<実施形態1>
図1乃至図5に基づき、本発明の実施形態1による車両用電動ブレーキ装置B1について説明する。なお、図2及び3における左右方向が、ディスクロータ100の回転軸φ方向に該当する。また、図2及び3は、車両用電動ブレーキ装置B1の模式的な断面図であり、実際の断面形状を正確に表したものではない。
ディスクロータ100は、その回転中心において車両外方へと突出したハット部101と、ハット部101の周囲に形成され、後述するように、第1ブレーキパッド2a(制動部材)及び第2ブレーキパッド2bによって挟圧されるプレート部102(被制動部材)とを有している。
図1に示すように、ハット部101の端面からは、複数のスタッドボルト103が突出している。ディスクロータ100は、これらのスタッドボルト103を用いて、図示しない車輪のディスクホイールに取り付けられており、これにより車輪と一体回転可能とされている。
車両用電動ブレーキ装置B1のマウンティング11は、図示しない車両のナックルアームに取り付けられて固定されている。マウンティング11には、第1ブレーキパッド2a及び第2ブレーキパッド2bが保持されている(図1において、第2ブレーキパッド2bのみ示す)。第1ブレーキパッド2aは、ディスクロータ100のプレート部102と後述するピストン8との間に配置されている。
マウンティング11には、一対のスライドピン12を介して、金属製のブレーキハウジング1がディスクロータ100の回転軸φ方向に移動可能に取り付けられている。ブレーキハウジング1は、ディスクロータ100のプレート部102を跨ぐように、その断面形状が略コの字状に形成されている(図1及び2示)。また、ブレーキハウジング1には、第2ブレーキパッド2bを押圧するための一対の爪部1aが形成されている。
ブレーキハウジング1の図2中右方には、後述する減速機構4のギヤボデー41が取り付けられている。ギヤボデー41の図2中左方には、後述する電動モータ3が取り付けられている。ギヤボデー41の図2中右方には、後述するエネルギー蓄積機構9のケース93が取り付けられている。ブレーキハウジング1、ギヤボデー41及びケース93は本発明のハウジングに該当する。
ブレーキハウジング1の内部には、両端が開口した円筒状のシリンダ部1bが形成されている。シリンダ部1bの図2中左方の端部開口付近には、後述するゴム製のダストブーツ8fを取り付けるための環状の取付溝1cが形成されている。シリンダ部1bの図2中右方の端部開口付近には、雌ネジ部1dが形成されており、この端部開口が中心孔68aを有し外周面に雄ネジ部68bが形成された円板状の反力板68によって塞がれている(図3示)。
シリンダ部1bの回転軸Φ方向の中間部には、スリット1eが回転軸Φ方向に延びるように形成されている。シリンダ部1bの回転軸Φ方向の中間部には、後述するCリング61を取り付けるための環状の取付溝1fが形成されている。
シリンダ部1b内には、回転軸Φ方向に延びる円柱状のスクリュー部材6(回転部材)が配置されている。スクリュー部材6の図2中左方の外周面には、雄ネジ部6aが形成されている。スクリュー部材6の図2中右方の端部には、回転軸Φ方向から見て断面矩形の突起部6bが形成されている。スクリュー部材6の回転軸Φ方向の中間部には、円板状の鍔部6cが形成されている。
スクリュー部材6は、カップリング5を介して後述する減速機構4の最終軸44と一体的に回転可能に連結されている。カップリング5は、略円筒状を呈し、反力板68の中心孔68aを挿通するように配置されている。カップリング5の内面には、互いに直交して十字孔状を呈する二条の溝が、図2中の左右方向(回転軸Φ方向)に貫通して形成されている。
後述する減速機構4の最終軸44の図2中左方の端部には、スクリュー部材6の突起部6bと同形状の断面矩形の突起部が形成されている。カップリング5の十字孔状の溝の二条のうちの一方には、図2中左方からスクリュー部材6の突起部6bが挿入されており、二条のうちの他方には、図2中右方から減速機構4の最終軸44の突起部が挿入されている。したがって、図2に示すように、スクリュー部材6の突起部6bの面方向と、減速機構4の最終軸44の突起部の面方向とは、回転軸Φ方向から見て互いに直交しており、スクリュー部材6と、減速機構4の最終軸44とは、偏心の吸収が可能なオルダムカップリングにて接続されている。
シリンダ部1bの取付溝1fには、Cリング61が嵌め込まれている。このCリング61にハット状部材62が凸部を図2中左方に向けて取り付けられている。ハット状部材62には、有底筒状の底部にスクリュー部材6が挿通される中心孔と、有底筒状の開口部の外周にCリング61と当接するフランジ部とが形成されている。ハット状部材62の凹部内には、スクリュー部材6の鍔部6cが収納されており、ハット状部材62の有底筒状の底部とスクリュー部材6の鍔部6cとの間にウェーブワッシャ63が挟まれている。
スクリュー部材6の鍔部6cの図2中右方には、ニードルベアリング64(スラストベアリング)、球面受け部材65(球面座)、センターホール型の荷重センサ66及び反力板68がこの順番で配置されており、ブレーキ作動による回転軸Φ方向の全ての荷重が反力板68に伝わるようになっている。球面受け部材65は、荷重センサ66に伝わる荷重の偏りをなくするために使用されている。荷重センサ66は、外周面に雄ネジ部が形成された円筒状の取付ナット67によってシリンダ部1bに固定されている。
後述するピストン8を後退させる際には、スクリュー部材6が図2中左方に引っ張られる。この荷重は、スクリュー部材6の鍔部6cから、ウェーブワッシャ63、ハット状部材62、Cリング61、シリンダ部1bの取付溝1fという順番で伝達される。ピストン8を後退させる際に、荷重センサ66等が浮かないようにウェーブワッシャ63には、セット荷重が付与されている。
スクリュー部材6の図2中左方の雄ネジ部6aには、ナット部材7が螺合されている。ナット部材7は、略円筒状を呈しており、図2中右方の外周にフランジ部7aが形成されている。ナット部材7の外周面には、雄ネジ部7bが形成されている。また、ナット部材7の内周面には、スクリュー部材6の雄ネジ部6aと螺合する雌ネジ部7cが形成されている。ナット部材7は、スクリュー部材6の回転により回転軸Φ方向に移動する部材であり、スクリュー部材6とナット部材7とにより本発明の回転直動変換機構が構成されている。
シリンダ部1bには、ピストン8が回転軸Φ方向に移動可能に嵌合している。ピストン8は、図2中左方の一端が端部壁8aにより閉じられた略円筒状に形成され、端部壁8aによって第1ブレーキパッド2aと当接可能になっている。ピストン8の図2中左方の端部付近の外周面には、環状の取付溝8bが形成されている。この取付溝8bとシリンダ部1bの取付溝1cとを繋ぐように取り付けられたゴム製のダストブーツ8fによって、シリンダ部1b内への砂、埃等の侵入を防止している。
