[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂を主成分とする単層のフッ素樹脂フィルムであって、一方の面側又は両方の面側からの電離放射線照射により上記フッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減する。
当該フッ素樹脂フィルムは、単層でありフッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減する。ここで、電離放射線の吸収量とフッ素樹脂の架橋密度とは比例関係にあるため、電離放射線が照射された面側では架橋密度が高くなり、その結果耐摩耗性が向上する。一方、電離放射線が照射された面から厚み方向に遠くなるにつれ架橋密度が低くなり、フッ素樹脂が本来有する伸長性が維持される。その結果、当該フッ素樹脂フィルムでは伸長性が上記面側から厚み方向に漸増する。これにより、伸長性が低く耐摩耗性が高い領域と伸長性が高く耐摩耗性が低い領域とがグラデーション状に厚み方向に存在し、その結果当該フッ素樹脂フィルムは全体として伸長性に優れ、プレスによる割れ等を低減できると共に、表面において高い耐摩耗性を発揮できる。
ここで、上述のように電離放射線の吸収量とフッ素樹脂の架橋密度とは比例関係にあるため、「フッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減する」とは、すなわち「フッ素樹脂の電離放射線吸収量が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減する」と等価とみなせる。
電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの5%以下の領域における電離放射線吸収量としては、150kGy以上が好ましい。このように、上記領域における電離放射線吸収量を上記範囲とすることで、当該フッ素樹脂フィルムの耐摩耗性をより確実に向上できる。
電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの10%以上90%以下の領域中に、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対する電離放射線吸収量が50%以下である低吸収領域が存在するとよい。このような低吸収領域が存在することで、低吸収領域における伸長性をより確実に維持でき、その結果当該フッ素樹脂フィルム全体としての伸長性をより優れたものとできる。
電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの50%である領域における電離放射線吸収量としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して50%以下が好ましい。上記領域における電離放射線吸収量を上記上限以下とすることで、上記低吸収領域の厚みを十分確保することができ、その結果当該フッ素樹脂フィルム全体としての伸長性をさらに優れたものとできる。
当該フッ素樹脂フィルムの破断伸びとしては、100%以上が好ましい。このように上記破断伸びを上記範囲とすることで、当該フッ素樹脂フィルムの伸長性が確実に発揮される。
当該フッ素樹脂フィルムの平均厚みとしては、100μm以上が好ましい。このように上記平均厚みを上記範囲とすることで、当該フッ素樹脂フィルムへの電離放射線照射量の制御が容易となり、伸長性に優れる当該フッ素樹脂フィルムを容易に得ることができる。
当該フッ素樹脂フィルムは、電離放射線吸収量が0kGyとなる厚み方向の非架橋領域を有することが好ましい。このように上記非架橋領域を有することで、当該フッ素樹脂フィルムの伸長性が確実に発揮される。
本発明の他の一態様に係るフッ素樹脂フィルムの製造方法は、フッ素樹脂を主成分とする単層のフッ素樹脂フィルムに低酸素及びフッ素樹脂の溶融状態下で電離放射線を照射する工程を備え、上記工程でフッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として上記照射面側から漸減するよう電離放射線を照射する。
当該フッ素樹脂フィルムの製造方法は、上記電離放射線照射工程でフッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として上記照射面側から漸減するよう電離放射線を照射するため、耐摩擦性及び伸長性に優れるフッ素樹脂フィルムを容易かつ確実に製造できる。
