部11は、以下で詳述するが、イベントを検出する。制御部11は、イベントを検出すると、床版4d上を通過した車両5の運動を解析する。
通信部12は、通信ネットワーク3を介して、加速度センサー2から、加速度を受信する。通信部12は、加速度センサー2から受信した加速度を制御部11に出力する。
記憶部13は、制御部11が計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部13は、制御部11が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。各種のプログラムやデータ等は、あらかじめ不揮発性の記録媒体に記憶されていてもよいし、制御部11が通信ネットワーク3を介してサーバーから受信して記憶部13に記憶させてもよい。記憶部13は、例えば、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の各種IC(Integrated Circuit)メモリーやハードディスク、メモリーカードなどの記録媒体等により構成される。
表示部14は、制御部11の制御結果等を表示装置に出力する。
操作部15は、ユーザーからの操作データを取得し、制御部11に送る処理を行う。
制御部11は、取得部21と、イベント検出部22と、固有共振遮断フィルター部23と、変位算出部24と、車両成分遮断フィルター部25と、解析部26とを有している。制御部11の各部は、例えば、記憶部13に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)によって、その機能が実現される。なお、制御部11の各部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのカスタムIC(Integrated Circuit)でその機能を実現してもよいし、CPUとASICとによって、その機能を実現してもよい。
取得部21は、通信部12によって受信された加速度センサー2の加速度を取得する。取得部21によって取得された加速度には、少なくとも垂直方向加速度(x軸方向加速度)と、幅員方向加速度(z軸方向加速度)とが含まれている。垂直方向加速度と幅員方向加速度は、制御部11の各部に出力され、所定の処理が行われる。
図5は、取得部21によって取得された垂直方向加速度および幅員方向加速度とそれに基づいて行われる処理との関係を説明する図である。図5のブロックBL1に示すように、取得部21によって取得された垂直方向加速度avは、その包絡線が算出される。垂直方向加速度avの包絡線は、ブロックBL2に示すようにイベント検出に用いられる。ブロックBL1に示す包絡線算出と、ブロックBL2に示すイベント検出は、後述するイベント検出部22によって行われる。
ブロックBL11に示すように、取得部21によって取得された垂直方向加速度avは、高周波成分が抑制される。高周波成分が抑制された垂直方向加速度avは、ブロックBL12に示すように、変位(床版4dの垂直方向の変位)算出に用いられる。垂直方向変位は、例えば、垂直方向加速度avを2回積分することによって算出される。ブロックBL11に示す垂直方向加速度avの高周波成分の抑制は、後述する固有共振遮断フィルター部23によって行われ、ブロックBL12に示す変位算出は、後述する変位算出部24によって行われる。
ブロックBL13に示すように、取得部21によって取得された幅員方向加速度awは、高周波成分が抑制される。ブロックBL13に示す幅員方向加速度awの高周波成分の抑制は、後述する固有共振遮断フィルター部23によって行われる。
ブロックBL14に示すように、取得部21によって取得された幅員方向加速度awは、低周波成分が抑制される。ブロックBL14に示す幅員方向加速度awの低周波成分の抑制は、後述する車両成分遮断フィルター部25によって行われる。
ブロックBL20に示すように、高周波成分が抑制された垂直方向加速度avから算出された垂直方向変位(BL12)と、高周波成分が抑制された幅員方向加速度aw(BL13)と、低周波成分が抑制された幅員方向加速度aw(BL14)は、車両5の運動解析に用いられる。車両5の運動解析は、ブロックBL2によってイベントが検出されると行われる。
車両5の運動解析には、車両5が床版4dに進入して退出する通過時間算出、車両5の床版4d上での停止判定、車両5の床版4d上での進路変更判定、および車両5の床版4dへの進入方向判定がある。ブロックBL20に示す車両5の運動解析は、後述する解析部26によって行われる。
ブロックBL21に示すように、ブロックBL12で算出された床版4dの垂直方向変位は、車両5の床版4d上の通過時間算出に用いられる。ブロックBL21に示す通過時間算出は、後述する通過時間算出部31によって行われる。
ブロックBL22に示すように、ブロックBL12で算出された床版4dの垂直方向変位と、ブロックBL13で高周波成分が抑制された幅員方向加速度awは、車両5の停止判定に用いられる。ブロックBL22に示す車両5の停止判定は、後述する停止判定部32によって行われる。
ブロックBL23に示すように、ブロックBL13で高周波成分が抑制された幅員方向加速度awは、車両5の進路変更判定に用いられる。ブロックBL23に示す車両5の進路変更判定は、後述する進路変更判定部33によって行われる。
ブロックBL24に示すように、ブロックBL13で高周波成分が抑制された幅員方向加速度awと、ブロックBL14で低周波成分が抑制された幅員方向加速度awは、車両5の進入方向判定に用いられる。ブロックBL24に示す車両5の進入方向判定は、後述する進入方向判定部34によって行われる。
図4の説明に戻る。イベント検出部22には、取得部21が取得した垂直方向加速度が入力される(図5のブロックBL1を参照)。イベント検出部22は、入力された垂直方向加速度の絶対値を算出し、算出した絶対値の包絡線(信号)を算出する。
図6は、包絡線の例を示した図である。図6に示すグラフG1の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。
グラフG1に示す波形W1aは、イベント検出部22に入力されるオフセットの除去された垂直方向加速度を示している。点線で示す波形W1bは、イベント検出部22によって絶対値計算がされた垂直方向加速度を示している。すなわち、波形W1bは、波形W1aの負の部分を正にしたものである。波形W1cは、イベント検出部22によって算出された包絡線を示している。
イベント検出部22には、固有共振遮断フィルター部23および車両成分遮断フィルター部25を介さずに、取得部21が取得した垂直方向加速度が入力され、イベント検出部22は、その垂直方向加速度の包絡線を算出する。
イベント検出部22は、算出した包絡線の振幅が所定の閾値を超えているか否か判定する。イベント検出部22は、算出した包絡線の振幅が所定の閾値を超えている場合に、イベントを検出する(図5のブロックBL2を参照)。
図4の説明に戻る。固有共振遮断フィルター部23には、取得部21が取得した垂直方向加速度と、幅員方向加速度とが入力される(図5のブロックBL11,BL13を参照)。固有共振遮断フィルター部23は、入力された垂直方向加速度と幅員方向加速度とに含まれている、床版4dの固有共振周波数を抑制する。
図7は、車両5が床版4dを通過したときの加速度の周波数特性の例を示した図である。図7に示すグラフG2の横軸は周波数を示し、縦軸はパワースペクトル密度を示す。加速度の周波数特性を測定した床版4dの長さは「30m」である。
グラフG2に示す波形W2aは、床版4dの側面4daに取り付けられた加速度センサー2の、x軸方向(図2参照)の加速度の周波数特性を示している。波形W2bは、加速度センサー2のy軸方向の加速度の周波数特性を示している。波形W2cは、加速度センサー2のz軸方向の加速度の周波数特性を示している。
