図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている液体吐出ヘッ
ド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体2aを有している。ヘッド本体2aの下面は、液体を吐出する多数の吐出孔が設けられている吐出孔面4−1となっている。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は、液体吐出孔面に開口しており、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙Pの搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、例えば、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2aの下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体2aから印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に、本発明の液体吐出ヘッド2について説明する。図2は、(液体吐出)ヘッド本体2aの平面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の構造を省略した平面図である。図4は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため図3とは異なる一部の構造を省略した図である。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべきしぼり6、吐出孔8、加圧室10などを実線で描いている。また、図4の吐出孔8は、位置を分かりやすくするため、実際の径よりも大きく描いてある。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
図6は、図1の液体吐出ヘッドの斜視図である。図7は、図6の液体吐出ヘッドのX−X線縦断面図である。図7では流路部材4などの流路の内部構造は省略してある。図8(a)は、本発明に用いられるフレキシブル配線基板の一実施形態の、補強板62が取り付けられている側の概略平面図であり、図8(b)は、本発明に用いられる弾性板の一実施形態の平面図である。
液体吐出ヘッド2は(液体吐出)ヘッド本体2aと、フレキシブル配線基板60と、フレキシブル配線基板60に実装されているドライバIC(Integrated Circuit)55と、フレキシブル配線基板60に取り付けられている熱伝導部66とを含んでいる。液体吐出ヘッド2は、さらに筐体90を含んでいてもよく、ヘッド本体2aには、リザーバ40を含んでいてもよい。筺体90は、金属製などで、多面体形状をしており、本実施形態では
、直方体状である。筺体90は、天板と液体吐出ヘッド2の長手方向の両端の側面となる筐体本体の端面90aaとを含む筺体本体90aと、筺体本体90aに取り付けられる筺体側板90bとからなっている。筺体本体90aの天板部には接続基板の外部コネクタ80aを介して信号が入力できるように孔が開いている。
筐体90とリザーバ40との間には、平板上で中央に孔の空いたフレーム92がある。これは筐体90に一部とみなしてもよい。筐体本体90aは、天板の部分でガイドフレーム84にネジなどで取り付けられる。筺体側板90bは筐体本体90aにネジなどで側方から取り付けられる。この際、あらかじめ筺体側板90bの取り付け位置よりも外側に押し出されていたドライバIC55は、筺体側板90bに押し付けられるようになる。フレーム92より下側の、フレーム92とリザーバ40と流路部材4とで構成された開口部は、側板94をネジなどで取り付けることにより塞がれる。これも筐体90に一部とみなしてもよい。以上の各部材の間には必要に応じて樹脂などが塗られて硬化されて、液体のミストが筐体90の内部に入り難いようにされる。
接続基板80は、設けなくてもよいが、液体のミストなどが、筺体90内で接続基板80を越えて浸入し難いように設けるのが好ましい。接続基板80の筺体90に面している面(以下で外側の面と言うことがある)には外部の配線と接続される外部コネクタ80aが実装されている。外部コネクタ80aがあることにより、制御部100への接続が容易になる。外部コネクタ80aをスルーホール実装にして、接続基板80の筺体90の内側の面(以下で内側の面と言うことがある)に形成されている配線80cに接続することで、接続基板80の外側の面の配線を少なくできるので、そのような配線が液滴よってショートすることを抑制できる。外部コネクタ80aと接続基板80の間には樹脂などを入れることで、外部コネクタ80a下部や接続基板80の外側の面の側のスルーホール付近でのショートの発生を抑制できる。
接続基板80の内側の面の配線80cには内部コネクタ80bが実装されている。内部コネクタ80bを表面実装すれば、接続基板80の外側の面の配線を少なくできるので、そのような配線が液滴によってショートすることなどを抑制できる。接続基板80は、内部コネクタ80bで、回路基板82と電気的に接続されるとともに、機械的にも固定される。
リザーバ40には、リザーバ流路が設けられている。リザーバ流路の一端は液体供給孔40aとして、液体吐出ヘッド2の外部に開口している。また、リザーバ40と流路部材4とは、長手方向の両端部で接続されており、その両方で、リザーバ流路はマニホールドの開口5aに繋がっている。つまり、液体供給孔40aから供給された液体は、リザーバ流路に入り、内部で分岐して、マニホールド5の両端に供給される。
