JP2017032021A - 車両用モータ駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 寒冷環境下で長時間停止した場合であっても、回転ポンプの始動時にモータ部および減速機部の潤滑を円滑に行う。【解決手段】 モータ部Aと、減速機部Bと、車輪用軸受部Cと、モータ部Aおよび減速機部Bを収容したケーシング22と、回転ポンプ56によりモータ部Aおよび減速機部Bに潤滑油を供給する潤滑機構とを備えたインホイールモータ駆動装置であって、潤滑機構は、ケーシング22内の潤滑油の貯溜部位に配置され、潜熱蓄熱材73を外装部材74内に収納した潜熱蓄熱体75と、その潜熱蓄熱体75に近接配置され、外装部材74内の潜熱蓄熱材73に衝撃を付与する衝撃付与手段76とを具備する。【選択図】 図1
Description
本発明は、例えば、電動モータの回転駆動力を減速機部に入力し回転数を減速して車輪側に伝達する車両用モータ駆動装置に関する。
従来の車両用モータ駆動装置として、例えば、特許文献1に開示されたインホイールモータ駆動装置がある。この特許文献1のインホイールモータ駆動装置は、駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪用軸受部と、モータ部と車輪用軸受部との間に配置され、モータ部の回転を減速して車輪用軸受部に伝達する減速機部とを備えている。モータ部および減速機部はハウジングに収容されている。
このインホイールモータ駆動装置では、モータ部の冷却と減速機部の冷却および潤滑とを目的として、モータ部および減速機部に潤滑油を供給する潤滑機構が設けられている。潤滑機構は、潤滑油を圧送する回転ポンプと、ハウジングの下部に設けられた潤滑油貯溜部と、モータ部および減速機部に設けられた油路とを備え、潤滑油がモータ部および減速機部を循環する構造を有する。
この潤滑機構では、回転ポンプから吐出される潤滑油をハウジングの油路からモータ出力軸の油路を経由してモータ部に供給することにより、モータ部の冷却が行われる。また、モータ出力軸の油路と連通する減速機入力軸の油路を経由して減速機部に潤滑油を供給することにより、減速機部の冷却および潤滑が行われる。
このようにして、モータ部の冷却と減速機部の冷却および潤滑とを行った潤滑油は、ハウジング下部の潤滑油貯溜部に一旦貯溜される。この潤滑油貯溜部に貯溜された潤滑油は、ハウジングの油路から吸い上げられて回転ポンプへ還流する。
以上のように、このインホイールモータ駆動装置において、潤滑機構は、回転ポンプから吐出された潤滑油により、モータ部の冷却と減速機部の冷却および潤滑を行った後、その潤滑油を潤滑油貯溜部から回転ポンプへ吸入させる循環構造をなす。
ところで、特許文献1で開示されたインホイールモータ駆動装置では、寒冷地での使用において長時間停止した場合、モータ部および減速機部の内部での潤滑油の温度が低下し、その粘度が高くなって潤滑油が流動し難くなる。このように、潤滑油が流動し難くなると、回転ポンプの始動時、潤滑油貯溜部に貯溜した潤滑油は、ハウジングの油路から回転ポンプへ吸い上げられ難くなる。そのため、回転ポンプの始動時、モータ部および減速機部の内部を潤滑油が正常に潤滑しない可能性がある。
その結果、モータ部および減速機部は、潤滑が不十分な状態で駆動することになり、駆動部分の損傷や、その駆動部分を支持する軸受の摩耗が発生する原因となる。このような潤滑油の温度低下対策として、潤滑油を加熱するヒータを設ける手段も考えられる。しかしながら、ヒータを設けることにより、部品点数が増加すると共に、ヒータを駆動するための外部電源も必要となることから、最適な手段であるとは言えない。
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、寒冷環境下で長時間停止した場合であっても、回転ポンプの始動時にモータ部および減速機部の潤滑を円滑に行い得る車両用モータ駆動装置を提供することにある。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、モータ部と、減速機部と、モータ部および減速機部を収容したケーシングと、回転ポンプによりモータ部および減速機部に潤滑油を供給する潤滑機構とを備えた車両用モータ駆動装置であって、潤滑機構は、ケーシング内の潤滑油の貯溜部位に配置され、潜熱蓄熱材を外装部材内に収納した潜熱蓄熱体と、その潜熱蓄熱体に近接配置され、外装部材内の潜熱蓄熱材に衝撃を付与する衝撃付与手段とを具備したことを特徴とする。
