JP2017011885A - 電動モータの冷却構造 - Google Patents

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【課題】構造の簡単化を図りつつ冷却能力とコストダウンを両立することができる電動モータの冷却構造を提供する。【解決手段】ロータ10と、ステータコイル22が巻回されたステータ20と、ロータ10及びステータ20を収容するハウジング30と、このハウジング30とステータ20のコイルエンド23との間に形成された絶縁用空間部33とを備えた電動モータ1の冷却構造において、複数のグラフェンシート51を夫々積層した複数の積層体50が空間部33に周方向に所定間隔おきに配設され、各積層体50は、グラフェンシート51を平行な2辺においてロータ10の軸心と平行な折畳み線52aを含む折畳み線52aにより複数回折畳んで構成されると共に、コイルエンド23とハウジング30に対して積層体50の厚さ方向から押圧されている。【選択図】 図1

Description

本発明は、電動モータの冷却構造に関し、特にグラフェンシートを用いた電動モータの冷却構造に関する。
従来より、電動モータ(電動機)は、様々な分野で動力源として使用に供されている。
電動モータが、電気エネルギを運動エネルギに変換することによって回動するとき、一部の電気エネルギが熱エネルギに変換されて発熱される。
また、安全性の観点から、ハウジングの内壁部とステータのコイルエンドとの間を空気絶縁させるため、両者の間に所定距離離隔するための空間部が設けられている。
これに伴い、コイルエンドからハウジングへの熱伝導性を高くすることが難しく、電動モータ内の熱対策が必要であった。
特に、電気自動車に搭載されるような大型(高出力)の電動モータ程、大きな発熱量になり、この発熱量は電動モータの効率低下を招くため、種々の冷却技術が提案されている。
特許文献1の電動モータの冷却構造は、ロータと、ステータコイルが巻回されたステータと、これらロータ及びステータを収容するハウジングと、このハウジングと一端側のコイルエンドとの間に形成された潤滑油用第1貯留槽と、ハウジングと他端側のコイルエンドとの間に形成された潤滑油用第2貯留槽と、これら第1貯留槽と第2貯留槽とを連通する連通路とを備え、連通路の上側部分を第1,第2貯留槽に貯留される潤滑油の油面よりも上方になるように形成している。
これにより、連通路内の潤滑油の滞留を抑制しながらコイルエンドを油没させて冷却を図っている。
近年、優れた移動度性能を有する素材としてグラフェン(グラフェンシートともいう)が注目されている。グラフェンは、炭素原子が六角形の網目を描くように結合した1原子層分の厚みしかない平面状物質である。
グラフェン中の荷電粒子(電子)の移動度は、室温で15000cm/Vsである一方、移動度に関連する特性(電気、熱、強度等)の発現は平面方向に限定されている。グラフェンは、通常、複数積層させた積層物(グラファイト)の形態で使用されている。
特開2014−225971号公報
特許文献1の電動モータの冷却構造は、絶縁用空間部を潤滑油用貯留槽に利用し、別途ハウジング内に通気口を形成することなく、連通路内の潤滑油の滞留を抑制している。
しかし、特許文献1の電動モータの冷却構造では、コイルエンドを油没させて冷却する、所謂潤滑油との熱交換型湿式冷却であるため、潤滑油と、この潤滑油を循環させるための油路、更には、潤滑油のメンテナンス等が必要とされ、生産コストが高価になる虞がある。
また、大型の電動モータの場合、昇温速度が極めて速く(例えば3secで約200℃上昇)、潤滑油を用いた熱交換型湿式冷却では電動モータ内の各部材に対する冷却能力が追いつかない虞もある。
特許文献1の技術は、潤滑油を用いた冷却機構に加え、ハウジングの壁部内に別途冷却水路を形成し、電動モータ内の冷却能力の更なる向上を図っているものの、構造の複雑化及びコストの観点で依然として課題が残る。
前述のように、特定の使用条件下において、グラフェンの熱伝導性が優れていること自体は知られているため、グラフェンを冷却機構に活用することも考えることができる。
しかし、電動モータの冷却に対してグラフェンを適用するという概念、更には、その適用部位や適用形態等について、実現性に則した上で具体的に示唆する先行技術は現時点において存在していない。
本発明の目的は、構造の簡単化を図りつつ冷却能力とコストダウンを両立することができる電動モータの冷却構造等を提供することである。
