JP2017055725A - 釣糸 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属線と合成繊維の複合糸から成る釣糸の引張破断力は、金属線の引張破断力の大きさが必ずしも寄与していないことに着目し、一定の機械的強度特性を有する合成繊維のマルチフィラメント糸を、釣糸を構成する芯部と芯部の外周の側部との双方に用いる。これにより、軽くて、柔軟で、丈夫な釣糸が提供できる。
【選択図】図3
Description
そして、釣糸の細径化にも拘わらず、高い引張破断力が要求され、軽くて、柔軟で、丈夫な釣糸が切望されている。
さらに近年では、特に、金属線と合成繊維とを組み合わせた複合糸から成る釣糸は、その構造の複雑さから、釣糸の太さを表す号柄と実際の釣糸との太さの不一致が発生しており、号柄に対する太さ標準規格との一致化が求められるようになってきた。
により、釣糸の引張破断力を向上させ、かつ、特定の機械的強度特性を有する、合成繊維のマルチフィラメント糸と金属線とを用いて、釣糸の引張荷重と伸びの特性が、非線形特性であることを特徴とする、技術思想の釣糸である。
このような本発明の釣糸の技術思想については、前記特許文献1、2のいずれについても記載されていない。
さらに、本発明の釣糸の構造とすることにより、一定の引張破断力を維持したままで極めて容易に細径化できる。そして、近年の釣糸業界の釣糸の太さと号柄に対する太さ標準規格との一致化の要望に容易に応えることができる。
このような技術内容についても、前記特許文献1、2のいずれについても、何ら記載されていない。これらのことは、釣糸にとって重要な技術課題である。
芯部の外周に、第1側部と第2側部とを平行して同一長手方向へ巻回し、芯部と第1側部と第2側部とを有する芯線体を備える。芯線体の外周に、被覆部を設ける。
芯部と第1側部は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上である。
第2側部は、引張強さが1500N/mm2以上4200N/mm2以下の、少なくとも1本以上の金属素線を用いた金属線から成る。芯部と第1側部の、それぞれの引張破断力は、第2側部の引張破断力よりも高い。
芯部と第1側部は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上の合成繊維のマルチフィラメント糸から成る。
第2側部は、引張強さが1500N/mm2以上4200N/mm2以下の、少なくとも1本以上の金属素線を用いた金属線で、芯部と第1側部の、それぞれの引張破断力は、第2側部の引張破断力よりも高い。
この理由は、合成繊維のマルチフィラメント糸と金属線とを組み合わせた複合糸から成る釣糸の構成において、高強度の引張強さをもつ金属素線から成る金属線を用いても、用いる金属素線が細径である為、必ずしも釣糸の引張破断力の向上に寄与していない。
そして、本発明は、このことに着目して、金属素線から成る金属線よりも遥かに高い比強度と比弾性率をもつ合成繊維のマルチフィラメント糸を、芯部と芯部の外周の第1側部との双方に用いることにより、釣糸の引張破断力をより高めて、道糸との結束性を向上させ、軽くて、柔軟で、丈夫な釣糸を提供する為である。尚、第2側部に金属線を用いる理由は、主に水中での釣糸の沈み性向上と、水中での岩場での擦れによる耐摩耗特性を向上させて、破断を防ぐ為である。
この理由は、第1種引張剛性範囲で魚の突発的な活動から生ずる衝撃力(例えば、鮎の友釣りの場合に縄張り争い等による衝撃力)を吸収し、第2種引張剛性範囲で前記衝撃力を超える大きな引張荷重が加わった場合に釣糸の破断を防ぐ為である。
これにより、第2側部の金属線よりも引張破断力の高い、芯部と第1側部との双方で、釣糸へ加わる引張荷重をそれぞれ負荷分担し、引張応力を低くして釣糸の引張破断力を向上させることができる。
これにより、第1側部の両側に配置した第2A金属線側部と第2B金属線側部が、疎巻きに巻回する場合であっても、長手方向への巻回時に第1側部の案内線として作用し、第1側部の長手方向での位置ずれ(例、撚りピッチの長短等)を防いで、同一撚りピッチから成る芯線体を得て、安定した品質を有する釣糸を得ることができる。