また、リザーバ流路の内壁の一部は弾性変形可能な材質のダンパになっている。ダンパのリザーバ流路と反対の面が面する方向に変形できるようになっているので、ダンパは弾性変形することでリザーバ流路の体積を変化させることができ、液体吐出量が急激に多くなった場合などに、安定して液体が供給できるようになる。また、リザーバ流路の中にフィルタを設けて、液体の中に含まれる異物が流路部材4に入って行き難いようにするのが好ましく、異物が詰まることによって起こる不吐出を抑制できる。
また、リザーバ40には、断熱性部材98が付けられた弾性板96と、筺体90aおよびヘッド本体2aから液体を吐出させる駆動信号を処理する回路基板82を固定するためのガイドフレーム84とが固定されている。制御部100から信号ケーブル(不図示)を介して送られてきた駆動信号は、外部コネクタ80a、接続基板80、内部コネクタ80b、回路基板82、フレキシブル配線基板60を通り、フレキシブル配線基板60に実装
されたドライバIC55で信号処理されて、フレキシブル配線基板60を通って圧電アクチュエータ基板21の変位素子30を駆動し、流路部材4内部の液体を加圧することにより、液滴が吐出される。なお、回路基板82は、例えば、駆動信号を複数の圧電アクチュエータ基板21に分ける他に、駆動信号の整流など行なってもよい。フレキシブル配線基板60は可撓性を有する帯状のもので、内部に金属の配線61を有し、配線61の一部は、フレキシブル配線基板60の表面に露出しており、その露出した配線61により、回路基板82、ドライバIC55および圧電アクチュエータ基板21と電気的に接続される。
ヘッド本体2aは、流路部材4と変位素子(加圧部)30が作り込まれている圧電アクチュエータ基板21とを含んでいる。流路部材4は、マニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備え、加圧室10は流路部材4の上面に開口しており、流路部材4の上面が加圧室面4−2となっている。また、流路部材4の上面にはマニホールド5と繋がる開口5aを有し、この開口5aより液体が供給されるようになっている。
流路部材4の上面には、加圧部である変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21が接合されており、各変位素子30が加圧室10上に位置するように設けられている。また、圧電アクチュエータ基板21には、各変位素子30に信号を供給するためのフレキシブル配線基板60が電気的に接続されている。図2には、2つのフレキシブル配線基板60が圧電アクチュエータ基板21に繋がる状態が分かるように、フレキシブル配線基板60の圧電アクチュエータ基板21に接続される付近の外形を点線で示した。圧電アクチュエータ基板21に電気的に接続されている、フレキシブル配線基板60に形成されている配線61の電極は、フレキシブル配線基板60の一方の端部の圧電アクチュエータ基板との接続領域60bに矩形状に配置されている。2つのフレキシブル配線基板60は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部にそれぞれの端がくるように接続されている。2つのフレキシブル配線基板60は、短手方向の中央部から圧電アクチュエータ基板21の長辺に向かって伸びている。
フレキシブル配線基板60にはドライバIC55が実装されている。圧電アクチュエータ基板21上の変位素子30を駆動する駆動信号は、外部からの信号に基づき、最終的にはドライバIC55内で生成される。駆動信号の生成を制御する信号は、制御部100で生成され、帯状のフレキシブル配線基板60の一端の回路基板82側から入力され、ドライバIC55で生成された駆動信号は、他端に接続されている圧電アクチュエータ基板21へと出力される。フレキシブル配線基板60の配線61の本数は、回路基板82側で数十以上になる。フレキシブル配線基板60の回路基板82のコネクタ82aと電気的に接続される電極は4つの回路基板との接続領域60aにおいてそれぞれヘッド本体2aの長手方向に一列に並んでいる。配線61の本数は、圧電アクチュエータ基板21側では、変位素子30の一つ一つに対応するように数百以上、さらには千以上になる。
図8(a)では、配線61の一部を模式的に示しており、ほとんど省略している。配線の61のうち駆動信号が流れる信号配線の幅は20〜100μm程度と細くされる。グランド配線などは、ドライバIC55の回路基板82側でフレキシブル配線基板60が湾曲している湾曲部おいて、周囲よりその幅を太くすれば、湾曲部の剛性が高くなり、フレキシブル配線基板60をドライバIC55側に押し付ける効果を強くできる。図60(a)の配線61の斜線を付けた部分は、周囲よりも幅を太くした配線61を例示したものである。
ドライバIC55は、駆動信号の処理を行なう際に発熱する。ドライバIC55は弾性板96をたわませることで筺体90に押し当てられているため、発生した熱は主に筺体90に伝わり、さらに筺体側板90b全体に伝わり、さらに筐体90全体に広がり、外部に
放熱されていく。ドライバIC55はフリップチップ実装にして、電極が配置されている面と反対側の面を筺体90に接触させれば、熱が伝わり易くできる。放熱を促進するように筐体側板90bは外側の表面を凹凸にするのがよい。断熱性部材98は、リザーバに熱が伝わり難くしている。断熱性部材98も弾性のあるものにしておいて、ドライバIC55を金属製の筺体90に押し当てる助けをさせてもよい。
