以下、本発明の実施の形態を、本発明に係るインバータ装置を誘導加熱装置に用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aの全体構成を説明するための図である。
誘導加熱装置Aは、直流電源1、インバータ装置(インバータ回路2および制御回路7)、コイル5、および、共振用コンデンサ6を備えている。誘導加熱装置Aは、直流電源1が出力する直流電流をインバータ回路2で高周波電流に変換して、コイル5に流すことで、電磁誘導を利用して加熱対象物Bを加熱する。
直流電源1は、直流電流を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、直流電源1は、交流電流を直流電流に変換して出力するものに限られず、例えば、燃料電池、蓄電池、太陽電池などの直流電流を出力するものであってもよい。
インバータ装置は、直流電源1から入力される直流電流を高周波電流に変換して、コイル5に出力するものである。インバータ装置は、インバータ回路2と制御回路7とを備えており、以下では「インバータ装置8」と記載する。インバータ装置8の詳細については、後述する。
コイル5は、磁界を発生させるためのものであり、導体線を螺線状に巻いたものである。本実施形態では、誘導加熱装置Aを加熱調理用のものとしており、コイル5の上部に加熱対象物Bとして鍋などを配置するので、コイル5を平面的に螺線状に巻いた渦巻形状としているが、これに限られない。コイル5の形状は、加熱対象物Bの形状や配置の状態に応じたものとすればよい。例えば、コイル5を円筒形状に巻いたいわゆるコイル形状として、その中央に加熱対象物Bを配置するようにしてもよい。コイル5は、インバータ装置8から入力される高周波電流が流れることで磁界を変化させる。これにより、この磁界に配置された例えば鍋などの加熱対象物Bに、渦電流が発生する。加熱対象物Bには、渦電流が流れることで電気抵抗によるジュール熱が発生し、自己発熱によって加熱対象物Bは加熱される。
共振用コンデンサ6は、コイル5によるインピーダンスを打ち消すためのものであり、コイル5に直列接続されることで直列共振回路を構成している。
コイル5と加熱対象物Bとは磁気結合しているので、コイル5、共振用コンデンサ6および加熱対象物Bをまとめて、インバータ装置8に接続された負荷と考えることができる。つまり、誘導加熱装置Aは、直流電源1が出力する直流電流をインバータ装置8が交流電流に変換して、負荷に供給するものである。インバータ装置8は、負荷に供給する電力を制御することができる。本実施形態では、インバータ装置8は、フェーズシフト制御により出力電力を制御する。
インバータ装置8は、単相フルブリッジ型のインバータ回路2と制御回路7とを備えている。インバータ回路2は、4個のスイッチング素子2a〜2d、4個のフライホイールダイオード3a〜3d、および、4個のスナバコンデンサ4a〜4dを備えている。本実施形態では、スイッチング素子2a〜2dとしてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子2a〜2dはMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。また、スナバコンデンサ4a〜4dの種類も限定されない。
スイッチング素子2aと2bとは、スイッチング素子2aのソース端子とスイッチング素子2bのドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子2aのドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子2bのソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。同様に、スイッチング素子2cと2dとが直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子2aと2bで形成されているブリッジ構造を先行アームとし、スイッチング素子2cと2dで形成されているブリッジ構造を追従アームとする。先行アームのスイッチング素子2aと2bとの接続点には出力ラインが接続され、追従アームのスイッチング素子2cと2dとの接続点にも出力ラインが接続されている。これら2つの出力ラインの間に、コイル5と共振用コンデンサ6とが直列接続されている。各スイッチング素子2a〜2dのゲート端子には、制御回路7から出力される駆動信号Pa’〜Pd’(後述)が入力される。
各スイッチング素子2a〜2dは、それぞれ駆動信号Pa’〜Pd’に基づいて、オン状態とオフ状態とを切り替えられる。各アームの両端はそれぞれ直流電源1の正極と負極とに接続されているので、正極側のスイッチング素子がオン状態で負極側のスイッチング素子がオフ状態の場合、当該アームの出力ラインの電位は直流電源1の正極側の電位となる。一方、正極側のスイッチング素子がオフ状態で負極側のスイッチング素子がオン状態の場合、当該アームの出力ラインの電位は直流電源1の負極側の電位となる。これにより、直流電源1の正極側の電位と負極側の電位とが切り替えられたパルス状の電圧信号が各出力ラインから出力され、2つの出力ライン間の電圧である線間電圧が交流電圧となる。
フライホイールダイオード3a〜3dは、スイッチング素子2a〜2dのドレイン端子とソース端子との間に、それぞれ逆並列に接続されている。すなわち、フライホイールダイオード3a〜3dのアノード端子はそれぞれスイッチング素子2a〜2dのソース端子に接続され、フライホイールダイオード3a〜3dのカソード端子はそれぞれスイッチング素子2a〜2dのドレイン端子に接続されている。フライホイールダイオード3a〜3dは、それぞれスイッチング素子2a〜2dの切り替えによって発生する逆起電力による逆方向の高い電圧がスイッチング素子2a〜2dに印加されないようにするためのものである。