請求項1の発明は、ロータと、ステータコイルが巻回されたステータと、前記ロータ及びステータを収容するハウジングと、このハウジングとステータのコイルエンドとの間に形成された絶縁用空間部とを備えた電動モータの冷却構造において、複数のグラフェンシートを夫々積層した複数の積層体が前記絶縁用空間部に周方向に所定間隔おきに配設され、前記各積層体は、前記コイルエンドとハウジングに対して前記積層体の厚さ方向から押圧されていることを特徴としている。
この電動モータの冷却構造では、複数のグラフェンシートを夫々積層した複数の積層体が絶縁用空間部に周方向に所定間隔おきに配設されているため、潤滑油等の熱交換用冷却媒体を省略することができ、また、安全性の観点からから必要不可欠な空気絶縁用空間部を維持しつつ、この絶縁用空間部を利用して複数の積層体を配設することができる。
各積層体は、コイルエンドとハウジングに対して積層体の厚さ方向から押圧されているため、コイルエンドからハウジングまでの直接的な熱伝導経路を確保して電動モータ内を熱伝導型乾式冷却することができる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記各積層体は、前記グラフェンシートを夫々積層して形成された中間積層体を平行な2辺において前記ロータの軸心と平行な折畳み線を含む折畳み線により複数回折畳んで構成されていることを特徴としている。
この構成によれば、コイルエンド及びハウジングに対する積層体の専有面積に拘らず、コイルエンドからハウジングまでの熱伝導経路の熱伝導量を増加することができる。
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記コイルエンドが、前記ステータのステータコアから前記ロータの軸心方向へ離隔した位置に形成された大径部と、前記大径部とステータコアとの間に形成され前記大径部よりも前記ロータの軸心直交方向の幅が狭く形成された小径部とを備え、前記積層体は、少なくとも、前記ロータの軸心直交方向に延びる前記大径部の端部分と、前記ロータの軸心平行方向に延びる前記大径部の外径部分と、前記外径部分に前記絶縁用空間部を介して対向するハウジング内壁部とに面接触していることを特徴としている。
この構成によれば、コイルエンドに対する接触面積を確保して入熱量を増加することができ、ハウジング内壁部に対する接触面積を確保して出熱量を増加することができる。
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記積層体は、前記ステータコアと小径部と大径部とによって形成された凹部に膨出した撓み部を有することを特徴としている。
この構成によれば、ハウジング等の熱収縮に起因した変位を撓み部によって吸収するため、積層体の損傷を防止することができる。
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れか1項の発明において、前記絶縁用空間部に前記コイルエンドとハウジングに対して前記積層体を厚さ方向から押圧する加圧空気を収容した加圧空気収容バッグを設けたことを特徴としている。
この構成によれば、コイルエンドとハウジングとの間に空気絶縁層を確保しながら、積層体をコイルエンドとハウジングとに対して厚さ方向から管理された均一な押圧力で押圧することができる。
本発明の電動モータの冷却構造によれば、グラフェンを電動モータの冷却に適用することによって、構造の簡単化を図りつつ冷却能力とコストダウンを両立することができる。
実施例1に係る電動モータの縦断面図である。 図1の収容バッグ周辺部分の要部拡大図である。 図2の段差部周辺部分の要部拡大図である。 電動モータのロータを除く分解斜視図である。 グラフェンシートの説明図である。 中間積層体の説明図である。 積層体の斜視図である。 グラフェンシートの押圧力と熱伝導率との関係を示すグラフである。 折畳み工程の説明図である。 積層体の挿通部周辺部分の平面図である。 熱伝導ボルトの縦断面図である。 図3の熱伝導ボルトと積層体との接触部分の要部拡大図である。 図7のXIII−XIII線断面図である。 延長部の変形例を示す斜視図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を所定の制御部によって駆動が制御される永久磁石同期モータに適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。尚、以下、図における左側を左方とし、図における上側を上方として説明する。また、図3,図7,図10,図13において、熱の伝達方向を矢印を用いて示している。
