JP2017061737A - 溶射材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成し得る溶射材料を提供する。【解決手段】本発明により、イットリウムのフッ化物およびオキシフッ化物の少なくとも一方を含む粉末である溶射材料が提供される。この溶射材料は、粉末に対して、下記の薬液処理:粉末1gと、王水3mLおよびフッ酸0.5mLからなる薬液とを密閉容器に密閉状態で収容し、150℃で24時間保持したのち、粒子保持能が2.2μmのろ紙を用いて前記密閉容器中の内容物をろ過し、純水にて水洗する;を施したとき、粉末の少なくとも一部が、ろ紙上に回収されることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、プラズマに対する耐食性に優れた溶射皮膜を形成し得る溶射材料に関する。
溶射皮膜は、溶射材料を基材に溶射することで形成される。溶射皮膜は、溶射材料の特性に応じて種々の用途で使用されている。例えば、酸化イットリウム(イットリア)は、プラズマに晒された場合に高い耐プラズマエロージョン性(エッチング耐性、耐腐食性)を示す。そのため、酸化イットリウム溶射材料により形成される酸化イットリウム溶射皮膜は、プラズマにより加工を行う半導体デバイス製造装置内の部材の保護皮膜等として使用されている。
特開2015−110844号公報 特開2014−136835号公報 特開2014−109066号公報 特開2014−009361号公報 特開2014−040634号公報
ところで、半導体デバイスを製造する際のエッチング工程では、エッチングガスとしてハロゲン系ガスを使用するプラズマドライエッチングが実施されている。したがって、半導体デバイス製造装置には、ハロゲン系ガス等の腐食性雰囲気に対する耐性に優れた保護皮膜を形成するために、フッ化イットリウムやイットリウムオキシフッ化物を含む溶射材料を溶射することが提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。しかしながら、特許文献1〜5に開示されているような溶射材料であっても、耐プラズマエロージョン性について満足し得る溶射皮膜を形成することは困難であった。
そこで本発明の目的は、例えばハロゲン系プラズマなどに対する耐プラズマエロージョン性により優れた溶射皮膜を形成し得る溶射材料を提供することにある。
上記課題を解決するものとして、ここに開示される技術は、イットリウムのフッ化物およびオキシフッ化物の少なくとも一方を含む粉末である溶射材料を提供する。この溶射材料は、粉末に対して、下記の薬液処理:粉末1gと、王水3mLおよびフッ酸0.5mLからなる薬液とを密閉容器に密閉状態で収容し、150℃で24時間保持したのち、粒子保持能が2.2μmのろ紙を用いて密閉容器中の内容物をろ過し、純水にて水洗する;を施したとき、上記粉末の少なくとも一部が、上記ろ紙上に回収されることにより特徴づけられる。
すなわち、ここに開示される溶射材料は、王水とフッ酸とにより完全には溶解(腐食)されない。溶射材料は、強い酸化性を有する王水に対する耐腐食性を備えている。また、溶射材料は、フッ素の性質による極めて強い透過性および腐食性を有するフッ酸(フッ化水素酸)に対する耐腐食性を備えている。このことにより、この溶射材料から形成される溶射皮膜に対し耐腐食性を付与することができる。例えば、この溶射材料により、ハロゲン系プラズマなどに対する耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成することができる。
なお、ここに開示される技術において、ハロゲン系プラズマとは、典型的には、ハロゲン系ガス(ハロゲン化合物ガス)を含むプラズマ発生ガスを用いて発生されるプラズマである。例えば、具体的には、半導体基板の製造に際しドライエッチング工程などで用いられる、SF、CF、CHF、ClF、HF等のフッ素系ガスや、Cl、BCl、HCl等の塩素系ガス、HBr等の臭素系ガス、HI等のヨウ素系ガス等の1種を単独で、または2種以上を混合して用いて発生されるプラズマが典型的なものとして例示される。これらのガスは、アルゴン(Ar)等の不活性ガスとの混合ガスであってもよい。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、上記粉末はイットリウムのフッ化物とイットリウムオキシフッ化物とを含むことを特徴としている。このように溶射材料がイットリウムのフッ化物とオキシフッ化物とを同時に含むことで、オキシフッ化物のフッ酸によるフッ化を好適に抑制することができる。延いては、この溶射材料により、例えば、フッ素系プラズマに対する耐プラズマエロージョン性が向上された溶射皮膜を形成することができる。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、上記粉末についてX線回折分析を行ったとき、酸化イットリウムに帰属される回折ピークは得られないことを特徴としている。酸化イットリウムは、溶射材料中に存在するとそのまま溶射皮膜中に残存し得る。また、酸化イットリウムは、溶射皮膜中に存在するとハロゲン系プラズマによりエッチングされやすい。したがって、酸化イットリウムを含まない溶射材料とすることで、ハロゲン系プラズマに対する耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成することができる。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、上記薬液処理後に回収された上記粉末についてX線回折分析を行ったとき、フッ化イットリウム以外の化合物に帰属される回折ピークが得られることを特徴としている。これにより、溶射材料中に含まれるイットリウム成分は、薬液処理により、フッ化イットリウム以外の形態で粉末中に存在し得る。このことにより、この溶射材料中のイットリウム成分は、フッ素による完全な浸食が抑制され、フッ素に対する耐腐食性に優れた溶射材料が提供される。また、フッ素系プラズマに対する耐食性に優れた溶射皮膜を形成することができる。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、上記粉末は少なくともイットリウムオキシフッ化物を含み、上記薬液処理後の上記粉末についてX線回折分析を行ったとき、少なくともイットリウムオキシフッ化物に帰属される回折ピークが得られることを特徴としている。これにより、耐プラズマエロージョン性により一層優れた溶射皮膜を形成することができる。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、前記粉末は、破壊強度が10MPa以上の溶射粒子を含むことを特徴としている。このことによって、例えば、顆粒状の粉末であって、顆粒を構成する微小粒子同士の結合が比較的弱く、比表面積および被腐食面積が大きな粒子を排除することができる。このことによっても、耐プラズマエロージョン性により一層優れた溶射皮膜を形成し得る溶射材料を実現することができる。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、平均粒子径は、5μm以上60μm以下であることを特徴としている。このことによって、適度な流動性および耐腐食性と、緻密な溶射皮膜を形成し得る形態の溶射材料が提供される。
