以下、本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントについて詳細に説明する。
本発明に用いる液晶ポリエステルとは、溶融時に異方性溶融相、即ち液晶性を形成し得るポリエステルである。この特性は例えば、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、例えば(1)芳香族オキシカルボン酸の重合物、(2)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、(3) (1)と(2)との共重合物などが挙げられるが、高強度、高弾性率、高耐熱のためには脂肪族ジオールを用いない全芳香族ポリエステルが好ましい。ここで芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたもの、などが紡糸性に優れ、高強度、高弾性率化が達成でき、固相重合後の高温熱処理を行うことで耐摩耗性が向上することから、好ましい例として挙げられる。
本発明では、特に下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
この組み合わせにより分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがってポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり長手方向に均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。
さらに構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要であり、この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率が得られることに加えて、固相重合後に高温熱処理を施すことで特に優れた耐摩耗性も得られるのである。
また、上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85モル%が好ましく、より好ましくは65〜80モル%、さらに好ましくは68〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90モル
%が好ましく、より好ましくは60〜80モル%、さらに好ましくは65〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため、固相重合後に高温熱処理を施すことで耐摩耗性を高めることができる。
構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95モル%が好ましく、より好ましくは50〜90モル%、さらに好ましくは60〜85モル%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な紡糸性を有するため長手方向に均一な繊維が得られ、加えて、ポリマーの直線性が適度に乱れるため、固相重合後の高温熱処理によりフィブリル構造が乱れやすくなり繊維軸垂直方向の相互作用が高まり耐摩耗性を向上させることができる。
本発明に用いる液晶ポリエステルの各構造単位の好ましい範囲は以下のとおりである。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I)45〜65モル%
構造単位(II)12〜18モル%
構造単位(III)3〜10モル%
構造単位(IV)5〜20モル%
構造単位(V)2〜15モル%
なお本発明で用いる液晶ポリエステルには上記構造単位以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸(1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオールおよびp−アミノフェノールなどを本発明の効果を損なわない5モル%程度以下の範囲で共重合させても良い。
また本発明の効果を損なわない5重量%程度以下の範囲で、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などのポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99Mなどが好適な例として挙げられる。なおこれらのポリマーを添加する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましい。
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
本発明に用いる液晶ポリエステルの融点は、溶融紡糸可能な温度範囲を広くするため好ましくは200〜380℃であり、紡糸性を高めるためにより好ましいのは250〜360℃である。なお液晶ポリエステルポリマーの融点は実施例記載の方法で測定される値をいう。
本発明で用いる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載)は3.0万以上が好ましい。分子量を3.0万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性を高めることができる。分子量が高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まるが、分子量が高すぎると粘度が高くなり流動性が悪くなり、ついには流動しなくなるため分子量は25.0万未満が好ましく、20.0万未満がより好ましい。ここでいう、ポリスチレン換算の重量平均分子量は実施例記載の方法で測定される値をいう。
本発明に用いる液晶ポリエステルモノフィラメントは単成分からなる繊維であることが好ましい。複合繊維でなく単成分であると、液晶ポリエステル以外の成分がないために繊維の強度が劣ることもなく、また細線径化が容易ということもあり、好ましい。
本発明に用いる液晶ポリエステルモノフィラメントの繊度は15dtex以下が好ましい。繊度を15dtex以下と細くすることで、繊維状態で固相重合した際に分子量が増加しやすく、強度、伸度、弾性率が向上するので好ましい。また、比表面積が増加するため油剤との密着性が高まり、繊維長手方向の付着均一性が向上するため好ましい。さらに繊維のしなやかさが向上し繊維の加工性が向上するといった特性を有することに加え、紗とする場合は厚みを薄くできる、織密度を高くできる、オープニングを広くできるという利点を持つので好ましい。繊度はより好ましくは8dtex以下、さらに好ましくは7dtex以下である。なお、繊度の下限は特に限定されないが、本発明で達しえる下限としては1dtex程度である。
本発明に用いる液晶ポリエステルモノフィラメントの強度は織物の強度を高めるためには13.0cN/dtex以上が好ましく、14.0cN/dtex以上がより好ましい。強度の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては30.0cN/dtex程度である。なお本発明で言う強度とはJIS L1013:1999記載の引張強さを指す。
本発明に用いる液晶ポリエステルモノフィラメントの伸度は1.0%以上が好ましく2.0%以上がより好ましい。伸度が1.0%以上あることで繊維の衝撃吸収性が高まり、高次加工工程での工程通過性、取り扱い性に優れる、衝撃吸収性が高まるため耐摩耗性も高まるので好ましい。なお、伸度の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては10.0%程度である。
また弾性率は織物の弾性率を高めるため500cN/dtex以上が好ましく、600cN/dtex以上がより好ましく、700cN/dtex以上がさらに好ましい。弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては弾性率1000cN/dtex程度である。なお本発明で言う弾性率とはJISL1013:1999記載の初期引張抵抗度を指す。
本発明でいう、強度、伸度、弾性率は実施例記載の方法で求める値である。
強度、弾性率が高いことにより印刷用スクリーン紗用途に好適に使用できるが、加えて、フィルター用メッシュ等の用途にも好適に使用できる。また、細繊度でも高い強力を発現させ得るため繊維材料の軽量化、薄物化が達成でき、製織など高次加工工程での糸切れも抑制できる。
