JP2016172670A - 光学ガラスおよび光学素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】原材料費等の生産コストを低減でき、熔融性及び熱的安定性に優れ、亦、低温軟化性を有する高屈折率低分散の光学ガラス及び前記光学ガラスからなる光学素子の提供。【解決手段】組成より導かれる指数であるNWF1,RE1及びHR1が、NWF1に対するRE1の比[RE1/NWF1]が0.35以上、RE1に対するHR1の比[HR1/RE1]が0.33以下、Nb2O5及びTa2O5の含有量の合計に対するNb2O5の含有量の質量比[Nb2O5/(Nb2O5+Ta2O5)]が2/3以上、D1に対するRE1の比[RE1/D1]が0.90以上、NWF1及びRE1の合計量に対するL1の比[L1/(NWF1+RE1)]が0.78以上で、アッベ数νdが39.0〜45.0、前記アッベ数νdと、屈折率ndとが式(1)を満たす光学ガラス。nd≧2.235−0.01×νd・・・(1)【選択図】なし

Description

本発明は、製造コストが低減され、熔融性および熱的安定性に優れた高屈折率低分散の光学ガラスに関する。また、本発明は、係る光学ガラスからなる光学素子に関する。
一般に、高屈折率低分散の光学ガラスは、酸化ホウ素と、酸化ランタンなどの希土類酸化物とを含有している。このような光学ガラスにおいて、アッベ数を減少させずに、屈折率を高める場合には、希土類酸化物の含有量を高める必要がある。しかし、このような光学ガラスにおいて、希土類酸化物の含有量を高めると、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラスを製造する過程でガラスが結晶化して、透明なガラスが得にくくなる(ガラスが失透する)。そのため、アッベ数を減少させずに、屈折率を高めていくと、光学ガラスの製造が困難になる。
一方、光学系の設計において、屈折率が高く、アッベ数も大きい光学ガラスは、色収差を補正し、光学系を高機能化、コンパクト化する上で利用価値が高い。
高屈折率低分散特性を有するガラスの中でも精密プレス成形に適したガラスでは、低温でガラスを軟化させる働きを有するZnまたはLiを多量に導入している。このようなガラスが特許文献1〜7に記載されている。
高屈折率低分散ガラス、特に、光学特性マップ(アッベ図表ともいう)において、(アッベ数νd,屈折率nd)がA(45,1.785)とB(40,1.835)の2点を結ぶ直線Cの線上および直線Cよりも屈折率ndが高い範囲の光学特性を有するガラスは、光学設計上、利用価値が高い。
その反面、この種のガラスは、熱的安定性を維持しつつガラス転移温度Tgを低下させるため、特許文献1、2、6に記載されているように、多量の酸化タンタルの導入を必要としてきた。しかし、酸化タンタルは希少価値が高く、ガラス原料として安定的な供給を得ることが容易ではない。また、酸化タンタルは価格が極めて高く、ガラスの価格を上昇させる原因になっている。
一方、特許文献3〜5、7では、Ta含有量の削減されたガラスが開示されているが、上記直線Cよりも屈折率が低く、光学設計上での不満がある。
また、光学ガラスには熔融性の改善が要求される。ガラスの熔融性を改善することにより、透過率および清澄性に対して好ましい改善効果が期待できる。具体的には、以下のとおりである。
まず、熔融性を改善することによる、透過率への影響を説明する。
一般に、熔融性が悪いガラスの場合、ガラス中にガラス原料が熔け残ることが問題となる。このようなガラス原料の熔け残りは、ガラス組成の変動や、ガラスの均質性の悪化を招く。そのため、通常、熔融温度を高くしたり、熔融時間を長くしたりして、ガラス原料の熔け残りが生じないように製造するのが一般的である。
しかし、熔融温度を高くしたり、熔融時間を長くしたりすれば、ガラス原料の熔け残りの問題は解消されるものの、熔融容器の劣化や生産コストの増大という新たな問題を招来する。特に、熔融ガラスによる熔融容器の侵蝕は大きな問題となる。
通常、光学ガラスのように高い均質性が求められるガラスを熔融する際、熔融容器としては、白金製坩堝等の貴金属製坩堝が広く用いられる。貴金属製の坩堝は、他の材料で構成された坩堝に比べて、熔融ガラスの侵蝕を受けにくい。しかし、上述のように、熔融性の悪いガラスを熔融する場合、高温の熔融ガラスが長時間、坩堝に接触するため、貴金属製の坩堝であっても熔融ガラスによる侵蝕を受ける。
例えば、白金製坩堝の場合、熔融ガラスによる侵蝕で、坩堝を構成する白金が固形物として熔融ガラスに混入する場合がある。このような固形物は、ガラス中で異物となり、光の散乱源になる。また、坩堝がわずかに侵蝕されて、白金がイオンとして熔融ガラスに溶け込むと、製品である光学ガラスは、ガラス中に溶け込んだ白金イオンによる光吸収により着色が強まり、可視域の透過率が低下する。
一方、熔融性の優れたガラスであれば、ガラス原料の熔け残りの問題は生じにくい。それ故、熔融温度を高くしたり、熔融時間を長くしたりする必要はなく、熔融ガラスによる熔融容器の侵蝕を抑制できる。さらに、熔融温度の高温化や熔融時間の延長によるガラスの透過率の低下も抑制できる。
すなわち、熔融性を改善することにより、ガラスの均質性を改善するとともに、可視域の透過率低下を抑制できる。
次に、熔融性を改善することによる、清澄性への影響を説明する。
通常、バッチ原料(複数種の化合物を調合した原料)を粗熔解(ラフメルト)して、カレット原料を作り、カレット原料を再熔融(リメルト)して光学ガラスを製造する方法(粗熔解―再熔融方式)においては、再熔融における熔融ガラスの泡切れをも改善する(すなわち、清澄性(脱泡性)を改善する)にあたり、カレット中に含まれるガス成分が清澄前の熔融ガラス中に多く溶存していること、すなわち、清澄前の熔融ガラス中のガス成分の溶存量を高めることが好ましい。
ここで、ガス成分とは、例えば、バッチ原料に含まれるホウ酸、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等が加熱、分解されて生じる水分、CO、NOおよびSOなどのガスである。
上述のように、熔融性の悪いガラスの製造では、熔融温度を高くしたり、熔融時間を長くしたりして、ガラス原料の熔け残りが生じないようにガラスを製造する必要がある。特に、高温下では、バッチ原料の熔融物から原料由来のガスが放出されやすく、さらに粗熔解の時間が長くなると、カレット中に十分なガス成分が残らない。
通常、カレット中に残存したガス成分は、カレットを再熔融することにより、熔融ガラスの中で泡となり、微小な泡と一緒になって大きな泡を形成する。熔融ガラス中の泡は微小な泡よりも大きな泡の方が、熔融ガラス中を浮上するスピードが大きく、速やかに熔融ガラスの液面に到達し、熔融ガラスの外へ排出される。したがって、熔融ガラスの清澄を短時間で行うことができる。しかし、上述のように熔融性の悪いガラスの場合、カレット中に十分な量のガス成分が残存していないため、微小な泡を大きな泡に成長させにくく、微小な泡が熔融ガラスの外に排出されにくくなる。そのため、十分な清澄ができず、製品である光学ガラス中に微小な泡が残る問題を招来する。
一方、熔融性の優れたガラスの粗熔解では、比較的低温でバッチ原料を熔融できる。そのため、熔融物中に多くのガス成分が溶け込んだ状態でカレットを作製できる。その結果、このようなカレットを使用すれば、比較的短時間で熔融ガラスを清澄できる。
すなわち、熔融性を改善することにより、ガラスの清澄性を改善することができ、単位時間あたりのガラスの生産量を増加できる。
以上説明したように、熔融性を改善することにより、ガラスの透過率だけでなく清澄性をも改善できる。また、熔融性が改善されることにより、ガラスの熔融によって消費するエネルギーを低減でき、熔融時間も短縮することができるため、生産コストの低減や、生産性の向上をも期待できる。このように、熔融性を改善することは非常に有益といえる。
米国特許第7897533号 特開2003−201142 特開2002−012443 特表2009−537427 特開2003−201142 特開2009−203083 特表2009−537427
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、原材料費等の生産コストを低減でき、熔融性および熱的安定性に優れ、また、低温軟化性を有する高屈折率低分散の光学ガラスを提供することを目的とする。さらに、本発明は、係る光学ガラスからなる光学素子および光学ガラス素材を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、比較的高価な材料である酸化タンタルの使用量を低減すると共に、ガラスを構成する各種ガラス構成成分(以下、ガラス成分という)の含有比率のバランスを調整することにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) NWF1に対するRE1の比[RE1/NWF1]が0.35以上、
RE1に対するHR1の比[HR1/RE1]が0.33以下、
NbおよびTaの含有量の合計に対するNbの含有量の質量比[Nb/(Nb+Ta)]が2/3以上、
D1に対するRE1の比[RE1/D1]が0.90以上、
NWF1およびRE1の合計量に対するL1の比[L1/(NWF1+RE1)]が0.78以上であり、
アッベ数νdが39.0以上45.0以下、上記アッベ数νdと、屈折率ndとが下記(1)式を満たす光学ガラス:
nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
但し、
M(B)、M(SiO)、M(Al)、M(La)、M(Gd)、M(Y)、M(Yb)、M(LaF)、M(GdF)、M(YF)、M(YbF)、M(ZnO)、M(LiO)、M(NaO)、M(KO)、M(ZrO)、M(Nb)、M(TiO)、M(WO)、M(Ta)、M(Bi)、M(MgO)、M(CaO)、M(SrO)、M(BaO)を、それぞれ、B、SiO、Al、La、Gd、Y、Yb、LaF、GdF、YF、YbF、ZnO、LiO、NaO、KO、ZrO、Nb、TiO、WO、Ta、Bi、MgO、CaO、SrO、BaOの分子量としたとき、
NWF1=[2×B/M(B)]+[SiO/M(SiO)]+[2×Al/M(Al)]
RE1=[2×La/M(La)]+[2×Gd/M(Gd)]+[2×Y/M(Y)]+[2×Yb/M(Yb)])+[LaF/M(LaF)]+[GdF/M(GdF)]+[YF/M(YF)]+[YbF/M(YbF)]
HR1=[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[WO/M(WO)]+[2×Bi/M(Bi)]
D1={[2×LiO/M(LiO)]+[2×NaO/M(NaO)]+[2×KO/M(KO)]}×3+[ZnO/M(ZnO)]
L1=[20×LiO/M(LiO)]+[16×NaO/M(NaO)]+[8×KO)/M(KO)]+[4×ZnO/M(ZnO)]+[MgO/M(MgO)]+[2×CaO/M(CaO)]+[2×SrO/M(SrO)]+[2×BaO/M(BaO)]+[2×B/M(B)]+[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[4×WO/M(WO)]+[8×Bi/M(Bi)]+[2×Ta)/M(Ta)]−[2×SiO/M(SiO)]−[2×Al/M(Al)]−[2×ZrO/M(ZrO)]−[2×La/M(La)]−[2×Gd/M(Gd)]−[2×Y/M(Y)]−[2×Yb/M(Yb)]−[LaF/M(LaF)]−[GdF/M(GdF)]−[YF/M(YF)]−[YbF/M(YbF)]
であり、上記各ガラス成分の含有量は質量%表示による値である。
(2) NWF2に対するRE2の比[RE2/NWF2]が0.35以上、
RE2に対するHR2の比[HR2/RE2]が0.33以下、
Nb5+およびTa5+の含有量の合計に対するNb5+の含有量のカチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]が3/4以上、
D2に対するRE2の比[RE2/D2]が0.90以上、
NWF2およびRE2の合計に対するL2の比[L2/(NWF2+RE2)]が0.78以上、
である酸化物ガラスであり、
アッベ数νdが39.0以上45.0以下、上記アッベ数νdと、屈折率ndとが下記(1)式を満たす光学ガラスである:
nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
但し、
NWF2は、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量、
RE2は、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量、
HR2は、Nb5+、Ti4+、W6+およびBi3+の合計含有量、
D2=(Li+Na+K)×6+Zn2+
L2=(10×Li)+(8×Na)+(4×K)+(4×Zn)+Mg2++(2×Ca2+)+(2×Sr2+)+(2×Ba2+)+B3++Nb5++Ti4++4×W6++(4×Bi3+)+Ta5+−(2×Si4+)−Al3+−(2×Zr4+)−La3+−Gd3+−Y3+−Yb3+
であり、上記各ガラス成分の含有量はカチオン%表示による値である。
(3) 上記(1)または(2)に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
(4) 上記(1)または(2)に記載の光学ガラスからなる光学素子。
本発明によれば、生産コストを低減でき、熔融性および熱的安定性に優れ、また、低温軟化性を有する高屈折率低分散の光学ガラス、およびそれを用いた光学素子を提供することができる。
図1は、公知のガラスについて、横軸にNWF1およびRE1の合計値に対するL1の比[L1/(NWF1+RE1)]をとり、縦軸にガラス転移温度Tgをプロットしたグラフである。 図2は、公知のガラスについて、横軸にNWF2およびRE2の合計値に対するL2との比[L2/(NWF2+RE2)]をとり、縦軸にガラス転移温度Tgをプロットしたグラフである。
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。さらに、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。なお、本明細書において、「光学ガラス」は、複数種のガラス構成成分(ガラス成分)を含むガラス組成物であって、形態(塊り状、板状、球状など)や用途(光学素子用素材、光学素子など)、大きさを問わない総称として用いている。すなわち、光学ガラスの形態や用途、大きさに制限はなく、いかなる形態の光学ガラスも、またいかなる用途の光学ガラスも、そしていかなる大きさの光学ガラスも本発明における光学ガラスに含まれる。また、本明細書において、光学ガラスは、単に「ガラス」と称されることがある。
また、本明細書において、(数値1)を用いて、「(数値1)以下」のように数値範囲を表すことがある。このように表される範囲は、(数値1)よりも小さい数値範囲と(数値1)を合わせた数値範囲である。「(数値1)未満」と表される数値範囲は、(数値1)よりも小さい数値範囲であり、(数値1)を含まない。(数値2)を用いて、「(数値2)以上」のように数値範囲を表すことがある。このように表される範囲は、(数値2)よりも大きい数値範囲と(数値2)を合わせた数値範囲である。「(数値2)超」のように数値範囲を表すことがある。このように表される範囲は、(数値2)よりも大きい数値範囲であり、(数値2)を含まない。
まず、第1実施形態として質量%表示でのガラス組成について説明し、次に、第2実施形態としてカチオン%表示でのガラス組成について説明する。
第1実施形態
(質量%表示での組成)
以下、ガラス組成を酸化物基準の形式で表す。
本発明の第1実施態様の光学ガラスは、
NWF1に対するRE1の比[RE1/NWF1]が0.35以上、
RE1に対するHR1の比[HR1/RE1]が0.33以下、
NbとTaの含有量の合計に対するNbの含有量の質量比[Nb/(Nb+Ta)]が2/3以上、
D1に対するRE1の比[RE1/D1]が0.90以上、
NWF1およびRE1の合計量に対するL1の比[L1/(NWF1+RE1)]が0.78以上であり、
アッベ数νdが39.0以上45.0以下、上記アッベ数νdと、屈折率ndとが下記(1)式を満たす光学ガラス:
nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
但し、
M(B)、M(SiO)、M(Al)、M(La)、M(Gd)、M(Y)、M(Yb)、M(LaF)、M(GdF)、M(YF)、M(YbF)、M(ZnO)、M(LiO)、M(NaO)、M(KO)、M(ZrO)、M(Nb)、M(TiO)、M(WO)、M(Ta)、M(Bi)、M(MgO)、M(CaO)、M(SrO)、M(BaO)を、それぞれ、B、SiO、Al、La、Gd、Y、Yb、LaF、GdF、YF、YbF、ZnO、LiO、NaO、KO、ZrO、Nb、TiO、WO、Ta、Bi、MgO、CaO、SrO、BaOの分子量としたとき、
NWF1=[2×B/M(B)]+[SiO/M(SiO)]+[2×Al/M(Al)]
RE1=[2×La/M(La)]+[2×Gd/M(Gd)]+[2×Y/M(Y)]+[2×Yb/M(Yb)])+[LaF/M(LaF)]+[GdF/M(GdF)]+[YF/M(YF)]+[YbF/M(YbF)]
HR1=[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[WO/M(WO)]+[2×Bi/M(Bi)]