グラフG2に示すように、各軸の加速度は、「5Hzから30Hz」辺りにピークを有している。この「10Hz」辺りのいくつかのピークは、床版4dの固有共振によるものと考えられる。
グラフG2に示す「0.1Hz〜1Hz」の加速度は、床版4dを通過し得る車両5の速度を「3m/s〜17m/s」と仮定し、その速度の車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度とする。例えば、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による振動周期(下方に撓んで元の位置に戻ってくる時間)は、床版4dを通過する車両5の速度を「3m/s〜17m/s」とすると、概ねその車両5の通過時間と同じ「10s〜1.8s」(0.1Hz〜0.6Hz)になると考えられるためである。
「0.1Hz」より低い周波数成分は、温度や風等の環境による床版4dの長周期的変変動や、地表の常微動(環境振動)、またはセンサーの1/f揺らぎノイズ等によるものと考えられる。
以上より、床版4dの加速度の周波数特性は、一般的に、床版4dの固有共振周波数を含む高域部分と、車両5の通過によって生じる加速度の周波数分を含む低域部分とに分けられる。例えば、グラフG2に示す加速度の周波数特性では、少なくとも「1Hz」より大きい周波数において、床版4dの固有共振周波数が含まれ、「1Hz」以下の周波数において、車両5の通過による、床版4dの変形による加速度の周波数成分が含まれている。
なお、床版4dの固有共振周波数は、橋梁4の構造や材質等によって異なる。また、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度の周波数成分は、床版4dの長さおよび床版4dを通過する車両5の仮定する速度によって異なる。
以下で説明するように、解析部26は、床版4d上における車両5の運動を解析する。従って、垂直方向加速度および幅員方向加速度に含まれる、床版4dの固有共振周波数成分は、車両5の運動を解析するのに不要な情報である(後述するが、進入方向判定では、固有共振周波数成分も用いる(図5のBL14))。そこで、固有共振遮断フィルター部23は、垂直方向加速度および幅員方向加速度に含まれる、床版4dの固有共振周波数成分を抑制する。
上記したように、床版4dの加速度の周波数特性は、一般的に、床版4dの固有共振周波数を含む高域部分と、車両5の通過によって生じる加速度の周波数分を含む低域部分とに分けられる。従って、固有共振遮断フィルター部23は、例えば、LPF(Low pass Filter)で構成する。LPFのカットオフ周波数は、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度周波数より大きくし、床版4dの固有共振周波数より小さくする。例えば、図7のグラフG2に示す周波数特性の例の場合、カットオフ周波数は、「1Hz」にする。これにより、固有共振遮断フィルター部23を通過する垂直方向加速度および幅員方向加速度は、床版4dの固有共振周波数成分が遮断され、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度の周波数成分が通過する。
なお、固有共振遮断フィルター部23は、加速度の波形が持つ情報が失われないよう、ベッセルフィルターで構成するのが望ましい。
また、床版4dの固有共振周波数は、上記したように、橋梁4の種類や構造によって異なり、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度の周波数に近いところに現れる場合がある。例えば、図7のグラフG2において、3Hz周辺に固有共振周波数が現れる場合がある。この場合、固有共振周波数が十分に抑制されるよう、フィルターのカットオフ周波数を下げたり、フィルター次数を大きくしたりする。
図4の説明に戻る。変位算出部24には、固有共振遮断フィルター部23によって、床版4dの固有共振周波数成分が抑制された垂直方向加速度が入力される(図5のブロックBL12を参照)。変位算出部24は、入力された垂直方向加速度から、床版4dの垂直方向変位(x軸方向変位)を算出する。例えば、変位算出部24は、垂直方向加速度を2回積分して、床版4dの垂直方向変位を算出する。
車両成分遮断フィルター部25には、取得部21によって取得された幅員方向加速度が入力される(図5のブロックBL14を参照)。車両成分遮断フィルター部25は、入力された幅員方向加速度に含まれる、車両5の通過によって発生した床版4dの加速度成分を抑制する。
上記したように、床版4dの加速度の周波数特性は、一般的に、床版4dの固有共振周波数を含む高域部分と、車両5の通過によって生じる床版の変形成分を含む低域部分とに分けられる。従って、車両成分遮断フィルター部25は、例えば、HPF(High pass Filter)で構成する。HPFのカットオフ周波数は、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度周波数より大きくし、床版4dの固有共振周波数より小さくする。例えば、図7のグラフG2に示す周波数特性の例の場合、カットオフ周波数は、「1Hz」にする。これにより、車両成分遮断フィルター部25を通過する幅員方向加速度は、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度の周波数成分が遮断され、床版4dの固有共振周波数成分が通過する。
なお、車両成分遮断フィルター部25は、幅員方向加速度の波形が持つ情報が失われないよう、ベッセルフィルターで構成するのが望ましい。
また、床版4dの固有共振周波数は、上記したように、橋梁4の種類や構造によって異なり、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度の周波数に近いところに現れる場合がある。例えば、図7のグラフG2において、1〜10Hzの間に固有共振周波数が現れる場合がある。この場合、車両5の通過によって生じる、床版4dの変形による加速度周波数成分が十分に抑制されるよう、フィルターカットオフ周波数を下げたりフィルター次数を大きくしたりする。
解析部26は、イベント検出部22によって、イベントが検出されると、垂直方向加速度から算出される垂直方向変位と、幅員方向加速度との少なくとも一方に基づいて、床版4d上を移動する車両5の運動を解析する(図5のブロックBL20を参照)。解析部26は、図4に示すように、通過時間算出部31と、停止判定部32と、進路変更判定部33と、進入方向判定部34とを有している。
解析部26の各部を説明する前に、車両5の通過によって発生する、床版4dの幅員方向加速度および垂直方向変位について説明する。
図8は、車両5の通過によって発生する床版4dの幅員方向加速度および垂直方向変位を説明する図のその1である。
図8には、図2に示した床版4dと、主桁4f〜4iとの断面が示してある。また、図8には、床版4dに取り付けられた加速度センサー2が示してある。
図8に示す一点鎖線のモデルM1は、車両5が床版4d上を通過していないときの床版4dの位置を示している。実線のモデルM2は、車両5が床版4d上の矢印A1aに示す車線を通過(例えば、紙面奥側から紙面手前側に向かって走行)したときの床版4dの位置を示している。
車両5が、床版4d上の矢印A1aに示す車線を走行すると、床版4dは、車両5の荷重によって、モデルM2に示すように、図中右側の端が左側の端より鉛直下方に傾く。そのため、床版4dに取り付けられた加速度センサー2のz軸は、点線矢印A1bに示すように、水平方向から、下方に傾く。幅員方向加速度は、床版4dの幅員方向の傾きによる重力加速度の成分である。
図9は、車両5の通過によって発生する床版4dの幅員方向加速度および垂直方向変位を説明する図のその2である。図9において、図8と同じものには、同じ符号が付してある。図9に示す実線のモデルM3は、車両5が床版4d上の矢印A2aに示す車線を通過(例えば、紙面手前側から紙面億側に向かって走行)したときの床版4dの位置を示している。
