JP2016155794A - ナルフラフィン塩酸塩及びフィチン酸又はその塩を含有するカプセル製剤 - Google Patents

ナルフラフィン塩酸塩及びフィチン酸又はその塩を含有するカプセル製剤 Download PDF

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栄治 早川
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Koji Akiyama
浩司 秋山
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勝廣 林
正巳 日吉
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正巳 日吉
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Naoto Suzuki
直人 鈴木
加藤 健治
Kenji Kato
健治 加藤
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なぎさ 今井
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義之 下川
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Abstract

【課題】ナルフラフィン塩酸塩の分解物の生成を低減し、かつナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で含有するカプセル製剤や、かかるカプセル製剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤を製造する。かかるカプセル製剤の製造方法としては、(a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;(b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを混合してカプセル内容液を調製する工程;(c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;を備える。
【選択図】なし

Description

本発明は、ナルフラフィン塩酸塩及びフィチン酸又はその塩を含有するカプセル製剤に関し、より詳しくは、ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤に関する。
従来、痒みの治療には抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤等の内服剤や、副腎皮質ステロイド、非ステロイド系抗消炎剤等の外用剤が用いられてきた。しかしながら、上記内服剤の場合には、眠気やだるさ、口の渇き、排尿障害等の副作用が生じやすく、外用剤の場合には、皮膚の委縮、毛細血管拡張等の副作用が生じやすいという問題があり、新たな止痒剤の開発が求められていた。
近年、痒みにはオピオイド受容体が関与しており、内因性オピオイドが痒みを惹起することが明らかとなってきた(特許文献1、2参照)。かかるオピオイド受容体には、主にμ受容体、κ受容体、δ受容体の3つのサブタイプが存在している。ナルフラフィン塩酸塩は、μ受容体を制御しているκ受容体に選択的に作用し、内因性オピオイドの刺激により生じるμ受容体を介した痒みを抑制することが可能である。現在ナルフラフィン塩酸塩は、レミッチ(登録商標)カプセルとして鳥居薬品社から販売されており、透析療法中に生じるそう痒症の改善剤として用いられている。
ナルフラフィン塩酸塩は熱、光、酸素等に対して化学的に不安定であり、分解物が生成されやすい。そこで、ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル製剤においては、酸化防止剤、シネルギスト、糖類、又は界面活性剤を用いてナルフラフィン塩酸塩を安定化させる方法が提案されている(特許文献3参照)。
ところで、フィチン酸(Phytic acid)は、米ぬか等から得られたイノシトールのヘキサリン酸エステルである。カプセル製剤においては、経時的にゼラチン皮膜の不溶化が生じ、製剤の崩壊が遅延するのを防ぐことを目的とし、レシチンとフィチン酸を均一にカプセル製剤に含ませる方法が提案されているが(特許文献4参照)、ナルフラフィン塩酸塩の安定化とフィチン酸との関係はこれまで知られていなかった。
国際公開第1998/23290号パンフレット 特開2013−147459号公報 国際公開第1999/02158号パンフレット 特開2012−051945号公報
ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル製剤において、長期間の保存後もナルフラフィン塩酸塩が安定に維持されることが必要であり、特に、ナルフラフィン塩酸塩の分解物が生成すると、新たな毒性試験が必要になる等、カプセル製剤の製品化において大きな支障となる。そこで本発明の課題は、ナルフラフィン塩酸塩の分解物の生成を低減し、かつナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で含有するカプセル製剤や、かかるカプセル製剤の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、ナルフラフィン塩酸塩の安定化剤としてフィチン酸を用いることで、40℃で12週間保存後も、他の安定化剤と比較してナルフラフィン塩酸塩の分解物の生成が顕著に少ないことを見いだした。さらに、ナルフラフィン塩酸塩に安定化剤としてフィチン酸を用いると、ナルフラフィン塩酸塩を40℃で12週間保存しても残存率が高いことを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に開示されるとおりのものである。
(1)ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤。
(2)基剤が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記(1)記載のカプセル製剤。