D1={[2×LiO/M(LiO)]+[2×NaO/M(NaO)]+[2×KO/M(KO)]}×3+[ZnO/M(ZnO)]
L1=[20×LiO/M(LiO)]+[16×NaO/M(NaO)]+[8×KO)/M(KO)]+[4×ZnO/M(ZnO)]+[MgO/M(MgO)]+[2×CaO/M(CaO)]+[2×SrO/M(SrO)]+[2×BaO/M(BaO)]+[2×B/M(B)]+[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[4×WO/M(WO)]+[8×Bi/M(Bi)]+[2×Ta)/M(Ta)]−[2×SiO/M(SiO)]−[2×Al/M(Al)]−[2×ZrO/M(ZrO)]−[2×La/M(La)]−[2×Gd/M(Gd)]−[2×Y/M(Y)]−[2×Yb/M(Yb)]−[LaF/M(LaF)]−[GdF/M(GdF)]−[YF/M(YF)]−[YbF/M(YbF)]
であり、上記各ガラス成分の含有量は質量%表示による値である。
なお、上記式中で、B、SiO、Al、La、Gd、Y、Yb、Nb、TiO、WO、Bi、LiO、NaO、KO、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO、Ta、ZrO、LaF、GdF、YFおよびYbFと表される各ガラス成分の含有量は、質量%表示における各ガラス成分の含有比率である。NWF1、RE1、HR1、L1、D1については、質量%あるいは%などの百分率を表す記号を付けずに、数値のみにて表示する。以下の記載についても同様である。
本実施形態では、質量%表示での各ガラス成分の含有量に基づいて、本発明に係る光学ガラスを説明する。したがって、以下、各含有量は特記しない限り、質量%にて表示する。
なお、本明細書において、質量%表示とは、酸化物やフッ化物で表される各ガラス成分について、全てのガラス成分の合計含有量を100質量%としたときの各ガラス成分の含有量を質量百分率により表示することをいう。
後述するように、Sb、SnO、CeOは、清澄剤としてガラスに少量添加されることがある。しかし、本明細書の質量%表示において、全てのガラス成分の合計含有量にはSb、SnOおよびCeOの含有量を含めない。すなわち、ガラス成分中のSb、SnO、CeOの質量%表示での各含有量は、Sb、SnOおよびCeO以外の全てのガラス成分の合計含有量を100質量%とした場合のSb、SnO、CeOの各含有量として表示される。本明細書において、このような表記を外割りという。
また、合計含有量とは、複数種のガラス成分の含有量(含有量が0%である場合も含む)の合計量をいう。また、質量比とは、質量%表示におけるガラス成分の含有量(複数種の成分の合計含有量も含む)同士の割合(比)をいう。
以下、Bの分子量をM(B)、SiOの分子量をM(SiO)、Alの分子量をM(Al)、Laの分子量をM(La)、Gdの分子量をM(Gd)、Yの分子量M(Y)、Ybの分子量をM(Yb)、LaFの分子量をM(LaF)、GdFの分子量をM(GdF)、YFの分子量をM(YF)、YbFの分子量をM(YbF)、ZnOの分子量をM(ZnO)、LiOの分子量をM(LiO)、NaOの分子量をM(NaO)、KOの分子量をM(KO)、ZrOの分子量をM(ZrO)、Nbの分子量をM(Nb)、TiOの分子量をM(TiO)、WOの分子量をM(WO)、Taの分子量をM(Ta)、Biの分子量をM(Bi)、MgOの分子量をM(MgO)、CaOの分子量をM(CaO)、SrOの分子量をM(SrO)、BaOの分子量をM(BaO)とする。
各酸化物の分子量は、当該酸化物の一分子中に含まれるカチオンに相当する原子の数と当該原子の原子量との積、および、当該酸化物の一分子中に含まれる酸素Oの数と酸素の原子量との積の合計であり、化学式量に相当する。また、各フッ化物の分子量は、当該フッ化物の一分子中に含まれるカチオンに相当する原子の数と当該原子の原子量との積、および、当該フッ化物の一分子中に含まれるフッ素Fの数とフッ素の原子量との積の合計である。そして、1molあたりの分子の質量は、その分子量に単位(g)を付した値である。表1に上記各酸化物、各フッ化物の分子量を少数点以下3桁までを表示する。例えば、以下の説明において、分子量として、表1に示す数値を用いればよい。
Figure 2016172670
さらに、ガラス成分を酸化物あるいはフッ化物で表記したときの一分子中に含まれるカチオンの個数を表2に示す。
Figure 2016172670
以下、本実施形態に係る光学ガラスについて詳しく説明する。
本実施形態に係る光学ガラスは、アッベ数νdが39.0以上45.0以下であり、屈折率ndと、上記のアッベ数νdとが、下記(1)式を満たす。
nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、アッベ数νdの下限は39.0であり、好ましくは39.5、より好ましくは40.0、さらに好ましくは40.5である。アッベ数νdの上限は45.0であり、好ましくは44.5、より好ましくは44.0、さらに好ましくは43.5である。
アッベ数νdは、39.0以上であると、光学素子の材料として色収差の補正に有効である。また、アッベ数νdが45.0より大きくなると、屈折率ndを低下させないとガラスの熱的安定性が著しく低下し、ガラスを製造する過程で失透しやすくなる。また、屈折率ndが、アッベ数νdに対して(1)式で決まる範囲にあることにより、光学設計上、利用価値の高い光学ガラスとすることができる。屈折率ndの上限は、ガラスの上記組成範囲により自ずと定まる。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、後述するNWF1、RE1、HR1は、ガラス100gあたりに含まれる特定カチオンのモル数の合計を意味する。ただし、NWF1、RE1、HR1は、本発明の光学ガラスにおける特定のガラス成分の含有量に関する指標あって、質量%あるいは%などの百分率を表す記号も付けずに、数値のみにて表示する。以下、NWF1を例に詳しく説明する。
上記NWF1は下記数1で表される。
Figure 2016172670
ここで、上記式中[B/M(B)]の分母は酸化ホウ素(B)の分子量であり、分子は酸化ホウ素(B)の質量%表示での含有量である。
分子について言い換えると、質量%表示での酸化ホウ素(B)の含有量とは、ガラス100gあたりに含まれる酸化ホウ素(B)の含有量を質量(g)で表したものである。
したがって、上記式中[B/M(B)]は、ガラス100gあたりに含まれる酸化ホウ素(B)のモル数に相当する。
さらに、上記[B/M(B)]に、酸化ホウ素(B)1分子に含まれるカチオン(B3+)の個数(2)を乗じた[2×B/M(B)]は、ガラス100gあたりに含まれるホウ素イオン(B3+)のモル数に相当する。
なお、上記式中[SiO/M(SiO)]および[2×Al/M(Al)]についても[2×B/M(B)]の場合と同様である。
したがって、NWF1は、ガラス100gあたりに含まれるホウ素イオン(B3+)、ケイ素イオン(Si4+)およびアルミニウムイオン(Al3+)の各モル数の合計値である。ただし、NWF1は、本発明の光学ガラスにおけるネットワーク形成成分の含有量に関する指標であり、数値のみにより表示される。
また、後述するHR1、RE1、R1についても、NWF1の場合と同様である。
<RE1/NWF1>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NWF1は上記のように定義される。なお、B、SiO、Alは、ガラスのネットワーク形成成分として機能する。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、RE1は、高屈折率低分散化成分であるLa、Gd、Y、Yb3、LaF3、GdF3、YF3、YbFの各含有量を質量%で表示したときの各数値を、それぞれの酸化物、フッ化物の分子量で割った値に、各分子中に含まれるカチオンの個数を乗じた値の合計値(RE1=[2×La/M(La)]+[2×Gd/M(Gd)]+[2×Y/M(Y)]+[2×Yb/M(Yb)])+[LaF/M(LaF)]+[GdF/M(GdF)]+[YF/M(YF)]+[YbF/M(YbF)]である。すなわち、RE1は、ガラス100gあたりに含まれるLa3+、Gd3+、Y3+、およびYb3+の各モル数の合計値である。ただし、RE1は、本発明の光学ガラスにおける高屈折率低分散化成分の含有量に関する指標であり、数値のみで表示される。
NWF1が小さくなると、屈折率が上昇する。RE1が大きくなると、アッベ数が大幅に減少することなく、屈折率が上昇する。したがって、比[RE1/NWF1]を大きくすることにより、低分散特性を維持しつつ、屈折率を上昇させることができる。
所望の屈折率nd、アッベ数νdを得るために、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE1/NWF1]は0.35以上である。
さらに、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE1/NWF1]の下限は、好ましくは0.36であり、さらには、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE1/NWF1]の下限を上記範囲とすることで、屈折率ndおよびアッベ数νdを所望の値にすることができる。
NWF1が大きくなると、ガラスの熱的安定性が改善され、ガラスを製造する時や、ガラスを成形する時に、結晶が析出しにくくなる。RE1が小さくなると、ガラスの熱的安定性が改善し、製造中に結晶が析出しにくくなる。
したがって、ガラスの熱的安定性を改善し、結晶が析出しにくいガラスを得るために、比[RE1/NWF1]の上限は、好ましくは0.80であり、さらには0.70、0.60、0.55、0.54、0.53、0.52、0.51の順により好ましい。比[RE1/NWF1]の上限を上記好ましい範囲とすることで、ガラスの熱的安定性をより改善できる。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、屈折率を高める観点から、NWF1の上限は、好ましくは0.80であり、さらには0.75、0.72、0.70、0.69、0.68の順により好ましい。また、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、NWF1の下限は、好ましくは0.45であり、さらには0.48、0.50、0.53、0.54、0.55の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、RE1の上限は、好ましくは0.37であり、より好ましくは0.35、さらに好ましくは0.33であり、一層好ましくは0.31である。また、アッベ数を大幅に低下させることなく、屈折率を高める観点から、RE1の下限は、好ましくは0.20であり、より好ましくは0.22であり、さらに好ましくは0.24であり、一層好ましくは0.26である。
<HR1/RE1>
前述のように、光学設計上、アッベ数νdが39.0以上45.0以下である光学ガラスが、(1)式を満たす屈折率ndを有することの意義は大きい。通常、ガラスの屈折率を増加させると、アッベ数が減少し、高分散化する。したがって、上記光学特性を得るには、できるだけアッベ数νdの減少を抑えつつ、屈折率を高めることが重要である。
希土類酸化物と、Nb、TiO、WOおよびBiとは、いずれもガラスの屈折率を上昇させる働きを有するが、希土類酸化物と比較し、Nb、TiO、WOおよびBiは、アッベ数を減少させる働き(高分散化する働き)が強い。
ところで、精密プレス成形において、ガラスとプレス成形型の型材料とが反応すると、ガラス表面の透明度が低下し、また、ガラスとプレス成形型とが融着するという問題が生じる。精密プレス成形において、プレス成形型の型材料と反応する物質は、主としてガラス成分の中でも高温で価数の変化を起こしやすい成分、すなわち、Nb、TiO、WO、Biである。一方、希土類酸化物は、Nb、TiO、WO、Biと同じように屈折率を上昇させる働きを有するが、Nb、TiO、WO、Biとは異なり、精密プレス成形時の高温状態で価数の変化を起こしにくく、型材料との反応性が比較的低い。したがって、希土類酸化物の含有量に対して、ガラスと型材料の化学反応の要因になるNb、TiO、WO、Biの含有量を一定量以下に抑えることが望ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、HR1は、高屈折率高分散化成分であるNb、TiO、WO、Biの各含有量を質量%で表示したときの各数値を、それぞれ各ガラス成分の分子量で割った値に、それぞれ各分子中に含まれるカチオンの個数を乗じた値の合計値(HR1=[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[WO/M(WO)]+[2×Bi/M(Bi)])である。すなわち、HR1は、ガラス100gあたりに含まれるNb5+、Ti4+、W6+、およびBi3+の各モル数の合計値である。ただし、HR1は、本発明の光学ガラスにおける高屈折率高分散化成分の含有量に関する指標であり、数値のみにより表示される。
RE1に対するHR1の比[HR1/RE1]を減少させることにより、アッベ数の低下を抑制することができ、さらに、精密プレス成形時のガラスと型材料の反応を抑制し、精密プレス成形によるガラス製光学素子の生産性向上が可能になる。
このような理由から、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[HR1/RE1]は、0.33以下である。
さらに、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[HR1/RE1]の上限は、好ましくは0.32であり、さらには0.31、0.30、0.29、0.28、0.27、0.25の順により好ましい。
比[HR1/RE1]が減少すると、ガラスの熱的安定性が低下する傾向を示し、ガラス転移温度が上昇する傾向を示す。また、屈折率の増加には、RE1よりもHR1の方がより大きく寄与するため、より屈折率の高いガラスを作る観点から、上記の範囲内において、比[HR1/RE1]が大きいほうが好ましい。そのため、ガラスの熱的安定性を改善し、ガラス転移温度を低下させる観点から、あるいは、屈折率を一層上昇させる観点から、比[HR1/RE1]の下限は、好ましくは0.04であり、さらには0.08、0.10、0.11、0.13、0.15、0.16の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、アッベ数の減少を抑制し、精密プレス成形により高品質の光学素子をより安定して製造する観点から、HR1の上限は、好ましくは0.100であり、さらには0.090、0.080、0.070、0.060の順により好ましい。また、屈折率を一層高め、ガラスの熱的安定性を一層改善する観点から、HR1の下限は、好ましくは0.010であり、さらには0.020、0.030、0.040の順により好ましい。
<Nb/(Nb+Ta)>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NbおよびTaの合計含有量に対するNbの含有量の質量比[Nb/(Nb+Ta)]は、2/3以上である。すなわち、本実施形態に係る光学ガラスはNbを含み、またNbの含有量をTaの含有量の2倍以上とする。
さらに、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、質量比[Nb/(Nb+Ta)]の下限は、好ましくは0.67、さらには0.70、0.80、0.90、0.95、0.98、0.99の順により好ましい。また、質量比[Nb/(Nb+Ta)]の上限は、好ましくは1.00である。
質量比[Nb/(Nb+Ta)]の下限を上記範囲とすることで、屈折率の低下を抑え、ガラスの熱的安定性を維持できる。さらに、質量比[Nb/(Nb+Ta)]の下限を上記範囲とすることで、Nbの含有量に対して、Taの含有量を相対的に減少させて、非常に高価なTaの使用量を削減することもできる。
<RE1/D1>
一般に、精密プレス成形に好適な低温軟化性を有するガラスは、ガラス転移温度Tgを低下させる働きのあるLiO、NaO、KO、またはZnOのいずれかを含有する。特に、こうしたガラスでは、ガラス転移温度Tgを低下させる働きが強いLiOおよびZnOの含有量が多い。しかし、これらのガラス成分は、ガラスを製造する過程で、熔融ガラスから揮発しやすい。
熔融ガラスから特定のガラス成分、すなわち、揮発しやすいガラス成分が選択的に揮発すると、ガラスの組成比が変化し、屈折率ndやアッベ数νdなどの特性が所望の値とならない。その結果、所望の特性を有するガラスを安定して生産することが困難になる。また、熔融ガラスを成形するときに、高温のガラス表面から特定のガラス成分が揮発すると、ガラス表面に脈理と呼ばれる光学的な不均質部が生成されてしまう。高い均質性が求められる光学ガラスにおいて、このような脈理の発生は好ましくない。
本件発明者らの調査によれば、熔融ガラスの揮発性は、揮発しやすいLiO、NaO、KOおよびZnOの含有量と、揮発しにくいLa、Gd、YおよびYbの希土類酸化物の含有量の比に依存することがわかった。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、D1は、LiO、NaOおよびKOの各含有量を質量%で表示したときの数値を、それぞれ各ガラス成分の分子量で割った値に、各分子中に含まれるカチオンの個数および3を乗じた値と、ZnOの含有量を質量%で表示したときの数値を分子量で割った値に分子中に含まれるカチオンの個数を乗じた値との合計値(D1=[2×LiO/M(LiO)]×3+[2×NaO/M(NaO)]×3+[2×KO/M(KO)]×3+[ZnO/M(ZnO)])である。3を乗じるのは、LiO、NaOおよびKOはZnOよりも揮発しやすいからである。すなわち、D1は、
