以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態に係るトナーは、少なくとも結着樹脂を含有するトナー母体粒子を含有する。トナー母体粒子は、結着樹脂によって主に構成され、必要に応じて着色剤や離型剤などの種々の添加剤を含有する粒子である。まず、結着樹脂について説明する。
上記結着樹脂は、非晶性樹脂と、ハイブリッド結晶性樹脂を含む。当該ハイブリッド結晶性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。上記ハイブリッド結晶性樹脂は、ビニル系重合セグメントおよびポリエステル重合セグメントが化学的に結合した構造を有する。上記ハイブリッド結晶性樹脂の分子構造は限定されず、例えば、ビニル系重合セグメントを主鎖(幹)とし、ポリエステル重合セグメントを側鎖(枝)とするグラフト共重合体であってもよいし、両重合セグメントが鎖状に連なっていてもよい。また、上記ハイブリッド結晶性樹脂は、本実施の形態の効果を奏する範囲において、上記両重合セグメント以外の他の重合セグメント(例えば、非晶性ポリエステル重合セグメントや結晶性アクリル樹脂セグメントなど)をさらに含んでいてもよい。好ましくは、上記グラフト共重合体である。
上記ポリエステル重合セグメントは、上記ハイブリッド結晶性樹脂における、ポリエステルに由来する部分を示し、結晶性を有する(以下、当該ポリエステルを「結晶性ポリエステル」と言う)。上記ビニル系重合セグメントとは、上記ハイブリッド結晶性樹脂における、ビニル系樹脂に由来する部分を示し、結晶性を有さない。より具体的には、上記ポリエステル重合セグメントは、上記ビニル系樹脂で構成された主鎖に結合した、あるいは上記ビニル系樹脂で構成された側鎖に結合された結晶性ポリエステルの部分であり、上記ビニル系重合セグメントは、上記結晶性ポリエステルで構成された上記主鎖に結合した、あるいは上記結晶性ポリエステルで構成された側鎖に結合された非晶性樹脂の部分である。
上記結晶性ポリエステルにおける「結晶性」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することを言う。当該「明確な吸熱ピーク」とは、具体的には、DSCにおいて、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。なお、上記半値幅が小さいほど、上記樹脂の結晶性が高い。
上記結晶性ポリエステルは、一種でもそれ以上でもよい。上記結晶性ポリエステルの融点は、低温定着性と高温保管性を確保する観点から、60〜85℃であることが好ましく、同様の観点から70〜80℃であることがより好ましい。
上記結晶性ポリエステルは、その融点を調整しやすい。当該結晶性ポリエステルの融点は、樹脂組成(例えばモノマーの種類)によって制御することができる。当該結晶性ポリエステルは、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの脱水縮合反応による公知の合成法によって入手可能である。
上記多価カルボン酸の例には、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;それらの酸無水物;およびそれらの炭素数1〜3のアルキルエステル;が含まれる。上記多価カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
上記多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;および、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上のアルコール;が含まれる。上記多価アルコールは、脂肪族ジオールであることが好ましい。
上記ビニル系重合セグメントにおける上記ビニル系樹脂は、ビニル基を有する化合物またはその誘導体を含むモノマーの重合によって生成する樹脂であり、一種でもそれ以上でもよい。当該ビニル系樹脂は、結晶性を実質的に有しておらず、例えばその樹脂中に非晶部を含む。上記ビニル系樹脂は、ビニル基を有するモノマーの付加重合体の構造を有していればよく、その一部が変性されていてもよい。上記ビニル系樹脂も、例えば公知の合成法によって入手可能である。
上記ビニル系樹脂の例には、スチレン−(メタ)アクリル樹脂が含まれる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の総称であり、それらの一方または両方を意味する。
上記スチレン−(メタ)アクリル樹脂は、ラジカル重合性の不飽和結合を有する化合物のラジカル重合体の分子構造を有し、例えば、当該当該化合物のラジカル重合によって合成することが可能である。上記化合物は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、スチレンおよびその誘導体、および、(メタ)アクリル酸およびその誘導体が含まれる。
上記スチレンおよびその誘導体の例には、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレンおよび3,4−ジクロロスチレンが含まれる。
上記(メタ)アクリル酸およびその誘導体の例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびメタクリル酸ジエチルアミノエチルが含まれる。
任意の重合セグメントのうち、上記結晶性アクリル樹脂セグメントは、例えば、炭素間不飽和二重結合を有するモノマーのラジカル付加重合による公知の方法によって入手可能である。当該モノマーの例には、ステアリルメタクリレートが含まれる。また、任意の重合セグメントのうち、上記非晶性のポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、フマル酸およびトリメリット酸が含まれる。また、上記非晶性のポリエステル樹脂を構成する多価アルコールの例には、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物が含まれる。
上記重合セグメント同士の結合は、例えばエステル結合であり、あるいは不飽和基の付加反応による共有結合である。このような化学的な結合は、例えば、上記重合セグメントのモノマーの一部に両反応性モノマーを用いることによってもたらされる。当該両反応性モノマーとは、ポリエステル重合セグメントを生成する際の重縮合反応に対して反応性を有する官能基と、ビニル系重合セグメントを生成する際のラジカル重合反応に対して反応性を有する官能基との両方を有するモノマーである。両反応性モノマーは、一種でもそれ以上でもよく、その例には、(メタ)アクリル酸などの、不飽和二重結合とカルボキシル基および水酸基の一方または両方とを有する化合物が含まれる。
たとえば、グラフト共重合体である上記ハイブリッド結晶性樹脂であれば、上記化学的な結合は、主鎖用のモノマーおよび側鎖用のモノマーのそれぞれと重合反応する部位を有する両反応性モノマーを主鎖用モノマーに配合して、これらのモノマーの重合によって主鎖となる樹脂ユニットを生成し、次いで、当該樹脂ユニットの存在下で側鎖用モノマーを重合させることによって、製造することが可能である。
さらに、ハイブリッド結晶性樹脂には、スルホン酸基、カルボキシル基、ウレタン基などの置換基をさらに導入することができる。当該置換基は、上記ポリエステル重合セグメントに導入されてもよいし、上記ビニル系重合セグメントに導入されてもよい。
上記ハイブリッド結晶性樹脂における主鎖および側鎖の構造および量は、例えば、当該結着樹脂またはその加水分解物を、核磁気共鳴(NMR)やエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)などの公知の機器分析法によって分析することにより確認または推定することができる。
また、上記の重合セグメントの合成では、得られる樹脂の分子量を調整するための連鎖移動剤が当該重合セグメントのモノマーなどの原料にさらに含まれていてもよい。上記連鎖移動剤は、一種でもそれ以上でもよく、本実施形態の効果を奏する範囲内において、上記の目的を達成可能な量で用いられる。当該連鎖移動剤の例には、2−クロロエタノール、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン、および、スチレンダイマー、が含まれる。
上記ハイブリッド結晶性樹脂における上記ポリエステル重合セグメントの含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、上記ハイブリッド結晶性樹脂における上記ポリエステル重合セグメントの含有量は、少なすぎると低温定着性が不十分となることがあり、多すぎると高温保管性が不十分となることがある。このような観点から、上記含有量は、60〜97質量%であることが好ましく、80〜95質量%であることがより好ましい。
上記ハイブリッド結晶性樹脂における上記ビニル系重合セグメントの含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、上記ハイブリッド結晶性樹脂における上記ビニル系重合セグメントの含有量は、少なすぎると耐破砕性が不十分となることがあり、多すぎると低温定着性が不十分となることがある。このような観点から、当該含有量は、3〜40質量%であることが好ましく、高温保存性および帯電均一性を高める観点から5〜20質量%であることがより好ましい。