これにより、芯部の外周にマルチフィラメント糸から成る第1側部を巻回する場合に、疎巻きに巻回する場合であっても、長手方向への巻回時に第1側部の案内線として作用し、第1側部の長手方向での位置ずれを防いで、同一撚りピッチから成る芯線体を得ることができる。又、釣糸に引張荷重が加わった場合に、第2側部の金属線へ加わる引張荷重を隣接接触する2本の以上の金属素線へ均等分散させ、芯線体の引張破断力を補完することができる。
これにより、釣糸の引張破断力を向上させることができる。さらに、特に、第1側部に撚糸のマルチフィラメント糸を用いた場合、捻回数の多少でマルチフィラメント糸の外形形状を可変することができる。これにより、釣糸の外径を容易に変えることができ、太さ標準規格との一致化がより容易となる。
伸びの増加に比例して引張荷重が直線的に増大する第2種引張剛性範囲と、引張荷重が直線的に増大して比例限界点に達した後に、伸びの増加とともに引張荷重の増加が緩やかとなり、破断に至る第3種引張剛性範囲とを有する非線形特性である。
これにより、電解研磨したタングステン線を用いて、機械的強度の脆化を防ぐことができる。又、第3種引張剛性範囲を有する非線形特性であることにより、特に水中での魚の突発的な活動から生じる衝撃力を吸収することができ、さらに、水中での岩場での擦れによる釣糸の破断を防ぐことができる。
第2側部4は、第2A金属線側部41と第2B金属線側部42から成る。芯部2の外周に、第1側部3と第2側部4とを平行して同一長手方向へ巻回する。
第2A金属線側部41と第2B金属線側部42から成る第2側部4は、芯部2と第1側部3とが接触する凹部の符号C1、C2の両側に、それぞれ第2A金属線側部41と第2B金属線側部42とを配置する。
芯部2の外周に、第1側部3と第2A金属線側部41と第2B金属線側部42から成る第2側部4とを平行して同一長手方向へ一定のピッチPで巻回して成る芯線体5を備える。
芯線体5の外周に被覆部6を設ける。尚、本発明の釣糸1は、長さに比較して線直径が小さく、縦横の縮尺率を同じにすると所定の範囲に図示することが困難なため、一部を拡張し、又省略して図示している。
マルチフィラメント糸の第1側部3は、巻回時に加えられる長手方向への一定の引張力と、前記引張力に伴う径方向(外側から内側へ)への圧縮力、並びに、第1側部3の両側に配置した金属線から成る第2側部4からの巻回による圧縮力等の相互作用を受けて、図1(ロ)で示すように、符号aの自然状態から符号bの巻回後の状態へ偏平状に圧縮変形する。
この第1側部3が圧縮変形する理由は、第1側部3は第2側部4の金属線に比べて比重が1/5以下で軽く、かつ、繊維間に空隙が多く存在するマルチフィラメント糸であり、
特に、巻回時に加えられる長手方向への引張力と引張力に伴う圧縮力、並びに、第2側部4の金属線からの巻回による圧縮力等の相互作用の影響を受け易く、変形し易いことによると考えられる。
この理由は、細径でありながら引張強度が高く、水中において引張強度の変化が少なく、軽くて柔軟性に富み、引張破断力の高い釣糸1を得る為である。
尚、水中において引張強度の変化を極めて少なくする為には、平衡水分率(20℃で湿度65%、24時間浸漬)が5%以下の合成繊維のマルチフィラメント糸が好ましい。
これに対して、例えばステンレス鋼線の場合、引張強さが2.5GPaで引張弾性率が227.4GPaで密度が7.9g/cm3のとき、前記同様に比強度と比弾性率を算出すると、比強度は約32.7km、比弾性率は約2935.4kmとなる。
本発明に用いる合成繊維のマルチフィラメント糸は、例えばステンレス鋼線に比べて比強度が約5.61倍高く、かつ、比弾性率が約1.54倍高い。
従って、比強度が183.6km以上で比弾性率が4507.4kmの双方の範囲を満たす、つまり、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上の双方の範囲を満たす合成繊維のマルチフィラメント糸を、釣糸1の芯部2と芯部2の外周の第1側部3の双方に用いることにより、軽くて、柔軟性に富み、引張破断力の高い釣糸1を得ることができる。