D1={[2×LiO/M(LiO)]+[2×NaO/M(NaO)]+[2×KO/M(KO)]}×3+[ZnO/M(ZnO)]
と表すことができる。D1は、本発明の光学ガラスにおける揮発性成分の含有量に関する指標であり、数値のみによって表示される。
D1は熔融ガラスからの揮発を助長する因子を数値化したものである。一方、RE1は熔融ガラスからの揮発を抑制する因子を数値化したものである。すなわち、D1に対するRE1の比[RE1/D1]を大きくすることにより、熔融ガラスからの揮発を抑えることができる。
このように、比[RE1/D1]は、熔融ガラス、すなわち、ガラス融液の揮発性を表す指標である。比[RE1/D1]を0.90以上とすることにより、熔融ガラスからの揮発を抑制することができる。その結果、所望の特性を有する光学ガラスを安定して生産することができる。また、ガラスの均質性を高く保つこともできる。よって、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE1/D1]は、0.90以上である。
さらに、熔融ガラスからの揮発を抑制する観点から、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE1/D1]の下限は、好ましくは0.95であり、さらには0.98、1.00、1.05、1.10、1.12、1.13の順により好ましい。
一方、比[RE1/D1]が減少すると、ガラス転移温度Tgが低下し、精密プレス成形するときのガラスの温度が低下する。その結果、精密プレス成形時にガラスとプレス成形型との反応が起こりにくくなり、プレス成形後のガラス表面の透明性を維持しやすくなり、ガラスとプレス成形型の融着を抑制しやすくなる。このような観点から、比[RE1/D1]の上限は、好ましくは2.5であり、さらには2.3、2.2、2.15、2.10、2.08、2.07の順により好ましい。
熔融ガラスからの揮発を抑制する観点から、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、D1の上限は、好ましくは0.33であり、さらには0.30、0.28、0.26、0.25の順により好ましい。一方、ガラス転移温度を低下させる観点から、D1の下限は、好ましくは0.05であり、さらには0.08、0.10、0.12、0.13の順により好ましい。
<L1/(NWF1+RE1)>
ガラス成分を、ガラス転移温度Tgを相対的に低下させる働きを有する成分と、相対的に上昇させる働きを有する成分に大別する。ガラス転移温度Tgを相対的に低下させる働きを有する成分は、主にLiO、NaO、KO、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、Nb、TiO、WO、Bi、Taである。一方、上記ガラス成分に対し、相対的にガラス転移温度Tgを上昇させる働きを有する成分は、主に、SiO、Al、ZrO、La、Gd、Y、Yb、LaF、GdF、YF、YbFである。
本件発明者らの検討の結果、上記ガラス成分の各含有量を質量%で表示したときの数値を、それぞれ各ガラス成分の分子量で割った値に、それぞれ各分子中に含まれるカチオンの個数を乗じ、さらにそれぞれ各ガラス成分のガラス転移温度Tgへの影響度を係数として乗じた値の合計値をL1とした場合に、NWF1およびRE1の合計値とL1との比[L1/(NWF1+RE1)]は、ガラス転移温度Tgとの間に相関関係があることがわかった。上記ガラス成分のガラス転移温度Tgへの影響度を示す係数を表3に示す。
Figure 2016172670
このようなL1は、L1=[10×2×LiO/M(LiO)]+[8×2×NaO/M(NaO)]+[4×2×KO)/M(KO)]+[4×1×ZnO/M(ZnO)]+[1×1×MgO/M(MgO)]+[2×1×CaO/M(CaO)]+[2×1×SrO/M(SrO)]+[2×1×BaO/M(BaO)]+[1×2×B/M(B)]+[1×2×Nb/M(Nb)]+[1×1×TiO/M(TiO)]+[4×1×WO/M(WO)]+[4×2×Bi/M(Bi)]+[1×2×Ta)/M(Ta)]+[−2×1×SiO/M(SiO)]+[−1×2×Al/M(Al)]+[−2×1×ZrO/M(ZrO)]+[−1×2×La/M(La)]+[−1×2×Gd/M(Gd)]+[−1×2×Y/M(Y)]+[−1×2×Yb/M(Yb)]+[−1×1×LaF/M(LaF)]+[−1×1×GdF/M(GdF)]+[−1×1×YF/M(YF)]+[−1×1×YbF/M(YbF)]として表すことができる。すなわち、値L1は、
L1=[20×LiO/M(LiO)]+[16×NaO/M(NaO)]+[8×KO)/M(KO)]+[4×ZnO/M(ZnO)]+[MgO/M(MgO)]+[2×CaO/M(CaO)]+[2×SrO/M(SrO)]+[2×BaO/M(BaO)]+[2×B/M(B)]+[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[4×WO/M(WO)]+[8×Bi/M(Bi)]+[2×Ta)/M(Ta)]−[2×SiO/M(SiO)]−[2×Al/M(Al)]−[2×ZrO/M(ZrO)]−[2×La/M(La)]−[2×Gd/M(Gd)]−[2×Y/M(Y)]−[2×Yb/M(Yb)]−[LaF/M(LaF)]−[GdF/M(GdF)]−[YF/M(YF)]−[YbF/M(YbF)]
と表すことができる。L1は、本発明の光学ガラスにおいてガラス転移温度Tgに影響する成分の含有量に関する指標であり、数値のみにより表示される。
図1は、ガラス成分のうちネットワーク形成成分に対応するNWF1と希土類酸化物および希土類フッ化物に対応するRE1との合計値に対するL1の比[L1/(NWF1+RE1)]を横軸、ガラス転移温度Tgを縦軸にとり、公知のガラスについて比[L1/(NWF1+RE1)]とガラス転移温度Tgをプロットしたグラフである。図1より明らかであるように、プロットはほぼ直線上に分布し、比[L1/(NWF1+RE1)]とガラス転移温度Tgとは、相関関係にあることがわかる。
すなわち、比[L1/(NWF1+RE1)]の増加に伴いガラス転移温度Tgは低下し、比[L1/(NWF1+RE1)]の減少に伴いガラス転移温度Tgは上昇する。
このように、比[L1/(NWF1+RE1)]を増加させることにより、ガラス転移温度Tgを低下させ、精密プレス成形に好適なガラス、すなわち、低温軟化性を有するガラスを提供することができる。また、比[L1/(NWF1+RE1)]を増加させることにより、ガラスの熔融性も改善する、すなわち、ガラス原料が熔け残らず、均質なガラスを提供することができる。
低温軟化性と良好な熔融性を有する光学ガラスを得るために、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[L1/(NWF1+RE1)]は0.78以上である。
さらに、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[L1/(NWF1+RE1)]の下限は、好ましくは0.80であり、さらには0.85、0.90、0.91、0.92、0.95、1.00、1.05の順により好ましい。
比[L1/(NWF1+RE1)]の下限を上記範囲とすることで、精密プレス成形に好適な低温軟化性を得るとともに、ガラスの熔融性を改善することができる。比[L1/(NWF1+RE1)]が大きくなり過ぎると、ガラスの熱的安定性が低下する傾向を示し、屈折率が低下する傾向を示す。所望の屈折率と熱的安定性を維持する観点から、比[L1/(NWF1+RE1)]の上限は、好ましくは2であり、さらには1.8、1.6、1.5の順により好ましい。
<R1/NWF1>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、R1は、アルカリ土類金属酸化物であるMgO、CaO、SrOおよびBaOの各含有量を質量%で表示したときの数値を、それぞれ各ガラス成分の分子量で割った値の合計値(R1=[MgO/M(MgO)]+[CaO/M(CaO)]+[SrO/M(SrO)]+[BaO/M(BaO)])である。すなわち、RE1は、ガラス100gあたりに含まれるMg2+、Ca2+、Sr2+、およびBa2+の各モル数の合計値である。R1は、本発明の光学ガラスにおけるアルカリ土類金属酸化物の含有量に関する指標であり、数値のみによって表示される。
ネットワーク形成成分B、SiO、Alと、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO、BaOとを比較すると、ネットワーク形成成分の方が、アルカリ土類金属酸化物よりもアッベ数の減少を抑える働きが大きい。
したがって、NWF1に対するR1の比[R1/NWF1]の上限は、好ましくは0.30であり、さらには、0.25、0.20、0.19、0.15、0.10、0.05、0.02の順により好ましい。また、比[R1/NWF1]の下限は、好ましくは0である。なお、比[R1/NWF1]は0であってもよい。
比[R1/NWF1]の上限を上記範囲とすることで、アッベ数の減少を抑えることができる。
<ガラス組成>
以下、ガラス組成について、詳しく説明する。なお、特記しない限り、各種ガラス成分の含有量等については、質量%にて表示する。なお、合計含有量は、複数種のガラス成分の含有量の合計量であるが、各含有量は0%である場合も含む。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Bの含有量の上限は、好ましくは32%であり、さらには30%、28%、26%、25%、24%の順により好ましい。また、Bの含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには13%、14%、15%、16%の順により好ましい。
は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熔融性を改善するとともに、アッベ数の減少を抑制する働きを有する。また、SiOと比較してガラス転移温度Tgを上昇させにくい。Bの含有量が少ないと、ガラスの熱的安定性および熔融性が低下する傾向がある。一方、Bの含有量が多いと、屈折率ndや化学的耐久性が低下する傾向がある。そのため、ガラスの熱的安定性、熔融性および成形性等を改善する観点から、Bの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。一方、所望の屈折率を得つつ、化学的耐久性を良好に維持する観点から、Bの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiOの含有量の上限は、好ましくは10%、さらには8%、7%、6%、5%、4%、3%の順により好ましい。また、SiOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、SiOの含有量は0%であってもよい。
SiOは、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの化学的耐久性、耐候性を改善し、熔融ガラスの粘性を高め、熔融ガラスをガラスに成形しやすくする働きを有する。SiOの含有量が少ないと、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性が低下する傾向がある。一方、SiOの含有量が多いと、ガラスの熔融性、低温軟化性が低下する傾向、すなわち、ガラス転移温度が上昇してガラス原料が熔け残る傾向がある。そのため、ガラスの熔融性、低温軟化性等を改善する観点から、SiOの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Alの含有量の上限は好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Alの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Alの含有量は0%であってもよい。
Alは、ガラスの化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有するガラス成分であり、ネットワーク形成成分として考えることができる。しかし、Alの含有量が多くなると、屈折率ndが低下する、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラス転移温度Tgが上昇する、熔融性が低下する等の問題が生じやすい。このような問題を回避する観点から、Alの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ガラスのネットワーク形成成分であるB、SiOおよびAlの合計含有量[B+SiO+Al]の上限は、好ましくは34%であり、さらには32%、30%、28%、26%、25%、24%の順により好ましい。また、合計含有量[B+SiO+Al]の下限は、好ましくは10%であり、さらには13%、15%、17%、18%、19%の順により好ましい。
合計含有量[B+SiO+Al]の上限を上記範囲とすることで、屈折率を所望の範囲に維持しやくなる。また、合計含有量[B+SiO+Al]の下限を上記範囲とすることで、ガラスの熱的安定性を改善し、ガラスの失透をより一層抑制しやすくなる。
また、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B、SiOおよびAlの合計含有量に対するBの含有量の質量比[B/(B+SiO+Al)]の下限は、好ましくは0.50であり、さらには0.60、0.70、0.80、0.85の順により好ましい。質量比[B/(B+SiO+Al)]を1とすることもできる。
質量比[B/(B+SiO+Al)]が小さいと、ガラスの熔融性が低下するとともに、ガラス転移温度Tgが上昇する傾向がある。そのため、良好な熔融性、ガラスの低温軟化性を維持する観点から、質量比[B/(B+SiO+Al)]の下限は、上記範囲であることが好ましい。
質量比[B/(B+SiO+Al)]は1とすることもできるが、SiOを少量含有することにより、成形時の熔融ガラスの粘度を成形に適した粘度にしやすくなる。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La、Gd、YおよびYbの合計含有量[La+Gd+Y+Yb]の上限は好ましくは65%であり、さらには60%、57%、55%、53%、52%の順により好ましい。また、合計含有量[La+Gd+Y+Yb]の下限は、好ましくは35%であり、さらには38%、41%、44%、45%、46%の順により好ましい。
所望の屈折率、アッベ数を実現する観点から、合計含有量[La+Gd+Y+Yb]の下限は上記範囲であることが好ましい。ガラスの熱的安定性低温軟化性を改善する観点から、合計含有量[La+Gd+Y+Yb]の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Laの含有量の上限は、好ましくは50%であり、さらには45%、42%、40%、38%、37%の順により好ましい。また、Laの含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには15%、17%、19%、20%、21%、22%の順により好ましい。
Laは、前述の働きに加え、ガラスの化学的耐久性を改善する働きも有する。さらに、Laは、希土類酸化物成分の中でも、含有量が比較的多くても、熱的安定性を低下させにくい成分である。したがって、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性を改善する観点から、Laの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。また、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、Laの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gdの含有量の上限は、好ましくは50%であり、さらには45%、40%、35%、31%、30%、29%の順により好ましい。また、Gdの含有量の下限は、好ましくは1%であり、さらには2%、3%、5%、7%、10%、11%、12%の順により好ましい。
Gdは、前述の働きに加え、ガラスの化学的耐久性を改善する働きも有する。さらに、Gdは、ガラス中においてLaと共存することにより、ガラスの熱的安定性を高める働きも有する。したがって、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性を改善する観点から、Gdの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。また、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、Gdの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Yの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには8%、5%、4%、3%の順により好ましい。また、Yの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Yの含有量は0%であってもよい。
