以下、車両の電動制動装置を具体化した一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示すように、車両の電動制動装置10は、車輪11毎に設けられている電動式のブレーキアクチュエータ12と、ブレーキアクチュエータ12を制御する制御装置13とを備えている。例えば、4つの車輪11を有する車両に適用される電動制動装置10は、合計で4つのブレーキアクチュエータ12を備えている。
ブレーキアクチュエータ12は、ディスク型の電動アクチュエータであり、車輪11と一体回転する回転体の一例であるブレーキディスク20と、車体に支持されているブレーキキャリパ21とを有している。このブレーキキャリパ21は、図中左右方向でもある車両幅方向においてブレーキディスク20を挟んだ両側に配置される一対のブレーキパッド22を支持している。これらブレーキパッド22が、「摩擦部材」の一例に相当する。ブレーキパッド22は、ブレーキディスク20に近づく方向及び離れる方向に移動可能となっており、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力が大きいほど、車輪11に大きい制動力が付与される。
なお、電動制動装置10に適用されるブレーキアクチュエータとして、ディスク型以外にもドラム型の電動アクチュエータも挙げることができる。この場合、ブレーキドラムが「回転体」の一例に相当し、ブレーキシューが「摩擦部材」の一例に相当することとなる。
ブレーキキャリパ21には、モータ23と、モータ23からの出力をブレーキパッド22に伝達する伝達機構24とが設けられている。そして、モータ23が駆動されると、モータ23からの出力が伝達機構24を通じてブレーキパッド22に伝達される。これにより、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に押し付けられたり、ブレーキパッド22のブレーキディスク20への押し付けが解消されたりする。
なお、本明細書では、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に近づけたり、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力を大きくしたりするためのモータ23の駆動を正駆動ともいう。また、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力を小さくしたり、ブレーキパッド22をブレーキディスク20から離したりするためのモータ23の駆動を逆駆動ともいう。モータ23の正駆動時における同モータ23の出力軸231の回転方向である正方向は、モータ23の逆駆動時における出力軸231の回転方向である逆方向とは反対方向である。
伝達機構24は、モータ23の出力軸231の回転速度を減速して出力する減速機25と、減速機25の出力側に接続されているシャフト部材26とを備えている。このシャフト部材26は、モータ23からの出力トルクが減速機25を通じて伝達されることで回転する。このとき、シャフト部材26は、モータ23の出力軸231の回転方向に準じた方向に回転する。
また、伝達機構24には、シャフト部材26の先端に連結されている螺子部材27と、ブレーキパッド22を押すピストン28とが設けられている。螺子部材27は、ピストン28の内部に位置しており、螺子部材27の周面には雄ねじ加工が施されている。すなわち、螺子部材27の周面が雄ねじ部となっている。
ピストン28の内周面には雌ねじ加工が施されている。すなわち、ピストン28の内周面は、螺子部材27の雄ねじ部が螺合される雌ねじ部となっている。そのため、ピストン28には、螺子部材27の回転運動が直線運動に変換されて入力される。つまり、螺子部材27とピストン28とにより、モータ23の出力軸231の回転運動を直線運動に変換してブレーキパッド22に出力する「変換機構」の一例が構成される。
また、ブレーキアクチュエータ12には、モータ23の正駆動に基づいて弾性エネルギを蓄積するエネルギ蓄積機構40が設けられている。ブレーキパッド22がブレーキディスク20に押し付けられている状況下でモータ23が逆駆動するときには、エネルギ蓄積機構40から弾性エネルギが徐々に解放されることで、出力軸231の逆方向への回転、及びブレーキパッド22をブレーキディスク20から離すことがアシストされる。また、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に押し付けられている状況下でモータ23への電力供給が遮断された場合にあっては、エネルギ蓄積機構40から弾性エネルギが解放されることで出力軸231が逆方向に回転され、ブレーキパッド22がブレーキディスク20から離される。
なお、車両に設けられている複数のブレーキアクチュエータ12のうち、一部のブレーキアクチュエータ12には、図1に示すように、車輪11に付与する制動力を保持するための駐車制動部の一例であるロック機構30が設けられている。例えば、ロック機構30を有するブレーキアクチュエータ12としては、後輪用のブレーキアクチュエータを挙げることができる。
ロック機構30は、モータ23の出力軸231に固定されており、同出力軸231と一体回転するラチェット歯車31と、ラチェット歯車31に近づく方向及び離れる方向に進退移動する爪部材32と、爪部材32の動力源であるソレノイド33とを有している。ラチェット歯車31は、モータ23の駆動に基づき回転する。そして、車輪11に駐車制動を付与する際には、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付けている状態でソレノイド33の駆動によって爪部材32がラチェット歯車31の歯に係合される。これにより、モータ23の出力軸231の逆方向への回転が規制され、車輪11に付与する制動力が保持される。一方、車輪11への駐車制動を解除する際には、モータ23の正駆動によってラチェット歯車31が正方向に回転することで、ラチェット歯車31の歯と爪部材32との係合が解除され、爪部材32がラチェット歯車31から離れる方向に移動する。これにより、モータ23の出力軸231が逆方向に回転し、車輪11に制動力が付与されなくなる。
