輸液、輸血、体外血液循環などの処置では、患者の血管に針を穿刺した状態で留置する。鋭利な先端を有する硬質の金属針を血管内に留置すると血管が傷付けられる可能性がある。そこで、軟質の外針と鋭利な先端を有する硬質の内針とを備えた留置針装置が知られている。外針の先端から内針の先端を突出させた状態で外針及び内針を患者の血管に穿刺し、その後、内針を外針から後退させ、外針のみを患者に留置する。留置された軟質の外針は患者の血管を傷付ける可能性は低い。
図6Aは、このような従来の留置針装置900の一例の上方から見た斜視図、図6Bは、図6Aの6B−6B線を含む垂直面に沿った従来の留置針装置900の矢視断面図である。説明の便宜のため、患者に穿刺する側(図6A、図6Bの紙面の左側)を「前側」、これと反対側を「後ろ側」と呼ぶ。
留置針装置900は、略円筒形状を有するシールド筒921と、その一端(前端)に固定された外ハブ925とを含むシールド920を備える。外ハブ925の前端に軟質の外針930が固定されている。シールド筒921の外ハブ925側端近傍の外周面に一対の翼929が設けられている。翼929は柔軟性を有しており、上下に揺動可能である。
シールド920の内腔内には内ハブ940が挿入されている。内ハブ940の前端には金属製の硬質の内針950が固定され、内ハブ940の後端には柔軟なチューブ960が接続されている。内針950とチューブ960とは、内ハブ940を前後方向に貫通する縦貫路943を介して連通している。
シールド筒921、外ハブ925、外針930、及び翼929は、留置針装置900の外ユニット902を構成する。一方、内ハブ940、内針950、及びチューブ960は、留置針装置900の内ユニット903を構成する。内ユニット903は、外ユニット902に対して、シールド920の長手方向(即ち、前後方向)に移動可能に挿入されている。
図6A及び図6Bでは、内ハブ940はシールド920の内腔の前端側に位置し、内ハブ940に保持された内針950は外針930を貫通し、内針950の先端は外針930の先端から外部に突出している。外ユニット902に対する内ユニット903のこの位置を「初期位置」と呼ぶ。
内ユニット903を初期位置に保持するために、ストッパー970が用いられる。図7はストッパー970の斜視図である。略半円筒形状の基部971から、略半円筒形状の挿入部972及び一対の固定部973が延びている。挿入部972は一対の固定部973の間に配置され、これらは互いに平行である。
図6Bに示されているように、シールド筒921の後端から、ストッパー970の挿入部972を挿入する。挿入部972の前端を内ハブ940の後端に衝突させて内ハブ940を前方に押し込むことにより、内ユニット903を初期位置に配置することができる。
留置針装置900は、以下のように使用される。
最初に、内ユニット903を初期位置に保持したまま、内針950及び外針930を患者の血管に穿刺する(穿刺作業)。次いで、シールド920からチューブ960を引き出す(後退作業)。チューブ960の先端は内ハブ940に接続されている。従って、チューブ960を引き出すと、内ハブ940を含む内ユニット903が外ユニット902に対して後方に移動する。また、ストッパー970もシールド920から引き出される。かくして、図8に示すように、内針950がシールド920内に収納される。ストッパー970は、シールド920から抜き去られている。図8に示した外ユニット902に対する内ユニット903の位置を「後退位置」と呼ぶ。この状態で粘着テープ等を用いて留置針装置900を患者に固定する。軟質の外針930のみが患者に穿刺された状態で留置される。
上記の穿刺作業は、図6A及び図6Bに示されているように、外針930の先端から内針950の先端を突出させた状態で行わなければならない。穿刺作業中、外ユニット902に対して内ユニット903を初期位置に保持し続ける必要がある。