マルチフィラメント糸に全芳香族ポリエルテル繊維を用いる理由は、溶融状態で液晶を形成し、液晶ポリマーを溶融紡糸することにより、液晶ポリマーの分子鎖を繊維の長手方向へ高度に配向させ、機械的強度を大幅に向上させる為である。
第1側部3と第2側部4の撚りピッチPは、横断面の外径(D11+d1)の1.20倍以上50倍以下(第1実施形態では30倍)である。好ましくは、1.20倍以上40倍以下である。
第1側部4に用いる金属素線は、引張強さが3000N/mm2以上4200N/mm2以下で、K、Al、Siのうち少なくとも1種類以上を5ppm以上180ppm以下添加し、線直径d1、d2が0.012mmの電解研磨したドープタングステン線を用いる。
ドープタングステン線を用いる理由は、例えば線直径d1、d2が0.012mmのような細線の縮径伸線加工時に、純タングステン線を用いた場合には粒界滑りを起こして脆くなり易い。ドープ剤(前記K、Al、Si等)を添加することにより、粒界滑りを起こし難くさせ、機械的強度を向上させる為である。
ドープ剤の含有量を前記範囲としたのは、前記範囲を下回れば、長大結晶による粒界滑りを起こし難くさせる効果は低減し、前記範囲を超えれば、縮径伸線加工時に割れが発生し易くなり、機械的強度の向上効果は得られ難くなるからである。
好ましくは、電解研磨した金属素線を用いることである。この理由は、金属素線の表面には、縮径伸線加工時に用いる潤滑剤の残留、及び酸化被膜層の形成等により脆化を招き易く、この脆化を防いで、機械的強度を向上させる為である。
紫外線吸収剤としては、2−(5−メチル−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、2、4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を用いる。又、光安定剤としては、ベンジル等を用いる。
この理由は、芯部2、及び第1側部3に用いるマルチフィラメント糸は、全芳香族ポリエステル繊維で日光により黄変し易く、かつ、機械的強度が劣化し易い。そして、全芳香族ポリエステル繊維は、多くのC−H結合で形成されていて、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、光安定剤等を配合することにより、C−H結合エネルギーを破壊させる日光に含まれる紫外線波長域の光を吸収して、紫外線からの機械的強度の劣化を防ぐ効果が高いからである。
つまり、芯部22は、繊度が28dtexの全芳香族ポリエステル繊維を用いて外径D51が0.020mm、5本のマルチフィラメント糸から成り、釣糸1の芯部2と同一であり、第2側部44は、線直径d1、d2が0.012mmの2本の電解研磨したドープタングステン線を用い、釣糸1の第2側部4と同一で、被覆部66も釣糸1の被覆部6と同一とする。
この理由は、例えば第2側部44に用いる1本のドープタングステン線の引張強さが3800N/mm2のとき、線直径d1、d2が0.012mmの引張破断力は約42.9cNであり、2本のドープタングステン線の場合には、約85.8cNである。
芯部22の引張破断力は、繊度が28dtex、引張強度が22.9cN/dtexのマルチフィラメント糸である為、641.2cNである。
芯部22の引張破断力は、第2側部44の2本のドープタングステン線の引張破断力が約85.8cNであることから、金属線から成る第2側部44の引張破断力よりも約7.5倍大きい。この為、芯部22と第2側部44から成る芯線体55の引張破断力は、芯部22の引張破断力の大きさが大きく寄与することになるからである。
そして、芯線体55の引張破断力は、芯部22の引張破断力が芯線体55の引張破断力となり、641.2cNとなる。又、被覆部66が、芯線体55の引張破断力の約1.5%補完している為、釣糸100の引張破断力は約650.8cNとなる。
