以下、本発明に係るコイルボビンの実施の形態について、図面を参照して説明する。
以下の説明では、変圧器の一次コイルと二次コイルに用いられるコイルボビンについて説明する。本実施の形態に係る変圧器は、一次巻線を整列巻きした一次コイルの外側に二次巻線を整列巻きした二次コイルを同心状に配置し、両コイルの脚部の外側に円筒状の鉄心を配置した構造を有している。本発明に係るコイルボビンは、特に、変圧器の一次コイルを製作するために用いられるものである。
図1は、本発明に係る変圧器の主要部の構成を示す斜視図である。図2は、同変圧器の回路構成を示す図である。
図1に示す変圧器Aは、第1のコイル1(図1では見えていない。図13参照)の外側に第2のコイル2を同心状に配置した長方形のリング形状を有するコイル部Bと、コイル部Bの2つの長辺の部分(脚部)の一方に装着された円筒状の鉄心Cとを備える。第1のコイル1と第2のコイル2は、後述するようにそれぞれコイルボビン101(図3,図4参照)とコイルボビン201(図10,図11参照)を用いて製作されている。
変圧器Aは、第1のコイル1に電力系統から6000[V]以上の高圧が印加され、第2のコイル2から需要家に供給する規定の低圧(例えば、100[V]若しくは200[V]が出力される、配電用変圧器に適用した一例である。
変圧器Aでは、第1のコイル1に高圧が入力され、第2のコイル2から低圧が出力されるので、変圧器Aの第1のコイル1が一次コイルとなり、第2のコイル2が二次コイルとなっている。また、変圧器Aの第1のコイル1が高圧コイルとなり、第2のコイル2が低圧コイルとなっている。
変圧器Aは、図2に示す変圧器Aの回路構成の点線で示す部分に相当している。以下の説明では、第1のコイル1を「一次コイル1」若しくは「高圧コイル1」と称し、第2のコイル2を「二次コイル2」若しくは「低圧コイル1」と称して説明する。
変圧器Aは、降圧用変圧であるので、二次コイル(低圧コイル)2の二次巻線202の巻数n2は、一次コイル(高圧コイル)1の一次巻線102の巻数n1よりも少ない。一次コイル(高圧コイル)1に流れる一次電流は、二次コイル(低圧コイル)2に流れる二次電流よりも小さいので、一次巻線102の線径は、二次巻線202の線径よりも小さい。
変圧器Aの一次コイル1は、図2に示すように、一次巻線102の巻数n1の主要部を構成する主要巻線1021と、一次巻線102の巻数n1の巻線調整部(巻数n1の巻数を調整する部分)を構成する巻数調整用巻線1022を有する。巻数調整用巻線1022は、3個の小巻線1022a,1022b,1022cを有する。主要巻線1021は、本発明に係る第1の巻線に相当し、巻数調整用巻線1022は、本発明に係る第2の巻線に相当している。
変圧器Aの回路構成では、3個の小巻線1022a,1022b,1022cは直列に接続され、巻数調整用巻線1022の小巻線1022cと主要巻線1021が直列に接続される。そして、小巻線1022aと小巻線1022b、小巻線1022bと小巻線1022c、小巻線1022cと主要巻線1021の各接続点と小巻線1022aの開放された端子がタップとなる。
図2に示す変圧器Aの回路構成は、図1に示す変圧器Aをタンク(図示省略)に収納し、当該タンクに配設されるブッシングや当該タンクに内蔵されるタップ切換器TLに所要の電気的な接続を行って完成される。
タンクには、一次電圧v1を印加するための一対の一次ブッシングBS1(+),BS1(−)と二次電圧v2を出力するための3個の二次ブッシングBS2(+),BS2(−)2,BS2(G)((G)は、接地されたブッシングであることを示す。)が配設されている。タップ切換器TLのコモン端子Pcは、一次ブッシングBS1(+)に接続されている。
タップ切換器TLには4つのタップ端子P1〜P4と、切換片TCによっていずれかのタップ端子に接続されるコモン端子Pcとが設けられている。タップ切換器TLのコモン端子Pcは、一次ブッシングBS1(+)に接続されている。小巻線1022aの両端はそれぞれタップ端子P1とタップ端子P2に接続され、小巻線1022bの両端はそれぞれタップ端子P2とタップ端子P3に接続され、小巻線1022cの両端はそれぞれタップ端子P3とタップ端子P4に接続される。主要巻線1021の両端はそれぞれタップ端子P4と一次ブッシングBS1(−)に接続される。
図2では、主要巻線1021と巻数調整用巻線1022の接続点を示すために、接続点T1〜T5を記載している。従って、図2では、小巻線1022aの両端をそれぞれ接続点T1と接続点T2に接続し、小巻線1022bの両端をそれぞれ接続点T2と接続点T3に接続し、小巻線1022cの両端をそれぞれ接続点T3と接続点T4に接続している。また、主要巻線1021の両端をそれぞれ接続点T4と接続点T5に接続している。
図1に示すように、変圧器Aのコイル部Bからは主要巻線1021の両端部と小巻線1022a,1022b,1022cの各両端部が引き出されている。また、図13に示すように、変圧器A1のコイル部Bからは二次巻線202の両端部と中間位置cも引き出されている。図1では、コイル部Bから引き出された二次巻線202の両端部と中間位置cの部分は見えていない。
図1に示す引出線La1,La2は、小巻線1022aの両端から引き出された線であり、引出線Lb1,Lb2は、小巻線1022bの両端から引き出された線であり、引出線Lc1,Lc2は、小巻線1022cの両端から引き出された線である。引出線Ld1,Ld2は、主要巻線1021の両端から引き出された線であり、図12に示す引出線Le1,Le2は、二次巻線202の両端から引き出された線であり、引出線Le3は、二次巻線202の中間位置cから引き出された線である。
