以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<内燃機関全体の説明>
まず図1から図5を参照して、本発明の一実施形態による内燃機関100及び内燃機関100を制御する電子制御ユニット200について説明する。図1は、本発明の一実施形態による内燃機関100及び内燃機関100を制御する電子制御ユニット200の概略構成図である。
図1に示すように、内燃機関100は、機関本体1と、吸気装置20と、排気装置30と、を備える。
機関本体1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に固定されたシリンダヘッド3と、を備える。
シリンダブロック2には、複数のシリンダ4が形成される。シリンダ4の内部には、燃焼圧力を受けてシリンダ4の内部を往復運動するピストン5が収められる。ピストン5は、コンロッドを介してクランクシャフトと連結されており、クランクシャフトによってピストン5の往復運動が回転運動に変換される。シリンダヘッド3の内壁面、シリンダ4の内壁面及びピストン冠面によって区画された空間が燃焼室6となる。
シリンダヘッド3には、シリンダヘッド3の一方の側面に開口すると共に燃焼室6に開口する吸気ポート7と、シリンダヘッド3の他方の側面に開口すると共に燃焼室6に開口する排気ポート8と、が形成される。
またシリンダヘッド3には、燃焼室6と吸気ポート7との開口を開閉するための吸気弁9と、燃焼室6と排気ポート8との開口を開閉するための排気弁10と、吸気弁9を開閉駆動する吸気カムシャフト11と、排気弁10を開閉駆動する排気カムシャフト12と、が取り付けられる。
さらにシリンダヘッド3には、燃焼室6内に燃料を噴射するための燃料噴射弁13と、燃料噴射弁13から噴射された燃料と空気との混合気を燃焼室6内で点火するための点火プラグ14と、が取り付けられる。本実施形態では、燃料として理論空燃比が14.6であるガソリンを用いているが、他の燃料を用いることもできる。なお、燃料噴射弁13は、吸気ポート7内に燃料を噴射するように取り付けてもよい。
吸気装置20は、吸気ポート7を介してシリンダ4内に空気を導くための装置であって、エアクリーナ21と、吸気管22と、吸気マニホールド23と、電子制御式のスロットル弁24と、エアフローメータ211と、を備える。
エアクリーナ21は、空気中に含まれる砂などの異物を除去する。
吸気管22は、一端がエアクリーナ21に連結され、他端が吸気マニホールド23のサージタンク23aに連結される。吸気管22によって、エアクリーナ21を介して吸気管22内に流入してきた空気(吸気)が吸気マニホールド23のサージタンク23aに導かれる。
吸気マニホールド23は、サージタンク23aと、サージタンク23aから分岐してシリンダヘッド側面に形成されている各吸気ポート7の開口に連結される複数の吸気枝管23bと、を備える。サージタンク23aに導かれた空気は、吸気枝管23bを介して各シリンダ4内に均等に分配される。このように、吸気管22、吸気マニホールド23及び吸気ポート7が、各シリンダ4内に空気を導くための吸気通路を形成する。
スロットル弁24は、吸気管22内に設けられる。スロットル弁24は、スロットルアクチュエータ25によって駆動され、吸気管22の通路断面積を連続的又は段階的に変化させる。スロットルアクチュエータ25によってスロットル弁24の開度(以下「スロットル開度」という。)の調整することで、各シリンダ4内に吸入される吸気量が調整される。スロットル開度は、スロットルセンサ212によって検出される。
エアフローメータ211は、スロットル弁24よりも上流側の吸気管22内に設けられる。エアフローメータ211は、吸気管22内を流れる空気の流量(以下「吸気量」という。)を検出する。
排気装置30は、燃焼室6内で生じた燃焼ガス(排気)を浄化して外気に排出するための装置であって、排気マニホールド31と、排気管32と、排気後処理装置33と、上流側空燃比センサ213と、下流側空燃比センサ214と、を備える。
排気マニホールド31は、シリンダヘッド側面に形成されている各排気ポート8の開口と連結される複数の排気枝管31aと、排気枝管31aを集合させて1本にまとめた集合管31bと、を備える。
排気管32は、一端が排気マニホールド31の集合管31bに連結され、他端が外気に開口している。各シリンダ4から排気ポート8を介して排気マニホールド31に排出された排気は、排気管32を流れて外気に排出される。
排気後処理装置33は、それぞれ排気浄化触媒が内蔵された第1触媒コンバータ33aと、第2触媒コンバータ33bと、を備える。各触媒コンバータは、排気流れ方向上流側から第1触媒コンバータ33a、第2触媒コンバータ33bの順で排気管32に連結されている。このように、排気ポート8、排気マニホールド31、排気管32、第1触媒コンバータ33a、及び第2触媒コンバータ33bが、各シリンダ4から排出された排気が流れる排気通路を形成する。
第1触媒コンバータ33a及び第2触媒コンバータ33bには、排気浄化触媒として、それぞれ酸素吸蔵能力を有する三元触媒34、35が内蔵されている。三元触媒34、35は、それぞれセラミックから成る担体に、触媒作用を有する貴金属(例えば、白金(Pt))及び酸素吸蔵能力を有する物質(例えば、セリア(CeO2))を担持させたものである。三元触媒34、35は、所定の活性温度に達すると、未燃ガス(HCやCO等)と窒素酸化物(NOx)とを同時に浄化する触媒作用に加えて、酸素吸蔵能力を発揮する。なお本実施形態では、吸収及び吸着の双方を含む用語として吸蔵という用語を使用している。
三元触媒34、35の酸素吸蔵能力によれば、三元触媒34、35は、三元触媒34、35に流入する排気の空燃比が理論空燃比よりもリーン(リーン空燃比)であるときには排気中の酸素を吸蔵する。一方、三元触媒34、35は、流入する排気の空燃比が理論空燃比よりもリッチ(リッチ空燃比)であるときには、三元触媒34に吸蔵されている酸素を放出する。また三元触媒34、35では、流入する排気の空燃比がリッチ空燃比であるときに、排気中の窒素と水素、又はHCとNOxが反応することによりアンモニアが生成される。
三元触媒34、35は、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有することにより、酸素吸蔵量に応じてNOx及び未燃ガスの浄化作用を有する。すなわち、三元触媒34、35に流入する排気の空燃比がリーン空燃比である場合、図2(A)に示したように、酸素吸蔵量が少ないときには三元触媒34、35により排気中の酸素が吸蔵される。また、これに伴って、排気中のNOxが還元浄化される。また、酸素吸蔵量が多くなると、最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍の或る吸蔵量(図中のCuplim)を境に三元触媒34、35から流出する排気中の酸素及びNOxの濃度が急激に上昇する。
一方、三元触媒34、35に流入する排気の空燃比がリッチ空燃比である場合、図2(B)に示したように、酸素吸蔵量が多いときには三元触媒34、35に吸蔵されている酸素が放出され、排気中の未燃ガスは酸化浄化される。また、酸素吸蔵量が少なくなると、ゼロ近傍の或る吸蔵量(図中のClowlim)を境に三元触媒34、35から流出する排気中の未燃ガスの濃度が急激に上昇する。
以上のように、本実施形態において用いられる三元触媒34、35によれば、三元触媒34、35に流入する排気の空燃比及び酸素吸蔵量に応じて排気中のNOx及び未燃ガスの浄化特性が変化する。なお、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有していれば、排気浄化触媒は三元触媒34、35とは異なる触媒であってもよい。
上流側空燃比センサ213は、排気マニホールド31の集合管31bに設けられ、第1触媒コンバータ33aに流入する排気の空燃比を検出する。
下流側空燃比センサ214は、第1触媒コンバータ33aと第2触媒コンバータ33bとの間の排気管32に設けられ、第1触媒コンバータ33aから流出して第2触媒コンバータ33bに流入する排気の空燃比を検出する。なお、本実施形態では、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214として、同一構成の空燃比センサを用いている。
図3は、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214のセンサ素子部50の概略断面図である。
図3に示すように、センサ素子部50は、固体電解質層51と、固体電解質層51の一方の側面上に配置された排気側電極52と、固体電解質層51の他方の側面上に配置された大気側電極53と、通過する排気の拡散律速を行う拡散律速層54と、拡散律速層54を保護する保護層55と、センサ素子部50の加熱を行うヒータ部56とを具備する。
固体電解質層51の一方の側面上には拡散律速層54が設けられ、拡散律速層54の固体電解質層51側の側面とは反対側の側面上には保護層55が設けられる。本実施形態では、固体電解質層51と拡散律速層54との間には被測ガス室57が形成される。この被測ガス室57には拡散律速層54を介して各空燃比センサ213、214による検出対象であるガス、すなわち排気が導入させられる。また、排気側電極52は被測ガス室57内に配置され、したがって、排気側電極52は拡散律速層54を介して排気に曝されることになる。なお、被測ガス室57は必ずしも設ける必要はなく、排気側電極52の表面上に拡散律速層54が直接接触するように構成されてもよい。
固体電解質層51の他方の側面上にはヒータ部56が設けられる。固体電解質層51とヒータ部56との間には基準ガス室58が形成され、この基準ガス室58内には基準ガスが導入される。本実施形態では、基準ガス室58は大気に開放されており、よって基準ガス室58内には基準ガスとして大気が導入される。大気側電極53は、基準ガス室58内に配置され、したがって、大気側電極53は、基準ガス(基準雰囲気)に曝される。
ヒータ部56には複数のヒータ59が設けられており、これらヒータ59によって各空燃比センサ213、214の温度、特に固体電解質層51の温度を制御することができる。ヒータ部56は、固体電解質層51を活性化するまで加熱するのに十分な発熱容量を有している。
固体電解質層51は、ZrO2(ジルコニア)、HfO2、ThO2、Bi2O3等にCaO、MgO、Y2O3、Yb2O3等を安定剤として配当した酸素イオン伝導性酸化物の焼結体により形成されている。また、拡散律速層54は、アルミナ、マグネシア、けい石質、スピネル、ムライト等の耐熱性無機物質の多孔質焼結体により形成されている。さらに、排気側電極52及び大気側電極53は、白金等の触媒活性の高い貴金属により形成されている。
また、排気側電極52と大気側電極53との間には、電子制御ユニット200に搭載された電圧印加装置60によりセンサ印加電圧Vrが印加される。加えて、電子制御ユニット200には、電圧印加装置60によってセンサ印加電圧Vrを印加したときに固体電解質層51を介してこれら電極52、53間に流れる電流を検出する電流検出装置61が設けられる。この電流検出装置61によって検出される電流が各空燃比センサ213、214の出力電流である。
次に図4及び図5を参照して、本実施形態における上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214の出力特性について説明する。図4は、本実施形態における上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214の電圧−電流(V−I)特性を示す図であり、図5は、印加電圧を一定に維持したときの、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の空燃比と出力電流Iとの関係を示す図である。
図4からわかるように、本実施形態の上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214では、出力電流Iは、排気の空燃比が高くなるほど(リーンになるほど)、大きくなる。また、各排気空燃比におけるV−I線には、V軸にほぼ平行な領域、すなわちセンサ印加電圧が変化しても出力電流がほとんど変化しない領域が存在する。この電圧領域は限界電流領域と称され、このときの電流は限界電流と称される。図4では、排気の空燃比が18であるときの限界電流領域及び限界電流をそれぞれW18、I18で示している。したがって、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214は限界電流式の空燃比センサであるということができる。
図5は、印加電圧を0.45V程度で一定にしたときの、排気の空燃比と出力電流Iとの関係を示す図である。図5からわかるように、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214では、排気の空燃比が高くなるほど(すなわち、リーンになるほど)、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214からの出力電流Iが大きくなるように、排気の空燃比に対して出力電流がリニアに(比例するように)変化する。加えて、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214は、排気の空燃比が理論空燃比であるときに出力電流Iがゼロになるように構成される。また、排気の空燃比が一定以上に大きくなったとき、或いは一定以下に小さくなったときには、排気の空燃比の変化に対する出力電流の変化の割合が小さくなる。