ここに開示される溶射材料の好ましい一態様において、上記粉末における細孔径が3μm以下の累積細孔容積は、0.02cm/g以下であることを特徴としている。このことによって、比表面積がより縮小されて腐食を受けがたく、また、気孔が少なく緻密な溶射皮膜を形成し得る形態の溶射材料が提供される。
一実施形態に係る溶射材料の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。 図1に示した溶射材料のX線回折分析の結果を示した図である。 図1に示した溶射材料の薬液処理後のSEM像である。 図3に示した溶射材料のX線回折分析の結果を示した図である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と当該分野における出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され、実施することができる。
ここに開示される溶射材料は、イットリウムのフッ化物(以下、フッ化イットリウムという。)およびイットリウムのオキシフッ化物(以下、イットリウムオキシフッ化物という。)の少なくとも一方を含む粉末である。フッ化イットリウムとイットリウムオキシフッ化物とは、プラズマに対する耐腐食性(耐プラズマエロージョン性)に優れる。とりわけ、ハロゲン系プラズマに対する耐プラズマエロージョン性に優れている。このようなフッ化イットリウムおよび/またはイットリウムオキシフッ化物を含むことで、ここに開示される溶射材料は、耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成することができる。なお、溶射材料は、フッ化イットリウムのみを含んでも良いし、イットリウムオキシフッ化物のみを含んでも良い。また、イットリウムのフッ化物とイットリウムオキシフッ化物とを、任意の割合で含む混合物であっても良い。
<薬液処理>
ここで、溶射材料は、下記の強い酸化作用および、浸食・腐食作用を有する薬液に対して高い耐性を備えたものであり得る。例えば、ここに開示される溶射材料に対して下記の薬液処理を施したとき、この溶射材料は薬液により全てが溶解されることなく、ろ過によりろ紙上に残渣として回収され得る。薬液処理は、以下のとおりである。
1.王水3mLおよびフッ酸0.5mLからなる薬液を用意する。
2.溶射材料の粉末1gと、上記薬液とを密閉容器に密閉状態で収容する。
3.上記密閉容器を、150℃で24時間保持する。
4.粒子保持能が2.2μmのろ紙を用いて密閉容器中の内容物をろ過する。
5.ろ過によりろ紙上に残った粉末を、純水にて水洗する。
すなわち、工程1においては、処理薬液として、王水とフッ酸とを6:1の体積比で混合した混合溶液を用意する。王水は、濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した溶液である。工程2では、溶射材料の粉末1gと、処理薬液3.5mLとを、密閉容器中に収容することで混合する。密閉容器としては、典型的には、少なくとも内表面がフッ素樹脂からなる容器を用いることができる。フッ酸は揮発性が高いため、容器は密閉性を有するものを使用することができる。
工程3では、粉末および薬液を収容した容器を、150℃で24時間保持する。容器は密閉状態であることから、容器内は加圧状態となる。したがって、粉末には、薬液により加圧分解作用が加えられる。その後、工程4にて、密閉容器中の内容物をろ過する。溶射材料が処理薬液により溶解されていない場合は、溶射材料の粉末の少なくとも一部をろ紙上に回収することができる。溶射材料が処理薬液により完全に溶解された場合は、溶射材料をろ紙上に回収することはできない。このときろ過に使用するろ紙は、粒子保持能が2.2μmのものとする。かかるろ紙は、例えば、ろ過により液体中の2.2μm以上の粒子の捕集効率が98%以上となるものを用いることが好ましい。特に限定するものではないが、例えば、大気成分ろ過用ろ紙等として提供されているガラス繊維ろ紙を好適に用いることができる。次いで、工程5において、ろ紙上に保留された粒子を純水にて水洗する。水洗は、例えば、2〜3回行うことができる。これにより、処理薬液により溶解されなかった溶射材料を回収することができる。厳密には、処理薬液により溶解されず、かつ、ろ紙により濾しとられる程度の大きさの溶射材料を回収することができる。
なお、酸化イットリウムは王水により溶解されて消失する。したがって、溶射材料が酸化イットリウムのみから構成される場合、薬液処理後の粉末をろ過により回収することはできない。また、溶射材料が薬液処理により全て酸化イットリウムに酸化された場合も、薬液処理後の溶射材料をろ過により回収することはできない。このことから、薬液処理後に回収し得る溶射材料とは、当該溶射材料中に含まれるイットリウムが、薬液により完全には酸化され難い状態で存在していると理解することができる。
また、上記薬液処理により酸化され易い溶射材料は、溶射中にも酸化され易いといえる。溶射材料が溶射により酸化されて酸化イットリウムを含む場合、その酸化イットリウムは溶射で形成される溶射皮膜にそのまま残存し得る。溶射皮膜中の酸化イットリウムは、ハロゲン系プラズマに対する耐プラズマエロージョン性が十分ではなく、ハロゲン系プラズマに晒されることでエッチング(浸食)され易い。つまり、上記薬液処理により酸化され易い溶射材料は、耐プラズマエロージョン性が十分でない溶射皮膜を形成すると言える。これに対し、上記薬液処理により酸化され難い溶射材料は、溶射皮膜中の酸化イットリウムの割合を抑えることができ、耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成できるといえる。
なお、ろ紙上に回収される薬液処理後の溶射材料は、当然ながら、薬液処理前の溶射材料から組成や形状が変化されていてもよい。また、薬液処理後の溶射材料がろ紙上に回収されたか否かの判断は、目視で明らかな場合は目視で判断しても良いし、電子顕微鏡観察に基づき判断しても良いし、重量変化あるいは燃焼法により残渣量を調べることで判断しても良い。
なお、以上のことからもわかるように、薬液処理後の溶射材料がろ紙上に回収されるか否かは、例えば、溶射材料の組成に影響され得る。