本発明の繊維の耐摩耗性は90秒以上が好ましく、120秒以上がより好ましく、180秒以上がさらに好ましい。本発明で言う耐摩耗性とは実施例記載の手法により測定された値を指す。耐摩耗性が90秒以上であることで液晶ポリエステル繊維の高次加工工程でのフィブリル化が抑制でき、フィブリル堆積による製織性の悪化や、堆積したフィブリルが織り込まれることによる開口部の目詰まり(スカム欠点)が抑制できる他、ガイド類へのフィブリルの堆積が減ずることから洗浄、交換周期を長くできる。
本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントパッケージの巻糸長は2万m以上であることが好ましい。巻糸長が長いことで織物の緯糸とした場合に製織長さを長くできる他、輸送時の容積を減らすことができる。巻糸長が長いほどこの効果は高められるため、巻糸長は20万m以上がより好ましく、最も好ましくは40万m以上である。本願発明で達しえる上限は1000万m程度である。
本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントは、スクリーン紗等のメッシュ織物の製織において、製織時の糸切れ、光沢斑などの欠点の少ないモノフィラメントであるためには、下記の(1)、(2)もしくは(1)、(3)を同時に満足することが必要である。
(1)繊維表面の微細凹凸の表面粗さ(Ra)が0.015μm以上0.100μm以下、
(2)最細径化率が8.0%以下
(3)強力変動率が10.0%以下 。
本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントは繊維表面に均一な凹凸を有しており、その表面粗さは0.015以上0.100μm以下であることが必須である。なお、本発明で言う表面粗さとはJIS B0601:2001記載の表面粗さを指し、表面粗さは実施例記載の手法により測定された値を指す。表面粗さが大きいほど、繊維の表面摩擦が低下し、耐摩耗性が向上するため、0.020μm以上がより好ましい。表面粗さが過度に大きいと、繊維の強度が低下することから、0.090μm以下がより好ましい。
本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントの最細径化率は8.0%以下であることが必須である。なお、本発明で言う最細径化率とは実施例記載の手法により測定された値を指す。最細径化率が8.0%以下であることで、繊維長手方向の繊維径均一性が高まり、高次加工工程の糸切れを抑制できる。また、最細径化率が8.0%以下であることで、繊維長手方向の微細凹凸均一性が高まり、メッシュ織物の光沢斑等の欠点が減少する他、紗とした際のオープニング(開口部の面積)の均一性が高まり紗の性能の向上が期待できる。より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下である。
本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントの強力変動率は10.0%以下であることが必須である。なお、本発明で言う強力とはJIS L1013:1999記載の引張強さの測定における切断時の強さを指し、強力変動率とは実施例記載の手法により測定された値を指す。強力変動率が10.0%以下であることで、繊維長手方向の強力の均一性が高まり、低強力部分に起因する高次加工工程の糸切れを抑制できる。また、強力変動率が10.0%以下であることで、繊維長手方向の微細凹凸均一性が高まり、メッシュ織物の光沢斑等の欠点が減少する他、紗とした際のオープニング(開口部の面積)の均一性が高まり紗の性能の向上が期待できる。より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下である。
以下に本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントの製造方法を示す。
本発明に用いる液晶ポリエステルモノフィラメントの製造方法は公知の製造方法に準じて製造できる。好ましい製造方法の一例を挙げると次の通りである。
紡糸工程は、公知の液晶ポリエステルの溶融紡糸方法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプなど公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は流動性を高めるため液晶ポリエステルの融点以上とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点+10℃以上がより好ましい。ただし紡糸温度が過度に高いと液晶ポリエステルの粘度が増加し、流動性の悪化、製糸性の悪化を招くため500℃以下とすることが好ましく、400℃以下がより好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
吐出においては口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を長くすることが製糸性を高め、繊度の均一性を高める点で好ましい。ただし孔径が過度に小さいと孔の詰まりが発生しやすくなるため直径0.05mm以上0.50mm以下が好ましく、0.10mm以上0.30mm以下がより好ましい。ランド長は過度に長いと圧力損失が高くなるため、ランド長を孔径で除した商で定義されるL/Dは0.5以上3.0以下が好ましく0.8以上2.5以下がより好ましい。
また均一性を維持するために1つの口金の孔数は500孔以下が好ましく、100孔以下がより好ましい。孔数の下限としては1孔でもよい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔はストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましい。
口金孔より吐出されたポリマーは保温、冷却領域を通過して固化された後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から200mmまでとすることが好ましく、100mmまでとすることがより好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状に噴き出す空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
引き取り速度は生産性、単糸繊度の低減のため50m/分以上が好ましく、500m/分以上がより好ましい。本発明で好ましい例として挙げた液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にでき、上限は特に制限されないが、曳糸性の点から2000m/分程度となる。
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは1以上500以下とすることが製糸性を高める上で好ましく、繊度の均一性を高める点で10以上100以下とすることがより好ましい。
溶融紡糸においてはポリマーの冷却固化から巻き取りまでの間に油剤を付与することが繊維の取り扱い性を向上させる上で好ましい。油剤は公知のものを使用できるが、固相重合前の巻き返し工程において溶融紡糸で得られた繊維(以下、紡糸原糸と記載する)を解舒する際の解舒性を向上させる点で一般的な紡糸油剤を用いることが好ましい。
巻き取りは公知の巻取機を用いパーン、チーズ、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、巻き取り時にパッケージ表面にローラーが接触しないパーン巻きとすることが繊維に摩擦力を与えずフィブリル化させない点で好ましい。
本発明においては、液晶ポリエステルモノフィラメントに無機粒子(A)およびリン酸系化合物(B)を塗布した後に固相重合を施すことが好ましい。無機粒子(A)およびリン酸系化合物(B)を塗布することで固相重合時に繊維間で発生する融着を抑制する効果に加え、該成分が固相重合工程において熱変性することで、後工程での工程通過性に優れ、さらに製品にする際の後加工性に優れる。また、リン酸系化合物(B)が液晶ポリエステル繊維の表面に付着している状態で高温長時間の固相重合反応を行うことにより、リン酸系化合物(B)によって繊維のごく表面に存在する液晶ポリエステルの分子鎖の切断が促進され低分子量化し、後の洗浄工程において固相重合用油剤とともに脱落することで繊維表面に凹凸が形成され、糸表面の摩擦抵抗が低減するため、後加工性が良好となる。なお、本発明においては固相重合用油剤として無機粒子(A)およびリン酸系化合物(B)を用いるため、オイル分を使用しないが、無機粒子(A)およびリン酸系化合物(B)も「固相重合用油剤」として表記する。
