JP2016155931A - 難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブル - Google Patents

難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブル Download PDF

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Abstract

【課題】硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性も確保できる難燃性樹脂組成物等を提供すること。【解決手段】高密度ポリエチレン55質量%〜80質量%、スチレン系エラストマー5質量%〜30質量%、ポリプロピレン系エラストマー5質量%〜15質量%および酸変性ポリオレフィン化合物5質量部〜20質量%を含むベース樹脂100質量部に対して、20質量部〜50質量部の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、1質量部〜10質量部の割合で配合されるシリコーン系化合物と、2質量部〜20質量部の割合で配合される脂肪酸含有化合物とを含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。【選択図】図1

Description

本発明は、難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルに関する。
電線等の被覆に用いられる樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)が従来より広く用いられている。ポリ塩化ビニル樹脂は加工性に優れ、耐薬品性、難燃性といった点に優れた特性を持つ一方で、燃焼時に有毒ガスを発生するという欠点があった。
これに対し、電線等の被覆に用いる樹脂材料として、化学的に安定で、加工しやすいポリオレフィン樹脂を用い、これに非ハロゲン系難燃剤を添加してなる難燃性樹脂組成物が検討されている。たとえば、特許文献1では、ポリオレフィン樹脂と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対し30質量部以上160質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、2質量部以上20質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、2質量部以上15質量部以下の割合で配合されるカルボン酸金属塩とを含む難燃性樹脂組成物が開示されている。
特開平9−169918号公報
上記特許文献1の難燃性樹脂組成物は優れた機械的特性と難燃性を確保している。しかしながら、上記特許文献1の難燃性樹脂組成物はケーブルの外被として使用するために、十分な特性を有しているとは言えなかった。特に、外傷や衝撃に耐えるための硬度、端末加工のために外被を容易に引き裂くことのできるための易引裂き性、低温下で外被に亀裂が生じることを抑える低温脆化特性が十分ではなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性も確保できる難燃性樹脂組成物、およびこれを用いたケーブル、ならびに光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するため、種々の検討を行ったところ、ベース樹脂にポリオレフィン樹脂だけでなく、エラストマーと酸変性樹脂とを組み合わせることで、上記課題を解決できることを見出した。こうして本発明者らは本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、高密度ポリエチレン55質量%以上80質量%以下、スチレン系エラストマー5質量%以上30質量%以下、ポリプロピレン系エラストマー5質量%以上15質量%以下、および酸変性ポリオレフィン化合物5質量%以上20質量%以下を含むベース樹脂100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、1質量部以上10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、2質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物とを含む難燃性樹脂組成物である。
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性をも確保することができる。
なお、本発明者らは、本発明の難燃性樹脂組成物において、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性及び優れた難燃性が得られる理由については以下のように推察している。
すなわち、ベース樹脂において高密度ポリエチレンを上述の割合とすることにより、難燃性樹脂組成物を、硬度が高く耐衝撃性等に優れたものとすることができる。しかし、高密度ポリエチレンは結晶化度が高く、ベース樹脂の炭酸カルシウム粒子に対する相溶性が低下するため、低温脆化特性が悪化してしまう。そこで、ベース樹脂においてスチレン系エラストマーと酸変性ポリオレフィン化合物を上述の割合とすることにより、ベース樹脂の結晶化度を下げることができるため、炭酸カルシウム粒子に対する相溶性が向上し、低温脆化特性を改善させることができる。
