JP2016146819A - 培養細胞内のerkまたはaktのリン酸化亢進方法、および細胞の培養方法 - Google Patents
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Abstract
Description
アポトーシスを起こした細胞から漏洩した内容物(漏洩夾雑物)は、細胞を用いたアッセイに対して影響を与えるおそれがある。また、細胞を用いて医薬品等の物質を生産する場合においては、漏洩夾雑物が生産物の分解を引き起こしたり、その除去のために作業工程数が増えたりするという問題がある。
このため、細胞培養において、アポトーシスを効率よく抑制することが求められていた。
非特許文献1には、接着型細胞が細胞外基質に接着している状態であれば、インテグリンと呼ばれる細胞表面の接着に関係するタンパク質経由の情報伝達作用により、ミトコンドリアからの内容物の漏洩を防止する作用があること、結果として、アポトーシスが防止されることが記載されている。
接着状態の細胞におけるアポトーシス抑制の作用メカニズムに関しては、インテグリンを経由した細胞内のERK又はAKTと称される細胞内シグナル伝達系タンパク質のリン酸化が亢進され、そのリン酸化が亢進したERK又はAKTの作用により、ミトコンドリアを破壊する因子を破壊作用のない状態にする効果を引き出すことが知られている。
さらに、特許文献2には、ピリダジノン構造を有する化合物が、血液細胞の中のT細胞由来のジャーカット細胞などの浮遊細胞に対して、生体内でのカスパーゼ阻害活性を有することが開示されている。
これらの培養器具は、通常、γ線照射などの処理で滅菌処理される。また、接着型細胞が剥離して死滅しないように、プラズマ処理や紫外線照射処理により、培養容器の表面に親水化処理が施されることがある。
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、培養細胞内のERKまたはAKTのリン酸化亢進方法、およびこのリン酸化亢進方法を利用する細胞の培養方法を提供することを目的とする。
(1)培養されている細胞に、脂環構造含有重合体成形体を接触させることを特徴とする培養細胞内のERK(Extracellular signal−Regulated Kinase)のリン酸化亢進方法。
(2)培養されている細胞に、脂環構造含有重合体成形体を接触させることを特徴とする培養細胞内のAKTのリン酸化亢進方法。
(3)培養されている細胞が接着型細胞である(1)又は(2)に記載のリン酸化亢進方法。
(4)培養されている細胞に、脂環構造含有重合体成形体を接触させ、培養細胞内のERK(Extracellular signal−Regulated Kinase)のリン酸化及び/又はAKTのリン酸化を亢進することを特徴とする細胞の培養方法。
液体培地としては、通常、pH緩衝作用があり、浸透圧が細胞に好適なものであり、細胞の栄養成分を含み、かつ、細胞に対して毒性がないものが用いられる。
pH緩衝作用を示す成分としては、トリス塩酸塩、各種リン酸塩、各種炭酸塩等が挙げられる。
液体培地の浸透圧調整は、通常、細胞の浸透圧とほぼ同じになるように、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、グルコース等の濃度を調整した水溶液を用いて行われる。かかる水溶液としては、具体的には、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等の生理食塩水;乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等のリンゲル液;等が挙げられる。
細胞の栄養成分としては、アミノ酸、核酸、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
液体培地としては、RPMI−1640、HAM、α−MEM、DMEM、EMEM、F−12、F−10、M−199等の各種市販品を利用することができる。
分化誘導因子としては、細胞表面の受容体に作用するリガンド、アゴニスト、及びアンタゴニスト;核内受容体のリガンド、アゴニスト、及びアンタゴニスト;コラーゲン及びファイブネクチンなどの細胞外マトリックス;細胞外マトリックスの一部分、又は細胞外マトリックスを模擬した化合物;細胞内の情報伝達経路に関わるタンパク質に作用する成分;細胞内の1次代謝または2次代謝の酵素に作用する成分;細胞内の核内またはミトコンドリア内の遺伝子の発現に影響を与える成分;インシュリン様増殖因子などの細胞増殖因子の遺伝子をコードしたDNAや、カスパターゼなど細胞内制御因子に対する干渉RNA作用があるように設計したマイクロRNAなどのRNAであって、マイクロインジェクション法、ハイドロダイナミクス法、エレクトロポレーション法、リポフェクチン法等の方法によりウィルスベクターなどと組み合わせて細胞内に導入することができるDNAやRNA;等が挙げられる。
これらの添加剤は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
例えば、二酸化炭素濃度が5%程度で、温度が20℃〜37℃の範囲で一定に維持された、加湿された恒温器を用いて細胞を培養することができる。