図1に示すように、制御装置13には、モータ23の出力軸231の回転角度であるモータ23の回転角MAを検出する回転角度検出センサ101と、ピストン28がブレーキパッド22を押す力を検出する押圧力センサ102とが電気的に接続されている。なお、モータ23の回転角MAは、出力軸231が正方向に回転するにつれて大きくなり、出力軸231が逆方向に回転するにつれて小さくなる。また、ピストン28がブレーキパッド22を押す力は、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力である押圧力PAとある程度相関している。
また、制御装置13には、ブレーキペダル200の操作量を検出するストロークセンサ103が電気的に接続されている。制御装置13は、ストロークセンサ103によって検出された操作量に基づき、運転者が要求している要求制動力を演算する。そして、制御装置13は、演算した要求制動力に応じてモータ23の駆動を制御する。例えば、制御装置13は、要求制動力が大きくなっているときにはモータ23を正駆動させる一方、要求制動力が小さくなっているときにはモータ23を逆駆動させる。
また、制御装置13には、パーキングスイッチ111が電気的に接続されている。車両が停止している状況下でパーキングスイッチ111がオン操作されると、制御装置13は、車両を停止させるのに必要な制動力を車輪11に付与させるべくモータ23を正駆動させ、この状態を保持すべくモータ23及びソレノイド33の駆動を制御する。そして、制御装置13は、車輪11に付与する制動力がロック機構30によって保持されている状態を確認した上で、モータ23及びソレノイド33の駆動を停止させる。
また、制御装置13には、車輪11の車輪速度を検出する車輪速度センサ104が電気的に接続されている。そして、制御装置13は、車輪11毎の車輪速度のうち少なくとも1つの車輪速度(例えば、最も大きい車輪速度)に基づいて、車体速度を演算する。
こうした制御装置13には、各種のパラメータを記憶する記憶部131が設けられている。この記憶部131は不揮発性のメモリを有しており、記憶部131には、詳しくは後述するが、モータ23の出力軸231の正方向への最大回転量ZMAXが記憶される。
次に、図2を参照し、ブレーキパッド22と、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力である押圧力PAとの関係について説明する。図2では、摩耗が進行していない新品のブレーキパッドの特性を実線で示し、摩耗が進行した状態のブレーキパッドの特性を破線で示している。また、図2において、縦軸は押圧力PAであり、横軸は、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に接触したときのピストン28の位置を基準とする同ピストン28の相対ストローク量SPである。なお、このピストン28の相対ストローク量SPは、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に接触したときのモータ23の回転角を基準とする同モータ23の正方向への相対回転量と相関している。
一般的に、ブレーキパッド22の摩耗が進行すると、ブレーキパッド22の剛性が高くなる。そして、ブレーキパッド22の剛性が高くなると、図2に示すように、ピストン28の相対ストローク量SPの増大量に対する押圧力PAの増大量の比が大きくなる。すなわち、ブレーキパッド22の剛性が変わると、例えば押圧力PAが第1の押圧力PA1と等しい場合のピストン28の相対ストローク量SP、及びモータ23の相対回転量もまた変化する。
次に、図3及び図4を参照し、エネルギ蓄積機構40について説明する。
図3及び図4に示すように、エネルギ蓄積機構40は、有底略円筒形状をなすハウジング41と、モータ23の出力軸231に連結され、同出力軸231と一体回転する回転軸42と、弾性体の一例である渦巻きばね43とを備えている。ハウジング41の筒状部411の内周面には、複数の係合凹部412が周方向に沿って等間隔に配置されている。
円柱形状をなす回転軸42は、その周面から内側に向けて略V字状に切り込まれている。こうした切り込みによって回転軸42には、2つの面421,422が形成されている。これら2つの面のうち、一方の面は、回転軸42の周面に接続している部分の角度が略「90°」となる係止面421であり、他方の面は、回転軸42の周面に接続している部分の角度が鈍角となる逃がし面422である。
渦巻きばね43は、その一端がハウジング41の筒状部411に係合され、その他端が回転軸42に係合された態様でハウジング41内に配置されている。渦巻きばね43において筒状部411に係合される第1の端部431は、筒状部411に設けられている係合凹部412に係合可能な形状となっている。そして、第1の端部431は、各係合凹部412のうち1つの係合凹部に係合されている。また、渦巻きばね43において回転軸42に係合される第2の端部432は、折り曲げ加工が施されており、回転軸42の係止面421に引っ掛けられた態様で係止されている。
モータ23の正駆動によって出力軸231が正方向に回転すると、回転軸42は、図3に示す矢印方向である正方向に回転する。すると、正方向に回転する回転軸42に渦巻きばね43が巻き取られ、渦巻きばね43が弾性変形する。こうした渦巻きばね43の弾性変形によって、エネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量が徐々に多くなる。このようにエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量が増大している最中にあっては、渦巻きばね43の第1の端部431と係合凹部412との係合が維持されている。
そして、渦巻きばね43の弾性変形によってエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量が多くなると、渦巻きばね43の第1の端部431と係合凹部412との係合が維持できなくなり、リミッタ機能の作動によって第1の端部431と係合凹部412との係合が解消される。すると、回転軸42の正方向への回転に応じ、渦巻きばね43の第1の端部431が、ハウジング41の筒状部411の内周面に沿って摺動するようになる。すなわち、この状態では、第1の端部431に係合する係合凹部412が順番に変わる。このように第1の端部431が筒状部411の内周面に沿って摺動している場合、渦巻きばね43の更なる弾性変形がなされないため、エネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量は増大されない。すなわち、弾性エネルギの蓄積量は、第1の端部431と係合凹部412との係合が解消された時点の量で保持されている。この点で、本実施形態の電動制動装置10では、渦巻きばね43の第1の端部431と、係合凹部412を有するハウジング41とにより、渦巻きばね43の更なる弾性変形を規制する「リミッタ部」の一例が構成されている。
