以下、図面を参照して本発明の内燃機関の制御装置について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。図1は、本発明の第一実施形態に係る制御装置が用いられる内燃機関を概略的に示す図である。
<内燃機関全体の説明>
図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。吸気弁6は吸気ポート7を開閉し、排気弁8は排気ポート9を開閉する。
図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4の内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。点火プラグ10は、点火信号に応じて火花を発生させるように構成される。また、燃料噴射弁11は、噴射信号に応じて、所定量の燃料を燃焼室5内に噴射する。なお、燃料噴射弁11は、吸気ポート7内に燃料を噴射するように配置されてもよい。また、本実施形態では、燃料として理論空燃比が14.6であるガソリンが用いられる。しかしながら、本発明の内燃機関は他の燃料を用いても良い。
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。吸気ポート7、吸気枝管13、サージタンク14、吸気管15は吸気通路を形成する。また、吸気管15内にはスロットル弁駆動アクチュエータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。スロットル弁18は、スロットル弁駆動アクチュエータ17によって回動せしめられることで、吸気通路の開口面積を変更することができる。
一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結される。排気マニホルド19は、各排気ポート9に連結される複数の枝部とこれら枝部が集合した集合部とを有する。排気マニホルド19の集合部は上流側排気浄化触媒20を内蔵した上流側ケーシング21に連結される。上流側ケーシング21は、排気管22を介して下流側排気浄化触媒24を内蔵した下流側ケーシング23に連結される。排気ポート9、排気マニホルド19、上流側ケーシング21、排気管22及び下流側ケーシング23は、排気通路を形成する。
電子制御ユニット(ECU)31はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。吸気管15には、吸気管15内を流れる空気流量を検出するためのエアフロメータ39が配置され、このエアフロメータ39の出力は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、排気マニホルド19の集合部には排気マニホルド19内を流れる排気ガス(すなわち、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス)の空燃比を検出する上流側空燃比センサ40が配置される。加えて、排気管22内には排気管22内を流れる排気ガス(すなわち、上流側排気浄化触媒20から流出して下流側排気浄化触媒24に流入する排気ガス)の空燃比を検出する下流側空燃比センサ41が配置される。これら空燃比センサ40、41の出力も対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。なお、これら空燃比センサ40、41の構成については後述する。
また、アクセルペダル42にはアクセルペダル42の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ43が接続され、負荷センサ43の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ44は例えばクランクシャフトが15度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ44の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路45を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11及びスロットル弁駆動アクチュエータ17に接続される。なお、ECU31は、内燃機関の制御を行う制御装置として機能する。
なお、本実施形態に係る内燃機関は、ガソリンを燃料とする無過給内燃機関であるが、本発明に係る内燃機関の構成は、上記構成に限定されるものではない。例えば、本発明に係る内燃機関は、気筒数、気筒配列、燃料の噴射態様、吸排気系の構成、動弁機構の構成、過給器の有無、及び過給態様等が、上記内燃機関と異なるものであってもよい。
<排気浄化触媒の説明>
上流側排気浄化触媒20及び下流側排気浄化触媒24は、いずれも同様な構成を有する。排気浄化触媒20、24は、酸素吸蔵能力を有する三元触媒である。具体的には、排気浄化触媒20、24は、セラミックから成る基材に、触媒作用を有する貴金属(例えば、白金(Pt))及び酸素吸蔵能力を有する物質(例えば、セリア(CeO2))を担持させたものである。排気浄化触媒20、24は、所定の活性温度に達すると、未燃ガス(HCやCO等)と窒素酸化物(NOx)とを同時に浄化する触媒作用に加えて、酸素吸蔵能力を発揮する。
排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵能力によれば、排気浄化触媒20、24は、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーン(リーン空燃比)であるときには排気ガス中の酸素を吸蔵する。一方、排気浄化触媒20、24は、流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチ(リッチ空燃比)であるときには、排気浄化触媒20、24に吸蔵されている酸素を放出する。
排気浄化触媒20、24は、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有することにより、酸素吸蔵量に応じてNOx及び未燃ガスの浄化作用を有する。すなわち、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比である場合、図2(A)に実線で示したように、酸素吸蔵量が少ないときには排気浄化触媒20、24により排気ガス中の酸素が吸蔵される。また、これに伴って、排気ガス中のNOxが還元浄化される。また、酸素吸蔵量が多くなると、最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍の或る吸蔵量を境に排気浄化触媒20、24から流出する排気ガス中の酸素及びNOxの濃度が上昇する。
一方、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比である場合、図2(B)に実線で示したように、酸素吸蔵量が多いときには排気浄化触媒20、24に吸蔵されている酸素が放出され、排気ガス中の未燃ガスは酸化浄化される。また、酸素吸蔵量が少なくなると、ゼロ近傍の或る吸蔵量を境に排気浄化触媒20、24から流出する排気ガス中の未燃ガスの濃度が急激に上昇する。
以上のように、本実施形態において用いられる排気浄化触媒20、24によれば、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比及び酸素吸蔵量に応じて排気ガス中のNOx及び未燃ガスの浄化特性が変化する。なお、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有していれば、排気浄化触媒20、24は三元触媒とは異なる触媒であってもよい。
<空燃比センサの構成>
次に、図3を参照して、本実施形態における空燃比センサ40、41の構成について説明する。図3は、空燃比センサ40、41の概略的な断面図である。図3から分かるように、本実施形態における空燃比センサ40、41は、固体電解質層及び一対の電極から成るセルが1つである1セル型の空燃比センサである。
図3に示したように、空燃比センサ40、41は、固体電解質層51と、固体電解質層51の一方の側面上に配置された排気側電極52と、固体電解質層51の他方の側面上に配置された大気側電極53と、通過する排気ガスの拡散律速を行う拡散律速層54と、拡散律速層54を保護する保護層55と、空燃比センサ40、41の加熱を行うヒータ部56とを具備する。
