JP2016220271A - 電気自動車の制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 車両駆動用のモータが高負荷状態にあるとき、このモータの温度の上昇を抑制することができ、車両の不所望な急停止を防止することができる電気自動車の制御装置を提供する。【解決手段】 この電気自動車の制御装置における温度上昇抑制制御部44は、モータ温度とこのモータ温度の変化より求められる温度勾配か限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るか否かを予測する温度上昇予測部39と、モータが高負荷状態の有無を判断する高負荷状態判断部40とを有する。温度上昇抑制制御部44は、高負荷状態判断部40でモータが高負荷状態と判断され、且つ、温度上昇予測部39で求められる限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るとき、モータの温度の上昇が抑制されるように定められた条件に従ってモータの電流を制限する電流制限手段38を有する。【選択図】 図6

Description

この発明は、モータにより車輪を駆動する電気自動車の制御装置に関し、例えば長い登坂路を走行時に、前記モータの温度上昇を抑制可能な技術に関する。
従来技術1として、電気自動車に利用される電気モータの温度上昇を抑制する技術が公開されている(特許文献1)。具体的には、電気モータのコイル温度の上昇を観察し、所定の温度を超えた場合に電気モータの出力を次式に従って制限し始め、モータの温度の上昇を抑制する。
式:1−{(信号値−基準値)/(限界値−基準値)}
特開2000−32602号公報
前記式において、信号値が基準値と同一の値である場合、すなわちモータ温度が基準となる値のときには、前記式の値は「1」であり、モータ出力は何ら制限されない。
信号値が基準値から大きくなる程、前記式の値は小さくなる。信号値が限界値と同一の値になった場合、すなわちモータ温度が限界値で表される温度となったときには、前記式の値は「0」となり、モータ出力は完全に「0」になる。
しかし、モータが高負荷状態になるとき、例えば、長い登坂路を走行するとき、一旦モータ温度が限界値に達した時点で、モータ出力は完全に「0」になるため、車両が急停止する可能性がある。
この発明の目的は、車両駆動用のモータが高負荷状態にあるとき、このモータの温度の上昇を抑制することができ、車両の不所望な急停止を防止することができる電気自動車の制御装置を提供することである。
この発明の電気自動車の制御装置は、モータ6により車輪2を駆動する電気自動車を制御する制御装置において、
操作部16,17の操作に応じて加減速指令を生成し出力する指令出力手段21aと、
直流電力を交流電力に変換するインバータ31を含むパワー回路部28、および、前記指令出力手段21aから与えられる前記加減速指令に従って前記パワー回路部28を介し前記モータ6を制御するモータコントロール部29を有するインバータ装置22と、
を備え、
前記モータ6の温度を検出するモータ温度検出手段Scを設け、
前記モータコントロール部29に、前記モータ6の温度上昇を抑制する温度上昇抑制制御部44を設け、
この温度上昇抑制制御部44は、
前記モータ温度検出手段Scで検出されるモータ温度とこのモータ温度の変化より求められる温度勾配から定められた限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るか否かを予測する温度上昇予測部39と、
前記モータ6が高負荷状態にあるか否かを判断する高負荷状態判断部40と、
この高負荷状態判断部40で前記モータ6が高負荷状態にあると判断され、且つ、前記温度上昇予測部39で求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るとき、前記モータ6の温度の上昇が抑制されるように定められた条件に従って前記モータ6の電流を制限する電流制限手段38と、
を有することを特徴とする。
前記定められた限界温度、前記設定時間、前記定められた条件は、それぞれ試験やシミュレーション等の結果により定められる。
この構成によると、モータ温度検出手段Scはモータ6の温度を検出する。温度上昇予測部39は、検出されるモータ温度とこのモータ温度の変化より温度勾配を求める。さらに温度上昇予測部39は、前記温度勾配から定められた限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るか否かを予測する。高負荷状態判断部40は、モータ6が高負荷状態にあるか否かを判断する。