本発明における無機粒子(A)とは、公知の無機粒子であり、例として鉱物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、シリカやアルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化合物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、カーボンブラック等が挙げられる。このような耐熱性の高い無機粒子を繊維上へ塗布することで単糸間の接触面積を減らし、固相重合時に発生する融着を回避することが可能となる。
無機粒子(A)は、塗布工程を考慮して取扱いが容易であり環境負荷低減の観点から水分散が容易であることが好ましく、かつ、固相重合条件下において不活性であることが望ましい。これらの観点からシリカやケイ酸塩を用いることが好ましい。ケイ酸塩の場合は特に層状構造を持つフィロケイ酸塩が好ましい。なおフィロケイ酸塩としては、カオリナイト、ハロイ石、蛇紋石、珪ニッケル鉱、スメクタイト族、葉ろう石、滑石、雲母などが挙げられるが、これらの中でも入手の容易性を考慮して滑石、雲母を用いることが最も好ましい。
また、無機粒子(A)のメディアン径(D50)としては、10μm以下が好ましい。D50を10μm以下とすることで無機粒子(A)が繊維間に保持される確率が高まり、融着抑制効果が顕著となるためである。同様の理由より、より好ましくはD50が5μm以下である。また、D50の下限としてはコスト面、また固相重合後の洗浄工程における洗浄性を考慮し0.01μm以上が好ましい。なお、ここでいうメディアン径(D50)とは実施例記載の方法により測定される値をいう。
また、本発明におけるリン酸系化合物(B)とは、下式下記化学式(1)〜(3)で示される化合物が使用できる。
ここで、R1,R2は炭化水素、M1はアルカリ金属、M2はアルカリ金属、水素、炭化水素、含酸素炭化水素のいずれかを指す。
なお、nは1以上の整数を表す。また、nの上限は熱分解抑制の観点から好ましくは100以下、より好ましくは10以下である。
R1としては、固相重合時の熱分解による発生ガスを考慮し、環境負荷を低減する観点から構造中にフェニル基を含まないことが好ましく、アルキル基で構成されることがより好ましい。R1の炭素数としては、繊維表面への親和性の観点から2以上が好ましく、かつ、固相重合に伴う有機成分の分解による重量減量率を押さえ、固相重合時の分解により発生する炭化物が繊維表面へ残存することを防ぐ観点から20以下が好ましい。
また、R2としては、水への溶解性の観点から炭素数5以下の炭化水素が好ましく、より好ましいのは炭素数2または3である。
M1としては製造コストの観点からナトリウム、カリウムが好ましい。
無機粒子(A)およびリン酸系化合物(B)の付着量を適性化しつつ均一塗布するためにはリン酸系化合物(B)の希釈液に無機粒子(A)を添加した混合油剤を用いることが好ましく、希釈液としては安全性の観点から水を用いることが好ましい。なお、融着抑制の観点から希釈液中の無機粒子(A)の濃度は高いことが望ましく0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、上限としては均一分散の観点から10重量%以下が好ましく、より好ましく5重量%以下である。また、リン酸系化合物(B)の濃度は無機粒子(A)の均一分散の観点からは高いことが望ましく、0.1重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上である。なお、リン酸系化合物(B)の濃度の上限としては特に制限はないが、混合油剤の粘度上昇による付着過多、粘度の温度依存性増大による付着斑を避ける目的で50重量%以下が好ましく、より好ましくは30重量%以下である。
また、繊維への無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)の塗布方法としては、溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには溶融紡糸して巻き取った糸条を巻き返しながら該糸条に塗布する、あるいは溶融紡糸で少量を付着させ、巻き取った糸条を巻き返しながら追加塗布することが好ましい。
付着方法はガイド給油法でも良いが、モノフィラメントに均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。なお、繊維がカセ状、トウ状の場合は混合油剤へ浸漬することで塗布できる。
本発明においては、繊維への無機粒子(A)の付着率を(a)重量%、リン酸系化合物(B)の付着率を(b)重量%としたとき、所望の微細凹凸を有する液晶ポリエステルモノフィラメントを得るためには繊維のリン酸系化合物の付着率(b)が重要であり、リン酸系化合物(B)の付着率(b)は10重量%以上であることが好ましい。なお、リン酸系化合物(B)の付着率(b)が高いほど、固相重合中の繊維表面の分解による表面の微細凹凸形成が促進され、繊維の表面粗さを高めることができるため、15重量%以上が好ましく、より好ましくは20重量%以上である。なお、上限としては繊維長手方向の付着斑および過度な凹凸形成による強度低下を抑制する観点から40重量%未満が目安である。
なお、固相重合油剤の油分付着率(a+b)は10重量%を超える量となるが、10重量%を超えるような多量の油分を付着して固相重合を行うことで、固相重合時の繊維の融着に対する高い抑制効果が得られる。固相重合油剤の油分付着率(a+b)が多いほど、融着抑制効果は高まるため、油分付着率は15重量%を超えることが好ましく、20重量%を超えることがより好ましい。一方、上限としては長手方向の付着斑を抑制する観点から40重量%以下が目安である。なお繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)は固相重合油剤塗布後の繊維について実施例に記載した手法により求められる油分付着率の値を指す。
また無機粒子(A)の付着率(a)重量%、リン酸系化合物(B)の付着率(b)重量%については、以下の条件を満たすことが好ましい。
条件1. a≧0.01
条件2. b/a≧1
条件1において、無機粒子(A)の付着率(a)は0.01重量%以上とすることで無機粒子による融着抑制効果が顕著となる。付着率(a)の上限としては均一付着の観点から10重量%以下が目安である。
条件2において、リン酸系化合物(B)の付着率(b)を無機粒子(A)の付着率(a)以上とすることでリン酸系化合物(B)の固相重合時の縮合塩形成に由来した優れた洗浄性がより顕著に現れ、また無機粒子(A)と繊維間の固着や脱落を抑制する観点からも好ましい。
なお、ここでいう無機粒子(A)の付着率(a)および、リン酸系化合物(B)の付着率(b)とは、下式にて算出される値を指す。
(無機粒子(A)の付着率(a))=(a+b)×Ca÷(Ca+Cb)
(リン酸系化合物(B)の付着率(b))=(a+b)×Cb÷(Ca+Cb)
ここで、Caは固相重合油剤中の無機粒子(A)の濃度、Cbは固相重合油剤中のリン酸系化合物(B)の濃度を指す。
本発明においては、無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)を塗布した後に固相重合を行うが、これにより分子量が高まるとともに、強度、弾性率、伸度も高まる。固相重合はカセ状、トウ状(例えば金属網等に載せて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であるが、設備が簡素化でき、生産性も向上できる点から繊維を芯材に巻き取ったパッケージ状で行うことが好ましい。