なお、上記例では、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214として限界電流式の空燃比センサを用いている。しかしながら、排気の空燃比に対して出力電流がリニアに変化するものであれば、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214として、例えばコップ型の限界電流式空燃比センサ等の他の構造の限界電流式の空燃比センサや、限界電流式ではない空燃比センサなど、如何なる空燃比センサを用いてもよい。また、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214は互いに異なる構造の空燃比センサであってもよい。
図1に戻り、電子制御ユニット200は、デジタルコンピュータから構成され、双方性バス201によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)202、RAM(ランダムアクセスメモリ)203、CPU(マイクロプロセッサ)204、入力ポート205及び出力ポート206を備える。
入力ポート205には、前述したエアフローメータ211やスロットルセンサ212、上流側空燃比センサ213、下流側空燃比センサ214の出力信号が、対応する各AD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、アクセルペダル220の踏み込み量(以下「アクセル踏込量」という。)に比例した出力電圧を発生する負荷センサ217の出力電圧が、対応するAD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、機関回転速度等を算出するための信号として、機関本体1のクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ218の出力信号が入力される。このように入力ポート205には、内燃機関100を制御するために必要な各種センサの出力信号が入力される。
出力ポート206には、対応する駆動回路208を介して燃料噴射弁13や点火プラグ14、スロットルアクチュエータ25などの各制御部品が電気的に接続される。
電子制御ユニット200は、入力ポート205に入力された各種センサの出力信号に基づいて、各制御部品を制御するための制御信号を出力ポート206から出力して内燃機関100を制御する。以下、電子制御ユニット200が実施する内燃機関100の空燃比制御について説明する。
<空燃比制御の概要>
電子制御ユニット200は、上流側空燃比センサ213の出力空燃比が目標空燃比となるように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比に基づいて燃料噴射弁13からの燃料噴射量をフィードバック制御する。なお、「出力空燃比」は、各空燃比センサ213,214の出力値に相当する空燃比を意味する。そして電子制御ユニット200は、基本的に以下で説明する片側破綻制御が実施されるように、目標空燃比を設定する。
<片側破綻制御>
片側破綻制御の実施中は、電子制御ユニット200は下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ空燃比となったときに、目標空燃比をリーン設定空燃比に切り替え、その後、その空燃比に維持する。なお本実施形態では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチであるリッチ判定空燃比(例えば、14.55)以下になったときに、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ空燃比になったと判断される。
リーン設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リーンである予め定められた空燃比であり、例えば、14.65〜20、好ましくは14.65〜18、より好ましくは14.65〜16程度とされる。リーン設定空燃比は、制御中心となる空燃比(本実施形態では、理論空燃比)にリーン補正量を加算した空燃比として表すこともできる。
目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられると、電子制御ユニット200は、三元触媒34に流入する排気の酸素過不足量を積算する。酸素過不足量は、三元触媒34に流入する排気の空燃比を理論空燃比にしようとしたときに過剰となる酸素の量又は不足する酸素の量(過剰な未燃ガス等の量)を意味する。特に、目標空燃比がリーン設定空燃比となっているときには三元触媒34に流入する排気中の酸素は過剰となり、この過剰な酸素は三元触媒34に吸蔵される。したがって、酸素過不足量の積算値(以下「積算酸素過不足量」という。)は、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAを表しているといえる。
酸素過不足量OEDの算出は、下記式(1)に示す通り、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupに基づいて行われる。より具体的には、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup、制御中心となる空燃比(本実施形態では理論空燃比)AFR、及び、エアフローメータ211の出力等に基づいて算出される燃焼室6内への吸入空気量の推定値又は燃料噴射弁13からの燃料供給量等に基づいて行われる。
ODE=0.23・Qi/(AFup−AFR) …(1)
ここで、0.23は空気中の酸素濃度、Qiは燃料噴射量、AFupは上流側空燃比センサ213の出力空燃比、AFRは制御中心となる空燃比(本実施形態では理論空燃比)をそれぞれ表している。
このようにして算出された酸素過不足量を積算した積算酸素過不足量が、予め定められた切替基準値(予め定められた切替基準吸蔵量Crefに相当)以上になると、それまでリーン設定空燃比に設定されていた目標空燃比が、リッチ設定空燃比に切り替えられ、その後、その空燃比に維持される。
リッチ設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リッチである予め定められた空燃比であり、例えば、12〜14.58、好ましくは13〜14.57、より好ましくは14〜14.55程度とされる。リッチ設定空燃比は、制御中心となる空燃比(本実施形態では理論空燃比)からリッチ補正量を減算した空燃比として表すこともできる。なお、本実施形態では、リッチ設定空燃比の理論空燃比からの差(リッチ度合い)は、リーン設定空燃比の理論空燃比からの差(リーン度合い)以下とされる。
その後、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が再びリッチ判定空燃比以下となったときに、目標空燃比が再びリーン設定空燃比に切り替えられ、その後、同様な操作が繰り返される。
ただし、上述したような制御を行った場合であっても、積算酸素過不足量が切替基準値に到達する前に三元触媒34の実際の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量に到達する場合がある。その原因としては、例えば、三元触媒34の最大吸蔵可能酸素量が低下したり、一時的に三元触媒34に流入する排気の空燃比が急激に変化したりすることが挙げられる。このように酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量に到達すると、三元触媒34からはリーン空燃比の排気が流出することになる。そこで、本実施形態では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリーン空燃比となったときには、目標空燃比がリッチ設定空燃比に切り替えられる。特に、本実施形態では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリーンであるリーン判定空燃比(例えば、14.65)以上になったときに、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリーン空燃比になったと判断される。
<タイムチャートを用いた片側破綻制御の説明>
図6を参照して、片側破綻制御の動作について説明する。図6は、片側破綻制御を行った場合における、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup、三元触媒34の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwn及び三元触媒34から流出する排気中のNOx濃度のタイムチャートである。
なお、空燃比補正量AFCは、三元触媒34に流入する排気の目標空燃比に関する補正量である。空燃比補正量AFCが0のときには目標空燃比は制御中心となる空燃比(以下「制御中心空燃比」という。)に等しい空燃比(本実施形態では、理論空燃比)とされ、空燃比補正量AFCが正の値であるときには目標空燃比は制御中心空燃比よりもリーンな空燃比(本実施形態では、リーン空燃比)となり、空燃比補正量AFCが負の値であるときには目標空燃比は制御中心空燃比よりもリッチな空燃比(本実施形態では、リッチ空燃比)となる。また、「制御中心空燃比」は、機関運転状態に応じて空燃比補正量AFCを加算する対象となる空燃比、すなわち空燃比補正量AFCに応じて目標空燃比を変動させる際に基準となる空燃比を意味する。
図示した例では、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrich(リッチ設定空燃比に相当)とされている。すなわち、目標空燃比はリッチ空燃比とされており、これに伴って上流側空燃比センサ213の出力空燃比がリッチ空燃比となる。三元触媒34に流入する排気中に含まれている未燃ガスは、三元触媒34で浄化され、これに伴って、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していく。したがって、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に減少していく。三元触媒34における浄化により三元触媒34から流出する排気中には未燃ガスは含まれていないため、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnはほぼ理論空燃比となる。三元触媒34に流入する排気の空燃比はリッチ空燃比となっているため、三元触媒34からのNOx排出量はほぼゼロとなる。
三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少すると、酸素吸蔵量OSAは時刻t1においてゼロに近づき、これに伴って、三元触媒34に流入した未燃ガスの一部は三元触媒34で浄化されずに流出し始める。これにより、時刻t1以降、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnが徐々に低下する。その結果、時刻t2において、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。
片側破綻制御では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になると、酸素吸蔵量OSAを増大させるべく、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFClean(リーン設定空燃比に相当)に切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比へと切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。
なお、本実施形態では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達してから、空燃比補正量AFCの切替を行っている。これは、三元触媒34の酸素吸蔵量が十分であっても、三元触媒34から流出する排気の空燃比が理論空燃比から極わずかにずれてしまう場合があるためである。逆に言うと、リッチ判定空燃比は、三元触媒34の酸素吸蔵量が十分であるときには三元触媒34から流出する排気の空燃比が到達することのないような空燃比とされる。
時刻t2において、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると、三元触媒34に流入する排気の空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比に変化する。また、これに伴って、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリーン空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから三元触媒34に流入する排気の空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。時刻t2において三元触媒34に流入する排気の空燃比がリーン空燃比に変化すると、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは増大する。また、これに伴って、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増大していく。
これにより、三元触媒34から流出する排気の空燃比が理論空燃比へと変化し、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnも理論空燃比に収束する。このとき、三元触媒34に流入する排気の空燃比はリーン空燃比となっているが、三元触媒34の酸素吸蔵能力には十分な余裕があるため、流入する排気中の酸素は三元触媒34に吸蔵され、NOxは還元浄化される。このため、三元触媒34からのNOxの排出はほぼゼロとなる。
