以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
図1は、実施の形態に係る核酸増幅装置を模式的に示す側面図である。図2は、実施の形態に係る核酸増幅装置を模式的に示す平面図である。図1及び図2では、核酸増幅装置1の内部を透視した状態が図示されている。また、構造の一部は断面図で描かれている。本実施の形態に係る核酸増幅装置1は、DNA等の核酸と蛍光物質等を含む液体状の反応試料の温度を制御して核酸を増幅させ、増幅した核酸の状態を光学的な測定方法により検出することができる装置である。
核酸増幅装置1は、本体15と、本体15の前方に取り付けられたカバー16とを備える。本体15には、反応容器20、カバー22、反応ユニット100、制御部24、光源30、回転部31、フィルタ部32,33、モータ34、及びカメラ35が設けられる。
カバー16は、核酸増幅装置1の使用者が反応容器20を取替えられるよう、前後に移動可能に本体15に設置される。カバー16は、後方に移動した際に本体15の内部に収納される。図1では、カバー16が前方に移動された状態が図示されている。本体15とカバー16との間には、遮光部材(図示せず)が取付けられる。これにより、核酸増幅装置1の内部空間が遮光される。カバー16の内側には、反射鏡25、フレネルレンズ26が設置される。
反応容器20には、核酸と蛍光物質等を含む液体状の反応試料を収納する窪みが、複数配列されている。本実施の形態では、縦横等間隔で縦に6個、横に10個の計60個の窪みが反応容器20に形成されている。なお、窪みの数は特に限定されず、例えば縦に8個、横に12個の計96個の窪みが形成されていてもよい。反応容器20は、後述する保持部の熱を効率よく反応試料に伝えるために樹脂製の薄板からなる。反応容器20の裏面側は、窪みに応じた凸形状になっている。本実施の形態では、反応試料中の核酸は、蛍光物質が励起されると2種類の異なる波長の蛍光L1,L2を発生するように、蛍光標識されている。
反応ユニット100は、反応容器20を保持し、制御部24の指示に基づいて反応容器20の温度を調節する。反応ユニット100については後に詳細に説明する。
カバー22は、反応容器20を覆う部材である。カバー22により、反応容器20が加熱された際に反応試料が蒸発することを防ぐことができる。カバー22には、反応試料を励起させる励起光や、反応試料からの蛍光が透過するよう、光透過性のフィルム等が用いられる。
制御部24は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。制御部24には、各種プログラム及びデータが記憶される。制御部24は、記憶されているプログラムを実行して、核酸増幅装置1の各部を制御する。例えば、制御部24は、核酸が増幅するように反応ユニット100による反応容器20の温度調節を制御する。また、制御部24は、光源30の点消灯やモータ34の回転を制御する。なお、制御部24は、本体15の外部に設けられてもよい。
反射鏡25は、フィルタ部32,33からの励起光をフレネルレンズ26に向けて反射する。また、反射鏡25は、反応試料からの蛍光をカメラ35に向けて反射する。フレネルレンズ26は、反射鏡25で反射される励起光を、フレネルレンズ26の光軸に平行な状態に収束させて透過させる。
光源30は、本体15の側面(−Y側の側面)に設置される。光源30は、例えばハロゲンランプであり、励起光を含む光を照射する。
回転部31は、いわゆるターレット式の回転装置である。回転部31には、反応試料からの蛍光を観測する際に用いられるフィルタ部32,33が装着される。回転部31は、回転板60,61、及び回転軸62を有する。回転部31は、回転板60と回転板61との間に、例えば最大6つのフィルタ部を装着することができる。
回転板60は、カメラ35側に配置される。回転板60には、フィルタ部32,33が装着される位置に、蛍光を通過させる丸窓が設けられる。回転板61は、反射鏡25側に配置される。回転板61には、フィルタ部32,33が装着される位置に、励起光及び蛍光を通過させる角窓が設けられる。回転軸62は、回転板60,61と、回転板60,61に装着されたフィルタ部32,33とを回転させる。
本実施の形態では、フィルタ部33は、フィルタ部32が設置される位置から回転軸62周りに180度ずれた位置に装着される。回転部31は、フィルタ部32,33のいずれかを光源30と対向する位置に移動させ、光源30からの光をフィルタ部に入射させる。なお、「光源30と対向する位置」とは、光源30の光軸と、フィルタ部が有する光学フィルタとが交わる位置をいう。図2では、フィルタ部32が光源30と対向する位置にある状態が図示されている。