脂環構造含有重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環構造を有する樹脂であり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましい。
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、2−メチルジシクロペンタジエン、2,3−ジメチルジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の3環式単量体;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチル−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデン−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4−メタノ−8−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−クロロ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−ブロモ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン等の4環式単量体;等が挙げられる。
これらの単量体は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、α−オレフィン系単量体が好ましく、エチレンがより好ましい。
これらの単量体は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−又は1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などを用いることができる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられる。ビニル脂環式炭化水素重合体は、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
本発明においてガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
また、脂環構造含有重合体には、熱可塑性樹脂材料で通常用いられている配合剤、例えば、軟質重合体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などの配合剤を、通常採用される量、添加することができる。
また、脂環構造含有重合体には、軟質重合体以外のその他の重合体(以下、単に「その他の重合体」という)を混合しても良い。脂環構造含有重合体に混合されるその他の重合体の量は、脂環構造含有重合体100重量部に対して、通常200重量部以下、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
脂環構造含有重合体に対して配合する各種配合剤やその他の重合体の割合が多すぎると、細胞内シグナル伝達系タンパク質のリン酸化亢進能が低下するため、いずれも脂環構造含有重合体の性質を損なわない範囲で配合することが好ましい。
配合剤やその他の重合体との混合方法は、ポリマー中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合の順番に格別な制限はない。配合方法としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などを用いて樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させた後、凝固法、キャスト法、又は直接乾燥法により溶剤を除去する方法などが挙げられる。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
また、細胞と接触することができる限りにおいて、ディッシュ、プレート、バッグ、チューブ、スキャホールド、カップ、ジャー・ファーメンターなどの培養容器;攪拌翼、攪拌子、バッフル、連結チューブなど培養装置の部品;ピペット、攪拌素子、フィルタ、セルスクレイパーなどの培養操作に用いる培養器具;等の一部又は全部を構成する部材であってもよい。
また、これらの成形体表面は、プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理、紫外線照射処理など培養容器に対して一般的に施す滅菌目的以外の処理を行うこともできるが、ERKやAKTのリン酸化亢進速度の観点から、これらの処理を行わずに用いることが好ましい。
尚、細胞には、情報伝達能があるため、培養中の全ての培養細胞が脂環構造含有重合体成形体に接触する必要はなく、また、培養期間全体に渡って両者が接触している必要もない。但し、接触による効果は経時的に低下するため、接触時間は長い方が好ましい。
培養細胞と、脂環構造含有重合体成形体との接触温度は細胞が増殖できる温度であれば特に制限されない。
〔製造例1〕
