JP2017001088A - 熱間圧延鋼板の材質管理システムおよびその方法 - Google Patents

熱間圧延鋼板の材質管理システムおよびその方法 Download PDF

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Abstract

【課題】新たに専用センサを設けずに、熱延鋼板の長手方向に材質のばらつきが発生した場合でも出荷の歩留りを向上させるための材質管理方法および材質管理システムを提供する。
【解決手段】熱間圧延設備の仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後、ランアウトテーブル内で冷却された鋼鈑を巻取装置で巻取るようにされた熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、鋼鈑について経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを保持する徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置と、仕上圧延された鋼材のランアウトテーブル内における徐冷温度履歴を求める徐冷温度履歴算出装置と、徐冷温度履歴算出装置で求めた徐冷温度履歴を用いて徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置を参照し、該当する材質のデータを得、得られた材質のデータから鋼材の材質分布を推定する材質分布評価装置を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、熱間圧延で製造される鋼板の材質管理システムおよびその方法に関する。
熱間圧延で製造される長さ1000m超の鋼板では、製造中における圧延条件および冷却条件の変化により、長手方向に材質のばらつきが生じ易い。特に近年では圧延条件および冷却を高精度で制御することで、その用途に応じて材質を作り込んだ鋼板が製造されており、このような鋼板では圧延条件および冷却条件の変化による材質のばらつきが更に生じ易いため、材質管理が益々重要になっている。
従来、材質管理のためにはコイル状に巻取った後の鋼板の尾端若しくは先端等から試験片を切り出し、引張試験等を実施して、鋼板の材質を管理していた。試験結果で材質が許容範囲外であることが判明すると、その鋼板の出荷を取止めるか、若しくは巻き戻して更に多数の試験片を切り出して試験を行い、材質を確認する必要があった。
このことから、コイルの長手方向に材質のばらつきが発生した場合でも出荷の歩留りを向上させるための品質管理システムが特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「圧延製品を製造する圧延ラインに設けられ、圧延製品の製造時における圧延データを収集する圧延データ収集手段と、圧延製品の組織情報を計測する組織情報センサと、圧延データ収集手段によって収集された圧延データ及び組織情報センサによって計測された組織情報に基づいて、圧延製品の機械的性質を予測する機械的性質予測手段と、機械的性質予測手段によって予測された機械的性質を、圧延製品に対して予め設定された機械的性質の許容範囲と比較して、圧延製品の材質の良否を判定する材質判定手段と、材質判定手段の判定結果が、圧延製品の長手方向における位置情報と関連付けて記録される記録手段と、記録手段の記録内容に基づいて、圧延製品の切除部の長さを決定する切除部長さ決定手段と、を備えた」と記載されている。
また特許文献1には、「組織情報センサは、圧延製品の組織情報を計測するための装置であり、レーザ超音波を用いた方法等によって構成される。」と記載され、さらに、「組織情報センサは、例えば、巻取装置の上流側に配置され、巻取装置によって巻取られる直前の圧延製品の組織情報を計測する。」と記載されている。
レーザ超音波を用いた圧延製品の材質計測装置は特許文献2に記載されている。特許文献2によれば、レーザ超音波による材質計測装置は、「圧延製品の底面に送信側レーザ光を照射し、超音波パルスを発生させる超音波発振器と、圧延製品の上面に受信側レーザ光を照射し、圧延製品から反射される受信側レーザ光を受信部に入力することにより、圧延製品に発生した超音波パルスを検出して検出信号を発信し、超音波発振器から照射された送信側レーザ光の光路の延長線上に、受信部が位置しないように設けられた超音波検出器と、超音波検出器から発信された検出信号に基づいて、圧延製品の材質を計測するための処理を行う信号処理装置を備えた」装置であるとしている。
特開2009−166087号公報 特開2007−86028号公報
特許文献1には、コイルの長手方向に材質のばらつきが発生した場合でも出荷の歩留りを向上させるための品質管理システムが記載されている。しかし、特許文献1記載の品質管理システムでは専用の組織情報センサを用いるため、熱間圧延システムの構成が複雑になり、調整および保守の手間が増える課題がある。
また、特許文献1の組織情報センサであるレーザ超音波を用いる計測装置は、特許文献2の記載によると、鋼板の底面に送信側レーザ光を照射し、鋼板の上面に受信側レーザ光を照射するよう、鋼板を上下で挟む構成で設置される必要がある。しかし、熱間圧延では高速で移動する鋼板が上下動する現象があり、鋼板を上下で挟む構成で設置されるセンサは鋼板の上下動により損傷される可能性がある。
また、特許文献1記載の品質管理システムのひとつの実施例では、組織情報センサの代わりに組織予測モデルを用いるシステムが記載され、公知である第173・174回西山記念技術講座「熱延組織の組織変化及び材質の予測」((社)日本鉄鋼協会)P125をその一例として挙げている。しかし、圧延条件および冷却を高精度で制御して材質を作り込む鋼板において、組織情報センサを代替可能なレベルの予測精度を持つ組織予測モデルは知られていない。
以上のことから本発明の目的は、新たに専用センサを設けずに、熱延鋼板の長手方向に材質のばらつきが発生した場合でも出荷の歩留りを向上させるための熱間圧延鋼板の材質管理システムおよびその方法を提供することである。
以上のことから本発明においては、熱間圧延設備の仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後、ランアウトテーブル内で冷却された鋼鈑を巻取装置で巻取るようにされた熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、鋼鈑について経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを保持する徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置と、仕上圧延された鋼材のランアウトテーブル内における徐冷温度履歴を求める徐冷温度履歴算出装置と、徐冷温度履歴算出装置で求めた徐冷温度履歴を用いて徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置を参照し、該当する材質のデータを得、得られた材質のデータから鋼材の材質分布を推定する材質分布評価装置を備えたことを特徴とする。
