本開示の詳細な説明
本開示は、特に、例えば、内因性FAM60A遺伝子を欠失させることにより、またはコード配列中に変異を導入することにより、例えば、真核細胞中での前記遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、FAM60Aタンパク質の効果が減弱された真核細胞が、安定的トランスフェクションの際に、有意に改善された安定性特徴を有する目的の組換え産物を発現することができるという驚くべき知見に基づくものである。哺乳動物細胞に関する実施例により示されるように、それぞれ、変化した細胞は、驚くべきことに、長期培養時間の間非常に安定な発現特徴を示し、それによって、安定なクローンを同定するための時間消費的な安定性分析を短縮するか、または省略することさえできる。うまくトランスフェクトされた宿主細胞の集団において、長期培養期間中にその好ましい発現特徴を失う宿主細胞の数は、それぞれ変化した真核細胞を用いた場合、有意に減少する。したがって、その好ましい安定性特徴のため、これらの変化した真核細胞は、組換え生産技術のための宿主細胞として特に好適であり、目的の生成物の組換え生産のために用いることができる。FAM60A遺伝子が真核宿主細胞中での組換え発現安定性に対する強い影響を有するというこの驚くべき知見に基づいて、本開示はまた、目的の生成物の組換え生産を改善することができる新規の選択および生産方法ならびに関連技術も提供する。したがって、本開示は、先行技術に対して大きく寄与する。
個々の態様およびその好適な、好ましい実施形態を、ここで詳細に説明する。
A.改変された真核細胞
第1の態様によれば、本開示は、FAM60Aタンパク質の効果が真核細胞中で減弱されるように前記細胞のゲノムが変化し、前記細胞がそのゲノム中に組み込まれた、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、単離された真核細胞を提供する。実施例に示されるように、これらの変化した細胞は、FAM60Aの効果が減弱されていない非改変細胞と比較して、目的の生成物の有意により高い生産安定性を示す。安定な発現特徴を示す細胞の存在量は、哺乳動物細胞を真核細胞として用いる好ましい実施形態について示されたトランスフェクトされた細胞の集団において増加する。この改善された発現安定性は、高発現細胞クローンの時間消費的な長期安定性研究を短縮するか、または省略することさえできる。さらなる利点も以下に記載され、また、実施例からも明らかである。したがって、目的の生成物の組換え生産のためのこれらの有利な新規真核細胞株の使用は、安定な発現特徴を有する高発現細胞または細胞クローンを同定するためのスクリーニング労力を軽減し、特に、大規模に目的の生成物を生産するのに好適な安定な細胞クローンを取得するのに必要とされる時間を減少させる。したがって、これらの変化した真核細胞株は、組換え生産技術のための宿主細胞として用いられる場合に重要な利点を有する。
FAM60Aは、転写抑制において機能する、SIN3−ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)複合体(SIN3/HDAC複合体)のサブユニットである(Munoz et al., 2012, THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 287, NO. 39, pp. 32346-32353;Smith et al., 2012, Mol Cell Proteomics 11 (12): 1815-1828)。ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、ヒストンからのアセチル基の除去を触媒する。リシン上でのヒストンのアセチル化は、クロマチンコンフォメーションを調節するための主要な機構である。ヒストンアセチル化は、弛緩した、転写的に活性なクロマチン状態を促進するが、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)により触媒されるデアセチル化は、サイレントな、不活性状態を好む。データベース分析により、多くの後生動物において少なくとも1つのFAM60Aオルソログの存在が示されたが、線形動物では示されなかった。FAM60A遺伝子は、後生動物において保存されており、完全に配列決定されている全ての脊椎動物および多くの無脊椎動物のゲノムにおいて見出すことができる。例えば、FAM60Aタンパク質の100%の配列同一性は、ヒト、ラット、マウスおよびウシの間で見出すことができる。FAM60Aホモログの配列類似性研究は、主に、ゲノム中にこのファミリーの単一の代表メンバーのみが存在することを示している。ごくわずかな例外が存在する。Smith et al, 2012によれば、FAM60Aタンパク質は、任意の公知のタンパク質ドメインを欠く独特の配列を有する。さらに、それがヒトプロテオーム中の他の公知のタンパク質に対する配列相同性を示さないことがSmith et al 2012により記載された。異なる種に由来するFAM60Aタンパク質間での配列比較により、FAM60Aタンパク質が一般に、3つの領域:(1)全ての後生動物において高度に保存されたセグメントを含むN末端、(2)脊椎動物間では高度に保存されているが、無脊椎動物においては、可変長の非保存スペーサーからなる、中央領域、(3)全ての後生動物において高度に保存されたセグメントを含むC末端を含むことが示された。したがって、最も高い保存は、FAM60AのNおよびC末端領域において観察された。
上記のように、研究は、FAM60Aが、特に、哺乳動物細胞などの様々な真核細胞型においてSIN3/HDAC複合体と会合することを示している。しかしながら、現在まで、FAM60Aに関する機能情報は、全く限られている。最近の機能研究(Smith et al, 2012を参照されたい)は、FAM60Aが遺伝子発現を抑制することができ、遺伝子の特定のサブセットを調節することを示している。Smith et al 2012は、がんの進行、転移、細胞移動および免疫学的監視のようなプロセスにおいて極めて重要な役割を果たす、TGF−ベータシグナリング経路の調節におけるFAM60Aの役割を報告している。FAM60AがTGF−ベータシグナリング経路の成分の転写リプレッサーとして作用するが、このFAM60Aの機能はSIN3−HDAC複合体におけるその役割により許容されると考えられることを示す知見がある。FAM60Aに対するsiRNAを用いた異なるがん細胞株におけるFAM60Aの枯渇は、通常のがん細胞形態の変化をもたらした。さらに、FAM60Aタンパク質レベルがU2OS細胞中での細胞周期の経過内で定期的に変化することがわかった(Munoz et al, 2012)。U2OSヒト骨肉腫細胞中でのFAM60A siRNAを用いるFAM60Aノックダウン実験により、FAM60AがサイクリンD1遺伝子発現を抑制することが示された。この科学的バックグラウンドに対して、好ましくは、哺乳動物細胞などの真核細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させることが、組換え発現にとって重要である細胞の他の特徴に負に影響することなく、前記細胞中での異種遺伝子発現の安定性を有意に増大させることを見出すことは非常に驚くべきことであった。FAM60Aタンパク質の効果と、細胞の長期培養の間の発現安定性とのこの相関は予想外のものであった。
記載のように、FAM60A遺伝子は、後生動物、したがって、ヒト、マウス、ラットおよびハムスターなどの哺乳動物種において内因的に発現され、FAM60Aのアミノ酸配列は、哺乳動物種ならびに脊椎動物において高度に保存されている。第1の態様による変化した真核細胞は、FAM60Aを内因的に発現する真核細胞から誘導される。簡潔にするために、FAM60Aタンパク質ならびにFAM60Aタンパク質をコードするFAM60A遺伝子は、本明細書では、いくつかの種において、異なるつづりが遺伝子および/またはタンパク質のために用いられる場合であっても大文字でつづられる。配列表は、異なる脊椎動物種、すなわち、ヒト(Homo sapiens)(配列番号1)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)(配列番号2)、ハツカネズミ(Mus musculus)(配列番号3)、モンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus griseus)(配列番号4)、セキショクヤケイ(Gallus gallus)(配列番号5)、チンパンジー(Pan troglodytes)(配列番号6)、スマトラオランウータン(Pongo abelii)(配列番号7)およびウシ(Bos taurus)(配列番号8)の既知の、および/または予測されるFAM60Aタンパク質の例示的アミノ酸配列を示す。モンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus griseus)の予測されるFAM60A cDNAを、配列番号9(14〜679のコード配列;NCBI Reference Sequence:XM_003505482.1も参照されたい)に示す。異なる種におけるFAM60Aタンパク質またはFAM60A遺伝子について、異なる名称を割り当てることができ、非限定的代替名(別名)も上記の表1に列挙する。本明細書で用いられる用語「FAM60A」はまた、FAM60Aと同じ機能を有するFAM60Aの任意のホモログおよびオルソログを包含する。一実施形態によれば、本明細書で用いられる用語「FAM60A」は、特に、配列番号1〜8に示されるアミノ酸配列の1つまたは複数に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の相同性を有するタンパク質を指す。一実施形態によれば、上記のパーセンテージ値は、相同性の代わりにポリペプチド同一性を指す。相同性、それぞれ、同一性は、参照タンパク質の全長にわたって算出することができる。それぞれのタンパク質は、好ましくは、配列番号1または配列番号2〜8の1つもしくは複数、好ましくは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質と同じ機能を有する。FAM60Aタンパク質は、文献中には詳細に記載されていない。したがって、例えば、宿主細胞中でのFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成することができるように、前記細胞のゲノムを、内因性FAM60Aタンパク質の効果が細胞中で減弱されるように変化させる場合、組換え宿主細胞の発現安定性を改善することができることは非常に驚くべきことであった。FAM60Aが目的の組換え産物の発現安定性に影響することは予想外であった。
FAM60Aタンパク質をコードするFAM60A遺伝子を、本明細書に記載のように改変して、細胞中でのFAM60Aの効果を減弱させることができる。これは、遺伝子ノックアウト技術などの遺伝子工学技術により達成することができる。異なる哺乳動物種のゲノム遺伝子配列は公知であり、例えば、ヒト(Homo sapiens)(NCBI Gene−ID:58516);ドブネズミ(Rattus norvegicus)(NCBI Gene−ID:686611);ハツカネズミ(Mus musculus)(NCBI Gene−ID:56306);ウシ(Bos Taurus)(NCBI Gene−ID:538649)その他に記載されている。転写物変異体が、種依存的様式で、異なる数で存在してもよい。例えば、ヒトFAM60A遺伝子は、UTRにおいて異なるが、同じタンパク質をコードする3つの推定転写物アイソフォームを発現する。
本開示は、特に、対応する非改変真核細胞により内因的に発現されるFAM60Aタンパク質の効果が減弱されるように真核細胞のゲノムが変化している、好ましくは、哺乳動物細胞などの改変真核細胞に関する。この改変は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを安定にトランスフェクトされた細胞集団中の安定に発現する細胞の数を増大させる。
前記細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させるように細胞のゲノムを改変するいくらかの可能性がある。FAM60Aの効果は、例えば、遺伝子レベルまたはタンパク質レベルで減弱させることができる。FAM60Aの効果は、例えば、構造/配列、転写、翻訳の改変および/またはSIN3/HDAC複合体を形成する他の成分との相互作用により減弱させることができる。非限定的選択肢を以下に記載する。
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するため、FAM60Aタンパク質の効果は減弱される。実施例により示されるように、例えば、遺伝子ノックアウトによる、または発現レベルを低下させることによる、FAM60A遺伝子の発現の変化は、改善された安定性特徴を有する目的の組換え産物を発現する変化した細胞を提供するための非常に効率的な尺度である。
FAM60A遺伝子の機能的発現の低下または消失を、様々な手段によって達成することができる。例えば、FAM60Aの発現レベルを低下させることにより、またはFAM60Aの機能を破壊することにより、またはそのような方法の組合せにより、機能的発現を低下させることができる。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の機能的発現が、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異、遺伝子欠失、遺伝子サイレンシングまたは前記のいずれかの組合せにより低下するか、または消失するように、細胞を変化させる。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の機能的発現は、遺伝子ノックアウトにより細胞中で低下するか、または消失する。遺伝子ノックアウトは、遺伝子がその機能を破壊することにより動作不能にされる遺伝子技術である。例えば、核酸をコード配列中に挿入し、それによって、遺伝子機能を破壊することができる。さらに、完全なFAM60A遺伝子またはその一部を欠失させることができ、それによって、それぞれ変化した細胞によってタンパク質が発現されないか、または機能的なタンパク質が発現されない。別の選択肢は、1つまたは複数のノックアウト変異をコード配列中に導入し、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物にすることである。例えば、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物をもたらす1つまたは複数のフレームシフト変異を、コード配列中に導入することができる。あるいは、またはさらに、トランケートされた、非機能的な、またはあまり機能的でないタンパク質が得られるように、1つまたは複数の停止コドンをコード配列中に導入することができる。さらに、スプライシング部位を変化させてもよい。したがって、一実施形態によれば、FAM60A遺伝子は、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物を提供する1つまたは複数の変異を含む。一実施形態によれば、1つまたは複数の変異は、FAM60A遺伝子のエクソン1に導入される。一実施形態によれば、導入される1つまたは複数の変異のため、FAM60AのN末端またはC末端領域の全部または一部は、発現産物中に存在しない。他の選択肢としては、これらに限定されるものではないが、プロモーター、5’および/もしくは3’UTRまたは他の調節エレメント中の1つまたは複数の変異が挙げられる。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子のプロモーター機能を、例えば、プロモーター欠失を導入することにより、またはプロモーターと転写開始との間に構築物を導入することにより破壊する。標的遺伝子の発現を抑制するか、または消失させるための遺伝子ノックアウトを達成するための方法も当業者には周知であり、したがって、本明細書では詳細な説明を必要としない。そうは言うものの、いくつかの非限定例を以下に記載する。
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子は、遺伝子工学により機能的にノックアウトされる。例としては、これに限定されるものではないが、工学的に操作されたヌクレアーゼを用いるゲノム編集(GEEN)などの、ゲノム編集が挙げられる。これは、DNAを、人工的に操作されたヌクレアーゼ、または「分子ハサミ」を用いてゲノムに挿入する、置きかえる、またはそれから除去する一種の遺伝子工学的操作である。ヌクレアーゼは、ゲノム中の所望の位置に特異的二本鎖切断(DSB)を作出し、相同組換え(HR)および非相同末端結合(NHEJ)の天然プロセスにより誘導された切断を修復するための細胞の内因性機構を抑制する。用いることができる工学的に操作されたヌクレアーゼの少なくとも4つのファミリーが存在する:ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR、および工学的に操作されたメガヌクレアーゼ再操作ホーミングエンドヌクレアーゼ。また、実施例でTALEN技術を用いて、FAM60A遺伝子がノックアウトされ、それによって、前記細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させた、変化した哺乳動物細胞を提供した。
一実施形態によれば、少なくとも1コピー、場合により、より多いコピーのFAM60A遺伝子が真核細胞のゲノム中に存在する場合、全コピーを変化させる、例えば、ノックアウトする、欠失させる、またはさもなければ作動不能にして、真核細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を低下させるか、または消失させ、したがって、減弱させる。したがって、一実施形態によれば、少なくとも1コピーのFAM60A遺伝子を、真核細胞のゲノム中で欠失させるか、または機能的に不活化する。例えば、1つまたは複数の変異を、1または複数のコピーのFAM60A遺伝子中に挿入して、非機能的な、もしくはあまり機能的でない発現産物を提供するか、または全体として発現を消失させるか、もしくは低下させ、したがって、真核細胞中でのFAM60Aの効果を減弱させることができる。それによって、FAM60A遺伝子は、ゲノム中で基本的に不活化される。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の全コピーを、好ましくは、哺乳動物細胞である、真核細胞中でそれぞれ変化させる。
一実施形態によれば、真核細胞は、後生動物細胞、脊椎動物細胞または好ましくは、哺乳動物細胞である。一実施形態によれば、染色体の一部を前記細胞中で欠失させ、ここで、欠失した部分はFAM60A遺伝子を含む。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子を含む染色体部分は、1より多いコピーが存在する場合、FAM60A遺伝子のコピーを含む全ての染色体中で欠失させる。それにより、FAM60A遺伝子の全コピーを、ゲノムから欠失させる。
一実施形態によれば、染色体のテロメア領域の一部を欠失させ、ここで、欠失した部分はFAM60A遺伝子を含む。好ましい実施形態によれば、変化した細胞はげっ歯類細胞である。一実施形態によれば、細胞は、例えば、CHO細胞などのハムスター細胞であり、第8染色体のテロメア領域の少なくとも一部がゲノム中で欠失し、前記欠失した部分はFAM60A遺伝子を含む。用語「FAM60A」の意味は、上記で説明されており、前記用語の範囲により包含されるホモログおよびオルソログの非限定的代替名も表1に示される。一実施形態によれば、そのような欠失は、FAM60A遺伝子を含むハムスター細胞、特に、チャイニーズハムスター細胞の第8染色体のq腕中に存在する。実施例により示されるように、第8染色体のテロメア領域中にそれぞれの欠失を含むCHO細胞は、組換え発現のための宿主細胞として特に好適である。発現ベクターによる安定的トランスフェクションの後、これらの細胞は、第8染色体のテロメア領域の前記部分が失われていない細胞と比較して有意により高い発現安定性および生産性を示す。さらに、トランスフェクトされた細胞集団中の安定に発現する細胞の存在量およびしたがって、割合は、有意に増大する。長期培養中の力価の有意な喪失は稀に観察される。したがって、組換え発現の安定性は、第8染色体中のテロメア領域の前記部分を失ったそのようなハムスター細胞中で有意に増大する。さらなる重要な利点は、第8染色体のテロメア領域のそれぞれの部分が染色体切断のため欠失したCHO細胞がさらに特徴付けられる実施例に詳細に記載される。有利な特性は、これらのハムスター細胞を、工業生産細胞株として特に好適なものにする。あるいは、変化したげっ歯類細胞は、第6染色体のテロメア領域の少なくとも一部がゲノム中で欠失され、前記欠失した部分がFAM60A遺伝子を含む、マウス細胞であってもよい。マウスの第6染色体のテロメア領域は、ハムスターの第8染色体のテロメア領域と高度に類似する。
一実施形態によれば、テロメア領域の少なくとも一部は、欠失されるか、またはハムスターの第8染色体対の両染色体(またはマウス細胞の場合、第6染色体対)中に存在せず、ここで、欠失した部分はFAM60A遺伝子を含む。
一実施形態によれば、テロメア領域の少なくとも一部は、ハムスターの第8染色体対(またはマウスの場合、第6染色体対)の一方の染色体中で欠失され、ここで、前記欠失部分はFAM60A遺伝子を含み、他方の染色体中でのFAM60A遺伝子の発現は、さらなるコピーが存在する場合、低下するか、または消失する。遺伝子の発現を低下させるか、または消失させるための好適な方法は当業者には公知であり、非限定例も本明細書に記載される。一実施形態によれば、そのような欠失は、ハムスター、特に、チャイニーズハムスターの第8染色体のq腕中に存在する。
一実施形態によれば、欠失した染色体領域は、FAM60A遺伝子を含み、さらに、Bicd1、C12orf35、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、Caprin2およびIpo8からなる群から選択される1つもしくは複数または全部の遺伝子を含む。一実施形態によれば、上記の遺伝子の全部を欠失させる。一実施形態によれば、欠失した染色体領域は、Tmtc1遺伝子の少なくとも一部または全部をさらに含む。CHO細胞などのハムスター細胞中では、これらの遺伝子は、第8染色体のテロメア領域中に位置し得る。一実施形態によれば、欠失した染色体領域は、存在する場合、RPS4Y2遺伝子をさらに含む。上記の遺伝子の位置が示される、チャイニーズハムスターゲノムの第8染色体のテロメア領域上の概観を、図1として提供する。実施例により示されるように、第8染色体(q腕)のテロメア領域中にそれぞれの欠失を含むCHO細胞は、発現収率および発現安定性に関して特に有利な特性を有する。マウス細胞中では、上記の遺伝子は、第6染色体のテロメア領域中に位置する。上記の個々の遺伝子ならびに/またはオルソログおよびホモログを含むコードされるタンパク質の非限定的代替名も、上記の表1に示され、それぞれの遺伝子は個々の遺伝子について上記で用いられた用語の範囲によって包含される。