フィルタ部32は、蛍光L1を観測する際に用いられる。フィルタ部32は、箱状のフィルタキューブ70と、光学フィルタ71,73と、ダイクロイックミラー72とを有する。光学フィルタ71,73及びダイクロイックミラー72は、フィルタキューブ70に取り付けられる。
光学フィルタ71は、光源30からの光のうち反応試料を励起させる励起光を透過させるバンドパスフィルタである。ダイクロイックミラー72は、反応試料に励起光を照射すべく、光学フィルタ71を透過した励起光を反射鏡25に向けて反射する。ダイクロイックミラー72で反射された励起光は、反射鏡25でさらに反射され、フレネルレンズ26を透過して反応容器20に照射される。また、ダイクロイックミラー72は、励起される反応試料から発生する蛍光L1,L2を透過させる。光学フィルタ73は、ダイクロイックミラー72を透過した蛍光L1を選択的に透過させるバンドパスフィルタである。
フィルタ部33は、蛍光L2を観測する際に用いられる。フィルタ部33は、箱状のフィルタキューブ80と、光学フィルタ81,83と、ダイクロイックミラー82とを有する。光学フィルタ81,83及びダイクロイックミラー82は、フィルタキューブ80に取り付けられる。
光学フィルタ81は、光学フィルタ71と同様に、光源30からの光のうち反応試料を励起させる励起光を透過させるバンドパスフィルタである。ダイクロイックミラー82は、光学フィルタ81を透過した励起光を反射鏡25に向けて反射するとともに、反応試料からの蛍光L1,L2を透過させる。光学フィルタ83は、ダイクロイックミラー82を透過した蛍光L2を選択的に透過させるバンドパスフィルタである。
モータ34は、制御部24の指示により回転軸62を回転させる。モータ34は、例えばステッピングモータである。カメラ35は、蛍光L1,L2を受光して撮影する。この結果、核酸増幅装置1の使用者は、増幅された核酸の量等を検出することができる。
続いて、反応ユニット100の構造について詳細に説明する。図3は、反応ユニット100を模式的に示す斜視図である。図4は、反応ユニット100の分解斜視図である。図5は、温度調節部106を模式的に示す平面図である。反応ユニット100は、保持部102、保持部ベース104、温度調節部106、放熱部108及び熱伝導部材110,112を主な構成として有する。
保持部102は、温調ブロックあるいは反応ブロックとも称され、反応容器20を保持する平板状の部材である。保持部102の一方の主表面には、反応容器20の裏面側の凸部が収納される穴が設けられる。反応容器20は、保持部102の一方の主表面上に裁置される。保持部102は、熱伝導性を有する。保持部102の材料としては、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属を用いることができる。
保持部ベース104は、保持部102からの放熱を抑制するための断熱部材である。保持部ベース104は、上側パッキン114を介して保持部102上に設置される。保持部ベース104は、枠形状を有し、保持部102の周囲を覆う。保持部ベース104の中央の開口において、保持部102が露出する。
温度調節部106は、保持部102を加熱及び冷却し、これにより反応容器20中の反応試料の温度を調節する。温度調節部106は、保持部102の鉛直方向下方に配置される。温度調節部106は、熱電素子プレート116と、基板118とを有する。図5に示すように、熱電素子プレート116は、保持部102を6等分した領域のそれぞれを加熱及び冷却するための熱電素子120〜125と、温度センサ130〜132とを有する。熱電素子120〜125は、例えばペルチェ素子である。温度センサ130〜132は、例えばサーミスタである。
温度センサ130は、熱電素子120と熱電素子121との間に配置される。温度センサ130は、保持部102のうち、主に熱電素子120及び熱電素子121によって加熱及び冷却される領域の温度を検知することができる。温度センサ131は、熱電素子122と熱電素子123との間に配置される。温度センサ131は、保持部102のうち、主に熱電素子122及び熱電素子123によって加熱及び冷却される領域の温度を検知することができる。温度センサ132は、熱電素子124と熱電素子125との間に配置される。温度センサ132は、保持部102のうち、主に熱電素子124及び熱電素子125によって加熱及び冷却される領域の温度を検知することができる。