脂環構造含有重合体として、ゼオネックス(登録商標)790R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物;以下、単に「790R」という)を用いて、射出形成法により、直径35mmのシャーレ状の培養容器を得、次いで、エチレンオキサイド滅菌処理を行った。以下、この培養容器を「790R製容器」という。
製造例1において、790Rに代えて、ゼオノア(登録商標)1430R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物;以下、単に「1430R」という)を使用したことを除き、製造例1と同様にして培養容器を得た。以下、この培養容器を「1430R製容器」という。
製造例1において、790Rに代えて、ゼオノア(登録商標)1060R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物;以下、単に「1060R」という)を使用したことを除き、製造例1と同様にして培養容器を得た。以下、この培養容器を「1060R製容器」という。
接着型細胞の接着が容易になるように、以下のように、プラズマ照射を行い、表面の親水化処理を施した培養容器を作製した。
まず、790Rを用いて、射出形成法により、直径35mmのシャーレ状の培養容器を得た後、プラズマ照射を行い、容器表面に親水化処理を施した。次いで、このものにエチレンオキサイド滅菌処理を行った。以下、この培養容器を「表面親水化790R製容器」という。
製造例4において、790Rに代えて、1430Rを使用したことを除き、製造例4と同様にして培養容器を得た。以下、この培養容器を「表面親水化1430R製容器」という。
培地2mlを入れた790R製容器に、CHO細胞を細胞密度1.25×104cells/cm2で播種し、温度37℃、CO2濃度5%に設定したCO2インキュベータに入れ、5日間培養を行った後、後述する方法によりERKのリン酸化の分析を行った。
実施例1において、790R製容器に代えて、1430R製容器を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
実施例1において、790R製容器に代えて、表面親水化790R製容器を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
実施例1において、790R製容器に代えて、表面親水化1430R製容器を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
実施例1において、790R製容器に代えて、市販の親水化処理済みポリスチレン製ディッシュ〔ファルコン(登録商標)ディッシュ(ベクトンデッキンソン社製、型番353001)〕(以下、「ポリスチレン製容器」と称する)を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
790R製容器から回収した細胞試料に、タンパク質変性作用のあるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む電気泳動用緩衝液を添加して、100℃で5分間加温処理して、細胞試料を溶解させた。これを4℃で5分間静置し、続いて、遠心処理を行い、不溶物を沈殿除去して、電気泳動用試料を調製した。
同様に、1430R製容器、表面親水化790R製容器、表面親水化1430R製容器、及びポリスチレン製容器で培養した細胞を用いて、それぞれ電気泳動用試料を調製した。
電気泳動用試料は、いずれも2つずつ用意した。
得られた各電気泳動用試料を、プレキャストゲル(ナカライテスク社製)の泳動サンプルコームにアプライして電圧印加し、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。
転写後のニトロセルロース膜に対して、最終濃度0.05%のTween(登録商標)20を含有するTrisリン酸緩衝液(以下、「緩衝液TBS−T」という)にスキムミルクを含有させたブロッキング溶液に浸し、室温で1時間振とうすることで、ニトロセルロース膜面のブロッキング処理を行った。続いて、緩衝液TBS−Tに5分間浸漬してニトロセルロース膜を洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。
5%BSAを含む緩衝液TBS−Tに、1次抗体として、リン酸化の有無にかかわらずERK1及びERK2を特異的に検出する抗体である抗ERK抗体(CST社製)を添加した溶液を調製し、この溶液に、ニトロセルロース膜を16時間浸漬した。
同様に、5%BSAを含む緩衝液TBS−Tに、1次抗体として、リン酸化ERK1及びリン酸化ERK2を特異的に検出する抗体である抗リン酸化ERK抗体(CST社製)を添加した溶液を調製し、この溶液に、ニトロセルロース膜を16時間浸漬した。
振とう処理後、緩衝液TBS−Tに5分間浸漬して洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。
上記の膜を検出呈色試薬1−Step−Ultra TMB Blotting Solution(Pierce社製)に浸漬し、膜上で呈色反応を行わせることにより、ERK又はリン酸化ERKの免疫反応シグナルを検出した。
