JP2016191329A - 摺動部材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】大型の摺動部材を容易に製造することができ、基体の材料選択の幅が広い摺動部材の製造方法を提供する。
【解決手段】ポンプ用軸受構造に用いられ、被摺動部材(11)に対して相対的に摺動する摺動部材(10)の製造方法であって、金属基体(10a)の表面の上に無機粒子の粉末(30)を載せる第1工程と、第1工程の後、無機粒子の焼結温度より低い温度にて無機粒子の粉末(30)を加圧し、金属基体(10a)との境界に位置する無機粒子を金属基体(10a)に押し込み固定する第2工程とを含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、摺動部材の製造方法に関する。
排水ポンプの一種として、先行待機運転ポンプのような無給水ポンプが知られている。先行待機運転ポンプは、例えばゲリラ豪雨のような急激な水量の増加に対応すべく、予め無水状態で全速運転(先行待機運転)することが可能となっている。このような無給水ポンプの軸受構造においては、すべり摺動面の焼き付き防止のために、炭化ケイ素や黒鉛等のセラミックス摺動部材が用いられ得る。しかし、セラミックスは加工性に乏しく、大きな焼結体を作製することは難しい。そこで、CVDや溶射を用いたセラミックスコートが開発され、例えば、特許文献1には、スリーブ又は軸受の一方の基体に、ダイヤモンド等の硬質被膜を基体表面全体に数μm被覆し、該硬質皮膜を摺動面とする無給水ポンプ用軸受構造が開示されている。
特開平5−52222号公報(1993年3月2日公開)
しかしながら、硬質皮膜は、基体との互いの熱膨張係数が異なることが多い。そのため、摺動時の熱応力が大きくなることによって、該硬質皮膜にクラックや剥離が生じることがある。したがって、硬質皮膜と熱膨張係数を合わせるために基体の材料選択が制約されたり、熱膨張による熱応力を小さくするために摺動部材を分割したりしなければならないという問題があった。
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、大型の摺動部材を容易に製造することができ、基体の材料選択の幅が広い摺動部材の製造方法を提供することにある。
本発明の摺動部材の製造方法は、上記の課題を解決するために、ポンプ用軸受構造に用いられ、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材の製造方法であって、金属基体の表面の上に、セラミックス粒子、ダイヤモンド粒子およびダイヤモンドライクカーボン粒子の少なくとも一つである無機粒子の粉末を載せる第1工程と、前記第1工程の後、前記無機粒子の焼結温度より低い温度にて前記無機粒子の粉末を加圧し、前記金属基体との境界に位置する前記無機粒子を前記金属基体に押し込み固定する第2工程とを含むことを特徴としている。
上記構成によれば、金属基体の表面の上に無機粒子が散在して固定され、該無機粒子が被摺動部材に摺接する。そして、各無機粒子がセラミックス粒子、ダイヤモンド粒子およびダイヤモンドライクカーボン(DLC)粒子の少なくとも一つであるであるため、被摺動部材との間に水等の潤滑剤が存在しない無潤滑条件下においても焼き付くことなく回転することができる。
また、焼結温度より低い温度にて前記無機粒子の粉末を加圧し、前記金属基体との境界に位置する前記無機粒子を前記金属基体に押し込み固定するため、無機粒子はそれぞれ独立して金属基体に固定される。そのため、金属基体が温度の上昇によって熱膨張するとき、金属基体の外表面上に固定されている無機粒子は、該熱膨張に付随して移動することができる。したがって、金属基体と無機粒子との熱膨張係数を合わせる必要が無く、金属基体の材料の選択性が広い。
さらに、無機粒子の粉末を加圧し、金属基体との境界に位置する前記無機粒子を前記金属基体に押し込み固定する簡易な工程により摺動部材を製造するため、大型の摺動部材を容易に製造することができる。
本発明の摺動部材の製造方法において、前記無機粒子は、表面が金属メッキされていてもよい。金属メッキは、金属基体と無機粒子との間にて、接合を補助する。したがって、無機粒子にあらかじめ金属メッキを施すことにより、金属基体に、無機粒子をより強固に固定することができる。
本発明の摺動部材の製造方法は、前記第1工程において、金属基体の表面の上に金属粒子微粉末を載せた後に、該金属粒子微粉末の上に前記無機粒子粉末を載せてもよい。これにより、第2工程の後に、金属基体の表面に金属膜が形成される。このとき、無機粒子は、金属基体だけでなく金属膜によっても固定される。そのため、金属膜は金属基体と無機粒子との接合を補助することができる。また、金属膜は、金属基体の表面上に形成されることにより、金属基体を保護することができる。これにより、スラリー粒子に対する摺動部材の耐久性が更に向上する。