車両5が、床版4d上の矢印A2aに示す車線を走行すると、床版4dは、車両5の荷重によって、モデルM3に示すように、左側の端が右側の端より鉛直下方に傾く。そのため、床版4dに取り付けられた加速度センサー2のz軸は、点線矢印A2bに示すように、水平方向から、上方に傾く。
加速度センサー2のz軸は、図8の点線矢印A1bおよび図9の点線矢印A2bに示すように、床版4d上を走行する車両5の位置によって、水平方向に対し、下方および上方を向く。すなわち、加速度センサー2から出力される幅員方向加速度は、床版4d上を走行する車両5の位置(走行車線)によって、符号が変わる。例えば、図8の矢印A1aに示す車線を、車両5が走行した場合、加速度センサー2から出力される幅員方向加速度の符号は、負となる。一方、図9の矢印A2aに示す車線を、車両5が走行した場合、加速度センサー2から出力される幅員方向加速度の符号は、正となる。
また、加速度センサー2のz軸は、床版4d上を通過する車両5の車重によって、水平方向に対する傾きの角度が変わる。例えば、図8において、矢印A1aに示す車線を走行する車両5の車重が重いほど、水平方向に対して下方に傾いた点線矢印A1bの角度は大きくなる。また、図9において、矢印A2aに示す車線を走行する車両5の車重が重いほど、水平方向に対して上方に傾いた点線矢印A1bの角度は大きくなる。
車両5が床版4d上を通過したときの、床版4dの垂直方向変位は、正負のどちらか一方の符号をとる。例えば、車両5が床版4d上を通過すると、床版4dは、図8の矢印A1cおよび図9の矢印A2cに示すように、車両5の走行車線に関わらず下方に撓む。従って、例えば、鉛直上向きを正とすると、垂直方向変位は、負の値をとる。
また、垂直方向変位の大きさは、車両5の車重に比例する。例えば、車両5の車重が重いほど、床版4dの下方の撓みは大きくなり、垂直方向変位は大きくなる。
解析部26の各部について説明する。まず、通過時間算出部31について説明する。通過時間算出部31には、変位算出部24によって算出された床版4dの垂直方向変位が入力される(図5のブロックBL21を参照)。通過時間算出部31は、入力された垂直方向変位に基づいて、床版4dを通過する車両5の通過時間を算出する。
図10は、車両5の通過時間を説明する図のその1である。図10に示すグラフG3の横軸は時間を示し、縦軸は変位を示す。グラフG3の波形W3は、イベントによって発生した床版4dの垂直方向変位を示している。
車両5が、床版4dに進入し、中央部(加速度センサー2が取り付けられている位置)に向かって走行すると、垂直方向変位の波高値は徐々に大きくなる。車両5が、中央部を走行したときに、垂直方向変位の波高値は最大となる。そして、車両5が、中央部から離れていくと、垂直方向変位の波高値は徐々に小さくなり、床版4dから退出するとほぼ「0」となる。従って、床版4dを通過する車両5の通過時間は、例えば、波形W3の矢印A3に示す波幅から推定することができる。
すなわち、通過時間算出部31は、垂直方向変位の波幅から、床版4dを通過する車両5の通過時間を算出する。つまり、通過時間算出部31は、垂直方向変位の波幅時間を、床版4dを通過する車両5の通過時間とする。なお、グラフG3の例では、時刻t0において、垂直方向変位の波高値は、最大となっている。従って、車両5は、時刻t0において、床版4dの中央部を通過したことが分かる。
垂直方向変位の波幅は、例えば、イベント時の垂直方向変位が最小となった時刻t0より前の時刻おける、垂直方向変位が極値h1をとったときの時刻t1と、垂直方向変位が最小となった時刻t0より後の時刻における、垂直方向変位が極値h2をとったときの時刻t2との差を、垂直方向変位の波幅とする。なお、垂直方向変位の波幅の定義は、前記に限定されない。例えば、イベントによって発生した垂直方向変位において、所定の閾値h3を下回った時刻t31から、所定の閾値h3を上回る時刻t32の差を、垂直方向変位の波幅としてもよい。
なお、床版4dを通過する車両5の通過時間が算出できれば、車両5の速度も推定できる。例えば、通過時間算出部31は、床版4dの長さを、算出した通過時間で除算することにより、床版4dを通過する車両5の速度を算出することができる。
通過時間算出部31は、イベントによって発生した垂直方向変位の波幅を複数の区間に分割し、分割した区間に対応する床版4d上の車両5の通過時間を算出してもよい。例えば、通過時間算出部31は、車両5が床版4dに進入して、床版4dの中央部を通過するまでの通過時間と、床版4dの中央部から、床版4dを抜けるまでの通過時間とを算出してもよい。
図11は、車両5の通過時間を説明する図のその2である。図11に示すグラフG4の横軸は時間を示し、縦軸は変位を示す。グラフG4の波形W4は、イベントによって発生した床版4dの垂直方向変位を示している。
通過時間算出部31は、イベントによって発生した垂直方向変位の波幅を複数の区間に分割する。例えば、通過時間算出部31は、矢印A4a,A4bに示すように、垂直方向変位の波高値が最大となったときの時刻t0を境に、波幅を分割する。なお、イベントによって発生した垂直方向変位の波幅の定義は、図10で説明した波幅の定義と同様である。
通過時間算出部31は、波幅を分割すると、分割した波幅に対応する床版4d上の車両5の通過時間を算出する。例えば、グラフG4の時刻t0は、上記したように、車両5が床版4dの中央部を通過した時刻である。従って、通過時間算出部31は、波幅を、垂直方向変位の波高値が最大となったときの時刻t0を境に分割した場合、車両5が床版4dに進入して、床版4dの中央部を通過するまでの通過時間と、床版4dの中央部から床版4dを抜けるまでの通過時間とを算出することになる。
このように、波幅を分割すると、車両5が床版4d上で速度を変えたか否かが分かる。例えば、グラフG4の例では、矢印A4a,A4bに示すように、床版4dの中央部から床版4dを退出するまでの通過時間は、床版4dに進入して中央部を通過するまでの通過時間より長くなっており、車両5が床版4dの中央部で速度を落としたことが分かる。
次に、停止判定部32について説明する。停止判定部32には、変位算出部24から出力される床版4dの垂直方向変位と、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度とが入力される(図5のブロックBL22を参照)。停止判定部32は、入力された垂直方向変位と幅員方向加速度とに基づいて、床版4d上における車両5の停止を判定する。
図12は、車両5が床版4d上で停止せずに通過した場合の幅員方向加速度と垂直方向変位との例を示した図である。図12に示すグラフG5の横軸は時間を示す。グラフG5の左側の縦軸は加速度を示し、右側の縦軸は変位を示す。
グラフG5の波形W5aは、幅員方向加速度の時間的変化の例を示している。グラフG5の波形W5bは、垂直方向変位の時間的変化の例を示している。なお、加速度センサー2のz軸が、水平方向より上方を向いたときの幅員方向加速度の符号を「正」とすると、波形5aは、図9に示す矢印A2aの車線を、車両5が走行した場合の幅員方向加速度を示している。
車両5が床版4d上に進入すると、床版4dは、車両5の車重によって、下方に撓む。そのため、床版4dには、幅員方向加速度と垂直方向加速度(垂直方向変位)とが生じる。例えば、グラフG5の幅員方向加速度と垂直方向変位は、時刻t1の直後において、ともに変化している(幅員方向加速度が増加するとともに、垂直方向変位は減少している)。従って、時刻t1は、床版4d上に車両5が進入した時刻を示している。
車両5が床版4d上を走行している間は、床版4dには、幅員方向加速度と垂直方向変位とが発生し続けている。そして、車両5が床版4dを退出すると、床版4dには、車両5の車重がかからなくなるので、幅員方向加速度と垂直方向変位は、ほぼ「0」となる。例えば、時刻t2は、車両5が床版4dを退出した時刻を示し、時刻t2以降は、幅員方向加速度と垂直方向変位は、ほぼ「0」となっている。