その後、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが増大すると、時刻t3において、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefに到達する。このため、積算酸素過不足量ΣOEDが、切替基準吸蔵量Crefに相当する切替基準値OEDrefに到達する。本実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、三元触媒34への酸素の吸蔵を中止すべく、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比とされる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。
ここで、図6に示した例では、時刻t3において目標空燃比を切り替えると同時に酸素吸蔵量OSAが低下しているが、実際には目標空燃比を切り替えてから酸素吸蔵量OSAが低下するまでには遅れが発生する。また、内燃機関100を搭載した車両の加速により機関負荷が高くなって吸入空気量が瞬間的に大きくずれた場合等、三元触媒34に流入する排気の空燃比が意図せずに瞬間的に目標空燃比から大きくずれる場合がある。
これに対して、切替基準吸蔵量Crefは三元触媒34が新触であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも十分に低く設定される。このため、上述したような遅れが生じたり、実際の排気の空燃比が意図せずに目標空燃比から瞬間的に大きくずれたりしたときであっても、酸素吸蔵量OSAは最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しない。逆に言うと、切替基準吸蔵量Crefは、上述したような遅れや意図しない空燃比のずれが生じても、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しないように十分少ない量とされる。例えば、切替基準吸蔵量Crefは、三元触媒34が新触であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxの3/4以下、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下とされる。
時刻t3において目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えると、三元触媒34に流入する排気の空燃比はリーン空燃比からリッチ空燃比に変化する。これに伴って、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリッチ空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから三元触媒34に流入する排気の空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。三元触媒34に流入する排気中には未燃ガスが含まれることになるため、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していき、時刻t4において、時刻t1と同様に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnが低下し始める。このときも、三元触媒34に流入する排気の空燃比はリッチ空燃比となっているため、三元触媒34からのNOxの排出はほぼゼロされる。
次いで、時刻t5において、時刻t2と同様に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、空燃比補正量AFCがリーン設定空燃比に相当する値AFCleanに切り替えられる。その後、上述した時刻t1〜t5のサイクルが繰り返される。
以上の説明から分かるように、片側破綻制御を行っている限り、三元触媒34からのNOx排出量を常に抑制することができ、基本的には三元触媒34からのNOx排出量をほぼゼロとすることができる。また、積算酸素過不足量ΣOEDを算出する際の積算期間が短いため、長期間に亘って積算する場合に比べて算出誤差が生じにくい。このため、積算酸素過不足量ΣOEDの算出誤差によりNOxが排出されてしまうことが抑制される。
また、一般に、三元触媒34の酸素吸蔵量が一定に維持されると、その三元触媒34の酸素吸蔵能力が低下する。すなわち、三元触媒34の酸素吸蔵能力を高く維持するためには、三元触媒34の酸素吸蔵量が変動することが必要になる。これに対して、本実施形態によれば、図6に示したように、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは常に上下に変動しているため、酸素吸蔵能力が低下することが抑制される。
なお、上記実施形態では、時刻t2〜t3において、空燃比補正量AFCはリーン設定補正量AFCleanに維持される。しかしながら、斯かる期間において、空燃比補正量AFCは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に減少させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、時刻t2〜t3の期間中において、一時的に空燃比補正量AFCを0よりも小さな値(例えば、リッチ設定補正量等)としてもよい。すなわち、時刻t2〜t3の期間中において、一時的に目標空燃比をリッチ空燃比としてもよい。
同様に、上記実施形態では、時刻t3〜t5において、空燃比補正量AFCはリッチ設定補正量AFCrichに維持される。しかしながら、斯かる期間において、空燃比補正量AFCは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に増大させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、図7に示したように、時刻t3〜t5の期間中において、一時的に空燃比補正量AFCを0よりも大きな値(例えば、リーン設定補正量等)としてもよい(図6の時刻t6、t7等)。すなわち、時刻t3〜t5の期間中において、一時的に目標空燃比をリーン空燃比としてもよい。
ただし、この場合であっても、時刻t2〜t3における空燃比補正量AFCは、当該期間における目標空燃比の平均値と理論空燃比との差が、時刻t3〜t5における目標空燃比の平均値と理論空燃比との差よりも大きくなるように設定される。
なお、このような本実施形態における空燃比補正量AFCの設定、すなわち目標空燃比の設定は、電子制御ユニット200によって行われる。したがって、電子制御ユニット200は、片側破綻制御中は、下流側空燃比センサ214によって検出された排気の空燃比がリッチ判定空燃比以下となったときに、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefとなるまで、三元触媒34に流入する排気の目標空燃比を継続的又は断続的にリーン空燃比にすると共に、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上となったときに、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに達することなく下流側空燃比センサ214によって検出された排気の空燃比がリッチ判定空燃比以下となるまで、目標空燃比を継続的又は断続的にリッチ空燃比にしているといえる。
より簡単に言えば、本実施形態では、電子制御ユニット200は、片側破綻制御中は、下流側空燃比センサ214によって検出された空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると共に、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上になったときに目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えているといえる。
また、上記実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDは、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup及び燃焼室6内への吸入空気量の推定値等に基づいて算出されている。しかしながら、酸素吸蔵量OSAはこれらパラメータに加えて他のパラメータに基づいて算出されてもよいし、これらパラメータとは異なるパラメータに基づいて推定されてもよい。また、上記実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、目標空燃比がリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えられる。しかしながら、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えるタイミングは、例えば目標空燃比をリッチ設定空燃比からリーン設定空燃比へ切り替えてからの機関運転時間や積算吸入空気量等、他のパラメータを基準としてもよい。ただし、この場合であっても、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量よりも少ないと推定される間に、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えることが必要となる。
<上流側空燃比センサにおけるずれ>
ところで、機関本体1が複数の気筒を有する場合、各気筒から排出される排気の空燃比には気筒間でずれが生じる場合がある。一方、上流側空燃比センサ213は排気マニホールド31の集合管31bに配置されるが、その配置位置に応じて各気筒から排出された排気が上流側空燃比センサ213に曝される程度が気筒間で異なる。この結果、上流側空燃比センサ213の出力空燃比は、或る特定の気筒から排出された排気の空燃比の影響を強く受けることになる。このため、この或る特定の気筒から排出された排気の空燃比が全気筒から排出される排気の平均空燃比とは異なる空燃比となっている場合、平均空燃比と上流側空燃比センサ213の出力空燃比との間にはずれが生じる。すなわち、上流側空燃比センサ213の出力空燃比は実際の排気の平均空燃比よりもリッチ側又はリーン側にずれることになる。
また、未燃ガスのうち水素は空燃比センサの拡散律速層の通過速度が速い。このため、排気中の水素濃度が高いと、上流側空燃比センサ213の出力空燃比が排気の実際の空燃比よりも低い側(すなわち、リッチ側)にずれてしまう。
このように上流側空燃比センサ213の出力空燃比にずれが生じていると、上述したような制御を行っていても、三元触媒34からNOx及び酸素が流出したり、未燃ガスの流出頻度が高くなったりしてしまう場合がある。以下では、図8及び図9を参照して斯かる現象について説明する。
図8は、図6と同様な、三元触媒34の酸素吸蔵量OSA等のタイムチャートである。図8は、上流側空燃比センサ213の出力空燃比がリッチ側にずれている場合を示している。図中、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにおける実線は実際の出力空燃比を示している。一方、破線は、上流側空燃比センサ213周りを流通する排気の実際の空燃比を示している。
図8に示した例においても、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされており、よって目標空燃比がリッチ設定空燃比とされている。これに伴い、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupはリッチ設定空燃比と等しい空燃比となる。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比はリッチ側にずれているため、排気の実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーン側の空燃比となっている。すなわち、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupは、実際の空燃比(図中の破線)よりも低い(リッチ側)ものとなっている。このため、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅いものとなる。
また、図8に示した例では、時刻t2において、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。このため、上述したように、時刻t2において、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。すなわち、目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられる。
これに伴って、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupはリーン設定空燃比に等しい空燃比となる。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比はリッチ側にずれているため、排気の実際の空燃比はリーン設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている。すなわち、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupは、実際の空燃比(図中の破線)よりも低い(リッチ側)ものとなっている。このため、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAの増加速度は速いものとなる。
