圧縮機や発電機等の作業機と,これを駆動するエンジンを共に備えたエンジン駆動型作業機では,作業機を駆動するエンジンとして一般にディーゼルエンジンが採用されているが,ディーゼルエンジンでは,その構造上,燃焼時にガソリンエンジンと比べて多くのPMが排気ガスと共に排出される。
このPMは大気汚染や健康被害の原因となることから,排出ガス規制によりディーゼルエンジンから排出されるPMの規制値(単位出力当たりの質量[g/kWh])が定められている。
上記排出規制に対応するために,ディーゼルエンジンの排気路中には,ディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter: 以下「DPF」という。)と呼ばれるフィルタを備えた排気ガス後処理装置を設け,PMの排出量の低減が図られている。
この排気ガス後処理装置は,内蔵するDPFによって排気ガス中のPMを捕集することでPMの排出量を減少させるものであることから,使用を継続することでDPFに対するPMの堆積が進行して目詰まりを起こす。
そして,この目詰まりによって排気抵抗が高まると,エンジンの出力低下や燃費の悪化を招くことから,堆積したPMを除去してDPFを再生する処理が必要となる。
このようなDPFの再生方式の1つとして,排気ガス後処理装置内の入口側に酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst:以下「DOC」という)を設け,その下流側にDPFを収容することで,DOCの触媒作用によって連続的にDPFを再生する「連続再生型」と呼ばれる排気ガス後処理装置が提案されている。
この連続再生型の排気ガス後処理装置は,エンジン駆動型作業機の通常運転中,エンジンの排気ガスの熱によりDOCの温度が活性温度以上に上昇すると,DOCの作用によってNO2を生成し,NO2を酸化剤としてPMを燃焼させることにより,酸素によるPMの自己燃焼温度よりも低い温度でDPFを再生することができ,エンジンの作動中,排気ガスの熱によりPMを連続的に燃焼させて除去しようというものである(以下,このようにエンジン駆動型作業機の通常運転中に連続的に行われるDPFの再生を,「連続再生」という。)。
しかし,このような連続再生型の排気ガス後処理装置であっても,エンジンが低負荷の運転状態で長時間運転される等して,DOCに導入される排気ガス温度がDOCの活性化温度を下回った状態で長時間運転されると,連続再生の機能を発揮せず,PMを燃焼できないことから,DPFに対するPMの堆積が進行する。
そして,DPFに対し一定量を超えたPMが堆積して排気抵抗が高まった後に,エンジンが高負荷運転に移行すると,高い排気抵抗の影響により通常の高負荷運転時と比べて排気ガス温度が高温となり,DPFに堆積した多量のPMが自己燃焼を開始して高温を発し,この熱によってDPFにクラックや溶損が発生する。
そのため,連続再生型の排気ガス後処理装置においても,DPFに対するPMの堆積量が所定量以上となったとき,燃料の後噴射や噴射時期の遅延により排気ガス温度を上昇させ排気ガス後処理装置内のDOCの温度を活性温度以上に上昇させることで,DPFに堆積したPMを,NO2を酸化剤として強制的に燃焼させる,強制再生方式を併用することも行われている(特許文献1)。
なお,前述した特許文献1に記載の強制再生方式は,自動車の走行中等,エンジンにかかる負荷が変動する状態で行う強制再生(以下,「負荷変動型強制再生」という。)であるところ,このような負荷変動型強制再生を行う場合,エンジンが低負荷運転で排気ガス温度が低い状態で強制再生を開始するとDPFの再生が完了するまでには長時間かかり,また,エンジンの負荷変動に伴い後噴射による燃料噴射量が増減し,或いは一時的な高負荷運転時には後噴射が停止する動作を繰り返すことにより酸化触媒の温度が不安定となって活性温度以上の状態を保持できず,NO2を安定/継続して生成できずPMを完全に燃焼させることができない場合があること,更には,強制再生の実行中にもかかわらずオペレータがエンジンを停止すると,DPFの再生も中断されることから,DPFに堆積したPMを除去しきれずに依然としてPMの堆積が進行する場合があり,大量に堆積したPMが急激に自己燃焼することでDPF本体や濾材が破損するおそれがある点に鑑み,本出願の出願人は,エンジン駆動圧縮機に設けた排気ガス後処理装置の再生方法として,DPFに所定量以上のPMが堆積したことを表示する警告灯の点灯等に基づき,オペレータにより強制再生の開始を指令するスイッチ操作等が行われることで,エンジンにかかる負荷を一定に維持した状態,従って,DPF内の温度を安定させた状態で行う強制再生(以下,このような強制再生を「定負荷型強制再生」という。)を行う,排気ガス後処理装置の再生方法について出願をしている(特許文献2)。