基板118には、熱電素子プレート116が搭載される。基板118は、コネクタ形状の外部接続端子118aを有する。外部接続端子118aに制御部24及び電源(図示せず)が接続される。基板118を介して、制御部24からの制御信号が熱電素子プレート116に送信され、また温度センサ130〜132の出力信号が制御部24に送信される。熱電素子プレート116の熱電素子120〜125は、制御部24からの指示に基づいて保持部102を加熱及び冷却する。また、制御部24は、温度センサ130〜132のうちの少なくとも1つの温度センサの出力値に基づいて、熱電素子120〜125による加熱及び冷却を制御する。
放熱部108は、温度調節部106を放熱する部材である。具体的には、放熱部108は、温度調節部106の熱電素子120〜125を放熱する。放熱部108は、例えば複数の放熱フィンを有するヒートシンクである。放熱部108は、温度調節部106の鉛直方向下方に配置され、下側パッキン134を介して温度調節部106に接続される。すなわち、放熱部108は、温度調節部106の保持部102とは反対側に配置される。
熱伝導部材110は、保持部102と温度調節部106との間に設けられる。熱伝導部材110は、保持部102と温度調節部106との間の熱伝達を仲介する。熱伝導部材110は、保持部102と温度調節部106とが並ぶ方向における熱伝導率よりも、当該方向と交わる方向における熱伝導率が高い。本実施の形態において、熱伝導部材110は、グラファイトシートであり、一方の主表面が保持部102に当接し、他方の主表面が温度調節部106に当接するように配置される。したがって、熱伝導部材110は、シートの面方向、すなわちシートの主表面に対して平行な方向(図4中の矢印X1及びY1で示す方向を含む、矢印Z1に対して直交する方向)における熱伝導率が、シートの主表面の法線方向(図4中の矢印Z1で示す方向)における熱伝導率よりも高い。
このため、熱電素子120〜125で発生する熱は、熱伝導部材110に達すると、熱伝導部材110の厚さ方向に比べて面方向により伝達される。したがって、熱電素子120〜125から熱伝導部材110に伝達される熱の大部分は、熱伝導部材110内で面方向に拡散された後に保持部102に伝達される。これにより、反応試料の温度を上げる場合に、反応容器20全体で均一に温度を上げることができる。また、保持部102が冷却される際、保持部102から熱電素子120〜125に伝達される熱の大部分は、熱伝導部材110内で面方向に拡散された後に熱電素子120〜125に伝達される。これにより、反応容器20全体で均一に温度を下げることができる。
熱伝導部材112(第2の熱伝導部材)は、温度調節部106と放熱部108との間に設けられる。熱伝導部材112は、温度調節部106と放熱部108との間の熱伝達を仲介する。熱伝導部材112は、温度調節部106と放熱部108とが並ぶ方向における熱伝導率よりも、当該方向と交わる方向における熱伝導率が高い。本実施の形態において、熱伝導部材112は、グラファイトシートであり、一方の主表面が温度調節部106に当接し、他方の主表面が放熱部108に当接するように配置される。したがって、熱伝導部材112は、シートの面方向、すなわちシートの主表面に対して平行な方向(図4中の矢印X2及びY2で示す方向を含む、矢印Z2に対して直交する方向)における熱伝導率が、シートの主表面の法線方向(図4中の矢印Z2で示す方向)における熱伝導率よりも高い。
このため、保持部102からの伝熱によって加熱された熱電素子120〜125の熱は、熱伝導部材112に達すると、熱伝導部材112の厚さ方向に比べて面方向により伝達される。したがって、熱電素子120〜125から放熱部108に伝達される熱の大部分は、熱伝導部材112内で面方向に拡散された後に放熱部108に伝達される。これにより、反応試料の温度を下げる場合に、反応容器20全体で均一に温度を下げることができる。
