以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る立体造形装置の第1例について図1ないし図4を参照して説明する。図1は同立体造形装置の要部斜視説明図、図2は同じく概略側面説明図、図3は造形部の断面説明図、図4は造形部の斜視説明図である。なお、図3は造形時の状態で示している。
この立体造形装置は、粉体造形装置(粉末造形装置ともいう。)であり、粉体(粉末)が結合された造形層30が形成される造形部1と、造形部1に造形液10を吐出して立体造形物を造形する造形ユニット5とを備えている。
造形部1は、粉体槽11と、平坦化手段としての回転体である平坦化ローラ(リコータローラとも称される)12などを備えている。
粉体槽11は、粉体20を供給する供給槽21と、造形物が造形される造形槽22とを有している。供給槽21の底部は供給ステージ23として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は造形ステージ24として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。造形ステージ24上に立体造形物が造形される。
供給ステージ23はモータ27によって昇降され、造形ステージ24はモータ28によって昇降される。
平坦化ローラ12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された粉体20を造形槽22に供給し、平坦化して後述する粉体層31を形成する。この平坦化ローラ12は、往復移動機構25によって、造形ステージ24のステージ面(粉体20が積載される面)に沿う方向である矢印Y方向に、ステージ面に対して相対的に往復移動可能であり、モータ26によって回転駆動される。
造形ユニット5は、図3に示すように、造形ステージ24上の粉体層31に造形液10を吐出する1又は複数の液体吐出ヘッド(以下、「ヘッド」という。)50を有する吐出ユニット51を備えている。
この吐出ユニット51には、シアン造形液を吐出するヘッド、マゼンタ造形液を吐出するヘッド、イエロー造形液を吐出するヘッド、ブラック造形液を吐出するヘッド、及びクリア造形液を吐出するヘッドを備える。これらのシアン造形液、マゼンタ造形液、イエロー造形液、ブラック造形液及びクリア造形液の各々を収容した複数のタンクがタンク装着部56に装着される。
なお、造形ユニット5には、吐出ユニット51をクリーニングするヘッドクリーニング機構(図5のクリーニング装置555)なども備えている。
ヘッドクリーニング機構(装置)は、主にキャップとワイパで構成される。キャップをヘッド下方のノズル面に密着させ、ノズルから造形液を吸引する。ノズルに詰まった粉体の排出や高粘度化した造形液を排出するためである。その後、ノズルのメニスカス形成(ノズル内は負圧状態である)のため、ノズル面をワイピング(払拭)する。また、ヘッドクリーニング機構は、造形液の吐出が行われない場合に、ヘッドのノズル面を覆い、粉体がノズルに混入することや造形液が乾燥することを防止する。
造形ユニット5は、図2に示すように、ガイド部材52に移動可能に保持されたスライダ部53を有し、造形ユニット5全体が矢印Y方向(副走査方向)に往復移動可能である。この造形ユニット5は、後述するモータ552を含む走査機構によって造形ユニット5全体が矢印Y方向に往復移動される。
吐出ユニット51は、ガイド部材54、55で矢印X方向(主走査方向)に往復移動可能に支持され、後述するモータ550を含む走査機構によってX方向に往復移動される。
吐出ユニット51は、ガイド部材54、55とともに矢印Z方向に昇降可能に支持され、後述するモータ551を含む昇降機構によってZ方向に昇降される。
ここで、造形部1の詳細について上述した図3及び図4も参照して説明する。
粉体槽11は、箱型形状をなし、供給槽21と造形槽22の2つの上面が開放された槽を備えている。供給槽21内部には供給ステージ23が、造形槽22内部には造形ステージ24がそれぞれ昇降可能に配置される。
供給ステージ23の側面は供給槽21の内側面に接するように配置されている。造形ステージ24の側面は造形槽22の内側面に接するように配置されている。これらの供給ステージ23及び造形ステージ24の上面は水平に保たれている。
粉体槽11の周りには、図4に示すように、上面が開放された凹形状である粉体落下口29が設けられている(図3では省略)。粉体落下口29には、粉体層を形成するときに平坦化ローラ12によって集積された余剰の粉体20が落下する。粉体落下口29に落下した余剰の粉体20は供給槽21に粉体を供給する図示しない粉体供給部内に戻される。
なお、図1では図示しない粉体供給装置(粉体供給手段、図5の粉体供給装置554))は、タンク状をなし、供給槽21の上方に配置される。造形の初期動作時や供給槽21の粉体量が減少した場合に、タンク内の粉体を供給槽21に供給する。粉体供給のための粉体搬送方法としては、スクリューを利用したスクリューコンベア方式や、エアーを利用した空気輸送方式などが挙げられる。
平坦化ローラ12は、供給槽21から粉体20を造形槽22へと移送供給して、所定の厚みの粉体層31を形成する機能を有している。
この平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の内寸(即ち、粉体が供される部分又は仕込まれている部分の幅)よりも長い棒状部材であり、前述した往復移動機構25によってステージ面に沿う方向(ステージ面と平行な矢印Y方向)に往復移動される。
この平坦化ローラ12は、モータ26によって回転されながら、供給槽21の外側から供給槽21及び造形槽22の上方を通過するようにして水平移動し、これにより粉体20が造形槽22上へと移送供給される。
また、図3に示すように、平坦化ローラ12の周面に接触して、平坦化ローラ12に付着した粉体20を除去するための粉体除去部材である粉体除去板13が配置されている。