すなわち、車両5が床版4d上で停止せずに走行した場合、床版4dには、車両5が床版4d上を走行している間、幅員方向加速度と垂直方向変位とが生じる。そのため、車両5が床版4d上で停止せずに走行した場合、幅員方向加速度の波幅と、垂直方向変位の波幅は、ほぼ同じとなる。
イベントによって発生した幅員方向加速度の波幅は、例えば、幅員方向加速度の波高値が上昇し始めた時刻t1と、幅員方向加速度の波高値が下降し終えた時刻t2との差とする。なお、波幅の定義は、前記に限定されない。例えば、イベントによって発生した幅員方向加速度の波高値が、所定の閾値h1を超えた時刻と、所定の閾値h1を下回った時刻との差を波幅としてもよい。
図13は、車両5が床版4d上で停止した場合の幅員方向加速度と垂直方向変位との例を示した図である。図13に示すグラフG6の横軸は時間を示す。グラフG6の左側の縦軸は加速度を示し、右側の縦軸は変位を示す。
グラフG6の波形W6aは、幅員方向加速度の時間的変化の例を示している。グラフG6の波形W6bは、垂直方向変位の時間的変化の例を示している。
車両5が床版4d上に進入すると、床版4dは、車両5の車重によって、下方に撓む。そのため、床版4dには、幅員方向加速度と垂直方向加速度(垂直方向変位)とが生じる。例えば、グラフG6の幅員方向加速度と垂直方向変位は、時刻t1の直後において、ともに変化している(幅員方向加速度が増加するとともに、垂直方向変位は減少している)。従って、時刻t1は、床版4d上に車両5が進入した時刻を示している。
車両5が床版4d上で停止しても、幅員方向加速度は、車両5が床版4dを退出するまで発生し続ける。例えば、時刻t4は、車両5が床版4dを退出した時刻を示し、幅員方向加速度は、車両5が床版4dに進入した時刻t1と、退出した時刻t4との間で発生し続けている。
一方、垂直方向変位は、車両5が床版4d上で停止すると、波形W6bに示すように、ある程度元(0)に戻る。例えば、垂直方向変位は、時刻t2に示すように、ピークを迎えると、その後(例えば時刻t3)、ある程度元に戻る。なお、垂直方向変位のピークの時刻t2が、車両5の停止した時刻である。
すなわち、車両5が床版4d上で停止した場合、幅員方向加速度は、車両5が床版4d上で停止しない場合と同様に、車両5が退出するまで発生し続ける。一方、垂直方向変位は、車両5が床版4d上で停止しない場合とは異なり、車両5が停止した後、ほぼ元に戻る。つまり、車両5が床版4d上で停止した場合、幅員方向加速度の波幅と、垂直方向変位の波幅は、異なる。例えば、グラフG6の矢印A5aに示す幅員方向加速度の波幅と、矢印A5bに示す垂直方向変位の波幅は、大きく異なっている。
以上より、停止判定部32は、幅員方向加速度の波幅と、垂直方向変位の波幅とに基づいて、床版4d上における車両5の停止を判定する。例えば、停止判定部32は、幅員方向加速度の波幅が、垂直方向変位の波幅に対し、所定値より大きい場合、床版4d上における車両5の停止を判定する。具体的には、停止判定部32は、幅員方向加速度の波幅が、垂直方向変位の波幅に対し、2倍以上であった場合、床版4d上における車両5の停止を判定する。
なお、上記したように、垂直方向変位のピークの時刻t2は、車両5が床版4d上で停止した時刻を示す。また、幅員方向加速度の波高値が降下し終えた時刻t4(幅員方向加速度の波幅が終了する時刻)は、車両5が床版4dを退出した時刻を示す。従って、停止判定部32は、垂直方向変位のピークの時刻t2と、幅員方向加速度の波高値が降下し終えた時刻t4との差を、車両5が床版4d上で停止した停止時間として算出(推定)することができる。
次に、進路変更判定部33について説明する。進路変更判定部33には、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度が入力される(図5のブロックBL23を参照)。進路変更判定部33は、入力された幅員方向加速度に基づいて、車両5の床版4d上での進路変更を判定する。
図14は、床版4d上での車両5の進路変更を説明する図のその1である。図14には、図2に示した床版4dと、床版4dの側面4daに取り付けられた加速度センサー2とが示してある。車両5は、図14の矢印A6に示すように、床版4dの規制方向と直角に交わる方向の中央部(例えば、中央車線)を超えて、加速度センサー2から遠い車線から、加速度センサー2に近い車線へと進路変更したとする。
図15は、図14の進路変更における幅員方向加速度の変化を示した図である。図15に示すグラフG7の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。グラフG7の波形W7は、イベントによって発生した床版4dの幅員方向加速度を示している。
車両5は、進路変更前においては、加速度センサー2から遠い車線を走行している。従って、床版4dに発生する幅員方向加速度は、矢印A7aに示すように、正の波高値(例えば、図9を参照)が続く。そして、車両5の加速度センサー2に近い車線への進路変更に伴って、床版4dに発生する幅員方向加速度は、矢印A7bに示すように、負の波高値(例えば、図8を参照)が続く。そして、車両5が床版4dから退出すると、幅員方向加速度は、ほぼ「0」となる。
幅員方向加速度の波高値は、例えば、イベント前の幅員方向加速度の波高値がほぼ一定のときの値h1と、イベント時の幅員方向加速度の波高値がピークのときの値h2,h3との差とする。値h1は、「0」としてもよい。なお、幅員方向加速度の波高値の定義は、前記に限定されない。
図16は、床版4d上での車両5の進路変更を説明する図のその2である。図16には、図2に示した床版4dと、床版4dの側面4daに取り付けられた加速度センサー2とが示してある。車両5は、図16の矢印A8に示すように、床版4dの規制方向と直角に交わる方向の中央部を超えないで、進路変更したとする。
図17は、図16の進路変更における幅員方向加速度の変化を示した図である。図17に示すグラフG8の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。グラフG8の波形W8は、イベントによって発生した床版4dの幅員方向加速度を示している。
車両5は、進路変更前においては、加速度センサー2から遠い車線を走行している。従って、床版4dに発生する幅員方向加速度は、矢印A9aに示すように、正の波高値が続く。
その後、車両5は、進路を加速度センサー2から近い側に変更するが、床版4dの規制方向と直角に交わる方向の中央部を超えないで変更する。そのため、床版4dに発生する幅員方向加速度は、矢印A9bに示すように、その符号が正のままであり、波高値が小さくなる。そして、車両5が床版4dから退出すると、幅員方向加速度は、ほぼ「0」となる。
図14〜図17で説明したように、車両5が床版4d上で進路を変更すると、幅員方向加速度の波高値の符号が変わる。また、車両5が床版4d上で進路を変更すると、幅員方向加速度の波高値が変わる。そこで、進路変更判定部33は、幅員方向加速度の波高値およびその符号に基づいて、車両5の床版4d上の進路変更を判定する。
具体的には、図15の波形W7の例では、矢印A7a,7bに示すように、波高値の符号が変わる。従って、進路変更判定部33は、床版4d上において、車両5が進路変更したと判定する。また、図17の波形W8の例では、矢印A9aに示すように、第1の波高値が続いた後、矢印A9bに示すように、第1の波高値より小さい同じ符号の第2の波高値が続く。従って、進路変更判定部33は、床版4d上において、車両5が進路変更したと判定する。
なお、進路変更判定部33は、幅員方向加速度の波高値の符号および波高値の大きさの変化により、車両5がどのように進路変更したか判定することができる。例えば、車両5が、加速度センサー2に近い車線から、床版4dの規制方向と直角に交わる方向の中央部を超えて遠い車線へ変更した場合、幅員方向加速度は、最初、負の波高値が続き、その後、正の波高値が続く。また、車両5が、加速度センサー2に近い車線において、床版4dの規制方向と直角に交わる方向の中央部を超えずに加速度センサー2から遠い方へ進路変更した場合、幅員方向加速度の符号は負のままで、波高値が小さくなる。このように、車両5の進路変更によって、幅員方向加速度の波高値の符号およびその大きさが変わるので、進路変更判定部33は、車両5が変更した進路方向を判定することができる。