また本発明においては、熱間圧延設備の仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後、ランアウトテーブル内で冷却された鋼鈑を巻取装置で巻取るようにされた熱間圧延鋼板の材質管理方法であって、鋼鈑について経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを保持し、仕上圧延された鋼材のランアウトテーブル内における徐冷温度履歴を計測により求め、計測により求めた徐冷温度履歴を用いて徐冷履歴と材質の間の相関データを参照し、該当する材質のデータから鋼材の材質分布を推定することを特徴とする。
本発明によれば、新たに専用センサを設けずに、熱延鋼板の長手方向に材質のばらつきが発生した場合でも出荷の歩留りを向上させることができる。
本発明の実施例1に係る熱間圧延設備の仕上げ段階の設備構成を示す図。 本発明の実施例1に係る徐冷履歴―材質相関テーブルの概念を示す図。 徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71に記憶される各種量の相関関係を模式的に示した図。 徐冷温度履歴算出装置73の内部処理を示すフローチャート。 ランアウトテーブルでの温度履歴に徐冷を設けて製造される鋼材の製造で好ましいとされる温度履歴の一例を示す概念図。 高い徐冷開始温度で徐冷時間を変えた時の材料組織の体積比を示す図。 低い徐冷開始温度で徐冷時間を変えた時の材料組織の体積比を示す図。 鋼板の長手方向の位置による鋼板速度の変化の一例を示す図。 仕上出口温度計と中間温度計で計測された鋼板温度の鋼板の長手方向の位置による変化を示す図。 鋼板の長手方向の位置による中間温度計到達時間と徐冷開始時間の変化の一例を示す図。 時間を遡りながら徐冷開始温度を算出する方法を示す概念図。 鋼板の長手方向の位置による徐冷開始温度の変化の一例を示す図。 本発明の別の実施例における鋼板温度計測部の構成を示す構成図。 本発明の更に別の実施例における鋼板温度計測部の構成を示す構成図。
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
以下本発明の実施例1について、説明する。まず図1は、本発明の実施例1に係る熱間圧延設備の仕上げ段階の設備構成を示す図である。
図1に示す熱間圧延設備の仕上げ段階においては、鋼板1が仕上圧延機の最終スタンド31で圧延された後、ランアウトテーブル(Run−out Table)4の中を通って、巻取装置5で巻取られる。ここまでの構成は周知の構成である。ランアウトテーブル4の中において、鋼板1は搬送ロール41の上に載り、複数の冷却バンク42の中を通過する。各冷却バンク42は複数の冷却ヘッド421を有し、各冷却ヘッド421は更に複数の冷却ノズル422を有する。各冷却バンク42はまた複数の下面冷却ヘッド423を有し、各下面冷却ヘッド423は複数の下面冷却ノズル424を有する。
ランアウトテーブル4の中にある各冷却ノズル422と各下面冷却ノズル424は、鋼板1を所定の温度履歴で冷却するため、各々異なる流量の冷却水を吐出するように、一個単位でまたは複数個単位で制御される。ここでの制御には、熱間圧延を開始する前に各ノズルの開度を設定する静的制御と、熱間圧延中に各ノズルの開度を変更する動的制御の両方を含む。また、動的制御は、熱間圧延を開始する前に予め決定してあった事前設定動的制御と、熱間圧延中に後述の速度計および各温度計の計測値に基づいたフィードバック制御またはフィードフォーワード制御を含む。ランアウトテーブル4中にある各冷却ノズル422および各下面冷却ノズル424の構成およびそれらの制御方法に関しては公知である。
当該熱間圧延設備の仕上圧延機最終スタンド31と巻取装置5の間には、各種計測器が設置されている。これらは、鋼板1の移動速度Vを計測する速度計61、仕上圧延終了時の鋼板1の温度を計測する仕上出口温度計62、ランアウトテーブル4の中での鋼板の温度TMP_IMTを計測する中間温度計63、巻取り直前の鋼板の温度を計測する巻取温度計64などである。なお中間温度計63は、後述する鋼材1の徐冷区間内に設けられる。中間温度計63は徐冷区間内に一つを設ける構成が一般的であるが、複数の中間温度計63を設けてもよい。複数の中間温度計63を設ける場合、後述する鋼材1の徐冷区間内に位置する中間温度計63の中で最も仕上出口温度計62に近い位置に配置された中間温度計63を用いるのがよい。
本発明の材質管理システム7は、上記構成の熱間圧延設備の仕上げ段階設備に適用されて、鋼材の品質管理を行うものであり、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71と、材質分布評価装置72と、徐冷温度履歴算出装置73から構成されている。
材質管理システム7は要するに、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71内に経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを数値保持しており、他方徐冷温度履歴算出装置73において仕上圧延された鋼材1の徐冷温度履歴を計測して求めている。材質分布評価装置72においては、徐冷温度履歴算出装置73において求めた鋼材1の徐冷温度履歴と、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71内に保持された徐冷履歴と材質の間の相関データとから、鋼材1の材質分布を推定し、その評価結果を熱間圧延生産管理システム9に外部報告したものである。
なお徐冷温度履歴算出装置73における徐冷温度履歴の算出には、ランアウトテーブル4内の各所に設けられた温度計の配置データ83、ランアウトテーブル4内の各所に設けられた冷却ノズル422、424の開度のデータ81、ランアウトテーブル4内の各所に設けられた計測器(鋼鈑速度の計測器61、中間温度計63)の計測データV、TMP_IMTを使用する。材質分布評価装置72においては、熱間圧延生産管理システム9から得た鋼材1の鋼種と鋼鈑検査データ82と徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71の保持するデータを使用する。