本発明では、回転ポンプの始動時、潜熱蓄熱体に近接配置された衝撃付与手段により外装部材内の潜熱蓄熱材に衝撃を付与することで、潜熱蓄熱材を発熱させる。この潜熱蓄熱材の発熱により、寒冷環境下での長時間停止により温度低下していた潤滑油を昇温させることができる。この潤滑油の昇温により、潤滑油が粘度の低下で流動し易くなり、貯溜された潤滑油は、回転ポンプへ速やかに吸い上げられる。そのため、モータ部および減速機部の内部を潤滑油が正常に潤滑することができる。
本発明における潜熱蓄熱体は、回転ポンプの吸入口が潤滑油の貯溜部位で開口する部位付近に配置されていることが望ましい。このようにすれば、回転ポンプの吸入口が開口する部位付近に貯溜する潤滑油が潜熱蓄熱材の発熱により速やかに昇温する。そのため、回転ポンプによる潤滑油の吸い上げがより一層良好となり、寒冷環境下での長時間停止した場合であっても、回転ポンプの始動時に、モータ部および減速機部の内部を潤滑油で確実に潤滑することができる。
本発明における減速機部は、複数の歯車からなる平行軸歯車減速機で構成されていることが望ましい。このようにすれば、減速機部を構成する平行軸歯車減速機の各歯車および歯車を支持する軸受などの駆動部分を正常に潤滑することができる。その結果、平行軸歯車減速機で構成された減速機部を持つ車両用モータ駆動装置に対して有効な手段となる。
本発明によれば、寒冷環境下での長時間停止した場合であっても、衝撃付与手段により潜熱蓄熱体を発熱させることで、温度低下していた潤滑油を昇温させることができ、潤滑油の流動性の向上によって、モータ部および減速機部の内部を潤滑油が正常に潤滑することができる。その結果、モータ部の冷却性能、減速機部の冷却性能および潤滑性能の向上が図れ、信頼性の高い長寿命の車両用モータ駆動装置を提供することができる。
本発明に係る車両用モータ駆動装置の1つの実施形態としてインホイールモータ駆動装置を図面に基づいて詳述する。
図7は、インホイールモータ駆動装置21を搭載した電気自動車11の概略平面図、図8は、電気自動車11を後方から見た概略断面図である。
電気自動車11は、図7に示すように、シャシー12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、後輪14に駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを装備する。後輪14は、図8に示すように、シャシー12のホイールハウジング15の内部に収容され、懸架装置(サスペンション)16を介してシャシー12の下部に固定されている。
懸架装置16は、左右に延びるサスペンションアームにより後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットにより、後輪14が地面から受ける振動を吸収してシャシー12の振動を抑制する。左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時などの車体の傾きを抑制するスタビライザが設けられている。懸架装置16は、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させる独立懸架式としている。
電気自動車11は、ホイールハウジング15の内部に、左右それぞれの後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャシー12上にモータ、ドライブシャフトおよびデファレンシャルギヤ機構などを設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を有する。
電気自動車11の走行安定性およびNVH特性を向上させるためにばね下重量を抑える必要があり、さらに、広い客室スペースを確保するためにインホイールモータ駆動装置21の小型化が求められる。
そこで、図1に示す実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、以下の構造を具備する。これにより、コンパクトなインホイールモータ駆動装置21を実現し、ばね下重量を抑えることで、走行安定性およびNVH特性に優れた電気自動車11を得ることができる。