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分を指す。「電離放射線吸収量」とは、フィルム線量計(例えばNHVコーポレーション社の「CTA FILM DOSE READER FDR−01」)を用いて測定される電離放射線の吸収量を指す。「破断伸び」とは、引張圧縮試験機(例えば今田製作所社の「SV5120MOV」)を用い、例えば引張速度100mm/分、ダンベル型試験片、試料幅5mm、チャック間距離30mmの引張条件で測定される破断時の伸びの値を指す。「平均厚み」とは、任意の3点において測定した厚みの平均値を指す。「低酸素」とは、通常の空気より酸素が低い状態、例えば酸素濃度が100ppm以下の状態を指す。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係るフッ素樹脂フィルム、及びフッ素樹脂フィルムの製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
[第1実施形態]
<フッ素樹脂フィルム>
図1に示す当該フッ素樹脂フィルム1は、フッ素樹脂を主成分とする単層のフッ素樹脂フィルムであり、一方の面側のみからの電離放射線照射により上記フッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減する。図1中、黒のドットはフッ素樹脂の架橋を模式的に表すものであり、ドットが多い領域は架橋密度が高く、ドットが少ない領域は架橋密度が低い。
当該フッ素樹脂フィルム1は、単層でありフッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減するため、当該フッ素樹脂フィルム1は伸長性が上記面側から厚み方向に漸増する。これにより、伸長性が低く耐摩耗性が高い領域と伸長性が高く耐摩耗性が低い領域とがグラデーション状に厚み方向に存在し、その結果当該フッ素樹脂フィルム1は全体として伸長性に優れ、プレスによる割れ等を低減できると共に、表面において高い耐摩耗性を発揮できる。
ここで、図1における第1領域11は電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの5%以下の領域を示し、第2領域12は電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの5%超10%未満の領域を示し、第3領域13は電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの10%以上90%以下の領域を示し、第4領域14は電離放射線が照射された面からの距離が90%超100%以下の領域を示す。
すなわち、当該フッ素樹脂フィルム1は、電離放射線が照射された側から順に、電離放射線吸収度及び架橋密度が異なる第1領域11、第2領域12、第3領域13及び第4領域14が厚み方向にこの順に積層された構造を有する。なお、上記第1領域11、第2領域12、第3領域13及び第4領域14の電離放射線吸収量及び架橋密度における明確な境界面は存在せず、電離放射線吸収量及び架橋密度は第1領域11から第4領域14にかけてグラデーション状に連続的に変化する。
ここで、第1領域11は最も電離放射線吸収量が多いため架橋密度が最も高い。逆に、第4領域14は最も電離放射線吸収量が少ないため架橋密度が最も低い。また、第2領域12は第1領域11より電離放射線吸収量が少ないため第1領域11より架橋密度が低く、第3領域13は第2領域12より電離放射線吸収量が少なく第4領域14より電離放射線吸収量が多いため、第3領域13は第2領域12より架橋密度が低く第4領域14より架橋密度が高い。そのため、上記第1領域11は相対的に伸長性が最も低く耐摩耗性が最も高い。また、上記第4領域14は相対的に伸長性が最も高く耐摩耗性が最も低い。さらに、上記第2領域12及び第3領域13は伸長性が上記第1領域11より高く第4領域14より低い反面、耐摩耗性が第1領域11より低く第4領域14より低い。また、第2領域12は第3領域13より伸長性が低く耐摩耗性が高い。
上記フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオライド共重合体である熱可塑性フッ素樹脂(THV)、フルオロエラストマー等が挙げられる。なお、上記フッ素樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記フッ素樹脂としては、耐熱性に優れる観点から、PTFEが好ましい。
当該フッ素樹脂フィルム1における上記フッ素樹脂の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましく、95質量%が特に好ましい。上記含有量を上記下限以上とすることで、当該フッ素樹脂フィルム1の耐熱性等の各種特性が十分に発揮される。
また、当該フッ素樹脂フィルム1は各種任意成分を含んでもよい。上記任意成分としては、例えばフッ素樹脂以外の樹脂、有機充填材、無機充填剤、着色剤、可塑剤、安定剤等が挙げられる。なお、上記任意成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記フッ素樹脂以外の樹脂としては、例えばポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。
