以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態にかかる車両用のブレーキ装置について説明する。図1は、本実施形態にかかるブレーキ装置1の基本構成を示した液圧回路図である。ここでは前後配管の液圧回路を構成する車両に本発明にかかるブレーキ装置1を適用した例について説明するが、X配管などの車両についても適用可能である。
図1に示されるように、ブレーキ装置1には、ブレーキペダル11、倍力装置12、M/C13、W/C14、15、34、35、制御ユニット50、加圧ユニット60、ブレーキECU70および加圧用ECU80等が備えられている。なお、図2、図3は、それぞれ、制御ユニット50と加圧ユニット60の詳細を示した図である。
車両に制動力を加える際にドライバによって踏み込まれるブレーキペダル11は、倍力装置12およびM/C13に接続されており、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、マスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧を発生させる。なお、M/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられており、M/C13へのブレーキ液の供給およびM/C13から余剰のブレーキ液の排出が行えるようになっている。
M/C13に発生させられるM/C圧は、加圧ユニット60および制御ユニット50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。制御ユニット50としては、既存のものを用いることができ、M/C13とW/C14、15、34、35との間に既存の制御ユニット50を配置し、さらにM/C13と制御ユニット50との間に加圧ユニット60を追加配置することで、ブレーキ装置1を構成することができる。
制御ユニット50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有した構成とされている。第1配管系統50aは、左右前輪FL、FRに備えられたフロント側のW/C14、15のブレーキ液圧を制御するもので、第2配管系統50bは、左右後輪RL、RRに備えられたリア側のW/C34、35のブレーキ液圧を制御するものである。
以下、第1、第2配管系統50a、50bについて説明するが、第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、略同様の構成であるため、ここでは第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては第1配管系統50aを参照する。
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14および右前輪FRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
管路Aには、管路Aを連通状態と差圧状態に制御することで、管路Aのうちの上流側となるM/C13側と下流側となるW/C14、15側との間の差圧を制御する第1差圧制御弁16が備えられている。第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(衝突回避制御やアンチロックブレーキ(以下、ABSという)制御などの車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。また、第1差圧制御弁16に対して並列に逆止弁16aが備えられている。
管路Aは、第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。つまり、第1、第2増圧制御弁17、18は、通電時にオンされてブレーキ液の流動を遮断し、非通電時にオフされてブレーキ液の流動を許容する。
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。これら第1、第2減圧制御弁21、22は、第1、第2減圧制御弁21、22に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。つまり、第1、第2減圧制御弁21、22は、通電時にオンされてブレーキ液の流動を許容し、非通電時にオフされてブレーキ液の流動を遮断する。
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ51によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ51は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧することが可能となっている。
なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16および逆止弁16aと対応する第2差圧制御弁36および逆止弁36a、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ポンプ19と対応するポンプ39、調圧リザーバ20と対応する調圧リザーバ40、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。ただし、各系統50a、50bがブレーキ液を供給するW/C14、15、34、35については、フロント系統となる第1配管系統50aの方がリア系統となる第1配管系統50bよりも容量が大きくされている。これにより、フロント側においてより大きな制動力を発生させることができる。
加圧ユニット60は、M/C13と制御ユニット50との間に配置されている。例えば、管路A、Eに対して加圧ユニット60を接続することができ、M/C13とW/C14、15、34、35との間に制御ユニット50が備えられた既存の構成に対して加圧ユニット60を追加配置することによってブレーキ装置1を構成できる。
加圧ユニット60は、補助圧力源61と、各種電磁弁62a、62b、63a〜63c、64、第1、第2ピストン部65a、65bおよび圧力センサ66a、66bを有した構成とされており、これらが各種配管I〜Lに備えられることで構成されている。そして、加圧ユニット60に備えられる各部が加圧用ECU80によって制御されることで、加圧ユニット60によるW/C圧の増減圧が行えるようになっている。
補助圧力源61は、液圧ポンプ61a、アキュムレータ61b、電動モータ61c、リザーバ61dおよびリリーフ弁61eを有している。
液圧ポンプ61aは、リザーバ61dとアキュムレータ61bとを結ぶ管路Iに配置されている。液圧ポンプ61aは、電動モータ61cによって駆動されることで、リザーバ61dのブレーキ液を吸入し、アキュムレータ61b側に圧送する。この液圧ポンプ61aが吐出したブレーキ液がアキュムレータ61bに供給され、蓄圧される。このアキュムレータ61bで蓄圧されたブレーキ液圧がアキュムレータ圧に相当する。なお、ここでは液圧ポンプ61aに対してブレーキ液を供給するブレーキ液貯留部としてリザーバ61dを独立して備えた構造としているが、マスタリザーバ13eをリザーバ61dとして使用することもできる。また、加圧ユニット60内にアキュムレータ61bやリザーバ61dを備えた図としてあるが、これらについては別体で構成することができる。
電動モータ61cは、アキュムレータ圧が所定の下限値を下回ることに応答して駆動されることでアキュムレータ圧を上昇させ、アキュムレータ圧が所定の上限値を上回ることに応答して停止させられる。アキュムレータ圧については、圧力センサ66aの検出信号が加圧用ECU80に伝えられており、加圧用ECU80にてアキュムレータ圧が所定の下限値から上限値の間に調整されるように電動モータ61cの駆動を制御している。
リリーフ弁61eは、管路Iのバイパス通路としてアキュムレータ61bとリザーバ61dとの間を結ぶように設けられた管路Jに備えられている。リリーフ弁61eは、アキュムレータ圧が過剰に高くならないように、所定圧力になるとアキュムレータ61b側からリザーバ61d側にブレーキ液を逃がす。リリーフ弁61eのリリーフ圧は、アキュムレータ圧の上限値よりも高い値に設定されている。上記したように、アキュムレータ圧は基本的には所定の下限値から上限値の範囲となるように制御されるが、仮にアキュムレータ圧がその上限値を超えた場合には、リリーフ弁61eを通じてリザーバ61d側にブレーキ液が逃がされるようになっている。
第1、第2制御弁62a、62bおよび第1、第2ピストン部65a、65bは、第1、第2配管系統50a、50bにおけるM/C13と制御ユニット50との間に配置されている。具体的には、第1制御弁62aと第1ピストン部65aは、管路Aに接続され、M/C13と第1差圧制御弁16との間に配置されている。第1制御弁62aは第1ピストン部65aよりもM/C13側に配置されている。また、第2制御弁62bと第2ピストン部65bは、管路Eに接続され、M/C13と第2差圧制御弁36との間に配置されている。第2制御弁62bは第2ピストン部65bよりもM/C13側に配置されている。
第1、第2制御弁62a、62bは、それぞれ、管路A、Eの連通遮断を制御するものであり、第1、第2制御弁62a、62bに備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