なお,前述したようにDPFの再生には,DOCの温度を活性化温度以上とすることが必要であることから,DOCの温度が前述した活性化温度以上に維持され易くなるように防音箱内における排気ガス後処理装置の配置を工夫したエンジン駆動型作業機も提案されている。
このようなエンジン駆動型作業機として,防音箱内に排気ガス後処理装置を縦置きに配置し,この排気ガス後処理装置の上端側に設けた排気ガス導入口と,エンジンの上部に設けられた排気口とを排気管で連通することで,排気口から排気ガス後処理装置までの距離を短くし,排気ガス後処理装置に導入される間の排気ガスを冷却され難くしたエンジン駆動型作業機や(特許文献3),防音箱内を仕切って形成された排気ダクト内に排気ガス後処理装置を配置するも,この排気ダクト中,エンジンの冷却ファンからの冷却風が当たり難い位置に排気ガス後処理装置を配置することで,排気ガス後処理装置が冷却され難くなるようにしたエンジン駆動型作業機も提案されている(特許文献4)。
以上のように,排気ガス後処理装置では,通常運転時に行われる連続再生によってPMの除去が行われるものの,排気ガス後処理装置が連続再生の機能を発揮しない低負荷での運転が継続される等してDPFに対しPMの堆積が進行した場合には,前述した強制再生(負荷変動型,定負荷型)の実施が必要となる。
また,上記強制再生の実施にもかかわらず,DPFに対するPMの堆積がさらに進行して排気ガス流路全体の排気抵抗が更に高まると,エンジンの出力低下や排気温度の異常上昇に伴うエンジンの付属機器に不具合(例えば過給器の焼き付き)が生じる原因となる他,多量に堆積したPMが自己燃焼を開始することで,燃焼時の発熱により排気ガス後処理装置,その他の排気システムの構成機器が焼損するおそれがあることから,DPFに対するPM堆積量がさらに増加して,前述した強制再生(負荷変動型,定負荷型)の開始基準とした堆積量よりも更に多い,所定の堆積量に達すると,警報表示を行ってオペレータに警告する,又はエンジンを非常停止させる等の保護手段を講じることも必要となる。
しかし,前述した負荷変動型,定負荷型のいずれの強制再生においても,強制再生を行うためには排気ガス後処理装置に設けたDOCの温度を活性化温度以上に強制的に上昇させる必要があり,前掲の特許文献1,2に記載の強制再生方法では,燃料の遅延噴射や後噴射によってエンジンの排気ガス温度を上昇させ,これによりDOCの温度を活性化温度以上に上昇させる構成を採用している。
そのため,通常運転時に比較して,強制再生時のエンジンは,後噴射等が行われる分,余分に燃料の消費を行うため燃費が悪く,運転条件にもよるが,強制再生時における燃料消費量は,通常運転時に比較して10%以上増加する。
特に定負荷型強制再生では,負荷を一定としたエンジンの運転を実現するために,強制再生の実行中,本来の作業(例えば,エンジン駆動型発電機であれば,接続された電気機器に対する電力供給)を停止しているため,DPFを再生するためだけに多量の燃料が消費されることとなる。
更に,DPFに対するPM堆積量が前述した強制再生の実行基準である堆積量を超えて更に堆積して,PMを燃焼させると,燃焼時の発熱によって排気ガス後処理装置,その他の排気システムの構成機器に焼損を生じさせるおそれがあるレベルに迄達すると,燃焼によるPMの除去を行うことはできなくなるため,エンジン駆動型作業機を非常停止し,排気ガス後処理装置を分解清掃し,あるいは,交換する等の作業が必要となり,この間,エンジン駆動型作業機を使用した作業が停止すると共に,部品の交換,清掃等の修理,保守作業のための費用負担が強いられる結果,ランニングコストの上昇となる。
そのため,DPFに対するPMの堆積が進行することを防止できれば,強制再生の実施頻度を減らすことでエンジン駆動型作業機の燃費を大幅に向上させることができ,また,エンジン駆動型作業機の非常停止を回避して,排気ガス後処理装置の分解掃除や交換等に伴う費用や労力の負担についても軽減することができる。
ここで,DPFに対してPMの堆積が進行することを防止するためには,通常運転時に行われる連続再生におけるPMの除去効率を向上させることができれば良く,前記連続再生におけるPMの除去効率を向上させるためには,通常運転時におけるDOCの入口温度を上昇させ,DOCがより長い時間,活性化温度以上に維持されるようにすることができれば良い。
ここで,前述した特許文献3では,エンジンと排気ガス後処理装置間を連通する排気管の長さを短くすることで,排気管内を通過する際の排気ガスの温度低下を防止している。
また,特許文献4では,排気ガス後処理装置に直接冷却風が当たらないようにすることで冷却風との熱交換によって排気ガス後処理装置内のDOCの温度低下を防止している。