また、ベース樹脂においてポリプロピレン系エラストマーを上述の割合とすることにより、ポリプロピレン系エラストマーと高密度ポリエチレンとの界面が引裂く際の起点となり、易引裂き性を向上させることができる。しかし、ポリプロピレン系エラストマーは低温脆化特性に劣るため、ベース樹脂の低温脆化特性が悪化してしまう。そこで、ベース樹脂においてスチレン系エラストマーと酸変性ポリオレフィン化合物を上述の割合とすることにより、低温脆化特性を向上させることができる。
さらに、炭酸カルシウムは、上述の割合でベース樹脂に含有させることにより、難燃剤として作用する他、炭酸カルシウムと高密度ポリエチレンとの界面が引裂く際の起点となり、易引裂き性を向上させることができる。
また、上記難燃性樹脂組成物において、前記高密度ポリエチレンは密度が945kg/m以上であることが好ましい。
この場合、高密度ポリエチレンの密度が上記範囲を外れる場合に比べて、より優れた硬度を得ることができる。
また、上記難燃性樹脂組成物において、前記酸変性ポリオレフィン化合物が無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィン共重合体であることが好ましい。
この場合、酸変性ポリオレフィン化合物が無水マレイン酸変性ポリエチレンでない場合に比べて、より優れた低温脆化特性が得られる。
上記難燃性樹脂組成物においては、前記脂肪酸含有化合物がステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムであることが好ましい。
この場合、脂肪酸含有化合物がステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムのいずれでもない場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
上記難燃性樹脂組成物においては、前記シリコーン系化合物がシリコーンガムであることが好ましい。
この場合、シリコーン系化合物がシリコーンガムでない場合に比べて、ブルームが起こりにくい。
本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを有する絶縁電線を備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されるケーブルである。
本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、前記絶縁層を覆うシースを有するケーブルであって、前記絶縁層と前記シースの少なくとも一方が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されるケーブルである。
本発明は、光ファイバと、前記光ファイバを被覆するシースとを有する光ファイバケーブルであって、前記シースが、上述した難燃性樹脂組成物で構成される光ファイバケーブルである。
本発明によれば、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性も確保できる難燃性樹脂組成物及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルが提供される。
本発明のケーブルの一実施形態を示す部分側面図である。 図1のII−II線に沿った断面図である。 本発明の光ファイバの一実施形態を示す断面図である。 易引裂き性測定用光ファイバサンプルを示す断面図である。
以下、本発明の実施形態について図1〜図3を用いて詳細に説明する。
[ケーブル]
図1は、本発明に係るケーブルの一実施形態を示す部分側面図であり、図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図1及び図2に示すように、ケーブル10は、1本の絶縁電線4と、1本の絶縁電線4を被覆するシース3とを備えている。そして、絶縁電線4は、内部導体1と、内部導体1を被覆する絶縁層2とを有している。
ここで、絶縁層2及びシース3は難燃性樹脂組成物で構成されており、この難燃性樹脂組成物は、高密度ポリエチレン55質量%以上80質量%以下、スチレン系エラストマー5質量%以上30質量%以下、ポリプロピレン系エラストマー5質量%以上15質量%以下、および酸変性ポリオレフィン化合物5質量%以上20質量%以下を含むベース樹脂100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、1質量部以上10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、2質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物とを含んでいる。
上記難燃性樹脂組成物は、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性も確保できる。
[ケーブルの製造方法]
次に、上述したケーブル10の製造方法について説明する。
(導体)
まず内部導体1を準備する。内部導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、内部導体1は、導体径や導体の材質等について特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
