本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施の形態1.摺動部材〕
本発明の一実施形態に係る摺動部材は、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材であって、摺動部材基部と、上記摺動部材基部の表面に散在して固定されており、かつ、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子の先端部が、上記被摺動部材と摺接する摺接面を形成する面を有している摺接粒子と、を備え、上記摺動部材基部の表面は、上記摺接粒子の一部分を埋め込み可能に形成されてなる凹部と、上記凹部の周囲に、上記凹部を囲むように形成されてなる凸部とを有し、上記摺接粒子は、上記凹部に埋め込まれている部分と、上記凹部から突出している部分とを有し、上記凹部から突出している部分の周囲には上記凸部が形成されている、摺動部材である。
(1-1.摺動部材の一例としての軸部材)
被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材の一例として、スラリー液を排出可能なポンプに用いられる回転機構における軸・軸受構造の軸部材について説明する。なお、本実施形態では、摺動部材としての軸部材について説明するが、本発明の一実施形態に係る摺動部材は必ずしもこれに限らない。例えば、本発明の一実施形態に係る摺動部材は、軸部材に対して相対的に摺動する軸・軸受構造における軸受部材にも適用することができる。また、例えば、本発明の一実施形態に係る摺動部材は、スラスト軸受のような、被摺動部材に対して相対的に平面で摺動する摺動部材にも適用することができる。
軸・軸受構造1Aにおける、本発明の一実施形態に係る摺動部材としての軸部材10の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る軸・軸受構造1Aの、軸方向に垂直な断面を示す断面概略図である。
図1に示すように、軸・軸受構造1Aは、摺動部材としての軸部材10と、被摺動部材としての軸受部材11とからなっている。軸部材10は、円筒形状の軸スリーブである。なお、軸部材10は、軸スリーブに限定されるものではなく、軸であってもよい。一方、軸受部材11は、内部に軸部材10が収容される円筒形状を有しており、軸部材10を軸支する。
軸受部材11は、例えば、硬質のセラミックスまたは超硬合金等からなり、硬度が珪砂の硬度と同等以上であるため、スラリー液に含まれる珪砂等に対する耐摩耗性に優れる。さらに、硬質のセラミックスである共有結合性またはイオン結合性のセラミックスは、スラリー液中に稀に含まれる金属くず等の金属成分との親和性が小さいため、軸受部材11へのスラリー液に含まれる金属くず等の金属成分の付着を防ぎやすい。なお、軸受部材11の表面に、摩擦係数を低く、もしくは耐摩耗性を向上するための焼結体または膜を形成するような加工がされていても良い。
軸部材10は、図1に示すように、基体10aと、摺接粒子10bと、後述する表面形成部であるメッキ層10cとを備えている。基体10aとメッキ層10cとは、摺動部材基部10dを形成している。ただし、軸部材10は、少なくとも基体10aと、摺接粒子10bとを備えていればよい。この場合は、摺動部材基部10dは基体10aのみからなる。なお、図1では、摺接粒子10bのうち、一部のみを図示している。
(1-2.摺接粒子)
摺接粒子10bは、摺動部材基部10dの表面に散在して固定されている。つまり、摺接粒子10bは、摺動部材基部10dの表面に、互いに接触することなく固定されている。そして、摺接粒子10bは、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子の先端部が、被摺動部材と摺接する摺接面を形成する面を有している粒子である。
摺動部材基部10dの表面に固定されている各摺接粒子10bは、それぞれ、軸受部材11と対向する面に摺接面を形成する面を有している。そのため、軸部材10の軸を中心とした円周面である摺接面12が形成され、摺接粒子10bは、摺接面12によって、軸受部材11と摺接する。以下、本明細書では、上記「被摺動部材と摺接する摺接面を形成する面」を「面A」と称する場合がある。
上記「硬質粒子」とは、摺接粒子10bの原料となる粒子である。なお、本明細書では、先端部が上記面Aを有している硬質粒子を摺接粒子と称するが、後述するように、上記硬質粒子は、先端部の加工を行わずとも上記面Aを有し、そのまま摺接粒子として使用することができる場合がある。そのため、本明細書では、説明の都合上、硬質粒子についても符号10bを付して説明する場合がある。
硬質粒子は、硬さが珪砂の硬さ以上であり、かつ、圧縮強度が200kg/mm2以上であることが好ましい。当該構成によれば、硬さが珪砂の硬さ以上であるため、珪砂を主成分とするスラリー粒子等による摺接粒子10bの摩耗を防止することができる。また、圧縮強度が200kg/mm2以上であるため、後述する本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法において摺動部材基部10dに圧入させやすい。
なお、圧縮強度とは、圧縮荷重に対して材料が持ちこたえることができる最大応力をいう。上記圧縮強度は、圧入時に硬質粒子が破損しにくいという観点から、250kg/mm2以上であることがより好ましく、300kg/mm2以上であることがさらに好ましい。
また、硬質粒子は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、窒化ケイ素、アルミナ、および、WCとW2Cとの複合材からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
硬質粒子がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、およびアルミナからなる群より選ばれる粒子である場合、圧縮強度の高い多面体粒子を入手しやすい。また、硬質粒子がダイヤモンド、窒化ケイ素、アルミナ、および、WCとW2Cとの複合材からなる群より選ばれる粒子である場合、圧縮強度の高い球状粒子を入手しやすい。
また、上記硬質粒子は、摩擦係数が低いため、摺接粒子10bと、軸受部材11との間に水等の潤滑剤が存在しない無潤滑条件下においても円滑に摺動することができる。さらに、摩擦係数が低いことにより、摩擦による熱の発生が抑えられ、軸・軸受構造1Aの耐久性を向上させることができる。
硬質粒子の「先端部」とは、摺動部材基部10dの表面に硬質粒子が固定された場合に、軸受部材11と対向する部位をいう。摺接粒子10bは、硬質粒子の先端部を加工することによって、先端部に、上記面Aが形成されてなるものであってもよい。
また、硬質粒子が元来備えている面をそのまま上記面Aとして用い得る場合は、先端部を加工することなく、硬質粒子自体を摺接粒子10bとすることもできる。いずれの場合も、「硬質粒子の先端部が、上記面Aを有している粒子」であるということができる。
上記加工の方法としては、ダイヤモンドまたは炭化珪素等の砥石で削る、放電加工する、といった方法を用いることができる。当業者においては、本実施の形態における摺接粒子10bのような高硬度な材料を研削する方法として、適当なものを選択すればよい。加工する場合、硬質粒子から除去する部分は、硬質粒子の平均粒子径の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。