ERKのリン酸化効果を比較するために、抗リン酸化ERK抗体の反応シグナル値を、抗ERK抗体の反応シグナル値(全ERK)で除して得られた値を、各容器について求めたうえで、比較対照のポリスチレン製容器での数値を基準(すなわち1)とした場合の、790R製容器、表面親水化790R製容器、1430R製容器、表面親水化1430R製容器での、それぞれの数値を求めた。
790R製表面を親水化した表面親水化790R製容器と1430R製容器を親水化した表面親水化1430R製容器を用いた培養においても、ポリスチレン製容器を用いた培養に対して2倍のリン酸化亢進が見られた。
また、表面親水化790R製容器、及び表面親水化1430R製容器を用いたときにおいても、ポリスチレン製容器を用いたときに対して2倍のERK−2のリン酸化亢進が見られた。
実施例1において、CHO細胞の代わりにVERO細胞を用いたことを除き、実施例1と同様にして790R製容器を用いて培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
実施例5において、790R製容器に代えて1430R製容器を用いたことを除き、実施例5と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
実施例5において、790R製容器に代えてポリスチレン製容器を用いたことを除き、実施例5と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
図4に示されているように、ERK−2のリン酸化に関しては、790R製容器又は1430R製容器を用いたときは、いずれも、ポリスチレン製容器を用いたときに対して1.5倍程度の亢進が見られた。
このように、CHO細胞と同様に、VERO細胞も脂環構造含有重合体と接触することによるERKのリン酸化の亢進効果が示された。
実施例1と同様の条件で細胞を培養した後、後述する方法によりAKTのリン酸化の分析を行った。
実施例7において、790R製容器に代えて1060R製容器を用いたことを除き、実施例7と同様にして培養を行い、AKTのリン酸化の分析を行った。
実施例7において、790R製容器に代えてポリスチレン製容器を用いたことを除き、実施例7と同様にして培養を行い、AKTのリン酸化の分析を行った。
先に示したERKのリン酸化の分析方法において、抗ERK抗体の代わりに、抗AKT抗体を、また、抗リン酸化ERK抗体の代わりに、抗リン酸化AKT抗体を用いたこと以外は、ERKのリン酸化の分析方法と同様の方法により、細胞内のAKTのリン酸化を分析した。
図5に示されているように、CHO細胞におけるAKTのリン酸化に関しては、790R製容器又は1060R製容器を用いたときは、いずれも、ポリスチレン製容器を用いたときに対して1.5倍程度の亢進が見られた。
内径20mm、厚み1mm、長さ18mmのパイレックス(登録商標)製ガラス筒の底面に、1430R製フィルムを加熱接着させ、このものにγ線滅菌処理を施し、培養カップを得た。このカップを「1430R製カップ」という。
〔製造例7〕
製造例6において、1430Rフィルムにあらかじめプラズマ処理を施したこと以外は、製造例6と同様にして表面親水化したカップを得た。このカップを、「表面親水化1430R製カップ」という。
1430R製カップに、培地〔Ham培地(ナカライ社製)に終濃度10%の牛胎児血清(Fetal Bovine Serum(FBS))を加えたもの〕を添加して、CHO細胞を細胞密度1.25×104cells/cm2で播種し、温度37℃、CO2濃度5%に設定したCO2インキュベータに入れ、3週間培養した(繰り返し試料数N=3)。
3週間の培養後に、トリプシン処理により細胞を回収し、トリパンブルー(DSファーマ社製)を添加して死細胞を染色して、Thoma型血球計算板(エルマ社製、届出番号13B1X90004000005)を用いて、生細胞数を計数した。
実施例9において、培養容器として、ポリスチレン製の12ウェルプレートの各ウェル内に、内径20mm、厚み1mm、長さ18mmのパイレックス(登録商標)製ガラス筒(1430R製カップと同じサイズのガラス筒)を入れたもの(「ポリスチレン製プレート」という)を使用したことを除き、実施例9と同様にして培養し、生細胞数を計数した。
図6に示すように、ポリスチレン製プレートに比較して、1430R製カップは、約1.7倍の生細胞を維持する効果を有することが分かる。
実施例9において、CHO細胞に代えてVERO細胞を使用したことと、培地としてMEM培地(ナカライ社製)に終濃度10%の牛血清(Calf Serum(CS))を加えたものを用いたことを除き、実施例9と同様にして1430R製カップを用いて培養し、生細胞数を計数した。
実施例10において、1430R製カップに代えてポリスチレン製プレートを用いたことを除き、実施例10と同様にして培養し、生細胞数を計数した。
図7に示すように、CHO細胞と同様にVERO細胞に対しても、ポリスチレン製プレートに比較して、1430R製カップは、約1.7倍の生細胞を維持する効果を有することが分かる。
実施例9と同様にして1430R製カップを用いてCHO細胞を3週間培養した後、LDH測定キット(タカラバイオ社製)を用いて培養液中の乳酸デヒロドゲナーゼの酵素活性(LDH活性)を測定することにより、細胞内からの漏洩を調べた。