(難燃性樹脂組成物)
次に上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、高密度ポリエチレン55質量%以上80質量%以下、スチレン系エラストマー5質量%以上30質量%以下、ポリプロピレン系エラストマー5質量%以上15質量%以下、および酸変性ポリオレフィン化合物5質量%以上20質量%以下を含むベース樹脂100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、1質量部以上10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、2質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物とを含んでいる。
(高密度ポリエチレン)
高密度ポリエチレンは、密度が942kg/m以上970kg/m以下であることが好ましい。さらに密度が945kg/m以上であることがより好ましく、950kg/m以上であることがさらに好ましい。
高密度ポリエチレンの密度が942kg/m未満の場合、難燃性樹脂組成物の硬度が顕著に低下する。また、密度が970kg/mより大きい場合、低温脆化特性が顕著に低下してしまう。
高密度ポリエチレンは、上述したようにベース樹脂において55質量%以上80質量%以下の割合とする。高密度ポリエチレンの割合が55質量%未満の場合、難燃性樹脂組成物の硬度が顕著に低下する。また、割合が80質量%より大きい場合、低温脆化特性が顕著に低下してしまう。
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、特に限定されず、適宜選択して使用することが出来る。例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、及び、これらの水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−エチレンブロック共重合体(SEBC)等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を適宜用いることができる。さらにこれらの中でも、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)は低温脆化特性の向上に優れた効果を発揮するため特に好ましい。
スチレン系エラストマーは、上述したようにベース樹脂において5質量%以上30質量%以下の割合とする。スチレン系エラストマーの割合が5質量%未満の場合、難燃性樹脂組成物の低温脆化特性が顕著に低下する。また、割合が30質量%より大きい場合、硬度が顕著に低下してしまう。
なお、スチレン系エラストマーは、密度が910kg/m以上940kg/m以下であることが好ましい。この場合、スチレン系エラストマーの密度が上記範囲を外れる場合に比べて密度が910kg/m3未満の場合、難燃性樹脂組成物の硬度が顕著に低下してしまう。また、940kg/m3よりも大きい場合、低温脆化特性が顕著に低下してしまう。
(ポリプロピレン系エラストマー)
ポリプロピレン系エラストマーとしては、特に限定されず、適宜選択して使用することが出来る。例えば、プロピレンにエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン等のα−オレフィン成分を共重合した共重合体が挙げられる。
ポリプロピレン系エラストマーは、上述したようにベース樹脂において5質量%以上15質量%以下の割合とする。ポリプロピレン系エラストマーの割合が5質量%未満の場合、難燃性樹脂組成物の易引裂き性が顕著に低下する。また、割合が15質量%より大きい場合、低温脆化特性が顕著に低下してしまう。さらに、ポリプロピレン系エラストマーの配合割合は10質量%以下が好ましい。この場合低温脆化特性を向上させることができる。
(酸変性ポリオレフィン化合物)
酸変性ポリオレフィン化合物としては、特に限定されず、適宜選択して使用することが出来る。例えば、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸またはカルボン酸無水物、またはこれらのエステル類等の不飽和有機酸およびそのエステル類と、ポリオレフィンとの部分共重合体等が挙げられる。酸変性ポリオレフィン化合物の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン系エラストマー、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。これらのなかでも、無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィン共重合体は低温脆化特性の向上に優れた効果を発揮するため特に好ましい。
酸変性ポリオレフィン化合物は、上述したようにベース樹脂において5質量%以上20質量%以下の割合とする。酸変性ポリオレフィン化合物の配合割合が5質量%未満の場合、難燃性樹脂組成物の低温脆化特性が顕著に低下する。また、配合割合が20質量%より大きい場合、硬度が顕著に低下してしまう。