本実施形態において、フライホイールダイオード3a,3bは、MOSFETの寄生ダイオードをファーストリカバリダイオード化したものであり、フライホイールダイオード3c,3dはMOSFETのノーマルタイプの寄生ダイオードである。すなわち、スイッチング素子2aおよびフライホイールダイオード3a(スイッチング素子2bおよびフライホイールダイオード3b)が、寄生ダイオードがファーストリカバリダイオードの特性を有するように形成されたファーストリカバリダイオードタイプのMOSFETであり、スイッチング素子2cおよびフライホイールダイオード3c(スイッチング素子2dおよびフライホイールダイオード3d)が、寄生ダイオードがノーマルタイプのシリコンダイオードの特性を有するように形成されたノーマルタイプのMOSFETである。
図2は、ダイオードのスイッチング特性を説明するための図であり、順方向電流IFが流れている状態から逆方向電圧を印加した時の、ダイオードに流れる電流I、および、ダイオードの端子間電圧Vの変化を示している。同図(a)は、ノーマルタイプのシリコンダイオード(フライホイールダイオード3c,3dに相当)のものであり、同図(b)は、ファーストリカバリダイオード(フライホイールダイオード3a,3bに相当)のものである。
逆方向電圧が印加されると、ダイオードに流れる電流Iは急減し、逆方向に電流が流れる。pn接合部に蓄積されている少数キャリアがなくなるまで逆方向電流が増加し、電流Iは、逆回復電流ピーク値IR1から特定の逆方向電流IR2(通常、IR1の25%)を経てゼロになる。電流Iが急減してゼロになってからIR2になるまでの時間が逆回復時間trrであり、この期間の電流積分値(図における斜線部分の面積)が逆回復電荷Qrrである。図2(a)、(b)に示すように、ファーストリカバリダイオードは、ノーマルタイプのシリコンダイオードより、逆回復電荷Qrrが小さいので、逆回復時間trrが短く、逆回復電流ピーク値IR1が小さい。
スナバコンデンサ4a〜4dは、スイッチング素子2a〜2dのドレイン端子とソース端子との間に、それぞれ接続されている。スナバコンデンサ4a〜4dは、スイッチング素子2a〜2dの切り替えによってドレイン端子とソース端子との間に印加されるサージ電圧を吸収するものである。なお、スナバコンデンサ4a〜4dにそれぞれ抵抗を直列接続してスナバ回路としてもよい。なお、スナバコンデンサ4a〜4dは、備えないようにしてもよい。
制御回路7は、インバータ回路2の制御を行うものであり、直流電源1に入力される交流電力が目標電力になるようにフィードバック制御することで、インバータ回路2の出力電力を制御する。制御回路7は、フェーズシフト制御によってインバータ回路2の制御を行う。すなわち、追従アームのスイッチング素子2c(2d)に出力する駆動信号Pc’(Pd’)の位相を先行アームのスイッチング素子2a(2b)に出力する駆動信号Pa’(Pb’)の位相より遅らせるが、この位相差θを変化させることで、出力電力の制御を行う。
図3は、フェーズシフト制御を行うインバータ装置の駆動信号の波形を示す図であり、位相差の変化により出力電力が変化することを説明するための図である。
同図においては、駆動信号の周波数を25kHzに固定して、2つの駆動信号の位相差θを変化させており、同図(a)は同図(b)より位相差θが大きい場合であり、同図(c)は同図(b)より位相差θが小さい場合である。
各図3(a)、(b)、(c)において、一番上は先行アームのスイッチング素子2aに入力される駆動信号Pa’の波形を示し、その下は追従アームのスイッチング素子2cに入力される駆動信号Pc’の波形を示し、その下はコイル5に流れる電流の電流信号Iを示し、一番下は負荷に印加される電圧の電圧信号Vを示している。
図3に示すように、位相差θを小さくすると、負荷に電圧が印加される時間が短くなり(電圧信号V参照)、電流信号Iの振幅が小さくなって、インバータ回路2の出力電力が小さくなる。逆に、位相差θを大きくすると、負荷に電圧が印加される時間が長くなり、電流信号Iの振幅が大きくなって、インバータ回路2の出力電力が大きくなる。位相差θは、0からπまで変化可能であり、位相差θ=πのとき出力電力が最大になり、位相差θ=0のとき出力電力が最小になる。
また、制御回路7は、追従アームが進み位相(進み力率)運転にならないように、電流信号の位相が電圧信号の位相より遅れる遅れ位相の状態を維持する制御を行う。上述したように、本実施形態では、先行アームのスイッチング素子2a,2bにそれぞれ逆並列接続されるフライホイールダイオード3a,3bをファーストリカバリダイオードとしているので、先行アームが進み位相運転になっても、大きな逆回復電流が流れることを抑制することができる。しかし、追従アームのスイッチング素子2c,2dにそれぞれ逆並列接続されるフライホイールダイオード3c,3dはノーマルタイプのシリコンダイオードなので、追従アームが進み位相運転になると、大きな逆回復電流が流れる。これを避けるために、追従アームが進み位相運転にならないようにしている。具体的には、制御回路7は、追従アームにおける電圧と電流との位相差(以下では、「電圧電流位相差」とする)を所定の位相差と比較して、電圧電流位相差が所定の位相差より小さくならないようにしている。所定の位相差には、ゼロまたはゼロより少し大きい値が設定される。
図3に示すように、駆動信号Pa’の位相と電流信号Iの位相との位相差φ1と、駆動信号Pc’の位相と電流信号Iの位相との位相差φ2とは異なっている。図3に示す電流信号Iは、先行アームから追従アームに流れる方を正として表示している。したがって、位相差φ1は駆動信号Pa’の立ち上がりから電流信号Iの負から正へのゼロクロスまでの位相差とし、位相差φ2は駆動信号Pc’の立ち上がりから電流信号Iの正から負へのゼロクロスまでの位相差としている。駆動信号Pa’の位相は先行アームの電圧信号の位相に一致し、駆動信号Pc’の位相は追従アームの電圧信号の位相に一致するので、位相差φ1および位相差φ2は各アームでの電圧電流位相差を意味している。したがって、以下では、それぞれ「電圧電流位相差φ1」および「電圧電流位相差φ2」とする。
