JP2016216579A - 発光シリコン粒子及び発光シリコン粒子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シリコン原料を、フッ酸と酸化剤とを含む水溶液を用いて化学エッチングして多孔質シリコンを形成する多孔質シリコン形成工程と、得られた多孔質シリコンを、有機溶媒に浸漬し、前記有機溶媒を撹拌しながら波長323nm以下の紫外線パルスレーザーを照射して、表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を得る有機基終端シリコン粒子形成工程と、を含む発光シリコン粒子の製造方法及び発光シリコン粒子。
【選択図】なし
Description
しかし、多孔質化された直径が数ナノメートル程度の単結晶シリコン粒子から、量子サイズ効果に起因した可視発光が報告され(例えば、非特許文献1参照)、その後は、地殼中に豊富に存在し安価であるシリコンを発光材料に応用することについての研究が活発に進められている。
これらの研究より、ナノシリコン粒子では、粒子サイズにより発光波長と発光効率を制御できること、シリコンを表面修飾することで、バンドギャップエネルギー及び発光遷移確率などの発光物性に影響を与えることが明らかとなった。
これらの知見を受けて、シリコン粒子の表面修飾、或いは粒子径制御について検討がなされ、例えば、不飽和結合をもつ1−オクテン(1−octene)等のアルケン及びアルキンから選ばれる有機溶媒中でシリコン粒子に高エネルギー密度の波長500nm程度のパルスレーザーを照射し、表面を炭素又は酸素で表面修飾されたシリコンナノ粒子を生成する方法が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。
また、シリコン粒子をフッ化水素酸と溶解金属塩を含む化学エッチング液と接触させ、多孔質シリコン粒子を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、特許文献2に記載の方法では、多孔質シリコン粒子が得られるが、発光効率には、なお改良の余地があるという問題がある。
さらに、特許文献1及び特許文献2に記載のシリコン粒子は、得られる発光が青白く、例えば、可視領域において赤色などの発光は得られないため、発光粒子としての応用範囲が狭いものであった。
本発明の別の課題は、発光色の制御が容易であり、高効率発光することができるシリコン粒子を提供することにある。
(1) シリコン原料を、フッ酸と酸化剤とを含む水溶液を用いて化学エッチングし、多孔質シリコンを形成する多孔質シリコン形成工程と、得られた多孔質シリコンを、有機溶媒に浸漬し、有機溶媒を撹拌しながら波長323nm以下の紫外線パルスレーザーを照射して、表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を得る有機基終端シリコン粒子形成工程と、を含む発光シリコン粒子の製造方法。
(2) 前記表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子と前記有機溶媒とを含む分散液を遠心分離して、多孔質シリコン粉末残渣を除去し、表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を分取する有機基終端シリコン粒子分離工程をさらに含む(1)に記載の発光シリコン粒子の製造方法。
(4) 前記有機溶媒が、1−オクテン、1−オクチン、2−プロペナール、トリクロロエチレン、1−オクタン、オクタナール、オクタン酸、ジクロロメタン、エチルベンゼン、キシレン及びベンズアルデヒドからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤である(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発光シリコン粒子の製造方法。
(5) 前記炭素原子を含む一価の有機基が、アルキル基、アルデヒド基、カルボキシル基、及びクロロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種である(1)〜(4)のいずれか1つに記載の発光シリコン粒子の製造方法。