第1領域11における電離放射線吸収量の最小値の下限としては、150kGyが好ましく、200kGyがより好ましく、250kGyがさらに好ましい。一方、上記電離放射線吸収量の最大値の上限としては、1000kGyが好ましく、800kGyがより好ましく、600kGyがさらに好ましい。上記電離放射線吸収量の最小値が上記下限より小さいと、当該フッ素樹脂フィルム1の表面における耐摩耗性が向上し難くなるおそれがある。逆に、上記電離放射線吸収量の最大値が上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1の表面における伸長性が過度に低下し、当該フッ素樹脂フィルム1に割れ等が生じ易くなるおそれがある。
第2領域12における電離放射線吸収量は、第1領域11における電離放射線吸収量より小さく、かつ第3領域13における電離放射線吸収量の最大値より大きい。
具体的には、第2領域12における電離放射線吸収量の最小値の下限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して40%が好ましく、45%がより好ましく、50%がさらに好ましい。一方、上記電離放射線吸収量の最大値の上限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して100%が好ましく、98%がより好ましく、95%がさらに好ましい。上記電離放射線吸収量の最小値が上記下限より小さいと、第1領域11と第2領域12との伸長性の差が過度に大きくなり、第1領域11と第2領域12との間で割れ等が生じ易くなるおそれがある。逆に、上記電離放射線吸収量の最大値が上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1の伸長性が不十分となるおそれがある。
第3領域13における電離放射線吸収量の最小値の下限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して0%が好ましく、3%がより好ましく、5%がさらに好ましい。つまり、第3領域13において電離放射線吸収量が0kGyである非架橋領域を有してもよい。一方、上記電離放射線吸収量の最大値の上限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して100%が好ましく、95%がより好ましく、85%がさらに好ましい。上記電離放射線吸収量の最小値が上記下限より小さいと、第1領域11と第3領域13との伸長性の差が過度に大きくなり、第1領域11と第3領域13との間で割れ等が生じ易くなるおそれがある。逆に、上記電離放射線吸収量の最大値が上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1の伸長性が不十分となるおそれがある。
上述のように、当該フッ素樹脂フィルム1では、第2領域12、第3領域13又は第4領域14のいずれかにおいて、照射面の電離放射線吸収量に対する電離放射線吸収量が50%以下である低吸収領域が存在することが好ましい。また、この低吸収領域は、第1領域内11に存在してもよい。これらの中で、第3領域13の一部及び第4領域14の全てのみが低吸収領域であることが好ましい。低吸収領域がこのような領域内に存在することで、当該フッ素樹脂フィルム1における耐摩耗性と伸長性とを共に高いレベルとすることができる。
電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの50%である領域における電離放射線吸収量の上限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して50%が好ましく、45%がより好ましく、40%がさらに好ましい。上記領域における電離放射線吸収量が上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1全体としての伸長性が大きく向上し難くなるおそれがある。
第4領域14における電離放射線吸収量は、第3領域13における電離放射線吸収量より小さい。また、第4領域14における電離放射線吸収量が0kGyである非架橋領域を有することが好ましい。さらに、第3領域13が非架橋領域を有する場合、第4領域の全体が非架橋領域であることも好ましい。
具体的には、第4領域14における電離放射線吸収量の最小値の下限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して0%が好ましい。一方、上記電離放射線吸収量の最大値の上限としては、電離放射線が照射された面の電離放射線吸収量に対して18%が好ましく、15%がより好ましく、13%がさらに好ましい。上記電離放射線吸収量の最大値が上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1の伸長性が不十分となるおそれがある。