第1、第2ピストン部65a、65bは、アキュムレータ61bに繋がる管路Kに接続されている。管路Kは、アキュムレータ61bから三つに分岐して第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cに接続され、さらに第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cを経てから二つの管路K1、K2となり、各管路K1、K2と管路A、Eとが第1、第2ピストン部65a、65bを介して接続されている。これら第1、第2ピストン部65a、65bは、それぞれ、管路A、Eにおけるブレーキ液の流動を許容しつつ、加圧ユニット60側の液圧回路と第1、第2配管系統50a、50bを構成する液圧回路とを分離し、かつ、加圧ユニット60側のブレーキ液圧を管路A、E側に伝える。
具体的には、第1、第2ピストン部65a、65bは、ピストン65aa、65baによって区画される第1室65ab、65bbおよび第2室65ac、65bcと、第1室65ab、65bb側に配置されたリターンスプリング65ad、65bdを備える。
ピストン65aa、65baは、リターンスプリング65ad、65bdによって第2室65ac、65bcを縮小させる側に付勢されている。そして、ピストン65aa、65baは、アキュムレータ圧に基づくブレーキ液圧が伝えられるとリターンスプリング65ad、65bdの付勢力に抗して第1室65ab、65bbを縮小させる側に移動させられる。
第1室65ab、65bbは、それぞれ管路A、Eに対して接続されている。これら第1室65ab、65bb内を通じて管路A、Eのブレーキ液の流動が許容されている。一方、第2室65ac、65bcは、それぞれ管路K1、K2にそれぞれ接続されている。これら第2室65ac、65bcには、管路K1、K2を介してアキュムレータ圧に基づくブレーキ液圧が導入可能とされている。
また、管路Kには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁で構成された第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cが配置されている。第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cは、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cに備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。つまり、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cは、通電時にオンされてアキュムレータ圧に基づくブレーキ液圧が第1、第2ピストン部65a、65bに印加されるようにし、非通電時にオフされて第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cへのアキュムレータ圧に基づくブレーキ液圧の印加を制限する。
第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cは、それぞれ並列配置されており、独立して制御可能となっている。これら第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちオンされたものを通じてアキュムレータ61bからのブレーキ液が第1、第2ピストン部65a、65b側に流動させられる。本実施形態の場合、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cは、同じもの、すなわち、弁体と弁座とによって構成されるオリフィスの寸法、例えばオリフィス径を同じもので構成しているが、それぞれ異なる構成としても良い。第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのオリフィスの寸法を異ならせる場合、アキュムレータ61b側から第1、第2ピストン部65a、65b側へのブレーキ液の流動量を異ならせられることから、要求される応答性に応じて第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのいずれかを選択的にオンさせることもできる。
また、管路K1、K2のうち第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cよりも第1、第2ピストン部65a、65b側には、リザーバ61dに繋がる管路Lが接続されており、管路Lに、連通・調圧状態を制御できる調圧電磁弁64が配置されている。調圧電磁弁64は、調圧電磁弁64に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。つまり、調圧電磁弁64は、非通電時にはオフされて第1、第2ピストン部65a、65bにブレーキ液圧が掛からないようにしており、通電時にオンされることで第1、第2ピストン部65a、65bに加えられているブレーキ液圧の調圧を行う。
