JP2017008399A - 鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】硼砂を主成分とする塩浴中にAl−Mg合金を添加してなる溶融状態の硼砂塩浴中に、浸炭層を有する鋼鉄部材を浸漬することによって、鋼鉄部材の表面に、浸炭層と硼化物層とからなる硼化浸炭複合化層を形成する鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法および表面に複合硬化層を有する鋼鉄部材。
【選択図】図2
Description
(1)一般に硼化物層は硬く、耐摩耗性に優れているものの、脆弱層でもあるので、基材全体が大きな面圧を受けて座屈したり、変形応力が負荷されると硼化物層に割れが発生し、局部的に剥離するなど、その機能を十分に発揮できない場合がある。
(1)鋼鉄部材表面の硼化処理に先駆けて、該鋼鉄部材に予め浸炭処理を施して浸炭層を形成し、該鋼鉄部材の硬さや強度などの機械的性質を予め向上させておく。
(2)浸炭層を形成してなる前記鋼鉄部材を、化学的活性力に優れたAl−Mg合金を還元材とする硼砂塩浴中に浸漬することによって、該浸炭層の上に硼化物層を重ねて形成し両者を融合させる。
(3)浸炭層と硼化物層とは、単なる積層(二重層)にとどまるものではなく、少なくともミクロ的には浸炭層中に硼化物が拡散し浸透し、浸炭層の一部が硼化して冶金的に完全に融合化した中間層のある複合硬化層と化したものを形成する。
(1)前記硼化浸炭複合化層は、下層が鋼鉄部材表面に形成された浸炭層であり、その浸炭層の上に上層として硼化物層が形成されたものであって、該浸炭層および硼化物層は互いにその境界において融合して複合化した層であること、
(2)鋼鉄部材表面に形成される浸炭層は、粉末法や溶融塩法、ガス法、あるいは真空法のような浸炭法のうちから選ばれる1種以上の方法によって部材表面に直に形成されていること、
(3)前記Al−Mg合金は、Mgを1.2〜93mass%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、直径2〜10mm、長さ5〜20mmの小片または小塊であること、
(4)前記硼砂塩浴は、温度が700℃〜1150℃の温度に維持されること、
(5)前記硼化浸炭複合化層の硼化物層は、上記硼砂塩浴中のAl−Mg合金の還元反応によって硼砂成分から析出し遊離した活性硼素(B)によって形成された硬化層であること、
(6)前記硼化浸炭複合化層の下層に位置する該浸炭層は、鋼鉄部材の高強度化層であること、
(1)鋼鉄部材表面の浸炭層の上に硼化物層を形成するための硼砂塩浴として、還元材として従来のようなAl粉末に代えてAl−Mg合金を用いるため、浴中のAl2O3からAlを生成させることができるので塩浴の化学活性力が向上し、浸炭層と硼化物とが融合化した硼化浸炭複合化層を形成することができる。
(1)浸炭層を有する鋼鉄部材と浸炭層の化学特性
本発明において、鋼鉄部材表面に浸炭層を形成する方法としては、次のような方法を採用することができる。例えば、炭素にNa2CO3、CaCO3などの浸炭促進剤を添加した粉末中に鋼鉄部材を埋没させて加熱する粉末法、NaCN、NaCNO、Na2CO3などの塩浴中に、鋼鉄部材を浸漬して部材表面に浸炭層や浸炭・窒化層を形成する方法などが知られている。その他、高温のCOガスや炭化水素ガス中で処理するガス浸炭法、メタン、プロパンなどを浸炭源として10〜数十kPaの減圧中で処理する真空浸炭法により鋼鉄部材表面に浸炭層または浸炭・窒化層を形成する方法などでもよい。
本発明で用いる塩浴は、主成分が硼砂(Na2B4O7)であり、この塩浴中には、さらに還元材としてAl−Mg合金、とくに後述するように小片または小塊にしたものを添加してなる、いわゆる活性硼素を含有する硼砂塩浴である。そして、この硼砂塩浴中の前記活性硼素こそが鋼鉄基材表面の、特に浸炭層の上に硼化物層を形成するために重要な役割を担う成分である。
以下に、700℃〜1150℃に加熱された溶融状態の硼砂塩浴中におけるAl−Mg合金の作用機構について、従来技術に属するAl粉末添加の場合と比較して説明する。Al−Mg合金とAl粉末は、それぞれ硼砂塩浴中において、下記の反応によって活性硼素(B)を発生するものと考えられる。