電流制限手段38は、モータ6が高負荷状態で、且つ、求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るとき、前記モータ6の温度の上昇が抑制されるように定められた条件に従って前記モータ6の電流を制限する。このようにモータ6が高負荷状態にあり、求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るときにモータ6の電流を予備的に制限するため、モータ出力が急激に零になることを未然に防止することができる。よって、モータ6が高負荷状態にあるとき、このモータ6の温度の上昇を抑制することができる。したがって、車両が不所望に急停止することを未然に防止することができる。
前記電気自動車は、この電気自動車の傾きを計測するジャイロセンサSdを備え、前記高負荷状態判断部40は、前記ジャイロセンサSdで計測される傾きが定められた角度以上で一定時間以上続くとき、前記モータ6が高負荷状態にあると判断しても良い。
前記定められた角度、前記一定時間は、それぞれ試験やシミュレーション等の結果により定められる。なおジャイロセンサSdは車両の重心に設けることが望ましい。
ジャイロセンサSdで計測される傾きが定められた角度以上で一定時間以上続くとき、この電気自動車は、例えば、連続する長い登坂路を走行しているとみなされる。このとき高負荷状態判断部40は、モータ6が高負荷状態にあると判断する。
前記温度上昇予測部39は、前記モータ温度検出手段Scで検出される現在および現在よりも前のモータ温度の変化より前記温度勾配を求めるものとしても良い。前記現在よりも前のモータ温度は、現在のモータ温度に対し一つ時刻前のモータ温度であっても良い。
このように異なる時刻のモータ温度の変化より温度勾配を正確に求めることができる。
前記電流制限手段38は、前記定められた条件として、前記モータ6の電流を定められた時間間隔で低減し、前記温度上昇予測部39で求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間外になると、前記モータ6の電流制限を停止するようにしても良い。
前記定められた時間間隔は、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
この場合、電流制限手段38がモータ6の電流を定められた時間間隔で低減することから、モータ出力が急激に低減することを防止し得る。また温度抑制制御を起動中であっても、前記限界温度に達するまでの時間が設定時間外になると、前記モータ6の電流制限を停止することから、木目細かく温度抑制制御を実施することができる。したがってドライバビリティの向上を図ることができる。
前記電気自動車は、前後輪3,2のいずれか一方または両方の左右の各輪3,3、(2,2)に駆動力をそれぞれ個別に与えるモータ6,6を備え、前記温度上昇抑制制御部44は、左右のいずれか一方の輪3、(2)に対応するモータ6の電流を電流制限手段38により制限するとき、同時に、前記一方の輪3、(2)の左右逆側の他方の輪3、(2)に対応するモータ6の電流を電流制限手段38により制限するようにしても良い。左右のいずれか一方の輪3、(2)に対応するモータ6の電流を電流制限手段38により制限するとき、同時に、前記一方の輪3、(2)の左右逆側の他方の輪3、(2)に対応するモータ6の電流を電流制限手段38により制限する。これにより、左右の車輪3,3、(2,2)に対応するモータ6,6が限界温度まで達する時間が異なる場合であっても、左右の車輪3,3、(2,2)にそれぞれ対応するモータ6,6の電流は略同時に制限される。よって車両姿勢の安定化を図ることができる。
前記モータ6は、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータ6と、前記車輪を支持する車輪用軸受4と、前記モータ6の回転を減速して前記車輪用軸受4における回転輪に伝える減速機7とを含むインホイールモータ駆動装置8を構成するものであっても良い。
前記電気自動車は、前記モータ6を車体1に設けたオンボードタイプの電気自動車であっても良い。