穿刺作業では、内針950及び外針930は患者から反力を受ける。このため、外ユニット902に対する内ユニット903の相対的位置が初期位置から変化しないようにするための留置針装置900の穿刺作業時の把持方法としては、図6Aにおいて、(1)ストッパー970の基部971を把持する、(2)一対の固定部973とその間のシールド筒921とが一体的に把持されるように、一対の固定部973の外側面を水平方向に把持する、(3)一対の固定部973が一対の翼929とシールド筒921との間に挟まれて固定されるように、一対の翼929を上方に持ち上げ重ね合わせた状態で把持する、が考えられる。
しかしながら、上記のいずれの把持方法であっても、穿刺作業に続く後退作業では、チューブ960を把持する必要がある。また、後退作業では、シールド920を患者に対して移動しないように一方の手で押さえながら、他方の手でチューブ960をシールド920から引き出す必要がある。従って、穿刺作業後であって後退作業前に、留置針装置900を把持する位置を変える必要がある。また、後退作業を片手で行うことは困難である。
特許文献1には、内ハブを初期位置に保持するために、ストッパーに設けた凸部をシールド筒の外周面に設けた凹部に嵌合する留置針装置が記載されている。この留置針装置は、図6A及び図6Bに示した留置針装置900に比べて、穿刺作業時の把持方法に関して自由度が高い。
上記の本発明の留置針装置において、前記基部は、アームを備えうる。前記アームは、その後端に前記把持部を備え、その前端に爪を備えうる。この場合、前記挿入部を前記シールドの前記内腔内に挿入し且つ前記挿入部の前端を前記初期位置にある前記内ユニットの前記内ハブに当接させたとき、前記爪が前記シールドに係合することが好ましい。また、前記把持部に前記チューブに向かう向きの力を印加したとき、前記アームが弾性的に回動して、前記爪と前記シールドとの係合が解除されることが好ましい。このようにシーソー状に弾性的に回動(揺動)可能なアームの後端に把持部を設け、前端にシールドに係合する爪を設ける。これにより、把持部を把持すると、シールドとの係合が解除され、同時に、把持部を介してチューブを把持するストッパーを簡単な構成で実現することができる。
前記爪は、その頂部より前側に、前記把持部に近づくにしたがって前記挿入部に接近するように傾斜した傾斜面を備えうる。これにより、挿入部をシールドの内腔内に挿入するだけで、爪をシールドに係合させることができる。従って、留置針装置の組立が容易になる。
前記シールドの外周面から突起が突出していてもよい。この場合、前記ストッパーは前記突起に係合しうる。これにより、ストッパーとシールドとの確実な係合を確保することができる。突起は、前記シールドの外周面から上方に向かって突出していてもよい。この突起は、穿刺作業及び/又は後退作業を行う際に留置針装置を安定的に保持するために利用しうる。このような突起にストッパーを係合させることにより、留置針装置の構成を簡単化することができる。
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態を構成する主要部材を簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の部材を備え得る。また、本発明の範囲内において、以下の各図に示された各部材を変更または省略し得る。
図1Aは、内ユニットが初期位置にある、本発明の一実施形態にかかる留置針装置1の上方から見た斜視図である。以下の説明の便宜のため、図示したように、留置針装置1の長手方向に沿った軸をZ軸、Z軸と直交する水平方向軸及び上下方向軸をそれぞれX軸及びY軸とする直交座標系を設定する。Y軸の矢印の側(即ち、図1Aの紙面の上側)を「上側」、これと反対側を「下側」と呼ぶ。但し、「水平方向」及び「上下方向」は、留置針装置1の実際の使用時の向きを意味するものではない。更に、患者に穿刺する側(Z軸の矢印の側、即ち、図1Aの紙面の左側)を「前側」、これと反対側を「後ろ側」と呼ぶ。図1Bは留置針装置1の平面図、図1Cは図1Bの1C−1C線を含む垂直面に沿った留置針装置1の矢視断面図である。