固体電解質層51の一方の側面上には拡散律速層54が設けられ、拡散律速層54の固体電解質層51側の側面とは反対側の側面上には保護層55が設けられる。本実施形態では、固体電解質層51と拡散律速層54との間には被測ガス室57が形成される。この被測ガス室57には排気側電極52が配置され、拡散律速層54を介して排気ガスが導入せしめられる。固体電解質層51の他方の側面上には、ヒータ59を備えたヒータ部56が設けられる。固体電解質層51とヒータ部56との間には基準ガス室58が形成され、この基準ガス室58内には基準ガス(例えば、大気ガス)が導入される。大気側電極53は、基準ガス室58内に配置される。
固体電解質層51は、ZrO2(ジルコニア)、HfO2、ThO2、Bi2O3等にCaO、MgO、Y2O3、Yb2O3等を安定剤として配当した酸素イオン伝導性酸化物の焼結体により形成されている。また、拡散律速層54は、アルミナ、マグネシア、けい石質、スピネル、ムライト等の耐熱性無機物質の多孔質焼結体により形成されている。さらに、排気側電極52及び大気側電極53は、白金等の触媒活性の高い貴金属により形成されている。
また、排気側電極52と大気側電極53との間には、ECU31に搭載された電圧印加装置60によりセンサ印加電圧Vrが印加される。加えて、ECU31には、電圧印加装置60によってセンサ印加電圧Vrを印加したときに固体電解質層51を介してこれら電極52、53間に流れる電流を検出する電流検出装置61が設けられる。この電流検出装置61によって検出される電流が空燃比センサ40、41の出力電流である。
このように構成された空燃比センサ40、41は、図4に示したような電圧−電流(V−I)特性を有する。図4からわかるように、出力電流Iは、排気空燃比が高くなるほど(リーンになるほど)、大きくなる。また、各排気空燃比におけるV−I線には、V軸に平行な領域、すなわちセンサ印加電圧が変化しても出力電流がほとんど変化しない領域が存在する。この電圧領域は限界電流領域と称され、このときの電流は限界電流と称される。図4では、排気空燃比が18であるときの限界電流領域及び限界電流をそれぞれW18、I18で示している。
図5は、印加電圧を0.45V程度で一定にしたときの、排気空燃比と出力電流Iとの関係を示す図である。図5からわかるように、空燃比センサ40、41では、排気空燃比が高くなるほど(すなわち、リーンになるほど)、空燃比センサ40、41からの出力電流Iが大きくなるように、排気空燃比に対して出力電流がリニアに変化する。加えて、空燃比センサ40、41は、排気空燃比が理論空燃比であるときに出力電流Iが零になるように構成される。また、排気空燃比が一定以上に大きくなったとき、或いは一定以下に小さくなったときには、排気空燃比の変化に対する出力電流の変化の割合が小さくなる。
なお、上記例では、空燃比センサ40、41として図3に示した構造の限界電流式の空燃比センサを用いている。しかしながら、上流側空燃比センサ40としては例えばコップ型の限界電流式空燃比センサ等の他の構造の限界電流式の空燃比センサや、限界電流式ではない空燃比センサ等、如何なる空燃比センサを用いてもよい。
<基本的な空燃比制御>
次に、本発明の内燃機関の制御装置における基本的な空燃比制御の概要を説明する。本実施形態では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比(上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比に相当)に基づいて上流側空燃比センサ40の出力空燃比が目標空燃比に相当する値となるようにフィードバック制御が行われる。なお、「出力空燃比」は、空燃比センサの出力に相当する空燃比を意味する。
一方、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比等に基づいて目標空燃比を設定する目標空燃比の設定制御が行われる。目標空燃比の設定制御では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ空燃比となったときに、目標空燃比はリーン設定空燃比とされ、その後、その空燃比に維持される。リーン設定空燃比は、理論空燃比よりも或る程度リーンである予め定められた空燃比であり、例えば、14.65〜20、好ましくは14.68〜18、より好ましくは14.7〜16程度とされる。特に、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチであるリッチ判定空燃比以下になったときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ空燃比になったと判断される。
目標空燃比がリーン設定空燃比に変更されると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの酸素過不足量が積算される。酸素過不足量は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比にしようとしたときに過剰となる酸素の量又は不足する酸素の量(過剰な未燃ガス等の量)を意味する。特に、目標空燃比がリーン設定空燃比となっているときには上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中の酸素は過剰となり、この過剰な酸素は上流側排気浄化触媒20に吸蔵される。したがって、酸素過不足量の積算値(以下、「積算酸素過不足量」という)は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAを表しているといえる。
なお、酸素過不足量の算出は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比、及びエアフロメータ39等に基づいて算出される燃焼室5内への吸入空気量の推定値又は燃料噴射弁11からの燃料供給量等に基づいて行われる。具体的には、酸素過不足量OEDは、例えば、下記式(1)により算出される。
ODE=0.23・Qi/(AFup−14.6) …(1)
ここで、0.23は空気中の酸素濃度、Qiは燃料噴射量、AFupは上流側排気浄化触媒20の出力空燃比をそれぞれ表している。
このようにして算出された酸素過不足量が、予め定められた切替基準値(予め定められた切替基準吸蔵量Crefに相当)以上になると、それまでリーン設定空燃比だった目標空燃比が、リッチ設定空燃比とされ、その後、その空燃比に維持される。リッチ設定空燃比は、理論空燃比よりも或る程度リッチである予め定められた空燃比であり、例えば、12〜14.58、好ましくは13〜14.57、より好ましくは14〜14.55程度とされる。なお、リッチ設定空燃比の理論空燃比からの差(リッチ度合い)は、リーン設定空燃比の理論空燃比からの差(リーン度合い)以下とされる。その後、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が再びリッチ判定空燃比以下となったときに、目標空燃比が再びリーン設定空燃比とされ、その後、同様な操作が繰り返される。
このように本実施形態では、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比がリーン設定空燃比とリッチ設定空燃比とに交互に設定される。特に、本実施形態では、リーン設定空燃比の理論空燃比からの差は、リッチ設定空燃比の理論空燃比からの差以上とされる。したがって、本実施形態では、目標空燃比は、短期間のリーン設定空燃比と、長期間のリッチ設定空燃比とに交互に設定されることになる。
ただし、上述したような制御を行った場合であっても、積算酸素過不足量が切替基準値に到達する前に上流側排気浄化触媒20の実際の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量に到達する場合がある。その原因としては、例えば、上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量が低下したり、一時的に上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が変化したりすることが挙げられる。このように酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量に到達すると、上流側排気浄化触媒20からはリーン空燃比の排気ガスが流出することになる。そこで、本実施形態では、仮に下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比となったときには、目標空燃比はリッチ設定空燃比に切り替えられる。特に、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリーンであるリーン判定空燃比以上になったときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比になったと判断される。