また、図3に示すように、位相差θを小さくすると、電圧電流位相差φ1は小さくなり、電圧電流位相差φ2は大きくなる。逆に、位相差θを大きくすると、電圧電流位相差φ1は大きくなり、電圧電流位相差φ2は小さくなる。そして、位相差θが最大のπになった時に、電圧電流位相差φ1と電圧電流位相差φ2とが一致する。したがって、通常、電圧電流位相差φ1の方が電圧電流位相差φ2より小さくなり、先行アームの方が追従アームより進み位相運転になりやすい。本実施形態では、進み位相運転になりやすい先行アームにおいて、フライホイールダイオード3a,3bをファーストリカバリダイオードとする対策を行っている。
図3においては、2つの駆動信号の位相差θのみを変化させ、その他の条件は固定したままなので、電圧電流位相差φ2がゼロより小さくなることはなく、追従アームが進み位相運転になることはない。しかし、実際には、共振周波数が変化することにより、瞬時的に追従アームが進み位相運転になることがある。例えば、加熱対象物Bの素材が鉄や強磁性ステンレスの場合、コイル5、共振用コンデンサ6および加熱対象物Bをまとめた負荷のインダクタンス値は大きいので、共振周波数は低い。一方、加熱対象物Bの素材が銅やアルミなどの非磁性金属の場合、負荷のインダクタンス値は小さいので、共振周波数は高い。したがって、加熱対象物Bを、銅製の鍋から鉄製のフライパンに入れ替えた場合などには、共振周波数が急激に低下する。このとき、共振周波数が駆動信号の周波数より低くなって、追従アームが進み位相運転になる場合がある。また、加熱対象物Bを、コイル5から離したり近づけたり、加熱対象物Bの位置をずらしたりすることによっても、共振周波数は変化する。つまり、誘導加熱装置Aを加熱調理用に用いる場合、追従アームも進み位相運転になってしまう場合がある。本実施形態では、電圧電流位相差φ2が所定の位相差より小さくならないようにすることで、追従アームが進み位相運転にならないようにしている。
制御回路7は、電力算出部71、電力設定部72、電流検出部75、位相差検出部76、パルス信号生成部73、および、ドライバ74を備えている。
電力算出部71は、電力系統から直流電源1に入力される交流電力の電力値を算出するものである。図1においては図示されていないが、直流電源1には電力系統と整流回路との間に電流センサおよび電圧センサが設けられている。当該電流センサは、電力系統から直流電源1に入力される交流電流を検出して、電力算出部71に出力している。また、当該電圧センサは、電力系統から直流電源1に入力される交流電圧を検出して、電力算出部71に出力している。電力算出部71は、電流センサおよび電圧センサからの入力に基づいて、直流電源1に入力される交流電力の電力値Pを算出して、パルス信号生成部73に出力する。なお、電力算出部71を直流電源1に設けて、電力値Pを直流電源1から制御回路7に入力するようにしてもよい。
電力設定部72は、電力値Pの目標値P*を設定するものであり、設定された目標値P*をパルス信号生成部73に出力する。電力設定部72は、図示しない操作手段の操作に応じて、目標値P*を設定する。操作手段は、例えば、つまみの回動位置により目標値P*を変化させるものであり、一方方向(例えば反時計回り)につまみを回動させると目標値P*が小さい値に設定され、他方方向(例えば時計回り)につまみを回動させると目標値P*が大きい値に設定される。
電流検出部75は、インバータ回路2の先行アームの出力ラインに設けられた電流センサによって、先行アームの出力電流を検出し、検出した電流信号Iを位相差検出部76に出力するものである。
位相差検出部76は、追従アームにおける電圧電流位相差φ2を検出するものである。位相差検出部76には、追従パルス信号生成部735(後述)が出力するパルス信号Pcと、電流検出部75が出力する電流信号Iとが入力される。パルス信号Pcは、駆動信号Pc’の元になる信号であり、位相が一致している。また、駆動信号Pc’の位相は追従アームの電圧信号の位相に一致している。したがって、追従アームの電圧信号を検出する代わりに、パルス信号Pcを用いている。位相差検出部76は、パルス信号Pcと電流信号Iとから追従アームにおける電圧電流位相差φ2を検出する。
図4は、位相差検出部76の内部構成を説明するための図である。
位相差検出部76は、二値化回路761、否定回路762、論理積回路763、および、平滑回路764を備えている。
二値化回路761は、電流検出部75より入力される電流信号Iの正負に応じて二値化したディジタル信号である電流二値化信号を生成するものである。否定回路762は、論理回路であり、二値化回路761より入力される電流二値化信号を反転させるものである。追従アームの出力電流信号は先行アームの出力電流信号を反転したものになるので、否定回路762が出力する信号は、追従アームの出力電流信号を二値化した信号に相当する。なお、電流検出部75が、追従アームの出力ラインに設けられた電流センサによって、追従アームの出力電流を検出して二値化回路761に入力するようにすれば、否定回路762を設ける必要はない。
論理積回路763は、論理回路であり、追従パルス信号生成部735より入力されるパルス信号Pcと、否定回路762より入力される電流二値化信号を反転させた信号(以下では、「反転信号」とする)との論理積を出力する。論理積回路763の出力は、パルス信号Pcおよび反転信号が共にハイレベルの場合にのみハイレベルになり、それ以外の場合はローレベルになる。パルス信号Pcと反転信号との位相差が小さい場合、ハイレベル期間が重なる時間が長くなるので、論理積回路763の出力がハイレベルになる時間が長くなる。逆に、パルス信号Pcと反転信号との位相差が大きい場合、ハイレベル期間が重なる時間が短くなるので、論理積回路763の出力がハイレベルになる時間が短くなる。
平滑回路764は、積分回路であり、論理積回路763が出力する信号を平滑化して、アナログ電圧信号として出力する。論理積回路763の出力がハイレベルになる時間が長いほど、すなわち、パルス信号Pcと反転信号との位相差が小さいほど、平滑回路764の出力は大きくなる。パルス信号Pcの波形は追従アームの電圧信号の波形に一致し、電流信号Iを反転した信号が追従アームの電流信号である。したがって、追従アームにおける電圧電流位相差φ2が小さいほど、平滑回路764の出力電圧は大きくなる。