また、上記ハイブリッド結晶性樹脂は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上記両樹脂ユニット以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分の例には、他の樹脂ユニットおよびトナー母体粒子へ添加されるべき各種添加剤が含まれる。
上記非晶性樹脂は、上記ハイブリッド結晶性樹脂とともに結着樹脂として用いられ、上記トナー母体粒子を構成する。上記非晶性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。当該非晶性樹脂には、ビニル系重合セグメントで前述したビニル系樹脂であってよく、あるいは、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、非晶性のポリエステル樹脂、および、その一部が変性された変性ポリエステル樹脂、であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。上記非晶性樹脂も、例えば公知の合成法によって入手可能である。上記非晶性樹脂は、上記ハイブリッド結晶性樹脂中の上記ビニル系重合セグメントと同じビニル系樹脂であることが、低温安定性および高温保管性を高める観点から好ましい。
上記ハイブリッド結晶性樹脂の含有量は、トナー母体粒子に対して3〜30質量%である。上記含有量が少なすぎると、低温定着性が不十分になることがあり、上記含有量が多すぎると、高温保管性が不十分になることがある。
また、上記非晶性樹脂の含有量は、トナー母体粒子に対して50〜85質量%であることが好ましい。上記含有量が少なすぎると、高温保管性が不十分となることがあり、上記含有量が多すぎると、低温定着性が不十分となることがある。
上記非晶性樹脂が上記ビニル系樹脂である場合、当該ビニル系樹脂の含有量は、トナー母体粒子に対して50〜85質量%であることが、低温定着性および高温保管性を高める観点から好ましく、65〜80質量%であることが、さらに耐破砕性を高める観点からより好ましい。
上記結着樹脂中の上記の各樹脂あるいは各樹脂セグメントの含有量は、例えば、NMRやメチル化反応熱分解−ガスクロマトグラフ/質量分析(P−GC/MS)などの公知の機器分析法を利用して特定し、または推定することが可能である。
上記トナー母体粒子は、本実施形態の効果を奏する範囲において、結着樹脂以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分の例には、着色剤、離型剤および帯電制御剤が含まれる。当該他の成分は、一種でもそれ以上でもよい。
上記着色剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該着色剤には、カラートナーの着色剤に用いられる公知の無機または有機着色剤が用いられる。当該着色剤の例には、カーボンブラック、磁性体、顔料および染料が含まれる。
上記カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックが含まれる。上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、および、フェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物、が含まれる。
上記顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、および、中心金属が亜鉛やチタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料、が含まれる。
上記染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93および同95が含まれる。
上記離型剤(ワックス)の例には、炭化水素系ワックスおよびエステルワックスが含まれる.当該炭化水素系ワックスの例には、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびパラフィンワックスが含まれる。また、上記エステルワックスの例には、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニルおよびクエン酸ベヘニルが含まれる。
上記帯電制御剤の例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、および、サリチル酸金属塩あるいはその金属錯体、が含まれる。
上記トナー母体粒子は、その粒径および円形度の適切な制御の観点から、粉砕トナーよりも、水系媒体中で調製される重合トナーであることが好ましく、乳化会合凝集法によるトナー母体粒子であることがより好ましい。
上記トナー粒子は、例えば、上記トナー母体粒子と、その表面に存在する外添剤とを有する。トナー粒子が外添剤を含有することは、トナー粒子の流動性や帯電性などを制御する観点から好ましい。当該外添剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該外添剤の例には、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子および酸化ホウ素粒子が含まれる。
上記外添剤は、ゾル−ゲル法で作製されたシリカ粒子を含むことがより好ましい。ゾル−ゲル法で作製されたシリカ粒子は、粒子径分布が狭いという特徴を有しているので、トナー母体粒子に対する外添剤の付着強度のバラツキを抑制する観点から好ましい。
また、上記シリカ粒子の個数平均一次粒子径は、70〜200nmであることが好ましい。個数平均一次粒子径が上記範囲内にあるシリカ粒子は、他の外添剤に比べて大きい。したがって、二成分現像剤においてスペーサーとしての役割を有する。よって、二成分現像剤が現像装置中で撹拌されているときに、より小さな他の外添剤がトナー母体粒子に埋め込まれることを防止する観点から好ましい。また、トナー母体粒子同士の融着を防止する観点からも好ましい。
上記外添剤の個数平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡で撮影した画像の画像処理によって求めることが可能であり、例えば、分級や分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記外添剤は、その表面が疎水化処理されていることが好ましい。当該疎水化処理には、公知の表面処理剤が用いられる。当該表面処理剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、シランカップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、そのエステル化物およびロジン酸が含まれる。
上記シランカップリング剤の例には、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシランおよびデシルトリメトキシシランが含まれる。上記シリコーンオイルの例には、環状化合物や、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンなどが含まれ、より具体的には、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、および、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、が含まれる。
また、上記シリコーンオイルの例には、側鎖または片末端や両末端、側鎖片末端、側鎖両末端などに変性基を導入した反応性の高い、少なくとも末端を変性したシリコーンオイルが含まれる。上記変性基の種類は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、アルコキシ、カルボキシル、カルビノール、高級脂肪酸変性、フェノール、エポキシ、メタクリルおよびアミノが含まれる。
上記外添剤の添加量は、トナー粒子全体に対して0.1〜10.0質量%が好ましい。より好ましくは1.0〜3.0質量%である。
上記トナーは、一成分現像剤であれば上記トナー粒子そのものにより構成され、二成分現像剤であれば上記トナー粒子およびキャリア粒子により構成される。当該二成分現像剤におけるトナー粒子の含有量(トナー濃度)は、通常の二成分現像剤と同様でよく、例えば4.0〜8.0質量%である。
上記キャリア粒子は、磁性体により構成される。当該キャリア粒子の例には、当該磁性体からなる芯材粒子と、その表面を被覆する被覆材の層とを有する被覆型キャリア粒子、および、樹脂中に磁性体の微粉末が分散されてなる樹脂分散型のキャリア粒子、が含まれる。上記キャリア粒子は、感光体へのキャリア粒子の付着を抑制する観点から、上記被覆型キャリア粒子であることが好ましい。
上記芯材粒子は、磁性体、例えば、磁場によってその方向に強く磁化する物質、によって構成される。当該磁性体は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、鉄、ニッケルおよびコバルトなどの強磁性を示す金属、これらの金属を含む合金もしくは化合物、および、熱処理することにより強磁性を示す合金、が含まれる。
上記強磁性を示す金属またはそれを含む化合物の例には、鉄、下記式(a)で表されるフェライト、および、下記式(b)で表されるマグネタイト、が含まれる。式(a)、式(b)中のMは、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Mg、Zn、CdおよびLiの群から選ばれる一以上の1価または2価の金属を表す。