従って,特許文献3,4に記載の構成では,温度低下を防止することで,防止されていなければ低下していたであろう温度分,DOC温度を上昇させることができるものとなっている。
しかし,特許文献3,4に記載の構成では,前述した温度低下の防止という消極的な手段を採用するのみで,積極的にDOC温度を上昇させる一切の構成を備えていないことから,通常運転時に連続再生によって除去されるPM量が増加するとしても,大幅な増加は望めない。
しかも,特許文献3,4では,エンジンの排気口から排気ガス後処理装置に対する排気ガスの移送を,排気管を介して行っているため,排気管内を移動する際に依然として排気ガスは冷却風との熱交換によって冷却され,特に寒冷地における使用等,低温の環境下ではより顕著に冷却されることとなるため,DOCに導入される排気ガスの温度低下の防止という消極手段についても,決して十分なものであるとは言えず,この点でも得られる効果は限定的なものとなる。
なお,前述した特許文献3,4には,排気ガス後処理装置の強制再生に関する記載はないが,特許文献3,4に記載されている排気システムを備えたエンジン駆動型作業機において前述した強制再生を実行した場合,強制再生の実行中,大きな排気音が生じて騒音が悪化するという新たな問題が生じる。
すなわち,DPFに所定量以上堆積したPMを燃焼させる強制再生時には,PMの燃焼に伴う発熱によりDPFを通過した後の排気ガス温度は大幅に上昇し,この温度上昇に伴って,排気ガスの体積も膨張する。
そのため,特許文献3,4に記載されているように,排気ガス後処理装置内を通過した排気ガスを,テールパイプを介して機外に放出する構成では,テールパイプの出口における排気ガスの流速が通常運転時に比較して大幅に上昇するため,大きな排気音が生じ,このようにして増大した排気音は,消音器を取り付けただけでは,十分に低減させることが難しく,騒音悪化の一因となる。
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,比較的簡単な構成でありながら,通常運転時に行われる連続再生におけるPMの除去効率を向上させて,強制再生の実施頻度を減少させることができると共に,強制再生の実行中においても排気音が静かである排気システムを提供することにより,エンジン駆動型作業機の燃費の向上とランニングコストの低下,及び低騒音化を同時に実現することを目的とする。
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
上記目的を達成するために,本発明のエンジン駆動型作業機の排気システム30は,
仕切壁13によって2室に仕切られた防音箱10内の一方の室をエンジン20及び作業機3を収容するエンジン室10aと成すと共に,他方の室を,前記仕切壁13に設けた連通口14を介して前記エンジン室10aより導入された冷却風を機外に誘導する排風室10bとしたエンジン駆動型作業機1に設けられ,入口31a側内部に酸化触媒(DOC),出口31b側内部に前記エンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を収容した,連続再生型の排気ガス後処理装置31を備えた排気システムに30おいて,
前記排気ガス後処理装置31を,前記エンジン室10a内の前記エンジン20の排気口23近くに配置して,前記排気ガス後処理装置31の前記入口31aを前記エンジン20の前記排気口23に連通し,
前記排気ガス後処理装置31の前記出口31bに排気管32の一端を連通し,該排気管32の他端を,仕切壁13を貫通して前記排風室10b内まで延設して,
前記排気管の前記他端に,前記排風室10b内に収容された消音器33の入口を連通し,
前記消音器33の出口にテールパイプ34の一端を連通すると共に,該テールパイプ34の他端を,前記防音箱10外に向けて開口したことを特徴とする(請求項1)。
前記構成の排気システム30において,前記排気ガス後処理装置31は,これを前記エンジン20に搭載して,前記排気ガス後処理装置31の前記入口31aを,前記エンジン20の前記排気口23に直接取り付けた構成とすることが好ましい(請求項2)。
更に,前記排風室10b内を通過する冷却風の流れに対し,前記消音器33の長手方向が直交方向となるよう,前記消音器33を前記排風室10b内に配置することが好ましい(請求項3)。
以上で説明した本発明の構成により,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1では,以下の顕著な効果を得ることができた。