<タイムチャートを用いた空燃比制御の説明>
図6を参照して、上述したような操作について具体的に説明する。図6は、本実施形態の空燃比制御を行った場合における、目標空燃比AFT、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn及び積算酸素過不足量ΣOEDのタイムチャートである。
図示した例では、時刻t1以前の状態では、目標空燃比AFTがリッチ設定空燃比AFTrichとされている。これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比がリッチ空燃比となる。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中に含まれている未燃ガスは、上流側排気浄化触媒20で浄化され、これに伴って、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していく。したがって、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に減少していく。上流側排気浄化触媒20における浄化により上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中には未燃ガスは含まれていないため、下流側空燃比センサの出力空燃比はほぼ理論空燃比となる。また、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比となっているため、上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量はほぼゼロとなる。
上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少すると、酸素吸蔵量OSAは時刻t1においてゼロに近づき、これに伴って、上流側排気浄化触媒20に流入した未燃ガスの一部は上流側排気浄化触媒20で浄化されずに流出し始める。これにより、時刻t1以降、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが徐々に低下する。その結果、時刻t2において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。
本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になると、酸素吸蔵量OSAを増大させるべく、目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。
時刻t2において、目標空燃比AFTをリーン設定空燃比AFleanに切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比に変化する。また、これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupがリーン空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。時刻t2において上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比に変化すると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは増大する。また、これに伴って、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増大していく。
これにより、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が理論空燃比へと変化し、下流側空燃比センサ41の出力空燃比も理論空燃比に収束する。このとき、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比となっているが、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵能力には十分な余裕があるため、流入する排気ガス中の酸素は上流側排気浄化触媒20に吸蔵され、NOxは還元浄化される。このため、上流側排気浄化触媒20からのNOxの排出はほぼゼロとなる。
その後、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが増大すると、時刻t3において、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefに到達する。このため、積算酸素過不足量ΣOEDが、切替基準吸蔵量Crefに相当する切替基準値OEDrefに到達する。本実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、上流側排気浄化触媒20への酸素の吸蔵を中止すべく、目標空燃比AFTがリッチ設定空燃比AFTrichに切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。
ここで、図6に示した例では、時刻t3において目標空燃比を切り替えると同時に酸素吸蔵量OSAが低下しているが、実際には目標空燃比を切り替えてから酸素吸蔵量OSAが低下するまでには遅れが発生する。これに対して、切替基準吸蔵量Crefは上流側排気浄化触媒20が新触であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも十分に低く設定される。このため、このような遅れが生じても、酸素吸蔵量OSAは基本的に最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しない。逆に言うと、切替基準吸蔵量Crefは、目標空燃比を切り替えてから上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が実際に変化するまで遅延が生じても、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しないように十分少ない量とされる。例えば、切替基準吸蔵量Crefは、上流側排気浄化触媒20が新触であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxの3/4以下、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下とされる。
時刻t3において目標空燃比AFTをリッチ設定空燃比AFTrichに切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比からリッチ空燃比に変化する。これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupがリッチ空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中には未燃ガスが含まれることになるため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していき、時刻t4において、時刻t1と同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが低下し始める。このときも、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比となっているため、上流側排気浄化触媒20からのNOxの排出はほぼゼロされる。
次いで、時刻t5において、時刻t2と同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられる。その後、上述した時刻t1〜t5のサイクルが繰り返される。