このようにエネルギ蓄積機構40が弾性エネルギを蓄積している状態でモータ23の逆駆動によって出力軸231が逆方向に回転したり、モータ23への通電が終了されたりすると、弾性変形している渦巻きばね43の弾性復帰力によって、図4に示す矢印方向である逆方向に回転軸42が回転する。すなわち、エネルギ蓄積機構40からの弾性エネルギの解放によって、回転軸42が逆方向に回転する。このように回転軸42が逆方向に回転しているときには、モータ23の出力軸231も逆方向に回転されるため、ブレーキパッド22もまたブレーキディスク20から離れる方向に移動する。
ところで、本実施形態の電動制動装置10は、非制動時には、ブレーキパッド22とブレーキディスク20との間隔Hが規定間隔HAで保持されるようにモータ23の回転角MAを調整する機能を有している。このような非制動時にエネルギ蓄積機構40が弾性エネルギを蓄積している場合、モータ23の出力軸231が逆方向に回転しないようにモータ23の駆動が制御されることとなる。そして、この状態で運転者によるブレーキペダル200の操作に応じてモータ23を正駆動させる場合、モータ23の出力軸231を正方向に回転させることで、エネルギ蓄積機構40に弾性エネルギを蓄積させつつ、押圧力PAを増大させることとなる。そのため、非制動時におけるエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量が多いほど、モータ23の消費電力量が増大することとなる。
次に、図5を参照し、モータ23の消費電力量が増大する理由について説明する。なお、図5では、ブレーキパッド22が新品であり、未だ摩耗していない状態を実線で示し、ブレーキパッド22が摩耗している状態を一点鎖線及び破線で示している。
図5(a),(b)に実線で示すように、ブレーキパッド22が未だ摩耗していない状況下では、非制動時におけるエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xは「0(零)」である。なお、ブレーキパッド22が未だ摩耗していない状況下の非制動時にあっては、モータ23の回転角MAは第1の回転角MA1で保持されている。この場合、ブレーキパッド22とブレーキディスク20との間隔Hが、規定間隔HAと等しい。このように当該間隔Hが規定間隔HAと等しいときのモータ23の回転角MAを「基準回転角MAB」というものとする。
ブレーキパッド22が未だ摩耗していない状況下では、第1の回転角MA1が基準回転角MABに相当する。また、モータ23の回転角MAが第1の回転角MA1と等しいときのピストン28の位置が、ピストン28の「基準位置」に相当する。
図5に示す例では、モータ23の回転角MAが第1の回転角MA1と等しいときに、弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」となる。そして、モータ23の正駆動によって回転角MAが第1の回転角MA1から大きくなると、弾性エネルギの蓄積量Xが徐々に大きくなる。すなわち、モータ23の回転角MAから第1の回転角MA1(すなわち、基準回転角MAB)を減じた差が、「ピストン28が基準位置に位置する時点からのモータ23の出力軸231の正方向への回転量」に相当し、当該差が大きくなるにつれて弾性エネルギの蓄積量Xが多くなる。
また、モータ23の正駆動によって回転角MAが、第1の回転角MA1よりも大きい第2の回転角MA2と等しくなったときに、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に接触する。すなわち、ブレーキパッド22が未だ摩耗していない状況下では、第2の回転角MA2が、ブレーキパッド22がブレーキディスク20から離れている状態と、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に接触している状態との境界となる境界回転角に相当する。その後にあっては、モータ23の回転角MAが大きくなるにつれて押圧力PAが大きくなる。
そして、モータ23の回転角MAが、第2の回転角MA2よりも大きい第4の回転角MA4と等しくなると、弾性エネルギの蓄積量Xが、エネルギ蓄積機構40で蓄積することのできる弾性エネルギの最大値XMAXと等しくなる。そのため、モータ23の回転角MAがさらに大きくされると、エネルギ蓄積機構40では、リミッタ機能が作動し、弾性エネルギの更なる蓄積が規制される。すなわち、第4の回転角MA4から基準回転角MABである第1の回転角MA1を減じた差が、「規定回転量SLA」に相当することとなる。モータ23の回転角MAが第4の回転角MA4より大きくなると、リミッタ機能が作動し、弾性エネルギの蓄積量Xが最大値XMAXで保持される。そして、蓄積量Xが最大値XMAXで保持されている状態でモータ23の回転角MAが小さくされると、回転角MAの減少に連動して弾性エネルギの蓄積量Xが減少する。すなわち、図5(b)に矢印で示すように、モータ23の回転角MAと弾性エネルギの蓄積量Xとの関係を示す線は、リミッタ機能が作動することで右方に移動することとなる。
ここで、ブレーキパッド22の摩耗は徐々に進行する。このようにブレーキパッド22の摩耗が進行すると、ブレーキパッド22の厚さ(すなわち、図1における左右方向の長さ)が徐々に薄くなる。その結果、ピストン28の基準位置が、ブレーキディスク20側に変位する。なお、本明細書では、ピストン28がブレーキディスク20に近づくことを「ピストン28の前進」ということもある。そのため、ブレーキパッド22の厚さが薄くなることでの基準位置の変位のことを「基準位置の前進側への変位」ということができる。そして、図5では、このようにブレーキパッド22の摩耗が進行した状態の例が一点鎖線及び破線で示されている。
以下では、こうしたブレーキパッド22の摩耗の進行によってモータ23の消費電力量が増大する理由を二つの場合に分けて説明する。
(A)ブレーキパッド22の摩耗が進行する過程で大きな押圧力PAが発生しなかった場合。