粉体除去板13は、平坦化ローラ12の周面に接触した状態で、平坦化ローラ12とともに移動する。また、粉体除去板13は、平坦化ローラ12が平坦化を行うときの回転方向に回転するときにカウンタ方向になる状態で配置されている。
本実施形態では、造形部1の粉体槽11が供給槽21と造形槽22の二つの槽を有する構成としているが、造形槽22のみとして、造形槽22に粉体供給装置から粉体を供給して、平坦化手段で平坦化する構成とすることもできる。
次に、上記立体造形装置の制御部の概要について図5を参照して説明する。図5は同制御部のブロック図である。
制御部500は、この立体造形装置全体の制御を司るCPU501と、CPU501に本発明に係わる処理を実行させるための本発明に係るプログラムを含むプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、画像データ(印刷データ)等を一時格納するRAM503とを含む主制御部500Aを備えている。
制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリ(NVRAM)504を備えている。また、制御部500は、画像データに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。
制御部500は、外部の造形データ作成装置600から造形データを受信するときに使用するデータ及び信号の送受を行うためのI/F506を備えている。なお、造形データ作成装置600は、最終形態の造形物を各造形層にスライスした造形データを作成する装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成されている。
制御部500は、各種センサの検知信号を取り込むためのI/O507を備えている。
制御部500は、吐出ユニット51の各ヘッド50を駆動制御するヘッド駆動制御部508を備えている。
制御部500は、吐出ユニット51を矢印X方向に移動させるX方向走査モータ550を駆動するモータ駆動部510と、造形ユニット5を矢印Y方向に移動させるY方向走査モータ552を駆動するモータ駆動部512を備えている。
制御部500は、吐出ユニット51を矢印Z方向に移動(昇降)させるZ方向昇降モータ551を駆動するモータ駆動部511を備えている。なお、矢印Z方向への昇降は造形ユニット5全体を昇降させる構成とすることもできる。
制御部500は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動するモータ駆動部513と、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動するモータ駆動部514を備えている。
制御部500は、平坦化ローラ12を移動させる往復移動機構25のモータ553を駆動するモータ駆動部515と、平坦化ローラ12を回転駆動するモータ26を駆動する516を備えている。
制御部500は、供給槽21に粉体20を供給する粉体供給装置554を駆動する供給系駆動部517と、吐出ユニット51をクリーニング(メンテナンス、維持回復)するクリーニング装置555を駆動するクリーニング駆動部518を備えている。
制御部500のI/O507には、環境条件としての温度及び湿度を検出する温湿度センサ560からの検知信号やその他のセンサ類の検知信号が入力される。
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル522が接続されている。
なお、造形データ作成装置600と立体造形装置(粉体積層造形装置)601によって造形装置が構成される。
次に、造形の流れについて図6も参照して説明する。図6は造形の流れの説明に供する造形部の模式的断面説明図である。
造形槽22の造形ステージ24上に、1層目の造形層30が形成されている。
この造形層30上に次の造形層30を形成するときには、図6(a)に示すように、供給槽21の供給ステージ23を矢印Z1方向に上昇させ、造形槽22の造形ステージ24を矢印Z2方向に下降させる。
このとき、造形槽22の粉体層表面と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。この間隔Δt1が次に形成する粉体層31の厚さに相当する。間隔Δt1は、数十〜100μm程度であることが好ましい。
次いで、図6(b)に示すように、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する粉体20を、平坦化ローラ12を順方向(矢印方向)に回転しながらY2方向(造形槽22側)に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。
さらに、図6(c)に示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、図6(d)に示すように、造形ステージ24の造形層30上で所定の厚さΔt1になる粉体層31を形成する(平坦化)。粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は矢印Y1方向に移動されて初期位置に戻される。
ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できるようになっている。一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で粉体20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形層30の上に均一厚さΔt1の粉体層31を形成できる。
その後、図6(e)に示すように、吐出ユニット51のヘッド50から造形液10の液滴を吐出して、次の造形層30を積層形成する(造形)。
なお、造形層30は、例えば、ヘッド50から吐出された造形液10が粉体20と混合されることで、粉体20に含まれる接着剤が溶解し、溶解した接着剤同士が結合して粉体20が結合されることで形成される。