以上の説明から分かるように本実施形態によれば、上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量を常に抑制することができる。すなわち、上述した制御を行っている限り、基本的には上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量をほぼゼロとすることができる。また、積算酸素過不足量ΣOEDを算出する際の積算期間が短いため、長期間に亘って積算する場合に比べて算出誤差が生じにくい。このため、積算酸素過不足量ΣOEDの算出誤差によりNOxが排出されてしまうことが抑制される。
また、一般に、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が一定に維持されると、その排気浄化触媒の酸素吸蔵能力が低下する。すなわち、排気浄化触媒の酸素吸蔵能力を高く維持するためには、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が変動することが必要になる。これに対して、本実施形態によれば、図6に示したように、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは常に上下に変動しているため、酸素吸蔵能力が低下することが抑制される。
なお、上記実施形態では、時刻t2〜t3において、目標空燃比AFTはリーン設定空燃比AFTleanに維持される。しかしながら、斯かる期間において、目標空燃比AFTは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に減少させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、時刻t2〜t3の期間中において、一時的に目標空燃比AFTをリッチ空燃比としてもよい。
同様に、上記実施形態では、時刻t3〜t5において、目標空燃比AFTはリッチ設定空燃比AFTrichに維持される。しかしながら、斯かる期間において、目標空燃比AFTは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に増大させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、時刻t3〜t5の期間中において、一時的に目標空燃比AFTをリーン空燃比としてもよい。
ただし、この場合であっても、時刻t2〜t3における目標空燃比AFTは、当該期間における目標空燃比の平均値と理論空燃比との差が、時刻t3〜t5における目標空燃比の平均値と理論空燃比との差よりも大きくなるように設定される。
なお、このような本実施形態における目標空燃比の設定は、ECU31によって行われる。したがって、ECU31は、下流側空燃比センサ41によって検出された排気ガスの空燃比がリッチ判定空燃比以下となったときに、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefとなるまで、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比を継続的又は断続的にリーン空燃比にすると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上となったときに、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに達することなく下流側空燃比センサ41によって検出された排気ガスの空燃比がリッチ判定空燃比以下となるまで、目標空燃比を継続的又は断続的にリッチ空燃比にしているといえる。
より簡単に言えば、本実施形態では、ECU31は、下流側空燃比センサ41によって検出された空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上になったときに目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えているといえる。
また、上記実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDは、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup及び燃焼室5内への吸入空気量の推定値等に基づいて算出されている。しかしながら、酸素吸蔵量OSAはこれらパラメータに加えて他のパラメータに基づいて算出されてもよいし、これらパラメータとは異なるパラメータに基づいて推定されてもよい。また、上記実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、目標空燃比がリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えられる。しかしながら、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えるタイミングは、例えば目標空燃比をリッチ設定空燃比からリーン設定空燃比へ切り替えてからの機関運転時間等、他のパラメータを基準としてもよい。ただし、この場合であっても、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量よりも少ないと推定される間に、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えることが必要となる。
次に、図7を参照して、上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量Cmaxが低下している場合等における操作について具体的に説明する。図7は、最大吸蔵可能酸素量が切替基準吸蔵量Cref以下のCmax’に低下している場合における目標空燃比AFT等のタイムチャートである。
図7に示した例でも、図6に示した例と同様に、時刻t1以前の状態では、目標空燃比AFTがリッチ設定空燃比AFTrichとされている。加えて、図7に示した例でも、時刻t2において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達し、目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられる。
時刻t2において、目標空燃比AFTをリーン設定空燃比AFleanに切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比に変化する。これに伴って、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に増大し、また、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増大していく。
図7に示した例では、最大吸蔵可能酸素量Cmax’が切替基準吸蔵量Crefよりmの少ない量にまで低下している。このため、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達する前に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmax’に到達する。よって、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが徐々に増大すると、酸素吸蔵量OSAは時刻t3において最大吸蔵可能酸素量Cmax’近傍となり、これに伴って上流側排気浄化触媒20に流入したNOx及び酸素の一部は上流側排気浄化触媒20で吸蔵又は除去されずに流出し始める。これにより、時刻t3以降、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが徐々に上昇する。その結果、時刻t4において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanに到達する。
本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になると、酸素吸蔵量OSAを低減させるべく、目標空燃比AFTがリッチ設定空燃比AFTrichに切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。
