以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における電源システムの概略構成図である。
図1に示される電源システム100は、電動車両に載置されているものとする。このシステムによれば、バッテリ101から、リレー102、及び、インバータ103を介して、モータ104に電力が供給される。
バッテリ101は、二次電池であり、直流電力を出力する。
リレー102は、電源システム100全体の駆動又は停止を制御する。
インバータ103は、複数のスイッチング素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBT)Tr1〜Tr6と、整流素子(ダイオード)D1〜D6とを備えている。整流素子D1〜D6は、スイッチング素子Tr1〜Tr6のそれぞれと並列に設けられるとともに、スイッチング素子Tr1〜Tr6の整流方向とは逆方向に電流が流れるように設けられている。また、スイッチング素子は2つずつ直列に接続されており、直列接続された2つのスイッチング素子の間と、モータ104の三相(UVW)の入力部のうちのいずれかとがそれぞれ接続されている。
具体的には、スイッチング素子Tr1及びTr2、スイッチング素子Tr3及びTr4、スイッチング素子Tr5及びTr6が、それぞれ、直列に接続されている。そして、スイッチング素子Tr1及びTr2の接続点とモータ104のU相の入力部とが接続され、スイッチング素子Tr3及びTr4の接続点とモータ104のV相の入力部とが接続され、スイッチング素子Tr5及びTr6の接続点とモータ104のW相の入力部とが接続されている。このように設けられたスイッチング素子Tr1〜Tr6がモータコントローラ111から出力されるPWM信号に応じて操作されることにより、バッテリ101からモータ104に印加される電圧のパルス幅が制御される。一般に、このような制御が、PWM電流制御と称されている。
なお、インバータ103に電圧が印加されていなければモータ104の各相の入力部における電位はゼロであるものとする。また、コンデンサ105の電位差がVcapである。そのため、モータ104の各相の入力部に印加される電圧の電位は、「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲の値であるものとする。
モータ104は、回転子に永久磁石を備える永久磁石型の三相交流モータであり、三相(UVW相)のそれぞれについて入力部を有している。モータ104は電動車両の駆動輪を駆動する駆動源であって、モータ104の回転に伴って電動車両の駆動輪が回転する。
コンデンサ105は、リレー102とインバータ103との間に配置され、インバータ103と並列に接続されている。コンデンサ105は、バッテリ101からモータ104に出力される直流電力を平滑化する。
電流センサ106は、インバータ103からモータ104の各相の入力部へと流れる電流のそれぞれの大きさを測定する。本実施形態では、電流センサ106U、106V、106Wの3つの電流センサが、モータ104の各相の入力部への電源線に設けられている。電流センサ106U、106V、106Wは、それぞれ、測定した各相の三相交流電流Iu、Iv、Iwをモータコントローラ111にフィードバック出力する。
回転子位置センサ107は、例えばレゾルバやエンコーダなどである。回転子位置センサ107は、モータ104の回転子の近傍に設けられており、モータ104の回転子の位相θを測定する。そして、回転子位置センサ107は、測定した回転子の位相θを示す回転子位置センサ信号を、モータコントローラ111に出力する。
電圧センサ108は、コンデンサ105と並列に設けられている。電圧センサ108は、コンデンサ105の両端の電位差であるコンデンサ電圧Vcapを測定すると、コンデンサ電圧Vcapをゲート駆動回路109に出力する。
ゲート駆動回路109は、モータコントローラ111から入力されるPWM信号に応じて、インバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6を操作する。また、ゲート駆動回路109は、スイッチング素子Tr1〜Tr6について、温度を測定するとともに正常に動作しているか否かを検出する。ゲート駆動回路109は、スイッチング素子Tr1〜Tr6について測定した温度や検出した状態などを示すIGBT信号を、モータコントローラ111へ出力する。ゲート駆動回路109は、電圧センサ108によって測定されたコンデンサ電圧Vcapを示すコンデンサ電圧信号をモータコントローラ111に出力する。
車両コントローラ110は、モータ104に要求するトルクである要求トルクを示すトルク指令値T*を算出すると、算出したトルク指令値T*を、モータコントローラ111に出力する。