留置針装置1は、シールド20を備える。シールド20は、シールド筒21と、シールド筒21の一端(前端)に固定された外ハブ25とを有する。シールド筒21は、内径が一定の略円筒形状を有する。シールド筒21の外ハブ25とは反対側端(後端)近傍の内周面には、周方向に連続する係止突起22が形成されている。シールド筒21の外周面から、突起23a,23bが上方に向かって突出している。2つの突起(第1突起)23aは、シールド筒21の側面(X軸方向に最も突出した部分)に、X軸方向に離間し且つ対向して配置されている。突起23aは、シールド筒21の後端に設けられている。一方、突起(第2突起)23bは、シールド筒21の上面であって、外ハブ25の近傍の位置に配置されている。外ハブ25は略漏斗形状を有し、そのシールド筒21とは反対側端(前端)に軟質の外針30が固定されている。外針30は略円筒形状を有する。
シールド筒21及び外ハブ25の材料としては、制限はなく、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等を用いることができる。シールド筒21及び外ハブ25が透明性又は透光性を有すると、シールド20の内腔24内の液体(薬液又は血液など)や内ハブ40を透視することができるので好ましい。外針30の材料としては、制限はなく、軟質材料が好ましく、例えば、ポリプロピレン、ポリウレタン系エラストマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等を用いることができる。外針30が透明性又は透光性を有すると、その内腔内の液体(薬液又は血液など)や内針50を透視することができるので好ましい。なお、外ハブ25及び外針30を、上記の軟質材料を用いて一体に形成してもよい。
一対の翼29が、略円筒形状の固定部材28に一体的に設けられている。固定部材28をシールド筒21の外ハブ25側端近傍の外周面に外装することにより、翼29がシールド20に装着されている。翼29は、X軸と略平行に延びている。シールド筒21の突起23bを固定部材28に設けられた略U字状の切り欠きに嵌入させることにより、固定部材28及び翼29がシールド筒21に対して位置決めされている。翼29は柔軟性を有し、上下に揺動可能である。
翼29の材料としては、制限はなく、軟質材料が好ましく、例えば、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレン、オレフィン系又はポリスチレン系の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。なお、翼29は、シールド20に一体に成形されていてもよい。
シールド20の内腔24内には内ハブ40が、シールド20の長手方向(即ち、Z軸方向)に移動可能に挿入されている。内ハブ40の前端には金属製の硬質の内針50が固定されている。内針50は略円筒形状を有し、その先端は鋭利に加工されている。内ハブ40の後端には柔軟なチューブ60の一端が接続されている。チューブ60の他端は、例えば輸液を行うための点滴回路(図示せず)に接続することができる。内ハブ40の外周面にOリング49が装着されている。Oリング49はシールド筒21の内周面に密着し、シールド20の内腔24において、Oリング49よりも外針30側の液体がOリング49よりもチューブ60側に漏洩するのを防ぐ。
内ハブ40の材料としては、制限はなく、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等を用いることができる。チューブ60の材料としては、制限はなく、軟質材料が好ましく、例えば、塩化ビニル等の樹脂材料を用いることができる。Oリング49の材料としては、制限はなく、柔軟性を有し弾性的変形可能な材料が好ましく、例えば、ポリイソプレンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性エラストマー等を用いることができる。
図2Aは内ハブ40の斜視図、図2Bは図2Aの2B−2B線を含む面に沿った内ハブ40の矢視断面図、図2Cは図2Aの2C−2C線を含む面に沿った内ハブ40の矢視断面図である。図2Bの断面と図2Cの断面とは互いに直交する。内ハブ40は、一端(前端)に、円錐面状の外面を有する前部41を有し、他端に円筒面状の外面を有する後部42を有する。縦貫路43が、内ハブ40の中心軸40aに沿って前部41から後部42まで内ハブ40を縦貫している。図1Cに示されているように、内針50は、前部41側から縦貫路43内に挿入されて、内ハブ40に保持される。後部42がチューブ60内に挿入されて、内ハブ40とチューブ60とが接続される。かくして、内針50とチューブ60とは、内ハブ40の縦貫路43を通じて連通される。