以下、本発明の実施例1について図1〜図13に基づいて説明する。
図1に示すように、電動機としての電動モータ1は、円筒状のロータ10と、このロータ10の外周側に配設された円筒状のステータ20と、ロータ10及びステータ20を収容する円筒状のハウジング30等を備えている。
この電動モータ1は、ステータ20に制御された交流電流が流されることにより発生する磁界によって、ステータ20の内側に収容されたロータ10が回転するように構成されている。
まず、ロータ10について説明する。
図1に示すように、ロータ10は、電動モータ1の出力軸を兼ねたロータシャフト11と、ロータコア12と、左右1対のエンドプレート13とを備えている。
ロータシャフト11は、右端部が負荷装置2に連結され、左端部及び右端側途中部が軸受35,36を介してハウジング30に回転自在に支持されている。
ロータコア12は、電磁鋼板からなる鉄心が左右方向に多数積層され、熱圧着等により一体形成されている。このロータコア12は、ロータシャフト11に回り止め嵌合され、その外径側内部には周方向に所定数の永久磁石(図示略)が埋設されている。
左右1対のエンドプレート13は、ロータコア12の左右両端部に当接状に設けられ、ロータシャフト11に対してロータコア12の左右方向の位置決めを行っている。
次に、ステータ20について説明する。
図1,図2,図4に示すように、ステータ20は、円筒状のステータコア21と、ステータコイル22等を備えている。
ステータコア21は、電磁鋼板からなる鉄心が左右方向に多数積層され、熱圧着等により一体形成されている。このステータコア21は、ハウジング30の内壁部31cに外周が回り止め嵌着され、その内径部分がロータコア12の外径部分と微小な間隔を空けて対向配置されている。ステータコア21には、周方向に等間隔で複数のリブ(図示略)が突設され、これらのリブにU相コイル群、V相コイル群及びW相コイル群から構成された銅製エナメル線のステータコイル22が定法に従って巻装されている。
ステータコイル22は、ステータコア21の左右両端部から夫々左右(軸心)方向外側に突出した状態で折り返された左右1対のコイルエンド23を備えている。
図1,図2に示すように、左右1対のコイルエンド23は、ステータコア21から離隔した位置に形成された大径部23aと、この大径部23aとステータコア21との間に形成され且つ縦断面視にて大径部23aよりも上下方向の幅が狭く形成された小径部23bとを備えている。ステータコア21の左右両側には、ステータコア21の縦壁部と小径部23bと大径部23aとによって、縦断面視にてロータシャフト11の内径(軸心)方向に向かって凹入した凹部24が夫々形成されている。
左右1対のコイルエンド23(大径部23a及び小径部23b)の絶縁被覆の表面には、絶縁性放熱ペーストが夫々塗布されている。
絶縁性放熱ペーストは、絶縁性を確保しつつ、熱伝導性や放熱性を確保する材質、例えば、アルコキシド化合物の加水分解反応とシラノール脱水縮合反応により生成されたペーストが用いられている。尚、この絶縁性放熱ペーストは、ステータコア21の縦壁部にも塗布されている。
ステータコイル22の巻線方式は、集中巻方式と分布巻方式に大別することができる。
集中巻方式は、各磁極の重なりがなく、ステータコイル22同士の干渉が少ないため、コイルエンド23の左右長を短くできる反面、出力トルク当りの磁石の使用量が多く、コギングが大きくなる。
分布巻方式は、各相の磁極が部分的に重なり、コイルエンド23にてステータコイル22が交差する形状になるため、コイルエンド23の左右長が長くなり、形状が複雑化する反面、出力トルク当りの磁石の使用量が少なく、コギングが小さくなる。
本実施例では、ステータコア21から露出するコイルエンド23の露出面積を大きく確保するために、コイルエンド23の左右長が長くなる分布巻方式を採用している。
次に、ハウジング30について説明する。
図1〜図4に示すように、ハウジング30は、アルミニウム合金材材料で形成され、有底筒状の本体部31と、この本体部31の右側開口を閉塞する略円板状のエンド部32(ハウジングエンド部材)等を備えている。それ故、本体部31及びエンド部32に入熱された熱量は、速やかにこれらの内部を伝達されて外部に放熱される。