変圧器Aがタンクに収納される際、巻数調整用巻線1022の3個の小巻線1022a,1022b,1022cから引き出された引出線La1,La2,Lb1,Lb2,Lc1,Lc2は、引出線La1,La2がタップ切換器TLのタップ端子P1とタップ端子P2に、引出線Lb1,Lb2がタップ切換器TLのタップ端子P2とタップ端子P3に、引出線Lc1,Lc2がタップ切換器TLのタップ端子P3とタップ端子P4にそれぞれ接続される。
また、主要巻線1021から引き出された一方の引出線Ld1は、タップ切換器TLの接続点T4に接続され、主要巻線1021から引き出された他方の引出線Ld2は、一次ブッシングBS1(−)に接続される。二次コイル2から引き出された引出線Le1,Le2,Le3は、一次ブッシングBS1(+)と二次ブッシングBS2(−)と二次ブッシングBS2(G)にそれぞれ接続される。
変圧器Aでは、タップ切換器TLでコモン端子Pcと接続するタップ端子P1〜P4を切り換えることにより、一次巻線102の巻数n1を4段階に切り換えることができる。3個の小巻線1021a,1021b,1021cの巻数をそれぞれna,nb,ncとし、主要巻線1021の巻数をndとすると、一次巻線102の巻数n1は、(na+nb+nc+nd)、(nb+nc+nd)、(nc+nd)、ndの4種類に切り換えることができる。
以下の説明では、本実施の形態に係る変圧器Aを配電用6600[V]/(210−105[V]変圧器に適用する場合について、説明する。
6600[V]/(210−105)[V]変圧器が配置される需要家の周辺は、配電変電所からの距離によって変圧器の一次コイルに入力される一次電圧が大きく変動するので、一般に、配電変電所からは6600[V]よりも高い電圧で送電される。このため、変圧器Aの一次コイル1に入力される一次電圧v1は、配電変電所に近い場所では6600[V]以上の高圧になり、配電変電所から遠い場所では6600[V]以下の高圧になることがある。
本実施の形態に係る変圧器Aは、一次電圧v1の大きさによって一次コイル1の巻数を4段階に調整し、二次コイル2から安定した(210−105)[V]の二次電圧v2を出力できるようになっている。具体的には、一次電圧v1をvA、vB、vC、vD(vA>vB>vC>vD)の4種類に分け、各電圧値に4つのタップを対応させている。
変圧器Aの変圧比は、(v1/v2)=(n1/n2)で表される。v2、n2は固定であるので、一次巻線102の巻数n1は、一次電圧v1に比例する。従って、各タップの一次電圧vA、vB、vC、vDに、一次巻線102の巻数(na+nb+nc+nd)、(nb+nc+nd)、(nc+nd)、ndがそれぞれ対応する。
タップ電圧vA、vB、vC、vDは、通常、規格や客先の仕様書等で決められている。例えば、vA=6750[V]、vB=6600[V]、vC=6450[V]、vD=6300[V]に規定されている場合、vA−vB=vB−vC=vC−vD=150[V]であるから、na=nb=ncとなる。すなわち、3個の小巻線1022a,1022b,1022cの巻数は、同一となる。
次に、一次コイル1と二次コイル2の構造について、説明する。まず、一次コイル1の構造について、図3〜図9を用いて説明する。
以下の説明では、本実施の形態に係る変圧器Aの4つのタップ電圧を6750[V]、6600[V]、6450[V]、6300[V]に設定した場合を例に説明する。この場合の例では、3個の小巻線1022a,1022b,1022cの巻数をnsとすると、vC/vD=(nd+ns)/nd=6450/6300より、主要巻線1021の巻数ndと小巻線1022a,1022b,1022cの巻数nsの間にはnd=42×nsの関係がある。
図3は、変圧器Aの一次コイル1を製作するためのコイルボビン101(本発明に係るコイルボビン)を正面から見た図、図4は、同コイルボビン101を右側面から見た図、図5は、同コイルボビン101の図4におけるX−X線断面図である。
図6は、第2の凹溝1014の底面1014Bに形成される巻数調整用巻線1022の整列巻きをガイドするためのガイド溝1016を示す図、図7は、凹溝1012の横断面形状を矩形とした場合に面積が最大となる条件を説明するための図、図8は、第1の凹溝1013の内壁面1013Aの底面1013Bに対する傾斜角θを説明するための図である。図9は、凹溝1012への主要巻線1021と巻数調整巻線1022の巻回方法を説明するための図である。
以下の説明では、一次コイル1を製作するためのコイルボビンと二次コイルを製作するためのコイルボビンを区別するため、一次コイル1用のコイルボビンを「第1のコイルボビン」と称し、二次コイル2用のコイルボビンを「第2のコイルボビン」と称する。
また、図3において、リング形状の外周に沿う面を「外周側面」と称し、内周に沿う面を「内周側面」と称し、図4において、ボビン本体1011の左側の面を「正面」と称し、右側の面を「背面」と称して説明をする。
一次コイル1は、第1のコイルボビン101を用いて長方形のリング状に成形される。第1のコイルボビン101は、図3,図4に示すように、背の低い長方形のリング形状を有するボビン本体1011を備える。ボビン本体1011は、樹脂を成形して製作されている。