パッケージ状で固相重合を行う場合、融着防止のためには固相重合を行う際の繊維パッケージの巻密度が重要であり、巻崩れを防ぐために巻き密度を0.1g/cc以上とし、かつ融着を回避するためには巻密度を0.8g/cc以下とすることが好ましい、0.6g/cc以下とすることがより好ましい。ここで巻密度とは、パッケージ外寸法と心材となるボビンの寸法から求められるパッケージの占有体積Vf(cc)と繊維の重量Wf(g)からWf/Vfにより計算される値である。また巻密度が過度に小さいとパッケージが巻き崩れるため0.2g/cc以上とすることがより好ましい。なお占有体積Vfはパッケージの外形寸法を実測するか、写真を撮影し写真上で外形寸法を測定し、パッケージが回転対称であることを仮定し計算することで求められる値であり、Wfは繊度と巻取長から計算される値、もしくは巻取前後での重量差により実測される値である。
このような巻密度が小さいパッケージは、溶融紡糸における巻き取りで形成した場合には、設備生産性、生産効率化が向上するために望ましく、一方、溶融紡糸で巻き取ったパッケージを巻き返して形成した場合には、巻返し速度を600m/分以下とすることが好ましく、500m/分以下とすることがより好ましい。一方、巻返し速度は生産性のためには高い方が有利であり、50m/分以上、特に100m/分以上とすることが好ましい。
低巻密度でも安定したパッケージを形成するためには巻き形態は、両端にテーパーがついたテーパーエンド巻き取りとすることが好ましい。この際、テーパー角は60°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。またテーパー角が小さい場合、繊維パッケージを大きくすることができず長尺の繊維が必要な場合には1°以上が好ましく、5°以上がより好ましい。なお本発明で言うテーパー角とは以下の式で定義される。
さらにパッケージ形成にはワインド数も重要である。ワインド数とはトラバースが半往復する間にスピンドルが回転する回数であり、トラバース半往復の時間(分)とスピンドル(rpm)の積で定義され、ワインド数が大きいことは綾角が小さいことを示す。ワインド数は小さい方が繊維間の接触面積が小さくし、巻密度を小さくでき、融着回避には有利であるが、ワインド数が高いほど端面での綾落ち、パッケージの膨らみが軽減でき、パッケージ形状が良好となる。これらの点からワインド数は2以上20以下が好ましく、5以上15以下がより好ましい。
パッケージ端面をテーパー形状とする巻取方法としては、スピンドルに装着したボビンに連続的に糸条を巻き取る装置において、スピンドル側を静置し、糸条をトラバースガイドを介して往復トラバースさせるガイドトラバース方式や、糸条の給糸位置を固定し、スピンドル側を往復トラバースさせるスピンドルトラバース方式がある。これらの方式では、巻き始めから巻き終わりにかけて所望のテーパー角になるように、トラバースの往復幅を漸減させることで、ボビンにパーン上のパッケージを形成される。本発明においては、巻密度を低くする観点から、ワインド数を低くする、すなわち綾角を大きくするためにも、ガイドトラバース方式が好ましい。
ガイドトラバース方式の場合、一般的に面圧を付与する目的でパッケージに接触するロール、すなわちタッチロールを使用するが、本発明においては繊維長手方向に均一に固相重合用油剤を付着させ、繊維長手方向に均一な微細凹凸を形成させるためにはタッチロールを使用しないことが重要である。タッチロールがあると、固相重合用油剤が付着した繊維がタッチロールによってしごかれて、繊維長手方向の付着均一性が悪化することに加え、タッチロール表面に蓄積した固相重合用油剤が糸条のトラバースによってテーパー部へ移動し、テーパー部の過剰付着が発生し、パッケージストレート部とテーパー部での付着量差、すなわち繊維長手方向の微細凹凸斑の原因となる。
タッチロールを使用しない場合、面圧が付与されなくなり、巻崩れの懸念があるため、張力を付与することが好ましい。また、糸揺れによる繊維長手方向の付着斑抑制の観点あからも張力を付与することが好ましい。さらに、張力を付与する場合は、繊維長手方向の油剤均一付着の観点から、固相重合用油剤を付着させる前に張力を付与させることが好ましい。張力付与方法としては、ガイドを用いて糸道を屈曲させる方法があるが、繊維の擦過抑制の観点から回転ガイドを用いることが好ましい。巻き張力を小さくするほど巻き密度は小さくできるので、巻き張力は0.40cN/dtex以下が好ましく、0.30cN/dtex以下がより好ましい。なお下限は特に定められるものではないが、本発明で達しうる下限は0.01cN/dtex程度である。
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは芯材の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。
固相重合温度は、固相重合に供する液晶ポリエステルモノフィラメントの吸熱ピーク温度をTm1(℃)とした場合、最高到達温度がTm1−60℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、繊維の強度を向上させることができる。なお、ここで言うTm1は一般には液晶ポリエステルモノフィラメントの融点であり、本発明においては実施例記載の測定方法により求められた値を指す。なお最高到達温度はTm1(℃)未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。この場合、固相重合の進行と共に液晶ポリエステルモノフィラメントの融点は上昇するため、固相重合温度は、固相重合前の液晶ポリエステルモノフィラメントのTm1+100℃程度まで高めることができる。ただしこの場合においても固相重合での最高到達温度は固相重合後の繊維のTm1−60(℃)以上Tm1(℃)未満とすることが固相重合速度を高めかつ融着を防止できる点から好ましい。
固相重合時間は、繊維の分子量すなわち強度、弾性率、伸度を十分に高くするためには最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がより好ましい。一方、強度、弾性率、伸度増加の効果は経過時間と共に飽和するため、生産性を高めるためには50時間以下とすることが好ましい。
本発明で用いる液晶ポリエステルモノフィラメント固相重合した糸の洗浄を行うことが好ましく、洗浄を行い融着防止用の固相重合油剤を除去することで、後の工程、たとえば製織工程での固相重合油剤のガイド等への堆積による工程通過性の悪化、堆積物の製品への混入による欠点生成などを抑制することが可能となる。
洗浄方法としては、繊維表面を布や紙で拭き取る方法も挙げられるが、固相重合糸に力学的な負荷を与えるとフィブリル化するため、固相重合油剤が溶解あるいは分散できる液体に繊維を浸す方法が好ましい。液体への浸漬に加えて流体を用いて吹き飛ばす方法は、液体により膨潤した固相重合油剤が効率的に除去できるためより好ましい。
洗浄に用いる液体は、環境負荷を低減するために水とすることが好ましい。液体の温度は高い方が除去効率を高めることができ、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。ただし温度が高すぎる場合には液体の蒸発が著しくなるため、液体の沸点−20℃以下が好ましく、沸点−30℃以下がより好ましい。
洗浄に用いる液体には、洗浄効率向上の観点から界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は除去効率を高め、かつ環境負荷を低下させるため0.01〜1重量%が好ましく、0.1〜0.5重量%がより好ましい。
さらに、洗浄効率を高めるため、洗浄に用いる液体に振動または液流を付与することが好ましい。この場合、液体を超音波振動させるなどの手法もあるが、設備簡素化、省エネの観点から液流を付与することが好ましい。液流付与の方法は液浴内の撹拌、ノズルでの液流付与等の方法があるが、液浴を循環する際の供給をノズルで行うことで簡単に実施できることからノズルでの液流付与が好ましい。
洗浄による固相重合用油剤除去の程度は目的に応じ適宜調整されるが、製織工程でのスカム発生抑制の観点から洗浄後の繊維に残存する固相重合油剤の付着率として0.30重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.20重量%以下、最も好ましくは0.10重量%以下である。なお、残存固相重合油剤の付着率は洗浄工程の直後で巻き取った繊維について実施例記載の手法により求められる値を指す。
洗浄は単位時間当たりの処理量を増加させるため、繊維をカセ状、トウ状、あるいはパッケージの状態で液体に浸しても良いが、繊維長手方向の均一な除去を行うために、繊維を連続的に走行させつつ液体に浸すことが好ましい。繊維を連続的に液体に浸す方法は、ガイド等を用いて繊維を浴内に導く方法でも良いが、ガイドとの接触抵抗による固相重合繊維のフィブリル化を抑制するため、浴の両端にスリットを設け、このスリットを通って繊維が浴内を通過できるようにし、かつ浴内には糸道ガイドを設けないことが好ましい。