モータコントローラ111は、モータ104への印加電圧のパルス幅を制御するために、インバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6のそれぞれに対してパルス幅変調(PWM)信号を出力する。具体的には、モータコントローラ111は、電流センサ106から出力される三相交流電流Iu、Iv、Iwと、回転子位置センサ107から出力される回転子の位相θと、車両コントローラ110から出力されるトルク指令値T*とに基づいて、電圧指令値を算出する。次に、モータコントローラ111は、電圧指令値と、電圧センサ108から出力されるコンデンサ電圧Vcapとを用いて、デューティ指令値を算出する。次に、モータコントローラ111は、デューティ指令値とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号を生成する。次に、モータコントローラ111は、生成したPWM信号をゲート駆動回路109へ出力する。ゲート駆動回路109は、入力された各PWM信号に基づいてインバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6をそれぞれ操作する。このようにすることで、モータ104への印加電圧のパルス幅が制御され、モータ104においてはトルク指令値T*のトルクを発生することができる。
なお、電源システム100においては、バッテリ101及びモータ104以外の構成、すなわち、インバータ103、電流センサ106、及び、モータコントローラ111などによって、電力制御装置が構成されるものとする。
ここで、モータコントローラ111において比較される、デューティ指令値とキャリア波との関係について説明する。
図2は、デューティ指令値とキャリア波との一例を示す図である。なお、この図においては、モータ104のu相への入力の制御に用いるデューティ指令値Du*についてのみ説明し、モータ104のv相、w相への入力の制御に用いるデューティ指令値Dv*、Dw*については説明を省略する。
この図においては、横軸に時間が、縦軸にデューティ比が示されている。また、最大値が1(100%)となり、最小値が0(0%)となるように規格化されたキャリア波が示されている。また、モータコントローラ111により算出されたデューティ指令値Du*が太線で示されている。なお、デューティ指令値Du*は、キャリア波の大きさと同様に、0から1までの範囲内の値となる。
また、モータコントローラ111は、デューティ指令値Du*とキャリア波との大きさを比較して、デューティ指令値Du*がキャリア波以上である場合には、スイッチング素子TrがOFFとなるようなPWM信号を生成する。一方、モータコントローラ111は、デューティ指令値Du*がキャリア波よりも小さい場合には、スイッチング素子TrがONとなるようなPWM信号を生成する。このようにすることにより、キャリア波の周期に占めるスイッチング素子TrがONとなる区間の割合は、デューティ指令値Du*と等しくなる。
電流センサ106は、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta)でモータ104への供給電流を測定する。例えば、電流センサ106が時刻Taにおいてモータ104に流れる電流を測定すると、モータコントローラ111は、時刻Taからの算出時間Δtだけ経過時点である時刻Tbで、デューティ指令値Du*の算出を完了する。
算出されたデューティ指令値Du*は、デューティ指令値Du*の算出が完了した時点(時刻Tb)でのキャリア波の大きさよりも小さい。このような場合には、測定タイミング(時刻Ta)から算出時間Δtだけ経過した時点(時刻Tb)よりも後の時刻Tonにおいて、デューティ指令値Du*とキャリア波との大きさが等しくなり、PWM信号によりスイッチング素子TrはONに操作される。したがって、モータコントローラ111は、デューティ指令値Du*の算出が完了した時点(時刻Tb)においては、算出されたデューティ指令値Du*がキャリア波よりも小さいため、デューティ指令値Du*とキャリア波とを適切に比較することができる。
ここで、電流センサ106が、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta)で三相交流電流Iu、Iv、Iwを測定するのは、以下の理由による。
キャリア波がデューティ指令値Du*を下回るタイミングであるTonにおいてスイッチング素子TrがONとなり、キャリア波がデューティ指令値Du*を上回るタイミングであるToffにおいてスイッチング素子TrがOFFとなる。このようなスイッチング素子Trの操作に起因して、バッテリ101からモータ104へと流れる電流に高調波のノイズが含まれてしまうことがある。
PWM電力制御方法においては、スイッチング素子Trの操作は極めて短い間隔で行われる。そのため、スイッチング素子Trの操作タイミングを平均化すれば、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta)は、スイッチング素子Trが操作されるタイミングTon及びToffから最も時間的な隔たりがあるとみなすことができる。したがって、キャリア波が最大となるタイミングにおいて電流センサ106が三相交流電流Iu、Iv、Iwを測定することにより、三相交流電流Iu、Iv、Iwに含まれる高調波のノイズを低減することができる。これにより、モータ104の回転制御の精度を高めることができる。