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の欠失は、染色体切断に起因するものである。染色体切断は、例えば、真核細胞を、例えば、MTX、アフィジコリンまたはハイグロマイシンなどの、染色体切断を促進する毒性薬剤で処理することにより誘導することができる。染色体切断を誘導するための他の選択肢としては、これらに限定されるものではないが、放射線、放射、変異原、発がん性物質およびブレオマイシンが挙げられる。染色体切断はまた、トランスフェクション、例えば、エレクトロポレーションの間に自発的に起こってもよい。染色体切断を誘導するための方法も当業者には公知であり、したがって、ここで詳細な説明を必要としない。染色体切断を誘導した後、所望の切断点(FAM60A遺伝子の欠失をもたらす)を有する細胞を、例えば、DNAを分析することにより、または本開示の第5の態様による方法を用いることにより同定することができる。例えば、処理された細胞の発現プロファイルを分析して、FAM60A遺伝子もしくはFAM60A遺伝子のセントロメアに位置する遺伝子が発現されるかどうか、その発現が低下するかどうか、または遺伝子が発現されないかどうかを決定することができる。例えば、マウスまたはハムスター細胞の場合、FAM60A遺伝子が発現されるかどうかを分析することができる、あるいは、またはそれに加えて、Bicd1、C12orf35、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、Caprin2、Ipo8、Tmtc1もしくは上記の遺伝子のテロメアに位置する遺伝子(ここで、これに関するテロメアはテロメア末端の方向にあることを意味する)からなる群から選択される1つもしくは複数の遺伝子が細胞により発現されるかどうか、ならびに/または発現が低下するか、もしくは消失するかどうかを分析することができる。誘導される切断点がそれぞれの遺伝子のセントロメアに位置する場合(ここで、これに関するセントロメアはさらに染色体中にあることを意味し、したがって、テロメア末端からさらに遠くにあることを意味する)、その発現を消失させるか、または低下させる前記遺伝子を含むテロメア末端を欠失させる(発現される遺伝子の他のコピーが他の場所に存在する場合)。図1から明らかであるように、FAM60A遺伝子は上記遺伝子Caprin2、Ipo8およびTmtc1のテロメアに位置する、すなわち、それは、テロメア末端の方向中にさらに位置する。したがって、上記の遺伝子が染色体切断により欠失される場合、欠失した領域もまたFAM60A遺伝子を含む。したがって、誘導された染色体切断が、FAM60A遺伝子を含む染色体部分の欠失をもたらしたかどうかを基本的には間接的に決定するために、上記の遺伝子をマーカーとして正当に用いることができる。さらに、FAM60A遺伝子のテロメアに位置する場合であっても、Bicd1またはC12orf35などの他の遺伝子をマーカーとして用いて、FAM60A遺伝子の欠失をもたらす染色体切断が誘導されたかどうかを決定することもできることが見出された。例えば、Bicd1またはC12orf35遺伝子が染色体切断のため欠失される場合、欠失は通常、FAM60A遺伝子も含むことがCHO細胞中で見出された。上記の遺伝子をマーカーとして正当に用いて、高く安定な発現特徴を示す細胞クローンと、低く不安定な発現特徴を有する細胞クローンとを識別することができることが、数百個のクローンの発現特徴を分析することにより確認された。CHO細胞中での上記遺伝子の相対的発現を、図2に示す。図2から見られるように、Ipo8(3)、FAM60A(5)およびC12orf35(9)遺伝子は、第8染色体のテロメア領域中に欠失を含まない正常なCHO−K1細胞中の第8染色体のテロメア領域中に位置する他の遺伝子と比較して相対的に高く発現される。したがって、分析に上記遺伝子の1つまたは複数を含めることは有利であり、これはその発現が消失するか、または低下することの検出を単純化するためである。上記の個々の遺伝子ならびにホモログおよびオルソログを含むコードされるタンパク質の非限定的代替名も上記の表1に示され、それぞれの遺伝子は個々の遺伝子について上記で用いられた用語の範囲によって包含される。
一実施形態によれば、第8染色体上の切断点は、FAM60A遺伝子のセントロメア、Caprin2遺伝子のセントロメア、Ipo8遺伝子のセントロメアまたはRPS4Y2遺伝子のセントロメアに位置する。ハムスターゲノムの第8染色体上の切断点は、Ipo8遺伝子のセントロメアに位置することが多いことが見出された。一実施形態によれば、第8染色体上の切断点は、Tmtc1遺伝子内に位置し、前記遺伝子は発現されないか、またはその発現は低い。一実施形態によれば、Tmtc1遺伝子のセントロメアに位置するErgic2遺伝子は、第8染色体上で欠失されない。したがって、この実施形態によれば、切断点は、Ergic2遺伝子のテロメア(ここで、これに関するテロメアはテロメア末端の方向の下流にあることを意味する)にあり、Ergic2遺伝子が存在する。
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するように、細胞のゲノムを変化させる。様々な手段により、例えば、少ない転写物が生産されるか、もしくは転写物が生産されないようにFAM60A遺伝子のプロモーターおよび/もしくはエンハンサーを変化させることにより、または転写もしくは転写後遺伝子サイレンシングなどの遺伝子サイレンシング技術により、FAM60A遺伝子の機能的発現に影響を及ぼすことができる。一実施形態によれば、単離された真核細胞は、FAM60A遺伝子のプロモーター領域中に1つまたは複数の変異を含む。例えば、プロモーター領域を変化させて、あまり機能的でないか、または非機能的なプロモーターを提供することができ、プロモーターを完全に消失させることもできる。あるいは、またはさらに、FAM60Aの代わりに他のポリペプチドの発現をもたらす、FAM60A遺伝子のプロモーターと、開始コドンとの間に停止コドンを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を付加することができる。それぞれの方法は当業者には周知であり、したがって、ここでは詳細な説明を必要としない。
機能的遺伝子発現の低下は、発現がさらに消失するレベルを達成してもよい。転写後遺伝子サイレンシングを、例えば、アンチセンス分子またはRNA干渉を媒介する分子により達成することができる。非限定例を、以下に簡単に記載する。
アンチセンスポリヌクレオチドを、RNAに特異的に結合するように設計し、逆転写またはメッセンジャーRNA翻訳の停止により、RNA−DNAまたはRNA−RNAハイブリッドの形成をもたらすことができる。多くの形態のアンチセンスが開発されており、酵素依存的アンチセンスまたは立体遮断的アンチセンスに広く分類することができる。酵素依存的アンチセンスは、一本鎖DNA、RNA、およびホスホロチオエートアンチセンスを含む、標的mRNAを分解するためにRNaseH活性に依存する形態を含む。アンチセンスポリヌクレオチドは、典型的には、転写される鎖としてアンチセンス鎖を含有するアンチセンス構築物からの発現により細胞内で生成される。Trans切断性触媒RNA(リボザイム)は、エンドリボヌクレアーゼ活性を有するRNA分子である。リボザイムを、特定の標的のために特異的に設計し、工学的に操作して、細胞性RNAのバックグラウンドにおいて部位特異的に任意のRNA種を切断することができる。切断事象は、mRNAを不安定にし、タンパク質発現を防止する。それぞれのアンチセンス分子が、例えば、永続的に発現されるように、真核細胞のゲノムを変化させることができる。
転写後レベルでFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるための別の好適な選択肢は、RNA干渉(RNAi)に基づくものである。RNAiにより遺伝子をサイレンシングするための方法は、当業者には周知であり、したがって、ここでは詳細な説明を必要としない。siRNA化合物のいくつかの実施形態および変形形態が先行技術において公知であり、FAM60A遺伝子の発現を低下させるために用いることができる。RNAレベルで標的遺伝子の選択/同定された標的配列を標的化する好適なsiRNAは、ある特定の設計アルゴリズムを適用する、適切な計算方法により同定することができる。一実施形態によれば、真核細胞中に安定にトランスフェクトされ、したがって、真核細胞のゲノム中に組み込まれるベクターにより、RNAi誘導化合物を発現させる。siRNAについては、これは、例えば、2つの鎖の間のループの導入により行うことができ、したがって、単一の転写物を生産し、次いで、真核細胞中で機能的なsiRNAにプロセシングすることができる。そのような転写カセットは、典型的には、通常、小さい核RNA(shRNA)の転写を指令するRNAポリメラーゼIIIプロモーター(例えば、U6またはH1)を用いる。次いで、ベクターからの得られるshRNA転写物はダイサーによってプロセシングされ、それによって、好ましくは、特徴的な3’突出部を有する二本鎖siRNA分子を生産すると推測される。一実施形態によれば、そのようなshRNAを提供するベクターは、真核細胞のゲノム中に安定に組み込まれる。この実施形態は、FAM60A遺伝子の下方調節が、定常的に生産されるsiRNAに起因して、安定であり、一過的ではなく、したがって、発現安定性が改善された哺乳動物宿主細胞を提供するために実現可能であるため、有利である。次いで、それぞれのshRNAを提供するベクターを含む細胞に、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをトランスフェクトすることができる。あるいは、shRNAを生成するベクターを、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターと共に同時トランスフェクトする、同時トランスフェクション戦略を用いることができる。
転写遺伝子サイレンシングは、例えば、エピジェネティック改変を含んでもよい。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の機能的発現は、エピジェネティックサイレンシングによって低下させる。さらに、FAM60A遺伝子の配列を変化させて、FAM60A mRNAの半減期を減少させることができる。それにより、細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果の低下も達成する少ないFAM60Aタンパク質が得られる。
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の機能的発現を、FAM60A遺伝子の発現の調節に関与する調節エレメントを標的化することにより低下させるか、または消失させる。例えば、転写因子、プロモーター(上記も参照されたい)、エンハンサー、UTR、または他の調節エレメントを、例えば、ノックアウト、欠失、下方調節または前記調節エレメントの活性を不活化するか、もしくは低下させる他の任意の変化により標的化することによって、FAM60A遺伝子の機能的発現を防止するか、または低下させ、それによって、前記細胞中の内因性FAM60Aの効果を減弱させることができる。
一実施形態によれば、真核細胞のゲノムを変化させて、内因的に発現されるFAM60Aタンパク質よりも非機能的であるか、またはあまり機能的でないFAM60A変異体の異種発現によりFAM60Aの効果を減弱させる。この実施形態においては、単離された真核細胞は、目的のポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドに加えて、FAM60A変異体をコードするさらなる異種ポリヌクレオチドを含む。それぞれの非機能的な、またはあまり機能的でない変異形態のFAM60Aを過剰発現させることにより、ドミナントネガティブ表現型を作出することができる。細胞中でのFAM60Aの効果を減弱させ、したがって、低下させるためのさらなる選択肢は、FAM60Aを中和し、したがって、細胞中でのFAM60Aの効果を減弱させる抗体などのタンパク質の異種発現である。一実施形態によれば、FAM60Aと機能的に相互作用する分子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、例えば、SIN3/HDAC複合体の1つまたは複数のメンバーの機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、細胞中でのFAM60Aの効果を減弱させる。FAM60Aがその生物学的効果を発揮することができるように必要とされるFAM60Aの1つまたは複数の相互作用パートナーは、その機能的発現が低下したか、または消失したため、機能的形態で存在しないため、そのような実施形態も、FAM60Aの効果を減弱させる。
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の発現は、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも75倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍または少なくとも125倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、少なくとも750倍、少なくとも1000倍、少なくとも1250倍、少なくとも1500倍、少なくとも1750倍、少なくとも2000倍、少なくとも2500倍、少なくとも3000倍または少なくとも3500倍低下する。発現は、例えば、リアルタイムRT−PCRまたは他の高感度RNA検出法を用いることにより決定することができる。そのような低下は、例えば、内因性FAM60A遺伝子の発現が低下していない非改変参照細胞と比較して達成することができる。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、0.01%以下、0.005%以下または0.0025%以下である。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して、0.001%以下、0.0005%以下またはさらには0.0002以下など、さらに低い。
一実施形態によれば、好ましくは、哺乳動物細胞である、単離された真核細胞は、FAM60Aタンパク質の効果が真核細胞中で減弱されるように変化された前記細胞の集団を起源とし、前記細胞はそのゲノム中に安定に組み込まれた、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含み、前記集団を起源とする細胞の平均で少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%が、少なくとも8週間、好ましくは10週間、より好ましくは12週間の期間にわたって目的の生成物の発現力価の30%超、好ましくは25%超を失わない。実施例に示されるように、安定にトランスフェクトされた細胞のトランスフェクションおよび同定の後、長期培養中に生産性の徐々の喪失を示さない細胞の量は、本明細書に記載の変化した細胞を用いた場合に増加する、すなわち、より安定な細胞クローンが選択された細胞集団から得られる。安定性特徴を、細胞クローンとして前記集団に由来する個々の細胞を培養し、示された期間にわたって力価を決定することにより試験することができる。安定性は、例えば、実施例に記載のアッセイを用いて試験することができる。上記で説明された通り、安定率は、発現されるタンパク質およびそれが、例えば、コドン最適化されているかどうかに応じてプロジェクト間で変化してもよい。しかしながら、本開示による変化した真核細胞に関して、分析される全てのプロジェクトにおいて、非改変野生型細胞と比較して、安定に発現するクローンの有意な増加が観察された。目的の生成物を安定に発現する細胞クローンのパーセンテージは、ある特定のプロジェクトにおいては80%であり、または8〜12週の範囲の期間にわたる長期培養中に分析されたクローンにおいてはさらにより高かった。したがって、安定発現特徴を有する細胞の存在量は、うまくトランスフェクトされた宿主細胞の集団において有意に増加した。したがって、長期培養中に生産性を徐々に失う不安定なクローンが、大規模生産のために選択される危険性は、本開示の教示に従えば有意に低下する。この重要な利点により、不安定なクローンを消失させるために長期安定性分析を有意に軽減するか、またはさらには完全に省略することができる。
一実施形態によれば、さらに、Bicd1、C12orf35、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、Fam60a、Caprin2、Ipo8、RPS4Y2およびTmtc1からなる群から選択される1つもしくは複数の遺伝子または上記の遺伝子のテロメアに位置する1つもしくは複数の遺伝子の発現産物の効果が減弱される。上記の個々の遺伝子ならびに/またはホモログおよびオルソログを含む、コードされるタンパク質の非限定的な代替名も、上記の表1に示され、それぞれのタンパク質をコードするそれぞれの遺伝子は、個々の遺伝子または前記遺伝子によりコードされるタンパク質について上記で用いられた用語の範囲によって包含される。同様に、効果の減弱は、例えば、それぞれの遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成することができる。好適な技術および実施形態は、FAM60A遺伝子と共に上記されており、同様に他の任意の標的遺伝子に適用される。上記のように、前記遺伝子は、チャイニーズハムスターの第8染色体およびマウスの第6染色体のテロメア領域に位置する。前記テロメア領域の一部が、例えば、上記の染色体切断を誘導することによって欠失された場合、欠失した領域は通常、上記遺伝子の1つまたは複数を含む。
好ましい実施形態によれば、FAM60Aタンパク質の効果が減弱された前記細胞中で、さらに、好ましくはC12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が前記細胞中で減弱される。さらなる予想外の知見は、例えば、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることによる、真核細胞中での前記内因性遺伝子の発現産物の効果の減弱が、目的の組換え産物の発現の有意な増加をもたらすということであった。したがって、組換え発現に影響するさらなる鍵となる遺伝子が同定された。真核細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱は、実施例により証明されるように、発現収率を有意に増大させる。したがって、発現安定性および収率に関して改善された特徴を示し、したがって、目的の組換え産物の生産のための特に有利な特性を示す宿主細胞が提供されるため、FAM60AおよびC12orf35の効果の減弱は特に有利である。記載のように、宿主細胞は、好ましくは哺乳動物細胞である。
C12orf35遺伝子は、例えば、ヒト、マウスおよびハムスターなどの哺乳動物種などの真核細胞中で内因的に発現される。C12orf35遺伝子の発現産物は、むしろ大きいタンパク質である。配列表は、ハムスター(配列番号10および11)、ヒト(配列番号12および13)、マウス(配列番号14)、ウシ(配列番号15)ならびにイノシシ(配列番号16)などの異なる哺乳動物種の内因性C12orf35遺伝子によりコードされるタンパク質の例示的なアミノ酸配列または推定アミノ酸配列を示す。チャイニーズハムスターに由来するC12orf35のCDS(コードDNA配列)を、配列番号17に示す。さらに、チャイニーズハムスターに由来するC12orf35 mRNAの5’UTR(配列番号18を参照されたい)および3’UTR(配列番号19を参照されたい)の部分を配列決定した。C12orf35遺伝子は、ハムスターにおいてはC12orf35likeもしくはC12orf35ホモログまたはマウスにおいては2810474O19Rikとも称される。遺伝子、コード配列および予測されるC12orf35タンパク質に関する情報も、参照により本明細書に組み込まれる、NCBI:XM_003512865においてモンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus griseus)について開示されている。ヒトにおいては、それはKIAA1551とも称される。タンパク質または遺伝子について異なる種において異なる名称を割り当てることができ、非限定的な代替名(別名)も上記の表1に列挙されている。したがって、本明細書で用いられる用語「C12orf35遺伝子」は、特に、配列番号10〜16に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号17によりコードされるタンパク質に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を有するタンパク質をコードする任意の内因性遺伝子を包含する。そのような遺伝子によりコードされるタンパク質は、好ましくは、配列番号10もしくは配列番号11〜16の1つもしくは複数に示されるようなアミノ酸配列を有するタンパク質または配列番号17によりコードされるタンパク質と同じ機能を有する。前記遺伝子を本明細書に記載のように改変して、非改変細胞により発現される発現産物の機能を減弱させることができる。C12orf35遺伝子により発現されるタンパク質は、文献には詳細に記載されていない。本明細書で用いられる用語「C12orf35タンパク質」または「内因性C12orf35遺伝子の発現産物」および同様の表現は、特に、配列番号10〜16に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号17によりコードされるタンパク質に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を有する任意のタンパク質を包含する。相同性、それぞれ、同一性を、参照タンパク質の全長にわたって算出することができる。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも75倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍または少なくとも125倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、少なくとも750倍、少なくとも1000倍、少なくとも1250倍、少なくとも1500倍、少なくとも1750倍、または少なくとも2000倍低下する。これは、例えば、リアルタイムRT−PCRまたは他の高感度RNA検出法を用いることにより決定することができる。そのような低下は、例えば、内因性C12orf35遺伝子の発現が低下しない非改変参照細胞と比較して達成することができる。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して0.05%以下、0.0475%以下、0.045%以下、0.0425%以下、0.04%以下、0.0375%以下、0.035%以下、0.0325%以下、0.03%以下、0.0275%以下、0.025%以下、0.0225%以下、0.02%以下、0.0175%以下、0.015%以下である。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して、0.001%以下、0.0001%以下またはさらには0.00001%以下など、さらに低い。C12orf35遺伝子の機能的発現は、C12orf35遺伝子の機能的発現が低下せず、消失していない対応する細胞と比較して、前記改変された真核細胞が目的の生成物をコードする発現ベクターをトランスフェクトされた場合、目的の組換え産物の発現の増加をもたらすように低下する。一実施形態によれば、目的の組換え産物の発現は、C12orf35遺伝子の機能的発現が低下せず、消失していない対応する細胞の発現よりも少なくとも1.5倍高い、少なくとも1.75倍高い、少なくとも2倍高い、少なくとも2.5倍高い、少なくとも3倍高い、少なくとも4倍高いまたは少なくとも5倍高い。実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現が低下せず、消失していない対応する細胞の発現よりも少なくとも8倍高い、少なくとも10倍高いまたは少なくとも15倍高い発現率が得られる。組換え産物の発現率は、例えば、実施例に記載のアッセイを用いて試験することができる。