式(a):MO・Fe2O3
式(b):MFe2O4
また、上記熱処理することにより強磁性を示す合金または金属酸化物の例には、マンガン−銅−アルミニウムおよびマンガン−銅−錫などのホイスラー合金、および、二酸化クロム、が含まれる。
上記芯材粒子は、上記フェライトであることが好ましい。これは、被覆型キャリア粒子の比重は、芯材粒子を構成する金属の比重よりも小さくなることから、現像装置内における撹拌の衝撃力をより小さくすることができるためである。
上記被覆材は、一種でもそれ以上でもよい。被覆材には、キャリア粒子の芯材粒子の被覆に利用される公知の樹脂を用いることができる。当該被覆材は、シクロアルキル基を有する樹脂であることが、キャリア粒子の水分吸着性を低減させる観点、および、被覆層の芯材粒子との密着性を高める観点、から好ましい。当該シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基およびシクロデシル基が含まれる。中でも、シクロヘキシル基またはシクロペンチル基が好ましく、被覆層とフェライト粒子との密着性の観点からシクロへキシル基がより好ましい。
上記シクロアルキル基を有する樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10,000〜800,000であり、より好ましくは100,000〜750,000である。当該樹脂における上記シクロアルキル基の含有量は、例えば10〜90質量%である。上記樹脂中の当該シクロアルキル基の含有量は、例えば、P−GC/MSや1H−NMRなどの公知の機器分析法を利用して求めることが可能である。
上記二成分現像剤は、上記トナー粒子と上記キャリア粒子とを適量混合することによって製造することができる。当該混合に用いられる混合装置の例には、ナウターミキサー、WコーンおよびV型混合機が含まれる。
上記トナーは、下記式を満たす。下記式中、C、Aは、いずれも、上記トナーをX線回折装置によって測定したときに得られる回折スペクトルにおける特定の構造の積分強度を表す。Cは、上記トナー中の結晶構造の積分強度を表し、Aは、上記トナー中の非結晶構造の積分強度を表す。
0.03≦C/(C+A)≦0.14
上記Cは、上記回折スペクトルにおける上記結晶構造によるピークのピーク面積の総和で表すことができる。当該ピーク面積とは、当該ピークの一方の裾から他方の裾までの面積である。当該結晶構造とは、上記トナー中の、上記ハイブリッド結晶性樹脂を含む結晶性成分の結晶構造であり、例えば、上記ポリエステル重合セグメント、他の結晶性高分子、通常「ワックス」とも言われる離型剤に含まれる、結晶性を有する離型剤、またはそれらの分子構造における一部(例えば、構造単位)である。
上記Aは、上記回折スペクトルにおける上記非結晶構造によるピークのピーク面積の総和で表すことができる、当該ピーク面積も、当該ピークの一方の裾から他方の裾までの面積である。当該非結晶構造とは、上記トナー中の非結晶構造であり、例えば、上記ビニル系重合セグメントまたはその分子構造における一部(例えば、構造単位)である。
上記式中「C/(C+A)」は、トナー母体粒子中における実質的な結晶性成分の割合(以下、「結晶化度」とも言う)を表す。トナー母体粒子中では、結晶性樹脂と非晶性樹脂との配合量だけでは所期の結晶化特性が発現しないことがある。たとえば、結晶性樹脂および非晶性樹脂が、その製造時における相溶などの意図せぬ相互作用を呈することがあり、その場合、結晶性樹脂の配合量に応じた所期の結晶化特性がトナー母体粒子において得られないことがある。トナー母体粒子の結晶化特性は、実質的には結着樹脂によってもたらされ、よって、上記「C/(C+A)」によりトナー母体粒子の所期の結晶化特性が表される。
上記「C/(C+A)」が小さすぎると、トナー母体粒子の所期の結晶化特性が得られないことがあり、所期の低温定着性および高温保管性が不十分となることがある。上記「C/(C+A)」が大すぎると、トナー母体粒子の結晶化特性が過多となり、あるいは結晶化特性以外の他の所期の特性が不十分となることがあり、例えば帯電均一性などの、トナー母体粒子が本来有すべき特性が不十分にあることがある。上記の観点から、上記「C/(C+A)」は、0.03〜0.14であり、さらに低温定着性と耐破砕性との両立の観点から0.05〜0.10であることが好ましく、0.07〜0.10であることがより好ましい。
上記「C/(C+A)」は、X線回折装置を用いるX線回折法から求めることができる。たとえば、上記「C/(C+A)」は、内径1mmのキャピラリに上記トナーを充填し、キャピラリ回転試料台を用いて当該キャピラリを2rpmの速度で回転させつつ株式会社リガク製の粉末X線回折装置「RINT−TTR III」を用いて下記の測定条件で透過測定を行い、得られた回折スペクトルについてガウス関数によるフィッティングを行う。そして、例えば、図1Aに示されるような上記回折スペクトル中の2つの主要なピーク(P1、P2)に対応するガウス関数fp1(2θ)、fp2(2θ)、およびハローhに相当するガウス関数fh(2θ)のそれぞれについての図1Bに示されるようなピーク面積SP1、SP2、Shから、(SP1+SP2)を(C)、Shを(A)として、上記「C/(C+A)」を算出することができる。
[測定条件]
管電流:300mA
管電圧:50kV
走査軸:2Θ/Θ
ゴニオメーター2θ走査範囲:3.2〜37.2°
ステップ幅:0.02°
計数時間:1秒
発散スリット:0.8mm
受光スリット:1mm
なお、上記の測定における試料は、トナー粒子であってもよいし、トナー母体粒子であってもよい。上記の測定において、結晶性成分は、比較的鋭い明確なピークで表され、非結晶成分は比較的ブロードなピークで表される。上記の説明では、結晶性成分として二つのピークが検出される場合を示したが、結晶性成分のピークの数は限定されない。各ピークは、上記のようなピークの大きさおよび形状によってだけではなく、例えば既知成分のピークとの対比によって特定することが可能である。
上記「C/(C+A)」は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと上記ビニル系重合セグメントの量によって調整することが可能であり、また、上記トナー母体粒子の製造過程でトナー母体粒子が受ける熱量によって調整することが可能である。たとえば、上記「C/(C+A)」は、上記離型剤の量によって調整することが可能である。また、上記「C/(C+A)」は、例えば、後述のトナー母体粒子の乾燥工程における乾燥温度によって調整することが可能であり、当該乾燥温度を低くすることによって大きくなり、当該加熱温度を高くすることによって小さくなる傾向にある。
上記トナー粒子の大きさおよび形状は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、上記トナー粒子の体積平均粒径は、3.0〜8.0μmであり、上記トナー粒子の平均円形度は、0.920〜1.000である。
上記トナー粒子の個数平均粒径は、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピューターシステムを接続した装置を用いて測定、算出することができる。また、上記トナー粒子の個数平均粒径は、例えば、トナー粒子の製造における温度や攪拌の条件、トナー粒子の分級、トナー粒子の分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記トナー粒子の平均円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(Sysmex社製)を用い、所定数のトナー粒子における、粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長L1と、粒子投影像の周囲長L2とから、下記式から算出した円形度Cの総和を、当該所定数で除することにより求められる。上記トナー粒子の平均円形度は、例えば、トナー粒子の製造における樹脂粒子の熟成の程度や、トナー粒子の熱処理、異なる円形度のトナー粒子の混合、などによって調整することが可能である。
(式) C=L1/L2
また、上記キャリア粒子の大きさおよび形状も、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、上記キャリア粒子の体積平均粒径は、15〜100μmである。当該キャリア粒子の体積平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置「HELOS KA」(日本レーザー株式会社製)を用いて湿式にて測定することができる。また、上記キャリア粒子の体積平均粒径は、例えば、芯材粒子の製造条件による芯材粒子の粒径を制御する方法や、キャリア粒子の分級、キャリア粒子の分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記トナーは、少なくとも下記工程(1)〜(3)を含む方法で製造することができる。
(1)少なくとも上記結着樹脂の微粒子を水系媒体中で凝集、融着させる工程(第1の工程)。
(2)凝集した粒子を前記水系媒体から分離して湿潤したトナー母体粒子を得る工程(第2の工程)。
(3)前記湿潤したトナー母体粒子を30〜40℃の気流中で搬送させながら乾燥させる工程(第3の工程)。