ピストン8の図2中右方の外周面には、キー8cが取り付けられている。このキー8cは、シリンダ部1bのスリット1eと係合しており、これによって、ピストン8はシリンダ部1bに対して回転不能に保持されている。ピストン8の内周面は、図2中左方の小径部と、図2中右方の大径部と、小径部と大径部との間の段差部8dとにより構成されている。小径部には、雌ネジ部8eが形成されている。この雌ネジ部8eに前述したナット部材7の雄ネジ部7bを螺合して締め付け、段差部8dにナット部材7のフランジ部7aを当接させて、ピストン8とナット部材7とが一体化されている。したがって、ピストン8は、スクリュー部材6の回転によりナット部材7と一体的に回転軸Φ方向に移動する。
スクリュー部材6は、後述する減速機構4を介して電動モータ3によって回転可能に形成されている。運転者によるブレーキ操作量(ブレーキペダルの踏み込み量)に応じて電動モータ3を正回転させると、スクリュー部材6が正回転する。そして、ナット部材7とピストン8とが一体的に回転軸Φ方向に前進して(図2中左方へ移動して)、ピストン8の端部壁8aが、第1ブレーキパッド2aをディスクロータ100のプレート部102に向けて付勢する。
一方、第1ブレーキパッド2aに発生する全ての反力は、シリンダ部1bに固定されている反力板68を介してブレーキハウジング1へと働き、ブレーキハウジング1をピストン8と反対方向(図2中右方)へと付勢する。これにより、ブレーキハウジング1が回転軸Φ方向に移動し、爪部1aが第2ブレーキパッド2bをディスクロータ100のプレート部102に向けて付勢する。したがって、ディスクロータ100のプレート部102は、第1ブレーキパッド2a及び第2ブレーキパッド2bによって挟圧され、車輪に制動力が付与される。
また、ディスクロータ100に対する制動力の解除時には、電動モータ3を逆回転させ、スクリュー部材6を逆回転させる。そして、ナット部材7とピストン8とが一体的に回転軸Φ方向に後退して(図2中右方へ移動して)、ピストン8による第1ブレーキパッド2aへの押圧を停止する。これにより、第1ブレーキパッド2aに発生する反力も消滅するため、ブレーキハウジング1の爪部1aによる、第2ブレーキパッド2bへの押圧も解消し、車輪への制動力が解除される。
以上のブレーキ作動において、第1ブレーキパッド2aに発生する全ての反力は、荷重センサ66によって検出される。荷重センサ66による荷重検出結果は、図示しない電子制御装置に送られ、車輪に適切な制動力が付与されるように、電動モータ3の正回転角度が制御される。また、車輪から適切に制動力が解除されるように、電動モータ3の逆回転角度が制御される。なお、電動モータ3の回転角度は、電動モータ3の出力軸3aに取り付けられている回転角センサ31によって常時検出されている。
減速機構4のギヤボデー41(ハウジング)は、それぞれ合成樹脂材料にて一体的に形成されたロアボデー411及びアッパボデー412が、内部に所定容量の空間を有するように互いに接合することにより形成されている。ロアボデー411の図2中左方に、前述したブレーキハウジング1及び電動モータ3が固定されている。また、アッパボデー412の図2中右方に、後述するエネルギー蓄積機構9のケース93が固定されている。
図3に示すように、ロアボデー411には、後述する電動モータ3の出力軸3aの軸受けとなる軸受け孔411aと、後述する中間ギヤ43の中間軸42の軸受けとなる軸受け凹部411bと、後述する最終ギヤ45の最終軸44の軸受けとなる軸受け孔411cとが形成されている。軸受け孔411a、軸受け凹部411b及び軸受け孔411cの各内周面には、円筒状を呈し図3中右方にフランジ部が形成された金属製の軸受け部材46a、47a及び48aが取り付けられている。軸受け部材46a、47a及び48aは、いずれもインサート成形又は誘導加熱溶着等によりロアボデー411に固定されている。
図3に示すように、アッパボデー412には、後述する電動モータ3の出力軸3aの軸受けとなる軸受け孔412aと、後述する中間ギヤ43の中間軸42の軸受けとなる軸受け凹部412bと、後述する最終ギヤ45の最終軸44の軸受けとなる軸受け凹部412cとが形成されている。軸受け孔412a、軸受け凹部412b及び軸受け凹部412cの各内周面には、円筒状を呈し図3中左方にフランジ部が形成された金属製の軸受け部材46b、47b及び48bが取り付けられている。軸受け部材46b、47b及び48bは、いずれもインサート成形又は誘導加熱溶着等によりアッパボデー412に固定されている。
電動モータ3は、ディスクロータ100の回転軸φと平行に配置された金属製の出力軸3aを有している。出力軸3aの両端は、軸受け部材46a及び46bを介してロアボデー411の軸受け孔411a及びアッパボデー412の軸受け孔412aに回転可能に支持されている。また、出力軸3aの先端部は、軸受け孔412aを貫通して、ギヤボデー41の外部まで突出している。出力軸3aの基端部側には、出力軸3aの回転角度を検出する回転角センサ31が取り付けられている。出力軸3aの中間部には、外周面に斜歯を有するピニオンギヤ3bが一体に形成されている。
また、電動モータ3の出力軸3aの中間部には、インサート成形によって合成樹脂製のEPB(電動パーキングブレーキ)用ギヤ32が出力軸3aに対して回転不能に固着されている。ギヤボデー41内には、EPB用ギヤ32をロックすることにより出力軸3aの逆回転を規制する棒状のロック部材33が配設されている。ロック部材33の中間部は、ロアボデー411の内面に固定された保持部材34に摺動可能に保持されている。ギヤボデー41の外部に取り付けられたロック駆動用ソレノイド35によりロック部材33の先端部がEPB用ギヤ32の歯部に離接するように駆動される。
図3は、EPBが作動していない状況を示しており、ロック部材33は、バネによりEPB用ギヤ32から切離する方向に付勢されている。この状態からロック駆動用ソレノイド35が駆動すると、バネの付勢力に抗してロック部材33がEPB用ギヤ32に向けて前進し、ロック部材33の先端部がEPB用ギヤ32の歯部に当接して出力軸3aの逆回転が規制される。このとき、ロック駆動用ソレノイド35の通電を切っても、EPB用ギヤ32からロック部材33に向けて回転力が作用しているため、ロック部材33は後退することなく前進位置に保持される。その後、出力軸3aの正回転に伴いEPB用ギヤ32が正回転すると、バネの付勢力によってロック部材33が図3に示す位置に復帰する。
中間軸42は金属製であり、ディスクロータ100の回転軸φと平行に配置されている。中間軸42の両端は、軸受け部材47a及び47bを介してロアボデー411の軸受け凹部411b及びアッパボデー412の軸受け凹部412bに回転可能に支持されている。中間軸42の図3中右方には、インサート成形によって合成樹脂製の中間ギヤ43が中間軸42に対して回転不能に固着されている。また、中間軸42の図3中左方には、外周面に斜歯を有する伝達ギヤ42aが一体に形成されている。
中間ギヤ43は、外周面に斜歯43aが設けられたヘリカルギヤである。中間ギヤ43の斜歯43aは、前述した電動モータ3の出力軸3aのピニオンギヤ3bの斜歯と噛合している。中間ギヤ43は、ピニオンギヤ3bよりも大径に形成され、中間ギヤ43の斜歯43aの歯数は、ピニオンギヤ3bの斜歯の歯数よりも多く形成されている。