上記硬質粒子の平均粒子径は、500μm超、1500μm以下である。軸部材10は、通常、摺接面12によって軸受部材11と線接触し、摺動する。線接触状態の摺動では、全ての摺接粒子10bが摺動を行うことができるため、面密度が一定であれば粒子サイズが違っても、摺動部材基部10dが1個の摺接粒子10bを保持する力である保持力と、摺動部材基部10dの単位面積当たりに固定された摺接粒子10bの個数との積はほぼ同じである。上記面密度とは、基体10aの表面の垂直方向から見たときの、摺接粒子10bが占める面積の割合である。
例えば、大きなサイズの摺接粒子10bを用いる場合は少数の粒子を用い、小さなサイズの摺接粒子10bを用いる場合は、粒子数を多くすることにより、同じ面密度を実現することができる。そのため、このとき、摺接面12が受ける面圧に対する耐久性は、摺接粒子10bのサイズの大小によらず同一である。
しかし、強い圧力を受ける過酷な摺動環境下での摺動、偏摩耗した軸受部材11の端部が摺接粒子10bに当接する摺動等の、点接触による摺動が起こった場合は、1個から数個の摺接粒子10bによって摺動する事態が生じ得る。この場合、摺接面12には大きな圧力が加わる。そのため、上記保持力が大きい摺接粒子10b、すなわち、大きなサイズの摺接粒子10bを用いることが有利である。また、軸・軸受構造1Aが、例えば、土砂(スラリー粒子)を含む水を排出するためのポンプに用いられる場合、スラリー粒子によってメッキ層10cの摩耗が生じ得る。この場合、大きなサイズの摺接粒子10bであれば、メッキ層10cの厚みを多く取ることができるため、スラリー粒子による摩耗の影響を小さくすることができる点で有利である。
一方、これまで、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子を材料とした摺接粒子10bを備える摺動部材は存在しなかった。例えば、特許文献1には、摺接粒子の平均粒子径が500μmより大きい場合、製造時に加わる圧力等の条件が大きくなり、設備等で多大な費用を要するため、摺接粒子10b先端の加工が難しくなる旨が記載されている。また、特許文献2には、摺接粒子の平均粒子径は150μm以上であれば良い旨が記載されているが、摺接粒子が大きくなりすぎると、研削による加工が困難となる傾向があるため、摺接粒子の平均粒子径は400μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下である旨が記載されている。
すなわち、特許文献1および2において、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子を原料とした摺接粒子10bを用いることは、加工の困難性ゆえに実現されていなかった。それゆえ、本発明の一実施形態に係る摺動部材は、これまでに提供されていなかった。
特許文献1には、基体10aの表面に摺接粒子10bを固定する方法として、電着、スパークプラズマ焼結が記載されており、特許文献2には、これらの方法に加えてロウ付けも記載されている。ここで、図14は、従来の方法で硬質粒子を基体に固定した様子を示す模式図であり、図14の(a)は、電着またはロウ付けによって硬質粒子を基体に固定した様子を示す模式図であり、図14の(b)は、スパークプラズマ焼結によって硬質粒子を基体に固定した様子を示す模式図である。
図14の(a)に示すように、電着またはロウ付けでは、摺接粒子10bの原料である硬質粒子10bを基体10aの表面に固定し、メッキ層10cを形成するため、基体10aの表面上に、硬質粒子10bの下端部もしくは下面が載置される。スパークプラズマ焼結は、硬質粒子10bの粉末を加圧し、基体10aに押し込む方法である。
一方、硬質粒子10bは多数の粒子の集合体であり、粒度分布を有する。そのため、特許文献1および2に開示された方法で硬質粒子10bを基体10aに固定する場合、図14の(a)および(b)に示すように、硬質粒子の下端部もしくは下面は段差なく揃うが、軸受部材11に対向する硬質粒子の先端部は、平均粒子径が大きな硬質粒子であるほど、大きな段差を有することになる。平均粒子径が500μm超の硬質粒子は、上記段差が非常に大きいため、上記面Aを作製する際に大きな負荷が生じ、加工が不可能となる。
それゆえに、特許文献1および2では、平均粒子径が500μm超の硬質粒子を用いることができていなかった。その結果、特許文献1および2に開示の技術では、本発明の一実施形態に係る摺動部材を提供することはできていなかった。
本発明の一実施形態に係る摺動部材は、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子の先端部が、上記面Aを有している摺接粒子10bを備える、という構成を有している。
上記構成によれば、上記平均粒子径が500μm超1500μm以下であるため、摺動部材基部10dの上記保持力を大幅に向上させることができる。そのため、点接触による摺動が起こった場合であっても、摺接粒子10bの脱離を抑制することができる。また、平均粒子径が大きいため、スラリー粒子の移動速度を抑制することができる。さらに、摺接粒子10bの角部による軸受部材11への攻撃性を弱めることができる。したがって、耐久性に優れ、過酷な摺動環境等であっても安定した摺動を実現可能な軸部材10を提供することができる。上記構成は、別途詳述する本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって得ることができる。
上記平均粒子径は、500μm超である。摺動部材の耐久性向上の観点から、上記平均粒子径は、600μm以上であることがより好ましく、700μm以上であることがさらに好ましく、800μm以上であることが特に好ましい。
また、上記平均粒子径は、1500μm以下である。上記製造方法において、硬質粒子10bを摺動部材基部10dに圧入させる工程を容易にする観点および製造コスト低減の観点から、上記平均粒子径は、800μm以下であることがより好ましく、700μm以下であることがさらに好ましく、600μm以下であることが特に好ましい。
なお、上記平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置:株式会社島津製作所、SALD-2100により計測されるD50値である。
(1-3.摺動部材基部および摺動部材基部に固定された摺接粒子)
上記摺動部材基部の表面は、上記摺接粒子の一部分を埋め込み可能に形成されてなる凹部と、上記凹部の周囲に、上記凹部を囲むように形成されてなる凸部とを有する。
図2は、図1に示す軸部材10において丸囲みした部分αを拡大した断面概略図である。図2において、13は凹部、14,15は凸部、16,16’は水平部、17,18は凸部と摺接粒子との間の空間である。H1~H5は図中に示す部分の高さを表している。水平部16,16’は、摺動部材基部10dにおいて略水平な面を形成している部分である。ただし、摺動部材基部10dは水平部16,16’を有さない場合もある。例えば、摺接粒子10b同士が狭い間隔で固定されている場合は、隣り合う摺接粒子10bの周囲に形成された凸部14同士が近接し、水平部16,16’が存在しない場合がある。
「上記摺接粒子の一部分を埋め込み可能に形成されてなる凹部」とは、例えば図2に示す凹部13のように、摺動部材基部10dの表面の一部分が陥入して形成されてなり、摺接粒子の全体ではなく一部分を嵌入させることができる部分である。
なお、メッキ層10cは、摺接粒子10bの一部分を凹部13に嵌入させた後に形成されるため、摺動部材基部10dが備える基体10aの表面のみが凹部13を形成している。凹部13は、例えば、別途詳述する本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって、摺接粒子10bの原料である硬質粒子を基体10aに圧入させることによって形成することができる。