本発明の摺動部材の製造方法において、前記金属基体の表面に、前記無機粒子の平均粒子径よりも大きい高低差を有する凹凸があってもよい。これにより、第2工程の後に、無機粒子の先端を加工するに際して、実質的な削り代が、無機粒子の高さに凹凸の高低差を加えたものとなる。このため、削り代を大きくすることができる。また、面密度の調整が容易になる。ここで、面密度とは、基体の表面の垂直方向から見たときの、摺接粒子が占める面積の割合を意味する。
本発明の摺動部材の製造方法において、前記第2工程は、スパークプラズマ焼結(SPS)装置を用いて行われることが好ましい。これにより、短時間で昇温が可能なため、無機粒子として例えばダイヤモンド粒子やDLC粒子を用いた場合に、黒鉛への変質を抑制することができる。
本発明の摺動部材の製造方法は、前記第2工程において前記金属基体に固定されなかった無機粒子の粉末を、前記第1工程にて再利用してもよい。これにより、無機粒子粉末を無駄に廃棄することが無く、製造コストを抑制できる。
本発明の一態様によれば、大型の摺動部材を容易に製造することができ、基体の材料選択の幅が広い摺動部材の製造方法を提供することができる。
本発明の実施形態1における軸受構造及び摺動部材としての軸部材の、軸方向に垂直な断面を示す断面概略図である。 前記軸部材の、外面側からみた構成を示す上面図である。 (a)は、金属基体の表面の上に無機粒子粉末を載せた状態を示す断面図であり、(b)は成形型に充填した金属基体と無機粒子粉末とを加圧した後の状態を示す断面図であり、(c)は、加圧後の金属基体の表面部分の拡大図である。 本発明の実施形態2における摺動部材としての軸部材の、第2工程後の金属基体の表面部分の拡大図である。 本発明の実施形態3における摺動部材としての軸部材の、金属基体の表面の上に金属微粉末を載せた後、該金属微粉末の上に無機粒子粉末を載せた状態、及び第2工程後の金属基体の表面の状態を示す図である。 本発明の実施形態4における、第2工程後の金属基体の表面の状態を示す図である。
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について、図1〜3に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施の形態では、摺動部材の製造方法として、土砂(スラリー粒子)を含む水を排出するためのポンプ用軸受構造に用いられ、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材の製造方法について説明する。尚、本実施の形態では、摺動部材としての軸部材について説明するが、本発明の摺動部材は必ずしもこれに限らない。例えば、軸部材に対して相対的に摺動する軸受構造における軸受け部材にも適用することができる。
<摺動部材の構成>
ポンプ用軸受構造における、本実施の形態の摺動部材としての軸部材の構成について、図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本実施の形態における軸受構造1Aの、軸方向に垂直な断面を示す断面概略図である。図2は、軸受構造1Aが備える軸部材10の、外面側からみた構成を示す上面図である。
図1に示すように、軸受構造1Aは、摺動部材としての軸部材10と、被摺動部材としての軸受け部材11とからなっている。軸部材10は、円筒形状の軸スリーブである。尚、軸部材10は、軸スリーブに限定されるものではなく、軸であってもよい。一方、軸受け部材11は、内部に軸部材10が収容される円筒形状を有しており、軸部材10を軸支する。
[軸受け部材11]
軸受け部材11は、例えば、硬質のセラミックスや超硬合金等から成り、セラミックスやサーメットであることが好ましい。セラミックスやサーメットを用いることにより、軸受け部材11の耐久性が向上する。軸受け部材11の内側表面は、摩擦係数を低く抑えるため、表面粗さRaが1.0μm以下であることが好ましい。なお、軸受け部材11の表面に、摩擦係数を低く、又は耐摩耗性を向上するための焼結体や膜を形成するような加工がされていても良い。
[軸部材10]
軸部材10は、図1に示すように、少なくとも、円筒形状の金属基体10aと、金属基体10aの外表面上に散在して固定された摺接粒子10bとを備える。また、摺接粒子10bが金属基体10aの外表面上に散在しているため、摺接粒子10b間に摺接粒子10bが存在しない領域(以下、粒子間領域)12が形成される。尚、図1においては、金属基体10aの外表面全体に散在する摺接粒子10bのうち、一部のみを図示している。