(3)カプセル内容液にトコフェロール又はチオ硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする上記(1)又は(2)記載のカプセル製剤。
(4)カプセル製剤が、ソフトカプセル製剤であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のカプセル製剤。
(5)次の(a)〜(c)の工程を備えたカプセル製剤の製造方法。
(a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
(c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
本発明によれば、長期間保存しても、ナルフラフィン塩酸塩の分解物の生成を低減し、かつナルフラフィン塩酸塩の残存率が高いナルフラフィン塩酸塩含有カプセル製剤を提供することが可能となる。
ナルフラフィン塩酸塩含有内容液(3)に皮膜切片を浸漬させて3週間保存した場合のHPLC分析のチャートを示す図である。 ナルフラフィン塩酸塩含有内容液(5)に皮膜切片を浸漬させることなく3週間保存した場合のHPLC分析のチャートを示す図である。
本発明のカプセル製剤としては、ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤であれば特に制限されないが、ソフトカプセル製剤であることが好ましい。
本発明におけるナルフラフィン塩酸塩((2E)−N−[(5R,6R)−17−(シクロプロピルメチル)−4,5−エポキシ−3,14−ジヒドロキシモルフィナン−6−イル]−3−(フラン−3−イル)−N−メチル−2−プロペンアミド・塩酸塩;(2E)-N-[(5R,6R)-17-(Cyclopropylmethyl)-4,5-epoxy-3,14-dihydroxymorphinan-6-yl]-3-(furan-3-yl)-N-methyl-2-propenamide monohydrochloride)は、市販品を購入することにより入手することが可能である。
カプセル内容液中のナルフラフィン塩酸塩の含有量は特に制限されないが、1カプセル相当のカプセル内容液中に0.01〜10000μg、好ましくは0.1〜1000μgとすることができる。
上記フィチン酸(Phytic acid)は、米ぬか等から得られたイノシトールのヘキサリン酸エステルであり、水又はエタノールと混和し、ジエチルエーテルにはほとんど溶けない物質である。また、フィチン酸の塩としては、フィチン酸ナトリウム(フィチン酸Na)を挙げることができる。フィチン酸や、フィチン酸ナトリウムは、市販品を用いることにより入手することが可能である。
本発明において、基剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、水、グリセリン、エタノール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステル等を挙げることができ、ポリエチレングリコールであることがカプセル製剤化を容易に行えることから好ましく、プロピレングリコール(PG)、水、グリセリンであることがナルフラフィン塩酸塩をより安定化させることから好ましい。また、ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール400であることが好ましい。
本発明における基剤としては、二種以上の基剤を組み合わせてもよく、例えばポリエチレングリコールとプロピレングリコールや、ポリエチレングリコールと水や、ポリエチレングリコールとグリセリンや、ポリエチレングリコールとエタノールや、ポリエチレングリコールとグリセリンモノカプリル酸エステルや、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、プロピレングリコールと水や、プロピレングリコールとグリセリンや、プロピレングリコールとエタノールや、プロピレングリコールとグリセリンモノカプリル酸エステルや、プロピレングリコールとプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、プロピレングリコールとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、水とグリセリンや、水とエタノールや、水とグリセリンモノカプリル酸エステルや、水とプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、水とプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、グリセリンとエタノールや、グリセリンとグリセリンモノカプリル酸エステルや、グリセリンとプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、グリセリンとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、エタノールとグリセリンモノカプリル酸エステルや、エタノールとプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、エタノールとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、グリセリンモノカプリル酸エステルとプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、グリセリンモノカプリル酸エステルとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、プロピレングリコールモノオレイン酸エステルとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルの組み合わせを挙げることができる。