前部41と後部42との間の、内ハブ40の外周面に、周方向に連続する環状溝44が形成されている。図1Cに示されているように、環状溝44にOリング49が装着される。
環状溝44と前部41との間の、内ハブ40の外周面に、環状溝44側から径大部45及び径小部46がこの順に形成されている。径大部45の外径は、径小部46の外径及び前部41の最大径より大きい。環状溝44より前部41側の位置に、内ハブ40を直径方向(中心軸40aに直交する方向)に横貫する横貫路47が形成されている。横貫路47は、縦貫路43と交差し且つ連通している。
後部42の周囲に、片持ち支持された4つの弾性片48が、内ハブ40の中心軸40aに対して等角度間隔で配置されている。弾性片48の後部42とは反対側の面には、嵌合溝48aとテーパ面48bとが形成されている。嵌合溝48aは、内ハブ40の周方向に沿った凹部(溝)である。テーパ面48bは、嵌合溝48aに対して弾性片48の自由端側に隣接し、嵌合溝48a側で外径が大きな円錐面の一部をなす。
シールド20と、シールド20に固定された外針30、翼29、及び固定部材28は留置針装置1の外ユニット2を構成する。一方、内ハブ40、内針50、及びチューブ60は、留置針装置1の内ユニット3を構成する。内ユニット3は、外ユニット2に対して、シールド20の長手方向(即ち、前後方向)に移動可能に挿入されている。
図1A〜図1Cでは、内ハブ40はシールド20の内腔24の前端側に位置し、内ハブ40に保持された内針50は外針30を貫通し、その先端は外針30の先端から外部に突出している。外ユニット2に対する内ユニット3のこの位置を本発明では「初期位置」と呼ぶ。
内ユニット3を初期位置に保持した状態で、内針50及び外針30を患者に穿刺する。内ユニット3を初期位置に維持するためにストッパー70が用いられる。図3Aは、ストッパー70の上方から見た斜視図、図3Bは、ストッパー70の下方から見た斜視図である。図4は、ストッパー70の平面図である。ストッパー70は、挿入部71と、挿入部71の後端に設けられた基部72とを備える。
挿入部71は、略「U」字状の断面形状を有し、Z軸と平行に延びる。挿入部71は、図1Cに示されているように、シールド20の後ろ側の開口からシールド20の内腔24内に挿抜可能である。挿入部71をシールド20の内腔24内にもっと深くまで挿入したとき、基部72は、シールド20外に位置する(図1A参照)。
基部72は、挿入部71の後端が接続された基部本体73と、基部本体73を挟んで配された一対のアーム75とを備える。一対のアーム75は、互いに離間し、X軸方向に対向している。各アーム75は、連結部74を介して基部本体73に保持されている。アーム75は、Z軸(即ち、挿入部71の長手方向)と略平行に延びる。アーム75のうち、連結部74よりも後ろ側(即ち、アーム75の後端)の部分は把持部76であり、連結部74よりも前側の部分は保持部77である。アーム75の前端は、挿入部71に対向する位置にまで達している。アームの前端には、挿入部71に向かって突出した爪(突起)78が設けられている。爪78は、Z軸方向に対して傾斜した傾斜面78aと、Z軸に対して略垂直な係合面78bとを備える(図4参照)。爪78の頂部(挿入部71に最も接近した部分)78cに対して前側に傾斜面78aが位置し、後ろ側に係合面78bが位置している。傾斜面78aは、把持部76に近づくにしたがって挿入部71に接近するように傾斜している。
アーム75は、前端(爪78)から後端(把持部76)に至るまで、実質的に剛体と見なしうる程度の機械的強度を有している。これに比べて、連結部74は薄く、その機械的強度は低い。従って、図4に示すように、把持部76の外側面にX軸方向に沿った力Fを印加すると、アーム75の前端が矢印Aの向きに変位するようにアーム75が回動する。このアーム75の回動は、連結部74が弾性的に曲げ変形することによって可能になる。即ち、一対の把持部76に一対の把持部76間の間隔が小さくなるように力Fを印加すると、一対の爪78間の間隔が大きくなるように、各アーム75がそれぞれ弾性的に回動する。