次いで、上述した粉体供給・平坦化工程、ヘッドによる造形液吐出工程を繰り返して新たな造形層を形成する。このとき、新たな造形層とその下層の造形層とは一体化して三次元形状造形物の一部を構成する。
以後、粉体の供給・平坦化工程、ヘッドによる造形液吐出工程を必要な回数繰り返すことによって、三次元形状造形物(立体造形物)を完成させる。
次に、粉体層に液体の滴を吐出して着弾させたときの様子について図7を参照して説明する。図7は同説明に供する説明図である。
この図7では、300×300dpi(約85um相当)のピッチで二次元画像データを作成し、当該データに基づいて粉体層31に造形液の液滴100と吐出して着弾させたときの浸透状態を示している。
ここで、1滴の液滴100の量は、一層100μmの深さにちょうど浸透する量としている。
なお、この滴量は、実験的に求めることが可能である。すなわち、ガラス基板上に、粉体を100μmの厚さで敷き詰めておき、液滴100を滴下する。このとき、滴下された面とは反対側の面から、カメラで観察することで、液体が100μmの厚さを浸透したかしないかを判断することができる。滴量を変化させてこの実験を繰り返すことで、100μmの厚さを浸透する滴量を求めることができる。実験ではその量は約200pl/滴であった。
次に、粉体層に対して液滴を吐出着弾させたときの粉体の動きについて図8を参照して説明する。
粉体層31の粉体20は、リコート(平坦化)された時点では緩みかさ密度程度しかなく、空間32が多い状態である。例えば、山陽特殊製鋼社製ガスアトマイズ粉PSS316L−20μmグレード平均粒径14μmでは、3g/cc、真密度に対して37%しかない。
ここで、図8(a)に示すように、このようなかさ密度の粉体層31に液滴100が滴下されると、図8(b)に示すように、液架橋力によって、粉体20同士が近接し、滴下領域に限っては、タップ密度程度(同3.6g/cc、真密度に対して45%)となる。これにより、液滴100の滴下領域の周辺は相対的に密度が低い、疎な領域となる。
次に、比較例における粉体層の隣り合う位置への液滴の吐出について図9も参照して説明する。
比較例においては、図9(a)に示すように、第1滴目(先行滴100A)を吐出着弾させて十分に粉体層31の内部に浸透した後で、図9(b)に示すように、先行滴100Aの隣りに第2滴目(後行滴)100Bを吐出着弾させる。
この場合、先行滴100Aによって図9(a)に示すように粉体20の再配列が生じる。この状態で、後行滴100Bが着弾することで、後行滴100Bによって図9(b)に示すように粉体20の再配列が生じる。
そのため、図9(b)に示すように、先行滴100Aが着弾した領域と後行滴100Bが着弾した領域との間に、粉体20が疎になる空隙33が生じることになる。
この空隙33が、造形物全体に存在することで、造形物の密度が不均一になり、また、密度が低下することになって、造形物の品質が低下する。
次に、本実施形態における粉体層の隣り合う位置への液滴の吐出について図10も参照して説明する。
本実施形態では、隣り合う位置に先行滴100Aと後行滴100Bを吐出して着弾させるとき、先行滴100Aを吐出した後、先に着弾した先行滴100Aと後に着弾する後行滴100Bとが合一化する時間内に、後行滴100Bを吐出する。
ここで,合一とは、先行滴と後行滴とが合わさって一つの滴になる状態を示し、合一化する時間とは、例えば、先行滴が粉体層内に完全に浸透する前の、粉体上に滴として存在する時間のことである。
すなわち、図10(a)に示すように、先行滴100Aが粉体層31に着弾すると、図10(b)に示すように粉体20が先行滴100A側に移動する。ここで、先行滴100Aが粉体層31内に浸透しきる前に、図10(c)に示すように、先行滴100Aの隣りの位置に後行滴100Bを吐出して着弾させる。
このとき、先行滴100Aは粉体層31内に浸透しきっていないので、図10(d)に示すように、後行滴100Bが先行滴100Aと合一化して浸透液(浸透した液体の意味)100Cとなる。
これにより、浸透液100の領域全体でみると、図9の状態よりも粉体20の密度が高密度化する。
次に、粉体層で、先に着弾した先行滴と後に着弾する後行滴とが合一化する時間の詳細について説明する。
まず、粉体と液滴との静的な接触角について図11を参照して説明する。図11は時間の経過に対する接触角の変化の測定結果の一例を説明する説明図である。
粉体層31への液滴100の浸透速度は、液滴(造形液)と粉体表面との接触角で可視化、定量化することができる。ガラス板の上に対象とする粉体を薄く敷き詰めて、その上にニードルから対象とする液滴を滴下し、その様子をカメラで径時的に捉え、接触角の時間変化を測定することができる。なお、接触角は、自動接触角測定装置(DataPhysics OCA 200H)を用いて測定した。測定環境は、22−23℃、45−65%RHである。
次に、本実施形態で使用した立体造形用粉末材料(粉体)について説明する。
本実施形態で使用している粉体は、有機材料で被覆された基材を含み、更に必要に応じてその他の成分等を含んでなる。前記基材を被覆する材料は、主に有機材料であるが、必要に応じて無機材料が含まれていてもよい。この粉体は、後述する本発明の立体造形物の製造方法で用いられる。
−基材−
基材としては、粉末ないし粒子の形態を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。基材の材質としては、例えば、金属、セラミックス、カーボン、ポリマー、木材、生体親和材料、砂などが挙げられるが。この場合、高強度な立体造形物を得る観点からは、最終的に焼結処理が可能な金属、セラミックスなどが好ましい。
ここで、金属としては、例えば、ステンレス(SUS)鋼、鉄、銅、チタン、銀などが挙げられる。前記ステンレス(SUS)鋼としては、例えば、SUS316Lなどが挙げられる。セラミックスとしては、例えば、金属酸化物などが挙げられ、具体的には、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)などが挙げられる。カーボンとしては、例えば、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンなどが挙げられる。