芯線体5の引張破断力は、前記比較例の釣糸100と同様の理由から、芯部2と芯部2の外周に設けた第1側部3との、2つのフィラメント糸の引張破断力の大きさが大きく寄与する。
そして、芯線体5の芯部2と第1側部3に、繊度が28dtexで引張強度が22.9cN/dtexのマルチフィラメント糸を用いるとき、芯線体5の引張破断力は1282.4(28×2×22.9)cNとなる。
そして又、芯線体5の外周に膜厚t1が0.003mmの被覆部6を設けた、外径D1が0.038mmの釣糸1の引張破断力は、被覆部6により引張破断力を補完(前記比較例と同じ9.6cN)している為、1292.0cNである。
従って、本発明の第1実施形態の釣糸1の引張破断力は、比較例の釣糸100よりも約2倍大きな値となる。
従って、本発明の第1実施形態の釣糸1は、横断面の最大外径D1が、比較例の釣糸100の横断面の最大外径D5と同一でありながら、引張破断力を比較例の釣糸100よりも約2倍向上させることができる。
U>18×(S0+S1) ・・・(1)
の関係式(1)で表すことができる。
第1側部3の引張破断力P1は、マルチフィラメント糸の繊度の総数S1は、28dtexであり、引張強度が22.9cN/dtexであることから、641.2cNである。
第2側部4の金属線の引張破断力P2は、第2A金属線側部41と第2B金属線側部42の2本のドープタングステン線から成る為、約85.8cNである。従って、芯部2の引張破断力P0と、第1側部3の引張破断力P1とは、いずれも第2側部4の金属線の引張破断力P2よりも大きい(P0>P2、P1>P2)。又、本発明の釣糸1の引張破断力Uは、前記したように1292.0cNである。
従って、関係式(1)において、18×(S0+S1)は、1008cNとなり、本発明の釣糸1の引張破断力Uは、1292.0cNであることから、1008cNよりも大きく、関係式(1)を満たしている。
ここでは、引張荷重と伸びの特性の説明上、引張荷重を加えたとき、伸びの増加とともに引張荷重が徐々に増大する右肩上がりの二次曲線を描く範囲を第1種引張剛性範囲とし、引張荷重を加えたとき、伸びの増加に比例して引張荷重が増大する直線的な線を描く範囲を第2種引張剛性範囲とし、前記第2種引張剛性範囲を超えた後に引張荷重を続けて加えたとき、伸びの増加に対して引張荷重の増大が緩やかとなった後に、破断に至る範囲を第3種引張剛性範囲という。
つまり、引張荷重を加えたとき、符号0から符号A1までは伸びの増加とともに引張荷重が緩やかに増大する右肩上がりの二次曲線を描く第1種引張剛性範囲を示す。
そして、符号A1を超えた後は、伸びの増加に比例して引張荷重が増大し、直線的な線を描き、符号B1で比例限界点に達して破断に至る第2種引張剛性範囲を示す。
そして又、符号Eは、本発明の釣糸の引張破断力の40%のときの引張荷重の値(又は位置)を示し、この値以下で第1種引張剛性範囲が現れる。具体的には、釣糸1の引張破断力は1292.0cNである為、符号Eは引張荷重が516.8cNの値の位置を示し、釣糸1は引張荷重が516.8cN以下で、前記第1種引張剛性範囲が現れる。
又、釣糸の引張破断力の40%以下で第1種引張剛性範囲を有するとしたのは、水中での魚の突発的な動き、又は釣人の魚を釣り上げようとする動きから生ずる釣糸への引張力・衝撃力を吸収して、釣糸の破断を防ぐ為である。
詳しくは、例えば鮎の友釣りの場合、囮鮎と釣り上げようとする鮎との2匹分の引張荷重を約140cN、衝撃荷重を約280cNとした場合、釣糸1には約420cNの引張荷重が加わる。釣糸1の引張破断力の40%の引張荷重516.8cN以下に第1種引張剛性範囲を設けることにより、釣糸1へ加わる引張力・衝撃力を吸収することができるからである。
そして、第1種引張剛性範囲の後に第2種引張剛性範囲を有するとしたのは、釣糸1へ加わる大きな引張荷重を第2種引張剛性範囲で受けて、釣糸1の破断を防ぐ為である。