最終軸44は合成樹脂製であり、ディスクロータ100の回転軸φと平行に配置されている。最終軸44の両端は、軸受け部材48a及び48bを介してロアボデー411の軸受け孔411c及びアッパボデー412の軸受け凹部412cに回転可能に支持されている。最終軸44の中間部には、合成樹脂製の最終ギヤ45が最終軸44と一体に形成されている。前述したように、最終軸44の図3中左方の端部には、断面矩形の突起部が形成されており、最終軸44は、カップリング5とオルダムカップリングにて接続されている。
最終ギヤ45は、外周面に斜歯45aが設けられたヘリカルギヤである。最終ギヤ45の斜歯45aは、前述した中間軸42の伝達ギヤ42aの斜歯と噛合している。最終ギヤ45は、伝達ギヤ42aよりも大径に形成され、最終ギヤ45の斜歯45aの歯数は、伝達ギヤ42aの斜歯の歯数よりも多く形成されている。
電動モータ3の正回転及び逆回転の回転速度は、最初に、ピニオンギヤ3bと中間ギヤ43との噛み合いによって減速(1段目の減速)される。その後、伝達ギヤ42aと最終ギヤ45との噛み合いによって減速(2段目の減速)された後、スクリュー部材6へと伝達される。
図3に示すように、エネルギー蓄積機構9は、回転軸91と、渦巻きバネ92(弾性体)と、これらを収納する有底筒状を呈するケース93(ハウジング)とを有している。ケース93は合成樹脂製であり、凹部を図3中左方に向けてアッパボデー412の外部に取り付けられる。ケース93の有底筒状の底部には、回転軸91の軸受けとなる軸受け凹部93aが形成されている。回転軸91は合成樹脂製であり、電動モータ3の出力軸3aの先端部と係合して、出力軸3aと一体的に回転可能とされている。
図4は、図3に示したエネルギー蓄積機構9のA−A断面図であって、エネルギー蓄積機構9が弾性エネルギーを蓄積した状態を示している。また、図5は、エネルギー蓄積機構9が弾性エネルギーを解放した状態を示している。図4に示すように、回転軸91は、円形の一部がV字状に切り込まれた断面形状を呈している。このV字状の切り込みの一方の面は、渦巻きバネ92を係止する係止面91aであり、係止面91aと回転軸91の外周面とのなす角度は、約90度となっている。また、このV字状の切り込みの他方の面は、渦巻きバネ92の係止を解除する逃がし面91bであり、逃がし面91bと回転軸91の外周面とのなす角度は、鈍角となっている。
渦巻きバネ92の外周側の一端部には、円弧状に折り返された折返し部92aが形成されている。また、渦巻きバネ92の内周側の他端部には、渦巻きバネ92の中心に向かって約90度に折り曲げられた折曲げ部92bが形成されている。図4に示すように、この折曲げ部92bは、前述の回転軸91の係止面91aに引っ掛けられて係止される。
ケース93の内周面には、8個の円弧状の凹部93bが周方向に等間隔で形成されている。この凹部93bは、渦巻きバネ92の折返し部92aに嵌り合う曲面形状とされていおり、渦巻きバネ92の折返し部92aは、8個の凹部93bのうちのいずれか一つに嵌合している。
エネルギー蓄積機構9の動作は、次のとおりである。ディスクロータ100に対する制動力を付与するために電動モータ3を正回転させると、図4に示すように、電動モータ3の出力軸3aと一体的に回転軸91が正回転(図4における左回転)する。これにより、渦巻きバネ92が回転軸91に巻き取られて、エネルギー蓄積機構9が弾性エネルギーを蓄積した状態となる。そして、エネルギー蓄積機構9に一定量の弾性エネルギーが蓄積されたときに、回転軸91の正回転の回転トルクは第1所定値に達する。
回転軸91の正回転の回転トルクが第1所定値未満のときには、渦巻きバネ92の折返し部92aとケース93の凹部93bとの嵌合により渦巻きバネ92のケース93に対する相対回転が規制されており、エネルギー蓄積機構9に弾性エネルギーを蓄積することが可能となっている。そして、回転軸91の正回転の回転トルクが第1所定値以上となったときには、渦巻きバネ92の外周側の一端部が弾性変形することによって折返し部92aと凹部93bとの嵌合が外れて、渦巻きバネ92のケース93に対する相対回転が許容される。そして、回転軸91の正回転が継続されると、折返し部92aは、ケース93の内周面を摺動して、回転方向前方側の凹部93bに再び嵌合する。
したがって、回転軸91が第1所定値以上の回転トルクで正回転を継続している間、渦巻きバネ92が緩むことはなく、エネルギー蓄積機構9に弾性エネルギーが蓄積された状態を維持することが可能となっている。このような、渦巻きバネ92に第1所定値以上の正回転の回転トルクを作用させない構成は、本発明の第1トルクリミッタに該当する。
一方、ディスクロータ100に対する制動力を解除するために電動モータ3を逆回転させると、図5に示すように、電動モータ3の出力軸3aと一体的に回転軸91が逆回転(図5における右回転)する。これにより、渦巻きバネ92が緩んで、エネルギー蓄積機構9に蓄積された弾性エネルギーが解放される。渦巻きバネ92の弾性エネルギーが解放される間、回転軸91には、渦巻きバネ92からの逆回転の回転トルクが付与され、これにより、電動モータ3の出力軸3aの逆回転力が補助される。
そして、渦巻きバネ92の弾性エネルギーが完全に解放された後、電動モータ3の逆回転駆動により回転軸91がさらに逆回転すると、回転軸91の逆回転の回転トルクが第2所定値に達する。回転軸91の逆回転の回転トルクが第2所定値未満のときには、渦巻きバネ92の回転軸91に対する相対回転が規制されている。回転軸91の逆回転の回転トルクが第2所定値以上になったときには、渦巻きバネ92の他端部の折曲げ部92bが回転軸91の係止面91aから離れて、折曲げ部92bの先端部が逃がし面91bを摺動する。
その後、回転軸91の逆回転がさらに進むと、折曲げ部92bの先端部が逃がし面91bから外れて、渦巻きバネ92の回転軸91に対する相対回転が許容される。このような、渦巻きバネ92に第2所定値以上の逆回転の回転トルクを作用させない構成は、本発明の第2トルクリミッタに該当する。
以上のように、ブレーキ作動中に、電動モータ3の正回転及び逆回転により、エネルギー蓄積機構9の弾性エネルギーの蓄積と解放が繰り返される。
本実施形態によれば、車両用電動ブレーキ装置B1は、電動モータ3の出力軸3aと一体的に回転可能にエネルギー蓄積機構9のケース93に支承された回転軸91を備えており、回転軸91の正回転によりエネルギー蓄積機構9内部の渦巻きバネ92を弾性変形させて弾性エネルギーを蓄積し、回転軸91の逆回転時には、渦巻きバネ92に蓄積された弾性エネルギーを解放して回転軸91に対して逆回転の回転トルクを付与する。
したがって、電源失陥などにより電動モータ3の逆回転駆動が不可能となった場合であっても、エネルギー蓄積機構9内部の渦巻きバネ92に蓄積された弾性エネルギーにより回転軸91に対して逆回転の回転トルクを付与して、ピストン8を初期位置に復帰させることが可能である。