以下材質管理システム7が果たす役割について、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71と、徐冷温度履歴算出装置73、材質分布評価装置72の順に説明する。
最初に、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71について説明する。徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71は、徐冷履歴―材質相関テーブルを保存する装置である。図2に徐冷履歴―材質相関テーブルの概念図を示す。徐冷履歴―材質相関テーブルは一つまたは複数の徐冷履歴―材質相関データを含むテーブルであり、縦軸側に複数の組み合わせ例(1、2、・・・k、k+1、・・m・・)を採用し、横軸に徐冷履歴と材質の相関データを記録している。1つの組み合わせに係る徐冷履歴―材質相関データは、鋼種D_STL_GRDと、徐冷開始温度D_TMP_SSと、徐冷時間D_T_SCと、材質D_Mからなるデータ{D_STL_GRD、D_TMP_SS、D_T_SC:D_M}である。
このうち鋼種D_STL_GRDと、徐冷開始温度D_TMP_SSと、徐冷時間D_T_SCが徐冷履歴に関わるデータであり、鋼種D_STL_GRDについて、MC1とMC2の事例が示され、徐冷開始温度D_TMP_SSについて、TMP1とTMP2の事例が示され、徐冷時間D_T_SCについてT1、T2、・・Tkの事例が示されている。
また材質に関わるデータD_Mとしては、種々のものが適用可能であり、図2には複数種類の材質に関わるデータD_Mが準備、記憶されている。この事例では、材質に関わるデータD_Mは例えば引張強度D_TSであるが、他の材質データでもよいし、また複数の材質データの組み合わせでもよい。引張強度の他の材質データの例としては、降伏強度D_YS、または全伸びD_EL、または均一伸び、または硬さ、またはシャルピー衝撃値、または延性‐脆性遷移温度、またはLankfordのr値、または後述の組織体積比がある。
なお図2の例では、引張強度D_TSについてTS111、TS112・・TS11k、TS121・・TS211の事例が示され、降伏強度D_YSについてYS111、YS112・・YS11k、YS121・・YS211の事例が示され、全伸びD_ELについて、EL111、EL112・・EL11k、EL121・・EL211の事例が示されている。
図2に示したように徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71は、一つまたは複数の鋼種D_STL_GRDと、一つまたは複数の徐冷開始温度D_TMP_SSと、一つまたは複数の徐冷時間D_T_SCに対する前記徐冷履歴―材質相関データ{D_STL_GRD、D_TMP_SS、D_T_SC:D_M}からなる徐冷履歴―材質相関テーブルを保存する。
なお、図1において材質分布評価装置72が徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71を参照するに当たり最初に行うことは、熱間圧延生産管理システム9から得た鋼材1の鋼種D_STL_GRDを特定して、比較参照すべき徐冷履歴―材質相関テーブルの参照範囲を限定することである。例えば鋼材1の鋼種D_STL_GRDがMC1であることが判明した場合には、同テーブルの縦軸番号1からm−1までの範囲のデータに特定される。
図3は、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71に記憶される各種量の相関関係を模式的に示した図である。ここでは、鋼種D_STL_GRDについてMC1を採用し、徐冷開始温度D_TMP_SSについてTMP1、TMP2、TMP3を可変にパラメータ設定したときの、徐冷時間D_T_SC(横軸)と、引張強度D_TS(縦軸)の関係を示している。この図によれば、鋼種D_STL_GRDが特定され、徐冷開始温度D_TMP_SSが一定である場合には、引張強度D_TSは徐冷時間D_T_SCが長いほど低下する傾向があることがわかる。また引張強度D_TSは、徐冷時間D_T_SCが同じ条件下では徐冷開始温度D_TMP_SSが高いほど大きくなることがわかる。
なお、図1において材質分布評価装置72が徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71を参照するに当たり次に行うことは、徐冷温度履歴算出装置73において求めた徐冷温度履歴を参照することである。徐冷温度履歴には徐冷開始温度D_TMP_SS、徐冷時間D_T_SCが含まれており、この結果図2のテーブルから材質D_Mが特定される。例えば、徐冷開始温度D_TMP_SSがTMP1、徐冷時間D_T_SCがTkであったとすると、同テーブルの縦軸番号kのデータに特定され、材質D_Mとして、TS11k、YS11k、EL11kが導出されることになる。
さらに徐冷温度履歴算出装置73において求めた徐冷温度履歴は履歴情報を含むので、鋼材1の特定点(例えば鋼材の端部)における温度の時間経過情報、鋼材1の特定場所(鋼材側端部から20cmの位置)における温度の時間経過情報を含んでいる。この結果、鋼材1の広範な位置における温度履歴を用いて材質分布を推定することが可能である。
図2に示した徐冷履歴―材質相関テーブルは、実験などの結果を反映する形で予め求めておくものとするが、当該テーブルの作成手法については後述する。
次に図1の材質管理システム7内の徐冷温度履歴算出装置73について説明する。図1に示すように、徐冷温度履歴算出装置73は、速度計61で計測された鋼板1の速度データV(X)と、中間温度計63で計測された鋼板の温度データTMP_IMT(X)と、ランアウトテーブル4内の各冷却ノズル422および各下面冷却ノズル424の時々刻々の開度を表すランアウトテーブル開度データROTC(X)81と、温度計配置データ83の入力を受ける。ここで、変数Xは鋼板1の先端部から材質を評価する鋼板1の評価部までの距離である。以下、簡単のため、速度データV(X)をVで、温度データTMP_IMT(X)をTMP_IMTで、ランアウトテーブル開度データROTC(X)をROTCで各々表すことにする。
徐冷温度履歴算出装置73は、上記の各入力を用いて後述の処理によって、鋼板1の先端部からの距離Xと、該距離Xにおける徐冷開始温度TMP_SSと、該距離Xにおける徐冷終了時間と徐冷開始時間の差T_SC=T_SE−T_SSからなるデータ{X、TMP_SS、T_SC}を材質分布評価装置72へ出力する。この処理の詳細は図4の処理フローを用いて後で詳しく説明する。