は、前述の働きに加え、ガラスの化学的耐久性を改善する働きも有する。さらに、Yは、ガラス中においてLaと共存することにより、ガラスの熱的安定性を高める働きも有する。したがって、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、Yの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ybの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Ybの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ybの含有量は0%であってもよい。
Ybは、La、GdおよびYと同様に、アッベ数を大幅に低下させることなく、屈折率を高める働きを有するガラス成分である。しかし、Ybは、La、Gd、Yと比べて分子量が大きいため、ガラスの比重を増大させる。ガラスの比重が増大すると、光学素子の質量が増大する。例えば、質量の大きいレンズをオートフォーカス式の撮像レンズに組み込むと、オートフォーカス時にレンズの駆動に要する電力が増大し、電池の消耗が激しくなる。したがって、Ybの含有量を低減させて、ガラスの比重の増大を抑えることが望ましい。
また、Ybは近赤外域に吸収を有する。そのため、Ybの含有量が多いガラスは、近赤外域における光吸収が強く、監視カメラ、暗視カメラなどで近赤外域における高い透過率が求められる用途には好ましくない。このような問題を改善する観点から、Ybの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、LaFの含有量の上限はハロゲン化合物の含有量によって決まるため、特に制限はないが、好ましくは5%であり、さらには3%、2%、1%、0.5%の順により好ましい。また、LaFの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、GdFの含有量の上限はハロゲン化合物の含有量によって決まるため、特に制限はないが、好ましくは5%であり、さらには3%、2%、1%、0.5%の順により好ましい。また、GdFの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、YFの含有量の上限はハロゲン化合物の含有量によって決まるため、特に制限はないが、好ましくは5%であり、さらには3%、2%、1%、0.5%の順により好ましい。また、YFの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、YbFの含有量の上限はハロゲン化合物の含有量によって決まるため、特に制限はないが、好ましくは3%であり、さらには2%、1%、0.5%の順により好ましい。また、YbFの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスでは、La、Gd、YおよびYbの合計含有量[La+Gd+Y+Yb]に対するLaの含有量の質量比[La/(La+Gd+Y+Yb)]の上限は、好ましくは0.99、さらには0.95、0.90、0.85、0.80、0.76、0.74、0.73の順により好ましい。また、質量比[La/(La+Gd+Y+Yb)]の下限は、好ましくは0.3であり、さらには0.35、0.4、0.45、0.46の順により好ましい。
質量比[La/(La+Gd+Y+Yb)]の上限が上記範囲であることにより、熱的安定性、熔融性を良好な状態に維持することができる。また、質量比[La/(La+Gd+Y+Yb)]の下限が上記範囲であることにより、熱的安定性、熔融性を良好な状態に維持することができる。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZnOの含有量の上限は、好ましくは25%であり、さらには22%、20%、18%、17%、16%の順により好ましい。また、ZnOの含有量の下限は、好ましくは5%であり、さらには8%、9%、10%、11%の順により好ましい。
ZnOは、屈折率を維持しつつ、ガラス転移温度Tgを低下させる働きと、ガラスを熔融するときに、ガラスの原料の熔けを促進する働き(すなわち、熔融性を改善する働き)を有するガラス成分である。また、ZnOは、アルカリ土類金属などの他の二価金属成分と比べて、ガラスの熱的安定性を改善し、液相温度を低下させる働きが強い。しかし、ZnOの含有量が多くなると、アッベ数νdが減少し、ガラスが高分散化する傾向を示す。そのため、ガラス転移温度Tgを低下させ、ガラスの熔融性、熱的安定性を改善する観点から、ZnOの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。また、ガラスを低分散化する観点から、ZnOの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、LiOの含有量の上限は、好ましくは4.0%であり、さらには3.0%、2.0%、1.6%、1.2%、0.8%、0.4%の順により好ましい。また、LiOの含有量の下限は、好ましくは0%である。
LiOはガラス転移温度Tgを低下させる作用が強く、低温軟化性を得る上で有用なガラス成分である。また、LiOはガラスの熔融性を改善する働きもする。一方、LiOの含有量が多くなると屈折率ndが低下する傾向がある。そのため、所要の光学特性を維持しつつ、ガラス転移温度Tgを低下させる観点から、LiOの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrOの含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには12%、10%、8%、7%、6%の順により好ましい。また、ZrOの含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%の順により好ましい。
ZrOは、屈折率ndを高めるとともに、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有するガラス成分である。しかし、ZrOの含有量が多くなりすぎると、ガラスの熱的安定性が低下する傾向を示し、ガラス転移温度Tgが上昇する、また、ガラス原料が熔け残りやすくなる。そのため、ガラス転移温度Tgの上昇を抑え、ガラスの熔融性、熱的安定性を良好に維持し、所要の光学特性を実現する観点から、ZrOの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。一方、所要の光学特性を実現しつつ、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、ZrOの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nbの含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには12%、10%、9%、8%、7%、6%の順により好ましい。また、Nbの含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.3%、0.5%、1.0%、1.2%、1.5%、2.0%の順により好ましい。
Nbは、屈折率を高めるとともに、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。また、ガラスの化学的耐久性を改善する働きも有する。Nbは、高屈折率低分散特性を有し、かつガラスの熱的安定性を改善する働きの大きいTaに替わるガラス成分であり、極めて高価でガラスの熔融性を低下させる作用を有するTaの含有量を低減するために、重要なガラス成分である。
Nbの含有量が多くなりすぎると、ガラスの熱的安定性が低下する傾向を示すとともに、アッベ数νdが減少し、ガラスが高分散化する傾向を示す。また、ガラスの着色が強まる傾向がある。そのため、ガラスの熱的安定性を維持する観点から、Nbの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。一方、ガラスの熱的安定性を維持し、ガラスの着色増大を抑える観点から、Nbの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Taの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Taの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Taの含有量は0%であってもよい。
Taは、前述のように、高屈折率低分散特性を有し、かつガラスの熱的安定性を改善する働きを有するガラス成分である。Taは、他のガラス成分と比較し、極めて高価な成分であり、Taの含有量が多くなるとガラスの生産コストが増大する。また、Taは他のガラス成分と比べて分子量が大きいため、ガラスの比重を増大させ、結果的にガラス製光学素子の重量を増大させる。さらに、Taの含有量を増加させると、ガラスの熔融性が低下し、ガラスを熔融するときに、ガラス原料の熔け残りが生じやすくなる。そのため、Taの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスでは、Nb、TiO、WOおよびBiの合計含有量[Nb+TiO+WO+Bi]の上限は、好ましくは15%であり、さらには13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%の順により好ましい。また、合計含有量[Nb+TiO+WO+Bi]の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.3%、0.5%、1%、1.2%、1.5%、2%、3%、4%、5%の順により好ましい。
TiO、WOおよびBiは、Nbとともに、屈折率を高める働きのあるガラス成分であり、適量を含有させることにより、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有する。また、これらガラス成分の含有量を高めると、アッベ数νdが減少する。そのため、これらガラス成分を高屈折率高分散化成分という。アッベ数νdの減少を抑え、ガラスの着色増大を抑える観点から、合計含有量[Nb+TiO+WO+Bi]の上限は上記範囲であることが好ましい。また、屈折率を高く保ちつつ、ガラスの熱的安定性を改善する観点から、合計含有量[Nb+TiO+WO+Bi]の下限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスでは、TiO、WOおよびBiの合計含有量[TiO+WO+Bi]の上限は、好ましくは15%であり、さらには12%、10%、9%、8%、7%、6.5%の順により好ましい。また、合計含有量[TiO+WO+Bi]の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%の順により好ましい。
高屈折率高分散化成分のうち、TiO、WOおよびBiは、Nbと比べ、ガラスの着色を増大させやすい。ガラスの着色の増大を抑制する観点から、合計含有量[TiO+WO+Bi]の上限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、WOの含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%の順により好ましい。また、WOの含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%の順により好ましい。
WOは、高屈折率高分散化成分の中でも、ガラス転移温度Tgを低下させる働きを有する。しかし、WOの含有量が多すぎると、アッベ数νdが減少し、所要の光学特性の実現が困難になる。また、ガラスの着色が増大する。アッベ数νdの減少を抑え、ガラスの着色増大を防ぐ観点から、WOの含有量の上限は上記範囲であることが好ましい。なお、WOの含有量は0%であってもよい。また、WOのガラス転移温度Tg上昇抑制効果を得るため、WOの含有量の下限は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、TiOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、TiOの含有量の0%であってもよい。
TiOは、高屈折率高分散化成分の中でも、比較的ガラスの着色を増大させやすいガラス成分である、また、TiOは、精密プレス成形のときに、プレス成形型の成形面との間で反応して、その結果、プレス成形後のガラスの表面の透明性が低下(白濁)し、また、ガラス表面に微小な気泡を発生させやすい。そのため、着色が少なく、表面品質の良い光学素子を作製する観点から、TiOの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Biの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Biの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Biの含有量の0%であってもよい。
高屈折率高分散化成分のうち、Biは分子量が大きく、ガラスの比重を増大させるとともに、ガラスの着色を増大させるガラス成分であることから、Biの含有量を低減することが好ましい。そのため、Biの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NaOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、NaOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、NaOの含有量の0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、KOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、KOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、KOの含有量の0%であってもよい。
NaOおよびKOは、いずれも、ガラスの熔融性を改善する働きを有するが、これらの含有量が多くなると、屈折率nd、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性が低下する。そのため、NaOおよびKOの各含有量は、それぞれ上記範囲とすることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、LiO、NaOおよびKOの合計含有量[LiO+NaO+KO]の上限は、好ましくは6%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%の順により好ましい。また、合計含有量[LiO+NaO+KO]の下限は、好ましくは0%である。
LiOはガラス転移温度Tgを低下させる作用が強く、低温軟化性を得る上で有用なガラス成分である。また、LiOはガラスの熔融性を改善する働きもする。一方、LiOの含有量が多くなると屈折率ndが低下する傾向がある。また、NaOおよびKOは、いずれも、ガラスの熔融性を改善する働きを有するが、これらの含有量が多くなると、屈折率nd、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性が低下する。そのため、LiO、NaOおよびKOの合計含有量[LiO+NaO+KO]は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、RbOの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、RbOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、RbOの含有量の0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、CsOの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、CsOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、CsOの含有量の0%であってもよい。
RbOおよびCsOは、いずれも、ガラスの熔融性を改善する働きを有するが、これらの含有量が多くなると、屈折率nd、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性が低下する。そのため、RbOおよびCsOの各含有量は、それぞれ上記範囲とすることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、MgOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%の順により好ましい。また、MgOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、MgOの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、CaOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%の順により好ましい。また、CaOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、CaOの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SrOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、SrOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、SrOの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、BaOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、BaOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、BaOの含有量は0%であってもよい。