また、渦巻きバネ92に蓄積された弾性エネルギーにより回転軸91に付与される逆回転の回転トルクは、ほとんどエネルギーをロスすることなく、電動モータ3の出力軸3aに逆回転の回転トルクとして伝達されるため、最も小さなエネルギーで電動モータ3を逆回転させることができる。これにより、弾発力が小さい小型の渦巻きバネ92により電動モータ3を逆回転させることが可能であり、車両用電動ブレーキ装置B1が大型化することを防止することができる。
また、渦巻きバネ92は、回転軸91の軸方向に伸張することなく、弾性エネルギーを蓄積することができるため、エネルギー蓄積機構9が回転軸91の軸方向に大型化されることがなく、車両用電動ブレーキ装置B1が大型化することを防止することができる。
また、本実施形態の車両用電動ブレーキ装置B1においては、電動モータ3の出力軸3aと一体的に回転可能な回転軸91の正回転により渦巻きバネ92(弾性体)を弾性変形させるため、電動モータ3の出力軸3aから離れた位置にある弾性体を出力軸3aの回転により弾性変形させる場合に比べて、弾性体を弾性変形させる際のエネルギーロスが小さい。これにより、ブレーキ作動時の出力ロスを極力小さくすることができる。
また、本実施形態によれば、車両用電動ブレーキ装置B1のエネルギー蓄積機構9は、渦巻きバネ92の一端部とケース93との間に設けられ、回転軸91が第1所定値未満のトルクで正回転されるとき、渦巻きバネ92のケース93に対する相対回転を規制し、第1所定値以上のトルクで正回転されるとき、渦巻きバネ92のケース93に対する相対回転を許容する第1トルクリミッタを備えている。
したがって、第1トルクリミッタにより、エネルギー蓄積機構9内部の渦巻きバネ92に第1所定値以上の正回転の回転トルクが作用することを防止することができる。例えば、渦巻きバネ92に電動モータ3を逆回転させるのに必要な弾性エネルギーが蓄積されたときに渦巻きバネ92に作用している正回転の回転トルクを第1所定値とすることができる。この場合、渦巻きバネ92の巻き過ぎによって渦巻きバネ92を必要以上に弾性変形させることがないため、渦巻きバネ92を弾性変形させる際のエネルギーロスを抑えて、ブレーキ作動時の出力ロスを極力小さくすることができる。
また、エネルギー蓄積機構9が第1トルクリミッタを備えていることにより、次のような効果を奏する。例えば、第1ブレーキパッド2a及び第2ブレーキパッド2bが摩耗したときには、その分、電動モータ3の出力軸3aを正回転させて、ピストン8の初期位置を前進させる必要がある。このとき、出力軸3aと一体的に回転する回転軸91も第1及び第2ブレーキパッド2a、2bが摩耗する前の位置よりも正回転した位置が初期位置となる。
第1トルクリミッタを備えていない場合、この回転軸91の初期位置から、第1及び第2ブレーキパッド2a、2bが摩耗する前と同じ回転数で回転軸91を正回転させると、渦巻きバネ92には、第1及び第2ブレーキパッド2a、2bが摩耗する前の回転トルクよりも大きな回転トルクが加わる。しかし、第1トルクリミッタを備えていることによって、渦巻きバネ92がケース93に対して相対回転して、自動的に渦巻きバネ92の巻き過ぎが調整され、渦巻きバネ92に付与される正回転の回転トルクの上限を第1所定値に保つことが可能となる。
また、本実施形態によれば、車両用電動ブレーキ装置B1のエネルギー蓄積機構9は、渦巻きバネ92の他端部と回転軸91との間に設けられ、回転軸91が第2所定値未満のトルクで逆回転されるとき、渦巻きバネ92の回転軸91に対する相対回転を規制し、第2所定値以上のトルクで逆回転されるとき、渦巻きバネ92の回転軸91に対する相対回転を許容する第2トルクリミッタを備えている。
したがって、第2トルクリミッタにより、エネルギー蓄積機構9内部の渦巻きバネ92に第2所定値以上の逆回転の回転トルクが作用することを防止することができる。例えば、電動モータ3の逆回転駆動が不可能となっていない場合には、渦巻きバネ92に蓄積された弾性エネルギーが完全に解放した後、電動モータ3がさらに逆回転を続けると、渦巻きバネ92の巻き戻し過ぎとなる。そして、渦巻きバネ92の巻き戻し過ぎによる弾発力が電動モータ3の逆回転を阻害する方向に作用する。渦巻きバネ92の巻き戻し過ぎを防止し得る回転軸91の逆回転の回転トルクを第2所定値とすることによって、電動モータ3を逆回転する際のエネルギーロスを抑えることができる。
また、エネルギー蓄積機構9が第2トルクリミッタを備えていることにより、次のような効果を奏する。例えば、第1ブレーキパッド2a及び第2ブレーキパッド2bを新品に交換したときには、その分、電動モータ3の出力軸3aを逆回転させて、ピストン8の初期位置を後退させる必要がある。このとき、出力軸3aと一体的に回転する回転軸91も第1及び第2ブレーキパッド2a、2bを交換する前の位置よりも逆回転した位置が初期位置となる。
第2トルクリミッタを備えていない場合、第1及び第2ブレーキパッド2a、2bを交換する前の状態において、電動モータ3の出力軸3aの初期位置で渦巻きバネ92の弾性エネルギーが完全に解放された状態に調整されている場合には、第1及び第2ブレーキパッド2a、2bを交換した後には、電動モータ3の出力軸3aを逆回転させた位置を新たな初期位置としたことによって、渦巻きバネ92は巻き戻し過ぎの状態になる。しかし、第2トルクリミッタを備えていることによって、渦巻きバネ92が回転軸91に対して相対回転して、自動的に渦巻きバネ92の巻き戻し過ぎが調整され、渦巻きバネ92に付与される逆回転の回転トルクの上限を第2所定値に保つことが可能となる。
<変形形態1>
本変形形態は、実施形態1のエネルギー蓄積機構9をエネルギー蓄積機構910に変更した実施形態である。エネルギー蓄積機構910以外の各構成及び動作については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図6に、エネルギー蓄積機構910が弾性エネルギーを解放した状態を説明する断面図を示す。エネルギー蓄積機構910は、実施形態1のエネルギー蓄積機構9に対して、回転軸911の形状、及び渦巻きバネ912の内周側の他端部の形状のみが異なっている。ケース93の形状は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図6に示すように、回転軸911は合成樹脂製であり、円形の断面形状を呈している。渦巻きバネ912の外周側の一端部には、実施形態1と同様に、円弧状に折り返された折返し部912aが形成されている。また、渦巻きバネ912の内周側の他端部には、渦巻きバネ912と同一の巻き方向のコイル状を呈する締付部912bが形成されている。回転軸911の外周面は、この締付部912bにより、所定の予圧で締め付けられている。
エネルギー蓄積機構910は、回転軸911の正回転(図6における左回転)時に、渦巻きバネ912に第1所定値以上の正回転の回転トルクを作用させないように作動する実施形態1と同様の第1トルクリミッタを備えている。また、エネルギー蓄積機構910は、回転軸911の逆回転(図6における右回転)時に、渦巻きバネ912に第2所定値以上の逆回転の回転トルクを作用させないように作動する実施形態1とは異なる構成の第2トルクリミッタを備えている。