なお、図2においては、電流センサ106による電流の測定タイミングが、キャリア波が最大となるタイミングである場合について説明したが、これに限らない。電流センサ106が、キャリア波が最大又は最小となるタイミングで電流を測定したとしても、同様に三相交流電流Iu、Iv、Iwのノイズを低減することができる。電流の測定タイミングと同期してスイッチング素子Trが操作されるため、スイッチング素子Trの操作タイミングを平均化すれば、スイッチング素子Trの操作タイミングは、キャリア波が最大となるタイミングと最小となるタイミングとの中間点であるとみなすことができる。したがって、キャリア波が最大又は最小となるタイミングは、平均化されたスイッチング素子Trの操作タイミングから最も時間的な隔たりがあることになる。そのため、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて電流センサ106が電流を測定することにより、測定電流に含まれるスイッチング素子Trの操作に起因するノイズを抑制することができる。
図3は、モータコントローラ111にて比較されるデューティ指令値とキャリア波との他の一例を示す図である。
この図を用いて、電流センサ106が、キャリア波が最大又は最小となる時刻Ta1及びTa2において電流を測定する場合について説明する。また、電流の測定タイミングである時刻Ta1及びTa2から、算出時刻Δtだけ経過した時刻Tb1及びTb2までの前におけるキャリア波が点線で示されている。
まず、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta1)で電流が測定される場合について検討する。
モータコントローラ111は、算出時間Δt経過後の時刻Tb1以降において、デューティ指令値Du1*とキャリア波とを比較することが可能となる。なお、時刻Tb1においては、算出されたデューティ指令値Du1*がキャリア波よりも大きいため、モータコントローラ111は、スイッチング素子TrがONとなるPWM信号を生成してしまう。しかしながら、本来、デューティ指令値Du1*によってスイッチング素子TrがONとなるタイミングは、デューティ指令値Du1*とキャリア波とが同じ大きさとなる時刻Tc1となるべきである。
このように、デューティ指令値Du1*が時刻Tb1でのキャリア波よりも大きい場合には、本来のタイミングである時刻Tc1とは異なる時刻Tb1において、スイッチング素子Trが操作されてしまうため、モータ104への印加電力の制御の精度が低下してしまう。
次に、キャリア波が最小となるタイミング(時刻Ta2)で電流が測定される場合について検討する。
このような場合には、モータコントローラ111は、時刻Ta2から算出時間Δt経過後の時刻Tb2以降において、デューティ指令値Du2*とキャリア波とを比較することができる。デューティ指令値Du2*が時刻Tb2でのキャリア波よりも小さい場合には、本来のタイミングとは異なるタイミングでスイッチング素子Trが操作されてしまうため、モータ104への印加電力の制御の精度が低下してしまう。
ここで、時刻Tb1におけるキャリア波の中央値(1/2(50%))からの乖離量ΔDcは、時刻Tb2におけるキャリア波の中央値(1/2(50%))からの乖離量Δtと等しい。そこで、このような乖離量ΔDcは、算出時間Δtと、キャリア波の周波数fとを用いて、次の式のように示すことができる。
したがって、デューティ指令値Du1*が「0.5+ΔDc」よりも小さい場合には、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来、デューティ指令値Du1*によってスイッチング素子Trが操作されるタイミングとにズレが生じることはない。また、デューティ指令値Du2*が「0.5−ΔDc」よりも大きい場合には、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来、デューティ指令値Du2*によってスイッチング素子Trが操作されるタイミングとにズレが生じることはない。
したがって、デューティ指令値Du*が「0.5−ΔDc」から「0.5+ΔDc」までの範囲であれば、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来のデューティ指令値Du*によってスイッチング素子TrがONとなるタイミングとにズレが生じない。そこで、この範囲の大きさである2ΔDcを上限変調率M*と定義すると、上限変調率M*は、次の式のように示すことができる。
また、上述のように、デューティ指令値Du*が、「0.5−ΔDc」から「0.5+ΔDc」までの範囲内の値であれば、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来、デューティ指令値Du*によってスイッチング素子Trが制御されるタイミングとにズレが生じることはない。そこで、ズレが生じないデューティ指令値Du*の範囲は、上限変調率M*を用いて、次の式のように示すことができる。
ここで、モータコントローラ111において、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と、コンデンサ105のコンデンサ電圧Vcapとを用いて、次の式のように示すことができる。