以上により、位相差検出部76は、電圧電流位相差φ2に対応する電圧を出力する。位相差検出部76の出力電圧は、電圧電流位相差φ2が小さいほど大きな電圧になる。
図5は、位相差検出部76の入出力信号を説明するための波形図である。
同図(a)は電流信号Iを示し、同図(b)は二値化回路761によって電流信号Iを二値化した電流二値化信号を示し、同図(c)は否定回路762によって電流二値化信号を反転させた反転信号を示している。そして、同図(d)は、パルス信号Pcを示している。
同図(e)は、論理積回路763の出力であり、反転信号(同図(c)参照)とパルス信号Pc(同図(d)参照)との論理積である。反転信号およびパルス信号Pcが共にハイレベルの期間のみハイレベルになっている。同図(f)は、平滑回路764の出力電圧であり、論理積回路763の出力(同図(e)参照)を平滑化したものである。
位相差検出部76は、平滑回路764の出力電圧(同図(f)参照)を出力する。パルス信号Pc(同図(d)参照)と反転信号(同図(c)参照)との位相差が小さくなるほど、平滑回路764の出力電圧(同図(f)参照)が大きくなり、位相差検出部76からの出力電圧が大きくなる。
なお、図4は位相差検出部76の内部構成の一例を示しているだけであり、位相差検出部76の内部構成は、これに限られない。
位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2と所定の位相差φ*との差分Δφがパルス信号生成部73に入力される。具体的には、位相差検出部76が出力する電圧電流位相差φ2に対応する電圧と、所定値φ*に対応する電圧との差分電圧がディジタル値に変換されて、パルス信号生成部73に入力される。
パルス信号生成部73は、パルス信号Pa〜Pdを生成するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。パルス信号生成部73は、電力算出部71から入力される電力値Pと、電力設定部72から入力される目標値P*とに基づいてパルス信号Pa〜Pdを生成し、ドライバ74に出力する。また、パルス信号生成部73は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないようにする。パルス信号生成部73は、電力制御部731、先行パルス信号生成部734、および、追従パルス信号生成部735を備えている。
電力制御部731は、インバータ回路2に入力される電力の制御を行うためのものである。電力制御部731は、電力算出部71より出力される電力値Pと、電力設定部72より出力される目標値P*との電力偏差ΔP(=P*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを追従パルス信号生成部735に出力する。電力制御部731は、例えば、比例積分(PI)制御を行っている。また、電力制御部731は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*になった場合、駆動信号の位相差θをそれ以上大きくしないようにするために、電力補償値Xを調整する。具体的には、電圧電流位相差φ2と所定値φ*との差分Δφが正の値の間(電圧電流位相差φ2に対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧より小さい間)は、電力補償値Xをそのまま出力するが、差分Δφがゼロになると(電圧電流位相差φ2に対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧に一致すると)、電力補償値Xを正の値にしないようにする。
先行パルス信号生成部734は、先行アームのスイッチング素子2aおよび2bに入力される駆動信号Pa’およびPb’の元になるパルス信号PaおよびPbを生成して、ドライバ74に出力する。先行パルス信号生成部734は、所定の周期でデューティ比が50%であるパルス信号Paを生成して出力する。また、先行パルス信号生成部734は、パルス信号Paを反転させた信号をパルス信号Pbとして出力する。
追従パルス信号生成部735は、追従アームのスイッチング素子2cおよび2dに入力される駆動信号Pc’およびPd’の元になるパルス信号PcおよびPdを生成して、ドライバ74に出力する。追従パルス信号生成部735は、所定の周期でデューティ比が50%であり、電力制御部731より入力される電力補償値Xに応じて位相を遅らせたパルス信号Pcを生成して出力する。また、追従パルス信号生成部735は、パルス信号Pcを反転させた信号をパルス信号Pdとして出力する。
インバータ装置8の起動時には、パルス信号PaおよびPc(PbおよびPd)の位相は一致している。操作部の操作により、電力設定部72が目標値P*をゼロから大きくすることにより、追従パルス信号生成部735がパルス信号の位相を遅らせることで、インバータ回路2から電力が出力される。
なお、パルス信号生成部73によるパルス信号の生成方法は、上述したものに限られない。電力制御部731より入力される電力補償値Xに応じて、パルス信号PcおよびPdの位相の遅れを変化させることができればよい。また、本実施形態においては、デューティ比を50%にした場合について説明しているが、これに限られない。50%はあくまで例示であって、50%以外の所定値としてもよい。
本実施形態では、パルス信号生成部73をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータをパルス信号生成部73として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
ドライバ74は、パルス信号生成部73から入力されるパルス信号Pa〜Pdを増幅して、各スイッチング素子2a〜2dを駆動できるレベルの駆動信号Pa’〜Pd’として出力する。本実施形態では、ドライバ74を、パルストランス方式のゲートドライブ回路としている。なお、ドライバ74は、パルストランス方式のゲートドライブ回路に限定されず、フォトカプラ方式などの他の方式のゲートドライブ回路としてもよい。ドライバ74は、入力されるパルス信号Pa〜Pdのデューティ比が50%であることを想定して設計される。すなわち、デューティ比が50%の場合に問題なく動作し得る最も経済的な設計がなされる。なお、スイッチング素子2aおよび2b(2cおよび2d)が瞬間的に両方ともオン状態になってしまうことを防ぐために、駆動信号Pa’〜Pd’にデッドタイムを設けるようにしてもよい。