エネルギー蓄積機構910の第2トルクリミッタの構成は次のとおりである。回転軸911の外周面が、渦巻きバネ912の締付部912bにより、所定の予圧で締め付けられている。このため、回転軸911の正回転時には、締付部912bによる回転軸911の締め付けが強くなるため、渦巻きバネ912の回転軸911に対する相対回転が規制されている。
一方、図6に示すように、渦巻きバネ912の弾性エネルギーが完全に解放された後、電動モータ3の逆回転駆動により回転軸911がさらに逆回転すると、回転軸911の逆回転の回転トルクが第2所定値に達する。回転軸911の逆回転の回転トルクが第2所定値未満のときには、渦巻きバネ912の回転軸911に対する相対回転が規制されている。回転軸911の逆回転の回転トルクが第2所定値以上になったときには、締付部912bによる回転軸911の締め付けが弱くなることにより、渦巻きバネ912の回転軸911に対する相対回転が許容される。
本変形形態による作用効果は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
<変形形態2>
本変形形態は、実施形態1のエネルギー蓄積機構9をエネルギー蓄積機構920に変更した実施形態である。エネルギー蓄積機構920以外の各構成及び動作については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図7に、エネルギー蓄積機構920が弾性エネルギーを蓄積した状態を説明する断面図を示す。エネルギー蓄積機構920は、実施形態1のエネルギー蓄積機構9に対して、回転軸921の形状、及び渦巻きバネ922の形状のみが異なっていると共に、新たな構成として内ケース924及び板バネ925が追加されている。ケース93の形状は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図7に示すように、回転軸921は合成樹脂製であり、円形の断面形状を呈している。また、回転軸921には、渦巻きバネ922の内周側の他端部を挿入して固定するための挿入溝921aが回転軸921の外周面から中心部に向かって形成されている。
渦巻きバネ922の外周側の一端部には、コ字状に折り返された折返し部922aが形成されている。また、渦巻きバネ922の内周側の他端部には、渦巻きバネ922の中心に向かって約90度に折り曲げられた折曲げ部922bが形成されている。図7に示すように、この折曲げ部922bは、前述の回転軸921の挿入溝921aに挿入されて固定される。
内ケース924は合成樹脂製であり、ケース93の内径よりも外径が小さい円筒状を呈している。内ケース924の内周側には、矩形状の断面形状を呈し、内ケース924の中心軸と平行に延びる被係止柱924aが形成されている。この被係止柱924aに、前述の渦巻きバネ922の折返し部922aが引っ掛けられて、渦巻きバネ922の内ケース924に対する相対回転が規制されている。
板バネ925は金属製であり、ケース93の内周面に形成された円弧状の凹部93bに嵌り合う曲面形状の凸部925aと、凸部925aの両端から内ケース924の外周面と略平行に延びる2本の脚部925bとを有している。2本の脚部925bの先端は、それぞれ内ケース924の外周面に固定されており、凸部925aを内ケース924の外周面に向かって押圧すると、板バネ925は弾性的に変形する。4個の板バネ925が内ケース924の外周面に周方向に等間隔で配置されている。
エネルギー蓄積機構920は、回転軸921の正回転(図7における左回転)時に、渦巻きバネ922に第1所定値以上の正回転の回転トルクを作用させないように作動する実施形態1とは異なる構成の第1トルクリミッタを備えている。また、エネルギー蓄積機構920は、回転軸921の逆回転(図7における右回転)時に、渦巻きバネ922に第2所定値以上の逆回転の回転トルクを作用させないように作動する実施形態1とは異なる構成の第2トルクリミッタを備えている。
渦巻きバネ922は、回転軸921及び内ケース924の両方に対して相対回転が規制されている。本変形形態のエネルギー蓄積機構920においては、ケース93と内ケース924との相対回転のみが許容されている。回転軸921の正回転時に、ケース93と内ケース924とが相対回転することにより、本発明の第1トルクリミッタが構成されている。また、回転軸921の逆回転時に、ケース93と内ケース924とが相対回転することにより、本発明の第2トルクリミッタが構成されている。
本変形形態の第1トルクリミッタの作動は、実施形態1の第1トルクリミッタに類似している。回転軸921の正回転の回転トルクが第1所定値未満のときには、板バネ925の凸部925aとケース93の凹部93bとの嵌合により内ケース924のケース93に対する相対回転が規制されており、エネルギー蓄積機構920の渦巻きバネ922に弾性エネルギーを蓄積することが可能となっている。
そして、回転軸921の正回転の回転トルクが第1所定値以上となったときには、板バネ925の凸部925aが内ケース924の外周面に向かって弾性的に押圧される。これにより、凸部925aと凹部93bとの嵌合が外れて、内ケース924のケース93に対する相対回転が許容される。そして、回転軸921の正回転が継続されると、凸部925aは、ケース93の内周面を摺動して、回転方向前方側の凹部93bに再び嵌合する。
本変形形態の第2トルクリミッタの作動は、上述した第1トルクリミッタの作動と内ケース924の回転方向が異なっている。また、回転軸921の逆回転の回転トルクが第2所定値以上となったときに、内ケース924のケース93に対する相対回転が許容される。第2トルクリミッタの作動の詳細については、上述した第1トルクリミッタの作動と類似しているため説明を省略する。
なお、板バネ925の形状を凸部925aの中心を境にして対称形状とすることにより、回転軸921の正回転の回転トルクの第1所定値と、回転軸921の逆回転の回転トルクの第2所定値とを等しい値とすることができる。また、板バネ925の形状を凸部925aの中心を境にして非対象形状とすることにより、第1所定値と第2所定値とを異なる値とすることができる。
例えば、凸部925aの曲面形状を凸部925aの中心を境に非対象な曲率よりなるカム状としたり、2本の脚部925bの長さを互いに異なる長さとしたりすることによって、回転軸921の正回転時よりも逆回転時の方が凸部925aと凹部93bとの嵌合を外れやすくすることができる。これにより、第1所定値よりも第2所定値の方が小さい値とすることができる。
本変形形態による作用効果は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
<変形形態3>
本変形形態は、実施形態1のエネルギー蓄積機構9をエネルギー蓄積機構930に変更した実施形態である。エネルギー蓄積機構930以外の各構成及び動作については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図8に、エネルギー蓄積機構930が弾性エネルギーを解放した状態を説明する断面図を示す。エネルギー蓄積機構930は、実施形態1のエネルギー蓄積機構9に対して、回転軸931、渦巻きバネ932及びケース933の形状(構成)が全て異なっている。