「上記凹部の周囲に、上記凹部を囲むように形成されてなる凸部」とは、例えば図2に示す凸部14,15のように、凹部13の周囲に、凹部13を被覆しないように形成されている部分をいう。
凸部14は、基体10aに凹部13を形成することに伴って、基体10aのうち、凹部13に近接する部分が隆起することによって形成される。凸部14は、例えば、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって、摺接粒子10bの原料である硬質粒子を基体10aに圧入させることによって形成することができる。凸部15は、凸部14が形成された基体10aの表面にメッキ層10cを形成することによって形成される。
図2に示すように、摺接粒子10bは、凹部13に埋め込まれている部分と、凹部13から突出している部分とを有し、凹部13から突出している部分の周囲には凸部14,15が形成されている。なお、凹部13から突出している部分とは、摺接粒子10bのうち、凹部13に埋め込まれていない部分をいう。例えば、摺接粒子10bのうち、図2に示した一点鎖線よりも上の部分(凹部13の起点から上の部分)である。
摺接粒子10bが凹部13に埋め込まれる深さは、上記硬質粒子の平均粒子径の50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。当該構成によれば、摺動部材基部10dによる摺接粒子10bの保持力を好適化することができる。
また、硬質粒子を加工する場合、硬質粒子から除去する部分は、前述したように、硬質粒子の平均粒子径の10%以下であることが好ましいため、摺接粒子10bが凹部13に埋め込まれる深さは、上記硬質粒子の平均粒子径の90%未満であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
なお、「摺接粒子10bが凹部13に埋め込まれる深さ」とは、基体10aの凹部13の起点から、凹部13に嵌入している摺接粒子10bの最深部に垂線を下したときの当該垂線の長さ(例えば、図2におけるH5)をいう。
凸部14、15が形成されていることによって、摺接粒子10bは、凹部13から突出している部分の周囲が、凸部14、15に囲まれる。摺接粒子10bは、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子を用いているため、上述したように、摺動部材基部10dによる保持力が強化されている。それに加えて、摺接粒子10bは、凸部14、15によって、より一層強固に摺動部材基部10dに固定される。
また、凸部15は、凸部14の上に形成されたメッキ層10cであるため、水平部16のみにメッキ層10cが形成される場合と比較して、メッキ層10cの表面積が大きくなる。そのため、スラリー粒子の移動速度の抑制に寄与することができる。したがって、凸部15によって、スラリー粒子による摩耗に対するメッキ層10cの耐久性を向上させることができる。
ただし、軸部材10において、メッキ層10cは必ずしも形成されていなくてもよい。例えば、軸部材10をスラリー粒子による摩耗が生じないような用途(例えば乾式摺動)に用いる場合は、メッキ層10cが形成されていなくてもよい。よって、当該用途に用いる場合等は、凸部15は必ずしも形成されていなくてもよいが、この場合、摺接粒子10bを摺動部材基部10dに強固に固定するため、凸部14の先端は、後述するように略水平な面を有することが好ましい。
上記摺動部材基部の表面は、上記凹部および上記凸部以外の部分であって、略水平な面を形成する水平部を有し、上記水平部から上記摺接粒子の先端までの高さは、上記水平部から上記凸部の先端までの高さよりも高いことが好ましい。
上記「略水平な面」とは、全く凹凸を有さない完全に平坦な面でなければならないということではなく、実用上水平と言える程度の面であればよいことを意味する。例えば、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって基体10aに硬質粒子を圧入させる場合、凹部および凸部が形成されず、基体10aにおいて圧入の影響を受けない部分は、略水平な面である。
図2に示すように、水平部16から摺接粒子10bの先端までの高さH1は、水平部16から凸部14の先端までの高さH2よりも高い。また、水平部16’から摺接粒子10bの先端までの高さH3は、水平部16’から凸部15の先端までの高さH1よりも高い。なお、上述したように、摺動部材基部10dは水平部16,16’を備えていない場合もある。この場合は、摺接粒子10bの、凹部13から突出している部分の高さ(例えば、図2に示す一点鎖線より上の部分の高さであるH1)が、凸部14の高さ(図中H2)および凸部15の高さ(図中、一点鎖線から凸部15の先端までの高さ)よりも高いことが好ましい。
上記構成を備えることにより、摺接粒子10bは、凸部14、15によって摺動部材基部10dに強固に固定されるとともに、摺接面12を形成するための上記面Aが凸部14,15よりも高い位置にあるため、軸受部材11との摺動を円滑に行うことができる。
(1-4.摺接面の形状、摺接粒子の硬さ等)
上記硬質粒子は、多面体粒子および/または球状粒子であり、上記硬質粒子が多面体粒子である場合、上記摺接粒子の総数の60%以上の粒子が有する上記摺接面を形成する面の形状は、上記多面体粒子が有する表面形状のいずれかと相似し、上記硬質粒子が球状粒子である場合、上記摺接粒子が有する上記摺接面を形成する面の形状は、円形または楕円状であることが好ましい。
上記「多面体粒子」とは、粒子が有する面が三角形以上の多面体で形成されている粒子をいう。上記多面体粒子は、1種の形状の面を有する多面体であってもよいし、2種以上の形状の面を有する多面体であってもよい。図5は、硬質粒子の一例であるダイヤモンド粒子の形状を示す図である。図5の(b)は当該粒子の形状を模式的に示す全体図であり、図5の(a)は、図5の(b)に示す粒子の表面形状を示す平面図である。なお、多面体粒子の形状は、図5に示す形状に限られるものではない。
上述したように、摺接粒子10bは、硬質粒子の先端部を加工することによって、先端部に、上記面Aが形成されてなるものであってもよい。また、硬質粒子が元来備えている面を、上記面Aとしてそのまま用い得る場合は、先端部を加工することなく、硬質粒子自体を摺接粒子10bとすることもできる。
上記硬質粒子が多面体粒子である場合、硬質粒子は、例えば図5の(a)に示す表面形状を有し、当該形状は、上記面Aとして好適であるため、硬質粒子が元来備えている面をそのまま上記面Aとして用い得る場合が多い。また、硬質粒子が上記表面形状を有しているため、先端部を加工する場合でも、わずかな加工によって、多面体粒子が有する面を、上記面Aとして用いることができる。
この点について、四角面が6個と六角面が8個とから構成される14面体粒子を硬質粒子として用いた場合を例として、さらに説明する。上記14面体粒子は、図5の(b)の右から二番目に示す粒子である。後述する本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって、上記硬質粒子を、摺動部材基部10dの表面から上記硬質粒子の先端までの高さが略一定となるように、摺動部材基部10dに圧入させると、上記硬質粒子は、先端部において、当該硬質粒子が有する四角面または六角面が、摺動部材基部10dの表面からの高さが略一定となった状態で固定される。