この実施形態の特徴的な構成を説明する前にインホイールモータ駆動装置21の全体構成を説明する。以下の説明では、インホイールモータ駆動装置21を車両に搭載した状態で、車両の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と称し、中央寄りとなる側をインボード側(図面右側)と称する。
インホイールモータ駆動装置21は、図1に示すように、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速機部Bと、減速機部Bからの出力を駆動輪としての後輪14(図7および図8参照)に伝達する車輪用軸受部Cとを備えている。モータ部Aと減速機部Bはケーシング22に収容されて、電気自動車11のホイールハウジング15(図8参照)内に取り付けられる。ケーシング22は、モータ部Aのモータハウジングと減速機部Bのギヤハウジングとからなる分割可能な構造でボルトにより締結一体化されている。
モータ部Aは、ケーシング22に固定されたステータ23と、ステータ23の径方向内側に隙間をもって対向するように配置されたロータ24と、ロータ24の径方向内側に配置されてロータ24と一体回転するモータ回転軸25とを備えたラジアルギャップ型の電動モータ26で構成されている。モータ回転軸25は、毎分一万数千回転程度で高速回転可能である。ステータ23は磁性体コアの外周にコイルを巻回することによって構成され、ロータ24は永久磁石または磁性体が内部に配置されている。
モータ回転軸25は、径方向外側へ一体的に延びるホルダ部27によりロータ24が保持されている。ホルダ部27は、ロータ24が嵌め込み固定された凹溝を環状に形成した構成としている。モータ回転軸25は、その軸方向一方側端部(図1の右側)が転がり軸受28に、軸方向他方側端部(図1の左側)が転がり軸受29によって、ケーシング22に対して回転自在に支持されている。
減速機部Bは、入力歯車である第1歯車30と、中間歯車である第2歯車31および第3歯車32と、出力歯車である第4歯車33とを有する。
第1歯車30は、インボード側に延びる軸部34をモータ回転軸25にスプライン嵌合(セレーション嵌合を含む。以下、同じ)によって連結することにより、モータ回転軸25に同軸的に取り付け固定されている。第2歯車31は、中間軸35に取り付け固定されている。第3歯車32は、中間軸35に一体的に形成されている。第4歯車33は、その軸部36を減速機出力軸37のインボード側軸部38にスプライン嵌合によって連結することにより、減速機出力軸37に同軸的に取り付け固定されている。
この減速機部Bは、第1歯車30と第2歯車31とが噛合し、第3歯車32と第4歯車33とが噛合することにより、モータ回転軸25の回転運動を2段に減速する平行軸歯車減速機39で構成されている。
第1歯車30の軸部34は、転がり軸受40によってケーシング22に対して回転自在に支持されている。第2歯車31が取り付け固定され、第3歯車32が一体的に形成された中間軸35は、転がり軸受41,42によってケーシング22に対して回転自在に支持されている。減速機出力軸37が取り付け固定された第4歯車33は、転がり軸受43,44によってケーシング22に対して回転自在に支持されている。減速機出力軸37のアウトボード側軸部45は、車輪用軸受部Cのハブ輪47にスプライン嵌合によって連結され、減速機部Bの出力を後輪14(図7および図8参照)に伝達する。
第1歯車30〜第4歯車33および各歯車の回転軸を図2に基づいて説明する。図2は、図1の平行軸歯車減速機39を構成する第1歯車30〜第4歯車33のみをアウトボード側から見た概要図である。
第1歯車30は、モータ回転軸25(図1参照)に取り付け固定され、その軸心C1を中心にして回転する。第2歯車31は、中間軸35(図1参照)に取り付け固定され、第3歯車32は、中間軸35に一体的に形成され、その軸心C2を中心にして回転する。第4歯車33は、減速機出力軸37(図1参照)に取り付け固定され、その軸心C3を中心にして回転する。なお、モータ回転軸25と減速機出力軸37は同軸上に配置されていることから、それぞれの軸心C1と軸心C3は一致している。
この実施形態では、モータ回転軸25、中間軸35および減速機出力軸37の各軸心C1,C2,C3が直線E−E上に配置され、減速機部Bの径方向のコンパクト化を図っている。ただし、各軸心C1,C2,C3の配置は、この実施形態のような配置に限らず、各歯車30〜33の噛合いを維持した状態で、ケーシング22のスペースなどを考慮して適宜ずらしてもよい。