上述したように、ブレーキパッド22が新品で未だ摩耗していない初期状態では、モータ23の回転角MAが第4の回転角MA4以上になると、エネルギ蓄積機構40のリミッタ機能が作動する。このようにリミッタ機能が作動する第4の回転角MA4にモータ23の回転角MAが達したときの押圧力PAを、第2の押圧力PA12とする。ブレーキパッド22の摩耗が進行すると、上記の境界回転角が大きくなるため、ブレーキパッド22が未だ摩耗していないときと同じ押圧力PAを得るために必要なモータ23の回転角MAは、大きくなる。したがって、図5(a)にあっては、モータ23の回転角MAと押圧力PAとの関係を示す線が、ブレーキパッド22の摩耗が進行するほど右方に移動することになる。
ここで、図5(a)に示すように、ブレーキパッド22の摩耗の進行によってモータ23の回転角MAと押圧力PAとの関係を示す線が実線から一点鎖線に変化する過程で発生した最大の押圧力が、第2の押圧力PA12よりも小さい第1の押圧力PA11である場合について考える。この場合、モータ23の回転角MAが第4の回転角MA4と等しいときに押圧力PAが第1の押圧力PA11と等しくなる状況になるまでブレーキパッド22の摩耗が進行する間、エネルギ蓄積機構40のリミッタ機能は作動しない。そのため、図5(b)に示すモータ23の回転角MAと弾性エネルギの蓄積量Xとの関係は、ブレーキパッド22が新品で未だ摩耗していない初期状態における関係(実線)のままである。
この場合、非制動時にあっては、第1の回転角MA1よりも大きい第7の回転角MA7が基準回転角MABに相当することとなる。そして、モータ23の回転角MAが第7の回転角MA7で保持されているときであっても、エネルギ蓄積機構40では弾性エネルギが蓄積されていることとなる。そのため、非制動時にモータ23への通電を終了させると、エネルギ蓄積機構40から弾性エネルギが解放されることでモータ23の出力軸231が逆方向に回転し、回転角MAが小さくなる。そして、回転角MAが、第7の回転角MA7よりも小さい第1の回転角MA1と等しくなると、弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」となる。言い換えると、モータ23の回転角MAを第7の回転角MA7で保持するためには、その時点の弾性エネルギの蓄積量Xと相関する弾性力に対応するだけの力(トルク)をモータ23から出力させる必要がある。したがって、ブレーキパッド22が未だ摩耗していない場合と比較して、非制動時でのモータ23の消費電力量が増大してしまう。
(B)摩耗の進行によってブレーキパッド22の剛性に変化が生じた場合
ブレーキパッド22の摩耗が進行する過程で、押圧力PAが上記第2の押圧力PA12以上となる機会があった場合、エネルギ蓄積機構40のリミッタ機構が作動することとなる。しかし、このようにリミッタ機構が作動しても、ブレーキパッド22の摩耗に起因する同ブレーキパッド22の剛性の変化によって、非制動時の消費電力量が増大する場合がある。例えば、図5(a),(b)に破線で示すように、ブレーキパッド22の摩耗が進行した状況下であってもモータ23の正駆動によって押圧力PAが第2の押圧力PA12に達するとエネルギ蓄積機構40のリミッタ機能が作動する。そして、図5(b)に破線で示す例では、モータ23の回転角MAが第6の回転角MA6と等しいときの弾性エネルギの蓄積量Xが、最大値XMAXとなる。
この場合、非制動時であっても、すなわちモータ23の回転角MAが第5の回転角MA5(すなわち、基準回転角MAB)で保持されているときであっても、エネルギ蓄積機構40では弾性エネルギが蓄積されている。そのため、非制動時にモータ23への通電を終了させると、エネルギ蓄積機構40から弾性エネルギが解放されることでモータ23の出力軸231が逆方向に回転し、回転角MAが小さくなる。そして、回転角MAが、第5の回転角MA5よりも小さい第3の回転角MA3と等しくなると、弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」となる。言い換えると、モータ23の回転角MAを第5の回転角MA5で保持するためには、その時点の弾性エネルギの蓄積量Xと相関する弾性力に対応するだけの力(トルク)をモータ23から出力させる必要がある。したがって、ブレーキパッド22が未だ摩耗していない場合と比較し、非制動時でのモータ23の消費電力量が増大してしまう。
また、この状態でブレーキペダル200が操作され、モータ23を正駆動させる場合、弾性エネルギの蓄積量Xが多い分、モータ23に加わる負荷も大きい。そのため、押圧力PAを大きくする際にもモータ23の消費電力量が増大する。なお、図5では、ブレーキパッド22が新品で未だ摩耗していない初期状態において、ブレーキパッド22とブレーキディスク20との間隔Hが規定間隔HAと等しい非制動時に弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」となるようにエネルギ蓄積機構40を構成した例について示している。しかし、これに限らず、上記の初期状態において上記の間隔Hが規定間隔HAとは異なる所定の間隔(「0(零)」も含む。)と等しいときに蓄積量Xが「0(零)」となるようにエネルギ蓄積機構を構成した場合、又は、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に接触し、所定の押圧力が発生しているときに蓄積量Xが「0(零)」となるようにエネルギ蓄積機構を構成した場合においても、上で述べた2つの理由(A),(B)によって消費電力量が増大し得る。
なお、図5に破線で示す例では、モータ23の回転角MAが、第5の回転角MA5よりも大きい第6の回転角MA6と等しくなったときに、弾性エネルギの蓄積量Xが、エネルギ蓄積機構40で蓄積することのできる弾性エネルギの最大値XMAXと等しくなる。そして、第6の回転角MA6から第5の回転角MA5を減じた差は、第4の回転角MA4から第1の回転角MA1を減じた差よりも小さくなる。これは、図2を用いた説明したように、ブレーキパッド22の摩耗の進行によってブレーキパッド22の剛性が高くなったためである。すなわち、ブレーキパッド22の摩耗の進行した場合、ブレーキパッド22の残量の減少だけではなく、ブレーキパッド22の剛性の変化によっても、非制動時、すなわちピストン28が基準位置に位置している状況下での弾性エネルギの蓄積量Xが多くなりやすい。