真核細胞は、通常はFAM60Aを内因的に発現する細胞型から誘導される。例を以下に記載する。上記で説明された通り(Smith et al, 2012も参照されたい)、FAM60Aは、全ての後生動物、特に、脊椎動物だけでなく、無脊椎動物および全ての哺乳動物細胞などの、真核細胞中で内因的に発現される。用語「単離された」は、真核細胞が動物またはヒトなどの生きている生物に含まれないことを明確にするために用いられる。本明細書に記載されるように、細胞は、細胞培養物、細胞株、細胞クローンなどとして提供することができる。例を以下にも記載する。上記のように、真核細胞は、例えば、FAM60Aを内因的に発現する対応する非改変真核細胞と比較して、FAM60Aの効果を低下させるか、または消失させることにより、前記細胞中でのFAM60Aの効果を減弱するように変化している。減弱は、好ましくは、細胞中のFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成される。非限定的実施形態は上記されている。均一で、したがって、予測可能な安定性特徴を有する生産細胞株を提供するために、真核細胞のゲノムを変化させて、その結果を達成する。好適な実施形態は上記されている。次いで、それぞれ変化した真核細胞に、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを安定にトランスフェクトして、ゲノム中に組み込まれた、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む第1の態様による真核細胞を提供することができる。真核細胞は、好ましくは、脊椎動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である。したがって、真核細胞について本明細書に記載される全ての実施形態は一般に、哺乳動物細胞が用いられる好ましい実施形態に適用される。真核細胞は、例えば、げっ歯類細胞、ヒト細胞およびサル細胞からなる群から選択することができる。好ましい哺乳動物細胞は、例えば、ハムスターまたはマウスから誘導される細胞などのげっ歯類細胞である。それらは、例えば、CHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞、BHK細胞、NS0細胞、C127細胞、マウス3T3線維芽細胞、およびSP2/0細胞からなる群から選択することができる。特に好ましいのは、例えば、CHO−K1、CHO−S、CHO−K1SV、CHO−SSF3、CHO−DG44、CHO−DUXB11などのCHO細胞、またはそれらから誘導される細胞株である。実施例に示されるように、CHO細胞中でのFAM60A遺伝子のノックアウトは、長期安定性特徴を有する安定にトランスフェクトされた細胞の存在量が増加したCHO細胞の集団を提供する。FAM60A遺伝子は、ヒト細胞中でも発現される。したがって、一実施形態によれば、哺乳動物細胞は、例えば、HEK293細胞、MCF−7細胞、PerC6細胞、CAP細胞、造血細胞およびHeLa細胞からなる群から選択されてもよいヒト細胞から誘導される。別の代替物は、例えば、COS細胞、COS−1、COS−7細胞およびVero細胞からなる群から選択されてもよいサル細胞である。一実施形態によれば、好ましくは哺乳動物細胞である真核細胞は、細胞クローンまたは細胞株として提供される。
FAM60Aの効果が真核細胞中で減弱されるようにゲノムが変化し、前記細胞から発現される、特に、分泌される、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチド、選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドおよび/またはリポーターポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを含まない真核細胞を、本開示による真核細胞を調製するための出発材料として用いることができる。それぞれの「空の」変化した真核細胞を、例えば、組換え生産技術のためのクローニング細胞株として用いることができる。それぞれの細胞に、例えば、適切な発現ベクターを用いて、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを安定にトランスフェクトすることができる。したがって、FAM60A遺伝子の効果が減弱され、組換え産物をまだ発現しない、特に、分泌しない、そのような「空の」真核細胞に、組換え生産されると考えられる目的の所望の生成物に応じて、異なる発現ベクターをトランスフェクトすることができる。したがって、そのような真核細胞株を、異なるプロジェクトのために、すなわち、目的の異なる生成物、特に、目的の異なる分泌されるポリペプチドの生産のために用いることができる。
第1の態様による真核細胞は、そのゲノム中に安定に組み込まれた目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。目的の生成物は、真核細胞により大量に発現されると考えられる組換え産物である。好ましくは、目的の生成物は、ポリペプチドである。好ましい実施形態によれば、目的のポリペプチドは、細胞により分泌される。真核細胞は、選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドおよび/またはリポーターをコードする異種ポリヌクレオチドをさらに含んでもよい。選択可能マーカーこれにより、うまくトランスフェクトされ、したがって、目的の生成物を発現する宿主細胞の選択が単純化される。さらに、真核細胞は、異なる選択可能マーカーおよび/またはリポーターポリペプチドをコードするいくつかのポリヌクレオチドを含んでもよい。
本明細書で用いられる「異種ポリヌクレオチド」または「異種核酸」および同様の表現は、特に、例えば、トランスフェクションなどの組換え技術の使用により、真核細胞中に導入されたポリヌクレオチド配列を指す。「ポリヌクレオチド」は、特に、あるデオキシリボースまたはリボースから別のものに通常連結されるヌクレオチドのポリマーを指し、文脈に応じて、DNAならびにRNAを指す。用語「ポリヌクレオチド」は、サイズ制限を含まない。
発現ベクターを用いて、異種ポリヌクレオチドを導入することができる。ポリヌクレオチドは、発現カセット中に含まれ得る。目的の生成物をコードするポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーまたはリポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、同じか、または異なる発現ベクター上に位置し得る。真核細胞への導入は、例えば、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む好適な発現ベクターを宿主細胞中にトランスフェクトすることにより達成することができる。発現ベクターは、宿主細胞のゲノム中に組み込まれる(安定的トランスフェクション)。実施例により示されるように、本明細書に記載の新規真核細胞は、長期安定性を有するクローンの数が増加するため、安定的トランスフェクションにとって有利である。安定的トランスフェクションはまた、工業規模で目的のポリペプチドなどの目的の生成物を生産するための高発現細胞クローンを生成するための標準である。これは、目的の治療用または診断用ポリペプチドにとって特に重要である。哺乳動物宿主細胞などの真核細胞中に発現ベクターなどの異種核酸を導入するためのいくつかの適切な方法が先行技術において公知であり、したがって、本明細書では詳細な説明を必要としない。それぞれの方法としては、これらに限定されるものではないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、ビオリスティック媒介性およびポリマー媒介性遺伝子導入などが挙げられる。伝統的な無作為組み込みに基づく方法の他に、組換え媒介性手法を用いて、異種ポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノム中に導入することもできる。それぞれの方法は、先行技術において周知であるため、それらはここで詳細な説明を必要としない。好適なベクター設計の非限定的実施形態も続いて記載し、それはそれぞれの開示に付託される。
目的の組換え産物の発現を達成するために用いられる発現ベクターは、通常は発現カセットのエレメントとして、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写中断または終結シグナルなどの転写を駆動するのに好適な転写制御エレメントを通常含有する。所望の生成物がポリペプチドである場合、例えば、リボソームおよび翻訳プロセスを終結させるための停止コドンを動員するのに好適な5’キャップ構造をもたらす5’非翻訳領域などの、好適な翻訳制御エレメントを、好ましくは、ベクター中に含有させる。得られる転写物は、タンパク質発現(すなわち、翻訳)および適切な翻訳終結を容易にする機能的な翻訳エレメントを担持する。組み込まれるポリヌクレオチドの発現を適切に駆動することができる機能的発現ユニットは、「発現カセット」とも称される。発現カセットを、好ましくは哺乳動物細胞などの真核細胞中での発現を可能にするためにどのように設計するべきであるかは、当業者には周知である。
目的の生成物をコードするポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドおよび/または本明細書に記載のリポーターポリペプチドは、好ましくは、発現カセット中に含まれる。いくつかの実施形態が好適である。例えば、前記ポリヌクレオチドのそれぞれは、別々の発現カセット中に含まれ得る。これはモノシストロン設定とも称される。また、それぞれのポリヌクレオチドの少なくとも2つが1つの発現カセット中に含まれることも本発明の範囲内にある。一実施形態によれば、少なくとも1つの内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントは、同じ発現カセットから発現されるポリヌクレオチドの間に機能的に配置される。それにより、前記転写物から別々の翻訳産物が得られることが確保される。それぞれのIRESに基づく発現技術ならびに他の二シストロン系および多シストロン系は周知であり、したがって、ここではさらなる説明を必要としない。
記載のように、発現ベクターは、発現カセットのエレメントとしての少なくとも1つのプロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントを含んでもよい。プロモーターは、構成的に機能するものと、誘導または抑制解除により調節されるものとの2つのクラスに分けることができる。両方とも好適である。多くの細胞型における発現を駆動する強力な構成的プロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス極初期プロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにマウス3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、EF1aが挙げられる。一実施形態によれば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、CMVおよび/またはSV40のいずれかから得られる。転写プロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1アルファプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターからなる群から選択することができる。また、他のプロモーターが、好ましくは哺乳動物細胞である真核細胞中での目的の生成物の発現をもたらす場合、それらを用いてもよい。
さらに、発現カセットは、少なくとも1つのイントロンを含んでもよい。通常、イントロンは、オープンリーディングフレームの5’末端に位置するが、3’末端に位置してもよい。前記イントロンは、プロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントと、発現させようとする目的の生成物をコードするポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームの5’末端との間に配置することができる。いくつかの好適なイントロンが現況技術で公知であり、本開示と共に用いることができる。
目的の生成物は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドによりコードされる遺伝子情報の転写、翻訳または発現の任意の他の事象により生産され得る任意の生物学的生成物であってもよい。目的の生成物は、ポリペプチドおよび核酸、特にRNAからなる群から選択することができる。生成物は、薬学的もしくは治療的に活性な化合物、またはアッセイにおいて用いられる研究手段などであってもよい。好ましくは、目的の生成物は、ポリペプチドである。目的の任意のポリペプチドは、本発明の方法を用いて発現させることができる。用語「ポリペプチド」とは、ペプチド結合により一緒に連結されたアミノ酸のポリマーを含む分子を指す。ポリペプチドは、タンパク質(例えば、50個を超えるアミノ酸を有する)およびペプチド(例えば、2〜49個のアミノ酸)を含む、任意の長さのポリペプチドを含む。ポリペプチドは、任意の活性、機能またはサイズのタンパク質および/またはペプチドを含み、例えば、酵素(例えば、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体、輸送因子、殺菌タンパク質および/または内毒素結合タンパク質、構造ポリペプチド、膜結合ポリペプチド、糖タンパク質、球状タンパク質、免疫ポリペプチド、毒素、抗生物質、ホルモン、成長因子、血液因子、ワクチンなどが挙げられ得る。ポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノーゲン活性化因子、サイトカイン、免疫グロブリン、特に、抗体またはその機能的抗体断片もしくは変異体およびFc融合タンパク質からなる群から選択することができる。また、本明細書に記載の教示に従って発現される目的のポリペプチドは、例えば、抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその機能的断片もしくは誘導体などの、ポリペプチドのサブユニットまたはドメインであってもよい。用語「目的の生成物」または「目的のポリペプチド」は、文脈に応じて、そのような個々のサブユニットもしくはドメインまたはそれぞれのサブユニットもしくはドメインから構成される最終タンパク質を指してもよい。好ましい実施形態においては、目的のポリペプチドは、免疫グロブリン分子、より好ましくは抗体、または例えば、抗体の重鎖もしくは軽鎖などのそのサブユニットもしくはドメインである。本明細書で用いられる用語「抗体」とは、特に、ジスルフィド結合により接続された少なくとも2つの重鎖と2つの軽鎖とを含むタンパク質を指す。用語「抗体」は、天然の抗体ならびに全ての組換え形態の抗体、例えば、ヒト化抗体、完全ヒト抗体およびキメラ抗体を含む。各重鎖は通常、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)からなる。各軽鎖は通常、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなる。しかしながら、用語「抗体」はまた、単一ドメイン抗体、重鎖抗体、すなわち、1つまたは複数、特に、2つの重鎖のみから構成される抗体、およびナノボディ、すなわち、単一のモノマー可変ドメインのみから構成される抗体などの、他の型の抗体も含む。上記で論じたように、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドはまた、目的のポリペプチドとして、抗体の1つまたは複数のサブユニットまたはドメイン、例えば、重鎖もしくは軽鎖またはその機能的断片もしくは誘導体をコードしてもよい。前記サブユニットまたはドメインは、同じか、または異なる発現カセットから発現させることができる。抗体の「機能的断片または誘導体」は、特に、抗体から誘導され、抗体と同じ抗原、特に、同じエピトープに結合することができるポリペプチドを指す。抗体の抗原結合機能を、完全長抗体の断片またはその誘導体により実行することができることが示されている。抗体の断片または誘導体の例としては、(i)可変領域と、それぞれの重鎖および軽鎖の第1の定常ドメインとからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab)2断片;(iii)可変領域と、重鎖の第1の定常ドメインCH1とからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームの重鎖および軽鎖可変領域からなるFv断片;(v)単一のポリペプチド鎖からなるFv断片であるscFv断片;(vi)一緒に共有結合的に連結された2つのFv断片からなる(Fv)2断片;(vii)重鎖可変ドメイン;ならびに(viii)重鎖および軽鎖可変領域の会合が分子間でのみ起こり得るが、分子内では起こらないような様式で一緒に共有結合的に連結された重鎖可変領域と軽鎖可変領域とからなるマルチボディが挙げられる。一実施形態によれば、真核細胞は、細胞培養培地中に目的のポリペプチドを分泌する。一実施形態によれば、目的のポリペプチドは、C12orf35タンパク質ではないか、またはSIN3Aを含まない。一実施形態によれば、目的のポリペプチドは、FAM60Aではないか、またはそれを含まない。
真核細胞は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドと一致する、それぞれ、同一である内因性ポリヌクレオチドを含んでも、または含まなくてもよい。一実施形態によれば、真核細胞は、目的の生成物と一致する内因性遺伝子を含まない。
記載のように、実施形態においては、真核細胞は、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドおよび/または目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドに加えてリポーターポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを含む。
「選択可能マーカー」は、適切な選択培養条件下で、前記選択可能マーカーを発現する宿主細胞の選択を可能にする。選択可能マーカーは、選択条件下で前記マーカーの担体に、生存および/または成長の利点を提供する。それにより、発現ベクターをうまくトランスフェクトされた宿主細胞を、適切な選択条件下で選択することができる。典型的には、選択可能マーカー遺伝子は、薬物、例えば、抗生物質もしくは他の毒性薬剤などの選択剤に対する耐性を付与するか、または宿主細胞における代謝的もしくは異化的欠陥を相殺する。それは、陽性または陰性選択マーカーであってもよい。うまくトランスフェクトされた宿主細胞を選択するために、宿主細胞を培養するために用いることができる培養培地は、用いられる選択可能マーカーの選択を可能にする選択剤を含む。他の実施形態においては、選択マーカーにより、選択マーカーを欠く宿主細胞の生存および/または増殖にとって必須である化合物の非存在下または減少下で宿主細胞が生存および/または増殖することができる。宿主細胞の生存および/もしくは増殖にとって十分に高い濃度の必須化合物を含まないか、または減少した量の前記必須化合物を含む培地中で宿主細胞を培養することにより、選択マーカーを発現する宿主細胞のみが生存および/または増殖することができる。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、前記薬物を含む選択条件に対する耐性を付与するタンパク質をコードする薬物耐性マーカーである。様々な選択可能マーカー遺伝子が記載されている(例えば、WO92/08796、WO94/28143、WO2004/081167、WO2009/080759、WO2010/097240を参照されたい)。例えば、1つまたは複数の抗生剤に対する耐性を付与する少なくとも1つの選択可能マーカーを用いることができる。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、増幅可能な選択可能マーカーであってもよい。増幅可能な選択可能マーカーは、宿主細胞を含有するベクターの選択を可能にし、宿主細胞中での前記ベクターの遺伝子増幅を促進することができる。特に、哺乳動物細胞などの真核細胞と共に一般的に用いられる選択可能マーカー遺伝子としては、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミンシンテターゼ、アスパラギンシンテターゼの遺伝子、ならびにネオマイシン(G418)、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン、ウアバイン、ブラスチシジン、ヒスチジノールD、ブレオマイシン、フレオマイシンおよびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。一実施形態によれば、葉酸受容体は、好ましくは哺乳動物細胞である、本明細書に記載の新規真核細胞(例えば、WO2009/080759を参照されたい)と共に選択可能マーカーとして用いられる。一実施形態によれば、葉酸取込みに依存する真核細胞は、選択可能マーカーとして葉酸受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、および/または選択可能マーカーとしてジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。この実施形態も、第2の態様による選択方法と共に以下に詳細に説明する。真核細胞は、DHFRおよび葉酸受容体を内因的に発現してもよい。
「リポーターポリペプチド」は、報告特徴(例えば、蛍光)に基づいて前記リポーターポリペプチドを発現する細胞の同定を可能にする。リポーター遺伝子は通常、宿主細胞に生存の利点を提供しない。しかしながら、リポーターポリペプチドの発現を用いて、リポーターポリペプチドを発現する細胞と、発現しない細胞とを区別することができる。したがって、リポーター遺伝子はまた、うまくトランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする。好適なリポーターポリペプチドとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、CFPおよびルシフェラーゼが挙げられる。一実施形態によれば、リポーターポリペプチドは、フローサイトメトリーによる選択を可能にする特徴を有する。
記載のように、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターはまた、2つ以上の選択可能マーカーおよび/またはリポーター遺伝子を含んでもよい。さらに、選択可能マーカーをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドおよび/またはリポーターポリペプチドをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドを、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターと共に同時トランスフェクトされる1つまたは複数の異なる発現ベクター上に提供することもできる。そのような同時トランスフェクション戦略は同様に、先行技術において周知のように、選択を可能にする。
真核細胞中に含まれる発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、さらなるベクターエレメントをさらに含んでもよい。例えば、目的のさらなる生成物をコードする少なくとも1つのさらなるポリヌクレオチドを含んでもよい。上記で説明された通り、また、本教示に従って発現させることができるポリペプチドの上記の例から明らかとなるように、宿主細胞により生産される、好ましくは、分泌される最終ポリペプチドは、いくつかの個々のサブユニットまたはドメインから構成されるタンパク質であってもよい。それぞれのタンパク質の好ましい例は、免疫グロブリン分子、特に、例えば、重鎖および軽鎖を含む抗体である。異なる個々のサブユニットまたはドメインから構成されるそれぞれのタンパク質を生産するためのいくつかの選択肢が存在し、適切なベクター設計が当業界で公知である。一実施形態によれば、前記タンパク質の2つ以上のサブユニットまたはドメインが1つの発現カセットから発現される。この実施形態においては、1つの長い転写物が、タンパク質の個々のサブユニットまたはドメインのコード領域を含むそれぞれの発現カセットから得られる。一実施形態によれば、少なくとも1つのIRESエレメント(内部リボソーム進入部位)が、個々のサブユニットまたはドメインのコード領域の間に機能的に配置され、それぞれのコード領域の前には分泌リーダー配列がある。それにより、別々の翻訳産物が前記転写物から得られ、最終タンパク質を正確に集合させ、分泌させることができることが確保される。それぞれの技術は先行技術において公知であり、したがって、本明細書で詳細な説明を必要としない。