エンジン室10a内に収容した排ガス後処理装置31を,エンジン20の排気口23近くに設けてエンジン20の排気口23と排気ガス後処理装置31の入口31aを連通したことで,エンジン20の排気ガスを,温度を低下させることなく排気ガス後処理装置31に導入することができただけでなく,排気システム30の構成中に消音器33を設けたことにより排気システム30全体の排気抵抗が増加したことで,エンジン20の排気口23から排出される排気ガス温度が上昇し,その結果,従来構造に比較して,排気ガス後処理装置31のDOC入口温度を大幅に上昇させることができた。
その結果,従来構造に比較して,より低負荷の運転状態であっても連続再生が実行されるようになり,通常運転時における連続再生によって除去されるPM量が増大することで,DPFに対するPMの堆積が生じ難くなり,強制再生の実施頻度を減少させることができた。
このように,多量の燃料を消費する強制再生の実施頻度を減少させることができたことで,エンジン駆動型作業機1の燃費を大幅に改善することができ,エンジン駆動型作業機1のランニングコストを低減することができた。
また,前述したように,排気ガス後処理装置31のDOC入口温度が上昇することで,強制再生の実行時,DOCを短時間で活性化温度に上昇させることができ,強制再生の実行時間を短縮できること,更に,強制再生時における後噴射の噴射量をDOCの入口温度に応じて増減させる制御を行う場合には,より少ない量の燃料噴射(後噴射等)によってDOCを活性化温度まで上昇させることが可能となることから,強制再生時の燃料消費量についても減少させることが可能となった。
しかも,排気ガス後処理装置31の強制再生時,DPFに堆積したPMの燃焼によって排気ガス後処理装置のDPFを通過した排気ガスが高温となり体積が膨張するものの,排気ガス後処理装置31をエンジン室10a,消音器33を排風室10bに離して配置すると共に,排気ガス後処理装置31と消音器33との間を排気管32によって連通したことで,排気ガス後処理装置31の出口31bを出た膨張した排気ガスは,排気管32内を通過する際に防音箱10内を流れる冷却風と熱交換されて冷却されることで体積が収縮した後に消音器33内に導入されるため,消音器33において効果的に消音を行うことができ,更に,排風室10b内で冷却風により冷却されている消音器33内を通過する際にも冷却されて更に体積が収縮された後にテールパイプ34を介して放気されるため,テールパイプ34の出口を通過する排気ガスの流速が大幅に減速されることで,消音器33の消音効果とも相俟って,強制再生時における排気音を大幅に低減することができた。
前記排気ガス後処理装置31を前記エンジン20に搭載して,前記排気ガス後処理装置31の前記入口31aを,前記エンジン20の前記排気口23に直接取り付けた構成とした場合には,エンジン20からの排気ガスは,排気された温度そのままで排気ガス後処理装置31のDOCに導入することが可能で,より確実に排気温度の低下を防止することができた。
排風室10b内を通過する冷却風の流れに対し,前記消音器33の長手方向が直交方向となるよう前記消音器33を前記排風室10b内に配置した構成では,消音器33が冷却風によって効率的に冷却される結果,消音器33内における排気ガスの体積減少が良好に行われ,その結果,より一層の排気音の低下を実現することが可能であった。
以下に,添付図面を参照しながら,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1について説明する。
〔エンジン駆動型作業機の全体構成〕
図1,2において,符号1は,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機であり,このエンジン駆動型作業機1は,フレーム11とボンネット12によって構成された防音箱10内に必要な機器を収容したパッケージ型のエンジン駆動型作業機1として構成している。
防音箱10を構成する前述のフレーム11は,エンジン駆動型作業機1の構成機器を搭載するための基台であり,このフレーム11上に,エンジン20,前記エンジン20によって駆動される発電機や圧縮機等の作業機3の他,冷却ファン21,ラジエータ22,その他のエンジン駆動型作業機1の構成機器を搭載すると共に,これらの機器を搭載したフレーム11上を箱型のボンネット12によって覆うことでパッケージ化している。
前述の防音箱10内の空間は,仕切壁13によってエンジン室10aと排風室10bの2室に区画されており,このうちのエンジン室10a内にはエンジン20や作業機3を収容すると共に,排風室10b内には本発明の排気システム30を構成する機器のうちの消音器33を収容している。
前述の仕切壁13には,エンジン室10aと排風室10bとを連通する連通口14が開口しており,この連通口14に対向してエンジン20を冷却した冷却水を熱交換するラジエータ22を配置し,このラジエータ22に向かう冷却風を発生させる冷却ファン21をエンジン室10a内に配置している。