また、軸部材10は、基体10aの外表面上に、摺接粒子10bを固定するための固定部材(図1では図示せず)を備えていてもよい。
さらに、軸部材10は、粒子間領域12に、摺接粒子10bと同一材料の粒子であって、摺接粒子10bよりも粒子径の小さい粒子を備えていてもよい。該粒子は、軸部材10を製造する際に、摺接粒子10bの原材料となる粉体の粒度分布に起因して不可避的に備えられる粒子である。
[金属基体10a]
金属基体10aは、一般的に用いられる材質によって形成されており、例えば、Co系、Ni系の硬質合金等から成る。金属基体10aの硬さはHV600以上が好ましく、HV800以上であることがより好ましい。排出される水に含まれるスラリー粒子の硬さがHV1000程度であるので、その値に近い硬度を有することにより、スラリー粒子による金属基体10aの損傷を軽減することができる。また、金属基体10aの表面粗さRaは、軸受け部材同様、1.0μm以下であることが好ましい。
[摺接粒子10b]
本実施の形態における摺接粒子10bは、金属基体10aの外表面の上に固定される。摺接粒子10bとして、例えば、金属基体10aよりも硬質なセラミックスの粒子(例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、立方晶窒化ホウ素(CBN)等の粒子)、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)粒子等の無機粒子を使用できる。ここで、上記ダイヤモンド粒子には、ダイヤモンドの単結晶粒子、ダイヤモンド焼結体を粉砕した粒子も含まれる。また、上記DLC粒子には、バインダーを使用してDLC粉末を造粒したものや、DLC粉末の焼結体を粉砕した粒子も含まれる。
摺接粒子10bは、金属基体10aの外表面上に、後述の方法により固定されている。摺接粒子10bは、金属基体10aの外表面上に1粒子の厚さで散在している。すなわち、金属基体10a上に固定された摺接粒子10bの粒子の上に、別の摺接粒子10bが固定されていることはほとんど無い。また、軸部材10は、摺接粒子10bが存在しない粒子間領域12を有している。したがって、金属基体10aの表面上に固定される摺接粒子10bの合計量を少なくすることができ、製造コストを低くできる。尚、金属基体10aの外表面上において、2つ以上の異なる摺接粒子10bが隣接している箇所があってもよい。ただし、隣接する異なる摺接粒子10b間は接合されていない。
また、各摺接粒子10bの先端、つまり、軸受け部材11側の端部は、軸部材10の軸方向から見たときに、軸部材10の軸を中心とした同一円周上にある。すなわち、各摺接粒子10bの先端によって、図1に示すように、軸部材10の軸を中心とした円周面である摺接面13が形成される。該摺接面13は、軸部材10が回転するときに、被摺動部材であるところの軸受け部材11と摺接する。
[粒子間領域12]
摺接粒子10b間には、図1及び図2に示すように、粒子間領域12が形成されている。従来、特許文献1に記載されているように、基体の上に硬質皮膜を形成する場合には、その温度が上昇した場合において、基体と、硬質皮膜との互いの熱膨張の差に起因する剥離が生じうる。そのため、基体と、硬質皮膜との互いの熱膨張係数を合わせる必要があった。それゆえ、基体として高価なWCを含む超硬合金を用いる必要があり、基体の材料の選択の幅が狭いという問題があった。これに対して、本実施の形態における軸部材10では、摺接面13を形成する摺接粒子10b間に粒子間領域12が形成されているため、当該問題を解決できる。そのことについて以下に詳細に説明する。
まず、上述のような熱膨張の差に起因する剥離は、相対的に熱膨張係数の大きい基体側の熱膨張によって、上記焼結体又は硬質皮膜を破断させる力を及ぼすことに起因している。本実施の形態においても、摺接粒子10bとしての硬質なセラミックスの粒子、ダイヤモンド粒子、DLC粒子、CBN粒子等の熱膨張係数は小さく、金属基体10aに用いられる合金等の熱膨張係数は相対的に大きい。しかしながら、本実施の形態における軸部材10では、金属基体10aが温度の上昇によって熱膨張するとき、金属基体10aの外表面上に固定されている摺接粒子10bは、該熱膨張に付随して移動することができる。換言すれば、摺接粒子10bは、金属基体10aの熱膨張に付随して、金属基体10aの中心軸からの放射線方向に、粒子間領域12を広くするように移動する。