図8に示すように、回転軸931は正逆両方向の回転に使用可能な市販のトルクリミッタである。したがって、回転軸931は、本発明における第1トルクリミッタ及び第2トルクリミッタに該当する。この種のトルクリミッタとしては、正逆両方向の回転に対してそれぞれ異なった大きさの回転トルクを設定することができるものもある。
渦巻きバネ932の外周側の一端部には、コ字状に折り返された折返し部932aが形成されている。また、渦巻きバネ932の内周側の他端部は、回転軸931の外周面に固定される固定端932bとなっている。
ケース933は合成樹脂製であり、実施形態1のケース93と同様の内外径よりなる。ケース933の内周側には、実施形態1のケース93の内周面に形成されていた凹部93bが形成されていない。ケース933の内周側には、矩形状の断面形状を呈し、ケース933の中心軸と平行に延びる被係止柱933aが形成されている。この被係止柱933aに、前述の渦巻きバネ932の折返し部932aが引っ掛けられて、渦巻きバネ932のケース933に対する相対回転が規制されている。
エネルギー蓄積機構930は、回転軸931として正逆両方向の回転に使用可能なトルクリミッタを使用しているため、回転軸931の正回転(図8における左回転)時に、渦巻きバネ932に第1所定値以上の正回転の回転トルクを作用させないように作動する。また、回転軸931の逆回転(図8における右回転)時に、渦巻きバネ932に第2所定値以上の逆回転の回転トルクを作用させないように作動する。
本変形形態による作用効果は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
<実施形態2>
図9に示すように、本実施形態の車両用電動ブレーキ装置B2におけるエネルギー蓄積機構940は、減速機構400の中間軸420の正回転及び逆回転によって弾性エネルギーを蓄積及び解放する点で、実施形態1のエネルギー蓄積機構9と構成が異なっている。したがって、減速機構400及びエネルギー蓄積機構940以外の各構成及び動作については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
減速機構400のギヤボデー410(ハウジング)は、それぞれ合成樹脂材料にて一体的に形成されたロアボデー411及びアッパボデー413が、内部に所定容量の空間を有するように互いに接合することにより形成されている。ロアボデー411の形状は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図9に示すように、本実施形態のアッパボデー413は、実施形態1のアッパボデー412における軸受け孔412aが軸受け凹部413aに、実施形態1のアッパボデー412における軸受け凹部412bが軸受け孔413bに、それぞれ変更されたこと以外は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
本実施形態における減速機構400と、実施形態1における減速機構4とを対比すると、本実施形態においては、電動モータ30の出力軸30aの先端部が軸受け凹部413aを貫通していない点で異なっている。また、本実施形態においては、中間軸420の一端が軸受け孔413bを貫通している点で異なっている。減速機構400におけるこれ以外の構成については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
図10及び11は、図9に示した車両用電動ブレーキ装置B2のエネルギー蓄積機構940のB−B断面図を示している。図10は、エネルギー蓄積機構940が弾性エネルギーを蓄積した状態を示している。図11は、エネルギー蓄積機構940が弾性エネルギーを解放した状態を示している。
図10及び11に示すように、エネルギー蓄積機構940は、回転軸941(本発明における第1トルクリミッタ及び第2トルクリミッタに該当する)と、ねじりバネ942(弾性体)と、これらを収納する有底筒状を呈するケース943(ハウジング)と、回転板944とを有している。
回転軸941は正逆両方向の回転に使用可能な市販のトルクリミッタである。図9に示すように、回転軸941は、中間軸420の一端と係合して、中間軸420と一体的に回転可能とされており、一定の大きさ以上の回転トルクが中間軸420の外周面に伝達しないようになっている。図11に示すように、ねじりバネ942の両端は、直線状を呈する固定端942a、942bとなっている。
ケース943は合成樹脂製であり、凹部を図9中左方に向けてアッパボデー413の外部に取り付けられる。図11に示すように、ケース943には、ねじりバネ942の一端の固定端942aを挟持して固定する一対の固定壁943aが形成されている。
図11に示すように、回転板944は、ケース943の内径よりも若干小さい外径よりなる板部材であり、回転軸941の外周面に一体的に固定されている。回転板944には、ねじりバネ942の他端の固定端942bを挟持して固定する一対の固定壁944aが形成されている。
エネルギー蓄積機構940の動作は、次のとおりである。ディスクロータ100に対する制動力を付与するために電動モータ30を正回転させると、図10に示すように、回転軸941は、中間軸420と一体的に正回転(図10における右回転)する。このとき、中間軸420は、0.9回転程度正回転して、ディスクロータ100に適切な制動力が付与される。これにより、図10に示すように、ねじりバネ942が弾性エネルギーを蓄積した状態となる。
一方、ディスクロータ100に対する制動力を解除するために電動モータ30を逆回転させると、図11に示すように、回転軸941は、中間軸420と一体的に逆回転(図11における左回転)する。これにより、エネルギー蓄積機構940に蓄積された弾性エネルギーが解放される。ねじりバネ942の弾性エネルギーが解放される間、回転軸941には、ねじりバネ942からの逆回転の回転トルクが付与され、これにより、中間軸420を介して電動モータ30の出力軸30aの逆回転力が補助される。
エネルギー蓄積機構940は、回転軸941として正逆両方向の回転に使用可能なトルクリミッタを使用しているため、回転軸941の正回転(図10における右回転)時に、ねじりバネ942に第1所定値以上の正回転の回転トルクを作用させないように作動する。また、回転軸941の逆回転(図11における左回転)時に、ねじりバネ942に第2所定値以上の逆回転の回転トルクを作用させないように作動する。
以上のように、ブレーキ作動中に、電動モータ30の正回転及び逆回転により、エネルギー蓄積機構940の弾性エネルギーの蓄積と解放が繰り返される。
本実施形態によれば、車両用電動ブレーキ装置B2は、電動モータ30の出力軸30aの回転を減速した回転数で回転する中間軸420と一体的に回転可能にエネルギー蓄積機構940のケース943に支承された回転軸941を備えており、回転軸941の正回転によりエネルギー蓄積機構940内部のねじりバネ942を弾性変形させて弾性エネルギーを蓄積し、回転軸941の逆回転時には、ねじりバネ942に蓄積された弾性エネルギーを解放して回転軸941に対して逆回転の回転トルクを付与する。