上記第1領域11から第4領域14にかけて、電離放射線が照射された面からの距離と電離放射線吸収量との関係を図3に模式的に表す。図3に示すように、電離放射線吸収量の減少の度合いは一定ではなく、照射面に近い第1領域11及び第2領域12では電離放射線線吸収量の減少の度合いは小さく、第3領域13において、照射面における電離放射線吸収量の50%以下まで急激に電離放射線吸収量が減少している。また、照射面からの距離が平均厚みの50%である領域では、電離放射線吸収量が照射面における電離放射線吸収量の50%以下である。さらに、照射面から遠い側に位置する第4領域14では電離放射線吸収量の減少の度合いは小さくなっている。
また、電離放射線の照射面における電離放射線吸収量に対する当該フッ素樹脂フィルム1内の最小電離放射線吸収量の割合の上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましく、50%がさらに好ましい。上記割合が上記上限を超えると、電離放射線吸収量の漸減の度合い、すなわち架橋密度の漸減の度合いが不十分となり、当該フッ素樹脂フィルム1全体としての伸長性が低下するおそれがある。
当該フッ素樹脂フィルム1の破断伸びの下限としては、100%が好ましく、150%がより好ましく、200%がさらに好ましい。一方、上記破断伸びの上限としては、1000%が好ましく、800%がより好ましく、500%がさらに好ましい。上記破断伸びが上記下限より小さいと、当該フッ素樹脂フィルム1を調理器具、軸受け等に積層後にプレスすることで当該フッ素樹脂フィルム1に割れ等が生じ易くなるおそれがある。逆に、上記破断伸びが上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1の製造コストが増加するおそれがある。
当該フッ素樹脂フィルム1の平均厚みは、照射する電離放射線の電圧により適宜変更できるが、その下限としては100μmが好ましく、150μmがより好ましく、180μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、3500μmが好ましく、3000μmがより好ましく、2800μmがさらに好ましい。
また、照射する電離放射線の電圧が950kV以上の場合、上記平均厚みの下限としては、800μmが好ましく、1000μmがより好ましく、1200μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、2500μmが好ましく、2000μmがより好ましく、1800μmがさらに好ましい。
上記電圧が750kV以上950kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、650μmが好ましく、700μmがより好ましく、800μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、2000μmが好ましく、1800μmがより好ましく、1500μmがさらに好ましい。
上記電圧が650kV以上750kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、520μmが好ましく、600μmがより好ましく、650μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1800μmが好ましく、1500μmがより好ましく、1300μmがさらに好ましい。
上記電圧が550kV以上650kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、310μmが好ましく、380μmがより好ましく、450μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては1500μmが好ましく、1200μmがより好ましく、1000μmがさらに好ましい。
上記電圧が450kV以上550kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、250μmが好ましく、300μmがより好ましく、350μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1200μmが好ましく、1000μmがより好ましく、800μmがさらに好ましい。
上記電圧が450kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、120μmが好ましく、150μmがより好ましく、180μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1000μmが好ましく、800μmがより好ましく、600μmがさらに好ましい。