この発明の電気自動車の制御装置は、モータにより車輪を駆動する電気自動車を制御する制御装置において、操作部の操作に応じて加減速指令を生成し出力する指令出力手段と、直流電力を交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部、および、前記指令出力手段から与えられる前記加減速指令に従って前記パワー回路部を介し前記モータを制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記モータの温度を検出するモータ温度検出手段を設け、前記モータコントロール部に、前記モータの温度上昇を抑制する温度上昇抑制制御部を設け、この温度上昇抑制制御部は、前記モータ温度検出手段で検出されるモータ温度とこのモータ温度の変化より求められる温度勾配から定められた限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るか否かを予測する温度上昇予測部と、前記モータが高負荷状態にあるか否かを判断する高負荷状態判断部と、この高負荷状態判断部で前記モータが高負荷状態にあると判断され、且つ、前記温度上昇予測部で求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るとき、前記モータの温度の上昇が抑制されるように定められた条件に従って前記モータの電流を制限する電流制限手段とを有する。このため、車両駆動用のモータが高負荷状態にあるとき、このモータの温度の上昇を抑制することができ、車両の不所望な急停止を防止することができる。
この発明の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。 同電気自動車のインホイールモータ駆動装置の断面図である。 同電気自動車のインバータ装置等の概念構成のブロック図である。 同電気自動車のIPMモータの概念構成図である。 同制御装置のモータコントロール部の主要構成等を示すブロック図である。 同モータコントロール部の電流指令部の構成を示すブロック図である。 同電流指令部の温度上昇抑制制御部における温度上昇予測を示す図である。 同温度上昇抑制制御部の起動判定を示すフローチャートである。 この発明の他の実施形態に係る電気自動車のインバータ装置等の概念構成のブロック図である。 この発明の他の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
この発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置を図1ないし図8と共に説明する。図1は、この電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に回転支持されている。
車輪用軸受4,5は、図1にてハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成している。各車輪2,3には、電動式または液圧式のブレーキ9,10が設けられている。また左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、ハンドル等の操舵手段12により操舵される。
図2は、インホイールモータ駆動装置の断面図である。各インホイールモータ駆動装置8は、それぞれ、モータ6、減速機7、車輪用軸受4、および図示外の給油機構を有し、これらの一部または全体が車輪内に配置される。インホイールモータ駆動装置8はインホイールモータユニットとも称される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して駆動輪2に伝達される。車輪用軸受4のハブ輪4aのフランジ部にはブレーキ9を構成するブレーキロータBRが固定され、同ブレーキロータBRは駆動輪2と一体に回転する。
モータ6は、例えば、ロータ6aのコア部に永久磁石が内蔵された埋込磁石型同期モータである。このモータ6は、ハウジングHSに固定したステータ6bと、回転出力軸KSに取り付けたロータ6aとの間にラジアルギャップを設けたモータである。
前記給油機構は、例えば、インホイールモータ駆動装置8内の潤滑油貯留部(図示せず)に貯留された油を、図示外のオイルポンプにより吸い上げて、モータ6および減速機7に循環させる。この循環される油により、ステータ6bのコイルが冷却されると共に、減速機7が潤滑に供される。なお、上述の説明では潤滑機構はオイルポンプを用いた給油潤滑方式を説明したが、オイルポンプを用いない油浴潤滑方式でもよい。
図3は、この電気自動車のインバータ装置等の概念構成のブロック図である。