次に、誘導加熱装置Aの作用と効果について説明する。
誘導加熱装置Aは、電力算出部71が算出する電力値Pが、電力設定部72によって設定される目標値P*になるようにフィードバック制御を行う。直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より大きくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が小さい値に変更された場合、電力偏差ΔPが負の値になる。この場合、電力制御部731から出力される電力補償値Xが負の値になり、電力補償値Xを入力された追従パルス信号生成部735が出力するパルス信号の位相が進んで位相差が小さくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が小さくなって、直流電源1に入力される電力が小さくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。逆に、直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より小さくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が大きい値に変更された場合、電力偏差ΔPが正の値になる。この場合、電力制御部731から出力される電力補償値Xが正の値になり、電力補償値Xを入力された追従パルス信号生成部735が出力するパルス信号の位相が遅れて位相差が大きくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が大きくなって、直流電源1に入力される電力が大きくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。
位相差検出部76は、追従アームにおける電圧電流位相差φ2を検出する。そして、パルス信号生成部73は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないように制御する。
本実施形態において、位相差検出部76によって検出された電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないように制御するので、追従アームは進み位相運転にならない。また、先行アームのスイッチング素子2a,2bにそれぞれ逆並列接続されるフライホイールダイオード3a,3bはファーストリカバリダイオードである。ファーストリカバリダイオードは、ノーマルタイプのシリコンダイオードより逆回復電荷Qrrが小さいので、逆回復時間trrが短く、逆回復電流ピーク値IR1が小さい。したがって、先行アームが進み位相運転になっても、大きな逆回復電流が流れることを抑制することができる。
また、追従アームのスイッチング素子2c,2dにそれぞれ逆並列接続されるフライホイールダイオード3c,3dはノーマルタイプのシリコンダイオードである。ファーストリカバリダイオードタイプのMOSFET(スイッチング素子2aとフライホイールダイオード3a、および、スイッチング素子2bとフライホイールダイオード3b)は、ノーマルタイプのMOSFET(スイッチング素子2cとフライホイールダイオード3c、および、スイッチング素子2dとフライホイールダイオード3d)より高価である。したがって、追従アーム側のMOSFET(スイッチング素子2cとフライホイールダイオード3c、および、スイッチング素子2dとフライホイールダイオード3d)もファーストリカバリダイオードタイプとした場合と比べて、製造コストの増加を抑制することができる。
また、ノーマルタイプのMOSFETのオン抵抗は、ファーストリカバリダイオードタイプのMOSFETのオン抵抗よりより小さくなる。したがって、追従アーム側のMOSFETもファーストリカバリダイオードタイプとした場合と比べて、定常損失を抑制することができる。
なお、本実施形態においては、フライホイールダイオード3a〜3dがMOSFETの寄生ダイオードである場合について説明したが、これに限られない。各スイッチング素子2a〜2dにフライホイールダイオード3a〜3dをそれぞれ接続するようにしてもよい。
本実施形態においては、フライホイールダイオード3a,3bがファーストリカバリダイオードである場合について説明したがこれに限られない。フライホイールダイオード3a,3bは、ノーマルタイプのシリコンダイオードより逆回復電荷が小さいダイオードであればよい。例えば、ファーストリカバリダイオードより逆回復特性をさらに高めたHED(High Efficiency Diode)やLLD(Low Loss Diode)であってもよい。また、ショットキーバリアダイオードであってもよい。
また、フライホイールダイオード3a,3bを、シリコンより大きいバンドギャップを有するワイドバンドギャップ半導体(例えば、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)など)を用いたダイオードとしてもよい。ワイドバンドギャップ半導体を用いたダイオードも、ノーマルタイプのシリコンダイオードより逆回復電荷が小さい。
また、スイッチング素子2a,2bを、ワイドバンドギャップ半導体を用いたMOSFETとしてもよい。すなわち、スイッチング素子2a,2bおよびフライホイールダイオード3a,3bを、ワイドバンドギャップ半導体を用いたものとしてもよい。また、ワイドバンドギャップ半導体を用いたMOSFETの寄生ダイオードをフライホイールダイオード3a,3bとしてもよい。
なお、位相差検出部76の内部構成は、図4に示すものに限定されない。追従アームにおける電圧電流位相差φ2を検出することができるものであればよい。