ボビン本体1011は、外周側面に一次巻線102(図13参照)を巻回するための凹溝1012が形成されており、外周側面以外の部分(ボビン本体1011の内周側面の部分)の外形形状が半円形状に整形されている(図5,図9参照)。
ボビン本体1011の内周側面の外形形状を半円形状にしているのは、ボビン本体1011の2つの長辺の部分の一方に、図1に示すように、円筒状の鉄心Cが装着されるため、当該鉄心Cの穴の内側面をボビン本体1011に密着させるためである。従って、ボビン本体1011の外形形状を半円形状にした部分の半径は、鉄心Cの穴の半径より僅かに小さいサイズに設定されている。
ボビン本体1011の外周側面に形成された凹溝1012は、主要巻線1021が巻回される第1の凹溝1013と巻数調整用巻線1022が巻回される第2の凹溝1014を有する。第2の凹溝1014は、第1の凹溝1013の底面1013Bの幅方向(図4において横方向)の中央に穿設されている。
第2の凹溝1014の図4におけるX−X線断面の形状(以下、この形状を「横断面形状」という。)は、第2の凹溝1014の底面1014Bに対して両内壁面1014Aが垂直に立ち上がる形状(長方形の形状)となっている(図6参照)。一方、第1の凹溝1013の横断面形状は、第1の凹溝1013の底面1013Bに対して両内壁面1013Aがそれぞれ外側に所定の傾斜角θで傾斜するように立ち上がる形状となっている(図5,図8参照)。
本実施の形態に係る第1のコイルボビン101は、凹溝1012の横断面の形状に特徴がある。凹溝1012の横断面の形状やサイズの詳細については、後述する。
ボビン本体1011の正面側の長方形の外形寸法(L1(長手方向の長さ)×W1(短手方向の長さ))は、ボビン本体1011の背面側の長方形の外形寸法(L2(長手方向の長さ)×W2(短手方向の長さ))よりも小さいサイズに設定されている。これは、図13に示すように、第1のコイルボビン101を第2のコイルボビン201の穴の部分に嵌入してコイル部Bの構造を二次コイル2が一次コイル1の外側に同心状に配置された構造にするためである。
従って、ボビン本体1011の正面側の長方形の外形寸法(L1×W1)は、第2のコイルボビン201の穴の部分の長方形の寸法(L3(長手方向の長さ)×W3(短手方向の長さ))(図10参照)より僅かに小さいサイズに設定されている。一方、ボビン本体1011の背面側の長方形の外形寸法(L2×W2)は、長方形のリング形状を有する第2のコイルボビン201の外形寸法(L4(長手方向の長さ)×W4(短手方向の長さ))(図10参照)と略同一の寸法に設定されている。
ボビン本体1011の正面側の側面のうち、一方の長辺の部分(図3では、右側の長辺の部分)に、5個の切り欠き部1015A,1015B,1015C,1015D,1015Eが設けられている。
切り欠き部1015Aは、第2の凹溝1014の整列巻きされる小巻線1022aの一方の引出線La1をボビン本体1011の外部に引き出し、切り欠き部1015Bは、小巻線1022aの他方の引出線La2と小巻線1022bの一方の引出線Lb1をボビン本体1011の外部に引き出し、切り欠き部1015Cは、小巻線1022bの他方の引出線Lb2と小巻線1022cの一方の引出線Lc1をボビン本体1011の外部に引き出すためのものである。
また、切り欠き部1015Dは、小巻線1022cの他方の引出線Lc2と第1の凹溝1013に巻回される主要巻線1021の一方の引出線Ld1をボビン本体1011の外部に引き出すためのものであり、切り欠き部1015Eは、第1の凹溝1013に巻回される主要巻線1021の他方の引出線Ld2をボビン本体1011の外部に引き出すためのものである。以下の説明では、切り欠き部を「巻線引出部」と称する。
3個の巻線引出部1015A,1015B,1015Cは、ボビン本体1011の外周側面から第2の凹溝1014の底面1014Bまでの深さを有し、ボビン本体1011の正面側から第2の凹溝1014まで貫通するように形成されている(図5参照)。
巻線引出部1015Dは、ボビン本体1011の外周側面から第1の凹溝1013の底面1013Bまでの深さを有し、ボビン本体1011の正面側から第1の凹溝1013まで貫通するように形成されている。巻線引出部1015Eは、ボビン本体1011の外周側面から第1の凹溝1013の傾斜した内側壁1013Aの上端位置までの深さを有し、ボビン本体1011の正面側から第1の凹溝1013まで貫通するように形成されている(図5参照)。
巻線引出部1015A〜1015Eによる一次コイル1の冷却効果を上げるために、図4の仮想線(二点差線)で示すように、巻線引出部1015Dと巻線引出部1015Eを、ボビン本体1011の外周側面から第2の凹溝1014の底面1014Bまでの深さを有し、ボビン本体1011の正面側から第2の凹溝1014まで貫通するように形成してもよい。
ボビン本体1011の巻線引出部1015Aから引き出された小巻線1022aの一方の端部が図1の引出線La1に相当し、ボビン本体1011の巻線引出部1015Bから引き出された小巻線1022aの他方の端部と小巻線1022bの一方の端部が図1の引出線La2,Lb1にそれぞれ相当し、ボビン本体1011の巻線引出部1015Cから引き出された小巻線1022bの他方の端部と小巻線1022cの一方の端部が図1の引出線Lb2,Lc1にそれぞれ相当する。