したがって、電源失陥などにより電動モータ30の逆回転駆動が不可能となった場合であっても、エネルギー蓄積機構940内部のねじりバネ942に蓄積された弾性エネルギーにより回転軸941に対して逆回転の回転トルクを付与して、ピストン8を初期位置に復帰させることが可能である。
また、ねじりバネ942に蓄積された弾性エネルギーにより回転軸941に付与される逆回転の回転トルクは、中間軸420から電動モータ30の出力軸30aに伝達される過程で若干のエネルギーロスを伴うものの、中間軸420と出力軸30aとが隣接しているためエネルギーロスは小さい。したがって、小さなエネルギーで電動モータ30を逆回転させることができる。これにより、弾発力が小さい小型のねじりバネ942により電動モータ30を逆回転させることが可能であり、車両用電動ブレーキ装置B2が大型化することを防止することができる。
また、ねじりバネ942は、回転軸941の軸方向に伸張することなく、弾性エネルギーを蓄積することができるため、エネルギー蓄積機構940が回転軸941の軸方向に大型化されることがなく、車両用電動ブレーキ装置B2が大型化することを防止することができる。
また、本実施形態の車両用電動ブレーキ装置B2においては、電動モータ30の出力軸30aに隣接している中間軸420と一体的に回転可能な回転軸941の正回転によりねじりバネ942(弾性体)を弾性変形させるため、電動モータ30の出力軸30aから離れた位置にある弾性体を出力軸30aの回転により弾性変形させる場合に比べて、弾性体を弾性変形させる際のエネルギーロスが小さい。これにより、ブレーキ作動時の出力ロスを極力小さくすることができる。
本実施形態における、第1トルクリミッタ及び第2トルクリミッタとしての回転軸941の作用効果は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
<実施形態3>
図12及び13に示すように、本実施形態の車両用電動ブレーキ装置B3におけるエネルギー蓄積機構950は、クラッチ機構951及び回転保持機構954を備えている点で、実施形態1のエネルギー蓄積機構9と構成が異なっている。クラッチ機構951及びロック機構954は、本発明の断接機構に該当する。
図12は、エネルギー蓄積機構950の渦巻きバネ952を第1回転軸951aに連結した状態を示している。図13は、渦巻きバネ952を第1回転軸951aから切離した状態を示している。
図12及び13に示すように、エネルギー蓄積機構950は、第1回転軸951a(回転軸)と、第2回転軸951bと、渦巻きバネ952(弾性体)と、ロック部材954aと、これらを収納する有底筒状を呈するケース953(ハウジング)と、ケース953の外側に取り付けられたクラッチ駆動用ソレノイド951cと、ロック駆動用ソレノイド954bとを有している。
クラッチ機構951は、第1回転軸951a、第2回転軸951b及びクラッチ駆動用ソレノイド951cによって構成されている。ロック機構954は、ロック部材954a及びロック駆動用ソレノイド954bによって構成されている。
第1回転軸951aは、電動モータ3の出力軸3aの先端部と係合して、出力軸3aと一体的に回転可能とされている。第2回転軸951bは、クラッチ駆動用ソレノイド951cの駆動により、第1回転軸951aに対して離接可能とされている。第2回転軸951bは、第1回転軸951aに当接している状態において、第1回転軸951aと一体的に回転可能とされている。また、第2回転軸951bは、第1回転軸951aから切離している状態において、第1回転軸951aの回転が第2回転軸951bに伝達しないようになっている。第2回転軸951bの断面形状は、実施形態1の回転軸91と同様となっている。
図12に示すように、クラッチ駆動用ソレノイド951cが駆動していない(通電していない)状態において、第2回転軸951bは、バネにより第1回転軸951aに当接する前進位置に付勢されている。この状態からクラッチ駆動用ソレノイド951cが駆動すると、バネの付勢力に抗して第2回転軸951bが後退して、図13に示すように、第2回転軸951bが第1回転軸951aから切離する。
渦巻きバネ952の形状は、実施形態1の渦巻きバネ92と同様である。渦巻きバネ952の外周側の一端部をケース953の内周面に保持させる構造、及び渦巻きバネ952の内周側の他端部を第2回転軸951bに保持させる構造についても、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
ケース953は、実施形態1のケース93よりも、第1回転軸951a及び第2回転軸951bの軸方向に長い有底筒状を呈している。ケース953の有底筒状の底部には、第2回転軸951bが挿通する挿通孔が形成されている。また、ケース953の有底筒状の側部には、ロック部材954aが挿通する挿通孔が形成されている。
ロック部材954aは、ロック駆動用ソレノイド954bの駆動により、第2回転軸951bの外周面に対して離接可能とされている。ロック部材954aが第2回転軸951bに当接している状態において、第2回転軸951bの回転が規制されている。また、ロック部材954aが第2回転軸951bから切離している状態において、第2回転軸951bの回転が許容されている。
図12に示すように、ロック駆動用ソレノイド954bが駆動していない(通電していない)状態において、ロック部材954aは、バネにより第2回転軸951bの外周面から切離した後退位置に付勢されている。この状態からロック駆動用ソレノイド954bが駆動すると、バネの付勢力に抗してロック部材954aが前進して、図13に示すように、ロック部材954aが第2回転軸951bの外周面に当接する。
エネルギー蓄積機構950の動作について、図14に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、図14に示すフローチャートは、図示しない電子制御装置内の制御部によって実行が制御される。
車両のイグニッションスイッチがONとなると、ステップS1において、ブレーキ操作に伴う電動モータ3の出力軸3aの正回転により、エネルギー蓄積機構950内部の渦巻きバネ952の巻き締めが開始される。このとき、図12に示すように、クラッチ駆動用ソレノイド951cの駆動により、第1回転軸951aと第2回転軸951bとが当接している状態となっている。また、ロック駆動用ソレノイド954bの駆動により、ロック部材954aが第2回転軸951bから切離している状態となっている。
ステップS2において、渦巻きバネ952が規定回転数まで巻き締められたか否かの確認を行う。ここで、規定回転数とは、渦巻きバネ952に蓄積された弾性エネルギーのみによって電動モータ3の出力軸3aに対して逆回転の回転トルクを付与して、ピストン8を初期位置に復帰させることが可能な回転数である。渦巻きバネ952の回転数は、電動モータ3の出力軸3aに取り付けられている回転角センサ31によって検出される。