なお、調圧電磁弁64による調圧については、例えば調圧電磁弁64のオンオフをデューティ制御することによって実施できる。また、調圧電磁弁64をソレノイドコイルに流す電流の電流値が大きいほど大きな差圧を発生させられる差圧制御弁で構成する場合、ソレノイドに流す電流の電流値を制御することによっても、調圧電磁弁64による調圧を行うことができる。以下の説明では、一例としてデューティ制御による調圧を行う場合について説明するが、電流値の大きさを制御することによる調圧を行っても良い。
このようにして、制御ユニット50および加圧ユニット60が構成されている。これらのうち制御ユニット50は、ブレーキECU70によって制御され、加圧ユニット60は、加圧用ECU80によって制御される。ブレーキECU70と加圧用ECU80とは信号の授受が可能となっており、ここではブレーキECU70から加圧用ECU80に対して制御信号を伝えることで加圧用ECU80による加圧ユニット60の制御が行われるようになっている。
ブレーキECU70は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、衝突回避制御からの制御要求に応じたブレーキ制御やABS制御などを実行する。また、加圧用ECU80も、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、例えばブレーキECU70からの制御信号に基づいて各種制御を実行する。
具体的には、ブレーキECU70は、図示しないセンサ類の検出信号に基づいて各種物理量を演算したり、他のECUからの制御要求を受け取り、それら演算結果や制御要求に基づいて各種処理を行っている。例えば、衝突回避制御からの制御要求に応じたブレーキ制御やABS制御を実行するか否かの判定や各種演算を行っている。そして、ブレーキECU70は、衝突回避制御からの制御要求に応じたブレーキ制御を行う場合には、その旨の制御信号を加圧用ECU80に伝えている。また、ブレーキECU70は、衝突回避制御中にABS制御を実行する際には、ABS制御を実行しつつ、衝突回避制御とABS制御との協調が行えるように、加圧用ECU80に対して制御信号を伝えている。
図4は、ブレーキECU70を含めた車両に備えられる各種センサやECUの構造例を示したブロック図である。この図に示されるように、車両周辺状況を検知する障害物センサや前方カメラなどの衝突対象認識センサ90やヨーレートおよび加速度センサなど物理量センサ100の検出信号が車載ネットワークであるCAN(Controller Area Network)通信などの車内LAN110を通じて衝突回避ECU120に入力されている。この衝突回避ECU120で、衝突回避制御が行われ、衝突回避制御に基づく制御要求を出している。この制御要求が車内LAN110を通じてエンジンECU130やブレーキECU70に伝えられる。そして、エンジンECU130やブレーキECU70で、衝突回避制御に基づく制御要求に応じたエンジン制御やブレーキ制御が実行される。
具体的には、衝突回避ECU120は、自車両と先行車両などの衝突し得る対象物との相対距離と相対速度差を演算すると共に、相対距離および相対速度差に基づいて、自車両が対象物に衝突すると予測される衝突予測時間を演算している。相対距離や相対速度差の演算方法、および、衝突予測時間の演算方法については、従来より周知な手法を用いれば良いため、ここでは説明を省略する。そして、衝突回避ECU120は、衝突予測時間を所定の第1閾値や第1閾値よりも短い第2閾値と比較し、衝突予測時間が第1閾値以下になったとき、および、第2閾値以下になったときに、それぞれ、その旨を示す制御信号を出力する。
また、衝突回避ECU120は、衝突回避制御を実行する際には、例えば制御量として、衝突回避制御の際に発生させたい制動トルクの演算を行っている。この制動トルクが衝突回避制御に基づく制御要求としてブレーキECU70に伝えられ、その制動トルクを発生させるために必要な目標W/C圧が演算される。
これに基づいて、ブレーキECU70が自動的に緊急ブレーキを掛けたり、エンジンECU130がエンジン出力を低下させるなどの衝突回避制御を実行するようになっている。
また、ABS制御については、ブレーキECU70で実行している。ブレーキECU70は、各輪のスリップ率に基づいてABS制御を実行するか否かを判定したり、各輪のスリップ率に基づいて、制御量の演算を行っている。ABS制御については、衝突回避制御の実行の有無にかかわらず実施されるが、衝突回避制御中にABS制御が行われる場合には、これらが協調して行われるようにする必要がある。このため、ブレーキECU70は、衝突回避制御中にABS制御を行う場合には、ABS制御の制御量についても加圧用ECU80に伝えている。