加えて、上流側空燃比センサ213の出力空燃比のずれが大きいと、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAの増加速度は極端に速くなる。したがって、この場合、図9に示したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupに基づいて算出された積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達する前に、実際の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達することになる。この結果、三元触媒34からNOx及び酸素が流出することになる。
一方、上述した例とは逆に、上流側空燃比センサ213の出力空燃比がリーン側にずれていると、酸素吸蔵量OSAの増加速度が遅くなると共に減少速度が速くなる。この場合、時刻t2から時刻t5までのサイクルが速くなり、三元触媒34からの未燃ガスの流出頻度が高くなる。
以上より、上流側空燃比センサ213の出力空燃比におけるずれを検出することが必要になると共に、検出されたずれに基づいて出力空燃比等の補正を行うことが必要である。
<通常学習制御>
そこで、本実施形態では、上流側空燃比センサ213の出力空燃比におけるずれを補償すべく、通常運転中(すなわち、上述したような目標空燃比に基づいてフィードバック制御を行っているとき)に通常学習制御が行われる。
ここで、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になるまでの期間(換言すれば目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてからリッチ空燃比に切り替えるまでの期間)を酸素増大期間(第1期間)とする。同様に、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまでの期間(換言すれば目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからリーン空燃比に切り替えるまでの期間)を酸素減少期間(第2期間)とする。本実施形態の通常学習制御では、酸素増大期間における積算酸素過不足量ΣODEの絶対値としてリーン酸素量積算値(第1酸素量積算値)を算出する。加えて、酸素減少期間における積算酸素過不足量の絶対値としてリッチ酸素量積算値(第2酸素量積算値)を算出する。そして、これらリーン酸素量積算値とリッチ酸素量積算値との差が小さくなるように制御中心空燃比AFRが補正される。図10にこの様子を示す。
図10は、制御中心空燃比AFR、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup、三元触媒34の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwn及び学習値sfbgのタイムチャートである。図10は、図8と同様に、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupが低い側(リッチ側)にずれている場合を示している。なお、学習値sfbgは、上流側空燃比センサ213の出力空燃比(出力電流)のずれに応じて変化する値であり、本実施形態では制御中心空燃比AFRを補正するのに用いられる。また、図中、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにおける実線は、上流側空燃比センサ213によって検出された出力に相当する空燃比を、破線は、上流側空燃比センサ213周りを流通する排気の実際の空燃比をそれぞれ示している。加えて、一点鎖線は、目標空燃比、すなわち空燃比補正量AFCに相当する空燃比を示している。
図示した例では、図6及び図8と同様に、時刻t1以前の状態では、制御中心空燃比が理論空燃比とされ、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされている。このとき、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupは実線で示したように、リッチ設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ213の出力空燃比にはずれが生じているため、排気の実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている(図10の破線)。ただし、図10に示した例では、図10の破線から分かるように、時刻t1以前の実際の排気の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンながらも、リッチ空燃比となっている。したがって、三元触媒34の酸素吸蔵量は徐々に減少していく。
時刻t1において、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、上述したように、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。時刻t1以降は、上流側空燃比センサ213の出力空燃比はリーン設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ213の出力空燃比のずれにより、排気の実際の空燃比は、リーン設定空燃比よりもリーンな空燃比、すなわちリーン度合いの大きい空燃比となる(図10の破線を参照)。このため、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは急速に増大する。
一方、酸素過不足量は、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup(より正確には、出力空燃比AFupと制御中心空燃比AFRとの差)に基づいて算出される。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにはずれが生じている。したがって、算出された酸素過不足量は、実際の酸素過不足量よりも少ない(すなわち、酸素量が少ない)値となる。その結果、算出された積算酸素過不足量ΣOEDは、実際の値よりも少なくなる。
時刻t2では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達する。このため、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比とされる。このとき、実際の酸素吸蔵量OSAは図10に示したように切替基準吸蔵量Crefよりも多くなっている。
時刻t2以降は、時刻t1以前の状態と同様に、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされ、よって目標空燃比はリッチ空燃比とされる。このときも、排気の実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている。この結果、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅くなる。加えて、上述したように、時刻t2において、三元触媒34の実際の酸素吸蔵量は切替基準吸蔵量Crefよりも多くなっている。このため、三元触媒34の実際の酸素吸蔵量がゼロに到達するまでには時間がかかる。
時刻t3では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、上述したように、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。したがって、目標空燃比がリッチ設定空燃比からリーン設定空燃比へと切り替えられる。
ところで、本実施形態では、上述したように、時刻t1から時刻t2までにおいて、積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。ここで、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えた時(時刻t1)から三元触媒34の酸素吸蔵量OSAの推定値が切替基準吸蔵量Cref以上になった時(時刻t2)までの期間を酸素増大期間Tincと称すると、本実施形態では酸素増大期間Tincに積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。図10では、時刻t1〜時刻t2の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値をR1で示している。
この酸素増大期間Tincの積算酸素過不足量ΣOED(R1)は、時刻t2における酸素吸蔵量OSAに相当する。しかしながら、上述したように、酸素過不足量の推定には上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupが用いられ、この出力空燃比AFupにはずれが生じている。このため、図10に示した例では、時刻t1〜時刻t2の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDは、時刻t2における実際の酸素吸蔵量OSAに相当する値よりも少ないものとなっている。
また、本実施形態では、時刻t2から時刻t3までにおいても、積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。ここで、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えた時(時刻t2)から下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する時(時刻t3)までの期間を酸素減少期間Tdecと称すると、本実施形態では酸素減少期間Tdecに積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。図10では、時刻t2〜時刻t3の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値をF1で示している。
この酸素減少期間Tdecの積算酸素過不足量ΣOED(F1)は、時刻t2から時刻t3までに三元触媒34から放出された総酸素量に相当する。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにはずれが生じている。このため、図10に示した例では、時刻t2〜時刻t3の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDは、時刻t2から時刻t3までに三元触媒34から実際に放出された総酸素量に相当する値よりも少ないものとなっている。
ここで、酸素増大期間Tincでは三元触媒34に酸素が吸蔵されると共に、酸素減少期間Tdecでは吸蔵されていた酸素が全て放出される。したがって、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1と、酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1とは基本的に同一の値になるのが理想的である。ところが、上述したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにずれが生じている場合、このずれに応じてこれら積算値の値も変化する。上述したように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比が低い側(リッチ側)にずれている場合、絶対値R1に対して絶対値F1の方が多くなる。逆に、上流側空燃比センサ213の出力空燃比が高い側(リーン側)にずれている場合、絶対値R1に対して絶対値F1の方が少なくなる。加えて、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1と酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1の差ΔΣOED(=R1−F1。以下、「過不足量誤差」という)は上流側空燃比センサ213の出力空燃比におけるずれの程度を表している。これら絶対値R1、F1の差が大きくなるほど、上流側空燃比センサ213の出力空燃比におけるずれが大きいといえる。
そこで、本実施形態では、過不足量誤差ΔΣOEDに基づいて、制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。特に、本実施形態では、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1と酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1の差ΔΣOEDが小さくなるように制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。
具体的には、本実施形態では、下記式(2)により学習値sfbgを算出すると共に、下記式(3)により制御中心空燃比AFRが補正される。
sfbg(n)=sfbg(n−1)+k1・ΔΣOED …(2)
AFR=AFRbase+sfbg(n) …(3)
なお、上記式(2)において、nは計算回数又は時間を表している。したがって、sfbg(n)は今回の計算又は現在の学習値である。加えて、上記式(2)におけるk1は、過不足量誤差ΔΣOEDを制御中心空燃比AFRに反映させる程度を表すゲインである。ゲインk1の値が大きいほど制御中心空燃比AFRの補正量が大きくなる。さらに、上記式(3)において、基本制御中心空燃比AFRbaseは、基本となる制御中心空燃比であり、本実施形態では理論空燃比である。
図10の時刻t3においては、上述したように、絶対値R1、F1に基づいて学習値sfbgが算出される。特に、図10に示した例では、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1よりも酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1の方が大きいことから、時刻t3において学習値sfbgは減少させられる。