ボビン本体1011の巻線引出部1015Dから引き出された小巻線1022cの他方の端部と主要巻線1021の一方の端部が図1の引出線Lc2,Ld1にそれぞれ相当し、ボビン本体1011の巻線引出部1015Eから引き出された主要巻線1021の他方の端部が図1の引出線Ld2に相当している。
次に、第1の凹溝1013及び第2の凹溝1014の横断面形状とサイズについて、説明する。まず、第2の凹溝1014の横断面形状とサイズについて、説明する。
第2の凹溝1014は、3個の小巻線1022a,1022b,1022cをそれぞれ巻数nsだけ整列巻きするために、長方形の断面形状を有している。第2の凹溝1014のボビン本体1011の四隅の部分(第2の凹溝1014の底面1014Bが直角に屈曲する部分)の底面1014Bには、図6に示すように、当該底面1014Bに巻き付けられる小巻線1022aが整列するように巻き付け位置をガイドするための第1のガイド溝1016が設けられている。
本実施の形態では、図9に示すように、一次巻線102の一方の端部に配置される小巻線1022aは、第1のコイルボビン101の第2の凹溝1014に2層構造で巻回される。小巻線1022aは、一方の引出線La1を巻線引出部1015Aからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第2の凹溝1014の内壁面1014Aから第1のガイド溝1016に沿って反対側の内壁面1014Aまで巻き付けられる。その後、小巻線1022aは、折り返され、巻回された小巻線1022aの上側に元の内壁面1014A(巻線引出部1015Aを有する内壁面1014A)まで巻き付けられた後、他方の引出線La2が巻線引出部1015Bからボビン本体1011の外部に引き出される。
小巻線1022aの積層数を2層にしているのは、小巻線1022aの両端部をボビン本体1011から同一方向に引き出せるようにするためである。従って、小巻線1022aの積層数は、偶数層であればよく、2層に限定されるものではない。
小巻線1022aの1層目は、第1のガイド溝1016に沿って第2の凹溝1014の底面1014Bに巻き付けられるが、小巻線1022aの2層目は、1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして巻き付けられる(図6,図9参照)。巻線を多層に整列巻きして断面形状が矩形のコイルを製作する場合、巻線の整列巻きのパターンとして、偶数層と奇数層のターン数を同一にする第1のパターンと偶数層のターン数を奇数層のターン数よりも1ターン少なくする第2のパターンが知られている。
本実施の形態では、小巻線1022aを第1のパターンで積層するようにしている。第1のパターンで小巻線1022aを2層に整列巻きすると、小巻線1022aの各層のターン数はns/2[ターン]となるので、巻数調整用巻線1022に用いられる巻線の線径をφ1[mm]とすると、各層に整列巻きされた巻線の幅方向の寸法は、φ1×ns/2となっている。
第1のガイド溝1016は、φ1/2[mm]よりも短い溝幅を有する断面形状が円弧状の溝である(図6参照)。第1のガイド溝1016は、第2の凹溝1014の底面1014Bの幅方向にφ1[mm]のピッチでns/2[本]形成されている。
巻数調整用巻線1022の小巻線1022bは、小巻線1022aと同一の巻数であるので、小巻線1022aの2層目の上側に小巻線1022aと同様の方法で2層に整列巻きされる(図9参照)。巻数調整用巻線1022の小巻線1022cも小巻線1022aと同一の巻数であるので、小巻線1022bの2層目の上側に小巻線1022aと同様の方法で2層に整列巻きされる(図9参照)。
小巻線1022b,1022cも小巻線1022aと同様に、第1のパターンで整列巻きされるので、各層に整列巻きされた巻線の幅方向の寸法はφ1×ns/2となっている。第1のパターンの整列巻きでは、奇数層と偶数層が互いにφ1/2[mm]だけ位置がずれるので、2層巻きした小巻線1022a、小巻線1022b及び小巻線1022cの幅方向の寸法は、φ1×(ns/2)+φ1/2=φ1×(ns+1)/2となる。
第2の凹溝1014には、小巻線1022a、小巻線1022b及び小巻線1022cが幅方向に同一のターン数で積層させるように巻回されるので、第2の凹溝1014の横断面形状は、両内壁面1014Aが底面1014Bに対して垂直に立ち上がる長方形となっている。そして、第2の凹溝1014の幅方向の寸法w1[mm](図9参照)は、φ1×(ns+1)/2に設定されている。
第2の凹溝1014には、3個の2層に整列巻きされた小巻線1022a,1022b,1022cを3段(6層)に積層するように、巻数調整巻線1022が巻回されるので、第2の凹溝1014の深さの寸法h1[mm]は、各層の巻線の重なり部分の寸法をΔh1[mm](図13参照)とすると、凡そ(積層数−1)×(φ1−Δh1)+φ1=5×(φ1−Δh1)+φ1[mm]に設定されている。一般に、(φ1−Δh1)は、0.866×φ1とすることができるので、第2の凹溝1014の深さ寸法h1は、凡そ5.33×φ1[mm]に設定されている。
次に、第1の凹溝1013の横断面形状とサイズについて、説明する。
第1の凹溝1013は、上底の長さが下底の長さよりも長く、下底の両端の内角が120±α°(α:許容範囲内の誤差)である等脚台形の横断面形状を有している。すなわち、第1の凹溝1013の開口がボビン本体1011の内周側面から外周側面に向かって広くなるように、第1の凹溝1013の両内壁面1013Aが底面1013Bに対して傾斜角θ=120±α°で傾斜している。