また、ポリマーとしては、例えば、水に不溶な公知の樹脂などが挙げられる。木材としては、例えば、ウッドチップ、セルロースなどが挙げられる。生体親和材料としては、例えば、ポリ乳酸、リン酸カルシウムなどが挙げられる。
これらの材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
基材としては、これらの材料で形成された市販品の粒子ないし粉末を使用することができる。
例えば、市販品としては、SUS316L(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L)、SiO2(株式会社トクヤマ製、エクセリカSE−15K)、AlO2(大明化学工業株式会社製、タイミクロンTM−5D)、ZrO2(東ソー株式会社製、TZ−B53)などが挙げられる。
なお、基材は、前記有機材料との親和性を高める目的等で、公知の表面(改質)処理がされていてもよい。
基材の平均粒子径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。例えば、0.1μm以上500μm以下が好ましく、5μm以上300μm以下がより好ましく、15μm以上250μm以下が更に好ましい。
平均粒子径が、0.1μm以上500μm以下であると、立体造形物の製造効率に優れ、取扱性やハンドリング性が良好である。平均粒子径が、500μm以下であると、粉体を用いて薄層(粉体層)を形成したときに、該薄層(粉体層)における粉体の充填率が向上し、得られる立体造形物に空隙等が生じ難い。
基材の平均粒子径は、公知の粒径測定装置、例えば、マイクロトラックHRA(日機装株式会社製)などを用いて、公知の方法に従って測定することができる。
基材の粒度分布としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
基材の外形、表面積、円形度、流動性、濡れ性等については、目的に応じて適宜選択することができる。
−有機材料−
有機材料としては、造形液に溶解し、造形液に含まれる架橋剤の作用により架橋可能な性質を有するものであればよい。
有機材料の溶解性は、例えば、30℃の造形液を構成する溶媒100gに有機材料を1g混合して撹拌したとき、その90質量%以上が溶解するものを意味する。
また、有機材料としては、その4質量%(w/w%)溶液の20℃における粘度が、40mPa・s以下が好ましく、1mPa・s以上35mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以上30mPa・s以下が特に好ましい。
粘度が、40mPa・s以下であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による硬化物(立体造形物)の強度が向上し、その後の焼結等の処理ないし取扱い時に型崩れ等の問題が生じ難くなる。また、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による硬化物(立体造形物)の寸法精度が向上する傾向にある。なお、粘度は、例えば、JIS K7117に準拠して測定することができる。
有機材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、取扱い性や環境負荷等の観点から、水溶性であることが好ましい。例えば、水溶性樹脂、水溶性プレポリマー、などが挙げられる。
このような水溶性有機材料を採用した粉体に対しては、造形液の媒体としても水性媒体を用いることができる。また、粉末材料を廃棄、リサイクルするときには、水処理により有機材料と基材を分離することも容易である。
ここで、水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂、セルロース樹脂、デンプン、ゼラチン、ビニル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール、などが挙げられる。
これらは、水溶性を示す限りにおいて、ホモポリマー(単独重合体)であってもよいし、ヘテロポリマー(共重合体)であってもよく、また、変性されていてもよいし、公知の官能基が導入されていてもよく、また塩の形態であってもよい。
したがって、例えば、ポリビニルアルコール樹脂であれば、ポリビニルアルコールであってもよいし、アセトアセチル基、アセチル基、シリコーン等による変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセチル基変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコールなど)であってもよく、また、ブタンジオールビニルアルコール共重合体等であってもよい。
また、ポリアクリル酸樹脂であれば、ポリアクリル酸であってもよいし、ポリアクリル酸ナトリウム等の塩であってもよい。また、セルロース樹脂であれば、例えば、セルロースであってもよいし、カルボキシメチルセルロース(CMC)等であってもよい。また、アクリル樹脂であれば、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸・無水マレイン酸共重合体などであってもよい。
水溶性プレポリマーとしては、例えば、止水剤等に含まれる接着性の水溶性イソシアネートプレポリマー、などが挙げられる。
水溶性以外の有機材料、樹脂としては、例えば、アクリル、マレイン酸、シリコーン、ブチラール、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、α−オレフィン/無水マレイン酸系共重合体、α−オレフィン/無水マレイン酸系共重合体のエステル化物、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、α−オレフィン/無水マレイン酸/ビニル基含有モノマー共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン又はその誘導体、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン/ブタジエンゴム、ポリビニルブチラール、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレン/プロピレンゴム等の合成ゴム、ニトロセルロースなどが挙げられる。