抗体の発現などのいくつかの実施形態については、異なる発現カセットから個々のサブユニットまたはドメインを発現させることがさらに好ましい。一実施形態によれば、目的の生成物を発現させるために用いられる発現カセットは、モノシストロン性発現カセットである。発現ベクターまたは発現ベクターの組合せに含まれる全ての発現カセットは、モノシストロン性であってもよい。したがって、一実施形態によれば、目的の生成物を発現させるために設計された各発現カセットは、目的のポリペプチドとして発現されるタンパク質の1つのサブユニットまたはドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。例えば、抗体の場合、1つの発現カセットが抗体の軽鎖をコードしてもよく、別の発現カセットが抗体の重鎖をコードしてもよい。個々の発現カセットからの個々のサブユニットまたはドメインの発現の後、抗体などの最終タンパク質を前記サブユニットまたはドメインから集合させ、宿主細胞により分泌させる。この実施形態は、抗体などの免疫グロブリン分子を発現させるのに特に好適である。この場合、目的の生成物をコードする第1の異種ポリヌクレオチドは、例えば、免疫グロブリン分子の重鎖または軽鎖をコードし、目的の生成物をコードする第2の異種ポリヌクレオチドは、免疫グロブリン分子の他の鎖をコードする。一実施形態によれば、哺乳動物宿主細胞をトランスフェクトするのに用いられる発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、免疫グロブリン分子の重鎖をコードするポリヌクレオチドまたはその機能的断片を含む少なくとも1つの発現カセットと、免疫グロブリン分子の軽鎖をコードするポリヌクレオチドまたはその機能的断片を含む少なくとも1つの発現カセットとを含む。前記ポリヌクレオチドは、少なくとも2つの発現ベクターの組合せを用いる場合、同じか、または異なる発現ベクター上に位置してもよい。トランスフェクトされた宿主細胞中での前記ポリヌクレオチドの発現時に、機能的免疫グロブリン分子が宿主細胞から得られ、好ましくは、分泌される。実施例により示されるように、本明細書に記載の新規細胞および細胞株の使用であって、宿主細胞のゲノムが、好ましくはFAM60Aの機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記遺伝子の効果が前記細胞中で減弱されるように変化している、使用は、その改善された安定性特徴のため、タンパク質を発現させるのに特に好適である。さらに、特に、C12orf35遺伝子の発現産物の効果がさらに減弱される実施形態において、発現収率もまた有意に増大する。したがって、本明細書に記載の新規真核細胞株は、例えば、抗体などのいくつかのサブユニットまたはドメインから構成されるタンパク質などの、ポリペプチドの組換え発現のために用いられる場合、特に有利である。さらなる利点はまた、実施例と共に記載される。
B.選択方法
第2の態様によれば、目的の生成物を組換え発現する宿主細胞を選択するための方法であって、
(a)宿主細胞として、第1の態様による真核細胞を提供すること;および
(b)目的の生成物を発現する1つまたは複数の宿主細胞を選択すること
を含む方法が提供される。
好適、かつ好ましい実施形態を含む第1の態様による真核宿主細胞ならびにその利点は上記で詳細に説明され、それはそれぞれの開示に付託され、ここにも当てはまる。記載のように、脊椎動物細胞、特に、哺乳動物細胞が、宿主細胞として好ましく用いられる。前記真核細胞の有利な特性は、例えば、好適な生産クローンの選択、したがって、同定を単純化する。さらに、トランスフェクトされた細胞集団中の好ましい安定性特徴を有する細胞の割合は、本明細書に記載の真核細胞を用いた場合に有意に増大するため、好適な安定な生産クローンを同定するためにその生産特徴について分析およびスクリーニングする必要があるクローンは少ない。これは時間を節約し、さらに、並行してより多くのプロジェクトを取り扱うことを可能にする。さらに、実施例により示されるように、実施形態において、好ましい特徴を有する高発現細胞の数、それぞれ、割合は、安定的トランスフェクションおよび選択ステップの後に増大する。そのような発現細胞は、細胞プールとも呼ばれ、有意な量の目的の生成物を生産する。したがって、高発現細胞を含むそのような細胞プールを、例えば、短い時間枠内で目的のポリペプチドを生産するために用いることができる。したがって、目的の生成物を、それぞれの細胞中で迅速に生産させることができる。
一実施形態によれば、第2の態様による選択方法の段階(a)は、FAM60Aタンパク質の効果が真核細胞中で減弱されるように前記細胞のゲノムが変化している前記細胞に、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトすることを含み、それによって、ゲノム中に安定に組み込まれた、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含むそれぞれの真核細胞を提供する。記載のように、哺乳動物細胞は、好ましくは真核宿主細胞として用いられる。目的の生成物をコードするポリヌクレオチドは、発現ベクター中に含まれていてもよく、次いで、これを真核細胞中にトランスフェクトする。
選択段階(b)は、高収率で目的の生成物を発現する宿主細胞を選択、したがって、同定するためのいくつかの選択ステップを含むマルチステップ選択プロセスであってもよい。例えば、段階(b)は、うまくトランスフェクトされた細胞を同定するための1つまたは複数の選択ステップならびにうまくトランスフェクトされた細胞のプールから高発現細胞を選択するための1つまたは複数のその後の選択ステップを含んでもよい。適切な選択戦略は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを導入するために用いられる発現ベクターの設計に依存し、特に、用いられる選択マーカーおよび/またはリポーターに依存する。非限定的実施形態を、以下で説明する。
上記のように、真核宿主細胞は、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、同じか、または異なる同時トランスフェクトされる発現ベクターを用いて目的の生成物をコードするポリヌクレオチドと一緒に宿主細胞中に導入することができる。次いで、段階(b)は、例えば、適切な選択培地を用いて、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定するために宿主細胞に選択圧を提供する条件下で、前記複数の宿主細胞を培養することを含む。本明細書で用いられる場合、「選択培地」とは、特に、選択可能マーカーを発現する宿主細胞の選択にとって有用な細胞培養培地を指す。それは、例えば、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定することができる毒性薬物などの選択剤を含んでもよい。あるいは、選択培地において必須化合物は存在しなくてもよいか、またはその濃度を低下させることができる。一実施形態によれば、うまくトランスフェクトされておらず、したがって、選択マーカーを発現しないか、または発現が低い宿主細胞は、選択培養条件下で、増殖することができないか、または死滅する。対照的に、発現ベクターをうまくトランスフェクトされた、十分な収率で選択マーカー(したがって、同時導入された目的の生成物)を発現する宿主細胞は、選択圧に対して耐性であるか、またはそれによってあまり影響されず、したがって、増殖することができ、それによって、うまくトランスフェクトされなかった、または細胞のゲノム中への組込み部位が好ましくない宿主細胞を失う。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、抗生物質耐性マーカー、薬物耐性マーカーおよび代謝マーカーからなる群から選択される。選択可能マーカーおよび選択原理のための好適な例は、第1の態様と共に上記されており、個々の選択可能マーカーのための適切な選択条件もまた当業者には周知である。非限定的であるが、有利な実施形態を、以後簡単に説明する。
実施例により示されるように、特に、FAM60A遺伝子、したがって、C12orf35遺伝子も含む第8染色体のテロメア領域中に欠失を含むCHO細胞株などの、本明細書に記載の新規真核細胞の1つの利点は、例えば、G418/neo選択などの、1つの標準的な選択ステップの後に既に、安定な特徴を有する高生産細胞のパーセンテージが有意に増大するということである。例えば、それぞれ変化していない、正常なCHO細胞株をトランスフェクトする場合、G418/neo選択を生き残る細胞の多くは60%またはさらには80%までが非生産体である。非または低生産体の数は、本開示による新規細胞株を用いた場合、有意に減少する。これにより、必要に応じて、例えば、G418/neo選択などのただ1つの選択可能マーカー、したがって、ただ1つの選択ステップを用いることによる、段階(b)における選択を効率的に実施することができる。これは選択の速度を増大させ、したがって、目的の生成物を発現する安定にトランスフェクトされた細胞を取得するために必要とされる時間を減少させる。さらに、高く安定な生産体の数が増加するため、高生産細胞のための特定の選択の非存在下であっても、クローンのような性能を有する細胞集団を、したがって、非常に短時間で生成させることができることが見出された。したがって、目的の生成物は、そのようなプールから製造することさえできる。したがって、例えば、ある特定の量のタンパク質だけが迅速に必要とされる用途のために、例えば、研究または試験目的のために、迅速に良好な生産細胞または生産細胞プールにするそのような急速選択系が非常に有利である。
しかしながら、生産性をさらに増大させることが望ましい場合、段階(b)におけるマルチステップ選択が好ましい。これは、特に、大規模に、特に、工業規模で目的の生成物を生産するためのクローン細胞株を確立することを意図する場合に当てはまる。
上記のように、本明細書に記載の細胞中に導入される発現ベクターまたは複数の発現ベクターは、2つ以上の選択可能マーカー遺伝子を含んでもよく、異なる選択可能マーカーの選択を、発現ベクターをうまくトランスフェクトされた、高収率で目的の生成物を発現する宿主細胞を選択するために同時に、または連続的に行うことができる。培養のために用いられる選択培地は、用いられる全ての選択可能マーカーのための選択剤を含んでもよい。別の実施形態においては、培養を、最初に、用いられる選択可能マーカー遺伝子の1つまたはサブセットの選択剤のみを含む選択培地を用いて実施した後、残りの選択可能マーカー遺伝子のための選択剤の1つまたは複数を添加してもよい。別の実施形態においては、宿主細胞を、ベクターの選択可能マーカー遺伝子の1つまたはサブセットの選択剤のみを含む第1の選択培地を用いて培養した後、残りの選択可能マーカー遺伝子の選択剤の1つまたは複数の選択剤を含む第2の選択培地と共に培養する。一実施形態によれば、第2の選択培地は、第1の選択培地において用いられる選択剤を含まない。
一実施形態によれば、段階(a)で提供される真核細胞は、選択可能マーカーとしてジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)をコードする異種ポリヌクレオチドを含み、段階(b)はDHFRのための選択ステップを実施することを含む。それぞれの選択ステップは通常、DHFR阻害剤を含む選択培地を含む。いくつかの好適なDHFR酵素、したがって、DHFR遺伝子は先行技術において公知であり、選択可能マーカーとして用いることができる。DHFRという用語は、野生型DHFRならびに対応する野生型DHFR酵素のアミノ酸配列に関して1つまたは複数のアミノ酸配列交換(例えば、欠失、置換または付加)を有するDHFR酵素、さらなる構造および/または機能を提供するように改変されたDHFR酵素および複数のDHFR酵素を含む融合タンパク質、ならびにDHFR酵素の少なくとも1つの機能を依然として有する、前記の機能的断片を指す。そのような実施形態は先行技術において周知であり、したがって、詳細に説明する必要はない。例えば、野生型DHFR酵素および/または発現される場合、宿主細胞により内因的に発現されるDHFR酵素よりもMTXなどの抗葉酸剤に対して多かれ少なかれ感受性であるDHFR酵素を、選択可能マーカーとして用いることができる。それぞれのDHFR酵素は先行技術において周知であり、例えば、EP 0 246 049および他の文献に記載されている。DHFR酵素を、それが本発明の範囲内で機能的である限り、すなわち、用いられる哺乳動物宿主細胞と適合する限り、任意の種から誘導することができる。例えば、MTXに対する主な耐性を有する変異マウスDHFRが、真核細胞における優性選択可能マーカーとして広く用いられている。DHFR+(プラス)宿主細胞、したがって、機能的内因性DHFR遺伝子を含む宿主細胞中で内因的に発現されるDHFR酵素よりも、MTXなどのDHFR阻害剤に対する感受性が低いDHFR酵素を、選択可能マーカーとして用いることができる。一実施形態によれば、イントロンまたはその断片は、DHFR遺伝子のオープンリーディングフレームの3’末端に配置される。DHFR発現カセットにおいて用いられるイントロンは、DHFR遺伝子のより小さい、非機能的変異体をもたらす(Grillari et al., 2001, J. Biotechnol. 87, 59-65)。それにより、DHFR遺伝子の発現レベルは低下し、選択のストリンジェンシーをさらに増大させる。DHFR遺伝子の発現レベルを低下させるためにイントロンを使用する代替的な方法は、EP0 724 639に記載されており、これを用いることもできる。
「DHFR阻害剤」は、特に、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)の活性を阻害する化合物を指す。それぞれの阻害剤は、例えば、DHFRへの結合についてDHFR基質と競合してもよい。好適なDHFR阻害剤は、例えば、メトトレキサート(MTX)などの抗葉酸剤である。したがって、一実施形態によれば、段階(b)は、好ましくは抗葉酸剤などの、少なくとも1つのDHFR阻害剤を含む選択培養培地中で前記複数の宿主細胞を培養することにより、DHFRのための選択ステップを実施することを含む。それぞれの選択条件は、当業者には公知である。一実施形態によれば、1500nM以下、1250nM以下、1000nM以下、750nM以下、500nM以下、250nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下または75nM以下の濃度の抗葉酸剤を含む選択培養培地が段階(b)において用いられる。選択培養培地中の前記阻害剤の用いられる濃度(徐々に増加してもよい)は、選択条件のストリンジェンシーを決定づける。抗葉酸剤のための好ましい濃度範囲は、500nM〜0.1nM、350nM〜1nM、200nM〜2.5nM、150nM〜5nM、100nM〜7.5nMおよび75nM〜10nMから選択することができる。一実施形態によれば、選択培養培地は、抗葉酸剤としてMTXを含む。特に、選択を限定濃度の葉酸塩(limiting concentration of folate)と共に実施する場合、DHFR選択を実施するために低いMTX濃度を本明細書に記載の新規真核細胞と共に用いることができる。
一実施形態によれば、段階(a)で提供される本開示による宿主細胞は、選択可能マーカーとして葉酸輸送因子をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。葉酸輸送因子に基づく選択系は、哺乳動物細胞などの葉酸取込みに依存する真核細胞と共に用いられる場合、いくつかの利点を有する。葉酸輸送因子は、少なくとも1つの葉酸塩を培養培地から、好ましくは哺乳動物細胞である宿主細胞中に輸入させる。一実施形態によれば、葉酸輸送因子は、還元型葉酸担体(RFC)であるか、またはそれを含む。RFCは、遍在的に発現される膜糖タンパク質であり、5−メチル−THFおよび5−ホルミル−THFなどの還元型葉酸の細胞中への取込みのための主な輸送因子として働く。しかしながら、RFCは、酸化型葉酸である葉酸に対する非常に低い親和性を示す。したがって、RFCの発現を欠くか、またはゲノムRFC遺伝子座から欠失された細胞は、5−ホルミル−THFなどの還元型葉酸が成長培地から徐々に枯渇し、それによって、増大したレベルのこの葉酸輸送因子、したがって、目的の生成物を発現する細胞の同定を可能にする条件下で、選択可能マーカー遺伝子RFCのトランスフェクションのためのレシピエントとして働くことができる。RFCを選択可能マーカーとして用いる場合の好適な選択条件は、当業者には公知であり、例えば、WO2006/059323に記載されている。
以下および実施例のセクションでも詳細に説明される一実施形態によれば、選択可能マーカーとして用いられる葉酸輸送因子は、葉酸受容体である。葉酸受容体に基づく選択系は、いくつかの利点を有する。例えば、選択のために、毒性物質は必要なく(それらを用いることができる場合であっても)、さらに、宿主細胞の内因性葉酸受容体をノックアウトさせる必要もない。さらに、この発現系は、好ましくは、哺乳動物細胞である本明細書に記載の新規細胞と共に特に良好に作用する。
本明細書で用いられる「葉酸受容体」とは、機能的であり、したがって、葉酸塩またはその誘導体を真核細胞中に輸入する、または取り込むことができる葉酸受容体を指す。好ましくは、受容体は、葉酸塩または葉酸塩の誘導体を真核細胞中に一方向に輸入するか、または取り込むことができる。さらに、本明細書で用いられる葉酸受容体は、膜結合型である。したがって、本明細書に記載される葉酸受容体は、機能的な膜結合型葉酸受容体である。膜固定は、例えば、膜貫通アンカーまたはGPIアンカーにより達成することができる。GPIアンカーは天然型の膜結合型葉酸受容体と一致するため、好ましい。葉酸受容体(FR)は、高親和性葉酸結合糖タンパク質である。それらは3つの異なる遺伝子、FRアルファ、FRベータおよびFRガンマによってコードされる。FRアルファおよびFRベータはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)固定された、細胞表面糖タンパク質であるが、FRガンマはGPIアンカーを含まず、分泌型タンパク質である。しかしながら、それは、膜貫通アンカーまたはGPIアンカーを含むように遺伝的に変化させることができる。膜アンカーを含むそのような変化型のFRガンマも、それが葉酸塩またはその誘導体を真核細胞中に輸入するか、または取り込むことができる場合、膜結合型葉酸受容体であると考えられる。用語「葉酸受容体」はまた、葉酸塩を取り込むことができる野生型葉酸受容体の膜結合型変異体およびそれぞれの葉酸受容体を含む融合タンパク質も含む。
用いられる葉酸受容体は、それが本発明の範囲内で機能的である限り、すなわち、それが用いられる宿主細胞と適合し、トランスフェクトされた宿主細胞中で発現される場合、葉酸塩、特に、葉酸を、培養培地から、葉酸取り込みに依存する宿主細胞中に取り込む限り、任意の種の葉酸受容体から誘導することができる。一般に、選択可能マーカーとして宿主細胞中に導入される葉酸受容体は、宿主細胞の内因性葉酸受容体に対して同種または異種であってもよい(内因性葉酸受容体が存在する場合、好ましいもの)。それが同種である場合、それを好ましくは、哺乳動物宿主細胞である宿主細胞と同じ種から誘導する。それが異種である場合、それを宿主細胞とは別の種から誘導する。例えば、ヒト葉酸受容体を、げっ歯類宿主細胞、例えば、CHO細胞などのハムスター細胞のための選択可能マーカーとして用いることができる。好ましくは、哺乳動物種から誘導される、例えば、マウス、ラットもしくはハムスターなどのげっ歯類から誘導される、または、より好ましくは、ヒトから誘導される葉酸受容体を用いる。選択可能マーカーとして用いられる膜結合型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファ、葉酸受容体ベータおよび葉酸受容体ガンマからなる群から選択することができる。一実施形態によれば、ヒト葉酸受容体アルファを、選択可能マーカーとして用いる。
それ自身、葉酸受容体を内因的に発現する細胞を用い、葉酸を葉酸受容体によりプロセシングすることができるため、葉酸輸送因子としての膜結合型葉酸受容体の使用が有利である。哺乳動物細胞などの葉酸取り込みに依存する真核細胞のための選択可能マーカーとして用いることができる好適な膜結合型葉酸受容体および好適な選択条件はまた、参照により本明細書に組み込まれるWO2009/080759に記載されている。一実施形態によれば、配列番号20に示される以下のアミノ酸配列(N末端からC末端に向かう方向で示される、1文字コード)を含む成熟野生型ヒト葉酸受容体アルファを用いる。
葉酸受容体アルファは、GPIアンカーにより細胞膜に天然に固定される。GPIアンカーのためのシグナル配列は配列番号20には示されない。一実施形態によれば、配列番号20から誘導されるか、またはそれを含む葉酸受容体アルファは、C末端にGPIアンカーシグナルを含む。任意の好適なGPIアンカーシグナルを用いることができる。ヒト葉酸受容体アルファの天然のGPIアンカーシグナル配列を、配列番号21に示す(N末端からC末端に向かう方向で示される、1文字コード)。
あるいは、膜固定は、膜アンカー、例えば、膜貫通アンカーを用いることにより達成することができる。この実施形態においては、葉酸受容体は、そのC末端に膜アンカーを含む。好適なアンカーは先行技術において公知である。配列番号20から誘導されるか、またはそれを含む葉酸受容体アルファは、N末端にリーダー配列を含んでもよい。葉酸受容体の機能的発現を確保する任意の好適なリーダー配列を用いることができる。
野生型ヒト葉酸受容体アルファの天然リーダー配列(N末端)および天然GPIアンカーシグナル配列(C末端)を含む完全アミノ酸配列を、配列番号22に示す(N末端からC末端に向かう方向で示される、1文字コード)。
一実施形態によれば、膜結合型葉酸受容体は、配列番号20もしくは22のアミノ酸配列を有するか、もしくは含むか、または配列番号20もしくは22に対する少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の相同性もしくは同一性を有する前記のものの機能的変異体であり、膜結合型であり、葉酸を細胞中に取り込むことができる。
葉酸輸送因子、好ましくは、葉酸受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、哺乳動物宿主細胞などの、葉酸取り込みに依存する真核細胞を用いる場合、段階(b)は、前記複数の宿主細胞が限定濃度の葉酸塩を含む選択培養培地中で培養される選択ステップを含む。本明細書で用いられる「葉酸塩の限定濃度」とは、特に、宿主細胞に対する選択圧を提供する選択培養培地中での葉酸塩の濃度を指す。そのような選択条件下では、発現ベクターを取り込んだ、したがって、選択可能マーカーとして葉酸輸送因子を発現する宿主細胞のみが成長および増殖する。したがって、葉酸塩は選択培養培地中に豊かに含まれず、培養培地中の葉酸塩のこの限界は宿主細胞に対する選択圧を提供する。限定濃度で選択培養培地中に含まれる葉酸塩は、宿主細胞、特に、選択可能マーカーとして用いられる葉酸輸送因子を取り込んだ宿主細胞中に取り込まれ、それによりプロセシングされ得る。宿主細胞がプロセシングしない、またはプロセシングすることができない葉酸塩、特に、葉酸塩の誘導体は、選択可能マーカーとして葉酸輸送因子を取り込んだ宿主細胞を選択するために発揮される選択圧に寄与しない、したがって、葉酸塩の限定濃度に寄与しない。しかしながら、以下に記載されるような、DHFRとの組合せ選択を実施する場合、例えば、抗葉酸剤などの、それぞれの葉酸塩が存在してもよく、さらに好ましくは、存在する。限定濃度で選択培養培地中に存在する葉酸塩は、例えば、酸化型葉酸または還元型葉酸またはその誘導体であってもよい。葉酸などの酸化型葉酸、ならびに還元型葉酸またはテトラヒドロ葉酸(THF)として知られる葉酸の還元型誘導体は、哺乳動物細胞などの、葉酸取り込みに依存する真核細胞中でのプリン、チミジル酸およびある特定のアミノ酸の生合成のための必須コファクターおよび/またはコエンザイムであるB−9ビタミン群である。THFコファクターは、DNA複製、したがって、細胞増殖にとって特に重要である。好ましくは、選択培養培地中に限定濃度で含まれる葉酸塩は、葉酸である。葉酸塩の限定濃度を提供するための好適な濃度範囲は、以下に記載される。