図7(a)に示すように、第1のコイルボビン101の内周側面の半円形の横断面形状の半径をR1[mm]とし、第1のコイルボビン101の半径R1よりも所定長Dだけ短い半径R2(<R1)の領域AR(一点差線で示す領域)に凹溝1012を形成することができる領域とする。
第1の凹溝1013の横断面形状を等脚台形の形状にしているのは、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを可及的に高くするためである。
領域AR内に凹溝1012を形成する場合、凹溝1012の横断面形状は、当該凹溝1012に整列巻きされた一次巻線102の一次コイル1のコイル断面に相当するから、凹溝1012の横断面形状の面積(以下、単に「面積」という。)をS1とし、一次コイル1の横断面形状の面積をSLとし、凹溝1012における一次コイル1の占積率をη1とすると、占積率η1は、η1=SL/S1で表される。領域ARの面積S0における凹溝1012の面積S1が占める割合(S1/S0)をη2とすると、領域ARにおける一次巻線102の占積率ηは、η=SL/S0=(SL/S1)×(S1/S0)=η1×η2で表わされる。
従って、本実施の形態では、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率を、領域AR内に一次巻線102を整列巻きした場合の領域ARの面積S0に対する一次巻線102の面積SLの比率ηで定義している。
例えば、コイル断面の形状が矩形の場合、コイル断面の面積に対する整列巻きした巻線の断面の面積の比率である占積率は85%以上にできることが知られている。これによれば、横断面形状が矩形の凹溝1012に一次巻線102を整列巻きする場合は占積率η1を85%以上の固定値に仮定することができるので、占積率ηを可及的に高くするには、割合η2をできるだけ高くするように、領域AR内の凹溝1012の横断面形状を設計すればよい。
例えば、凹溝1012の横断面形状を矩形にする場合、占積率ηを最大にするには、図15を用いて説明したように、矩形の上下の辺の長さ(幅寸法)wと左右の辺の長さ(深さ寸法)dがw:d=2:1の条件を満たすようにすればよい。
本実施の形態では、第1の凹溝1013の底面に第2の凹溝1014を形成しているので、正確には凹溝1012の横断面形状は矩形にならない。しかしながら、巻数調整巻線1022の巻数3nsは、nd=42×nsより、主要巻線1021の巻数ndに対して1/14(凡そ7%)であるから、凹溝1012の面積S1のうち第1の凹溝1013の面積が支配的となる。
従って、第1の凹溝1013の横断面形状を矩形とした場合、その矩形の幅寸法wと深さ寸法dがw:d=2:1を満たす場合、領域ARにおける一次巻線102の占積率ηが最大になると考えることができる。
図7(b)は、第1の凹溝1013の横断面形状を幅寸法wと深さ寸法dがw:d=2:1を満たす矩形にした場合の凹溝1012の断面形状を示す図である。同図に示すように、第1の凹溝1013の横断面形状を矩形にする場合は、第1の凹溝1013の両側と第2の凹溝1014の底面の下側の部分(図7(b)の斜線で示す部分)にデッドスペースができ、占積率ηを十分に高くすることはできない。
図7(b)において、領域ARの面積S0は、S0=(π×R2 2)/2、第1の凹溝1013の面積SAは、SA=R2 2、第2の凹溝1014の面積SBは、SB≒R2 2/14であるから、η2=[(15/14)×R2 2]/((π×R2 2)/2)=(1+1/14)/(π/2)≒0.68(68%)となる。従って、第1の凹溝1013の横断面形状を矩形にした場合は、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを70%以上にすることは困難である。
本実施の形態では、第1の凹溝1013の両内壁面1013Aを底面1013Bに対して傾斜角θ=120±α°で傾斜させることにより、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを70%以上にするようにしている。
第1の凹溝1013の両内壁面1013Aの底面1013Bに対する傾斜角θを120±α°にしているのは、図8に示すように、両内壁面1013Aの部分で各層の巻線と内壁面1013Aの間に隙間が生じないようにするためである。
層状に整列巻きされる主要巻線1021は、上層の巻線が下層の整列巻きされた巻線の窪みをガイドとして整列巻きされるので、両内壁面1013Aの部分で各層の巻線と内壁面1013Aの間に隙間が生じないようにするには、内壁面1013Aを各層の端に位置する巻線の接線に一致させればよい。
下層の整列巻きの端に位置する巻線と上層の整列巻きの端に位置する巻線とは、図8に示すように、幅方向でφ1/2だけ相互に位置がずれるから、各層の端に位置する巻線の接線は底面1013Bに対して120±α°で傾斜する。
図5に示す凹溝1012の横断面形状は、図7(b)に示す凹溝1012の横断面形状に対して、第1の凹溝1013の両内壁面1013Aを底面1013Bに対して外側に傾斜角θ=120±α°で傾斜させたものである。図5では、第1の凹溝1013の横断面形状の両内壁面1013Aに対応する傾斜した辺は、領域ARを示す円弧の線と交叉する位置Mまでであり、その位置Mよりも上側の部分は垂直な辺になっている。