時刻t4において、目標空燃比AFTをリッチ設定空燃比AFrichに切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比からリッチ空燃比に変化する。また、これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupがリッチ空燃比となる。時刻t4において上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比に変化すると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少する。その後、時刻t5において、時刻t1と同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが低下し始め、時刻t6において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、目標空燃比AFTをリッチ設定がリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられる。その後、上述した時刻t1〜t6のサイクルが繰り返される。
なお、上述した例では、最大吸蔵可能酸素量が低下した場合を示している。しかしながら、それ以外にも一時的に上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスが変化して、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準吸蔵量Crefに到達する前に下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanに到達する場合も存在する。このような場合においても、図7に示した制御と同様な制御を行うことができる。
<触媒劣化に応じた出力空燃比の変化>
ところで、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnにおける挙動は、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いに応じて変化する。以下、これについて、図2及び図8を参照して説明する。
図2を参照して説明したように、上流側排気浄化触媒20の浄化作用は、その酸素吸蔵量に応じて変化する。この浄化作用は、劣化度合いの低い場合と、劣化度合いの高い場合とで異なるものとなる。図2中の実線は上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合を示しているのに対して、破線は劣化度合いが高い場合を示している。なお、図2では、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合の最大酸素吸蔵量をCmaxで表しており、一方、劣化度合いが高い場合の最大酸素吸蔵量をCmax’で表している。
上述したように、図2(A)は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比である場合を示している。この場合、劣化度合いにかかわらず、酸素吸蔵量が最大酸素吸蔵量Cmax、Cmax’に近づくと、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの中の酸素及びNOxの濃度が上昇する。しかしながら、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合(実線)には、酸素吸蔵量の増大に伴って排気ガス中の酸素濃度及びNOx濃度が徐々に上昇している。これに対して、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合(破線)には、酸素吸蔵量の増大に伴って排気ガス中の酸素濃度及びNOx濃度が急激に上昇する。
一方、図2(B)は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比である場合を示している。この場合、劣化度合いに関わらず、酸素吸蔵量がゼロに近づくと、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中の未燃ガス濃度が上昇する。しかしながら、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合(実線)には、酸素吸蔵量の減少に伴って排気ガス中の未燃ガス濃度が徐々に上昇している。これに対して、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合(破線)には、酸素吸蔵量の減少に伴って排気ガス中の未燃ガス濃度が急激に上昇する。
このように、酸素吸蔵量に対するNOxや未燃ガスの浄化率は、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いに応じて変化する。この結果、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いに応じて、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量近傍又はゼロ近傍であるときにおける下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnの挙動も変化する。
図8は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAがゼロに到達する前後における両センサ40、41の出力空燃比等のタイムチャートである。図示した例では、時刻t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達し、目標空燃比がリッチ設定空燃比AFTrichからリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられた場合を示している。
図8からわかるように、時刻t1において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達して、目標空燃比がリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられても、すぐには出力空燃比AFdwnは理論空燃比に収束しない。これは、目標空燃比を切り替えて燃料噴射弁11からの燃料噴射量が変更されても、その排気ガスが上流側排気浄化触媒20に到達するまでには時間がかかることによるものである。
ここで、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合(図中の触媒劣化無し)には、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの低下に伴って、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが徐々に低下する。このため、出力空燃比AFdwnは時刻t1以降も急激には低下しない。これは、上流側排気浄化触媒20からの未燃ガスの流出量が急激に増大してはいないことを意味している。これに対して、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合(図中の触媒劣化有り)には、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの低下に伴って、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが急激に低下する。特に、出力空燃比AFdwnは時刻t1以降に急激に低下する。これは、上流側排気浄化触媒20からの未燃ガスの流出量が急激に増大することを意味している。
上記説明では、酸素吸蔵量OSAが減少した場合について説明しているが、酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍にまで増大した場合にもいえる。したがって、特に、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合を考慮すると、上流側排気浄化触媒20から流出した排気ガスの空燃比がリッチ空燃比及びリーン空燃比になったことの検出はできるだけ早く行うことが必要である。換言すると、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanは、できるだけ理論空燃比からの差が小さくなるように設定されることが必要である。