ステップS2において、渦巻きバネ952が規定回転数まで巻き締められている場合には、ステップS3に進んで、渦巻きバネ952の巻き締めを終了した後、ステップS4に進む。ステップS2において、渦巻きバネ952が規定回転数まで巻き締められていない場合には、ステップS2を繰り返し実行する。
ステップS4において、図13に示すように、ロック駆動用ソレノイド954bの駆動により、ロック部材954aを第2回転軸951bに当接して、渦巻きバネ952に蓄積された弾性エネルギーを保持する。また、ステップS5において、図13に示すように、クラッチ駆動用ソレノイド951cの駆動により、第2回転軸951bを第1回転軸951aから切離して、第1回転軸951aの回転が第2回転軸951bに伝達しないようにする。ステップS4及びS5は、ほぼ同時に実行される。
ステップS6において、電動モータ3の逆回転駆動が不可能か可能かの確認を行う。電動モータ3の逆回転駆動が不可能な場合には、電動モータ3によってピストン8を初期位置に復帰させることが不可能であるため、ステップS7へ進む。電動モータ3の逆回転駆動が可能な場合には、電動モータ3によってピストン8を初期位置に復帰させることが可能であるため、ステップS6を繰り返し実行して、電動モータ3の逆回転駆動状況の監視を続ける。
ここで、電動モータ3の逆回転駆動が不可能な状態とは、電源失陥などにより電動モータ3が逆回転できない状態を想定しており、電動モータ3の焼き付きなどのように出力軸3aを回転させることが不可能となった状態は想定していない。電動モータ3の逆回転駆動の異常の検出には、例えば、図示しないモータ駆動回路の異常検出回路の信号を検出することによって行う。
ステップS7において、図12に示すように、クラッチ駆動用ソレノイド951cの駆動により、第2回転軸951bを第1回転軸951aに当接して、第2回転軸951bの回転が第1回転軸951aに伝達するようにする。また、ステップS8において、図12に示すように、ロック駆動用ソレノイド954bの駆動により、ロック部材954aを第2回転軸951bから離切して、渦巻きバネ952に蓄積された弾性エネルギーを開放する。ステップS7及びS8は、ほぼ同時に実行される。
ステップS8において、渦巻きバネ952に蓄積された弾性エネルギーが解放されると、第2回転軸951bに対して逆回転の回転トルクが付与され、この逆回転の回転トルクが第1回転軸951aを介して電動モータ3の出力軸3aに伝わり、ピストン8を初期位置に復帰させることが可能となる。
ステップS9において、電動モータ3の逆回転駆動に異常があったことを、運転者に報知する。この異常報知は、例えば、インストルメントパネルに配置された警告ランプの点灯などによって行うことができる。ステップS9の完了によりフローを終了する。フロー終了後には、電動モータ3の逆回転駆動の異常を修理した後、イグニッションスイッチのONにより再びフローが開始される。
なお、多くの場合、ステップS6において、電動モータ3の逆回転駆動が可能と判定される。この場合、ステップS6が繰り返し実行されている途中で車両の走行が終了して、イグニッションスイッチがOFFとなる。このとき、図12に示すように、クラッチ駆動用ソレノイド951c及びロック駆動用ソレノイド954bの通電を切って、渦巻きバネ952に蓄積された弾性エネルギーを解放する。そして、再度、イグニッションスイッチがONとなったときには、ステップS1からフローを再開する。これにより、イグニッションスイッチがONとなる度に、渦巻きバネ952に新たな弾性エネルギーを蓄積することとなり、確実に弾性エネルギーを蓄積することができる。
本実施形態によれば、車両用電動ブレーキ装置B3のエネルギー蓄積機構950は、第1回転軸951aと渦巻きバネ952の他端部との間に、クラッチ機構951及びロック機構954よりなる断接機構を備えている。そして、渦巻きバネ952に一定量の弾性エネルギーが蓄積されるまでの間は、断接機構により第1回転軸951aと渦巻きバネ952の他端部とが第2回転軸951bを介して連結されている。
また、渦巻きバネ952に一定量の弾性エネルギーが蓄積されると、断接機構により渦巻きバネ952の他端部が第1回転軸951aから切離されてケース953に連結される。そして、電動モータ3の逆回転駆動が不可能であることを検出すると、断接機構により渦巻きバネ952の他端部がケース953から切離されて第2回転軸951bを介して第1回転軸951aに連結される。
したがって、一旦弾性体に渦巻きバネ952の弾性エネルギーが蓄積されれば、それ以降、電動モータ3が正常に駆動する限り、電動モータ3が正回転及び逆回転を繰り返しても、この回転が第1回転軸951a及び第2回転軸951bを介して渦巻きバネ952に伝達されることはない。よって、電動モータ3が渦巻きバネ952を弾性変形させる際のエネルギーロスを最小限に抑えて、ブレーキ作動時の出力ロスを極力小さくすることができる。
また、電動モータ3の逆回転駆動が不可能となった場合には、断接機構により渦巻きバネ952の他端部がケース953から切離されて第2回転軸951bを介して第1回転軸951aに連結されるため、渦巻きバネ952に蓄積された弾性エネルギーにより第1回転軸951aに対して逆回転の回転トルクを付与して、ピストン8を初期位置に復帰させることが可能である。
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形又は拡張することができる。
例えば、実施形態1及び3においては、弾性体として渦巻きバネ92及び952を用いている。また、実施例2においては、弾性体としてねじりバネ942を用いている。しかし、弾性変形により弾性エネルギーを蓄積し得る弾性体であれば、弾性体の材質や構造は限定されない。例えば、弾性体として、ゴム、板バネ、コイルバネなどを用いることもできる。
また、実施形態1〜3において、車両用電動ブレーキ装置B1〜B3に備わる各部品は、金属材料又は合成樹脂材料により形成されている。しかし、車両用電動ブレーキ装置を構成する各部品の材質は限定されず、実施形態1〜3における金属製部品を合成樹脂製部品に変更したり、合成樹脂製部品を金属製部品に変更したりすることができる。
また、実施形態1〜3における減速機構4及び400の構造も実施形態に限定されるものではなく、電動モータの回転速度を減速して回転部材に伝達する減速機構であれば、様々な構造の減速機構を用いることができる。
また、実施形態1〜3においては、減速機構4、400のギヤボデー41、410のアッパボデー412、413と、エネルギー蓄積機構9、940、950のケース93、943、953とを別体成形しているが、減速機構のアッパボデーとエネルギー蓄積機構のケースとを一体成形することもできる。
また、実施形態1〜3においては、ディスクロータ100のプレート部102をブレーキハウジング1の爪部1aとピストン8とで挟圧する浮動型のディスクブレーキを用いているが、これに限らず、ディスクロータ100のプレート部102の双方の側面をピストンにて押圧する対向型のディスクブレーキを用いることもできる。