他方、温度の上昇による摺接粒子10bの熱膨張は、そもそも摺接粒子10bの熱膨張係数が小さいことに加えて、粒子間領域12があるため、他の摺接粒子10に対して影響を及ぼさない。
したがって、金属基体10aと摺接粒子10bとの熱膨張係数を合わせる必要が無く、金属基体10aの材料の選択性が広くなっており、例えば、Co系、Ni系の硬質合金のような熱膨張係数が鉄と同程度である材料を用いることができる。
粒子間領域12は、さらに、スラリー粒子の通路としての機能も有する。特許文献1に記載の発明において、摺動面に侵入したスラリー粒子による摩耗に対しては、スラリー粒子よりも高硬度な材料を用いるという対処のみをしていた。それに対して、本実施の形態における軸部材10においては、スラリー粒子を粒子間領域12へと逃がすことができる。すなわち、軸部材10と軸受け部材11との間に侵入したスラリー粒子は、摺接面13と軸受け部材11との間に挟み込まれるよりも、粒子間領域12へと送り込まれやすい。そして、スラリー粒子は、金属基体10aの外表面全体に形成されている粒子間領域12を通過して、軸受構造1Aの外部へと排出され得る。したがって、スラリー粒子の摺動面への噛み込みを防止し得る。また、軸受構造1Aに一旦水が通じた後には、粒子間領域12に水が貯えられることによって、軸部材10の回転時に、粒子間領域12から摺接粒子10bと軸受け部材11との間に適度に水が潤滑剤として供給され、潤滑性が向上する。
[摺接面13]
本実施の形態における摺接面13には、金属基体10aの表面は含まれず、摺接面13は摺接粒子10bのみから形成されている。すなわち、金属基体10aの軸中心からの距離を高さとすると、摺接面13よりも金属基体10aの表面が高くなっている部分がない。これにより、軸部材10と軸受け部材11とからなる軸受構造1Aにおいて、軸部材10が回転するに際して、軸受け部材11と摺接するのは摺接面13のみとなる。ここで、摺接粒子10bは硬質かつ高融点のセラミックス等であるため、軸部材10は、軸受け部材11との間に水等の潤滑剤が存在しない無潤滑条件下においても焼き付くことなく回転することができる。さらに、摺接粒子10bとしてダイヤモンド等の摩擦係数の低い物質を用いた場合には、摩擦による熱の発生が抑えられ、材料の耐久性が更に向上する。
<摺動部材の製造方法>
本発明の一実施形態における摺動部材の製造方法は、軸部材製造工程として、(1)金属基体の表面の上に無機粒子粉末を載せる工程、(2)無機粒子粉末を金属基体中に押し込み固定する工程、を少なくとも包含している。以下、各工程に関して説明する。
(1)金属基体の表面の上に無機粒子粉末を載せる工程(第1工程)
本実施の形態における第1工程について、図3を用いて説明する。図3の(a)は、金属基体10aの表面の上に無機粒子粉末30を載せた状態を示す断面図である。
本実施の形態における第1工程では、例えば、黒鉛からなる成形型に金属基体10aを収納し、その後、前記成形型に無機粒子粉末30を充填する。前記成形型内において、図3に示すように、金属基体10aの表面の上に、無機粒子粉末30が載った状態となる。
成形型の材質としては、後述する第2工程における加圧手段に対応して、一般的に用いられる材質を選択すればよく、例えば黒鉛や超硬合金等である。
金属基体10aの材質としては、Co系、Ni系の硬質合金等を用いればよい。すなわち、金属基体の材質と、無機粒子粉末30との互いの熱膨張係数の差に基づく、金属基体10aの材質の制約は緩和されており、金属基体10aの材料選択の幅が広い。
無機粒子粉末30としては、金属基体10aよりも硬質な粒子であればよく、例えば炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、立方晶窒化ホウ素(CBN)等のセラミックス粒子や、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)粒子等を用いることができる。なお、摺動面の摩擦を低減するには、摺動性に優れるダイヤモンド粒子やDLC粒子を用いることが好ましい。
金属基体10aの表面の上に載せる無機粒子粉末30の厚さは、5mmより小さいと作業性が悪く、10mmより多いと後述する第2工程加圧時の圧損が大きくなるため、5〜10mm程度が好ましい。
(2)無機粒子粉末を金属基体中に押し込み固定する工程(第2工程)
本実施の形態における第2工程について、図3を用いて説明する。図3の(b)は、成形型に充填した金属基体10aと無機粒子粉末30とを加圧した後の状態を示す断面図であり、(c)は、加圧後の金属基体10aの表面部分の拡大図である。