従って,冷却ファン21が回転して冷却風が発生すると,エンジン室10a内の空気がラジエータ22を通過して,ラジエータ22内の冷却水と熱交換された後,排風室10bに導入され,排風室10bの上部に設けられた放気口15を介して防音箱10外に放出される。
なお,図示の例では放気口15を排風室10bの上部に設ける構成としたが,放気口15の配置はこの位置に限定されず,排風室10bの側壁を成すボンネット12の側壁に設けるものとしても良い。
〔排気システム〕
エンジン室10a内に収容されたエンジン20の排気口23より排出された排気ガスは,エンジン室10aから排風室10bに延設された排気システム30を介して機外に排出される。
本発明のエンジン駆動型作業機1において,この排気システム30は,排気ガス後処理装置31と,前記排気ガス後処理装置31を通過した後の排気ガスが導入される消音器33,前記排気ガス後処理装置31と消音器33間を連通する排気管32,及び前記消音器33を通過した排気ガスを防音箱10外に放出するテールパイプ34によって構成されている。
前述の排気ガス後処理装置31は,従来技術として説明した「連続再生型」として構成されたものであり,排気ガスが通過可能に構成されたケーシング内の入口31a側に,酸化触媒(DOC)が収容されていると共に,このDOCに対し出口31b側に,排気ガス中に含まれるPMを捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が収容された構造を有している。
この排気ガス後処理装置31は,エンジン室10a内で,エンジン20の排気口23近くに配置され,この位置においてエンジン20の排気口23に排気ガス後処理装置31の入口31aを連通することで,エンジン20の排気ガスを,温度の低下を生じさせることなく排気ガス後処理装置31に導入できるように構成している。
好ましくは,排気ガス後処理装置31を,排気口23の直近位置のエンジン20上(図示の例ではエンジンのフライホイールハウジング上)に搭載し,エンジン20の排気口23に対し直接,排気ガス後処理装置31の入口31aを接続する。
エンジン20の排気口23に入口31aが接続された排気ガス後処理装置31の出口31bには,排気管32の一端が接続されており,排気ガス後処理装置31内を通過してその出口31bより排出された排気ガスは,仕切壁13を貫通して排風室10b内に他端が延設された前記排気管32を介して,排風室10b内に収容された消音器33内に導入される。
特許文献3,4として紹介したように,エンジンの排気口より排出された排気ガスを,排気管によって排気口より離れた位置に設けた排気ガス後処理装置に導入する構成では,排気ガス後処理装置に導入される排気ガスが移送中に温度低下することを好適に防止しようとすれば,例えば排気管を二重管構造とし,あるいは,保温材で覆う等の処置が必要となるが,本実施形態の排気システム30では,排気ガス後処理装置31を,排気管等を介さずに直接,エンジン20の排気口23に連通する構成を採用する一方,排気管32は,排気ガス後処理装置31を通過した後の排気ガスを,消音器33に導入するための構成として採用していることから,排気管32は,むしろ,内部を通過する排気ガスの温度が低下するようになっていることが好ましい。
そのため,本発明の排気システム30では,排気管32を二重管構造とし,あるいは,保温材で覆う等の,保温のための構造を採用する必要がなく,好ましくは,排気管32内を通過する際に排気ガス温度のより一層の低下が得られるよう,排気管32を防音箱10内のうち冷却風の流路となる部分に配置し,あるいは,排気管32として熱伝導性の良い材質でできたものを使用し,更には,排気管32として外周に放熱用のフィンが取り付けられたフィンチューブ等を採用するものとしても良い。
仕切壁13を貫通して排風室10b内に延設された排気管32の他端には,排風室10b内に収容された消音器33の入口が連通されている。
この消音器33として,本実施形態にあっては消音効果の高い多段膨張式の消音器を採用しているが,消音器の構造はこれに限定されず,既知の各種構造のものを採用可能である。
この消音器33は,図示の形態では略円筒形状を成し,好ましくは,その長手方向が,排風室10b内を通過する冷却風の流れに対し直交方向となるように配置することが好ましく,排風室10bの天板に放気口15を設け,冷却風を上向きに放出する構成とした図示の実施形態にあっては,放気口15近くに消音器33を長手方向が水平方向となるように配置することで,冷却風との熱交換によって良好に冷却できるように構成している。