有機材料の中でも、架橋性官能基を有するものが好ましい。架橋性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、水酸基、カルボキシル基、アミド基、リン酸基、チオール基、アセトアセチル基、エーテル結合、などが挙げられる。
有機材料が架橋性官能基を有すると、有機材料が容易に架橋し硬化物(立体造形物)を形成し得る点で好ましい。
これらの中でも、平均重合度が400以上1,100以下のポリビニルアルコール樹脂が好ましい。更に言えば、上記したように架橋性の官能基を分子内に導入した変性ポリビニルアルコール樹脂が好ましい。特に、アセトアセチル基変性のポリビニルアルコール樹脂が好ましく、例えば、ポリビニルアルコール樹脂がアセトアセチル基を有する場合、造形液に含まれる架橋剤中の金属の作用により、アセトアセチル基が金属を介して複雑な三次元ネットワーク構造(架橋構造)を容易に形成し得る(架橋反応性に優れる)、曲げ強度に非常に優れる。
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂としては、粘度、けん化度等の特性が異なるものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。平均重合度が400以上1,100以下のアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂を用いることがより好ましい。
有機材料としては、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
市販品としては、例えば、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA−205C、PVA−220C)、ポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、ジュリマーAC−10)、ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製、ジュリマーAC−103P)、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセネックスZ−300、ゴーセネックスZ−100、ゴーセネックスZ−200、ゴーセネックスZ−205、ゴーセネックスZ−210、ゴーセネックスZ−220)、カルボキシ基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセネックスT−330、ゴーセネックスT−350、ゴーセネックスT−330T)、ブタンジオールビニルアルコールコポリマー(日本合成化学工業株式会社製、ニチゴーG−ポリマーOKS−8041)、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製、DF−05)カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製、セロゲン5A、セロゲン6A)、デンプン(三和澱粉工業株式会社製、ハイスタードPSS−5)、ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、ビーマトリックスゼラチン)などが挙げられる。
有機材料による基材の被覆厚みとしては、平均厚みで、5nm以上1,000nm以下が好ましく、5nm以上500nm以下がより好ましく、50nm以上300nm以下が更に好ましく、100nm以上200nm以下が特に好ましい。
本実施形態では架橋剤による硬化作用を利用することで、従前の粉体より被覆厚みを小さくすることが可能であり、薄膜でも強度と精度の両立が可能である。
被覆厚みとしての平均厚みが、5nm以上であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による硬化物(立体造形物)の強度が向上し、その後の焼結等の処理ないし取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがない。平均厚みが1,000nm以下であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による硬化物(立体造形物)の寸法精度が向上する。
平均厚みは、例えば、粉体をアクリル樹脂等に包埋した後、エッチング等を行って基材の表面を露出させた後、走査型トンネル顕微鏡STM、原子間力顕微鏡AFM、走査型電子顕微鏡SEMなどを用いることにより、測定することができる。
有機材料による基材の表面の被覆率(面積率)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。
被覆率が、15%以上であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による硬化物(立体造形物)の強度が充分に得られ、その後の焼結等の処理ないし取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがない。また、被覆率が、15%以上であると、粉体に造形液を付与して形成した粉体(層)による硬化物(立体造形物)の寸法精度が向上する。
被覆率は、例えば、粉体の写真を観察し、二次元の写真に写る該粉体について、粉末材料粒子の表面の全面積に対する、有機材料で被覆された部分の面積の割合(%)の平均値を算出してこれを該被覆率としてもよい。また、有機材料で被覆された部分をSEM−EDS等のエネルギー分散型X線分光法による元素マッピングを行うことにより、測定することができる。