特に、比例限界点の符号A2から引張破断点の符号B2までの伸びは、ドープ剤を含んでいない純タングステン線の伸びよりも大きく、ステンレス鋼線の場合よりもさらに大きい。この特性により、前記図2(イ)の第1種引張剛性範囲と同様の衝撃力吸収効果が現れる。
従って、本発明の第1実施形態の釣糸1の引張荷重と伸びの特性は、第1種引張剛性範囲と第2種引張剛性範囲とを有し、第2種引張剛性範囲と第3種引張剛性範囲から成る一般的な材料の引張荷重と伸びの特性とは異なる。又、図2(ハ)のドープタングステン線の引張荷重と伸びの特性とも異なる。
第2実施形態の釣糸20は、芯部2と第1側部3Aと第2側部4から成る芯線体51と、芯線体51の外周に被覆部6を有する。第2側部4は、第2A金属線側部41と第2B金属線側部42から成る。
芯部2と、第2A金属線側部41と第2B金属線側部42から成る第2側部4と、被覆部6は第1実施形態の釣糸1と同様である。
従って、第1実施形態の釣糸1とは、第1側部3Aの外径D22が異なり、釣糸1の全体の一部切欠き側面図、図1(イ)と同様である為、釣糸20の全体の一部切欠き側面図は省略している。
第1側部3Aは、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtexで、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上の合成繊維のマルチフィラメント糸を用い、10回/m以上600回/m以下捻回した、撚糸のマルチフィラメント糸を用いる。
第2実施形態の釣糸20の第1側部3Aは、繊度が28dtex、引張強度が22.9cN/dtex、引張弾性率が530cN/dtexの全芳香族ポリエステル繊維を用いて、外径D22が0.020mmで5本のフィラメント糸を320回/m捻回した、撚糸のマルチフィラメント糸を用いる。尚、水中において引張強度の変化を極めて少なくする為には、平衡水分率(20℃で湿度65%、24時間浸漬)が5%以下の合成繊維のマルチフィラメント糸が好ましい。
従って、芯部2の引張破断力P0と第1側部3Aの引張破断力P1とは、いずれも第2側部4の、金属線の引張破断力P2よりも大きい(P0>P2、P1>P2)。
従って、関係式(1)において、18×(S0+S1)は、1008cNとなり、釣糸20の引張破断力Uは、1314.46cNで、1008cNよりも大きく関係式(1)を満たしている。
そして、第1側部3Aの撚糸のマルチフィラメント糸を用いることにより引張破断力が向上する理由は、マルチフィラメント糸は各フィラメント間に微細な空隙が存在し、捻回することによりこの微細な空隙が埋まり、空隙が埋まった状態で引張荷重を加えると引張荷重に対する引張抵抗力が各フィラメントに均等分散された結果による、と考えられる。
又、第1実施形態の釣糸1の横断面の最大外径D1は、0.038mmである(日釣工線径基準、号柄の0.01号相当)。
釣糸1と釣糸20との横断面の最大外径に差が生じる要因は、第1側部のマルチフィラメント糸が無捻回の釣糸1か、捻回(320回/m)した撚糸の釣糸20かの差である。
つまり、第1側部のマルチフィラメント糸を捻回しない釣糸1であれば横断面の最大外径(D2相当)は、号柄が0.01号相当で、第1側部のマルチフィラメント糸を捻回(320回/m)した釣糸20であれば、横断面の最大外径D2は、号柄が0.03号相当となる。
そして、第1側部3Aのマルチフィラメント糸の捻回数を概ね160回/mにすると、第1側部3Aのマルチフィラメント糸は、前記釣糸1の第1側部3と同様に、巻回時に加えられる長手方向への引張力と引張力に伴う圧縮力、並びに、第2側部4からの巻回による圧縮力等の相互作用を受けて偏平状となり、その厚さTは0.016mmとなって、横断面の最大外径(D2相当)は、0.042mmで、号柄が0.02号相当となる。
従って、本発明の釣糸1、20の構造は、第1側部3、3Aに用いるマルチフィラメント糸の捻回数の多少により、釣糸1、20の横断面の最大外径(D1、D2)を可変することができ、釣糸の太さの標準規格との一致化を容易にすることができる、特段の作用効果がある。尚、補足すれば、前記釣糸1、20で説明したように、釣糸20の引張破断力を維持したままで釣糸1への細径化(横断面の最大外径が0.046mmから0.038mmへ、号柄では0.03号から0.01号へ)を容易にすることができる。