このとき、上記高さが略一定であるため、上記高さを調節するための加工は不要である。また、圧入の際、上記四角面または六角面に荷重がかかり、角部には荷重がかからないため、硬質粒子の表面の形状が圧入によって変形することはほぼない。そのため、硬質粒子が元来備えている面をそのまま、上記面Aとして用い得る場合が多い。
圧入後に、硬質粒子が元来備えている面を、例えば、上記面Aの形状を整えること等を目的として加工する場合でも、上述のように、高さ調節のための加工は不要である。そのため、わずかな加工によって、多面体粒子が有する面を、上記面Aとして用いることができる。
そのため、摺接粒子10bの総数の60%以上の粒子が有する、上記面Aの形状は、上記多面体粒子が有する表面形状のいずれかと相似し得る。上記表面形状は、上記多面体粒子が元来備えている面の形状と言い換えることもできる。上記「相似」とは、同じ形状のまま拡大または縮小した形状のことをいい、合同であってもよい。ただし、厳密な相似でなくとも上記面Aとしての機能を果たすことは十分にできるため、厳密な相似であることまでは必要なく、拡大または縮小した結果、元の形状と略一致する形状であればよい。
上記多面体粒子が有する表面形状のいずれかと相似する形状の割合は、より安定した摺動を実現する観点から、上記面Aにおいて、高いほど好ましい。例えば、上記割合は、摺接粒子10bの総数の70%以上、80%以上、90%以上であることが好ましく、100%であることが最も好ましい。
上記硬質粒子が球状粒子である場合も、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって、摺動部材基部10dの表面から上記硬質粒子の先端までの高さが略一定となるように、上記球状粒子を摺動部材基部10dに圧入させることができる。この場合、そのままでは、上記球状粒子と軸受部材11との接触は点接触となる。そのため、上記球状粒子の先端部を加工して上記面Aを作製し、上記接触が線接触となるようにすることが好ましい。
ここで、球状粒子とは、角を有さない丸みを帯びた粒子を意図する。球状粒子は製造により真球からずれ、楕円形状等になる場合があるが、使用する球状粒子の直径不同および真球度は10μm以下であることが好ましい。よって、上記球状粒子の先端部を加工して作製した上記面Aの形状は、円形または楕円状となる。
(1-5.摺動部材基部の形状等)
本発明の一実施形態に係る摺動部材において、上記摺動部材基部の表面が備える上記凸部の先端は、上記摺接粒子から離間しており、上記凸部の先端と、上記摺接粒子との間に空間を有することが好ましい。図2に示す凸部14は、上述したように、例えば、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法により、硬質粒子を基体10aに圧入させることによって作製される。この際、凸部14の先端(図2に示す高さH2を示す部分)は、図2に示すように、摺接粒子10bとの間に空間17を有する。また、図2に示す軸部材10では、メッキ層10cを形成しているため、凸部15の先端(図2に示す高さH4を示す部分)は、摺接粒子10bとの間に空間18を有する。
図3は、硬質粒子として球状粒子を基体10aに圧入させた軸部材10の、軸方向に垂直な断面を示す、一粒子分の断面概略図である。図3に示すように球状粒子を圧入させた場合は、凸部14の基部は摺接粒子10bと接しているが、凸部14の先端は摺接粒子10bとの間に空間17を有している。図12は、凸部14の先端が、摺接粒子10bとの間に空間17を有することを示すデジタル顕微鏡写真(使用機器:キーエンス製VHX-5000、倍率:200倍)である。
このように、摺接粒子10bの形状によって、空間の形状は異なり得るが、凸部14の先端が摺接粒子10bとの間に空間17を有した形状が形成される。当該構成によれば、図2および図3に示すように、メッキ層10cが、上記空間を塞ぐように形成され、かつ、凸部15も形成されるため、水平部16のみにメッキ層10cを形成した場合と比べ、メッキ層10cの表面積が増加する。したがって、メッキ層10cを剥離しにくくすることができ、スラリー粒子等に対するメッキ層10cの耐久性を向上させることができる。
また、上記凸部の先端は、略水平な面を有する態様であることも好ましい。図3に示す凸部14を、例えば圧入機によって押し込むことによって、凸部14の先端が、略水平な面を有するように変形させ、摺接粒子10bと密着させることができる。図4は、凸部14の先端が略水平な面を有する軸部材10の、軸方向に垂直な断面を示す、一粒子分の断面概略図である。
上記構成によれば、凸部14および凸部15と、摺接粒子10bとの間の空間は存在しないが、凸部14および凸部15が摺接粒子10bと密着し、摺接粒子10bをかしめたような態様となっているため、摺接粒子10bを摺動部材基部10dに強固に固定することができる。さらに、凸部15を有するメッキ層10cが形成されているため、スラリー粒子等に対する軸部材10の耐久性も向上させることができる。
本発明の一実施形態に係る摺動部材において、上記摺接粒子は、上記凹部から突出している部分の表面積の40%以上80%以下が、上記凸部に囲まれていることが好ましい。
上述したように、図2~図4に示す摺接粒子10bの、凹部13から突出している部分の周囲には、凸部14,15が形成されており、凸部14,15は、凹部13を囲むように形成されているため、摺接粒子10bの外周を囲むように形成されている。
ここで、図2および図3に示す凸部14,15の場合は、凸部14,15の先端と、摺接粒子10bとの間に空間を有している。この場合、「上記凹部から突出している部分の表面積の40%以上80%以下が、上記凸部に囲まれている」とは、例えば、凸部14,15の形状を、摺接粒子10bの表面に、拡大および縮小せずに投影した場合に、凹部13から突出している部分の表面積の40%以上80%以下に、凸部14,15の形状が投影されることをいう。
一方、例えば、図4に示す凸部14,15の場合は、凸部14,15の先端と、摺接粒子10bとが密着しているため、凹部13から突出している部分の表面積の40%以上80%以下が、凸部14,15によって被覆されていることをいう。
なお、凸部15が存在しない場合は、凸部14のみによって、凹部13から突出している部分の表面積の40%以上80%以下が囲まれていることが好ましい。
上記構成によれば、上記凸部による摺接粒子の固定をより強固に行うことができる。したがって、スラリー粒子等に対する耐久性が一層優れた摺動部材を提供することができる。
上記凹部から突出している部分の表面積が上記凸部に囲まれている割合は、摺接粒子の固定を強固に行う観点から、60%以上であることがより好ましい。また、上記割合が多すぎると、上記面Aを形成し難くなるため、上記割合は、70%以下であることがより好ましい。
本発明の一実施形態に係る摺動部材において、上記摺動部材基部は、基体と、上記基体の表面に形成された表面形成部とを備えていることが好ましい。上記表面形成部は、例えば、図1~図4に示したメッキ層10cに該当する。
メッキ層10cは、硬質粒子を基体10aに固定した後に作製すればよい。メッキ層10cを作製する方法としては、例えば、電解法によりニッケルメッキ液中で通電する方法を挙げることができる。メッキ液としては、ニッケル以外の他の金属を含有するメッキ液、および/または合金を含有するメッキ液を用いてもよい。中でも、後述するように、メッキ層10cの硬さをHv400kg/mm2以上とし得るメッキ液であることが好ましい。
上記構成によれば、既に述べたように、スラリー粒子に対する軸部材10の耐久性を向上させることができる。また、メッキ層10cが凸部15として形成された場合は、上述のように、凸部15によって摺接粒子10bをより強固に固定する効果をも奏することができる。