−その他の成分−
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、流動化剤、フィラー、レベリング剤、焼結助剤、などが挙げられる。
粉体が流動化剤を含むことで、粉体からなる層等を容易にかつ効率よく形成し得る点で好ましい。粉体がフィラーを含むことで、得られる硬化物(立体造形物)に空隙等が生じ難くなる点で好ましい。粉体がレベリング剤を含むことで、粉体の濡れ性が向上し、ハンドリング等が容易になる点で好ましい。粉体が焼結助剤を含むことで、得られた硬化物(立体造形物)について焼結処理を行う場合において、より低温での焼結が可能となる点で好ましい。
−粉体の製造−
粉体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、有機材料を基材上に公知の被覆方法に従って被覆する方法などが挙げられる。有機材料の基材の表面への被覆方法としては、特に制限はなく、公知の被覆方法の中から適宜採用することができる。
このような公知の被覆方法としては、例えば、転動流動コーティング法、スプレードライ法、撹拌混合添加法、ディッピング法、ニーダーコート法などが挙げられる。また、これらの被覆方法は、公知の市販の各種コーティング装置、造粒装置などを用いて実施することができる。
−粉体の物性等−
粉体の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ただし、粉体の平均粒子径としては、3μm以上250μm以下が好ましく、3μm以上200μm以下がより好ましく、5μm以上150μm以下が更に好ましく、10μm以上85μm以下が特に好ましい。
粉体の平均粒子径が3μm以上であると、粉末材料の流動性が向上し、粉末材料層が形成しやすく積層層表面の平滑性が向上するため、立体造形物の製造効率の向上、取り扱いやハンドリング性が向上すると共に寸法精度が向上する傾向にある。
また、平均粒子径が250μm以下であると、粉末材料粒子同士の空間の大きさが小さくなるため、立体造形物の空隙率が小さくなり、強度の向上に寄与する。従って、平均粒子径3μm以上250μm以下が、寸法精度と強度を両立させるのに好ましい範囲となる。
粉体の粒度分布としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
粉体の特性としては、その安息角を測定した場合において、60度以下が好ましく、50度以下がより好ましく、40度以下が更に好ましい。安息角が、60度以下であると、粉体を支持体上の所望の場所に効率よく安定に配置させることができる。なお、安息角は、例えば、粉体特性測定装置(パウダテスタPT−N型、ホソカワミクロン株式会社製)などを用いて測定することができる。
次に、本実施形態で使用した造形液について説明する。
本実施形態で使用した造形液は、有機材料と架橋する架橋剤を含有している。また、造形液は、有機材料を溶解させる媒体(溶媒)や当該溶解を促進させるような成分なども含有し、また造形液の保存安定性を保つような安定化剤も含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有している。
有機材料に造形液が付与されると、有機材料は溶解すると共に、造形液に含まれる架橋剤の作用により架橋する。
造形液は、粘度が25℃で25mPa・s以下であるのが好ましく、粘度が25℃で3mPa・s以上20mPa・s以下であるのがより好ましい。造形液の粘度が25℃で25mPa・s以下であると、造形液を安定して吐出することができる。
造形液は、50℃で3日間放置した前後の粘度変化率が20%未満であることが好ましい。造形液の粘度変化率が20%以上になると、造形液の吐出が不安定になることがある。
−媒体−
媒体としては、粉体の基材を被覆する有機材料を溶解可能なものであれば特に限定されない。例えば、水、エタノール等のアルコール、エーテル、ケトンなどの親水性媒体、脂肪族炭化水素、グリコールエーテル等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、高級アルコール等が挙げられる。
これらの中でも、環境負荷や造形液を吐出するときの吐出安定性(経時での粘度変化が少ない)を考慮すると、水性媒体が好ましく、水がより好ましい。なお、水性媒体としては、水がアルコール等の水以外の成分を若干量含有するものであってもよい。また、造形液の媒体が水性媒体である場合には、有機材料は水溶性有機材料を主として含むことが好ましい。
親水性媒体としては、例えば、水、エタノール等のアルコール、エーテル、ケトン、などが挙げられる。なお、水性媒体は、水がアルコール等の水以外の成分を含有する有機溶剤であってもよい。
−架橋剤−
架橋剤としては、有機材料を架橋可能な性質を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる、架橋剤としては、例えば、金属塩、金属錯体、有機ジルコニウム系化合物、有機チタン系化合物、キレート剤、などが挙げられる。
有機ジルコニウム系化合物としては、例えば、酸塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、乳酸ジルコニウムアンモニウムなどが挙げられる。
有機チタン系化合物としては、例えば、チタンアシレート、チタンアルコキシドなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属塩がより好しい。
金属塩としては、例えば、2価以上の陽イオン金属を水中で電離するものなどが挙げられる。その具体例としては、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(4価)、水酸化アルミニウム(3価)、水酸化マグネシウム(2価)、チタンラクテートアンモニウム塩(4価)、塩基性酢酸アルミニウム(3価)、炭酸ジルコニウムアンモニウム塩(4価)、チタントリエタノールアミネート(4価)などを挙げることができる。