従って、第2実施形態の釣糸20とは、芯部2の外径D31が異なる為、釣糸1全体の一部切欠き側面図、図1(イ)と同様であり、釣糸30全体の一部切欠き側面図は省略している。
芯部2は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上の合成繊維のマルチフィラメント糸を用いる。
第2実施形態の釣糸30の芯部2は、繊度が56dtex、引張強度が22.9cN/dtex、引張弾性率が530cN/dtexの全芳香族ポリエステル繊維を用いて、外径D31が0.0282mmで、10本のフィラメントから成るマルチフィラメント糸を用いる。尚、水中において引張強度の変化を極めて少なくする為には、前記釣糸1、20と同様に、平衡水分率(20℃で湿度65%、24時間浸漬)が5%以下の合成繊維のマルチフィラメント糸が好ましい。
第1側部3Aの引張破断力P1は、前記第2実施形態の釣糸20の第1側部3Aと同一である為、673.26cNである。
第2側部4の金属線の引張破断力は、前記第2実施形態の第2側部4と同一である為、約85.8cNである。
従って、芯部2の引張破断力P0と、第1側部3Aの引張破断力P1とは、いずれも第2側部4の金属線の引張破断力P2よりも大きい(P0>P2、P1>P2)。
そして、釣糸30の引張破断力Uは、1955.66cNとなる。
これは、芯部2の繊度の総数S0は56dtex、引張強度が22.9cN/dtexであり、第1側部3Aの繊度の総数S1は28dtex、引張強度が22.9cN/dtexで、320回/m捻回することにより引張強度が5%増大していることから、釣糸30の引張破断力Uは、(56×22.9+28×22.9×1.05)cNで算出される。
従って、関係式(1)において、18×(S0+S1)は、1512cNとなり、釣糸30の引張破断力Uは、1955.66cNで、1512cNよりも大きく、関係式(1)を満たしている。
そして、前記第2実施形態の釣糸20の説明において、第1側部3Aのマルチフィラメント糸の捻回数を160回/mにすると、第1側部のマルチフィラメント糸は、釣糸1の第1側部3のように偏平状となり、その厚さTは0.016mmとなる。
第3実施形態の釣糸30に対して、第1側部3Aに、前記マルチフィラメント糸の捻回数を160回/mにした、撚糸のマルチフィラメント糸を用いた場合には、芯部2の外径D31が0.0282mmで、第1側部3Aの外径D32は偏平状となって、その厚さTは0.016mmとなり、被覆部6の膜厚t1が0.003mmであることから、横断面の最大外径(D3相当)の寸法は、0.0502mmとなる(日釣工線径基準号柄の、0.04号に相当)。
第3実施形態の釣糸30に対して、第1側部3Aに捻回していない無捻回のマルチフィラメント糸を用いた場合には、芯部2の外径D31が0.0282mmで、第1側部3Aの外径D32は偏平状となって、第2側部40の金属素線の線直径と同一となって0.012mmとなり、被覆部6の膜厚t1が0.003mmであることから、横断面の最大外径(D3相当)の寸法は、0.0462mmとなる(日釣工線径基準号柄の、0.03号に相当)。
従って、本発明の釣糸30の構造は、前記第2実施形態の釣糸20と同様に、第1側部3Aに用いるマルチフィラメント糸の捻回数の多少により、釣糸30の横断面の最大外径D3を可変することができ、釣糸の太さ標準規格との一致化を容易にすることができる、特段の作用効果がある。
さらに、釣糸30の引張破断力を維持したままで、細径化(横断面の最大外径が0.0542mmから0.0462mmへ、号柄では0.05号から0.03号へ)を容易にすることができる。尚、ここでいう合成繊維のマルチフィラメント糸と金属線を用いた複合糸から成る釣糸は、モノフィラメント糸から成る釣糸と比較して形状が複雑で、太さが極めて細い為、太さの測定に際して、接触型測定機を用いた場合には、釣糸への接触圧力により太さが変動し易い。これを防ぐ為、非接触型のレーザー測定機を用いて、釣糸の横断面の最大外径を釣糸の太さとして、太さ標準規格と対比して述べた。この為、接触型測定機を用いた場合とは、その値は異なる。