把持部76は、基部本体73よりも後ろ側に延びている。一対の把持部76の互いに対向する面の一方にはリブ76aが設けられ、他方には溝76bが設けられている。リブ76a及び溝76bは、互いに対向して配置され、上下方向(Y軸方向)に沿って延びている。リブ76aは溝76bに向かって突出した突起である。
基部本体73の上面は、挿入部71に近づくにしたがって低くなるように傾斜している。
図3Bに示されているように、挿入部71及び基部本体73の下面に、Z軸方向に沿って連続した溝79が形成されている。溝79は、把持部76間の隙間に連続している。
ストッパー70の材料としては、制限はなく、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等を用いることができる。好ましくは、ストッパー70は、このような樹脂材料を用いて、射出成形法等により一部品として一体的に作成される。
図1A〜図1Cに示されているように、シールド20の後ろ側の開口からシールド20の内腔24内に、内ユニット3を挿入し、続いてストッパー70の挿入部71を挿入する。挿入部71の前端71aが内ハブ40の弾性片48の後端に衝突する。ストッパー70をシールド20内に挿入することにより、挿入部71を介して内ユニット3を外ユニット2に対して前方に向かって移動させることができる。
ストッパー70をシールド20内に挿入する過程で、シールド筒21の突起23aが、ストッパー70の爪78の傾斜面78a(図4参照)に衝突する。ストッパー70を更に押し込むと、突起23aは、傾斜面78a上を摺動しながら、爪78が外側(図4の矢印Aの向き)に変位するようにアーム75を回動させる。突起23aが頂部78cを通り過ぎると、アーム75は直ちに初期状態に復帰し、爪78(特にその係合面78b)が突起23aに係合する。これとほぼ同時に、内ハブ40の径大部45が外ハブ25の後端に衝突する。かくして、内ユニット3が初期位置に配置される。内ハブ40に接続されたチューブ60は、ストッパー70の下面の溝79及び把持部76間の隙間に収納される(図3B参照)。
図5Aは、内ユニット3が後退位置に移動した留置針装置1の上方から見た斜視図である。図5Bは、その断面図である。図5Bの断面は、図1Cの断面と同じである。ストッパー70は、シールド20から抜き出され取り除かれている。図5Bに示されているように、内ユニット3が後退位置にあるとき、内針50は外針30から抜き去られ、シールド20の内腔24内に収納されている。内ハブ40の嵌合溝48a(図2A、図2B、図2Cを参照)とシールド筒21の係止突起22とが嵌合している。
初期位置(図1C参照)に比べると、後退位置では、外針30内の流路の断面積は内針50の断面積分だけ増大するので、薬液又は血液の流量が増大する。また、後退位置では、外針30からチューブ60に至る流路としては、内針50及び内ハブ40の縦貫路43を順に通る第1流路と、シールド20の内面と内針50及び内ハブ40の各外面との間の空間、内ハブ40の横貫路47、及び内ハブ40の縦貫路43を順に通る第2流路の2つがあるので、大きな流量で薬液又は血液を流すことができる。
以上のように、内ユニット3を外ユニット2に対して、初期位置(図1A〜図1C)から後退位置(図5A、図5B)へ移動させることができる。
留置針装置1は、図1A〜図1Cに示されているように、内ユニット3が初期位置にあり、且つ、ストッパー70の爪78がシールド筒21の突起23aに係合した状態で、病院等の医療機関に納入される。爪78が突起23aに係合しているので、搬送中の振動等によってストッパー70や内ユニット3がシールド20から抜け出ることはない。
留置針装置1の使用方法は以下のとおりである。
最初に、内ユニット3が初期位置にある留置針装置1(図1A〜図1C)の内針50及び外針30を患者の血管に穿刺する(穿刺作業)。このとき、留置針装置1の下側の面(突起23a,23bが突出したのと反対側の面)を患者に対向させる。穿刺作業は、例えば作業者の右手の親指と中指とでストッパー70の保持部77を把持して行うことができる。このとき、右手の人差し指は、シールド筒21の突起23bに添えることができる。