以上のようにして、本実施形態にかかるブレーキ装置が構成されている。次に、本実施形態のブレーキ装置の作動について説明する。
まず、衝突回避制御に基づくブレーキ装置の動作について、図5に示すタイムチャートを参照して説明する。
衝突回避ECU120において、衝突予測時間が第1閾値以下になったと判定されると(図5中の時点ta)、その旨の制御信号が車内LAN110を通じてブレーキECU70に伝えれられる。この場合、衝突回避制御に基づく緊急ブレーキを掛ける可能性があることから、ブレーキECU70は、衝突回避制御に基づく緊急ブレーキに対応すべく、制御ユニット50を作動させてプリチャージ作動、つまり事前ブレーキ動作を行う。
具体的には、制御ユニット50は、モータ51を動作させることでポンプ19、39を駆動し、各W/C14、15、34、35にブレーキ液を供給する。これにより、W/C内のピストンを移動させられ、ブレーキ装置においてブレーキ作動開始から制動力発生までに掛かる余裕時間を短縮化、もしくは無くすことが可能となる。例えば、ディスクブレーキの場合、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間にクリアランスが設けられている。この場合、ブレーキパッドをクリアランス分移動させるのに要する時間が余裕時間、つまり制御ユニット50もしくは加圧ユニット60を駆動してブレーキを掛けようとしてもブレーキが掛からない不感帯となる。このため、そのクリアランスを減少もしくは無くせるように、ブレーキパッドを移動させている。
なお、制御ユニット50において、ポンプ19、39を駆動するだけであったとしても、第1、第2差圧制御弁16、36の弁体と弁座との間のオリフィスの抵抗に基づいてW/C内にブレーキ液を供給できる。このため、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にしなくても、プリチャージ動作を行うことが可能である。勿論、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にするようにして、所望のW/C圧を発生させ、減速度を発生させるようにしても良い。第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧がW/C圧相当となることから、第1、第2差圧制御弁16、36のソレノイドに流す電流値を調整することで、発生させられるW/C圧を調整できる。
その後、衝突回避ECU120において、衝突予測時間が第2閾値以下になったと判定されると(図5中の時点tb)、その旨の制御信号が車内LAN110を通じてブレーキECU70に伝えれられる。この場合、衝突回避制御に基づく緊急ブレーキを掛けるべく、ブレーキECU70は、加圧ユニット60を作動させてアキュムレータ圧に基づくW/C圧を発生させる。具体的には、第1、第2制御弁62a、62bを遮断状態にするとともに、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cを適宜連通状態にする。これにより、高圧なアキュムレータ圧に基づくW/C圧が発生させられる。したがって、高応答でW/C圧を発生させられ、衝突回避制御に応じた緊急ブレーキを掛けることが可能となる。なお、この衝突回避制御時の動作については、後述するようにABS制御との協調を行うか否かなどによって異なる動作となるため、詳細については後述する。
続いて、衝突回避制御やABS制御が実行される前の状態、および、これらが実行されたときのブレーキ装置の具体的な作動について説明する。図6〜図8は、作動状態に応じたアキュムレータ圧(Acc圧)、前輪FL、FR側のW/C圧、後輪RL、RR側のW/C圧および各電磁弁の動作状態のタイムチャートである。
まず、衝突回避制御などの車両運動制御やABS制御が実行されず、ドライバによるブレーキペダル11の踏み込みも行われていないときには、図6に示すタイムチャートのように、アキュムレータ圧が所定範囲に保たれ、前輪FL、FRおよび後輪RL、RRのW/C圧は発生していない状態となっている。
この状態でドライバによるブレーキペダル11の踏み込みが行われた場合、衝突回避制御が実行されておらず、またABS制御が実行されなければ、通常ブレーキ時の作動となる。すなわち、通常ブレーキ時には、制御ユニット50や加圧ユニット60は作動させられず、各種弁も図示位置とされている。このため、ブレーキペダル11の踏込みに基づいてM/C13M/C圧が発生させられると、そのM/C圧が管路A、Eを通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。これに基づいて、ドライバによるブレーキペダル11の踏み込みに応じた所望の制動力が発生させられる。