上記第1の工程は、例えば、公知のように、上記微粒子をアルカリ性に調整された水系媒体中で凝集させ、当該水系媒体を加温して融着させることによって行うことができる。上記水系媒体は、水を主成分(例えば50体積%以上)とし、水溶性の有機化合物を含有していてもよい液体である。水系媒体のpHの調整には、水酸化ナトリウムなどの公知の塩基性化合物を用いることができる。上記微粒子の凝集反応の速度は、水系媒体中の塩濃度を高めることによって実質的に停止させることができる。
上記結着樹脂の微粒子は、結着樹脂成分が一様に一体化してなる微粒子であってもよいし、それぞれの結着樹脂成分の微粒子の組み合わせであってもよいし、それらの両方を含んでいてもよい。たとえば、上記結着樹脂の微粒子には、上記ハイブリッド結晶性樹脂および上記非晶性樹脂から構成される微粒子を用いてもよいし、上記ハイブリッド結晶性樹脂の微粒子と上記非晶性樹脂の微粒子とを含む微粒子であってもよい。上記ハイブリッド結晶性樹脂の微粒子の量は、トナー母体粒子中で3〜30質量%の含有量となるように、上記非晶性樹脂およびその他の任意の材料の量とともに適宜にきめることができる。
また、上記第1の工程では、結着樹脂以外の材料を上記結着樹脂の微粒子にさらに含有させてもよいし、結着樹脂以外の材料の微粒子をさらに加えて、凝集、融着させてもよい。
上記第2の工程は、公知の固液分離の方法によって行うことが可能である。当該第2の工程では、得られた湿潤トナー母体粒子を洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。また、上記第2の工程は、必要に応じて、トナー母体粒子の粒径や粒子形状を調整する工程をさらに含んでもよい。
上記第3の工程は、所期の温度の温風によりトナー母体粒子を搬送しながら乾燥させる公知の方法によって行うことが可能であり、このような乾燥が可能な公知の装置を用いることができる。当該装置の例には、株式会社セイシン企業製の「フラッシュジェットドライヤー」が含まれる。
上記第3の工程における上記気流の温度は、30〜40℃である。当該温度が30℃以下であると、トナー母体粒子の乾燥に時間がかかり、生産性が悪くなり、また後述の結晶化度が高すぎることがある。上記温度が40℃以上であると、トナー母体粒子に加えられる熱エネルギーが多すぎ、トナー母体粒子同士の凝集が起こり、トナー母体粒子の流動性が低下し、また上記結晶化度が低くすぎることがある。当該結晶化度(耐破砕性)を適切に制御する観点から、上記温度は、35〜40℃であることが好ましい。
上記トナーの製造方法は、本実施の形態の効果を奏する範囲において、前述した第1から第3の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、得られたトナー母体粒子に外添剤を混合、付着させてトナー粒子を得る工程、および得られたトナー粒子をキャリア粒子に混合して二成分現像剤としてのトナーを得る工程、が含まれる。
上記トナーは、上記結着樹脂として上記非晶性樹脂と特定量の上記ハイブリッド結晶性樹脂とを含有する。非晶性樹脂の相中にハイブリッド結晶性樹脂中の上記ポリエステル重合セグメントが分散した状態で内包される。このため、トナー母体粒子の表面における上記ポリエステル重合セグメントの露出が防止される。
上記結晶性ポリエステル(上記ポリエステル重合セグメント)は、その融点以下の温度において結晶状態を維持するので、上記トナーに高温保管性を付与することができる。また、上記結晶性ポリエステルは、その融点よりも高い温度において速やかに融解し、結着樹脂を可塑化させるので、上記トナーに低温定着性を付与することができる。また、上記ハイブリッド結晶性樹脂のトナー母体粒子における含有量が前述の規定の範囲内であることにより、トナー中の結晶ドメインを融解するために過剰な熱を要しない。よって、上記含有量も、上記トナーの低温定着性に寄与する。よって、上記トナーは、優れた低温定着性と高温保管性との両方を有する。
また、上記トナーは、上記ハイブリッド結晶性樹脂を結着樹脂として有する。このため、トナー母体粒子中の結晶性ドメインと非晶性樹脂との界面において、上記ビニル系重合セグメントが介在し、当該界面での両樹脂の衝撃に対する緩衝作用が向上し、ストレスによるトナー母体粒子の破砕が十分に抑制される。よって、上記トナーは、優れた耐破砕性を有する。また、上記ビニル系重合セグメントの上記の介在は、上記界面における両樹脂の相溶度の向上に寄与するので、低温定着性にも寄与する。
さらに、上記トナーは、前述した式で規定される特定の結晶化度を有する。このように、上記耐破砕性のための構造を有することから、トナーの機械的強度を従来に比べてより低く設定することが可能となり、よって、固くて脆い結晶性ドメイン量がより一層適正化される。その結果、結晶性樹脂を導入する従来のトナーと比較して、トナーの結晶化度を低めに設定することが可能となり、かつ十分な耐破砕性を発現させることが可能となる。このように、上記トナーは、従来よりも低い結晶化度を有しながらも、トレードオフの関係にある十分な低温定着性および耐破砕性の両方を有する。
以上の説明から明らかなように、上記トナーは、少なくとも結着樹脂を含有するトナー母体粒子を有し、上記結着樹脂は、非晶性樹脂と、ビニル系重合セグメントおよびポリエステル重合セグメントが結合してなるハイブリッド結晶性樹脂と、を含み、上記ハイブリッド結晶性樹脂の上記トナー母体粒子における含有量は、3〜30質量%であり、そして、上記トナーは、下記式を満たす。よって、上記トナーは、低温定着性、高温保管性および耐破砕性に優れる。なお、下記式中、Cは、上記トナーをX線回折装置によって測定したときに得られる回折スペクトルにおける、上記トナー中の結晶構造の積分強度を表し、Aは、上記トナー中の非結晶構造の積分強度を表す。
0.03≦C/(C+A)≦0.14
また、上記ビニル系重合セグメントの上記ハイブリッド結晶性樹脂中における含有量が3〜40質量%であることは、低温定着性および耐破砕性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記非晶性樹脂がビニル系樹脂であり、上記ビニル系樹脂の上記トナー母体粒子における含有量が50〜85質量%であることは、低温定着性および高温保管性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記トナーの製造方法は、少なくとも下記工程(1)〜(3)を含む。よって、当該製造方法は、低温定着性、高温保管性および耐破砕性に優れるトナーを提供することができる。
(1)少なくとも上記結着樹脂の微粒子を水系媒体中で凝集、融着させる工程。
(2)凝集した粒子を上記水系媒体から分離して湿潤したトナー母体粒子を得る工程。
(3)上記湿潤したトナー母体粒子を30〜40℃の気流中で搬送させながら乾燥させる工程。
上記製造方法では、上記結着樹脂の微粒子には、上記ハイブリッド結晶性樹脂および上記非晶性樹脂から構成される微粒子を用いることができ、あるいは、上記ハイブリッド結晶性樹脂の微粒子と上記非晶性樹脂の微粒子とを含む微粒子を用いることができる。
なお、上記トナーは、通常の電子写真方式の画像形成方法に適用され、静電潜像の現像に供される。上記トナーは、例えば、図2に示される画像形成装置に収容され、記録媒体上でのトナー像の形成に供される。
図2に示す画像形成装置1は、画像読取部110、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50および定着装置60を有する。
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41Cおよび41Kを有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、転写装置に相当する。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。感光体ドラム413は、例えば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム413の表面は、光導電性を有する。感光体ドラム413は、感光体に相当する。帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば、光源としての半導体レーザーと、形成すべき画像に応じたレーザー光を感光体ドラム413に向けて照射する光偏向装置(ポリゴンモータ)とを含む。
現像装置412は、二成分現像方式の現像装置である。現像装置412は、例えば、二成分現像剤を収容する現像容器と、当該現像容器の開口部に回転自在に配置されている現像ローラー(磁性ローラー)と、二成分現像剤が連通可能に現像容器内を仕切る隔壁と、現像容器における開口部側の二成分現像剤を現像ローラーに向けて搬送するための搬送ローラーと、現像容器内の二成分現像剤を撹拌するための撹拌ローラーと、を有する。上記現像容器には、二成分現像剤としての上記トナーが収容されている。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、中間転写ベルト421を感光体ドラム413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト421は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