かかる観点において、ここに開示される溶射材料は、溶射物である溶射皮膜のプラズマ耐性をより高く発現させ得るために、イットリウムの酸化物(酸化イットリウム:Y)成分を実質的に含まない構成とすることが好ましい。なお、酸化イットリウム(Y)からなる溶射粒子は、白色の溶射皮膜を形成し、従来より環境遮断性や一般的なプラズマに対する耐エロージョン特性を有する溶射皮膜を形成するために好ましい材料であり得る。しかしながら、ハロゲン系プラズマに対する高い耐エロージョン性を有する溶射皮膜を形成するためには、この溶射材料の粉末についてX線回折分析を行ったとき、酸化イットリウムに帰属される回折ピークは得られないことが好ましい態様であり得る。
なお、本明細書において「実質的に含まない」とは、溶射材料に占める当該成分(ここでは酸化イットリウム)の含有割合が5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、例えば1質量%以下であること意味する。かかる構成は、例えば、この溶射粒子をX線回折分析したときに、当該成分に基づく回折ピークが検出されないことにより把握することもできる。
なお、イットリウムオキシフッ化物は、上記のとおり耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成することができ、フッ化イットリウムよりも更に耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成することができる。かかる点において、ここに開示される溶射材料の粉末は、少なくともイットリウムオキシフッ化物を含むことが好ましい。
イットリウムオキシフッ化物とは、構成元素として少なくとも、イットリウム(Y)と、酸素(O)と、フッ素(F)とを含む化合物であり得る。イットリウムオキシフッ化物は、本願発明の目的を損ねない限り、イットリウム(Y)、酸素(O)およびフッ素(F)以外の他の任意の元素を含んでいても良い。このイットリウムオキシフッ化物を構成するイットリウム(Y)と酸素(O)とフッ素(F)との割合は特に制限されない。例えば、イットリウムオキシフッ化物において、酸素に対するフッ素のモル比(F/O)は特に制限されない。好適な一例として、モル比(F/O)は、例えば1であっても良く、1より大きいことが好ましい。具体的には、例えば、1.2以上が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.4以上が特に好ましい。モル比(F/O)の上限については特に制限されず、例えば、3以下とすることができる。酸素に対するフッ素のモル比(F/O)のより好適な一例として、例えば、1.3以上1.53以下(例えば1.4以上1.52以下)、1.55以上1.68以下(例えば1.58以上1.65以下)、1.7以上1.8以下(例えば1.72以上1.78以下)とすることで、溶射時の熱安定性が高められるために好ましい。このように、溶射粒子の酸素に対するフッ素の割合が高くなることで、この溶射材料の溶射物である溶射皮膜が、ハロゲン系プラズマに対する優れた耐エロージョン性を備え得るために好ましい。
また、酸素に対するイットリウムのモル比(Y/O)は特に制限されない。好適な一例として、モル比(Y/O)は1であってもよく、1より大きいことが好ましい。具体的には、例えば、1.05以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.15以上が特に好ましい。モル比(Y/O)の上限については特に制限されず、例えば、1.5以下とすることができる。酸素に対するイットリウムのモル比(Y/O)のより好適な一例として、例えば、1.1以上1.18以下(例えば1.12以上1.17以下)、1.18以上1.22以下(例えば1.19以上1.21以下)、1.22以上1.3以下(例えば1.23以上1.27以下)とすることで、溶射時の熱安定性が高められるために好ましい。このように、イットリウムに対する酸素元素の割合が小さいことで、この溶射材料を溶射したときに、溶射粒子の酸化分解を抑制できるために好ましい。例えば、この溶射材料の溶射物である溶射皮膜中に、イットリウム成分の酸化による酸化イットリウム(例えばY)が形成されるのを抑制できるために好ましい。
イットリウムオキシフッ化物は、より具体的には、イットリウムと酸素とフッ素との比が1:1:1の化学組成がYOFとして表される化合物であってよい。また、一般式;Y1−n1+2n(式中、nは、例えば、0.12≦n≦0.22を満たす。)で表されるY,Y,Y,Y171423等であってよい。とくに、モル比(Y/O)および(F/O)が上記のより好適な範囲にあるY,Y,Y等は、ハロゲンガスプラズマに対する耐プラズマエロージョン性に優れ、より緻密で高硬度な溶射皮膜を形成し得るために好ましい。このようなイットリウムオキシフッ化物は、いずれか1種の化合物の単一相から構成されていても良いし、いずれか2種以上の化合物が組み合わされた混相,固溶体,化合物のいずれか又はこれらの混合等により構成されていてもよい。
また、ここに開示される溶射材料は、イットリウムオキシフッ化物からなる溶射粒子の他に、他の化合物からなる溶射粒子が含まれていても良い。しかしながら、例えば、耐プラズマエロージョン性に優れた溶射皮膜を形成するために用いる溶射材料としては、溶射粒子は、イットリウムオキシフッ化物をより多く含むことが好ましい。このようなイットリウムオキシフッ化物は、溶射粒子中に77質量%以上という高い割合で含まれていることが好ましい。イットリウムオキシフッ化物は、従来より、耐プラズマエロージョン性が高い材料として知られている酸化イットリウム(Y)よりも、さらに耐プラズマエロージョン性に優れる。このようなイットリウムオキシフッ化物は、少量含まれるだけでも耐プラズマエロージョン性の向上に大きく寄与するが、上記のように多量に含まれることで、極めて良好なプラズマ耐性を示し得るために好ましい。イットリウムオキシフッ化物の割合は、80質量%以上(80質量%超過)であるのがより好ましく、85質量%以上(85質量%超過)であるのが更に好ましく、90質量%以上(90質量%超過)であるのがより一層好ましく、95質量%以上(95質量%超過)であるのがより一層好適である。例えば、実質的に、100質量%(不可避的不純物を除いて全て)であるのが特に好適である。なお、溶射粒子は、このようにイットリウムオキシフッ化物を高い割合で含むことにより、よりパーティクル(微小片,異物)源となり易い他の物質を含むことが許容される。