本発明の第1実施形態の釣糸1と異なるところは、第2側部4Aがいずれも2本の金属素線から成る第2A金属線側部411と第2B金属線側部422を有し、他は第1実施形態の釣糸1と同様である。
図5(ロ)は、変形例2の釣糸50を示し、芯部2と第1側部3Aと第2側部4から成る芯線体54と、芯線体54の外周に被覆部6を有する。
本発明の第3実施形態の釣糸30と異なるところは、第1側部3Aが、第1A繊維側部31と第1B繊維側部32から成り、第1A繊維側部31と第1B繊維側部32とは、いずれも第3実施形態の釣糸30の第1側部3A(第2実施形態の釣糸20の第1側部3Aと同じ)と同一の、320回/m捻回した、撚糸のマルチフィラメント糸をそれぞれ用いる。他は、第3実施形態の釣糸30と同様である。
又、金属素線から成る第2側部4は、釣糸40で示すように第2A金属線側部411と第2B金属線側部422として複数設けてもよい。好ましくは、1〜4個である。
そして又、捻回した、撚糸のマルチフィラメント糸は、第1側部3と芯部2のいずれか一方、又は双方に用いてもよい。
2 芯部
3 第1側部
4 第2側部
5 芯線体
6 被覆部
20 釣糸(第2実施形態)
30 釣糸(第3実施形態)
40 釣糸(変形例1)
50 釣糸(変形例2)
100 釣糸(比較例)
芯部の外周に、第1側部と第2側部とを平行して同一長手方向へ巻回し、芯部と第1側部と第2側部とを有する芯線体を備える。芯線体の外周に、被覆部を設ける。
芯部と第1側部は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上である。
第2側部は、引張強さが1500N/mm2以上4200N/mm2以下の、少なくとも1本以上8本以下の金属素線を用いた金属線から成る。
芯部と第1側部は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上の合成繊維のマルチフィラメント糸から成る。
第2側部は、引張強さが1500N/mm2以上4200N/mm2以下の、少なくとも1本以上8本以下の金属素線を用いた金属線で、芯部と第1側部の、それぞれの引張破断力は、第2側部の引張破断力よりも高い。
この理由は、合成繊維のマルチフィラメント糸と金属線とを組み合わせた複合糸から成る釣糸の構成において、高強度の引張強さをもつ金属素線から成る金属線を用いても、用いる金属素線が細径である為、必ずしも釣糸の引張破断力の向上に寄与していない。
そして、本発明は、このことに着目して、金属素線から成る金属線よりも遥かに高い比強度と比弾性率をもつ合成繊維のマルチフィラメント糸を、芯部と芯部の外周の第1側部との双方に用いることにより、釣糸の引張破断力をより高めて、道糸との結束性を向上させ、軽くて、柔軟で、丈夫な釣糸を提供する為である。尚、第2側部に金属線を用いる理由は、主に水中での釣糸の沈み性向上と、水中での岩場での擦れによる耐摩耗特性を向上させて、破断を防ぐ為である。
これにより、第2側部の金属線よりも引張破断力の高い、芯部と第1側部との双方で、釣糸へ加わる引張荷重をそれぞれ負荷分担し、引張応力を低くして釣糸の引張破断力を向上させることができる。
この理由は、第1種引張剛性範囲で魚の突発的な活動から生ずる衝撃力(例えば、鮎の友釣りの場合に縄張り争い等による衝撃力)を吸収し、第2種引張剛性範囲で前記衝撃力を超える大きな引張荷重が加わった場合に釣糸の破断を防ぐ為である。
これにより、電解研磨したドープタングステン線を用いて、粒界滑りを起こし難くさせて機械的強度を向上させることができる。又、第3種引張剛性範囲を有する非線形特性であることにより、特に水中での魚の突発的な活動から生じる衝撃力を吸収することができ、さらに、水中での岩場での擦れによる釣糸の破断を防ぐことができる。