上記においては、徐冷温度履歴算出装置73における機能を極簡便に述べたものであり、実際には任意の場所、任意の時刻を広範に取り込んで、鋼鈑1の全体評価、あるいは履歴評価に反映させることが可能である。このため、実運用においてはさらに以下のように処理されるのがよい。
まず、徐冷温度履歴算出装置73と速度計61との間に、鋼板1の速度データVを記録する鋼板速度データ記録装置を設けて、速度計61で計測した鋼板の速度データVを鋼板速度データ記録装置に記録し、徐冷温度履歴算出装置73が鋼板速度データ記録装置に記録された鋼板速度データVを入力として受けてもよい。
同じく、徐冷温度履歴算出装置73と中間温度計63との間に、鋼板の中間温度データTMP_IMTを記録する鋼板中間温度データ記録装置を設けて、中間温度計63で計測した鋼板の中間温度データTMP_IMTを鋼板中間温度データ記録装置に記録し、徐冷温度履歴算出装置73が鋼板中間温度データ記録装置に記録された鋼板中間温度データTMP_IMTを入力として受けてもよい。
また同じく、徐冷温度履歴算出装置73と各冷却ノズル422および各下面冷却ノズル424との間に、時々刻々の開度データROTCを記録するランアウトテーブル開度記録装置を設けて、各冷却ノズル422および各下面冷却ノズル424の開度データをランアウトテーブル開度記録装置に記録し、徐冷温度履歴算出装置73がランアウトテーブル開度記録装置に記録された各冷却ノズル422および各下面冷却ノズル424の時々刻々の開度データROTCを入力として受けてもよい。
図4に、徐冷温度履歴算出装置73の内部処理を示すフローチャートを示す。最初の処理ステップである中間温度計距離算出処理ステップS730においては、熱間圧延装置の温度計配置データ83として、ランアウトテーブル4における仕上出口温度計62の座標X_FDTと、中間温度計63の座標X_IMTを導入して、(1)式を用いて中間温度計距離L_IMTを計算する。中間温度計距離算出処理ステップS730は、計算した中間温度計距離L_IMTを徐冷通過距離算出処理ステップS731と、徐冷開始時間算出処理ステップS734へ出力する。
[数1]
L_IMT=X_IMT−X_FDT・・・(1)
徐冷通過距離算出処理ステップS731においては、ランアウトテーブル開度データ81と温度計配置データ83を用いて、仕上出口温度計62の位置X_FDTを原点とした、中間温度計63より仕上出口温度計62側に配置され、最も近い距離にある開状態の冷却ノズル422または下面冷却ノズル424の座標X_OPENを算出する。
次に、徐冷通過距離算出処理ステップS731は、速度計61で計測された鋼板速度データと、ランアウトテーブル開度データ81とを用いて、中間温度計63に最も近い開状態の冷却ノズル422から吐出された冷却水が吐出時点から鋼板1の上から消失するまでの鋼板の移動距離、即ち、帯状水消失距離L_Xを算出する。(2)式に帯状水消失距離L_Xを算出する式の一例を示す。
[数2]
L_X=c0×L_B0×SUM(W0_OPEN)/W0_FULL
+c1×L_B1×SUM(W1_OPEN)/W1_FULL
+c2×L_B2×SUM(W2_OPEN)/W2_FULL
・・・・(2)
(2)式において、L_B0は中間温度計63に最も近い開状態の冷却ノズル422が属する冷却バンク42の長さ、W0_OPENはランアウトテーブル開度データ81より算出される該冷却バンク42に設けられた複数の冷却ノズル42から吐出される冷却水量の該時点での合計、W0_FULLは該冷却バンク42に設けられた複数の冷却ノズル42を全開にした時に吐出される冷却水量の合計である。
また、L_B1とW1_OPENとW1_FULLは、前記の中間温度計63に最も近い開状態の冷却ノズル422、冷却バンク42から仕上出口温度計62側に位置する別の冷却バンク42’に対する、前記L_B0、W0_OPEN、W0_FULLと同じ定義の量である。更に、L_B2とW2_OPENとW2_FULLは、前記した別の冷却バンク42’より仕上出口温度計62側に位置する更に別の冷却バンク42”に対する、前記L_B0、W0_OPEN、W0_FULLと同じ定義の量である。
また(2)式の係数c0とc1とc2について、これら係数はランアウトテーブル4および冷却バンク42などの構成によって変化する数値であり、操業経験または伝熱シミュレーションから決まる係数である。一つの例は(1.0、0.9、0.5)であるが、ランアウトテーブル4の構成によっては別の数値になることは言うまでもない。なお、上記(2)式は帯状水消失距離L_Xを算出する式の一例であり、考慮する冷却バンクの数を(2)式の3つから変えることも可能である。また、速度計61で計測した鋼板の速度データを用いて、考慮する冷却バンクの数を変えてもよいし、各冷却バンクの係数c0等を変えてもよい。
さらに徐冷通過距離算出処理ステップS731では、(3)式を用いて徐冷通過区間長さL_Sを算出して、徐冷経過時間算出処理ステップS732へ出力する。
[数3]
L_S=L_IMT−0.5×L_X・・・(3)
(3)式でL_Xの係数0.5は一例であり、ランアウトテーブル4の構成に応じて0.3〜1.0の値を用いてもよい。
徐冷経過時間算出処理ステップS732は、徐冷通過距離算出処理ステップS731で算出された徐冷通過区間長さL_Sと、速度計61で計測した鋼板の速度データVを用いて、(4)式に従って徐冷経過時間T_Sを算出する。徐冷経過時間算出処理ステップS732は、算出した徐冷経過時間T_Sを徐冷開始温度算出処理ステップS733と、徐冷開始時間算出処理ステップS734へ出力する。この時、VはL_Sを算出した鋼板1上の位置Xにおける鋼板移動速度である。
[数4]
T_S=L_S/V・・・(4)
徐冷開始温度算出処理ステップS733は、徐冷経過時間算出処理ステップS732で算出された徐冷経過時間T_Sと、中間温度計63で計測された鋼板の温度TMP_IMTと、徐冷時の平均冷却速度CR_S_AVGを用いて、(5)式に従って徐冷開始温度TMP_SSを算出する。この時、TMP_IMTはT_Sを算出した鋼板1上の位置Xで計測された鋼板温度である。徐冷開始温度算出処理ステップS733は、算出したTMP_SSを徐冷温度履歴算出処理ステップS736へ出力する。
[数5]
TMP_SS=TMP_IMT―CR_S_AVG×T_S・・・(5)
(5)式において、CR_S_AVGは冷却水のない状態における鋼板1の温度変化を伝熱方程式で計算することで求まる。鋼板1の温度履歴を算出する周知の技術では、仕上出口温度計62で計測された鋼板1の温度を基準として、該温度を有する鋼板1がランアウトテーブル4の中を進行しながら示す温度の時間変化を時間順に算出していた。しかし、高温の鋼板1に吐出された冷却水は膜形成や沸騰を含む複雑な振る舞いを示すため、水冷条件における鋼板1の温度変化を算出することは困難であった。