なお、パッケージ状の固相重合糸を連続的に走行させる場合、繊維を解舒するが、固相重合で生じる軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するためには固相重合パッケージを回転させながら、回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましい。
そのような解舒方法としては、モーター等を用いて回転数一定で積極駆動する方法、ダンサーローラーを用いて回転数を制御しながら調速解舒する方式、フリーロールに固相重合パッケージをかけて、調速ローラーにより繊維を引っ張りつつ解舒する方法が挙げられる。また、液晶ポリエステルモノフィラメントをパッケージの状態で液体に浸し、そのまま解舒する方法も、油分を効率的に除去することが可能であるため、好ましい態様である。
なお、流体を用いて吹き飛ばす場合に用いる流体は、空気または水であることが好ましい。特に流体に空気を用いる場合は、液晶ポリエステルモノフィラメント表面を乾燥させる効果も期待することが可能になるため、その後の工程中で汚れが堆積することを防止し、すなわち収率の改善が見込まれることから、好ましい態様である。
また、洗浄後の液晶ポリエステルモノフィラメント表面には洗浄に用いた液体が付着しているため、すすぐことも好ましい態様である。洗浄に用いた液体が液晶ポリエステルモノフィラメント表面に残存すると最終的に乾燥して糸表面上の異物となるため、すすぐことで液晶ポリエステルモノフィラメント表面がより均一化でき、後の工程における異物堆積に起因した解舒張力の変動を抑制することが可能になる。
すすぎに用いる流体は水であることが好ましい。すすぎは、液晶ポリエステルモノフィラメント表面に付着した洗浄液成分を除去する目的で行われるため、該成分を溶解させることができる水を用いると、効率的に洗浄を行うことができる。また該成分の溶解度を増すことを目的に水を加温することも好ましい様態である。加温する温度は、高温ほど溶解度が高まるため、すすぎの効率が上がることが期待できるため、上限は特に限定されるものではないが、加温に要するエネルギー消費を抑え、エネルギーコストを低減することや、蒸発によるロスを考慮すると、80℃を目安にすると良い。
すすぎを行った後に、吹き飛ばしによる液晶ポリエステルモノフィラメント表面に残存した水分の除去を組み合わせることでより好ましい様態となる。
また、液晶ポリエステルモノフィラメントの使用目的により特に繊維の耐摩耗性向上が必要な場合は、洗浄後にTm1+10℃以上の温度で高温熱処理を施すことが好ましい。なお、ここで言うTm1は実施例記載の測定方法により求められた値を指す。Tm1は繊維の融点であるが、液晶ポリエステルモノフィラメントに融点+10℃以上もの高温で熱処理を施すことでTm1におけるピーク半値幅は15℃以上となり、繊維全体の結晶化度、結晶の完全性を低下させることで耐摩耗性が大きく向上する。
熱処理という点では液晶ポリエステルモノフィラメントの固相重合があるが、この場合の処理温度は繊維の融点以下としないと繊維が融着、溶断してしまう。固相重合の場合、処理に伴い繊維の融点が上昇するため、最終の固相重合温度は処理前の繊維の融点以上となることがあるが、その場合でも処理温度は処理されている繊維の融点、すなわち熱処理後の繊維の融点よりも低い。すなわち、ここでいう高温熱処理とは、固相重合を行うことではなく、固相重合によって形成された緻密な結晶部分と非晶部分の構造差を減少させること、つまり結晶化度、結晶の完全性を低下させることで耐摩耗性を高めるものである。したがって処理温度は熱処理によりTm1が変化しても、処理後の繊維のTm1+10℃以上とすることが好ましく、この点から処理温度は処理後の繊維のTm1+10℃以上とすることが好ましく、Tm1+40℃以上がより好ましく、Tm1+60℃以上とすることがさらに好ましく、Tm1+80℃以上とすることが特に好ましい。なお、処理温度の上限としては繊維が溶断する温度であり、張力、速度、単繊維繊度、処理長で異なるがTm1+300℃程度である。
また、別の熱処理として液晶ポリエステルモノフィラメントの熱延伸があるが、熱延伸は高温で繊維を緊張させるものであり、繊維構造は分子鎖の配向が高くなり、強度、弾性率は増加し、結晶化度、結晶の完全性は維持したまま、すなわちΔHm1は高いまま、Tm1のピーク半値幅は小さいままである。したがって耐摩耗性に劣る繊維構造となり、結晶化度を低下(ΔHm1減少)、結晶の完全性を低下(ピーク半値幅増加)させて耐摩耗性を向上させることを目的とする本発明の熱処理とは異なる。なお本発明で言う高温熱処理では結晶化度が低下するため、強度、弾性率は増加しない。
高温熱処理は、繊維を連続的に走行させながら行うことが繊維間の融着を防ぎ、処理の均一性を高められるため好ましい。このときフィブリルの発生を防ぎ、かつ均一な処理を行うため、非接触熱処理を行うことが好ましい。加熱手段としては雰囲気の加熱、レーザーや赤外線を用いた輻射加熱などがあるがブロックまたはプレートヒーターを用いたスリットヒーターによる加熱は雰囲気加熱、輻射加熱の両方の効果を併せ持ち、処理の安定性が高まるため好ましい。
処理時間は結晶化度、結晶の完全性を低下させるためには長い方が好ましく、0.01秒以上が好ましく、0.05秒以上がより好ましく、0.1秒以上がさらに好ましい。また処理時間の上限は、設備負荷を小さくするため、また処理時間が長いと分子鎖の配向が緩和し強度、弾性率が低下するため5.0秒以下が好ましく、3.0秒以下がより好ましく、2.0秒以下とすることがさらに好ましい。
処理する際の繊維の張力は過度に高いと溶断が発生しやすく、また過度の張力がかかった状態で熱処理を行う場合、結晶化度の低下が小さく耐摩耗性の向上効果が低くなるため、できるだけ低張力にすることが好ましい。この点において熱延伸とは明らかに異なる。しかしながら、張力が低いと繊維の走行が不安定となり処理が不均一になることから、0.001cN/dtex以上1.0cN/dtex以下が好ましく、0.1cN/dtex以上0.3cN/dtex以下がより好ましい。
また走行させつつ高温熱処理する場合、張力はできるだけ低いほうが好ましいが、適宜ストレッチおよびリラックスを加えても良い。しかしながら、張力が低すぎると繊維の走行が不安定となり処理が不均一になることから、リラックス率は2%以下(延伸倍率0.98倍以上)が好ましい。また、張力が高いと熱による溶断が発生しやすく、また過度の張力がかかった状態で熱処理を行う場合、結晶化度の低下が小さく耐摩耗性の向上効果が低くなるため、ストレッチ率は熱処理温度にもよるが、10%(延伸倍率1.10倍)未満が好ましい。より好ましくは5%(延伸倍率1.05倍)未満、さらに好ましくは3%(1.03倍)未満である。なお、延伸倍率は、熱処理をローラー間(第1ローラーおよび第2ローラー間)で行う際には、第2ローラー速度を第1ローラー速度で割った商で定義される。
処理速度は処理長にもよるが高速であるほど高温短時間処理が可能となり、耐摩耗向上効果が高まり、さらに生産性も向上するため100m/分以上が好ましく、200m/分以上がより好ましく、300m/分以上がさらに好ましい。処理速度の上限は繊維の走行安定性から1000m/分程度である。
処理長は加熱方法にもよるが、非接触加熱の場合には均一な処理を行うために100mm以上が好ましく、200mm以上がより好ましく、500mm以上がさらに好ましい。また処理長が過度に長いとヒーター内部での糸揺れにより処理ムラ、繊維の溶断が発生するため3000mm以下が好ましく、2000mm以下がより好ましく、1000mm以下がさらに好ましい。
なお、上記した洗浄および熱処理は、途中で一旦巻き取ることなく、連続した一工程内で行うことが好ましい。特に固相重合後の液晶ポリエステルモノフィラメントを巻き取る際には、ワインダーでの擦過等により繊維のフィブリル化が発生するため、洗浄を行った後、引き続いて熱処理を行い、耐摩耗性を高めることが好ましい。
また、洗浄や熱処理等の後の工程における工程通過性向上の観点から仕上げ油剤を塗布することが好ましい。仕上げ油剤としては、ポリエステル繊維用に一般に用いられる仕上げ油剤が好ましく適用できる。