また、これらは市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(第一稀元素化学工業株式会社製、酸塩化ジルコニウム)、水酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製、水酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)、チタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製、オルガチックスTC−300)、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル株式会社製、オルガチックスZC−300)、塩基性酢酸アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)、ビスビニルスルホン化合物(富士ファインケミカル株式会社製、VS−B(K−FJC))、炭酸ジルコニウムアンモニウム塩(第一稀元素化学工業株式会社製、ジルコゾールAC−20)、チタントリエタノールアミネート(マツモトファインケミカル株式会社製、オルガチックスTC−400)などが挙げられる。
これらの中でも、得られる立体造形物の強度に優れる点で炭酸ジルコニウムアンモニウム塩がより好ましい。
−界面活性剤−
また、造形液の表面張力を調整する目的で界面活性剤を用いることができる。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が用いられる。
湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
ここで、本実施形態における架橋剤の作用効果について図21を参照して説明する。
図21は、長さ70mm、幅10mm、厚さ3mmの造形物の三点曲げ強度の一例を示している。曲げ強度の測定には、島津製作所製精密万能試験機AG−1を使用し、1kNのロードセルを用いて測定した。
ステンレス粉末(山陽特殊製鋼社製:ガスアトマイズ粉PSS316L−20μmグレード)、粉末をコートする有機材料にZ100を使用し,架橋剤にはAC−20を用いた。架橋剤を用いない場合にくらべ,架橋剤を用いたときには、8.3MPaから11.9MPaと約43%、曲げ強度が向上する。
なお、ここで用いた造形物は、材料の効果をより直接的にみるために、粉末積層造形ではなく、上記材料を所定の混合比率で混練したスラリーをシリコーン型に流し込み、それを100°−2時間で乾燥固化させたサンプルを用いた。
また、粉末積層造形においても、長さ35mm、幅10mm、厚さ3mmの造形物の三点曲げ試験を同様に実施した。架橋剤がない場合は、1.62MPaであった曲げ強度が、架橋剤を入れることで、3.5MPaへと倍増した。なお、積層造形の条件は、1層の厚さ102μm、造形の解像度300×300dpi、造形液量180pl/dotである。
図11に示すように、コーティング未処理の粉体aに対して、コーティング処理した粉体bは、初期静的接触角を含めて接触角が高いことが分かる。すなわち、粉体層31に対する造形液の液滴(液体)の浸透速度は、粉体の表面改質、造形液の物性で制御することができる。特に、有機材料を粉末にコーティングし、水系の造形液を用いることで、両者の接触角を高くすることができる。
次に、粉体と液滴との接触角が粉体層への液滴浸透速度に及ぼす影響について図12及び図13を参照して説明する。
図12は、縦軸に粉体層深さ方向へ浸透した液滴(造形液)のサイズ(ドットサイズ)を、横軸に時間をとっている。
この図12より、粉体と液滴との静的な接触角が25度、40度、55度と大きくなるほど、同時刻での深さ方向の液滴サイズ(ドットサイズ)が小さくなることがわかる。つまり、接触角が大きいほど深さ方向への浸透速度が遅くなる。
ここで、接触角が大きい(高い)粉体(例えば図11の処理有りの粉体b)で造形した造形物の透過X線画像を図13(a)に示すように、接触角が小さい(低い)粉体(例えば図11の処理なしの粉体)で造形した造形物の透過X線画像を図13(b)に示している。
この透過X線画像において、色が濃いほど密度が高いことを示している。図13(a)の密度をアルキメデス法(メトラートレド社製MS403S/02、密度測定用キットMS0.1mg、1mg天秤用)により測定したところ、4.59g/ccであった。これに対し、図13(b)の密度は、3.25g/ccであった。
これより、粉体と液滴の接触角が造形物の密度に影響を及ぼすことが分かる。
次に、隣り合う位置に着弾させる先行滴と後行滴との時間間隔について図14ないし図16も参照して説明する。
液体吐出ヘッド50の解像度(ノズル解像度)が300dpi(約84.65μm)であるとき、液体吐出ヘッド50の主走査方向への移動速度(主走査速度)と駆動周波数(吐出周波数)を設定することで、図14(a)に示すように、300×300dpiの画素を形成できる。例えば、1.1851m/sの主走査速度に対して14kHzの駆動周波数で駆動して液滴を吐出させる。
このとき、主走査方向において、1/14kHz=71.4μsの時間間隔で隣り合う2つ液滴が着弾されることになる。
この時間間隔は、主走査速度と駆動周波数を調整することで、任意に制御することができる。
図14(b)、(c)に示すように、ヘッドのノズル解像度よりも高い解像度である300×600dpi、600×600dpiなどの画素を得る場合には、複数回のスキャンを行うことになる。
例えば、600×600dpiの画素を得るためには、図15(a)〜(d)に示す順にドットを形成することになる。そのため、隣り合う2つの液滴が着弾する時間は、1スキャンの場合よりも長くなる。
ヘッド走査距離が300mm、主走査速度が1.1851m/sの場合、最低でも506msかかる(片方向印字の場合、次の吐出までに、主走査距離を1往復(=600mm)する必要がある。他の駆動周波数での例を図16に示している。)。