周知の技術に比べて、本発明の技術は中間温度計63で計測された鋼板1の温度TMP_IMTを基準にして、冷却水のない時間での鋼板1の温度変化を時間を遡りながら算出する。冷却水のない状態における鋼板1の温度は、相対速度Vで移動する大気による空冷と、中間温度TMP_IMP近傍における輻射冷却と、搬送ロール41との接触冷却と、鋼板1内での熱伝導によって変化する。この中で特に、鋼板1内での熱伝導による温度変化を無視すると、相対速度Vで移動する大気による空冷と、中間温度TMP_IMP近傍における輻射冷却と、搬送ロール41との接触冷却による鋼板1の温度変化は伝熱方程式で簡単に計算できる。鋼板1の温度の関数でもある鋼板1の温度変化を、TMP_IMT近傍で平均するとCR_S_AVGを得る。CR_S_AVGの値の一例は−3.0℃/sである。
なお、(5)式は簡便な説明のため、冷却速度の平均値であるCR_S_AVGを用いたが、CR_S_AVGを用いる代わりに、CR_Sの温度に対する離散積分を用いてより厳密なTMP_SSを算出してもよい。
徐冷開始時間算出処理ステップS734は、中間温度計距離算出処理ステップS730で算出された中間温度計距離L_IMTと、徐冷経過時間算出処理ステップS732で算出された徐冷経過時間T_Sと、速度計61で計測された鋼板の速度Vを用いて、(6)式に従って徐冷開始時間T_SSを算出する。徐冷開始時間算出処理ステップS734が算出したT_SSは、徐冷温度履歴算出処理ステップS736へ出力される。
[数6]
T_SS=L_IMT/V―T_S・・・(6)
徐冷終了時間算出処理ステップS735は、ランアウトテーブル開度データ81のROTLと温度計配置データ83を用いて、仕上出口温度計62の位置X_FDTを原点とした、中間温度計63より巻取装置5側に配置され、最も近い距離にある開状態の冷却ノズル422または下面冷却ノズル424の座標X_DOWNを算出する。次に、徐冷終了時間算出処理ステップS735は、速度計61で計測された鋼板速度データVを用いて、(7)式に従い徐冷終了時間T_SEを算出する。徐冷終了時間算出処理ステップS735は、算出した徐冷終了時間T_SEを徐冷温度履歴算出処理ステップS736へ出力する。
[数7]
T_SE=(X_DOWN−X_FDT)/V・・・(7)
徐冷温度履歴算出処理ステップS736は、徐冷開始温度算出処理ステップS733で算出された徐冷開始温度TMP_SS(X)と、徐冷開始時間算出処理ステップS734で算出された徐冷開始時間T_SS(X)と、徐冷終了時間算出処理ステップS735で算出された徐冷終了時間T_SE(X)を入力として受ける。ここで、Xは前記の如く鋼板1の先端部から材質を評価する鋼板1の一部までの距離である。徐冷開始温度TMP_SS、徐冷開始時間T_SS、徐冷終了時間T_SEの算出に用いられる温度データTMP_IMT、速度データV、ランアウトテーブル開度データROTCが上記の如く距離Xの関数であることから、徐冷開始温度TMP_SS、徐冷開始時間T_SS、徐冷終了時間T_SEも距離Xの関数であることは自明である。上では簡単のため、距離Xの関数としての表記を省略した。徐冷温度履歴算出処理ステップS736は、鋼板1の先端部からの距離Xと、該距離Xにおける徐冷開始温度TMP_SSと、該距離Xにおける徐冷終了時間と徐冷開始時間の差T_SC=T_SE−T_SSからなるデータ{X、TMP_SS、T_SC}を材質分布評価装置72へ出力する。
図1の材質分布評価装置72は、熱間圧延生産管理システム9より、鋼板1の鋼種情報STL_GRDの入力を受け、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71に保存された徐冷履歴―材質相関テーブルから鋼種情報STL_GRDと一致するD_STL_GRDを有する徐冷履歴―材質相関データを検索して、材質分布評価装置72内の相関データ記憶部に保存する。
なお材質分布評価装置72は、前記徐冷履歴―材質相関テーブルから鋼種情報STL_GRDと一致するD_STL_GRDを有する徐冷履歴―材質相関データを見つけることが出来なかった時には、熱間圧延生産管理システム9に「データなし」の警告信号を出力する。本発明の以下の説明は合致する情報が存在することを前提として行う。
材質分布評価装置72は、また、後述の徐冷温度履歴算出装置73より、鋼板1の長手方向の座標Xと、該座標Xにおける徐冷開始温度TMP_SSと、該座標Xにおける徐冷終了時間と徐冷開始時間の差T_SC=T_SE−T_SSからなるデータ{X、TMP_SS、T_SC}を入力として受ける。上記の長手方向の座標Xの原点は鋼板1の先端、または鋼板1の尾端、またはその他の位置に自由に設定できる。以下では鋼板1の先端を座標Xの原点として説明する。
材質分布評価装置72は、{X、TMP_SS、T_SC}を前記相関データ記憶部に保存した徐冷履歴―材質相関データ{D_STL_GRD、D_TMP_SS、D_T_SC:D_M}と比較して、鋼板1の先端部からの距離Xに対する材質分布M(X)を評価する。徐冷開始温度TMP_SSと一致するD_TMP_SSがない時には公知の内挿または外挿を用いる。用いることのできる内挿法には、例えば、線形補間、Laplace補間、Spline補間がある。外挿法には、例えば、線形外挿、多項式外挿がある。徐冷終了時間と徐冷開始時間の差T_SC=T_SE―T_SSと一致するD_T_SCがない時にも同じく公知の内挿また外挿を用いる。
更に、材質分布評価装置72は、鋼板検査データ82として、Mtest(Xtest)を用いて前記材質分布M(X)を補正して、補正済み材質分布M_CORR(X)を算出してもよい。ここでXtestは鋼板検査に用いた試験片の該鋼板上の位置であり、通常、巻取られた鋼板の尾端部または先端部である。ただし、巻取られた鋼板を巻きほぐして尾端部と先端部以外の位置から試験片を採取してもよい。
位置Xtestが1ヶ所だけであればM_CORR(X)=M(X)×Mtest(Xtest)/M(Xtest)で補正済み材質分布M_CORR(X)を算出する。もしXtestが複数箇所であれば、Mtest(Xtest)/M(Xtest)の関数fを用いてM_CORR(X)=M(X)×f(Mtest(Xtest)/M(Xtest))で補正済み材質分布M_CORR(X)を算出する。関数fは典型的には多項式であるが、関数近似の分野で周知のBessel関数や指数関数など他の関数系を用いてもよい。