また、溶射材料にイットリウムオキシフッ化物が含まれる場合、溶射粒子の全てがイットリウムオキシフッ化物であることが好適な一態様であり得る。しかしながら、イットリウムオキシフッ化物は溶射に対しては比較的不安定な相からなり、容易に酸化され得る。したがって、例えば、溶射材料は、イットリウムオキシフッ化物とともに、フッ化イットリウムを同時に含むことが好ましい一態様であり得る。フッ化イットリウムの割合は特に制限されないものの、例えば、フッ化イットリウムとイットリウムオキシフッ化物との合計に対して、23質量%以下の割合で含まれることが好ましい。溶射粒子に含まれるフッ化イットリウムは、溶射によって酸化されて、溶射皮膜中に酸化イットリウムを形成し得る。しかしながら、イットリウムオキシフッ化物と少量のフッ化イットリウムとが共存するときに、イットリウムオキシフッ化物の酸化がフッ化イットリウムにより抑制され得るために好適である。ただし、過剰なフッ化イットリウムの含有は、上記のとおりパーティクル源の増大につながることから、23質量%を超えて含まれると耐プラズマエロージョン性が低下されるために好ましくない。かかる観点から、フッ化イットリウムの含有割合は、両者の合計に対して20質量%以下であるのが好ましく、15質量%以下であるのがより好ましく、さらには10質量%以下、例えば5質量%以下であるのが好ましい。フッ化イットリウムの含有割合の下限は制限されないが、例えば、好適な例として、0.1質量%以上とすることができる。
また、溶射材料の全体に対し、フッ化イットリウムおよびイットリウムオキシフッ化物の合計の割合が高い方が、溶射皮膜を形成した際にパーティクルの発生源となり得る成分の生成量が抑制されるために好ましい。例えば、フッ化イットリウムおよびイットリウムオキシフッ化物は、合計で95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、98質量%以上が特に好ましい。例えば、実質的に100質量%であることが特に望ましい態様である。
溶射材料における各組成物(結晶相)の存在とその割合は、例えば、X線回折分析により確認することができる。例えば、X線回折分析により所定の結晶相が同定されることで、溶射材料に当該結晶相が含まれていることを確認することができる。また、例えば、各結晶相の割合は、結晶相X線回折分析により検出された結晶相のメインピークの高さ比を基に、検量線法等に基づき算出することができる。なお、本明細書において、XRD分析には、X線回折分析装置(RIGAKU社製、Ultima IV)を用い、X線源としてCuKα線(電圧20kV、電流10mA)を用い、走査範囲を2θ=10°〜70°、スキャンスピード:10°/min、サンプリング幅:0.01°、発散スリット:1°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット:1/6°、受光スリット:0.15mm、オフセット角度:0°として測定を行った。
なお、参考までに、各結晶相のメインピークは、Yについては29.157°付近に,YFについては27.881°付近に,YOFについては28.064°付近に,Yについては28.114°付近に検出される。
なお、溶射粒子に複数(例えばa;自然数としたとき、a≧2)の組成のイットリウムオキシフッ化物および/またはイットリウムのフッ化物が含まれる場合は、各組成の化合物の含有割合を以下の方法で測定し算出することができる。まず、X線回折分析により、溶射粒子を構成する化合物の組成を特定する。このとき、イットリウムオキシフッ化物は、その価数(元素比)まで同定する。
そして、例えば、溶射材料中にイットリウムオキシフッ化物が1種類存在し、かつ残りがフッ化イットリウムの場合は、溶射材料の酸素含有量を例えば酸素・窒素・水素分析装置(例えば、LECO社製,ONH836)によって測定し、得られた酸素濃度からイットリウムオキシフッ化物の含有量を定量することができる。
イットリウムオキシフッ化物が2種類以上存在したり、又は酸化イットリウム等の酸素を含む化合物が混在したりする場合は、例えば各化合物の割合を検量線法により定量することができる。具体的には、それぞれの化合物の含有割合を変化させたサンプルを数種類準備し、それぞれのサンプルについてX線回折分析を行い、メインピーク強度と各化合物の含有量との関係を示す検量線を作成する。そしてこの検量線を元に、測定したい溶射材料のXRDのイットリウムオキシフッ化物のメインピーク強度から含有量を定量する。
また、上記のイットリウムオキシフッ化物におけるモル比(F/O)およびモル比(Y/O)については、組成物ごとにモル比(Fa/Oa)およびモル比(Ya/Oa)を算出するとともに、そのモル比(Fa/Oa)およびモル比(Ya/Oa)に当該組成物の存在比をそれぞれ乗じて合計(加重和をとる)することで、溶射材料におけるイットリウムオキシフッ化物全体としてのモル比(F/O)およびモル比(Y/O)を得ることができる。なお、上記の溶射粒子を構成する材料は、機能性を高める目的等で、上記に例示した以外の元素が導入されていてもよい。
なお、溶射材料は、上記の薬液処理によりその組成が変化され得る。例えば、上述のように、酸化イットリウムは薬液処理により溶解されて消失する。
これに対し、フッ化イットリウムは、薬液処理により一部が王水により酸化されて酸化イットリウムに変化し得る。また、フッ化イットリウム(YF)は、これ以上フッ化されないため、薬液処理後も一部はそのままフッ化イットリウムとして残存し得る。
イットリウムオキシフッ化物は、一部が王水により酸化されて酸化イットリウムに変化し得る。また、イットリウムオキシフッ化物は、一部がフッ酸によりフッ化されて、フッ化イットリウムに変化し得る。また、イットリウムオキシフッ化物は、一部がフッ酸によりフッ化されて、よりフッ素の割合の高いフッ化イットリウムに変化し得る。また、イットリウムオキシフッ化物は、耐食性に優れるため、薬液処理後も一部はそのまま残存し得る。
すると、溶射材料がイットリウムオキシフッ化物を含むとき、上記の薬液処理後の溶射材料についてもイットリウムオキシフッ化物を含むことが好ましい。したがって、溶射材料は、薬液処理後の粉末についてX線回折分析を行ったとき、少なくともイットリウムオキシフッ化物に帰属される回折ピークが得られることが好ましい。また、薬液処理後の粉末についてX線回折分析を行ったとき、フッ化イットリウム以外のイットリウムオキシフッ化物の反応物に帰属される回折ピークが得られることが好ましい。
また一方で、溶射材料が薬液処理後にろ紙上に回収されるか否かは、例えば、溶射材料の形態にも影響され得る。
したがって、溶射材料の粉末の平均粒子径は特に制限されないが、薬液処理により浸食され難いとの観点から、比較的粗大な粒径であることが好ましい。溶射材料の平均粒子径は、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましい。しかしながら、大きすぎる溶射粒子は溶射皮膜に気泡を形成し得る。したがって、溶射材料の平均粒子径は、60μm以下とすることが好ましく、55μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。