本体部31には、軸受35と、3つのボルト穴34hと、段差部31aと、この段差部31aに設けられた複数の凹入部31d及び複数のボルト穴44hが形成されている。
軸受35は、左側縦壁中央部分に設置されたベアリングにより構成されている。3つのボルト穴34hは、右端部の端壁部31bに周方向に等間隔になるように形成されている。
図3に示すように、複数の円筒状凹入部31dは、段差部31aの底部から左方へ凹入するように形成されている。複数のボルト穴44hは、凹入部31dよりも小径に形成され、複数の凹入部31dの底部から左方へ凹入するように夫々形成されている。
エンド部32には、軸受36と、3つの開口32aと、バルブ開口32bが形成されている。軸受36は、縦壁中央部分に設置されたベアリングにより構成されている。
3つの開口32aは、周方向に等間隔になる位置において外径方向に張り出した3つのボルトボス部に夫々形成されている。バルブ開口32bは、エンド部32の縦壁の径方向途中部において縦壁を左右に貫通するように形成されている。
エンド部32は、開口32aに挿通されたボルト34をボルト穴34hに夫々締結することにより本体部31に固定されている。
図1,図2に示すように、コイルエンド23とハウジング30とを空気絶縁させるため、コイルエンド23が、本体部31、エンド部32、後述する押え板40から所定距離離隔されている。それ故、大径部23aの端部分23c、大径部23aの外径部分23d、小径部23bの外径部分23e、本体部31(ハウジング30)の内壁部31c、エンド部32等によって空間部33(絶縁用空間部)が形成されている。
右側の空間部33内には、アルミニウム合金製の押え板40と、この押え板40よりも左方に配設された複数の積層体50と、これら複数の積層体50を所定の加圧力で押圧するための収容バッグ60(加圧空気収容バッグ)等が配設されている。
本実施例では、右側の空間部33に複数の積層体50やこれらを押圧する収容バッグ60等を配設しているため、以下、右側部分の構成について主に説明する。
尚、左右両側の空間部33に複数の積層体50や収容バッグ60等を夫々配設しても良い。
図1〜図4に示すように、押え板40は、円環状の円環部41と、円筒部42とによって一体的に構成されている。
円環部41は、ロータシャフト11の軸心に対して直交するように配置され、外径部分が段差部31aの底部に複数の熱伝導ボルト44を介して固定されている。
円環部41には、熱伝導ボルト44を挿通可能な複数の開口41aと、バルブ開口32bに対向配置されたバルブ開口41bとが形成されている。
図4に示すように、複数の開口41aは、正三角形の頂点の位置に配置された3つ1組の開口41aが周方向に複数組形成されている。
円環部41の内径縁部は、押え板40が段差部31aの底部に固定されたとき、ステータコア21の内径部分と略同じ高さ位置になるように構成されている。
円筒部42は、円環部41の内径縁部から大径部23aの内径部分に対向する位置に亙ってロータシャフト11の軸心に対して平行状に左方へ延設されている。
円筒部42の左端部分は、大径部23aの内径部分から上下方向に所定距離離隔している。
次に、複数の積層体50について説明する。
複数の積層体50は、コイルエンド23から入熱された熱量をハウジング30の内壁部31c等に伝達することによりコイルエンド23を冷却する乾式冷却機構を構成している。これら複数の積層体50は、空間部33に周方向において所定間隔おきに配設されている。
尚、複数の積層体50は、何れも同一の構成であるため、1つの積層体50を例として説明する。
図5〜図7に示すように、積層体50は、炭素原子の網目状結晶の1層のみが平面状に存在するグラフェンシート51を均一に複数層積み重ねた中間積層体52(グラファイト)によって構成されている。層状結晶体である中間積層体52は、例えば、約75μmの厚さを有している。中間積層体52(グラフェンシート51)の荷電粒子(電子)の移動度は、層方向(平面方向)において、室温で15000cm/Vsであり、優れた熱伝導性能(1000〜1500W/m・K)を備えている。
図8に示すように、この中間積層体52は、熱源に対して面直交方向からの押圧力が大きい程熱伝導率が増加し、押圧力が十分に大きくなった時点で熱伝導率が収束する特性を有している。