式(4)を用いれば、式(3)は以下のように示すことができる。
したがって、モータコントローラ111は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が、(5)式を満たすか否かを判定することによって、モータコントローラ111によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、デューティ指令値Du1*によってスイッチング素子TrがONとなる本来のタイミングとにズレが生じるか否かを判定ことができる。
本来、デューティ指令値Du1*によってスイッチング素子TrがONとなるタイミングは、デューティ指令値Du1*とキャリア波とが同じ大きさとなる時刻Tc1となるべきである。しかしながら、本来のタイミングである時刻Tc1とは異なる時刻Tb1において、スイッチング素子TrがONとなるように操作されてしまうため、モータ104への印加電力の制御の精度が低下してしまう。この精度の低下を簡易な処理で抑制するためには、モータコントローラ111において、算出されたデューティ指令値Du1*とキャリア波との比較の開始を遅延させる必要がある。
次に、図4を用いて、図1のモータコントローラ111の構成について説明する。
図4は、モータコントローラ111の構成を示すブロック図である。
電流指令値演算部401は、図1の車両コントローラ110により算出されるトルク指令値T*と、モータ104の回転速度ωとに基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。
なお、モータ104の回転速度ωは、以下のように求められる。
位相演算部407は、図1の回転子位置センサ107から出力される回転子位置センサ信号に基づき、回転子位相θを算出する。
そして、回転速度演算部408は、位相演算部407が算出した回転子位相θを微分演算することで回転速度(電気角速度)ωを演算する。
電流制御部402には、電流指令値演算部401から出力されるd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*と、位相変換部409からモータ104へと流れる電流の測定値であるd軸電流Id及びq軸電流Iqが入力される。電流制御部402は、これらの入力値に基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。具体的には、電流制御部402は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの偏差がなくなるように、d軸電圧指令値Vd*を求める。また、電流制御部402は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの偏差がなくなるように、q軸電圧指令値Vq*を求める。
なお、位相変換部409は、図1の電流センサ106U、106V、106Wにより測定される三相交流電流Iu、Iv、Iwと、位相演算部407にて算出された回転子位相θとに基づいて、d軸電流Id、及び、q軸電流Iqを算出する。
なお、電流センサ106が、キャリア波の大きさを測定するタイミングと、位相変換部409から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqが変化するタイミングとは同期している。例えば、電流センサ106が、キャリア波の大きさが最大となるタイミングで、モータ104へ流れる電流を測定する場合には、キャリア波の大きさが最大となるタイミングと同期して、位相変換部409から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqが変化する。
位相変換部403は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、位相演算部407から出力されるモータ104の回転子の位相θとを用いて、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を求める。
上述のようにモータ104の各相の入力部に供給される電位は「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲である。そのため、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*は、「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲となる。
デューティ変換部404は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と、図1のコンデンサ105のコンデンサ電圧Vcapとに基づいて、上述の式(4)を用いて、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*を生成し、遅延回路405に出力する。
また、デューティ変換部404は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が上述の式(5)を満たすか否かを判定する。なお、上述のように、この判定結果に応じて、算出されたデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*とキャリア波との比較の開始の遅延の要否を判断することができる。