なお、本明細書において、溶射材料に係る「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径(積算50%粒径;D50)である。
また、溶射材料の薬液処理による溶解を好適に抑制するとの観点から、溶射材料を構成する溶射粒子の表面には凹凸がなく、滑らかであることが好ましい。例えば、溶射材料について、細孔径が3μm以下の累積細孔容積は、15cm/g以下とすることができる。この累積細孔容積は、例えば10cm/g以下が好ましく、1cm/g以下がより好ましく、0.1cm/g以下が特に好ましい。なお、酸化され易い組成の溶射材料については、さらに、細孔径が3μm以下の累積細孔容積は、0.02cm/g以下が好ましく、0.01cm/g以下がより好ましく、0.009cm/g以下が特に好ましく、0.005cm/g以下がさらに好ましい。また、このように、溶射材料の細孔径3μm以下の累積細孔容積が小さいことで、緻密な溶射皮膜が形成できるために好ましい。
溶射材料の累積細孔容積は、水銀圧入法に基づき算出することができる。水銀圧入法は、水銀の表面張力が大きいことを利用し、粉末の細孔に水銀を浸入させるために加えた圧力と圧入された水銀量との関係から、メソ領域からマクロ領域にかけての細孔分布を求める方法である。かかる水銀圧入法に基づく細孔分布測定は、例えば、JIS R1655:2003(ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法)に基づいて実施することができる。例えば、溶射材料の累積細孔容積は、水銀圧入式ポロシメータ((株)島津製作所製、ポアサイザー9320)を用いて測定することができる。
また、ここに開示される溶射材料は、均質なマトリックスからなる独立した粒子からなる粉末(顆粒でない粉末)により構成されていてもよいし、複数の微小粒子が一体的に結合された顆粒から構成されていてもよい。ここで、溶射材料が顆粒状ではなく、均質なマトリックスからなる単一の独立した粒子の粉末により構成されている場合は、当該粒子が中実で、球形により近い安定した形状であることが好ましい。また、溶射材料が顆粒から構成されている場合、顆粒を構成する複数の微小粒子は、薬液処理等の際に容易に崩れないよう、互いに強固に結合していることが好ましい。例えば、微小粒子は個々の粒子の外形が明瞭でない程度に一体化されていることが好ましい。かかる観点から、例えば、溶射粒子の粉末は、破壊強度が10MPa以上の溶射粒子を含んでいることが好ましい。破壊強度は、50MPa以上であることがより好ましく、80MPa以上であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、破壊強度Ndは、微少圧縮試験機(島津製作所製、MCTE−500)にて測定した圧縮荷重Pと、溶射粒子の粒径dとから、次式:Nd=2.8×P/(πd);に基づき算出される値である。溶射粒子の粒径dとしては、平均粒子径を用いることができる。
以上の溶射材料は、当該粒子を構成するイットリウムのフッ化物および/またはイットリウムオキシフッ化物の出発原料を、溶融して固化させることにより製造することができる。このとき、目的の組成の溶射材料が得られるよう、出発原料の配合や、加熱条件等を調整することができる。出発原料としては、加熱により目的の組成物を実現し得る各種の材料を特に制限なく使用することができる。出発原料としては、例えば、イットリウム(Y),酸素(O)およびフッ素(F)を含む化合物や塩等を、当該元素(Y,O,F)が目的の溶射材料の組成を実現し得るよう化学量論組成で配合した混合物を用いることができる。例えば、具体的には、酸化イットリウム(Y)とフッ化イットリウム(YF)とイットリウムオキシフッ化物との少なくとも1つを、所定の化学量論組成で混合することで、所望の組成のイットリウムオキシフッ化物の出発原料とすることができる。例えば、酸化イットリウム(Y)とフッ化イットリウム(YF)とを所望の組成のイットリウムオキシフッ化物が得られるよう、化学量論組成で混合した混合物を出発原料としてもよい。また、例えば、出発原料としては、目的の組成のフッ化イットリウムおよび/またはイットリウムオキシフッ化物をそのまま単独で、あるいは混合して、用いることもできる。
この出発原料を、目的の組成を実現し得る条件で加熱したのち、冷却する。フッ化イットリウムとイットリウムオキシフッ化物とは酸化され易い。特にイットリウムオキシフッ化物は、様々な組成の化合物が存在するが、いずれも熱力学的に不安定であって酸化され易い。したがって、目的の組成のイットリウムのフッ化物および/またはイットリウムオキシフッ化物を得るためには、不活性雰囲気で加熱することが好ましい。不活性雰囲気としては、酸素を含まない雰囲気であることが好ましく、例えば、窒素や、ヘリウム(He),ネオン(Ne),アルゴン(Ar)等の希ガス、あるいはこれらの混合ガスの雰囲気とすることができる。加熱の温度は、目的の組成のイットリウムのフッ化物および/またはイットリウムオキシフッ化物の融点(Tm)に近い温度(例えば、Tm±300℃程度、より好ましくはTm±200℃程度、)とすることが例示される。例えば、1000℃以上の温度で加熱することが好ましい。なお、流動性の良い球形の溶射粒子から構成される溶射材料を得るためには、例えば、スプレードライ等の手法により、液滴状に分配された出発原料を溶融して冷却することが好ましい。なお、冷却後の溶射材料は、そのまま溶射材料として用いても良いし、適切な平均粒子径となるよう、粉砕、分級、解砕などの手段を経て、溶射材料としても良い。なお、粉砕を行うと、粉砕機から溶射材料への不純物の混入の恐れがある。この点から、球形以外の、非球形の溶射粒子から構成される溶射材料を得る場合であっても、スプレードライ法を利用することが好ましい。これにより、ここに開示される溶射材料を好適に得ることができる。
以上のここに開示される溶射材料を溶射することで、溶射皮膜を形成することができる。この溶射皮膜は、基材の表面に備えられることで、例えば当該基材に対して環境遮断性(典型的には、耐プラズマエロージョン性)を付与することができる。溶射の対象である基材(被溶射材)については特に限定されない。例えば、かかる溶射材料の溶射に供したときに、所望の耐性を備え得る材料からなる基材であれば、その材質や形状等は特に制限されない。かかる基材を構成する材料としては、例えば、各種の金属または合金等が挙げられる。具体的には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、金、銀、ビスマス、マンガン、亜鉛、亜鉛合金等が例示される。なかでも、汎用されている金属材料のうち比較的熱膨張係数の大きい、各種SUS材(いわゆるステンレス鋼であり得る。)等に代表される鉄鋼、インコネル等に代表される耐熱合金、インバー,コバール等に代表される低膨張合金、ハステロイ等に代表される耐食合金、軽量構造材等として有用な1000シリーズ〜7000シリーズアルミニウム合金等に代表されるアルミニウム合金等からなる基材が挙げられる。かかる基材は、例えば、半導体デバイス製造装置を構成する部材であって、反応性の高い酸素ガスプラズマやハロゲンガスプラズマに晒される部材であってよい。