なお、表面形成部は、上記メッキ液を用いて形成したメッキ層に限られない。例えば、表面形成部はセラミックスコートであってもよい。セラミックスコートとしては、例えば、アルミナ系の物質を溶射して形成したコート、サーメットを溶射して形成したコート、アルミニウムアルコキシドを溶射して形成したコートなどを用いることができる。また、上記メッキ液を用いて形成したメッキ層と、セラミックスコートとを共に表面形成部として用いることも可能である。
本発明の一実施形態に係る摺動部材において、上記基体は、硬さがHv200kg/mm2以下であり、上記表面形成部の硬さがHv400kg/mm2以上であることが好ましい。
基体10aの硬さがHv200kg/mm2以下であれば、後述する本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法において、上記硬質粒子を容易に圧入させることができる。上記硬さを有する基体10aの材質としては、例えば、SUS304、SUS304J1などを挙げることができる。
一方、基体10aの硬さがHv200kg/mm2以下の場合、そのままではスラリー粒子による基体10aの摩耗が生じてしまうため、メッキ層10c(表面形成部)の硬さがHv400kg/mm2以上であることが好ましい。上記硬さを有するメッキ層10cの材質としては、例えば、Ni-p、Ni-Bなどを挙げることができる。
基体10aの硬さは、易圧入性の観点から、Hv150kg/mm2以下であることがより好ましい。また、メッキ層10cの硬さは、耐摩耗性の観点から、Hv600kg/mm2以上であることがより好ましい。
ただし、軸部材10において、メッキ層10cは必ずしも形成されていなくてもよい。例えば、軸部材10をスラリー粒子による摩耗が生じないような用途(例えば乾式摺動)に用いる場合は、メッキ層10cが形成されていなくてもよいが、この場合、凸部14の先端は、前述したように、略水平な面を有することが好ましい。
(1-6.摺動部材における面密度等)
基体10aの表面の垂直方向から見たときの、摺接粒子10bが占める面積の割合である面密度は、20~70%であることが好ましい。ここで、面密度が大きいことは、摺接粒子10b間の間隔が狭いことを意味し、反対に面密度が小さいことは、摺接粒子10b間の間隔が広いことを意味する。
上記面密度を20~70%とすることにより、スラリー粒子を、隣接する摺接粒子10b間の領域である粒子間領域へと逃がしやすくなる。すなわち、軸部材10と軸受け部材11との間に侵入したスラリー粒子は、摺接粒子10bと軸受け部材11との間に挟み込まれるよりも、粒子間領域へと送り込まれやすくなる。そして、スラリー粒子は、基体10aの外表面全体に形成されている粒子間領域を通過して、軸・軸受構造1Aの外部へと排出され得る。これにより、摺接粒子10bと軸受け部材11との間へのスラリー粒子の噛み込みによる、相手材である軸受け部材11の摩耗を抑制することができる。面密度は、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下である。
軸部材10は、上記粒子間領域に、摺接粒子10bと同一材料の粒子であって、摺接粒子10bよりも粒子径の小さい粒子を備えていてもよい。該粒子は、軸部材10を製造する際に、摺接粒子10bの原材料となる粉体の粒度分布に起因して不可避的に備えられる粒子である。
〔実施の形態2.ポンプ〕
本発明の一実施形態に係るポンプは、本発明の一実施形態に係る摺動部材を備える。本発明の一実施形態に係る摺動部材は、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子を用いた摺接粒子が強固に固定されているため、過酷な摺動環境等であっても安定した摺動を実現することができる。
図6は、本発明の一実施形態に係るポンプである立軸斜流ポンプ装置の縦断面図である。図7は、上記立軸斜流ポンプ装置の滑り軸受装置の縦断面図である。立軸斜流ポンプ装置81は、スラリー液を排出可能であり、ケーシング82の下端に吸込口83を有する。ケーシング82内には回転自在な主軸84が挿通されており、主軸84の下端に羽根車85が設けられている。ケーシング82の上部には、主軸84を回転駆動させる駆動装置86(電動機)が設けられている。主軸84は滑り軸受装置87によって回転自在に支持されている。
図6および図7に示すように、主軸84は軸本体84aと軸受箇所において軸本体84aに外嵌された円筒状のスリーブ84b(摺動部材の一例)とで構成され、滑り軸受装置87は、スリーブ84bの外周面に摺接する軸受88と、軸受88の周囲に設けられたハウジング89と、軸受88とハウジング89との間に設けられた円筒形状の緩衝用ゴム90とを有している。ハウジング89は、金属製の円筒形状の部材であり、ケーシング82内に設けられた固定部材91に固定されている。
軸受88は、円筒状の軸受シェル93と軸受体94(被摺動部材の一例)とで構成されている。軸受体94の内周面とスリーブ84bの外周面とが摺接する。なお、スリーブ84bが、本発明の一実施形態に係る摺動部材に該当する。
これによると、主軸84が所定の回転方向に回転すると、スリーブ84bの外周面が軸受体94の内周面に摺接する。この際、滑り軸受装置87は、回り止めされ、主軸84と共回りすることはない。
立軸斜流ポンプ装置81は先行待機運転を行うものであり、揚水を行う揚水運転と、揚水を行わない待機運転とに切り替え可能である。本発明の一実施形態に係る摺動部材は、自揚水による潤滑作用が発揮されず、滑り軸受装置87に対する主軸84の摺動抵抗が増大するドライ状態での待機運転時に、特に効果を発揮するものである。
〔実施の形態3.摺動部材の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、既述の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
(3-1.硬質粒子の加工を行わない態様)
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材の製造方法であって、平均粒子径が500μm超1500μm以下である硬質粒子を、摺動部材基部の表面に散在するように固定する第1工程と、500℃以下の環境下で、上記硬質粒子を、上記摺動部材基部の表面から上記硬質粒子の先端までの高さが略一定となるように、上記摺動部材基部に圧入させることによって、上記被摺動部材と摺接する摺接面を形成する面を有する摺接粒子を得る第2工程と、を含む。
上記第1工程では、基体10aの表面に上記硬質粒子を互いに接触しないように載置して、ニッケルメッキ等によって上記表面に上記硬質粒子を固定する方法;樹脂製のシートに、接着剤を上記硬質粒子が互いに接触しない間隔(例えば、φ0.5mmのパターンを1mm間隔で配置)で塗布し、接着剤を塗布した箇所に、上記硬質粒子を載置して固定し、得られたシートを基体10aの表面に貼付する方法;等によって、上記硬質粒子を基体10aの表面に散在するように固定する。
図8は、第1工程において基体10aの表面に散在するように固定された硬質粒子10bを、第2工程において、圧入機を用いて基体10aに圧入させる様子を示した模式図である。図8において、101は圧入機の圧入棒(加圧部)であり、104は圧入機の基部である。図8の(a)に示すように、基体10aの表面の左端に固定された硬質粒子10bを圧入棒101(加圧部)によって基体10aに圧入させると、圧入棒101(加圧部)は基部104に当接するところまで降下し、それ以上は降下しない。そのため、図8の(b)に示すように、硬質粒子10bの先端の位置は、基部104の上面と水平な位置と一致する。