また、波高値の定義は、図15で説明したのと同様である。
次に、進入方向判定部34について説明する。進入方向判定部34には、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度と、車両成分遮断フィルター部25から出力される幅員方向加速度が入力される(図5のブロックBL24を参照)。進入方向判定部34は、車両成分遮断フィルター部25から出力される幅員方向加速度の絶対値を算出し、算出した絶対値の包絡線を算出する。そして、進入方向判定部34は、算出した包絡線と、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度とに基づいて、車両5の床版4dへの進入方向を判定する。
図18は、車両5の床版4dへの進入方向を説明する図である。図18には、図2に示した床版4d,4eと、床版4dの側面4daに取り付けられた加速度センサー2とが示してある。
車両5の床版4dへの進入方向は、矢印A10aに示すように、隣接する床版4eを通過しないで(例えば、道路から直接)床版4dへ進入する方向と、矢印A10bに示すように、隣接する床版4eから床版4dへ進入する方向とがある。
図19は、加速度センサー2が取り付けられた床版4dへ車両5が直接進入した場合の幅員方向加速度とその包絡線とを示した図である。図19に示すグラフG9aの横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。グラフG9bの横軸は時間を示し、縦軸は振幅を示す。
グラフG9aの波形W9aは、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度を示す。グラフG9bの波形W9bは、進入方向判定部34が算出する包絡線を示している。
車両5が、図18に示す矢印A10aの方向から床版4dに進入すると、床版4dは、車両5の車重によって下方に撓み、幅員方向に加速度が生じる。波形W9aの時刻t1から時刻t2は、車両5が、図18に示す矢印A10aの方向から床版4dに進入し、床版4dを退出するまでの幅員方向加速度を示している。
車両5は、図18の矢印A10aの方向から床版4dに進入した場合、床版4dを退出すると、加速度センサー2が取り付けられていない隣の床版4eに進入することになる。車両5が、隣の床版4eに進入すると、床版4dには、車両5の車重による下方の撓みが生じないので、時刻t2以後は、波形W9aの時刻t1から時刻t-2に示すような、車両5の車重による幅員方向加速度は発生しない。
しかし、車両5が、床版4dに隣接する床版4eを走行している間、車両5の走行による床版4eの振動は、床版4dに伝わる。隣接する床版4eから床版4dに伝わった振動は、床版4dに取り付けられた加速度センサー2によって検知され、波形W9aの時刻t2から時刻t3に示すように、幅員方向加速度として現れる。波形W9aの時刻t2から時刻t3の幅員方向加速度は、床版4eから伝わった振動により発生した、床版4dの固有共振によるものと考えられる。
時刻t3は、車両5が床版4eを退出した時刻を示す。時刻t3以後は、幅員方向加速度はほぼ「0」となっている。
なお、波形W9aは、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度を示している。すなわち、波形W9aは、床版4dの固有共振による周波数成分が抑制された幅員方向加速度を示している。従って、床版4dには、波形W9aの時刻t2から時刻t3に示す幅員方向加速度より大きな幅員方向加速度が生じている。
上記したように、進入方向判定部34は、車両成分遮断フィルター部25から出力される幅員方向加速度の絶対値を算出し、算出した絶対値の包絡線を算出する。車両成分遮断フィルター部25から出力される幅員方向加速度は、車両5の通過によって発生した加速度成分が抑制され、床版4dの固有共振による加速度成分が通過する。従って、進入方向判定部34が算出する包絡線は、少なくとも床版4dの固有共振に基づく加速度の包絡線となり、車両5の床版4dに隣接する床版4e上の走行は、波形W9bの時刻t2から時刻t3に示すように、幅員方向加速度の包絡線の大きな振幅として検知されることができる。
つまり、車両5が、加速度センサー2が取り付けられた床版4dから、加速度センサー2が取り付けられていない床版4eへ走行した場合、波形W9bは、波形W9aの波高値が小さくなった後(時刻t2後)でも、車両5が隣接する床版4eを走行している間(時刻t2から時刻t3の間)は、所定の振幅を有する。
図20は、加速度センサー2が取り付けられていない隣接する床版4eから車両5が進入した場合の幅員方向加速度とその包絡線を示した図である。図20に示すグラフG10aの横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。グラフG10bの横軸は時間を示し、縦軸は振幅を示す。
グラフG10aの波形W10aは、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度を示す。グラフG10bの波形W10bは、進入方向判定部34が算出する包絡線を示している。
車両5が、図18に示す矢印A10bの方向から床版4eに進入すると、床版4dには、車両5の走行によって生じる床版4eの振動が伝わる。床版4eから床版4dに伝わった振動は、床版4dに取り付けられた加速度センサー2によって検知され、波形W10aの時刻t1から時刻t2に示すように、幅員方向加速度として現れる。波形W10aの時刻t1から時刻t2の幅員方向加速度は、床版4eから伝わった振動により発生した、床版4dの固有共振によるものと考えられる。
車両5は、図18の矢印A10bの方向から床版4eに進入した場合、床版4eを退出すると、加速度センサー2が取り付けられた床版4dに進入することになる。車両5が、床版4dに進入すると、床版4dには、車両5の車重による下方の撓みが生じる。そのため、床版4dには、波形W10aの時刻t2から時刻t3に示すような、車両5の車重による幅員方向加速度が発生する。
時刻t3は、車両5が床版4dを退出した時刻を示す。時刻t3以後は、幅員方向加速度はほぼ「0」となっている。
上記したように、進入方向判定部34は、車両成分遮断フィルター部25から出力される幅員方向加速度の絶対値を算出し、算出した絶対値の包絡線を算出する。車両成分遮断フィルター部25から出力される幅員方向加速度は、車両5の通過によって発生した加速度成分が抑制され、床版4dの固有共振による加速度成分は通過する。従って、進入方向判定部34が算出する包絡線は、少なくとも床版4dの固有共振に基づく加速度の包絡線となり、車両5の床版4dに隣接する床版4e上の走行は、波形W10bの時刻t2から時刻t3に示すように、幅員方向加速度の包絡線の大きな振幅として検知されることができる。
つまり、車両5が、加速度センサー2が取り付けられていない床版4eから、加速度センサー2が取り付けられた床版4dへ走行した場合、波形W10bは、車両5が床版4eに進入したことによって、波形W10aの波高値が大きくなる前(時刻t2前)でも、所定の振幅を有する。
以上から、進入方向判定部34は、固有共振遮断フィルター部23から出力される幅員方向加速度に対する、包絡線の出現時期に基づいて、車両5の床版4dへの進入方向を判定できる。例えば、進入方向判定部34は、幅員方向加速度が出現するより前から包絡線が出現しているか、または、幅員方向加速度が出現しなくなった後も包絡線が出現しているか、によって進入方向を判定できる。