本実施の形態における第2工程では、第1工程において成形型に充填した金属基体10aと無機粒子粉末30とを、加圧装置を用いて、無機粒子粉末30の焼結温度より低い温度にて加圧する。該加圧装置には、例えばホットプレス装置のような、一般的な粉体の焼結に用いられる装置が使用できるが、スパークプラズマ焼結(SPS)装置を用いることが好ましい。SPSは、粉体焼結等に通常用いられる方法として知られている。SPSは、簡単には、試料に対して高圧に加圧すること、プラズマ形成等によって粒子間の接合を促進すること、及び急速昇温し高温で加熱すること、が可能であるという利点がある方法である。
本実施の形態における第2工程では、SPS装置を用いて、高温加圧下で加圧成形を行う。ここで、SPSの温度としては、無機粒子粉末30の焼結温度よりも低い温度を設定すればよく、例えば、無機粒子粉末30としてダイヤモンド粒子を用いる場合、950℃である。また、SPSの圧力としては、摺接粒子10bが金属基体10aに押し込まれ固定される程度の圧力であればよく、例えば30MPaのような低圧でよい。
SPS装置を用いた加圧成形後、金属基体10aとの境界に位置していた無機粒子が金属基体10aに押し込まれ固定され、1粒子の厚みで散在する。なお、境界とは金属基体10aと無機粒子粉末30との界面又は界面付近とも表現できる。金属基体10aに押し込まれて固定された無機粒子が摺接粒子10bとなる。ここで、金属基体10a上に固定されなかった他の無機粒子は、前記加圧成形後、除圧したときに粉末状態を保持しており、金属基体10aの表面の上から除去できる。すなわち、本実施の形態におけるSPS装置を用いた加圧成形では、無機粒子粉末30中の無機粒子の大多数は、焼結されることなく、圧力媒介及び熱媒介として作用している。これにより、金属基体10aに固定されなかった無機粒子は、金属基体10aの表面の上から回収することができ、そして、別の摺動部材の製造における第1工程に再利用することができる。したがって、無機粒子粉末30を無駄に廃棄することが無い。このように、本実施の形態の摺動部材の製造方法によれば、製造コストを抑制できる。
また、本実施の形態におけるSPS装置を用いた加圧成形では、短時間で昇温が可能なため、無機粒子として例えばダイヤモンド粒子やDLC粒子を用いた場合には、黒鉛への変質を抑制することができるという効果を奏する。
[他の工程]
第2工程の後、金属基体10aの外表面の上に固定された摺接粒子10bの粒子先端に、摺接面13を形成する加工工程を行うことにより、摺動性が良い摺動部材が得られる。この摺接面13を形成する加工は、セラミックス等の硬質な材料を研磨するのに通常用いられる方法によって行われる。ここで、一部の摺接粒子10bは、加工中に金属基体10aの外表面の上から脱落し得る。該脱落によって粒子間領域12が更に形成され、摺接粒子10bの面密度が調節されるとともに、粒子間領域12はスラリー粒子の通路として働く。したがって、無給水ポンプにおける軸受構造に適用でき、摺接面における焼き付きを防止でき、スラリー粒子による摩耗にも耐久性のある摺動部材を製造することができる。
前記加工工程の後、必要に応じて、摺接粒子10bと金属基体10aとの接合の安定性を評価するために、JIS R 3255に規定される、ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法に準拠したマイクロスクラッチ法により、後述する完全損傷荷重を測定することができる。前記マイクロスクラッチ法は、「鈴木庸久、今野高士、 “カーボンナノチューブ複合ニッケルめっき被膜を用いたダイヤモンド電着砥石の開発”、2010年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集L44」に記載の方法を参考に行うことができ、以下に説明する。
前記マイクロスクラッチ法においては、島津走査型スクラッチテスターSST−101(商品名、株式会社島津製作所製)を用いた。前記スクラッチテスターは、金属基体10aの外表面に固定された摺接粒子10bに接触するツールと、ツールを保持するロードセルとを備えている。該ツールは平面状のテスト面を有している。前記マイクロスクラッチ法においては、前記テスト面を金属基体10aの外表面に対して垂直に、かつ前記ツール先端を金属基体10aの外表面の10μm上方に設置する。前記ツールを、金属基体10aの外表面に沿って平行に速度100μm/sで動かして、金属基体10aの外表面から露出した摺接粒子10bをテスト面で押し、摺接粒子10bが脱落するときの最大ツール荷重を、前記ロードセル(最大測定強度20N)により測定し、これを完全損傷荷重とする。ここで、最大ツール荷重とは、ツールを介して試験片表面に加えた力である。前記完全損傷荷重は、摺接粒子10bと金属基体10aとの密着性を示す指標となる。なお、ツールは、単結晶ダイヤモンド製であり、テスト面の幅は150μmのものを用いた。