葉酸輸送因子に基づく選択系は、細胞培養培地中での、葉酸塩、好ましくは、葉酸の限定的利用可能性に基づくものである。発現ベクターをうまく取り込まなかった、したがって、好ましくは葉酸受容体である、十分な量の葉酸輸送因子を発現しない宿主細胞は、発現ベクターをうまく取り込んだ宿主細胞と比較して、選択培養条件下で死滅するか、または成長が減弱する。実施例により示されるように、本明細書に記載の新規細胞と共に葉酸受容体に基づく選択を用いることにより、高レベルの、ポリペプチドなどの目的の組換え産物を安定に過剰発現する細胞クローンの選択、スクリーニングおよび確立の促進が可能になる。
選択可能マーカーとしての葉酸受容体に対する選択のための、段階(b)で用いられる、それぞれ、段階(b)のサブステップにおいて用いられる選択培養培地は、
(a)約5000nM〜0.1nM;
(b)約2500nM〜0.1nM;
(c)約1500nM〜0.1nM;
(d)約1000nM〜0.1nM;
(e)約750nM〜0.1nM;
(f)約500nM〜0.1nM;
(g)約250nM〜0.2nM;好ましくは、約250nM〜1nMまたは約250nM〜2.5nM;
(h)約150nM〜0.3nM;好ましくは、約150nM〜1nMまたは約150nM〜2.5nM;
(i)約100nM〜0.5nM;好ましくは、約100nM〜1nMまたは約100nM〜2.5nM;
(j)約75nM〜0.6nM;好ましくは、約75nM〜1nMまたは約75nM〜2.5nM;
(k)約50nM〜1nM;好ましくは、約50nM〜2.5nMまたは約50nM〜5nM;
(l)約35nM〜0.75nM;および
(m)約25nM〜1nMまたは約25nM〜2.5nM、約20nM〜3nM、約15nM〜4nMまたは10nM〜5nM
から選択される濃度の葉酸塩、特に、葉酸を含んでもよい。
上記の濃度および濃度範囲は、商業的生産細胞株のための好ましい実施形態である、CHO細胞などの、急速成長懸濁哺乳動物細胞にとって特に好適である。しかしながら、異なる細胞株は、異なる葉酸消費特性を有してもよい。しかしながら、当業者であれば、好適な濃度を実験的に容易に決定することができる。選択培養培地中に含まれる葉酸塩は、好ましくは葉酸であり、一実施形態によれば、葉酸は、葉酸塩の限定濃度に寄与する選択培養培地中に含まれる唯一の葉酸塩である。
一実施形態によれば、段階(a)で提供される宿主細胞は、第1の選択可能マーカーとしての葉酸輸送因子をコードする異種ポリヌクレオチドと、葉酸塩、葉酸塩の誘導体および/または葉酸塩のプロセシングにより取得することができる生成物である基質を有する第2の選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドとを含む。例えば、第2の選択可能マーカーは、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)またはチミジル酸シンターゼ(TS)およびセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)などの、DHFRの下流で、もしくはそれと共に動作する酵素であってもよい。好ましくは、膜結合型葉酸受容体は第1の選択可能マーカーとして用いられ、第2の選択可能マーカーはジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)である。この実施形態によれば、段階(b)は、限定濃度の葉酸塩、好ましくは、葉酸を含み、例えば、MTXなどの少なくとも1つのDHFR阻害剤を含む選択培養培地中で宿主細胞を培養することを含む。実施例により示されるように、本明細書に記載の新規細胞株を用いる場合、プール中の高く安定に発現する細胞の数は有意に増加し、前記細胞プールからの大規模生産のための好適な細胞クローンの取得が単純化される。スクリーニング労力を軽減するには、より少ない細胞クローンを作製する必要がある。葉酸受容体およびDHFRの好適な実施形態ならびに好適な選択条件および濃度は上記されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。上記の葉酸塩および抗葉酸剤のための記載される濃度および濃度範囲は、互いに組み合わせることができる。一実施形態においては、約0.1nM〜150nM、1nM〜125M、5nM〜100nMまたは7.5nM〜75nMの葉酸塩濃度を、選択培養培地中で0.1nM〜150nM、1nM〜125nM、2.5nM〜100nM、5nM〜75nMまたは7.5nM〜50nMの抗葉酸剤濃度と組み合わせて用いる。記載のように、葉酸は、好ましくは葉酸塩として用いられ、MTXは抗葉酸剤として用いられる。
選択可能マーカーとしての葉酸受容体とDHFRとのそれぞれの組合せを用いて、および段階(b)において適用して、適切な選択培養培地を同時に用いることによる両方のマーカーに関する選択条件は、トランスフェクトされた宿主細胞集団から高生産細胞の効率的な富化を可能にする非常にストリンジェントな選択系をもたらす。宿主細胞の生存能力は、両方の選択可能マーカーが強く発現される場合、選択条件下でかなり増大する。それにより、目的の生成物の増大した発現率を示す、哺乳動物細胞などの、葉酸取り込みに依存する真核細胞を選択することができる。好ましくは、DHFRなどの葉酸代謝に関与するさらなる選択可能マーカーと共に選択可能マーカーとして葉酸受容体を用いるこの概念は、参照により本明細書に組み込まれるWO2010/097240に開示されている。実施例により示されるように、この実施形態による選択系の高いストリンジェンシーは、特に、哺乳動物細胞を用いる場合、本明細書に記載の新規細胞と有利に組み合わせることができる。この組合せは、低生産体の数をさらに減少させ、高生産細胞のより均一な集団を選択後に取得することができる。これは、特に、安定な生産細胞の単細胞クローニングを単純化する。さらに、この組合せにより、DHFR選択にとって必要なMTX濃度を有意に低下させることができる。
一実施形態によれば、2つ以上の選択ステップを、段階(b)において実施し、ここで、2つの以上の選択ステップは、同じか、または異なる選択原理に基づくものである。例えば、葉酸受容体および/またはDHFRに加えてさらなる選択可能マーカーを用いる場合、前記さらなる選択可能マーカーのための選択条件を、葉酸受容体および/またはDHFRのための選択条件を適用する前に(例えば、予備選択ステップにおいて)、またはそれと同時に適用することができる。例えば、さらなる選択可能マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)を用いる場合、段階(b)は、例えば、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを取り込んだ細胞を選択するために、G418を含有する培地中で細胞を最初に成長させること、次いで、限定濃度の葉酸塩および例えば、DHFRを第2の選択可能マーカーとして用いる場合、MTXなどの第2の選択可能マーカーの阻害剤を含む選択培養培地を用いる選択ステップを実施することを含んでもよい。
一実施形態によれば、フローサイトメトリーに基づく選択を、段階(b)において実施する。フローサイトメトリー、特に、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いる選択ステップは、多数の細胞を所望の特徴的な発現収率について迅速にスクリーニングすることができるという利点を有する。
一実施形態によれば、前記フローサイトメトリーに基づく選択は、1つまたは複数の選択可能マーカー遺伝子に対する1つまたは複数の選択ステップを実施したのに加えて、好ましくはその後に実施する。それにより、高発現細胞クローンを、うまくトランスフェクトされた細胞の集団中で同定し、分離することができる。
一実施形態によれば、高発現細胞は、フローサイトメトリーにより検出することができる、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、CFP、YFP、ルシフェラーゼまたは他の一般的なリポーターポリペプチドなどの同時発現されるリポーターポリペプチドの発現を検出することにより同定される。この実施形態によれば、段階(a)は、リポーターをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む複数の宿主細胞を提供することを含み、段階(b)は、フローサイトメトリーを用いて前記リポーターポリペプチドの少なくとも1つの特徴に基づいてリポーターを発現する宿主細胞を同定することを含む。そのようなリポーターに基づく選択においては、リポーター遺伝子の発現は、目的の生成物の発現と相関する。リポーターポリペプチドは細胞内に位置してもよく、それによって、発現細胞に印を付けることができる。一実施形態によれば、リポーターポリペプチドの発現は、ポリペプチドである目的の生成物の発現と密接に関連する。例えば、リポーターポリペプチドおよび目的のポリペプチドは、同じ発現カセットに由来するが、IRESエレメント(内部リボソーム進入部位)により隔てられた、別々のポリペプチドとして発現させることができる。さらに、リポーターポリペプチドおよび目的のポリペプチドは、融合タンパク質として発現させることができる。一実施形態によれば、目的のポリペプチドを発現させるための発現カセットにおいて、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、リポーターをコードするポリヌクレオチドから少なくとも1つの停止コドンにより隔てられている。リポーターポリペプチドを含む融合タンパク質は、翻訳が停止コドンを読み飛ばす場合にのみ発現される。停止コドンの数および設計ならびに培養条件によって影響され得る、停止コドンのリードスルーがある程度でのみ起こるとき、ある特定の割合の目的のポリペプチドがリポーターポリペプチドを含む融合タンパク質として生産され、フローサイトメトリーにより検出することができる。それぞれの戦略の使用は、リポーターポリペプチドの発現を、目的のポリペプチドの発現と密接に関連づけることができる。停止コドンのリードスルーにより融合タンパク質を取得する原理も、融合タンパク質(リポーターを必ずしも含まない)が細胞表面上に提示され、例えば、検出化合物を用いることにより染色される実施形態と共に後で説明される。目的の分泌型ポリペプチドを発現させるために、停止コドンと、リポーターをコードするポリヌクレオチドとの間またはリポーターをコードするポリヌクレオチドの下流に、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含有させることができる。膜アンカーは、リポーターポリペプチドが発現細胞と会合したままであることを確保する。それにより、融合タンパク質に含まれるリポーターポリペプチドは、発現細胞に、フローサイトメトリーにより選択される形質を提供する。目的のポリペプチドは、培養培地中に発現させる。例えば、リポーターポリペプチドの蛍光が高くなるほど、より多くの融合タンパク質が生産され、したがって、目的のポリペプチドの発現率が高くなる。それぞれの方法は、例えば、それが付託されるWO03/014361に開示されている。
一実施形態によれば、段階(b)は、
(i)トランスフェクトされた宿主細胞により発現される1つまたは複数の選択可能マーカーについて選択的な条件下で少なくとも1回の選択を実施すること;および
(ii)フローサイトメトリーに基づく選択を実施すること
を含む。
場合により、1つまたは複数のさらなる選択ステップを、ステップ(i)および/またはステップ(ii)の前に、または後に実施することができる。
一実施形態によれば、フローサイトメトリーに基づく選択は、目的のポリペプチドの存在または量に基づいて、所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を選択することを含む。好ましくは、目的のポリペプチドは、分泌型ポリペプチドである。一実施形態によれば、目的のポリペプチドは、目的のポリペプチドに結合する検出化合物を用いて細胞表面上で検出される。一実施形態によれば、目的の分泌型ポリペプチドは、それが細胞膜を通過し、したがって、ポリペプチド分泌中に原形質膜と一過的に会合している間に検出される。それぞれのフローサイトメトリーに基づく選択系は、例えば、それが付託されるWO03/099996に開示されている。
一実施形態によれば、目的のポリペプチドの一部は、膜アンカーに融合して発現され、したがって、膜結合型融合ポリペプチドとして発現される。それにより、ポリペプチドの一部は、細胞表面上で融合ポリペプチドとして提示され、検出化合物を用いて染色することができる。リポーターポリペプチドをさらに用いることができる場合であっても、この型の選択にはそれは必要ない。膜アンカーの存在のため、目的のポリペプチドは発現細胞に堅く固定される。生産される融合ポリペプチドの量は発現細胞の全体的な発現率と相関するため、宿主細胞は、細胞表面上の膜アンカーを介して提示される融合ポリペプチドの量に基づいてフローサイトメトリーにより選択することができる。これにより、高生産宿主細胞の迅速な選択が可能になる。フローサイトメトリーを用いる、好ましくはFACSを用いることによる効率的な選択を可能にするために、目的のポリペプチドを発現させるための特殊な発現カセット設計を用いることが有利である。したがって、一実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、発現される目的のポリペプチドの一部が膜アンカーを含むように設計される発現カセット中に含まれる。膜アンカーに融合される目的のポリペプチドは、融合ポリペプチドまたは融合タンパク質とも称される。その結果を達成するためのいくつかの選択肢が存在する。
一実施形態によれば、段階(a)で提供される宿主細胞は、
(i)aa)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
bb)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流の少なくとも1つの停止コドン、ならびに
cc)膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードする停止コドンの下流のさらなるポリヌクレオチド
を含む異種発現カセット;ならびに
(ii)選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドを含む少なくとも1つの異種発現カセット
を含み、段階(b)における選択は、
(i)少なくとも1つの選択可能マーカーについて選択的な条件下で宿主細胞を培養すること、および目的のポリペプチドの少なくとも一部が、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして発現され、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示される、目的のポリペプチドの発現を可能にすること;
(ii)フローサイトメトリーを用いて細胞表面上に提示される融合ポリペプチドの存在または量に基づいて、所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を選択することを含む、フローサイトメトリーに基づく選択を実施すること
を含む。
上記の発現カセットに含まれる目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写は、連続的な順序で、少なくとも、
aa)ポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドの翻訳が目的のポリペプチドをもたらすポリヌクレオチド;
bb)前記ポリヌクレオチドの下流の少なくとも1つの停止コドン;
cc)膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードする、前記停止コドンの下流のポリヌクレオチド
を含む転写物をもたらす。
転写物の少なくとも一部は、少なくとも1つの停止コドンの翻訳リードスルーにより、目的のポリペプチドと、膜アンカーとを含む融合ポリペプチドに翻訳される。この実施形態において用いられる発現カセットのこの設計は、翻訳リードスループロセス(停止コドンが「漏れやすい」)を介して、目的のポリペプチドの規定の一部が、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして生産される効果を有する。したがって、転写物の少なくとも一部は、少なくとも1つの停止コドンの翻訳リードスルーによって、目的のポリペプチドと、膜アンカーとを含む融合ポリペプチドに翻訳される。翻訳リードスルーは、停止コドンの選択/翻訳終結シグナルの設計のため自然に起こり得るか、または例えば、終結抑制剤を用いることにより、培養条件を適合させることにより誘導することができる。このリードスルーレベルは、ある特定の割合の融合ポリペプチドをもたらす。これらの融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドを細胞表面に堅く固定する、膜アンカーを含む。結果として、融合ポリペプチドは、細胞表面上に提示され、高レベルの膜固定型融合ポリペプチドを提示する細胞は、フローサイトメトリー、好ましくは、FACSにより選択することができる。それにより、高収率で目的のポリペプチドを発現する宿主細胞が選択される。この停止コドンリードスルーに基づく技術の詳細および好ましい実施形態は、WO2005/073375およびWO2010/022961に記載されており、それは詳細について本開示に付託される。
一実施形態によれば、発現カセットは、iv)例えば、GFPなどのリポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。リポーターポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドは、停止コドンの下流に位置する。停止コドンのリードスルーの際に、リポーターを含み、それによって、例えば、その蛍光などのリポーターポリペプチドの特徴に基づくフローサイトメトリーによる選択を可能にする融合ポリペプチドが得られる。前記実施形態の詳細は、既に上記されており、それは上記開示に付託される。好ましくは、リポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置する。
代替的な実施形態によれば、目的のポリペプチドの一部は、WO2007/131774に記載の技術を用いて細胞表面に提示される融合ポリペプチドとして発現させる。ここで、転写および転写物プロセシングにより、少なくとも2つの異なる成熟mRNA(mRNA−目的のポリペプチド)および(mRNA−目的のポリペプチド−アンカー)が、目的のポリペプチドをコードする発現カセットから得られる。mRNA−目的のポリペプチドの翻訳は、目的のポリペプチドをもたらす。mRNA−目的のポリペプチド−アンカーの翻訳は、目的のポリペプチドと、膜アンカーとを含む融合ポリペプチドをもたらす。結果として、この融合ポリペプチドは再度、細胞表面上に提示され、高レベルの膜固定された融合ポリペプチドを提示する細胞を、フローサイトメトリー、好ましくはFACSにより選択することができる。それにより、再度、高い発現率を有する宿主細胞を選択することができる。一実施形態によれば、発現カセットは、例えば、GFPなどのリポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。リポーターポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドは、イントロンの下流に位置する。それにより、リポーターポリペプチドを含む融合ポリペプチドが得られ、それによって、例えば、その蛍光などのリポーターポリペプチドの特徴に基づくフローサイトメトリーによる選択を可能にする。好ましくは、リポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置する。それにより、リポーターは宿主細胞の内部に位置する。
上記の両方の例示的実施形態は、目的のポリペプチドの一部が宿主細胞の表面に提示される融合ポリペプチドとして発現され、高レベルの膜固定された融合ポリペプチドを提示する細胞(高レベルの分泌型ポリペプチドを示す)を、例えば、フローサイトメトリー、特に、蛍光活性化細胞選別(FACS)により選択することができるという結果になる。ここで、異なる実施形態が利用可能である。例えば、リポーターポリペプチドが融合ポリペプチド中に含まれる場合、高発現宿主細胞は、リポーターポリペプチドの特徴、例えば、その蛍光に基づいて選択することができる。さらに、適切に標識された検出化合物を、以下で簡単に説明されるように用いることができる。
一実施形態によれば、段階b)は、宿主細胞を、細胞表面上に提示される融合ポリペプチドに結合する検出化合物と接触させることにより、フローサイトメトリーを用いて細胞表面上に提示される融合ポリペプチドの存在または量に基づいて所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の真核宿主細胞を選択すること、およびフローサイトメトリーを用いて結合した検出化合物の存在または量に基づいて所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を選択することを含む。したがって、細胞を、融合タンパク質に結合する適切に標識された検出化合物、例えば、目的のポリペプチドに対応する部分と接触させることができる。融合ポリペプチドに結合させるために用いられる検出化合物は、以下の特徴の少なくとも1つを有してもよい:前記化合物を標識する、特に、蛍光標識することができる、それが抗原であってもよい、それが免疫グロブリン分子もしくはその結合断片であってもよい、またはそれがプロテインA、GもしくはLであってもよい。細胞表面で融合ポリペプチドに結合させるために用いられる検出化合物は、例えば、融合ポリペプチドを認識する、免疫グロブリン分子または抗体もしくは抗体断片などのその断片であってもよい。基本的には、融合ポリペプチドの全ての接近可能な部分を検出することができ、その下で可溶性形態の融合ポリペプチドと並行して分泌される目的のポリペプチドに対応する部分も検出することができる。検出および選択を可能にするために、融合ポリペプチドに結合させるために用いられる前記検出化合物を標識することができる。細胞表面上に提示される融合ポリペプチドに結合する標識された検出化合物は、それにより、細胞表面を標識し、それぞれ、染色する。宿主細胞により発現される融合ポリペプチドの量が多くなるほど、より多くの標識された検出化合物が結合し、染色がより強くなる。結合した検出化合物の存在だけでなく、量も決定することができるため、これは宿主細胞のフローサイトメトリーに基づく選択を容易に実施することができるという利点を有する。高生産宿主細胞を選択するために、これらの宿主細胞を、検出化合物により最も効果的に、それぞれ、強く標識される宿主細胞の集団から選択することができる。標識は、フローサイトメトリーに基づく選択、特に、FACS選択にとって好適である。蛍光標識はフローサイトメトリーによる容易な検出を可能にするため、好ましい。
一実施形態によれば、約50%以下、25%以下、15%以下、10%以下、5%以下、2.5%以下、1.5%以下、1%以下または0.5%以下の融合ポリペプチドが得られるような発現カセットが構築される。残りの部分は、膜アンカーを含まない分泌型ポリペプチド形態として生産される。
膜アンカーは、それが細胞膜への目的のポリペプチドの固定を可能にし、したがって、細胞表面上での融合ポリペプチドの提示を可能にする限り、任意の種類のものであってもよい。好適な実施形態としては、これらに限定されるものではないが、GPIアンカーまたは膜貫通アンカーが挙げられる。細胞表面への融合ポリペプチドの堅い結合を確保し、融合タンパク質の剥離を回避するためには、膜貫通アンカーが好ましい。特に、目的のポリペプチドとして抗体を発現させる場合、特に好ましいのは、免疫グロブリン膜貫通アンカーの使用である。他の膜アンカーおよび免疫グロブリン膜貫通アンカーの好ましい実施形態は、WO2007/131774、WO2005/073375およびWO2010/022961に記載されている。