実施例11において、1430R製カップに代えて、表面親水化1430R製カップを用いたこと以外は、実施例11と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
実施例11において、1430R製カップに代えて、ポリスチレン製プレートを用いたこと以外は、実施例11と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
図8に示すように、表面親水化1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも40%程度漏洩物が少なく、1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも60%程度漏洩物が少なかった。
実施例10と同様にして1430R製カップを用いてVERO細胞を3週間培養した後、LDH測定キット(タカラバイオ社製)を用いて、培養液中のLDHの酵素活性を測定することにより、細胞内からの漏洩を調べた。
〔実施例14〕
実施例13において、1430R製カップに代えて、表面親水化1430R製カップを用いたこと以外は、実施例13と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
実施例13において、1430R製カップに代えて、ポリスチレン製プレートを用いたこと以外は、実施例13と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
図9に示すように、VERO細胞においては、表面親水化1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも20%程度漏洩物が少なく、1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも50%程度漏洩物が少なかった。
上記のように、細胞の種類によらず、脂環構造含有重合体成形体の細胞内容物の漏洩の抑制効果が確認された。
実施例2において、培養期間を2週間としたこと以外は、実施例2と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
製造例2において、EOG滅菌処理に代えて、γ線滅菌処理を施したこと以外は、製造例2と同様にして培養容器を得た。
この培養容器を用いたこと以外は、実施例15と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
製造例2において、EOG滅菌処理に代えて、蒸気滅菌処理を施したこと以外は、製造例2と同様にして培養容器を得た。
この培養容器を用いたこと以外は、実施例15と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
実施例15において、ベクトンデッキンソン製のFALCON容器(γ線滅菌済み)を用いたこと以外は、実施例15と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
比較対照のFALCON容器を用いたときのp44 ERK、及びp42 ERKの値を100とした相対値として、EOG滅菌処理容器、γ線滅菌処理容器、及び蒸気滅菌処理容器を用いたときの値をそれぞれ求め、p44の活性化の比較を図10に、p42の活性化の比較を図11に示した。
p44 ERKの活性化は、FALCON容器に比較して、1430製容器の方が高い。また、滅菌方法を比較すると、EOG滅菌処理が最も活性が高い結果であることが分かる(図10)。
p42 ERKの活性化においても、FALCON容器に比較して、1430製容器の方が高い。また、滅菌方法を比較すると、EOG滅菌処理が最も活性が高い結果であることが分かる(図11)。
本発明を利用することで、組換え医薬品生産などで細胞培養を利用する際に、細胞を長期間維持できて生産を持続させることができると考えられる。さらに、細胞内成分の漏洩が少ないので、組換え医薬品を精製する工程負荷を少なくすることができ、結果として、生産効率が良くなり、経済性改善に貢献できる。
組換え医薬品製造において、細胞内からの漏洩物がより少なくできるので、医薬品製品から未知の成分の混入リスクを低減でき、副作用リスクも低減することが期待される。
ERKなどの活性化により、細胞の分化が効率よくなることも期待できるので、再生医療などに対して、効率よく、短期間に、目的の細胞を分化誘導することができる。
Claims (4)
- 培養されている細胞に、脂環構造含有重合体成形体を接触させることを特徴とする培養細胞内のERK(Extracellular signal−Regulated Kinase)のリン酸化亢進方法。
- 培養されている細胞に、脂環構造含有重合体成形体を接触させることを特徴とする培養細胞内のAKTのリン酸化亢進方法。
- 培養されている細胞が接着型細胞である請求項1又は2に記載のリン酸化亢進方法。
- 培養されている細胞に、脂環構造含有重合体成形体を接触させ、培養細胞内のERK(Extracellular signal−Regulated Kinase)のリン酸化及び/又はAKTのリン酸化を亢進することを特徴とする細胞の培養方法。
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