この場合に、車輪のスリップ率が増加し、ABS制御が開始されると、従来と同様のABS制御に基づく作動が行われる。例えば、ABS制御の制御対象輪について、スリップ率に応じて減圧モード、保持モード、増圧モードが設定される。そして、減圧モード時には、制御対象輪と対応する増圧制御弁17、18、37、38が遮断状態にされると共に減圧制御弁21、22、41、42が適宜連通状態にされてW/C圧が減少させられる。保持モードの際には、制御対象輪と対応する増圧制御弁17、18、37、38および減圧制御弁21、22、41、42が遮断状態にされてW/C圧が保持される。また、増圧モードの際には、制御対象輪と対応する減圧制御弁21、22、41、42が遮断状態にされると共に増圧制御弁17、18、37、38が適宜連通状態にされてW/C圧が増加させられる。このようにして、各車輪のスリップが制御され、車輪がロックに至ることが抑制される。
一方、ドライバによるブレーキペダル11の踏み込みの有無にかかわらず、衝突回避制御の条件を満たすと、自動的に緊急ブレーキを掛けるための制御を行う。具体的には、第1、第2制御弁62a、62bを遮断状態にするとともに、第1〜第2増圧電磁弁63a〜63cを適宜連通状態にする。
これにより、高圧なアキュムレータ圧に基づいて第1、第2ピストン部65a、65bのピストン65aa、65baがリターンスプリング65ad、65bdに抗して第1室65ab、65bbを縮小する側に移動させられる。そして、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのいずれか、もしくは全部を選択してオンすることでアキュムレータ圧が調圧され、目標W/C圧相当が第1、第2ピストン部65a、65bに伝えられ、さらに管路A、Eに伝えられる。
したがって、図7に示すように、前後輪FL〜RRのW/C14、15、34、35に目標W/C圧に相当するW/C圧を発生させることが可能となる。そして、高圧なアキュムレータ圧に基づいてW/C圧を発生させていることから、図中時点t1〜t2に示すように、高い昇圧応答性でW/C圧を増加させることが可能となる。したがって、自動的に緊急ブレーキを掛けることが可能となり、障害物との衝突を回避すること、もしくは、衝突のダメージを軽減することが可能となる。
また、物理量センサ100に含まれる加速度センサの検出信号に基づいて衝突回避制御による自動加圧により得られた減速度をモニタできることから、例えば制御要求が示す減速度と実際の減速度との差に基づいて、制御要求通りの自動加圧が行われているかを推定できる。そして、制御要求に満たない減速度しか得られていなければ、例えば第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちオンするものの数を増やすなどして、制御要求通りの自動加圧が行われるようにフィードバック制御すると好ましい。
このとき、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちオンするものの数に応じてブレーキ液圧の応答性、つまり上昇勾配を変えることができることから、衝突回避制御の緊急度合いに応じてオンする数を変えることができる。例えば、衝突予測時間の変化勾配が早いほど第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちオンするものの数を多くするなど、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちのうちオンするものの数を適宜調整できる。
また、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちオンするものの数を多くすれば、アキュムレータ圧がそのまま第1、第2ピストン部65a、65bに印加されるようにすることもできる。しかしながら、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cのうちオンするものの数を適宜調整すれば、車両が適切な位置に停止できるように制御できる。このため、急ブレーキを掛ける場合よりも後方車両への影響を抑制することが可能となる。
この後は、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cが遮断状態とされることでW/C圧が保持される。そして、例えば時点t3において、ブレーキECU70から加圧用ECU80に対して目標W/C圧が低下したことが伝えられると、調圧電磁弁64が適宜連通状態に制御されることで、各車輪FL〜RRのW/C圧が低下させられ、目標W/C圧に調整される。また、アキュムレータ圧に基づく自動加圧を解除するときには、再び各電磁弁を図3の図示位置に戻し、ブレーキ液をリザーバ61dに戻すことで、第1、第2ピストン部65a、65bのピストン位置も図示位置に戻る。これにより、アキュムレータ圧に基づくW/Cの自動加圧が解除される。