熱伝導部材110及び熱伝導部材112として用いるグラファイトシートの厚さは、好ましくは50μm以上100μm以下である。本実施の形態では、厚さ70μmのグラファイトシートを用いている。グラファイトシートの厚さを50μm以上100μm以下とすることで、シートの熱伝導量、シートの貼り付け対象に対する密着性、及びシートを貼り付ける際の作業性をより良好なものとすることができる。グラファイトシートの厚さを厚くすると、シートの主表面に対して平行な方向における熱伝導量が多くなる。このため、反応容器20全体の温度をより均一に調節することができる。一方で、グラファイトシートの厚さを厚くすると、シートの主表面の法線方向における熱伝導量が少なくなる。また、グラファイトシートの厚さを薄くすると、シートの貼り付け対象である保持部102、温度調節部106、及び放熱部108の表面形状に合わせてシートが変形しやすくなる。このため、グラファイトシートと、保持部102、温度調節部106及び放熱部108との密着性を高めることができ、反応容器20全体の温度をより均一に調節することができる。一方で、グラファイトシートの厚さを薄くすると、シートの取り扱いに注意を要するため、シートを貼り付ける際の作業性が低下しうる。以上の理由から、グラファイトシートの厚さを50μm以上100μm以下とすることが好ましい。
保持部ベース104、保持部102、熱伝導部材110、温度調節部106、熱伝導部材112及び放熱部108は、固定部材136a,136bによって固定される。
続いて、核酸増幅装置1の動作について説明する。ここでは、一例として核酸増幅装置1を用いて核酸を増幅させ、蛍光L1を検出する場合を説明する。まず制御部24は、光源30からの光がフィルタ部32に入力されるよう、回転部31を回転させる。次に、制御部24は、反応試料中の核酸を増幅させるべく熱電素子120〜125の温度を制御する。これにより、熱電素子120〜125は、所定の温度サイクルで保持部102の加熱と冷却とを繰り返す。この結果、反応試料の加熱と冷却が繰り返され、核酸は増幅される。
光源30から出射される光に含まれる励起光は、光学フィルタ71を透過してダイクロイックミラー72で反射される。反射された励起光は反射鏡25でさらに反射され、フレネルレンズ26、カバー22を透過して反応容器20の反応試料に照射される。この結果、反応試料は励起され、蛍光L1,L2が発生する。蛍光L1,L2は、反射鏡25で反射されてダイクロイックミラー72を透過する。ダイクロイックミラー72を透過した蛍光L1,L2は光学フィルタ73に入射し、蛍光L1のみが選択的に光学フィルタ73を透過してカメラ35に入射する。この結果、カメラ35は、リアルタイムで蛍光L1を検出することができる。なお、蛍光L2を検出する場合には、フィルタ部33が用いられる。
以上説明したように、本実施の形態に係る核酸増幅装置1は、反応容器20を保持する保持部102と、保持部102を加熱及び冷却して、反応試料の温度を調節する温度調節部106と、保持部102と温度調節部106との間に設けられる熱伝導部材110とを備える。熱伝導部材110は、保持部102と温度調節部106とが並ぶ方向における熱伝導率よりも、当該方向と交わる方向における熱伝導率が高い。したがって、温度調節部106の熱電素子120〜125で発生する熱は、その大部分が熱伝導部材110において面方向に拡散した後に保持部102に伝達される。また、保持部102の熱は、その大部分が熱伝導部材110において面方向に拡散した後に熱電素子120〜125に伝達される。これにより、保持部102の全体をより均一に加熱、冷却することができるため、反応容器20の各窪みにおける温度差を小さくすることができる。その結果、反応容器20全体でより均一に核酸を増幅させることができる。
また、核酸増幅装置1は、温度調節部106を放熱する放熱部108と、温度調節部106と放熱部108との間に設けられる熱伝導部材112とを備える。熱伝導部材112は、温度調節部106と放熱部108とが並ぶ方向における熱伝導率よりも、当該方向と交わる方向における熱伝導率が高い。したがって、熱電素子120〜125の冷却によって保持部102から温度調節部106に伝達された熱は、その大部分が熱伝導部材112において面方向に拡散した後に放熱部108に伝達される。これにより、保持部102の全体をより均一に冷却することができるため、反応容器20の各窪みにおける温度差を小さくすることができる。その結果、反応容器20全体でより均一に核酸を増幅させることができる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などのさらなる変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態への変形の追加によって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態、及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
上述した実施の形態では、核酸増幅装置1は、核酸の増幅機構と検出機構とを備えるが、核酸増幅装置1は核酸の増幅機構のみを備えてもよい。