MgO、CaO、SrO、BaOは、いずれもガラスの熔融性を改善させる働きを有するガラス成分である。しかし、これらガラス成分の含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラスが失透しやすくなる。そのため、これらガラス成分の各含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量[MgO+CaO+SrO+BaO]の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%の順により好ましい。また、合計含有量[MgO+CaO+SrO+BaO]の下限は、好ましくは0%である。なお、合計含有量[MgO+CaO+SrO+BaO]は0%であってもよい。
ガラスの熱的安定性を維持する観点から、合計含有量[MgO+CaO+SrO+BaO]は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B、SiO、Al、La、Gd、Y、ZnO、LiO、ZrOおよびNbの合計含有量[B+SiO+Al+La+Gd+Y+ZnO+LiO+ZrO+Nb]の上限は、好ましくは100%である。また、合計含有量[B+SiO+Al+La+Gd+Y+ZnO+LiO+ZrO+Nb]の下限は、好ましくは79%であり、さらには80%、82%、84%、86%、88%の順により好ましい。
本実施態様において、B、SiOおよびAlはガラスのネットワーク形成成分であり、La、GdおよびYはアッベ数を大幅に減少させることなく屈折率を高めるガラス成分であり、ZnOおよびLiOは屈折率を大幅に低下させることなく、ガラス転移温度Tgを低下させる働きを有するガラス成分であり、また、ZrOおよびNbはガラスの屈折率を高めるとともにガラスの熱的安定性を改善する働きを有するガラス成分である。そのため、合計含有量[B+SiO+Al+La+Gd+Y+ZnO+LiO+ZrO+Nb]は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gaの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Gaの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Gaの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Inの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Inの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Inの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Scの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Scの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Scの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、HfOの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、HfOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、HfOの含有量は0%であってもよい。
Ga、In、Sc、HfOは、いずれも屈折率ndを高める働きを有する。しかし、これらのガラス成分は高価であり、また、発明の目的を達成する上で必要なガラス成分ではない。そのため、Ga、In、Sc、HfOの各含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Luの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Luの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Luの含有量は0%であってもよい。
Luは、屈折率ndを高める働きを有するが、Ybと同様に分子量が大きいことから、ガラスの比重を増加させるガラス成分でもある。そのため、Luの含有量を低減させることが好ましく、Luの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、GeOの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、GeOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、GeOの含有量は0%であってもよい。
GeOは、屈折率ndを高める働きを有するが、一般的に使用されるガラス成分の中で、突出して高価な成分である。したがって、ガラスの製造コストを低減する観点から、GeOの含有量は上記範囲であることが好ましい。
また、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Pの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Pの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Pの含有量は0%であってもよい。
は、屈折率ndを低下させるガラス成分であり、ガラスの熱的安定性を低下させる成分でもある。所要の光学特性を有し、熱的安定性が優れたガラスを作る観点から、Pの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスは、主として上述のガラス成分、すなわちB、SiO、Al、La、Gd、Y、Yb、LaF、GdF、YF、YbF、ZnO、LiO、ZrO、Nb、Ta、WO、TiO、Bi、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、Ga、In、Sc、HfO、Lu、Yb、GeOおよびPで構成されていることが好ましく、上述のガラス成分の合計含有量は、95%よりも多くすることが好ましく、98%よりも多くすることがより好ましく、99%よりも多くすることがさらに好ましく、99.5%よりも多くすることが一層好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TeOの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、TeOの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、TeOの含有量は0%であってもよい。
TeOは、屈折率ndを高める成分であるが、毒性を有することから、TeOの含有量を低減させることが好ましい。そのため、TeOの含有量は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ガラス成分としてハロゲン化物を含有する場合は、例えば、LaF、GdF、YF、YbFのように、カチオンとハロゲンイオン(アニオン)との化合物として含有する。
熔融ガラスに導入されたハロゲン化物のハロゲンイオンの一部は、同じくアニオンであり、熔融ガラスに多く溶存している酸素イオンと置換される。酸素イオンに置換されたF、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンは、いずれも気体となって熔融ガラスから揮発する。ハロゲンの揮発によって、ガラスの特性が変動する、ガラスの均質性が低下する、熔融設備の消耗が著しくなる等の問題が生じる。したがって、ハロゲン化物を含有する場合であっても、含有量を少なくすることが好ましい。
上記理由より、ガラス成分としてハロゲン化物を含有する場合であっても、全ガラス成分における酸化物の割合(質量比)が95質量%以下にならないよう、ハロゲン化物の含有量を少量に留めることが好ましい。
すなわち、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、全ガラス成分における酸化物の含有量は95質量%よりも多くすることが好ましい。さらには、全ガラス成分における酸化物の含有量の下限は97質量%、99質量%、99.5質量%、99.9質量%、99.95質量%、99.99質量%の順により好ましく、全ガラス成分における酸化物の含有量は100質量%であってもよい。全ガラス成分における酸化物の含有量が100質量%であるガラスは、実質的にハロゲン化物を含まない。
なお、本実施形態の光学ガラスは、基本的に上記ガラス成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有することも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
<その他の成分組成>
Pb、As、Cd、Tl、Be、Seは、いずれも毒性を有する。そのため、本実施形態の光学ガラスがこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
U、Th、Raはいずれも放射性元素である。そのため、本実施形態の光学ガラスがこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr,Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ceは、ガラスの着色を増大させ、蛍光の発生源となり得る。そのため、本実施形態の光学ガラスがこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
Sb(Sb)、Sn(SnO)、Ce(CeO)は清澄剤として機能する任意に添加可能な元素である。このうち、Sb(Sb)は、清澄効果の大きな清澄剤である。しかし、Sb(Sb)は酸化性が強く、Sb(Sb)の添加量を多くしていくと、精密プレス成形のときに、ガラスに含まれるSb(Sb)がプレス成形型の成形面を酸化する。そのため、精密プレス成形を重ねるうちに、成形面が著しく劣化し、精密プレス成形ができなくなる。また、成形した光学素子の表面品質が低下する。Sn(SnO)、Ce(CeO)は、Sb(Sb)と比較し、清澄効果が小さい。Ce(CeO)は、多量に添加するとガラスの着色が強まる。したがって、清澄剤を添加する場合は、添加量に注意しつつ、Sb(Sb)を添加することが好ましい。
Sbの含有量は、外割り表示とする。すなわち、Sb、SnOおよびCeO以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのSbの含有量は、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、さらに好ましくは0.1質量%未満の範囲である。Sbの含有量は0質量%であってもよい。
SnOの含有量も、外割り表示とする。すなわち、SnO、SbおよびCeO以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのSnOの含有量は、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、一層好ましくは0.1質量%未満の範囲である。SnOの含有量は0質量%であってもよい。SnOの含有量を上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
CeOの含有量も、外割り表示とする。すなわち、CeO、Sb、SnO以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのCeOの含有量は、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、一層好ましくは0.1質量%未満の範囲である。CeOの含有量は0質量%であってもよい。CeOの含有量を上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
本発明の実施態様に係る光学ガラスは、屈折率ndおよびアッベ数νdが大きく、均質であり、着色が少なく、ガラス転移温度Tgが低いので、精密プレス成形用光学ガラスとして好適である。
本発明の実施形態に係る光学ガラスのガラス組成は、例えば、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)、あるいは、適宜、イオンクロマトグラフィ−、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry)などの方法により定量することができる。ICP−AESにより求められる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。また、本明細書および本発明において、ガラスの構成成分の含有量が0%または含まないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。
(ガラス特性)
<ガラス転移温度Tg>
本実施形態に係る光学ガラスのガラス転移温度Tgの上限は、好ましくは630℃であり、さらには625℃、620℃、615℃、610℃、605℃、600℃の順により好ましい。また、ガラス転移温度Tgの下限は、好ましくは570℃である。
ガラス転移温度Tgの上限が上記範囲を満たすことにより、精密プレス成形のときにガラスやプレス成形型の温度を過剰に高くしなくても、高精度のプレス成形が可能になる。その結果プレス成形型の消耗を低減することができ、プレス成形型の寿命を延ばすことができる。また、ガラス転移温度Tgを低下させることにより、精密プレス成形のときのガラスとプレス成形型の成形面との反応を抑制することができ、プレス成形により得られる光学素子の表面の形状精度を高くし、表面の透明性を高めることができる。
<ガラスの光線透過性>
本実施形態において、光線透過性は、着色度λ5、λ80により評価できる。
互いに平行であり、光学研磨されている2つの平面を有するガラス(厚さ10.0mm±0.1mm)を用い、上記2つの平面のうち、一方の平面より、この平面に垂直に光線を入射させる。そして、他方の平面から出射した透過光の強度Ioutと入射光の強度Iinの比(Iout/Iin)、すなわち、外部透過率を算出する。分光光度計を用いて、入射光の波長を例えば280〜700nmの範囲でスキャンしながら、外部透過率を測定することにより、分光透過率曲線を得る。
外部透過率は、入射光の波長がガラスの短波長側の吸収端から長波長側にいくにつれて増加し、高い値を示す。
λ5は、外部透過率が5%となる波長、λ80は外部透過率が80%になる波長である。280〜700nmの波長域において、λ5よりも長波長側においてガラスの外部透過率は5%より大きい値を示す。また、上記波長域において、λ80よりも長波長側においてガラスの外部透過率は80%より大きい値を示す。
λ80が短波長化された光学ガラスを用いることで、好適な色再現を可能とする光学素子を提供できる。また、λ5が短波長化された光学ガラスを用いることで、作製した光学素子を、紫外線硬化型接着剤を用いて接着する際に、ガラスの紫外光の透過量(接着剤の硬化に必要な量)を十分に確保でき、接着強度を高めることができ、さらには、紫外光の照射時間を短縮することができる。
このような理由より、λ80の範囲は450nm以下が好ましく、より好ましくは445nm以下、さらに好ましくは440nm以下である。λ80の下限の目安は、370nmである。また、λ5の範囲は360nm以下が好ましく、より好ましくは350nm以下である。λ5の下限の目安は、200nmである。
<ガラスの比重>
本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率低分散ガラスでありながら、比重が大きくない。通常、ガラスの比重を低減することができれば、レンズの重量を減少できる。その結果、レンズを搭載するカメラレンズのオートフォーカス駆動の消費電力を低減できる。一方、比重を減少させすぎると、屈折率ndの低下や、熱的安定性の低下を招く。そのため、比重dの上限は、好ましくは5.20であり、さらには5.10、5.08、5.05の順により好ましい。また、屈折率を高め、熱的安定性を改善する観点から、比重dの下限は、好ましくは4.2であり、さらには4.3、4.4、4.5の順により好ましい。
<液相温度>
本実施形態に係る光学ガラスの液相温度の上限は、好ましくは1200℃であり、さらには1180℃、1170℃、1160℃、1150℃の順により好ましい。また、液相温度の下限は、好ましくは970℃であり、さらには980℃、1000℃、1030℃、1050℃の順により好ましい。本実施形態に係る光学ガラスによれば、ガラスの熱的安定性が改善されているので、Taの含有量を削減しつつ、ガラス転移温度Tgの低い、高屈折率低分散ガラスが得られる。
(光学ガラスの製造)