弾性板96が複数のドライバIC55を押し付けるようになっている場合、弾性板96は、図8(b)に示したように分岐した形状であると、各ドライバICにほぼ均等に押しつけることができる。図8(b)は、弾性板96の側面図であり、図の下側はL字型に折れ曲がっており、リザーバ40に取り付けられる。図の上側は、ドライバIC55の個数と同じ4つに分岐しており、分岐した先で4つあるドライバIC55をそれぞれ筐体90に押し付けられるようになっている。リザーバ40に接合される側が一体になっているため、複数あるドライバIC55を押し付ける弾性板が一つにでき、取り付けも1回でできるため好ましい。ドライバIC55やその実装部の高さのばらつきがあったとしても、分岐した先でそれぞれ押さえつけることになるので、一部の押さえつけが不十分になって、熱伝導が悪くなり難い。
また、ドライバIC55と筐体90との間には熱伝導材が充てんされていると、熱伝導材により接触している面積が増えるので、より熱伝導性が高くなる。熱伝導材は、熱伝導性の高粘度のグリスや、高熱伝導のフィラーを入れた樹脂が挙げられる。樹脂はある程度粘度の高い状態でもよいし、硬化させてもよい。熱伝導材は流動性のある状態のものの方が接触面積を高め易いが、使用中に熱伝導材が流れて不具合が生じるおそれもある。例えば、加圧部が変位する変位素子30の場合、流動性の熱伝導材が変位素子30に付くと、変位量を少なくしてしまおそれがある。熱伝導材がその様なものの場合、フレキシブル配線基板60のドライバIC55が実装されている部位より、フレキシブル配線基板60の変位素子30側に伸びている部分に、次で詳述する熱伝導部66を取り付ければ、熱伝導材が変位素子30側に流動するのを抑制できる。また、フレーム92も流動を抑制する役目を果たすよう断面形状が凸部形状になっている。
複数のドライバIC55がある場合、各ドライバIC55が筐体90に接する位置は離れていた方が、熱が広がり易いので放熱効率を高くできる。そのようにするためには、ヘッド本体2aの長手方向で隣り合っているドライバIC55を、ヘッド本体2aから異なる距離に配置すればよい。より具体的には、ドライバIC55を千鳥状に交互に配置すればよい。
ドライバIC55が駆動信号を処理する際に発生する熱は、フレキシブル配線基板60を介して、圧電アクチュエータ基板21に伝わる。これは上述のように筐体90への排熱が行えば低減できるが、そのようにしても一部は圧電アクチュエータ基板21に伝わる。変位素子30は、圧電セラミック層21bの材質のなどに応じて、ある程度の温度特性を有するので、熱が伝わって温度が上がれば、吐出特性が変動する。他の吐出方式であっても、圧力を生じさせる発熱部は、ある程度の温度特性を有すると考えられるので、他の方式においても同様の影響がある。
ドライバIC55は、印刷するパターンや、特定の機能を使用するかどうかなどにより、発熱する部分が変わる。例えば、偏ったパターンを印刷する際には、1つのドライバIC55が他のドライバIC55よりも高温になったり、ドライバIC55の特定の場所が高温になったりする。逆に、局所的に動作していない部分があればその部分が低温になる。フレキシブル配線基板60に形成されている配線61は、主に回路基板のコネクタ82aからヘッド本体2aまでを結ぶ方向、同じことであるが、ドライバIC55からヘッド本体2aまでを結ぶ方向に伸びており、その方向に直行する方向に複数並んでいる。その
ためドライバIC55の一部の温度が高くなると、その部分が電気的に接続されている圧電アクチュエータ基板21の部位に熱が伝わり易いので、その部位の温度が高くなる。
そこで、熱伝導性の高い熱伝導部66を、フレキシブル配線基板60のドライバIC55とヘッド基板2aとの間で、フレキシブル配線基板60と交差するように取り付ける。ここで交差するとは、配線61が伸びている方向である配線方向に交差することを意味する。そのように取り付ければ、フレキシブル配線基板の配線方向に交差する方向に熱が伝わり易くなり、ドライバIC55から伝わる熱の場所により依存性を低くでき、吐出特性のばらつきを小さくできる。
なお、ここで交差するようにとは、帯状のフレキシブル配線基板60に略直交するように、また、配線方向に略直交するようにすることを意味する。略直交するとは、90±30度以内程度の範囲でも構わないが、90±5度以内程度の範囲にすれば、フレキシブル配線基板60において均熱化される位置の、ヘッド本体2aからの距離の差が小さくなるので、ヘッド本体2aに伝わる温度のばらつきを、より小さくできる。
熱伝導部66は、フレキシブル配線基板60の、少なくとも配線61が形成されている範囲、さらにはフレキシブル配線基板60の幅全体にわたって取り付けられているのが好ましい。また、熱伝導部66は、フレキシブル配線基板60を挟むようにフレキシブル配線基板60の両面に取り付ければ、さらに均熱の効果を高くできる。さらに、フレキシブル配線基板60の、ドライバIC55と回路基板82の間に、フレキシブル配線基板60と交差するように第2の熱熱伝導部を設ければ、さらに均熱化が図れる。
熱伝導部66は、金属などの熱伝導性の高い部材で構成される。角形で棒状の硬質のものを使用してもよいが、薄いフィルム形状で可撓性のあるものを帯状にして用いれば、液体吐出ヘッド2を組み立てる際の取り扱いが簡単になる。銅製のものを用いれば、熱伝導性が高く、可撓性を持ったフィルム形状に加工するのも容易になる。同様の理由でアルミニウム製でもよい。導電性の部材が他の部位と接触することにより生じるおそれのあるショートなどを抑制するには、フィルムをポリイミドなどの樹脂でコーティングすればよい。熱伝導部66は、両面テープや接着剤などでフレキシブル配線基板に取り付ければよい。
複数のドライバIC55がある場合、ドライバIC55ごとに動作状態が違うことがあるので、温度差が生じやすいが、それらドライバIC55を熱伝導部66に沿って配置すれば、より均熱化が図れる。また、ドライバIC55の平面形状が一方方向に長い場合には、その方向に温度差が生じやすいが、ドライバIC55の長手方向が熱伝導部66に沿うように配置すれば、より均熱化が図れる。