図7に示すように、グラフェンシート51が積層された中間積層体52を平行な2辺の折畳み線52aで偶数回、例えば28回折畳むことにより約2mmの厚さを有する長尺状の積層体50を形成している。ここで、積層の意味は、グラフェンシート51を複数層重ねること、及び中間積層体52を複数回折畳んで複数層重ねることを含むものである。
積層体50のうち、最下層の中間積層体52に入熱された熱量は、複数の折畳み線52aを経由して最上層の中間積層体52まで高い熱伝導率で伝達されている。
また、最下層の中間積層体52の左端側部分に入熱された熱量は、図7の矢印に示すように、折畳まれた全ての中間積層体52を熱伝導経路として右端側部分まで伝達される。
ここで、グラフェンシート51の六角形格子構造に格子欠陥が生じた場合は、グラフェンシート51の構造上、熱伝導経路が減少するため、熱伝導率が低下し、熱伝導性能が損なわれる虞がある。
即ち、積層体50の折畳み線52aを完全屈曲させた場合、グラフェンシート51に格子欠陥が生じるため、折畳み線52aを完全屈曲させないように所定の曲率が形成されている。そこで、図9に示すように、積層体50の折畳み工程において、各折畳み線52aに断面円形の棒状治具70を夫々当接させた後、棒状治具70を対応する一側の折畳み線52aが重なり合うように一箇所に集約させ、他側の折畳み線52aが重なり合うように一箇所に集約させることにより、中間積層体52(グラフェンシート51)を完全屈曲させることなく中間積層体52を折畳んでいる。
図7に示すように、積層体50には、長手方向に等間隔に並んだ4つの連結部53と、右半部に3つの挿通部54〜56が形成されている。
4つの連結部53は、最下層の中間積層体52の一側長辺から一側方向に延設された延長部52bと、最上層の中間積層体52の一側長辺から一側方向に延設された延長部52cとを接着材等により連結することにより夫々構成されている。そして、積層体50の他側の全ての折畳み線52aを接着材等により連結することにより折畳まれた長尺形状を維持可能な積層体50を形成している。
図7,図10に示すように、3つの挿通部54〜56は、夫々略正三角形の頂点に対応する位置に形成されている。挿通部54は、図7及び図10の矢印に示す熱伝達方向下流側(右側)位置に主頂点として設けられ、挿通部55,56は、挿通部54よりも上流側位置に底辺頂点として夫々設けられている。
これら挿通部54〜56は、積層体50を本体部31に対して固定するとき、各積層体50に対応した3つの凹入部31dに夫々重なり合うように形成されている。
挿通部54〜56は、熱伝導ボルト44の円柱部44cよりも小径に形成された挿通孔54a〜56aと、これら挿通孔54a〜56aから放射状に90度間隔で形成されたスリット部54b〜56bとによって夫々構成されている。
図10に示すように、スリット部54bは、熱伝達方向に対して平行方向及び直交方向に十字状に形成されている。スリット部55b,56bは、熱伝導経路の経路幅を最大限確保するため、熱伝達方向に対して45度方向及び135度方向に交差するようにX字状に形成されている。スリット部54b〜56bには、挿通孔54a〜56aに対して反対側の端部に引き裂き防止用丸形状部が夫々形成されている。
尚、挿通部55,56は同じ構成であり、挿通部54と挿通部55,56はスリット部の設置方向(角度)を除き同じ構成である。
図11に示すように、金属製熱伝導ボルト44は、締付工具(図示略)に内嵌可能な頭部44aと、この頭部44aに連なる軸部44bとを備えている。
軸部44bは、頭部44aに連なる円柱部44cと、この円柱部44cに連なり円柱部44cよりも小径に形成されたねじ部44dを有している。円柱部44cの直径は、ボルト穴44hの直径よりも大きく、スリット部の2倍の長さよりも小さく設定されている。これにより、熱伝導ボルト44を挿通部54〜56を介してボルト穴44hに締結するとき、熱伝導ボルト44は、挿通孔54a〜56a及びスリット部54b〜56bの各近傍部分を締結方向に向けて折り曲げて進行する。
円柱部44cの軸方向長さは、円柱部44cの左端部が凹入部31dの底部に当接したとき、積層体50に作用する熱伝導ボルト44からの押圧力が所定圧力になるように設定されている。具体的には、円柱部44cの左端部が凹入部31dの底部に当接して締結完了したとき、100〜700kPaの範囲内で且つ積層体50の折畳み線52aを完全屈曲させない押圧力になるように円柱部44cの軸方向長さが規定されている。