(7) 前記シリコン粒子は、紫外線照射によりピーク波長を中心とした発光スペクトルの半値全幅が400meV〜600meVである(6)に記載の発光シリコン粒子。
(8) 前記炭素原子を含む一価の有機基が、アルキル基、アルデヒド基、カルボキシル基、及びクロロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種である(6)又は(7)に記載の発光シリコン粒子。
本明細書における室温とは、25℃を意味する。
また、本発明によれば、発光色の制御が容易であり、高効率発光することができるシリコン粒子を提供することができる。
まず、発光シリコン粒子の製造方法について詳細に説明する。
本発明の発光シリコン粒子の製造方法は、シリコン原料を、フッ酸と酸化剤とを含む水溶液を用いて化学エッチングし、多孔質シリコンを形成する多孔質シリコン形成工程と、得られた多孔質シリコンを、有機溶媒に浸漬し、有機溶媒を撹拌しながら波長323nm以下の紫外線パルスレーザーを照射して、表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を得る有機基終端シリコン粒子形成工程と、を含む。
なお、本明細書では、以下、「波長323nm以下の紫外線パルスレーザー」を「紫外線パルスレーザー」と称し、「表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子」を「炭素終端シリコン粒子」と称することがある。
本発明の製造方法により得られる発光シリコン粒子は、紫外線照射により、紫外、可視光〜近赤外の広い波長領域において所望の波長の光を発するシリコン粒子である。
本発明の製造方法においては、まず、原料となるシリコン結晶を化学エッチングして多孔質シリコンを形成する多孔質シリコン形成工程を実施する。
化学エッチングが適用されるシリコン原料としては、特に制限はなく、板状の結晶シリコン、シリコン結晶粒子などを適宜用いることができるが、化学エッチングの効率が良好であるという観点からはシリコン結晶粒子を用いることが好ましい。
シリコン原料として用いられるシリコン結晶粒子は、粒径が均一な粒子が好ましいが、必ずしも粒径は均一でなくても使用することができ、例えば、平均粒子径が数μmオーダーの、粒子径にばらつきがある市販のシリコン結晶粉末、板状のシリコン結晶を公知の方法で粉砕した粉末、シリコンウエハー製造過程において、シリコンインゴット切り出しの際に生ずる廃棄物であるシリコン切粉等をシリコン原料として用いることができる。
化学エッチングは、フッ酸(以下、HFと称することがある)と酸化剤とを含む水溶液にシリコン原料を浸漬することで行なう。以下、フッ酸と酸化剤とを含む化学エッチング用の水溶液をエッチング用混合液と称することがある。
エッチング用混合液に用いられる酸化剤としては過酸化水素、酸化バナジウム、過マンガン酸カリウム、塩化鉄、硝酸等が挙げられ、硝酸が好ましい。
まず、水と硝酸とフッ酸とを混合して化学エッチング用混合液(H2O/HNO3/HF)を調製する。
混合比率としては、水/硝酸/フッ酸の含有比率が、200:1:40〜2:1:4の範囲であることが好ましく、100:1:20〜10:1:2の範囲であることがより好ましい。
化学エッチング用混合液にシリコン原料を浸漬すると、(a)HNO3によるシリコンの酸化によって、シリコン原料表面に酸化シリコン(SiO2)層が形成され、さらに、(b)混合液に含まれるHFによって、SiO2層が溶解し、表面から内部に向かってエッチング反応が進む。その結果、(c)シリコン原料の表面及び内部にナノメートルオーダーの多孔質層が形成され、(a)〜(c)の反応が進むにつれて、(d)残存するシリコンコア層のサイズが減少する。その結果、ナノメートルオーダーの多孔質層を有する多孔質シリコンが得られる。得られた多孔質シリコン(PSi)が発光シリコン粒子の中間原料となる。
以下、「シリコンコア層」を「コア」と、「多孔質シリコンを「PSi」と、それぞれ略称することがある。