一実施形態によれば、宿主細胞は、目的のポリペプチドとして抗体などの免疫グロブリン分子を発現する。免疫グロブリン分子の重鎖をコードするポリヌクレオチドおよび免疫グロブリン分子の軽鎖をコードするポリヌクレオチドは、同じ発現カセット中に含まれていてもよく、または好ましくは、第1の態様と共に上記されたように、別々の発現カセット中に含まれる。目的のポリペプチドの一部が翻訳リードスルーまたは選択的スプライシングにより膜固定型融合ポリペプチドとして生産される、上記の発現カセット設計を用いる場合、そのような設計は抗体重鎖を発現させるために用いられる。
一実施形態によれば、2回以上のフローサイトメトリーに基づく選択サイクルを段階(b)において実施して、高発現宿主細胞を選択および富化することができる。
一実施形態においては、多量の目的のポリペプチドを発現し、したがって、高いシグナルを描く宿主細胞を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて選別する。FACS選別は、高収率で目的のポリペプチドを発現する細胞を同定および富化するために多数の宿主細胞の迅速なスクリーニングを可能にするため、有利である。この実施形態は、細胞を上記の融合タンパク質の発現に基づいて選択する場合、特に好適である。最も高い蛍光率を示すこれらの細胞を、FACSにより同定および単離することができる。FACSにより決定された場合の蛍光と、生産されるポリペプチドの量との間には、正の、また統計的に有意な相関が認められる。したがって、FACS選別は、一般に目的のポリペプチドを発現する細胞を同定するための定性的分析のために用いることができるだけでなく、実際には、高レベルの目的のポリペプチドを発現する宿主細胞を同定するために定量的に用いることもできる。それにより、最良の生産細胞を、段階(b)において選択/富化することができる。
一実施形態によれば、所望の収率で、例えば、宿主細胞のある特定の閾値を超えて、および/または上から15%、上から10%、上から5%もしくは上から2%を超えて目的のポリペプチドを発現する細胞を、プールとして選択する。例えば、いくつかの高発現細胞、例えば、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも500個、少なくとも1000個または少なくとも5000個の高発現細胞を、段階(b)において選択し、細胞プール中に選別することができる。複数の異なる高発現細胞を含むこの細胞プールは、高発現細胞プールとも称される。次いで、異なる個々の高発現細胞を含む前記細胞プールを用いて、目的のポリペプチドの大規模生産のための個々の細胞クローンを得ることができる。
一実施形態によれば、段階(a)で提供される真核細胞は、哺乳動物細胞、好ましくは、げっ歯類細胞、より好ましくは、CHO細胞などのハムスター細胞である。好適かつ好ましい実施形態は、第1の態様と共に上記されており、それは上記開示に付託される。上記のように、一実施形態によれば、前記CHO細胞は、第8染色体のテロメア領域の一部を失っており、前記失われた部分はFAM60A遺伝子を含む。代替的な実施形態も上記されている。これらの細胞は、収率および安定性に関して特に好ましい特徴を有する。一実施形態によれば、第2の態様による方法は、FAM60A遺伝子の発現が低下するか、または消失するかどうかを分析するステップを含む。そのような分析は、選択、特に、DHFR選択の後に実施することができる。そのような分析方法の詳細は本開示の第1の態様と共に既に上記されており、第5の態様による方法と共に以下にも記載され、それはそれぞれの開示に付託される。
特に、好ましくは哺乳動物細胞である第1の態様による真核細胞、発現ベクター、または発現ベクターの組合せに関するさらに好ましい実施形態は上に詳細に記載されている。それは上記開示に付託される。
第2の態様による選択方法の結果として得られた細胞を単離し、個々の細胞として培養することができる。しかしながら、異なる宿主細胞の富化された集団、すなわち、細胞プールを、下流のプロセスにおいて用いることもできる。得られた宿主細胞を、さらなる定性的もしくは定量的分析にかけてもよく、または、例えば、タンパク質生産のためのクローン細胞株の開発において用いることができる。クローン細胞株は、高収率で目的の生成物を安定に発現する選択された宿主細胞から確立することができる。
したがって、一実施形態によれば、選択された細胞を培養して、特に、クローン細胞培養物の形態で、細胞クローンを提供する。クローン細胞培養物は、1つの単一の先祖細胞から誘導される細胞培養物である。クローン細胞培養物中、全ての細胞は、互いのクローンである。好ましくは、細胞培養物中の全ての細胞は、同じか、または実質的に同じ遺伝子情報を含有する。ある特定の実施形態においては、細胞培養物中の目的のポリペプチドの量または濃度は、生産性を決定するために決定される。例えば、力価は、培養上清を分析することにより測定することができる。一実施形態によれば、それぞれ個々のクローンの生産能力を決定した後、力価の順位付けを行って、生産クローンとしての最良の生産クローンを選択する。さらに、安定性研究を、得られた細胞クローンに関して実施することができる。しかしながら、実施例に示されるように、宿主細胞として本明細書に記載される新規細胞の使用は、選択後に、有意に改善された安定性を示す組換え細胞クローンを提供する。したがって、発現安定性の喪失は、それぞれの宿主細胞に関してはより稀であり、さらに、起こる場合、FAM60A遺伝子の機能的発現が低下せず、消失しない細胞を用いた場合と比較して、生産性のあまり劇的ではない低下のみをもたらすことが多い。したがって、安定性分析を短縮するか、またはさらには省略することができ、これは目的の生成物の大規模生産のために用いることができる安定発現細胞クローンを取得するのに必要とされる時間を短縮するため、重要な利点である。
C.目的の生成物を生産するための方法
第3の態様によれば、目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞として、第1の態様による真核細胞を用いることを含む、目的の組換え産物を生産するための方法が提供される。
上記のように、本明細書に提供される新規真核細胞は、目的のポリペプチドなどの目的の生成物を組換え生産するための生産宿主細胞として特に好適である。前記真核細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果が、好ましくは、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより減弱される、前記細胞の好適かつ好ましい例、ならびに目的の生成物の好適かつ好ましい例は、上に詳細に記載されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。上記のように、真核細胞は、好ましくは、脊椎動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である。特に有利なのは、FAM60Aに加えて、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、例えば、それにより、生産収率を有意に改善することができることがわかったため、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより減弱される実施形態である。FAM60Aタンパク質ならびにC12orf35タンパク質の効果を減弱させることにより、長期安定性ならびに生産収率の両方の特徴、したがって、目的の生成物、特に、目的のポリペプチドの大規模生産にとって重要な鍵となる特徴に関して改善された特徴を示す、哺乳動物宿主細胞を提供することができる。
好ましくは、哺乳動物細胞である真核宿主細胞は、ゲノム中に安定に組み込まれた、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む。前記ポリヌクレオチドの導入は、上記のような安定的トランスフェクションにより達成することができる。うまくトランスフェクトされた細胞の選択は、第2の態様による方法を用いて行ってもよい。
一実施形態によれば、方法は、
(a)第1の態様による宿主細胞を、目的の生成物の発現を可能にする条件下で、培養すること;
(b)前記細胞培養培地および/または前記宿主細胞から目的の生成物を単離すること;ならびに
(c)場合により、単離された目的の生成物をプロセシングすること
を含む。
一実施形態によれば、前記宿主細胞は、無血清条件下で培養する。発現された目的の生成物は、宿主細胞を破壊することにより取得することができる。好ましくは、目的の生成物はポリペプチドである。ポリペプチドは、好ましくは、培養培地中で発現され、例えば、分泌され、それから取得することができる。この目的のために、適切なリーダーペプチドを、目的のポリペプチド中に提供する。分泌を達成するためのリーダー配列および発現カセットの設計は、先行技術において周知である。また、それぞれの方法の組合せも可能である。それにより、タンパク質などのポリペプチドを、高収率で効率的に生産させ、取得/単離することができる。
好ましくは、生産されるポリペプチドである目的の生成物を、当業界で公知の方法により回収する、さらに精製する、単離する、加工する、および/または改変することができる。例えば、ポリペプチドは、これらに限定されるものではないが、遠心分離、濾過、限外濾過、抽出または沈降などの従来の手順により、栄養培地から回収することができる。精製ステップなどのさらなるプロセシングステップを、これらに限定されるものではないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティ、疎水性、クロマト分画、およびサイズ排除)、電気泳動手順(例えば、分取等電点電気泳動)、示差的溶解度(例えば、硫酸アンモニウム沈降)または抽出などの、当業界で公知の様々な手順により実施することができる。さらに、単離および精製された目的の生成物を、組成物、例えば、医薬組成物にさらに加工する、例えば、製剤化することができる。
D.真核細胞を生産するための方法
第4の態様によれば、真核細胞のゲノムを変化させ、前記細胞中に、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む少なくとも1つの発現ベクターを安定にトランスフェクトすることにより、真核細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させることを含む、目的の生成物の組換え生産にとって好適な真核細胞を生産するための方法が提供される。その結果を達成するための好適かつ好ましい実施形態は、第1の態様による真核細胞と共に上記されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。非限定的実施形態を再度、以下で簡単に説明する。
一実施形態によれば、方法は、真核細胞中でのFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させるように前記細胞のゲノムを変化させ、それによって、前記細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させることを含む。好適な方法は、本開示の第1の態様による真核細胞と共に上記されており、それはそこに付託される。
例えば、遺伝子ノックアウトを、FAM60A遺伝子中に導入することができる。一実施形態によれば、そのような遺伝子ノックアウトを、1より多いコピーが存在する場合、FAM60A遺伝子の全コピー中に導入する。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子を欠失させる。1より多いコピーが存在する場合、FAM60A遺伝子の全コピーをゲノム中で欠失させてもよい。一実施形態によれば、方法は、染色体の一部を欠失させることを含み、ここで、欠失部分はFAM60A遺伝子を含む。欠失部分は、テロメア領域に対応してもよい。しかしながら、遺伝子再配置のため、前記領域はまた、染色体の異なる領域中に位置してもよい。そのような欠失を、例えば、染色体切断を誘導する薬剤を用いることにより誘導することができる。ここで、例えば、FAM60A遺伝子の全コピーが、誘導される染色体切断のために欠失されるため、細胞をそのような薬剤で繰り返し処理して、前記遺伝子の機能的発現が低下したか、または消失した細胞を取得することができる。
一実施形態によれば、真核細胞は、後生動物細胞、好ましくは、脊椎動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である。一実施形態によれば、哺乳動物細胞は、げっ歯類細胞である。好ましくは、げっ歯類細胞は、CHO細胞、例えば、CHO−K1から誘導されるCHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞である。一実施形態によれば、方法は、ハムスター細胞中の第8染色体のテロメア領域の少なくとも一部を欠失させることを含み、ここで、前記欠失部分は、FAM60A遺伝子を含む。実施例により示されるように、第8染色体、ここではq腕のテロメア領域にそれぞれの欠失を含むCHO細胞は、特に好ましい発現特徴を有し、したがって、組換え生産のための宿主細胞として特に好適である。一実施形態によれば、欠失したテロメア領域は、FAM60A遺伝子と、Caprin2、Ipo8およびRPS4Y2からなる群から選択される1つもしくは複数または全部の遺伝子を含む。一実施形態によれば、欠失領域は、Tmtc1遺伝子の少なくとも一部または全部をさらに含む。一実施形態によれば、方法は、第8染色体対の両染色体中のテロメア領域の少なくともそれぞれの部分を欠失させることを含む。上記の個々の遺伝子および/またはコードされるタンパク質の非限定的代替名も上記の表1に示し、それぞれの遺伝子は、個々の遺伝子について上記で用いられる用語の範囲により包含されるホモログおよびオルソログも同様である。
上記のように、マウスにおける第6染色体のテロメア領域は、チャイニーズハムスターにおける第8染色体のテロメア領域に対応する。したがって、ハムスターの第8染色体のテロメア領域に関する上記開示は、マウスにおける第6染色体のテロメア領域に一致して適用される。
一実施形態によれば、方法は、ハムスターゲノムの第8染色体(またはマウスゲノムの第6染色体)のテロメア領域中で染色体切断を引き起こすことを含み、ここで、第8染色体(またはマウスゲノムの第6染色体)上の切断点は、Fam60a遺伝子のセントロメア、Caprin2遺伝子のセントロメア、Ipo8遺伝子のセントロメアまたはRPS4Y2遺伝子のセントロメアに位置する。それにより、そのテロメアに存在する、すなわち、テロメア末端の方向にさらに位置する全ての遺伝子が欠失される。上記の個々の遺伝子ならびにホモログおよびオルソログの非限定的代替名も上記の表1に示し、それぞれの遺伝子およびコードされるタンパク質は個々の遺伝子および/またはタンパク質について上記で用いられた用語の範囲により包含される。一実施形態によれば、テロメア領域中に染色体切断を含む得られた細胞は、
a)切断点がIpo8遺伝子のセントロメアに位置する;
b)切断点がTmtc1遺伝子内に位置する
という特徴の1つまたは複数を有する。
上記で論じたように、切断点のテロメアに位置する、すなわち、テロメア末端の方向にさらに位置する全ての遺伝子が、欠失領域中に含まれる。これは、FAM60A遺伝子を含む。そのような切断点を有するそれぞれの哺乳動物細胞を同定するための方法は上記されており、また、本開示の第5の態様と共に以下に記載される。一実施形態によれば、Ergic2遺伝子は欠失されない。
一実施形態によれば、好ましくはK1細胞株から誘導されるCHO細胞を用いて、好ましくは、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、FAM60Aタンパク質の効果が減弱される、変化した哺乳動物細胞株を生産する。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子を含む第8染色体のq腕上のテロメア領域を欠失させる。その結果を達成するための方法の詳細は、当業者には公知であり、好適な実施形態は本明細書にも記載され、前記開示に付託される。特に有利なのは、さらに、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、例えば、それにより、生産収率を有意に改善することができることがわかったため、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記細胞中で減弱される実施形態である。したがって、一実施形態によれば、第4の態様による方法は、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることをさらに含む。好ましくは、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、これらの結果を達成するための方法は、上記で説明されており、それはそれぞれの開示に付託される。FAM60AとC12orf35の両方の効果が細胞中で減弱されるように変化させた哺乳動物宿主細胞は、特に好ましい発現特徴を有する。それにより、長期安定性ならびに生産収率の両方の特徴、したがって、目的の生成物、特に、目的のポリペプチドの大規模生産にとって重要な鍵となる特徴に関して改善された特徴を示す哺乳動物宿主細胞が提供される。
一実施形態によれば、第4の態様による方法は、FAM60A遺伝子の機能的発現が低下したか、または消失した真核細胞中に、目的の生成物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、好ましくは、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを導入することを含む。一実施形態によれば、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドと、選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、同じか、または別々の発現ベクター上に位置する。好適かつ好ましい実施形態は上記されており、それはそれぞれの開示に付託され、ここにも当てはまる。発現ベクターは宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、安定にトランスフェクトされた細胞が提供される。うまくトランスフェクトされた、目的の生成物を発現する宿主細胞は、第2の態様による方法を用いて選択することができる。それは上記開示に付託される。
E.真核細胞を分析するための方法
第5の態様によれば、目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞としてのその好適性について真核細胞を分析するための方法であって、FAM60A遺伝子の発現産物の機能が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的に分析することを含む方法が提供される。上記のように、真核細胞は、好ましくは、哺乳動物細胞である。
この分析方法を、例えば、本開示の第4の態様による方法と組み合わせて有利に用いて、FAM60Aタンパク質の効果が減弱された真核細胞が生産されたかどうかを同定することができる。さらに、前記方法を用いて、選択/スクリーニングプロセスの間に安定なクローンまたは不安定なクローンの間を識別することができる。さらに、実施形態において、この方法をさらに用いて、高生産クローンと低生産クローンを識別することができる。この分析方法を用いることにより、好ましい発現特徴を有するクローンを、選択プロセスの初期に同定することができる。これは、安定かつ高生産クローンを選択する確率を増大させ、より高い割合の高く安定な生産クローンが得られる。したがって、この分析方法は、好適な生産クローンを同定するのに必要とされる時間を短縮するため、重要な用途を有し、組換え発現技術のさらなる改善を提供する。
好ましい実施形態によれば、方法は、FAM60A遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することを含む。FAM60A遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するかどうかの分析は、直接的または間接的に実施することができる。非限定的実施形態は以下に記載される。どの分析方法が好適であるかは、細胞をどのように変化させて、内因性FAM60A遺伝子の機能的発現の低下または消失を達成するかにも依存する。
例えば、FAM60A遺伝子中にノックアウトを導入して、FAM60A遺伝子の発現を低下させるか、または消失させる場合、対応するDNAセクションを増幅させ、増幅されたDNAを配列決定して、遺伝子ノックアウトがFAM60A遺伝子中に導入されたことを確認することができる。FAM60A遺伝子の機能的発現が、前記遺伝子を完全に、または部分的に欠失させることにより低下するか、または消失する場合、例えば、欠失を検出するための好適な増幅に基づく検出方法(そのような方法は当業者には公知である)を用いて、DNAレベルで欠失を検出することができる。
一実施形態によれば、真核細胞の発現プロファイルを分析して、FAM60A遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するかどうかを決定する。例えば、分析は、FAM60A mRNAの存在、非存在、量または長さを検出するための、定性的または定量的RT(逆転写)PCRを実施することを含んでもよい。この分析はFAM60A遺伝子の転写物を直接含むため、これは直接的分析の一例である。FAM60A遺伝子の発現状態を、FAM60A遺伝子とは異なる遺伝子の発現プロファイルを分析することにより間接的に決定し、したがって、分析がFAM60A遺伝子またはその転写物の分析を直接含まない間接的分析も好適であり、したがって、「FAM60A遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するかどうかを分析すること」という用語に包含される。そのような間接的分析は、例えば、FAM60A遺伝子(および他の遺伝子)を含む染色体部分が染色体切断により欠失される場合に好適であり、以下で説明される。定量的分析のために、参照(例えば、変化していない対応する細胞)との比較を実施することができる。
一実施形態によれば、内因性C12orf35遺伝子の発現産物の効果が前記細胞中で減弱されるかどうかが直接的または間接的にさらに分析される。これは、C12orf35遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを決定することにより分析することができる。この分析は、FAM60A遺伝子について記載されたように、変更すべきところは変更して実施することができる。それは上記論述に付託される。
一実施形態によれば、分析の前に、細胞を、染色体切断を誘導する薬剤で処理して、FAM60A遺伝子を含む染色体の一部を欠失させる。上記のように、FAM60A遺伝子の全コピーを、それにより欠失させることができた。次いで、分析は、前記薬剤による処理が、FAM60A遺伝子を含む染色体の一部の欠失をもたらしたかどうかを分析することを含んでもよい。この細胞を、染色体切断が起こるように、適切な濃度の染色体切断を誘導する薬剤で処理する。ここで、数回の処理を実施することもできる。選択が十分に高い濃度で染色体切断を誘導する薬剤の使用を含む場合、染色体切断を選択プロセスの間に誘導することができる。好適な薬剤の非限定例は、例えば、MTXである。この場合、細胞は、MTX処理を生き残ることができるために選択可能マーカーとしてDHFRをコードする異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。しかしながら、上記で論じたように、例えば、ハイグロマイシンなどの他の薬剤を用いることもでき、これは実施例により確認された。