本発明におけるカプセル内容液は、ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを含有していれば特に制限されず、ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤以外に、没食子酸n−プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸パルミテート、トコフェロール、チオ硫酸ナトリウム(チオ硫酸Na)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、L−アスコルビン酸ステアレート、EDTA2NaCa等の抗酸化剤、油脂、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム(アノン)等の界面活性剤、メグルミン等のアミノ糖、緩衝液、ゲル化剤、pH調整剤、多孔性微粒子粉末、甘味料等の呈味剤、香料、溶解助剤、粘度調整剤、保存剤や防腐剤等の他の物質を含有していてもよく、よりナルフラフィン塩酸塩の安定性を高める観点から、トコフェロール又はチオ硫酸ナトリウム(チオ硫酸Na)を含有することが好ましい。
本発明において、皮膜としては特に制限されず、疎水性皮膜でも親水性皮膜でもよいが、親水性皮膜であることが好ましい。
親水性皮膜の材料としては、ゼラチン、コハク化ゼラチン等の修飾ゼラチン、カラギーナン、寒天、アルギン酸ナトリウム、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ファーセレラン、ユーケマ藻類、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプン類等の親水性高分子の一種又は二種以上の組合せを挙げることができ、ゼラチン、又は修飾ゼラチンを好適に挙げることができる。
皮膜を製造する際には、皮膜材料にグリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)等の可塑剤、二酸化チタン等の遮光剤、リン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、トコフェロール等の抗酸化剤、クエン酸三ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤、乳酸カルシウム、塩化カリウム等のゲル化促進剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤、呈味剤、香料、防腐剤、着色剤、溶解助剤等を添加してもよい。
本発明のカプセル製剤の製造方法は、次の(a)〜(c)の工程を備えていれば特に制限されず、ナルフラフィン塩酸塩とフィチン酸又はその塩とを混合することにより、ナルフラフィン塩酸塩の安定性をより向上させることが可能となる。
(a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
(c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
本発明のカプセル製剤の製造方法の別の態様としては、次の(d)〜(f)の工程を備えた方法を挙げることができ、かかる方法において、(d)工程における基剤と(e)工程における基剤は同じでも異なってもよい。
(d)ナルフラフィン塩酸塩を基剤に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(e)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
(f)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
なお、上記工程(b)又は(e)における「前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを混合」する場合には、フィチン酸又はその塩を基剤に添加し、かかるフィチン酸又はその塩を添加した基剤を前記ナルフラフィン塩酸塩原液と混合してもよい。
本発明のカプセル製剤や、本発明のカプセル製剤の製造方法において、カプセル内容液を皮膜で被覆する方法としては、平板法、ロータリーダイ法、シームレス法等の公知の方法を用いることができる。
(カプセル内容液の調製)
カプセル内容液を次の方法により調製した。まず、市販されているナルフラフィン塩酸塩50mgに水5mLを添加して溶解し、ナルフラフィン塩酸塩原液(10mg/mL)を調製した。次に、20mL容のガラス瓶に基剤としてポリエチレングリコール400(PEG400:製品番号32823−02関東化学社製)をとり、安定化剤としてフィチン酸50%水溶液(東京化成工業社製)を添加して混合後、上記ナルフラフィン塩酸塩原液0.1mLを添加して撹拌混合し均一な溶液とし、全量10mLとしてカプセル内容液(実施品1)を調製し、その後ガラス瓶にプラスチックキャップで蓋をした。カプセル内容液の比較品としては、安定化剤として、チオ硫酸Na水和物や、EDTA2NaCaや、クエン酸3Na水和物や、クエン酸3Na水和物+EDTA2NaCaや、アスコルビン酸パルミテートや、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)や、没食子酸プロピルを用い、基剤としてポリエチレングリコール(PEG400)や、PEG400+ポリプロピレングリコール(PG)を用いた。調製した各カプセル内容液のナルフラフィン塩酸塩原液量、基剤量、安定化剤原液量を表1に示す。
Figure 2016155794
(カプセル内容液の保存及び分析)
各カプセル内容液を1mLずつ採取し、保存期間0週間(開始時)とし、残りのカプセル内容液は40℃の恒温槽に入れて保存し、1週間、2週間、3週間、4週間、8週間、12週間後に1mLずつ採取した。それぞれ採取した1mLのカプセル内容液は、後述する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行うまで、ナルフラフィン塩酸塩が安定である4℃の温度にて冷蔵庫で保存を行った。保存期間0週間(開始時)と4週間における採取した各カプセル内容液のpHを表2に示す。
Figure 2016155794