主要巻線1021は、図9に示すように、一方の引出線Ld1を巻線引出部1015Dからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第1の凹溝1013の内壁面1013Aから第2のガイド溝1017に沿って巻回される。主要巻線1021は、巻線引出部1015Eが形成された内壁面1013Aまで巻回されると折り返され、整列巻きされた1層目の主要巻線1021の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして元の内壁面1013A(巻線引出部1015Dを有する内壁面1014A)まで巻き付けられる。その後、主要巻線1021は、整列巻きされた各層の主要巻線1021の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして内壁面1013Aに到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回され、他方の引出線Ld2が巻線引出部1015Eからボビン本体1011の外部に引き出される。
第1の凹溝1013の両内壁面1013Aは、底面1013Bに対して傾斜角θ=120±α°で外側に傾斜しているので、両内壁面1013Aが傾斜した部分では、第1の凹溝1013に層状に整列巻きされた主要巻線1021の各層のターン数は、下層のターン数Nk(kは、層の番号。k=1,2,3,…m)に対して上層のターン数Nk+1がNk+1=Nk+1の関係を満たすようになっている。また、両内壁面1013Aが垂直の部分では、主要巻線1021の各層のターン数は、全て(Nm1+1)となる。
第1の凹溝1013の両内壁面1013Aが傾斜した部分の積層数とターン数をm1、nd1とし、両内壁面1013Aが垂直の部分の積層数とターン数をm2、nd2とすると、nd1=N1+N2+…+Nm1=N1+(N1+1)+…+(N1+m1−1)=m1×N1+(m1−1)(但し、N1>ns/2)、nd2=(Nm1+1)×m2=(N1+m1)×m2であるから、第1の凹溝1013のターン数ndは、nd=nd1+nd2=m1×N1+(m1−1)+(N1+m1)×m2=(m1+m2)×N1+m1×(m2+1)−1で表される。
図5の例では、第1の凹溝1013の面積SA’が図7(b)に示す場合よりも図7(b)の斜線で示す部分の面積SCだけ増加する。この面積SCは、図7(b)に示す第1の凹溝1013の矩形の面積SAの凡そ28.3%である。従って、第1の凹溝1013の面積SAは、第1の凹溝1013の横断面形状を矩形にした場合の凡そ1.28倍になるので、領域ARの面積S0に対する凹溝1012の面積S1の割合η2は、η2=(1.28+1/14)/(π/2)≒0.862(凡そ86.2%)になる。
例えば、本実施の形態では、凹溝1012における主要巻線1021と巻数調整巻線1022の占積率η1を0.85とすると、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを0.85×0.862≒0.73(凡そ73%)にすることができる。
第1の凹溝1013のボビン本体1011の四隅の部分の底面1013Bにも、第2の凹溝1014の底面1014Bと同様に、第1の凹溝1013に巻き付けられる主要巻線1021が整列するように巻き付け位置をガイドするための第2のガイド溝1017が設けられている。
第2のガイド溝1017は、第1のガイド溝1016と同一サイズの円弧状の断面形状を有する溝である。第2のガイド溝1017は、第1のガイド溝1016と同様に、第1の凹溝1013の底面1013Bに幅方向にφ1[mm]のピッチで形成されている(図8参照)。
第1の凹溝1013には、主要巻線1021が(m1+m2)層に整列巻きされるので、第1の凹溝1013の深さの寸法h2[mm](図9参照)は、各層の重なり部分の寸法をΔh[mm]とすると、凡そ(m1+m2−1)×(φ1−Δh)+φ1[mm]に設定されている。
第1の実施の形態に係る第1のコイルボビン101では、正面から見て左側の脚部に鉄心Cが巻き付けられるので、正面から見て右側の脚部に相当する部分に巻線引出部1015A〜1015Eを形成しているが、正面から見て左側の脚部に相当する部分に巻線引出部1015A〜1015Eを形成し、正面から見て右側の脚部に鉄心Cを巻き付ける構成にしてもよい。
また、第1の実施の形態に係る第1のコイルボビン101では、正面側の側面(左側の側面)に巻線引出部1015A〜1015Eを形成しているが、背面側の側面(右側の側面)に巻線引出部1015A〜1015Eを形成するようにしてもよい。すなわち、図4において、巻線引出部1015A〜1015Eを右側の側面に形成するようにしてもよい。
次に、二次コイル2の構造について、図10〜図12を用いて説明する。
図10は、変圧器Aの二次コイル2を製作するための第2のコイルボビン201を正面から見た図、図11は、第2のコイルボビン201を右側面から見た図、図12は、第2のコイルボビン201の図10におけるY−Y線断面図である。
二次コイル2は、第2のコイルボビン201を用いて長方形のリング状に成形される。第2のコイルボビン201は、図10,図11に示すように、背の低い長方形のリング形状を有するボビン本体2011を備える。ボビン本体2011は、ボビン本体1011と略同じ寸法の高さ寸法(図12の幅方向の寸法)を有する。