円柱部44cの左端外周部分には、断面鋭角状に形成された方向変換部44eが設けられている。
次に、収容バッグ60について説明する。
図1,図2,図4に示すように、収容バッグ60は、加圧空気が充填された充填状態のとき、積層体50を積層体50の厚さ方向から均一な加圧力で押圧し、ステータコア21の縦壁部、コイルエンド23、及び本体部31の内壁部31cに対して均一な押圧力で面接触するように構成されている。
収容バッグ60は、加圧空気を収容可能なリング状のバッグ部61と、このバッグ部61に連結されたパイプ状の導入路62(加圧空気導入路)と、加圧空気をバッグ部61内に注入し且つ内圧を所定圧力に調圧可能な調圧バルブ63を備えている。
バッグ部61は、主素材に繊維補強材を混入し、その表面を表面処理されている。
主素材は、所定の耐熱性且つ耐油性ゴム材、例えばSi(シリコンゴム)、FKM(フッ素ゴム)、IIR(ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(ニトリルゴム)等である。
繊維補強材は、アラミド、鋼線、合成繊維等である。被覆表面処理は、PEEKコート、ポリイミドコート、ポリアミドイミドコート等である。
加圧空気が排出された非充填状態でバッグ部61が空間部33に配置されたとき、導入路62はバルブ開口41b,32bを貫通して外部に突出されている。
導入路62の先端に装着された調圧バルブ63は、加圧空気供給装置(図示略)から加圧空気を供給され、バッグ部61の内圧を所定圧力、例えば、大気圧に対して+100〜+700kPaに調圧している。加圧空気が充填された充填状態の収容バッグ60は、左右方向位置を円環部41と大径部23aの端部分23cとステータコア21の縦壁部との3箇所によって当接規制され、上下方向位置を大径部23aの外径部分23dと本体部31の内壁部31cとの2箇所によって当接規制されている。
衝撃や振動等の要因で、大径部23aの外径部分23dと本体部31の内壁部31cによる上下方向位置の規制が外れた場合、円筒部42が収容バッグ60を支持するため、収容バッグ60の上下方向位置が維持され、収容バッグ60が空間部33から離脱しない。
次に、積層体50の設置手順について説明する。
まず、本体部31内部にロータ10及びステータ20等を組み付ける。
次に、複数の積層体50を、空間部33内において周方向に配置した状態で、本体部31の段差部31a及び内壁部31cと、ステータコア21の縦壁部と、コイルエンド23の端部分23c及び外径部分23dに沿うように形状を整える。
このため、配置後の折畳み線52aには、ロータシャフト11の軸心に平行になる部分とロータシャフト11の軸心に直交する部分とが存在している。
各積層体50の挿通部54〜56は、各積層体50に対応した3つ1組の凹入部31dに夫々重なり合うように位置決めされる。
また、積層体50の位置決めに当り、予め、凹部24において余剰的に軸心方向へ膨出した撓み部50aを形成する。ステータ20やハウジング30の熱収縮等に起因した積層体50の損傷を撓み部50aによって緩和するためである。
次に、押え板40の円筒部42に収容バッグ60を挿通させて仮置きし、複数の熱伝導ボルト44を円環部41の開口41aに挿通させる。これと同時に、導入路62をバルブ開口41bに挿通させる。そして、円環部41を貫通した複数の熱伝導ボルト44と各積層体50の挿通部54〜56とを位置合わせした後、複数の積層体50の段差部31aへの締結固定を開始する。
熱伝導ボルト44が挿通部54(55,56)に挿通され、ねじ部44dがボルト穴44hに締結されるとき、方向変換部44eが、積層体50の挿通孔54a及びスリット部54bの近傍部分を引き摺りながら締結方向(左方)に進行するため、挿通孔54a及びスリット部54bの近傍部分が締結方向に折り曲げられて円柱部44cの周面と密着状に面接触する。また、方向変換部44eがポンチ機能を発揮したとき、方向変換部44eによって挿通孔54a及びスリット部54bの近傍部分が切断されると共に、図12に示すように、積層体50の鱗片状のグラファイトが締結方向に方向変換され、鱗片状のグラファイトが円柱部44cの周面と密着状に面接触する。
これにより、図3の矢印に示すように、積層体50による直接的なハウジング30への熱伝達に加え、積層体50は固定用熱伝導ボルト44を介してハウジング30へ熱伝達している(図3参照)。