ここで、平行軸歯車減速機39を構成する第1歯車30〜第4歯車33には、はすば歯車を用いている。はすば歯車は、同時に噛合う歯数が増え、歯当たりが分散されるので音が静かで、トルク変動が少ない点で有効である。歯車のかみあい率や限界の回転数などを考慮して、モジュールは1〜3程度が好ましい。
インホイールモータ駆動装置21は、ホイールハウジング15(図8参照)の内部に収められ、ばね下荷重となるため、小型軽量化が必須である。平行軸歯車減速機39を電動モータ26と組み合わせることで電動モータ26の小型化を図ることができる。
例えば、減速比11の平行軸歯車減速機39を用いた場合、毎分一万数千回転程度の高速回転の電動モータ26を使用することにより電動モータ26を小型化することができる。この場合、ケーシング22のスペースなどを考慮すると、第1歯車30と第2歯車31からなる第1段の減速比は2〜4程度とし、第3歯車32と第4歯車33からなる第2段の減速比は3〜5程度とすることが好ましい。
車輪用軸受部Cは、図1に示すように、以下のような構造の車輪用軸受46で構成されている。車輪用軸受46は、減速機出力軸37にトルク伝達可能に連結されたハブ輪47と、ハブ輪47の外周に嵌合された内輪48と、ハブ輪47および内輪48の外側に配置された外輪49と、ハブ輪47および内輪48と外輪49との間に配置された複数の玉50と、複数の玉50を保持する保持器51とを備えた複列アンギュラ玉軸受である。車輪用軸受46の軸方向両端部には、泥水などの侵入防止のためにシール部材52が設けられている。
この車輪用軸受46は、減速機出力軸37のアウトボード側軸部45の端部に形成された雄ねじ部にナット53を螺合させることにより、平行軸歯車減速機39に締め付け固定されている。車輪用軸受46の外輪49は、ケーシング22に取り付け固定されている。車輪用軸受46の内輪48は、減速機出力軸37のフランジ部54に当接することにより抜け止めされている。車輪用軸受46のハブ輪47にハブボルト55で後輪14(図7および図8参照)が連結される。
次に、このインホイールモータ駆動装置21における全体的な潤滑機構を説明する。
潤滑機構は、モータ部Aを冷却するために潤滑油を供給すると共に、減速機部Bを冷却および潤滑するために潤滑油を供給するものである。この実施形態の潤滑機構は、図1に示すように、回転ポンプ56と、ケーシング22に配設された油路57,58と、モータ回転軸25に配設された油路59,60と、第1歯車30およびその軸部34に配設された油路61,62とを主な構成としている。この潤滑機構では、インホイールモータ駆動装置21の始動時に第1歯車30の潤滑を容易にするため、油路59,61,62を経由して第1歯車30に潤滑油を供給する軸心給油構造を採用している。
回転ポンプ56は、押え板63によりケーシング22に組み込まれている。回転ポンプ56の吐出口64および吸入口65がケーシング22に設けられている。また、モータ部Aと減速機部Bとを区画するケーシング22の隔壁部66には、潤滑油をモータ部Aから減速機部Bへ流通させる排油孔67(図3参照)が配設されている。
図1に示すように、回転ポンプ56の吐出口64から延びる油路57は、ケーシング22の内部を周回し、モータ回転軸25のインボード側端部で油路59と連通する。モータ回転軸25の内部を軸線方向に沿って延びる油路59は、その軸中央部でホルダ部27に向かって延びる油路60と連通し、アウトボード側端部で第1歯車30の軸部34の油路61と連通する。
第1歯車30の軸部34の内部を軸線方向に沿って延びる油路61は、第1歯車30の内部で径方向に沿って延びる油路62と連通する。モータ回転軸25の軸中央部の油路60は、ホルダ部27の凹溝内を経由して外周端部で開口する。第1歯車30の軸部34の油路61は、第1歯車30のアウトボード側端部で開口する。第1歯車30の内部の油路62は、第1歯車30の歯面で開口する。
回転ポンプ56へ潤滑油を還流させるための油路58は、一端が回転ポンプ56の吸入口65と連通し、他端がケーシング22の隔壁部66の下部で減速機部B側に開口する。潤滑油を強制的に循環させるための回転ポンプ56は、吐出口64と連通する油路57と、吸入口65と連通する油路58との間に設けられている。