ここで、上記エッチング溶液の水/硝酸/フッ酸の含有比率において、硝酸濃度が低い場合には、(a)の過程に全体の反応が制限される。そこで、エッチング用混合液における硝酸の含有比率を増加させることで、(a)過程での反応が促進され、(b)の過程におけるエッチング反応がより進み、結果として、(d)過程で得られる多孔質シリコンのコアサイズがより減少する。そして、パルスレーザー照射によるシリコンコア層の粉砕によって、最終的に得られる発光シリコン粒子の粒径はより小さくなり、紫外線を照射した場合の発光色が長波長側にシフトする。
なお、エッチングによってシリコンコア層のサイズを減少させる上記以外の他の制御方法としては、硝酸濃度を十分に増やし、かつ、フッ酸濃度をより減少させ、フッ酸濃度の増減による制御を行う手法が挙げられる。
化学エッチング用混合液への浸漬時間は、目的に応じて適宜選択することができる。平均粒子径が数μmオーダーのシリコン結晶粉末をシリコン原料として用いる場合には、20分〜60分浸漬することが好ましく、30分〜50分浸漬することがより好ましい。
化学エッチングをより効率よく、より均一に行なうことができるという観点から、化学エッチング用混合液を撹拌しながらシリコン原料を浸漬することが好ましい。
撹拌は公知の方法で行なうことができる。例えば、化学エッチング用混合液を、手動にてヘラなどで連続的に又は断続的に撹拌する方法、スターラーで撹拌する方法、浸漬に用いる容器として撹拌翼を備えたもの用い、撹拌翼で撹拌する方法等が挙げられる。
化学エッチング用混合液は、水を溶媒として、フッ酸(HF)及び酸化剤として硝酸(HNO3)を、下記表1に示す含有量で混合した混合液A及び混合液Bを用いた。混合液Aを用いた場合をエッチング条件(1)と称し、混合液Bを用いた場合をエッチング条件(2)と称する。
PSi粒子は中間原料ではあるが、PSi粒子のコアサイズを制御することで、目的物である発光シリコン粒子の発光波長などを制御しうるため、PSi粒子のコアサイズを制御することは重要である。
化学エッチング用混合液として、上記処方の混合液Aと、混合液Bとを用いた。
平均粒子径が約4μmの多結晶Si粉末を、調製した混合液A及び混合液Bに、それぞれ25℃で40分間撹拌しながら浸漬し、得られたPSi粒子をろ取して、乾燥した。
PSi粒子を紫外ランプ励起下に配置し、発光の様子を観察したところ、エッチング条件(1)により得たPSi粒子は赤色に近い発光色を示し、エッチング条件(2)により得たPSi粒子は発光色が暗褐色であり、両者の対比より、硝酸の含有量がより多い混合液Aを用いて得たPSi粒子はバンドギャップエネルギーがより増大していることが推定された。
図1に得られたPSi粒子の発光スペクトルの測定結果を示す。図1の横軸は、発光波長(図1中に「Wavelength」と記載)を、縦軸は、発光強度(図1中に「PL(Photo Luminescence) intensity」と記載)を表す。図1のブロードな発光バンドは、量子サイズ効果により高エネルギーシフトした、バンドギャップの間接遷移端からの擬似直接遷移による電子−正孔対再結合によるものである。図1によれば、HNO3濃度が高い混合液Aを用いて得た粒子は、発光ピーク波長の短波長シフトが観測されており、バンドギャップエネルギーの高エネルギーシフトが生じていると考えられる。このことから、発光のピークシフトはエッチング溶液中のHNO3濃度を変えることにより、多孔質層内のSiコアのサイズの制御を行った結果であると考えられる。
多孔質シリコンは、例えば、250m2/gと非常に大きな表面積を持つため、次工程におけるナノサイズの炭素終端シリコン粒子の生成収量が、従来法に比較して非常に大きくなることも本発明の特徴の一つである。
本工程は、得られた多孔質シリコンを、有機溶媒に浸漬し、有機溶媒を撹拌しながら波長323nm以下の紫外線パルスレーザーを照射して、表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を得る有機基終端シリコン粒子形成工程である。
本工程では、有機溶媒の存在下で、紫外線パルスレーザーを照射することで、まず、PSi粒子の表面が炭素終端され、その後、多孔質シリコンを構成するナノシリコンのコア層が粉砕されることにより炭素終端シリコン粒子が得られる。