また、ベース樹脂としては、高密度ポリエチレン、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、酸変性ポリオレフィン化合物に加えて、他の樹脂を含有していてもよく、このような他の樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)や、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、ポリエチレン(PE)等が挙げられる。これら他の樹脂の割合は、ベース樹脂中、好ましくは15質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
(炭酸カルシウム粒子)
炭酸カルシウム粒子としては、重質炭酸カルシウムまたは軽質炭酸カルシウムのいずれでもよいが、入手が容易で、かつ、低価格であることから、重質炭酸カルシウムが好ましい。炭酸カルシウム粒子の平均粒径は、好ましくは0.7μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上である。炭酸カルシウム粒子の平均粒径が小さすぎると、難燃性が低下するおそれがある。また、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が大きすぎると、低温脆化特性が低下する場合があることから、炭酸カルシウム粒子の平均粒径の上限は、好ましくは3.6μm以下であり、より好ましくは2.2μm以下である。
なお、本発明において、「平均粒径」とは、複数個の炭酸カルシウム粒子をSEMで観察したときの2次元画像の面積Sをそれぞれ求め、これらの面積Sをそれぞれ円の面積に等しいと考え、これらの面積から下記式:
R=2×(S/π)1/2
に基づいてそれぞれ算出したRの平均値を言うものとする。
炭酸カルシウム粒子は、上述したようにベース樹脂100質量部に対し20質量部以上50質量部以下配合される。炭酸カルシウム粒子の配合割合が20質量部未満の場合、難燃性樹脂組成物の易引裂き性および難燃性が顕著に低下する。また、配合割合が50質量部より大きい場合、低温脆化特性が顕著に低下してしまう。
(シリコーン系化合物)
シリコーン系化合物は、難燃助剤として機能するものであり、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。ここで、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし側鎖に有機基を有するものであり、有機基としては、例えばメチル基、ビニル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられる。具体的にはポリオルガノシロキサンとしては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン、メチルオクチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサン等が挙げられる。ポリオルガノシロキサンとして、シリコーンパウダー、シリコーンガム及びシリコーンレジンが挙げられる。中でも、シリコーンガムが好ましい。この場合、ブルームが起こりにくくなる。
シリコーン系化合物は、上述したようにベース樹脂100質量部に対して1質量部以上10質量部以下の割合で配合される。ベース樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の割合が1質量部未満である場合、難燃性が顕著に低下する。また、ベース樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が10質量部より大きい場合、難燃性樹脂組成物の押出加工時のシリコーン系化合物のブリードアウトを十分に抑制することができない。
シリコーン系化合物は、ベース樹脂100質量部に対して1質量部以上3質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。この場合、ベース樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が上記範囲を外れる場合に比べて、より優れた硬度を得ることができる。
シリコーン系化合物は、炭酸カルシウムの表面に予め付着させておいてもよい。この場合、難燃性樹脂組成物中に含まれる各炭酸カルシウムの全体がシリコーン系化合物で被覆されていることが好ましい。この場合、炭酸カルシウムをポリオレフィン樹脂中に容易に分散させることができるため、難燃性樹脂組成物における特性の均一性がより向上する。また難燃性樹脂組成物の押出加工時のシリコーン系化合物のブリードアウトをより十分に抑制することができる。
炭酸カルシウムの表面にシリコーン系化合物を付着させる方法としては、例えば炭酸カルシウムにシリコーン系化合物を添加して混合し、混合物を得た後、この混合物を40〜75℃にて10〜40分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサ、アトマイザ等により粉砕することによって得ることができる。
(脂肪酸含有化合物)