三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が式(5)を満たす場合には、デューティ変換部404は、遅延回路405からのデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*の出力の遅延が不要であるため、遅延信号Dを出力しない。
一方、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が式(5)を満たさない場合には、デューティ変換部404は、遅延回路405からのデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*の出力の遅延が必要である旨を示すために、遅延信号Dを出力する。
なお、式(5)における上限変調率M*は、以下のようにして求めることができる。
キャリア周波数算出部410は、PWM信号生成部406にて生成されるキャリア波の周波数fを決定する。キャリア周波数算出部410は、決定したキャリア波の周波数fをPWM信号生成部406に出力するとともに、上限変調率算出部411にも出力する。なお、第1実施形態においては、キャリア周波数算出部410は、キャリア周波数fを変更しないものとする。
上限変調率算出部411は、電流センサ106U、106V、106Wが三相交流電流Iu、Iv、Iwを測定してから、デューティ変換部404がデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*を算出するまでの算出時間Δtを予め記憶している。なお、算出時間Δtには、電流センサ106U、106V、106Wによる電流の測定時間(AD変換などの処理時間)が含まれていてもよい。
上限変調率算出部411は、キャリア周波数算出部410から出力されるキャリア波の周波数f、算出時間Δt、及び、式(2)を用いて、上限変調率M*を算出する。
遅延回路405は、遅延信号Dが入力されている場合には、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*の出力タイミングを遅延させて、キャリア波が次に最大となるタイミング、すなわち、次の測定タイミングにてデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*をPWM信号生成部406に出力する。
一方、遅延回路405は、遅延信号Dが入力されていない場合には、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*の出力タイミングを遅延させることなく、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*をPWM信号生成部406に出力する。なお、遅延回路405の詳細な動作については、後に、図5を用いて説明する。
PWM信号生成部406は、キャリア周波数算出部410から出力されるキャリア周波数fに基づいて三角波のキャリア波を生成する。なお、PWM信号生成部406により生成されるキャリア波は規格化されており、最小値が0であり最大値が1であるものとする。
そして、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*と、キャリア波との大きさを比較し、その比較結果に応じてPWM信号を生成する。
したがって、遅延回路405からの出力が遅延される場合には、PWM信号生成部406によるデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*とキャリア波との比較は、電流センサ106による電流の次の測定周期が開始するタイミング、すなわち、次に電流センサ106によって電流の測定が行われるタイミングから行われることになる。
換言すれば、遅延回路405からの出力が遅延されていない場合には、PWM信号生成部406内におけるデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*は、電流センサ106による電流の測定タイミングにて、測定周期ごとに更新される。一方、遅延回路405からの出力が遅延される場合には、PWM信号生成部406内におけるデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*は、次の電流センサ106による電流の測定タイミングにて更新されるので、更新が遅延されることになる。
次に、遅延回路405の動作について図5を用いて説明する。
図5は、遅延回路405の動作を説明するためのタイミングチャートである。この図においては、電流センサ106は、キャリア波の大きさが最大となるタイミングで、電流を測定しているものとする。
図5(a)には、デューティ指令値Du*及びキャリア波が示されている。また、図5(b)には、PWM信号が示されている。なお、この図においては、デューティ指令値Du*についてのみ説明し、デューティ指令値Dv*、Dw*については説明を省略する。