方向変換部44eが凹入部31dの底部に到達したとき、熱伝導ボルト44の締結が完了する。積層体50に作用するが予め規定された所定圧力に設定されているため、積層体50は折畳み線52aで完全屈曲されることなく段差部31aに固定される。
これにより、図13の矢印に示すように、積層体50の最下層に入熱された熱量は、折畳み線52aを介して直上の層に伝達され、この伝達形態を繰り返して最上層に伝達される。また、層方向に伝達された熱量は、熱伝導ボルト44の押圧による挿通部54〜56の面当接構造によって順次直上の層に伝達され、この伝達形態を繰り返して最上層に伝達される。即ち、積層体50に入熱された熱量は、積層体50の全ての層を用いて下流側に伝達されている。
次に、本体部31のボルト穴34hとエンド部32の32aとを位置合わせした後、ボルト34を締結する。これと同時に、導入路62をバルブ開口32bに挿通させる。
最後に、加圧空気供給装置を用いて収容バッグ60内部の圧力が所定圧力になるように加圧空気を供給する。複数の積層体50が、本体部31の段差部31a及び内壁部31cと、ステータコア21の縦壁部と、コイルエンド23の端部分23c及び外径部分23dに対して面接触するように均一な押圧力で押圧される。
ステータコイル22が分布巻方式であるため、コイルエンド23と積層体50との接触面積(入熱面積)を増加することができ、コイルエンド23からハウジング30への直接的な熱伝導経路を確保しているため、潤滑油を省略できる。
また、本実施例では、図1に示すように、ハウジング30と金属製基台とを積層体50と同様の積層体によって接続している。ハウジング30の途中部と積層体の一端部分とをボルト締結し、基台と積層体の他端部分とをボルト締結することによって、コイルエンド23からハウジング30へ伝達された熱量をハウジング30からの大気放射に加えて、積層体を介して直接的に基台へ放熱している。
次に、上記電動モータ1の冷却構造の作用、効果について説明する。
本電動モータ1の冷却構造によれば、複数のグラフェンシート51を夫々積層した複数の積層体50が空間部33に周方向に所定間隔おきに配設されているため、潤滑油等の熱交換用冷却媒体を省略することができ、また、安全性の観点からから必要不可欠な空間部33を維持しつつ、この空間部33を利用して複数の積層体50を配設することができる。各積層体50は、コイルエンド23とハウジング30に対して積層体50の厚さ方向から押圧されているため、コイルエンド23からハウジング30までの直接的な熱伝導経路を確保して電動モータ1内を熱伝導型乾式冷却することができる。
各積層体50は、グラフェンシート51を夫々積層して形成された中間積層体52を平行な2辺においてロータ10の軸心と平行な折畳み線52aを含む折畳み線52aにより複数回折畳んで構成されているため、コイルエンド23及びハウジング30に対する積層体50の専有面積に拘らず、コイルエンド23からハウジング30までの熱伝導経路の熱伝導量を増加することができる。
コイルエンド23が、ステータ20のステータコア21から右方へ離隔した位置に形成された大径部23aと、大径部23aとステータコア21との間に形成され大径部23aよりも上下方向幅が狭く形成された小径部23bとを備え、積層体50は、少なくとも、上下方向に延びる大径部23aの端部分23cと、左右方向に延びる大径部23aの外径部分23dと、外径部分23dに空間部33を介して対向するハウジング内壁部31cとに面接触している。これにより、コイルエンド23に対する接触面積を確保して入熱量を増加することができ、ハウジング内壁部31cに対する接触面積を確保して出熱量を増加することができる。
積層体50は、ステータコア21と小径部23bと大径部23aとによって形成された凹部24に膨出した撓み部50aを有している。これにより、ハウジング30等の熱収縮に起因した変位を撓み部50aによって吸収するため、積層体50の損傷を防止することができる。
空間部33にコイルエンド23とハウジング30に対して積層体50を厚さ方向から押圧する加圧空気を収容した収容バッグ60を設けたため、コイルエンド23とハウジング30との間に空気絶縁層を確保しながら、積層体50をコイルエンド23とハウジング30とに対して厚さ方向から管理された均一な押圧力で押圧することができる。
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、中間積層体を平行な2辺の折畳み線で28回折畳んだ積層体の例を説明したが、中間積層体の折畳み回数は任意に設定しても良い。