溶射材料を溶射する溶射方法としては、公知の各種の溶射方法を採用することができる。例えば、好適には、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、フレーム溶射法、爆発溶射法、エアロゾルデポジション法等の溶射方法を採用することが例示される。
プラズマ溶射法とは、溶射材料を軟化または溶融するための溶射熱源としてプラズマ炎を利用する溶射方法である。電極間にアークを発生させ、かかるアークにより作動ガスをプラズマ化すると、かかるプラズマ流はノズルから高温高速のプラズマジェットとなって噴出する。プラズマ溶射法は、このプラズマジェットに溶射材料を投入し、加熱、加速して基材に堆積させることで溶射皮膜を得るコーティング手法一般を包含する。なお、プラズマ溶射法は、大気中で行う大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)や、大気圧よりも低い気圧で溶射を行う減圧プラズマ溶射(LPS:low pressure plasma spraying)、大気圧より高い加圧容器内でプラズマ溶射を行う加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等の態様であり得る。かかるプラズマ溶射によると、例えば、一例として、溶射材料を5000℃〜10000℃程度のプラズマジェットにより溶融および加速させることで、溶射材料を300m/s〜600m/s程度の速度にて基材へ衝突させて堆積させることができる。
また、高速フレーム溶射法としては、例えば、酸素支燃型高速フレーム(HVOF)溶射法、ウォームスプレー溶射法および空気支燃型(HVAF)高速フレーム溶射法等を考慮することができる。
HVOF溶射法とは、燃料と酸素とを混合して高圧で燃焼させた燃焼炎を溶射のための熱源として利用するフレーム溶射法の一種である。燃焼室の圧力を高めることにより、連続した燃焼炎でありながらノズルから高速(超音速であり得る。)の高温ガス流を噴出させる。HVOF溶射法は、このガス流中に溶射材料を投入し、加熱、加速して基材に堆積させることで溶射皮膜を得るコーティング手法一般を包含する。HVOF溶射法によると、例えば、一例として、溶射材料を2000℃〜3000℃の超音速燃焼炎のジェットに供給することで、溶射材料を軟化または溶融させて、500m/s〜1000m/sという高速度にて基材へ衝突させて堆積させることができる。高速フレーム溶射で使用する燃料は、アセチレン、エチレン、プロパン、プロピレンなどの炭化水素のガス燃料であってもよいし、灯油やエタノールなどの液体燃料であってもよい。また、溶射材料の融点が高いほど超音速燃焼炎の温度が高い方が好ましく、この観点では、ガス燃料を用いることが好ましい。
また、上記のHVOF溶射法を応用した、いわゆるウォームスプレー溶射法と呼ばれている溶射法を採用することもできる。ウォームスプレー溶射法とは、典型的には、上記のHVOF溶射法において、燃焼炎に室温程度の温度の窒素等からなる冷却ガスを混合する等して燃焼炎の温度を低下させた状態で溶射することで、溶射皮膜を形成する手法である。溶射材料は、完全に溶融された状態に限定されず、例えば、一部が溶融された状態であったり、融点以下の軟化状態にあったりするものを溶射することができる。このウォームスプレー溶射法によると、例えば、一例として、溶射材料を1000℃〜2000℃の超音速燃焼炎のジェットに供給することで、溶射材料を軟化または溶融させて、500m/s〜1000m/sという高速度にて基材へ衝突させて堆積させることができる。
HVAF溶射法とは、上記のHVOF溶射法において、支燃ガスとしての酸素に代えて空気を用いるようにした溶射法である。HVAF溶射法によると、HVOF溶射法と比較して溶射温度を低温とすることができる。例えば、一例として、溶射材料を1600℃〜2000℃の超音速燃焼炎のジェットに供給することにより、この溶射材料を軟化または溶融させて、溶射粒子を500m/s〜1000m/sという高速度にて基材へ衝突させて堆積させることができる。
なお、ここに開示される溶射材料は、イットリウムのフッ化物およびオキシフッ化物の少なくとも一方を含む粉末でありながら、均質なマトリックスからなる独立した粒子により構成されている。したがって、例えば、この溶射材料は、溶射に供された場合でも酸化され難い。したがって、この溶射材料を溶射して得られる溶射皮膜は、例えば、主としてイットリウムのフッ化物およびオキシフッ化物から構成され得る。例えば、主成分が、イットリウムのフッ化物またはオキシフッ化物であり得る。オキシフッ化物は、溶射材料と同一の組成のものであっても良いし、その一部または全部が酸化された(酸素の割合の多い)オキシフッ化物であっても良い。ここで、主成分とは、溶射皮膜を構成する構成成分のうち、最も含有量が多い成分であることを意味している。具体的には、例えば、当該成分が溶射皮膜全体の50質量%以上を占めることを意味し、好ましくは75質量%以上、例えば80質量%以上を占めるものであってよい。イットリウムオキシフッ化物は、耐プラズマエロージョン性、特にハロゲン系プラズマに対する耐エロージョン特性に優れる。したがって、イットリウムオキシフッ化物を主成分とする溶射皮膜は、極めて耐プラズマエロージョン性に優れたものであり得る。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
(実施例)
下記の表1の例1〜9に示す組成の粉末状の溶射材料を調製した。具体的には、平均粒子径が3μmの酸化イットリウム(Y)粉末と、平均粒子径が3μmのフッ化イットリウム(YF)粉末とを用い、これらの粉末の割合を目的の化合物の化学量論組成となるように様々に変化させて配合することで、出発原料とした。そしてこの出発原料を、適切な分散媒(例えば、水とエタノールとの混合分散媒)に分散させて噴霧液を用意した後、超音波噴霧機等により噴霧することで、出発原料を含む液滴を形成した。かかる液滴を、例えば、気流に載せて連続炉を通過させながら、乾燥させた後、非酸化性(Ar)雰囲気又は大気雰囲気のもと、表1に示す所定の温度で2時間程度加熱し、冷却させた。これにより、例1〜9の溶射材料を作製した。
得られた例1〜9の溶射材料の詳細を表1に示した。
表1中の「組成」欄には、各溶射材料を構成する溶射粒子(目的の化合物)の組成を示した。
表1中の「平均粒子径」欄には、各溶射材料の平均粒子径を測定した結果を示した。