染色体切断を誘導するために細胞を処理した後、得られた細胞を第5の態様による方法を用いて分析して、前記薬剤による処理がFAM60A遺伝子を含む染色体の一部の欠失をもたらしたかどうかを決定することができる。様々な実施形態がその目的にとって好適である。一実施形態によれば、処理された細胞の発現プロファイルを分析する。例えば、FAM60A遺伝子またはFAM60A遺伝子のセントロメア(すなわち、染色体中のテロメア末端からさらに遠く)に位置する1つもしくは複数の遺伝子が発現されるかどうかを分析することができる。例えば、マウスまたはチャイニーズハムスター細胞の場合、FAM60A遺伝子が発現されるかどうか、したがって、そのmRNAを検出することができるかどうかを分析することができる(直接的分析の例)、あるいは、またはそれに加えて、Caprin2、Ipo8、Tmtc1もしくは上記遺伝子のテロメアに位置する遺伝子からなる群から選択される1つもしくは複数の遺伝子が細胞により発現されるかどうかを分析することができる(間接的分析の例)。上記の個々の遺伝子の非限定的代替名も上記の表1に示され、それぞれの遺伝子は、個々の遺伝子およびコードされる産物について上記で用いられた用語の範囲により包含される。誘導される切断点がそれぞれの遺伝子のセントロメアに位置する場合、その発現を消失させるか、または低下させる(発現される遺伝子の他のコピーが、他の場所に存在した場合)前記遺伝子は欠失される。図1から明らかなように、FAM60A遺伝子は上記遺伝子のテロメアに位置する。したがって、上記遺伝子が欠失される場合、欠失領域もまたFAM60A遺伝子を含む。したがって、上記遺伝子は、誘導された染色体切断がFAM60A遺伝子の欠失をもたらし、したがって、FAM60A遺伝子の発現の低下または消失をもたらしたかどうかを基本的には間接的に決定するためのマーカーとして正当に用いることができる。したがって、FAM60A遺伝子の発現が低下したか、または消失したかどうかの分析は、例えば、FAM60A mRNAの直接的分析に必ずしも基づく必要はなく、そのような間接的方法もまた第5の態様の方法により包含される。さらに、FAM60A遺伝子のテロメア(すなわち、テロメア末端の方向にさらに下方)に位置するとしても、C12orf35およびBicd1などの遺伝子を、FAM60A遺伝子の欠失をもたらす染色体切断が誘導されたかどうかを決定するためのマーカーとして用いることもできることが見出された。CHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞の分析と共に、染色体切断のためにBicd1またはC12orf35遺伝子が欠失される場合、欠失したテロメア領域は通常、FAM60Aも含むことがわかった。数百個のクローンの発現特徴を分析することにより、上記の遺伝子をマーカーとして正当に用いて、高く安定な発現特徴を有する細胞クローンと、低く不安定な発現特徴を有する細胞クローンとを識別することができることが確認された。CHO細胞中の上記遺伝子の相対的発現を、図2に示す。
一実施形態によれば、第5の態様による方法は、ハムスター細胞、好ましくは、CHO細胞を分析するためのものであり、該方法は、第8染色体のテロメア領域に位置し、Tmtc1遺伝子およびTmtc1遺伝子のテロメアに位置する遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子の発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することにより、FAM60A遺伝子の発現が前記細胞中で低下するかどうかを分析することを含む。上記のように、染色体切断を導入する薬剤による処理後に、Tmtc1遺伝子および/またはTmtc1遺伝子のテロメアに位置する遺伝子を最早発現しないそれぞれの細胞は通常、前記遺伝子を含み、特に、FAM60A遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域中に欠失を含む。切断点のテロメアの遺伝子材料は失われる。
一実施形態によれば、上記の特徴を有する選択される宿主細胞に、目的の生成物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み、好ましくは、少なくとも1つの選択可能マーカーを含む発現ベクターをトランスフェクトする。好適な実施形態は、他の態様と共に上記されており、それは上記開示に付託される。
一実施形態によれば、第5の態様による方法を用いる分析を実施する前に、真核細胞に、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトし、分析の前に、少なくとも1つの選択ステップを実施して、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定する。好適な実施形態は、上に詳細に記載されている。一実施形態によれば、選択は、染色体切断を誘導する選択剤の使用を含む。この実施形態においては、選択可能マーカーはDHFRであってもよく、選択剤はMTXであってもよい。あるいは、選択剤はハイグロマイシンであってもよく、選択可能マーカーは、例えば、hph遺伝子などのハイグロマイシンに対する耐性を付与する遺伝子であってもよい。方法を選択プロセスの間または後に実施するそのような適用においては、第5の態様による方法を分析手段として用いて、選択された細胞集団内で、FAM60A遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するそのような細胞を同定することができる。記載のように、そのような低下または消失を、例えば、FAM60A遺伝子の欠失をもたらす染色体切断がそれにより誘導され、第5の態様による方法が、例えば、その発現プロファイルに基づくそのような細胞の同定を可能にする場合、選択条件により引き起こすか、または支援することができる。これにより、目的の生成物の高い発現が安定なままであると予想することができるため、その発現プロファイルのため、特に、FAM60A遺伝子の機能的発現の低下または消失のため、組換え生産細胞株を確立するのに特に好適であるそのような細胞または細胞クローンの同定が可能になる。これは特に、FAM60A遺伝子が失われる場合、C12orf35遺伝子も同様に失われるため、本明細書に記載のように発現収率を有意に増大させる。記載のように、FAM60A遺伝子が第8染色体のテロメア領域に位置するCHO細胞などのハムスター細胞の場合、その細胞は第8染色体、好ましくは、q腕のテロメア領域を失っており、それによって、FAM60A遺伝子の発現を低下させるか、または消失させるのが好ましい。分析方法を、高発現細胞の集団中に含まれる細胞から細胞クローンを生成した後に実施することができる。一実施形態によれば、安定生産細胞クローンと不安定生産細胞クローンおよび/または高生産細胞クローンと低生産細胞クローンとを識別するために、複数の細胞クローンを分析する。
一実施形態によれば、第5の態様による方法は、好ましくは、目的の生成物、好ましくは、目的のポリペプチドの組換え発現のために、FAM60A遺伝子の機能的発現の低下または消失により、FAM60A遺伝子の発現産物の機能が減弱される少なくとも1つの細胞を選択することを含む。それぞれの特徴を有する細胞は、実施例により示されるような組換え発現にとって特に好適である。それぞれの細胞のさらなる実施形態も上に詳細に記載されている。記載のように、好ましくは、脊椎動物細胞、最も好ましくは、哺乳動物細胞などを、真核宿主細胞として用いる。
F.目的の生成物の組換え生産のための変化した真核細胞の使用
第6の態様によれば、本開示は、目的の生成物を組換え発現させるための単離された真核細胞の使用であって、真核細胞のゲノムが、FAM60Aタンパク質の効果が前記細胞中で減弱されるように変化している、使用に関する。それぞれの変化した真核宿主細胞および好ましくは、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果の減弱を達成するのに好適な実施形態に関する詳細は、上に詳細に記載されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。非限定的実施形態を、以下で簡潔に説明する。
真核細胞は、後生動物、脊椎動物または哺乳動物細胞から選択することができる。好ましくは、真核細胞は、げっ歯類細胞などの哺乳動物細胞である。好ましくは、CHO細胞である。真核細胞のゲノムを、上に詳述されるように変化させることができる。一実施形態によれば、さらに、好ましくは、内因性C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が前記細胞中で減弱される。この実施形態に関する詳細および関連する利点は上に詳述されており、それは上記開示に付託される。
一実施形態によれば、目的の生成物は、ポリペプチドである。好ましくは、目的のポリペプチドは、真核細胞中での発現の際に、細胞培養培地中に分泌される。目的のポリペプチドに関する詳細は上記されており、それはそれぞれの開示に付託される。目的の生成物の発現を可能にするために、真核宿主細胞に、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを安定的にトランスフェクトすることができる。詳細は上記されており、それは上記開示に付託される。好ましくは、第1の態様による真核宿主細胞を、真核宿主細胞として用いる。前記細胞は、上に詳述されており、それは上記開示に付託される。
本明細書に記載の数値範囲は、範囲を規定する数を包含する。本明細書に提供される見出しは、全体として本明細書を参照して読むことができる本開示の様々な態様または実施形態の限定ではない。一実施形態によれば、ある特定の要素を含むとして本明細書に記載の主題はまた、それぞれの要素からなる主題も指す。特に、ある特定の配列を含むとして本明細書に記載されるポリヌクレオチドはまた、それぞれの配列からなっていてもよい。本明細書に記載の好ましい実施形態を選択し、組み合わせることが好ましく、好ましい実施形態のそれぞれの組合せから生じる特定の主題も本開示に属する。
本出願は、2013年12月20日に出願された、先行する米国仮出願第US61/919340号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
以下の実施例は、いかなる意味でも本発明の範囲を限定することなく本発明を例示するのに役立つ。特に、実施例は、本発明の好ましい実施形態に関する。
実施例1: TALEN技術を用いたCHO細胞中でのFAM60Aのノックアウト
FAM60A遺伝子中にノックアウト変異を含む、CHO−K1細胞株から誘導されたCHO細胞に基づく2つの細胞クローンを作製した。FAM60A変異細胞を作出するために、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)技術を用いた。FAM60Aのノックアウトのために、FAM60A遺伝子のコード領域(推定エクソン1)を標的化した。親細胞として用いられるCHO−K1細胞は、1コピーのFAM60Aしか含有しない。したがって、前記細胞中のFAM60Aの効果を減弱させるためには、細胞あたり単一のノックアウトで十分である。
1.FAM60Aに特異的であるTALENの設計/生産および使用
CHO親細胞株のFAM60A遺伝子の以下のゲノムDNAエクソン配列を標的化した:
TALEN結合部位のヌクレオチドを太字で示す。上に示されたFAM60のコード配列(配列番号23)を標的化する2つのTAL FokIを設計した。配列番号23について上に示されたように、TALEN TAL−Lは、FAM60A遺伝子の5’(フォワード)DNA鎖上の印を付けた25ヌクレオチドを標的とし、これに結合し、TALEN TAL−Rは、3’(リバース)DNA鎖上の印を付けた25ヌクレオチドを標的とし、これに結合する(ノックアウトを同定するために後で用いたプライマー配列をさらに示す表2も参照されたい)。2つの結合部位は、切断部位の16個のヌクレオチドにより隔てられている。2つのTALEN TAL−LおよびTAL−Rをコードするプラスミドを得た。
配列番号23に示される標的化されたコード配列を包含し、イントロン部分に位置するプライマー1、2および4のためのプライマー結合部位を超えて伸長もするFAM60A遺伝子のゲノムDNA配列の一部を、配列番号30として示す。
2.TALENプラスミドのトランスフェクション
95%を超える生存能力を有する指数増殖期にある親CHO細胞および5μgのそれぞれのTALENプラスミドを用いるエレクトロポレーションを含む標準的なトランスフェクションプロトコールを用いて、トランスフェクションを実行した。
3.Cel−l−アッセイおよび細胞選別
Cel−l−アッセイを、SAFC Biosciencesのマニュアルに従って実施した。Cel−l−アッセイは、切断高率を決定するための標準的なアッセイである。簡単に述べると、数日間の培養後、細胞からゲノムDNAを単離し、プライマー1および2を用いてPCRを実施した(表2を参照されたい)。増幅産物を変性させ、復元させた。次いで、ヌクレアーゼSおよびヌクレアーゼSエンハンサーを添加し、インキュベートした。消化された産物を分析した。TALEN活性が存在した場合、2つのより小さいバンドが存在し、ゲノムのその領域内のTALEN活性を示し、したがって、FAM60A遺伝子がノックアウトされた細胞が分析された細胞プール中に存在することを支持する。陽性細胞プールから、単一の細胞を、限界希釈により96ウェルプレート中で選別した。
4. スクリーニング戦略
ゲノムDNA(gDNA)を、96ウェルプレート中、各クローンから抽出した。gDNAを標準的な手順により分析して、PCR分析によりノックアウトクローンを同定した。この目的のために、プライマー3および4(表2を参照されたい)を用いた。切断領域中の変異の場合、プライマー3は結合せず、PCR産物は生成されない。陽性クローンのgDNAのプライマー1および2を用いるPCRから得られるPCR産物(上記参照)を配列決定して、導入された変異を分析した。
ノックアウト変異を有する2つの細胞クローンを得た:14ヌクレオチドの欠失を有するFAM60A_ko_s16(s16)および5ヌクレオチドの欠失を有するFAM60A−ko_s23(s23)。細胞クローンの変異配列を、表3に示す。欠失のそれぞれは、フレームシフトをもたらす。FAM60Aの標的化された配列内のフレームシフトのため、読み枠内に停止コドンを提供する(斜体および下線付きのヌクレオチドによって表3中で強調される)。したがって、異常に短く、あまり機能的でない、または非機能的なFAM60A発現産物が、得られたFAM60Aノックアウトクローンにより発現されることが予想される。
5.安定性分析
FAM60Aノックアウトクローンが得られた親WT細胞株および得られたFAM60Aノックアウト細胞に、目的のポリペプチドとして抗体をコードする発現ベクターを安定にトランスフェクトした。トランスフェクトされた発現ベクターは、選択可能マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセット、選択可能マーカーとしてDHFRをコードする発現カセット、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含み、完全な抗体が前記発現ベクターから発現された。発現ベクター中の全ての発現カセットは、同じ方向に向いていた。重鎖の一部が、停止コドンリードスルーのため、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして発現されるように、重鎖のために用いられる発現カセットを設計した。融合タンパク質は細胞表面上に提示され、それによって、FACS分析を単純化した(説明を参照されたい)。トランスフェクトされた細胞を、G418およびMTX(1μM)選択を用いる組換え発現のために選択した。それぞれの安定にトランスフェクトされた細胞株(CHO WT、s16およびs23)の選択されたプールから、良好な収率で目的の生成物を発現した細胞クローンを取得し、数週間(WO CHO親細胞株(45個のクローン)については7週間およびFAM60Aノックアウト細胞(s16については13個のクローンおよびs23については18個のクローン)については8週間)培養して、長期培養中のその発現安定性を分析した。生産細胞株を高容量バイオリアクターに規模拡大することができることを確保するために、12週間の安定性研究、特に、12週間の培養中の発現安定性のさらなる分析も実施した。クローンが、分析される安定性期間にわたって25%を超えるその初期容量発現力価を失った場合、それらを不安定であると分類した。通常の変動レベル内で、いくつかのクローンは25%の境界線のすぐ上であるか、または下である。親細胞株に関する12週目と比較して、7/8週目におけるより高い割合の不安定クローン(unstable cones)を、25%閾値に近いクローンに関する生産性アッセイにおける変動を用いて説明することができる。
表4は、細胞株に関して得られた安定性の結果を比較するものである。見られるように、安定な容量力価を有するクローンのパーセンテージは、野生型細胞株から誘導されるクローンと比較して、いずれかのFAM60Aノックアウト細胞株から誘導されるクローンにおいてかなり高い。これは、ここでは遺伝子ノックアウトを導入することにより細胞中での内因性FAM60Aの効果を減弱させることが、長期培養中の安定性の結果を有意に改善することを証明している。長期培養中にその好ましい高発現特徴を維持するより安定なクローンが得られるように、本発明の細胞を用いた場合、安定なクローン対不安定なクローンの比率は有意に増大する。本実施例において組換え発現された抗体は、コドン最適化されておらず、親細胞株において、非常に高い程度の不安定性を示した。この有意な不安定性のため、このプロジェクトは、野生型の非改変細胞株に関して不安定率が高い困難なプロジェクトに直面する場合であっても、本発明を用いて達成される有意な利益を証明するため、比較のための例として選択した。しかしながら、他のプロジェクトと共に、上記で論じたように、親CHO野生型細胞株に関しては、不安定率はあまり高くない。しかしながら、分析された全ての事例において、FAM60Aの効果が前記細胞において減弱された、本開示による宿主細胞は、非改変野生型と比較して、安定な細胞の量の有意な増加を達成する。安定率は、プロジェクトに応じて、最大で60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、またはさらには90%以上に達してもよい。例えば、FAM60A遺伝子中に遺伝子ノックアウトを含むか、またはFAM60A遺伝子を含むテロメア領域の一部が染色体切断のために失われる、本開示による細胞に関して、不安定なクローンは分析されるプロジェクトに関係なく、有意に低頻度で出現し、出現する場合であっても、容量生産性(volumetric productivity)の喪失は、FAM60Aの効果が細胞中で減弱されていない対応する細胞と比較してあまり顕著ではなかった。したがって、トランスフェクションおよび選択の後に得られる安定なクローンのパーセンテージの増大のため、本開示による細胞は、長期安定性研究を有意に短縮させるか、またはさらには省略させる。FAM60Aノックアウトクローンの安定性研究は、本開示の技術を用いて達成される有益な結果を確認する。
結果は図3にも示され、ここでは、遺伝子ノックアウトにより、細胞中のFAM60Aの効果を減弱させた場合に達成される重要な利点を証明する。
実施例2: RNA干渉(RNAi)によるC12orf35遺伝子発現の低下は発現収率を増大させる
上記のように、FAM60Aタンパク質の効果が減弱された真核細胞中でC12orf35遺伝子の発現産物の効果をさらに減弱させることが特に好ましい。減弱を達成するための好適な方法は、上記されており、これらに限定されるものではないが、内因性C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることが挙げられる。好ましくは哺乳動物細胞などの、真核細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱は、それぞれの細胞から発現される目的の組換えポリペプチドの発現収率を驚くほど有意に増大させることがわかった。C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させる場合に得られる発現収率に関するこの有益な効果を、この実施例2において証明する。
C12orf35遺伝子の発現の低下が容量生産性および特異的生産性の増大をもたらすことを証明するために、分析されるチャイニーズハムスターゲノム(CHO−K1)の第8染色体のテロメア領域に位置する異なる標的遺伝子に対するsiRNAを設計した。表2に列挙される以下の標的遺伝子に対するsiRNAを設計した。
用いられるsiRNAを、リアルタイムRT−PCRを用いて検証して、それらが遺伝子サイレンシングにより標的遺伝子の発現を低下させることを確認した。遺伝子発現を18S RNAに対して正規化した。siRNA陰性対照をトランスフェクトした場合に観察された遺伝子発現を、100%と設定した。標的遺伝子の発現の相対的低下を、標的遺伝子C12orf35に対する2つの異なるsiRNAについて以下の表6に示す。
さらに、この実験において用いられる標的siRNAは、トランスフェクトされた細胞の成長を阻害しないことが確認された。さらに、利用可能なチャイニーズハムスターゲノムデータに基づくBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析は、オフターゲット効果を示さない。
以下の細胞株をトランスフェクトした:CHO−K1から誘導されるCHO細胞株を、親細胞株として用いた。前記細胞株は、図2に示されるような上記遺伝子を発現する。この親細胞株には、発現ベクターをトランスフェクトせず、対照として役立てた。ゲノム中に安定に組み込まれた目的のタンパク質としての抗体をコードする発現ベクターを含む前記親細胞株から誘導されるCHO細胞(クローンおよびプール)を用いて、siRNAの効果を決定した。前記細胞クローン中に含まれる発現ベクターは選択可能マーカー遺伝子を含み、抗体重鎖および抗体軽鎖は異なる発現カセットから発現された。重鎖のために用いられた発現カセットは、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして重鎖の一部が停止コドンリードスルーに起因して発現されるように設計された。融合タンパク質は、細胞表面上に提示され、それによって、FACS分析を単純化した(説明を参照されたい)。前記CHO細胞は、親細胞株と同様、上記のsiRNA標的遺伝子を発現し、数百個のクローンおよびプールに関するマイクロアレイにより決定された。抗体を組換え発現したCHOクローンを用いて、上記標的遺伝子の1つまたは複数の下方調節が、目的のポリペプチドの発現の増加をもたらすかどうかを決定した。これが当てはまった場合、FACS分析を用いて検出可能である、前記細胞クローンの抗体容量生産性の増大が見られる。
ゲノム中に安定に組み込まれた発現ベクターを含むCHOクローンに、siRNA対照(遺伝子発現に対する効果を有さない)または標的遺伝子に対する上記のsiRNAの1つをトランスフェクトした。siRNAのトランスフェクション後、標的遺伝子の発現の低下が抗体の発現の増加をもたらすかどうかを分析した。特に、トランスフェクトされた細胞を、蛍光検出化合物を用いることにより染色し、FACSにより分析して、抗体の発現率を決定した。抗体が多く生産されるほど、標識された化合物を用いて染色することができる提示される融合タンパク質が多くなり、したがって、FACSにより検出される蛍光シグナルが高くなる。したがって、FACSプロファイルにおける強度が高いほど、多くの抗体が発現される。
その結果を、試験された異なるsiRNAについて図4A〜Lに示す。プロファイル中の左側のピークは、抗体を発現しない親細胞株について得られたシグナルに対応する。他の2つの曲線は、siRNA陰性対照(発現に対する効果なし)またはその標的遺伝子の発現を低下させる試験されたsiRNAのいずれかをトランスフェクトされた抗体発現細胞クローンに関して得られた結果を表す。試験されたsiRNA、したがって、標的遺伝子の下方調節が抗体の発現に対する効果を有さない(すなわち、容量生産性の上方調節がない)場合、siRNA陰性対照に関する得られた蛍光曲線および標的siRNAについて得られた蛍光曲線は重なり合い、したがって、基本的には同一である。これは、C12orf35遺伝子を除き、本質的にはクローンレベルで全ての試験した標的遺伝子について当てはまった。しかしながら、FAM60Aについては、プールレベルでわずかなシフトが見られたが、これは発現安定性の増大に帰すると推定される(データは示されない)。