ここで、制御中心空燃比AFRは、上記式(3)を用いて学習値sfbgに基づいて補正される。図10に示した例では、学習値sfbgは負の値となっているため、制御中心空燃比AFRは、基本制御中心空燃比AFRbaseよりも小さな値、すなわちリッチ側の値となっている。これにより、三元触媒34に流入する排気の空燃比がリッチ側に補正されることになる。
この結果、時刻t3以降、三元触媒34に流入する排気の実際の空燃比の目標空燃比に対するずれは時刻t3以前と比べて小さなものとなる。したがって、時刻t3以降、実際の空燃比を表す破線と目標空燃比を表す一点鎖線との間の差は、時刻t3以前における差よりも小さくなっている。
また、時刻t3以降も、時刻t1〜時刻t2における操作と同様な操作が行われる。したがって、時刻t4において積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達すると、目標空燃比がリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えられる。その後、時刻t5において、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達すると、再度、目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられる。
時刻t3〜時刻t4は、上述したように酸素増大期間Tincに該当し、よってこの間の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値は図10のR2で表せる。また、時刻t4〜時刻t5は、上述したように酸素減少期間Tdecに該当し、よってこの間の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値は図10のF2で表せる。そして、これら絶対値R2、F2の差ΔΣOED(=R2−F2)に基づいて、上記式(2)を用いて学習値sfbgが更新される。本実施形態では、時刻t5以降も同様な制御が繰り返され、これにより学習値sfbgの更新が繰り返される。
通常学習制御によりこのように学習値sfbgの更新を行うことにより、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupは徐々に目標空燃比から離れていくが、三元触媒34に流入する排気の実際の空燃比は徐々に目標空燃比に近づいていく。これにより、上流側空燃比センサ213の出力空燃比におけるずれを補償することができる。
また、上記実施形態では、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達する前に、目標空燃比の切替を行っている。このため、例えば酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量に到達してから、すなわち、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になってから目標空燃比を切り替える場合に比べて、学習値の更新頻度を増大させることができる。また、積算酸素過不足量ΣOEDは、その算出期間が長くなるほど誤差が生じやすい。本実施形態によれば、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量に到達する前に目標空燃比の切替が行われることから、その算出期間を短くすることができる。このため、積算酸素過不足量ΣOEDの算出における誤差を小さくすることができる。
なお、上述したように、学習値sfbgの更新は、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDと、この酸素増大期間Tincの直後に続く酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDとに基づいて行われるのが好ましい。これは、上述したように、酸素増大期間Tincに三元触媒34に吸蔵される総酸素量とこの直後に続く酸素減少期間Tdecに三元触媒34から放出される総酸素量が等しくなるためである。
加えて、上記実施形態では、1回の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDと、1回の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDとに基づいて学習値sfbgの更新が行われている。しかしながら、複数回の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの合計値又は平均値と、複数回の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの合計値又は平均値とに基づいて学習値sfbgの更新を行ってもよい。
また、上記実施形態では、学習値sfbgに基づいて、空燃比補正量AFC(すなわち、目標空燃比)を補正することとしている。しかしながら、学習値sfbgに基づいて補正するのは、空燃比に関する他のパラメータであってもよい。他のパラメータとしては、例えば、燃焼室6内への燃料供給量や、上流側空燃比センサ213の出力空燃比等が挙げられる。
したがって、以上をまとめると、片側破綻制御では、目標空燃比は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比に達したときにリーン空燃比に切り替えられる。加えて、目標空燃比は、三元触媒34の酸素吸蔵量(第1酸素量積算値)が所定の切替基準量以上になったときに、リッチ空燃比に切り替えられる。換言すると、本実施形態では、目標空燃比は、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側の異なる複数の空燃比間で切り替えられる。そして、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから酸素吸蔵量の変化量が切替基準量以上になるまでの第1期間における積算酸素過不足量の絶対値である第1酸素量積算値と、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまでの第2期間における積算酸素過不足量の絶対値である第2酸素量積算値とに基づいて、これら第1酸素量積算値と第2酸素量積算値との差が小さくなるように目標空燃比(空燃比に関するパラメータ)が補正される通常学習制御を行うといえる。
<下流側空燃比センサの時間的な応答遅れ>
図3を参照して前述したように、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214のセンサ素子部50では、多孔質焼結体により形成された拡散律速層54を通過して被測ガス室57に導入された排気が排気側電極52に曝されると、固体電解質層51を介して排気側電極52と大気側電極53との間で酸素イオンの移動が生じる。このとき電極52、53間を流れる電流が上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214の出力空燃比となる。
したがって、例えば内燃機関100の運転中に、多孔質焼結体により形成された拡散律速層54の一部がスス等によって塞がれると、排気管32を流れる排気が、拡散律速層54で撹拌されて被測ガス室57に導入されるまでの間に時間的な遅れが生じる場合がある。すなわち、排気管32を流れる排気の空燃比と、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214の出力空燃比と、が一致するまでに、時間的な遅れが生じる場合がある。
また、センサ素子部50を、複数の孔が形成された保護ケースによって覆っている場合には、当該複数の孔の一部がスス等によって塞がれる場合もある。このような場合も、排気管32を流れる排気の空燃比と、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214の出力空燃比と、が一致するまでに、時間的な遅れが生じることがある。
このように、上流側空燃比センサ213及び下流側空燃比センサ214には応答遅れが生じる場合がある。そして、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じると、片側破綻制御を実施しつつ通常学習制御を実施する場合に、不要な学習をしてしまうおそれがあることがわかった。以下、この点について、図11を参照して説明する。
図11は、片側破綻制御を実施しつつ通常学習制御を実施している場合に、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じたときの様子を示すタイムチャートである。なお図11では、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにはズレが生じていないものとする。また図11(F)の実線は、下流側空燃比センサ214によって検出された出力に相当する空燃比を示し、破線は、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比を示している。
図11(F)に破線で示すように、時刻t1で、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリッチ判定空燃比AFrich以下となっている。しかしながら、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じるようになると、図11(F)に実線で示すように、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になるのが、下流側空燃比センサ214に応答遅れに応じた時間分だけ遅れ、時刻t1よりも遅い時刻t2となる。
したがって、時刻t2で空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFClean(リーン設定空燃比に相当)に切り替えられ、目標空燃比リッチ空燃比からリーン空燃比へと切り替えられる。これにより、時刻t2以降は、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが増大していく。
そして、時刻t3で、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、三元触媒34への酸素の吸蔵を中止すべく、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられ、目標空燃比がリーン空燃比からリッチ空燃比へと切り替えられる。これにより、時刻t3以降は、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが増大していく。
ここで酸素過不足量OEDは、前述した(1)式に示すように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup(より正確には、出力空燃比AFupと制御中心空燃比AFRとの差)に基づいて算出されている。すなわち、時刻t2から時刻t3までの酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値であるリーン酸素量積算値(換言すれば酸素増大期間Tincにおける酸素吸蔵量)は、目標空燃比がリーン空燃比に切り替えられてからの上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupに基づいて算出されている。そのため、リーン酸素量積算値は、下流側空燃比センサ214の応答遅れの影響を受けず、当該期間Tincのリーン酸素量積算値と、実際に当該期間Tincにおいて三元触媒34に吸蔵された酸素量とはほぼ一致する。
時刻t4で、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリッチ判定空燃比AFrich以下となる。しかしながら、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じているので、図11(F)に実線で示すように、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になるのが、下流側空燃比センサ214に応答遅れに応じた時間分だけ遅れ、時刻t4よりも遅い時刻t5となる。
そのため、時刻t4から時刻t5までの間は、目標空燃比がリッチ空燃比のまま維持され、時刻t5で目標空燃比がリッチ空燃比からリーン空燃比に切り替えられることになる。すなわち、時刻t4から時刻t5までの間は、図11(C)に示すように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリッチ空燃比のまま維持されることになる。
このとき図11(D)に示すように、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリッチ判定空燃比AFrich以下となった時刻t4の時点で、ほぼゼロとなる。
しかしながら、酸素過不足量は、前述した(1)式に示すように、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupに基づいて算出されている。そのため、時刻t4で三元触媒34の酸素吸蔵量OSAがほぼゼロになり、時刻t4以降は三元触媒34から酸素がほとんど放出されなくなるにもかかわらず、時刻t4から時刻t5までの間は上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリッチ空燃比のまま維持されているので、図11(E)に示すように、時刻t3から時刻t4までの間は積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値(すなわち三元触媒34からの酸素放出量)が増加することになる。