熱伝導部66を放熱できる部位に接触させれば、均熱化を図るだけではなく、ヘッド本体2aに伝わる熱を少なくできるので、吐出特性の変動をより少なくできる。熱伝導部66を、筐体90のドライバIC55の接している部分から離れた部位に接触させれば、効果的に放熱できる。筐体90に接触させるには、例えば、熱伝導部66を、フレキシブル配線基板60に交差している熱伝導部66の、交差している部位の端を延長したような形状にし、その延長した端部を筐体90に接触させればよい。接触させるには、筐体側板90bをねじ止めする際に、その間に挟み込むなどしてねじ止めすればよい。またた、ここで言う接触には、接着剤などを介して取り付けることも含まれる。
接触させるのは片側だけでもよいが、両側にすれば、排熱する量が約2倍になるのでより効率的に排熱できるし、フレキシブル配線基板60と交差している領域の両端から排熱できるので、フレキシブル配線基板60と交差している領域内での温度ばらつきを、より
低減できる。
筐体90と接触させる部位を、ドライバIC55が接している面と異なる面にすれば、ドライバIC55からの熱が伝わっていき難いので、効率的に排熱できる。ヘッド本体2aが一方方向に長い場合、フレキシブル配線基板60はヘッド本体2aの長手方向に沿って配置すれば、空間を効率的に利用できるので好ましい。その場合、ドライバIC55は筐体99のヘッド本体2aの長手方向に沿った面に接触させるのが、フレキシブル配線基板60の長さを短くできるので好ましい。そのような場合、熱伝導部66をヘッド本体2aの長手方向の端に位置する面に接触させれば、排熱効率をよくできる。また、そのようにすれば、多色印刷をしたり、解像度やスループットを上げるために複数の液体吐出ヘッド2を並べる際は、短手方向に近接して並べられるので、そのような場合でも排熱効率がよくなる。ヘッド本体2aの長手方向の端に位置する面とは、本実施形態では、筐体本体の端面90aaである。
また、熱伝導部66は、筐体90に接触させるようにしてもよい。熱伝導性の高い筐体90を介して均熱化が図れるので好ましい。
さらに、複数のドライバIC55を、ヘッド本体2aからの距離が違う位置に配置する際には、フレキシブル配線基板60は、複数のドライバIC55が配置される位置までの距離が違っても、ほぼ同じ長さにしておけば、伝わる熱の量を近づけることができるので好ましい。
次にヘッド本体2aについて説明する。ヘッド本体2aは、平板状の流路部材4と、流路部材4上に接続された変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21を1つ有している。圧電アクチュエータ基板21の平面形状は長方形状であり、その長方形の長辺が流路部材4の長手方向に沿うように流路部材4の上面に配置されている。
流路部材4の内部には2つのマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向の一端部側から、他端部側に延びる細長い形状を有しており、その両端部において、流路部材4の上面に開口しているマニホールドの開口5aが形成されている。マニホールド5の両端部から流路部材4へ液体を供給することにより、液体の供給不足が起り難くできる。また、マニホールド5の一端から供給する場合と比較して、マニホールド5を液体が流れる際に生じる圧力損失の差を約半分にできるため、液体吐出特性のばらつきを少なくできる。
また、マニホールド5は、少なくとも加圧室10に繋がっている領域である長さ方向の中央部分が、幅方向に間隔を開けて設けられた隔壁15で仕切られている。隔壁15は、加圧室10に繋がっている領域である長さ方向の中央部分では、マニホールド5と同じ高さを有し、マニホールド5を複数の副マニホールド5bに完全に仕切っている。このようにすることで、平面視したときに、隔壁15と重なるように、吐出孔8および吐出孔8から加圧室10に繋がっているディセンダを設けることができる。
図2では、マニホールド5の両端部を除く全体が隔壁15で仕切られている。両端部を含んで全体が隔壁15で仕切られているようにしてもよい。その場合、流路部材4の上面に開口している開口5a付近のみが仕切られておらず、開口5aから流路部材4の深さ方向に向かう間に隔壁が設けられるようにすれば、リザーバ40との接続が容易になる。
複数に分けられた部分のマニホールド5を副マニホールド5bと呼ぶことがある。本実施形態においては、マニホールド5は独立して2本設けられており、それぞれの両端部に開口5aが設けられている。また、1つのマニホールド5には、7つの隔壁15が設けら
れており、8つの副マニホールド5bに分けられている。副マニホールド5bの幅は、隔壁15の幅より大きくなっており、これにより副マニホールド5bに多くの液体を流すことができる。また、7つの隔壁15は、幅方向の中央に近いほど、長さが長くなっており、マニホールド5の両端において、幅方向の中央に近い隔壁15ほど、隔壁15の端がマニホールド5の端に近くなっている。これにより、マニホールド5の外側の壁により生じる流路抵抗と、隔壁15により生じる流路抵抗との間のバランスがとれ、各副マニホールド5bのうち、加圧室10に繋がる部分である個別供給流路14が形成されている領域の端における液体の圧力差を少なくできる。この個別供給流路14での圧力差は、加圧室10内の液体に加わる圧力差につながるため、個別供給流路14での圧力差を少なくすれば、吐出ばらつきを低減できる。