表1中の「破壊強度」欄には、各溶射材料の破壊強度を測定した結果を示した。
表1中の「累積細孔容積」欄には、各溶射材料の細孔径が3μm以下の累積細孔容積を測定した結果を示した。
表1中の「粒子形態」欄には、各溶射材料をSEM観察したときの溶射粒子の形態を示した。同欄中の「顆粒」とは、1つの独立した粒子中に、原料として用いた酸化イットリウム粉末およびフッ化イットリウム粉末に起因すると思われるより微小な粒子の形態が明確に確認できたことを示している。「溶融粉」とは、原料として用いた粉末の形態をほぼ確認することができず、原料粉末が溶融して概ね滑らかな表面の1つの独立した粒子を形成していると判断されたことを示している。参考のために、例7の溶射粒子(溶融粉)のSEM像を図1に示した。
また、上記で用意した例1〜9の溶射材料についてXRD分析することにより、溶射材料を構成する化合物を調べた。その結果を、表2の「XRDメインピーク比」の「薬液処理前」の欄に示した。当該欄には、各溶射材料についてX線回折分析により検出された結晶相のメインピークの高さの比を、100分率で示している。同欄中、「Y」は酸化イットリウムについての、「YF」はフッ化イットリウムについての、「YOF」は化学組成がYOF(Y)で表されるイットリウムオキシフッ化物についての、「Y」は化学組成がYで表されるイットリウムオキシフッ化物についてのメインピーク比を示している。参考のために、例7の溶射材料について得られたXRD回折パターンを図2に示した。
次いで、上記で用意した例1〜9の溶射材料に対して、薬液処理を行った。すなわち、各溶射材料1gと、王水3mLおよびフッ酸0.5mLからなる薬液と、を密閉容器に入れて密閉状態とし、オートクレーブにて150℃で24時間保持した。その後、室温まで冷却した密閉容器をオートクレーブから取り出し、内容物をろ過した。このとき、ろ紙としては、エアサンプリング用硝子繊維ろ紙(GEヘルスケア・ジャパン(株)製、ワットマン石英濾紙QM−A)を用いた。このろ紙は、EPM2000規格に適合したろ紙であり、粒子保持能(液体)が2.2μm、捕集効率が98%、厚さ:450μmのものである。そしてろ過物を純水にて水洗したのち、XRD分析することにより、ろ過物を構成する化合物を調べた。その結果を、表2の「XRDメインピーク比」の「薬液処理後」の欄に示した。当該欄には、「薬液処理前」と同様に、薬液処理後に回収された各溶射材料についてX線回折分析により検出された結晶相のメインピークの高さの比を、100分率で示している。なお、同欄中の「回収不可」は、ろ紙上に薬液処理後の溶射材料を回収できなかったことを示す。また、参考のために、例7の薬液処理後の溶射材料のSEM像と、当該薬液処理後の溶射材料について得られたXRD回折パターンとを図3および図4にぞれぞれ示した。
さらに、上記で用意した例1〜9の溶射材料を用いて下記の溶射条件にてプラズマ溶射を行った。そして溶射により形成された溶射皮膜の特性について調べ、その結果を表2に示した。
<溶射条件>
まず、被溶射材である基材としては、アルミニウム合金(Al6061)からなる板材(70mm×50mm×2.3mm)を用意し、褐色アルミナ研削材(A#40)によるブラスト処理を施して用いた。プラズマ溶射は、市販のプラズマ溶射装置(Praxair Surface Technologies社製,SG−100)を用いて行った。プラズマ発生条件は、プラズマ作動ガスとしてアルゴンガス50psi(0.34MPa)とヘリウムガス50psi(0.34MPa)とを用い、電圧37.0V,電流900Aの条件でプラズマを発生させた。なお、溶射装置への溶射用材料の供給には、粉末供給機(Praxair Surface Technologies社製,Model1264型)を用い、溶射用材料を溶射装置に20g/minの速度で供給し、厚さ200μmの溶射皮膜を形成した。なお、溶射ガンの移動速度は24m/min、溶射距離は90mmとした。
表2中の「気孔率」欄には、各溶射皮膜の気孔率を示した。なお、溶射皮膜の気孔率は、以下の手順で測定した。すなわち、溶射皮膜の任意の断面組織をSEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−3000N)により観察して得た2000倍の平面視像について、画像解析ソフト(MOUNTECH Co.,Ltd.製、Mac−View)により気孔部と固相部とを分離する2値化を行い、これを解析することで、溶射皮膜の断面における気孔部の面積の割合を算出した。なお、解析画像としては、溶射皮膜の厚みが30ピクセル以上となる解像度の画像を用いることが好ましい。
表2中の「耐プラズマエロージョンレート」欄には、得られた溶射皮膜に対して下記のプラズマ暴露試験を施したときの溶射皮膜の厚みの減少量に基づき、溶射皮膜がエッチングされた速度を算出した結果を示した。
表2中の「耐プラズマエロージョン性」欄には、耐プラズマエロージョンレートが40nm/min以下の場合を「◎(優良)」、40nm/minを超えて50nm/min以下の場合を「○(良)」、50nm/minを超える場合を「×(不良)」として示した。
<プラズマ暴露試験>
溶射皮膜のプラズマ暴露は、次のようにして行った。すなわち、まず、基材上に、20mm×20mmの溶射皮膜を形成し、溶射皮膜の表面を皮膜厚さが2mmとなるまで鏡面研磨したのち、溶射皮膜の四隅をマスキングテープでマスキングすることで試験片を用意した。そしてこの試験片を、平行平板型の半導体デバイス製造装置(ULVAC製、NLD−800)のチャンバー内のステージに設置された直径300mmのシリコンウエハ上に載置した。続いて、下記の表3に示す条件で、フッ素系プラズマと塩素系プラズマとを、所定のサイクルで繰り返し発生させることで、シリコンウエハおよび溶射皮膜の中央部分をプラズマエッチングした。上記プラズマによる暴露時間は、インターバル(クーリングサイクル時間)を含めて0.9時間とした。その後、溶射皮膜の厚みの減少量から、溶射皮膜がエッチングされた速度を算出した。なお、溶射皮膜の厚みの減少量は、表面粗さ測定機(ミツトヨ製、SV−3000CNC)にて、マスキングした部分と、プラズマ暴露面との、段差を計測することで求めた。
表2に示したように、薬液処理により溶解してしまった例8および例9の溶射材料から形成された溶射皮膜は、プラズマエッチングレートが著しく高く、耐プラズマエロージョン性に劣ることが確認できた。また、このような例8および例9の溶射材料は、例えば例5の溶射材料よりも多くのイットリウムオキシフッ化物を含有している。しかしながら、溶射材そのものに酸化イットリウムを含むことから、形成された溶射皮膜がプラズマにより腐食され易くなったと考えられる。
これに対して、薬液処理後にろ過により回収できた例1〜7の溶射材料については、形成された溶射皮膜のプラズマエッチングレートが低く、耐プラズマエロージョン性に優れていることが確認できた。