一方、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスは水蒸気及び未燃ガスを含んでいる。このため、白金等の貴金属を担持した上流側排気浄化触媒20では、水性シフト反応や水蒸気改質反応によりこれら水蒸気や未燃ガスから水素が生成される。水素は、空燃比センサの拡散律速層54の通過速度が速いため、排気ガス中の水素濃度が高いと、空燃比センサの出力空燃比が排気ガスの実際の空燃比よりもリッチ側にずれてしまう。このため、上流側排気浄化触媒20で生成された水素が上流側排気浄化触媒20から流出すると、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnにずれが生じやすい。
特に、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低いときには、白金の触媒作用が低下していないことから、水素の生成量が多くなる。この結果、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低いときには、図8に破線で示したように、排気ガスの実際の空燃比が理論空燃比であるにもかかわらず下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが理論空燃比から大きくずれてしまう場合がある。この場合、リッチ判定空燃比AFrichの設定によっては、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下となり、排気ガスの空燃比がリッチ空燃比であると誤判定されてしまう。
ただし、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高いときには、白金の触媒作用が低下しているため、水素の生成量は少ない。したがって、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnにずれが生じた場合であっても、図8に破線で示したように理論空燃比からのずれは比較的小さいものとなる。
<判定空燃比の設定>
そこで、本発明の実施形態では、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いに応じて、リッチ判定空燃比及びリーン判定空燃比を設定するようにしている。具体的には、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanは、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高くなるほど、理論空燃比からの差が小さくなるように設定される。
特に、本実施形態では、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いを示す指標として、上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量Cmaxを用いている。最大吸蔵可能酸素量Cmaxが多いほど上流側排気浄化触媒20の劣化度合いは低いということができる。このため、本実施形態では、図9に示したように、上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量Cmaxが多いときには、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanは理論空燃比からの差が大きいものとされる。一方、上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量Cmaxが減少するにつれて、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanは、理論空燃比からの差が小さくされる。
特に、本実施形態では、各最大吸蔵可能酸素量Cmaxにおいて、理論空燃比からリッチ判定空燃比AFrichまでの差と、理論空燃比からリーン判定空燃比AFleanまでの差とは等しいものとされる。しかしながら、両者の差は必ずしも等しくなくてもよい。例えば、理論空燃比からリーン判定空燃比AFleanまでの差は、最大吸蔵可能酸素量が如何なる量であっても、或いは最大吸蔵可能量が多い領域において、理論空燃比からリッチ判定空燃比AFrichまでの差よりも小さくてもよい。
図10は、上述したようにリッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanを設定した場合における目標空燃比等のタイムチャートである。図の中央の波線よりも左側は、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合、すなわち最大吸蔵可能酸素量Cmaxが多い場合を示している。一方、波線よりも右側は、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合、すなわち最大吸蔵可能酸素量Cmaxが少ない場合を示している。
上述したように、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合、すなわち最大吸蔵可能酸素量Cmaxが多い場合には、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanは、理論空燃比からの差が大きく設定される。このため、図10に示したように、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnにずれが生じていても、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAがゼロ近傍にならない限りは、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になることはない。同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnにずれが生じていても、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍にならない限りは、出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になることはない。この結果、排気ガスの実際の空燃比が理論空燃比であるにもかかわらず排気ガスの空燃比をリッチ空燃比又はリーン空燃比であると誤判定してしまうことが抑制される。
一方、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが低い場合には、上述したように酸素吸蔵量OSAがゼロ近傍に低下しても下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが急激に低下することはない。したがって、図10に示したように、時刻t2において、目標空燃比AFTをリーン設定空燃比AFTに切り替えた後も、出力空燃比AFdwnは徐々に低下する。このため、リーン判定空燃比AFleanを理論空燃比からの差が大きく設定しても、上流側排気浄化触媒20からの未燃ガスの流出量は比較的少なく抑えられる。
一方、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合、すなわち最大吸蔵可能酸素量Cmaxが少ない場合には、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanは、理論空燃比からの差が小さくなるように設定される。ここで、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合には、上述したように酸素吸蔵量OSAがゼロ近傍に低下すると、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが急激に低下する。これに対して、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnは、図10のt6において低下し始めてからすぐにリッチ判定空燃比AFrichに到達することになる。このため、目標空燃比のリーン設定空燃比AFTへの切替を早いタイミングで行うことができる。この結果、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはそれほど低下する前に上昇し始める。したがって、上流側排気浄化触媒20からの未燃ガスの流出量を比較的少なく抑えることができる。