Na2B4O7+Al→xB+yAl2O3 (1)
Na2B4O7+Mg→xB+yMgO (2)
(1)硼砂塩浴の化学的活性が低下して、前記(1)式による活性硼素(B)の生成量が少なくなる。
(2)硼砂塩浴の粘度が高くなるため、Al粉末を添加しても塩浴中に均等に分散することがなくなり、被処理鋼鉄部材の表面に形成される硼化物層の品質に大きなバラツキが見られるようになる。
(3)上記(2)の現象が顕著となると、やがて硼砂塩浴としての機能を消失することになるため、産業廃棄物として処理されることになり、硼砂塩浴としての有効な使用期間の短縮に伴う、生産コストの上昇原因となる。
(4)Al2O3微粒子自体は、化学的に非常に安定な酸化物であるうえ、ガラス状の硼砂塩浴中に含まれていることもあって、その物理的な除去方法は、極めて困難な状況にある。
Al2O3+3Mg→3MgO+2Al (3)
前述したように、本発明において特徴的なことの1つとして、前記硼化物層形成用金属化合物である還元材として、Al−Mg合金を用いることにある。この合金の化学成分は、Mg:1.2〜93mass%、残部がAlおよび不可避的不純物であるものが好ましく、さらにMg5〜50mass%のものを用いることがより好ましい。その理由は、Mgの含有量が1.2mass%(ただし、好ましい例では5mass%)よりも少ないと、Mgによる酸化アルミニウム(Al2O3)の還元作用に長時間を要するうえ還元できる量が少なく、一方、93mass%(ただし、好ましい例では50mass%)よりも多いと、前記Al2O3の還元作用によるAl粒子の生成量が増加して塩浴の化学活性度が、必要以上に高くなって鋼製の塩浴槽と反応して、その溶解成分による塩浴の汚染および塩浴槽の寿命を短くするからである。
なお、市販のAl−Mg合金は、微量のZn、Mn、Fe、Si、Cu、CrあるいはTiなど、またその他の不可避的不純物が含まれているが、これらは本発明の作用、効果を得る上であまり障害とならないため、特には規制されない。
本発明において特徴的なことは、鋼鉄部材の表面に対して第一次処理として浸炭層を形成し、その浸炭層の上に第二次処理として硼化物層を形成し、さらにこれらの層を融合させて複合化させてなる硼化浸炭複合化層を形成することにある。このような構成にする理由は、鋼鉄部材中に含まれているFe、V、W、Cr、Nb、Ta、Ti、Moなどの炭化物形成金属と炭素とを結合させることで、硬くかつ高融点で高温強度に優れた金属炭化物層、即ち浸炭層を生成させて該鋼鉄部材自体を強化することにある。これらの金属炭化物は、Fe2−3C、VC、WC、Cr3C2、NbC、TiC、TaC、MoCなどの集合体として浸炭層を形成し、鋼鉄部材に大きな外圧が負荷された場合にも、基材が座屈や塑性変形することなく、原型を長期間にわたって維持する上で有利である。
前記硼化浸炭複合化層を形成するまでには、鋼鉄部材自体が熱履歴を受けて金属組織が変化して機械的強度を低下させたり、熱変形させたりすることが多い。そこで、硼化浸炭複合化層を、必要に応じて後で熱処理(例えば、鋼鉄部材の変態点Ac1+30℃〜50℃で0.5〜2時間程の焼ならし)を行なって金属組織を正常化したり、変形を是正するなどの処理を行なうことが好ましい。これらの後熱処理方法および条件は鋼種ごとに異なるため既知の方法を採用する。
この実施例では、650℃〜1200℃の温度範囲に変化させた硼砂塩浴中にMg含有量の異なるAl−Mg合金を添加した試験塩浴を調整し、その後、この塩浴中にSM400鋼試験片を浸漬して、その表面に形成される硼化物層の形成状況を調査した。
(1)供試塩浴
SUS310鋼の容器中に硼砂20kgを投入した後、加熱溶融させ、塩浴温度650℃〜1200℃の温度範囲に維持しつつ、それぞれ所定の温度に供試鋼試験片を6時間浸漬した。
前記硼砂塩浴中に添加するAl−Mg合金として、Mg含有量1.2mass%〜93mass%、残部が主としてAlからなる合金を直径5〜10mm×長さ20mmの小片に加工し、硼砂量の約10mass%の割合で添加した。