上述の工程が行われた後、本実施の形態の軸部材10は、軸受構造における軸部として、例えば無給水ポンプ等に供することができる。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について、図4に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
前記実施の形態1では、粒子表面が何も処理されていない摺接粒子10bを、金属基体10aの表面の上に固定していた。これに対して、本実施の形態の摺接粒子10bでは、前記第1工程の前に、あらかじめ摺接粒子10bの表面に金属メッキ70が施されている点が異なっている。このとき、金属メッキの層厚は、0.1μmより薄いとメッキが剥がれたり傷つきやすくなり、0.5μmより厚くしてもそれ以上の効果がないため、0.1〜0.5μm程度が好ましい。
本実施の形態の摺動部材としての軸部材10の製造方法について、図4に基づいて説明する。図4は、本実施の形態における摺動部材としての軸部材10の、第2工程後の金属基体10aの表面部分の拡大図である。
本実施の形態の摺動部材の製造方法により製造された軸部材10では、金属基体10aの表面の上に、粒子表面に金属メッキ70が施された摺接粒子10bが固定されている。この金属メッキ70は、前記第1工程の前に、無機粒子粉末30に施される。金属メッキ70のメッキ方法としては、一般的に用いられる方法が使用できる。金属メッキ70における金属としては、例えばニッケルが挙げられるが、その他の金属であってもよい。
粒子表面に金属メッキ70が施された無機粒子粉末30は、その一部が、第2工程において金属基体10aに押し込まれ、摺接粒子10bとして固定される。ここで、金属メッキ70は、金属基体10aと摺接粒子10bとの間にて、接合を補助する。すなわち、金属メッキ70と金属基体10aとの間には、前記第2工程における加熱によって、異種金属又は同種金属間の結合が形成され、結合力が生じる。また、摺接粒子10bと金属メッキ70との間には、アンカー効果によって結合力が生じる。したがって、摺接粒子10bにあらかじめ金属メッキ70を施すことにより、金属基体10aに、より強固に固定することができる。
また、摺接粒子10bの表面に金属メッキ70が施されているため、前記第2工程における加圧後に、摺接粒子10b同士が融着することがあり得る。しかし、このときの摺接粒子10bの粒子間の融着は弱いため、機械加工を行うことにより、金属基体10a上に固定されていない摺接粒子10bを除去すること、及び回収した摺接粒子10bを粉末にすることができる。
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施形態について、図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1及び2と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1及び2の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
前記実施の形態1及び2では、第2工程において、金属基体10aの上に無機粒子粉末30を載せて加圧していた。これに対して、本実施の形態の摺動部材としての軸部材10の製造方法においては、金属基体10aの上に金属微粉末61を載せ、その後、無機粒子粉末30を載せてから第2工程を行う点が異なっている。
本実施の形態の摺動部材としての軸部材10の製造方法について、図5に基づいて説明する。図5は、本実施の形態における摺動部材としての軸部材10の、金属基体10aの表面の上に金属微粉末61を載せた後、該金属微粉末61の上に粉末30を載せた状態、及び第2工程後の金属基体10aの表面の状態を示す図である。
本実施の形態の摺動部材の製造方法により製造された軸部材10では、金属基体10aの表面の上に、摺接粒子10bが固定されているとともに、摺接粒子10b間において、金属基体10aの表面に金属膜62が形成されている。該金属膜62は、前記第2工程において、加熱された金属微粉末61が結合して形成される。金属微粉末61に用いられる金属としては、例えば炭化物微粉末を含むニッケルやコバルトが挙げられるが、これに限定されない。微粉末の粒子サイズとしては1〜3μmが好ましく、より好ましくは、0.5〜1.0μmである。