図5に示された任意の時刻において、PWM信号生成部406は、キャリア波とデューティ指令値とを比較し、比較結果に応じたPWM信号を生成する。このようにして生成されたPWM信号が、図5(b)に示されている。
以下では、各時刻におけるモータコントローラ111の各構成の動作を説明する。
時刻T1aにおいて、電流センサ106uによって三相交流電流Iu1が測定される。そして、デューティ変換部404は、三相交流電流Iu1に基づいて生成された三相交流電圧指令値Vu1*を用いて、デューティ指令値Du1*の算出を開始する。なお、時刻T1aにおいては、モータ104の要求トルクは大きくなく、デューティ指令値Du1*は、時刻T1aから算出時間Δt経過した時刻T1bにおけるキャリア波の大きさを下回るものとする。
同時に、デューティ変換部404は、コンデンサ電圧Vcap、及び、上限変調率M*を用いて、三相交流電圧指令値Vu1*が、式(5)を満たすか否かを判定する。時刻T1aにおいてはモータ104の要求トルクは大きくないため、デューティ変換部404は、三相交流電圧指令値Vu1*が式(5)を満たしていると判定して、遅延回路405からのデューティ指令値Du1*の出力タイミングの遅延は不要であると判定する。
次に、時刻T1bにおいて、デューティ変換部404は、デューティ指令値Du1*の算出を完了する。そして、デューティ変換部404は、算出したデューティ指令値Du1*、遅延回路405に出力する。
遅延信号Dが遅延回路405に入力されていないため、遅延回路405は、デューティ変換部404により算出されたデューティ指令値Du1*の出力タイミングを遅延させることなくPWM信号生成部406に出力する。
したがって、時刻T1b以降において、PWM信号生成部406は、時刻T1aにおける三相交流電流Iu1により求められたデューティ指令値Du1*とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号を生成する。
次に、時刻T2aにおいて、電流センサ106uによって三相交流電流Iu2が測定される。そして、デューティ変換部404は、三相交流電流Iu2に基づいて生成された三相交流電圧指令値Vu2*、及び、コンデンサ電圧Vcapを用いて、デューティ指令値Du2*の算出を開始する。なお、時刻T2aにおいては、モータ104の要求トルクが大きく、デューティ指令値Du2*は、時刻T2aから算出時間Δt経過した時刻T2bにおけるキャリア波の大きさを上回るものとする。
同時に、デューティ変換部404は、コンデンサ電圧Vcap、及び、上限変調率M*を用いて、三相交流電圧指令値Vu2*が、式(5)を満すか否かを判定する。時刻T2aにおいてはモータ104の要求トルクが大きいため、三相交流電圧指令値Vu2*が式(5)を満たさないと判定して、遅延回路405からのデューティ指令値Du2*の出力を遅延させる必要があると判断する。
次に、時刻T2bにおいて、デューティ変換部404は、デューティ指令値Du2*の算出を完了する。そして、デューティ変換部404は、算出したデューティ指令値Du2*、及び、遅延信号Dを、遅延回路405に出力する。
遅延信号Dが遅延回路405に入力されたため、遅延回路405は、デューティ変換部404により算出されたデューティ指令値Du2*の出力タイミングを遅延させる。具体的には、遅延回路405は、次の測定タイミング、すなわち、次にキャリア波が最大となるタイミングである時刻T3aにて、デューティ指令値Du2*をPWM信号生成部406に出力する。
したがって、時刻T2bから時刻T3aまでの間においては、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du1*とキャリア波とを比較する。そして、時刻T3a以降において、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du2*とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号を生成する。
同様に、時刻T3aにおいて測定された三相交流電流Iu3に基づいて生成されたデューティ指令値Du3*は、時刻T4aにおいてPWM信号生成部406に出力される。したがって、時刻T3aから時刻T4aまでの間において、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du2*とキャリア波とを比較する。時刻T4a以降において、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du3*とキャリア波とを比較してPWM信号を生成する。
なお、図5においては、電流センサ106は、キャリア波が最大となるタイミングにおいて電流を測定する例について説明したが、これに限らない。
例えば、電流センサ106は、キャリア波が最小となるタイミングにおいて電流を測定してもよい。
このような場合には、デューティ変換部404は、三相交流電圧指令値Vu*が式(5)を満たさないと判定すると、遅延回路405からの出力を遅延しなければPWM信号生成部406においてデューティ指令値Du*とキャリア波とを適切に比較できないと判断し、遅延信号Dを遅延回路405に出力する。