したがって、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じるようになると、時刻t3から時刻t5までの酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値であるリッチ酸素量積算値(換言すれば酸素減少期間Tdecにおける酸素放出量)が、実際に当該期間Tdecにおいて三元触媒34から放出された酸素量よりも大きくなってしまう。
一方で、前述したように時刻t2から時刻t3までの酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値であるリーン酸素量積算値(換言すれば酸素増大期間Tincにおける酸素吸蔵量)は、下流側空燃比センサ214の応答遅れの影響を受けず、当該期間Tincのリーン酸素量積算値と、実際に当該期間Tincにおいて三元触媒34に吸蔵された酸素量とはほぼ一致している。
そのため、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じるようになると、リーン酸素量積算値よりもリッチ酸素量積算値が大きくなり、図11(G)に示すように、時刻t5で学習値sfbgが減少させられることになる。
したがって図示した例では、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにズレが生じていないにもかかわらず、図11(A)に示すように、制御中心空燃比AFRがリッチ側に補正されることになる。その結果、時刻t5以降は、時刻t1以降と比較して酸素吸蔵量OSAの増加速度が遅くなると共に減少速度が速くなり、時刻t3から時刻5までのサイクルが早くなる。そのため、三元触媒34からの未燃ガスの流出頻度が高くなる。さらに、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じているため、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリッチ判定空燃比AFrich以下になってから、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になるまでの間に時間的な遅れが生じ、かつ、この間は目標空燃比がリッチ空燃比に設定されたままとなるので、三元触媒34からの未燃ガスの流出量も多くなる。
このように、片側破綻制御を実施しつつ通常学習制御を実施しているときに、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じるようになると、不要な学習(すなわち目標空燃比に対する不要な補正)が行われ、結果として排気エミッションが悪化するおそれがある。
そこで本実施形態による電子制御ユニット200は、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れがあるか否かを判定し、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れがあると判定した場合には、片側破綻制御に替えて両側破綻制御が実施されるように、目標空燃比を設定する。以下、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れがあるか否かの判定方法について説明した後、両側破綻制御について説明する。
<下流側空燃比センサの時間的な応答遅れの判定>
本実施形態による電子制御ユニット200は、例えば内燃機関100が搭載される車両の減速時など、内燃機関100の運転中に所定の燃料カット制御の実行条件が成立したときに、機関本体1の燃焼室6への燃料供給を停止する燃料カット制御を実施している。
燃料カット制御が実施されると、機関本体1の燃焼室6への燃料供給が停止されるため、三元触媒34に多量の空気、すなわち酸素過剰の気体が流入することになる。そのため、燃料カット制御の実施中は、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが急増することになる。
そこで本実施形態による電子制御ユニット200は、燃料カット制御の終了後は、三元触媒34に吸蔵されている酸素を三元触媒34から放出させて三元触媒34の酸素吸蔵能力を回復させるために、燃料カット制御に続けて、燃料カット後リッチ制御を実施するようにしている。この燃料カット後リッチ制御は、目標空燃比を、片側破綻制御中に設定されるリッチ設定空燃比よりもリッチ度合いの高い所定のハイリッチ空燃比(例えば13.5)に設定することで、三元触媒34に吸蔵されている酸素を三元触媒34から速やかに放出し、三元触媒34の酸素吸蔵能力を回復させる制御である。
図12は、燃料カット後リッチ制御を実施したときの下流側空燃比センサ214の出力空燃比を、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていない場合と生じている場合とで比較して示したタイムチャートである。
燃料カット制御の終了後、時刻t1で当該燃料カット制御に続けて燃料カット後リッチ制御が実施されると、目標空燃比が、ハイリッチ空燃比(本実施形態では13.5)に設定される。これにより、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupが13.5となる。その結果、時刻t1以降は、三元触媒34から流出する排気の空燃比は、燃料カット制御中のリーンな空燃比から急速に減少していき、理論空燃比に収束する。
このとき、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていなければ、図12(B)に示すように、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnも、同様に急速に低下していき、理論空燃比に収束する。
一方で、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていれば、図12(D)に示すように、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnは、燃料カット制御中のリーン空燃比から急速に減少することなく、緩やかに減少していく。そのため、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていない場合と比較して、理論空燃比に収束するまでに時間がかかる。
そこで本実施形態では、燃料カット後リッチ制御を予め定められた所定時間実施しても、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnが所定のストイキ判定空燃比とならない場合は、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていると判定することにした。ストイキ判定空燃比は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnが理論空燃比相当になっていると判定できる任意の空燃比である。本実施形態では、ストイキ判定空燃比を理論空燃比としているが、理論空燃比以外にも、例えばリーン判定空燃比AFleanや、理論空燃比からリーン判定空燃比AFleanまでの間の任意の空燃比をストイキ判定空燃比としても良い。
なお、本実施形態では、燃料カット後リッチ制御中に下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがストイキ判定空燃比(本実施形態では理論空燃比)以下になれば、燃料カット後リッチ制御を終了するようにしている。そのため、図12(A)及び(B)に示すように、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていない場合は、時刻t2以降は片側破綻制御が実施されることになる。
一方で、燃料カット後リッチ制御中に下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnに理論空燃比になることなく所定時間が経過したときも、燃料カット後リッチ制御を終了するようにしている。そのため、図12(C)及び(D)に示すように、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合は、時刻t3以降は両側破綻制御が実施されることになる。以下、この両側破綻制御について説明する。
<両側破綻制御>
両側破綻制御の実施中は、電子制御ユニット200は、片側破綻制御のときと同様に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ空燃比となったときに、目標空燃比をリーン設定空燃比に切り替え、その後、その空燃比に維持する。なお本実施形態では、片側破綻制御のときと同様に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ空燃比になったと判断される。
そして両側破綻制御の実施中は、電子制御ユニット200は、片側破綻制御のときと異なり、目標空燃比をリーン設定空燃比に切り替えた後は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリーンなリーン判定空燃比(例えば、14.65)以上になったときに、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリーン空燃比になったと判断する。このとき電子制御ユニット200は、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比に切り替え、その後、その空燃比に維持する。リッチ設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リッチである予め定められた一定値である空燃比であり、例えば、10〜14.55、好ましくは12〜14.52、より好ましくは13〜14.5程度とされる。
この結果、両側破綻制御の実施中は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になると、目標空燃比がリーン設定空燃比に設定されることになる。一方、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリーン判定空燃比以上になると、目標空燃比がリッチ設定空燃比に設定されることになる。その後、同様な制御が繰り返される。
<タイムチャートを用いた両側破綻制御の説明>
図13を参照して、両側破綻制御の動作について説明する。図13は、両側破綻制御を行った場合の、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFup、三元触媒34の酸素吸蔵量OSA及び下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnのタイムチャートである。なお、図13では、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにはズレが生じておらず、また、下流側空燃比センサ214に応答遅れも生じていないものとする。
図示した例では、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrich(リッチ設定空燃比に相当)に設定されている。すなわち、目標空燃比はリッチ空燃比とされており、これに伴って上流側空燃比センサ213の出力空燃比がリッチ空燃比となっている。三元触媒34に流入する排気中に含まれている未燃ガスが三元触媒34で浄化され、これに伴って三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していく。一方、三元触媒34における浄化により、三元触媒34から流出する排気中には未燃ガスは含まれていないため、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnはほぼ理論空燃比となる。
三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少すると、酸素吸蔵量OSAは時刻t1においてゼロに近づく(例えば、図2のClowlim)。これに伴って、三元触媒34に流入した未燃ガスの一部は三元触媒34で浄化されずに流出し始める。これにより、時刻t1以降、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnが徐々に低下する。その結果、図示した例では、時刻t2において、酸素吸蔵量OSAがほぼゼロになると共に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。
両側破綻制御では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になると、酸素吸蔵量OSAを増大させるべく、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFClean(リーン設定空燃比に相当)に切り替えられる。したがって、目標空燃比は、リッチ空燃比からリーン空燃比へと切り替えられる。
時刻t2において、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると、三元触媒34に流入する排気の空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比に変化する。また、これに伴って、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリーン空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから三元触媒34に流入する排気の空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。時刻t2において三元触媒34に流入する排気の空燃比がリーン空燃比に変化すると、排気中の酸素が三元触媒34に吸蔵される。このため、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは増大していくと共に、三元触媒34から流出する排気の空燃比が理論空燃比に収束する。この結果、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがほぼ理論空燃比となる。