この電気自動車は、ECU21と、インバータ装置22とを有する。ECU21は、自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであり、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。このECU21は、指令出力手段であるトルク/回転数制御指令部21aと、力行・回生制御指令部21bとを有する。
トルク/回転数制御指令部21aは、基本的には、トルク制御を行う手段であるが、永久磁石が減磁した場合の応急処置用の回転数制御を行うための回転数指令部(図示せず)を有する。トルク/回転数制御指令部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令(駆動)と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令(回生)と、操舵手段12(図1)の操舵角を検出する操舵角センサSaの出力する旋回指令とから、左右輪2,2(図1)の走行用のモータ6,6(図1)に与える加減速指令をトルク指令値として生成し、インバータ装置22へ出力する。
トルク/回転数制御指令部21aは、前記の他に、各車輪2,3(図1)の例えば車輪用軸受4,5(図1)に設けられた回転センサ(図示せず)から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報等を用いて、出力する加減速指令を補正する機能を有していても良い。
力行・回生制御指令部21bは、力行・回生の切換えを行うための指令フラグを、後述するモータコントロール部29のモータ力行・回生制御部33に与える。
アクセル操作部16は、アクセルペダル16aと、このアクセルペダル16aの踏込み量を検出するアクセル開度センサ16bとを有する。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダル17aと、このブレーキペダル17aの踏込み量を検出するブレーキセンサ17bとを有する。
インバータ装置22は、指令出力手段であるトルク/回転数制御指令部21aの加減速指令に従って、走行用のモータ6の制御を行う。インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントロール部29とを有する。インバータ装置22は、図示しないが、各モータ6毎にそれぞれ設けられている。モータコントロール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良い。
モータコントロール部29が各パワー回路部28に対して共通して設けられた場合であっても、左右のモータ6,6(図1)のトルクが互いに異なるように独立して制御可能なものとされる。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の力行および回生に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とを有する。
モータ6は、3相の同期モータである。このモータ6には、同モータ6のロータの電気角としての回転角度を検出する回転角度センサ36が設けられている。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
モータコントロール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ力行・回生制御部33と、後述する電流指令部34と、記憶手段35とを有する。モータ力行・回生制御部33は、上位制御手段であるECU21におけるトルク/回転数制御指令部21aから与えられるトルク指令による加減速指令、および、力行・回生制御指令部21bから与えられる力行・回生制御の指令フラグにより、予め設定したトルクマップを用いて、モータ6への指令電流を生成する。
モータ力行・回生制御部33は、力行制御手段33aと、回生制御手段33bとを有する。力行・回生制御指令部21bからの指令フラグにより、力行制御手段33aおよび回生制御手段33bのいずれか一方が選択される。前記指令フラグにより、力行制御手段33aが選択された場合において、この力行制御手段33aは、アクセルペダル16aの踏込み量が大きくなる程、力行指令トルクを増加させる。前記指令フラグにより、回生制御手段33bが選択された場合において、回生制御手段33bは、ブレーキペダル17aの踏込み量が大きくなる程、回生指令トルクを増加させる。