遅延信号Dが入力されるため、遅延回路405は、デューティ指令値Du*の出力タイミングを遅延させて、次の測定タイミングであるキャリア波が最小となるタイミングでデューティ指令値Du*を出力する。このようにすることで、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du*とキャリア波とを適切に比較できる。
また、例えば、電流センサ106は、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて電流を測定してもよい。
このような場合には、まず、電流センサ106は、キャリア波が最大となるタイミングにおいて電流を測定すると、デューティ変換部404は、測定された電流により求められた三相交流電圧指令値Vu*が式(5)を満たすか否か判定する。そして、デューティ変換部404は、三相交流電圧指令値Vu*が式(5)を満たさないと判定すると、遅延回路405からの出力を遅延しなければPWM信号生成部406においてデューティ指令値Du*とキャリア波とを適切に比較できないと判断し、遅延信号Dを遅延回路405に出力する。
遅延信号Dが入力されているため、遅延回路405は、デューティ指令値Du*の出力タイミングを遅延させて、次の測定タイミングであるキャリア波が最大となるタイミングでデューティ指令値Du*を出力する。このようにすることで、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du*とキャリア波との比較と適切にすることができる。
したがって、電流センサ106は、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて電流を測定している時において、遅延信号Dが入力されている場合の遅延回路405の動作は、以下のようになる。遅延回路405は、キャリア波が最小となるタイミングでの測定電流により求められたデューティ指令値Du*を、次の測定タイミングであるキャリア波が最大となるタイミングで出力する。また、遅延回路405は、キャリア波が最大となるタイミングでの測定電流により求められたデューティ指令値Du*を、次の測定タイミングであるキャリア波が最小となるタイミングで出力する。このようにすることで、PWM信号生成部406は、デューティ指令値Du*とキャリア波とを適切に比較できる。
第1実施形態によって以下の効果を得ることができる。
このように、第1実施形態の電力変換方法は、電流測定ステップを実行する電流センサ106と、指令値算出ステップを実行するデューティ変換部404とを有する。デューティ変換部404は、式(5)が満たされるか否かを判定する。この判定結果は、算出されたデューティ指令値と、デューティ指令値が算出された時点のキャリア波との大小関係を示している。そして、この判定結果に応じて、遅延回路405からデューティ指令値への出力を遅延させることにより、PWM信号生成部406によるデューティ指令値とキャリア波との比較の開始が、次の測定タイミングまで遅延される遅延ステップが実行される。
一般に、高速で操作されるスイッチング素子Trの操作タイミングを平均化すれば、スイッチング素子Trのオン区間又はオフ区間の中間点のタイミング、すなわち、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて、モータ104へ流れる電流に含まれるノイズが小さくなる。そこで、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて、電流センサ106が三相交流電流を測定し、その三相交流電流に応じてPWM信号生成部406がPWM信号を生成することにより、高調波のノイズの影響を抑制してモータ104の回転を精度よく制御することができる。
また、電流センサ106U、106V、106Wが三相交流電流を測定してから、デューティ変換部404がデューティ指令値の算出を完了するまでの間(算出時間Δt)に、キャリア波の大きさは変化する。例えば、図3に示したように、時刻Ta1における測定電流を用いて算出されたデューティ指令値Du1*が、算出時間Δt経過時点である時刻Tb1でのキャリア波の大きさを上回る場合には、デューティ指令値の算出が完了する前に、デューティ指令値とキャリア波とが同じ大きさとなってしまう。そのため、PWM信号生成部406が生成したPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミング(時刻Tb1)と、デューティ指令値が示すスイッチング素子Trの制御タイミング(時刻Tc1)とにズレが生じてしまう。したがって、PWM信号生成部406は、適切なPWM信号を生成できない。
そこで、デューティ変換部404は、式(5)が満たされるか否かを判定する。この判定結果は、デューティ指令値が、デューティ指令値の算出が完了した時点におけるキャリア波を上回るか否か、すなわち、遅延回路405からの出力を遅延させなくてもPWM信号生成部406において適切なPWM信号を生成できるか否かを示している。そのため、式(5)が満たされず、遅延回路405からの出力を遅延さなければPWM信号生成部406において適切なPWM信号を生成できないと判断されると、遅延回路405は、デューティ指令値の出力を、次の測定タイミング、すなわち、キャリア波が次に最大となるタイミングまで遅延させる。