図6は、第1実施形態に係る位相差検出部76の他の実施例を説明するための図である。
位相差検出部76’は、図4に示す位相差検出部76の論理積回路763および平滑回路764に代えて、計時回路769を設けたものである。位相差検出部76’は、パルス信号Pcと反転信号のハイレベル期間の重なりを検出する代わりに、パルス信号Pcと反転信号のゼロクロス点の時間差を検出することで電圧電流位相差を検出している。
計時回路769は、追従パルス信号生成部735より入力されるパルス信号Pcの立ち上がりのゼロクロス点から、否定回路762より入力される反転信号の立ち上がりのゼロクロス点までの時間差を検出して出力する。つまり、計時回路769は、電圧電流位相差φ2に対応する時間差を出力する。
位相差検出部76’の出力値は、電圧電流位相差φ2が小さいほど小さな値になる。電力制御部731(図1参照)は、電圧電流位相差φ2に対応する時間差が所定値φ*に対応する時間差より小さくならないように、電力補償値Xを調整する。
本実施形態においては、直流電源1に入力される交流電力がインバータ回路2の出力電力とほぼ同じであることを利用して、直流電源1に入力される交流電力を制御することで、インバータ回路2の出力電力を制御しているが、これに限られない。例えば、インバータ回路2の出力電力を直接制御するようにしてもよい。すなわち、電力算出部71がインバータ回路2の出力電流および出力電圧から出力電力を算出し、電力設定部72が出力電力の目標値を設定するようにしてもよい。また、直流電源1からインバータ回路2に入力される直流電力を制御するようにしてもよい。また、直流電源1に入力される交流電流を制御するようにしてもよいし、当該交流電流から推定される交流電力を制御するようにしてもよい。
上記第1実施形態においては、フェーズシフト制御を行う場合について説明したが、これに限られない。本発明は、周波数制御を行う場合においても、2つのアームのスイッチング素子に入力する駆動信号の位相をずらして制御する場合に有効である。周波数制御を行う場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
図7は、周波数制御を行うインバータ装置の駆動信号の波形を示す図であり、周波数の変化により出力電力が変化することを説明するための図である。
同図においては、2つの駆動信号の位相差を(3/4)πに固定して、これら駆動信号の周波数f(周期T)を変化させており、同図(a)は同図(b)より周波数fが大きい(周期Tが小さい)場合であり、同図(c)は同図(b)より周波数fが小さい(周期Tが大きい)場合である。
各図7(a)、(b)、(c)において、一番上は先行アームのスイッチング素子2aに入力される駆動信号Pa’の波形を示し、その下は追従アームのスイッチング素子2cに入力される駆動信号Pc’の波形を示し、その下はコイル5に流れる電流の電流信号Iを示し、一番下は負荷に印加される電圧の電圧信号Vを示している。
図7に示すように、周波数fを小さく(周期Tを大きく)すると、負荷に電圧が印加される時間が長くなり(電圧信号V参照)、電流信号Iの振幅が大きくなって、インバータ回路2の出力電力が大きくなる。逆に、周波数fを大きく(周期Tを小さく)すると、負荷に電圧が印加される時間が短くなり、電流信号Iの振幅が小さくなって、インバータ回路2の出力電力が小さくなる。
また、図7に示すように、周波数fを小さく(周期Tを大きく)すると、電圧電流位相差φ1は小さくなり、電圧電流位相差φ2は大きくなる。逆に、周波数fを大きく(周期Tを小さく)すると、電圧電流位相差φ1は大きくなり、電圧電流位相差φ2は小さくなる。
図8は、第2実施形態に係る誘導加熱装置A2を説明するための図である。同図においては、第1実施形態に係る誘導加熱装置A(図1参照)と共通する部分の記載を省略して、パルス信号生成部73’を中心に記載しており、誘導加熱装置Aと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図8に示す誘導加熱装置A2は、周波数制御を行う点で、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aと異なる。
電力制御部731は、電力値Pと目標値P*との電力偏差ΔP(=P*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを周波数指令部736に出力する。また、電力制御部731は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*になった場合、駆動信号の周波数をそれ以上大きくしないようにするために、電力補償値Xを調整する。具体的には、電圧電流位相差φ2と所定値φ*との差分Δφが正の値の間(電圧電流位相差φ2に対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧より小さい間)は、電力補償値Xをそのまま出力するが、差分Δφがゼロになると(電圧電流位相差φ2に対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧に一致すると)、電力補償値Xを負の値にしないようにする。
周波数指令部736は、パルス信号Pa〜Pdの周波数を指令するものである。周波数指令部736は、電力制御部731より入力される電力補償値Xに応じて変化させた周波数を先行パルス信号生成部734および追従パルス信号生成部735に出力する。周波数指令部736は、電力補償値Xが正の値の場合、値に応じて周波数を小さくし、電力補償値Xが負の値の場合、その絶対値に応じて周波数を大きくする。
先行パルス信号生成部734は、周波数指令部736が指令する周波数で、デューティ比が50%であるパルス信号Paを生成して、ドライバ74に出力する。また、先行パルス信号生成部734は、パルス信号Paを反転させた信号をパルス信号Pbとして、ドライバ74に出力する。