例えば、図19に示すように、イベントによる幅員方向加速度(波形W9aの時刻t1から時刻t2の幅員方向加速度)が出現しなくなった後(時刻t2後)でも、幅員方向加速度の包絡線(波形W9b)が出現している場合、進入方向判定部34は、図18の矢印A10aの方向から、車両5が進入したと判定する。具体的には、進入方向判定部34は、イベントによる幅員方向加速度が出現しなくなった後でも、幅員方向加速度の包絡線が、所定時間、所定の閾値以上の振幅を有している場合、隣接する床版4eとは反対側の方向から、車両5が床版4dに進入したと判定する。
また、図20に示すように、イベントによる幅員方向加速度(波形W10aの時刻t2から時刻t3の幅員方向加速度)が発生する前(時刻t2前)から、幅員方向加速度の包絡線(波形W10b)が出現している場合、進入方向判定部34は、図18の矢印A10bの方向から、車両5が進入したと判定する。具体的には、進入方向判定部34は、イベントによる幅員方向加速度が発生する前から、幅員方向加速度の包絡線が、所定時間、所定の閾値以上の振幅を有している場合、隣接する床版4eから、車両5が床版4dに進入したと判定する。
以下、計測装置1の動作を、フローチャートを用いて説明する。
図21は、計測装置1の動作例を示したフローチャートである。計測装置1は、例えば、加速度センサー2が加速度を出力するタイミングで、図21に示すフローチャートの処理を繰り返し実行する。
まず、取得部21は、通信部12が受信した加速度センサー2の加速度を取得する(ステップS1)。
次に、イベント検出部22は、ステップS1にて取得された加速度に含まれる垂直方向加速度に基づいて、イベントを検出する(ステップS2)。イベント検出部22は、イベントを検出した場合(S2の「Yes」)、処理をステップS3に移行する。イベント検出部22は、イベントを検出しない場合(S2の「No」)、フローチャートの処理を終了する。そして、計測装置1は、加速度センサー2が加速度を出力するタイミングで、再びステップS1の処理を実行する。
ステップS2にて、イベントが検出されたと判定された場合(S2の「Yes」)、固有共振遮断フィルター部23は、幅員方向加速度および垂直方向加速度に含まれる床版4dの固有共振周波数を抑制する(ステップS3)。
次に、変位算出部24は、ステップS3にて、床版4dの固有共振周波数が抑制された垂直方向加速度から、床版4dの垂直方向変位を算出する(ステップS4)。例えば、変位算出部24は、床版4dの固有共振周波数が抑制された垂直方向加速度を2回積分して、床版4dの垂直方向変位を算出する。
次に、通過時間算出部31は、車両5が床版4dを通過した通過時間を算出する(ステップS5)。例えば、通過時間算出部31は、ステップS4にて算出された床版4dの垂直方向変位の波幅時間に基づいて、車両5が床版4dを通過した通過時間を算出する(例えば、図10、図11を参照)。
次に、停止判定部32は、車両5の床版4d上での停止を判定する(ステップS6)。例えば、停止判定部32は、ステップS3にて床版4dの固有共振成分が抑制された幅員方向加速度の波幅と、ステップS4にて算出された床版4dの垂直方向変位の波幅とに基づいて、車両5の床版4d上での停止を判定する(例えば、図13を参照)。
次に、進路変更判定部33は、車両5の床版4d上での進路変更を判定する(ステップS7)。例えば、進路変更判定部33は、ステップS3にて床版4dの固有共振成分が抑制された幅員方向加速度の振幅の変化に基づいて、車両5の床版4d上での進路変更を判定する(例えば、図15、図17を参照)。
次に、車両成分遮断フィルター部25は、幅員方向加速度に含まれる、車両5の通過による撓みによって生じた加速度成分を抑制する(ステップS8)。
次に、進入方向判定部34は、車両5の床版4dへの進入方向を判定する(ステップS9)。例えば、進入方向判定部34は、ステップS3にて床版4dの固有共振成分が抑制された幅員方向加速度と、ステップS8にて車両5の通過による撓みによって生じた加速度成分が抑制された幅員方向加速度の包絡線とに基づいて、車両5の床版4dへの進入方向を判定する(例えば、図19、図20を参照)。計測装置1は、ステップS9の処理が終了すると、当該フローチャートの処理を終了し、加速度センサー2が加速度を出力するタイミングで、再びステップS1の処理を実行する。
なお、計測装置1の処理順は、図21のフローチャートに限定されない。例えば、ステップS5,S6,S7,S9の処理は、図21のフローチャートの順に限定されない。また、ステップS5,S6,S7,S9の処理は、並列に行われてもよい。ただし、ステップS8のフィルター処理は、少なくともステップS9の進入方向判定処理の前に行われるようにする。
このように、計測装置1の取得部21は、車両5が通過する床版4dに設けられた加速度センサー2から、床版4dの垂直方向加速度および幅員方向加速度の少なくとも一方を取得する。そして、解析部26は、取得部21によって取得された垂直方向加速度および幅員方向加速度の少なくとも一方に基づいて、床版4d上を通過する車両5の運動を解析する。これにより、計測装置1は、小規模かつシンプルなシステム構成で、移動体の構造物上の運動を解析し、コスト低減またはセンサー設置の手間を低減することができる。例えば、計測装置1は、多種のセンサーを用いて、車両5の運動を解析しなくて済み、コスト低減を図ることができる。また、計測装置1は、少なくとも1個の加速度センサー2から、車両5の運動を解析でき、センサーの床版4dへの設置の手間が低減される。
また、固有共振遮断フィルター部23は、幅員方向加速度と垂直方向加速度とに含まれる、車両5の運動の解析に関係しない床版4dの固有共振周波数を抑制する。これにより、解析部26は、適切に車両5の運動を解析できる。
また、車両成分遮断フィルター部25は、幅員方向加速度に含まれる、車両5による加速度成分を抑制し、床版4dの固有共振周波数を通過させる。これにより、解析部26は、適切に車両5の進入方向を判定できる。
また、解析部26は、イベント検出部22のイベント検出に応じて、車両5の運動を解析する。これにより、解析部26は、処理負荷を低減することができる。
なお、表示部14は、イベント検出部22が検出したイベント検出の結果や、解析部26が解析した車両5の運動の解析結果等を表示装置に出力してもよい。これにより、ユーザーは、例えば、床版4d上を通過した車両5の運動を知ることができる。
また、上記では、片側1車線の例について、車両5の運動の解析について説明したが、これに限られない。例えば、車線なしの床版であっても、計測装置1は、車両5の運動の解析を行うことができる。また、片側2車線以上の床版であっても、計測装置1は、車両5の運動の解析を行うことができる。
また、計測装置1は、床版4dが片側一車線の場合、幅員方向加速度の符号から、車両5がどの車線を走行しているか判定することができる。例えば、幅員方向加速度の符号が「負」の場合、計測装置1は、加速度センサー2から遠い車線を車両5は通過していると判定できる(例えば、図8を参照)。また、幅員方向加速度の符号が「正」の場合、計測装置1は、加速度センサー2から近い車線を車両5は通過していると判定できる(例えば、図9を参照)。
また、計測装置1は、床版4dが片側一車線であって、車両5が左右の車線のどちらを通行するか決まっている場合、幅員方向加速度の符号から、車両5の進入方向が分かる。例えば、車両5は、左側通行であるとする。この場合、計測装置1は、幅員方向加速度の符号が「負」の場合、例えば、隣接する床版4eの方向から車両5が進入してきたと判定できる。また、計測装置1は、幅員方向加速度の符号が「正」の場合、例えば、隣接する床版4eとは反対の方向から車両5が進入してきたと判定できる。なお、計測装置1は、床版4dが片側一車線であって、車両5が左右の車線のどちらを通過するか決まっている場合、隣接する床版4eが存在しなくても(例えば、床版4dが1つであっても)、車両5の進入方向を判定できる。