また、衝突回避制御の際にABS制御が実行された場合には、ABS制御に対応して加圧ユニット60が制御される。このときの加圧ユニット60の制御方法について説明する。
まず、図8に示す時点t1〜t2においては、衝突回避制御が実行され、図7における時点t1〜t2と同様の方法によって各車輪FL〜RRに対してW/C圧が発生させられる。そして、時点t2において、前後輪FL〜RRについてABS制御が開始されると、前後輪FL〜RRのW/C圧がABS制御に基づいて増減させられる。そして、第1、第2配管系統50a、50b共にアキュムレータ61bと繋がるように第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cの少なくとも1つを連通状態とする。ABS制御が行われていないときであれば、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cを遮断状態にして、目標W/C圧が保持されるようにすれば良い。しかしながら、ABS制御が実行されると、ABS制御における増圧モードの際にブレーキ液が消費されて、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cよりも第1、第2ピストン部65a、65b側で保持されていた高圧がすぐに解消されてしまい、その後、W/C圧を増加させられなくなる。このため、第1〜第3増圧電磁弁63a〜63cの少なくとも1つについては連通状態にしておき、ABS制御の増圧モードの際に迅速にW/C圧を増加させられるようにしている。
また、ABS制御によって前後輪FL〜RRのW/C圧が増減させられたときには、圧力変動に伴って第1、第2ピストン部65a、65bのピストン65aa、65baが移動させられることで、圧力変動分のブレーキ液がアキュムレータ61bに戻される。このように、アキュムレータ61bとのブレーキ液の受け渡しが可能となることで、制御ユニット50で同時にABS制御が実行される場合でも、第1、第2ピストン部65a、65bでの調圧によってABS制御による圧力変動を吸収することが可能となる。
このようにして、本実施形態にかかるブレーキ装置が作動させられる。なお、本ブレーキ装置によって、横滑り防止制御などの他の車両運動制御についても実施可能であるが、ここでは説明を省略する。
以上説明したように、本実施形態のブレーキ装置では、車両の衝突予測時間が第1閾値以下、つまり衝突の可能性が相対的に低いときに制御ユニット50を駆動することでプリチャージ動作を行っている。そして、車両の衝突予測時間が第2閾値以下、つまり衝突の可能性が相対的に高いときに加圧ユニット60を駆動することで高応答で制動力を発生させられるようにしている。
これにより、制御ユニット50におけるモータ51の駆動に基づく動作についてはプリチャージ動作のみにできるため、高い加圧応答性が必要とされない。したがって、衝突の可能性が相対的に高いときに高応答で制動力を発生させられるようにしつつ、モータ51を大容量化しなくても済むようにできる。また、衝突予測時間までに余裕がある領域、つまり早い段階から加圧ユニット60を用いた自動加圧を行う必要が無いため、第1、第2制御弁62a、62bは連通状態であり、ドライバが自らブレーキ操作を行って制動力を発生させようとする場合には板感(硬い板を踏み込むような感覚)なくドライバの意思を反映できる。
また、プリチャージ動作を制御ユニット50におけるモータ51の駆動に基づいて行っているため、高いアキュムレータ圧を用いる場合と比較して、高精度にW/C圧を制御することが可能となる。そして、プリチャージ動作の際にはアキュムレータ圧を用いていないため、アキュムレータ61bの使用頻度を減らすことが可能となり、耐久性向上を図ることが可能となる。
また、本実施形態のブレーキ装置1では、プリチャージ動作を制御ユニット50によって実行し、衝突回避制御に基づいて高い昇圧応答性でW/C圧を増加させる動作は加圧ユニット60によって実行している。そして、このようなブレーキ装置1は、M/C13とABS制御などを行う既存の制御ユニット50との間に加圧ユニット60を備えるだけで構成できるため、汎用性の高いブレーキ装置1とすることができる。
さらに、制御ユニット50側でABS制御などのように圧力変動が生じる場合においても、第1、第2ピストン部65a、65bの移動によって圧力変動分のブレーキ液をアキュムレータ61bに戻せる。つまり、制御ユニット50におけるブレーキ液圧をアキュムレータ61bに吸収させられる。このため、制御ユニット50の制御と衝突回避制御とを協調して行うことが可能となる。