前述の消音器33の出口には,テールパイプ34が連通され,このテールパイプ34の出口を防音箱10外に向けて開口することで,消音器33を通過させた後の排気ガスを防音箱10外に排気できるように構成している。
図示の実施形態にあっては,このテールパイプ34を,排風室10bの上部に形成した放気口15を介して防音箱10外に向けて開口する構成としているが,テールパイプ34の配置はこの構成に限定されず,例えば防音箱10の側壁に設けた貫通孔を介して防音箱10外に向けて開口させる等しても良い。
なお,特許文献3,特許文献4として紹介した従来のエンジン駆動型作業機の排気システムでは,エンジンの排気口より排出された排気ガスを,排気管,排気ガス後処理装置,及びテールパイプを介して排気するものであったのに対し,本発明の排気システム30では,エンジン20の排気口23より排出された排気ガスを,排気ガス後処理装置31,排気管32,消音器33,及びテールパイプ34を介して排出する構成としており,消音器33を増設した分,排気システム30全体の排気抵抗が増加している。
本発明の排気システム30では,この排気抵抗の増加によるエンジン20の排気ガス温度の上昇を利用して,排気ガス後処理装置31のDOC入口温度を上昇させてDPFの再生効率の向上を図っているが,過度の排気抵抗の増加は,エンジン20の出力低下や排気ガス温度の過度な上昇によって,排気システム30を構成する各機器や排気システム30に近接して設けられている機器類を熱損傷させるおそれがあり, 特に過給器(排気タービン)付きエンジンの場合には排気ガス温度の過度な上昇は過給器の焼付要因となる。
そのため,エンジン20にはそれぞれ排気抵抗の許容値上限値Rlimが設定されており,排気システム30の排気抵抗は,前述の許容上限値Rlimに対し所定の余裕分低く設定した最大値Rmaxを超えないように設定する。
すなわち,PMの堆積が生じていない状態における排気システム30の排気抵抗である基礎抵抗Rbと,DPFにPMが許容最大量堆積した際の排気抵抗の増分Rpの和が,前述した最大値Rmax以下(Rb+Rp≦Rmax)となるよう設定する。
従って,従来の排気システムと排気抵抗の最大値Rmaxを同一値に設定したと仮定すると,本発明の排気システムでは,消音器33の設置によって基礎抵抗Rbが上昇している分,従来の排気システムに比較して,許容可能な排気抵抗の増分Rp,すなわち,許容し得るPMの堆積量が少なくなる。
〔作用等〕
(1)通常運転時における作用
以上で説明した本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1のエンジン20を作動すると,エンジン20における燃料の燃焼に伴って発生した排気ガスが,エンジン20の排気口23より排出され,排気ガス後処理装置31,排気管32,消音器33,テールパイプ34を介して,防音箱10外に排出される。
エンジン20より排出される排気ガスの温度は,エンジン20の負荷の増減に伴って変化し,エンジン20の負荷は,作業機3が行う仕事量(例えば,作業機3が発電機であれば発電電力)が増える程,増大する一方,仕事量が減少すると減少する。
作業機3の仕事量が多く,エンジン20に高負荷がかかっている状態では,エンジン20の排気口23より排出される排気ガス温度も高く,排気ガス後処理装置31に導入される排気ガス温度が,DOCの活性化温度以上となっており,排気ガス後処理装置31内では,DOCの触媒作用によってNO2が生成され,このNO2を酸化剤としてDPFに堆積したPMが燃焼することにより除去される,前述した連続再生の機能が発揮される。
これに対し,作業機3の仕事量が少なく,エンジン20が低負荷で運転されている状態では,エンジン20の排気口23より排出される排気ガス温度も低くなる。
このように,エンジン20の排気ガス温度が低下してDOCの入口温度がDOCの活性化に必要な温度未満になると,排気ガス後処理装置31は連続再生の機能を発揮せず,内蔵しているDPFによってPMを捕集するのみであるため,捕集されたPMは除去されることなくDPFに対するPMの堆積が進行する。
PMの堆積が進行して,DPFの通気抵抗が増加して排気システム30全体の排気抵抗が増加すると,これによりエンジン20の排気口23より排出される排気ガスの温度が上昇し,この排気ガス温度上昇によってDOCの入口温度がDOCの活性化に必要な温度に迄上昇すれば,排気ガス後処理装置31は前述した連続再生を実行する。
ここで,連続再生によってDPFに堆積したPMを完全に除去するためには,DPFに堆積したPMが燃焼してDPFの再生が完了するまでの間,DOCの活性温度以上の状態を維持する必要があるところ,従来の排気システムの構造では,低負荷状態の運転では,PMの除去が完了する迄の間,DOCを活性化温度に維持することは困難なものとなっていたが,本発明の排気システム30の構成では,消音器33の設置により排気システム30全体の排気抵抗が高まったことと,エンジン20からの排気ガスを,温度低下を生じさせることなく後処理装置31に導入可能としたことで,連続再生時に除去し得るPM量を増大させることができるものとなっている。