仕上げ油剤の付着率としては、表面平滑性向上による耐摩耗性向上、工程通過性向上などのため繊維重量に対し0.1重量%以上が好しい。油分は多いほどその効果は高まるため、0.3重量%以上がより好ましい。ただし油分が多すぎると繊維同士の接着力が高まり、工程通過性を阻害するほか、工程汚れを発生させるため、2.0重量%以下、1.5重量%以下が好ましい。ここでいう仕上げ油剤の付着率とは、仕上げ油剤付与後の繊維について実施例記載の方法にて求められる油分付着率の値から同繊維の残存固相重合油剤の付着率の値を差し引いた値をいう。
以下、本発明の液晶ポリエステルモノフィラメントについて実施例をもって具体的に説明する。実施例の測定値は、次の方法で測定した。
A.繊度
検尺機にて繊維を300mカセ取りし、その重量(g)を100/3倍し、1水準当たり10回の測定を行い、平均値を繊度(dtex)とした。
B.強度、伸度、弾性率および強力変動率
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長500mm、引張速度50mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUTM−100を用い1水準当たり20回の測定を繊維長手方向に連続して行い、平均値を強力(cN)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、弾性率(cN/dtex)とした。なお、弾性率とは初期引張抵抗度のことである。強力変動率は強力の20回の平均値から最大もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて下式により算出した。
強力変動率(%)=((|最大値もしくは最小値−平均値|)/平均値)×100
C.油分付着率
100±10mgの繊維を採取し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W0)、繊維重量に対し100倍以上の水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを繊維重量に対し2.0重量%添加した溶液に繊維を浸漬させ、室温にて20分超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量(W1)を測定し、次式により油分付着率を算出した。
(油分付着率(重量%))=(W0−W1)×100/W1 。
D.液晶ポリエステル繊維のTm1、Tm1におけるピーク半値幅、融解熱量ΔHm1、液晶ポリエステルポリマーの融点(Tm2)
TA instruments社製DSC2920により示差熱量測定を行い、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度をTm1(℃)とし、Tm1におけるピーク半値幅(℃)、融解熱量(ΔHm1)(J/g)を測定した。
なお、参考例に示した液晶ポリエステルポリマーについてはTm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で50℃まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークをTm2とし、Tm2をもってポリマーの融点とした。
E.ポリスチレン換算の重量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、液晶ポリエステルの濃度が0.04〜0.08重量/体積%となるように溶解させGPC測定用試料とした。なお、室温24時間の放置でも不溶物がある場合は、さらに24時間静置し、上澄み液を試料とした。これを、Waters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム:ShodexK−806M 2本、K−802 1本
検出器:示差屈折率検出器RI
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:200μL 。
F.メディアン径(D50)
島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000Jで粒径測定を行い、メディアン径(D50)を求めた。
G.表面粗さ(Ra)
キーエンス社製のレーザーマイクロスコープ(コントローラ部「VK−X200」、測定部「VK−X210」)を用いて、倍率3000倍(対物150倍×20)にて、下記方法に従い、繊維長手方向10点について繊維表面の算術平均粗さ(Ra)(JISB0601:2001記載の定義に準拠)を計測し、10点の平均値を本発明の表面粗さ(Ra)(μm)とした。
(A)長さ1m以上の糸を採取し、採取した糸から長さ7cmのサンプルを端部から3cm間隔で計10本採取する。
(B)繊維表面の異物を除去するために、純水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2.0重量%添加した溶液に採取したサンプルを浸漬させ、室温にて20分超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、風乾させる。
(C)風乾後のサンプルをスライドガラス(縦2.6cm×横7.6cm)へ横並びにセットする。この際、サンプル同士が重ならないように注意する。また、サンプルがたるまないようにサンプルの両端をセロハンテープ等でスライドガラスへ固定する。
(D)得られたサンプルをスライドガラスごと、レーザーマイクロスコープのステージにセットして、各サンプルの中央部(サンプル中心から±5mmの範囲)を以下(a)〜(f)の手順で観察・測定・解析を行い、得られた10点の算術平均粗さ(μm)の平均値を求めた。
(a)パソコン上で観察アプリケーション(VK−H1XV)を起動し、「画像観察モード」にて、低倍率レンズで対象サンプル1本の中央部に焦点を合わせた上で、対物レンズを150倍として再度焦点を合わせる。この際、観察視野の横軸方向と繊維長手方向が平行となるようにスライドガラスまたはステージを調整する。
(b)観察アプリケーション(VK−H1XV)にて、「形状測定モード」に切り換え、「エキスパート」を選択し、レーザー画像を表示させた状態でレーザーの明るさを調節した後、観察視野内の対象サンプルの上端と両側面が含まれるように測定範囲(高さ方向)の上限および下限を設定する。
(c)測定設定において、測定モードを「表面形状」、測定サイズを「高精細」、測定品質を「高精度」とし、RPD(Real Peak Detection)のチェックボックスをONにした状態で「測定開始」を選択し、得られた測定結果(画像ファイル)を保存する。なお、この際の測定ピッチは0.080μmである。
(d)パソコン上で解析アプリケーション(VK−H1XA)を立ち上げ、(c)項で得られた画像ファイルを開き、表示桁数を小数点以下3桁に設定の上、「計測解析」メニューから「線粗さ」選択し、線粗さ計測ウィンドウを表示させる。
(e)計測ラインの中から「平行線」を選択し、計測ラインが画像上の繊維の長手方向と平行となるように繊維の中央部に計測ラインを引く。
(f)傾き補正(直線(自動))を実施し、計測結果に表示された算術平均粗さ(Ra)(μm)を記録する。
H.最細径化率
Sensoptic社製の外径測定機(型番:PSD−200)を用い、1水準当たり糸長10mについて、一定張力を付与した状態で、走行糸速度1m/min、サンプリング周期23μs、平均化長さ1cmの条件で、繊維長手方向に連続して繊維径の測定を行った。なお、測定時の基準径は繊度(dtex)を用いて、下式(1)から算出した値を小数点以下四捨五入した値とした。最細径化率は本測定により得られた1000点の繊維径データの平均値と最小値を用いて、下式(2)より算出した。
基準径(μm)=11.3×(繊度(dtex)/繊維の比重)0.5 (1)
最細径化率(%)=((平均値−最小値)/平均値)×100 (2)
I.耐摩耗性
0.833cN/dtexの荷重をかけた繊維を垂直に垂らし、繊維に対して垂直になるように直径4mmのセラミック棒ガイド(湯浅糸道工業(株)社製、材質YM−99C)を接触角2.7°で押し付け、ストローク長20mm、ストローク速度600回/分でガイドを繊維軸方向に擦過させ、30秒おきに実体顕微鏡観察を行い、棒ガイド上もしくは繊維表面上に白粉またはフィブリルの発生が確認されるまでの時間を測定し、10回の測定の平均値を求め耐摩耗性とした。なお360秒の擦過後でも白粉またはフィブリルの発生が見られなかった場合は360秒とした。このとき、耐摩耗性が180秒以上を◎、90秒以上180秒未満を○、60秒以上90秒未満を△、60秒未満を×とした。