有機基終端シリコン粒子形成工程では、有機溶媒は、PSi粒子の分散媒として機能する。
このため、多孔質シリコンのコアサイズを反映して、生成されるナノサイズのシリコン粒子の粒径が決定されるため、前工程で得られたPSi粒子におけるコアのサイズにより、炭素終端シリコン粒子の粒径を制御できる。シリコン粒子表面では、光化学反応により、有機溶媒中の炭素原子により活性化したシリコン粒子表面のSi原子が終端され、シリコン粒子表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子が生成する。
本実施形態において用いられる有機溶媒としては特に制限はなく、例えば、1−オクテン、1−オクチン、2−プロペナール、トリクロロエチレン等の不飽和結合を持つ有機溶媒、1−オクタン、オクタナール、オクタン酸、ジクロロメタン等の飽和結合を持つ有機溶媒、エチルベンゼン、キシレン、ベンズアルデヒド等の芳香族有機溶媒等が挙げられる。Si原子の終端反応効率を考慮すると不飽和結合を持つ有機溶媒が好ましいが、本工程では、紫外線パルスレーザーによる高エネルギーの光反応を利用するために、分子内に不飽和結合を有しない有機溶媒でも好適な反応が進行する。有機溶媒は必ずしも炭化水素に限定されず、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基などの置換基を有する炭化水素有機溶媒であってもよい。
本工程で使用される紫外パルスレーザーのパルス幅は公知のレーザーアブレーション、レーザーフラグメンテーション技術で使われるパルスレーザーのパルス幅と同様のものを用いることができる。例えば、Yan et al., Nature Communication 4, 1695 (2013年)によれば、ミリ(10−3)秒パルスレーザーを用いて、シリコン粒子の粉砕を行った例も報告されており、パルス幅がミリ秒以下のレーザー光でもナノ粒子に対して、粉砕と炭素終端を行なうことができるものと考えられる。しかしながら、一般にレーザーアブレーション、レーザーフラグメンテーション技術で使われるパルスレーザーのパルス幅は、ナノ秒からピコ(10−12)秒程度であり、本発明におけるレーザー光のパルス幅はミリ秒以下であることが望ましく、ナノ秒〜ピコ秒のパルス幅のレーザーを用いることがより望ましい。
なお、後述する実施例では、紫外線パルスレーザーのパルス幅は、5ナノ(10−9)秒を用いており、好適な結果を得ている。
紫外線パルスレーザーの照射による光化学反応について、有機溶媒として不飽和結合を持つ有機溶媒である1−オクテンを用いた例で説明する。
粉砕されナノレベルのサイズとなったシリコン粒子の表面に、紫外パルスレーザー照射による1−オクテンとの光化学反応によってアルキル基が終端される。Si−C結合エネルギーは3.83eV(323nm)であることが、例えば、文献(K.Dohnalovaetal.,J.Phys.Condens.Matter26,173201(2014年))により知られており、効率的にシリコン粒子の表面のSi原子を、炭素原子を含む分子で終端するためには、前記Si−Cの結合エネルギーを考慮すれば、323nm以下の波長のレーザー光が適していることがわかる。従って、本発明では、323nm以下の波長の紫外線パルスレーザーを用いる。後述する実施例では、波長266nmのNd:YAGレーザーの4倍波のパルスレーザーを使用しており、好適な結果を得ている。
有機溶媒の撹拌は、公知の方法で行なうことができる。撹拌の方法としては、マグネティックスターラーを用いた撹拌等が挙げられる。撹拌条件には、特に制限はなく、例えば、500rpm〜2500rpmの条件にて撹拌することができ、1000rpm〜2000rpmであることが好ましい。
照射する紫外線パルスレーザーのエネルギー密度は、0.1J/cm2〜1J/cm2であることが好ましく、0.3J/cm2〜0.7J/cm2であることがより好ましい。
パルスレーザーのスポット径としては、0.2mm以上が好ましく、0.5mmがより好ましい。パルス繰り返し周波数は5Hzが好ましく、15Hz以上がより好ましい。照射時間は1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。