C12orf35に対するsiRNAに関して得られた結果から見ることができるように(図4BおよびCを参照されたい)、siRNA陰性対照およびC12orf35遺伝子に対するsiRNAについて得られた蛍光ピークは、RNAiを用いてC12orf35遺伝子をサイレンシングする際に明確に分離する。C12orf35遺伝子に対するsiRNAをトランスフェクトされた細胞クローンについて得られた蛍光ピークは、右側に明確にシフトし(矢印で印を付けられる)、これは、蛍光が有意に増加していることを意味する。より多くの融合タンパク質が存在し、したがって、細胞表面上で染色されるため、蛍光におけるこの観察された増加は、抗体のより高い発現に帰する。したがって、この実験は、C12orf35遺伝子の機能的発現の下方調節が、抗体の組換え発現(抗体の収率)の有意な上方調節を直接もたらすことを明確に示している。FACSプロファイルの同じ顕著なシフトは、3つの全ての濃度においてC12orf35に対する前記siRNAを用いた場合に観察された。例えば、説明に記載されるように、例えば、RNAi誘導転写物を発現する発現ベクター中に安定に組み込まれた場合、RNA干渉によるC12orf35遺伝子の発現の長期的低下を達成することができる。さらに、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子欠失/変異により、一実施形態によれば、説明に記載されるように、CHO細胞などのハムスター細胞の場合、第8染色体のテロメア領域の一部を欠失させることにより、C12orf35遺伝子の発現の低下または消失を達成することができる。さらに、そこに記載されるように、例えば、非機能的な、またはあまり機能的でないタンパク質をもたらす1つまたは複数の変異を導入することにより、発現産物の効果を低下させるか、または消失させることも実行可能である。
目的の組換えポリペプチドの発現の達成された増加もまた、重鎖および軽鎖(別々の発現カセットから発現されたもの、上記を参照されたい)のmRNA発現レベルの分析により確認された。図5および6に2つの異なる目的のポリペプチド(抗体1および2)に関する結果を示す。示されるデータは、siRNA陰性対照(125pmol)に対して正規化する。C12orf35遺伝子の発現の低下は、発現される抗体の重鎖および軽鎖の有意により高いmRNAレベルをもたらすことがわかった。比較して、他の試験した標的遺伝子の発現の低下は、重鎖および軽鎖のmRNA発現レベルに対する影響を有さなかった。したがって、C12orf35遺伝子の発現の低下は、目的の組換えポリペプチドのmRNAレベルの有意な増加をもたらす。さらに、C12orf35遺伝子を沈黙化した場合、選択マーカーなどの他の導入された遺伝子も上方調節されることが観察された。遺伝子サイレンシング効果を3日目から開始して経時的に測定した実験は、siRNA1(表7中のsiRNA C12orf35_1を参照されたい)がsiRNA2(表7中のsiRNA C12orf35_2を参照されたい)と比較してより長い効果を有することを示した。さらに、細胞数および力価を時間経過実験により決定したところ、C12orf35の下方調節が有意により高い特異的生産性および容量生産性をもたらすことが示された(図7を参照されたい)。
さらに、18S RNAと比較したC12orf35遺伝子の発現を、siRNA1および2による抑制時に抗体発現クローン中で分析し、異なる対照と比較した。その結果を、以下の表7に示す。
実施例3: FAM60A遺伝子およびC12orf35遺伝子を欠失する第8染色体のテロメア領域中に欠失を含むCHO細胞株の生成
第8染色体のq腕のテロメア領域中に欠失を含む、新規CHO細胞株(C8DEL)を生成した。欠失を、染色体切断により誘導した。欠失部分は、FAM60A遺伝子ならびにとりわけ、FAM60A遺伝子からテロメアに位置するC12orf35遺伝子を含んでいた(図1を参照されたい)。前記新規細胞株を、CHO−K1から誘導される親細胞株から取得した。第8染色体中に染色体切断を有する前記細胞株は、以下のように調製した。親CHO細胞を、0.5μM、1μMまたは2μMのMTXを含む培養培地中、2E5細胞/mlで分割した。6日後、細胞の生存能力は約30〜40%であった。細胞を180×gで5min遠心分離し、MTXを含まない培養培地中で培養して、生存能力が95%を超えるまで(約21日後)、細胞を回復させた。この手順をさらに2回繰り返した。単一細胞クローンを、細胞プールから取得した。全体で561個の細胞クローンを成長させ、「Extract−N−Amp Blood PCR Kit」を用いてDNAを単離した。Ipo8遺伝子を検出するプライマーを用いるPCRスクリーニングを実施した。561個のクローンのうちの3個が「IPO8陰性」であったが、これは、Ipo8遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域の喪失を示している。Ipo8遺伝子は、FAM60A遺伝子のセントロメアに位置する(図1を参照されたい)。したがって、Ipo8遺伝子が染色体切断のため欠失された場合、Ipo8遺伝子のテロメアに位置する全ての遺伝子も(したがって、FAM60A遺伝子およびC12orf35遺伝子も)同様に欠失される。これらの3つのクローンを拡張し、さらに評価した。これらのクローンのうちの1個を、「C8DEL」細胞株と称する。PCR技術を用いて、C8DEL細胞株に由来する第8染色体のテロメア領域の切断点を決定することができた。切断点は、PCR20および28と呼ばれる、2つのPCRの間で決定された:
切断点は、Tmtc1遺伝子内にある。さらに、C8DEL細胞株の同定された切断点は数週間の培養にわたって安定であることを証明することができた(PCRにより決定)。この新規細胞株に、目的の生成物をコードする発現ベクターをトランスフェクトすることは、以下に示されるように、高い発現能力を有する安定生産クローンを選択する機会を増加させる。トランスフェクションおよびC8DEL細胞株のMTX処理は、トランスフェクトされたクローンの分析に基づいて決定された場合、見かけ上、切断点に対する効果を有さない(さらなる遺伝子材料が失われない)。
実施例4: C8DEL細胞株の特徴の分析
C8DEL細胞株を、目的のポリペプチドを組換え発現する場合のその性能について分析し、C8DEL細胞株が誘導された親細胞株と比較した。上記のように、前記親細胞株は、第8染色体のテロメア領域中に対応する欠失を含まない。
4.1 生産性の分析
C8DELの容量生産性を、それが誘導された親細胞株と比較して評価した。安定な、ならびに一過的なトランスフェクションを実施した。
安定的トランスフェクション
細胞培養、トランスフェクションおよびスクリーニングを、化学規定培養培地中でCHO細胞を成長させる懸濁液を用いて振盪フラスコ中で実行した。細胞に、様々な抗体および治療用タンパク質をコードする異なる発現ベクターをエレクトロポレーションによりトランスフェクトした。用いられた発現ベクターは、選択可能マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび選択可能マーカーとしてDHFRをコードする発現カセットを含んでいた。抗体を発現させるために用いられた発現ベクターは、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットをさらに含み、完全な抗体が前記発現ベクターから発現された。抗体ではないポリペプチドを発現させるために用いられた発現ベクターは、選択マーカーに加えて、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含んでいた。発現ベクター中の全ての発現カセットは、同じ方向を向いていた。このベクターは、FACS選択にとって好適であったが、そのようなベクターの詳細は上記されている。
細胞生存能力に応じて、第1の選択ステップを、G418選択培地を細胞に添加することによりトランスフェクションの24〜48h後に開始した。細胞が80%を超える生存能力まで回復したらすぐに、第2の選択ステップを、細胞を500nMのMTXまたは1μMのMTXに通過させることにより適用した。
選択された細胞集団の容量生産性を、G418またはMTXを含む培地中、過剰成長させた振盪フラスコバッチ培養によりG418およびMTX選択ステップ後に分析した。G418バッチを30ml(125mlフラスコ)中で行い、MTXフェドバッチを100ml(500フラスコ)中で行った。G418バッチ培養物を振盪フラスコ中、1E5vc/mlで播種し、150rpmおよび10%CO2で振盪キャビネット(加湿なし)中で培養した。フェドバッチを4E5vc/mlで播種した。アッセイを開始した時、細胞の生存能力は90%を超えている必要があった。力価の決定を14日目で行った。細胞培養上清における抗体力価を、培養を開始した14日後に、プロテインA HPLCにより決定した。
第1の選択ステップ(G418選択)の後、安定にトランスフェクトされた親プールと比較して安定にトランスフェクトされたC8DELプールについて、大きな容量力価の増加(12〜35倍)を検出することができた。第2の選択ステップ(MTX選択)の後、C8DELプールは、2つの抗体(抗体1および抗体2)により例示されるように、トランスフェクトされた親細胞と比較して、目的のポリペプチドを4〜7倍多く発現していた。第8染色体のテロメア領域中に欠失を含まない親CHO細胞株と比較した、C8DELの容量G418およびMTX(フェドバッチ)力価を、以下の表8.aおよび8.b中に2つの抗体プロジェクトについて例示的に示す。表8.aおよび8.bは、親プールと比較した、C8DEL中で生産される容量G418およびMTXフェドバッチプール力価(抗体)を示す(平均4のプール/条件が示される)。
結果は、FAM60A遺伝子およびC12orf35遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域中の欠失が、より高い容量生産性と相関するという結論を支持する。既に容量プール力価に関して、C8DEL細胞株は、第8染色体のテロメア領域中にそれぞれの欠失を含まない親細胞株よりも性能が優れている。実施例2からのsiRNAの結果を考慮すると、容量力価の増大は、失われたテロメア部分に位置するC12orf35遺伝子の喪失に起因すると考えられる。
一過的トランスフェクション
培養培地中で成長させたC8DEL細胞および親細胞株細胞に、目的のモデルタンパク質としてeGFPまたはFc融合タンパク質をコードする発現プラスミドを3組、一過的にトランスフェクトした。ポリエチレンイミン(PEI)をトランスフェクション試薬として用いた。培地上清中のモデルタンパク質の力価を、トランスフェクション後3日目および6日目に、プロテインA HPLCにより測定した。モデルタンパク質の発現は、C8DELにおいて約3倍高かった。eGFP発現細胞のパーセンテージを、陰性対照として作用する非トランスフェクト細胞を用いるフローサイトメトリーにより、トランスフェクションの48h後に測定した。陰性対照細胞の99%を超える蛍光レベルを示す細胞を、「トランスフェクトされた」と見なした。陰性対照細胞の1000倍を超える強度の蛍光レベルを示す細胞を、「高蛍光」と見なした。高蛍光細胞の数は、C8DELが誘導された親細胞株と比較してC8DEL細胞株を用いた場合に2〜3倍多かった。
本実施例は、容量生産性の増大の利点が、第8染色体のテロメア領域の一部が染色体切断のために失われたC8DEL細胞株による一過的トランスフェクションを実施した場合にも達成されることを示している。
4.2 安定性分析
46個のC8DEL由来クローンおよび37個の親細胞株由来クローン(IPO8陽性であると試験され、したがって、第8染色体のテロメア領域を失っていない)の安定性特徴を、安定的トランスフェクションの後に分析した。全てのクローンが、目的の生成物として同じ抗体を組換え発現し、それらが12週で25%を超える抗体力価(容量)を失っていなかった場合、それらを安定であると分類した。親細胞株に由来する分析したクローンの76%が、培養から12週間以内に25%を超える力価(容量)を失った。分析したクローンの24%のみが、安定であると分類された。したがって、不安定率は高かった。比較して、表9に示されるように、67%のC8DELクローンを、安定であると分類することができ、33%のみが不安定であった。
Yates補正を用いるχ2検定を用いて、C8DEL由来クローンが安定な生産体である有意により高い傾向を有することを支持する0.0002のp値を算出することができた。したがって、有意により多い数の、C8DEL細胞株に関する安定生産クローンが見出された。これは特に、実施例1のノックアウト実験と共に、FAM60A遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域の一部が欠失された、CHO細胞などのハムスター細胞が、優れた安定性特徴を示すことをさらに支持する。したがって、組換え発現のためのそのような細胞株の使用は、高く安定な生産組換え細胞が同定される機会を増加させる。さらに、前記クローンの容量生産性を分析した(4.3を参照されたい)。
4.3 C8DELの特徴のさらなる分析
欠失がFAM60A遺伝子ならびにC12orf35遺伝子を含む、第8染色体のテロメア領域中の前記欠失を含むCHO細胞株の特徴を、さらなる実験において分析し、前記細胞株のさらなる利点を証明した。
高生産体を選択するのに必要とされるあまり単一でない細胞のクローニング
C8DEL細胞株の有利な特徴は、単一細胞クローニング後のより高い割合の高生産クローンである。C8DELプールは、CHO−K1から誘導された親細胞株と比較して、拡大された割合の高生産細胞(容量プール力価の増大をもたらす)を含有することが見出された。FACS技術を用いるC8DELプールの単一細胞クローニングの後、親WT細胞株から誘導されたプールと比較して、多量の抗体を発現する有意により高い割合のクローンが選択された。表10は、親細胞株から誘導された多くのクローンが0〜20mg/Lの「容量96ウェル力価」を有していたことを示す。対照的に、C8DEL細胞株から誘導されたクローンの大部分は、80〜100mg/Lの平均容量力価を有していたが、これは有意な改善である。C8DELプールを用いる1つの利点は、同等量の高く安定な生産クローンを得るために生成する必要があるクローンの数が少ないということである。これはスクリーニング労力を有意に軽減する。
生産細胞株としてのC8DEL細胞株の使用は、拡大された割合の高生産クローンをもたらすだけでなく、個々のC8DELクローンの容量力価も高い。実施例2の結果を考慮すると、この収率の増大は、C12orf35遺伝子の欠失に起因すると考えられる。図8は、CHO−K1から誘導される親細胞株に由来する45個の最も高い生産クローン(全てIpo8陽性)および抗体プロジェクトに由来するC8DELの容量力価を示す(前記クローンの安定性分析の結果は4.2に示される)。見られるように、C8DELから誘導されるクローンに関する平均容量力価は、親細胞株と比較してより高く、さらに、最も高い抗体生産クローンもC8DEL細胞株を起源とする。
バイオリアクター好適性
CHO−K1から誘導される親細胞株と比較してC8DEL細胞株を評価するためのさらなる試験を、特に、規模拡大のためのその好適性を決定するために実施した。バイオリアクター稼働は、C8DEL細胞株が規模拡大にとって好適であることを示した。バイオリアクター中で培養されたC8DEL細胞株は、大規模生産にとって好適である生細胞密度を有していた。さらに、生存能力が親細胞株のものよりも良好であることが見出された。全体として、C8DEL細胞株は、規模拡大にとって好適であり、生存能力に関してそれが誘導される親細胞株よりも性能が優れている。C8DEL細胞株の生存能力は、より高レベルでより長くとどまっている。
トランスフェクションから安定なプールの生産までの時系列の改善
C8DEL細胞株の別の利点は、MTX選択からのより早い回復である。MTXインキュベーション後のプールの回復は、FAM60A遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域の一部が欠失されない親細胞株と比較して7〜8日早く達成された。全体として、本開示による細胞について、細胞危機が有意に少ないことが見出された。
実施例5: 選択可能マーカーとして葉酸受容体を用いる選択
C8DEL細胞株を、選択可能マーカーとして葉酸受容体と共に異なる設定において用いたところ、それは前記選択系と共に特定の利点を示す。特に、選択可能マーカーとして葉酸受容体とDHFRに対する組み合わせた選択が有益である。ここで、トランスフェクトされた細胞は、選択可能マーカーとしてヒト葉酸受容体アルファとDHFRとを含み、抗体を発現した。非常に少量の葉酸(50nMの葉酸(FA)/50nMのMTX)を用いた親細胞株の選択は選択のストリンジェンシーのため困難に遭遇したが(細胞は常に回復するわけではなかった)、選択可能マーカーとしてのC8DELと葉酸受容体との組合せはそのようなストリンジェントな条件下で非常に強力であり、有意な容量力価の増大をもたらした。表11は、親細胞株とC8DELとの容量力価の差異ならびに500nMのMTXによる選択ステップの代わりに少量の葉酸と組み合わせた選択マーカーとして葉酸受容体を用いた場合に達成されるさらなる容量力価の増大を強調する。したがって、FAM60A遺伝子およびC12orf35遺伝子の発現が低下したか、または消失した本明細書に記載の哺乳動物細胞の使用は、葉酸受容体/DHFR選択系と共に、多量の毒性薬剤の使用を必要としない非常にストリンジェントな選択条件を用いることを可能にする。
さらに、C8DEL細胞に、ヒト葉酸受容体アルファをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットと、DHFRをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットとを含む発現ベクターをトランスフェクト(ヌクレオフェクション)した。したがって、FRアルファとDHFRの両方の選択可能マーカーが、同じ発現ベクター上にあった。さらに、発現ベクターは、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットと、抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットとを含んでいた。抗体重鎖のための発現カセットを、重鎖の一部が停止コドンリードスルーのため膜固定された融合物として生産され、それによって、FACS選択を容易にするように設計した(上記を参照されたい)。100nMの葉酸(FA)と異なる濃度のMTXを用いる5つの異なる選択条件を試験した。選択培地を以下の表12にまとめる。選択後、選択された細胞プールを完全培地に移し、振盪フラスコバッチ培養中で成長させた。培養の13日目に、培養培地の試料を取り、プロテインA HPLCにより抗体含量について分析した。その結果も表12に示す。
見られるように、既に5nMほどの低さのMTX濃度が選択の利点を提供した。選択ストリンジェンシーの増大も、容量プール力価を増大させる。したがって、容量抗体生産性は有意に増大する。さらに、標準的なMTX選択と比較して、選択中に有意により低い濃度のMTXを用いることができる。これは、MTXが毒性薬剤であることを考慮すれば重要な利点である。さらに、選択ストリンジェンシーがどのように容量プール力価および選択のための時間に影響するかを分析した。MTXの濃度を増加させることによる選択ストリンジェンシーの増大が回復時間を延長することが見出された。したがって、選択ストリンジェンシーを、異なる適用の必要に従って調整することができる(時間対力価)。
さらに、FACSにより抗体の表面発現に関する葉酸/MTX選択後に得られたプールの分析は、新規細胞株と組み合わせたこの選択系の使用が、図9A〜Eとして示される得られた蛍光プロファイルから明らかなように、細胞プールにおける高生産体の存在量を有意に増加させることを示す。MTXの濃度を、AからEまで増加させた(A:MTXなし;B:1nMのMTX;C:5nMのMTX;D:10nMのMTX;E:50nMのMTX)。MTX濃度を増加させる場合、右手側のピークサイズの増大から誘導することができるように、細胞プール中の高発現細胞クローンの数は増加した(より高い蛍光はより高い抗体発現率と相関する)。10nMのMTXと組み合わせた50nMの葉酸の使用(図9Dを参照されたい)は、高生産細胞クローンを主に含む細胞プールを既にもたらした(右手側の1つの主要ピーク)。さらに、MTX濃度を50nMに増加させる場合(図9Eを参照されたい)、基本的には専ら高生産細胞が得られたプール中に含まれていた。葉酸受容体/DHFR選択系と組み合わせてC8DEL細胞株を用いる場合、FACS分析の後にプールプロファイルを取得し、これは細胞プール(遺伝的に異なる細胞を含む)のものよりも細胞クローン(遺伝的に同一の細胞を含む)のものに密接に類似するため、これらの結果は顕著である。C8DEL細胞株の失われたテロメア領域中に含まれるC12orf35遺伝子の欠失は容量生産性の有意な増大をもたらすと考えられ、したがって、基本的に、適切な条件下で葉酸/MTX選択後に得られた細胞プール中の大部分の細胞がFACSプロファイルによる高生産体であった。
さらに、選択培地(50nMの葉酸、10nMのMTX)中でC8DEL細胞株(FAM60A遺伝子が失われる、上記参照)から得られた安定にトランスフェクトされたクローンを培養した場合、最大80%および最大でほぼ100%の安定率をプロジェクトにおいて得ることができることが見出された。限られた濃度の葉酸(50nM)のみを含むが、MTXは含まない、半選択培地中でも有意な高安定性の結果が達成された。ここで、最大で87%の安定率がこの細胞株に関して達成された。ある特定のプロジェクトにおいて、最大でほぼ100%の安定率が得られた。
実施例6: 発現プロファイルに基づく高く安定な生産体を同定するための検証手段
リアルタイムRT−PCR分析手段を開発して、開発パイプラインプロセスの初期段階でのクローン生産性および安定性を予測した。リアルタイムRT−PCRを、4つの遺伝子:C12orf35、Dennd5b、FAM60AおよびIpo8(全て第8染色体のq腕上のテロメア領域に局在化する)について実行した。選択およびクローン生成の後、目的のポリペプチドとして抗体を安定に発現する数百個のクローンを、第8染色体のテロメア領域のこれらの4つの遺伝子の存在および発現レベルならびに発現収率に関して分析した。安定で容量生産性と、第8染色体のテロメア領域における喪失との間には明確な相関が認められた。研究を行って、第8染色体のテロメア領域の安定性と存在との間に相関があるかどうかを決定した。それらが12週間で25%を超える力価(容量)を失っていない場合、クローンを安定であると分類した。第8染色体のテロメア領域の喪失と、クローン安定性との間の有意な相関が存在している(p値:χ2検定に基づく4.67E−06)。結果として、FAM60A遺伝子を含む第8染色体上のテロメア領域の喪失は、安定性に関する予測手段として用いることができる。リアルタイムRT−PCRによる第8染色体のテロメア領域の存在または非存在の分析は、パイプラインプロジェクトにおいてより高い割合の安定なクローンを選択する確率を増大させる。
さらに、第8染色体のテロメア領域の一部を失った数百個のクローンを分析することにより、第8染色体のテロメア領域中に誘導することができるいくつかの切断点が存在すると考えられることが見出された。多くの分析された事例において、切断点はIpo8遺伝子のセントロメアに位置していた。FAM60AとIpo8の間にも切断点が検出された。欠失領域は、全ての事例において、容量生産性の増大と関連するC12orf35遺伝子を含んでいた(メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20をコードする遺伝子のテロメアに位置する)。