J.製織性、織物特性評価
レピア織機にてタテ糸に13dtexのポリエステルモノフィラメントを用い、織密度を経、緯ともに250本/インチ(2.54cm)とし、打ち込み速度を100回/分とし、緯糸を液晶ポリエステルモノフィラメントとして緯打ち込み試織を行った。このとき、幅180cm、長さ10mの試織において、糸切れによる停台回数から製織性を評価し、織物長さ1m当たりの織物上の光沢斑の個数から織物品位を評価した。それぞれの判断基準を下記に示す。
<製織性>
◎:停台2回以下:優良
○:停台3〜5回:良好
△:停台6〜10回:やや不良
×:停台11回以上:不良
<織物品位評価>
◎:5個/m未満:優良
○:5個/m以上50個/m未満:良好
△:50個以上100個未満:やや不良
×:100個以上200個未満:不良 。
参考例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1460重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
得られた液晶ポリエステルの組成、融点、分子量は表1に記載の通りである。
実施例1
参考例1の液晶ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて330℃にて溶融させた後、紡糸温度340℃で配管内を通過させ、1口金2.7g/minとなるようにギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。紡糸パックでは金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、L/Dが2.0の口金より4糸条のポリマーを吐出した。吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、25℃、空気流の環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与し全フィラメントを1000m/分の第1ゴデットロールに引き取った。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、ダンサーアームを介したスピンドルトラバース型のパーンワインダー(パッケージに接触するコンタクトロール無し)にてパーンの形状に巻き取った。紡糸ドラフトは25であり、巻取中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。なお、得られた繊維の繊度は6.8dtex、強度は7.1cN/dtex、伸度は1.3%、弾性率は590cN/dtexであった。
この紡糸繊維パッケージから神津製作所社製プレシジョンワインダーSSP−MVのカムボックス部(トラバース装置)にIAI製電動シリンダーRCP−SAC3をリンク機構を介して接続した巻取装置(タッチロール無し、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて巻返しを行った。この際、キーエンス製変位センサIL−065でパッケージ外径を検出し、検出したパッケージ径に基づき、フリーレングスが一定となるように電動シリンダーを駆動させてカムボックス部を移動させた。紡糸繊維の解舒は、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に行い、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いてリン酸系化合物(B)として下記化学式(4)で示されるリン酸系化合物(B1)を10.0重量%含有する水溶液に無機粒子(A)として滑石であるタルク(メディアン径(D50)1.0μm)を1.0重量%分散させた固相重合用油剤の給油を行った。また、オイリングローラー下部において、回転ガイドでの糸道屈曲により張力を付与させ、巻張力を0.15cN/dtexとした。
巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)は19.5重量%であった。
次に巻き返したパッケージの固相重合を行なった。固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で290℃まで昇温し、15時間保持する条件にて固相重合を行った。なお、雰囲気は除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないように排気口より排気させた。
得られた固相重合後の繊維の繊度は6.2dtex、強度は22.3cN/dtex、伸度は2.4%、弾性率は1079cN/dtexであり、固相重合前の繊維と比べて強度、伸度、弾性率が向上しており、固相重合が進んでいることが確認できた。なお、得られた固相重合後の繊維のTm1は346℃、ΔHm1は7.9J/g、Tm1におけるピーク半値幅は6.1℃であった。
続いて、固相重合後のパッケージから繊維を解舒し、固相重合油剤除去のための洗浄を行なった。固相重合後のパッケージをフリーロールクリール(軸およびベアリングを有し、外層部は自由に回転できる。ブレーキおよび駆動源なし)にはめ、ここから糸を横方向(繊維周回方向)に引き出し、連続して、繊維を両端にスリットを設けた浴長150cm(接触長150cm)の浴槽(内部に繊維と接触するガイドなし)内に通し、油剤を洗浄除去した。洗浄液は非イオン・アニオン系の界面活性剤含有した50℃の温水を用いた。洗浄後の繊維はベアリングローラーガイドを通した後、400m/分のセパレートローラー付きの第1ローラーに通した。なお、クリールはフリーロールであるため、このローラーにより繊維に張力を付与することで、固相重合パッケージからの解舒を行ない、繊維を走行させることになる。
ローラーを通過した繊維を510℃に加熱した長さ1mのスリットヒーター間を走行させ、高温非接触熱処理を行なった。スリットヒーター内にはガイド類を設けず、またヒーターと繊維も非接触としている。ヒーター通過後の繊維はセパレートローラー付きの第2ローラーに通した。第1ローラーと第2ローラーは同速度とした。第2ローラーを通過した繊維は、セラミック製のオイリングローラーにより脂肪酸エステル化合物を主体とする仕上げ油剤を付与し、ダンサーアームを介したスピンドルトラバース方式のパーンワインダーにて巻き取った。この高温非接触熱処理で得られた繊維は強度17.3cN/dtex、弾性率730cN/dtexと、固相重合後の繊維に比べ低下しているが、Tm1は330℃、ΔHm1は0.6J/g、Tm1におけるピーク半値幅は29℃と結晶性が低下していることが確認された。
得られた繊維の物性は表2に示すとおり、表面粗さRaが0.033μm、最細径化率が5.5%、強力変動率が5.2%であり、繊維表面に微細凹凸が繊維の長手方向に渡って均一に形成されていることが確認され、耐摩耗性は優良であった。また、製織評価の結果、糸切れによる停台は1度もなく優良であり、織物上の光沢斑は1.6個/mと優良であった。
以上の結果から、得られたモノフィラメントは高精度印刷用スクリーン紗用途において、良好な特性を有することが期待できる。
実施例2、3
巻き返し時のオイリングローラーの回転数を変え、巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)を表2の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して、リン酸系化合物の付着率(b)が少ないために、実施例2,3ともに繊維表面の微細凹凸は小さくなり、耐摩耗性が劣位な結果となった。また、実施例1と同様に製織評価を実施した結果、実施例2、3ともに糸切れによる停台は一度もなく優良であり、織物上の光沢斑は実施例2では1.4個/m、実施例3では1.1個/mといずれも優良であった。
以上の結果を表2に示す。
実施例4〜6