上記平均厚みが上記下限より小さいと、電離放射線を照射した面の反対側の面における架橋密度が過度に大きくなり、その結果上記反対側の面における伸長性が低下して当該フッ素樹脂フィルム1の伸長性が向上し難くなるおそれがある。逆に、上記平均厚みが上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム1が過度に厚くなり、当該フッ素樹脂フィルム1のコストが増加するおそれがある。
<フッ素樹脂フィルムの製造方法>
当該フッ素樹脂フィルム1の製造方法は、フッ素樹脂を主成分とする単層のフッ素樹脂フィルムに低酸素及びフッ素樹脂の溶融状態下で電離放射線を照射する工程(照射工程)を主に備える。この照射工程では、フッ素樹脂フィルムの架橋密度が厚み方向を基準として上記照射面側から漸減するよう電離放射線を照射する。
当該フッ素樹脂フィルムの製造方法は、上記電離放射線照射工程でフッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として上記照射面側から漸減するよう電離放射線を照射するため、耐摩擦性及び伸長性に優れるフッ素樹脂フィルム1を容易かつ確実に製造できる。
フッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として上記照射面側から漸減するよう電離放射線を照射する方法としては、例えば上記フッ素樹脂フィルムの平均厚みに応じて、電離放射線の強度を調整する方法が挙げられる。具体的には、電離放射線として電子線を用いる場合、上記フッ素樹脂フィルムの平均厚みに応じて電子線照射における加速電圧を調節する方法が挙げられる。
照射工程では、上述のように電離放射線を照射することで、上記フッ素樹脂フィルムの架橋密度に傾斜が生じ、電離放射線照射側から第1領域11、第2領域12、第3領域13及び第4領域14が形成される。
上記電離放射線としては、例えばα線、β線、γ線、電子線、X線等が挙げられる。これらの中で、制御の容易さ、安全性等の点から電子線が好ましい。
上記電離放射線の照射量は、フッ素樹脂フィルムの平均厚みに応じて適宜調製できるが、例えば上記平均厚みが800μm以上の場合、上記電離放射線の照射量の下限としては、1kGyが好ましく、50kGyがより好ましく、100kGyがさらに好ましい。一方、上記照射量の上限としては、1000kGyが好ましく、800kGyがより好ましく、500kGyがさらに好ましい。上記照射量が上記下限より小さいと、第1領域11における架橋密度が不十分となり、当該フッ素樹脂フィルム1の耐摩耗性が不十分となるおそれがある。逆に、上記照射量が上記上限を超えると、フッ素樹脂の高分子鎖の切断が生じ当該フッ素樹脂フィルム1が変質するおそれや、第2領域12、第3領域13及び第4領域14における架橋密度が過剰となり当該フッ素樹脂フィルム1の伸長性が低下するおそれがある。
上記電離放射線の電圧の下限としては、200kVが好ましく、300kVがより好ましく、400kVがさらに好ましい。一方、上記電圧の上限としては、1500kVが好ましく、1200kVがより好ましく、1000kVがさらに好ましい。上記電圧が上記下限より小さいと、当該フッ素樹脂フィルム1の表面における耐摩耗性を十分なものとするために必要な照射時間が増加し、当該フッ素樹脂フィルム1の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記電圧が上記上限を超えると、第2領域12、第3領域13及び第4領域14の伸長性が低下し、当該フッ素樹脂フィルム1の伸長性が低下し易くなるおそれがある。
電離放射線の照射において、電離放射線の照射方向と当該フッ素樹脂フィルム1の厚み方向が一致するとよい。このように照射方向と厚み方向とが一致することで、架橋密度の傾斜の方向が当該フッ素樹脂フィルム1の厚み方向と平行となり、当該フッ素樹脂フィルム1の平面方向における伸長性の均一性が向上する。
本工程において電離放射線を照射する際、フッ素樹脂の架橋反応を促進する観点から、フッ素樹脂を溶融状態とする。具体的には、用いるフッ素樹脂の融点をM(℃)とした場合、フッ素樹脂の温度をM℃以上M+30℃以下とすることが好ましい。上記温度が上記下限より小さいと、架橋反応が促進されにくくなるおそれがある。逆に上記温度が上記上限を超えると、フッ素樹脂が熱分解するおそれがある。
具体的には、フッ素樹脂がPTFEである場合、PTFEフィルムの温度としては340℃以上360℃以下が好ましい。
また、本工程において電離放射線を照射する際、フッ素樹脂の架橋密度を高める観点から、低酸素雰囲気下で行う。低酸素雰囲気下の酸素濃度の上限としては、100ppmが好ましく、50ppmがより好ましく、10ppmがさらに好ましい。
[第2実施形態]
<フッ素樹脂フィルム>
図2に示す当該フッ素樹脂フィルム2は、図1に示す当該フッ素樹脂フィルム1と同様のフッ素樹脂を主成分とする単層のフッ素樹脂フィルムであって、両方の面側からの電離放射線照射により上記フッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として電離放射線が照射された面側から漸減する。図2中、黒のドットはフッ素樹脂の架橋を模式的に表すものであり、ドットが多い領域は架橋密度が高く、ドットが少ない領域は架橋密度が低い。