流路部材4は、複数の加圧室10が2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、角部にアールが施されている、2つの鋭角部10aと2つの鋭角部10bを有するほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。
加圧室10は1つの副マニホールド5bと個別供給流路14を介して繋がっている。1つの副マニホールド5bに沿うようにして、この副マニホールド5bに繋がっている加圧室10の列である加圧室列11が、副マニホールド5bの両側に1列ずつ、合計2列設けられている。したがって、1つのマニホールド5に対して、16列の加圧室11が設けられており、ヘッド本体2a全体では32列の加圧室列11が設けられている。各加圧室列11における加圧室10の長手方向の間隔は同じであり、例えば、37.5dpiの間隔となっている。
各加圧室列11の端にはダミー加圧室16が設けられている。このダミー加圧室16は、マニホールド5とは繋がっているが、吐出孔8とは繋がっていない。また、32列の加圧室列11の外側には、ダミー加圧室16が直線状に並んだダミー加圧室列が設けられている。このダミー加圧室16は、マニホールド5および吐出孔8のいずれとも繋がっていない。これらのダミー加圧室により、端から1つ内側の加圧室10の周囲の構造(剛性)が他の加圧室10の構造(剛性)と近くなることで、液体吐出特性の差を少なくできる。なお、周囲の構造の差の影響は、距離の近い、長さ方向に隣接する加圧室10の影響が大きいため、長さ方向には、両端にダミー加圧室を設けてある。幅方向については、影響が比較的小さいため、ヘッド本体21aの端に近い方のみに設けている。これにより、ヘッド本体21aの幅を小さくできる。
1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、液体吐出ヘッド2の長手方向である行方向と短手方向である列方向とに沿って、行上および列上で、それぞれ略等間隔で配置されている。行方向は、菱形形状の加圧室10の鈍角部10b同士を結ぶ対角線と同じ方向であり、列方向は、菱形形状の加圧室10の鋭角部10a同士を結ぶ対角線と同じ方向である。つまり、加圧室10の菱形形状の対角線が行および列と角度がついていない状態になっている。加圧室10を格子状に配置し、そのような角度の菱形形状の加圧室10を配置することにより、クロストークを小さくできる。これは1つの加圧室10に対して、行方向、列方向のいずれの方向においても、角部同士が対向する状態になっているため、辺同士で対向して場合よりも、流路部材4を通じて、振動伝わり難いためである。なお、この場合、鈍角部10b同士を長手方向に対向させることにより長手方向における、加圧室10の密度を高くして配置でき、これにより、長手方向の吐出孔8の密度を高くできるので、高解像度の液体吐出ヘッド2とできるからである。行上および列上での加圧室10の間隔は、等間隔にすれば、間隔が他より狭いところがなくなりクロストークを小さくできるが、間隔は±20%程度異なるようにしてもよい。
加圧室10を格子状の配置にして、圧電アクチュエータ基板21を、行および列に沿っ
た外辺を有する矩形状にすると、圧電アクチュエータ基板21の外辺から、加圧室10の上に形成されている個別電極25が等距離に配置されることになるので、個別電極25を形成する際に、圧電アクチュエータ基板21に変形が生じ難くできる。圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接合する際に、この変形が大きいと外辺に近い変位素子30に応力が加わり、変位特性にばらつきが生じるおそれがあるが、変形を少なくすることで、そのばらつきを低減できる。また、最も外辺に近い加圧室列11の外側にダミー加圧室16のダミー加圧室列が設けられているために、変形の影響をより受け難くできる。加圧室列11に属する加圧室10は等間隔で配置されており、加圧室列11に対応する個別電極25も等間隔で配置されている。加圧室列11は短手方向に等間隔で配置されており、加圧室列11に対応する個別電極25の列も短手方向に等間隔で配置されている。これにより、特にクロストークの影響が大きくなる部位をなくすことができる。
流路部材4を平面視したとき、1つの加圧室列11に属する加圧室10が、隣接する加圧室列11に属する加圧室10と、液体吐出ヘッド2の長手方向において、重ならないように配置することにより、クロストークを抑制できる。一方、加圧室列11の間の距離を離すと、液体吐出ヘッド2の幅が大きくなるので、プリンタ1に対する液体吐出ヘッド2の設置角度の精度や、複数の液体吐出ヘッド2を使用する際の、液体吐出ヘッド2の相対位置の精度が印刷結果に与える影響が大きくなる。そこで、隔壁15の幅を副マニホールド5bよりも小さくすることで、それらの精度が印刷結果に与える影響を少なくできる。
1つの副マニホールド5bに繋がっている加圧室10は、2列の加圧室列11を構成しており、1つの加圧室列11に属する加圧室10から繋がっている吐出孔8は、1つの吐出孔列9を構成している。2列の加圧室列11に属する加圧室10に繋がっている吐出孔8はそれぞれ、副マニホールド5bの異なる側に開口している。図4では隔壁15には、2列の吐出孔列9が設けられているが、それぞれの吐出孔列9に属する吐出孔8は、吐出孔8に近い側の副マニホールド5bに加圧室10を介して繋がっている。隣接する副マニホールド5bに加圧室列11を介して繋がっている吐出孔8と液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路間のクロストークが抑制できるので、さらにクロストークを小さくすることができる。加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路全体が、液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、さらにクロストークを小さくすることができる。