得られた炭素基終端シリコン粒子は、有機溶媒中に分離物として存在している。また、有機溶媒中には、粉砕されたPSi粒子粉末残渣など、発光に関与しない粒子も存在する。このため、有機溶媒中から、目的物である炭素終端シリコン粒子のみを分離して取り出すことが好ましい。
したがって、紫外線パルスレーザーの照射後に、残留物であるPSi粉末残渣等の不純物は、遠心分離、メンブレンフィルタによるろ過等の手段により取り除く、有機基終端シリコン粒子分離工程を行なうことが好ましい。有機基終端シリコン粒子分離工程では、遠心分離、メンブレンフィルタによるろ過等の公知の方法により不純物を除去し、平均粒子径が1nm〜10nm程度の炭素終端シリコン粒子のみを含む分散液を得ることが好ましい。
得られた平均粒子径が1nm〜10nm程度のシリコン粒子表面が炭素原子を含む有機基で終端されていることは、例えば、フーリエ赤外分光測定(FTIR)を行なうことで確認することができる。
即ち、NaCl結晶基板に得られた炭素終端シリコン粒子の分散液を滴下し、乾燥させて得た膜を測定対象とし、FTIRスペクトルを測定する。このとき、Si−C、Si−CH3などの結合の振動モードに起因するピークが観測されることで、シリコン粒子表面のSi原子が炭素終端されていることが確認できる。
炭素終端シリコンナノ粒子の粒径がナノオーダーであることは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行うことで確認できる。
即ち、作製したシリコンナノ粒子分散溶液を、透過型電子顕微鏡用グリッドに滴下、乾燥した試料を観測することで、TEM画像において、より濃度の高い箇所として、ナノシリコン粒子の存在が示される。このことから、直接的に粒径を確認できる。そして、結晶格子による電子線の回折・干渉によるシリコンの格子像を観測し、粒子がシリコン単結晶により構成されていることを確認できる。
即ち、既述の混合液A及び混合液Bを用いて得られたPSi粒子を原料として得た炭素終端シリコン粒子に紫外線ランプにより紫外線を照射すると、混合液Aを用いた中間原料から得られた炭素終端シリコン粒子は発光色が赤色であり、混合液Bを用いた中間原料から得られた炭素終端シリコン粒子は発光色が橙色であることが確認された。
ナノサイズの炭素終端シリコン粒子は、PSi粒子を構成するSiコア結晶の粉砕によって生成されると考えられるため、この発光色の変化は、HNO3等の濃度変化に伴う粒子のサイズの変化を反映したナノサイズ炭素終端シリコン粒子のサイズ変化によるものと考えられる。
以上の結果から、本発明の発光シリコン粒子の製造方法において、出発材料であるシリコン原料からPSi粒子を作製する際に行なわれる化学エッチングの条件を制御して、中間原料であるPSi粒子の粒子径を制御することにより、ナノサイズの炭素終端シリコン粒子の発光色が制御できることが示された。
本発明の発光シリコン粒子は、平均粒子径が1nm〜10nmであり、表面のSiが炭素原子を含む一価の有機基により終端されている、紫外線照射により波長300nm〜900nmにピーク波長を有する光を発する発光シリコン粒子である。
シリコン粒子としては、紫外線照射によりピーク波長を中心とした発光スペクトルの半値全幅が400meV〜600meVであることが好ましく、500meV〜550meVであることがより好ましい。
発光シリコン粒子を終端する炭素原子を含む一価の有機基としては、アルキル基、アルデヒド基、カルボキシル基、及びクロロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい態様である。
本発明の発光シリコン粒子は、紫外線照射により、可視から近赤外領域の波長光を発光し、発光効率が良好である。
本発明の発光シリコン粒子は、好ましくは既述の本発明の発光シリコン粒子の製造方法により得られた発光シリコン粒子である。
(多孔質シリコン粒子(PSi粒子)形成工程)
直径:4μm以下の多結晶Si粉末(Vesta Ceramics)を、水/硝酸/フッ酸(H2O/HNO3/HF)を含有する化学エッチング用混合液に浸漬した。
混合液の調製に用いた試薬は、硝酸(HNO3:和光純薬工業(株))、フッ化水素(HF:関東化学(株))である。