補正に用いた上記のMtest(Xtest)/M(Xtest)またはf(Mtest(Xtest)/M(Xtest))を、別の鋼板の材質分布M_(X)の補正に利用するために、補正に用いた上記のMtest(Xtest)/M(Xtest)またはf(Mtest(Xtest)/M(Xtest))を、材質分布補正データ保存装置721に保存してもよい。材質分布補正データ保存装置721に保存した補正データを用いることで、鋼板検査データ82のMtest(Xtest)のない鋼板に対しても、補正済み材質分布M_CORR(X)を算出することができる。
材質分布評価装置72は、材質分布M(X)、または補正済み材質分布M_CORR(X)、またはM(X)とM_CORR(X)を熱間圧延生産管理システム9へ出力する。
熱間圧延生産管理システム9は、M(X)またはM_CORR(X)またはM(X)とM_CORR(X)を、ユーザが予め決めてある鋼板材質分類テーブル上の材質基準と比較して、鋼板1の長手方向の材質を分類する。鋼板材質分類テーブルはユーザの社内等級であってもよいし、外部の公的機関が定めた基準あってもよいし、顧客ら提示された仕様であってもよい。長手方向に分類された材質は、鋼板1の固有情報として熱間圧延生産管理システム9または外部記録装置に記録される。記録された鋼板1の長手方向の材質分類は、鋼板1を切断し個別出荷する際の切断箇所を決める基準として用いられる。また、記録された鋼板1の長手方向の材質分類は鋼板1の出荷時に顧客に提供してもよい。記録された鋼板1の長手方向の材質分類は、更に、鋼板の販売および熱間圧延工程の改善に用いられてもよい。
次に、徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置71に保存される徐冷履歴―材質相関データの作成方法の一例を説明する。この例では、実験室実験によって徐冷履歴―材質相関データを作成する。即ち、鋼種STL_GRDで規定される化学組成を有する試験片に対して熱間加工を加えた後、所定の徐冷履歴を含む温度履歴に従うように冷却速度を制御しながらその試験片を冷却して、該試験片を用いて引張試験等の機械特性試験を行うことで、徐冷履歴と材質との間の相関データを作成する。
前記の熱間加工では熱間圧延の全体または一部を模擬するように試験片の温度を制御しながら塑性加工を加える。例えば、試験片を1200℃に加熱して10分保持した後、−20℃/sの冷却速度で920℃まで冷却して、試験片内の均熱化のため920℃で10秒間保持した後、試験片の高さが元の高さの60%になるまで30/sのひずみ速度で圧縮し、2秒間保持してから更に試験片の高さが元の高さの30%になるまで50/sのひずみ速度で圧縮する。
前記の徐冷を含む温度履歴は、例えば、前記の920℃での圧縮加工が終わった時点から8秒間−30℃/sの冷却速度で冷却され680℃になった後、680℃から5秒間は−3℃/sの冷却速度で徐冷され665℃になった後、665℃から3秒間−70℃/sの冷却速度で冷却され455℃になる温度履歴である。この例において、徐冷開始温度TMP_SS=680℃、徐冷終了時間と徐冷開始時間の差T_SC=5sである。
上記の実験を徐冷開始温度TMP_SSと徐冷時間T_SCを変えながら実施することで、熱間圧延プラントでの実操業時に比べて桁違いに高い精度で制御および計測された試験片の徐冷条件と、試験片の材質との相関データを取得することができる。上記の実験は公知の加工熱処理実験設備、例えば富士電波工業株式会社のThermecMaster Z(R)または米Dynamic Systems IncのGleeble(R)システムなどを用いて実施可能である。
上記の実験室実験で熱間圧延プラントにおける実操業条件の代表的な様子を模擬することができるが、実験室実験で実操業条件を完全に模擬することは極めて困難である。実操業では、例えば圧延前に200mmの厚さを持つ長さ10mの鋼板を1200℃に加熱した後、1200℃から900℃までに鋼板の温度を下げながら10回以上の圧縮を鋼板に加えて2mmの厚さを持つ長さ1000mの鋼板に加工するが、この一連の加工を高精度の制御および計測のもとで模擬することは、不可能ではないとしても、極めて困難である。
ひとつの実験の中で複数回の圧縮加工を行うこととして、各圧縮加工の温度とひずみ速度および圧縮加工間の時間間隔を計画的に変える一連の実験を設計して、多数の実験データを重ねれば、実験室実験で熱間圧延プラントにおける実操業条件を模擬することができる。しかし、このような一連の実験を製造される鋼種毎に行うことは極めて煩雑である。
本発明によれば、熱間圧延の加工条件を完全に模擬しないため、徐冷履歴を変えた一連の実験から鋼種毎の徐冷履歴―材質相関データを従来に比べて簡便に作成することができる。徐冷履歴―材質相関データを取得する際の加工条件として、熱間圧延の実操業で仕上圧延機の最終スタンド31およびその前段の数スタンドでの圧延条件を模擬することで、徐冷履歴―材質相関データを参照して鋼板1の長手方向の材質分布M(X)を評価することができる。
また、実験室実験で求めた上記の相関データを基に、組織予測モデルまたは材質予測モデルを作成して、実験で求めた相関データを内挿または外挿して、新たな相関データを作成してもよい。
更に、徐冷履歴―材質相関データを参照して評価した鋼板1の長手方向の材質分布M(X)を、鋼板検査データ82、Mtest(Xtest)を用いて補正して補正済み材質分布M_CORR(X)を算出してもよい。鋼板検査データ82、Mtest(Xtest)を取得することで煩雑になる代わり、補正により材質分布の評価精度を上げることが期待できる。
以下に、例を用いて本願発明の効果を説明する。
図5はランアウトテーブル4での温度履歴に徐冷を設けて製造されるフェライトーマルテンサイト2相鋼(Dual Phase Steel、通称DP鋼)の製造で好ましいとされる温度履歴の一例として、A. Nuss、 B. Engl and T. Heller、 Improvement of Material Properties by Microalloying in the Case of Mutiphase Steels、 Proceedings of Microalloyed steels International Symposium (2002、 ASM Internaltional) pp. 133−140に開示された図をもとに作成したものである。
図5は、横軸に鋼鈑1がランアウトテーブル4上を移動する時間、縦軸に温度を採用している。左上の位置が仕上げ圧延スタンド31における鋼鈑1の温度と時刻で定まる点であり、右下の位置が巻き取り装置5における鋼鈑1の温度と時刻で定まる点である。この温度と時間で表される領域において、鋼鈑はフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、パーライトの態様を取りえる。この図によれば、フェライト変態域の中で徐冷を行うことで、80%前後とされる好ましいフェライト体積比を得ると同時に、炭素固溶量の低いフェライトから体積比20%のオーステナイト組織へ炭素を移動させる。続く急冷時に、高炭素濃度となったオーステナイトは、脆いベイナイト組織への変態が抑制され、硬質のマルテンサイトに変態される。