図1および図3に示すように、回転ポンプ56は、中間軸35のインボード側に取り付けられたインナロータ68と、ケーシング22に回転自在に支持されたアウタロータ69と、ポンプ室70(図3参照)と、油路57に連通する吐出口64と、油路58に連通する吸入口65とを備えるサイクロイドポンプである。
この回転ポンプ56は、中間軸35のインボード側端部と同軸的に連結されたポンプ駆動軸72を備えている。ポンプ駆動軸72は、転がり軸受41によってケーシング22に対して回転自在に支持されている。このポンプ駆動軸72のインボード側端部にインナロータ68が取り付けられている。回転ポンプ56は、中間軸35の回転で駆動することから、別の駆動機構を必要としないので、部品点数の低減が図れる。
インナロータ68は、モータ回転軸25の回転を第1歯車30および第2歯車31からなる第1段で減速して駆動されることにより、中間軸35の回転と同期して回転する。一方、アウタロータ69は、インナロータ68の回転に伴って従動回転する。この回転ポンプ56をケーシング22内に配置することによって、インホイールモータ駆動装置21の大型化を防止することができる。
インナロータ68は、回転中心C4を中心として回転し、アウタロータ69は、回転中心C5を中心として回転する。インナロータ68およびアウタロータ69は異なる回転中心C4,C5を中心として回転するので、ポンプ室70の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口65から流入した潤滑油が吐出口64から油路57に圧送される。インナロータ68の歯数をnとすると、アウタロータ69の歯数は(n+1)となる。なお、この実施形態においては、n=7としている。
前述した潤滑機構による潤滑油の流れを以下に説明する。図1において、インホールモータ駆動装置21の内部に付した白抜き矢印は潤滑油の流れを示す。
モータ部Aの冷却として、回転ポンプ56の吐出口64から圧送された潤滑油は、油路57,59を経由し、その一部がモータ回転軸25の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって油路60を経てロータ24を冷却する。さらに、ホルダ部27から潤滑油が吐出されてステータ23を冷却する。このようにして、電動モータ26の冷却が行われる。
減速機部Bの冷却および潤滑として、油路59から流入する潤滑油は、第1歯車30の軸部34の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって油路61,62を経由して第1歯車30の歯面に流出し、第1歯車30を潤滑する。第2〜第4歯車31〜33は、ケーシング22の下部に貯留した潤滑油を跳ね掛けて潤滑される。このようにして、平行軸歯車減速機39および転がり軸受40〜44の冷却および潤滑が行われる。
なお、第1歯車30から流出した潤滑油は、隔壁部71側に飛散することから、この隔壁部71の上部に孔(図示せず)を設けておけば、第4歯車33に潤滑油を供給することが容易となる。
モータ部Aの冷却、減速機部Bの冷却および潤滑を行った潤滑油は、ケーシング22の内壁面を伝って重力により下部へ移動する。モータ部Aの下部へ移動してケーシング22の下部で貯溜した潤滑油は、排油孔67(図3参照)から減速機部Bの下部へ流入する。減速機部Bの下部へ移動および流入してケーシング22の下部で貯溜した潤滑油は、その潤滑油の貯溜部位で開口する油路58から吸い上げられて回転ポンプ56の吸入口65へ還流する。
この実施形態におけるインホイールモータ駆動装置21の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成を以下に詳述する。
この実施形態では、図1および図4に示すように、前述した潤滑機構において、潜熱蓄熱材73を外装部材74に収納した潜熱蓄熱体75を、減速機部Bの下部で潤滑油が貯溜する部位に設けると共に、その潜熱蓄熱体75に近接配置され、外装部材74内の潜熱蓄熱材73に衝撃を付与する衝撃付与手段76を潜熱蓄熱体75に近接配置している。前述の潜熱蓄熱体75は、回転ポンプ56の吸入口65と連通する油路58が潤滑油の貯溜部位で開口する部位付近に配置されている。