混合液における各成分の含有比を下記表2に示す。
ステインエッチング後、得られたPSi粉末試料を取り出し、室温にて自然乾燥した。
混合液Aを用いたエッチング条件(1)、混合液B(2)を用いたエッチング条件により作製したPSi粉末の紫外ランプ照射時の発光の様子を目視にて観察したところ、エッチング条件(1)により作製した粉末は赤色の発光が観察され、エッチング条件(2)により作製した粉末は暗褐色の発光が観察された。
PSi粉末の紫外ランプ照射時の発光スペクトルを図1に示す。
中間原料であるPSi粒子においても、化学エッチング用混合液における硝酸濃度の制御により粒子サイズを変更することで、発光色の変化が見られた。
石英セル(高さ45mm、12.5mm角、厚さ1.25mm)内に1−オクテン(関東化学)3mlを用意し、上記で作製したPSi粉末試料を分散させる。
PSi粉末分散液をマグネティックスターラー(型番:SRS011AA(商品名),ADVANTEC社製)にて、1500rpmで撹拌しながら、Nd:YAGレーザー(Minilite I(商品名)、Continuum社製)にて、紫外パルスレーザー光(波長:266nm,パルス幅:5ナノ秒)を照射した。
照射条件は、レーザーパワー:20mW、レーザースポット径:〜0.6mm、パルス繰り返し周波数15Hz、照射時間:3時間とした。
エッチング条件(1)、エッチング条件(2)により得られたPSi粒子を用いて作製した炭素終端シリコン粒子の紫外ランプ照射時の発光の様子を目視にて観察したところ、エッチング条件(1)により作製した炭素終端シリコン粒子はオレンジ色の発光が観察され、エッチング条件(2)により作製した炭素終端シリコン粒子は赤色の発光が観察された。
得られた炭素終端シリコン粒子の紫外ランプ照射時の発光スペクトルを図2に示す。図2の横軸は、発光波長(図2中に「Wavelength」と記載)を、縦軸は、発光強度(図2中に「PL intensity」と記載)を表す。
また、発光スペクトルから得られた各エッチング条件でのPSi粉末及び、ナノサイズの炭素終端シリコン粒子分散液のピークエネルギー及び半値全幅を下記表3に示す。
なお、図2及び表3によれば、本発明の製造方法で得られた炭素終端シリコン粒子に対し、紫外線照射により発光したピーク波長を中心とした発光スペクトルの半値全幅は、510meV〜550meVであった。
公知の製造方法、例えば、非特許文献2に記載された、多孔質シリコン粒子を可視光波長のレーザーによりアブレーションして作製されたナノサイズ発光シリコン粒子における発光の半値全幅は、主たるピークに着目しても740meV程度であり、観察される2つのピークを考慮した半値全幅は1430mVであることを考慮すれば、従来法で得られた発光シリコン粒子の発光がブロードであるのに対して、本発明の製造方法により得られた炭素終端シリコン粒子は、紫外線照射によりシャープな発光を示すことが分る。
本発明の手法により作製したナノサイズ炭素終端シリコン粒子の表面終端状態の解析を目的として、試料に対してフーリエ赤外分光測定(FTIR)測定を行った。
−実験方法−
ここで、エッチング条件(1)により作製したナノサイズ炭素終端シリコン粒子を試料として用いた。
測定は、Thermofisher Scientific Nicolet社製のMagna 560を用いて行った。ここで、NaCl結晶基板に炭素終端シリコン粒子分散液を滴下、乾燥させた試料に対して測定を行った。
また、Si結晶の(220)面、(311)面に対応するそれぞれ0.19nm及び、0.17nmの格子縞が観測されたことから、粒子はSi結晶であることがわかった。以上の観測結果より、作製された炭素終端シリコン粒子は、粒径が数nmオーダーの単結晶シリコン粒子であることが確認できた。
一方では、Si−O−Si、O−Si−Hなどの酸素や水素との結合の振動モードに起因したピークも見られたことから、酸素終端されたナノサイズシリコン粒子も一部存在することが確認された。これらの酸素終端粒子は、測定のための試料作製時に有機溶媒を乾燥させた際に、表面欠陥を含むシリコン粒子が空気中の酸素と結合したために生じた可能性が考えられる。