また、比較例として、市販のAl2O3粉末も約10mass%となるように硼砂塩浴中に添加した。
SM400鋼(寸法:直径10mm×長さ30mm)を用い、その表面に浸炭層を700mm厚に形成した鋼鉄部材を供試した。
(4)評価方法
浸漬試験後の供試鋼試験片に形成されている硼化物層の形成状況を金属顕微鏡を用いて観察するとともに、その皮膜のミクロ硬さを測定した。
試験結果を表1に示した。この表1に示す結果から明らかなように、塩浴温度650℃では、硼化物層の形成は認められなかった。この原因の大部分は、塩浴温度650℃では、Al粉末の融点660℃より低く、Mgの融点650℃とほぼ同じ温度であるため、両金属とも硼砂から活性硼素(B)を還元する作用が弱かったためと考えられる。
また、この温度範囲で形成される硼化物層の性状、ミクロ硬さなどは、Al粉末、Al−Mg合金ともほぼ同等であり、有意差は認められていない。
なお、硼砂塩浴を1200℃に加熱すると、硼砂自体の熱分解反応が発生する兆候が見られることから、長期間にわたって使用する塩浴の安定的性能発揮限界温度は1150℃にあるものと考えられる。
この実施例では、硼砂塩浴にAl粉末を継続的に添加しつつ、硼化処理を実施する場合を想定し、塩浴中に増加し続けるAl2O3微粒子の硼化物層の品質および作業性に与える影響について、本発明に適合するAl−Mg合金の場合と比較した。
比較例の塩浴組成:硼砂20kg、Al粉末400g、Al2O32kg
発明例の塩浴組成:硼砂20kg、Al−30mass% Mg400g、Al2O32kg
(2)供試鋼種
供試鋼種として、Sm400鋼を用い、直径10mm×長さ15mmの試験片に加工した後、浸炭処理によって浸炭層を800mm厚に形成した。
(3)塩浴温度・浸漬時間
960℃×5hとした。
(4)評価方法
供試鋼試験片の表面に形成された硼化物層の硬さおよびその断面ミクロ組織観察によって評価した。
試験結果を表2に示した。この表に示す結果から明らかなように、Al粉末を添加する従来型の塩浴中には、添加したAl粉末のすべてがAl2O3となって塩浴中に残留するため、その残留量が多くなると、Al粉末を添加してもその作用効果は著しく低下していることが認められる。即ち、Al粉末の添加による硼砂(Na2B4O7)の還元作用による活性硼素(B)の析出、遊離作用が低下する結果、試験片表面に形成される硼化物層の厚さが薄くなるとともに、表層部では割れが多数発生し、その割れ部には多量のAl2O3微粒子が残存しているのが認められた。ただ、硼化物層の硬さについては、HV:1600以上を示し、両者に相違は認められなかった。
この実施例では、硼砂塩浴中にAl−Mg合金を添加した塩浴を用い、鋼鉄部材に対する浸炭の有無と、その表面に形成される複合化層の関係について調査した。
(1)供試塩浴
硼砂 30kg、Al−20mass%Mg合金400g
(2)供試鋼種
JISに規定されている鋼種記号SK60、Sk140、S35C、SC360、FC100を用いて直径10mm×長さ15mm寸法の試験片を作製した後、ガス浸炭法によって、試験片の表面に浸炭層を形成させた。また比較例として、浸炭層を形成しない試験片も準備した。
(3)硼化処理条件
前記供試塩浴の温度を900℃に維持し、5時間浸漬した。
(4)評価方法
塩浴から引き上げた試験片表面に形成されている硼化物層の断面ミクロ組織を観察し、浸炭層および硼化物層の形成状況から硼化浸炭複合化層の有無を判定した。
試験結果を表3に示した。この表に示す結果から明らかなように、炭素含有量の高い供試鋼種、例えば試験片No.4のSK140のように、炭素含有量約1.5mass%の試験片でも複合化層は形成されず、硼化物層のみの存在が確認されているだけである。また、試験片No.10のようにミクロ組織観察によって、遊離状のグラファイトが存在するFC材であっても、複合化層の形成は認められない。
これに対して、供試鋼種の炭素含有量の多少に関係なく、浸炭処理を施した後に硼化処理を行なうと、すべての鋼種試験片の表面に品質の安定した複合化層の形成が認められた。
その他、本発明は、前記複合化層の表面を精密仕上加工することによって、各種プレス金型、線材圧延機の穴型、草刈機用の刃物類など耐摩耗性とその耐久性が要求される部材への表面処理技術としても利用できる。