この点に関し,図3,図4を参照して更に詳細に説明すると,図3中に一点鎖線で示したグラフは,従来の排気システム(消音器が無く,エンジンの排気口と排気ガス後処理装置を離して配置した構成)を備えたエンジン駆動型発電機における発電電力とDOC入口温度の関係を模式的に示したものであり,実線で示したグラフは,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型発電機1の発電電力とDOC入口温度の関係を模式的に示したものである。
従来の排気システムに比較し,本発明の排気システム30では,排気ガス後処理装置31をエンジン20の排気口23近くに配置した構成と,消音器33の追加に伴う排気抵抗の増加によって,DOCの入口温度が高温側にシフトしており,一例として,最大発電電力gmax発生時における運転状態で,約100℃の温度上昇が得られている。
その結果,図3中の縦軸における「X」を,DOCの活性化に必要なDOCの入口温度とすると,従来の排気システムでは,発電機の発電電力がg4以上であるときのみ,連続再生が実行される。
これに対し,本発明の排気システム30では,DOCの入口温度が高温側にシフトしていることで,発電機の発電電力がg1であるときにDOCの入口温度は既にDOCの活性化に必要な温度X℃に達しており,その結果,従来構造では連続再生が実行されていなかった,発電電力がg1以上,g4未満の範囲にまで,連続再生の実行領域を拡大させることができ,これにより通常運転時におけるPMの除去量を増大させることができるものとなっている。
図4は,エンジンの負荷を一定とした運転状態におけるPMの堆積量の変化とDOCの入口温度の変化を模式的に表したグラフであり,図中,一点鎖線で表したグラフは,従来の排気システム,実線で示したグラフは,本発明の排気システム30のものである。
図4に示すように,DPF上に対するPMの堆積量が増加し,DPFの通気抵抗が増加すると,排気システム30全体の排気抵抗も増加するため,エンジン20の排気口23より排出される排気ガス温度が上昇し,これに伴ってDOCの入口温度も上昇し,DOCの入口温度が,DOCの活性化に必要な温度X℃以上になると,PMの燃焼が開始する。
ここで,従来構造の排気システムでは,PMの堆積量がp4以上にならないと,DOCの入口温度はX℃以上とはならず,また,一旦,堆積量がp4以上となり,PMの燃焼が開始されても,PMが燃焼して除去されることで堆積量がp4を下回れば,DPFの通気性が回復して排気抵抗が低下し,DOCの入口温度はX℃を下回ることから,この運転状態では連続再生が実行されても,DPFに堆積したPMを完全に除去(p4未満に除去)することは難しい。
これに対し,本発明の排気システム30では,消音器33の追加によって,排気システム30の基礎的な排気抵抗が高められていることと,排気ガスの温度低下の防止により,DOCの入口温度が高温側にシフトされていることから,DPFに対しPMがp1以上堆積すると連続再生が実行されるため,従来構造では連続再生が実行されていなかった堆積量p1以上,p4未満の範囲に迄,連続再生の実行領域を拡大させることができたことで,通常運転時におけるPMの除去量を増大させることができるものとなっていると共に,DPFに対するPM堆積量がより少なくなるまで,PMの除去を行うことができるものとなっている。
しかも,DPFのPM堆積に伴う排気抵抗の増分を加えた排気システム全体の排気抵抗が同じ場合,本発明の排気システム30におけるDPFに対するPMの堆積量は,従来の排気システムにおけるPMの堆積量に比較して少ないことから,より短時間でPMを完全に除去でき,この点でも,堆積したPMが除去され易い構造となっている。
このように,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1では,従来の排気システムを備えたエンジン駆動型作業機に比較して,通常運転中に行われる連続再生によってDPFの再生を完了できる可能性が高く,負荷変動型及び定負荷型,いずれの強制再生の実施回数ともに減らすことができ,これによって,強制再生に伴う燃料消費量が減少することによって,ランニングコストを低減できる。
(2)強制再生時における作用