当該フッ素樹脂フィルム2は、上記第1実施形態の当該フッ素樹脂フィルム1と同様に、高い耐摩耗性を有しかつ伸長性に優れる。また、当該フッ素樹脂フィルム2は、一方の面及び他方の面の両方が高い耐摩擦性を有するため、表裏の別なく調理器具等に積層できる。
ここで、図2における上記第1領域21は電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの5%以下の領域を示し、第2領域22は電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの5%を超え10%未満の領域を示し、第3領域23は電離放射線が照射された面からの距離が平均厚みの10%以上90%以下の領域を示す。
すなわち、当該フッ素樹脂フィルム2は、第1領域21、第2領域22、第3領域23、第2領域22及び第1領域21が厚み方向にこの順に積層された構造を有する。なお、上記第1領域21、第2領域22及び第3領域23の電離放射線吸収量及び架橋密度における明確な境界面は存在せず、電離放射線吸収量及び架橋密度は第1領域21から第3領域23にかけてグラデーション状に連続的に変化する。また、当該フッ素樹脂フィルム2は、図2に示すように厚み方向において上下対称の構造を有する。
ここで、第1領域21は最も電離放射線吸収量が多いため架橋密度が最も高い。逆に、第3領域23は最も電離放射線吸収量が少ないため架橋密度が最も低い。また、第2領域22は第1領域21より電離放射線吸収量が少なく第3領域23より電離放射線吸収量が多いため、第2領域22は第1領域21より架橋密度が低く第3領域23より架橋密度が高い。そのため、上記第1領域21は相対的に伸長性が最も低く耐摩耗性が最も高い。また、上記第3領域23は相対的に伸長性が最も高く耐摩耗性が最も低い。さらに、上記第2領域22は伸長性が上記第1領域21より高く第3領域23より低い反面、耐摩耗性が第1領域21より低く第3領域23より高い。
また、当該フッ素樹脂フィルム2は第3領域23の一部に電離放射線量が0kGyである非架橋領域24を有する。この非架橋領域24では、フッ素樹脂は架橋されておらず、フッ素樹脂本来の伸長性が維持されている。
上記非架橋領域24は上記第3領域23の厚み方向における中央近傍に位置することが好ましい。上記非架橋領域24が上述のような位置に形成されることで、当該フッ素樹脂フィルム2の厚み方向における対称性が向上し、当該フッ素樹脂フィルム2のプレス等に対する耐性がより向上する。
当該フッ素樹脂フィルム2において、用いられるフッ素樹脂の種類、及び好ましい破断伸びの範囲は上記第1実施形態における当該フッ素樹脂フィルム1と同様である。また、第1領域21、第2領域22及び第3領域23の非架橋領域24以外の部分における電離放射線吸収量の好ましい範囲は、それぞれ上記第1実施形態における第1領域11、第2領域12及び第3領域13における電離放射線吸収量の好ましい範囲と同様である。
当該フッ素樹脂フィルム2の平均厚みは、照射する電離放射線の電圧により適宜変更できるが、一方の面及び他方の面から照射される電離放射線の電圧が等しく、この電圧が475kV以上の場合、上記平均厚みの下限としては、800μmが好ましく、1000μmがより好ましく、1200μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、2500μmが好ましく、2000μmがより好ましく、1800μmがさらに好ましい。
上記電圧が375kV以上475kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、650μmが好ましく、700μmがより好ましく、800μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、2000μmが好ましく、1800μmがより好ましく、1500μmがさらに好ましい。
上記電圧が325kV以上475kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、520μmが好ましく、600μmがより好ましく、650μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1800μmが好ましく、1500μmがより好ましく、1300μmがさらに好ましい。
上記電圧が275kV以上325kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、310μmが好ましく、380μmがより好ましく、450μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1500μmが好ましく、1200μmがより好ましく、1000μmがさらに好ましい。