次に、圧入棒101(加圧部)を移動させて、図8の(a)の中央の硬質粒子10bを、圧入棒101(加圧部)によって圧入させる。このとき、初めに圧入させた硬質粒子10bの先端は、基部104の上面と揃っているため、初めに圧入させた硬質粒子10bも、基部104と共に、中央の硬質粒子10bを圧入させるためのガイドの役割を果たすことができる。
続いて、圧入棒101(加圧部)を移動させて、図8の(a)の右端の硬質粒子10bを、圧入棒101(加圧部)によって圧入させる。このような動作を繰り返すことによって、図8の(b)に示すように、基体10aの表面から硬質粒子10bの先端までの高さを、基体10aの表面から基部104の上面までの高さと一致させることができる。
このように、基体10aの表面から硬質粒子10bの先端までの高さが所望の高さとなるように、基部104の高さを調節し、圧入を行うことによって、硬質粒子を、摺動部材基部の表面から上記硬質粒子の先端までの高さが略一定となるように、上記摺動部材基部に圧入させることができる。
上記圧入は、500℃以下の環境下で行う。すなわち、圧入に供する硬質粒子10bおよび基体10aを500℃以下の雰囲気下に置き、上述したように圧入を行う。圧入は、作業性の観点から、300℃以下の環境下で行うことがより好ましく、200℃以下の環境下で行うことがさらに好ましい。
圧入棒101としては、例えばハイス製の型番SKH51等を用いることができる。圧入機は、上記第2工程を行い得るものであれば特に限定されない。後述する実施例では、直動するリニアガイドの上にロータリーインデックスが固定されている圧入機を用いた。当該圧入機は、ロータリーインデックスによって基体10aを把持し、圧入棒101を用いて、基体10aの軸方向に一列分、圧入を行った後、上記ロータリーインデックスを微小回転させ、上記リニアガイドによって圧入位置を次の列に移動させ、さらなる圧入を行うことができる。
ただし、圧入の方法は、以上説明した方法に限られるものではない。例えば、基体10aにおける硬質粒子10bを圧入させたい部位に予め穴を開けておき、当該穴に硬質粒子10bを載置し、固定した後に圧入を行う方法等を挙げることができる。硬度が高い基体10aに大きな硬質粒子10bを圧入させるときは、当該方法を取ることにより、圧入に必要な荷重を低減することができる。上記部位に穴を開ける方法としては、例えば、マシニングセンターによる機械加工、化学エッチング等の方法を挙げることができる。
(3-2.硬質粒子の加工を行う態様)
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、上記第2工程が、500℃以下の環境下で、上記硬質粒子を、上記摺動部材基部の表面から上記硬質粒子の先端までの高さが略一定となるように、上記摺動部材基部に圧入させる工程であり、さらに、上記第2工程によって圧入された上記硬質粒子を加工し、上記被摺動部材と摺接する摺接面を形成する面を有する摺接粒子を得る第3工程を含んでいてもよい。
既に述べたように、摺接粒子10bは、硬質粒子の先端部を加工することによって、先端部に、上記面Aが形成されてなるものであってもよい。また、硬質粒子が元来備えている面を、上記面Aとしてそのまま用い得る場合は、先端部を加工することなく、硬質粒子自体を摺接粒子10bとすることもできる。
よって、硬質粒子が元来備えている面を、上記面Aとしてそのまま用い得る場合は、第2工程を経ることによって摺接粒子10bを得ることができる。例えば、(1-4.摺接面の形状、摺接粒子の硬さ等)で述べたように、硬質粒子として多面体粒子を用い、当該多面体粒子が元来備えている面を、上記面Aとしてそのまま用い得る場合は、先端部を加工することなく、硬質粒子自体を摺接粒子10bとすることができる。
一方、硬質粒子として球状粒子を用いる場合;硬質粒子が元来備えている面を、例えば、上記面Aの形状を整えること等を目的として加工する場合等は、上記第3工程によって、圧入された硬質粒子の先端部を加工し、上記面Aを作製し、摺接粒子10bを得てもよい。
(3-3.圧入機の加圧部と硬質粒子との間に金属膜を挟持して圧入を行う態様)
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、上記第2工程において圧入機を用い、上記圧入機の加圧部と、上記硬質粒子との間に、上記摺動部材基部が備える基体よりも硬い金属膜を挟持して、上記硬質粒子を上記摺動部材基部に圧入させる方法であってもよい。
図9は、上記金属膜を用いて硬質粒子を基体10aに圧入させた状態を示す模式図である。図9において、102は、基体10aよりも硬い金属膜である。図8に示した圧入棒(加圧部)101と、硬質粒子10bとの間に金属膜102を挟持し、500℃以下の環境下にて硬質粒子10bを基体10aに圧入させると、硬質粒子10bは、金属膜102および基体10aに圧入され、金属膜102に凸部103が生じ、基体10aに凸部14が生じる。
圧入を進め、図9に示すように、凸部103と凸部14とが接触するまで圧入させると、硬質粒子10bは、凹部13から突出している部分が、凸部14によって囲まれ、基体10aに強固に固定される。金属膜102への硬質粒子10bの圧入深さは、基体10aへの圧入深さよりも浅いため、金属膜102は、硬質粒子10bから容易に剥離することができる。その結果、凹部13から硬質粒子10bの先端までの突出しを有する硬質粒子を基体10aに固定することができる。
例えば、硬質粒子10bとして、図9に示すように球状粒子を用いた場合、圧入棒(加圧部)101によって当該粒子を直接圧入させると、圧入棒(加圧部)101と球状粒子とが点接触の状態となるため、当該粒子が割れてしまう場合がある。金属膜102を用いて圧入させることによって、硬質粒子10bが金属膜102にも圧入されるため、面圧が分散される。したがって、上記構成によれば、球状粒子を用いた場合でも、粒子を破損させることなく圧入を行うことができる。
(3-4.基体の硬さに応じた摺動部材の製造方法)
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、上記摺動部材基部が、硬さがHv200kg/mm2以下である基体を備えていることが好ましい。基体10aの硬さがHv200kg/mm2以下であれば、第2工程において、上記硬質粒子を容易に圧入させることができる。圧入の方法としては、例えば、上述した圧入機を用いる方法を挙げることができる。
上述したように、基体10aの硬さがHv200kg/mm2以下である場合、スラリー粒子による基体10aの摩耗を防止するため、基体10aの表面に、硬さがHv400kg/mm2以上であるメッキ層10c(表面形成部)を設けることが好ましい。メッキ層10cは、硬質粒子を基体10aに圧入させた後に作製すればよい。
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、上記摺動部材基部が、硬さがHv200kg/mm2超である基体を備えており、上記第1工程が、上記硬質粒子を嵌入可能な凹部を、上記基体の表面に散在するように形成し、上記凹部に、硬さがHv200kg/mm2以下である金属膜を形成し、上記硬質粒子を、上記金属膜に固定する工程であってもよい。
図10は、軸部材10の軸方向に垂直な断面を示す断面概略図であり、硬質粒子10bを嵌入可能な凹部13aに形成した金属膜10eに、硬質粒子10bを固定した状態の一例を示す。なお、図10には、一粒子分のみの上記状態を示している。凹部13aも、摺動部材基部10dの凹部である。