以上のように,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1では,通常運転時に行われる連続再生によって効率的にPMを除去できるようにしたことで,DPFに対するPMの堆積が生じ難くし,これにより強制再生の実施頻度を減少させ得るものとなっているが,本発明の排気システムを備えたエンジン駆動型作業機にあっても,連続再生が実行されない低負荷での運転が長時間行われる等した場合,依然としてDPFに対しPMの堆積が進行し得る。
そのため,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1においても,前述した強制再生(負荷変動型強制再生,定負荷型強制再生)を行うことが必要となる。
一例として,本実施形態にあっては,DPFに対するPMの堆積量が所定の第1堆積量を超えると,負荷変動型強制再生を実行し,また,この負荷変動型強制再生によってはPMを完全に除去し切れず,PMの堆積がさらに進行して前記第1堆積量よりも多い,第2堆積量を超えると,定負荷型強制再生を実行し,更に,第2堆積量よりも多い第3堆積量を超えると,警報表示を行ってオペレータに警告する,又はエンジンを非常停止させる等してエンジン駆動型作業機を保護する構成を採用している。
本発明の排気システムを備えたエンジン駆動型作業機では,このような強制再生時においても,以下のような有利な効果を発揮する。
(2-1)強制再生時の燃費向上
前述したように,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1では,従来構造のものに比較して排気ガス温度が高くDOCの入口温度の上昇が得られる構造となっており,このことにより,強制再生時における燃料消費量についても減少させることができた。
すなわち,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1では,前述のように排気ガス温度が高く既にDOCの入口温度が上昇しているため,燃料の後噴射を行う前述した強制再生の開始後,短時間でDOCの活性化に必要な温度にまで上昇させることが可能となり,強制再生の実行時間が短縮され,後噴射による燃料消費量を低減することができる。また,DOC入口温度を検知し,入口温度の高低により後噴射における燃料噴射量を増減させる制御を実施する場合においては,DOC入口温度が高いことから後噴射の燃料噴射量が減量され,後噴射による燃料消費量を低減することができる。
その結果,従来の排気システムを備えたエンジン駆動型作業機に比較して,より少ない量の後噴射等により強制再生を実行することが可能となり,強制再生の実行頻度の減少だけでなく,強制再生実行中の燃費そのものについても向上させることができた。
(2-2) 強制再生時における排気音の低減
強制再生の実行中,DPFに堆積したPMが燃焼することにより,通常運転時に比較して排気ガス後処理装置31の出口31bより排出される排気ガスの温度は高温となる。
そして,従来の排気システムを備えたエンジン駆動型作業機では,排気ガス後処理装置を通過して高温となることで体積膨張した排気ガスを,テールパイプを介して防音箱外に排出する構造を採用しているため,テールパイプの出口を通過する排気ガスの流速は,体積が膨張した分,速くなり,通常運転時に比べ排気音が大きくなる。
これに対し,本発明の排気システム30を備えたエンジン駆動型作業機1では,排気ガス後処理装置31を通過した後の排気ガスを,エンジン室10aから仕切壁13を貫通して排風室10bまで延設した排気管32を介して,排風室10b内に配置した消音器33に導入する構成を採用したことで,排気音を好適に消音できるものとなっている。
ここで,防音箱10のエンジン室10a壁面には、エンジン室10a内に外気を取り入れるための吸気口(図示せず)が設けられており,この吸気口から取り入れられる外気は,エンジン20や作業機3の吸入空気となる他,冷却ファン21の回転によりエンジン室10a内から仕切壁13に設けた連通口14,ラジエータ22を通り排風室10bに至り,その後,排風室10bに設けた放気口15から防音箱10外へ排出される冷却風となる。
従って,前述した冷却風は,排気ガス後処理装置31に連通された排気管32や,排風室10b内に配置された消音器33との接触による熱交換により,これらの内部を通過する排気ガスを冷却する。
その結果,DPFに堆積したPMの燃焼に伴う発熱によって高温に加熱され,体積膨張した状態で排気ガス後処理装置31の出口31bを出た排気ガスは,排気管32を通過する際に冷却されて体積収縮した後に消音器33内に導入されるため,消音器33における消音効率が向上すると共に,消音器33を通過する際にも冷却されてさらに体積収縮することで,消音器33の出口に連通したテールパイプ34の出口を通過する排気ガスの流速を大幅に低下させることができ,消音器33による消音効果とも相俟って,強制再生時においても排気音を大幅に低下させることができた。