上記電圧が225kV以上275kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、250μmが好ましく、300μmがより好ましく、350μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1200μmが好ましく、1000μmがより好ましく、800μmがさらに好ましい。
上記電圧が225kV未満の場合、上記平均厚みの下限としては、120μmが好ましく、150μmがより好ましく、180μmがさらに好ましい。一方、上記平均厚みの上限としては、1000μmが好ましく、800μmがより好ましく、600μmがさらに好ましい。
上記平均厚みが上記下限より小さいと、当該フッ素樹脂フィルム2の厚み方向中心部における伸長性が低下し、当該フッ素樹脂フィルム2の樹脂の伸長性が向上し難くなるおそれがある。逆に、上記平均厚みが上記上限を超えると、当該フッ素樹脂フィルム2が過度に厚くなり、当該フッ素樹脂フィルム2のコストが増加するおそれがある。
<フッ素樹脂フィルムの製造方法>
当該フッ素樹脂フィルム2の製造方法は、上記第1実施形態の当該フッ素樹脂フィルム1の製造方法と同様に照射工程を主に備える。この照射工程において、上記照射はフッ素樹脂フィルムの一方の面側からの照射及び他方の面側からの照射の2回行う。
当該フッ素樹脂フィルムの製造方法は、上記第1実施形態におけるフッ素樹脂フィルムの製造方法と同様に、耐摩擦性及び伸長性に優れるフッ素樹脂フィルム2を容易かつ確実に製造できる。
フッ素樹脂の架橋密度が厚み方向を基準として上記照射面側から漸減するよう電離放射線を照射する方法、照射する電離放射線の種類、照射時のフッ素樹脂の温度、及び酸素濃度は、上記第1実施形態における当該フッ素樹脂フィルム1の製造方法と同様である。
上記電離放射線の一方の面側からの照射量又は他方の面側からの照射量は、フッ素樹脂フィルムの平均厚みに応じて適宜調製できるが、例えば上記平均厚みが800μm以上の場合、上記電離放射線の照射量の下限としては、1kGyが好ましく、25kGyがより好ましく、50kGyがさらに好ましい。一方、上記照射量の上限としては、500kGyが好ましく、400kGyがより好ましく、250kGyがさらに好ましい。上記照射量が上記下限より小さいと、第1領域21における架橋密度が不十分となり、当該フッ素樹脂フィルム2の耐摩耗性が不十分となるおそれがある。逆に、上記照射量が上記上限を超えると、フッ素樹脂の高分子鎖の切断が生じ当該フッ素樹脂フィルム2が変質するおそれや、第2領域22及び第3領域23における架橋密度が過剰となり当該フッ素樹脂フィルム2の伸長性が低下するおそれがある。
上記電離放射線の電圧の下限としては、100kVが好ましく、150kVがより好ましく、200kVがさらに好ましい。一方、上記電圧の上限としては、750kVが好ましく、600kVがより好ましく、500kVがさらに好ましい。上記電圧が上記下限より小さいと、当該フッ素樹脂フィルム2の表面における耐摩耗性を十分なものとするために必要な照射時間が増加し、当該フッ素樹脂フィルム2の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記電圧が上記上限を超えると、第2領域22及び第3領域23の伸長性が低下し、当該フッ素樹脂フィルム2の伸長性が低下し易くなるおそれがある。
<その他の実施形態>
上記開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
当該フッ素樹脂フィルムは一方の面又は両方の面に架橋領域を有するが、この架橋領域は一方の面又は両方の面の一部のみに形成されていてもよい。この場合、架橋領域の平面視形状としては、例えばストライプ状、千鳥状等が挙げられる。
この場合も、電離放射線が照射された部分において架橋が生じるため、当該フッ素樹脂フィルムの表面全体における耐摩耗性は未照射のものと比べて向上する。また、電離放射線が照射された面の一部のみが架橋されるため、当該フッ素樹脂フィルムの伸長性がより向上する。
上述のように架橋領域を照射面の一部のみに形成する方法としては、例えばマスクを介して電離放射線を照射面の一部のみに照射する方法等が挙げられる。
当該フッ素樹脂フィルムにおける電離放射線吸収量の漸減の態様としては、上記第1実施形態及び第2実施形態の連続したグラデーション状の他、段階的に変化し不連続に漸減するものが挙げられる。
電離放射線吸収量が段階的に漸減する当該フッ素樹脂フィルムを得る方法としては、例えば電離放射線の強度を変えて一方の面から複数回照射する方法等が挙げられる。これにより、上記第1領域、第2領域、第3領域及び第4領域の境界面が明確に存在する当該フッ素樹脂フィルムを得ることができる。この場合も、上記第1実施形態及び第2実施形態の当該フッ素樹脂フィルムと同様に耐摩耗性及び伸長性に優れるフッ素樹脂フィルムが得られる。