中間積層体の厚さを薄くすることにより、積層体の厚さを一定に維持しながら折畳み回数を増加でき、積層体の熱伝導率を増加することができる。
また、長方形状の積層体の例を説明したが、台形形状の積層体を形成し、コイルエンドに対して放射状に隙間なく敷き詰めても良い。
2〕前記実施形態においては、ステータコイルの巻線方式として分布巻方式の例を説明したが、集中巻方式の電動モータに適用しても良い。積層体をコイルエンド及びハウジング内壁部に面接触させることが可能であれば、電動モータの型式に拘らず、何れの型式のモータにも適用することができる。
3〕前記実施形態においては、最下層の中間積層体の一側長辺から一側方向に延設された延長部と最上層の中間積層体の一側長辺から一側方向に延設された延長部とを接着した連結部によって長尺形状を維持可能な積層体の例を説明したが、図14に示すように、延長部を最下層及び最上層から切り出した切出部Aによって形成しても良い。これにより、素材となる中間積層体(グラフェンシート)を四角形にすることができ、歩留まりを増すことができる。尚、切出部Aの長辺直交方向幅は熱伝導経路を減少させるため、必要最小限に形成する。
4〕前記実施形態においては、熱伝導型乾式冷却機構のみを備えた電動モータの例を説明したが、ハウジング内に冷却水路を形成し、水冷機構を併用しても良い。また、ハウジングにフィン等を設け、空冷機構と併用することも可能である。
5〕前記実施形態においては、収容バッグのバッグ部の主素材に繊維補強材を混入した例を説明したが、強度条件を満たす場合、繊維補強材を省略しても良い。繊維補強材を省略した場合、バッグ部の局所的な引張応力のムラ(起点)が生じ難くなり、バッグ部の破裂を抑制することができる。
6〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
1 電動モータ
10 ロータ
20 ステータ
21 ステータコア
22 ステータコイル
23 コイルエンド
23a 大径部
23b 小径部
23c 端部分
23d 外径壁部
24 凹部
30 ハウジング
31c 内壁部
33 空間部
50 積層体
50a 撓み部
51 グラフェンシート
52 中間積層体
52a 折畳み線
60 収容バッグ

Claims (5)

  1. ロータと、ステータコイルが巻回されたステータと、前記ロータ及びステータを収容するハウジングと、このハウジングとステータのコイルエンドとの間に形成された絶縁用空間部とを備えた電動モータの冷却構造において、
    複数のグラフェンシートを夫々積層した複数の積層体が前記絶縁用空間部に周方向に所定間隔おきに配設され、
    前記各積層体は、前記コイルエンドとハウジングに対して前記積層体の厚さ方向から押圧されていることを特徴とする電動モータの冷却構造。
  2. 前記各積層体は、前記複数のグラフェンシートを夫々積層して形成された中間積層体を平行な2辺において前記ロータの軸心と平行な折畳み線を含む折畳み線により複数回折畳んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動モータの冷却構造。
  3. 前記コイルエンドが、前記ステータのステータコアから前記ロータの軸心方向へ離隔した位置に形成された大径部と、前記大径部とステータコアとの間に形成され且つ前記大径部よりも前記ロータの軸心直交方向の幅が狭く形成された小径部とを備え、
    前記積層体は、少なくとも、前記ロータの軸心直交方向に延びる前記大径部の端部分と、前記ロータの軸心平行方向に延びる前記大径部の外径部分と、前記外径部分に前記絶縁用空間部を介して対向するハウジング内壁部とに面接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動モータの冷却構造。
  4. 前記積層体は、前記ステータコアと小径部と大径部とによって形成された凹部に膨出した撓み部を有することを特徴とする請求項3に記載の電動モータの冷却構造。
  5. 前記絶縁用空間部に前記コイルエンドとハウジングに対して前記積層体を厚さ方向から押圧する加圧空気を収容した加圧空気収容バッグを設けたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電動モータの冷却構造。
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