内針50及び外針30を患者に穿刺する際に内針50は患者から反力を受ける。しかしながら、爪78が突起23aに係合しているので、内ユニット3は初期位置に保持され続ける。従って、内針50が外針30内に後退することはない。
次に、外針30を患者の血管内に穿刺した状態で、内ユニット3を外ユニット2に対して後方に移動させる(後退作業)。後退作業を行うのに先だって、親指及び中指の把持位置を保持部77から把持部76へ後退させる。人差し指を添える位置は、突起23bのままであってもよいし、突起23aへ後退させてもよい。そして、図4で説明したように、把持部76間の間隔が小さくなるように把持部76に力Fを印加し、アーム75を図4に示した矢印Aの向きに回動させる。これにより、爪78と突起23aとの係合が解除され、且つ、把持部76間にチューブ60が挟持される。この状態で、患者に対して外ユニット2が移動しないように人差し指で突起23b又は突起23aを前方に向かって押しながら、ストッパー70をシールド20から後方に引き出す。チューブ60は一対の挟持部76で挟持されているから、ストッパー70とともにチューブ60を含む内ユニット3が後方に移動される。ストッパー70の基部本体73の上面の前端は、シールド20の上面より低いので、シールド20の後端に設けられた突起23aに人差し指で力を加えるのが容易である。
図1Cに示したように、シールド筒21の後端近傍の内周面には係止突起22が形成されている。内ハブ40の弾性片48の外面に形成されたテーパ面48b(図2A参照)が係止突起22に衝突しこの上を摺動する。弾性片48は、係止突起22によって後部42側に弾性変形される。テーパ面48bが係止突起22を乗り越えると、弾性片48が弾性回復し、嵌合溝48aに係止突起22が嵌入する。かくして、内ユニット3は後退位置に到達する。
このとき、ストッパー70のほぼ全部がシールド20から引き出されている。把持部76への力Fの印加を解除し、アーム75を初期状態に復帰させる。そして、ストッパー70を外ユニット2及び内ユニット3から取り除く。
かくして、図5A及び図5Bに示した状態となる。
この状態でシールド20又は翼29の上から粘着テープを患者の皮膚に貼り付け、留置針装置1を患者に固定する。外針30のみが患者に穿刺された状態で留置される。内ユニット3が後退位置にあるとき、柔軟な外針30内に硬質の内針50が存在しないので、患者が動くなどにより、患者に対する留置針装置1の姿勢が仮に変化しても、外針30が患者の血管等を傷付けることはない。
必要な処置が終了すると、粘着テープを患者から剥がし、外針30を患者から引き抜く。シールド20に対してチューブ60を押し引きしても、内ハブ40の嵌合溝48aとシールド筒21の係止突起22との嵌合状態は解除されない。このため、内針50を外針30の先端から再度突出させたり、内ユニット3をシールド20から抜き出したりすることはできない。従って、使用済みの留置針装置1を誤って再使用したり、硬質の内針50で指等を誤穿刺したりするのを防止している。使用済みの留置針装置1は廃棄される。
以上のように、本実施形態の留置針装置1では、内ユニット3が初期位置にあるとき、ストッパー70の爪78がシールド20に係合する。ストッパー70の挿入部71の前端71aは内ハブ40に衝突する。従って、爪78とシールド20との係合が解除されない限り、内ユニット3は初期位置に保持され続ける。爪78とシールド20との係合は、ストッパー70の把持部76にチューブ60に向かう向きの力F(図4参照)を印加することにより解除することができる。係合が解除されると同時に、把持部76を介してチューブ60を把持することができる。従って、上述したように、例えば右手の親指と中指とでストッパー70の保持部77を把持して穿刺作業を行い、その後、同じ右手の親指と中指とでストッパー70の把持部76を把持して爪78とシールド20との係合を解除し、続いて後退作業を行うことができる。穿刺作業から後退作業に移行する際に、把持位置をアーム75上でわずかに後方に移動させるだけでよい。従って、穿刺作業から後退作業までの一連の作業を片手(例えば右手)のみで連続的に行うことができる。