金属基体10aに押し込まれ固定された摺接粒子10bは、前記金属膜62によって、さらに保持される。すなわち、前記第2工程後の摺接粒子10bは、図5に示すように、金属基体10aだけでなく金属膜62によっても固定されている。このとき、前記第2工程における加熱によって、摺接粒子10bと金属膜62との間には、アンカー効果等の結合力が働く。そのため、金属膜62は金属基体10aと摺接粒子10bとの接合を補助することができる。
また、金属膜62は、金属基体10aの表面上に形成されることにより、金属基体10aを保護することができる。すなわち、本実施の形態の摺動部材の製造方法により製造された軸部材10では、粒子間領域12を通過するスラリー粒子は、金属基体10aではなく金属膜62と接触するため、金属基体10aが保護される。これにより、軸部材10のスラリー粒子に対する耐久性が更に向上する。
前記第2工程の後、金属膜62の厚みが摺接粒子10bの粒子径よりも大きい場合には、金属膜62を研削する加工を行えばよい。それにより、摺接面13が摺接粒子10bのみから形成され、摺動面の焼き付きを防止することができる。
〔実施の形態4〕
本発明の他の実施形態について、図6に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1〜3と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1〜3の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
前記実施の形態1〜3では、金属基体10aの表面に何も処理をせずに、該表面の上に無機粒子粉末30を載せて加圧していた。これに対して、本実施の形態の摺動部材としての軸部材10の製造方法においては、金属基体10aの表面にあらかじめ凹凸を形成し、その後、第1工程を行う点が異なっている。
本実施の形態の摺動部材としての軸部材10の製造方法について、図6に基づいて説明する。図6は、本実施の形態における、第2工程後の金属基体10aの表面の状態を示す図である。
図6に示されるように、金属基体10aの表面には凹凸が形成されている。該凹凸の高低差は、無機粒子の平均粒子径よりも大きく設定されており、該凹凸の高低差は、無機粒子の平均粒子径の2〜4倍とすることが好ましい。そして、本実施の形態では、第2工程の後、金属基体10aの凹凸のある表面の上に、該凹凸に沿って摺接粒子10bが1粒子の厚みで散在して固定される。
第2工程の後、上述したように、摺接粒子10bの先端が同一円周の摺接面13となるように、摺接粒子10bの加工が必要に応じて行われる。この際、削り代が問題となる。このことについて、以下に説明する。
仮に、金属基体10aが完全に平滑な表面を有しているとすると、金属基体10aの表面に固定された摺接粒子10bの削り代は、摺接粒子10bのうち金属基体10aの表面上に露出している部分の高さAとなる。そのため、金属基体10aが変形し、その変形量が前記高さAよりも大きい場合には、ある部分において削り代が足りなくなり、摺接粒子10bの全てを削り取ってしまう可能性がある。
これに対して、本実施の形態の摺動部材の製造方法のように、金属基体10aにあらかじめ凹凸をつけることにより、削り代を大きくすることができる。金属基体10aの表面の凹凸に沿って摺接粒子10bが固定されているため、実質的な削り代は、図6に示すように、摺接粒子10bの高さAに凹凸の高低差Bを加えたものとなる。すなわち、摺接粒子10bと共に金属基体10aの表面を研削することによって、摺接面13を形成することができる。このとき、摺接面13上に出てくる金属基体10aの表面については、後加工として、金属基体10aの表面のみを研削し、窪みを形成すればよい。該後加工には、金属基体10aよりも硬度が高く、摺接粒子10bよりも硬度が低い粒子を用いればよい。
また、本実施の形態の摺動部材の製造方法のように、金属基体10aにあらかじめ凹凸をつけ、凹凸に沿って摺接粒子10bを固定することにより、面密度の調整が容易になる。すなわち、摺接面13の所望の面密度まで、摺接粒子10bと共に金属基体10aの表面を研削することができる。このとき、摺接面13上に出てくる金属基体10aの表面については、上述のように、後加工として、金属基体10aの表面のみを研削し、窪みを形成すればよい。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施例1〕