前記トルクマップは、例えば、モータコントロール部29内の記憶手段35に書換え可能に記憶されている。記憶手段35として、例えば、不揮発性メモリ(EEPROM等)が適用される。なお、記憶手段35は、インバータ装置22内の他の箇所に設けても良いし、インバータ装置22外に設けることも可能である。モータ力行・回生制御部33は、モータ6に印加する駆動電流を電流センサSbで得た実際の検出値と、指令電流とを一致させるために、モータ6をPI制御で制御する。
ここで図4は、この電気自動車のIPMモータの概念構成図である。
図4(c)に示すように、車輪を駆動するモータがIPMモータつまり埋込磁石型同期モータの場合、ロータ側の永久磁石とステータの相互作用で発生する磁石トルクTmと、ロータ側のコア部と前記ステータの間の吸引力に起因するリラクタンストルクTrとが発生し、2種類のトルクTm,Trで回転する。磁石トルクTmは、電流に比例し、回転磁界とロータ永久磁石間の電流進角βである位相が零のときに最大となる。一方、リラクタンストルクTrは、電流の2乗に比例し、前記位相が45°で最大となる。そのため、埋込磁石型同期モータでは、通常、両トルクTm,Trの和(Tm+Tr)が最大となる電流印加条件で駆動する。
図4(a)に示すように、車輪を駆動するモータが埋込磁石型同期モータの場合は、磁石軸であるd軸方向よりそれと直交するq軸方向の磁気抵抗が小さくなるため、突極構造となり、d軸インダクタンスLdよりq軸インダクタンスLqが大きくなる。この突極性により、磁石トルクTm以外にリラクタンストルクTrが併用でき、高トルクおよび高効率とすることもできる。
磁石トルクTm:回転子の永久磁石による磁界と巻線による回転子磁界と吸引反発して発生するトルクである。
リラクタンストルクTr:巻線による回転磁界に回転子の突極部が吸引されて発生するトルクである。
モータが発生する総トルクは下記のようになる。
T=p×{Ke×Iq+(Ld−Lq)×Id×Iq}=Tm+Tr
p:極対数
Ld:モータのd軸インダクタンス
Lq:モータのq軸インダクタンス
Ke:モータ誘起電圧定数実効値
図4(b)に示すように、IPMモータに流す1次電流Iaを、トルク生成電流q軸電流Iqと、磁束生成電流d軸電流Idとに分離し、それぞれ独立に制御できるベクトル制御手法が周知である。
Id=−Ia×sinβ
Iq= Ia×cosβ
(β:電流進角)
図5は、モータコントロール部29の主要構成等を示すブロック図である。図3も参照しつつ説明する。
モータコントロール部29は、モータ駆動電流を制御する手段であって、電流指令部34を含む。この電流指令部34は、モータ6に印加する駆動電流を電流センサSbで検出した検出値と、ECU21のトルク/回転数制御指令部21aから与えられる加減速指令によるトルク指令を、前記トルクマップを用い、相応の指令電流を生成する。指令電流の方向は、力行・回生制御指令部21bから与えられる前記指令フラグにより切換えられる。
図3,図6に示すように、電流指令部34は、相電流変換部37、q軸・d軸電流変換部38、温度上昇予測部39、および、高負荷状態判断部40を有する。相電流変換部37は、アクセル開度センサ16bからのアクセル信号により与えられるトルク指令値と、モータ6に設けられる回転角度センサ36から求められるモータ6の回転速度ωとに応じて、最大トルク制御テーブルから、必要な相電流Imを算出する。q軸・d軸電流変換部38は、通常時には、算出された相電流Imおよびモータ6の回転速度ωを用いて、d軸電流Idとq軸電流Iqの二つの指令電流を生成する。前記最大トルク制御テーブルは記憶手段35に記憶される。
図5に示すように、電流PI制御部41は、電流指令部34から出力されたd軸電流Id、q軸電流Iqの値と、2相電流Id,Iqとから、PI制御による電圧値による制御量Vd,Vqを算出する。前記2相電流Id,Iqは、モータ電流および回転子角度から3相・2相変換部42で計算される。この3相・2相変換部42では、電流センサSbで検出されたモータ6のu相電流(Iu)とw相電流(Iw)の検出値から、次式Iv=−(Iu+Iw)で求められるv相電流(Iv)を算出し、Iu,Iv,Iwの3相電流から2相電流Id,Iqに変換する。この変換に使われるモータ6の回転子角度は、回転角度センサ36から取得する。
2相・3相変換部43は、入力された2相の制御量Vd,Vqと、回転角度センサ36から取得する回転子角度とから、3相のPWMデューティVu,Vv,Vwに変換する。電力変換部であるパワー回路部28は、3相のPWMデューティVu,Vv,Vwに従ってインバータ31(図3参照)をPWM制御し、モータ6を駆動する。
特に、この制御装置では、モータコントロール部29にモータ6の温度上昇を抑制する温度上昇抑制制御部44を設けている。