追従パルス信号生成部735は、周波数指令部736が指令する周波数で、デューティ比が50%であるパルス信号Pcを生成して、ドライバ74に出力する。追従パルス信号生成部735は、パルス信号Pcの位相を所定の位相だけ遅らせて出力する。また、追従パルス信号生成部735は、パルス信号Pcを反転させた信号をパルス信号Pdとして、ドライバ74に出力する。
誘導加熱装置A2は、電力算出部71が算出する電力値Pが、電力設定部72によって設定される目標値P*になるようにフィードバック制御される。直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より大きくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が小さい値に変更された場合、電力偏差ΔPが負の値になる。この場合、電力制御部731から出力される電力補償値Xが負の値になり、周波数指令部736が指令する周波数は大きくなり、先行パルス信号生成部734および追従パルス信号生成部735が出力するパルス信号の周波数は大きくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が小さくなって、直流電源1に入力される電力が小さくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。逆に、直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より小さくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が大きい値に変更された場合、電力偏差ΔPが正の値になる。この場合、電力制御部731から出力される電力補償値Xが正の値になり、周波数指令部736が指令する周波数は小さくなり、先行パルス信号生成部734および追従パルス信号生成部735が出力するパルス信号の周波数は小さくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が大きくなって、直流電源1に入力される電力が大きくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。
位相差検出部76は、追従アームにおける電圧電流位相差φ2を検出する。そして、パルス信号生成部73’は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないように制御する。
第2実施形態においても、電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないように制御し、フライホイールダイオード3a,3bをファーストリカバリダイオードとし、フライホイールダイオード3c,3dをノーマルタイプのシリコンダイオードとしている。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
第1実施形態においては、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないようにするために、差分Δφがゼロになると、電力補償値Xを正の値にしないようにして、先行アーム側のパルス信号と追従アーム側のパルス信号との位相差をそれ以上小さくしないようにする。この場合、位相差を大きくすることができないため、出力電力を大きくすることができない。逆に、第2実施形態においては、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないようにするために、差分Δφがゼロになると、電力補償値Xを負の値にしないようにして、各パルス信号の周波数をそれ以上大きくしないようにする。この場合、周波数を大きくすることができないため、出力電力を小さくすることができない。
通常はフェーズシフト制御を行い、差分Δφがゼロになった状態で出力電力を大きくする場合に、周波数制御に切り替えるようにしてもよい。この制御を切り替える場合を、第3実施形態として、以下に説明する。
図9は、第3実施形態に係る誘導加熱装置A3を説明するための図である。同図においては、第1実施形態に係る誘導加熱装置A(図1参照)と共通する部分の記載を省略して、パルス信号生成部73”を中心に記載しており、誘導加熱装置Aと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図9に示す誘導加熱装置A3は、フェーズシフト制御と周波数制御とを切り替える点で、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aと異なる。
電力制御部731は、電力値Pと目標値P*との電力偏差ΔP(=P*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを制御切替部737に出力する。
制御切替部737は、電力補償値Xの出力先を切り替えて、フェーズシフト制御と周波数制御とを切り替えるものである。制御切替部737は、通常時は、電力補償値Xを追従パルス信号生成部735に出力して、第1実施形態に係るパルス信号生成部73と同様にフェーズシフト制御を行うようにする。しかし、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φ2が所定値φ*になった場合で、電力補償値Xが正の値の場合、電力補償値Xを周波数指令部736に出力して、第2実施形態に係るパルス信号生成部73’と同様に周波数制御を行うようにする。これにより、パルス信号の周波数を小さくして、出力を大きくすることができる。フェーズシフト制御から周波数制御に切り替えられたときに、先行アーム側のパルス信号と追従アーム側のパルス信号との位相差は固定され、当該位相差のままで周波数制御が行われる。
第3実施形態においても、電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないように制御し、フライホイールダイオード3a,3bをファーストリカバリダイオードとし、フライホイールダイオード3c,3dをノーマルタイプのシリコンダイオードとしている。したがって、第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