摺動部材基部10dが、硬さがHv200kg/mm2超である基体10aを備える場合、その硬さゆえに、硬質粒子10bを基体10aの表面に直接圧入させることは困難である。上記構成によれば、硬さがHv200kg/mm2以下である金属膜10eに硬質粒子10bを圧入させるため、基体10aに圧入させる場合と比べ、格段に小さな労力で圧入を行うことができる。したがって、基体10aが硬い場合でも、本発明の一実施形態に係る摺動部材を容易に製造することができる。
「硬質粒子を嵌入可能な凹部」とは、硬質粒子を嵌入させたとき、硬質粒子の一部分が、表面の少なくとも一部分と接触することができる形状の凹部をいう。例えば、硬質粒子が多面体粒子である場合、硬質粒子の一つの面を凹部の底面に載置可能である矩形状の凹部(例えば図10に示す凹部13aの形状);硬質粒子が球状粒子である場合、凹部の表面が上記球状粒子の表面と面接触する半球状の凹部等を挙げることができる。
図10に示すように、凹部13aは、凹部13aに形成された金属膜10eに圧入された硬質粒子10bが、凹部13aから突出している部分を確保できるように形成される。凹部13aは、例えば、硬質粒子10bの平均粒子径よりも大きな孔径を有する。なお、硬質粒子10bの平均粒子径よりも大きい粒子径を有する硬質粒子の中には、凹部13aに嵌入できないものもあり得るが、形成した凹部13aに嵌入することができる硬質粒子を用いれば足りる。凹部13aを形成する労力および金属膜10eの使用量を低減する観点から、上記孔径は、用いる硬質粒子10bの平均粒子径に比して大きすぎないことが好ましい。
凹部13aを形成する方法としては、例えば、マシニングセンターによる機械加工、化学エッチング等の方法を挙げることができる。また、金属膜10eの材質としては、例えば、ニッケルメッキ等を挙げることができる。
金属膜10eの形成方法としては、例えば電気メッキ、無電解メッキ等の方法を挙げることができる。金属膜10eの厚みは、上述したように、金属膜10eに圧入された硬質粒子10bが、凹部13aから突出している部分を確保できる厚みであればよい。硬質粒子10bを金属膜10eに圧入させる方法としては、例えば、上述した圧入機を用いた方法を用いることができる。
硬質粒子10bが凹部13aに埋め込まれる深さは、硬質粒子10bの平均粒子径の50%以上、70%以下であることが好ましい。「硬質粒子10bが凹部13aに埋め込まれる深さ」とは、基体10aの凹部13aの起点から、金属膜10eに嵌入している硬質粒子10bの最深部に垂線を下したときの当該垂線の長さ(例えば、図10におけるH6)をいう。
金属膜10eは硬さがHv200kg/mm2以下であるため、硬質粒子10bを金属膜10eに圧入させた後、さらにメッキ層10c(表面形成部)を設けることが好ましい。メッキ層10c(表面形成部)の硬さは、上述したように、Hv400kg/mm2以上であることが好ましい。
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、硬さがHv200kg/mm2超である基体を備えており、上記第1工程が、上記基体の表面に、硬さがHv200kg/mm2以下である金属膜を、上記基体の表面に散在するようにパターニングし、上記硬質粒子を上記金属膜に固定する工程であってもよい。
図11は、軸部材10の軸方向に垂直な断面を示す断面概略図であり、基体10aの表面にパターニングした金属膜10fに、硬質粒子10bを固定した状態の一例を示す。なお、図10には、一粒子分のみの上記状態を示している。
摺動部材基部10dが、硬さがHv200kg/mm2超である基体10aを備える場合、その硬さゆえに、硬質粒子10bを基体10aの表面に直接圧入させることは困難である。上記構成によれば、硬さがHv200kg/mm2以下である金属膜10fに硬質粒子10bを圧入させるため、基体10aに圧入させる場合と比べ、格段に小さな労力で圧入を行うことができる。したがって、基体10aが硬い場合でも、本発明の一実施形態に係る摺動部材を容易に製造することができる。
上記パターニングは、硬質粒子10bの一部分と接触可能な表面を有し、かつ、硬質粒子10bの一部分を圧入させることが可能な表面積および厚みを有する金属膜10fを、金属膜10f同士が互いに接触しないように基体10aの表面に形成することをいう。金属膜10fの材質としては、例えば、ニッケルメッキ等を挙げることができる。また、金属膜10fを基体10aの表面に形成する方法としては、例えば電気メッキ、無電解メッキ等の方法を挙げることができる。
金属膜10fは、厚くなりすぎると軸部材10全体の厚みが大きくなるため、硬質粒子10bを圧入させるために用いる厚みに20~30μmを加えた厚みであることが好ましい。硬質粒子10bを金属膜10fに圧入させる方法としては、例えば、上述した圧入機を用いた方法を用いることができる。
硬質粒子10bが金属膜10fに埋め込まれる深さは、硬質粒子10bの平均粒子径の50%以上、80%以下であることが好ましい。「硬質粒子10bが金属膜10fに埋め込まれる深さ」とは、金属膜10fの水平部19から、金属膜10fに嵌入している硬質粒子10bの最深部に垂線を下したときの当該垂線の長さ(例えば、図11におけるH7)をいう。図11において、13bは、金属膜10fに形成された凹部である。この場合、金属膜10fも摺動部材基部10dを構成するため、凹部13bも、摺動部材基部10dの凹部に該当する。
金属膜10fは硬さがHv200kg/mm2以下であるため、硬質粒子10bを金属膜10fに圧入させた後、さらにメッキ層10c(表面形成部)を設けることが好ましい。メッキ層10c(表面形成部)の硬さは、上述したように、Hv400kg/mm2以上であることが好ましい。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
266.9mm×97mmLの、透明な厚み0.2mmのPETフィルムに、1.5mmピッチで、φ0.5mmのパターンで接着剤(セメダインスーパーX)を塗布した。上記接着剤を塗布した部分に、メッシュサイズ30/35、平均粒子径が600μmであるダイヤモンド粒子(カスタムダイヤ製、CRD-T)を塗布し、1時間後、未接着粒子を除去した。上記ダイヤモンド粒子は多面体粒子である硬質粒子であり、14面体形状を含んでいる。次に、上記樹脂シートをφ85mm×97mmLの基体(SUS304製)に、上記接着剤によって接着固定した。
続いて、圧入棒(ハイス製、型番SKH51)を備えた圧入機を用い、25℃の環境下で、上記ダイヤモンド粒子1個当たりに50~60kgの荷重を負荷し、上記基体の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)が200μmとなるように、上記ダイヤモンド粒子を上記基体に圧入(冷間圧入)させた。
上記圧入機は、直動するリニアガイドの上にロータリーインデックスが固定されている。上記ロータリーインデックスによって上記基体を把持し、圧入棒を用いて、軸方向に一列分、圧入を行った。次に、上記ロータリーインデックスを微小回転させ、上記リニアガイドで圧入位置を1mm移動させ、さらなる圧入を行った。以下、同じ動作を繰り返すことにより、上記基体に固定した上記ダイヤモンド粒子全てを同じ条件で圧入させた。
圧入完了後、上記基体の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)は約200μmであった。続いて、上記基体にニッケル-リンメッキを行った。メッキ完了後、形成されたメッキ層の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)は100μmであった。