そこで、本実施形態の電動制動装置10では、ピストンが基準位置に位置する時点からのモータ23の出力軸231の正方向への回転量、すなわちその時点の基準回転角MABからのモータ23の正方向への回転量が調整回転量ΔZTH以上となるまでモータ23を正駆動させる調整処理を実施するようにしている。それまでに経験したモータ23の正方向への回転量の最大値を最大回転量ZMAXとした場合、この調整処理を実施することにより、最大回転量ZMAXが更新される。
図6を参照し、本実施形態の電動制動装置10が調整処理を実施した際の作用について説明する。ここでは、調整処理の実施によって図6(b)に示すモータの回転角MAと弾性エネルギの蓄積量Xとの関係を表す線が、破線から実線に変わる例について説明する。
図6(a),(b)に示すように、その時点の基準回転角MABである第2の回転角MA12からモータ23の回転角MAが大きくされる。そして、モータ23の回転角MAが第3の回転角MA13に達すると、それ以降では最大回転量ZMAXが更新される。この場合、エネルギ蓄積機構40では、リミッタ機能が作動し続けることとなり、弾性エネルギの蓄積量Xが保持される。
そして、第2の回転角MA12に調整回転量ΔZTHを加算した和である第4の回転角MA14とモータ23の回転角MAとが等しくなると、調整処理の実施が終了され、モータ23の正駆動が終了される。すると、エネルギ蓄積機構40からの弾性エネルギの解放によって、モータ23の出力軸231が逆方向に回転し、モータ23の回転角MAが小さくなる。そして、図6(b)に実線で示すように、モータ23の回転角MAが第2の回転角MA12と等しいときに、エネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」となる。すなわち、エネルギ蓄積機構40からの弾性エネルギの解放によって、モータ23の回転角MAが、第2の回転角MA12よりも小さい第1の回転角MA11に戻ることはない。
なお、調整処理が実施されている最中では、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に押し付けられるため、車輪11に制動力が付与されることとなる。そのため、車両走行中に調整処理を実施したとすると、運転者の意図とは無関係に制動力が車輪11に付与されることとなり、この点に対して車両の運転者が不快に感じるおそれがある。そのため、本実施形態の電動制動装置10では、車両が停止していることを条件に調整処理を実施するようにしている。
また、上記のようなモータ23の消費電力量の増大は、ブレーキパッド22の摩耗に起因して生ずるものである。言い換えると、ブレーキパッド22があまり摩耗していない状況下では、モータ23の消費電力量はあまり増大されない。そこで、本実施形態の電動制動装置10では、前回に調整処理が実施された時点からのブレーキパッド22の摩耗量を推定し、推定した摩耗量Yが規定摩耗量YTH以上であることを条件に調整処理を実施するようにしている。この規定摩耗量YTHは、ブレーキパッド22の摩耗に起因してモータ23の消費電力量が多くなったと判断するための判定値である。
また、ブレーキパッド22の摩耗が進行すると、モータ23の基準回転角MABが徐々に大きくなり、その時点のモータ23の最大回転量ZMAXから基準回転角MABを減じた差が小さくなる。最大回転量ZMAXから基準回転角MABを減じた差が調整回転量ΔZTH以上である場合、モータ23の回転角MAが基準回転角MABと等しい状況下でのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xは「0(零)」と見なすことができる。一方、当該差が調整回転量ΔZTH未満である場合、モータ23の回転角MAが基準回転角MABと等しい状況下でのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xは「0(零)」よりも大きい。そのため、モータ23の消費電力量が増大するおそれがある。そこで、本実施形態の電動制動装置10では、最大回転量ZMAXから基準回転角MABを減じた差が調整回転量ΔZTH未満であることを条件に、調整処理を実施するようにしている。
また、ピストン28の位置を基準位置で保持している場合、同状態でのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xが多いほど、モータ23に対する電流値Imtが大きくなる。すなわち、モータ23の消費電力量が増大するとともに、モータ23が過熱状態になりやすくなる。そこで、本実施形態では、ピストン28の位置を基準位置で保持しているときの電流値Imtが判定電流値ImtTH以上であることを条件に、調整処理を実施するようにしている。この判定電流値ImtTHは、非制動時にモータ23に流れる電流が大きすぎるか否かを判断するための判定値である。
なお、エネルギ蓄積機構40の渦巻きばね43の特性は、時間が経過するにつれて変化する。具体的には、エネルギ蓄積機構40で蓄積することのできる弾性エネルギの最大値は、時間が経過するにつれて徐々に小さくなる。そして、このようにエネルギ蓄積機構40で蓄積することのできる弾性エネルギの最大値が小さくなると、弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」である状態から蓄積量Xが最大値と等しい状態になるまでに要するモータ23の回転量である規定回転量SLAが小さくなる。そこで、本実施形態の電動制動装置10では、渦巻きばね43が蓄積することのできる弾性エネルギの最大値を推定し、同推定した弾性エネルギの最大値が小さいほど、調整回転量ΔZTHを小さくする補正処理を実施するようにしている。これにより、調整回転量ΔZTHは、そのときの規定回転量SLAとほぼ等しい値とすることができ、規定回転量SLAが小さくなるにつれて小さくなる。
次に、図7に示すフローチャートを参照し、調整処理を実施するために制御装置13が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、予め設定された制御サイクル毎に実行されるルーチンである。