図6に示すように、温度上昇抑制制御部44は、モータ6(図3)の温度上昇を抑制する制御部であって、温度上昇予測部39と、高負荷状態判断部40と、電流制限手段であるq軸・d軸電流変換部38とを有する。温度上昇予測部39は、温度勾配算出部39aと予測判定部39bとを有する。温度勾配算出部39aは、モータ温度検出手段Scで検出されるモータ温度とこのモータ温度の変化より、温度勾配ΔTを求める。モータ温度検出手段Scは、左右のモータ6,6(図1)の温度をそれぞれ検出する手段である。図2に示すように、各モータ6のステータ6bにおける、例えば、モータコイルにモータ温度検出手段Scが設けられる。このモータ温度検出手段Scとして例えばサーミスタが適用される。サーミスタをモータコイルに接触固定することで、モータ6の温度を検出し得る。
図6に示すように、予測判定部39bは、温度勾配算出部39aで求められる温度勾配ΔTから定められた限界温度に達するまでの時間が一定の設定時間に入るか否かを予測する。ここで図7は、この温度上昇抑制制御部44(図6)における温度上昇予測を示す図である。図6および図7に示すように、温度勾配算出部39aは、現在(t1)のモータ温度T1および現在よりも前(t0)のモータ温度T0(この例では一時刻前に取り込んだモータ温度T0)の変化より、
温度勾配ΔT(ΔT=(T1−T0)/(t1−t0))を求める。なおモータ温度T0は、記憶手段35(図3)に一時的に記憶され、温度勾配算出部39aによる演算時に記憶手段35(図3)から読み出される。
予測判定部39bは、次の予測式に従って、定められた限界温度T2に達するまでの時間が設定時間(例えば、3sec)に入るか否かを予測する。
予測式:Δt=(T2−T1)/ΔT
但し、T1は現在のモータの温度、ΔtはΔTになるこれからの時間である。
図6に示すように、高負荷状態判断部40は、モータ6が高負荷状態にあるか否かを判断する。具体的には、この電気自動車の例えば重心に、同電気自動車の前後方向の傾きを計測するジャイロセンサSdを備え、高負荷状態判断部40は、ジャイロセンサSdで計測される傾きが定められた角度(例えば、+10度)以上で一定時間以上続くとき、モータ6が高負荷状態にあると判断する。ジャイロセンサSdで計測される傾きが定められた角度以上で一定時間以上続くとき、この電気自動車は、例えば、連続する長い登坂路を走行しているとみなされる。このとき高負荷状態判断部40は、モータ6が高負荷状態にあると判断する。
q軸・d軸電流変換部38は、前述のように、通常時には、算出された相電流Imおよびモータ6の回転速度を用いて、d軸電流Idとq軸電流Iqを生成する。
q軸・d軸電流変換部38は、「非通常時」には、相電流Imおよびモータ6の回転速度ωを用いつつ、モータ6の温度の上昇が抑制されるようにモータ6の電流、つまりd軸電流Idとq軸電流Iqを制限する。前記「非通常時」とは、高負荷状態判断部40でモータ6が高負荷状態にあると判断され、且つ、温度上昇予測部39で求められる限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るときである。
q軸・d軸電流変換部38は、前記非通常時には、例えば、相電流変換部37で算出された相電流Imに定められた係数(例えば0.5乃至0.9)を乗じた値、および、モータ6の回転速度ωから、d軸電流Idとq軸電流Iqを生成する。前記定められた係数は、試験やシミュレーション等の結果により定められる。この係数は、モータ温度等によらず一定値としても良いし、モータ温度に応じて可変としても良い。
図8は、温度上昇抑制制御部の起動判定を示すフローチャートである。図3,図6も参照しつつ説明する。例えば、車両の主電源を投入後本処理が開始し、温度上昇予測部39の温度勾配算出部39aは、現在の時刻のモータ温度を取り込み(ステップS1)、記憶手段35から現在よりも前のモータ温度を読み出す(ステップS2)。次に、予測判定部39bは、勾配計算で限界温度に達するまでの時間を予測する(ステップS3)。
予測判定部39bは、ステップS3で予測した時間が設定時間に入ると判定すると(ステップS4:YES)、モータコントロール部29は温度上昇抑制制御を起動中か否かを判断する(ステップS5)。否(ステップS5:NO)との判断で、温度上昇抑制制御部44のモータ温度の抑制制御を起動する(ステップS6)。その後、現時刻のモータ温度を記憶手段35に記憶し(ステップS7)、本処理を終了する。ステップS5において温度上昇抑制制御を起動中であると判断されると(ステップS5:YES)、ステップS7に移行する。