脂肪酸含有化合物は、難燃助剤として機能するものである。脂肪酸含有化合物とは、脂肪酸又はその金属塩である。ここで、脂肪酸としては、例えば炭素原子数が12〜28である脂肪酸が用いられる。このような脂肪酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ベヘン酸及びモンタン酸が挙げられる。中でも、脂肪酸としては、ステアリン酸又はツベルクロステアリン酸が好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。この場合、ステアリン酸又はツベルクロステアリン酸以外の脂肪酸を用いる場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
脂肪酸の金属塩を構成する金属としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛及び鉛等が挙げられる。脂肪酸の金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムが好ましい。この場合、脂肪酸含有化合物がステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムのいずれでもない場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
脂肪酸含有化合物は、上述したようにベース樹脂100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の割合で配合される。脂肪酸含有化合物の配合割合が2質量部未満である場合、難燃性が顕著に低下する。また、脂肪酸含有化合物の配合割合が20質量部より大きい場合、難燃性樹脂組成物の押出加工時の脂肪酸含有化合物のブリードアウトを十分に抑制することができない。
脂肪酸含有化合物は、5質量部以下の割合で配合されることが好ましい。この場合、脂肪酸含有化合物の割合が5質量部より大きい場合に比べて、より優れた硬度が得られる。
上記難燃性樹脂組成物は、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、滑剤、カーボンブラック等の充填剤を必要に応じてさらに含んでもよい。例えば酸化防止剤はベース樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上2質量部以下含まれることが好ましい。この場合、優れた耐熱老化特性が得られる。
上記難燃性樹脂組成物は、高密度ポリエチレン、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、酸変性ポリオレフィン化合物、炭酸カルシウム粒子、シリコーン系化合物、脂肪酸含有化合物等を混練することにより得ることができる。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ミキシングロール等の混練機で行うことができる。このとき、シリコーン系化合物の分散性を向上させる観点からは、ベース樹脂の一部とシリコーン系化合物とを混練し、得られたマスターバッチ(MB)を、残りのベース樹脂、炭酸カルシウム、脂肪酸含有化合物等と混練してもよい。
次に、上記難燃性樹脂組成物で内部導体1を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練し、チューブ状の押出物を形成する。そして、このチューブ状押出物を内部導体1上に連続的に被覆する。こうして絶縁電線4が得られる。
(シース)
最後に、上記のようにして得られた絶縁電線4を1本用意し、これら絶縁電線4を、上述した難燃性樹脂組成物を用いて作製したシース3で被覆する。シース3は、絶縁層2を物理的又は化学的な損傷から保護するものである。
以上のようにしてケーブル10が得られる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではケーブル10は1本の絶縁電線4を有しているが、本発明のケーブルは1本の絶縁電線4を有するケーブルに限定されるものではなく、シース3の内側に絶縁電線4を2本以上有していてもよい。
また上記実施形態では、絶縁電線4の絶縁層2及びシース3が上記の難燃性樹脂組成物で構成されているが、絶縁層2が通常の絶縁樹脂で構成され、シース3のみが、上記の難燃性樹脂組成物で構成されてもよい。
[光ファイバケーブル]
図3は、本発明に係る光ファイバケーブルの一実施形態であり、インドア型光ファイバケーブルを示す断面図である。図3に示すように、インドア型光ファイバケーブル20は、1本の光ファイバ11と、2本のテンションメンバ12と光ファイバ11とテンションメンバ12とを被覆するシース13とを有している。なお、テンションメンバは鋼線等、引張張力の高い材料で構成されている。
ここで、シース13は難燃性樹脂組成物で構成されており、この難燃性樹脂組成物は、高密度ポリエチレン55質量%以上80質量%以下、スチレン系エラストマー5質量%以上30質量%以下、ポリプロピレン系エラストマー5質量%以上15質量%以下、および酸変性ポリオレフィン化合物5質量%以上20質量%以下を含むベース樹脂100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、1質量部以上10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、2質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物とを含んでいる。