巻き返し時のオイリングローラーの回転数を変え、巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)を表2の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して、リン酸系化合物の付着率(b)が多いために、繊維表面の微細凹凸は大きくなり、耐摩耗性が優位な結果となった。また、実施例1と同様に製織評価を実施した結果、実施例4では、糸切れによる停台が2回と優良であり、織物上の光沢斑は4.8個/mと優良であった。また、実施例5では糸切れによる停台が3回と良好であり、織物上の光沢斑は7.8個/mと良好であった。さらに実施例6では糸切れによる停台が4回と良好であり、織物上の光沢斑は10.5回/mと良好であった。
以上の結果を表2に示す。
比較例1、2
巻き返し時のオイリングローラーの回転数を変え、巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)を表3の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して、比較例1ではリン酸系化合物の付着率(b)が低いために繊維表面の微細凹凸は小さくなり、耐摩耗性が劣位な結果となった。一方、比較例2では実施例1と比較してリン酸系化合物の付着率(b)が高いために繊維表面の微細凹凸が過度に大きくなり、強度が著しく低下した。実施例1と同様の製織評価を実施した結果、比較例2では製織時の糸切れが多発し、不良であった。以上の結果を表3に示した。
比較例3
紡糸繊維パッケージを神津製作所社製プレシジョンワインダーSSP−MV(タッチロール有、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて巻返しを行い、面圧100gfを付加し、張力を紡糸繊維の縦方向の解舒張力のみ(張力付与無し)とした以外は実施例1の条件に準じて行った。
タッチロール有りの条件で巻返しを行ったために、得られたパッケージのストレート部とテーパーでの付着量差が顕在化し、実施例1と比較して繊維長手方向の微細凹凸の均一性が劣位となり、最細径化率および強力変動率が大きくなった。実施例1と同様に製織評価を実施した結果、製織時の糸切れによる停台が7回とやや不良であり、織物上の光沢斑欠点の割合が145.3個/mと不良であった。
以上の結果を表3に示す。
比較例4、5
巻き返し時のオイリングローラーの回転数を変え、巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)を表3の通り変えた以外は比較例3と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
比較例4,5ともに、タッチロール有りの条件で巻返しを行ったために、得られたパッケージのストレート部とテーパーでの付着量差が顕在化し、実施例1と比較して繊維長手方向の微細凹凸の均一性が劣位となり、最細径化率および強力変動率が大きくなった。
実施例1と同様に製織評価を実施した結果、比較例4では製織時の糸切れが多発し不良であり、織物上の光沢斑欠点の割合が158.5個/mと不良であった。また、比較例5では製織時の糸切れが6回とやや不良であり、織物上の光沢斑欠点の割合が110.3個/mと不良であった。
以上の結果を表3に示す。
実施例7
紡糸での吐出量を変更し、繊度を表4の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。なお、得られた紡糸繊維の繊度は3.6dtex、強度は6.9cN/dtex、伸度は1.3%、弾性率は580cN/dtexであった。また、固相重合後の繊維の繊度は3.3dtex、強度は24.3cN/dtex、伸度は2.5%、弾性率は1108cN/dtexであり、固相重合前の繊維と比べて強度、伸度、弾性率が向上しており、固相重合が進んでいることが確認できた。なお、得られた固相重合後の繊維のTm1は344℃、ΔHm1は7.7J/g、Tm1におけるピーク半値幅は5.9℃であった。
実施例1と比較して細繊度であり、固相重合用油剤の密着性が良好であるため、繊維表面の微細凹凸は大きく、耐摩耗性は優良であった。また、実施例1と比較して最細径化率および強力変動率も小さく、繊維長手方向に均一に微細凹凸が形成されていることを確認した。
さらに、実施例1と同様に製織評価を実施した結果、糸切れによる停台は一度もなく優良であり、織物上の光沢斑は1.2個/mと優良であった。
以上の結果を表4に示す。
実施例8、9
紡糸での吐出量を変更し、繊度を表4の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。なお、実施例8では、得られた紡糸繊維の繊度が8.2dtex、強度は7.0cN/dtex、伸度は1.3%、弾性率は600cN/dtexであった。また、固相重合後の繊維の繊度は7.5dtex、強度は23.9cN/dtex、伸度は2.5%、弾性率は1124cN/dtexであり、固相重合前の繊維と比べて強度、伸度、弾性率が向上しており、固相重合が進んでいることが確認できた。なお、得られた固相重合後の繊維のTm1は345℃、ΔHm1は7.9J/g、Tm1におけるピーク半値幅は6.2℃であった。
一方、実施例9では、得られた紡糸繊維の繊度は15.4dtex、強度は7.2cN/dtex、伸度は1.3%、弾性率は620cN/dtexであった。また、固相重合後の繊維の繊度は14.8dtex、強度は23.6cN/dtex、伸度は2.5%、弾性率は1115cN/dtexであり、固相重合前の繊維と比べて強度、伸度、弾性率が向上しており、固相重合が進んでいることが確認できた。なお、得られた固相重合後の繊維のTm1は346℃、ΔHm1は8.0J/g、Tm1におけるピーク半値幅は6.1℃であった。実施例8、9ともに、実施例1と比較して太繊度であり、固相重合用油剤の密着性に劣るため、繊維表面の微細凹凸は小さく、耐摩耗性は劣位な結果となった。また、実施例1と比較して最細径化率および強力変動率も大きく、繊維長手方向に微細凹凸均一性に劣る結果となった。以上の結果を表4に示す。
実施例10、11
巻き返し時の付与張力を変え、巻き返し後の繊維パッケージの巻密度を表3の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して実施例10、11では張力が低いため、糸揺れの影響により繊維長手方向の付着斑がやや劣位であり、最細径化率および強力変動率が高くなった。実施例1と同様に製織評価を実施した結果、実施例10では織物上の光沢斑が60.7個/mとやや不良であり、実施例11では織物上の光沢斑が15.5個/mと良好であった。
以上の結果を表4に示す。
実施例12、13
巻き返し時の付与張力を変え、巻き返し後の繊維パッケージの巻密度を表5の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して、実施例12、13は張力が高いため、巻返し時の糸条の走行が安定しており、繊維長手方向の付着均一性に優れ、最細径化率および強力変動率は低下した。実施例1と同様に製織評価を実施した結果、織物上の光沢斑は実施例12では1.4個/m、実施例13では1.1個/mといずれも優良であった。
以上の結果を表5に示す。
実施例14
巻き返し時の付与張力を変え、巻き返し後の繊維パッケージの巻密度を表5の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して実施例14では張力が高く、巻密度が高いため、融着の影響により強度が低下した。実施例1と同様に製織評価を実施した結果、糸切れによる停台が7回とやや不良であった。
以上の結果を表5に示す。
実施例15〜17
洗浄後の繊維の高温熱処理時の温度を、実施例15では580℃、実施例16では540℃、実施例17では480℃と変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して、実施例15および16では高温熱処理時の温度が高いため、弾性率が低く、ΔHm1が減少、かつTm1におけるピーク半値幅が増加し、耐摩耗性に優れる結果となった。一方、実施例17は実施例1と比較して高温熱処理時の温度が低いため、弾性率が高く、ΔHm1が増加、かつTm1におけるピーク半値幅が減少し、耐摩耗性に劣る結果となった。
以上の結果を表5に示す。
実施例18
洗浄後の繊維に高温熱処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。
実施例1と比較して、高温熱処理を施していないため、弾性率が高く、ΔHm1が増加、かつTm1におけるピーク半値幅が減少し、耐摩耗性に劣る結果となった。
以上の結果を表5に示す。