定着装置60は、例えば、定着ローラー62と、定着ローラー62の外周面を覆い、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解するための無端状の発熱ベルト63と、用紙Sを定着ローラー62および発熱ベルト63に向けて押圧する加圧ローラー64と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
画像形成装置1は、さらに、画像読取部110、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部110は、給紙装置111およびスキャナー112を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する三つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
画像形成装置1による画像の形成を説明する。
スキャナー112は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー112aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
感光体ドラム413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411では、ポリゴンモータのポリゴンミラーが高速で回転し、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光が、感光体ドラム413の軸方向に沿って展開し、当該軸方向に沿って感光体ドラム413の外周面に照射される。こうして感光体ドラム413の表面には、静電潜像が形成される。
現像装置412では、上記現像容器内の二成分現像剤の撹拌、搬送によってトナー粒子が帯電し、二成分現像剤は上記現像ローラーに搬送され、当該現像ローラーの表面で磁性ブラシを形成する。帯電したトナー粒子は、上記磁性ブラシから感光体ドラム413における静電潜像の部分に静電的に付着する。こうして、感光体ドラム413の表面の静電潜像が可視化され、感光体ドラム413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。上記の搬送に伴い、上記現像容器内のトナーは撹拌され、当該撹拌に伴うストレスを受けるが、上記トナーは、優れた耐破砕性を有するので、上記搬送によるトナーの破砕が生じない。
感光体ドラム413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト421に転写される。転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接することにより、感光体ドラム413と中間転写ベルト421とによって、一次転写ニップが感光体ドラムごとに形成される。当該一次転写ニップにおいて、各色のトナー画像が中間転写ベルト421に順次重なって転写される。
一方、二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト421および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、中間転写ベルト421と二次転写ベルト432とによって、二次転写ニップが形成される。用紙Sは、用紙搬送部50によって二次転写ニップへ搬送され、当該二次転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
上記二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
定着装置60は、発熱ベルト63と加圧ローラー64とによって、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを当該定着ニップ部で加熱、加圧する。用紙S上のトナー画像を構成するトナー粒子は、加熱され、その内部でハイブリッド結晶性樹脂が速やかに融け、その結果、比較的少ない熱量で速やかにトナー粒子全体が融解し、トナー成分が用紙Sに付着する。付着している溶融トナー成分では、ハイブリッド結晶性樹脂中のポリエステル重合セグメントが速やかに結晶化し、当該溶融トナー成分全体が速やかに固化する。こうして、比較的少ない熱量で速やかにトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。こうして、高画質の画像が形成される。
なお、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト421の表面に摺接されるベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。
なお、上記トナーは、結晶性を有する上記ポリエステル重合セグメントがトナー母体粒子において非晶性樹脂に内包されている。よって、当該ポリエステル重合セグメントがトナー母体粒子から露出しない。よって、上記トナーの保管時に比較的高い温度の環境に晒されても、ポリエステル重合セグメントとトナー母体粒子中の他の樹脂との相溶が抑制されるので、保管時におけるトナー粒子の凝集が防止される。このように、上記トナーは、上記電子写真方法において、十分な低温定着性と耐破砕性とを発現し、さらに十分な高温保管性をも発現する。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例などに限定されない。
[樹脂微粒子分散液MD1の調製]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8gをイオン交換水3Lに溶解させた溶液1−1を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で当該溶液を撹拌しながら、上記反応容器の内温を80℃に昇温させた。次いで、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液1−2を溶液1−1に添加し、得られた溶液1−3の液温を80℃とした。
スチレン 480g
n−ブチルアクリレート 250g
メタクリル酸 68g
上記成分を上記の量で含有する単量体混合液を1時間かけて溶液1−3に滴下し、次いで、得られた混合液を80℃で2時間加熱、撹拌することにより上記単量体の重合を行い、樹脂微粒子x1が分散されてなる樹脂微粒子分散液X1を調製した。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水1850mLに溶解させた溶液2−1を仕込み、80℃に加熱し、溶液2−1に260gの樹脂微粒子x1を加えた。
溶液2−1にさらに下記成分を下記の量で含有する単量体溶液を分散させた。より具体的には、当該単量体溶液を、循環経路を有する機械式分散機「CREARMIX」(エム・テクニック株式会社製、「CREARMIX」は同社の登録商標)により、溶液2−1に15分間混合、分散させた。こうして、乳化粒子(油滴)を含む分散液2−2を調製した。 下記ベヘン酸ベヘネートは離型剤であり、その融点は73℃である。
スチレン 175g
n−ブチルアクリレート 80g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 3.8g
ベヘン酸ベヘネート 80g
次いで、上記反応容器中の分散液2−2に、過硫酸カリウム5gをイオン交換水100mLに溶解させた開始剤溶液2−3を添加し、得られた混合液を82℃で1時間撹拌することにより、上記単量体の重合を行い、樹脂微粒子x2が分散されてなる樹脂微粒子分散液X2を調製した。
(第3段重合)
樹脂微粒子分散液X2に、過硫酸カリウム5gをイオン交換水100mLに溶解させた溶液3−1を添加して混合液を得た。82℃の当該混合液に、下記成分を下記の量で含有する単量体混合液を90分間かけて滴下した。
スチレン 340g
n−ブチルアクリレート 120g
メタクリル酸 32g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8g
次いで、上記の温度で2時間撹拌することにより上記単量体の重合を行い、次いで上記混合液を28℃まで冷却し、こうして、ビニル系樹脂を主成分とし、離型剤を含有する樹脂微粒子M1が分散されてなる樹脂微粒子分散液MD1を調製した。
樹脂微粒子分散液MD1中の樹脂微粒子M1の体積基準のメジアン径を測定したところ、230nmであった。また、樹脂微粒子M1を構成する樹脂の重量平均分子量を測定したところ、60,200であった。
[ハイブリッド結晶性ポリエステルc1の合成]
下記の成分を下記の量で含有するモノマー液c−1を滴下ロートに入れた。アクリル酸は両反応性モノマーであり、ジ−t−ブチルパーオキサイドは重合開始剤である。
スチレン 35質量部
ブチルアクリレート 9質量部
アクリル酸 4質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド 7質量部
さらに、下記の重縮合系の原料モノマーを下記の量で、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱して溶解させ、こうしてモノマー液c−2を得た。
ドデカン二酸 267質量部
1,6−ヘキサンジオール 165質量部
次いで、上記の温度のモノマー液c−2に、撹拌下でモノマー液c−1を90分間かけて滴下し、得られた混合液を上記の温度で60分間撹拌して熟成を行い、次いで、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合性モノマーを上記混合液から除去した。