内径30mmの黒鉛型に、φ30×5mmtの基体Co-Cr-Mo-Si-B合金の上に平均粒子径100μmのダイヤモンド粒子粉末を2g充填した(第1工程)。黒鉛型に充填した基体及びダイヤモンド粒子粉末を、SPS装置により30MPa、900℃で5分間焼成した(第2工程)。脱型の際、ほとんどのダイヤモンド粒子粉末は粉状の状態であり、基体には1粒子の厚みのダイヤモンド粒子のみが接合された。基体と接合されたダイヤモンド粒子の先端を加工した。加工後、ダイヤモンド粒子と基体との密着性を、マイクロスクラッチ法により評価した。密着性は12Nの強度であった。したがって、SPS装置を用いて、基体の表面上にダイヤモンド粒子を固定すること、及び固定後のダイヤモンド粒子の粒子先端を加工することができた。
〔実施例2〕
SPS装置を用いた加圧の前に、ダイヤモンド粒子に無電解ニッケルメッキを施したこと以外は、実施例1と同様の工程を行うことにより、摺動部材を製造した。加工後、ダイヤモンド粒子と基体との密着性を、マイクロスクラッチ法により評価した。密着性は16Nの強度であった。したがって、SPS装置を用いた加圧の前に、ダイヤモンド粒子に無電解ニッケルメッキを施すことによって、ダイヤモンド粒子と基体との接合がより強固になった。
〔実施例3〕
SPS装置を用いた加圧の前に、基体の上に平均粒子径3μmのコバルト粉末を1g充填し、その後ダイヤモンド粒子を充填したこと以外は、実施例1と同様の工程を行うことにより、摺動部材を製造した。加工後、ダイヤモンド粒子と基体との密着性を、マイクロスクラッチ法により評価した。密着性は17Nの強度であった。したがって、基体の上にコバルト粉末を充填することにより、ダイヤモンド粒子と基体との接合が強固になった。
〔実施例4〕
まず、φ30×5mmtの基体Co-Cr-Mo-Si-B合金の表面に凹凸をつけた。その後、実施例1と同様の工程により、加圧成形を行った。加圧成形後、脱型の際、ほとんどのダイヤモンド粒子粉末は粉状の状態であり、基体には、基体表面の凹凸に沿って1粒子の厚みのダイヤモンド粒子のみが接合された。その後、ダイヤモンド粒子の先端を加工すると、ダイヤモンド粒子のうち基体の表面上に露出している部分の高さ(図6に示すA)は50μm、気体表面の凹凸の高低差(図6に示すB)は400μm、基体の表面の垂直方向から見たときの、ダイヤモンド粒子が占める面積の割合である面密度は20%となった。
以上の結果から、SPS装置を用いて基体上に摺接粒子を好適に固定できることが確認された。また、粒子の表面にあらかじめ金属メッキを施したり、金属基体の表面上に金属微粉末を載せたりすることにより、摺接粒子と金属基体との接合強度が変えられることが確認された。
本発明は、先行待機運転のような、軸受にとって過酷な条件での運転を行う無給水ポンプに利用することができる。
1A 軸受構造
10 軸部材
10a 金属基体
10b 摺接粒子
11 軸受け部材
12 粒子間領域
13 摺接面
30 無機粒子粉末
61 金属微粉末(金属粒子微粉末)
62 金属膜
70 金属メッキ

Claims (6)

  1. ポンプ用軸受構造に用いられ、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材の製造方法であって、
    金属基体の表面の上に、セラミックス粒子、ダイヤモンド粒子およびダイヤモンドライクカーボン粒子の少なくとも一つである無機粒子の粉末を載せる第1工程と、
    前記第1工程の後、前記無機粒子の焼結温度より低い温度にて前記無機粒子の粉末を加圧し、前記金属基体との境界に位置する前記無機粒子を前記金属基体に押し込み固定する第2工程とを含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
  2. 前記無機粒子は、表面が金属メッキされていることを特徴とする請求項1記載の摺動部材の製造方法。
  3. 前記第1工程において、金属基体の表面の上に金属粒子微粉末を載せた後に、該金属粒子微粉末の上に前記無機粒子粉末を載せることを特徴とする請求項1記載の摺動部材の製造方法。
  4. 前記金属基体の表面に、前記無機粒子の平均粒子径よりも大きい高低差を有する凹凸があることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
  5. 前記第2工程は、スパークプラズマ焼結(SPS)装置を用いて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
  6. 前記第2工程において前記金属基体に固定されなかった無機粒子の粉末を、前記第1工程にて再利用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
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