ここで、潜熱蓄熱材73とは、融点を含む狭い温度領域に温度上昇を伴うことなく大量の熱エネルギーを貯蔵するもので、物質の相変態時に熱(潜熱)を発生する。例えば、過冷却型の潜熱蓄熱材73では、液体状態(過冷却状態)で大量の熱エネルギーを貯蔵し、その液体に衝撃を付与することで結晶に種を生成し、不規則に浮遊していた分子やイオンの結晶化により結合(凝固)する際に大きな熱(凝固熱)を一気に放出する。
この潜熱蓄熱材73は、物質単体で用いられることはなく、例えば、硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物やチオ硫酸ナトリウム水和物などの無機水和塩系素材(下表参照)に対して、用途に応じた最適な相変態温度を得るために融点調整剤を添加したり、耐久性を高めるために過冷却防止剤や相分離防止剤などを添加した混合物がある。このような混合物をポリプロピレン等の合成樹脂製の外装部材74である容器に充填することにより潜熱蓄熱体75を構成する。また、パラフィン系素材に対して、パラフィンをゴムまたは合成樹脂に練り込み、板状に成形したものを外装部材74であるアルミラミネート材で被覆することにより潜熱蓄熱体75を構成する。
一方、衝撃付与手段76は、減速機部Bの下部に位置するケーシング22の底部に潜熱蓄熱体75と対向するように近接配置されている。この衝撃付与手段76は、回転ポンプ56の始動による通電で駆動されるソレノイド77と、そのソレノイド77の駆動により上方に向けて直動するピン状部材78とで構成されている。ピン状部材78は、ケーシング22に設けられた孔79に対して突出退入自在に配置されている。
図5に示すように、回転ポンプ56の始動時、衝撃付与手段76のソレノイド77を通電により駆動させる。このソレノイド77の駆動によりピン状部材78を上方に向けて直動させてケーシング22の底部から突出させる。このピン状部材78の突出により、潜熱蓄熱体75の外装部材74内の潜熱蓄熱材73に衝撃を付与する。この衝撃の付与により、液体状態(図4の散点模様)の潜熱蓄熱材73が凝固して固体状態(図5のハッチング)に変態することにより、貯蔵されていた熱エネルギーが一気に放出されて潜熱蓄熱材73が発熱する。
インホイールモータ駆動装置21が寒冷地での使用において長時間停止した場合であっても、前述した潜熱蓄熱材73の発熱により、寒冷環境下での長時間停止により温度低下していた潤滑油を昇温させることができる。この潤滑油の昇温により、潤滑油が粘度の低下で流動し易くなり、減速機部Bの底部に貯溜された潤滑油は、回転ポンプ56へ速やかに吸い上げられる。そのため、回転ポンプ56の始動時、モータ部Aおよび減速機部Bの内部を潤滑油が正常に潤滑することができる。
特に、潜熱蓄熱体75は、回転ポンプ56の吸入口65が潤滑油の貯溜部位で開口する部位付近に配置されていることから、回転ポンプ56の吸入口65が開口する部位付近に貯溜する潤滑油が潜熱蓄熱材73の発熱により速やかに昇温する。そのため、回転ポンプ56による潤滑油の吸い上げがより一層良好となり、寒冷環境下での長時間停止した場合であっても、回転ポンプ56の始動時、モータ部Aおよび減速機部Bの内部を潤滑油で確実に潤滑することができる。
なお、潜熱蓄熱材73は凝固した後、車両走行時に潤滑油の温度が一定値以上になることで液体に戻るので、再度利用することが可能である。この潜熱蓄熱材73は、衝撃が付与される前の初期状態では液体であるので、外装部材74の形状次第で自由に配置することができる。また、熱源である潜熱蓄熱体75をケーシング22の内部に設けたことで、外部温度の影響を受け難く、潤滑油を効率よく昇温することができる。さらに、潤滑油の昇温は、ソレノイド77を駆動させる電力だけで済むため、ヒータ加熱よりも少ない電力で行うことができる。
以上のような潤滑油の温度に基づくソレノイド77の制御は、図6に示すフローチャートに従って行われる。例えば、モータ駆動指令に基づいて(STEP1)、潤滑油の温度が0℃以下であると(STEP2)、ソレノイド77を作動させ(STEP3)、そのソレノイド77の停止後(STEP4)、5秒経過した時点で潤滑油の温度が10℃以上であれば(STEP5)、電動モータ26を駆動する(STEP6)。なお、ソレノイド77の作動を5回以上繰り返した場合(STEP7)、無限ループを回避するために電動モータ26を駆動する(STEP6)。