本発明の実施形態に係る光学ガラスは、上記所定の組成となるようにガラス原料を調合し、調合したガラス原料を公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。例えば、複数種の化合物を調合し、十分混合してバッチ原料とし、バッチ原料を白金坩堝中に入れて粗熔解(ラフメルト)する。粗熔解によって得られた熔融物を急冷、粉砕してカレットを作製する。さらにカレットを白金坩堝中に入れて加熱、再熔融(リメルト)して熔融ガラスとし、さらに清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷して光学ガラスを得る。熔融ガラスの成形、徐冷には、公知の方法を適用すればよい。
なお、ガラス中に所望のガラス成分を所望の含有量となるように導入することができれば、バッチ原料を調合するときに使用する化合物は特に限定されないが、このような化合物として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、フッ化物等が挙げられる。
(光学素子等の製造)
本発明の実施形態に係る光学ガラスを使用して光学素子を作製するには、公知の方法を適用すればよい。例えば、ガラス原料を熔融して熔融ガラスとし、この熔融ガラスを鋳型に流し込んで板状に成形し、本発明に係る光学ガラスからなるガラス素材を作製する。そして、この板状のガラス素材を所定体積に細分化し、ガラス表面を研磨して精密プレス成形用ガラス素材(精密プレス成形用プリフォーム)を作製する。
あるいは、熔融ガラスを滴下し、滴下した熔融ガラス滴を成形して精密プレス成形用ガラス素材(精密プレス成形用プリフォーム)を作製する。
次に、これら精密プレス成形用プリフォームを加熱、精密プレス成形して光学素子を作製する。精密プレス成形後、必要に応じて芯取りなどの加工を行ってもよい。
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
光学素子としては、非球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイなどの各種レンズ、回折格子などが例示できる。
第2実施形態
(カチオン%表示の組成)
本実施形態(第2実施形態)では、本発明の第2の観点として、カチオン%表示での各成分の含有量に基づいて、本発明に係る光学ガラスを説明する。したがって、以下、各含有量は特記しない限り、カチオン%にて表示する。
また、本明細書において、カチオン%表示とは、カチオンで表される各ガラス成分について、全てのカチオン成分の合計含有量を100%としたときの各ガラス成分の含有量をモル百分率により表示することをいう。また、合計含有量とは、複数種のカチオン成分の含有量(含有量が0%である場合も含む)の合計量をいう。また、カチオン比とは、カチオン%表示において、カチオン成分同士の含有量(複数種のカチオン成分の合計含有量も含む)の割合(比)をいう。
また、カチオン成分の価数(例えばB3+の価数は+3、Si4+の価数は+4、La3+の価数は+3、Nb5+の価数は+5、Ti4+の価数は+4、W6+の価数は+6)は、本発明が属する技術分野において慣習により定まった値である。当該技術分野において、ガラス成分B、Si、La、Nb、Ti、Wを酸化物で表記する際、B、SiO、La、Nb、TiO、WOと表記するのも当該技術分野において慣習により定まった表記法である。したがって、ガラス組成を分析する際、カチオン成分の価数まで分析しなくてもよい。また、アニオン成分の価数(例えばO2-の価数がー2)もカチオン成分の価数と同様、慣習により定まった値であり、上記のようにガラス成分を、例えば酸化物B、SiO、Laと表記するのと同様である。したがって、ガラス組成を分析する際、アニオン成分の価数まで分析しなくてもよい。
なお、第2実施形態における各ガラス成分の作用、効果は、第1実施形態における各ガラス成分の作用、効果と同様であるから、以下、第1実施形態に関する説明と重複する事項については、各成分の含有量、合計含有量、カチオン比の数値範囲(好ましい範囲を含む)を中心に説明し、上記重複事項については適宜、省略する。
本実施態様の光学ガラスは、
NWF2に対するRE2の比[RE2/NWF2]が0.35以上、
RE2に対するHR2の比[HR2/RE2]が0.33以下、
Nb5+とTa5+の含有量の合計に対するNb5+の含有量のカチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]が3/4以上、
D2に対するRE2の比[RE2/D2]が0.90以上、
NWF2とRE2の合計に対するL2の比[L2/(NWF2+RE2)]が0.78以上、
である酸化物ガラスであり、
アッベ数νdが39.0以上45.0以下、上記アッベ数νdに対し、屈折率ndが下記(1)式を満たす光学ガラスである:
nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
但し、
NWF2は、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量、
RE2は、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量、
HR2は、Nb5+、Ti4+、W6+およびBi3+の合計含有量、
D2=(Li+Na+K)×6+Zn2+
L2=(10×Li)+(8×Na)+(4×K)+(4×Zn)+Mg2++(2×Ca2+)+(2×Sr2+)+(2×Ba2+)+B3++Nb5++Ti4++4×W6++(4×Bi3+)+Ta5+−(2×Si4+)−Al3+−(2×Zr4+)−La3+−Gd3+−Y3+−Yb3+
であり、上記各成分の含有量はカチオン%表示による値である。
なお、上記式中で、B3+、Si4+、Al3+、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+、Nb5+、Ti4+、W6+、Bi3+、Li、Na、K、Zn、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ta5+、Zr4+およびLa3+と表される各成分の含有量は、カチオン%表示における各成分の含有量である。また、L2、D2は、本発明の光学ガラスにおける特定のガラス成分の含有量に関する指標であり、数値のみにより表示され、カチオン%あるいは%を付けて表示しない。以下の記載についても同様である。
以下、本実施形態に係る光学ガラスについて詳しく説明する。
本実施形態に係る光学ガラスは、アッベ数νdが39.0以上45.0以下であり、屈折率ndと上記のアッベ数νdとは、下記(1)式を満たす。
nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、アッベ数νdは39.0以上45.0以下であり、アッベ数νdの下限は好ましくは39.5、より好ましくは40.0、さらに好ましくは40.5である。アッベ数νdの上限は好ましくは44.5、より好ましくは44.0、さらに好ましくは43.5である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、上記NWF2、RE2、HR2は、ガラス100gあたりに含まれる特定カチオンのカチオン%表示での合計含有量を意味する。
<RE2/NWF2>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NWF2は、ネットワーク形成成分であるB3+、Si4+およびAl3+の各含有量をカチオン%で表示したときの合計含有量(NWF2=B3++Si4++Al3+)である。
また、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、RE2は、高屈折率低分散化成分であるLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の各含有量をカチオン%で表示したときの合計含有量(RE2=La3++Gd3++Y3++Yb3+)である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NWF2に対するRE2の割合:カチオン比[RE2/NWF2]は0.35以上である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、カチオン比[RE2/NWF2]の下限は、好ましくは0.40である。また、カチオン比[RE2/NWF2]の上限は、好ましくは0.55である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NWF2の上限は、好ましくは0.74であり、より好ましくは0.72であり、さらに好ましくは0.70であり、一層好ましくは0.69である。また、NWF2の下限は、好ましくは0.45であり、より好ましくは0.48であり、さらに好ましくは0.50であり、一層好ましくは0.51である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、RE2の上限は、好ましくは31であり、より好ましくは29であり、さらに好ましくは28であり、一層好ましくは27である。また、RE2の下限は、好ましくは19であり、より好ましくは21であり、さらに好ましくは22であり、一層好ましくは23である。
<HR2/RE2>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、HR2は、高屈折率高分散化成分であるNb5+、Ti4+、W6+およびBi3+の各含有量をカチオン%で表示したときの合計含有量(HR2=Nb5++Ti4++W6++Bi3+)である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、RE2に対するHR2の割合:カチオン比[HR2/RE2]は0.33以下である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、カチオン比[HR2/RE2]の上限は、好ましくは0.32であり、さらには0.31、0.30、0.29、0.28、0.27、0.25の順により好ましい。また、カチオン比[HR2/RE2]の下限は、好ましくは0.04であり、さらには0.08、0.10、0.11、0.13、0.15、0.16の順により好ましい。
所要の屈折率、アッベ数を実現し、精密プレス成形に好適な光学ガラスを提供する観点から、カチオン比[HR2/RE2]は上記範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、HR2の上限は、好ましくは9であり、さらには8.0、7.5、7.0、6.5、6.0の順により好ましい。また、HR2の下限は、好ましくは1であり、さらには2.0、2.5、3.0、3.5、4.0の順により好ましい。
<Nb5+/(Nb5++Ta5+)>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb5+およびTa5+の合計含有量に対するNb5+の含有量の割合:カチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]は、3/4以上である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、カチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]の下限は、好ましくは0.76であり、さらには0.78、0.80、0.85、0.90、0.95、0.97、0.99、1の順により好ましい。また、カチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]の上限は、好ましくは1である。なお、カチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]は1であってもよい。
<RE2/D2>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、D2は、より揮発しやすいLi、NaおよびKの各含有量をカチオン%で表示したときの値に6を乗じた値と、揮発しやすいZn2+の含有量をカチオン%で表示したときの値との合計値(D2=(Li×6)+(Na×6)+(K×6)+Zn2+)である。すなわち、D2は、
D2=(Li+Na+K)×6+Zn2+
と表すことができる。D2は、本発明の光学ガラスにおける揮発性成分の含有量に関する指標であり、数値のみによって表示される。
D2はガラスを熔融するときの揮発を助長する因子を数値化したものであり、RE2は、ガラスを熔融するときの揮発を抑制する因子を数値化したものである。すなわち、比[RE2/D2]はガラス融液の揮発性を表す指標となる。
よって、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE2/D2]は0.90以上である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[RE2/D2]の下限は、好ましくは0.95であり、さらには1.00、1.05、1.10、1.15、1.20の順でより好ましい。また、比[RE2/D2]の上限は、好ましくは5であり、さらには4、3、2.7、2.5、2.4の順でより好ましい。
比[RE2/D2]を0.90以上とすることにより、熔融ガラス、すなわち、ガラス融液の揮発を抑制することができる。その結果、所要の特性を有する光学ガラスを安定して生産することができる。また、ガラスの均質性を高く保つこともできる。一方、比[RE2/D2]の上限を5とすることにより、ガラスの熔融性を改善するとともに、ガラス転移温度Tgの上昇を抑制し、精密プレス成形により高品質なガラス製の光学素子を安定して製造することができる。
<L2/(NWF2+RE2)>
ガラス成分を、ガラス転移温度Tgを相対的に低下させる働きを有する成分と、相対的に上昇させる働きを有する成分に大別する。ガラス転移温度Tgを相対的に低下させる働きを有する成分は、主にLi、Na、K、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、B3+、Nb5+、Ti4+、W6+、Bi3+、Ta5+である。一方、上記ガラス成分に対し、相対的にガラス転移温度Tgを上昇させる働きを有する成分は、主に、Si4+、Al3+、Zr4+、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+である。
本件発明者らの検討の結果、上記成分の各含有量をカチオン%で表示したときの値に、それぞれ各成分のガラス転移温度Tgへの影響度を係数として乗じた値の合計値をL2とした場合に、NWF2およびRE2の合計値とL2との比[L2/(NWF2+RE2)]とガラス転移温度Tgとの間に相関関係があることがわかった。なお、カチオン比を基準にした上記成分のガラス転移温度Tgへの影響度を示す係数を表4に示す。
Figure 2016172670
このようなL2は、L2=(10×Li)+(8×Na)+(4×K)+(4×Zn)+(1×Mg2+)+(2×Ca2+)+(2×Sr2+)+(2×Ba2+)+(1×B3+)+(1×Nb5+)+(1×Ti4+)+(4×W6+)+(4×Bi3+)+(1×Ta5+)+(−2×Si4+)+(−1×Al3+)+(−2×Zr4+)+(−1×La3+)+(−1×Gd3+)+(−1×Y3+)+(−1×Yb3+
と表すことができる。すなわち、L2は、
L2=(10×Li)+(8×Na)+(4×K)+(4×Zn)+Mg2++(2×Ca2+)+(2×Sr2+)+(2×Ba2+)+B3++Nb5++Ti4++4×W6++(4×Bi3+)+Ta5+−(2×Si4+)−Al3+−(2×Zr4+)−La3+−Gd3+−Y3+−Yb3+
と表すことができる。
図2は、ガラス成分のうちネットワーク形成成分の合計含有量NWF2と希土類イオンの合計含有量RE2との合計値に対するL2の比[L2/(NWF2+RE2)]を横軸、ガラス転移温度Tgを縦軸にとり、公知のガラスについて、比[L2/(NWF2+RE2)]とガラス転移温度Tgをプロットしたグラフである。図2より明らかであるように、プロットはほぼ直線上に分布し、比[L2/(NWF2+RE2)]とガラス転移温度Tgとは、相関関係にあることがわかる。
すなわち、比[L2/(NWF2+RE2)]の増加に伴いガラス転移温度Tgは低下し、比[L2/(NWF2+RE2)]の減少に伴いガラス転移温度Tgは上昇する。
このように、比[L2/(NWF2+RE2)]を増加させることにより、ガラス転移温度Tgを低下させ、精密プレス成形に好適なガラス、すなわち、低温軟化性を有するガラスを提供することができる。また、比[L2/(NWF2+RE2)]を増加させることにより、ガラスの熔融性が改善する。すなわち、ガラス原料が熔け残らず、均質なガラスを提供することができる。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[L2/(NWF2+RE2)]は0.78以上である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比[L2/(NWF2+RE2)]の下限は、好ましくは0.80であり、さらには0.85、0.90、0.95、1.00、1.05の順により好ましい。
精密プレス成形に好適な低温軟化性を得るとともに、ガラスの熔融性を改善する観点から、比[L1/(NWF1+RE1)]の下限は上記範囲であることが好ましい。
<ガラス組成>