徐冷を含み製造されるDP鋼以外の鋼板については、A.Nussらの上記論文およびT. Senuma、 Physical Metallurgy of Modern High Strength Steel Sheets、 ISIJ International、 Vol. 41 (2001)、 No. 6、 pp. 520−532の総説に一部が記載されている。
熱間圧延での材質作り込みを目的とする上記の論文および総説記載の鋼板の冷却パターンの共通点の一つは、650〜750℃の温度域に徐冷期間を設け、フェライトの体積率を制御することである。熱間圧延時にオーステナイトであった鋼板の材料組織は、このフェライト体積率制御期間の間にフェライト組織へと変態する。フェライトの体積率は主に徐冷を行う温度の範囲と徐冷を行う時間によって決まり、徐冷を行う温度が低いほど、また徐冷を行う時間が長いほど、フェライトの体積率は増加する傾向を示す。
図6と図7に徐冷開始温度TMP_SSと徐冷時間T_SCによる組織体積比の変化の一例を示す。図6は高い徐冷開始温度TMP_SSで徐冷時間T_SCを変えた時の材料組織の体積比を示す図であり、図7は低い徐冷開始温度TMP_SSで徐冷時間T_SCを変えた時の材料組織の体積比を示す図である。いずれの図も横軸に徐冷時間T_SCの長短を示し、縦軸に組織体積比を示している。図6のように徐冷開始温度TMP_SSが高い時にはフェライトの体積比が下がる代わりに、脆いベイナイトと硬いマルテンサイトの体積比が増加する。一方図7のように、徐冷開始温度TMP_SSが低い時にはフェライトの体積比が増える一方で、脆いベイナイトの体積比が減少する。特に、徐冷開始温度TMP_SSの低い条件で徐冷時間を制御すると、体積比約80%のフェライトと体積比約20%のマルテンサイトを含む組織を得ることができる。
組織体積比が変化すると材質が変化することは周知のことである。例えば、Yo Tomota et al.、 Prediction of Mechanical Properties of Multi−phase Steels Based on Stress−Strain Curves、 ISIJ International、 Vol. 32 (1992)、 No. 3、 pp. 343−349に組織体積比と材質との関係に関するモデルが開示されている。
図8は鋼板1内の位置Xによる鋼板速度Vの変化の一例として加速圧延として知られるパターンを示す。横軸に距離X、縦軸に速度Vをとっている。破線は設定値を、実線は実績値を各々示す。X=0近傍は圧延初期に相当し、鋼板1の先端が巻取装置5に巻取られるまで低速で圧延される。鋼板1が巻取装置5に巻取られた後には、鋼板速度Vは増加され一定速度に達したらその速度に保持される。次に鋼板1の尾端が仕上圧延機の最終スタンド31を通過する時点の前後からは圧延速度を落とす。
図9は、鋼板1内の位置Xを横軸にとり、仕上出口温度計62で計測された鋼板1の温度TMP_FDTと、中間温度計63で計測された鋼板1の温度TMP_IMTを縦軸に示している。破線は設定値を、実線は実績値を各々示す。
図10は、横軸に距離X、縦軸に時間をとって、中間温度計到達時間と徐冷開始時間T_SSを示している。加速圧延によって中間温度計へ到達する時間は鋼板1の長手方向座標Xに沿って変化する。ランアウトテーブル4のノズル開度を動的制御することで、徐冷開始時間の変動は中間温度計到達時間に比べて小さい範囲に抑えられる。この2つの時間の差が徐冷経過時間T_Sとなる。
図11は中間温度計63で計測された鋼板1の温度TMP_IMTを起点にして、徐冷経過時間T_Sの間における鋼板1の温度を時間を遡りながら計算して、徐冷開始温度TMP_SSを算出する本発明の方法を示す図である。
図12は、徐冷開始温度TMP_SSの設定値と実績値を破線と実線で各々示す。比較のため、図8に示した仕上出口温度計62で計測された鋼板1の温度TMP_FDTおよび鋼板1の温度TMP_IMTも示した。徐冷経過時間T_S=T_SE−T_SSも同様にXに対する変化が出力される。
本発明の別の実施例を図13に示す。位置の固定された中間温度計63を用いる代わりに、温度検出装置654の出力を用いて、前記実施例1を実施する。ランアウトテーブル4に配置された複数の収集部651は鋼板1が発する光をランアウトテーブル4上の複数位置で収集する。収集された光は、光路束652を経由して切替装置653へ入力される。切替装置653は、冷却水を吐出する冷却ヘッダ421の位置より巻取装置5側へ前記帯状水消失距離L_X以上離れた収集部651の中で、その離れた距離が最もた小さい集光部651で収集された光を選択し、温度検出装置654へ出力する。温度検出装置654は切替装置653より入力される光を、波長に対する光強度に関する公知の分析技術を用いて解釈して温度を出力する。
本実施例の技術は、実施例1に比べて温度計測が複雑になるが、徐冷開始位置に近い位置で鋼板1の温度を計測することで徐冷履歴の算出精度を上げる効果がある。
本発明の更に別の実施例を図14に示す。位置の固定された中間温度計63を用いる代わりに、移動用レール662によって鋼板1の長手方向に移動することのできる非接触温度計661の出力を用いて、前記実施例1を実施する。非接触温度計661は、冷却水を吐出する冷却ヘッダ421の位置より巻取装置5側へ前記帯状水消失距離L_Xだけ離れた位置で鋼板1の温度を計測する。本実施例の技術は、実施例1に比べて温度計測が複雑になるが、徐冷開始温度TMP_SSに近い位置で計測することで徐冷履歴を算出精度を上げる効果がある。更に実施例2に比べて、移動部に加わることによって保守が煩雑になるが、実施例2よりも更に徐冷開始位置に近い位置で鋼板1の温度を計測することで徐冷履歴の算出精度を更に上げる効果がある。
1:鋼板
31:仕上圧延機の最終スタンド
4:ランアウトテーブル
41:搬送ロール
42:冷却バンク
421:冷却ヘッダ
422:冷却ノズル
423:下面冷却ヘッダ
424:下面冷却ノズル
5:巻取装置
61:速度計
62:仕上出口温度計
63:中間温度計
64:巻取温度計
651:収集部
652:光路束
653:切替装置
654:温度検出装置
661:非接触温度計
662:移動用レール
7:材質管理システム
71:徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置