図7に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置13は、非制動時におけるモータ23に対する電流値Imtが判定電流値ImtTH以上であるか否かを判定する(ステップS11)。電流値Imtが判定電流値ImtTH以上であるときには、調整処理の実施条件が成立していると判断することができる。そのため、電流値Imtが判定電流値ImtTH以上である場合(ステップS11:YES)、制御装置13は、その処理を後述するステップS16に移行する。一方、電流値Imtが判定電流値ImtTH未満である場合(ステップS11:NO)、制御装置13は、ブレーキパッド22の摩耗量を推定演算する摩耗量推定処理を実施する(ステップS12)。
ここで、車両の走行時間や走行距離が長いほど、ブレーキパッド22の摩耗量が多いと予測することができる。また、車両制動の回数が多かったり、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付けている時間が長かったりするほど、ブレーキパッド22の摩耗量が多いと予測することができる。そのため、摩耗量推定処理では、車両の走行時間や走行距離、又は、制動力の発生履歴などに基づき、ブレーキパッド22の摩耗量を演算するようにしてもよい。
また、本実施形態の電動制動装置10では、非制動時でのブレーキパッド22とブレーキディスク20との間隔Hを規定間隔HAで保持すべくモータ23の回転角MAが調整されている。すなわち、非制動時におけるモータ23の回転角MAである基準回転角MABと、ブレーキパッド22の摩耗量との間には相関関係がある。そのため、摩耗量推定処理では、基準回転角MABが大きいほど、ブレーキパッド22の摩耗量が大きくなるようにしてもよい。
こうした摩耗量推定処理が終了すると、制御装置13は、前回に調整処理を実施した時点からのブレーキパッド22の摩耗量Yを、摩耗量推定処理の実施結果などに基づいて演算し、この摩耗量Yが規定摩耗量YTH以上であるか否かを判定する(ステップS13)。摩耗量Yが規定摩耗量YTH以上であるときには、調整処理の実施条件が成立していると判断することができる。そのため、摩耗量Yが規定摩耗量YTH以上である場合(ステップS13:YES)、制御装置13は、その処理を後述するステップS16に移行する。
一方、摩耗量Yが規定摩耗量YTH未満である場合(ステップS13:NO)、制御装置13は、現時点のモータ23の最大回転量ZMAXを記憶部131から取得する(ステップS14)。そして、制御装置13は、取得した最大回転量ZMAXから現時点の基準回転角MABを減じ、その差(=ZMAX−MAB)が調整回転量ΔZTH未満であるか否かを判定する(ステップS15)。当該差が調整回転量ΔZTH未満であるときには、調整処理の実施条件が成立していると判断することができる。そのため、当該差が調整回転量ΔZTH未満である場合(ステップS15:YES)、制御装置13は、その処理を次のステップS16に移行する。一方、当該差が調整回転量ΔZTH以上である場合、調整処理の実施条件が成立していないと判断することができる。そのため、当該差が調整回転量ΔZTH以上である場合(ステップS15:NO)、制御装置13は、本処理ルーチンを一旦終了する。
ステップS16において、制御装置13は、車両が停止しているか否かを判定する。例えば、演算した車体速度が停止判定速度以下であるときには、車両が停止していると判定することができる。車両が停止していない場合(ステップS16:NO)、制御装置13は、調整処理を実施することなく本処理ルーチンを一旦終了する。一方、車両が停止している場合(ステップS16:YES)、制御装置13は、パーキングスイッチ111がオン操作されたか否かを判定する(ステップS17)。パーキングスイッチ111がオン操作されていない場合(ステップS17:NO)、制御装置13は、調整処理を実施することなく、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、パーキングスイッチ111がオン操作された場合(ステップS17:YES)、制御装置13は、調整処理を実施する。
すなわち、制御装置13は、モータ23の正駆動を開始させる(ステップS18)。そして、制御装置13は、回転角度検出センサ101によって検出されている現時点のモータ23の回転角MAを取得する(ステップS19)。続いて、制御装置13は、取得した現時点の回転角MAから基準回転角MABを減じ、その差(=MA−MAB)が調整回転量ΔZTH以上であるか否かを判定する(ステップS20)。そして、当該差が調整回転量ΔZTH未満である場合(ステップS20:NO)、制御装置13は、その処理を前述したステップS19に移行する。
一方、当該差(=MA−MAB)が調整回転量ΔZTH以上である場合(ステップS20:YES)、制御装置13は、モータ23の駆動によって回転角MAを保持させる(ステップS21)。そして、制御装置13は、最大回転量ZMAXに現時点のモータ23の回転角MAを代入し、最大回転量ZMAXを更新し(ステップS22)、調整処理を終了する。
その後、制御装置13は、ロック機構30を駆動させることで押圧力PAの減少を規制する(ステップS23)。そして、制御装置13は、モータ23の駆動を停止させ(ステップS24)、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図8に示すフローチャートを参照し、調整回転量ΔZTHを補正する補正処理を実施するために制御装置13が実行する処理ルーチンを実行する。なお、この処理ルーチンは、モータ23の正駆動の終了後に実行される処理ルーチンである。
図8に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置13は、モータ23の正駆動の回数である駆動回数CNTを取得する(ステップS31)。モータ23が正駆動することでエネルギ蓄積機構40の渦巻きばね43が弾性変形するため、モータ23の正駆動の回数が多いほど渦巻きばね43の特性が変化すると予測することができる。すなわち、渦巻きばね43の弾性変形の特性の経年変化に相関するパラメータとして、モータ23の正駆動の駆動回数CNTが取得される。