以下、ガラス組成について、詳しく説明する。なお、特記しない限り、各種ガラス構成成分(ガラス成分)の含有量等については、カチオン%またはアニオン%にて表示する。本実施態様の光学ガラスは、酸化物ガラスであり、カチオン成分の含有比率(含有量)を特定することにより、ガラス組成を特定できる。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B3+の含有量の上限は、好ましくは65%であり、さらには62%、60%、57%、56%、55%の順により好ましい。また、B3+の含有量の下限は、好ましくは40%であり、さらには43%、45%、46%、47%、48%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Si4+の含有量の上限は、好ましくは10%、さらには8%、7%、6%、5%の順により好ましい。また、Si4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Si4+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Al3+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Al3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Al3+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量[B3++Si4++Al3+]の上限は、好ましくは62であり、さらには60、58、56、55の順により好ましい。合計含有量[B3++Si4++Al3+]の下限は、好ましくは40であり、さらには43、45、46、48の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量[B3++Si4++Al3+]に対するB3+の含有量の割合:カチオン比[B3+/(B3++Si4++Al3+)]の上限は、好ましくは1である。また、カチオン比[B3+/(B3++Si4++Al3+)]の下限は、好ましくは0.70であり、さらには0.75、0.80、0.85、0.88、0.90の順により好ましい。なお、カチオン比[B3+/(B3++Si4++Al3+)]は1であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量[La3++Gd3++Y3++Yb3+]の上限は、好ましくは35%であり、さらには30%、28%、27%の順により好ましい。また、合計含有量[La3++Gd3++Y3++Yb3+]の下限は、好ましくは16%であり、さらには18%、20%、21%、22%、23%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La3+の含有量の上限は、好ましくは27%であり、さらには25%、23%、22%、21%、20%、19%の順により好ましい。また、La3+の含有量の下限は、好ましくは5%であり、さらには8%、9%、10%、11%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gd3+の含有量の上限は、好ましくは22%であり、さらには20%、18%、15%、14%、13%の順により好ましい。また、Gd3+の含有量の下限は、好ましくは1%であり、さらには2%、3%、4%、5%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Y3+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには12%、10%、8%、5%、4%、3%の順により好ましい。また、Y3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Yb3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、0.01%の順により好ましい。また、Yb3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Yb3+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスでは、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量[La3++Gd3++Y3++Yb3+]に対するLa3+の含有量の割合:カチオン比[La3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)]の上限は、好ましくは0.99であり、さらには0.97、0.95、0.93、0.90、0.85、0.80、0.77、0.76、0.75の順により好ましい。また、カチオン比[La3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)]の下限は、好ましくは0.3であり、さらには0.4、0.45、0.46、0.47、0.48の順により好ましい。カチオン比[La3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)]が上記範囲であることより、熱的安定性および熔融性を改善できる。
本実施形態に係る光学ガラスでは、B3+およびSi4+およびAl3+の合計含有量[B3++Si4++Al3+]に対するLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量[La3++Gd3++Y3++Yb3+]の割合:カチオン比[(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(B3++Si4++Al3+)]の上限は、好ましくは0.80であり、さらには0.70、0.60、0.55、0.52、0.51の順により好ましい。また、カチオン比[(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(B3++Si4++Al3+)]の下限は、好ましくは0.35であり、さらには0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Zn2+の含有量の上限は、好ましくは25%であり、さらには22%、20%、18%、17%、16%、15%の順により好ましい。また、Zn2+の含有量の下限は、好ましくは5%であり、さらには8%、9%、10%、11%、12%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Zr4+の含有量の上限は、好ましくは9%であり、さらには8%、7%、6%、5%、4.5%、4%の順により好ましい。また、Zr4+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb5+の含有量の上限は、好ましくは9%であり、さらには8%、7%、6%、5%、4.5%、4%の順により好ましい。また、Nb5+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.2%、0.3%、0.5%、1%、2%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ta5+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Ta5+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ta5+の含有量の0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb5+、Ti4+、W6+およびBi3+の合計含有量[Nb5++Ti4++W6++Bi3+]の上限は、好ましくは10%であり、さらには9.0%、8.0%、7.0%、6.5%、6.0%の順により好ましい。また、合計含有量[Nb5++Ti4++W6++Bi3+]の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.2%、0.3%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ti4+、W6+およびBi3+の合計含有量[Ti4++W6++Bi3+]の上限は、好ましくは6%であり、さらには5.5%、5%、4.5%、4%の順により好ましい。また、合計含有量[Ti4++W6++Bi3+]の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.05%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%の順により好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、W6+の含有量の上限は、好ましくは6%であり、さらには5%、4%の順により好ましい。また、W6+の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.1%、0.5%、0.8%、1%、1.5%の順により好ましい。なお、W6+の含有量の0%であってもよい。また、W6+のガラス転移温度Tg上昇抑制効果を得るため、W6+の含有量を0.5%以上としてもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ti4+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Ti4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ti4+の含有量の0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Bi3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Bi3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Bi3+の含有量の0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Liの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには8%、6%、5%、4%、3%、2.5%の順により好ましい。また、Liの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Liの含有量は0であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Naの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Naの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Naの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Kの含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Kの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Kの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li、NaおよびKの合計含有量[Li+Na+K]の上限は、好ましくは10%であり、さらには8%、6%、5%、4%、3.5%、3%の順により好ましい。また、合計含有量[Li+Na+K]の下限は、好ましくは0%である。なお、合計含有量[Li+Na+K]は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Rbの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Rbの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Rbの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Csの含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Csの含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Csの含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Mg2+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Mg2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Mg2+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ca2+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Ca2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ca2+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Sr2+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Sr2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Sr2+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ba2+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、Ba2+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ba2+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量[Mg2++Ca2++Sr2++Ba2+]の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、4%、3%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%の順により好ましい。また、合計含有量[Mg2++Ca2++Sr2++Ba2+]の下限は、好ましくは0%である。なお、合計含有量[Mg2++Ca2++Sr2++Ba2+]は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ga3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Ga3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ga3+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、In3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、In3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、In3+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Sc3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Sc3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Sc3+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Hf4+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Hf4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Hf4+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Lu3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Lu3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Lu3+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ge4+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順により好ましい。また、Ge4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Ge4+の含有量は0%であってもよい。
また、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、P5+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%の順に好ましい。また、P5+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、P5+の含有量は0%であってもよい。