次いで、上記混合液にTi(Obu)4を0.8質量部投入し、上記混合液を235℃まで昇温し、当該温度にて常圧下(101.3kPa)で5時間、さらに減圧下(8kPa)で1時間、反応を行った。なお、上記Ti(Obu)4は、エステル化触媒である。次いで、得られた反応液を200℃まで冷却し、当該温度にて減圧下(20KPa)で1時間、反応を行った。こうして、ビニル変性結晶性ポリエステル樹脂であるハイブリッド結晶性ポリエステルc1を得た。
[ハイブリッド結晶性ポリエステルc2〜c7の合成]
モノマー液c−2におけるドデカン二酸の量を69質量部に、1,6−ヘキサンジオールの量を43質量部に、それぞれ変更する以外は、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc2を得た。また、モノマー液c−2におけるドデカン二酸の量を564質量部に、1,6−ヘキサンジオールの量を348質量部に、それぞれ変更する以外は、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc3を得た。
また、モノマー液c−2におけるドデカン二酸の量を45質量部に、1,6−ヘキサンジオールの量を11質量部に、それぞれ変更する以外は、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc4を得た。また、モノマー液c−2におけるドデカン二酸の量を960質量部に、1,6−ヘキサンジオールの量を592質量部に、それぞれ変更する以外は、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc5を得た。
また、モノマー液c−2におけるドデカン二酸の量を36質量部に、1,6−ヘキサンジオールの量を22質量部に、それぞれ変更する以外は、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc6を得た。
モノマー液c−1を使用しなかった以外は、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc7を得た。
[ハイブリッド結晶性ポリエステルc8の合成]
冷却管、撹拌機および窒素導入管を装備した反応容器中に、下記成分を下記の量で含有するモノマー液c−3を入れ、窒素気流下、180℃にて、生成する水を留去しながら4時間反応させた。チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)は、縮合触媒である。
セバシン酸 241質量部
アジピン酸 55質量部
1,4−ブタンジオール 314質量部
チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート) 0.75質量部
次いで、得られた反応液を225℃まで徐々に昇温しつつ、窒素気流下、生成する水および1,4−ブタンジオールを留去しながら5時間反応させた。次いで、当該温度にて5〜20mmHgの減圧下で、Mw(重量平均分子量)が約4000に達するまでさらに反応させた。
得られた結晶性樹脂218質量部を、冷却管、撹拌機および窒素導入管を装備した別の反応容器に移し、下記の成分を下記の量で含有する溶液c−4を当該反応容器に加え、窒素気流下、80℃で5時間反応させた。次いで、得られた混合液から減圧下で酢酸エチルを留去した。こうして、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂であるハイブリッド結晶性ポリエステルc8を得た。
酢酸エチル 250質量部
ヘキサメチレンジイソシアネート 12質量部
無水マレイン酸 25質量部
ハイブリッド結晶性ポリエステルc1〜c8のモノマーの組成を下記表1に示す。表中「HCPEs」は、ハイブリッド結晶性ポリエステルを表し、「CVP」は、ハイブリッド結晶性ポリエステル中のビニル系重合セグメント(VP)の含有量を表し、「St」はスチレン、「BA」はブチルアクリレート、「AA」はアクリル酸、「PI」は重合開始剤、「DA」はドデカン二酸、「HD」は1,6−ヘキサンジオール、をそれぞれ表す。
[非晶性ポリエステルa1の合成]
下記の成分を下記の量で含有するモノマー液a−1を滴下ロートに入れた。
スチレン 80質量部
n−ブチルアクリレート 20質量部
アクリル酸 10質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド 16質量部
また、下記の成分を下記の量で、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させ、モノマー液a−2を得た。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部
次いで、上記温度にて、撹拌下でモノマー液a−2にモノマー液a−1を90分間かけて滴下し、上記温度にて60分間撹拌して熟成を行い、次いで、得られた反応液から、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合性モノマーを除去した。
次いで、上記反応液にTi(OBu)4を0.4質量部投入し、当該反応液を235℃まで昇温し、当該温度にて常圧下(101.3kPa)で5時間、更に減圧下(8kPa)で1時間反応を行った。次いで、上記反応液を200℃まで冷却し、当該温度にて減圧下(20kPa)で所望の軟化点に達するまで反応を行った。次いで、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステルa1を得た。非晶性ポリエステルa1のガラス転移温度(Tg)は60℃であり、重量平均分子量(Mw)は30,000であった。
[ハイブリッド結晶性ポリエステルの水系分散液の調製]
30質量部のハイブリッド結晶性ポリエステルc1を溶融し、その状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)へ毎分100質量部の移送速度で移送した。同時に、濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換器で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で上記乳化分散機に移送した。当該希アンモニウム水は、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈して調製した。そして、上記乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2(4.90×105Pa)の条件で運転することにより、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1の水系分散液C1を得た、当該水系分散液C1中の樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は200nmであり、当該水系分散液C1の固形分量は30質量部であった。
また、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1に代えてハイブリッド結晶性ポリエステルc2〜c8のそれぞれを用いる以外は水系分散液C1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステルc2〜c8のそれぞれを含む水系分散液C2〜C8をそれぞれ得た。さらに、ハイブリッド結晶性ポリエステルc1に代えてハイブリッド非晶性ポリエステルa1を用いる以外は水系分散液C1と同様にして、非晶性ポリエステルa1を含む水系分散液A1を得た。水系分散液C2〜C8およびA1中の樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は、いずれも概ね200nmであり、当該水系分散液の固形分量は、いずれも30質量部であった。
[カーボンブラック分散液の調製]
ドデシル硫酸ナトリウム90gをイオン交換水1,600gに撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「リーガル330R」(キャボット社製)420gを徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、着色剤(カーボンブラック)の微粒子が分散されてなる水系分散液Bkを調製した。水系分散液Bkにおけるカーボンブラック微粒子の体積基準のメジアン径を電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ、120nmであった。
[実施例1 トナー1の製造]
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けたフラスコに、400質量部のイオン交換水と、429質量部(固形分換算)の樹脂微粒子分散液MD1と、435質量部の水系分散液Bkとを仕込み、得られた混合液の液温を25℃に調整した後、当該混合液に濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて当該混合液のpHを10.5に調整した。