(1)鋼鉄部材表面に形成される浸炭層は、粉末法、溶融塩法、ガス法および真空法のうちから選ばれるいずれか1種以上の浸炭法によって部材表面に直に形成されていること、
(2)前記Al−Mg合金は、Mgを1.2〜93mass%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、直径2〜10mm、長さ5〜20mmの小片または小塊であること、
(3)前記硼化浸炭複合化層の硼化物層は、上記硼砂塩浴中のAl−Mg合金の還元反応によって硼砂成分から析出し遊離した活性硼素(B)によって形成された硬化層であること、
(4)前記硼化浸炭複合化層の下層に位置する該浸炭層は、鋼鉄部材の高強度化層であること、
前記硼化浸炭複合化層を形成するまでには、鋼鉄部材自体が熱履歴を受けて金属組織が変化して機械的強度を低下させたり、熱変形させたりすることが多い。そこで、硼化浸炭複合化層を、後で処理、(即ち、鋼鉄部材の変態点Ac1+30℃〜50℃で0.5〜2時間程の焼ならし)を行なって金属組織を正常化したり、変形を是正するなどの処理を行なう。
Claims (9)
- 硼砂を主成分とする塩浴中にAl−Mg合金を添加してなる溶融状態の硼砂塩浴中に、表面に浸炭層を設けてなる鋼鉄部材を浸漬することによって、該鋼鉄部材の表面に、浸炭層と硼化物層とからなる硼化浸炭複合化層を形成することを特徴とする鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法。
- 前記硼化浸炭複合化層は、下層が鋼鉄部材表面に形成された浸炭層であり、その浸炭層の上に上層として硼化物層が形成されたものであって、該浸炭層および硼化物層は互いにその境界において融合して複合化した層であることを特徴とする請求項1に記載の鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法。
- 鋼鉄部材表面に形成される浸炭層は、粉末法や溶融塩法、ガス法、あるいは真空法のような浸炭法のうちから選ばれる1種以上の方法によって部材表面に直に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法。
- 前記Al−Mg合金は、Mgを1.2〜93mass%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、直径2〜10mm、長さ5〜20mmの小片または小塊であることを特徴とする請求項1に記載の鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法。
- 前記硼砂塩浴は、温度が700℃〜1150℃の温度に維持されることを特徴とする請求項1に記載の鋼鉄部材表面への複合硬化層の形成方法。
- 還元材としてAl−Mg合金を含む溶融状態の硼砂塩浴中に、表面に浸炭層を設けてなる鋼鉄部材を浸漬することによって、該浸炭層の上に硼化物層を形成したものであり、該浸炭層および硼化物層とが冶金的に融合して複合化した硼化浸炭複合化層となっていることを特徴とする表面に複合硬化層を有する鋼鉄部材。
- 前記硼化浸炭複合化層の硼化物層は、上記硼砂塩浴中のAl−Mg合金の還元反応によって硼砂成分から析出し遊離した活性硼素(B)によって形成された硬化層であることを特徴とする請求項6に記載の表面に複合硬化層を有する鋼鉄部材。
- 前記硼化浸炭複合化層は、下層が鋼鉄部材表面に形成された浸炭層であり、その浸炭層の上に上層として硼化物層が形成されたものであって、該浸炭層および硼化物層は互いにその境界において融合して複合化した層であることを特徴とする請求項6または7に記載の表面に複合硬化層を有する鋼鉄部材。
- 前記硼化浸炭複合化層の下層に位置する該浸炭層は、鋼鉄部材の高強度化層であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1に記載の表面に複合硬化層を有する鋼鉄部材。
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