また、平面視において、加圧室10と副マニホールド5bとが重なるように配置することにより、液体吐出ヘッド2の幅を小さくできる。加圧室10の面積に対する、重なっている面積の割合が80%以上、さらに90%以上にすることで、液体吐出ヘッド2の幅をより小さくできる。また、加圧室10と副マニホールド5bとが重なっている部分の加圧室10の底面は、副マニホールド5bと重なっていない場合と比較して剛性が低くなっており、その差により吐出特性がばらつくおそれがある。加圧室10全体の面積に対する、副マニホールド5bと重なっている加圧室10の面積の割合を、各加圧室10で略同じにすることで、加圧室10を構成する底面の剛性が変わることによる吐出特性のばらつきを少なくすることができる。ここで略同じとは、面積の割合の差が、10%以下、特に5%以下であることを言う。
1つのマニホールド5に繋がっている複数の加圧室10により加圧室群が構成されており、マニホールド5が2つあるため、加圧室群は2つある。各加圧室群内における吐出に関わる加圧室10の配置は同じで、短手方向に平行移動させた配置されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に、加圧室群間などの少し間隔が広くなった部分があるものの、ほぼ全面にわたって配列されている。つまり、これらの加圧室10によって形成された加圧室群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の
開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接合されることで閉塞されている。
加圧室10の個別供給流路14が繋がっている角部と対向する角部からは、流路部材4の下面の吐出孔面4−1に開口している吐出孔8に繋がるディセンダが伸びている。ディセンダは、平面視において、加圧室10から離れる方向に伸びている。より具体的には、加圧室10の長い対角線に沿う方向に離れつつ、その方向に対して左右にずれながら伸びている。これにより、加圧室10は各加圧室列11内での間隔が37.5dpiになっている格子状の配置にしつつ、吐出孔8は、全体で1200dpiの間隔で配置することができる。
これは別の言い方をすると、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、図4に示した仮想直線のRの範囲に、各マニホールド5に繋がっている16個の吐出孔8、全部で32個の吐出孔8が、1200dpiの等間隔となっているということである。これにより、全てのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に1200dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている1個の吐出孔8は、仮想直線のRの範囲で600dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で2色の画像が形成可能となる。この場合、2つの液体吐出ヘッド2を用いれば、600dpiの解像度で4色の画像が形成可能となり、600dpiで印刷可能な液体吐出ヘッドを用いるよりも、印刷精度が高くなり、印刷のセッティングも簡単にできる。
さらに、液体吐出ヘッド2には、マニホールドの開口5aからの液体の供給を安定させるように流路部材4に、リザーバを接合してもよい。リザーバには、外部から供給された液体を分岐させて、2つの開口5aに繋がる流路が設けられることにより、2つの開口に液体を安定して供給できる。分岐してからの流路長をほぼ等しくすることで、外部から供給される液体の温度変動や圧力変動が、マニホールド5の両端の開口5aに、少ない時間差で伝わるため、液体吐出ヘッド2内の液滴の吐出特性のばらつきをより少なくできる。リザーバにダンパを設けることで、さらに液体の供給が安定化できる。さらに、液体中の異物などが流路部材4に向かうのを抑制するように、フィルタを設けてもよい。またさらに、流路部材4に向かう液体の温度を安定化させるようにヒータを設けてもよい。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極25がそれぞれ形成されている。個別電極25は、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでおり、個別電極25は、加圧室10と同じように、個別電極列および個別電極群を構成している。引出電極25bは、一端部が個別電極本体25aに接続されており、他端部が加圧室10の鋭角部10aを通り、加圧室10の外側で、加圧室10の2つの鋭角部10aを結ぶ対角線を延長した列と重ならない領域に引き出されている。これによりクロストークが低減できる。引出電極25bの形状については、後で詳述する。
また、圧電アクチュエータ基板21の上面には、共通電極24とビアホールを介して電気的に接続されている共通電極用表面電極28が形成されている。共通電極用表面電極28は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部に、長手方向に沿うように2列形成され、また、長手方向の端近くで短手方向に沿って1列形成されている。図示した、共通電極用表面電極28は直線上に断続的に形成されたものであるが、直線上に連続的に形成してもよい。