ステップS3で予測した時間が設定時間外と判定され(ステップS4:NO)、温度上昇抑制制御を起動中のとき(ステップS8:YES)、q軸・d軸電流変換部38は、モータ6の電流制限を停止する(ステップS9)。ステップS3で予測した時間が設定時間外と判定され(ステップS4:NO)、温度上昇抑制制御を起動中でないとき(ステップS8:NO)、ステップS7に移行する。
以上説明した電気自動車の制御装置によると、q軸・d軸電流変換部38は、モータ6が高負荷状態で、且つ、求められる限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るとき、モータ6の温度の上昇が抑制されるようにモータ6の電流を制限する。このようにモータ6が高負荷状態にあり、限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るときにモータ6の電流を予備的に制限するため、モータ出力が急激に零になることを未然に防止することができる。よって、モータ6が高負荷状態にあるとき、このモータ6の温度の上昇を抑制することができる。したがって、車両が不所望に急停止することを未然に防止することができる。
温度上昇予測部39は、モータ温度検出手段Scで検出される現在および現在よりも前のモータ温度の変化より前記温度勾配を求める。このように異なる時刻のモータ温度の変化より温度勾配を正確に求めることができる。q軸・d軸電流変換部38は、温度抑制制御を起動中であっても、限界温度に達するまでの時間が設定時間外になると、温度抑制制御を停止する、つまりモータ6の電流制限を停止することから、木目細かく温度抑制制御を実施することができる。したがってドライバビリティの向上を図ることができる。
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
図9は、他の実施形態に係る電気自動車のインバータ装置等の概念構成のブロック図である。この例の電気自動車は、左右の後輪または左右の前輪の各輪に駆動力をそれぞれ個別に与えるモータ6,6を備える。温度上昇抑制制御部44は、左右のいずれか一方の輪に対応するモータ6の電流を制限するとき、同時に、前記一方の輪の左右逆側の他方の輪に対応するモータ6の電流を制限する。
具体的には、各インバータ装置22のモータコントロール部29に、温度抑制制御報告手段45を設け、この温度抑制制御報告手段45は、いずれかの一方の輪に対応するモータ6につき温度上昇抑制制御を起動中のとき、その情報をECU21に与える。ECU21は、前記情報が与えられると、前記一方の輪の左右逆側の他方の輪に対応するモータ6につきこのモータ用の温度上昇抑制制御部44に、温度上昇抑制制御を直ちに起動させる。例えば、左後輪に対応するモータ6につき温度上昇抑制制御が起動すれば、右後輪に対応するモータ6についても温度上昇抑制制御を起動させる。
このようにいずれかの輪に対応するモータ6の電流を制限するとき、同時に、前記輪の左右逆側の輪に対応するモータ6の電流を制限する。これにより、左右の車輪2,2(図1)に対応するモータ6が限界温度まで達する時間が異なる場合であっても、左右の車輪2,2(図1)にそれぞれ対応するモータ6,6の電流は略同時に制限される。よって車両姿勢の安定化を図ることができる。
図10に示すように、モータ駆動装置はインホイールモータ駆動装置に限らず、車体1にモータ6を設け、このモータ6に左右の車輪2,2をジョイントで結合した所謂オンボードタイプとしても良い。なお図10とは逆に左右の前輪3,3をオンボードタイプのモータで駆動し、左右の後輪2,2を従動輪としても良い。左右の前輪3,3および左右の後輪2,2をそれぞれ独立のモータにより駆動される四輪駆動車としても良い。なお図10の例では、一個のモータで左右の車輪を駆動しているが、二個のモータで左右の車輪を個別に駆動するいわゆる二モータオンボードタイプとしても良い。
インホイールモータ駆動装置においては、サイクロイド式の減速機、遊星減速機、2軸並行減速機、その他の減速機を適用可能である。また、減速機を使用しない所謂ダイレクトモータタイプであっても良い。
高負荷状態判断部は、登坂路以外に、例えば、車輪が障害物に遮られてモータを一定時間駆動させても車輪が回転しないような場合に、前記モータが高負荷状態にあると判断しても良い。
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
2…車輪
4…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