また、第1配管系統と第2配管系統それぞれと加圧ユニット60とは第1、第2ピストン部65a、65bを介して接続され、第1、第2ピストン部65a、65bを介して圧力伝達が行われる。このとき、仮に加圧ユニット60に欠陥が発生したとしても、ピストン65aa、65baによって第1配管系統および第2配管系統と加圧ユニット60とを区画しつつ、ピストン65aa、65baが第1室65ab、65bbを密閉しないようにできる。したがって、加圧ユニット60に欠陥が発生したとしても、M/C13から制御ユニット50を介してW/C14、15、34、35に対してブレーキ液圧を伝える経路の使用を担保することが可能となる。よって、よりフェールセーフ性の高いブレーキ装置にできる。
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
例えば、衝突回避制御における自車両が対象物と衝突する可能性を表す指標値として衝突予測時間を例に挙げて説明したが、衝突予測時間に代えて、自車両と対象物との相対距離など、他の指標値を用いることもできる。なお、上記実施形態においては、衝突回避ECU120が制御部のうち自車両と対象物との衝突の可能性を表す指標値を取得する部分を構成しており、ブレーキECU70が事前ブレーキ動作を行ったり、W/C圧を発生させたりする部分を構成している。しかしながら、これは一例を示したに過ぎず、例えば衝突回避ECU120とブレーキECU70とが統合された1つのECUによって制御部が構成されていても良いし、衝突回避ECU120やブレーキECU70以外の他のECUによって制御部が構成されていても良い。
また、上記実施形態では、衝突回避制御の衝突予測時間を第1閾値と第2閾値の2つと比較しているが、自車両と対象物との衝突の可能性が相対的に低い場合と高い場合とを判定できれば良く、2つより多くの数の判定閾値と比較するようにしても良い。例えば、第1、第2閾値に加えて警報閾値と比較することもできる。その場合、例えば、衝突予測時間が第1閾値よりも大きな警報閾値以下になるとドライバに対して警告を行い、第1閾値以下になると制御ユニット50によるプリチャージ動作、第2閾値以下になると加圧ユニット60による高応答な自動加圧動作を行うようにしても良い。勿論、警報閾値については第1閾値より大きな値である必要はなく、例えば第1閾値未満第2閾値以上などとしても良い。
また、上記実施形態では、制御ユニット50によるプリチャージ動作の後に加圧ユニット60による高応答な自動加圧動作が行われるようにしているが、必要に応じてプリチャージ動作を行わない形態を追加しても良い。例えば、衝突予測時間の変化勾配が急な場合、もしくは飛び出しなどによって急に衝突予測時間が第1閾値以下の状態となった場合に、直ぐに加圧ユニット60による高応答な自動加圧動作が行われるようにしても良い。
また、上記実施形態では、衝突予測時間が第2閾値以下になると制御ユニット50のモータ51を停止してポンプ19、39による動作を停止しているが、加圧ユニット60の動作と時間ずれが生じる可能性が有るため、加圧ユニット60の自動加圧動作が始まってから制御ユニット50の駆動を停止するようにすると好ましい。
また、図9に示すように、第1実施形態において用いていた第1、第2ピストン部65a、65bをタンデムピストンにて構成されるピストン部65で構成しても良い。ピストン部65は、第1ピストン651と第2ピストン652および第1、第2リターンスプリング653、654を有した構成とされる。そして、第1ピストン651によって区画される第1室655が管路Aに接続され、第1ピストン651と第2ピストン652によって区画される第2室656が管路Eに接続された構造とされる。そして、アキュムレータ61bとピストン部65との間の接続が管路Kのみで行われ、管路Kに1つの増圧電磁弁63が備えられる。さらに、管路Kのうちピストン部65と増圧電磁弁63との間とリザーバ61dとの間が管路Lによって接続され、管路Lに1つの調圧電磁弁64が備えられる。
このように、タンデムピストンによって構成されるピストン部65とする場合にも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
ただし、タンデムピストンを用いる場合、片方の系統が失陥した場合に、ピストン部65における一方のピストンが限界移動量に達するまで他方の系統にブレーキ液圧を加えられないことから、失陥時のフェールセーフ性については第1実施形態の構成の方が有利である。
また、タンデムピストンとされるピストン部65を用いる場合のピストン形状についても他の形態とすることができ、図10に示すように、第1、第2ピストン651、652の間に管路Kが接続され、第1、第2ピストン651、652が互いに逆方向に移動することでブレーキ液圧を管路A、Eに伝える形態であっても良い。