次いで、塩化マグネシウム・6水和物50質量部をイオン交換水50質量部に溶解させた水溶液を上記混合液に添加し、その後、54質量部(固形分換算)の水系分散液C1をさらに添加した。次いで、得られた分散液の温度を93℃にまで昇温し、当該分散液中の各樹脂微粒子と着色剤微粒子との凝集反応を開始した。
この凝集反応の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて、生成する凝集粒子の体積基準のメジアン径を測定し、当該凝集粒子の体積基準のメジアン径が7.0μmになるまで、撹拌を継続しながら上記の温度にて凝集反応を続けた。
次いで、塩化ナトリウム120質量部をイオン交換水600質量部に溶解させた水溶液を上記分散液に添加し、当該分散液の温度を90℃として当該温度で当該分散液を4時間撹拌した。そして、上記分散液中の粒子の円形度が、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定で0.940に達した時点で、当該分散液を6℃/分の速度で30℃にまで冷却して粒子の溶融を停止させた。こうして、トナー母体粒子1Xの分散液を得た。冷却後の当該分散液中のトナー母体粒子1Xの粒径(体積基準のメジアン径)は6.9μmであり、その平均円形度は0.940であった。
上記分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(株式会社松本機械製作所製)を用いて固液分離し、トナー母体粒子1Xのウェットケーキを作製した。このウェットケーキを、上記バスケット型遠心分離機によって、濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離とを繰り返し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)を用い、温度35℃および湿度20%RHの気流を当該ウェットケーキに吹き付け、当該ウェットケーキの水分量が0.5質量%となるまでトナー母体粒子1Xの乾燥処理をし、次いで24℃にトナー母体粒子1Xを冷却して、トナー母体粒子1Xを得た。
得られたトナー母体粒子1Xに、疎水性シリカ粒子1質量%と疎水性酸化チタン粒子1.2質量%とを添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させた。こうして、トナー母体粒子1Xに外添剤を添加し、トナー粒子1を得た。
得られたトナー粒子1の結晶化度を求めたところ、トナー粒子1の結晶化度は0.07であった。
上記結晶化度の測定では、株式会社リガク製の粉末X線回折装置「RINT−TTR III」を用い、内径1mmのキャピラリにトナー粒子を詰め、キャピラリ回転試料台を用いて当該キャピラリを2rpmの速度で回転させつつ、下記測定条件にてトナー粒子の透過測定を行う。
[測定条件]
管電流:300mA
管電圧:50kV
走査軸:2Θ/Θ
ゴニオメーター2θ走査範囲:3.2〜37.2°
ステップ幅:0.02°
計数時間:1秒
発散スリット:0.8mm
受光スリット:1mm
次いで、得られた回折スペクトルのガウス関数によるフィッティングを行い、2つの主要なピーク(P1、P2)に対応するガウス関数fp1(2θ)、fp2(2θ)、およびハローに相当するガウス関数fh(2θ)のそれぞれについての積分強度(ピーク面積)を図1Bのように求め、(SP1+SP2)をC、ShをAとして「C/(C+A)」を算出する。こうして上記結晶化度が求められる。
次いで、トナー粒子1に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径60μmのフェライトキャリアをトナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、二成分現像剤であるトナー1を製造した。
[実施例2 トナー2の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を324質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液C2を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で162質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー2を得た。トナー粒子2の結晶化度は0.13であった。
[実施例3 トナー3の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を426質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液C3を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で16質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー3を得た。トナー粒子3の結晶化度は0.03であった。
[実施例4 トナー4の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を381質量部に変更し、水系分散液C1の量を固形分換算量で81質量部に変更し、上記乾燥温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー4を得た。トナー粒子4の結晶化度は0.14であった。
[実施例5 トナー5の製造]
水系分散液C1に代えて水系分散液C2を用いた以外は実施例1と同様にしてトナー5を得た。トナー粒子5の結晶化度は0.03であった。
[実施例6、7 トナー6、7の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を381質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液C4を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で81質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー6を得た。また、水系分散液C4に代えて水系分散液C5を用いた以外は実施例6と同様にしてトナー7を得た。トナー粒子6の結晶化度は0.06であり、トナー粒子7の結晶化度は0.13であった。
[実施例8、9 トナー8、9の製造]
上記乾燥温度を40℃、30℃にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、トナー8、9をそれぞれ得た。トナー粒子8の結晶化度は0.06であり、トナー粒子9の結晶化度は0.13であった。
[実施例10 トナー10の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を381質量部に変更し、水系分散液C1の量を固形分換算量で162質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー10を得た。トナー粒子10の結晶化度は0.14であった。
[実施例11 トナー11の製造]
樹脂微粒子分散液MD1の量を300質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー11を得た。トナー粒子11の結晶化度は0.06であった。
[実施例12 トナー12の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を409質量部に変更し、水系分散液C1の量を固形分換算量で40.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー12を得た。トナー粒子12の結晶化度は0.09であった。
[比較例1 トナー13の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を381質量部に変更し、水系分散液C1の量を固形分換算量で216質量部に変更し、上記乾燥温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー13を得た。トナー粒子13の結晶化度は0.18であった。
[比較例2 トナー14の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を438質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液A1を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で192質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー14を得た。トナー粒子14の結晶化度は0であった。
[比較例3 トナー15の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を419質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液C6を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で27質量部に変更し、上記乾燥温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー15を得た。トナー粒子15の結晶化度は0.02であった。