また、採取したカプセル内容液のうち500μLを水で20倍希釈し、フィルター(DISMIC-25CS:アドバンテック社製)でろ過を行い、HPLC分析を行った。HPLC分析はHorikiriらの文献(Horikiri H. et al., Chem. Pharm. Bull. 52(6):664-669(2004))に従い、以下に示す条件により行った。
分析カラム YMC-Pack ODS-AM 5μm
カラム温度 40℃
移動相
A液 50mMリン酸二水素ナトリウム溶液/アセトニトリル=95/5(V/V)
B液 50mMリン酸二水素ナトリウム溶液/アセトニトリル=60/40(V/V)
また、グラジエント条件は以下の表3に示す条件により行った。
Figure 2016155794
(結果)
ナルフラフィン塩酸塩のHPLCピークは保持時間tR約48〜50分に出現し、主分解物のピークは約54〜56分に出現した。HPLC分析により得られた保存期間0週間(開始時)、1週間、2週間、3週間、4週間、8週間、12週間の各検体のナルフラフィン塩酸塩の主分解物ピーク面積値を表4に、保存期間0週間(開始時)の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値に対する各保存期間の各検体のナルフラフィン塩酸塩の主分解物のピーク面積値をナルフラフィン塩酸塩の分解物含有率(%)として算出した結果を表5に示す。なお、比較品1の12週間については、主分解物の分解がさらに進み、検出されなかった。
Figure 2016155794
Figure 2016155794
また、HPLC分析により得られた保存期間0週間(開始時)、1週間、2週間、3週間、4週間、8週間、12週間の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値を表6に、保存期間0週間(開始時)の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値に対する各保存期間の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値をナルフラフィン塩酸塩の残存率(%)として算出した結果を表7に示す。
Figure 2016155794
Figure 2016155794
表5の結果から、安定化剤としてフィチン酸を用いた場合(実施品1)は、保存期間8週間、12週間でも分解物が検出されなかったが、チオ硫酸Na以外の安定化剤を用いた場合(比較品1、3〜10)には分解物が検出された。また、表7の結果から、安定化剤としてフィチン酸を用いた場合(実施品1)は、保存期間12週間でも残存率が92.4と高く、この値はチオ硫酸Naを用いた場合(比較品2)の91.0よりも優れていた。さらに、保存期間12週間の検体の外観を観察したところ、安定化剤としてフィチン酸を用いた場合(実施品1)は無色透明で変化がなく沈殿も生じなかったが、安定化剤としてチオ硫酸Naを用いた場合(比較品2)は微量の沈殿が発生し、没食子酸プロピルを用いた場合(比較品10)は、微黄色透明(保存期間0週間と比較して若干黄色味)へ変化していた。したがって、ナルフラフィン塩酸塩の安定化剤としてフィチン酸を用いると、ナルフラフィン塩酸塩の分解物の生成を低減することができ、かつナルフラフィン塩酸塩の残存率を高めることができることが示された。
ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル内容液に皮膜切片を浸漬させてカプセル内容液と皮膜とを接触させることでカプセル製剤に近い条件下とし、ナルフラフィン塩酸塩の安定性を調べた。
(カプセル内容液の調製)
200mL容メスフラスコにPEG400(製品番号32823−02:関東化学社製)196mL、水4mL、ナルフラフィン塩酸塩4mgを加えて均一溶解した。この溶解液を50mLずつ4分割し、その一つをナルフラフィン塩酸塩含有内容液(Nal内容液)(1)とした。Nal内容液(1)50mLには、PEG400を49mL、水を1mL、ナルフラフィン塩酸塩を1mg含む。
また、Nal内容液(1)50mLにフィチン酸50%水溶液(東京化成工業社製)20mgを添加してNal内容液(2)とし、Nal内容液(2)にさらにトコフェロール(和光純薬工業社製)75mgを添加してNal内容液(3)とし、Nal内容液(3)にさらにチオ硫酸Na20mg(水200μLで溶解後混合:和光純薬工業社製)を添加してNal内容液(4)とした。さらに、上記Nal内容液(1)5mLを別途調製し、水100μLに溶解したチオ硫酸Na7mgを添加してNal内容液(5)とした。
(皮膜切片の調製)
200mL容ビーカにゼラチン8.5g、コハク化ゼラチン4.25g、濃グリセリン3.8gを加え、さらに水100mLを加えて60℃で加温、溶解した。合計液量は約116gとなった。この液を100mL容ビーカに約58g取って、PEG400を0.38g、トコフェロールを0.58mg(トコフェロール10mgをエタノール1mLに溶解したトコフェロール溶液を60μL)加えて皮膜液とした。
直径10cmのシャーレを2枚用意し、皮膜液をそれぞれのシャーレに30gずつ加えて平らに広げた。それぞれのシャーレを乾燥庫内にて、30℃で約10時間風乾し、一旦シャーレから皮膜を剥がして裏返した後、35℃で約5時間風乾し、シャーレから剥がした。この風乾皮膜を短冊状(約5mm×10mm)に切って、皮膜切片を調製した。
(ナルフラフィン塩酸塩の安定性試験)
20mL容ガラス瓶(日電理科ガラス社製)にNal内容液(1)〜(4)それぞれ8mLを加えて、各Nal内容液に皮膜切片を浸漬させてプラスチックキャップを締め、60℃の恒温室で保存した(皮膜切片あり)。同様に、20mL容ガラス瓶にNal内容液(1)〜(5)それぞれ8mLを加えてプラスチックキャップを締め、60℃の恒温室で保存した(皮膜切片なし)。保存開始から0週間(開始時)、1週間、2週間、3週間後に各Nal内容液を1mLずつ採取し、実施例1と同様の方法で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。