なお、図3におけるFTIRスペクトルのそれぞれのピークは、文献(Kusova et al., ACS Nano 4, 4495 (2010), Shirahata et al., Green Chemistry、第12卷、p2139(2010年))の記載に準拠して同定を行った。
有機基終端シリコン粒子形成工程における紫外線パルスレーザー照射の効果を確認するため、パルスレーザーの照射波長を、実施例1〜2の波長である266nmに代えて、532nm、及び355nmとして、照射条件を下記表4に記載の条件とした以外は、実施例1と同様にして炭素終端シリコン粒子を得た。波長532nmのパルスレーザーを照射して比較例1の炭素終端シリコン粒子を、波長355nmのパルスレーザーを照射して比較例2の炭素終端シリコン粒子を得た。表4には、実施例1に使用した紫外線パルスレーザー照射条件を併記した。
このことから、紫外線パルスレーザーとしては、266nmの紫外光を照射することが、発光シリコン粒子生成に重要であることが確認された。一方、波長323nmよりも長波長である335nmの光を照射しても、発光シリコン粒子は生成されないことが確認された。
この作用は明らかではないが、Si−C結合エネルギーは、323nmの光子エネルギーと一致しており、Si−C結合を生じさせる、即ち、発光シリコン粒子として有用な炭素終端シリコン粒子を生成するためには、光反応を生起させ得る323nm以下の光照射の必要があるためと考えられる。以上、実施例1、実施例2と、比較例1、比較例2との対比より、本発明の炭素終端発光ナノシリコン粒子の生成には、波長323nm以下の紫外線照射による光化学反応が関与していることが明らかであると考えられる。
Claims (8)
- シリコン原料を、フッ酸と酸化剤とを含む水溶液を用いて化学エッチングし、多孔質シリコンを形成する多孔質シリコン形成工程と、
得られた多孔質シリコンを、有機溶媒に浸漬し、前記有機溶媒を撹拌しながら波長323nm以下の紫外線パルスレーザーを照射して、表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を得る有機基終端シリコン粒子形成工程と、を含む発光シリコン粒子の製造方法。 - 前記表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子と前記有機溶媒とを含む分散液を遠心分離して、多孔質シリコン粉末残渣を除去し、前記表面が炭素原子を含む一価の有機基により終端されたシリコン粒子を分取する有機基終端シリコン粒子分離工程をさらに含む請求項1に記載の発光シリコン粒子の製造方法。
- 前記紫外線パルスレーザーのパルス幅が10ナノ秒以下である請求項1又は請求項2に記載の発光シリコン粒子の製造方法。
- 前記有機溶媒が、1−オクテン、1−オクチン、2−プロペナール、トリクロロエチレン、1−オクタン、オクタナール、オクタン酸、ジクロロメタン、エチルベンゼン、キシレン及びベンズアルデヒドからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発光シリコン粒子の製造方法。
- 前記炭素原子を含む一価の有機基が、アルキル基、アルデヒド基、カルボキシル基、及びクロロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発光シリコン粒子の製造方法。
- 平均粒子径が1nm〜10nmであり、表面のSiが炭素原子を含む一価の有機基により終端されている、紫外線照射により波長300nm〜900nmにピーク波長を有する光を発する発光シリコン粒子。
- 前記シリコン粒子は、紫外線照射によりピーク波長を中心とした発光スペクトルの半値全幅が400meV〜600meVである請求項6に記載の発光シリコン粒子。
- 前記炭素原子を含む一価の有機基が、アルキル基、アルデヒド基、カルボキシル基、及びクロロアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項6又は請求項7に記載の発光シリコン粒子。
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