本実施形態に係る光学ガラスのカチオン成分は、主として上述の成分、すなわちB3+、Si4+、Al3+、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+、Zn2+、Zr4+、Nb5+、Ta5+、W6+、Ti4+、Bi3+、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ga3+、In3+、Sc3+、Hf4+、Lu3+、Ge4+およびP5+で構成されていることが好ましく、上述の成分の合計含有量は、95%よりも多くすることが好ましく、98%よりも多くすることがより好ましく、99%よりも多くすることがさらに好ましく、99.5%よりも多くすることが一層好ましい。
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Te4+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2.5%、2%、1.5%、1%、0.5%、0.1%、0.05%順により好ましい。また、Te4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。なお、Te4+の含有量は0%であってもよい。
本発明のガラスは、酸化物ガラスであり、アニオン成分における主成分はO2−である。アニオン成分であるO2−の含有量は、95アニオン%を超え100アニオン%以下範囲であることが好ましく、より好ましくは97アニオン%を超え100アニオン%以下、さらに好ましくは99アニオン%を超え100アニオン%以下、特に好ましくは99.5アニオン%を超え100アニオン%以下、一層好ましくは99.9アニオン%を超え100アニオン%以下、より一層好ましくは100アニオン%である。
本発明のガラスは、O2−以外のアニオン成分を含んでいてもよい。O2−以外のアニオン成分として、F、Cl、Br、Iを例示できる。しかし、F、Cl、Br、Iは、いずれもガラスの熔融中に揮発しやすい。これらの成分の揮発によって、ガラスの特性が変動する、ガラスの均質性が低下する、熔融設備の消耗が著しくなる等の問題が生じる。したがって、F、Cl、BrおよびIの含有量の合計は、5アニオン%未満であることが好ましく、より好ましくは3アニオン%未満、さらに好ましくは1アニオン%未満、特に好ましくは0.5アニオン%未満、一層好ましくは0.1アニオン%未満、より一層好ましくは0アニオン%である。
なお、アニオン%とは、全てのアニオン成分の含有量の合計を100%としたときのモル百分率である。
本実施形態の光学ガラスは、基本的に上記成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有させることも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
第2実施形態におけるその他の成分組成は、第1実施形態と同様とすることができる。また、第2実施形態におけるガラス特性、光学ガラスの製造および光学素子等の製造についても、第1実施形態と同様とすることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
また、本明細書において、光学ガラスのガラス組成を質量%およびカチオン%表示にて説明しているが、各表示方法は、例えば後述するような換算方法により、相互に表示方法を変更できる。
ガラス組成の定量分析の結果、ガラス成分が酸化物基準で表され、ガラス成分の含有量が質量%表示されることがある。このような組成の表示は、例えば次のような方法で、カチオン%、アニオン%表示に換算できる。
カチオンAと酸素からなる酸化物はAと表記される。mとnはそれぞれ化学量論的に定まる整数である。例えば、B3+では酸化物基準による表記がBとなり、m=2、n=3となり、Si4+ではSiOとなり、m=1、n=2となる。
まず、質量%表示におけるAの含有量をAの分子量で割り、さらにmを乗じる。この値をPとする。そして、全てのガラス成分についてPを合計する。Pを合計した値をΣPとすると、ΣPが100%になるように各ガラス成分のPの値を規格した値が、カチオン%表示におけるAs+の含有量となる。ここで、sは2n/mである。
カチオン%により表示される各成分の含有量から、質量%により表示される各成分の含有量を算出するには、上記手順と逆の手順を踏めばよい。
なお、少量、清澄剤として添加可能なSb、SnO、CeOについては、ΣPの中に含めない。そして、Sb、SnO、CeOの各含有量は外割りの含有量とする。外割りの含有量については、前述のとおりである。
上記の分子量については、先に説明したとおりである。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表5A〜7Aおよび表5B〜7Bに、本発明の実施例に係る光学ガラス(試料1〜23)のガラス組成とその特性値を示す。
ここで、表5A〜7Aは質量%表示にて、表5B〜7Bはカチオン%表示にて、試料1〜23のガラス組成を表示している。すなわち、表5A〜7Aと表5B〜7Bとでは、ガラス組成の表示方法は異なるが、同じ試料番号の光学ガラスは、同じ組成を有する同じ光学ガラスを意味している。したがって、表5A〜7Aおよび表5B〜7Bは、実質的に同じ光学ガラスとその結果を示している。後述する表8A、8B、および表9A、9Bについても同様である。
なお、表5B〜9Bについては、カチオン%表示にてガラス組成を表示しているが、いずれもアニオン成分の全量がO2−である。すなわち、表5B〜9Bに記載されている組成は、いずれもO2−の含有量が100アニオン%である。
また、表5A〜9Aにおける質量%表示の組成は、表5B〜9Bにおけるカチオン%表示の組成を変換したものである。
以下の手順で作製された光学ガラスについて、各種評価が行った。結果を表5A〜7Aおよび表5B〜7Bに示す。
<光学ガラスの熔解・成形>
ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られる光学ガラスのガラス組成が、別表に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合して調合原料とした。得られた調合原料(バッチ原料)を、白金坩堝に入れ、1250〜1350℃の範囲内に設定された電気炉内に坩堝ごと入れて、120〜180分間熔融しながら、攪拌して均質化および脱泡(清澄)を図った。その後、熔融ガラスの入った白金坩堝を電気炉から取り出し、白金坩堝を傾けて熔融ガラスを予熱された金型に鋳込んだ。金型の予熱は、ガラス転移温度Tg付近に温度設定された電気炉の中に金型を5〜10分置くことにより行い、熔融ガラスを鋳込む際には金型を電気炉から取り出して使用した。鋳込んだガラスの形状が崩れないよう、ガラスを鋳型の中で数秒〜数十秒静置した後、鋳型ごとガラスを直ちに徐冷炉内に移し、ガラス転移温度Tg付近に設定された徐冷炉内で約1時間アニールし、その後、室温まで徐冷して各光学ガラスを得た。なお、試料調製は全て大気雰囲気で行った。
得られたガラスには、原料の熔け残り、結晶の析出、泡などの異物は認められず、均質性の高い光学ガラスであることを確認した。
<光学ガラスの評価>
得られた各光学ガラスの屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg、λ80、λ5、比重を測定した。
屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg、比重、着色度λ5、λ80、液相温度を次に示す方法で測定した。
(1)ガラス組成の確認
上記のようにして得られた各光学ガラスを適量採取し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES法)を用いて、各成分の含有量を定量することで測定し、表5A〜7Aおよび表5B〜7Bに示す各試料の酸化物組成と一致していることを確認した。
(2)屈折率nd、アッベ数νd
日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、室温まで徐冷された光学ガラスを、十分にアニールできるような試料の形状(例えば40mm×40mm角以下であり、厚みが25mm以下)であって、後述するプリズムを作製するのに十分な大きさのガラスが得られるように切断した。そして、ガラスの温度が昇温に追従できる昇温速度(例えば40〜50℃/時)でガラス転移温度Tg〜Tg+30℃の間の温度にまで昇温し、90分〜180分間保持してガラス中の歪を除去した。次に、ガラスを降温速度−30℃/時間×4時間の条件で徐冷し、その後放冷することにより光学ガラスを得た。得られた光学ガラスを加工してプリズムを作製し、島津デバイス製造社製精密分光計GMR−1(商品名)により屈折率nd、nF、ncを測定した。また、屈折率nd、nF、ncの各測定値を用いて、アッベ数νdを算出した。
(3)ガラス転移温度Tg
株式会社リガク製の熱機械分析装置を用いて、昇温速度を4℃/分にして測定した。
(4)比重
アルキメデス法により測定した。
(5)着色度λ5、λ80
厚さ10mm±0.1mmのガラスを試料とし、分光光度計を使用して分光透過率を測定した。分光透過率よりλ5、λ80を算出した。
(6)液相温度
ガラス5cc(5ml)ほどを白金製坩堝中に入れ、1250℃〜1350℃で15分加熱後、ガラス転移温度Tg以下に冷却した。冷却したガラスを所定温度の炉内に移動して2時間保持後、結晶の析出が認められない最低温度を液相温度と定義した。結晶析出の有無は倍率100倍の光学顕微鏡を用いて目視により行った。
Figure 2016172670
Figure 2016172670
Figure 2016172670
Figure 2016172670
Figure 2016172670
Figure 2016172670
(実施例2)
実施例1で得られた各種光学ガラスを使用し、精密プレス成形用プリフォームを作製した。プリフォームの作製法は公知の方法を用いた。
このプリフォームを窒素雰囲気中で加熱、軟化し、プレス成形型で精密プレス成形し、ガラスを非球面レンズ形状にした。成形したガラスをプレス成形型から取り出し、アニールし、実施例1で作製した各種光学ガラスからなる非球面レンズを作製した。
このようにして作製した非球面レンズの表面には白濁(透明性の低下)、泡、傷などの欠陥は認められなかった。
(比較例1)
特許文献6(特開2009−203083)の実施例1、4、14、19、21の5組成(試料24〜28)について、これら組成を有するガラスが得られるように原料を調合し、白金製坩堝中に入れて、1300℃で2時間かけて熔融した。なお、熔融物の質量は200gである。
表8Aおよび表8Bに、試料24〜28のガラス組成とその特性値を示す。試料24〜28の組成は、Nbを含まないため、いずれも失透(結晶が析出)した。
Figure 2016172670
Figure 2016172670
(比較例2)
特許文献3(特開2002−12443)の実施例2、特許文献7(特表2009−537427)の実施例4、8、15のガラス(試料29〜32)を再現した。表9Aおよび表9Bに、試料29〜32のガラス組成とその特性値を示す。試料29〜32の組成は、いずれも、揮発性の指標である比RE1/D1、比RE2/D2が小さく、熔融状態のガラスからの揮発量が多くなる。
Figure 2016172670
Figure 2016172670
試料29〜32のガラスからなる試料(約50mg)を1200℃で1時間熔融し、熔融前後の質量を測定し、質量減少量と質量減少率を求めた。試料29〜32の熔融前の質量、熔融による質量減少量および質量減少率を表10に示す。試料の熔融による質量減少は、熔融ガラスの揮発によるものである。
Figure 2016172670
なお、試料の質量減少量は、TG−DTA測定による。一方、本件実施例の各ガラスにおいて、同様の実験を行ったところ、質量減少率はいずれも0.74%以下となり、上記試料29〜32のガラスの質量減少率の1/3〜1/2と小さい値であった。
(比較例3)
特許文献7(特表2009−537427)の実施例4(試料30)のガラスを1200℃でそれぞれ2時間、4時間、6時間保持し、冷却して屈折率ndを測定したところ、表11に示す結果が得られた。
Figure 2016172670
(注)1200℃で2時間保持したときの屈折率ndの値を基準にしている。
一方、本件実施例の試料16のガラスでは、屈折率ndの変化は表12のようになった。
Figure 2016172670
(注)1200℃で2時間保持したときの屈折率ndの値を基準にしている。
試料16以外の本件実施例のガラスにおいても、1200℃で2時間保持した後の屈折率ndと6時間保持した後の屈折率ndの差の絶対値は0.00070未満であった。なお、いずれの場合も、揮発しにくい成分は揮発しやすい成分と比較し、屈折率を高める働きが強いため、保持時間を長くすることにより、屈折率は上昇する。
このように、揮発性の指標である比[RE1/D1]、比[RE2/D2]を大きくすることにより、揮発を低減し、屈折率ndの変化量を1/7〜1/4に低減することができることが確認された。

Claims (4)

  1. NWF1に対するRE1の比[RE1/NWF1]が0.35以上、
    RE1に対するHR1の比[HR1/RE1]が0.33以下、
    NbおよびTaの含有量の合計に対するNbの含有量の質量比[Nb/(Nb+Ta)]が2/3以上、
    D1に対するRE1の比[RE1/D1]が0.90以上、
    NWF1およびRE1の合計量に対するL1の比[L1/(NWF1+RE1)]が0.78以上であり、
    アッベ数νdが39.0以上45.0以下、前記アッベ数νdと、屈折率ndとが下記(1)式を満たす光学ガラス:
    nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
    但し、
    M(B)、M(SiO)、M(Al)、M(La)、M(Gd)、M(Y)、M(Yb)、M(LaF)、M(GdF)、M(YF)、M(YbF)、M(ZnO)、M(LiO)、M(NaO)、M(KO)、M(ZrO)、M(Nb)、M(TiO)、M(WO)、M(Ta)、M(Bi)、M(MgO)、M(CaO)、M(SrO)、M(BaO)を、それぞれ、B、SiO、Al、La、Gd、Y、Yb、LaF、GdF、YF、YbF、ZnO、LiO、NaO、KO、ZrO、Nb、TiO、WO、Ta、Bi、MgO、CaO、SrO、BaOの分子量としたとき、
    NWF1=[2×B/M(B)]+[SiO/M(SiO)]+[2×Al/M(Al)]
    RE1=[2×La/M(La)]+[2×Gd/M(Gd)]+[2×Y/M(Y)]+[2×Yb/M(Yb)])+[LaF/M(LaF)]+[GdF/M(GdF)]+[YF/M(YF)]+[YbF/M(YbF)]
    HR1=[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[WO/M(WO)]+[2×Bi/M(Bi)]
    D1={[2×LiO/M(LiO)]+[2×NaO/M(NaO)]+[2×KO/M(KO)]}×3+[ZnO/M(ZnO)]
    L1=[20×LiO/M(LiO)]+[16×NaO/M(NaO)]+[8×KO)/M(KO)]+[4×ZnO/M(ZnO)]+[MgO/M(MgO)]+[2×CaO/M(CaO)]+[2×SrO/M(SrO)]+[2×BaO/M(BaO)]+[2×B/M(B)]+[2×Nb/M(Nb)]+[TiO/M(TiO)]+[4×WO/M(WO)]+[8×Bi/M(Bi)]+[2×Ta)/M(Ta)]−[2×SiO/M(SiO)]−[2×Al/M(Al)]−[2×ZrO/M(ZrO)]−[2×La/M(La)]−[2×Gd/M(Gd)]−[2×Y/M(Y)]−[2×Yb/M(Yb)]−[LaF/M(LaF)]−[GdF/M(GdF)]−[YF/M(YF)]−[YbF/M(YbF)]
    であり、上記各ガラス成分の含有量は質量%表示による値である。
  2. NWF2に対するRE2の比[RE2/NWF2]が0.35以上、
    RE2に対するHR2の比[HR2/RE2]が0.33以下、
    Nb5+およびTa5+の含有量の合計に対するNb5+の含有量のカチオン比[Nb5+/(Nb5++Ta5+)]が3/4以上、
    D2に対するRE2の比[RE2/D2]が0.90以上、
    NWF2およびRE2の合計に対するL2の比[L2/(NWF2+RE2)]が0.78以上、
    である酸化物ガラスであり、
    アッベ数νdが39.0以上45.0以下、前記アッベ数νdと、屈折率ndとが下記(1)式を満たす光学ガラスである:
    nd≧2.235−0.01×νd ・・・ (1)
    但し、
    NWF2は、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量、
    RE2は、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量、
    HR2は、Nb5+、Ti4+、W6+およびBi3+の合計含有量、
    D2=(Li+Na+K)×6+Zn2+
    L2=(10×Li)+(8×Na)+(4×K)+(4×Zn)+Mg2++(2×Ca2+)+(2×Sr2+)+(2×Ba2+)+B3++Nb5++Ti4++4×W6++(4×Bi3+)+Ta5+−(2×Si4+)−Al3+−(2×Zr4+)−La3+−Gd3+−Y3+−Yb3+
    であり、上記各ガラス成分の含有量はカチオン%表示による値である。
  3. 請求項1または2に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
  4. 請求項1または2に記載の光学ガラスからなる光学素子。
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