このソレノイド77の制御は、電気自動車11の左右の後輪14(図7および図8参照)を駆動するインホイールモータ駆動装置21について共通して行えばよいが、左側の後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21と、右側の後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21とで、潤滑油の温度が大きく異なる場合には、以下のような制御が有効である。
つまり、図6に示すように、左右の後輪14のインホイールモータ駆動装置21で、潤滑油の温度差が10℃以上ある場合(STEP8)、低温側のインホイールモータ駆動装置(IWM)21のソレノイド77を作動させ(STEP9)、そのソレノイド77の停止後(STEP10)、5秒経過した時点で左右の後輪14のインホイールモータ駆動装置21における潤滑油の温度差が5℃以内になれば(STEP11)、電動モータ26を駆動する(STEP6)。なお、ソレノイド77の作動を5回以上繰り返した場合(STEP12)、無限ループを回避するために電動モータ26を駆動する(STEP6)。
このように、左右の後輪14のインホイールモータ駆動装置21における潤滑油の温度差をなくすことで、左右の後輪14のインホイールモータ駆動装置21で伝達効率を同等にすることができる。
最後に、この実施形態におけるインホイールモータ駆動装置21の全体的な作動原理を説明する。
図1に示すように、モータ部Aにおいて、例えば、ステータ23に交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けてロータ24が回転する。これにより、減速機部Bにおいて、モータ回転軸25の回転が、平行軸歯車減速機39を構成する第1歯車30、第2歯車31、第3歯車32および第4歯車33によって減速され、減速機出力軸37を介して車輪用軸受部Cに伝達される。
この時、モータ回転軸25の回転が減速機部Bによって減速されて減速機出力軸37に伝達されるので、モータ部Aにおいて、低トルク、高速回転型の電動モータ26を採用した場合でも、後輪14(図7および図8参照)に必要なトルクを伝達することが可能となる。
減速機部Bの減速比は、第1歯車30と第2歯車31の第1段で1/2.5、第3歯車32と第4歯車33の第2段で1/4.5とすれば、減速比は約1/11と大きな減速比を得ることができる。
このように、大きな減速比を得ることができる平行軸歯車減速機39を採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、平行軸歯車減速機39は、はすば歯車を用いているので、製造が容易で、コストの低減が図れ、性能面でも、静粛かつ効率のよいインホイールモータ駆動装置21を実現することができる。
この実施形態では、モータ部Aとしてラジアルギャップ型の電動モータ26を例示したが、任意の構成のモータを適用可能である。例えば、ケーシングに固定されたステータと、ステータの軸方向内側に隙間をもって対向するように配置されたロータとを備えるアキシャルギャップ型の電動モータであってもよい。
また、この実施形態では、回転ポンプ56としてサイクロイドポンプを例示したが、これに限定されることなく、減速機部Bの中間軸35の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。
さらに、この実施形態では、第1〜第4歯車30〜33からなる平行軸歯車減速機39を例示したが、減速機入力軸の偏心部に回転自在に保持される曲線板と、その曲線板の外周部に係合する複数の外ピンと、曲線板の自転運動を減速機出力軸に伝達する運動変換機構と、偏心部に隣接して減速機入力軸に設けられたカウンタウェイトとを備えたサイクロイド減速機であってもよい。
この実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから後輪14に伝達される。従って、前述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。また、モータ部Aに電力を供給してモータ部を駆動させ、モータ部Aからの動力を後輪14に伝達させる場合を示したが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、後輪14側からの動力を減速機部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させることや、車両に備えられた他の電動機器などの作動に用いてもよい。