ボビン本体2011の側面から見た形状は、略左右対称になっているが、以下では、説明の便宜上、図10において、リング形状の外周に沿う面を「外周側面」と称し、内周に沿う面を「内周側面」と称し、図11において、ボビン本体2011の左側の面を「正面」と称し、右側の面を「背面」と称して説明をする。
ボビン本体2011には、外周側面に二次巻線202(図13参照)を巻回するための凹溝2012が形成されており、穴の部分の形状は直方体形状に成形されている(図10,図11参照)。ボビン本体2011の穴の部分の形状を直方体形状としているのは、図13に示すように、この穴の部分にボビン本体1011が嵌入装着されるからである。
ボビン本体2011の穴の部分の長方形の寸法(L3(長手方向の長さ)×W3(短手方向の長さ))は、上述したようにボビン本体1011の正面側の長方形の外形寸法(L1×W1)より僅かに大きいサイズに設定されている。また、ボビン本体2011の外周側面側の長方形の外形寸法(L4(長手方向の長さ)×W4(短手方向の長さ))は、上述したようにボビン本体1011の背面側の長方形の外形寸法(L2×W2)と略同一の寸法に設定されている。
ボビン本体2011の正面側のリング状の側面のうち、一方の長辺の中央部分(図10では、左側の長辺の部分)に、1個の切り欠き部2013が設けられている。切り欠き部1013は、凹溝2012に巻回される二次巻線202の両端部と中間位置cをボビン本体2011の外部に引き出すためのものである。以下の説明では、ボビン本体2011の切り欠き部も「巻線引出部」と称する。
巻線引出部2013は、ボビン本体2011の外周側面から凹溝2012の底面2012Bまでの深さを有し、ボビン本体2011の正面側から凹溝2012まで貫通するように形成されている。ボビン本体2011の巻線引出部2013から引き出された二次巻線202の両端部が上述した図1の引出線Le1,Le2に相当する。
凹溝2012は、凹溝2012の底面2012Bに対して両内壁面2012Aが垂直に立ち上がる形状(長方形の断面形状)となっている(図12参照)。凹溝2012のボビン本体2011の四隅の部分(凹溝2012の底面2012Bが直角に屈曲する部分)の底面2012Bには、当該底面2014Bに巻き付けられる二次巻線202が整列するように巻き付け位置をガイドするためのガイド溝(図示省略)が設けられている。
二次巻線202は、一方の引出線Le1を巻線引出部2013からボビン本体1011の外部に引き出した状態で凹溝2012の内壁面2012Aからガイド溝2014に沿って巻回される。二次巻線202は、反対側の内壁面2012Aまで巻回されると折り返され、整列巻きされた1層目の二次巻線202の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして元の内壁面2012A(巻線引出部2013を有する内壁面2012A)まで巻き付けられる。その後、二次巻線202は、整列巻きされた各層の二次巻線202の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして内壁面2012Aに到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回され、他方の引出線Le1が巻線引出部2013からボビン本体2011の外部に引き出される。
二次巻線202の1層目は、ガイド溝2014に沿って凹溝2012の底面2012Bに巻き付けられるが、二次巻線202の2層目は、1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして巻き付けられる。二次巻線202の各層のターン数をnt[ターン]とし、二次巻線202に用いられる巻線の線径をφ2(>φ1)[mm]とすると、凹溝2012の底面2012Bの幅方向の寸法は、φ2(=nt+1/2)に設定されている。
また、凹溝2012における二次巻線202の積層数をjとすると、n2=nt×jの関係があり、凹溝2012の深さの寸法h2[mm]は、各層の重なり部分の寸法をΔh2[mm]とすると、凡そ(j−1)×(φ2−Δh2)+φ2[mm]に設定されている。
ボビン本体2011の凹溝2012では、各層に巻回される二次巻線202を凹溝2012の幅方向に線径φ2のピッチで整列させて巻回させることができる。
一次巻線102を長方形のリング形状を有する第1のコイルボビン101の凹溝1012に整列巻きして製作された一次コイル1は、二次巻線202を長方形のリング形状を有する第2のコイルボビン201の凹溝2012に整列巻きして製作された二次コイル2に対して、図13に示すように、第2のコイルボビン201の穴の部分に第1のコイルボビン101を正面側から嵌め込んで一体化される。これにより、一次巻線102の外側に二次巻線202を同心状に配置したコイル部Bが製作される。
上記のように、本実施の形態に係る第1のコイルボビン101によれば、巻数調整用巻線1022の3個の小巻線1022a,1022c,1022cが第2の凹溝1014にそれぞれ2層に積層され、各巻線1022a,1022c,1022cの両端部がそれぞれ巻線引出部1015A,1015B,1015C,1015Dから第1のコイルボビン101の外部に引き出される構成であるので、3個の小巻線1022a,1022b,1022cを直列に接続する接続点の位置が巻数調整用巻線1022の整列巻きの途中の部分に生じることがない。
従って、巻数調整用巻線1022を第2の凹溝1014に層状に整列巻きしたとき、いずれの層にも途中で巻線を引き出すことによる段差が生じることがなく、全ての層で巻線を隙間なく整列巻きすることができる。