16…アクセル操作部
17…ブレーキ操作部
21a…トルク/回転数制御指令部(指令出力手段)
22…インバータ装置
28…パワー回路部
29…モータコントロール部
31…インバータ
38…q軸・d軸電流変換部(電流制限手段)
39…温度上昇予測部
40…高負荷状態判断部
44…温度上昇抑制制御部
Sc…モータ温度検出手段
Sd…ジャイロセンサ

Claims (7)

  1. モータにより車輪を駆動する電気自動車を制御する制御装置において、
    操作部の操作に応じて加減速指令を生成し出力する指令出力手段と、
    直流電力を交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部、および、前記指令出力手段から与えられる前記加減速指令に従って前記パワー回路部を介し前記モータを制御するモータコントロール部を有するインバータ装置と、
    を備え、
    前記モータの温度を検出するモータ温度検出手段を設け、
    前記モータコントロール部に、前記モータの温度上昇を抑制する温度上昇抑制制御部を設け、
    この温度上昇抑制制御部は、
    前記モータ温度検出手段で検出されるモータ温度とこのモータ温度の変化より求められる温度勾配から定められた限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るか否かを予測する温度上昇予測部と、
    前記モータが高負荷状態にあるか否かを判断する高負荷状態判断部と、
    この高負荷状態判断部で前記モータが高負荷状態にあると判断され、且つ、前記温度上昇予測部で求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間に入るとき、前記モータの温度の上昇が抑制されるように定められた条件に従って前記モータの電流を制限する電流制限手段と、
    を有することを特徴とする電気自動車の制御装置。
  2. 請求項1に記載の電気自動車の制御装置において、前記電気自動車は、この電気自動車の傾きを計測するジャイロセンサを備え、前記高負荷状態判断部は、前記ジャイロセンサで計測される傾きが定められた角度以上で一定時間以上続くとき、前記モータが高負荷状態にあると判断する電気自動車の制御装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載の電気自動車の制御装置において、前記温度上昇予測部は、前記モータ温度検出手段で検出される現在および現在よりも前のモータ温度の変化より前記温度勾配を求める電気自動車の制御装置。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電気自動車の制御装置において、前記電流制限手段は、前記定められた条件として、前記モータの電流を定められた時間間隔で低減し、前記温度上昇予測部で求められる前記限界温度に達するまでの時間が設定時間外になると、前記モータの電流制限を停止する電気自動車の制御装置。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電気自動車の制御装置において、前記電気自動車は、前後輪のいずれか一方または両方の左右の各輪に駆動力をそれぞれ個別に与えるモータを備え、前記温度上昇抑制制御部は、左右のいずれか一方の輪に対応するモータの電流を電流制限手段により制限するとき、同時に、前記一方の輪の左右逆側の他方の輪に対応するモータの電流を電流制限手段により制限する電気自動車の制御装置。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電気自動車の制御装置において、前記モータは、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータと、前記車輪を支持する車輪用軸受と、前記モータの回転を減速して前記車輪用軸受における回転輪に伝える減速機とを含むインホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車の制御装置。
  7. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電気自動車の制御装置において、前記電気自動車は、前記モータを車体に設けたオンボードタイプの電気自動車である電気自動車の制御装置。
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