また、当該フッ素樹脂フィルムの両面が架橋密度の高い領域を有する場合、当該フッ素樹脂フィルムがその厚み方向において非対称であってもよい。
厚み方向において非対称である当該フッ素樹脂フィルムを得る方法としては、一方の面側から照射する電離放射線と他方の面側から照射する電離放射線との強度を異なるものとする方法等が挙げられる。
また、当該フッ素樹脂フィルムは、架橋領域を有する面と反対側の面に非架橋領域を有してもよい。また、当該フッ素樹脂フィルムが両方の面に架橋領域を有する場合、内部に非架橋領域を有さなくてもよい。このような当該フッ素樹脂フィルムを得る方法としては、例えば片面照射の場合において電離放射線の照射量を減少させる方法や、両面照射の場合において電離放射線の照射量を増加させる方法等が挙げられる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[試験例1]
フッ素樹脂フィルム(日本バルカー社の「バルフロンPTFEシート スカイブ(登録商標)」、平均厚み2000μm)をチャンバー式加熱照射炉内に配設した。この際、フッ素樹脂フィルムが炉の内壁や底面と接触しないように専用治具を用いた。次いで、炉内の減圧と窒素パージとを繰り返し、炉内の酸素濃度を5ppm以下とした後、上記フッ素樹脂フィルムを340℃に加熱した。その後、加熱した上記フッ素樹脂フィルムに電子線加速装置(NHVコーポレーション社)を用いて一方の面側から電子線(加速電圧1160kV、照射量300kGy)を照射した。
[試験例2]
上記フッ素樹脂フィルムの平均厚みを300μmとしたこと以外は、試験例1と同様にしてフッ素樹脂フィルムに電子線を照射した。
[評価]
上記試験例のフッ素樹脂フィルムについて、以下の手順により電子線吸収量及び破断伸びを測定した。
<電子線吸収量>
上記試験例のフッ素樹脂フィルムにおいて、電子線が照射された面(第1領域内)における電子線吸収量、電子線が照射された面からの距離が平均厚みの50%である領域(第3領域内)における電子線吸収量、電子線が照射された面からの距離が平均厚みの75%である領域(第3領域内)における電子線吸収量、電子線が照射された面からの距離が平均厚みの90%である領域(第3領域内)における電子線吸収量及び電子線が照射された面からの距離が平均厚みの100%である領域(第4領域内)における電子線吸収量をフィルム線量計(NHVコーポレーション社の「CTA FILM DOSE READER FDR−01」を用いて測定した。この測定結果を表1及び2に示す。
上記のようなフィルム線量計を用い、電子線を照射したフッ素樹脂フィルムにおける電子線吸収量を測定する場合、照射面からの厚み方向の距離が増加するにつれ測定値が増加し、最大値となった後測定値が減少するという測定結果となる傾向がある。この測定値が増加する領域では、測定誤差により実際の電子線吸収量よりも小さい値が出ており、照射面に近づくにつれてこの測定誤差は大きくなる。
ここで、全ての試験例において、電子線吸収量は第2領域又は第3領域において最大であったため、照射面における電子線吸収量の値、及び照射面と電子線吸収量が最大値となった領域との間における電子線吸収量の値は、それぞれの試験例における上記最大値と同等の値であるとみなした。
<破断伸び>
引張圧縮試験機(今田製作所社の「SV5120MOV」)を用い、引張速度100mm/分、ダンベル型試験片(幅5mm)、チャック間距離30mmの引張条件でフッ素樹脂フィルムの破断伸びを測定した。この破断伸びの値を表2に併せて示す。
表1及び2に示すように、試験例1では照射面から第4領域にかけて電子線吸収量が大きく減少し、かつ電子線吸収量が漸減していた。また、この試験例1では照射面からの距離が平均厚みの50%である領域における電子線吸収量が、照射面の電子線吸収量の50%以下であり、第3領域の少なくとも一部及び第4領域の全てが、照射面の電子線放射量に対する電子線吸収量が50%以下である低吸収領域であった。このような電子線吸収量を示す試験例1では、破断伸びが350%と大きく、伸長性に優れていた。また、試験例1では、照射面(第1領域)における電子線吸収量が250kGyであった。このように、試験例1では、電子線照射面におけるフッ素樹脂が十分に架橋されており、その結果耐摩耗性にも優れていた。
一方、試験例2では、照射面(第1領域)における電子線吸収量が250kGyであり、電子線照射面におけるフッ素樹脂の架橋の度合いは十分であったが、照射面における電子線吸収量に対する、照射面からの距離が平均厚みの100%である領域における電子線吸収量が99%と大きく、電子線吸収量の減少の度合いが小さかった。また、全ての領域における電子線吸収量がほぼ同等の値を示しており、電子線吸収量が漸減しているとは言い難いものであった。そのため、試験例2では破断伸びが20%と低く、伸長性に劣っていた。