また、第2の凹溝1014の底面1014Bに小巻線1022aを整列巻きするための第1のガイド溝1016を設けているので、小巻線1022aを第1のコイルボビン101に容易に隙間なく整列させて巻回することができる。そして、積層の基礎に位置する小巻線1022aが隙間なく整列巻きされることにより、小巻線1022aの外側に積層される小巻線1022b,1022bも容易に隙間なく整列巻きすることができる。
また、第2の凹溝1014の深さh1が、3個の小巻線1022a,1022c,1022cを2層ずつ合計6層に積層したときの高さ寸法に設定されているので、積層された巻数調整用巻線1022の上面が第1の凹溝1013の底面1013Bの位置に略一致する。
このため、主要巻線1021を第1の凹溝1013に整列巻きする場合も当該第1の凹溝1013の底面1013Bと積層された巻数調整用巻線1022の上面とが略水平となり、主要巻線1021を第1の凹溝1013に層状に整列巻きしたとき、1層目で段差が生じることがなく、全ての層で隙間なく整列巻きすることができる。
また、第1の凹溝1013の底面1013Bと両内壁面1013Aにも小巻線1022を整列巻きするための第2のガイド溝1017を設けているので、主要巻線1021を第1のコイルボビン101に容易に隙間なく整列巻きすることができる。
さらに、第1の凹溝1013の横断面形状を上底が下底よりも長く、下底の両端の内角が120±α°である等脚台形にしているので、主要巻線1021を両内壁面1013Aの部分で各層の巻線と内壁面1013Aの間に隙間が生じないように整列巻きすることができるとともに、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを可及的に高くすることができる。これにより、第1のコイルボビン101を用いた一次コイル1をコンパクトにすることができ、延いてはその一次コイル1を用いた変圧器Aのコンパクト化、コストの低減化を図ることができる。
図5に示した凹溝1012の断面形状は、第1の凹溝1013の横断面形状を矩形とした場合にその面積SAが領域AR内で最大となる位置に横断面形状が等脚台形の第1の凹溝1013を配置し、その第1の凹溝1013の底面1013Bの幅方向の中央に横断面形状が矩形の第2の凹溝1014を配置した形状であったが、凹溝1012の断面形状を図14に示すように変形してもよい。
図14(a)に示す凹溝1012の断面形状は、第2の凹溝1014の底面側の2つの角部Q’が領域ARの円弧上に位置するように、図5に示す凹溝1012の断面形状の領域ARにおける位置をずらしたものである。図14(a)において、点線で示す凹溝1012の断面形状は、図5に示した例である。また、図14(b)は、図14(a)に示す凹溝1012の断面形状において、第1の凹溝1013の横断面形状の斜辺の部分に段差1013Cを設けたものである。
図14(a)に示す例では、領域AR内の第2の凹溝1014の位置が可能な限り内周側面に近くなるので、図5に示す例(点線で示す凹溝1012の断面形状を参照)で第1の凹溝1013の下側に生じるデッドスペースを低減することができる。
図14(a)の例では、第1の凹溝1013の横断面形状の斜辺が点線で示す斜辺(図5に示す例)よりも内側になるので、第1の凹溝1013の横断面形状の斜辺の部分におけるボビン本体101の厚みは、図5に示す例より少し厚くなる。しかしながら、その厚みの増加分は大きくないので、図14(a)に示す例でも第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを70%以上にすることができる。
図14(b)に示す例では、第1の凹溝1013の横断面形状の斜辺の部分に段差1013Cを設けることによってボビン本体101の厚みを、図14(a)に示す例よりも全体的にD[mm]に近付けることができるので、第1のコイルボビン101における一次巻線102の占積率ηを図14(b)に示す例よりも良好にすることができる。
さらに、ボビン本体101の凹溝1012を形成した部分の全体的な厚みのばらつきが小さくなるので、凹溝1012に整列巻きされた主要巻線1021及び巻数調整巻線1022と鉄心Cとの距離の均一化を図ることができる。これにより、一次巻線102の絶縁特性を向上させることができる。
図14(b)では、第1の凹溝1013の両内壁面1013Aに段差1013Cを1個だけ設けているが、段差1013Cを2個以上設けてもよい。
上記の実施の形態では、巻数調整用巻線1022が3個の小巻線1022a,1022b,1022cを直列に接続される構成の場合を例に説明したが、巻数調整用巻線1022の小巻線1022の数は3個の限定されるものではなく、1個でもよく、4個以上であってもよい。
上記の実施の形態に示す変圧器Aは、コイル部Bの一方の脚部に円筒状の鉄心Cを1個だけ設けた構造を有していたが、変圧器は、コイル部Bの2つの脚部にそれぞれ円筒状の鉄心Cを設けた構造であってもよい。この場合は、巻線引出部1015A〜1015Eを第1のコイルボビン101の短辺の部分に設ければよく、巻線引出部2013を第2のコイルボビン201の短辺の部分に設ければよい。
上記の実施の形態では、変圧器Aに用いられるコイル部Bについて説明したが、本発明は、変圧器に限定されるものではなく、同一の構造を有するコイル部を用いる静止誘導機器に広く利用することができる。