上述した従来の留置針装置900では、後退作業はチューブ960を把持して行う必要がある。しかしながら、チューブ960は柔軟であるので、一方の手でしっかりと握る必要がある。また、チューブ960が引き出されるにしたがってチューブ960とシールド920との距離が大きくなる。このため、後退作業時には、例えば右手でチューブ960を把持し、左手でシールド920を患者に対して移動しないように保持する必要がある。従って、片手のみで後退作業を行うことが困難であった。これに対して、本実施形態の留置針装置1では、上記のように後退作業時にチューブ60を把持する必要がない。把持部76と突起23aと距離は比較的近いので、上述したように、例えば右手の親指と中指とで把持部76を把持し、右手の人差し指で突起23aを前方に押し出すことで、後退作業を行うことができる。従って、片手(例えば右手)のみで後退作業を行うことができる。
爪78とシールド20とが係合した状態では、この係合を解除することなく、チューブ60をシールド20から引き出すことはできない。爪78とシールド20との係合を解除すれば、チューブ60は把持部76を介して必然的に把持される。このため、爪78とシールド20との係合を解除させるための力Fを印加しながら(即ち、アーム75が回動した状態を維持しながら)、ストッパー70をシールド20から引き出せば、チューブ60はストッパー70と一緒にシールド20から引き出される。従って、ストッパー70を抜き去ったことにより後退作業が完了したと勘違いして、チューブ60を引き出すことを忘れてしまうという誤操作をする可能性はほとんどない。
把持部76にリブ76a及び溝76bが設けられているので、把持部76に力Fを印加したときに、チューブ60に局所的な力を印加することができる。このため、後退作業時にチューブ60がストッパー70に対して滑ることなく、チューブ60をストッパー70とともに確実に引き出すことができる。
ストッパー70の爪78がシールド20に係合している限り、内ユニット3は初期位置から移動することはない。従って、穿刺作業を、上記の使用例のようにストッパー70ではなく、外ユニット3を把持して行うことも可能である。例えば、シールド筒21の両側面(X軸方向に向いた面)を把持してもよく、あるいは、一対の翼29を上方に持ち上げて、重ね合わされた翼29を把持してもよい。このように穿刺作業時の留置針装置1の把持位置を、作業者の好みに応じて任意に選択しうる。穿刺作業時の留置針装置1の把持位置に関わらず、穿刺作業時に留置針装置1を把持していた方の手(例えば右手)のみで、その後の、爪78とシールド20との係合の解除作業及び後退作業を行うことができる。
外ユニット3を直接把持して穿刺作業を行うことができるので、従来の留置針装置900のストッパー970に設けられていた固定部973(図7参照)は、本発明のストッパー70には不要である。
上記の実施形態は例示に過ぎない。本発明は、上記の実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
上記の実施形態では、穿刺作業を、ストッパー70の保持部77を把持して行う例を説明した。しかしながら、穿刺作業を、ストッパー70の把持部76を把持して行うこともできる。把持部76を把持することにより、爪78と突起23aとの係合が解除される場合が起こりうる。しかしながら、この場合でも、穿刺作業時に患者から受ける反力はストッパー70で支持されるので、穿刺作業中に内ユニット3が外ユニット2に対して初期位置から後方に移動することはない。むしろ、穿刺作業を把持部76を把持して行うことは、これに続く後退作業時にストッパー70の把持位置を変える必要がないので、穿刺作業から後退作業までの一連の作業をより効率よく連続的に行うことができる。
上記の実施形態では、ストッパー70の爪78はシールド20の突起23aに係合した。これは、後退作業時に利用しうる突起23aを爪78が係合する箇所としても利用するので、シールド20の構成を簡単化するのに有利である。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、後退作業時に利用しうる突起23aとは別に突起を設け、当該突起に爪78を係合させてもよい。あるいは、シールド20の外周面に凹部を設け、爪78がこの凹部に係合(嵌入)してもよい。これらの場合、突起23aの形状や位置に関する自由度が大きくなるので、例えば後退作業時に人差し指を添えるのにより適するように突起23aを設計変更しうる。