S730:中間温度計距離算出処理ステップ
S731:徐冷通過距離算出処理ステップ
S732:徐冷通過時間算出処理ステップ
S733:徐冷開始温度算出処理ステップ
S734:徐冷開始時間算出処理ステップ
S735:徐冷終了時間算出処理ステップ
S736:徐冷温度履歴算出処理ステップ
72:材質分布評価装置
73:徐冷温度履歴算出装置
81:ランアウトテーブル開度データ
82:鋼板検査データ
83:温度計配置データ
9:熱間圧延生産管理システム

Claims (11)

  1. 熱間圧延設備の仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後、ランアウトテーブル内で冷却された鋼鈑を巻取装置で巻取るようにされた熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    鋼鈑について経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを保持する徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置と、前記仕上圧延された鋼材のランアウトテーブル内における徐冷温度履歴を求める徐冷温度履歴算出装置と、前記徐冷温度履歴算出装置で求めた徐冷温度履歴を用いて前記徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置を参照し、該当する材質のデータを得、得られた材質のデータから前記鋼材の材質分布を推定する材質分布評価装置を備えたことを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  2. 請求項1に記載の熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    前記徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置は、前記仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後の鋼鈑について、経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを保持していることを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  3. 請求項1または請求項2に記載の熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    前記徐冷履歴―材質相関テーブル保存装置は、徐冷履歴の情報として徐冷開始温度と、徐冷時間を含み、前記徐冷温度履歴算出装置は徐冷温度履歴として前記徐冷開始温度と、徐冷時間を求めていることを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    前記徐冷温度履歴算出装置は、前記ランアウトテーブル内の徐冷区間で計測された鋼板の温度と、鋼板速度と、ランアウトテーブル内における冷却ノズルの開度データと、温度計の配置データを用いて、徐冷時間と徐冷開始温度を算出することを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    前記材質分布評価装置は、推定した前記鋼材の材質分布評価値に対して、鋼板検査データを用いて補正することを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    前記徐冷温度履歴算出装置は、前記ランアウトテーブル内の徐冷区間で計測された鋼板の温度を計測するとともに、当該計測のために複数の光収集部を配置することを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  7. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の材質管理システムであって、
    前記徐冷温度履歴算出装置は、前記ランアウトテーブル内の徐冷区間で計測された鋼板の温度を計測するとともに、当該計測のために移動する非接触温度計を用いることを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理システム。
  8. 熱間圧延設備の仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後、ランアウトテーブル内で冷却された鋼鈑を巻取装置で巻取るようにされた熱間圧延鋼板の材質管理方法であって、
    鋼鈑について経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データを保持し、前記仕上圧延された鋼材のランアウトテーブル内における徐冷温度履歴を計測により求め、前記計測により求めた徐冷温度履歴を用いて前記徐冷履歴と材質の間の相関データを参照し、該当する材質のデータから前記鋼材の材質分布を推定することを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理方法。
  9. 請求項8に記載の熱間圧延鋼板の材質管理方法であって、
    前記経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データは、前記仕上圧延機の最終スタンドで圧延された後の鋼鈑について求めたものであることを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理方法。
  10. 請求項8または請求項9に記載の熱間圧延鋼板の材質管理方法であって、
    前記経験的に求めた徐冷履歴と材質の間の相関データは、徐冷履歴の情報として徐冷開始温度と、徐冷時間を含み、前記計測により求めた徐冷温度履歴は、前記徐冷開始温度と、徐冷時間を含んでいることを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理方法。
  11. 請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の材質管理方法であって、
    前記計測により求めた徐冷温度履歴は、前記ランアウトテーブル内の徐冷区間で計測された鋼板の温度と、鋼板速度と、ランアウトテーブル内における冷却ノズルの開度データと、温度計の配置データを用いて、徐冷時間と徐冷開始温度を算出することを特徴とする熱間圧延鋼板の材質管理方法。
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