[比較例4 トナー16の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を324質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液C7を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で162質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー16を得た。トナー粒子16の結晶化度は0.18であった。
[比較例5 トナー17の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を408質量部に変更し、水系分散液C1の量を43.2質量部に変更し、上記乾燥温度を45℃に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー17を得た。トナー粒子17の結晶化度は0.02であった。
[比較例6 トナー製造例18]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を381質量部に変更し、水系分散液C1の量を固形分換算量で81質量部に変更し、上記乾燥温度を20℃に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー18を得た。トナー粒子18の結晶化度は0.17であった。
[比較例7 トナー19の製造]
上記フラスコに仕込むイオン交換水の量を381質量部に変更し、水系分散液C1に代えて水系分散液C8を用い、当該水系分散液の量を固形分換算量で27質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー19を得た。トナー粒子19の結晶化度は0.05であった。
トナー1〜19の材料の量、ウェットケーキの乾燥温度および結晶化度Dcを表2に示す。
[1.耐破砕性の評価]
複写機「bizhub PRESS 1250」(コニカミノルタ株式会社製、「bizhub」は同社の登録商標)に搭載されている現像器に、上記のトナー1〜19のそれぞれを投入し、単体駆動機によって600rpmの速度で3.5時間、上記現像器を駆動させる撹拌テストを行った。
そして、撹拌テスト前後の現像器内のトナー1〜19のそれぞれの粒度分布を「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて測定し、当該撹拌テストによる、個数平均粒径における2.5μm以下のトナー粒子の比率(破砕トナーの比率)の増分ΔRCT(%)を下記の基準で評価した。なお、当該ΔRCTが高いほど、現像器内でのトナー粒子の破砕が発生しやすいことを示す。本実施例では、ΔRCTが10%以下であれば実用上問題なく、合格と判断される。
(評価基準)
◎:ΔRCTが5%未満(優良)
○:ΔRCTが5%以上10%未満(使用可)
×:ΔRCTが10%以上(使用不可)
[2.低温定着性の評価]
トナー1〜19のそれぞれについて、複写機「bizhub PRESS 1250」の改造機を用い、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙上にトナー付着量5mg/cm2のベタ画像を定着させる定着実験を、定着温度を120℃から200℃までの5℃刻みの各定着温度にて行った。なお、上記改造機は、上記複写機の定着装置における加熱ローラーの表面温度(定着温度)を120〜200℃の範囲で変更することができるように改造した画像形成装置である。
そして、定着ベタ画像を目視で観察し、低温オフセットによる画像汚れが観察されない定着ベタ画像のうち、定着温度が最も低かった定着ベタ画像の定着温度を、最低定着温度(コールドオフセット解消温度)TMIN(℃)とし、当該最低定着温度を以下の基準で評価した。本実施例では、TMINが190℃未満であれば実用上問題なく、合格と判断される。
(評価基準)
◎:TMINが180℃以下(良好)
○:TMINが180℃超190℃未満 (使用可)
×:TMINが190℃以上(使用不可)
[3.高温保管性の評価]
トナー1〜19のそれぞれについて、トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めて、振とう機「タップデンサーKYT−2000」(株式会社セイシン企業製)を用い、室温で600回振とうした後、蓋を取った状態で温度55℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。
次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、「パウダーテスター」(ホソカワミクロン株式会社製)にセットし、当該篩を押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmとなる振動強度に調整し、10秒間振動を加えた。その後、篩上の残存したトナーの量WRT(g)を測定し、下記式によりトナー凝集率RTA(質量%)を算出した。
RTA=(WRT/0.5)×100
上記のRTAの算出実験を、湿度は35%RHのまま、試験温度を55℃から0.1℃ずつ上げながら、RTAが50質量%を超えるまで、各試験温度にて行った。RTAが50質量%以下の試験結果のうち、上記試験温度が最大の試験結果における試験温度を限界耐熱保管温度TMAX(℃)とし、当該TMAXを以下の基準で評価した。本実施例では、TMAXが56℃以上である場合を合格とする。
(評価基準)
◎:TMAXが57℃以上(良好)
○:TMAXが56℃以上57℃未満(採用可)
×:TMAXが56℃未満(使用不可)
トナー1〜19における樹脂の組成、乾燥温度および上記評価結果を表3に示す。表3中、「CHCR」はトナー母体粒子中のハイブリッド結晶性ポリエステルの含有量(質量%)を、「Dc」は結晶化度を、「CVP」はハイブリッド結晶性ポリエステル中のビニル系重合セグメントの含有量(質量%)を、「CVR」はトナー母体粒子中のビニル系樹脂の含有量(質量%)を、「ΔRCT」は上記撹拌テストによる破砕トナーの比率の増分(%)を、「TMIN」は最低定着温度(℃)を、そして、「TMAX」は限界耐熱保管温度(℃)をそれぞれ表す。
表3から明らかなように、トナー1〜12は、いずれも、十分な低温定着性、高温保管性および耐破砕性を有している。また、表3から明らかなように、結晶化度Dcが低いほど耐破砕性が高まる傾向が見られる。さらに、結晶化度Dcが高いほど低温定着性が高まる傾向が見られる。一方で、耐破砕性は、低温定着性とは一般にトレードオフの関係にあり、低温定着性との両立は困難と考えられてきたが、トナー1〜12では、耐破砕性と低温定着性の両立が達成されている。
中でも、トナー3は、耐破砕性および高温保管性に優れている。これは、ハイブリッド結晶性樹脂のトナー母体粒子における含有量CHCRが比較的少なく、結晶化度Dcも小さいため、と考えられる。
また、トナー6は、耐破砕性および低温定着性に優れている。これは、上記CHCRが比較的多いものの、結晶化度Dcが比較的小さく抑えられているため、と考えられる。
さらに、トナー7は、低温定着性および高温保管性に優れている。これは、上記CHCRが比較的多く、ハイブリッド結晶性ポリエステル中のビニル系重合セグメントの含有量CVPは比較的少ないものの、上記ポリエステル重合セグメントのトナー母体粒子への内包には十分であり、加えてビニル系重合セグメントによる上記緩衝作用も十分に発現できているため、と考えられる。
特に、トナー1および12は、耐破砕性、低温定着性および高温保管性のいずれも優れている。これは、トナー3、6、7の特徴をバランス良く有しているため、と考えられる。
これに対して、比較例1では、耐破砕性および高温保管性が不十分である。これは、トナー母体粒子中のハイブリッド結晶性樹脂の含有量CHCRが多すぎ、かつ結晶化度Dcが高すぎるため、ビニル系重合セグメントによる前述の緩衝作用が不十分となり、また、ポリエステル重合セグメントの内包化が不十分となるため、と考えられる。
また、比較例2では、低温定着性が不十分である。これは、結着樹脂にハイブリッド結晶性樹脂が含まれていないため、と考えられる。
また、比較例3では、低温定着性が不十分である。これは、ハイブリッド結晶性樹脂中のビニル系重合セグメントの量がポリエステル重合セグメントの量に比べて多すぎ、そのために結晶化度が低すぎるため、と考えられる。
また、比較例4では、耐破砕性および高温保管性が不十分である。これは、ハイブリッド結晶性樹脂がビニル系重合セグメントを含んでおらず、そのためにビニル系重合セグメントによる緩衝作用が発現せず、また結晶化度Dcも高くなるため、と考えられる。
また、比較例5では、低温定着性および高温保管性が不十分である。これは、ウレタン変性ポリエステルの熱特性が高く、そのために乾燥温度が高くなって結晶化度Dcが不十分となり、また、ウレタン変性ポリエステルのビニル樹脂であるメインバインダーに対する相溶性が低く、結晶性樹脂成分によるシャープメルト性が十分に発現せず、また当該結晶性樹脂成分の内包化が不十分であるため、と考えられる。
また、比較例6では、耐破砕性および高温保管性が不十分である。これは、トナー母体粒子の乾燥温度が低すぎ、そのために結晶化度Dcが高すぎるため、と考えられる。
また、比較例7では、低温定着性が不十分である。これは、ハイブリッド結晶性樹脂がビニル系重合セグメントを含んでいないので、ポリエステル重合セグメントの内包化が不十分であるため、と考えられる。