第1ないし第3実施形態においては、フライホイールダイオード3a,3bをファーストリカバリダイオードとすることで、先行アームの進み位相運転に対する対策を行っているが、先行アームの進み位相運転に対する対策は、これに限られない。
例えば、先行アーム側のスイッチング素子2aおよび2bを、追従アーム側のスイッチング素子2cおよび2dより電流容量が大きいものとしてもよい。電流容量が大きいスイッチング素子は熱容量も大きいので、進み位相運転になって、大きな逆回復電流が流れた場合でも、スイッチング素子が故障してしまうことを抑制することができる。また、図10に示すように、先行アーム側のスイッチング素子を、ノーマルタイプのシリコンダイオードであるフライホイールダイオード3a’(3b’)を逆並列接続されたスイッチング素子2a(2b)を複数並列接続させたもの(図10においては、2つのスイッチング素子を並列接続させている)としてもよい。この場合、各スイッチング素子2a(2b)に流れる電流は分散される(図10のように、2つ並列接続している場合は約半分になる)ので、進み位相運転になって、大きな逆回復電流が流れた場合でも、スイッチング素子が故障してしまうことを抑制することができる。
また、図11に示すように、回路基板12上の配置において、先行アーム側のスイッチング素子2aおよび2bが搭載されたモジュール13aを、追従アーム側のスイッチング素子2cおよび2dが搭載されたモジュール13bより、送風ファン11に近い位置に配置するようにしてもよい。この場合、送風ファン11からの冷たい風が、まず、モジュール13aに取り付けられたヒートシンクを通ることで、モジュール13aを冷却する。そして、モジュール13aのヒートシンクで温められた風が、モジュール13bに取り付けられたヒートシンクを通ることで、モジュール13bを冷却する。つまり、モジュール13aの方がよく冷却されるので、先行アームが進み位相運転になって、スイッチング素子2aおよび2bに大きな逆回復電流が流れた場合でも、スイッチング素子が故障してしまうことを抑制することができる。なお、モジュール13aとモジュール13bの上述の配置に加えて、または、代わりに、モジュール13aのヒートシンクを、モジュール13bのヒートシンクより冷却機能が高いものにしてもよい。
これらの場合でも、すべてのスイッチング素子2a〜2dに対して進み位相運転に対する対策を行う場合と比べて、製造コストの増加を抑制することができる。
第1ないし第3実施形態においては、誘導加熱装置のインバータ装置8に、本発明を用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明は、2つのアームのスイッチング素子に入力する駆動信号の位相をずらして制御するすべてのインバータ装置に用いることができる。例えば、電源装置(高周波電源装置や溶接電源装置、ワイヤレス給電装置など)や駆動装置のインバータ装置に本発明を用いるようにしてもよい。つまり、図1における負荷(コイル5、共振用コンデンサ6および加熱対象物B)に代えて、別の負荷にインバータ装置8が電力を供給する場合にも、本発明を用いることができる。本発明に係るインバータ装置をワイヤレス給電装置に用いた場合を、第4実施形態として、以下に説明する。
図12は、第4実施形態に係るワイヤレス給電装置を説明するための図である。
図12に示すワイヤレス給電装置A4は、高周波電力を送電する送電装置A41、および、送電装置A41が送電した高周波電力を受電する受電装置A42を備えている。
送電装置A41は、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aと同様の構成であり、図1に示す誘導加熱装置Aと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。送電装置A41は、直流電源1が出力する直流電流をインバータ回路2で高周波電流に変換し、コイル5に流すことで、コイル5に発生する磁界を変化させる。制御回路7は、システム効率を最大にするために、インバータ回路2への入力電力を一定にするフェーズシフト制御を行う。
受電装置A42は、コイル5に磁気結合するコイル5’、コイル5’に直列接続されて、直列共振回路を構成する共振用コンデンサ6’、および、コイル5’が受電した高周波電力を消費する負荷9を備えている。負荷9は、高周波電力を整流する整流回路と、負荷9全体の抵抗値を最適な値にするために電圧電流比を変化させるDC/DCコンバータを備えている。
第1実施形態に係る誘導加熱装置Aがコイル5に発生する磁界を変化させることで、加熱対象物Bに渦電流を発生させるのに対し、送電装置A41は、コイル5に発生する磁界を変化させることで、受電装置A42のコイル5’に高周波電流を発生させる点が異なる。
第4実施形態においても、追従アームにおける電圧電流位相差φ2が所定値φ*より小さくならないように制御し、フライホイールダイオード3a,3bをファーストリカバリダイオードとし、フライホイールダイオード3c,3dをノーマルタイプのシリコンダイオードとしている。したがって、第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
ワイヤレス給電装置A4の場合、送電装置A41のコイル5と、受電装置A42のコイル5’との位置関係(両者のずれ具合や間隔の距離)によって、共振周波数が異なる。また、送電装置A41が、複数種類の受電装置A42に送電できる場合、受電装置A42のコイル5’の違い(大きさや巻き数など)によっても、共振周波数が異なる。したがって、共振周波数の変化によって、追従アームが進み位相運転になる場合がある。したがって、第4実施形態においても、本発明は有効である。
本発明に係るインバータ装置、誘導加熱装置およびワイヤレス給電装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るインバータ装置、誘導加熱装置およびワイヤレス給電装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。