また、解析部26は、垂直方向変位に基づいて車両5の通過時間を算出したが、幅員方向加速度に基づいて車両5の通過時間を算出してもよい。例えば、解析部26は、幅員方向加速度の波幅に基づいて、車両5の通過時間を算出してもよい。
また、解析部26は、垂直方向変位と幅員方向加速度の波形のそれぞれの波幅を比較し、通過時間を算出してもよい。例えば、解析部26は、垂直方向変位と幅員方向加速度との波幅が重なる時間を通過時間として算出してもよい。
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、イベントが発生したときの幅員方向加速度と垂直方向変位との保存(記憶)について説明する。
図22は、第2の実施の形態に係る計測装置1の機能ブロックの例を示した図である。図22において、図4と同じものには同じ符号を付し、その説明を省略する。図22に示すように、計測装置1は、加速度波形取得部41と、変位波形取得部42とを有している。
加速度波形取得部41は、イベント検出部22によってイベントが検出された場合、イベントによって発生した幅員方向加速度の波形の特徴情報を取得する。特徴情報は、以下で詳述するが、例えば、幅員方向加速度の波高値、波幅、波形係数、および車両5が加速度センサー2を通過した時刻である。加速度波形取得部41は、取得した幅員方向加速度の特徴情報を記憶部13に記憶する。
イベントによって発生する幅員方向加速度の波形は、概ね台形状である。従って、イベントによって発生した幅員方向加速度の全てのデータを記憶部13に記憶しなくても、前記の特徴情報を記憶部13に記憶することにより、幅員方向加速度の波形を、台形として近似復元することができる。すなわち、解析部26は、記憶部13に記憶された特徴情報から、台形の幅員方向加速度を復元でき、例えば、後からでも、ユーザーの要求等に応じて、車両5の運動を解析することができる。
図23は、幅員方向加速度の特徴情報およびその特徴情報からの幅員方向加速度の復元を説明する図である。図23に示すグラフG21,G22の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。
グラフG21に示す波形W21は、イベントによって発生した幅員方向加速度を示す。グラフG22に示す波形W22は、記憶部13に記憶された特徴情報から復元した幅員方向加速度を示す。
加速度波形取得部41は、波形W21の特徴情報を取得する。例えば、加速度波形取得部41は、グラフG21の矢印A21aに示す波高値と、矢印A21bに示す波幅とを取得する。また、加速度波形取得部41は、矢印A21cに示す波形係数(幅員方向加速度の立上り時の傾き)と、矢印A21dに示す波形係数(幅員方向加速度の立下り時の傾き)とを取得する。また、加速度波形取得部41は、車両5が加速度センサー2を通過した時刻t0を取得する。
幅員方向加速度の波高値は、例えば、イベント前の幅員方向加速度の波高値がほぼ一定のときの値h11と、イベント時の幅員方向加速度の波高値がほぼ一定のときの値h12との差とし、次の式で示される。
波高値=h12−h11
なお、値h11は、「0」としてもよい。
波幅は、例えば、幅員方向加速度の波高値が上昇し始めた時刻t11と、幅員方向加速度の波高値が下降し終えた時刻t14との差とし、次の式で示される。
波幅=t14−t11
立上り時の波形係数は、例えば、幅員方向加速度の波高値が上昇し始めた時刻t11と、幅員方向加速度が値h12となった時の時刻t12と、波高値とから求まる幅員方向加速度の傾きとし、次の式で示される。
波形係数=(h12−h11)/(t12−t11)
立下り時の波形係数は、例えば、イベント時の幅員方向加速度の波高値が下降し始めた時刻t13と、幅員方向加速度が値h11となった時の時刻t14と、波高値とから求まる幅員方向加速度の傾きとし、次の式で示される。
波形係数=(h11−h12)/(t14−t13)
車両5が加速度センサー2を通過した時刻t0は、例えば、垂直方向変位の波高値が最大となった時の時刻とする(例えば、図10、図11の時刻t0参照)。
なお、各特徴情報の定義は、上記に限定されない。例えば、波高値は、イベントによって発生した幅員方向加速度の波高値の最大値を波高値としてもよい。また、波幅は、イベントによって発生した幅員方向加速度の波高値が、所定の閾値h13を超えた時刻と、所定の閾値h13を下回った時刻との差を波幅としてもよい。
加速度波形取得部41は、取得したこれらの特徴情報を、記憶部13に記憶する。これにより、解析部26は、記憶部13に記憶された特徴情報から、イベントによって発生した幅員方向加速度を、波形W22に示すような台形波形で復元することができる。例えば、解析部26は、時刻t0から、波幅の半分の時間遡った時刻t11を出発点として、幅員方向加速度を立上り時の波形係数で、波高値「h12−h11」まで上昇させる。また、解析部26は、時刻t0から、波幅の半分の時間経過した時刻t14を出発点として、幅員方向加速度を時間が遡るように立下り時の波形係数で、波高値「h12−h11」まで上昇させる。そして、解析部26は、波高値まで上昇させた2つの幅員方向加速度の2点間を結び、イベントによって発生した幅員方向加速度を復元する。
なお、加速度波形取得部41は、図15に示す波形W7や図19に示す波形W9bの特徴情報を取得して記憶部13に記憶することもできる。例えば、加速度波形取得部41は、波形W7や波形W9bを2つの台形が組み合わさった波形として捉え、特徴情報を取得し、記憶部13に記憶する。
図22の説明に戻る。変位波形取得部42は、イベント検出部22によってイベントが検出された場合、イベントによって発生した垂直方向変位の波形の特徴情報を取得する。特徴情報は、以下で詳述するが、例えば、垂直方向変位の波高値、波幅、および車両5が加速度センサー2を通過した時刻である。変位波形取得部42は、取得した垂直方向変位の特徴情報を記憶部13に記憶する。
イベントによって発生した垂直方向変位の波形は、次の式(1)で近似する。
式(1)の「hu」は、垂直方向変位の波高値であり、「wu」は、垂直方向変位の波幅である。「t0」は、車両5が加速度センサー2を通過した時刻であり、例えば、イベント時の垂直方向変位が最小値となったときの時刻である。「a」は、波形係数であり、床版4dによって決まる定数である。
従って、イベントによって発生した垂直方向変位の全てのデータを記憶部13に記憶しなくても、前記の特徴情報を記憶部13に記憶することにより、垂直方向変位の波形を、式(1)から復元することができる。すなわち、解析部26は、記憶部13に記憶された特徴情報から、垂直方向変位を復元でき、例えば、後からでも、ユーザーの要求等に応じて、車両5の運動を解析することができる。
図24は、垂直方向変位の特徴情報およびその特徴情報からの垂直方向変位の復元を説明する図である。図24に示すグラフG23,G24の横軸は時間を示し、縦軸は変位を示す。
グラフG23に示す波形W23は、イベントによって発生した垂直方向変位を示す。グラフG24に示す波形W24は、記憶部13に記憶された特徴情報から復元した垂直方向変位を示す。
変位波形取得部42は、波形W23の特徴情報を取得する。例えば、変位波形取得部42は、グラフG23の矢印A22aに示す波高値と、矢印A22bに示す波幅とを取得する。また、変位波形取得部42は、車両5が加速度センサー2を通過した時刻t0を取得する。
垂直方向変位の波高値は、例えば、イベント時の垂直方向変位が最小となった時刻t0より前の時刻における、垂直方向変位の極値h1と、垂直方向変位が最小となった時刻t0より後の時刻にける、垂直方向変位の極値h2との大きい方の極値h2と、イベント時の垂直方向変位の最小値h0との差を、波高値とする。なお、垂直方向変位の波高値の定義は、前記に限定されず、例えば、イベント時の垂直方向変位の最小値h0を波高値としてもよい。垂直方向変位における波幅は、図10で説明した波幅と同様であり、その説明を省略する。