圧電アクチュエータ基板21は、後述のようにビアホールを形成した圧電セラミック層21a、共通電極24、圧電セラミック層21bを積層し、焼成した後、個別電極25および共通電極用表面電極28を同一工程で形成するのが好ましい。個別電極25と加圧室10との位置ばらつきは吐出特性に大きく影響を与えこと、個別電極25を形成した後、焼成すると圧電アクチュエータ基板21に反りが生じるおそれがあり、反りが生じた圧電アクチュエータ基板21を流路部材4に接合すると、圧電アクチュエータ基板21に応力が加わった状態になり、その影響で変位がばらつくおそれがあることから、個別電極25は、焼成後に形成される。共通電極用表面電極28も同様に反りを生じされるおそれがあることと、個別電極25と同時に形成した方が、位置精度が高くなり、工程も簡略化できるので、個別電極25と共通電極用表面電極28は同一工程で形成される。
このような圧電アクチュエータ基板21を焼成する際に生じるおそれのある、焼成収縮によるビアホールの位置ばらつきは、主に圧電アクチュエータ基板21の長手方向に生じるので、共通電極用表面電極28が偶数個あるマニホールド5の中央、別の言い方をすれば、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央に設けられており、共通電極用表面電極28が圧電アクチュエータ基板21の長手方向に長い形状をしていることにより、ビアホールと共通電極用表面電極28とが位置ずれにより電気的に接続されなくなることを抑制できる。
圧電アクチュエータ基板21には、2枚のフレキシブル配線基板60が、圧電アクチュエータ基板21の2つの長辺側から、それぞれ中央に向かうように配置され、接合される。その際、圧電アクチュエータ基板21aの引出電極25bおよび共通電極用表面電極28の上に、それぞれ、接続電極26および共通電極用接続電極を形成して接続することで、接続が容易になる。また、その際、共通電極用表面電極28および共通電極用接続電極の面積を接続電極26の面積よりも大きくすれば、フレキシブル配線基板60の端部(先端および圧電アクチュエータ基板21の長手方向の端)にける接続が、共通電極用表面電極28上の接続により強くできるので、フレキシブル配線基板60が端からはがれ難くできる。
また、吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置されたマニホールド5と対向する領域を避けた位置に配置されている。さらに、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔8は、1つの群として圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子30を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。
ヘッド本体2aに含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、ベースプレート4b、アパーチャ(しぼり)プレート4c、サプライプレート4d、マニホールドプレート4e〜j、カバープレート4kおよびノズルプレート4lである。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔の形成精度を高くできる。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5を構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体2aは、加圧室10は流路部材4の上面に、マニホールド5は内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路12を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介してマニホールド5と吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート4aに形成された加圧室10である。第2に、加圧室10
の一端からマニホールド5へと繋がる個別供給流路14を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート4c(詳細にはマニホールド5の出口)までの各プレートに形成されている。なお、この個別供給流路14には、アパーチャプレート4cに形成されている、流路の断面積が小さくなっている部位であるしぼり6が含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート4l(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。ノズルプレート4lの孔は、吐出孔8として、流路部材4の外部に開口している径が、例えば10〜40μmのもので、内部に向かって径が大きくなっていくものが開けられている。第4に、マニホールド5を構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート4e〜jに形成されている。マニホールドプレート4e〜jには、副マニホールド5bを構成するように隔壁15が残るように孔が形成されている。各マニホールドプレート4e〜jにおける隔壁15は、マニホールド5となる部分全体を孔にすると、保持できない状態になるので、隔壁15は、ハーフエッチングしたタブで各マニホールドプレート4e〜jの外周と繋がった状態にされる。