把持部76の互いに対向する面には、リブ76a及び溝76b以外の任意の形状を設けうる。例えば、把持部76の互いに対向する面の両方にリブ76aを設けてもよい。リブ76a及び/又は溝76bが複数設けられてもよい。把持部76の互いに対向する面は、Z軸に平行に延びている必要はなく、Z軸に対して傾斜していてもよいし、また、屈曲又は湾曲した部分を有していてもよい。
把持部76及び保持部77の外側面(指が触れる面)に、滑りを防止するための凸部、凹部、凹凸などが設けられていてもよい。
上記の実施形態では、把持部76に力Fを印加したときにのみ、把持部76がチューブ60を把持した。しかしながら、力Fを印加していない状態であっても、把持部76がチューブ60を把持するように構成してもよい。この場合、把持部76に力Fを印加して爪78とシールド20との係合を解除した後は、把持部76に印加する力を力Fよりも弱めてもストッパー70とともにチューブ60を容易に引き出すことができる。
上記の実施形態では、チューブ60の中心を通るYZ面に対して対称に一対のアーム75が設けられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ストッパー70が、連結部74にて弾性的に回動可能なアーム75をただ一つのみ有していてもよい。この場合、アーム75は、上記の実施形態と同様に把持部76及び爪78を備えうる。アーム75は、チューブ60に対して一方の側に配置される。チューブ60を挟んでアーム75とは反対側には、把持部76に対向する位置に、「不動把持部」が設けられる。不動把持部は、基部本体73から後方に向かって延び、実質的に変位しない。内ユニット3が初期位置にあるときには、ただ1つの爪78がシールド20に係合する。爪78とシールド20との係合を解除するためには、把持部76と不動把持部とを把持して、把持部76を不動把持部に向かって変位させればよい。チューブ60は把持部76と不動把持部との間に把持される。このように、ストッパー70が単一のアーム75のみを備える場合でも、本発明の留置針装置を構成することができ、本発明の効果を奏することができる。上記の実施形態のように、一対のアーム75を備える場合には、2つの爪78とシールド20との係合を解除する際に、一方の爪78の係合のみが解除され、他方の爪78の係合が解除されないという事態が起こりうる。アーム75が1つのみである場合には、このような事態は起こり得ず、爪78とシールド20との係合を解除する作業が容易になる可能性がある。
上記の実施形態では、突起23aはシールド20の後端に形成されていたが、突起23aの形成位置は、シールド20の後端である必要はなく、後端よりも前側の位置であってもよい。但し、シールド20の後端から前側に遠く離れた位置に突起23aを形成すると、後退作業において人差し指が突起23aに届かなくなるので、後退作業の作業性が低下する。従って、突起23aは、シールド20の後端又はその近傍に形成されていることが好ましい。具体的には、シールド20の後端から突起23aまでの距離は、20mm以下、更には10mm以下、特に5mm以下にすることができる。
上記の実施形態では、2つの突起23a及び2つの突起23bがそれぞれX軸方向に対向して形成されていたが、突起23a及び突起23bの数はいずれも1つであってもよいし、突起23a及び突起23bがX軸方向に3つ以上並んでいてもよい。突起23a及び突起23bの形状や寸法は任意である。人差し指で力を加えやすいように、突起23a及び突起23bの人差し指が当たる部分の面積を大きくしてもよく、人差し指が滑るのを防止するために、人差し指が当たる部分に凹凸形状を形成してもよい。
内ユニット3が後退位置にあるときの内ハブ40とシールド20との嵌合構造は、上記以外の構成を有していてもよい。あるいは、当該嵌合構造を省略してもよい。
翼29及び固定部材28を省略してもよい。