変位波形取得部42は、取得したこれらの特徴情報を、記憶部13に記憶する。これにより、解析部26は、記憶部13に記憶された特徴情報と式(1)とを用いて、イベントによって発生した垂直方向変位を、波形W24に示すような波形で復元することができる。例えば、解析部26は、記憶部13に記憶された波高値「hu」、波幅「wu」、および車両5が加速度センサー2を通過した時刻「t0」を、上記の式(1)に代入する。これにより、解析部26は、イベントによって発生した垂直方向変位を復元でき、例えば、後からでも、ユーザーの要求等に応じて、車両5の運動を解析することができる。
なお、式(1)の波形係数「a」は、床版4dごとにおいて予め算出する。例えば、垂直方向変位の波高値、波幅、および車両5が加速度センサー2を通過した時刻の実測値を式(1)に代入する。そして、式(1)によって示される波形と、実測値を取得したときの実際の垂直方向変位の波形とを比較し、式(1)の波形が、実際の垂直方向変位の波形に対し、最も一致するように、波形係数「a」を予め算出する。
変位波形取得部42は、図11に示すような非対称の波形W4の特徴情報を取得して記憶部13に記憶することもできる。例えば、加速度波形取得部41は、波形W4を、時刻t0を境に2つの波形に分割し、それぞれの特徴情報を取得して、記憶部13に記憶する。
第2の実施の形態に係る計測装置1のフローチャートは、図21と同様になる。ただし、少なくともステップS2の処理の後に、加速度波形取得部41および変位波形取得部42による、波形の特徴情報の記憶処理が実行される。
第2の実施の形態に係る計測装置1では、ステップS5〜S9の車両運動解析の処理は省略されてもよい。車両運動解析の処理は、例えば、ユーザーからの要求等に応じて、実行されてもよい。例えば、解析部26は、ユーザーから解析要求があると、記憶部13に記憶された特徴情報を取得し、取得した特徴情報から、イベントによって発生した水平方向加速度および垂直方向変位を復元する。そして、解析部26は、復元した水平方向加速度および垂直方向変位から、車両5の運動を解析してもよい。
このように、加速度波形取得部41は、イベントによって発生した幅員方向加速度の波形の特徴情報を取得する。また、変位波形取得部42は、イベントによって発生した垂直方向変位の波形の特徴情報を取得する。これにより、記憶部13は、記憶容量を低減することができる。
また、解析部26は、記憶部13に記憶された特徴情報から、幅員方向加速度または垂直方向変位を復元できるので、例えば、後からでも、ユーザーの要求等に応じて、床版4d上での車両5の運動を解析することができる。
なお、加速度波形取得部41は、加速度センサー2から出力される幅員方向加速度の特徴情報を取得して、記憶部13に記憶してもよいし、固有共振遮断フィルター部23および車両成分遮断フィルター部25によってフィルタリング処理された幅員方向加速度の特徴情報を取得して、記憶部13に記憶してもよい。また、加速度波形取得部41は、固有共振遮断フィルター部23および車両成分遮断フィルター部25によってフィルタリング処理された一方の幅員方向加速度の特徴情報を取得して、記憶部13に記憶してもよい。
[第3の実施の形態]
取得部21は、加速度センサー2から出力される床版4dの進行方向加速度(y軸方向加速度)を取得してもよい。そして、解析部26は、取得部21によって取得された進行方向加速度に基づいて、車両5の運動を解析してもよい。
図25は、第3の実施の形態に係る床版の進行方向加速度を説明する図である。図25には、水平方向から見た床版4dが示してある。また、図25には、床版4dに取り付けられた加速度センサー2が示してある。
図25に示す実線の波形W31は、図25中において、車両5が床版4dの中央(加速度センサー2)より左側を通過しているときの、床版4dの撓みを示している。点線の波形W32は、図25中において、車両5が床版4dの中央を通過しているときの、床版4dの撓みを示している。一点鎖線の波形W33は、図25中において、車両5が床版4dの中央より右側を通過しているときの、床版4dの撓みを示している。
図26は、進行方向加速度の時間変化を示した図である。図26に示すグラフG31,G32の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。
グラフG31の波形W41は、図25中において、車両5が床版4d上を左側から右側に向かって通過したときの進行方向加速度の変化を示している。グラフG32の波形W42は、図25中において、車両5が床版4d上を右側から左側へ向かって通過したときの進行方向加速度の変化を示している。グラフG31,G32では、加速度センサー2のy軸が、水平方向より上方を向いたときの進行方向加速度の符号を「正」としている。
図25において、車両5が、床版4dの左側から進入して、右側から出ていく場合を考える。車両5が床版4dの左端から中央に向かって走行すると、床版4dは、図25の波形W31のように撓む。従って、加速度センサー2のy軸は、水平方向より上方を向き、「正」の値をとる。続いて、車両5が床版4dの中央を通過すると、床版4dは、図25の波形W32のように撓む。従って、加速度センサー2のy軸は、水平方向を向き、「0」の値をとる。続いて、車両5が床版4dの中央から右端に向かって走行すると、床版4dは、図25の波形W33のように撓む。従って、加速度センサー2のy軸は、水平方向より下方を向き、「負」の値をとる。すなわち、車両5が、床版4dの左側から進入して、右側から出ていく場合、進行方向加速度は、波形W41のように変化する。
図25において、車両5が、床版4dの右側から進入して、左側から出ていく場合を考える。車両5が床版4dの右端から中央に向かって走行すると、床版4dは、図25の波形W33のように撓む。従って、加速度センサー2のy軸は、水平方向より下方を向き、「負」の値をとる。続いて、車両5が床版4dの中央を通過すると、床版4dは、図25の波形W32のように撓む。従って、加速度センサー2のy軸は、水平方向を向き、「0」の値をとる。続いて、車両5が床版4dの中央から左端に向かって走行すると、床版4dは、図25の波形W31のように撓む。従って、加速度センサー2のy軸は、水平方向より上方を向き、「正」の値をとる。すなわち、車両5が、床版4dの右側から進入して、左側から出ていく場合、進行方向加速度は、波形W42のように変化する。
波形W41,W42に示すように、進行方向加速度は、車両5の床版4dへの進入方向によって、その符号の変化が異なる。従って、解析部26は、進行方向加速度の符号に基づいて、車両5の床版4dへの進入方向を解析できる。
また、進行方向加速度の波幅は、車両5の床版4d上の通過時間によって異なる。例えば、車両5の床版4d上の通過時間が長いほど、進行方向加速度の山谷または谷山の波幅は長くなる。従って、解析部26は、進行方向加速度の波幅に基づいて、車両5の床版4d上の通過時間を解析できる。
このように、解析部26は、進行方向加速度に基づいて、車両5の運動を解析することができる。
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、計測装置の機能構成は、計測装置の構成を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。構成要素の分類の仕方や名称によって、本願発明が制限されることはない。計測装置の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。また、各構成要素の処理は、1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
また、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者には明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。また、本発明は、計測方法、計測装置のプログラム、当該プログラムを記憶した記憶媒体として提供することもできる。