芯部2は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上の合成繊維のマルチフィラメント糸を用いる。
第3実施形態の釣糸30の芯部2は、繊度が56dtex、引張強度が22.9cN/dtex、引張弾性率が530cN/dtexの全芳香族ポリエステル繊維を用いて、外径D31が0.0282mmで、10本のフィラメントから成るマルチフィラメント糸を用いる。尚、水中において引張強度の変化を極めて少なくする為には、前記釣糸1、20と同様に、平衡水分率(20℃で湿度65%、24時間浸漬)が5%以下の合成繊維のマルチフィラメント糸が好ましい。
Claims (6)
- 芯部の外周に、第1側部と第2側部とを平行して同一長手方向へ巻回し、前記芯部と前記第1側部と前記第2側部とを有する芯線体を備え、前記芯線体の外周に、被覆部を設けた釣糸であって、
前記芯部と前記第1側部は、繊度が28dtex以上280dtex以下、引張強度が18cN/dtex以上で、かつ、引張弾性率が442cN/dtex以上で、
前記第2側部は、引張強さが1500N/mm2以上4200N/mm2以下の、少なくとも1本以上の金属素線を用いた金属線から成り、
前記芯部と前記第1側部の、それぞれの引張破断力は、前記第2側部の引張破断力よりも高く、
前記釣糸の引張荷重と伸びの特性は、前記釣糸の引張破断力の40%以下で、伸びの増加とともに引張荷重が緩やかに増大する第1種引張剛性範囲と、前記釣糸の引張破断力の40%を超えると、伸びの増加に比例して引張荷重が増大し、比例限界点に達して破断に至る第2種引張剛性範囲とを有する非線形特性であることを特徴とする、釣糸。 - 前記芯部の、マルチフィラメント糸の繊度の総数をS0、引張破断力をP0、前記第1側部の、マルチフィラメント糸の繊度の総数をS1、引張破断力をP1、前記第2側部の、金属線の引張破断力をP2とし、前記釣糸の引張破断力をUとした場合に、
前記芯部の引張破断力をP0と、前記第1側部の引張破断力P1とは、いずれも前記第2側部の金属線の引張破断力よりも大きく(P0>P2、P1>P2)、かつ、前記釣糸の引張破断力Uは、U>18×(S0+S1)の関係式を満たすことを特徴とする、請求項1記載の釣糸。 - 前記第2側部は、第2A金属線側部と第2B金属線側部とを備え、
前記芯部と前記第1側部とが接触する凹部の両側に、前記第2A金属線側部と前記第2B金属線側部とをそれぞれ配置して、
前記芯部と前記第1側部と前記第2側部とを有する前記芯線体を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の釣糸。 - 前記第2側部は、2本以上の隣接接触した金属素線を備え、
前記芯部と前記第1側部とが接触する凹部の片側に、前記第2側部を配置して、
前記芯部と前記第1側部と前記第2側部とを有する前記芯線体を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の釣糸。 - 前記芯部と前記第1側部のいずれか一方、又は双方に、10回/m以上600回/m以下捻回した、撚糸のマルチフィラメント糸を用いたことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の釣糸。
- 前記第2側部に用いる金属素線は、引張強さが3000N/mm2以上4200N/mm2以下の電解研磨したタングステン線であり、
前記第2側部の金属素線は、引張荷重と伸びの特性が伸びの増加に比例して引張荷重が直線的に増大する第2種引張剛性範囲と、引張荷重が直線的に増大して比例限界点に達した後に伸びの増加とともに引張荷重の増加が緩やかとなり破断に至る第3種引張剛性範囲とを有し、引張荷重と伸びの特性が非線形特性であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の釣糸。
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