ナルフラフィン塩酸塩のHPLCピークは保持時間tR約48〜50分に出現し、主分解物のピークは約54〜56分に出現した。HPLC分析により得られた保存期間0週間(開始時)の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値に対する各保存期間の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値をナルフラフィン塩酸塩の残存率(%)として算出した結果を表8に、保存期間0週間(開始時)の各検体のナルフラフィン塩酸塩のピーク面積値に対する各保存期間の各検体のナルフラフィン塩酸塩の主分解物のピーク面積値をナルフラフィン塩酸塩の分解物含有率(%)として算出した結果を表9に示す。また、Nal内容液(3)に皮膜切片を浸漬させて3週間保存した場合、及びNal内容液(5)に皮膜切片を浸漬させることなく3週間保存した場合のHPLC分析のチャートをそれぞれ図1、2に示す。
Figure 2016155794
Figure 2016155794
表8の結果から、安定化剤としてフィチン酸を用いた場合は、カプセル内容液と皮膜とが接触する状況において3週間保存しても残存率が高く、さらに、フィチン酸と共にトコフェロールやチオ硫酸Naを加えるとナルフラフィン塩酸塩の残存率がより高くなることが明らかとなった。また、表9の結果から、安定化剤としてフィチン酸を用いた場合は、カプセル内容液と皮膜とが接触する状況において3週間保存してもナルフラフィン塩酸塩の分解物含有率が低く、さらに、フィチン酸と共にトコフェロールやチオ硫酸Naを加えると分解物含有率がより低くなることが明らかとなった。したがって、ナルフラフィン塩酸塩の安定化剤としてフィチン酸を用いると、ナルフラフィン塩酸塩の残存率の向上や分解物の生成の低減が可能であることが示された。なお、図1に示されるように、Nal内容液(3)に皮膜切片を浸漬させて3週間保存した場合には、約54〜56分のピークの他に3つのピークが検出されたがいずれも面積は小さかった。一方、図2に示されるように、Nal内容液(5)に皮膜切片を浸漬させることなく3週間保存した場合には、約54〜56分のピークは検出されなかったものの、他のピークが複数検出され、様々な分解物が生じていることが明らかとなった。
(カプセル製剤の調製)
以下の表10〜表12に示す皮膜処方とカプセル内容液処方にしたがって、3種類(NAL−03、NAL−08、NAL−15)のソフトカプセル製剤を調製した。具体的には、フィチン酸50%水溶液、及びナルフラフィン塩酸塩をそれぞれ水に溶解させ、PEG400に投入した。撹拌により、均一混合し、カプセル内容液を得た。調製したカプセル内容液は常法により、ゼラチン67質量部に対してコハク化ゼラチン33質量部、濃グリセリン30質量部、二酸化チタン0.6質量部からなる皮膜に充填し、Oval3型のソフトカプセル製剤(NAL−03)を得た。また、チオ硫酸Na・5水和物、フィチン酸50%水溶液、及びナルフラフィン塩酸塩をそれぞれ水に溶解させ、PEG400に投入した。トコフェロールは小分けにしたPEG400で溶解させ、元のPEG400に投入した。撹拌により、均一混合し、各カプセル内容液を得た。調製したカプセル内容液は常法により、コハク化ゼラチン100質量部に対して濃グリセリン30質量部、二酸化チタン1質量部からなる皮膜に充填し、Oval3型のソフトカプセル製剤(NAL−08、15)を得た。
Figure 2016155794
Figure 2016155794
Figure 2016155794
(製剤の安定性について)
NAL−03については40℃6か月保存後、NAL−08については40℃1か月保存後、NAL−15については40℃3週間保存後、それぞれカプセル外観を調べたところ異常がなく、また、皮膜を切り開いて内容物を調べたところ内容物は無色透明の液状で、製造時からの変化がなかったことから、カプセル製剤化してもカプセル内容液に含まれるナルフラフィン塩酸塩は安定に維持されていることが明らかとなった。
本発明のカプセル製剤は、医薬、医薬部外品等の分野において、ナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で保持できるカプセル製剤として利用可能である。

Claims (5)

  1. ナルフラフィン塩酸塩と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤。
  2. 基剤が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1記載のカプセル製剤。
  3. カプセル内容液にトコフェロール又はチオ硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1又は2記載のカプセル製剤。
  4. カプセル製剤が、ソフトカプセル製剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のカプセル製剤。
  5. 次の(a)〜(c)の工程を備えたカプセル製剤の製造方法。
    (a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
    (b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、フィチン酸又はその塩と、基剤とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
    (c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
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JP6131379B1 (ja) * 2016-12-28 2017-05-17 森下仁丹株式会社 4,5−エポキシモルヒナン誘導体含有製剤
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WO2022114234A1 (ja) * 2020-11-30 2022-06-02 富士フイルム株式会社 食用油内包マイクロカプセル、マイクロカプセル分散液、食用油内包マイクロカプセルの製造方法、及び、代替肉

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