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、マニホールド5からの液体の流入口(マニホールド5の出口)から吐出孔8に至る個別流路12を構成している。マニホールド5に供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、マニホールド5から上方向に向かって、個別供給流路14に入り、しぼり6の一端部に至る。次に、しぼり6の延在方向に沿って水平に進み、しぼり6の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータ基板21は、圧電体である2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21aの下面から圧電セラミック層21bの上面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層21a、21bは、例えば、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極24およびとAu系などの金属材料からなる個別電極25を有している。個別電極25は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている個別電極本体25aと、そこから引き出された引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出され部分には接続電極26が形成されている。接続電極26は例えばガラスフリットを含む銀−パラジウムからなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極26は、フレキシブル配線基板60に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極25には、制御部100からフレキシブル配線基板60を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極24は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内の全ての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24の厚さは2μm程度である。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極
25からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28に、圧電セラミック層21bに形成されたビアホールを介して繋がっていて、接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、多数の個別電極25と同様に、フレキシブル配線基板60上の別の電極と接続されている。
なお、後述のように、個別電極25に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極25に対応する加圧室10の体積が変わり、加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路12を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子30に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする圧電アクチュエータである変位素子30が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極24、圧電セラミック層21b、個別電極25により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には加圧部である変位素子30が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は1.5〜4.5pl(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極25は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがフレキシブル配線基板60および配線を介して、個別に制御部100に電気的に接続されている。個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部100により個別電極25を共通電極24に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極25を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極25に供給することになる。このパルス幅は、圧力波がしぼり6から吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、加圧
室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
また、階調印刷においては、吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに
発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。なお、この場合後から吐出される液滴の速度が速くなると考えられるが、その方が複数の液滴の着弾点が近くなり、好ましい。
なお、本実施形態では、加圧部として圧電変形を用いた変位素子30を示したが、これに限られるものでなく、液体加圧室10中の液体を加圧できるものなら他のものでよく、例えば、液体加圧室10中の液体を加熱して沸騰させて圧力を生じさせるものや、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いたものでも良い。