時刻t2以降においては、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは、徐々に増加していく。三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが徐々に増加すると、酸素吸蔵量OSAはやがて最大吸蔵可能酸素量Cmaxに近づく(例えば、図2のCuplim)。時刻t3において酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに近づくと、三元触媒34に流入した酸素の一部は三元触媒34で吸蔵されずに流出し始める。これにより、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnが徐々に上昇する。その結果、図示した例では、時刻t4において、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達すると共に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanに到達する。
両側破綻制御では、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になると、酸素吸蔵量OSAを減少させるべく、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比は、リーン空燃比からリッチ空燃比へと切り替えられる。
時刻t4において、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えると、三元触媒34に流入する排気の空燃比はリーン空燃比からリッチ空燃比に変化する。また、これに伴って、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリッチ空燃比となる。時刻t4において三元触媒34に流入する排気の空燃比がリッチ空燃比に変化すると、排気中の未燃ガスが三元触媒34に吸蔵されている酸素によって浄化される。このため、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは減少していくと共に、三元触媒34から流出する排気中の空燃比が理論空燃比に収束する。この結果、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがほぼ理論空燃比となる。
時刻t4以降においては、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは、徐々に減少していく。三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少すると、酸素吸蔵量OSAはやがて時刻t5において、時刻t1と同様に、ゼロに近づき、図2のCdwnlimまで減少する。その後、時刻t6において、時刻t2と同様に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。その後は、時刻t1〜t4の操作と同様な操作が繰り返される。
本実施形態による下流側空燃比センサ214は、酸素センサと異なり、ヒステリシスを有さない。このため、下流側空燃比センサ214は、実際の排気の空燃比に対して応答性良く、三元触媒34からの未燃ガス及び酸素(及びNOx)の流出を迅速に検出することができる。したがって、両側破綻制御を実施しても、三元触媒34からの未燃ガス及びNOx(及び酸素)の流出を抑制することができる。
<下流側空燃比センサに応答遅れが生じている場合の両側破綻制御>
図14は、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合に両側破綻制御を実施したときの様子を示すタイムチャートである。なお図14では、上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupにはズレが生じていないものとする。また図14(F)の実線は、下流側空燃比センサ214によって検出された出力に相当する空燃比を示し、破線は、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比を示している。
下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合は、図14(F)に示すように、時刻t1で、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリッチ判定空燃比AFrich以下になってから所定時間経過した時刻t2で、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になる。
時刻t2で、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になると、酸素吸蔵量OSAを増大させるべく、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFClean(リーン設定空燃比に相当)に切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比へと切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。これにより、三元触媒34から流出する排気の空燃比が理論空燃比へと変化し、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnも理論空燃比に収束する。
そして時刻t2で、目標空燃比がリッチ空燃比からリーン空燃比へと切り替えられたことにより、時刻t2以降は、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAが増加していく。
このとき片側破綻制御の場合は、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になったときに、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替え、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えていた。これに対して両側破綻制御の場合は、時刻t4で、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になるまで目標空燃比がリーン空燃比のまま維持される。
ここで、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合は、図14(F)に破線で示すように、時刻t4よりも前の時刻t3の時点で、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比はリーン判定空燃比AFlean以上になっている。
そして図14(D)に示すように、三元触媒34の酸素吸蔵量OSAは、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリーン判定空燃比AFlean以上となった時刻t3の時点で、ほぼ最大可能酸素量Cmaxに達している。したがって、時刻t3以降は三元触媒34が酸素をほとんど吸蔵しなくなる。
しかしながら、時刻t3から時刻t4までの間は上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリーン空燃比のまま維持されているので、図14(E)で示すように、時刻t3から時刻t4までの間は積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値(すなわち三元触媒34の酸素吸蔵量)が増加することになる。
このように、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合に両側破綻制御を実施すると、時刻t2から時刻t4までの酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値であるリーン酸素量積算値(換言すれば酸素増大期間Tincにおける酸素吸蔵量)も、実際に当該期間Tincにおいて三元触媒34に吸蔵された酸素量よりも大きくなる。
一方、時刻t4から時刻t6までの酸素減少期間Tdecにおいては、片側破綻制御と同様の制御が実施されるので、片側破綻制御を実施したときと同様の現象が生じる。すなわち、時刻t5以降は三元触媒34から酸素がほとんど放出されなくなるにもかかわらず、時刻t5から時刻t6までの間は上流側空燃比センサ213の出力空燃比AFupがリッチ空燃比のまま維持されているので、図14(E)で示すように、時刻t5から時刻t6までの間は積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値(すなわち三元触媒34からの酸素放出量)が増加することになる。したがって、時刻t4から時刻t6までの酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値であるリッチ酸素量積算値も、実際に当該期間Tdecにおいて三元触媒34から放出された酸素量よりも大きくなる。
したがって、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合に両側破綻制御を実施すると、リーン酸素量積算値及びリッチ酸素量積算値の双方が、それぞれ下流側空燃比センサ214の応答遅れに起因して、実際の酸素吸蔵量及び酸素放出量よりも大きくなる。そして、リーン酸素量積算値と実際の酸素吸蔵量との差分量(図14(E)の時刻t3から時刻4までの積算酸素過不足量ΣOEDの増加分)と、リッチ酸素量積算値と実際の酸素放出量との差分量(図14(E)の時刻t5から時刻6までの積算酸素過不足量ΣOEDの増加分)とは、それぞれ下流側空燃比センサ214の応答遅れに起因して生じるものであるためほぼ等しくなる。
そのため、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じている場合に両側破綻制御を実施するようにすれば、リーン酸素量積算値及びリッチ酸素量積算値の双方が実際の酸素吸蔵量及び酸素放出量よりも大きくなるものの、リーン酸素量積算値とリッチ酸素量積算値とを一致させることができる。したがって、図14(G)に示すように、時刻t6で学習値sfbgはゼロのままとなる。その結果、図14(A)に示すように、制御中心空燃比AFRがリッチ側に補正されることもないので、三元触媒34からの未燃ガスの流出頻度が高くなるのを抑制することができる。
<下流側空燃比センサの応答遅れ判定制御>
図15は、本実施形態による下流側空燃比センサ214の応答遅れ判定制御について説明するフローチャートである。電子制御ユニット200は、本ルーチンを機関運転中に所定の演算周期で繰り返し実行する。
ステップS1において、電子制御ユニット200は、フラグF1が0に設定されているか否かを判定する。フラグF1は、燃料カット後リッチ制御の実施中に1に設定されるフラグであり、初期値は0に設定されている。電子制御ユニット200は、フラグF1が0に設定されていればステップS2の処理に進み、フラグF1が1に設定されていればステップS11の処理に進む。
ステップS2において、電子制御ユニット200は、フラグF2が0に設定されているか否かを判定する。フラグF2は、燃料カット制御の実施中に1に設定されるフラグであり、初期値は0に設定されている。電子制御ユニット200は、フラグF2が0に設定されていればステップS3の処理に進み、フラグF2が1に設定されていればステップS6の処理に進む。
ステップS3において、電子制御ユニット200は、燃料カット制御の実行条件が成立しているか否かを判定する。具体的には電子制御ユニット200は、アクセル踏込量がゼロであり、機関回転速度が予め定められた所定の回転速度以上であれば、燃料カット制御の実行条件が成立していると判定する。電子制御ユニット200は、燃料カット制御の実行条件が成立していなければ今回の処理を終了し、燃料カット制御の実行条件が成立していればステップS4の処理に進む。
ステップS4において、電子制御ユニット200は、燃料カット制御を実施する。具体的には電子制御ユニット200は、機関本体1の燃焼室6への燃料供給を停止する。
ステップS5において、電子制御ユニット200は、フラグF2を1に設定する。
ステップS6において、電子制御ユニット200は、燃料カット制御の終了条件が成立しているか否かを判定する。具体的には電子制御ユニット200は、アクセル踏込量がゼロよりも大きければ、燃料カット制御の終了条件が成立していると判定する。電子制御ユニット200は、燃料カット制御の終了条件が成立していなければ、今回の処理を終了して燃料カット制御を継続して実施する。一方で電子制御ユニット200は、燃料カット制御の終了条件が成立していれば、ステップS7の処理に進む。
ステップS7において、電子制御ユニット200は、燃料カット制御を終了させる。
ステップS8において、電子制御ユニット200は、フラグF2を0に戻す。
ステップS9において、電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御を実施する。具体的には電子制御ユニット200は、目標空燃比を、リッチ設定空燃比よりもリッチ度合いの高い所定のハイリッチ空燃比に設定する。