次に、円筒研削盤を用いて、上記基体の外周に沿って、上記ダイヤモンド粒子の先端部を研削し、上記面Aを作製した。研削量は30μmであった。上記メッキ層の表面から上記面Aまでの高さ(突出し高さ)は、70μmであった。
〔実施例2〕
266.9mm×97mmL、厚み200μmのSUS304製のシートに、塩化鉄エッチングを用いて、1.5mmピッチで、φ0.5mmの穴を開けた。エッチング前の上記シートにエッチング後のシートを重ね、φ0.5mmの穴に、実施例1と同じ接着剤を充填した後、上のシートを取り除いた。上記シートに、メッシュサイズ35/45、平均粒子径が530μmである球状のダイヤモンド粒子(カスタムダイヤ製、型番SEAAN-T)を塗布し、1時間後、未接着粒子を除去した。上記樹脂シートをφ85mm×97mmLの基体(SUS304製)に、上記接着剤によって接着固定した。
続いて、圧入棒(ハイス製、型番SKH51)を備えた圧入機を用い、25℃の環境下で、上記ダイヤモンド粒子1個当たりに40~50kgの荷重を負荷し、上記基体の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)が200μmとなるように、上記ダイヤモンド粒子を上記基体に圧入させた。圧入機の動作は実施例1で説明したものと同じである。圧入完了後、上記シートを上記基体から剥離した。上記基体の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)は約200μmであった。
続いて、上記基体にニッケル-リンメッキを行った。メッキ完了後、形成されたメッキ層の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)は100μmであった。
次に、円筒研削盤を用いて、上記基体の外周に沿って、上記ダイヤモンド粒子の先端部を研削し、上記面Aを作製した。研削量は30μmであった。上記メッキ層の表面から上記面Aまでの高さ(突出し高さ)は、70μmであった。
〔比較例1〕
φ85mm×97mmLの基体(SUS304製)の表面に、実施例1で用いたのと同じダイヤモンド粒子を、ニッケル-リンメッキによって電着固定した。形成されたメッキの厚みは、上記ダイヤモンド粒子の平均粒子径(600μm)の53%、すなわち、318μmであった。つまり、電着固定された上記ダイヤモンド粒子の、形成されたメッキ層の表面から上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)は、282μmであった。
次に、円筒研削盤を用いて、上記基体の外周に沿って、上記ダイヤモンド粒子の先端部を研削し、上記面Aの作製を試みた。研削量は120μmとし、上記メッキ層の表面から上記ダイヤモンド粒子の面Aまでの高さ(突出し高さ)を約160μmとする予定であった。しかし、研削量が50μmに達するまでは研削を行うことができたが、研削量が50μmを超えるにつれて研削に対する抵抗が大きくなり、所望の研削を完了することはできなかった。
〔実施例1,2および比較例1の結果のまとめ〕
比較例1は、ダイヤモンド粒子を、摺動部材基部が備える基体であるSUS304に電着固定した。この場合、図14の(a)に示すように、ダイヤモンド粒子は、粒子の下部が基体上に並ぶことになる。比較例1で用いたダイヤモンド粒子の平均粒子径は600μmであるが、ダイヤモンド粒子は粒度分布を有するため、上記ダイヤモンド粒子のメッキ層の表面からの突出し高さは不揃いとなる。また、平均粒子径が600μmと大きいダイヤモンド粒子であるため、大きな粒子の上記突出し高さと、小さな粒子の上記突出し高さとの段差が非常に大きくなる。それゆえ、大きな粒子を研削する必要があるため、研削する際に大きな負荷が生じてしまう。その結果、比較例1では、所望の研削を遂行することができなかったと考えられる。
一方、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法を用いた実施例1および2では、平均粒子径が500μm超であるダイヤモンド粒子を用いているが、所望の研削を遂行することができた。これは、実施例1および実施例2では、上記ダイヤモンド粒子の先端までの高さ(突出し高さ)が一定の値となるように、上記ダイヤモンド粒子を上記基体に圧入させたことによるものである。実施例1および2では、圧入完了後のダイヤモンド粒子の上記突出し高さは、ほぼ一定の値となっていた。
図13は、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によって基体に圧入させたダイヤモンド粒子において、基体の表面またはメッキ層から、ダイヤモンド粒子の先端までの高さが略一定に揃っていることを示す模式図である。
圧入完了後のダイヤモンド粒子10bは、図13に示すように、基体10aの表面から、基体10aに埋め込まれた部分の最深部までの深さは不揃いであるが、基体10aの表面またはメッキ層10cから、ダイヤモンド粒子10bの先端までの高さは略一定に揃っており、粒子の先端側には段差は殆どない状態であった。そのため、研削には負荷がかからず、研削量も少なくて済み、上記面Aの形成を円滑に行うことができた。
このように、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によれば、平均粒子径が500μmを超える大きな硬質粒子を用いた摺動部材を簡便に作製することができる。そのため、摺接粒子が摺動部材基部に強固に固定され、過酷な摺動環境等であっても安定した摺動を実現可能な摺動部材を提供することができると言える。
〔実施例3〕
実施例3では、摺接粒子の粒子径の大きさと、摺動部材基部における摺接粒子の保持力との関係について検討した。
φ10mm×50mmLの基体(SUS304製)の端部における表面に、ダイヤモンド粒子(カスタムダイヤ製)を1個載置し、ニッケルメッキによって電着固定した。ダイヤモンド粒子としては、粒子径が120μm、250μm、400μm、600μm、850μm、1200μmのものをそれぞれ用意した。形成されたメッキの厚みは、各ダイヤモンド粒子の粒子径の50%とした。
次に、上記基体の外周に沿って、上記ダイヤモンド粒子の先端部を研削した。比研削材は規格が超硬G2であり、研削速度85mm/minで研削を実施した。各基体について、ダイヤモンド粒子が脱落したときの研削抵抗を砥石に組み込んだひずみゲージで測定し、得られた値を上記保持力とした。
ダイヤモンド粒子の粒子径が120μmである場合の研削抵抗を1としたとき、各ダイヤモンド粒子の研削抵抗は以下のとおりであった。
このように、ダイヤモンド粒子の粒子径が大きいほど、摺動部材基部におけるダイヤモンド粒子の保持力は大きいことが分かる。摺動部材基部における摺接粒子の保持力が大きいほど、摺接粒子が強い圧力を受ける過酷な摺動環境等においても安定した摺動を行うことができるため、摺接粒子の粒子径が大きい摺動部材の方が、上記粒子径が小さい摺動部材よりも性能面で有利であると言える。
しかし、これまで、平均粒子径が500μm超である硬質粒子の先端部に上記面Aを形成した摺接粒子を備えた摺動部材を作製することができていなかった。これは、摺動部材を作製する際に用いる硬質粒子は、実施例3に示したような1個ではなく、比較例1に示したような、粒度分布が存在する粒子の集合体であるためである。
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法によれば、実施例1および2で示したように、平均粒子径が500μm超である硬質粒子の先端部に上記面Aを形成した摺接粒子を備えた摺動部材を簡便に作製することができる。それゆえ、本発明の一実施形態は、実施例3の結果に示したような、摺接粒子が強く保持された摺動部材を提供することができる。