一方、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが高い場合には、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnに生じるずれは小さい。このため、図10に示したように、リッチ判定空燃比AFrichを理論空燃比からの差が小さくなるように設定しても、排気ガスの実際の空燃比がほぼ理論空燃比であるときには下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリッチ判定空燃比AFrichには到達しない。このため、リッチ判定空燃比AFrichを理論空燃比からの差が小さくなるように設定しても、誤判定してしまうことが抑制される。
したがって、本発明の実施形態によれば、リッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanを上述したように設定することにより、誤判定を抑制しつつ、上流側排気浄化触媒20からの未燃ガスの流出量を少なく抑えることができる。
なお、上記実施形態では、リッチ判定空燃比及びリーン判定空燃比の両方を最大吸蔵可能酸素量に応じて変化させている。しかしながら、リッチ判定空燃比のみを最大吸蔵可能酸素量に応じて変化させて、リーン判定空燃比は最大吸蔵可能酸素量にかかわらず一定としてもよい。これは、リーン判定空燃比は、排気ガス中の水素の影響を受けにくいためである。この場合、図9に破線で示したように、リーン判定空燃比の理論空燃比からの差は、リッチ空燃比の理論空燃比からの最も小さい差と同程度とされるのが好ましい。
<最大吸蔵可能酸素量の推定>
次に、図11を参照して、最大吸蔵可能酸素量Cmaxの推定方法について説明する。本実施形態では、最大吸蔵可能酸素量Cmaxの推定を行うにあたって、目標空燃比をリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御が行われる。特に、アクティブ空燃比制御では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanになるまでリーン空燃比とされると共に、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichになるまでリッチ空燃比とされる。
そして、このようなアクティブ空燃比制御を行った結果、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下からリーン判定空燃比AFlean以上に変化するまでの空燃比反転期間における積算酸素過不足量(すなわち、当該空燃比反転期間中に上流側排気浄化触媒20に吸蔵された酸素量)が最大吸蔵可能酸素量として算出される。或いは、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上からリッチ判定空燃比AFrich以下に変化するまで空燃比反転期間における積算酸素過不足量(すなわち、当該空燃比反転期間中に上流側排気浄化触媒20から放出された酸素量)が最大吸蔵可能酸素量として算出される。
図11は、最大吸蔵可能酸素量Cmaxを推定するにあたってアクティブ空燃比制御を実行した際の、目標空燃比等のタイムチャートである。図11に示した例では、時刻t1においてアクティブ空燃比制御が開始される。本実施形態のアクティブ空燃比制御では、目標空燃比AFTが、リッチ設定空燃比AFTrichよりもリッチなアクティブ時リッチ設定空燃比AFTgrichと、リーン設定空燃比AFTleanとに交互に設定される。
図示した例では、まず、目標空燃比AFTがアクティブ時リッチ設定空燃比AFTgrichに設定される。これにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比のリッチ度合いが高くなると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少速度が増加する。なお、アクティブ時リッチ設定空燃比AFTgrichは、リッチ設定空燃比とほぼ同一又はこれよりもリーンな空燃比とされてもよい。
その後、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが減少していき、酸素吸蔵量OSAがゼロ近傍になると、上流側排気浄化触媒20から未燃ガスが流出し始める。その結果、時刻t2において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに達する。そこで、本実施形態では、時刻t2において、目標空燃比AFtがリーン設定空燃比AFTleanに切り替えられる。また、時刻t2において、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。なお、アクティブ空燃比制御中におけるリーン設定空燃比AFTleanは、アクティブ空燃比制御を実行していないときのリーン設定空燃比AFTleanとは異なる空燃比であってもよい。
時刻t2において、目標空燃比が切り替えられると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に増加する。また、これに伴って、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増加していく。その後、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍になると、上流側排気浄化触媒20からNOx及び酸素が流出し始める。その結果、時刻t3において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanに達する。そこで、本実施形態では、時刻t3において、目標空燃比がアクティブ時リッチ設定空燃比AFTgrichへと切り替えられる。また、このときにも、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。
時刻t3において目標空燃比が切り替えられると、その後は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量等は、時刻t1〜t2と同様に推移し、時刻t4において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが再びリッチ判定空燃比AFrichに達する。本実施形態では、これによりアクティブ空燃比制御が終了せしめられ、通常運転が再開され、図6及び図7に示した目標空燃比の制御が再開される。
ここで、時刻t3における積算酸素過不足量ΣOED及び時刻t4における積算酸素過不足量ΣOED(より正確には、その絶対値)は、最大吸蔵可能酸素量Cmaxを表している。そこで、本実施形態では、これら時刻t3、t4における積算酸素過不足量ΣOEDの平均値を最大吸蔵可能酸素量Cmaxの推定値として算出する。このようにして算出された最大吸蔵可能酸素量Cmaxに基づいて、上述したようにリッチ判定空燃比AFrich及びリーン判定空燃比AFleanが設定される。
なお、上記実施形態では、アクティブ空燃比制御中の積算酸素過不足量ΣOEDに基づいて最大吸蔵可能酸素量が算出されている。しかしながら、積算酸素過不足量ΣOEDは、これとは異なる方法によって算出されてもよい。また、上記実施形態では、積算酸素過不足量に基づいて上流側排気浄化触媒20の劣化度合いが判定されている。しかしながら、上流側排気浄化触媒20の劣化度合いの判定はこれとは異なる方法で行われてもよい。
<フローチャート>
図12は、目標空燃比の設定制御における制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図12に示したように、まず、ステップS11において目標空燃比AFTの設定条件が成立しているか否かが判定される。目標空燃比AFTの設定条件が成立している場合とは、通常制御中であること、例えば燃料カット制御中やアクティブ空燃比制御中等ではないこと等が挙げられる。ステップS11において目標空燃比の設定条件が成立していると判定された場合には、ステップS12へと進む。ステップS12では、上流側空燃比センサ40の出力電流Irup及び燃料噴射量Qiに基づいて積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。