上記難燃性樹脂組成物は、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性も確保できる。
[光ファイバケーブルの製造方法]
さらに、上記光ファイバケーブル20の製造方法について説明する。
まず光ファイバ11とテンションメンバ12と上記難燃性樹脂組成物を準備する。
次に、上記難燃性樹脂組成物を光ファイバ11およびテンションメンバ12を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練する。そして、図3に示すように並べた光ファイバ11およびテンションメンバ12上に、押出機から図3に示す断面形状を有する筒状の押出物を押し出すことで、この筒状の押出物を光ファイバ11およびテンションメンバ12上に連続的に被覆する。こうして光ファイバケーブル20が得られる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、光ファイバケーブルはインドア型光ファイバケーブルに限定されず、上記難燃性樹脂組成物が適用可能であるならば、どのような形式のケーブルであっても構わない。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜16及び比較例1〜8)
ベース樹脂、炭酸カルシウム、シリコーンマスターバッチ(シリコーンMB)、脂肪酸含有化合物、酸化防止剤マスターバッチ(酸化防止剤MB)を、表1〜3に示す配合量で配合し、バンバリーミキサによって160℃にて15分間混練し、難燃性樹脂組成物を得た。なお、表1〜3において、各配合成分の配合量の単位は質量部である。また表1〜3において、高密度ポリエチレン、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、酸変性ポリオレフィン化合物の配合量が100質量部となっていないが、シリコーンMB及び酸化防止剤MB中にも樹脂が含まれており、高密度ポリエチレン、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、酸変性ポリオレフィン化合物にシリコーンMBと酸化防止剤MB中の樹脂を合計すればベース樹脂の合計量は100質量部となる。
上記ベース樹脂、炭酸カルシウム、シリコーンMB、脂肪酸含有化合物、及び酸化防止剤MBとしては具体的には下記のものを用いた。
(1)ベース樹脂
(A)高密度ポリエチレン(HDPE)(商品名「ノバテックHD HD322W」、日本ポリエチレン社製、密度951kg/m
(B)スチレン系エラストマー
(B−1)スチレン−エチレン−ブチレン−エチレンブロック共重合体(SEBC)(商品名「DYNARON 4600P」、JSR社製、密度910kg/m
(B−2)スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS1)(商品名「タフテック P−1500」、旭化成ケミカルズ社製、密度940kg/m
(B−3)スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS2)(商品名「タフテック P−3000」、旭化成ケミカルズ社製、密度940kg/m
(C)ポリプロピレン系エラストマー(PP系エラストマー)(商品名「タフマーXM5070」、三井化学社製)
(D)酸変性ポリオレフィン化合物(酸変性PO)(商品名「タフマーMA8510」、三井化学社製)
(2)炭酸カルシウム粒子
(A)(炭酸Ca1)(商品名「NCC−P」、日東粉化工業株式会社製、平均粒径1.7μm)
(B)(炭酸Ca2)(商品名「NCC−P#2300」、日東粉化工業株式会社製、平均粒径1.0μm)
(3)シリコーン系化合物(シリコーンMB)(商品名「X−22−2125H」、信越化学社製、50質量%シリコーンガムと50質量%PEとを含有)
(4)脂肪酸含有化合物(ステアリン酸Mg)(商品名「エフコケムMGS」、ADEKA社製)
(5)酸化防止剤(酸化防止剤MB)(商品名「C−174・2A」、大日精化工業社製、50質量%酸化防止剤と50質量%EVAとを含有)
得られた難燃性樹脂組成物をバンバリーミキサによって160℃にて15分間混練した。その後、難燃性樹脂組成物を、成形型を用いて成形することで、厚み2mmのシート状の成形体を得た。
得られた難燃性樹脂組成物をバンバリーミキサによって160℃にて15分間混練した。その後、難燃性樹脂組成物を、単軸押出機(L/D=20、スクリュー形状:フルフライトスクリュー、マース精機社製)に投入し、押出機からチューブ状の押出物を押し出し、導体(素線数1本/断面積2mm)上に、厚さ0.7mmとなるように難燃性樹脂組成物で被覆することで、被覆電線サンプルを得た。
得られた難燃性樹脂組成物をバンバリーミキサによって160℃にて15分間混練した。その後、難燃性樹脂組成物を、単軸押出機(L/D=20、スクリュー形状:フルフライトスクリュー、マース精機社製)に投入し、押出機から、図4に示す断面形状を有する筒状の押出物を押し出すことで、光ファイバ心線1心を、短径1.6mm、長径2.0mm、引裂き用ノッチと光ファイバとの距離0.4mmとなる形状にて難燃性樹脂組成物で被覆することで、光ファイバケーブルサンプルを得た。
Figure 2016155931
Figure 2016155931
Figure 2016155931