このように遅延させることにより、PWM信号生成部406における算出されたデューティ指令値とキャリア波との比較の開始が遅延される。そのため、PWM信号生成部406は、適切なPWM信号を生成できるようになる。したがって、PWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、デューティ指令値が示すスイッチング素子Trの制御タイミングとのズレを抑制することができる。
そのため、スイッチング素子Trのオン区間又はオフ区間の中間点において三相交流電流の測定が行うことにより、電流センサ106により測定される三相交流電流に含まれる高調波のノイズが抑制されるので、モータ104を制御する精度を向上させることができる。
(第2実施形態)
第1実施形態においてはキャリア波の周波数が一定である例について説明した。第2実施形態においては、キャリア波の周波数を変更する例について説明する。
図6は、第2実施形態のモータコントローラ111の構成を示すブロック図である。
本実施形態のモータコントローラ111は、図2に示されたモータコントローラ111と比較すると、デューティ変換部404から出力される遅延信号Dがキャリア周波数算出部410に出力されている点と、キャリア周波数算出部410がキャリア周波数fを変化させる点とが異なる。
キャリア周波数算出部410は、デューティ変換部404から遅延信号Dが入力されると、PWM信号生成部406に出力するキャリア波の周波数fを、1/Δtに変更する。このようにすることで、デューティ変換部404によるデューティ指令値の算出が完了するタイミングと、デューティ指令値が遅延回路405から出力されるタイミングとのズレを小さくすることができる。
次に、遅延回路405による動作について図7を用いて説明する。なお、電流センサ106は、キャリア波が最大となるタイミングで電流を測定しているものとする。
図7は、PWM信号生成部406における動作を説明するためのタイミングチャートである。この図には、遅延回路405を経たデューティ指令値Du*及びキャリア波が示されている。なお、時刻T1の前において、デューティ変換部404は、遅延信号Dを遅延回路405及びキャリア周波数算出部410に出力し、キャリア周波数算出部410は、出力するキャリア波の周波数fを1/Δtに変更している。周波数fが1/Δtであるため、キャリア波の1周期はΔtとなる。
まず、時刻T1において、電流センサ106uによって三相交流電流Iu1が測定される。そして、デューティ変換部404は、三相交流電流Iu1に基づいて生成された三相交流電圧指令値Vu1*、及び、コンデンサ電圧Vcapを用いて、デューティ指令値Du1*の算出を開始する。
時刻T1からΔtだけ経過した時刻T2において、デューティ変換部404は、デューティ指令値Du1*の算出を完了する。
ここで、時刻T2は、電流センサ106uによって時刻T1の次に三相交流電流Iu2が測定されるタイミングである。そのため、時刻T2においては、電流センサ106uによって三相交流電流Iu2が測定されるとともに、遅延回路405からデューティ指令値Du1*がPWM信号生成部406に出力される。
このように、算出時間Δtが経過するタイミングと、キャリア波が次に最大値となるタイミングとが一致するように、キャリア波の周波数fが変更される。
第2実施形態によって以下の効果を得ることができる。
第2実施形態の電力制御方法において、さらに、デューティ変換部404による判定結果に応じて、キャリア周波数算出部410は、キャリア波の周波数fを、算出時間Δtに応じた値である1/Δtに変更する周波数変更ステップを実行する。
このようにすることにより、図7に示したように、デューティ変換部404によるデューティ指令値の算出が完了した直後から、PWM信号生成部406によってデューティ指令値とキャリア波との比較を行うことができる。
仮にキャリア波の周波数fを1/Δtよりも高くしてしまうと、キャリア波が最大となる間隔が算出時間Δtよりも短くなってしまう。そのため、デューティ変換部404によるデューティ指令値の算出が完了した直後から、PWM信号生成部406によるデューティ指令値とキャリア波との比較を行うことができなくなる。
したがって、キャリア波の周波数fを1/Δtと設定することにより、PWM信号生成部406が適切にPWM制御信号を生成できる範囲で、キャリア波の周波数fを最も高くすることができる。そのため、電流センサ106により測定される三相交流電流に含まれるノイズを低減するとともに、デューティ指令値の算出が完了してからPWM信号生成部406にてデューティ指令値とキャリア波との比較が開始されるまでの遅延を小さくすることができる。したがって、モータ104に流れる電流の脈動を抑制するというような耐外乱性能を向上するので、モータ104の回転制御の精度を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。