ステップS10において、電子制御ユニット200は、フラグF1を1に設定する。
ステップS11において、電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御の実施中に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがストイキ判定空燃比以下になったか否かを判定する。電子制御ユニット200は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがストイキ判定空燃比まで低下していなければ、燃料カット後リッチ制御が実施されてから所定時間が経過したか否かを判定するためにステップS12の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御の実施中に下流側空燃比センサ214の出力空燃比AFdwnがストイキ判定空燃比以下になっていれば、ステップS17の処理に進む。
ステップS12において、電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御が実施されてから所定時間が経過したか否かを判定する。電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御が実施されてから所定時間が経過していなければ、今回の処理を終了して燃料カット後リッチ制御を継続する。一方で電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御が実施されてから所定時間が経過していればステップS13の処理に進む。
ステップS13において、電子制御ユニット200は、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れが生じていると判定する。すなわち、電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御が実施されてから所定時間が経過したにもかかわらず、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が理論空燃比以下になっていなければ、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れが生じていると判定する。
ステップS14において、電子制御ユニット200は、フラグF3を1に設定する。フラグF3は、片側破綻制御が実施されるように目標空燃比を設定する場合に0に設定され、両側破綻制御が実施されるように目標空燃比を設定する場合に1に設定されるフラグであり、初期値は0に設定される。
ステップS15において、電子制御ユニット200は、燃料カット制御を終了させる。
ステップS16において、電子制御ユニット200は、フラグF1を0に戻す。
ステップS17において、電子制御ユニット200は、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れは生じていないと判定する。すなわち電子制御ユニット200は、燃料カット後リッチ制御が実施されてから所定時間が経過する前に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が理論空燃比以下になっていれば、下流側空燃比センサ214に時間的な応答遅れは生じていないと判定する。
ステップS18において、電子制御ユニット200は、フラグF3を0に戻す。
<片側破綻制御又は両側破綻制御を実施するための目標空燃比の設定制御>
図16は、片側破綻制御又は両側破綻制御を実施するための本実施形態による目標空燃比の設定制御について説明するフローチャートである。電子制御ユニット200は、本ルーチンを、図15を参照して前述した下流側空燃比センサ214の応答遅れ判定制御とは別途に機関運転中に所定の演算周期で繰り返し実行する。
ステップS21において、電子制御ユニット200は、片側破綻制御及び両側破綻制御の実施許可があるか否かを判定する。電子制御ユニット200は、例えば前述した燃料カット制御や燃料カット後リッチ制御などの、片側破綻制御及び両側破綻制御よりも優先的に実施すべき制御の実行条件が1つでも成立している場合は、片側破綻制御及び両側破綻制御の実施を不許可として今回の処理を終了する。一方で電子制御ユニット200は、片側破綻制御及び両側破綻制御よりも優先的に実施すべき制御の実行条件が全て不成立である場合は、片側破綻制御又は両側破綻制御のいずれかを実施すべくステップS22の処理に進む。
ステップS22において、電子制御ユニット200は、図15を参照して前述した下流側空燃比センサ214の応答遅れ判定制御において0又は1に設定されるフラグF3の値を読み込む。電子制御ユニット200は、フラグF3が0に設定されていればステップS23の処理に進む、フラグF3が1に設定されていればステップS24の処理に進む。
ステップS23において、電子制御ユニット200は、片側破綻制御が実施されるように目標空燃比を設定する。具体的には電子制御ユニット200は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン設定空燃比に切り替えると共に、積算酸素過不足量ΣOED(リーン酸素量積算値)が三元触媒34の最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも少ない吸蔵量に相当する所定の切替基準値OEDref以上になったときに目標空燃比をリッチ設定空燃比に切り替える。
ステップS24において、電子制御ユニット200は、両側破綻制御が実施されるように目標空燃比を設定する。具体的には電子制御ユニット200は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン設定空燃比に切り替えると共に、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリーン判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリッチ設定空燃比に切り替える。
以上説明した本実施形態によれば、機関本体1と、機関本体1の排気通路に配置された酸素吸蔵能力を有する三元触媒34(排気浄化触媒)と、三元触媒34の排気流れ方向上流側に配置され、当該三元触媒34に流入する排気の空燃比を検出するための上流側空燃比センサ213と、三元触媒34の排気流れ方向下流側に配置され、当該三元触媒34から流出する排気の空燃比を検出するための下流側空燃比センサ214と、を備える内燃機関100を制御する電子制御ユニット200(制御装置)が、過不足量推定部と、燃料供給量制御部と、目標空燃比設定部と、目標空燃比補正部と、応答遅れ判定部と、を備えるように構成されている。
過不足量推定部は、上流側空燃比センサ213の出力空燃比に基づいて、三元触媒34に流入する排気中の酸素過不足量を推定する。
燃料供給量制御部は、上流側空燃比センサ213の出力空燃比が目標空燃比となるように、機関本体1の燃焼室6に供給される燃料供給量を制御する。
目標空燃比設定部は、下流側空燃比センサ214の出力空燃比が理論空燃比よりもリッチな所定のリッチ判定空燃比以下になったときに、目標空燃比を理論空燃比よりもリーンなリーン空燃比に切り替えると共に、目標空燃比がリーン空燃比とされている期間における酸素過不足量の積算値の絶対値であるリーン酸素量積算値(第1酸素量積算値)が三元触媒34の最大吸蔵可能酸素量Cmax(最大酸素吸蔵量)よりも少ない所定の切替基準値OEDref以上になったときに、目標空燃比を理論空燃比よりもリッチなリッチ空燃比に切り替える片側破綻制御と、下流側空燃比センサの出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると共に、当該下流側空燃比センサの出力空燃比が理論空燃比よりもリーンな所定のリーン判定空燃比以上になったときに、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替える両側破綻制御と、を選択的に実施することができるように目標空燃比を設定する。
目標空燃比補正部は、リーン酸素量積算値と、目標空燃比がリッチな空燃比とされている期間における酸素過不足量の積算値の絶対値であるリッチ酸素量積算値(第2酸素量積算値)とに基づいて、これらリーン酸素量積算値とリッチ酸素量積算値との差が小さくなるように、目標空燃比を補正する。
応答遅れ判定部は、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが有るか否かを判定する。応答遅れ判定部は、例えば燃料カット後リッチ制御を所定時間実施しても、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がストイキ判定空燃比以下にならなければ、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが有ると判定する。
そして前述した目標空燃比設定部は、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが無いと判定されていれば、片側破綻制御が実施されるように目標空燃比を設定し、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが有ると判定されていれば、両側破綻制御が実施されるように目標空燃比を設定している。
このように、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが生じていないときは、片側制御制御を実施されるので、三元触媒34からのNOx排出量を常に抑制することができる。また通常学習制御によってリーン酸素量積算値とリッチ酸素量積算値との差が小さくなるように目標空燃比が補正されるので、上流側空燃比センサ213の出力空燃比にずれが生じたとしても、三元触媒34からのNOx排出量を抑制することができ、また、三元触媒34からの未燃ガスの流出頻度が高くなるのを抑制することができる。
一方で、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが生じているときは、片側破綻制御に替えて両側制御制御が実施される。
片側破綻制御では、目標空燃比のリッチ空燃比からリーン空燃比への切り替えは、下流側空燃比センサの出力空燃比に基づいて実施されるが、目標空燃比のリーン空燃比からリッチ空燃比への切り替えは、リーン酸素量積算値(換言すれば酸素吸蔵量)が三元触媒34の最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも少ない所定の切替基準値OEDref以上になったときに行われる。リーン酸素量積算値は、上流側空燃比センサの出力空燃比に基づいて推定されている酸素過不足量から算出されるものである。したがって片側破綻制御では、目標空燃比のリーン空燃比からリッチ空燃比への切り替えは、上流側空燃比センサの出力空燃比に基づいて実施されているということができる。
このように片側破綻制御では、目標空燃比のリッチ空燃比からリーン空燃比への切り替えのみが下流側空燃比センサ214の出力空燃比に基づいて実施されるため、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが生じると、下流側空燃比センサ214周りを流通する排気の実際の空燃比がリッチ判定空燃比以下となって三元触媒34の酸素吸蔵量がほぼゼロになった後も、上流側空燃比センサ213の出力空燃比がリッチ空燃比のまま維持されてしまい、リッチ酸素量積算値(換言すれば酸素放出量)のみが、実際の酸素放出量よりも大きくなってしまう。そのため、通常学習制御によってリーン酸素量積算値とリッチ酸素量積算値との差が小さくなるように目標空燃比を補正していると、目標空燃比に対して不要な補正が行われ、結果として排気エミッションが悪化することになる。
これに対し、両側破綻制御では、目標空燃比のリッチ空燃比からリーン空燃比からの切り替えと、リーン空燃比からリッチ空燃比への切り替えとが、いずれも下流側センサの出力空燃比に基づいて実施されることになる。したがって、下流側空燃比センサ214の応答に遅れが生じていたとしても、リーン酸素量積算値及びリッチ酸素量積算値の双方が、下流側空燃比センサ214の応答に遅れに起因して実際の酸素吸蔵量及び酸素放出量よりも大きくなり、リッチ酸素量積算値のみが実際の酸素放出量よりも大きくなってしまうのを抑制することができる。そのため、目標空燃比に対して不要な補正が行われるのを抑制できるので、排気エミッションの悪化を抑制できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
上記の実施形態では、燃料カット後リッチ制御を所定時間実施しても、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がストイキ判定空燃比以下にならなければ、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていると判定していた。しかしながら、下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じているか否かの判定は、このような方法に限られるものではない。例えば、下流側空燃比センサ214の出力空燃比がリッチ判定空燃比AFrich以下になってから、リッチ判定空燃比AFrichよりもリーンな任意の空燃比になるまでの時間を計測し、その計測時間が所定の閾値以上となったときに下流側空燃比センサ214に応答遅れが生じていると判定しても良い。
上記の実施形態では、内燃機関100の一例として、無過給ガソリンエンジンを例示して説明したが、上記の構成に限られるものではなく、気筒配列、燃料の噴射態様、吸排気系の構成、動弁機構の構成、過給器の有無、過給態様等が、上記の構成と異なるものであっても良い。