そして、制御装置13は、取得した駆動回数CNTが大きいほど、エネルギ蓄積機構40で蓄積することのできる弾性エネルギの最大値の推定値EMAXを小さい値にする(ステップS32)。続いて、制御装置13は、演算した弾性エネルギの最大値の推定値EMAXが小さいほど、調整回転量ΔZTHを小さい値に補正する(ステップS33)。このように補正処理を実施した後、制御装置13は、本処理ルーチンを終了する。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)調整処理の実施によるモータ23の駆動によって、ピストン28が基準位置に位置する時点からのモータ23の回転量を調整回転量ΔZTH以上とすることにより、エネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xが「0(零)」となるときのモータの回転角が補正される。そのため、ブレーキパッド22の摩耗の進行によって上記の境界回転角が変位しても、調整処理を実施することにより、モータ23の回転角MAが境界回転角と等しい状況下でのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量を少なくすることができる。したがって、ブレーキパッド22の摩耗が進行したことに起因するモータ23の消費電力量の増大を抑制することができる。
(2)車両が走行しているときには調整処理を実施しないようにしているため、調整処理の実施に起因する不快感を車両の乗員に与えにくくすることができる。
(3)また、調整処理の前回の実施時点からのブレーキパッド22の摩耗量Yが規定摩耗量YTH以上である場合、ブレーキパッド22の摩耗の進行によってモータ23の消費電力量が多くなっていると判断できるため、調整処理が実施される。そして、このような条件下で調整処理を実施することにより、モータ23の消費電力量を減少させることができる。
(4)また、最大回転量ZMAXから基準回転角MABを減じた差が調整回転量ΔZTH未満である場合、モータ23の消費電力量が多いと判断できるため、調整処理が実施される。したがって、調整処理を実施することでモータ23の消費電力量を減少させることができる。
(5)また、ピストン28の位置を基準位置で保持しているときのモータ23に対する電流値Imtが判定電流値ImtTH以上である場合、非制動時におけるモータ23の消費電力量が多いと判断できるため、調整処理が実施される。このように調整処理を実施することで、非制動時におけるモータ23の消費電力量の増大を抑制することができる。
(6)モータ23の消費電力量が多いほど、モータ23での発熱量が多くなりやすい。そのため、モータ23の消費電力量が多い状態が継続されると、モータ23が過熱状態になりやすい。そして、モータ23が過熱状態になったと判定された場合、当該モータ23を備えるブレーキアクチュエータ12の作動が禁止されたり、作動が制限されたりすることがある。また、モータ23が過熱状態になることでモータ23の寿命が短くなるおそれもある。この点、本実施形態の電動制動装置10では、調整処理を実施することで、モータ23の消費電力量を減少させるようにしている。そのため、モータ23が過熱状態になりにくくすることができ、ブレーキアクチュエータ12の作動が禁止される事象や作動が制限される事象などを発生させにくくすることができる。また、モータ23の寿命を長くすることもできる。
(7)一方、調整処理の前回の実施時点からのブレーキパッド22の摩耗量Yが規定摩耗量YTH未満であること、最大回転量ZMAXから基準回転角MABを減じた差が調整回転量ΔZTH以上であること、及びピストン28の位置を基準位置で保持しているときのモータ23に対する電流値Imtが判定電流値ImtTH未満であることの全てが成立しているときには、調整処理の実施条件が成立していないと判断することができる。そして、このようにモータ23の消費電力量があまり多くなく、実施条件が成立していないときには調整処理が実施されない。したがって、調整処理の不要な実施を抑えることができる。
(8)本実施形態の電動制動装置10では、駐車制動を行う際に調整処理が実施される。そのため、駐車制動時とは別の機会に調整処理を実施する場合と比較し、モータ23の駆動機会を減らすことができる。
(9)なお、本実施形態の電動制動装置10では、その時点の渦巻きばね43で蓄積することのできる弾性エネルギの最大値に応じた値に調整回転量ΔZTHが補正される。これにより、調整処理の実施時におけるモータ23の駆動態様をそのときの渦巻きばね43の特性に応じた態様にすることができる。そのため、調整処理の実施時にモータ23が過剰に駆動することが抑制され、ひいては調整処理の実施時間を最適化することができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態では、エネルギ蓄積機構40の渦巻きばね43が弾性変形し始める時点からリミッタ機能の作動が開始されるまでの規定回転量SLAと、調整処理における調整回転量ΔZTHとが等しい例について説明した。しかし、調整回転量ΔZTHは、規定回転量SLAと等しくなくてもよく、弾性体である渦巻きばね43の設計態様に応じて、規定回転量SLAより大きい値にしてもよいし、規定回転量SLAよりも小さい値にしてもよい。
・上記実施形態では、非制動時におけるモータ23に対する電流値Imtが判定電流値ImtTH以上であるか否かによって、ピストン28の位置を基準位置で保持しているときのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xが多いか少ないかを判断するようにしている。しかし、これに限らず、他の方法で、ピストン28の位置を基準位置で保持しているときのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xが多いか少ないかを判断するようにしてもよい。例えば、ピストン28の位置を基準位置で保持している状況下でエネルギ蓄積機構40が弾性エネルギを蓄積している場合、モータ23に対する通電を終了させると、エネルギ蓄積機構40から弾性エネルギが解放されるため、モータ23の出力軸231が逆方向に回転する。このモータ23の逆方向への回転量は、弾性エネルギの蓄積量Xが多いほど多くなる。そのため、ピストン28の位置を基準位置で保持している状況下でモータ23に対する通電を終了させ、そのときのモータ23の逆方向への回転量が判定回転量以上であるときには、ピストン28の位置を基準位置で保持しているときのエネルギ蓄積機構40の弾性エネルギの蓄積量Xが多いと判断するようにしてもよい。