なお、以上の実施形態では、ホイールハウジング15(図8参照)の内部に、左右それぞれの後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けた車両用モータ駆動装置について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、図9に示すオンボードタイプと呼ばれる車両用モータ駆動装置81にも適用可能である。なお、図9において、図1と同一部分には同一参照符号を付して重複説明は省略する。
このオンボードタイプの車両用モータ駆動装置81は、図9に示すように、左右のドライブシャフト82を介して後輪14を駆動する。車両用モータ駆動装置81は、平行軸歯車減速機39を有する減速部Bと、減速部Bを回転駆動するモータ部Aを備えている。この車両用モータ駆動装置81は左右にモータ部Aと減速部Bとをそれぞれ2個ずつ備えている。
2個のモータ部Aは、同軸に背中合わせで隣接して配設されている。また、減速部Bはモータ部Aと同軸に配設されている。ドライブシャフト82は、後輪14側の固定式等速自在継手83と減速機側の摺動式等速自在継手84と、両等速自在継手83,84間を連結する中間シャフト85を主な構成とする。減速機出力軸37は、摺動式等速自在継手84にスプライン嵌合によって連結され、減速部Bの出力を後輪14に伝達する。
この実施形態では、図7および図8に示すように、後輪14を駆動輪とした電気自動車11を例示したが、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等も含むものである。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
21 車両用モータ駆動装置(インホイールモータ駆動装置)
22 ケーシング
39 平行軸歯車減速機
56 回転ポンプ
65 吸入口
73 潜熱蓄熱材
74 外装部材
75 潜熱蓄熱体
76 衝撃付与手段
A モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
22 ケーシング
39 平行軸歯車減速機
56 回転ポンプ
65 吸入口
73 潜熱蓄熱材
74 外装部材
75 潜熱蓄熱体
76 衝撃付与手段
A モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
Claims (3)
- モータ部と、減速機部と、前記モータ部および減速機部を収容したケーシングと、回転ポンプにより前記モータ部および減速機部に潤滑油を供給する潤滑機構とを備えた車両用モータ駆動装置であって、
前記潤滑機構は、前記ケーシング内の潤滑油の貯溜部位に配置され、潜熱蓄熱材を外装部材内に収納した潜熱蓄熱体と、前記潜熱蓄熱体に近接配置され、前記外装部材内の潜熱蓄熱材に衝撃を付与する衝撃付与手段とを具備したことを特徴とする車両用モータ駆動装置。 - 前記潜熱蓄熱体は、前記回転ポンプの吸入口が潤滑油の貯溜部位で開口する部位付近に配置されている請求項1に記載の車両用モータ駆動装置。
- 前記減速機部は、複数の歯車からなる平行軸歯車減速機で構成されている請求項1又は2に記載の車両用モータ駆動装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2015150556A JP2017032021A (ja) | 2015-07-30 | 2015-07-30 | 車両用モータ駆動装置 |
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CN109787440A (zh) * | 2017-11-15 | 2019-05-21 | 苏州宝时得电动工具有限公司 | 自动扫雪机及电机启动方法 |
JP2022154538A (ja) * | 2021-03-30 | 2022-10-13 | 愛知製鋼株式会社 | 歯車付電動機 |
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2015
- 2015-07-30 JP JP2015150556A patent/JP2017032021A/ja active Pending
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