上述の実施例1〜16及び比較例1〜8の難燃性樹脂組成物について、以下のようにして硬度、易引裂き性、低温脆化特性及び難燃性についての評価を行った。
<硬度>
上述の厚み2mmのシート状の成形体から、縦20mm×横50mmのサイズのサンプルを作製し、JIS K7215に準拠して、デュロメータ(タイプD)にて、ショアD硬度を測定した。なお、測定に際しては、測定数を5とし、5回の測定結果を平均したものを測定値として採用した。本実施例においては、ショアD硬度50以上で合格とした。
<易引裂き性>
上述の光ファイバケーブルサンプルを用い、予め、光ファイバケーブルサンプルの外被のノッチ間を数cm引裂いた状態とし、引裂いた双方の端をチャックで固定し、引張速度500mm/min.で200mm引裂き、この際の引裂き力を測定した。なお、測定に際しては、測定数を5とし、5回の測定結果を平均したものを測定値として採用した。本実施例においては、引裂き力12N以下で合格とした。
<低温脆化特性>
上述の厚み2mmのシート状の成形体から、縦6mm×横38mmのサイズのサンプルを作製し、JIS C3005に準拠して、低温での耐衝撃試験を行った。具体的には、耐衝撃試験を0℃から5℃刻みで行い、衝撃を与えた後のシート表面に亀裂の発生しない最低温度を脆化温度とした。本実施例においては、脆化温度−30℃以下で合格とした。
<難燃性>
上述の被覆電線サンプルについて、JIS K3005に準拠して、60°傾斜燃焼試験を行った。なお、60°傾斜燃焼試験は、10本の被覆電線サンプルについて行い、消火時間(単位:秒)が60秒以内であったサンプルを合格とし、10本の被覆電線サンプルの合格率を算出するとともに、消火時間の平均値を求め、これを60°傾斜燃焼時間とした。なお、消火時間とは、接炎終了直後(バーナーの炎を電線から離した直後)から自己消火するまでの時間であり、消火時間が短ければ短いほど難燃性が高いことを表す。このとき、接炎は、30秒以内で被覆電線サンプルに着火が起こるまで行った。本実施例においては、合格率100%を合格とした。
表1〜3に示す結果より、実施例1〜16の難燃性樹脂組成物は、硬度、易引裂き性、低温脆化特性、難燃性の点で合格基準に達していた。これに対し、比較例1〜8の難燃性樹脂組成物は、硬度、易引裂き性、低温脆化特性、難燃性のうち少なくとも1つの点で合格基準に達していなかった。
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、硬度が高く、易引裂き性、低温脆化特性を確保しながら優れた難燃性をも確保することができることが確認された。
1…内部導体
2…絶縁層
3…シース
4…絶縁電線
10…ケーブル
11…光ファイバ
12…テンションメンバ
13…シース
20…光ファイバケーブル

Claims (8)

  1. 高密度ポリエチレン55質量%以上80質量%以下、
    スチレン系エラストマー5質量%以上30質量%以下、
    ポリプロピレン系エラストマー5質量%以上15質量%以下
    および酸変性ポリオレフィン化合物5質量部以上20質量%以下を含むベース樹脂100質量部に対して、
    20質量部以上50質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウム粒子と、
    1質量部以上10質量部以下の割合で配合されるシリコーン系化合物と、
    2質量部以上20質量部以下の割合で配合される脂肪酸含有化合物とを含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
  2. 前記高密度ポリエチレンの密度が945kg/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
  3. 前記酸変性ポリオレフィン化合物が無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
  4. 前記脂肪酸含有化合物がステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
  5. 前記シリコーン系化合物がシリコーンガムである請求項1〜4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
  6. 導体と、
    前記導体を被覆する絶縁層とを有する絶縁電線を備えており、
    前記絶縁層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物で構成されるケーブル。
  7. 導体と、
    前記導体を被覆する絶縁層と、
    前記絶縁層を覆うシースを有するケーブルであって、
    前記絶縁層と前記シースの少なくとも一方が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物で構成されるケーブル。
  8. 光ファイバと、
    前記光ファイバを被覆するシースとを有する光ファイバケーブルであって、
    前記シースが、請求項1〜5のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物で構成される光ファイバケーブル。
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