図9には、こうした判断方法を実施するための処理ルーチンの一例が図示されている。図9に示すように、制御装置13は、アクセルペダルが操作されているか否かを判定する(ステップS41)。上記のような判断方法は、ブレーキペダル200が操作されないときに実施することが望ましい。そして、アクセルペダルが操作されているときには、ブレーキペダル200が操作される可能性が低いと判断することができる。そのため、アクセルペダルが操作されていない場合(ステップS41:NO)、制御装置13は、本処理ルーチンを終了する。一方、アクセルペダルが操作されている場合(ステップS41:YES)、制御装置13は、モータ23への通電を終了し(ステップS42)、モータ23の基準回転角MABからの逆方向への回転量MAAを取得する(ステップS43)。そして、制御装置13は、取得した回転量MAAが判定回転量MAATH以上であるか否かを判定する(ステップS44)。回転量MAAが判定回転量MAATH未満である場合(ステップS44:NO)、制御装置13は、調整処理の実施が不要と判定し、本処理ルーチンを終了する。一方、回転量MAAが判定回転量MAATH以上である場合(ステップS44:YES)、制御装置13は、調整処理の実施が必要と判定し(ステップS45)、本処理ルーチンを終了する。
この構成によれば、モータ23への通電終了に伴うモータ23の出力軸231の逆方向への回転量MAAが判定回転量MAATH以上である場合には、非制動時におけるモータ23の消費電力量が多いと判断できるため、調整処理が実施される。このように調整処理を実施することで、非制動時におけるモータ23の消費電力量の増大を抑制することができる。
・上記実施形態では、駐車制動を行うときに調整処理を実施するようにしているが、これに限らず、例えば駐車制動を解除する際に調整処理を実施するようにしてもよい。すなわち、車輪11への制動力の付与を解除するに際し、ロック機構30の作動によってモータ23の出力軸231の逆方向への回転の規制が解除された後に、調整処理を実施するようにしてもよい。
図10には、駐車制動を解除する際に調整処理を実施するための処理ルーチンの一部が図示されている。
図10に示すように、車両が停止している場合(ステップS16:YES)、制御装置13は、パーキングスイッチ111がオフ操作されたか否かを判定する(ステップS171)。パーキングスイッチ111がオフ操作されていない場合(ステップS171:NO)、制御装置13は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、パーキングスイッチ111がオフ操作された場合(ステップS171:YES)、制御装置13は、ロック機構30の爪部材32とラチェット歯車31との係合を解消させ、モータ23の出力軸231の逆方向への回転の規制を解除するロック解除処理を実施する(ステップS172)。そして、制御装置13は、調整処理を実施する。
すなわち、制御装置13は、モータ23の正駆動を開始させ(ステップS18)、現時点のモータ23の回転角MAを取得する(ステップS19)。続いて、制御装置13は、取得した現時点の回転角MAから基準回転角MABを減じた差が調整回転量ΔZTH未満である場合(ステップS20:NO)、その処理を前述したステップS19に移行する。一方、制御装置13は、当該差(=MA−MAB)が調整回転量ΔZTH以上である場合(ステップS20:YES)、最大回転量ZMAXに現時点のモータ23の回転角MAを代入し、最大回転量ZMAXを更新し(ステップS22)、調整処理を終了する。その後、制御装置13は、モータ23の駆動を停止させ(ステップS24)、本処理ルーチンを一旦終了する。
また、駐車制動を実施する際や駐車制動を解除する際以外で調整処理を実施する場合としては、車両の変速機のレンジが駐車用のレンジである場合、運転者によるブレーキ操作によって車両が停止している場合、自動ブレーキの実施によって車両が停止している場合などを挙げることができる。
・駐車制動を行う際、又は駐車制動を解除する際には、車両が停止しているか否かを判定することなく、調整処理を実施するようにしてもよい。
・調整処理では、回転角MAから基準回転角MABを減じた差が調整回転量ΔZTHよりも大きくなるまでモータ23を正駆動させるようにしてもよい。例えば、調整回転量ΔZTHに規定のオフセット値を加算した和に当該差が等しくなるまで、モータ23を正駆動させるようにしてもよい。
・駐車制動が行われる場合の押圧力PAは、常用制動が行われる場合よりも大きくなりやすい。そのため、駐車制動が最後に実施された時点からの経過時間が長くなるほど、ブレーキパッド22の摩耗に起因してモータ23の消費電力量が増大する事象が生じやすい。したがって、最後に駐車制動が実施された時点からの経過時間や車両の走行距離が長いと判断できるときに、調整処理を実施するようにしてもよい。この場合、例えば、車両のイグニッションスイッチがオフになったときに、調整処理を実施するようにしてもよい。
・前輪用のブレーキアクチュエータには、後輪用のアクチュエータとは異なってロック機構30が設けられていない。そのため、前輪用のブレーキアクチュエータでは、車両が停止しており、且つブレーキペダル200が操作されていないときに調整処理を実施することが望ましい。例えば、後輪に対して駐車制動が行われているときに調整処理を実施するようにしてもよい。
・複数のブレーキアクチュエータ12で調整処理の実施が必要になった場合、各ブレーキアクチュエータ12のうち1つのブレーキアクチュエータ12に対して調整処理を実施しているときには他のブレーキアクチュエータ12に対して調整処理を実施しないようにしてもよい。
・エネルギ蓄積機構40は、モータ23の出力軸231の正方向への回転によって弾性変形する弾性体を備え、且つ出力軸231の正方向への回転によって弾性体が弾性変形し始める時点からの出力軸231の正方向への回転量が規定回転量SLA以上であるときにはリミッタ機能が作動する構成であれば、他の構成を採用してもよい。例えば、エネルギ蓄積機構として、当該回転量が規定回転量SLA以上である状況下でも正方向への回転軸42の回転が継続されているときには、回転軸42と渦巻きばね43の第2の端部432との係合が解消される構成の機構であってもよい。また、エネルギ蓄積機構は、当該回転量が規定回転量SLA未満であるときにはモータ23の出力軸231に回転軸42が連結され、出力軸231と回転軸42が一体回転する一方、当該回転量が規定回転量SLA以上であるときには出力軸231と回転軸42との連結が解除され、回転軸42が回転されない構成であってもよい。
・エネルギ蓄積機構40を構成する弾性体として、回転軸42の正方向の回転によって弾性変形するものであれば、渦巻きばね43以外の他の部材(例えば、捻りばね)を採用してもよい。