次に、隣り合う液滴の合一化と接触角及び2つの液滴の時間間隔について図17及び図18も参照して説明する。
図17には粉体と造形液の液滴の5種類の組合せA〜Eで粉体層に液滴が着弾した後の接触角の時間変化の測定結果を示している。図18には図17に示す5種類の組合せA〜Eについて、着弾時間間隔を約3.5秒、300×300dpiを4スキャンで造形したときの造形物の密度を示している。なお、着弾時間間隔は吐出時間間隔に相当する。
ここで、組合せA〜Eの主たる材料構成は、次のとおりである。なお、基材には,すべてSUS316L(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L)20um以下グレードを用いた。
<組合せA>
有機材料:ゴーセネックスZ−100
界面活性剤:なし
造形液中有機溶剤:1,2−プロパンジオール
<組合せB>
有機材料:DF05
界面活性剤:なし
造形液中有機溶剤:1,2−プロパンジオール
<組合せC>
有機材料:ゴーセネックスZ100
界面活性剤:メチルセルロース(信越化学工業社製、SMC−25)
造形液中有機溶剤:3−メチル−1,3−ブタンジオール
<組合せD>
有機材料:ゴーセネックスZ100
界面活性剤:フタージェントPF310(株式会社ネオス社製)
造形液中有機溶剤:1,2−プロパンジオール
<組合せe>
有機材料:ゴーセネックスZ100
界面活性剤:なし
造形液中有機溶剤:3−メチル−1,3−ブタンジオール
なお,活性剤とは,粉末粒子同士の固着・融着を防ぐために有機材料中に界面活性剤を添加したものである。本検討においては有機材料中に界面活性剤を添加した方が,造形物の密度が高くなる傾向がみられた。また、造形液溶剤として、1−2プロパンジオールを用いるよりも、3−メチル−1,3−ブタンジオールを用いた方が、密度が高くなる傾向がみられた。これらの組み合わせは、この結果に限定されるものではなく、前述の滴の着弾時間間隔に応じて適切な組み合わせを選定すればよい。
この結果、粉体と造形液の液滴の接触角が、90度よりも大きい状態である(組合せC、D、E)とき、より好ましくは90度より大きく110度よりも小さい状態にある(組合せC、E)ときに、隣り合う2つの液滴が着弾すると、造形物の密度が高くなることが分かる。
したがって、先行滴と後行滴とは、粉体と先行滴との接触角が90度より大きい間である時間内に吐出させることで、先行滴と後行滴を確実に合一化させて造形物の密度を高めることができる。好ましくは、接触角が90度より大きく110度より小さい間である時間内に吐出させることで、確実に、先行滴と後行滴を確実に合一化させて造形物の密度を高めることができる。
また、粉体と造形液の初期静的接触角が110度を越える場合、着弾時間間隔が比較的長い場合でも先行滴と後行滴を合一化させることが容易となり、造形物の密度を高めることができる。
さらに300×300dpiを1スキャンで造形すると,4スキャンで造形するのに比べて,隣り合う液滴の合一がより促進されるため,より強度の高い造形物を得ることが可能となる.筆者らの検討においては,架橋剤のない造形液を用いて,4スキャンの場合に3.3MPaであった曲げ強度が,架橋剤入りの造形液を用いて,1スキャンの造形にすると同13.8MPaと大幅に改善することがわかった.
このように、粉体層上で隣り合う位置に先行滴と後行滴を順次吐出するとき、先行滴を吐出した後、先に着弾した先行滴と粉体層を形成する粉体との接触角が90度より大きい時間内に、後行滴を吐出して立体造形物を形成することで、造形物内の局所的なボイドや、密度不均一さが低減し、造形物の品質が向上する。
そして、このような粉体層上で隣り合う位置に先行滴と後行滴を順次吐出するとき、先行滴を吐出した後、先に着弾した先行滴と粉体層を形成する粉体との接触角が90度より大きい時間内に、後行滴を吐出させる造形動作は、プログラムに従ってコンピュータが実行する。
次に、立体造形装置の第2例について図19及び図20を参照して説明する。図19は同装置の要部斜視説明図、図20は同じく造形の流れと共に説明する造形部の断面説明図である。
この立体造形装置は、粉体積層造形装置であり、前述した第1例の立体造形装置と同様に、粉体が結合された造形層が形成される造形部1と、造形部1に造形液の液滴を吐出して立体造形物を造形する造形手段としての造形ユニット5とを備えている。
造形部1は造形槽22のみを有し、粉体供給装置から造形槽22に粉体供給する構成としている。
造形ユニット5は、吐出ユニット51がガイド部材54、55で矢印X方向(これを「主走査方向」とする。)に往復移動可能に支持されている。
なお、その他の構成は前記第1例の立体造形装置と同様である。
この立体造形装置では、図20(a)に示すように、造形槽22の造形ステージ24上に供給された粉体20に吐出ユニット51のヘッド50から造形液10の液滴を吐出して造形層30を形成する。
このとき、吐出ユニット51を主走査方向に移動させて1スキャン分(1走査領域分)の造形を行い、その後、造形ユニット5を副走査方向(Y1方向)に1スキャン分移動させ、次の1走査領域分の造形を行うことを繰り返して、1層分の造形層30を造形する。なお、1層分の造形層30を造形後に造形ユニット5は図20(b)に示すように副走査方向上流側まで戻される。
その後、この造形層30上に次の造形層30を形成するために造形槽22の造形ステージ24を1層分の厚み分だけ矢印Z2方向に下降させる。
次いで、図20(b)に示すように、造形槽22に粉体供給装置から粉体20を供給する。そして、平坦化ローラ12を回転しながら造形槽22の造形ステージ24のステージ面に沿ってY2方向に移動させ、造形ステージ24の造形層30上で所定の厚さになる粉体層31を形成する(平坦化)。
そして、吐出ユニット51のヘッド50から造形液10の液滴を吐出して次の造形層30を形成する。
このように、粉体層31の形成と造形液10の吐出による粉体20の固化とを繰り返して造形層30を順次積層して立体造形物を造形する。