次いでステップS13において、リーン設定フラグFlが0に設定されているか否かが判定される。リーン設定フラグFlは、目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanに設定されたときには1とされ、それ以外のときには0とされるフラグである。ステップS13においてリーン設定フラグFlが0に設定されていると判定された場合には、ステップS14へと進む。ステップS14では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であるか否かが判定される。下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも大きいと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。
一方、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが減少して、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が低下すると、次の制御ルーチンではステップS14にて下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であると判定される。この場合には、ステップS15へと進み、目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanとされる。次いで、ステップS16では、リーン設定フラグFlが1にセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
次の制御ルーチンにおいては、ステップS13において、リーン設定フラグFlが0に設定されていないと判定されて、ステップS17へと進む。ステップS17では、ステップS12で算出された積算酸素過不足量ΣOEDが判定基準値OEDrefよりも少ないか否かが判定される。積算酸素過不足量ΣOEDが判定基準値OEDrefよりも少ないと判定された場合にはステップS18へと進む。ステップS18では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上であるか否か、すなわち酸素吸蔵量OSCが最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍に到達しているか否かが判定される。ステップS18において、出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりも小さいと判定された場合には、ステップS19へと進む。ステップS19では、目標空燃比AFTが引き続きリーン設定空燃比AFTleanとされる。
一方、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が増大すると、やがてステップS17において積算酸素過不足量ΣOEDが判定基準値OEDref以上であると判定され、ステップS20へと進む。或いは、酸素吸蔵量OSCが最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍に到達すると、ステップS18において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上であると判定され、ステップS20へと進む。ステップS20では、目標空燃比AFTがリッチ設定空燃比AFTrichとされ、次いで、ステップS20では、リーン設定フラグFlが0にリセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
図13は、リッチ判定空燃比及びリーン判定空燃比の設定制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図13に示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図13に示したように、まず、ステップS31において、アクティブフラグFaが0であるか否かが判定される。アクティブフラグFaはアクティブ空燃比制御が実行されているときに1とされ、それ以外のときに0とされるフラグである。ステップS31において、アクティブフラグFaが0に設定されていると判定されたときにはステップS32へと進む。
ステップS32では、アクティブ空燃比制御の実行条件が成立しているか否かが判定される。アクティブ空燃比制御の実行条件が成立しているときとは、例えば、内燃機関を搭載した車両のイグニッションスイッチがオンにされてから未だアクティブ空燃比制御が実行されておらず、且つ燃料カット制御等が実行されていないときである。ステップS32においてアクティブ空燃比制御の実行条件が成立していないと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS32においてアクティブ空燃比制御の実行条件が成立していると判定された場合には、ステップS33において、図12に示した目標空燃比設定制御が停止せしめられると共に目標空燃比がアクティブ時リッチ設定空燃比AFTgrichとされる。次いで、ステップS34においてアクティブフラグFaが1にセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
次の制御ルーチンでは、アクティブフラグFaが1にセットされているため、ステップS31からステップS35へと進む。ステップS35ではリーンフラグFlが0であるか否かが判定される。リーンフラグFlは図12のリーン設定フラグと同様に目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanに設定されているときに1とされ、それ以外のときには0とされるフラグである。ステップS35において、リーンフラグFlが0に設定されていると判定された場合には、ステップS36へと進む。ステップS36では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であるか否か、すなわち上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量がゼロ近傍に達したか否かが判定される。出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも大きいと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS36において、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であると判定された場合には、ステップS37へと進む。ステップS37では、目標空燃比AFTがリーン設定空燃比AFTleanとされ、次いで、ステップS38ではリーンフラグFlが1にセットされる。
次の制御ルーチンでは、リーンフラグFlが0に設定されていないため、ステップS35からステップS39へと進む。ステップS39では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン設定空燃比AFTlean以上であるか否か、すなわち上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍に達したか否かが判定される。出力空燃比AFdwnがリーン設定空燃比AFTleanよりも小さいと判定された場合には、ステップS40へと進む。ステップS40では、積算酸素過不足量ΣOEDに現在の酸素過不足量OEDを加算したものが、新たな積算酸素過不足量ΣOEDとされる。
その後、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍に達して、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン設定空燃比AFTlean以上になると、次の制御ルーチンではステップS39からステップS41へと進む。ステップS41では、前回の制御ルーチンにおいてステップS40で算出された積算酸素過不足量ΣOED(最大吸蔵可能酸素量Cmaxを表している)に基づいて図8に示したようなマップを用いてリッチ設定空燃比AFrich及びリーン設定空燃比AFTleanが設定される。次いで、ステップS42において、アクティブフラグFa及びリーンフラグFlが0にリセットされ、次いで、ステップS43において積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされて、制御ルーチンが終了せしめられる。
なお、図13に示した制御ルーチンは、図11の時刻t2から時刻t3までの積算酸素過不足量ΣOEDのみに基づいて最大吸蔵可能酸素量OEDを推定した例を示している。