なお、例1〜4、6〜7の溶射材料は、イットリウムオキシフッ化物の単一相からなる粉末により構成されており、他の化合物は全く含まれていない。例えば、図2に示されるように、例7の溶射材料は、結晶性の良好なYのみから構成されていることが確認された。また、例5の溶射材料は、イットリウムオキシフッ化物(Y)とフッ化イットリウムとの混合粉末により構成されており、他の化合物は全く含まれていないことが確認された。
しかしながら、例1〜7の溶射材料は、上記の薬液処理により、その組成が変化することが確認された。例えば、例1〜2の溶射材料は、いずれもYOFの単相から構成されているが、粒子の形態が異なるものであった。つまり、例1の溶射材料は、累積細孔容積が極めて小さく、表面が平滑な粒子から構成されている。これに対し、例2の溶射材料は、累積細孔容積が大きく、顆粒状の粒子から構成されている。したがって、例1の溶射材料については、薬液処理により、一部がYFとYとにフッ化されるが、Yからなるオキシフッ化イットリウムが残存し得ることから、耐食性に優れる形態を有していることが解った。その結果、例1の溶射材料から形成された溶射皮膜については耐プラズマエロージョンレートが低く、耐プラズマエロージョン性が比較的良好であった。これに対し、例2の溶射材料は、YOFの一部がYFにフッ化されて残存し、残部はYとなって薬液に溶解されたものと考えられる、若干耐食性に劣る形態を有していることがわかった。その結果、例2の溶射材料から形成された溶射皮膜についても耐プラズマエロージョンレートが若干高くなってしまうことがわかった。
例3〜4の溶射材料は、いずれもYの単相から構成されているが、平均粒子径が異なるものであった。これらの溶射材料は顆粒状であるため、薬液処理後の溶射材料の組成については、平均粒子径の差による影響はあまり見られなかった。また、溶射材料は顆粒状であることから、全てのYがYFとYとにフッ化および分解されたものと考えられる。しかしながら、顆粒の平均粒子径がより小さい例4の溶射材料により形成された溶射皮膜は、より緻密なものとなることがわかった。
例5〜7の溶射材料は、いずれも薬液処理によりYFとYとにフッ化されたことがわかった。図3に示すように、例7の溶射材料は、表面が溶解(腐食)されて、凹凸が若干形成されていることが確認できた。また、図4に示すように、薬液処理後の例7の溶射材料にはYF3が生じているのが確認された。なお、例5の溶射材料は、顆粒形態であることから、溶融粒子の形態の例6および例7の溶射材料よりも薬液処理によりフッ化され易く、YFの占める割合がより多くなることがわかった。しかしながら、これらの溶射材料はいずれも薬液処理後にYからなるオキシフッ化イットリウムが残存し得ることから、耐食性に優れるといえる。その結果、形成された溶射皮膜についても耐プラズマエロージョンレートが40nm/min以下と低く、耐プラズマエロージョン性が極めて良好であることがわかった。
なお、例1と例5の溶射材料の比較では、薬液処理後に、例1の方がより多くのYが残存し、腐食され難い形態の粒子から構成されていることがわかった。しかしながら、溶射皮膜については、例5の溶射材料により形成されたものの方が耐エロージョン性に優れていた。この理由については明確ではないものの、例5の溶射材料はそのもの自体がより対図真エロージョン性に優れるYから構成されており、薬液処理後もYはその組成が変化しない部分がおおいことが有効に寄与していると考えられる。
また、例3〜4の溶射材料は顆粒のY単相から構成され、例5の溶射材料は顆粒のYおよびYFの混合物から構成されている。しかしながら、例3〜4の溶射材料は薬液処理により全部がYFにフッ化されたのに対し、例5についてはYの一部が残存されていた。また、形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性は例5の場合が有意に高い。このことから、Yは酸化され易い顆粒の状態で存在する場合には、YFとの混合物の状態で存在することが、Yの更なるフッ化が抑制されるものと考えられる。
以上のように、ここに開示される薬液処理により、溶射材料から形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を評価し得ることがわかった。延いては、耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜を形成し得る溶射材料を評価し得ることが確認された。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。

Claims (8)

  1. イットリウムのフッ化物およびオキシフッ化物の少なくとも一方を含む粉末であって、
    前記粉末に対して、下記の薬液処理:
    前記粉末1gと、王水3mLおよびフッ酸0.5mLからなる薬液とを密閉容器に密閉状態で収容し、150℃で24時間保持したのち、粒子保持能が2.2μmのろ紙を用いて前記密閉容器中の内容物をろ過し、純水にて水洗する;
    を施したとき、前記粉末の少なくとも一部が、前記ろ紙上に回収される、溶射材料。
  2. 前記粉末はイットリウムのフッ化物とイットリウムオキシフッ化物とを含む、請求項1に記載の溶射材料。
  3. 前記粉末についてX線回折分析を行ったとき、酸化イットリウムに帰属される回折ピークは得られない、請求項1または2に記載の溶射材料。
  4. 前記薬液処理後に回収された前記粉末についてX線回折分析を行ったとき、フッ化イットリウム以外の化合物に帰属される回折ピークが得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶射材料。
  5. 前記粉末は少なくともイットリウムオキシフッ化物を含み、
    前記薬液処理後の前記粉末についてX線回折分析を行ったとき、少なくともイットリウムオキシフッ化物に帰属される回折ピークが得られる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶射材料。
  6. 前記粉末は、破壊強度が10MPa以上の溶射粒子を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶射材料。
  7. 平均粒子径は、5μm以上60μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶射材料。
  8. 前記粉末における細孔径が3μm以下の累積細孔容積は、0.02cm/g以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の溶射材料。
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